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絵里「例え偽物だとしても」

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332 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/27(金) 19:34:41.79 ID:SQcoDrlX0
海未「今日ここで刀の錆びにしてあげますよ!」ダッ

穂乃果「せつ菜ちゃ——」


ドドドドド!


穂乃果「!」シュツ

梨子「穂乃果さんの相手は私だよ?」

穂乃果「ちっ…」


せつ菜「きゃっ……」

海未「ほらほらいつもの威勢はどこに行きましたか!?」ブンブンッ

海未「銃が撃てないんじゃか弱い女の子同然ですねっ!」

凛「トリックスターだけどね」

せつ菜「これでっ!」ポイッ

海未「っと…」ピタッ


凛「はっそんなものっ!」ドカッ


せつ菜「っ!?」

せつ菜(足止めくらいと考えてグレネードをぽいっと落としたのですが、何を思ったのか強引にもピンの抜かれたグレネードをサッカーボールを蹴るみたいに私の方向へと飛ばしてきた)
333 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/27(金) 19:35:58.15 ID:SQcoDrlX0


カンッ!


ドカーン!

穂乃果「っあぶない……」

せつ菜「穂乃果さん…!」

せつ菜(穂乃果さんは飛んでるグレネードにナイフを投げて見事に命中、結果グレネードの軌道を変えたことにより私はほぼ無傷だった)

せつ菜(穂乃果さんが助けずとも多分死にはしてなかったと思いますけど、流石穂乃果さんは如何なる状況でも凄い人でした)

タッタッタッ!

海未「本当に軍神は厄介ですね!」ドドドド!

穂乃果「よしっ…」

せつ菜「…!」

せつ菜(穂乃果さんのその一言を聞いて私は察した、梨子さんと戦いながら苦し紛れに放ったリスクと織りなす投げナイフ、それは私を助けると同時に凛さんか海未さんが私につけてるマークを穂乃果さんに移す為での投げナイフでもあった)

せつ菜(結果海未さんは穂乃果さんへ一直線、左手が壊れててまともに銃が撃てない私に二人相手はもはや死ぬしか残された道はなく、それを解消するために穂乃果さんは動いた)
334 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/27(金) 19:37:15.21 ID:SQcoDrlX0
穂乃果「なら私と勝負しようか!」ドドドド!

海未「ええそうしましょう!梨子!ついてきてください!」

梨子「もちろん!」ダッ


凛「じゃあ凛はあなたとだね!」ダッ



にこ「はい、ストップ」ドドドッ



凛「っ!?」シュッ

海未「…! にこ…?」ピタッ

梨子「にこさん…?」ピタッ

穂乃果「なんであいつが…」

せつ菜(凛さんの猛攻を再び躱そうと体を動かそうとした時、救済の手はとうとう私たちへと差し伸べられた)

せつ菜(小さな体だけど、その人の背中は誰よりも大きかった)
335 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/27(金) 19:38:22.90 ID:SQcoDrlX0


せつ菜「にこさんっ!」キラキラ


にこ「はぁ…はぁ…間に合った…」

凛「…凛に発砲って何のつもり?」

にこ「悪いわね、海未」

海未「…何故私に謝るのですか?」

にこ「私にも戦う理由があるの、海未とは仲良くしたかったけど、生憎私はここの部隊じゃ海未と曜以外とは仲良く出来ない人間なんでね」

にこ「私ムカつくのよね、凛とダイヤが」

凛「…それはつまり?」


にこ「あんたらを殺しに来たのよ」


梨子「…はははっもしかしてにこさんも頭おかしくなっちゃった?」

にこ「ええ、元からおかしいわ」

にこ「でもあんたらはもっとおかしいわ、狂った私が軽蔑するほどに狂ってる」
336 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/27(金) 19:39:10.64 ID:SQcoDrlX0
梨子「…あーあっそっかそっか、じゃあ結局にこさんも所詮愚者であったってことなんだね」

海未「…にこ、もし今その考えを取り下げるというのならあなたには何もしません、ですからやめましょう?そんなこと」


にこ「お断りね」


にこ「だから謝ったのよ、海未」


にこ「私も海未とは戦いたくないけど、それ以上にこいつらがムカつくからね」


海未「…そうですか、残念ですね」

にこ「……あんたら」

せつ菜「はい」

穂乃果「…何?」

にこ「適当に戦って隙を窺って逃げるわよ、今の状況じゃ勝つことは無理だから」
337 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/27(金) 19:40:47.12 ID:SQcoDrlX0
凛「…耳打ちのつもりかもしれないけど聞こえてるよ?」

梨子「逃げるっていうなら尚更逃がすわけにはいかないかな」カチャッ



「そうだね、逃げる必要はないかな」バンッ!



梨子「きゃっ!?」

凛「今度は何ー!?」

海未「曜…!」

にこ「曜…!?なんで曜が…!」


曜「ふふふっせつ菜ちゃんに呼ばれたんだよ」


にこ「せつ菜が…!?」

せつ菜「曜さんっ!」キラキラ

梨子「なんで曜ちゃんがこいつらと…」

曜「ごめんね梨子ちゃん、希ちゃんが殺されちゃったっていうなら私もせつ菜ちゃんたちの味方をしないといけないからさ」
338 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/27(金) 19:42:02.88 ID:SQcoDrlX0
海未「曜もですか…ですが曜、あなたは何も分かっていませんね」

曜「何が?」

海未「曜は無謀を何かと履き違えていませんか?死にかけの二人とにこ一人、そしてほぼ無傷の私たち三人というこの状況を打開できる何かを持っているのですか?」


曜「当たり前だよ」


凛「へー何?教えてにゃー」


「こんにちは、AAの皆さん」



善子「堕天使ヨハネ——こうり」



絵里「曜の助っ人として、あなたたちを潰しに来たわ」


善子「最後まで言わせなさいよぉ!」

海未「絢瀬絵里と津島善子…!?」

梨子「げっ…堕天使だ…」

凛「なにそれ?」

海未「………」

曜「これでタイ…いや、こちらが有利だね」
339 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/27(金) 19:43:06.51 ID:SQcoDrlX0
海未「…あの二人を呼んできてください、向こうの殺し屋は無視してもらって結構です」

梨子「あ、うん!」ダッ

にこ「…驚いたわね、せつ菜。そして曜もね、まさか絢瀬絵里と津島善子とつるんでたなんて」

曜「あははっもう私が対アンドロイド特殊部隊にいる理由がなくなっちゃってね」

にこ「…そう」

曜「そういうにこさんこそ良かったの?対アンドロイド特殊部隊の人たちを敵にして」

にこ「いいの、確かに私は強くなる為にここに来たけど、あいつらとつるんで強くなりたいとは思わないわ、海未には申し訳ないけどね」

にこ「海未、あんたにはお世話になったわ。丁寧に色々教えてくれて、戦う時以外に可愛く笑う姿を見ればあんたもやっぱり普通の女なのねって幾度となく思った」


にこ「海未、あんたは常識人よ」


にこ「ただ海未は、“死ねないだけ”の常識人よ」
340 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/27(金) 19:43:52.95 ID:SQcoDrlX0
海未「…そうですか、にこにそう言ってもらえるならとても嬉しいです」

海未「ですがやはり疑問です、ダイヤや凛がおかしいというのは私にでも分かります、ですがこの頭おかしい人たちを敵にするとまずいと一番分かってるのはにこなのでは?」

海未「今回の行動はあまり賢いとは言えませんよ」

にこ「それは私と海未が何を重要とするか、そこに違いがあっただけの話よ」


にこ「私は道徳性を重要としたいの」


にこ「もっとも、人の汚さとかじゃなくて、私は一人の姉としてダイヤを軽蔑してるだけ」

海未「…分かりませんね」

にこ「そりゃそうよ、姉という立場でしか分からないことだからね」
341 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/27(金) 19:45:43.01 ID:SQcoDrlX0
凛「はっ所詮にこちゃんはにこちゃんだね」


凛「雑魚は雑魚のままだったよ」


曜「対アンドロイド特殊部隊同士じゃ戦わないから分からないと思うけど、にこさんは強いよ」


凛「へぇ曜ちゃんがそう言うのなら強いのかもだけど、やっぱり曜ちゃんも曜ちゃんだよ」

凛「今回のこの行動、ホントにバカだね。自分の強さに過信しすぎじゃないかにゃ?」

曜「…それはお互い様だよね」

善子「私たちもいるの忘れてない?この状況、人数だけでいうなら有利だからね」

凛「死にかけの二人がいるから不利だと凛は思うんだけどねー」


穂乃果「なら死にかけの私たち二人を一人としてカウントすればいいだけ」


せつ菜「私たちは二人で一人です」


海未「………」
342 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/27(金) 19:47:12.13 ID:SQcoDrlX0
「戻ってきてみれば…」


ダイヤ「また随分と騒がしいことになっていますわね」


にこ「…ダイヤ、久しぶりね」

ダイヤ「にこさんですか、梨子さんから話は聞いていますが無茶なことをしますわね」

にこ「チャレンジャーなものでね」

「ふふふっあの軍神とトリックスターが死にかけなんて眼福ね」クスクス

穂乃果「…腹が立つね」

せつ菜「私もです」

絵里「…誰?」

「あら、分からなかった?ごめんなさいね」


果林「私は朝香果林、よろしくね」


果林「…あ、あなたは別に自己紹介はいいわよ?絢瀬絵里、うん知ってるから」

絵里「…別にするつもりなんてなかったわよ」

果林「あらそう?ごめんなさいね」フフフッ
343 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/27(金) 19:48:14.97 ID:SQcoDrlX0
絵里「………」


曜『行かなきゃ!これは行かなきゃ絶対にダメだよ!』


絵里(曜が突然そう言いだすもので急いで準備して来てみた場所、それはまさに戦場と言ってもいい場所だった)

絵里(この状況、五対六————もしくは五対五の大規模な撃ち合いが始まる前であった)


絵里(相手も、味方も、全員が超一流)


絵里(曜はせつ菜という子と穂乃果という子を守りたいという理由が大きくて絶対に負けられないと言ってたけど、私たちからしてもこの状況は絶対に負けられない)

絵里(この勝負で雌雄を決するでしょう、ここで私たちの主力を全員投じるのだから、全て…全てを賭けた戦いが今、始まる)

ダイヤ「ではこうして向かい合ってても難ですし始めましょうか、私たちが来るのを待ってくれたのは感謝します」

曜「あはは、待ってたわけじゃないけどね」

凛「えーこれ流れ的に五対六でやるのー?なんかごちゃごちゃしてて凛イヤにゃー」
344 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/27(金) 19:49:15.60 ID:SQcoDrlX0
にこ「…穂乃果、せつ菜」

穂乃果「何?」

せつ菜「何ですか?」

にこ「あんたら希に色々教わってる身でしょ?」

せつ菜「はい」

にこ「なら私と一緒に戦いなさい」

穂乃果「…なんで?連携取れないんじゃごちゃごちゃしててマイナスにしかならないよ」

にこ「あら知らないの?」

穂乃果「何が?」


にこ「私、昔は希と一緒に殺し屋してたのよ?」


穂乃果「…え?」

にこ「だから希と連携することは慣れてるの、あんたらも希に動き教わってるっていうなら多少は取れるでしょ?」

にこ「だから死にかけ二人のカバーを私がしてやるって言ってるのよ」

穂乃果「………」
345 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/27(金) 19:50:26.17 ID:SQcoDrlX0


曜「私は海未さんをやるよ、希ちゃんの仇は絶対に取る」


せつ菜「待ってください、海未さんは私たちにやらせてください」

曜「え、でもその体じゃ…」

せつ菜「いいんです、希さんの仇を取るのは私たちの役目です」

果林「あははっ可愛いわね、飼い犬らしい行動だわ」

穂乃果「飼い犬だからね」

梨子「そこ弁えてるところがもっと可愛いね」クスクス


善子「うわー…あの二人相手にすると相当やばいタイプよ…」

絵里「人間関係的な意味で関わりたくないわね」


にこ「大丈夫よ、曜。私がいるから」

曜「うーん…まぁにこさんがいるなら…」

曜「…じゃあ私はダイヤさんをやるよ」


絵里「なら私たちと善子はあのオレンジ色の髪の子とぶどう色の髪したやばい子ね」


凛「凛には凛って名前があるにゃー!」

梨子「私も梨子って名前がありますしやばい子じゃないです!」

善子「いややばいでしょ…」
346 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/27(金) 19:52:03.24 ID:SQcoDrlX0


ダイヤ「…戦う相手は決まりましたか?」


曜「うん、決まったよ」

ダイヤ「なら開始いたしましょうか」

果林「まぁ、そちらが決めた相手と戦えるとは限らないけどね」

にこ「知ってる知ってる、でも銃を使った乱戦が運任せの戦いになるのはあんたらも知ってるはずよ」

にこ「結局は、ここで二対二か一対一に持ってこれればどうでもいいわ」

凛「確かに」

梨子「私は死にかけの二人がいいかなぁ」


曜「いいからとっとと始めようよ!」ドドドドッ!


