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【ミリマス】1日プロデューサー体験〜密着50×24時!壮絶なる戦いの日々〜
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1 :
◆ncieeeEKk6
[sage saga]:2019/09/20(金) 22:39:24.22 ID:TeqHcU600
ミリマスの入れ替わりモノ。
キャラ崩壊、Pラブ要素などに注意。
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1568986763
2 :
◆ncieeeEKk6
[sage saga]:2019/09/20(金) 22:42:20.01 ID:TeqHcU600
1.ねえ叶えたいんだMy Heart
「知らない天井だ」
まず、自分の家の天井と今見ているそれが違うとわかる程度に俺が普段から天井に意識を向けていたことに驚いた。さらに、呟いた声がキュートな女の子のものだったことにもびっくりだ。とある芸能事務所でプロデューサーをしている俺は、20代も半ばの立派な成人男性だった。年相応かつ性別相応の声の持ち主でもある。キュートな声が出る声帯なんてないし、部屋だってこんなにガーリーじゃない。
「まさか……」
この声には聞き覚えがある。「ない」なんて言えばステーキを何切れ奢らされることになるかわからない。それほど、俺と声の持ち主は密接な関係にあった。
さっきは「知らない天井」と言ったが、実のところ俺はこの天井を(うっすらと)知っている。声の持ち主が風邪を引いたとき、お見舞いをするために上がらせてもらったことがあるのだ。
確信に近い感情を抱いて、枕元にあったスマホをのぞき込むと。
「やっぱり!」
真っ暗な画面に、俺の担当アイドルの1人、伊吹翼の顔が反射していた。
3 :
◆ncieeeEKk6
[sage saga]:2019/09/20(金) 22:43:16.84 ID:TeqHcU600
単純に考えれば、俺の精神が翼の体に入ってしまっていることになる。そんな状況ありえない。ありえないのだが、俺の脳裏には昨夜美咲さんから届いたメールの内容が浮かび上がっていた。
「プロデューサーさんへ。明日から50日間、『1日プロデューサー体験』期間が始まります! プロデューサーさんと入れ替わるアイドルの日程表を添付しますから、事前に確認しておいてくださいね!」
衣装の作りすぎでとうとう頭がおかしくなったと思っていたが、これが真実だとすると現状を説明できるのだから恐ろしい。つまり俺の体には翼の精神が乗り移っているということで……。
考えるのは後だ。とりあえず劇場に向かおう。今日は土曜日だが、俺も翼も仕事がある。
4 :
◆ncieeeEKk6
[sage saga]:2019/09/20(金) 22:44:15.71 ID:TeqHcU600
※
「プロ……翼、とってもよかったぞ!」
悲しいことに仕事というのはグラビア撮影だった。テーマは「伊吹翼とドキドキ夏デート」。白いワンピースに身を包んだ俺は、レンズを恋人だと思って手を振ったり笑いかけたりしたわけだ。恥ずかしかった。誰だこんな仕事持ってきたやつは。俺か。
そして目の前にいる男。そう、俺だ。正確には翼インザ俺だ。さっきからずっとニコニコしている。自分の笑顔というのは見ていてあまり気分のいいものではないのでやめてほしい。
「なあ翼、これはどういうことだ?」
「今のわたしはプロデューサーさんでーす♪」
「ねえプロデューサーさん、これってどういうことなんですか〜?」
「どういうこともなにも、『1日プロデューサー体験』ですよ?」
「俺はそんな話、まっっったく聞いてないからな」
「プロデューサーさん、話し方が……」
「いいよ別にお前は俺のフリしてないんだから!」
何が悲しくて成人男性が女子中学生の口調を再現せねばならんのだ。
5 :
◆ncieeeEKk6
[sage saga]:2019/09/20(金) 22:45:02.90 ID:TeqHcU600
「だいたい、どうやって入れ替わりなんて現象を起こしたんだ?」
「黒魔術です」
「kuromajutsu?」
「えーっと、まず劇場に落ちてたプロデューサーさんの髪の毛を集めて〜」
「あっ。やっぱり言わなくていいです。聞きたくないです」
「その髪の毛を飲み込ん──」
「聞きたくないって言ってるだろ!」
思わず大声が出てしまった。おそるおそる周囲をうかがうと、撤収作業中のスタッフたちが何事かとこちらを見ている。まずい。今の俺は俺じゃなくて翼だということを忘れていた。
「よし、話は劇場でしようじゃないか」
そこなら邪魔は入らないし、他のアイドルから話を聞けるかもしれない。一石二鳥だ。聞きたいことと言いたいことは山ほどあるのだから。
6 :
◆ncieeeEKk6
[sage saga]:2019/09/20(金) 22:45:59.47 ID:TeqHcU600
「ほら翼、帰る準備を」
