【BLEACH×ロンパV3】キーボ 「砕かれた先にある世界」【前編】

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287 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 00:30:17.86 ID:2rn8HxsRO



真宮寺(……まァ、そうした風に、障壁を破壊することなく、霊王宮とそれ以外の場所で物のやりとりをすることは、霊王様にしか不可能だしーーー)


真宮寺(ーーー可能だったとしても、霊王様の意志を伴わずにそれをやるのは許されないらしいけどネ……)




キーボ「………」

アンジー「………」



真宮寺「……アー、話題を瀞霊壁のことに戻すけど、その壁は、殺気石(せっきせき)という霊力を遮断する鉱物で作られていて、あらゆる攻撃を受け付けない」

真宮寺「それに加えて、瀞霊壁は切断面からも波動と呼ばれる強力な圧力が出ており、それがドーム上となって、遮魂膜と呼ばれるバリアを空地両方に形成している」

キーボ「バリア……」

真宮寺「……空や地中から侵入しようとすれば、遮魂膜によって防がれてしまう」

真宮寺「だから、瀞霊廷に入るには、東西南北四つの門から入るしかないんだけれどーーーそこには番人が一人ずつ存在し、敵が侵入できないよう立ち塞がっている」


288 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 00:32:08.71 ID:2rn8HxsRO



キーボ「……ちょっと待ってください、番人はそれぞれの門に一人だけしかいなんですか?」

真宮寺「そうだネ。基本的には一人一門だヨ」



キーボ「……大丈夫なんですか? それはーーー」

アンジー「……大丈夫だよー! 少なくとも、ジダンボウはすっごい強いからー!」



キーボ「……ジダンボウ? ひょっとして、門番の名前ですか?」

真宮寺「その通り、彼は、西の門、白道門(はくとうもん)を守護する人であり、門番なんだ」

真宮寺「そして、彼は、あのエグイサルよりも大きな体躯を誇っている」


289 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 00:36:11.82 ID:2rn8HxsRO



キーボ「……なっ、!? あのエグイサルよりも大きな体躯!? そんな人が実在するんですか!?」

真宮寺「言ったよネ? 霊子とは自由度が高く、現世の常識ではあり得ないような現象も起こし得る、って」

キーボ「………」

真宮寺「だから、鍛錬の結果、巨体になる人も稀に出てくるんだ」

キーボ「……そうなんですか」

真宮寺「その巨体故に、戦闘能力も非常に高い」

真宮寺「仮に、彼や他の門番が、生前の僕らと同じ場所にいれば……エグイサルなんて、どうとでもなったかもしれないネ」



アンジー「だから、一人だけでも、大丈夫なんだよー!」



キーボ「……なるほど、そういうことなら納得ですね」


290 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 00:41:53.46 ID:2rn8HxsRO



キーボ「ーーーしかし、教えて貰った限りでは、瀞霊廷とは、随分と恵まれた場所なんですね」

真宮寺「……確かに、その通りだネ」

アンジー「………」

キーボ「……流魂街の住民も、瀞霊廷の住民も、どちらも死者の魂でしょう? なのに、どうして、ここまで待遇に差があるのですか?」

真宮寺「……霊力ある魂魄は、物を食べる必要があるからネ。しっかりとした栄養補給が可能な生活環境が必要となる」

真宮寺「それに加えて、死神になれる素質を持つ貴重な存在となれば、こうなるのも無理はないのかもしれないヨ」

キーボ「………」

真宮寺「……死神は仕事の性質上、殉職率が高いし、霊力あるが故に、老化だってする」

真宮寺「身体が魂魄であるため、老化速度は現世で生きている人間よりも遥かに緩やかだけどーーー」



真宮寺「ーーーそれでも寿命はある」



真宮寺「それを考えれば、人材確保のためにも、霊力ある魂魄を瀞霊廷で守る必要があるんだろうネ」


291 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 00:43:33.16 ID:2rn8HxsRO



キーボ「……寿命って、それは具体的にどのくらいの長さなんですか?」



真宮寺「……個人差もあるから具体的には答えられないけどーーー」



真宮寺「ーーー少なくとも、二千年以上、生きていた人もいるという話だヨ」



キーボ「そ、そんなに!?」

アンジー「………」



真宮寺「ただ、この寿命はその気になれば無限に伸ばせるとは思うけどネ」



キーボ「なっーーー!?」

アンジー「………」



真宮寺「……死神には、様々な……霊術があってネ」



真宮寺「……中には、死んだ死神を……蘇らせる霊術……なんてのもあるくらいなんだ」


292 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 00:45:51.14 ID:2rn8HxsRO



キーボ「……し、死者を蘇らせるってーーー」



アンジー「………」



真宮寺「……死んだ死神の死体の何割かが残っていれば……蘇らせることは可能らしいヨ」

真宮寺「それを上手く用いれば、霊力ある全ての者達が、文字通り永遠を手にすることも可能なんじゃないかな?」



キーボ「………」



真宮寺「だけど、倫理的な問題などがあって、未だそれはできないでいる」


293 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 00:46:51.91 ID:2rn8HxsRO



キーボ「……倫理、ですか」



真宮寺「……そう、倫理の壁だヨ」



アンジー「………」



真宮寺「実際、さっき話した……蘇りの、霊術は、行使されていた時期はあったものの、今では禁術になっている」


294 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 00:50:57.34 ID:2rn8HxsRO



キーボ「……なぜ、禁止にしたのでしょうか?」

真宮寺「………」

キーボ「一時期は行使していたのに、今は禁止されていることには何か理由があるのでしょうか?」



真宮寺「……それには、いろいろな理由があるけれどーーー最大の理由としては、その霊術を……行使する必要がないからだネ」

真宮寺「この霊術が……開発され行使された当時は、どうしても人材不足を補わなくてはいけない事情があった。だから、緊急的に倫理は取り外され、行使が許された」

真宮寺「だけど、今ではそこまでして人材不足を補う必要はない。だから、倫理が復活し……蘇りの行使が許されなくなった」

アンジー「………」

真宮寺「……もし、尸魂界全体が実利のために、倫理を完全に廃するようになればーーー」



真宮寺「ーーー蘇りの……霊術は復活して、寿命はなくなるかもしれないネ……」



キーボ「………」


295 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 00:52:18.82 ID:2rn8HxsRO



キーボ「……逆に倫理を廃さなくても、二千年以上は生きていられるわけですね」



真宮寺「……人にもよるし、早い段階で殉職しなければの話ではあるけどネ……」



アンジー「………」


296 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 00:53:34.48 ID:2rn8HxsRO



キーボ「……しかし、どうにも、わかりませんね」

真宮寺「……何がだい?」

キーボ「……死者の、蘇り、なんてことが可能ならば、別のこともできるんじゃないですか?」

キーボ「たとえば、霊力を持たない人に霊力を与える、とかーーー」



真宮寺「………」

アンジー「………」



キーボ「ーーーそれなら、元々霊力を持っていない人であっても、瀞霊廷に住めるはずです」

キーボ「それに、霊力を与えることが、特に倫理に反するようにも思えません」

キーボ「そういったことを可能とする霊術は、存在しないのでしょうか?」


297 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 00:54:50.99 ID:2rn8HxsRO



真宮寺「ーーーあると思うヨ」

キーボ「!」

アンジー「………」

真宮寺「……実は死神は人間の魂魄に対し、死神の力を譲渡することが可能らしいんだ」

キーボ「力の、譲渡……?」

真宮寺「死神の力の譲渡とは、すなわち霊力の譲渡を意味する」

真宮寺「それが可能なら、人間の魂魄に霊力を与えることは、決して不可能ではないと思うヨ」

キーボ「だったらーーー」



真宮寺「ーーーだけど、そんなことはまず認められないだろうネ」


298 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 00:56:21.59 ID:2rn8HxsRO



キーボ「ーーーそれは、どうしてですか?」

真宮寺「二つ、大きな問題があるからだヨ」

キーボ「問題……?」



真宮寺「……一つ目の問題、それは、霊力ある魂魄は悪霊に襲われやすいということだ」

キーボ「悪霊……」

真宮寺「悪霊は自身の力を高めるために、霊力ある人間の魂魄を……その力を自らに取り込もうとする」

真宮寺「故に、霊力ある特別な魂魄は、積極的に襲われやすい傾向にある」

アンジー「………」

真宮寺「そう、霊力を与えるということは、与えられた魂魄が悪霊に危害を加えられる可能性を高めてしまうことを意味する」

真宮寺「だから、その人の安全を考慮するならば、霊力を与えることが必ずしも良いことであるとは言いきれないんだ」

キーボ「………」


299 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 00:58:05.96 ID:2rn8HxsRO



真宮寺「……そして、霊力を与える上での二つ目の問題だけどーーー」



真宮寺「ーーーそれは、人の輪廻転生を阻む結果を生むからだ」



キーボ「……?」



真宮寺「仮に、流魂街の全ての住民に霊力を与えて瀞霊廷に住まわせる……すなわち輪廻から逃がれることを許可したらどうなると思う?」



キーボ「……どうなるってーーー」



真宮寺「そうして、誰もが瀞霊廷に住むことを選んで、生まれ変わりをしなければ、現世はどうなるだろうネ?」



キーボ「……あっーーー」



真宮寺「そうなれば、現世で人間が生まれなくなる」

真宮寺「現世において、人類が滅亡することになるんだヨ」


300 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 01:00:12.83 ID:2rn8HxsRO



キーボ「人類が、滅亡……」

真宮寺「……いや、その前に現世の魂魄の数が減少し、世界のバランスが崩れることになるかな」

キーボ「……世界のバランス、ですか?」

真宮寺「世界とは、天秤のようなものでネ」

真宮寺「尸魂界と現世に存在する魂魄の数が均等でなくなれば、少しずつ、天秤のようにバランスが崩れるんだ」

真宮寺「そうして相応の時間をかけて、バランスが完全に崩れたが最後、尸魂界と現世を隔てる次元の壁が破壊されーーー」



真宮寺「ーーー最終的には二つの世界が混じり合ってしまう」



キーボ「………」

アンジー「………」



真宮寺「……死と生の入り混じる混沌、どんな混乱と被害が起きるか想像もつかない」

真宮寺「それだけは、絶対に避けなければならない」

真宮寺「そういった問題がある以上、人間の魂魄に霊力を与える行為は、まず認められないだろうネ」

真宮寺「事実、僕が言った理由もあって、人間に死神の力を譲渡する行為は、掟で固く禁じられているんだ」



キーボ「なるほど……」


301 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 01:25:17.97 ID:2rn8HxsRO



真宮寺「ーーーとまァ、以上が流魂街と瀞霊廷の詳細となるわけだけど、何か質問はあるかい?」



キーボ「ーーーそれでしたら、二つ、聞いても良いですか?」



真宮寺「ーーー何かな?」



キーボ「まず、一つ目ですがーーーー」


302 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 01:26:25.84 ID:2rn8HxsRO