ダイヤ「おっと」シュッ

曜「あははっ!やっぱり戦うっていいね!胸が躍るよ!」ダッ


曜「ターゲットが変わらないうちに動いた方がいいよ」ボソッ


絵里「!」

絵里(走った直後私に耳打ちをした曜、それを聞いてすぐに私も動いた)
347 : ◆iEoVz.17Z2 [saga]:2019/09/27(金) 19:53:12.08 ID:SQcoDrlX0


絵里「いくわよ善子!」

善子「ええ!」

凛「えへっ凛の相手はあなたたちだね!」ダッ

梨子「すぐに片付けるよ!」ドドドドッ!


絵里(曜が動き出したと同時にみんなが一斉に動きだした、そうすればさっき決めた通りに対峙し始めて至る所で銃声が鳴り始めた)


タッタッタッ!


凛「にゃにゃにゃにゃー!」

絵里「はやっ…!」

絵里(凄まじい移動速度に驚きたかったけど、そんな驚く暇も与えてくれないほどに相手は速かった。そうしてそれに反応すればたちまち飛んでくる銃弾を躱し、こちらも仕返しに発砲をしようと思ったのだけど、別方向から銃弾が飛んできて反撃が出来なかった)

絵里「くっ…」シュッ

梨子「凛ちゃん!あの金髪が持ってる銃はスコーピオンEVOだよ!あんなのと真正面から対峙したら全弾は避けれないから撃たせない立ち回りをして!」

凛「了解にゃ!」

絵里「ばれてる…」

絵里(流石戦いのプロはスコーピオンEVOの存在を知ってた、だけど持ってるだけで威圧になるというのならこちらとしても好都合、相手が当たらない立ち回りをするというのならこちらは何としてでも発砲して銃弾を当てるだけの話よ)
348 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/27(金) 19:56:24.74 ID:SQcoDrlX0
梨子「いけっ!」ドドドド

絵里「ふっ」シュッ


凛「せいやっと!」


絵里(梨子が私に向かって発砲したからもちろん私は回避を行った、けど行った直後に凛がすぐそこまで近づいてきてここは発砲ではなく格闘での接近戦を強いられた)


善子「私も忘れないでもらえる?」ドドドド!


凛「ちっ…」シュッ

善子「絵里!今よ!」

絵里「ええ!」バリバリバリ!


梨子「きったない銃声…」

善子「いつ聞いても恐ろしいわね…その銃声…」


凛「きっ…かぁっ…!」

梨子「! 凛ちゃん!」

凛「大丈夫!掠っただけ!」

梨子「ほっ…」

絵里(ブレがすごすぎて狙った位置に行かないのがスコーピオンEVO A1で、三発目辺りで既にサイトのレティクルがあらぶっていた)

絵里(その結果爆音を鳴らして飛び出た銃弾は凛の頬と首をそれぞれ二発ずつ掠めた後に、腰にかけてるマントに数えきれない穴が空けた)
349 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/27(金) 20:00:58.72 ID:SQcoDrlX0
凛「そんなことより——」


凛「————お返しにゃ!」ドカッ!


絵里「くっ…」

絵里(仕返しがしたい凛は無数の銃弾を避けた後私へと近づき飛び横蹴りをしてきて、私は反動と銃を構えてたことで回避をすることが出来ず、両腕を使って受け止めた)


善子「はぁっ!」

凛「ほっと!凛も接近戦は得意だよー!」


絵里(私がガードした瞬間すぐに善子が突き蹴りでカバーしてくれたおかげで、凛は私への攻撃をやめて、別方向から飛んできた梨子の放った銃弾も危なげなく躱すことが出来た。もし善子が来てくれなかったら今頃どうなっていたか少し怖くなったわ)
350 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/27(金) 20:07:29.07 ID:SQcoDrlX0


善子「これでも食らっときなさい!」ババババッ!

梨子「こっちも見てね堕天使さん!」ドドド!


善子「! よっと、危ないわね」

タッタッタッ!

凛「はいはいこっちも見てね!」パンパンッ!


絵里「二対一にはさせない!」


梨子「だからと言ってその銃は撃たせないよ!」ドドド!

絵里「くっ…」シュッ

絵里(相手の二人の目線が善子に行く中で、私がスコーピオンEVOを凛に構えれば今度は梨子が私に向かって発砲してきた。それを避けながら再び構えれば今度は凛も私に向かって発砲してるし相当私に撃たせたくないのでしょう)
351 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/27(金) 20:14:27.74 ID:SQcoDrlX0


善子「どこを見てるの?」


凛「! しまっ…」

絵里(そんな中で善子が凛の後ろを取り銃のストックの部分で頭を殴ろうと両手で振りおろせば豪快ににぶい音がして、銃声が一気にシーンと静まり返った)

凛「かっ……」

善子「らしくないミスね、後ろを取られるなんて」

絵里(善子の打撃は凛の頭にヒットし、凛の頭からは血が出てた。そして当の凛は殴られてからフリーズしたままで、死後硬直とはいってもちょっと不自然だし何か違和感があった)


凛「————ちょっと甘いかなっ!」


善子「何っ!?」

絵里「善子!!」

絵里(時が止まったみたいにフリーズした凛は突然動き出し、振り向くと同時に足払いをして善子を宙に浮かせた)


凛「お返しにゃッ!!」ドカッ!


善子「かはっ…!」

梨子「堕天使さんさよなら!」ドドドドッ

絵里「間に合って!」バリバリバリ!

絵里(そしてそのまま肘打ちを食らって向こうへ吹っ飛ぶ善子へ追撃の発砲を梨子が行った。梨子が銃を構えた時点で私は発砲を察してすぐに梨子に向かって発砲した)
352 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/27(金) 20:15:53.22 ID:SQcoDrlX0
凛「梨子ちゃん危ない!」

梨子「分かってるよ!」シュッ


梨子「ぐぎぅ…!!」


タッタッタッ!

絵里「善子!」

善子「くぅ…痛い…」

絵里「大丈夫!?」

善子「あいつ…頭を銃で殴ったっていうのになんで生きてんのよ…」

絵里「………」

絵里(善子は横っ腹を二発貫かれた。当たり所が横っ腹だったから死にはしなかったけどそれでも戦闘には大きく関わってくるものよ)

絵里「動ける?」

善子「……なんとかね、でも激しい動きは無理ね」

絵里「そう…」

絵里(善子を助けるために放った銃弾は梨子の上腕を貫いた、連射速度が速すぎる故に一つの跳躍が絶対に回避出来ないものと化してるからダメージは安易に与えられるものの、やはり狙った場所に銃弾が飛んでくれないのが難点だ)
353 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/27(金) 20:17:58.83 ID:SQcoDrlX0
凛「梨子ちゃん大丈夫?」

梨子「うん、平気。でも帰ったら私少し休む…すごい痛いから」

凛「う、うん」

梨子「そんなことよりあの堕天使をやれなかったのがきついかな…凛ちゃんもわざと敵の打撃を食らったんだからあそこは殺らないと…」

凛「ご、ごめん凛があの金髪に撃ってれば…」

梨子「もういいよ、とりあえず今はやるべきことをやるしかないよ」


絵里「…善子、私が前線に行くわ」

善子「ええ、頼んだわ」

絵里(本当なら前衛後衛を臨機応変に変えてくのがいいけど、善子が怪我をしたのなら私が前線を張るしかない。凛に与えた後頭部への打撃や私が放った銃弾で作った梨子の上腕へのダメージなど確かなダメージは与えたものの、善子が横っ腹を撃たれたんじゃあまりいい状況を迎えてるとは言えなかった)
354 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/27(金) 20:23:03.34 ID:SQcoDrlX0
絵里「………」


スタスタスタ


絵里(ほんの数秒目を閉じ覚悟を決め、目を見開く頃には足は前へ動いていた)

絵里(一歩一歩を進めば進むほど、段々と足は速くなり気付けば走っていて、銃を構えればすぐにトリガーを引く力が私に宿った)

絵里「はぁっ!」バリバリバリ!


凛「よっとぉ!」シュッ

梨子「ほっと!」シュッ


絵里(お互い両サイド別々の方向へ回避の意味を込め跳躍し、その瞬間に発砲。結果相手の二人は扇状に回避をした為に私へ歯向かう正面からのクロスファイアは危険を伴いながらも前へ突っ走るか強引に横へ跳躍してクロスファイアから逃れるかの二択を生むので、私は迷うことなく強引に横へ跳躍して生き延びることを選んだ)

善子「任せてっ!」バババッ!

絵里(そしてその後も絶え間なく来る追撃は善子にカバーしてもらった)
355 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/27(金) 20:26:14.26 ID:SQcoDrlX0
絵里「………」


スタスタスタ


絵里(ほんの数秒目を閉じ覚悟を決め、目を見開く頃には足は前へ動いていた)

絵里(一歩一歩を進めば進むほど、段々と足は速くなり気付けば走っていて、銃を構えればすぐにトリガーを引く力が私に宿った)

絵里「はぁっ!」バリバリバリ!


凛「よっとぉ!」シュッ

梨子「ほっと!」シュッ


絵里(お互い両サイド別々の方向へ回避の意味を込め跳躍し、その瞬間に発砲。結果相手の二人は扇状に回避をした為に私へ歯向かう正面からのクロスファイアは危険を伴いながらも前へ突っ走るか強引に横へ跳躍してクロスファイアから逃れるかの二択を生むので、私は迷うことなく強引に横へ跳躍して生き延びることを選んだ)

善子「任せてっ!」バババッ!

絵里(そしてその後も絶え間なく来る追撃は善子にカバーしてもらった)
356 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/27(金) 20:32:29.39 ID:SQcoDrlX0
凛「いった…」

絵里「悪いわね、接近戦は私も得意なの」

凛「ふーん…そっか」

凛「でも、凛はその上をいってるかな!」ダッ

絵里「はっ!」

絵里(私も凛も真正面から走りだせば私の回し蹴りと凛のチョップが交差するようぶつかり合った)


凛「はぁーっ!」


絵里(次に私のお腹へと歯向かう掌底打ち、即座に反応出来た私は凛の手首を右手で掴み、そして引っ張って左手で腰にかけてたマチェットを逆手で引き抜いて横っ腹を斬ろうとした)

凛「いやっ!」ドカッ

絵里「くっ…おとなしくしなさいっ!」


ザクッ


凛「っぁ!?あぁあああッ!!」

絵里(暴れた為に、狙った横っ腹とは別に腿に深い斬撃を入れる形となった。その結果腿から飛び出る綺麗な赤が私の服に染みついた)
357 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/27(金) 20:34:29.86 ID:SQcoDrlX0


タッタッタッ!


梨子「よくも凛ちゃんをっ!」

絵里(その頃に梨子がそそくさとやってきて、薙ぎ払うようマチェットを横にふればしゃがみで避け、姿勢の低いままタックルをしてきて私は回避することが出来ず後ろへ吹き飛ばされた)

絵里「いってて…」

善子「危ないっ!」ババババッ

梨子「ちっ……」シュッ

絵里(追撃を許さないと善子のカバーが入り梨子は後ろへ飛び退き銃弾を躱す、この状況——私だけがほぼ無傷で事が進んでいた)


凛「うぅううぅううう…いだい…痛いよぉ…!」

梨子「だ、大丈夫?」

凛「うぅ…」


善子「あいつ…多分戦うのは無理かしらね…」

絵里「感触的に相当奥にまで刃が届いたからね、刃の長さ的に骨にまで届いてもおかしくないわ」

絵里(凛は斬られた腿を必死に押さえて痛みに耐えてた、ただそれを苦しそうと傍観してる私たちはどこにもいない)


絵里(これは正真正銘、殺し合いなんだから)

358 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/27(金) 20:37:38.11 ID:SQcoDrlX0


絵里「まぁ今から心臓を撃ち抜くんだけどね!」バリバリバリ!