するんだ。そう言い切らないうちに、俺(翼)の腕が翼(俺)の肩を掴んでいた。……状況を説明するのがややこしいので、名前の呼び方は肉体ではなく心を参照することにする。
翼は俺の肩を掴んで、言った。
「翼、ご褒美にデートに連れてってやるぞ!」
「なにぃーっ!?」
今の翼の見た目は俺だ。周りにいるスタッフからは、俺が翼をデートに誘っているようにしか見えないだろう。そう思われるのは非常にまずい。主に俺の世間体が。
「おい翼、どういうつもりだ? 今の状況わかってるよな? いつも通りのことでも妙な誤解を招くことになるんだぞ?」
「プロデューサーさんこそ、状況がわかってないんじゃないんですか〜?」
「え?」
7 :
◆ncieeeEKk6
[sage saga]:2019/09/20(金) 22:46:44.34 ID:TeqHcU600
「今のプロデューサーさんはわたしなんだから、わたしみたいなことをしないと……ほら」
翼が指を差した方向で、スタッフがひそひそ話をしている。
「翼ちゃん、プロデューサーさんがデートに誘ったのに、あんまり乗り気じゃなさそうだな……」
「ていうか珍しいな。プロデューサーさんが自分からデートに誘うなんて……」
「まさかあの2人、入れ替わってるんじゃ……」
なんでそんなに発想が柔軟なんだよ!
「入れ替わってること、ばれちゃうかも?」
「ぐ、ぐぐ……」
翼の言う通りだ。アイドルの体に男の心が入っているだなんて、発覚したらスキャンダルになりかねない。しかも黒魔術を使っているのが特にまずい。黒いし。
今の俺に残された道は、伊吹翼として自然に振る舞うことだけのようだ。
「……いいんですか〜? わーい! デート! デート!」
「お、翼ちゃんすごく喜んでる」
「じゃあ入れ替わってなかったんだな」
騙されるなよ。
8 :
◆ncieeeEKk6
[sage saga]:2019/09/20(金) 22:47:53.97 ID:TeqHcU600
※
俺たちは町に繰り出した。腕を組もうとしてくる翼の手を払いつつ、気になっていたことを聞いた。
「で、なんでこんなことをしたんだ?」
「わからないんですか?」
「まあな」
「じゃあ、答えを教えてあげますね。……えいっ!」
「ぎゃーーーーーっ!?!?!」
背中から右の脇腹にかけて、何かがまとわりつく感触がした。翼が手を回してきたのだ。必死に抵抗したが全く通用しなかった。男女の腕力の差はここまで如実に現れるものなのか。引きはがそうとしてもびくともしない。ちょっと怖い。
「わたしたちみんな、プロデューサーさんにしてほしいことがあるんですよ? でもプロデューサーさんはイジワルなので、あんまりお願い聞いてくれないじゃないですか〜。だから、わたしたちがプロデューサーさんになって、したいことをしようってことになったんです!」
と、可愛らしいことを言ってくれる翼。しかし悲しいかな。今の翼は俺だ。顔は俺の顔だし、声は俺の声だし、その他も全部俺だ。「女子中学生の口調で喋る自分」を見せつけられている形になっている。しかも自分に腰を抱かれている。きつい。
9 :
◆ncieeeEKk6
[sage saga]:2019/09/20(金) 22:48:51.33 ID:TeqHcU600
「っていうか、みんなのお願いは結構聞いてると思うけどな俺」
「まだまだ足りないもん!」
「次俺の顔と声で『もん!』とか言ったら連絡先消すからな」
……まあいいか。可愛いアイドルのささやかなお願いぐらい叶えなきゃプロデューサーの名が廃るというものだ。せめて1日くらいは付き合ってあげようじゃないか。
「あ、着きました〜」
「やっとか。ずいぶん歩いたよな」
歩いていたのは20分くらい。いつの間にか人通りも少なくなっている。こんなところに何の用があるのだろうか。
「プロデューサーさん、あそこ! あそこに行きましょう!」
そう言って翼が指差したのは──
10 :
◆ncieeeEKk6
[sage saga]:2019/09/20(金) 22:49:40.42 ID:TeqHcU600
「いや恋愛宿泊施設! 翼、あれ恋愛宿泊施設なんだけど!?」
「そうですよ?」
「そうですよ!?」
「プロデューサーさんと入ってみたかったんだ〜」
「あ、ちょっと!」
腰を抱かれたまま、ずるずると引っ張られる。押しても引いても叩いても翼は俺を離さない。それどころか。
「暴れる悪い子はこうだぞ!」
とか言ってお姫様だっこされてしまった。
「翼、おい! 翼! シャレにならないって! ちょっと! だ、ダメぇ〜〜〜〜〜!!!!」
そんなこんなで「1日プロデューサー体験」、すなわち俺の壮絶な戦いの日々が幕を開けたのである。
11 :
◆ncieeeEKk6
[sage saga]:2019/09/20(金) 22:50:12.57 ID:TeqHcU600
「ちなみに、なんで翼が一番最初だったんだ?」
「わたし、じゃんけん強いんですよ! チョキを出したら、みーんなパーだったんです」
「それはもうじゃんけん強いとかそういう話じゃなくなってくるだろ」
12 :
◆ncieeeEKk6
[sage saga]:2019/09/20(金) 22:53:34.66 ID:TeqHcU600
2.あなたを愛でイッパイにしたい!