キーボ「ーーー生まれ変わりは大体どのくらいまで待つことになりますか?」



アンジー「………」

真宮寺「………」



キーボ「……現世で亡くなって、この尸魂界に来たら、すぐに生まれ変わるということもあるのでしょうか?」

キーボ「その辺り、とても気になるのですがーーー」



真宮寺「ーーー転生に関しては、大体、六十年くらいを目安にしているようだヨ」

真宮寺「尸魂界に来て、六十年が経過すれば、転生するという風に言われている」



キーボ「……六十年ーーーならば、ボクらはまだまだ大丈夫そうですね」


303 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 01:29:46.58 ID:2rn8HxsRO



真宮寺「……そうとも限らないヨ」



キーボ「……えっ、?」

アンジー「………」



真宮寺「確かに普通に考えれば、尸魂界に来たばかりの僕らは、転生まで充分な時間があることになる」

真宮寺「だけど、それは特に異常がなかった場合の話だ」



キーボ「異常……」



真宮寺「たとえば、現世の人間の出生率が増加すれば、必然的に生まれてくる人間の数も増える」

真宮寺「そうなると、現世に大量の魂魄を送る必要があるため、転生すべき魂魄は増えるだろうネ」

真宮寺「そうしたことが繰り返された場合、僕達が転生する順は繰り上がることになるはずだヨ」



キーボ「……なるほど、確かにそうですね」

アンジー「………」


304 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 01:33:06.16 ID:2rn8HxsRO



キーボ「……二つ目の質問に移りますが、ロボットのボクでも生まれ変わりは行われるんですか?」



真宮寺「……おそらくはそうなると思うヨ?」



キーボ「……!」



真宮寺「生まれ変わりの際は、誰もが輪廻の輪を通過し、そこで精神や体質など魂魄に定着した情報が強く溶かされていく」

真宮寺「そうして、情報が形を保てず、限りなく白紙に近いものにまで薄れていき……魂魄は霊子レベルまで分解されることになる」

真宮寺「その後、霊子が集まり直して、新しい魂魄に再構築され、現世の人間として生まれ変わることになるんだ」



キーボ「………」

アンジー「………」



真宮寺「浦原さんの話によると、そうなった魂魄は、もう前の状態を保つことは不可能だそうだ」

真宮寺「だとすれば、君が輪廻の輪を通過した場合であっても、普通の新しい魂魄になって、人間に生まれ変わることになるはずだヨ」



キーボ「……なるほど、お答え頂きありがとうございました」


305 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 01:34:29.17 ID:2rn8HxsRO



真宮寺「……うん、もう夕飯の時間がかなり近づいていることしーーー以上で今日の分の説明は終了させて貰うヨ」

真宮寺「……聴いてくれて、ありがとう。キーボ君、夜長さん」

キーボ「いえ、こちらこそ、教えてくれて、ありがとうございます。真宮寺クン」

アンジー「……そうだねー! 今日もすごくて、楽しかったー! にゃはははー!」



アンジー「……また、一緒に聴こうねー! キーボ!」ダキッ

キーボ「はい! そうですね、アンジーさん!」

アンジー「………」ギュッ



真宮寺「………」



ーーーーーーーーーー


ーーーーーー


ーーーー

ーー


306 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 10:32:00.81 ID:2rn8HxsRO



ー(翌日)鰤清劇場・2日目ー



真宮寺「ーーー今日は、死神の仕事と彼らの持つ力についての説明をするヨ」

真宮寺「まァ、昨日と一昨日にも多少は説明したけれどーーーそこまで詳しく説明したわけではないからネ」

真宮寺「改めて聴くことで、きっと気になることも出てくると思う」

真宮寺「だから、ここで、改めて説明させて貰うヨ」

キーボ「……わかりました。お願いします」

アンジー「………」

真宮寺「それじゃあ、まずはおさらいとして、死神の仕事の基本から説明するネ」


307 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 10:34:56.07 ID:2rn8HxsRO



真宮寺「……死神の仕事、それは今の世界の形と秩序を守ることだネ」

真宮寺「尸魂界が国だとすれば、死神はそこの兵士」

真宮寺「尸魂界の住民による犯罪を取り締まって治安を維持したり、悪霊などといった霊的な敵から魂魄を守り通す存在だ」



真宮寺「また、そうして守り通した魂魄を、輪廻を用いて循環させ、尸魂界と現世の魂魄の数を均等にする存在でもある」

真宮寺「それを怠れば、世界のバランスが崩れ、尸魂界と現世が混じり合ってしまうからネ」

真宮寺「ここまでが基本事項ではあるけれど、何か気になったことはあるかな?」


308 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 10:40:05.40 ID:SvwlZ3SZO



キーボ「……あります」

真宮寺「何かな? 何でも構わないヨ」

キーボ「……もし、現世で出生率が増加した場合はどうやって二つの世界の魂魄を均等にするつもりなんでしょうか?」

アンジー「……あー、それは確かに、気になるねー」

キーボ「ええ、そうなってしまえば、現世で多くの人間が産まれることになります」

キーボ「そして、そのためには、尸魂界から現世の妊婦のもとへと多数の魂魄を送らざるを得なくなり、世界のバランスが崩れてしまうはずです」

キーボ「それなのに、いったいどうやって、それぞれの世界の魂魄の数を均等にーーー」



真宮寺「ーーーその場合は、現世とは異なる別の世界から尸魂界に魂魄を送り、バランスを保つことになるネ」



キーボ「……別の世界?」



真宮寺「実は、尸魂界と現世の他にも、虚圏(ウェコムンド)と呼ばれる、悪霊達が住まう別世界があってネ」

真宮寺「その悪霊達を、特殊な……霊術をもって誘き出し、無害な魂魄に昇華した上で尸魂界の説明会場まで送ってあげるのサ」

真宮寺「そうやって、別の魂魄が、世界のバランスを保つのに適した状態になるまで、送られてくる仕組みになっているヨ」



キーボ「……なるほど、そういうことでしたか……」


309 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 10:41:28.54 ID:SvwlZ3SZO



アンジー「……でもでも、逆に現世の人間の数が大きく減ったらどうするんだろうねー?」

キーボ「あっ、確かに、それも気になりますね……」

アンジー「でしょでしょー?」

真宮寺「……その場合は、流魂街に住む一定数の魂魄達が輪廻の輪を通り、生まれ変わることになるネ」

キーボ「? 生まれ変わる……?」

キーボ「ちょっと待ってください、輪廻の輪というのを通って現世の人間に生まれ変わろうにもーーーその人間の数が少なければ、おのずと生まれ変われる数も限られてくるはずです」

真宮寺「………」

キーボ「それでは、結局のところ、尸魂界に魂魄が残ってしまうのでは?」


310 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 10:44:10.02 ID:SvwlZ3SZO



真宮寺「……その辺りは大丈夫。輪廻の輪の中にある魂魄は、現世や尸魂界の魂魄の数に計上されないようになっているからネ」

キーボ「……そうなんですか?」

真宮寺「そうなんだヨ。だから現世の人間の数が大きく減少した場合は、流魂街の住民が大勢で輪廻の輪を通りーーー」



真宮寺「ーーーまっさらな魂魄の状態になった後、輪廻の輪の中で、生まれ変わりを待ち続けることになる」



アンジー「………」



真宮寺「そうして、世界のバランスを保つのサ」



キーボ「なるほど……」



真宮寺「……逆に現世の人間の出生率が増加すれば、それだけ生まれ変わり先が多くなり、生まれ変わりを待つ魂魄も減少するだろうネ」


311 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 12:03:58.98 ID:69+uW4bTO



真宮寺「ーーーそれで、ここまで説明した中で、何か気になったことはあるかい? あるなら答えるけど……」



キーボ「それでは、一つ」



アンジー「?」

真宮寺「……何かな?」



キーボ「死神は、魂魄が悪霊に変わる原因を断つことはしないんですか?」



アンジー「??」

真宮寺「……どういうことだい?」



キーボ「……それを言う前に確認しておきたいのですが、キミのいう悪霊とは【その人が】【生前あるいは死後に受けた】【理不尽な仕打ちによって】ーーー」



キーボ「ーーー【精神に悪影響を及ぼされ】【それによる変化をもたらされた魂魄】……のことを言うんですよね?」



真宮寺「………」



キーボ「そう、理不尽な仕打ちが、魂魄を悪霊に変える “ 条件 ” に組み込まれている」



キーボ「違い、ますか?」


312 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 12:05:41.51 ID:69+uW4bTO



真宮寺「……そうだネ」

真宮寺「ひょっとしたら他にも “ 条件 ” があるのかもしれないけどーーー死神の話によれば、【魂魄が悪霊に変わる原因は】【基本的に理不尽な仕打ちにある】とされている」



真宮寺「それは確かな事実だヨ」



キーボ「……お答え頂き、ありがとうございます」

キーボ「ただ、もし、キミの言う通りならば、魂魄が悪霊に変わる原因は明確に存在していることになります」

キーボ「ならば、その原因そのものを断つことはしないんですか?」



真宮寺「……あァ、そういうことかい」

アンジー「……なるほどねー」



キーボ「……具体的には、現世で起こる戦争や災害みたいな、それだけで理不尽に死者が発生するような何かを止めたりだとかーーー」



真宮寺「それは、ないネ」



キーボ「………」


313 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 12:09:11.99 ID:69+uW4bTO



真宮寺「……死神達は、人間を悪霊から一刻も早く守るためーーー時に、義骸(ぎがい)と呼ばれる仮の肉体に入り、現世で人間のように生活することもある」

真宮寺「また、霊的な存在が現世に与えた何かしらの混乱や問題を解決するため……記換神機で、人間の記憶を操作することだってある」



真宮寺「だけど、それ以上のことはしない」



真宮寺「そう、死神達は、霊的な存在が関わらない問題……すなわち現世での問題は可能な限り、現世で解決して貰うことを望んでいるしーーー」



真宮寺「ーーーそもそも、尸魂界にはいろいろな掟があってネ。それらによると、死神の現世での活動には、厳しい制限が課せられることになっている」



キーボ「………」


314 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 12:11:23.08 ID:69+uW4bTO



真宮寺「それらの掟は、誇りを重んじる大貴族が、現世で生きる人間達への敬意をもって作り上げたものという話だ」

真宮寺「そうした掟の存在もあって、死神が現世の問題にむやみやたらと干渉することは、非常に困難と言わざるを得ない」

真宮寺「だから、現世がどうなろうと、それこそ戦争や災害が起ころうと、世界のバランスに致命的な影響を与えない限りは、死神が関与することはない」



真宮寺「というか、そうでもなければ、現世は今ごろ死神によって支配されてしまっているヨ」



真宮寺「現世で生きる人間達に敬意を払うが故に、現世の問題は、可能な限り現世で解決して貰うことになっているのサ」



キーボ「……よくわかりました。ありがとうございます」



アンジー「………」


315 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 12:12:01.94 ID:69+uW4bTO