梨子「凛ちゃん引っ張るよ!」ダッ

凛「…っ……うんッ…」


絵里(私の放った銃弾は凛のお腹に当たったけど、防弾チョッキが働いたようで何ともないようだった)

絵里(ただ、それでも横っ腹や腕を貫く弾丸は凛の中にある赤を噴射させる一方だった)

凛「ああぁあああっ……!!」

梨子「ちっ…このまま逃げてても!」ダッ

絵里「!」

絵里(そして梨子は逃げに徹したのではなく、凛の手を離して攻撃することを選んだ)


凛「っ……梨子ちゃんゴーグルつけて!」ポイッ


梨子「ええ!」

善子「っ!?絵里!スタングレネードよ!」

絵里「なっ…」

絵里(マチェットを再び引き抜いて対峙しようとした間際で上から飛んできたスタングレネード、相手である梨子はこの戦いが始まる前から曜の言ってたつけてた光を抑えて尚且つ射線を見えるようにするゴーグルをつけてて、その結果対峙する直前眩い光が私と梨子の間で爆発した)
359 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/27(金) 20:39:25.84 ID:SQcoDrlX0
絵里「…っあぁ!?」

梨子「よくもっ…!」

絵里(両の腕で光を遮ると突然私の左手を両手で掴む梨子————)


梨子「せいやああああっ!」

絵里「あぁっ…!」


絵里(——そして、次の瞬間には私の左腕を引っ張り後ろへ投げつけるように手を放し、私の後頭部目掛けて協力な蹴りを炸裂させた)

絵里「ぐぅ…!」

絵里(鋭い後頭部への痛みと衝撃、そして今もまだ残る眩い光から私のバランス感覚は決壊し、お腹から地面へと倒れた)

絵里「まだ…!」

絵里(だけどいつまでも倒れたままでいられない、意識がある以上は戦うのみ。だから私はすぐに起き上がろうとした)


凛「これは凛の全てを込めたお返しだよッ!!!」


絵里「!!」

絵里(だけど、まだ這いつくばった状態で頭上を見ればボウイナイフを両手に宙を舞う凛の姿)



ドスッ



絵里「…いっ…あっ……」

絵里(そうして私はどうなったんだろう)

絵里(背中を始めとした悪感に絶望を感じた。鋭利で、久々で、声も出ない終末を感じるこの痛み——背中から入った一つの刃は心を掠めて私のお腹を貫いた)
360 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/27(金) 20:42:02.97 ID:SQcoDrlX0


絵里「か…は……」

善子「絵里!?絵里!!?」


凛「う…くっ……」

梨子「休んでる暇はないよ!」ドドドド!


善子「ちっ……」シュッ


絵里(口から、お腹から、背中から血を流す私を置いて、戦線は変化を遂げていく。体が動かない…体が冷えていくのを感じる、今まで何回も感じたこの味は本当に不味くて、絶望の味だった)

絵里「まだ……死ね…ない…」

絵里(ずりずり這いずれば、今も刺さってるこの刃物が私の体内で微かに動いて痛みを与えた)

絵里(死っていうのは本当に一瞬で、こうして力なく地面と一緒になる私はもう無力なんだと痛感した。まだやりたいことが出来てないのに、まだ生きていたいという思う気持ちは私のお腹を中心に発生し続ける痛みで相殺されていく)

絵里「千歌…真姫…善子…果南…ことり…曜……」


絵里「……ごめんっ」


絵里(その言葉を最後に、私の意識は闇へと消えた)

361 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/27(金) 20:45:22.42 ID:SQcoDrlX0



「ねえ待って」



絵里「!」

絵里(意識は闇に沈んだ、手も足も何もかもの感覚が消えた。それなのに私に問う声は聞こえた)

絵里「誰?」

絵里(声は出せた、だから私も相手に問う)

「忘れたの?私よ?」


えりち「え・り・ち♪」


絵里「………」

えりち「そんな反応しないでよ!」
362 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/27(金) 20:47:01.84 ID:SQcoDrlX0
絵里「はぁ…こんな時に何の用?私は死んだのよ?」

えりち「いやまだ死んでない、生きてるわ」

絵里「…でも、体は動かない」

えりち「……あなたはどうしたいの?」


絵里「…勝ちたい」


絵里「鞠莉のところへ直接行って、あんたの作ったアンドロイドはあんた直属の部隊を潰すことも出来るんだよって言って泣き顔を拝んでやりたい…」

えりち「………」

えりち「…無理ね」

絵里「…知ってるわ、でも反旗は翻す為にあるの」

絵里「私たちが差別されない為には、悔しいけど鞠莉にどうにかしてもらうしかないの」

絵里「でもアンドロイドは人間とは違ってランダム性がない、みんながみんな誇り高き何かを持ってる。差別元となってる鞠莉に差別をどうにかしてくださいなんてプライドを捨てる行為するはずがないの、だから実力行使でやるしかないの」

えりち「………」
363 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/27(金) 20:49:32.45 ID:SQcoDrlX0
えりち「…この隔離都市を抜け出すって方法もあると私は思うんだけど」

絵里「ええ、それも考えた。けど違うの、私が求めるそれは根本的な解決にはならない」

絵里「謎のカーストがあるのはこの隔離都市だけ、でも私はこの隔離都市が好きなんだと思う」

絵里「ここにはたくさんの仲間がいるんだから」

えりち「……なら、提案があるわ」

絵里「提案?」

えりち「………」


えりち「この戦いだけ、私に体を貸してくれない?」


絵里「…は?」

えりち「どうせこのままでいてもあなたは死ぬ、なら最後の足掻きとして私に体を貸してくれない?私があの戦場に立つわ」

絵里「で、でも体はもう」


えりち「動く」


絵里「!」

えりち「動かすの、動かすしかないの」

えりち「…だから私に、あなたの全てを一度委ねてほしいの」

えりち「それがパーフェクトな選択だから」
364 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/27(金) 20:51:13.53 ID:SQcoDrlX0
絵里「……分かった」

絵里「…じゃあ私はどうすればいいの?」

えりち「私が戦場に立ったらあなたは眠りにつく、私とあなたが入れ替わるまでは」

絵里「……そう」


絵里「じゃあおやすみ」


えりち「…ええ、おやすみ」

絵里「すぅ…」

絵里(こんなことしてよかったのかしら)

絵里(でも、これをする以上に私の出来ることはなかったと思う。意識はあっても、感覚は消えて視界は闇に飲まれた、なら何か起こせるもう一人の私に頼るしかなかった、縋るしかなかった)

絵里(でも、この選択が正しいかと言われればどうも開いているはずの口も開かないままでいてしまう。そもそも“もう一人の私”っていう得体の知れないイレギュラーな存在に、私の体を託してもよかったのかしら)

絵里(後から考えればもう私の体は私の元へは帰ってこないのかもしれない、このまま心も体も乗っ取られて私は一生眠りにつくのかも)

絵里「……すぅ」

絵里(そう考えてると段々眠くなってきた。これが最後の眠りにならなければいいけど。そう願って眠る今はちょっと心地が悪かった)
365 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/27(金) 20:56:15.51 ID:SQcoDrlX0
一旦中断、もしかしたら今日はこれで終わりかも。
>>331の凛「その体じゃ躱しながら撃てないよね!だって片方の肩が壊れててグリップの部分が持てないから!」っていうセリフ、片方の肩じゃなくて片手ですね。すいません
366 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/27(金) 22:36:39.09 ID:JJVh64YGO
覚醒えりちくるー?
367 : ◆iEoVz.17Z2 [saga]:2019/09/29(日) 21:01:09.20 ID:7iMNu1YO0


絵里「ん……」

絵里「ん…くっ…いってて……」

絵里(どのくらいの時間が経ったんだろう、目覚めと共にやってきたのは頭の奥に針を刺すような激痛と酷い渇感だった)

絵里(起き上がって頭を押さえながら開こうとしない目を擦って目を開けば、ぼやけた視界が段々と形を表していった)

絵里「ここは……家?」

絵里(見覚えのある寝室、外は真っ暗でほんのり光るランプをつけて小さな鏡で自分を映せば頬には無数の切り傷が、手には包帯がグルグル巻き、改めて自分の体を見れば至る所に包帯が巻いてあって戦いの後であることが確認出来た)

絵里「んん…うおっと…」

絵里(ベッドから降りて歩こうとすれば方向感覚が上手いように掴めなくて、足も力が入らない。よれよれでドアノブに手をかければ目眩がして、どうにもこうにもあの戦いの怪我の影響が出ているようだった)
368 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 21:02:46.72 ID:7iMNu1YO0
スタスタスタ

果南「……あ、絵里!」

善子「! 絵里!?」ガタッ

ことり「よかった…起きたんだね」

絵里「あはは…おかげ様で…」

曜「絵里さん…よかった……壊れたんじゃないかと思ったよ…」

絵里「壊れたってそんな大げさな…」

善子「…いや、曜の言う通りよ」

果南「まぁまぁこうして絵里が目覚めたんだからいいじゃん」

絵里「…!あの戦い、どうなったの?」

善子「えっ…覚えてないの?」

絵里「ええ」

曜「…やっぱり壊れてるんじゃ」

絵里「…?何の話?」
369 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 21:10:41.30 ID:7iMNu1YO0
善子「…どこまで覚えてるの?」

絵里「凛に背中からナイフで刺されて、それから……」

絵里「………」

絵里(もう一人の私の事は覚えてたけど、それを口にすることはなかった。なんか言い出しにくかったし)

絵里「…そこまでしか覚えてない」

善子「……曜」

曜「…うん」

絵里「…何?」

善子「…あの後絵里は突然立ち上がってさも無傷かのように戦線に復帰した」

絵里「………」

善子「その後の絵里といえば楽しそうな笑みを浮かべながらトリガーを引いて、ナイフを振って、相手を殴ったり蹴ったりする——それだけのアンドロイドだった」

善子「それに動きは殺意そのものだった。いつもの絵里なんかとは比べ物にならない俊敏さだったわ、私はそれで絵里が壊れたんだと思ったの…戦ってたのは絵里だけど、その姿は絵里とは似て非なるものだったから」

曜「…それでね、凛ちゃんを殺したその後絵里さんは私やせつ菜ちゃんたちのところにまで行ったんだ、突然スコーピオンEVOの弾が飛んできた時は驚いたよ」

絵里「………」

絵里(私とは似て非なる姿——それはまさしくもう一人の私という存在を形容するに最高の言葉だったと思う)
370 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 21:14:04.52 ID:7iMNu1YO0
絵里「…じゃあ結果どうなったの?」


曜「結論から言うとね、私たちは勝ったよ」


絵里「…それで?」

曜「こちらの死人は0人、向こうの死人は……」


曜「一人…かな」


絵里「…!もしかして今言ってた凛…?」

曜「うん…死んだ」


穂乃果「あの猫女が死んだのはいい気味だよ」


絵里「!」

せつ菜「お、お邪魔してます!」
371 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 21:16:42.86 ID:7iMNu1YO0
絵里「あなたたちは…」

善子「あの二人の主は死んだからね、とりあえず曜がここへ連れてきたのよ」

絵里「そ、そう…」

絵里「…そう、そうよ凛は私が殺したって……」

曜「あ、うん…絵里さんが殺したね…」

絵里「………」

善子「…そうよ、さっきも言ったわよね、俊敏だったって。あの時凛は腿を斬られてあまり動けない状況だった、だからダメ押しで攻めてスコーピオンEVOの弾を食らって死んだ」

絵里「………」

曜「…正直、無惨だったかな」

曜「自分が作った武器だけど、連射速度が高い銃はやっぱり殺した時如何に恐ろしいかが分かるよ」

善子「腹を数十発に渡って貫かれて死んだわ、多分一発か二発は脳天や心臓をぶち抜いてるんじゃないかしらね、スコーピオンはブレが酷いから狙わずとも当たるもんだわ」

絵里「…ッ」ゾクッ

絵里(想像しただけで寒気がした、確かに銃とは人を殺す為にあるもの。だけどオーバーキルにも程がある)

絵里(腹を貫ぬかれて死亡ならまだしも、何十発も貫かれて死亡なんてまともに死体が見れたものじゃないでしょう…もう一人の私は…一体何を考えて凛を殺したのかしらね)
372 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 21:18:04.18 ID:7iMNu1YO0
曜「…それでまぁ、こうやって今はみんなで羽を休めてるんだ」

絵里「…そう」

果南「絵里は二週間も眠ってたんだよ?」

絵里「…え?二週間?」

ことり「そうだよ、あの戦いからずっと起きる気配が全く無かったんだよ?」

絵里「…嘘でしょ」

絵里(横長の棚の上にある時計はあの日から約二週間の月日が経っていることを示していた。今でも感じるこの不自由な体は一体何が起こって不自由になったというのだろうか)

果南「これでみんなお荷物だね」クスクス

穂乃果「だからその呼び名はっ!」

曜「穂乃果ちゃんはそんなに怒らないの、実際今はみんな戦えないんだしここでゆっくりしてようよ」ゴクゴク

ことり「…渡辺曜はくつろぎ過ぎだと思うけど」

せつ菜「私も何か飲みます!」

善子「…まぁそんなところよ、しばらくの間はみんなこの体が癒えるまで動けないわ。それは相手も同じよ」

絵里「…凛以外のやつらはどうなったの?」

善子「みんな私たちと同じくらい怪我を追って退却って感じ、今回のこの戦いは痛み分けだったわ」

絵里「…そうなのね」

絵里(戦いの結果はどうにもコメントに困るものだった、一応戦いには勝ったっぽいけどもやもやは全然消えない。もう一人の私の事も気になるし、死んだ凛の事も気になる、それに相手の事も気になる)