「知らない天井だ」
俺の心は驚きではなく諦めが支配していた。ここ最近、目覚めたときに知ってる天井が目に入った試しがない。「1日プロデューサー体験」は今日で8日目。まだまだ序盤だが、そろそろ元の体が恋しくなってきた。
今日は美奈子の体にお邪魔している。予定ではオフということになっていて、昨日の打ち合わせでは彼女に「自由にしてもらっていいですよ!」と言われた。
自由と言われても休日の美奈子は実家の中華料理屋である「佐竹飯店」を手伝うことになっているはずだ。それを俺が勝手にさぼるわけにもいかないだろう。家族に怪しまれても困るし。
というわけで今日の俺は佐竹飯店の看板娘にならなければならない。そのために料理の手順を必死に覚えているところだ。開店は朝の10時。美奈子のノートにわかりやすくまとめられてはいるが、完璧に覚えるのは多分無理。俺自身の少ない料理の経験と、体に刻まれた記憶に頼ることになりそうだ。
13 :
◆ncieeeEKk6
[sage saga]:2019/09/20(金) 22:54:57.00 ID:TeqHcU600
「顔でも洗うか……」
青椒肉絲のページを読み終わったところで脳が休憩を要求してきた。起床から勉強漬けで、もう2時間になる。身だしなみも整えないと看板娘にはなれない。俺は洗面所に向かった。ちょっと道(?)に迷った。
美奈子の顔は見慣れたものだが、自分のものとなると新鮮に感じる。髪を下ろしているのが原因かもしれない。
鏡に映るそんな姿を見て、邪な心がふつふつと湧き上がってきた。同時に罪悪感も生まれたが、すぐに消えた。そうだ、遠慮なんて必要ない。この体は俺の物なのだから。
というわけで好き放題ヘアアレンジを楽しませてもらった。写真もばっちり撮った。美奈子に限った話ではないが、みんなもっといろんな髪型に挑戦してくれればいいのに。いつだったか桃子と美也がおそろいの髪型にしてたやつ、あれはほんとにかわい──
14 :
◆ncieeeEKk6
[sage saga]:2019/09/20(金) 22:55:44.66 ID:TeqHcU600
「美奈子ー?」
おっと、お母さんが呼んでいる。もうこんな時間か。結局レシピはあんまり覚えられなかった。ヤバい。
今日はこれまでとは別ベクトルで大変な日になる。そんな予感を抱いて厨房に入った俺の目に、カウンター席でドカ食いしている男の姿が飛び込んできた。
15 :
◆ncieeeEKk6
[sage saga]:2019/09/20(金) 22:56:20.59 ID:TeqHcU600
俺だった。
16 :
◆ncieeeEKk6
[sage saga]:2019/09/20(金) 22:57:53.04 ID:TeqHcU600
「いや何してんの!?」
正確に言えば俺の体、つまり美奈子だ。一心不乱に料理を貪っている。話を聞こうと服を引っ張るが、全然気付いてくれない。仕方がないので料理の方を動かすことにした。豚になる直前の千尋の両親かお前は。
「聞け!!」
「……ん? わっ、すごい! 私がいる!」
「テンプレなリアクションどうもありがとう」
じゃなくて。
「美奈子、俺の体で何してるんだ?」
「はい! せっかくプロデューサーさんになれたので、今日は限界までカロリーを蓄えようと思って!」
「無駄だよ! たかが1日で人間が太れるわけないだろ!」
「無駄にはなりません、カロリーは裏切らないので! それにプロデューサーさんの胃袋の限界も調査できますし」
え、こわ。
だが来てくれたのはありがたい。美奈子が手伝ってくれれば俺の穴を埋めることができる。店に迷惑をかけることもないに違いない。
17 :
◆ncieeeEKk6
[sage saga]:2019/09/20(金) 22:58:34.04 ID:TeqHcU600
「頼む美奈子。厨房の仕事を手伝ってくれないか? 情けないけど、やっていける自信がないんだ」
「うーん……。そうしたいのは山々なんですけど、今の私は1人の体じゃないんですよね。動いたらせっかくのカロリーが逃げちゃう……」
「気にすんなそんなこと。俺が許可するから、な?」
「でも、カロリーを逃がさないためにここまでタクシーで来たんですよ?」
「え、タクシー?」
えっと、俺のマンションからここまでだと……おっと、結構なお値段になるのでは?