真宮寺「ーーー以上で、死神の仕事の説明を終えようと思うけど、他に質問はあるかい?」



キーボ「……いえ、ボクは特にありません」



アンジー「……アンジーも特にないよー」


316 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 14:03:38.79 ID:69+uW4bTO



真宮寺「それじゃあ、死神の仕事に関する説明はこの辺りにしてーーー今度は、死神の持つ力に関する説明をさせて貰うネ」



キーボ「………」



真宮寺「……死神の持つ力は、斬拳走鬼(ざんけんそうき)と言って、主に四種類に分類される」

真宮寺「まずは、斬拳走鬼の斬、斬魄刀(ざんぱくとう)についての説明をしようと思う」



キーボ「ザンパクトウ……?」

真宮寺「……簡単に言えば、刀だネ」



キーボ「……刀、ですか」

アンジー「………」



真宮寺「……ただの刀じゃあないヨ? それは、霊王様の守護を任されし死神が直々に製作した特殊な刀だ」

真宮寺「その刀には、持ち主となる死神の霊力を込めることができるしーーー」



真宮寺「ーーーそれに加えて、迷える魂を死後の世界に送ったり、悪霊を無害な魂魄に昇華する力がある」



キーボ「……なっ、刀でそれをしていたというんですか!?」



真宮寺「それを可能とするのが斬魄刀なのサ」


317 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 14:05:28.28 ID:69+uW4bTO



真宮寺「ーーーだけど、斬魄刀の機能は、決してそれだけじゃあないんだヨ」

キーボ「どういうことですか?」

真宮寺「斬魄刀には、固有の能力があるのサ」

キーボ「……はい?」

真宮寺「……たとえば、普通の形をした刀から……大鎌のような形状に変形したりーーー」



真宮寺「ーーー炎を生み出したり、氷を生み出したりと、斬魄刀ごとの固有能力があるってことサ」


318 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 14:08:31.23 ID:69+uW4bTO



キーボ「……変形したり、炎や氷を生み出せるくらいでは驚きません。刀で魂をどうこうできるのなら、そのくらいは可能でしょう」

真宮寺「………」

キーボ「……しかし、なぜ、そんな能力が必要なんですか? ザンパクトウは魂を死後の世界に送り届けるためのものではーーー」



真宮寺「……死神は悪霊と戦う必要があるんだヨ?」



キーボ「………」



真宮寺「悪霊に変わった魂魄は、どういうわけか怪物のような姿と化し、強大な霊力に目覚め……強力な霊術を扱えることもある」

真宮寺「それに、普通の形をした刀の状態では、一切ダメージを与えられない……特殊な防御能力を有していることだってある」

真宮寺「それを考えれば、固有能力があった方が、悪霊と戦闘する上で都合が良いはずだ」



キーボ「……まあ、それはそうでしょうが」



真宮寺「また、固有能力に目覚めると、その分だけ斬魄刀に込められる霊力の量も増える」

真宮寺「斬魄刀に込められた霊力が多ければ多いほど、単純な刀として破壊力も増していく傾向にある」

真宮寺「故に、悪霊との勝率を上げるためには、固有能力に目覚めていた方が都合が良いんだ」



アンジー「………」


319 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 14:09:54.61 ID:69+uW4bTO



真宮寺「……まァ、そうは言っても、固有能力に目覚めてる斬魄刀なんて、全体から見ればかなり少ないんだけどネ」

キーボ「少ないんですか?」

真宮寺「そうだヨ」

真宮寺「固有能力に目覚めさせるためには、斬魄刀の名前を知る必要があるからネ」

キーボ「名前?」

真宮寺「そう、斬魄刀には、刀一振りごとに固有の名前がある」

真宮寺「なお、その名前は二段階に分かれていてネ」

真宮寺「一段階目は、 “ 始解 ” と呼ばれる基本的な名前、二段階目は、 “ 卍解 ” と呼ばれる真の名前だ」

真宮寺「そうした名前を知ることによって、固有能力を解放し、引き出すことも可能となるのサ」



キーボ「………」


320 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 14:11:55.25 ID:69+uW4bTO



真宮寺「ただし、斬魄刀は、はじめは浅打(あさうち)と呼ばれる、魂魄を昇華して死後の世界に転送する以外は何の能力も持たない刀の状態になっているため、いきなり名前を知ることはできない」

真宮寺「だけど、持ち主である死神が、浅打と寝食を共にし、錬磨を重ねることによって、浅打はその死神の魂の精髄……思念などを写し取りーーー」



真宮寺「ーーー己が持つべきと判断した自我と固有能力を形作ろうとする」



キーボ「………」



真宮寺「そうして形作られた自我と固有能力を現すものこそが斬魄刀の名前であり、死神はそうした斬魄刀と “ 対話と同調 ” などを試みてーーー」



真宮寺「ーーーすなわち、コミュニケーションを試みて、自分の斬魄刀と向き合い、名前を教えて貰うことにより、固有能力を扱えるようになるんだヨ」


321 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 14:13:42.11 ID:69+uW4bTO



キーボ「………」



アンジー「……どうしたー、キーボ?」

真宮寺「……どうかしたのかい? もし、わかりづらい部分があったのならーーー」



キーボ「いえ、似てるなって思いまして」



真宮寺「ーーー似てる?」

キーボ「ええ、ボクと」



真宮寺「……まさか、斬魄刀がかい?」

キーボ「……そうは思いませんか?」



キーボ「鉄の身体を持ち、人と共に生きることを通して、なりたい自己を想い描き、それを目指す人工知能……」

キーボ「まさに、ロボット……ボクそのものじゃないですか」


322 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 15:46:08.73 ID:69+uW4bTO



アンジー「……あー、なるほどー! 確かに似てるかもねー!」

キーボ「でしょう?」

キーボ「もちろん、ザンパクトウがただの凶器であるならばこんなことは思わなかったかもしれませんがーーー真宮寺クンの話によれば、ザンパクトウとは一概に凶器とは呼べないものです」



キーボ「ならば、ボクはそれをーーー」



真宮寺「……ク、クク……」



キーボ「ーーーえ?」



真宮寺「ク、クク……ククク……!」



アンジー「……どうしたー? 是清ー?」



真宮寺「クククッ……ククククククッ……クククッッ、!!!」



キーボ「……真宮寺クン? どうかしたんですかーーー」



真宮寺「ーーーあァ、そうだヨ! 君の言う通りだヨ! キーボ君!」



キーボ「!?」



真宮寺「確かに、確かに似ているヨ!!」



真宮寺「君と斬魄刀は!!!」


323 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 15:56:58.32 ID:69+uW4bTO



キーボ「えっ、あっ……?」

アンジー「……あらら、是清、何かスイッチ入っちゃったみたいだねー」



真宮寺「ククク……まさか、そのことに君自らが気づくとはネ……!」



真宮寺「……心ある者は、いかなる存在であろうと、進化を遂げることができる!」

真宮寺「その実例が、目の前に、存在している!」



真宮寺「あァ、僕は、満たされている……!」


324 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 15:58:31.11 ID:69+uW4bTO



キーボ「……ボクが成長するロボットであると、認めてくれたことには感謝しましょう」

キーボ「ですが、そういったタイプの喜び方は、あまりして欲しくないですね」



真宮寺「……ククク、ごめんヨ。ちょっとエキサイトし過ぎたネ。もうしないヨ」



キーボ「………」



真宮寺「ーーーだけど、今の君なら気づけるんじゃないかな?」



キーボ「……何をですか?」



真宮寺「……君や斬魄刀に、心が与えられた理由を、ネ」


325 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 15:59:47.71 ID:69+uW4bTO



キーボ「……!?」

真宮寺「……斬魄刀もそうだけど、『物』というのは、その役目を機械的に果たすだけならば、心なんて必要がないんだヨ」

アンジー「………」



真宮寺「なのに、どうして、心が与えられたのか?」



キーボ「………」



真宮寺「……今の君なら気づけるはずだヨ?」


326 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 16:00:31.06 ID:69+uW4bTO



キーボ(……ボクやザンパクトウに心が与えられた理由?)




アンジー「………」




キーボ(……まさか、それってーーー)








キーボ「ーーー側にいる人に、希望を与えるため、ですか?」


327 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 16:03:02.70 ID:69+uW4bTO



真宮寺「ーーーその通りだヨ」

キーボ「!」

真宮寺「正解、大正解だヨ」

キーボ「………」

アンジー「………」

真宮寺「……『想い』を分かち合い、わかりあえるのは、心があるからだ」

真宮寺「心があるからこそ、その『想い』が、誰かの心にも伝わる」



真宮寺「希望だって、伝染させられる」



真宮寺「そうして、人が絶望に心を砕かれないよう、必死になって働きかける」

真宮寺「そのために、君や斬魄刀は、心を与えられた」



真宮寺「……少なくとも、僕は、そう考えているヨ」


328 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 16:04:08.61 ID:69+uW4bTO



真宮寺「……まァ、それが本当に正解であるかどうかは、君や斬魄刀の製作者と話をしてみないとわからないことだけどネ」

キーボ「………」

真宮寺「ただ、もし本当にそうだった場合、どこまで似ているか気になるところではあるネ?」

キーボ「……?」



真宮寺「ーーー斬魄刀には、生涯、従うべき主がいる」



キーボ「!?」



真宮寺「キーボ君には、従うべき主がいるのかな?」



アンジー「………」



真宮寺「その答えこそがーーーー」


329 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 16:04:48.54 ID:69+uW4bTO



キーボ「ーーーいないですよ」



真宮寺「………」

アンジー「………」



キーボ「ーーーボクは、存在している以上、製作者はいます」



キーボ「ですが、ボクに主なんて、いない」



キーボ「誰一人として……」


330 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 16:05:23.15 ID:69+uW4bTO



真宮寺「……そうかい」



キーボ「………」



アンジー「………」



真宮寺「なら、この話は、ここまでにしておくとするヨ……」


331 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 18:54:53.78 ID:69+uW4bTO



真宮寺「ーーーさて、次は、斬拳走鬼の拳、白打(はくだ)についての話に移させて貰うネ」

キーボ「………」

真宮寺「ちなみに白打というのは、死神特有の格闘術のことだヨ」



キーボ「……茶柱さんのネオ合気道みたいものですか?」

真宮寺「……僕は、彼女のネオ合気道についてそこまで詳しく知っているわけじゃないから、何とも言えないネ」

アンジー「………」



真宮寺「ただ、彼女も白打という格闘術には興味があるみたいでネ。死神になったら一通り修得するつもりらしいヨ」


332 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 18:57:05.72 ID:69+uW4bTO



キーボ「……茶柱さんが興味を惹くとはーーーそんなにすごい技があるんでしょうか?」

真宮寺「そうだネ。確かにすごい技がいくつもあるヨ」

キーボ「具体的には、どんな技があるんですか?」



真宮寺「ーーー僕が、もっとも目を引いたのが、 “ 千里通天掌 ” だネ」



キーボ「……せんりつうてんしょう……?」



真宮寺「この技は、その名の通り、手の平が纏う “ 気 ” を利用して、人を千里先まで飛ばす技なのサ」


333 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 18:58:27.28 ID:69+uW4bTO



キーボ「……せ、千里先!?」



キーボ「四千キロメートル近くもですか!?」



真宮寺「そうだネ」

アンジー「………」



キーボ「……そんな技までーーー」



真宮寺「ただ、この技は修得が限りなく難しいようでネ。修得できるかどうかは茶柱さん次第かな」


334 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 18:59:09.39 ID:69+uW4bTO



アンジー「……転子なら大丈夫だと思うよー?