絵里(……だから顔は晴れないままだったと思う)
373 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 21:21:06.30 ID:7iMNu1YO0
果南「はーいポテチ持ってきたよー」

曜「お、いいね!みんなも食べよー!」

せつ菜「穂乃果さんも食べましょうよ!」

穂乃果「う、うん」

果南「ことりも食べよ?」

ことり「私カロリー高いやつはちょっと…」

果南「普段から全然食べてないんだしポテチ食べた程度じゃ太らないよほらほらっ!」

ことり「分かったからポテチ押し付けないで!自分で食べるから!」

善子「果南は何をしてるのよ…」

絵里「……ふふっ」

絵里(でも、心なしかみんな楽しそうだった。あの戦場とその結果は散々なものだったけど、またここが賑やかになったのを見て少し安心した)

絵里(穂乃果って子とせつ菜って子も曜からは話を聞いてたけどすごくいい子そうでよかったわ。果南のおかげでこの空間にも馴染めてるし、私もそれで少しは心が楽になった)


にこ「絢瀬絵里、ちょっといい?」


絵里「! あなたは…」

にこ「もう敵対するつもりはないわ、あいつらを殺すつもりもない。だからちょっと来て、話があるの」

絵里「…ええ」

絵里(廊下の方から小さな声で私を呼ぶ相手、それは対アンドロイド特殊部隊のにこだった)
374 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 21:22:55.56 ID:7iMNu1YO0
スタスタスタ

にこ「ここでいいかしら」

絵里「…外まで来て何を話すの」

にこ「あぁいや…」

絵里「…?」

にこ「その…ごめんなさいね」

絵里「…何の話?」

にこ「あんたらを狙って悪かったって話よ、私も目が覚めたわ、あいつらとはいたくないもんでね。海未には悪いけど」

絵里「…そう、そんなことならいいわよ」

にこ「…ありがとうって言っておくわ」

絵里「ええ」

にこ「……でもね、絢瀬絵里——いや、絵里」

絵里「…何?」


にこ「松浦果南は本当に危険よ」


にこ「これだけは譲れない、戯れ言と聞き入れても良い、でも頭のどこかで私の言葉を覚えておいてほしい」
375 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 21:25:32.94 ID:7iMNu1YO0
絵里「分からないわね、どうしてそこまで果南を危険視するの?」

にこ「それは————」


ガチャッ


絵里「!」

にこ「あんたら…」

絵里(外にでてにこと話してれば、今度はそこに穂乃果とせつ菜がきた)

穂乃果「…帰る」

にこ「帰る?あんたらの家はどこにあるのよ」

穂乃果「私たちは軍人だよ、野宿くらい慣れてるよ」

絵里「え、ならこの家で」

せつ菜「そうはいきません」

絵里「…どうして?」

せつ菜「業務用アンドロイドはあなた方標準型や戦闘型と違って自分の思考通りに体が動きません」

絵里「…どういうこと?」

せつ菜「私たちはとにもかくにも業務用アンドロイド——希さんは私たちを自立出来るアンドロイドへと変えてくれた」

せつ菜「だけどどうにもこうにも業務用アンドロイドの域から抜け出せないんです。また私たちを引っ張ってくれる主が見つからないことには私たちの生きる意味も価値も、そして術もありません」
376 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 21:28:44.98 ID:7iMNu1YO0
絵里「…なら私が」


穂乃果「なら私が主をやる、とは言わないよね?」


絵里「っ……」

穂乃果「私はあなたが気に入らない」

絵里「…どうして?」

穂乃果「………」

せつ菜「とにかく私たちはここから離れます。次会う時は敵かもしれませんね」

にこ「待って、その傷のまま戦闘でもしたら間違いなくあんたらは死ぬわよ。特に海未のやつは二週間も経ってるんだからもう動けるはずよ」

穂乃果「私たちは戦闘のプロ、体だけじゃなくて頭もちゃんと使えるから心配ないよ」

にこ「…無理ね、死ぬわ。百パーセント」

せつ菜「…何を根拠に言ってるんですか?」

にこ「あんたらは強いわ、二対二じゃ絶対に負けないと言ってもいいくらいに強い、そしてある程度人数に差が開いてても戦えるポテンシャルがある。だからEMPグレネードは元々あんたらを殺す為に作られたモノだった」

にこ「万全の状態なら海未にだって勝つことは可能でしょうけど、今の状態じゃ海未一人にすら勝てない。それは海未と一緒にいた私がよく知ってる」

にこ「元はといえば今回は私や曜、そして絵里と善子が助けに来てくれたから助かったけどあんたらは言えば死んでる存在なのよ?お高いプライドも大概にして、自分の出来ることを弁えてから行動に移すことね」

穂乃果「それでも私たちはいくよ、何故なら勝てるから」

にこ「あーあそうかいそうかい、ならとっとと海未のところに行って死んでくれば?そうすれば天国にいる希もあんたらに会えて嬉しいことね」
377 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 21:30:51.61 ID:7iMNu1YO0
絵里「ちょ、ちょっと喧嘩は…」

穂乃果「…どんだけ私たちを殺したいの?不愉快なんだけど」

にこ「現実を見ろっていってんのよ、穂乃果の隣にいる夢追い人のせいで穂乃果にも夢追い人が感染しちゃった?」

せつ菜「私は夢追い人じゃありません!」

穂乃果「…いこっせつ菜ちゃん、こんなところにいても無駄な体力使うだけだよ」

せつ菜「は、はい」

スタスタスタ

絵里「………」

絵里(いい子なのは分かる、だけどあの二人はプライドが高い、高すぎる。だから見えるあの背中はとても冷たいものだった)


穂乃果『私はあなたが気に入らない』


絵里(…あの凍てついた顔はどうしたら綻びるのかしら)


せつ菜『とにかく私たちはここから離れます。次会う時は敵かもしれませんね』


絵里(あの固い態度を緩めるにはどうしたらいいのかしら)

絵里(さっきはあんな楽しそうな笑顔をしてたのに、それが嘘であったかのような、それがまるで本当のあなたであるような今は一体何なのかしら)

絵里(この外にいる全員の怪訝そうな顔は今も解けることはない)
378 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 21:34:55.47 ID:7iMNu1YO0
絵里「あぅ…あ……」

絵里(その中で私は、この状況で何を言えばいいのか分からなかった)

絵里(軍神と謳われた相手に威圧されて弥立って言葉が上手く出せなくて、一歩進んだ足と一つ伸びた手は二人に届くことは無かった)



にこ「ったく、希が死んだせいで拠り所がないせいか昔のあいつらを見てる気分だわ」

絵里「…知ってるの?昔のあの二人を」

にこ「当たり前でしょ、希と私は元仲間だったからね、敵対関係にあっても殺し合いをすることは無かった。だから増えていくのはあいつらとの交流関係だったわ」

絵里「…そうなの」

にこ「ええ、昔なんて殺すことしか考えてなかったのに、数か月経てば何かめんどうなことがあっても穂乃果が“希ちゃんのところへ帰るよ”ってせつ菜を引率しておとなしく帰ってくもんだから驚いたわよ」

にこ「それからあいつらも常識を覚えてきたから今ではかなりまともなアンドロイドだけど、心の支えの主軸であった希が死んだからね、あいつらの道徳が決壊し始めてるんだわ」

絵里「…それはまずくない?」

にこ「…あいつらの道徳性は別に心配ないけど命は今もすり減ってる状態だわ、次第に海未とかに遭遇して死ぬのはもはや確定的」

絵里「………」

にこ「せつ菜はちゃんと自覚してたけど、結局あいつらは業務用アンドロイドなのよ」

にこ「主の導がないとあいつらは自然と死の道を選んでしまうし猜疑心はまた増えてく一方、特に穂乃果は……ね」
379 : ◆iEoVz.17Z2 [saga]:2019/09/29(日) 21:35:41.19 ID:7iMNu1YO0
絵里「…何?」

にこ「昔よりもっと前、一昔前の穂乃果はよく笑ってたわ。それはせつ菜も同様」

にこ「それが今はこうなんだから、主の重要性が分かるわ」

絵里「…ならにこがやれば」

にこ「無理ね、あいつらの主が私なんかに務まるわけがない」

絵里「どうして?」

にこ「私は希ほど心は広くないし、優しくもない。希は基本的に放任主義だから穂乃果とせつ菜をたっぷり可愛がるだけで後は何もしないいわば拘束を一切しないやつなのよ」

にこ「でも私は違う、希の放任主義はある意味でいえば正解だけどある意味でいえば不正解。あんな危ないやつに好き勝手やっていいよなんて言うやつがまともなんて到底言えたものじゃないわ」

絵里「…確かに」

にこ「だからきっと私が主になった暁にはあいつらに不自由な生活を強いてしまうでしょうね、だから私はやらないわ。プライド高きアンドロイドは拘束を嫌うだろうから」

絵里「…ちゃんと弁えてるのね」

にこ「当然よ」
380 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 21:38:28.69 ID:7iMNu1YO0
絵里「………」

にこ「…じゃあ私も帰るわ」

絵里「え?」

にこ「絵里が生きてるのを確認出来たならもうここにいる必要はない、あいつらもきっと絵里が目覚めたからここを出たんだわ」

絵里「…どうして?このままいればいいじゃない」

にこ「私には妹たちがいるの、例えあの部隊を裏切ろうとも戻らなきゃいけないのよ。ママはいるけどね、姉として誇りを持って生きてるの」

絵里「…姉として」

絵里(私にも亜里沙という妹がいる、だからその言葉は少し…少しばかり痛かった)

にこ「その点ダイヤは姉として最低だったわ」

絵里「…!そういえばそう、なんでダイヤを嫌ってるの?」


にこ「…あいつにはルビィっていう妹がいるの」


絵里「!!」

にこ「…でもその妹は昔あったデパートに乗り込んできた武装集団によって足を撃たれて意識は闇へと誘われた、きっと熟成した今の体なら意識はあったと思うけど、まだ幼い頃だったから痛みは体についていけてなかったんだわ」

絵里「…それ、知ってるわ」

にこ「…そう、それでダイヤはショックが大きすぎたんだわ。悲しみは次第に怒りへと変わっていき、二度と大事なモノを無くさないと対アンドロイド特殊部隊に入った。あそこの部隊は人間の中でも指折りの強者しかいないからね、あそこに入ることこそ自分が強くなる最短ルートだと思ったんでしょうよ」


にこ「そうしてそこで出会った凛に慰められて、次第に凛を本当の妹のように見るようになってしまった」


絵里「……なるほどね、でもおかしいわ。なら凛は何なの?」

にこ「あいつはぁ…そうね…ただのバカかしら」
381 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 21:41:21.51 ID:7iMNu1YO0
絵里「ただのバカ?」

にこ「人っていうのは変わるものなのね」

絵里「え?」

にこ「私はそれを凛で知ったわ」

絵里「どういうこと?」

にこ「アンドロイドでも人間でも、とにかく人語を喋れる者はみんな同じ事を言うわ」


にこ「昔の方がよかったって」


にこ「昔のあなたの方が優しかった、昔のゲームの方が面白かった、昔の公園はもっと楽しかった」

にこ「当たり前よね、だってよく考えてみて、今が在った時昔の自分を見るとその時には当たり前だと思ってたものが今にはないの」

絵里「…?意味が分からないんだけど」

にこ「例えば初めて恋人が出来たっていうならそれは相手を大切にしなきゃって思う気持ちが強い時なの、だから相手に優しくするし何があっても守らなきゃって思う、つまりそこに初々しさがあるの」

にこ「でも時間ってものは残酷だわ、数か月…いや短いかしら、数年が経てばそこに当たり前のように相手がいることに気が付かなくて扱いも段々と雑になってくる、大切にしていく必要性がなくなるの、どう接すればいいか分からない泡沫の存在から元からいるような当たり前の存在に変わってしまうから」

にこ「ゲームだってそうよ、今はインターネットが盛んだから昔みたいに友達で集まってゲームをやらないの、友達がいることが当たり前だと思ってたから昔の方がいいだなんていって懐かしむの、失ったモノに気付かないままね」

絵里「………」

にこ「だから?って顔してるわね、分かるわよ」

絵里「えっ!いや…」
382 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 21:42:46.42 ID:7iMNu1YO0
にこ「…回りくどくてごめんなさいね、本題を言うと凛はいじめっ子だったのよ」