いや、それ以前にだ。目の前にあるこの大量の料理っておいくら?
18 :
◆ncieeeEKk6
[sage saga]:2019/09/20(金) 22:59:27.63 ID:TeqHcU600
「なあ美奈子、タクシー代とご飯代、誰の財布から出てると思う?」
「もちろん返しますよ! 私の口座から好きなだけ持っていってくださいね!」
「なんでそんなに気前がいいの?」
「だって、私のお金は実質プロデューサーさんのお金みたいなものじゃないですか〜」
「実質ほど信用できない言葉を俺は知らないけどな」
実質無料とか。
「暗証番号は0910、ですよ」
「なんで俺の誕生日……いや、なんかもういいや」
つついたら藪からとんでもない大蛇が出てきそうな気がする。
「って、話が逸れてるな。美奈子、俺を助けてくれ。頼む、この通りだ! なんでも言うことを聞くからさ!」
「……わかりました! 後はドーンと任せてくださいね!」
19 :
◆ncieeeEKk6
[sage saga]:2019/09/20(金) 23:00:24.98 ID:TeqHcU600
※
「いや、プロデューサーさんすごいじゃないですか! こんなに料理ができるなら言ってくれればよかったのに!」
「おたくの美奈子ちゃんを預かっているんですから、これくらいは当然ですよ!」
「これなら佐竹飯店の将来も安泰ですな! ガハハ!」
「わっほ……ええ! 是非とも任せてください! このお店も、美奈子ちゃんのことも!」
みるみるうちに外堀が埋まっていく。口を挟む暇もない、お父さんと美奈子の会話。思うにこれは、全て美奈子の手の平の上だったのではないだろうか。
そもそも今日、美奈子はこの店に来る必要があったのか。カロリーを摂りたいなら、俺の部屋の冷蔵庫に残っていた食材を使えばよかった。料理によるカロリー消費を嫌ったなら出前を呼ぶという選択肢もあったはず。それでも美奈子が来たのは、この状況を作るためではないのか。
なんて、今はもう、考えても仕方のないことだが。
20 :
◆ncieeeEKk6
[sage saga]:2019/09/20(金) 23:01:15.51 ID:TeqHcU600
「よかったな美奈子! プロデューサーさんはお前との結婚を前向きに考えてくれているそうだ!」
「わ、わっほ〜い……」
「ん? あまり嬉しそうじゃないな。……まさか、中身が誰かと入れ替わってるんじゃ!」
だから、なんでそう発想が柔軟なんだ!
すっかりノリノリになったお父さんに気付かれないよう、ため息をつく。もうどうにでもなれといった感じだ。
「そうだ、プロデューサーさん。約束は『1日プロデューサー体験』期間が終わってからで!」
「なに、約束って」
「さっき『なんでも言うことを聞く』って言ってくれたじゃないですか! 忘れたとは言わせませんよ!」
「……お前、どこまで計算してたんだ?」
ハンカチで汗を拭く。仕事でせわしなく動き回ったにしては、ずいぶんと冷たい汗だった。
21 :
◆ncieeeEKk6
[sage saga]:2019/09/20(金) 23:02:24.62 ID:TeqHcU600
言い忘れてたけどアイドルの家族像を捏造してるので注意。
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