キーボ「……アンジーさん?」



アンジー「主はきっと言いました……転子はすごい子だと……」



アンジー「そんなすごい転子は、守りたい女の子のためなら、どんなことだって成し遂げられると」


335 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 18:59:56.00 ID:69+uW4bTO



真宮寺「………」



キーボ「……そうですね。アンジーさんの言う通りです」



キーボ「茶柱さんなら、きっと大丈夫です! どんな技だって修得できますよ!」



アンジー「………」


336 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 19:09:49.08 ID:69+uW4bTO



真宮寺「ーーー次は、斬拳走鬼の走、歩法についての説明をさせて貰うヨ」

キーボ「歩き方まで……」

真宮寺「死神の歩法には、代表的なものとして、瞬歩(しゅんぽ)が挙げられる」

キーボ「……シュンポ?」

真宮寺「その名の通り、瞬間移動したかのようにハイスピードな歩法のことサ」

キーボ「……瞬間移動、ですか」

真宮寺「……厳密には、限りなく瞬間移動に近いハイスピード歩法なんだけどネ」

真宮寺「そして、そうした能力は、非常に有用だ」

真宮寺「……それがあれば、敵の背後に回って、死角から斬り伏せることだって可能だしーーー」



アンジー「………」



真宮寺「ーーー自分の仲間が、平時ではあり得ないくらいの大ピンチに追い込まれた場合であっても、瞬歩を駆使すれば、短い時間で駆けつけて助けることが可能となるのサ」


337 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 19:12:02.24 ID:69+uW4bTO



キーボ「……ゴン太クンならマスターできそうですね」

真宮寺「……そうだネ」

アンジー「……それに、ゴン太なら、それで体当たりしただけで、悪霊退散できそうだよねー!」

キーボ「……確かに、ゴン太クンの身体は、鉄製のボクも驚愕せざるを得ないくらいには頑強ですからね」

キーボ「あの身体で突進されたら、大概の相手はただでは済まないでしょう」

真宮寺「……そういった意味では、うかつに瞬間移動して味方に体当たりしてしまうと大変なことになる、諸刃の剣とも言えるわけだけどーーー」



真宮寺「ーーー彼は小さな虫が傷つかないように、細心の注意を払える人だ。それを思えば、味方に体当たりしないよう、注意を払うことだって可能だろうネ」



キーボ「……ええ、ゴン太クンならば、きっと大丈夫でしょう」


338 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 19:38:47.95 ID:69+uW4bTO



真宮寺「ーーーさて、それじゃあ劇場の締め括りに、斬拳走鬼の鬼、鬼道(きどう)についての説明に移させて貰うヨ」

キーボ「キドウ、ですか」

真宮寺「鬼道とは、わかりやすく言うなら、魔法みたいなものだヨ」



キーボ「……魔法?」



真宮寺「手を伸ばしてから詠唱……すなわち呪文を唱えた後に、その言霊(コトダマ)に対応した……霊術が手の平から発動される」

真宮寺「そうして、言霊を超常的な力に変換しているんだ」



真宮寺「まさに、魔法と呼ぶに相応しい力だヨ」


339 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 19:41:07.83 ID:69+uW4bTO



キーボ「……夢野さんが積極的に習いそうな技なんですね」



アンジー「……うーん、それはどうだろうねー?」



キーボ「? どういうことですか?」

アンジー「ちょっとねー? 技の名前やコトダマの感じが秘密子と合わない気がするんだー」

キーボ「感じが合わない……?」



真宮寺「……鬼道とは、技名や言霊の内容が和風気味でネ。夢野さんみたいな、西洋の魔法使いを参考にしている人に合うかは微妙なところだヨ」

キーボ「なるほど、確かにそれならば、夢野さんに合うかは判断しかねますね」

アンジー「………」


340 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 19:42:09.13 ID:69+uW4bTO



真宮寺「……夢野さんなら、むしろ、 “ 西 ” のーーー」



キーボ「……西?」



真宮寺「ーーーあァ、いや、何でもないヨ。気にしないで」



キーボ「……気にしないで、ってーーー」



真宮寺「いや、話しても良いヨ? ただ、話が脱線するし、長くなるからネ。とりあえず今は気にしないで貰えると助かるヨ」



キーボ「ーーーわかりました。それでは、今は気にしないようにしましょう」


341 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 19:43:14.79 ID:69+uW4bTO



キーボ「ーーーところで、呪文って具体的にどういったものがあるんですか?」

キーボ「とても興味があるのですが」

真宮寺「……僕が気に入った技とその詠唱は、この紙に書き留めてあるから、それを見てくれれば良いヨ」スッ

キーボ「ありがとうございます。それではさっそくーーー」パラパラパラッ…







キーボ「ーーー【滲み出す混濁の紋章】」


342 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 19:44:03.04 ID:69+uW4bTO



真宮寺「ーーーえっ、?」



アンジー「………」



キーボ「【不遜なる狂気の器】」



真宮寺「……ちょっと、キーボ君」



キーボ「【湧き上がり】【否定し】【痺れ】【瞬き】【眠りを妨げる】」



アンジー「……あのねー? キーボ、その技はーーー」



キーボ「【爬行する鉄の王女】【絶えず自壊する泥の人形】」



キーボ「【結合せよ】【反発せよ】」



キーボ「【地に満ち】【己の無力を知れ】!!」


343 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 19:45:22.89 ID:69+uW4bTO









キーボ「破道の九十【黒棺】!!!!」








344 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 19:46:17.55 ID:69+uW4bTO



シーン……



キーボ「ーーーって、何も起こらないじゃないですか!」



真宮寺「それはーーー」



アンジー「……キーボはしにがみじゃないからねー」



キーボ「えっ……?」



真宮寺「……これは死神の技だからネ」

真宮寺「死神の霊圧を持たなければ発動はできない」



アンジー「………」



真宮寺「死神でない者がそれを言ったところで、ただの言葉の羅列にしかならないヨ」


345 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 19:47:11.17 ID:69+uW4bTO



キーボ「そ、そうだったんですか……」

アンジー「……というか、もし、万が一、本当にすごい力が出たらどうするつもりだったのー?」



キーボ「あっーーー」



アンジー「アンジーたち、巻き込まれたかもよー?」

キーボ「す、すみません! アンジーさん! 真宮寺クン!」

キーボ「あの呪文を見たら、どういうわけか読みたい気持ちが溢れてつい……本当にすみません!」


346 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 19:48:36.41 ID:69+uW4bTO



アンジー「ーーーうんうん、ちゃんと謝れて偉いねー! アンジーは許すよー!」

真宮寺「まァ、中々に神秘的な言葉だからネ。魅了される気持ちはよくわかるヨ」



真宮寺「……とりあえず、これからは気をつけてネ?」



真宮寺「今回は何ともなかったから良いけどーーー不用意な言葉は人を悲しませる結果を生むこともあるからサ……」



キーボ「……はい、本当にすみませんでした! アンジーさん! 真宮寺クン!」


347 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 19:50:17.00 ID:69+uW4bTO



真宮寺「ーーー鬼道の説明に話を戻すけど、鬼道は番号が大きい程、その分、使用の際に霊力を消費するし、扱いも難しくなる傾向にある」

真宮寺「だから、さっきのような九十番代の鬼道を扱える人は、死神の中でも比較的少数になるだろうネ」



キーボ「………」



真宮寺「……また、鬼道は、斬魄刀に込められし霊力を、適した量と形で編み込んで発動することでーーー」



真宮寺「ーーー斬魄刀のように悪霊を無害な魂魄に昇華し、死後の世界に送ることも可能とされている」



真宮寺「……そうした技術が、編み出されている」



アンジー「………」



真宮寺「まァ、実際にそれが可能かどうかは、その鬼道を扱う死神の力量次第なんだけどネ」


348 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 19:51:57.11 ID:69+uW4bTO



真宮寺「……ちなみにさっきキーボ君が詠唱したものは “ 破道 ” と言って、主に攻撃に使う鬼道」

真宮寺「他にも攻撃の補助などに使うための “ 縛道 ” 、回復に特化した “ 回道 ” などが存在しているヨ」

キーボ「……勉強になります」

真宮寺「他の鬼道……縛道に関しても、詳しく説明をしたいところだけどーーー」



アンジー「ーーー是清ー? そろそろーーー」



真宮寺「ーーーわかっているヨ。夕飯までの時間も迫っているし、死神の仕事と死神が持つ力に関する説明も一通り終わった」

真宮寺「今日は、ここまで。ご静聴感謝するヨ」


349 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 19:52:49.40 ID:69+uW4bTO



キーボ「……わかりました。今日も、ありがとうございました! 真宮寺クン!」



アンジー「……アンジーも楽しかったよー!」



真宮寺「……ありがとう」



ーーーーーーーーーー


ーーーーーー


ーーーー


ーー



350 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 21:58:39.64 ID:69+uW4bTO



ー翌日・志波家の庭ー



キュッ……



キーボ(ーーーよし、これでボクの分の掃除とやり残した部分がないかの最終チェックが終わりました)



キーボ(しばらくしたら、アンジーさんと真宮寺クンの方も終わるでしょう)



キーボ(これから合流して、その後はーーー)キュルキュル






………………………………………………………………






銀城(……おい、見たか?)