絵里「いじめっ子…」

にこ「ええ、凛はここ東京出身で幼い頃から周りにまともな人間が少なくて育ちが悪かったの」

にこ「動物は遊び半分で殺すし、人の気持ちを理解しようとしない薄情者、そのおかげで凛の周りにいたのは凛と同じよう狂ったやつだけ」

にこ「好戦的なくせに反則級に強いのが凛、百戦錬磨のその姿は戦闘型アンドロイドなら必ず知ってるくらいよ」

絵里「………」

にこ「そんな中で狂ったやつらの集まりである対アンドロイド特殊部隊が入った時、凛は初めて思いやりという言葉を知ったわ」

絵里「思いやり?」

にこ「さっき言った通りよ、凛はダイヤで初めて人を労わる気持ちを覚えた。凛はそれから変わった、いい方にも悪い方にも」

にこ「人に関心のない薄情な心が初々しい交感をした、凛は初めて人の気持ちを理解した。だから凛は分からないの、他人が笑顔でくれる言葉は全て良いモノとして受け取ってしまう」


にこ「例えそれが狂った感情だとしてもね」


絵里「……そういうこと」

にこ「ダイヤは凛を本当の妹として見て、凛はダイヤの操り人形、人の気持ちを理解しようと凛は偉かったわ。でもそれ以降の凛はただのバカだった」


にこ「…だから私はバカな凛が嫌い、そしてルビィという本当の妹がいながらも凛を妹に仕立て上げたダイヤが大嫌い」


絵里「………」

にこ「だからね、今回凛を殺してくれたのはある意味言えば救済になったと思う。ダイヤは目が覚めたでしょう、凛は天国で反省してると私は嬉しいわね」

絵里「……私は」

絵里(私は凛を殺した覚えはない、死体も見てない。私がもう一人の私に全てを委ねた時から記憶は闇の中だった)

絵里(それなのにどうしてだろう、凛が死んだ——そこまでならきっとよかった。でも私が殺したっていう事実があることに、どうしても私は痛みを感じてしまっていた)
383 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 21:44:50.90 ID:7iMNu1YO0
にこ「…まぁ帰るわ、私も何かない限りはここへ帰ることはないわ」

絵里「……気を付けてね」

にこ「はいよ、でも人の心配より自分の心配をしなさい。私はまだ戦える体だからいいけど絵里は違うんだから」

絵里「…ええ」

にこ「じゃあね」

スタスタスタ

絵里「………」

絵里(…どうして、みんなはそんなに一人へ…孤独へなろうとするのかしら)

絵里(協力関係は結んだならきっとそれは仲間って言っても良いと思うのに、穂乃果もせつ菜もにこも、みんなここから離れたがる)

絵里(……そんなにここの居心地が悪かったのかしら)

絵里「…いや」

絵里(そんなことはない、ムードメーカーの果南だっているしツッコミとボケ両刀の善子だっている、割かし自由人な曜や比較的まともなことりもいて、どういう性格をしててもきっとそこは馴染みやすい場所だったと私は思う)

絵里(みんな怪我してて、死ぬ危険性もあるというのに…)


絵里(どうしてみんな、そこまで死にたがりなのかしら……)

384 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 21:45:41.10 ID:7iMNu1YO0
絵里「はぁ」

ことり「おかえりなさい、大丈夫だった?」

絵里「ええ、特に何も」

ことり「…あれ?矢澤にこや穂乃果ちゃんは?」

絵里「みんな帰っていったわ」

ことり「えぇ!?大丈夫かな…」

絵里「…にこは多分大丈夫だけど、せつ菜と穂乃果はやばいってにこも言ってたわ」

ことり「……どうするの?」

絵里「……正直分からない、何かあったら助けに行きたいけど、この体じゃまともには……」

ことり「………」


果南「その時は私とことりに任せてよ」


絵里「! 果南…でも二人は体が…」

果南「大丈夫だよ、もう私は戦える。もちろん万全じゃないけど、それでも充分なほどには戦えるから今度は私が絵里の代わりをやるよ」

ことり「…そうだね、私も万全じゃないけど戦えるよ。肩も動くし、足もさほど痛みはない」

絵里「…そう、でも無理はしないでね」
385 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 21:48:09.49 ID:7iMNu1YO0
果南「あははっそう言ってくるのが何とも絵里らしいよ」

ことり「…分かるかも」

絵里「そ、そう?」

果南「うんうん、絵里は絵里だね」クスクス

絵里(果南はやっぱりすごい人よ、人を元気づけるのがとても上手くて尊敬しちゃうわ)

絵里(果南に腕を引っ張られてリビングに向かえば善子と曜が楽しそうにゲームをしてて、“絵里も一緒にやろうよ”って笑顔で言ってくるもんだからこれは参加せずにはいられないわよね)

スタスタスタ

絵里「………」

絵里(ただゲームの前に、テーブルに所狭しと置かれている武器が戦いの爪痕を残していた)

果南「改めて見るとすごい武器の数だよね」

曜「不良みたいだよね」

善子「いやこんな物騒な武器持ってる不良どこにもいないわよ…」

絵里「…あ、これことりの……」

ことり「あ、うん。曜ちゃんに直してもらったんだ」

絵里「ええ、よかったわね」

ことり「うんっ」
386 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 21:52:00.63 ID:7iMNu1YO0


花丸「あ、あの…」


絵里「…あれ?」

ことり「…あれ?穂乃果ちゃんと優木せつ菜は帰ったんだよね?」

絵里「え、ええ」

絵里「どうして花丸さんがここに?」

花丸「マルは寝てたらなんか二人に置いてけぼりにされちゃったみたいで…あ、でもこの手紙が私のところに置かれてて…」スッ

絵里「…読んでもいい?」

花丸「…はい」

絵里「………」ペラペラ

絵里(そこに書いてあったのはせつ菜から花丸へ向けてここの家に残れというメッセージだった)
387 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 21:54:39.48 ID:7iMNu1YO0
絵里「ふむ…私たちといるよりかここにいる方が何十倍も安全だから戦闘が出来ない花丸さんはここにいるべきです…か」

善子「…無責任ね、要は足手纏いって言いたいんでしょ?」

花丸「ずら……」

絵里「ちょっとその言い方は…」


曜「強ち間違ってないよ」


絵里「!」

曜「死にかけの二人が実質非戦闘員である花丸さんと一緒にいて、誰かと戦闘が始まった暁には少し荷が重いように感じると私は思うよ」

曜「だって助ける余裕がないんだもん、そんな状態で死なれてもどうしようもないし、そんな状況になるくらいなら最初から戦闘に参加しないよう心掛けるべき」

曜「だから二人の判断は正しいと私は思う」

花丸「…知ってる、マルがお荷物だなんてことは。足手纏いってことも遠回しに言ってくれるのはきっとせつ菜ちゃんなりの優しさなんだと思ってる…ううん思いたいずら……」

曜「…大丈夫だよ、せつ菜ちゃんも穂乃果ちゃんも仲間は大切にする人だから。花丸ちゃんを捨てたわけじゃないよ」

花丸「…うん」
388 : ◆iEoVz.17Z2 [saga]:2019/09/29(日) 21:56:08.81 ID:7iMNu1YO0
絵里「………」

果南「…あぁもういいじゃん!ならあの軍神とトリックスターを引っ張ってくればいいじゃん!」

曜「うん、それが一番良いと思う。あの二人は今はまだここにいるべき」


曜「…だけど、私、絵里さん、善子ちゃんは戦えないね」


善子「…ええ」

絵里「この傷じゃ…足を引っ張るだけね」

曜「あの二人は絶対に抵抗してくるよ、プライドが高いからね」

果南「なら二対二になるってことか」


ことり「…私は戦いたくない」


果南「え?なんで?」

ことり「……穂乃果ちゃんとは二重の意味で戦えない」
389 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 21:56:47.15 ID:7iMNu1YO0
果南「…あの時の話?」

ことり「…うん、そうだよ」

絵里「あの時の話?」

果南「絵里と善子が曜とかと戦ってる時、私たちは色々話をしてたんだよ」

ことり「そんな時にあがったのが希ちゃんのところにいたアンドロイドの話だった」

果南「そこでその高坂穂乃果っていうアンドロイドの事を聞いた、結論からいればことりは穂乃果の元親友で、でも穂乃果に殺されかけたんだって」

善子「なんで?喧嘩でもしたの?」

曜「違うね、穂乃果ちゃんは過去に一回死んだことのあるアンドロイドだよ、だからその時に埋め込まれた記憶で性格が一変した」

ことり「その通りだよ、だから私はその変わり果てた穂乃果ちゃんを殺そうとした」

絵里「…それで結果はボロ負けだったと」

ことり「…うん」

善子「なるほどね、つまり戦いたくないっていうのは腐っても元は親友であった相手で、しかも一回殺されかけたくらいに実力を知っている相手とはやりあえないってわけ」

ことり「…その通りだよ」

曜「…こればっかりは仕方ないんじゃないかな、私はことりちゃんに同情するよ」

絵里「ええ、あくせくしたって何も始まらないわ」
390 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 21:59:10.42 ID:7iMNu1YO0
果南「…まぁね、でもそれじゃああの二人の助けようがないよ?」

花丸「大丈夫だと思う…ずら」

花丸「例え負け戦を強いられたとしても、そう簡単には死なないと思うから」

果南「…ならいいけど」


「………」


絵里’(この状況で、それは流石の果南もこの重い空気の中で何かを話そうとはしなかった)

絵里(私は考える、あの戦いは勝利であったのだろうか)


絵里(それは否、私はそう思う)


絵里(私としては敗北で、今でもピリピリ残ってるトリガーを引く感覚は人を殺めた感覚とほぼ同義なんでしょう)

絵里(私があの時——千歌が死んだ時にトリガーを引いた時から一本道であったのは確かだけど、それは今に戦えば戦うほど目標までの距離が遠く見えてくる)

絵里(それは届きそうで届かない錯覚の距離ではないし、ただ単純に目に見えて分かるほど遠い距離でもない)


絵里(私が見てるのは、どこがゴールかもわからない道のない道)


絵里(きっと発砲しても誰にも当たらないしどこかの壁に当たることもない無限の彼方で私は黄昏てるだけ)

絵里(私のいるこの道は、一体何があるというのかしら)



花丸「大丈夫…ですか?」

絵里「…心配してくれるの?」

花丸「…一応友達だから」

絵里「…ええ、そうね。私たちは友達だものね」

絵里(花丸さんと話すのは、まだ千歌が死ぬ以前の図書室に真姫といた時以来だった。その時はPR-15の事を丁寧に教えてもらって、私も花丸さんも真姫もよく分からずに親しくなってた)
391 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 22:02:12.63 ID:7iMNu1YO0
絵里「……あの希って人のところの人だったのね、あなた」

花丸「希ちゃんに、マルの才能を買ってもらったずら」

絵里「あなたの才能?」

花丸「……銃にとっても詳しいっていう点で、相手を解析する役目と情報を集める情報屋として拾ってもらったずら」

絵里「拾ってもらったって言っても花丸さん人間でしょ?親はいるんでしょ?」

花丸「…ううん、一人ずら」

絵里「え?なんで?」

花丸「…ごめんなさい、その話はあんまりしたくないずら」

絵里「…そう、ごめんなさい」

絵里(人は過去を振り返りたがらない、特にこの隔離都市に住む人間はそう、みんながみんな過去を良いモノとしては見ていない)

絵里(実際そうだったでしょ?善子も、ことりも、にこも、全ては銃弾によって撃ち抜かれた運命を体験してる)

絵里(だからきっとこの花丸さんもそうなんでしょう、“そういう過去”があるんでしょう)
392 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 22:06:07.96 ID:7iMNu1YO0
花丸「…まぁ一人のマルを拾ってもらって、希ちゃんの家で居候をしてたずら」

絵里「…そうなのね」

花丸「だからいつまでの話になるか分かりませんが、しばらくの間ここでよろしくお願いします」ペコリ

絵里「え、ええ…よろしくね。でもそんなかしこまらなくてもいいのよ?」

花丸「ううん、最初はいつもこうだから…希ちゃんの時も全く同じだったから…」

絵里「そ、そう…」

絵里(まだ関りが薄いっていうのもあったし、今が今なだけに私も花丸さんも口は中々開かなかった)

絵里(月明かりに照らされるだけの真っ暗な寝室で二人、どこか妖しくて丸いお月様に黄昏ていた)


「………」


絵里「ね、ねえ花丸さん」

花丸「はい、なんですか?」

絵里「これからしばらくの間休み傷が癒えたとして、それから私たちはどうすればいいのかしら?」

花丸「……あの戦いはマルたちと対アンドロイド特殊部隊だけが動く事件にはならなかった、次第に普通の警察も動きだす。だからもう派手な事は出来ないずら」

絵里「………」

花丸「だから…もう、対アンドロイド特殊部隊は無視でもいいと思うずら。絵里さんの行き先——そう鞠莉さんのところに行くべきだとマルは思う」
393 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 22:09:42.21 ID:7iMNu1YO0


曜「いや、違うかな」


絵里「!」

花丸「!」

曜「それは無理だよ、鞠莉ちゃんの家は大きな豪華ホテルの最上階なんだけど、警備が分厚い上に対犯罪集団に努めシステムが厳重すぎて侵入が難しい上に侵入が出来たとしてもって感じ」

絵里「なら外にいる時に殺せば」

曜「その時に鞠莉ちゃんの近くにいるのが対アンドロイド特殊部隊とかの一流警察の集まりなんだよ、だからアンドロイド特殊部隊を壊滅させることにはちゃんと意味があるし、政府の武器庫であるY.O.L.Oを潰すことにも将来性が見える時なんだよ、今は」

花丸「…なるほど、確かにその通りずら」

曜「確か絵里さんと戦ってたぶどう色の髪をした子——梨子ちゃんっていうんだけどね、梨子ちゃんは中学一年生の時にアンドロイドに親を殺されててそれ以来ずっとアンドロイドの復讐の事しか考えてないし、後から戦場にやってきた果林ちゃんなんかは元々アンドロイドを肯定してる人なんだけどちょっと狂った美学を持ってて殺すことに美しさを感じちゃってて、だから誰かを殺しても犯罪にならない対アンドロイド特殊部隊に入ってるしで対アンドロイド特殊部隊っていうのは特別なことでもない限り一生敵でい続けると思う」

絵里「……」

花丸「…難しい話ずら」

曜「…まぁ今考えるべきことはそこじゃないけどね」アハハ

花丸「…?」
394 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 22:12:09.35 ID:7iMNu1YO0
曜「今考えるべきことは…それはー?」


曜「今日の夜ご飯をどうするか!だよ!」


絵里「…?」

曜「いやいや何も難しいこと言ってないじゃん!もう十時だよ!?十時なのに何も食べてないからお腹空いたんだよ!」


グゥ~…


花丸「ずらっ…」

曜「ぷっくすくすくす……」

花丸「わ、笑わないでほしいずら!!」

絵里「よ、曜って料理作れるんじゃなかったの?」

曜「作れるよ、でもあの状況で作るのもなんか違うじゃん?」

絵里「まぁ確かに…」

曜「ほらっだから絵里さんも花丸ちゃんもダイニングとリビングに行こ?腹が減っては戦は出来ぬだ!」
395 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 22:12:45.99 ID:7iMNu1YO0

スタスタスタ

絵里「…曜は強いのね」

花丸「あんな状況でも笑っていられるのは…少し羨ましいずら」

絵里(そう花丸さんと交感をして曜の後ろをついていった、ダイニングとリビングに行けば果南とことりは一つの漫画を一緒に見て変な感興の声をあげてて、善子はことりが好きそうなうさぎさんの可愛いクッションを抱いてソファで寝てた)

曜「二人ともご飯食べよー!あ、善子ちゃんはご飯出来たら起こそう」タッタッタッ

絵里「…ふふふっ」

絵里(曜も、果南もことりも、そして寝てる善子も笑ってて私はなんとなく安心した。また、いつもの雰囲気が戻ってきたような気がする)
396 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 22:14:27.94 ID:7iMNu1YO0
果南「絵里たちの傷、いつ頃治るかなぁ」モグモグ

曜「アンドロイドは人間より回復が早いから絵里さんと善子ちゃんは後数週間で治るんじゃないかな」

絵里「後数週間は長いわね…」

善子「それまでに何も無いといいんだけど」

曜「そうだね、それを祈って今はくつろぐのみだ!」ワッハッハ

ことり「それはどうかと思うけど…」

花丸「ずらっ」

果南「いやいやどうせ何も無ければやることないんだし漫画とか見てるのが一番だよ」

絵里「まぁ休み方は人それぞれにせよとにかく休むことは必要よ、曜もさっき言ってた通り腹が減っては戦は出来ぬ、よ。しっかり食べなさい?」

曜「あははっなんか絵里さんお母さんみたい」クスクス

善子「なら果南は迷惑な長女ね」

果南「あ?じゃあ善子は生意気でガキな末っ子ね」

ことり「じゃあって…」

絵里「二人ともなんですぐにそういう発想になるのよ…」

曜「あはははっ」

絵里(なんだかんだ騒がしいようなこの食卓で食べる夕飯はなんとなくだけど幸せの味がした)

絵里(だから如何なる退廃的状況、そして状態でもここはまだ幸せの在り処でいてくれてるのかもしれない)
397 : ◆iEoVz.17Z2 [saga]:2019/09/29(日) 22:15:52.33 ID:7iMNu1YO0
果南「ふうごちそうさま、ちょっと地下の射撃場行ってくるよ、そろそろなまった体を正さないといけないみたいだからね」

ことり「私も行く、お荷物から戦力へ成り上がったならサボることは出来ないから」

絵里「い、いいけど大丈夫?二人とも肩を撃たれたわけだし」

果南「大丈夫だよ、心配しないで」

ことり「私も」

絵里「そ、そう…」

果南「じゃっ行ってくるよ」

スタスタスタ



果南「すぅ…ふぅ…」

ことり「久々の発砲に緊張してるの?」カチャッ

果南「まさかっ深呼吸をして落ち着いて狙いがずれないようにしてるだけだよ」カチャッ

ことり「そっか」

果南「はー久々にチャージングハンドルを引いたよ」

ことり「私もだよ、これを引くだけでちょっと戦いの感覚を思い出すね」

果南「うん、そうだね」
398 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 22:20:46.25 ID:7iMNu1YO0


ドドドドド!


果南「へぇやるじゃん、全部的の真ん中なんてね」

ことり「そっちも全部的の真ん中じゃん」

果南「私にとっては当たり前だよ、何年戦ってきたと思ってるのさ」

ことり「それは私だって同じだよ、言っとくけど戦歴は私の方が長いんだからね?」

果南「知ってる知ってる」ドドドド

ことり「…というかその銃は……」


ことり「スカー?」


果南「そうだよ、SCAR-H。銃を持ち始めてからずっとこれとデザートイーグルしか使ってないんだ」

ことり「へぇ…でも松浦果南は戦闘経験が豊富っていうならそれこそスコーピオンEVOを使えばよかったんじゃないの?」

果南「…それはことりにも同じことが言えるよね」

ことり「まさかっ私は前に言ったよね、ブレが酷い銃はどうしても扱えないって」

果南「あぁそうだったね…うん、そうだね、確かにスコーピオンはブレが酷いから扱うのはかなり難しい銃だよ」
399 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 22:22:56.41 ID:7iMNu1YO0
果南「みんな勘違いしがちだけど、スコーピオンは強いけど最強ではない。連射速度が速すぎる分マガジンはすぐに切れるし、銃口が小さい分一発一発の威力が低い」

果南「もちろんアンドロイドだろうと完璧に避けるのが難しいと言われる連射速度のアドバンテージは魅力的だけど、案外スコーピオンは不完全なところがあるんだよね。ブレが酷いから思った通りに弾が飛ばないせいで事故も結構多いし」

果南「その点このSCAR-Hは一発の威力が大きいし壁もよく抜けるから遮蔽物をあんまり気にせずに済むし一発敵に撃ちこむだけでも致命傷になる火力の武器、防弾チョッキなんてなんのそのそんなもの貫通するよ」

ことり「…なるほどね、あくまで求めるのは”そういうところ”なんだ」

果南「そうそう、スコーピオンみたいな器用さはいらないよっと!」ドドドド

ことり「そっか」ドドドド

ことり「…ねえ松浦果南」

果南「何?」

ことり「もし絵里ちゃんたちの傷が癒えてない時に戦いが始まったら、戦いの主軸は私たちになる」

果南「…うん、そうだね」

ことり「だからその時は…絶対に負けないようにしよう。このままお荷物ではいられないよ」

果南「そんなの当たり前だよ、千歌を殺した分はしっかり償ってもらわないとね」
400 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 22:24:17.84 ID:7iMNu1YO0
ことり「…私も、助けてもらった命をふいにはしたくない」

果南「……でも、絵里は乱暴な命の使い方をしたら怒ると思うよ」

ことり「…そうだね、怒るね」

果南「あははっ本人も命の使い方は結構乱暴だっていうのに、人の事になると急に厳しくなるのがホント絵里って感じ」

果南「…でもさ…今回、ことりは何のために戦うの?」

ことり「何の為?」

果南「絵里や善子はこのアンドロイド差別を無くす為に戦ってるけど、私は違う」

果南「言ったよね、私は戦うの好きだから戦うって。だから私は戦争を起こす気でいる絵里についていったと同時に、千歌の仇討ちをしようとしてるだけ」

果南「ことりは何の為に戦うの?命を助けてもらったといってもそこで恩を返す義務はないよ」

ことり「……そうだね、なんで私は戦うんだろう」

果南「…どういうこと?」

ことり「私自身もよく分からない、でも理由はなんとなく松浦果南と同じかも」


ことり「絵里ちゃんについていこうかなって、そう思っただけかもしれない」


果南「…そっか、じゃあ私が絵里についていってるのは別に珍しいことじゃないんだね」
401 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 22:25:43.02 ID:7iMNu1YO0
ことり「…うん、危なっかしいところあるしほっとけない存在なんだと思う」

果南「……そうなのかな」

ことり「そうだよ」

果南「…そっか」



絵里「花丸さん、それ何?」

花丸「これですか?」

絵里「そうそう」

花丸「これはかよさんのライブのチケットずら!ようやくチケットが取れたから是非この日は行きたいって思ってて…」

曜「あぁ知ってる、今話題のアイドルだよね!可愛らしい歌声は私もとっても好き!」

善子「かよさんってあの千歌が言ってた人のこと?」
402 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 22:27:59.01 ID:7iMNu1YO0
絵里「かよ……はなよ…」


花陽『だからまた今度、お会いした時はもっといっぱいお話しましょう♪』


絵里(あの人もすごい人なんだなって思う、こんな退廃的都市を彩る歌声とその煌きは威力そのものは無いけれど心を揺さぶる波状攻撃として今も広がり続けている)

絵里(今、花陽さんは何をしているのだろうか。あの時会ってから今に至るまで、花陽さんは立ち位置があやふやでイマイチ考えてることがよく分からない不思議な人だった)

絵里(ただ分かるのは、アイドルってだけ。なのになんであの人は私を助けたんだろうか)

曜「じゃあ行けるといいね、かよちゃんのライブに」

花丸「はいずら!」
403 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 22:31:21.48 ID:7iMNu1YO0
〜???

「おーい、おーいってばー!」

絵里「…ん、誰?」

凛「凛だよー星空凛」

絵里「…!?なんであなたがいるの!?」

凛「ん?なんでってどういうこと?」

絵里「だって死んだんじゃ…!」

凛「あははっ勝手に殺さないでよ」

絵里「え、え…?」

絵里(目が覚めれば外は暗く周りを見ればそこは真姫の別荘の寝室だった、そして隣を見れば死んだはずの凛がニッコリ笑顔で座ってた)
404 : ◆iEoVz.17Z2 [saga]:2019/09/29(日) 22:33:06.57 ID:7iMNu1YO0
絵里「…なんであなたはここにいるの?」

凛「んー?なんでだろう、凛もよく分からないや」

絵里「…私とあなたは敵でしょう?」

凛「んーどうしてだろう、もう敵じゃない気がするんだよね」

絵里「…意味が分からないんだけど」

凛「こう…気持ちの問題なのかな!しかもほらっ今の凛は武器も何も持ってないし」

絵里「…じゃああなたは何でここに来たの?」

凛「だから言ってるじゃん、よく分からないって」

絵里「はぁ?」

絵里(戦う気はないみたいだけど、その分返す答えも理解させてくれないくらいに適当なものだった)

絵里(それに今思えば曜や果南はどこに行ったんだろう、曜と果南は私と一緒に寝てたはずなのに何故か今は姿が見えなかった)
405 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 22:34:21.57 ID:7iMNu1YO0
絵里「果南と曜はどこ?」

凛「知らないよ、凛はここにいるだけだもん」

絵里「いや意味分からないわよ…」

絵里「…とりあえず来て、リビングに行くわよ」

ギュッ

凛「…ダメ」

絵里「え?どうして?」

凛「…いや、よく分からないけどその扉は開けちゃダメな気がして」

絵里「何よそれ、とりあえず開けるわね?」

凛「…っだめ、やっぱりダメ」

絵里「どうしてよ、ここは安全よ?」

凛「そういう問題じゃない、凛もこう…なんて説明すればいいか分からないけどとにかくダメ!」

絵里「じゃあどうしろっていうのよ?このまま疑問を残して寝室にいるのは私いやだわ」

凛「…で、でも」

絵里「大丈夫だから、みんな優しいから仲良くしてくれるわ」
406 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 22:35:36.95 ID:7iMNu1YO0

ガチャッ


バリバリバリ!