351 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 21:59:53.22 ID:69+uW4bTO



月島(……うん、見たよ)


ギリコ(見てしまいましたな)


銀城(まさか、本当にロボットがいるとはな……)


ギリコ(存在自体は、岩鷲さんから聞いてはおりましたがーーー実際に見るとなると、流石に驚きを隠せませんな)


銀城(……月島、一応聞いておくが、幻覚や立体映像って線はーーー)


月島(それは無いよ、銀城)


月島(あのロボットには、過去の “ 厚み ” があるからね)




銀城(………)




月島(それも、他の全員と全く同じ、 “ 厚み ” が、ね)


352 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 22:01:58.99 ID:69+uW4bTO



銀城(……そうか)


ギリコ(確かに、月島さんが、そうした “ 厚み ” を認識できている以上、幻覚や立体映像の線は薄いと言わざるを得ませんな)


銀城(ああ、幻覚にしろ立体映像にしろ、 “ 厚み ” まで再現するとなると、それを月島レベルで認識できる奴でねえと不可能なはずだ)


銀城(だが、そんなものを認識できるのは、月島本人くらいのもんだ。それを考慮すれば、幻覚や立体映像の線は薄い)


銀城(……何はともあれ仕方ねえな。あのロボットは現実の存在って方向で話を進めてくしかーーー)






………………………………………………………………






キーボ「ーーーすみません、キミ達三人はどうして、そんなところに隠れているのですか?」


353 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 22:03:27.36 ID:69+uW4bTO



銀城「………」


月島(……この距離で聞こえるような、大きな声は出していなかったはずだけどね)


ギリコ(それに加えて、あの場所では、こちら側は死角となって見えないはず)


ギリコ(ふむ、どうやら、御姿だけではなく、聴力も人を外れているようですな)






………………………………………………………………






キーボ「……ロボット差別しているところすみませんが、何か御用でしたら、こちらまで来て返事をして頂けないでしょうか?」


354 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 22:04:23.01 ID:69+uW4bTO



銀城「……しゃあねえ、行くぞ、お前ら」

月島「………」

ギリコ「………」



スタスタ……



銀城「……あー、来たぞ、そのーーー」

キーボ「はじめまして、ボクはキーボと言います。見ての通り、ロボットをしていて、この志波家で住み込みで働いております」



月島「………」

ギリコ「………」



キーボ「……よろしければ、キミ達のお名前の方も教えて頂けますか?」


355 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 22:05:08.98 ID:69+uW4bTO



銀城「……俺は、銀城空吾」



月島「僕は、月島秀九郎」



ギリコ「私、沓澤ギリコと申します」



キーボ「銀城さんに、月島さんに、沓澤さんですね! ありがとうございます。ボクの記憶領域に記録しました!」


356 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 22:32:31.31 ID:69+uW4bTO



キーボ「ーーーところで、みなさん、こちらに何か御用でしょうか?」

キーボ「先ほどお聞きした内容によると、どうも岩鷲クンのお知り合いのようですが」



月島「……確かに、彼とは知り合いではあるけれどーーー別に大した用があって来たわけじゃないよ」

キーボ「大した用じゃ、ない?」

月島「ここにロボットがいると聞いてね。ちょっとばかり確かめたくなったのさ」

月島「食費のためのアルバイトも、ひと段落ついたことだしーーーそうして空いた時間を使って、なんとなくここに来た」



月島「ただ、それだけだよ」


357 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 22:33:23.57 ID:69+uW4bTO



キーボ「……なるほど、よくわかりました」



月島「………」



キーボ「……ただ、これだけは言っておきます」



月島「……何かな?」


358 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 22:34:00.45 ID:69+uW4bTO









キーボ「ーーーボクは、見世物ではありませんよ」








359 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 22:34:38.46 ID:69+uW4bTO



月島「………」



ギリコ「………」



銀城「………」



キーボ「………」


360 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 22:35:42.79 ID:69+uW4bTO



銀城「……悪かったな」

キーボ「………」

銀城「本当に、悪かった」



銀城「ーーー見世物にされんのは、気分の良い話じゃねえからな。多分それはロボットも同じなんだろうよ」

月島「………」



銀城「……お前も謝っとけ、月島」

月島「……そうだね。悪かったよ、キーボくん」

ギリコ「私からも謝罪させて頂きます。申し訳ありません」



キーボ「……いえ、気をつけて頂けるのなら、ボクはそれでーーーー」


361 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 22:36:43.20 ID:69+uW4bTO



銀城「……あー、詫びと言っちゃあ何だが、何かわからないことや困っていることがあれば何でも言ってくれ。応えてやるし、力になるぜ?」



キーボ「ーーーわかりました。それでは三つほど質問してもよろしいでしょうか?」



銀城「おう、なんだ?」



キーボ「まず、一つ目ですがーーーー」



月島「………」



キーボ「ーーーキミ達は、岩鷲クンや空鶴さん……この志波家の人達と、どのような関係にあるのでしょうか?」


362 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 22:37:45.10 ID:69+uW4bTO



銀城「……それはだな……」

ギリコ「……元居候、と言ったところですかな」



キーボ「……えっ、元居候ってーーー」



月島「………」



キーボ「ーーーということは、まさかキミ達が空鶴さん達の言っていたーーー」



銀城「そうだな。俺達三人が、お前が現在住んでいる家にかつて居候していた連中だ」

ギリコ「もう、何年も前の話になりますがね……」

月島「………」


363 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 22:38:42.67 ID:69+uW4bTO






キーボ(……まさか、ボクらの先輩に会うことになるとはーーー)






銀城「ーーーそれで、次の質問は何だ? 遠慮なく聞いてくれて構わねえぜ?」





364 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 22:39:26.66 ID:69+uW4bTO



キーボ「……それでは、二つ目の質問ですがーーー」



銀城「………」



キーボ「ーーー瀞霊廷の住み心地はどうですか?」



365 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 22:40:09.24 ID:69+uW4bTO



銀城「………」



月島「………」



ギリコ「………」


366 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 22:41:09.67 ID:69+uW4bTO



キーボ「……実は、ボクは現在、【パワーセンサー】という霊力ある存在を感知する装置を、この装甲の中に収納していましてね」



銀城「……何だと?」



キーボ「そうやって、誰かと一緒に掃除している最中は、お互いに現在どこにいるか、いつでも把握できるようにしているのですがーーー」



キーボ「ーーーそのおかげで、僕は、銀城さん達が霊力を持っていることがわかったんです」


367 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 22:42:01.17 ID:69+uW4bTO



キーボ「……霊力を持っているということは、瀞霊廷に住む資格があるということになります」



月島「………」

ギリコ「………」



キーボ「だからこそ、お聞きしたいのです」

キーボ「瀞霊廷の住み心地をーーー」



銀城「ーーー悪いが、そいつは無理だ」


368 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 22:42:46.28 ID:69+uW4bTO



キーボ「ーーーどうして、ですか?」



銀城「……簡単な話だ」

銀城「俺達は、瀞霊廷に住んでねえからだ」



キーボ「……えっ、?」



月島「だから、瀞霊廷の住み心地なんてものを、話しようがない」



月島「そういうことなんだよ」


369 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 22:43:46.82 ID:69+uW4bTO



キーボ「……どうして、霊力があるのに瀞霊廷に住まないんですか?」

銀城「ーーーこっちにも、いろいろあってな。多少の出入りだったり、食費のためのアルバイトをしに行ったりはできるが、住むわけにはいかねえんだ」

キーボ「………」

銀城「悪いが、その理由は言えねえ。察してくれると助かる」



キーボ「ーーーわかりました。それでは踏み込まないようにします」



銀城「……悪いな、本当に」



キーボ「いえ、誰にだって踏み込まれたくない部分はありますからね」

キーボ「それを考慮すれば、当然のことです」



月島「………」

ギリコ「………」


370 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 22:44:25.38 ID:69+uW4bTO



キーボ「……三つ目、最後の質問に移りますがーーー良いですか?」



銀城「ーーーああ、答えられる範囲で答えさせて貰うぜ」



キーボ「……それでは、お聞きしますがーーー」



月島「………」

ギリコ「………」



キーボ「ーーーなぜ、キミ達の服は、現代風なのでしょうか?」


371 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 22:45:11.15 ID:69+uW4bTO



月島「……ああ、そのこと」

キーボ「? ひょっとして、これも聞いたらいけませんでしたか?」

ギリコ「……いえ、このくらいならば、問題はありません。よくされる質問ですからな」

銀城「そうだな。とりあえず、わかりやすくざっくりと話させて貰うがーーーそれで良いか?」



キーボ「……ええ、お願いします」


372 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 22:46:08.98 ID:69+uW4bTO



銀城「……結論から言うとだな」

銀城「俺達のこの服は、現世から持ってきたものなんだ」

キーボ「え? でもーーー」

ギリコ「言いたいことはわかります。生前の服は現世から持っていくことはできません」

月島「普通なら、ね」



キーボ「………」



銀城「……逆に言えば、普通じゃない力があればできることでもある」



キーボ「普通じゃない、力……」



銀城「実は俺達は、生前、霊能力者じみたことをしていてな。その力のおかげで、この尸魂界に服を持ってこれちまったってわけだ」


373 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 22:47:19.26 ID:69+uW4bTO



キーボ「霊能力者……?」

銀城「ああ、霊力ってのは、大概の場合は死んで肉体の束縛を受けなくなってから目覚めるもんなんだがーーー中には生前の時点で持っている奴もいる」

キーボ「………」

銀城「その中でも、比較的 “ 器用 ” な奴は、俺達みたいに服を尸魂界に持っていくことができちまうんだ」

キーボ「……いや、ちょっと待ってください」

銀城「………」

キーボ「霊能力者だから服を持ってこれたとのことですがーーー霊力を持っていたとしても、死神学校で鍛えるか、悪霊に変わるなりしないと、超常能力を扱うことはできないんじゃないんですか?」

キーボ「少なくとも、【パワーセンサー】によれば、ボクも霊力を持っているようですが、だからと言って超常能力を扱えるような感覚はありません」

キーボ「なので、霊力を持っていても、 死神学校で鍛えたり、悪霊に変わるなりしないと、超常能力を扱えないものだとばかり思っていたのですが……」


374 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 22:48:36.12 ID:69+uW4bTO



銀城「ーーーまあ、普通はそうだな」



キーボ「……だとしたら、銀城さん達は、どうやって、 “ 器用 ” なことをしたんですか?」

キーボ「現世に死神になるための学校があるとは思えません」

キーボ「ならば、死神としての力だって手に入らないはずですし、その条件下で、 “ 器用 ” なことができるとも考えづらいです」

キーボ「……悪霊でもない限りは」



月島「………」

ギリコ「………」



キーボ「……銀城さん達は、いったい、どうやって、服をーーー」



銀城「……それはーーー」



ギリコ「ーーー霊力にも、いろいろな形があるのですよ」


375 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 22:49:57.15 ID:69+uW4bTO



キーボ「形?」

ギリコ「ええ、一口に霊力と言っても、いろいろな形があります」

ギリコ「悪霊にならずともーーー霊力の形次第で、できることも変わってくるのですよ」

月島「……そう、全ては霊力の形次第」

月島「形次第で僕らのように、現世から服を持ってくると言った、 “ 器用 ” な真似も可能となるのさ」



キーボ「………」



銀城「……もちろん、これはあくまでも特殊な事例だ」

銀城「普通の霊力持ちは、さっきお前が言った通り、悪霊に変わるか、死神の学校で鍛錬して磨き上げない限り、超常能力を扱ったりはできねえからな」

月島「そうだね、銀城。普通は生前に幽霊を見たり、話したりするくらいが良いところだろうね」

ギリコ「磨かれていない力では限界がある、ということですな」



銀城「……まあ、とりあえずは、俺達には普通とは違う霊力があって、そのおかげで生前の服を尸魂界に持ってこれちまった」

銀城「そう、考えてくれりゃあ良いさ」


376 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 22:51:00.97 ID:69+uW4bTO



キーボ(……なるほど、そういうことですか)