絵里「っ!?」

絵里(暗い部屋の暗い扉を開ければその先から飛んでくる聞きなれた銃声と数えきれないほどの弾丸に心臓が止まりそうなほどに驚いた)

絵里「くっ…!」シュッ

絵里(幸いにも横へ跳躍すれば廊下から見て死角へと移れる、だからダメージは無かったけど安心したのも束の間、私は死を悟った)


絵里「…凛?」


絵里(…直立不動の凛に呼びかけた、けど何も返事は無かった)

凛「…ぁ」

バタッ


絵里「! 凛!」タッ


絵里(……そう、凛の死を悟った。膝から倒れる凛を抱きかかえると私のお腹に伝ってくる大量の血は焼けてしまいそうなほどに熱かった)
407 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 22:36:44.08 ID:7iMNu1YO0


絵里「ッ!? わぁあああっ!?」


絵里(そうして凛から離れて凛のお腹を見れば、服越しだろうとすぐ分かるほど無惨に貫かれたお腹の穴が私の恐怖を煽った)

絵里(お腹の穴からぽろっと出てくるほっそい弾丸は吐き気を催し、このお腹に空いた無数の穴とその死体はとてもじゃないけど見てたものじゃなかった)

絵里「うっ…ぷっ……」


スクッ


絵里「!」

絵里(お腹から沸き上がってくるものを抑えようとしてると後ろから聞こえる服と銃が擦れる音)


絵里「あなた…あッ!?」


絵里(振り返ればもうすぐそばにまで近づいたマチェットを持ったもう一人の私がいた)

絵里(この距離からして避けるのはほぼ不可能で、私は死あるのみだった)
408 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 22:38:26.31 ID:7iMNu1YO0
絵里「ぁ…!」

絵里(振り返ってそして死に際に、目に光を通していないであろう濁った瞳に理解などとうに無さそうな気味の悪い無表情、私だけど私じゃないそんな姿をしたこのもう一人を見たら出る言葉も凍ってしまうでしょう?)


絵里(私の最期は、あまりにもホラーで最悪な最期だった)



絵里「わああああああぁぁぁぁあぁあぁああ!?」バサッ



曜「うわぁ!?何々!?」バサッ

果南「何っ!?敵!?」シュッ

絵里「はぁ…はぁ…はぁ……」

果南「ど、どうしたのさ絵里…」

絵里「ご、ごめん起こしちゃったかしら…」

曜「う、うん…それよりどうしたの?」

絵里「…夢…?を見たのかしら…?」

果南「なんで疑問形?」

絵里「いや…ごめんなさい。多分夢現なんだと思うわ、ちょっと冷静になれないかも…」

絵里(叫べばそこはあの時と同じ寝室、横には果南も曜もいるし多分ここが現実であの凛のいた世界が夢なんだと思う)
409 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 22:39:12.30 ID:7iMNu1YO0
曜「それで何を見たの?」

絵里「それは……」

絵里「………」

絵里(喋ることに何が邪魔をしたのかしら、意識することもない頭のどこかでくだらないことって思ってしまったのかしら)

絵里(いくら内容が奇妙とはいえたかが夢、現実とはかけ離れた空想の世界の話をさも現実かのように語るのは確かにくだらないしバカバカしい)

絵里(だからこの口から、その夢が出ることは無かった)

果南「…?何?何を見たの?」

絵里「……いや、なんでもない」

曜「えぇ…あんな叫び声まで出してそれはないよ絵里さん…」

果南「そうだよ!」
410 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 22:39:39.82 ID:7iMNu1YO0
絵里「…でもたかが夢でしょ?別になんでもない話じゃない」

果南「そういう問題じゃないよ、私はただ単純に絵里の夢の話が聞きたいだけ」

曜「そうそう、私も同じ」

絵里「………」

絵里(それを言うのをくだらないと私は思っているのに……しかもあの夢をどう説明すればいい?)

絵里(短い時間だったけど話せばきっと長くなる、あんな僅かな時間でどれだけの情報が交差としたというのかしら。あの夢に追及をしても何も無いと私は思う)

絵里(だから私はただの悪夢で終わらせることにした)




果南「ぶー……」

曜「んー……」


善子「…何?あれは」

ことり「いや、私は何も…」

花丸「何かあったんですか?」

絵里「あはは…私が原因かしら…」
411 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 22:40:32.15 ID:7iMNu1YO0
善子「何やったの?」

絵里「いや…ちょっとね…」

善子「…?」

果南「あー!モヤモヤする!絵里!いい加減教えてよ!」

絵里「いやだから何でもないって…」

曜「その一点張りが私たちのモヤモヤを加速させるの!」

ことり「え、え?意味が分からないんだけど…」

善子「誰か堕天使ヨハネに説明をよこしたまえ…!」

果南「絵里が昨日見た夢を教えてくれないんだよ」

ことり「昨日見た夢?どうして急にそんな」

曜「絵里さん、悲鳴をあげて起き上がったんだよ。それで私も果南ちゃんも起きちゃって」

果南「そうそう、なのに夢の内容を教えてくれないんだよ!?」
412 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 22:41:11.18 ID:7iMNu1YO0


善子「…くだらな」


果南「くない!夜中に突然悲鳴をあげて起き上がるなんてどんな夢を見たか気になるでしょ!?」

曜「そうだ!心を持つ者の性だよこれは!」

ことり「そこまで大げさに言う?」

花丸「でも確かに気になるところもあるずら」

曜「もちろんだよ!」

ことり「絵里ちゃんはどうしてそこまで口を割らないの?ここまで引っ張るんだったら言ってあげればいいじゃん」

絵里「いや…別に……」

ことり「んー…?」

善子「言いたくない理由があるのよ、察しさない」

果南「知らないモノがあるのなら知りたくなるのは普通でしょ?つまりはそういうことなんだよ」

善子「だからそこは相手の気持ちを尊重しなさいよ…」

曜「んー…どっちもどっちだね」
413 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 22:42:12.30 ID:7iMNu1YO0
ことり「…まぁ絵里ちゃんも訳ありみたいだし我慢した方がいいんじゃない?」

果南「むー……」

曜「…まぁいいよ、そうだね。相手の気持ちも尊重しないとだよね」

絵里「え、ええごめんなさいね」

曜「いいよ、でも言ってくれる時があったら言ってね!」

絵里「ええもちろんよ」

果南「……仕方ないね、言うことは曜と同じ。言ってくれる時があったら言ってね?」

絵里「ええ」

絵里(次の日の朝、機嫌を悪くして起きる二人だったけどなんとか腹をくくってくれたみたいで助かったわ)

絵里(その後は朝ごはんを作って食べるのだけど、ことりも果南もだいぶ動けるようになったみたいでことりは自ら料理に参加するし果南は皿を運んでくれたりで戦線の復帰も見込めそうだった)
414 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 22:43:54.75 ID:7iMNu1YO0


ことかな「おぉ〜!」


善子「…何してんの?」

果南「漫画を見てるんだよ、善子も見る?」

善子「いや…なんか表紙からして絶対私に合ってないやつだからいい」

曜「表紙?あぁあれは恋愛モノだね」

花丸「恋愛モノならいいと思いますけど…」

絵里「善子はバトルモノが好きなのよ」

花丸「そうなんですか」

ことり「この漫画ヒロインが複数いるからドキドキしちゃって…」

果南「ことりも戦いじゃ鬼みたいな顔してるけどなんだかんだ乙女だよね」クスクス


ことり「あ?」


果南「鬼だ…」

曜「あははは……にしてもここの書物はすごいよね、私もちらっと覗いたけど図書館じゃんあれ」

花丸「あれは学校の図書室より大きかったずら…」
415 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 22:47:32.29 ID:7iMNu1YO0
絵里「ここの別荘は山奥だから山奥でも楽しめるようにって真姫が本を蓄えた場所なの、その分家の面積も増えたしある意味で言えば真姫の図書館、或いは図書室かもね」

曜「へぇ…真姫さんってすごいんだね…」

花丸「真姫さんってそんなすごい人だったんですか…」

絵里「ええ、超お金持ちよ」

善子「そして絵里のパートナーよ」

絵里「あはは…どうかしらね…」

曜「ん?どっち?」

絵里「私も真姫もそのつもりはないけど、そう呼ばれてるだけなのよ」

善子「授業と短い休み時間以外はほぼ全部の時間一緒にいるからね」

ことり「なんで?」

絵里「んー…まぁ昔色々あってね」

果南「はい始まったよ、絵里の適当誤魔化し芸」

絵里「何よそれ…」

果南「絵里は人に言えないことがありすぎるんだよ、抱えないで言ってよ?私たち親友でしょ?」

絵里「んーまぁ確かに否定は出来ないけど…いいの、これは胸の内にしまっておきたいから」

果南「えー…」
416 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 22:49:25.52 ID:7iMNu1YO0
ことり「…なんか思ってた以上に複雑そうだね、絵里ちゃんの過去って」

絵里「まぁ色々あるのよ」

花丸「ずらっ」

果南「んあー!もう!なんか隠してることがあるって分かるとモヤモヤが止まらない!ちょっと射撃場で乱射してくる!」タッタッタッ

曜「あ、ちょっと弾撃ち過ぎないでね?いくらここに貯蓄されてるとはいえ有限なんだから」

果南「分かってるー!」

ことり「じゃあ私外でちょっと体を動かしてくるよ」

善子「体を動かす?」

ことり「私は中国武術の心得があるから、型通りに技を繰り出したりで体を慣らすんだよ」

曜「そうだよね、初めて見た時からキレッキレの身のこなしに惚れ惚れしちゃったけどやっぱり中国武術だよねあれは」

ことり「そうだよ」

花丸「ことりさんの近接戦法は希ちゃんもマークしてて、あそこまで丁寧で綺麗な動きが出来るアンドロイド、ましてや人間でさえ見たことがないってすごい嬉しそうに言ってたのを覚えてるずら」

花丸「でも不思議ずら、どうして中国武術なの?」

絵里「そういえばそうね」

善子「確かにね、近接といえば私や絵里みたいな特に特化したものがなくて、ナイフでも持たない限り近接だけじゃ相手を殺めることのないCQCが基本なんだけどことりのそれは少し違うわね」
417 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 22:50:42.59 ID:7iMNu1YO0
ことり「私、力がないから柔道みたいな投げたり固めたりみたいな近接は全然扱えなくてましてや絵里ちゃんや善子ちゃんみたいなシンプルなのも私には厳しかった」

絵里「えっ……」

絵里(ことりの飛び膝蹴りをもろに受けた私には力がないとか厳しいとか言われても正直困惑した)

ことり「だから中国武術っていう工夫されたモノを心得たんだよ、特定の構えをすることで力が手に集中して、仮にそれが胸にでも当たれば心臓を止めることも出来る殺人拳法へと変わるの」

曜「へー…恐ろしいねそれは」

絵里「ええ…そんな食らわなくてよかったわ…」

ことり「…まぁそんなところだよ」

花丸「そっか、理解したずら」

ことり「じゃあ私は行くね」

曜「あ、じゃあ私もことりちゃんのところ行ってもいいかな?ことりちゃんの公式の型が見れるのなら見に行かないわけがないからね!」

ことり「いいけど邪魔しないでね?」

曜「了解であります!」ビシッ
418 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 22:51:22.48 ID:7iMNu1YO0

スタスタスタ

絵里「…行っちゃった」

善子「まぁ動けるようになった果南とことりは動きたいでしょうに」

花丸「あ、じゃあマルはあの本がいっぱいの部屋に行ってきてもいいですか?もしかしたら面白い本が見つかるかもしれないので…」

絵里「ええ、行ってらっしゃい」

花丸「はいずらっ!」

スタスタスタ

善子「……みんなやりたいことがあるのね」

絵里「…善子はないの?」

善子「驚くほどにないわね」
419 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 22:52:28.87 ID:7iMNu1YO0
絵里「ゲームは?」

善子「一人でやっても面白くないわ」

絵里「漫画は?」

善子「見たいのがない」

絵里「リハビリは?」

善子「横っ腹撃たれただけの私にリハビリもクソもないわよ」

絵里「………」

善子「はぁ…暇ね」

絵里「私たちがレジスタンスである以上は娯楽にも行けないしね」

善子「堕天使になって空を飛びたいわ…」

絵里「堕天使は飛べないんじゃないの?」

善子「そんな決まりはどこにもないわ」

絵里「…そうね」

絵里(蒸し暑い夏の朝、クーラーのかかった部屋で二人ソファでだらけるだけだった)
420 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 22:53:06.85 ID:7iMNu1YO0
善子「……羨ましいわ」

絵里「何がよ?」

善子「あの鳥よ」

絵里「青いわね、あの鳥」

善子「幸せを運んでくれてるのかしら」

絵里「そうだといいけど」

善子「…あの鳥のように自由に未来を羽ばたきたいわ」

絵里「……それは誰しも望むことよ、そして誰しもが諦める届かない存在」

絵里「前を向いた者は現実に押しつぶされて、後ろを向いた者は潔く夢を捨て去るのよ。そうやってこの都市のアンドロイドたちは記憶を失ってきた」

絵里「それはもはや理想郷ですらない、残された選択がNOかいいえかの違いなだけ」


絵里「…そうと分かってる私たちは一秒でも早くそこにはいかYESの選択を創らなきゃいけないのよ」


善子「…ええ、その通りね」
421 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 22:54:08.43 ID:7iMNu1YO0
絵里「………」

善子「………」


ミンミンミンミンミン ジリジリジリジリ


絵里(蝉が沈黙を嫌って辺りを漂う何とも言えない空気に唄を混ぜ始めた。元はといえば始める気の無かったこの戦争も、何故か今では自分から始めた気になってしまっているくらいに心が戦いで沁み渡っていた)


絵里(造られた命は果たして命であったのか)


絵里(きっと世の中がもっと平等であったら私もこんなこと思わずに済んだのに、どうして私はこんなことを考えてるのかしら)

絵里「………」

絵里(鞠莉————どうしてあなたは私たちを生んだの?私という心を持った存在を創れたというのならあなたにも私たちを見下す意味があるのでしょう?)

絵里(…分からないわね、鞠莉の考えてることが)


絵里(…いや、鞠莉の全てが分からない)

422 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 23:00:47.08 ID:7iMNu1YO0
善子「…まだ気にしてるの?」

絵里「何の話?」

善子「とぼけないでよ、真姫のことよ」

絵里「…お互い様でしょ」

善子「ルビィは……仕方ないじゃない、真姫とは訳が違うんだから」

絵里「…そうね、真姫がルビィと同じであったらきっと私も善子と同じだったと思う」

絵里(ルビィと真姫は違って、私と善子もまた違う存在だった。そしてそれはAかBかの平等的な違いではなくて1か10かの優劣のある違いだった)

善子「…絵里は真姫に何をした?」

絵里「命を助けたわ」

善子「…そう、だけど真姫にとってはそれ以上の事がいくつもあった」

善子「絵里が気にしてるのは、五年前のことでしょ?」

絵里「…ええ」
423 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 23:03:50.22 ID:7iMNu1YO0
善子「……アンドロイドには理解出来ない心よね」


善子「恋心って」


絵里「…ちょっと違うかしら、理解出来ないんじゃないわ、私たちはそもそも恋愛というモノを知らないの」

絵里「恋愛をしたことがないから恋愛がどういうモノか学習が出来ない、恋愛が見て学べるモノであるなら私たちは恋愛を知ってるはずだし、恋愛っていうのはきっと複雑なモノなんだと思う」

絵里「……だからこそ、あの時はこう返すしかなかったでしょ?」



絵里「私は真姫に興味がない、と」



善子「……うん、間違ってない。けど、言い方は間違ってる」

絵里「…それは今なら私でも思う、だから気にしてるのよ」

善子「気負う必要はないと思うわ、私たちは恋愛というモノを知らないんだもの。真姫に対して好きという感情が無ければ興味も沸くはずがない」
424 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 23:05:56.48 ID:7iMNu1YO0
絵里「……昔、小説で読んだわ。恋愛とは異なる性を持った者がし合う愛情表現の連なりと」

絵里「私と真姫は異なる性を持ってたのかしら?」

善子「……残念だけど同じ性ね、だって絵里は女なんだから」

絵里「…そうよね、私もそう思う」

善子「だからそういう視点から見ても絵里のその言葉は正しかった、女が女を好きになるのはもしかしたらあり得ないことではないのかもしれない」

善子「けど少なくとも男女がやるべき行為であるのは確かなはず、それはバトル漫画を見てる時に学んだから」

絵里「…ことりや果南が見てた恋愛モノも表紙は確か男女だったしね」

善子「ええ」

絵里「それから真姫、だいぶ控えめになったなって感じるの」

絵里「滅多に感情的にならないしいつも冷静でクールになったわ、それは劇的に変わったって程でもないけど変わったことを違和として感じることが出来るくらいには変わった」

絵里「だからもしかしたら…いやもしかしたらでもなく今でもあの時の事気にしてるんじゃないかしらって真姫と私の過去を問われると思うの」

絵里「私としては封印したい記憶だけど、それを封印したら真姫に失礼な気がしてね」

善子「…多分今でも気にしてると思うわ、だって過去は絶対に消えないモノなんだから」

絵里「…ええ、そうよね」
425 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 23:07:41.92 ID:7iMNu1YO0
絵里「………」

善子「………」


カタッ


絵里「!」

花丸「ずらっ…ごめんなさい、なんか重い話で入りづらくてどうしようって思って…」

絵里「そ、そう…ごめんなさいね、こんな話をしてて」

花丸「い、いえ…」

絵里「どうしてここ?真姫の図書室に行ったんじゃないの?」

花丸「あ、はい。行ったんですけどあそこで本を読むには少し暑すぎて…だからここで読もうかと思って…」

絵里「あぁなるほど…クーラーあるから勝手につけてもよかったのに」

花丸「い、いえマルにもちゃんと礼儀ってモノがありますから」

絵里「そ、そう」
426 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 23:08:27.65 ID:7iMNu1YO0
善子「…聞いたのよね?」

花丸「え?」

善子「絵里と真姫の過去のこと、聞いたのよね?」

花丸「えっ…あ、は、はい……」

絵里「…気にしないでね?でも、誰にも言わないであげて?」

花丸「も、もちろんずら!」

善子「いや、この際聞かれたことに関してはどうでもいいわ。私が花丸さんに言いたいのはただ一つ」


善子「同性に告白をする真姫をどう思うか、それよ」


善子「私たちはアンドロイド、でも花丸さんは人間よ」

善子「だから人間としての意見が聞きたい」

絵里「ちょ、ちょっと善子…」

花丸「い、いえ絵里さん、答えさせてください」

絵里「え、いいの?」

花丸「はいっ」
427 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 23:12:15.51 ID:7iMNu1YO0
善子「………」

花丸「マルは…別に良いと思う……ずら」

花丸「せつ菜ちゃんもこういう漫画は大好きだったし、真姫さんは間違ったことをしてるわけではないと思います」

花丸「だけど、珍しくて一般的に受け入れ難いモノであるのもまた事実」


花丸「女が女を好きになるというイレギュラーを弁えて絵里さんに告白した真姫さんは、振られたことで今までにないダメージを負った」


花丸「人間もアンドロイドと同じで学習する生き物だからその時の真姫さんはきっと初めて失恋を体験した」

花丸「だからどうやったってもその時の記憶を消すのは無理…だけど、絵里さんのしてることは間違ってはないずら」

花丸「好きでもない人に好きっていう行為こそ恋愛への冒涜だし、きっと絵里さんはそこで恋愛を知ることで狂うモノがいくつもあったと思うから…」

花丸「マルは…絵里さんのファンクラブの存在も知ってたからそのままの絵里さんでいてほしいずら」

花丸「あの希ちゃんでさえ…絵里さんの事を色々気にかけてたくらいなんだからそのカッコよさは維持するべきモノだと思う」

絵里「…そう、ありがとう」

花丸「このくらい全然ずら!」

絵里「……やっぱり真姫は気にしてるのね」

花丸「…はい、それはもう確実に」

絵里「…そう」
428 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 23:16:09.71 ID:7iMNu1YO0
善子「……何かしようと思ってる?」

絵里「いや、そういうことは考えてない」

絵里「ただ…曜と戦って帰ってきた時に電話で泣いてくれた時は嬉しかったなって……」

善子「嬉しい?」

絵里「さっきもいったけど、真姫は滅多に感情的にならないからそんな真姫が私の為に涙まで流してくれて嬉しくて…」

花丸「…素敵なことだと思う、真姫さんは昔の事を気にしながらも今の絵里さんの事を真摯に受け止めて真っ直ぐに立ち向かおうとしてる証拠ずら」

絵里「…なら、いいんだけどね」

花丸「きっと…ううん、もう確実にそうずら!」

絵里「……ふふふっありがとう」

花丸「えへへ…」

絵里(私と真姫の過去は複雑なモノだった)

絵里(五年前に突然告白をされて、私は少し考えてからあのような発言をして真姫を振った)

絵里(当時から今に至るまで恋愛というモノがよく分からなかったけど、私の稚拙な知識と考えでも同性である相手から告白をされるというのは何かがおかしいというのは分かっていた)

絵里(それにきっと告白っていうのはデリケートな問題なんだと思う、もしそうでないのならわざわざ人気のない帰り道なんて貧相でつまらない場所を告白の場所にするはずがない)

絵里(だからこれは真姫と私の問題だと思って胸の内に秘めておいた。最も善子には知られちゃったけどね)

絵里(でも、そんな過去を解き放てば花丸さんが答えに等しいモノをくれた。それを聞いて今まで頭にあったモヤモヤが消えた、そして気が楽になった)


絵里(だからもっと真姫の事を大切にしなきゃ、そう思うばかりだった)

429 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 23:24:14.97 ID:7iMNu1YO0
〜???

鞠莉「……とうとう動き出しちゃったのね、政府が」

海未「この際私たちは他のアンドロイドには目もくれずに絢瀬絵里たちを全力で殺しに行きます、いいですか?」

鞠莉「別に構わないわ」

鞠莉「いつかこうして大きな力を持ったアンドロイドたちが結託して反乱を起こすとは思ってたけど、案外早いものね」

海未「AIというものは常に人間の理解の範囲を超えている未知の存在です、人工的とはいえ心というモノを創れたのならそれはもはや天然と瓜二つの人の心なのです」

海未「アンドロイドがあなたの事を不服に思うのなら反乱を起こしても不思議ではないでしょう」

鞠莉「…ええ、そうね」
430 : ◆iEoVz.17Z2 [sage saga]:2019/09/29(日) 23:27:19.98 ID:7iMNu1YO0
鞠莉「ねえ、海未に聞きたいことがあるの」

海未「なんですか?」

鞠莉「希が死んだらしいけど、希の下にいた穂乃果とせつ菜を知らない?」

海未「知りませんけどおそらくは絢瀬絵里のところにいるでしょう」

海未「というか希をご存じで?」

鞠莉「ええ、だって希はアンドロイド制作においてアンドロイドの心を創った人なのよ?そりゃあ知ってるわよ」

海未「こ、心!?そんな人だったのですか!?」

鞠莉「希は心が広くて寛容だったわ、だからほぼ全てのアンドロイドの性格を優しく作った。だけどそこで勝手に生まれたのが猜疑心と敵愾心だった」

鞠莉「元々ね、私や希が当初作ったアンドロイドは平和を望むアンドロイドだったのよ。戦いは好きじゃないし運動神経もほとんどない臆病なアンドロイド、だけど優しくて人一倍感受性に長けた寛容なアンドロイド」


鞠莉「でも、結果は違った」


鞠莉「私から見てアンドロイドは人間と全く同じだけど、されどアンドロイドは造られた命。機械仕掛けのその体と心は勝手に進化を遂げて新たな感情を作り出した」

鞠莉「AIというアンドロイドなら誰しもが持ってるその心で自ら運動神経を作り上げて、気に入らない相手に対抗する手段を作り上げた」

鞠莉「ねぇ、なんで対アンドロイド特殊部隊が女しかいないか分かる?」

海未「…分かりませんね」
431 : ◆iEoVz.17Z2 [saga]:2019/09/29(日) 23:30:51.94 ID:7iMNu1YO0
鞠莉「アンドロイドは頭が良すぎるのよ、何を見て学んだのかは知らないけどもう処分されてる初期型の獰猛なアンドロイドはハニートラップってやつで戦闘慣れした男共を何百人と殺害してったの」

海未「…!なるほどだから…!」

鞠莉「そう、だから対アンドロイド特殊部隊は女しかいないの」

鞠莉「…それからアンドロイドは私の意図しなかった方向へ発展していった」

海未「………」

鞠莉「ごめんなさい、話が逸れたわね」

海未「い、いえ」

鞠莉「話を戻すけど、穂乃果とせつ菜はいくら戦闘の鬼とはいえ腐っても業務用アンドロイドよ、それは主がいないと生きていけないアンドロイド」

鞠莉「しかしあの二人は全アンドロイドの中でもかなりプライドが高いアンドロイドよ、主が死んで、そう易々と主をとっかえるほどあの二人は薄情じゃないわ」

鞠莉「……だからあの二人は今フリーである可能性が高い」


鞠莉「私から提案するなら、今はそっちをspotした方が後々有利に立ち回れるかもしれないわ」


海未「ふむ…なるほど、分かりました。少し検討してみます」

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