キーボ(……そういえば、銀城さん達は、さっき、過去の “ 厚み ” という言葉を発していたーーー)




キーボ(ーーーその時の彼らは、ボクを幻覚や立体映像と捉えていたようですし、 “ 厚み ” とはそれに関する専門用語か何かだと思って、あまり気にしていませんでしたがーーー)




キーボ(ーーーもしかしたら、その言葉こそが、彼らの霊力のーーーー)


377 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 22:51:55.00 ID:69+uW4bTO



キーボ「ーーーとりあえず、服を持って来れたのは霊力のおかげということは、よくわかりました。お答え頂き、本当にありがとうございます」



キーボ「ただーーー」



月島「ああ、流石に僕らの霊力がどういったものであるかは教えないよ?」



キーボ「………」



月島「誰がどこで、どんな方法で聞き耳を立てているかわからない以上、教えたが最後、それが広まって晒し者にされるかもしれない……」

銀城「………」

月島「……それは、僕らとしても望むところはないからね」



キーボ「ーーーわかりました。ならば、そこは聞かないことにします」



ギリコ「……こちらへの配慮、感謝します」


378 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 22:52:56.41 ID:69+uW4bTO



銀城「……とりあえず、質問には三つとも答えたが、これで大丈夫か?」

キーボ「……はい、大丈夫です」

キーボ「お答え頂き、本当にありがとうございました」

銀城「どういたしまして、だな」

ギリコ「……私からも、あなたの貴重なお時間を割いて頂き、本当に感謝します」

月島「………」

銀城「……それじゃあ、俺達は自宅に帰るぜ。邪魔したな、キーボ」

キーボ「あっ、はい、お元気でーーー」



銀城「ーーーと、その前に、だ」



キーボ「?」



銀城「帰る前に一つ、こっちから聞いても良いか?」



キーボ「ーーー何でしょうか?」



銀城「ーーーアンジー達と仲は良いのか?」


379 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 22:53:58.83 ID:69+uW4bTO



キーボ「ーーーキミは、アンジーさん達のことを知っているんですか?」



銀城「ああ、さっきも言ったが、何年か前は、この家で生活していたからな」



ギリコ「そうした繋がりから、いくらか彼女達と関わることがありましてな。あなたの存在についても聞いておりました」



月島「まあ、その君が尸魂界(こっち)に来るだなんて、この目で見るまで半信半疑だったけどね……」



キーボ「………」



銀城「ーーーで、どうなんだ? キーボ?」



銀城「アンジー達とは、仲良くやれてるのか?」


380 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 22:54:47.71 ID:69+uW4bTO



キーボ「ーーーそうですね。仲良くしていますよ」

銀城「そうか……」

キーボ「……なぜ、そのようなことを?」

銀城「……大した理由じゃねえさ」

銀城「ただ、一応は先輩だからな」

銀城「後輩が上手くやれてるかは、なんとなく気になるんだよ」

銀城「ーーーそんだけだ」

キーボ「………」

銀城「じゃあな」



スタスタ……



ーーーーーーーーーー


ーーーーーー


ーーーー


ーー


381 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 22:55:52.70 ID:69+uW4bTO



スタスタ……



銀城「ーーーこの辺りで良いか?」

ギリコ「そうですな……」

月島「………」


ギリコ(……【タイム・テルズ・ノー・ライズ】)ギリギリ



ギュイーン……!



ギリコ「……これで、我々の声は、あのロボットの元には絶対に届きません」

銀城「……そうか」

ギリコ「ここまで離れれば、もはや『契約』をする必要はないかもしれませんがーーー念には念を入れておくに越したことはありませんからな」


382 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 22:57:08.22 ID:69+uW4bTO



月島「ーーーそれじゃあ遠慮なく話すけど……あのロボット、随分と過激な過去を持っているようだね」

銀城「………」

月島「霊圧は、大きさも質も、一護のクラスメイトと同じくらいだっていうのにーーー」



月島「ーーーまさか、あんなピリピリした霊圧を放てるとはね」



銀城「……そんだけ気骨のある奴なら、問題はねえかもな」



ギリコ「……ですが、彼の過去もまたーーー」



月島「ーーー関係無いよ」


383 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 22:57:54.32 ID:69+uW4bTO



月島「あのロボットやアンジー達……彼らの過去がどうだろうと、僕らが踏み込むようなことじゃあない」

月島「そう、一護が、僕や君らの昔に、踏み込まなかったように、ね」



銀城「………」



月島「だから、話の種にはしても、気を揉む種として育むことはない。そうだろう?」



ギリコ「………」


384 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 22:58:41.79 ID:69+uW4bTO



月島「……というか、それ以前に、僕らが気を揉むほどの案件だとも思わないけどね」



ギリコ「? どういうことです?」



月島「……どれほど変わった過去があろうとなかろうとーーー決して変わらないものはある」



銀城「………」



月島「だから、心配はいらない」

月島「そういうことなのさ」


385 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 23:00:02.92 ID:69+uW4bTO



月島「……僕がこんなことを言えるのはおかしいかい?」



銀城「………」

ギリコ「………」



月島「……僕らの霊能力は、『過去の改竄』『契約』などの固有能力が形作られたが最後ーーーその固有能力の内容が変化することは決して無い」

月島「だけど、そうした結果と向き合い続けることで、今まで気づけなかった新しい能力の使い方に気づけることはある」

月島「だから、僕にはわかるのさ。 “ 変わらない色 ” ってやつを、ね」



月島「あの鉄の本は、そう彩られているよ」



ーーーーーーーーーー


ーーーーーー


ーーーー


ーー


386 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 23:30:29.26 ID:69+uW4bTO



アンジー「……よしよし、これでーーー」



キーボ「ーーーそちらは終わりましたか? アンジーさん」スタスタ



アンジー「……あ、キーボ」

アンジー「ーーーうん! アンジーも終わったよー!」



真宮寺「ーーーもっと言えば、僕の方も終わったヨ」スタスタ



アンジー「あー、是清もかー! お疲れー!」

真宮寺「ありがとう、夜長さん」


387 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 23:33:37.67 ID:69+uW4bTO



アンジー「……ところで、キーボ……」

キーボ「……?」

アンジー「……もしかして、さっき、空吾たちに会った?」



キーボ「……? はい、確かに会いました!」



アンジー「……やっぱりー」

真宮寺「こっちの【パワーセンサー】にも三人分反応していたからネ。もしやとは思っていたけど……」



キーボ「……それがどうかしたんですか?」



アンジー「………」



キーボ「もしかして、銀城さん達に何か用事があったんですか?」


388 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 23:34:34.03 ID:69+uW4bTO



アンジー「……ノーノー、違うよー」

キーボ「?」

アンジー「単純に、気になっただけだからー」

キーボ「……気になる?」

アンジー「そうだよー」



真宮寺「………」



アンジー「……キーボが、何か、変なこと言われなかったかなー、って」


389 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 23:35:34.00 ID:69+uW4bTO



キーボ「変なこと……?」



アンジー「……たとえば、ギリコからーーー」



真宮寺「………」



アンジー「ーーー別の、神さまの、こととかーーー」









アンジー「ーーー言われ、なかった?」


390 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 23:36:16.44 ID:69+uW4bTO



キーボ「ーーー別の、神さま?」



アンジー「………」



キーボ「……いえ、そのような話はしていませんがーーー」



アンジー「……そう」

真宮寺「………」



キーボ「……?」


391 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 23:37:19.35 ID:69+uW4bTO



アンジー「……実はねー? ギリコは、アンジーの神さまとは、違う神さまを信じているんだよー」

キーボ「違う、神さま、ってーーー」



真宮寺「……彼は、それを、 “ 時の神 ” と呼んでいるヨ」



キーボ「時の、神……」



真宮寺「まァ、聞いた限りだと、偶像崇拝というよりは、概念の崇拝に近いようだけどネ……」


392 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 23:38:05.24 ID:69+uW4bTO



アンジー「……これから、ギリコに変なこと言われても、気にしちゃダメだからねー? キーボ?」



キーボ「………」



アンジー「……アンジーの信じる神さまは、アンジーの神さまだけだからさー」



アンジー「別の神さまに浮気したら……きっと罰が当たるよ?」


393 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 23:38:43.86 ID:69+uW4bTO



キーボ「……大丈夫ですよ」






アンジー「………」






キーボ「……ボクは神さまに頼ることが、できませんから」


394 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 23:39:28.49 ID:69+uW4bTO









アンジー「…………」








395 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 23:40:19.20 ID:69+uW4bTO



真宮寺「ーーーアー……とりあえず、家の中に戻ったら、今日の分を、はじめようか」



真宮寺「そう、【鰤清劇場】を、ネ」



キーボ「!」



アンジー「……うんうん、それが良いよー!」



キーボ「………」


396 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/23(月) 23:41:15.13 ID:69+uW4bTO



真宮寺(……今日、話すこと)


真宮寺(それは、昨日話せなかった “ 西 ” についてーーー)


真宮寺(ーーーそう、この、日本人の集う、 “ 尸魂界・東梢局 ” とは、大きく異なる文化圏ーーー)


真宮寺(ーーー “ 尸魂界・西梢局 ” についての話をーーーー)



ーーーーーーーーーー


ーーーーーー


ーーーー


ーー


397 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/24(火) 00:10:44.61 ID:sD187VVtO



〜尸魂界・流魂街〜



アンジー「………」



シバタ「ーーーあっ、アンジーお姉ちゃん! おはよう!」



アンジー「……あー、ユウイチ! おはよー!」



シバタ「奇遇だねーーー」

シバタ「ーーーって、あれ?」



アンジー「んー? どうしたー?」



シバタ「今日は、真宮寺お兄ちゃんは一緒じゃないの?」


398 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/24(火) 00:11:27.35 ID:sD187VVtO



アンジー「……あー、是清は、お花摘みに行ってるところだよー」






シバタ「……そうなんだ……」


399 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/24(火) 00:12:39.84 ID:sD187VVtO



アンジー「……是清に、何か用かー?」

シバタ「……うん、実は、 “ 家族 ” のみんなに絵を描いてプレゼントしようって思ったんだけどーーー」



アンジー「………」



シバタ「ーーーそれと一緒に付ける手紙、それができたら、まずは真宮寺お兄ちゃんに出来を確かめて欲しいと思ってさ」

シバタ「万が一、変なこと書いちゃってたら、大変だし」



アンジー「………」



シバタ「それを、伝えたくてーーーー」


400 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/24(火) 00:13:44.44 ID:sD187VVtO



アンジー「……プレゼント、するんだー?」

シバタ「……うん、 “ 家族 ” のみんなに!」

アンジー「……にゃはははー! 是清はすっかりユウイチに頼られてるねー!」

アンジー「アンジーもすごい嬉しいよー!」



シバタ「………」



アンジー「……? どうしたー、ユウイチ?」



シバタ「……ちょっと、ね……」



アンジー「ちょっと?」



シバタ「うん、ちょっとだけーーー」







シバタ「ーーーアンジーお姉ちゃんが羨ましいなあ、って」


401 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/24(火) 00:14:33.88 ID:sD187VVtO



アンジー「………」



シバタ「ぼくは、真宮寺お兄ちゃんのこと、まだ全然知らないしーーー」



シバタ「ーーーだから、真宮寺お兄ちゃんと一緒に住めるアンジーお姉ちゃんが羨ましいって、思える時があるんだ」



シバタ「もっと、真宮寺お兄ちゃんに近づけたらな、って」


402 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/24(火) 00:15:24.20 ID:sD187VVtO



アンジー「……ユウイチ?」

シバタ「?」

アンジー「ユウイチには、ユウイチの “ お兄さん ” がいるよね?」

シバタ「……そうだね」

アンジー「是清のことを好きになってくれるのは嬉しいけどーーー」



アンジー「ーーー “ お兄さん ” のことも大事にしないとダメだよ?」



シバタ「………」



アンジー「でないと……罰が当たるよ?」


403 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/24(火) 00:16:42.57 ID:sD187VVtO



シバタ「……大事に、したいよ」

シバタ「……今の “ お兄さん ” が、現世のどこで、どんな人になって、どんな人生を送っているかはわからないけどーーー」



シバタ「ーーーぼくの “ お兄さん ” であることに変わりはないから……」



アンジー「………」



シバタ「…… “ お兄さん ” 、“ 家族 ” のみんなには、僕自身、納得のいく内容の手紙と絵をお供えしたいと思ってる」

シバタ「だから、真宮寺お兄ちゃんに、手紙の出来を見て貰いたかったんだ」


404 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/24(火) 00:17:59.59 ID:sD187VVtO



シバタ「……それに、真宮寺お兄ちゃんは、前にも僕を助けてくれたからね」

シバタ「そんな真宮寺お兄ちゃんの、支えになりたいと、僕は思う」



アンジー「………」



シバタ「だから、近くでそれができるアンジーお姉ちゃんが羨ましい」



シバタ「そう、思ったんだ」


405 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/24(火) 00:19:02.79 ID:sD187VVtO



アンジー「……アンジーが是清を、支える、かー……」

シバタ「……うん、アンジーお姉ちゃんならできるでしょ?」



アンジー「……どうかなー?」

シバタ「えっ……?」

アンジー「……むしろ、逆かもよー?」

シバタ「……?」

アンジー「アンジーが是清を支えているんじゃなくて……是清がアンジーを支えてくれてるんだー」


406 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/24(火) 00:19:50.87 ID:sD187VVtO



シバタ「……そうなの?」

アンジー「……そうだよー」

アンジー「そうでないと、アンジーはーーーー」



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


〜〜〜〜〜〜


〜〜〜〜


〜〜


407 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/28(土) 22:53:33.93 ID:L8hfhPzqO



チュンチュン……




アンジー「………」パチリッ






アンジー「…………」ムクッ









アンジー「………………」


408 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/28(土) 22:56:39.96 ID:L8hfhPzqO



アンジー(……夢かー……)




アンジー(ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー)




アンジー(……なんでかなー)




アンジー(……なんで、あの時のーーー)




コンコンッ……


409 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/28(土) 22:58:38.49 ID:L8hfhPzqO



アンジー「………」



キーボ「……アンジーさん、アンジーさん」コンコンッ

キーボ「起きていますか?」



アンジー「……起きてるよー」ムクッ…スタスタ



アンジー「……開けるねー?」ガチャッ…バタンッ

キーボ「おはようございます! アンジーさん!」

アンジー「……アンジーに何か用かー?」


410 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/28(土) 23:01:59.19 ID:L8hfhPzqO



キーボ「……ああ、いえ、この時間、アンジーさんは今まで、ボクと真宮寺クンのいる部屋まで、朝ごはんの誘いに来ていたので……」



アンジー「……うん、そうだね」



キーボ「でも、今日はなかったので、どうしたのか気になってーーー」



アンジー「……んー、ちょっと、変な夢見ちゃってねー……?」



キーボ「……夢、ですか」



アンジー「……詳しい内容は秘密だけどーーー夢見悪くて、調子狂って、起きるの遅めになっちゃったのかもねー」


411 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/28(土) 23:03:16.32 ID:L8hfhPzqO






キーボ「……まあ、そういうこともありますよ」



アンジー「………」



キーボ「あまり気にしない方が良いですよ、アンジーさん」





412 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/28(土) 23:04:41.55 ID:L8hfhPzqO



アンジー「……ねー、キーボ?」

キーボ「はい! なんでしょうか、アンジーさん!」

アンジー「今更、かもしれないけどねー?」

キーボ「?」






アンジー「……キーボと、こうしてまた会えてーーーー」


413 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/28(土) 23:05:45.69 ID:L8hfhPzqO









アンジー「ーーーアンジーは、すごく嬉しいんだー……」








414 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/28(土) 23:07:38.29 ID:L8hfhPzqO



キーボ「………」

アンジー「……もちろん、悲しまなきゃ、いけないことはわかってる」

アンジー「キーボも、アンジーたちと同じなんだから」



アンジー「そう、秘密子たちと、離ればなれ……」



キーボ「………」



アンジー「アンジーは、それが、悲しい」



キーボ「アンジーさん……」



アンジー「……だけど、それでも、キーボとこうしてまた会えたことはーーーー」









アンジー「ーーーすっごく、嬉しいんだ……」


415 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/28(土) 23:08:50.19 ID:L8hfhPzqO






キーボ「………」






アンジー「………」





416 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/28(土) 23:15:33.65 ID:L8hfhPzqO



キーボ「……それは、ボクも同じです」

アンジー「!」

キーボ「ボクも嬉しいですよ、アンジーさん」

キーボ「また、アンジーさんに会えて」

キーボ「一緒にいられて」



キーボ「すごく、嬉しいです」


417 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/28(土) 23:17:48.81 ID:L8hfhPzqO



アンジー「……そう……」

キーボ「………」

アンジー「……ありがとねー、キーボ」

キーボ「!」

アンジー「アンジーと “ 同じ ” でーーー」



アンジー「ーーー嬉しいって言ってくれてーーーー」






アンジー「ーーー本当に、ありがとう……」


418 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/28(土) 23:20:39.84 ID:L8hfhPzqO



キーボ(……そうです)




アンジー「………」




キーボ(今度こそ、アンジーさんが、喪われることのないようにしなくてはーーー)








キーボ(ーーーそのためには、まずーーーー)


419 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/28(土) 23:21:45.74 ID:L8hfhPzqO






キーボ「ーーーボクからも、お礼を言わせてください」






アンジー「………」






キーボ「ありがとうございます、アンジーさん! またボクと一緒にいてくれて!」





420 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/28(土) 23:24:32.86 ID:L8hfhPzqO



アンジー「……そんな風に言って貰えるなんてねー」

アンジー「アンジー、やっぱり嬉しいなー」

キーボ「アンジーさん……」

アンジー「……ねーねー、キーボ?」

キーボ「? なんでしょうか?」

アンジー「これから朝ごはんの時間だよねー?」

キーボ「ええ…そうですね」


421 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/28(土) 23:26:24.42 ID:L8hfhPzqO



アンジー「……アンジーが、食べさせてあげようかー?」



キーボ「……はい?」



アンジー「……ほら、 “ あーん ” ってやつだよー」



キーボ「………」


422 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/28(土) 23:27:29.72 ID:L8hfhPzqO



キーボ「……??」



アンジー「……キーボ、そういうこと、されたことないでしょー?」



キーボ「……いや、まあ、確かにされたことはありませんがーーー」



アンジー「だったら、アンジーがそれをする “ 初めて ” の相手なんだねー」



アンジー「なんだか、嬉しいなー」


423 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/28(土) 23:28:14.73 ID:L8hfhPzqO



キーボ「……?」






アンジー「………」






キーボ「……??」


424 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/28(土) 23:28:58.83 ID:L8hfhPzqO






アンジー「……んー? どうしたー、キーボ?」



キーボ「………」



アンジー「何か、変かなー?」





425 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/28(土) 23:29:44.58 ID:L8hfhPzqO



キーボ「……ああ、いえーーー」



キーボ「ーーーそんなことは、ありません」



キーボ「おかしくなんて、ないですよ……」



アンジー「………」



キーボ「……アンジーさんは、誰に対してもーーーー」


426 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/28(土) 23:30:43.80 ID:L8hfhPzqO









キーボ「ーーーすごく、あたたかい人ですから」








427 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/28(土) 23:31:49.82 ID:L8hfhPzqO



アンジー「……それで、どうするのー? キーボ?」



キーボ「? どうするってーーー」



アンジー「アンジーの “ あーん ” のことだよー」



アンジー「どうするー? どうするー?」


428 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/28(土) 23:33:06.66 ID:L8hfhPzqO



キーボ「……お気持ちはとても嬉しいのですがーーー」

キーボ「ーーー食卓には真宮寺クン達もいますし、ボクも一応は高校生です」

キーボ「流石に、ちょっと、恥ずかしいというかなんと言いますかーーー」

アンジー「にゃはははー! ロボットでもこういうこと、恥ずかしかったりするんだねー!」

キーボ「なっ、ロボット差別ですか!?」

アンジー「ノーノー、嬉しいんだよー」

アンジー「ロボットのキーボが、恥ずかしいって気持ちを知ってることがねー」

アンジー「それってー、『すごいこと』だよねー?」

キーボ「……!」


429 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/28(土) 23:34:11.06 ID:L8hfhPzqO



アンジー「……ねーねー、キーボ?」



キーボ「……なんでしょうか? アンジーさん?」



アンジー「 “ あーん ” が恥ずかしかったらさー」



アンジー「……アンジーの、隣で食べるくらいは良いかな?」



キーボ「………」



アンジー「……キーボ、今日から、アンジーの隣で食べて貰ってもーーー」







アンジー「ーーー良い、かな?」


430 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/28(土) 23:36:30.52 ID:L8hfhPzqO



キーボ「……もちろんですよ」



キーボ「むしろ、こっちからお願いしたいくらいです」



キーボ「隣に来させて貰います、アンジーさん」



アンジー「……ありがとね、キーボ」


431 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/28(土) 23:40:36.51 ID:L8hfhPzqO



アンジー「……アンジーは、これから朝の着替えをする」

アンジー「それが終わったら……一緒に行こうー?」

アンジー「着替え終わる頃には……朝ごはんの時間だからねー!」



キーボ「……ええ、そうですね!」



ーーーーーーーーーー


ーーーーーー


ーーーー


ーー


432 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/28(土) 23:50:25.72 ID:L8hfhPzqO



キーボ(ーーーあれから、一週間以上もの時が経ちました)


キーボ(ボクら三人はこれといった問題もなく、こちらの屋敷での生活を続けていました)


キーボ(仕事の日は三人で掃除を行い、空いた時間にはアンジーさんと共に、真宮寺クンの……【鰤清劇場】を聴いていたのです)


キーボ(その話の中には、 “ 護廷十三隊 ” ……尸魂界や魂魄を守護する十三の部隊が、敵対勢力と交戦をしていたという内容もありました)


キーボ(……藍染惣右介(あいぜん そうすけ)をリーダーとした裏切り者の死神達と、崩玉(ほうぎょく)と呼ばれる謎の霊的アイテムでパワーアップした悪霊の軍団ーーー)


キーボ(ーーーそうした敵対勢力が、空座町(からくらちょう)と呼ばれる “ 重霊地 ” ……霊の集まる現世の土地を、悪用しようとした結果、起こってしまった戦争ーーー)


キーボ(ーーーそれ以外にも、因幡影狼佐(いなば かげろうざ)という死神が率いる、人造魂魄との戦争という内容のものまでありました)


キーボ(その全てが、興味深い話でした)


キーボ(それは今でもボクの記憶領域に大切に記録されています)


キーボ(絶対に記録しなければ、なりません)


キーボ(なぜなら、その話は、真宮寺クンがボクらのために話してくれたことでーーー)




キーボ(ーーー他ならぬ、アンジーさんと一緒に聴いたことなのですから)




キーボ(そうして近くで、話題を共有することによって、ボクはアンジーさん達とこれまで以上に仲良くなれたように思います)


キーボ(また、真宮寺クンの持つカルタや花札で遊んだり、アンジーさんが浦原さんから購入したお菓子を、一緒に食べたりもしました)


キーボ(……まあ、それでも、アンジーさんに、その…… “ あーん ” を、させて貰ったりはしませんでしたがーーーー)


433 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/28(土) 23:52:25.21 ID:L8hfhPzqO



キーボ(……そんな中、休日である今日この日、とうとうボクに封筒が届きました)


キーボ(そう、ボクが瀞霊廷に住むための申請、その結果に関する通知の入った封筒が、です)


キーボ(空鶴さんが瀞霊廷に行った手続き、それに対する返事が今日ついに届き、空鶴さんからボクに手渡されたのです)


キーボ(それを知ったアンジーさん達から、一緒に結果を見ても良いか頼まれ、その通り一緒に見ることにしました)




キーボ(そして、その結果はーーーー)


434 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/28(土) 23:53:16.79 ID:L8hfhPzqO









キーボ(ーーー合格、でした……)








435 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/28(土) 23:55:43.66 ID:L8hfhPzqO



キーボ「………」



アンジー「………」



真宮寺「………」



キーボ「……えーと、その……」



キーボ「……これは、どういうーーー」







アンジー「ーーーすごいねー、キーボ!」


436 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/28(土) 23:56:59.81 ID:L8hfhPzqO



キーボ「ーーーえっ、?」



アンジー「……だって、キーボは、瀞霊廷に住めるんだよー?」

真宮寺「………」

アンジー「ロボットなのに魂があるだけじゃなくてーーーすごい場所にだって住めちゃうんだよー?」

アンジー「それって、ものすごく、『すごいこと』なんだよー!」



キーボ「………」



アンジー「だからーーーいってらっしゃい、なんだよー!」ニパアッ!


437 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/28(土) 23:58:05.15 ID:L8hfhPzqO



キーボ「……アンジー、さん……」



アンジー「……どうしたー、キーボ?」



アンジー「瀞霊廷に住めるなんて、めったにない話だよー?」



アンジー「もっと、喜んだらー?」


438 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/28(土) 23:58:49.18 ID:L8hfhPzqO



キーボ「……いえ、そうではなく……」



アンジー「……?」



キーボ「……アンジーさん、今あなたはーーー」



アンジー「………」



キーボ「ーーー笑いながらーーー」







キーボ「ーーー泣いてーーーー」


439 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/29(日) 00:00:10.04 ID:N/vkYi+RO



アンジー「ーーーえっ、?」ジワッ…



ポロ……ポロポロ……



アンジー「……あっ、あれ?」ポロポロ…

アンジー「……おかしいなー? なんでかなー……」ガクッ…

アンジー「……あれれ?」ガクガク…

アンジー「あれれー……?」ガクガクブルブル…



キーボ「………」

真宮寺「………」



アンジー「……うーん、寒くて、身体ヘンになってるのなー?」ブルブル…

アンジー「キーボみたいには、いかないねー、にゃはははー!」ガクガク…



キーボ「アンジーさん……」


440 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/29(日) 00:01:52.17 ID:N/vkYi+RO



アンジー「……ごめんねー? ちょっと、アンジーの部屋で落ち着いてくるねー?」ブルブル…

キーボ「えっ……」

真宮寺「………」

アンジー「……大丈夫だよー! ちょっと、落ち着けば、なんとかなるからー!」ガクガク…

アンジー「……ぐっばいならー! にゃはははー!」タッタッ…

キーボ「あっ、アンジーさんーーー」ダッ…



ガシッ!!



キーボ「!?」

真宮寺「………」ググッ


441 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/29(日) 00:05:58.63 ID:N/vkYi+RO



キーボ「……なんですか、真宮寺クン? この手は」

真宮寺「……今の時点で、君を夜長さんのところに行かせるわけにはいかない」



真宮寺「そう、思っただけだヨ」



キーボ「……どうして、そう思ったんですか?」

真宮寺「……逆に聞くけど、君は夜長さんがああなった理由がわかるかい?」

キーボ「それは……」

真宮寺「わからないのなら、行くべきではないヨ」


442 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/29(日) 00:07:25.74 ID:N/vkYi+RO



キーボ「………」



真宮寺「……よくわからないまま、不用意なことを言ってしまえば、それで相手の心を傷つけてしまうかもしれない」

真宮寺「場合によっては……最悪の結果で終わりを迎えることになるかもしれない」



キーボ「……!!」



真宮寺「コトダマは時に、 “ 死 ” を生み出す凶器にもなり得るのだから」



真宮寺「そうだろう、キーボ君?」


443 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/29(日) 00:09:38.86 ID:N/vkYi+RO



キーボ「……だったら、キミはわかるんですか?」

キーボ「アンジーさんの、あの様子について」

真宮寺「……少なくとも、今の君よりはわかるつもりだヨ」

真宮寺「夜長さんとは、今の君よりもずっと長く時間を共有していたわけだからネ」



キーボ「………」



真宮寺「一応言っておくけど、夜長さんがどうしてああなったのかは、自分で考えて欲しい」

真宮寺「……君が今それをわからないのは、夜長さんと再会したことによって得られた、安心感による油断が原因だとは思うけどーーー」



真宮寺「ーーー逆に言えば、こうして自分と夜長さんの関係に不安を感じている今であれば、気づけるはずだヨ」



キーボ「………」


444 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/29(日) 00:11:15.37 ID:N/vkYi+RO



真宮寺「……キーボ君、僕が斬魄刀の話をしていた時には、君は自分に心が与えられた理由に、気づくことができたじゃないか」

真宮寺「……少なくとも、僕の出した問題に、答えることができたじゃないか」

真宮寺「僕が用意していた解答と同じ答えを自力で見出すことができたじゃないか」

真宮寺「それができるのなら、夜長さんがああなってしまった理由にだって……僕の出した結論以上のものを見出せるはずだ」



真宮寺「……自力で気づけるはずなんだ」



真宮寺「違うかい?」



キーボ「………」


445 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/29(日) 00:14:20.23 ID:N/vkYi+RO



真宮寺「……もし、どうしても自分から理由に気づけないというのなら、ある程度は僕から話しても良い」

真宮寺「だけど、自力で気づくことすらできない身の程で、夜長さんに対して、何をしてあげられるだろうか?」

真宮寺「自力で気づくことすらできない者がーーーどうやって人の複雑な気持ちに……夜長さんの心に向き合えるというのだろうか?」



キーボ「………」



真宮寺「……そのことを踏まえた上で、よく考えて欲しいんだ」



真宮寺「夜長さんが、ああなってしまった……その理由を、ネ」


446 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/29(日) 00:15:52.21 ID:N/vkYi+RO



キーボ「………」






キーボ「…………」









キーボ「………………」



ーーーーーーーーーー


ーーーーーー


ーーーー


ーー


447 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 08:06:32.69 ID:h3Y4QDXJO



キーボ(ーーー真宮寺クンにああ言われてから、約半日が過ぎました……)


キーボ(今日は休日であったため、充分な時間が用意されていました)


キーボ(その間に、ボクは思考を繰り返し、それをまとめーーー)




キーボ(ーーーボクとしての “ 解 ” を出した)




キーボ(なぜ、アンジーさんが、ああなってしまったのか?)


キーボ(その解を携えて、今のボクは、修練場の扉の前にいる)


キーボ(ボクが、 “ 解を出した ” と、真宮寺クンにメールを送った後に、 “ 指定した時間に修練場で話そう ” と返信されたのです)


キーボ(故に、今のボクは、修練場の扉の前にいる)




キーボ(……ボクの出した解が、完全に正しいとは限らない。いや、完全とは到底言えないものでしょう)




キーボ(だからこそ、より正しい解を、見出すために、ここにいる)




キーボ(最良の結果を求めて、こうしてここにいる)


448 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 08:08:02.20 ID:h3Y4QDXJO






キーボ(……ボクに、痛覚は無いはずなのに……)









キーボ(……また、こんな、気持ちになるだなんて……)





449 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 08:09:24.44 ID:h3Y4QDXJO



キーボ(ーーーそれでも、ボクは歩み続ける)


キーボ(そうしないと、前に進めないから)


キーボ(辿り着けないものがあるから)


キーボ(向き合えないものがあるから)




キーボ(だから、ボクは歩む)




キーボ(今ここで……)


キーボ(……ボクの中にある、みんなの『想い』と共にーーー)




キーボ(ーーーいざーーーー)




ガチャッ……


450 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 08:10:57.63 ID:h3Y4QDXJO



真宮寺「ーーー来たようだネ」

キーボ「……ええ、来ましたよ」

キーボ「ボクとしての、解を携えて」



バタンッ……ガチャッ!



真宮寺「ーーーそれなら、さっそく聞かせて貰うヨ? キーボ君」

キーボ「………」

真宮寺「なぜ、夜長さんは、ああなってしまったのか?」



真宮寺「その解をーーー」



真宮寺「ーーー他ならない、君の推理を、ネ」


451 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 08:12:47.24 ID:h3Y4QDXJO



キーボ「……結論から言わせて頂きます」



真宮寺「………」



キーボ「アンジーさんが、ああなってしまったのはーーーー」









キーボ「ーーー “ こわいから ” です」


452 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 08:14:09.52 ID:h3Y4QDXJO



真宮寺「ーーーこわい、ネ……」



キーボ「………」



真宮寺「……一応確認しておくけど、夜長さんが、何をこわがっていると言うんだい?」



真宮寺「まさかとは思うけど、君が瀞霊廷に住むことで離れ離れになってしまうことーーー」



真宮寺「ーーー “ それだけ ” が、こわいなんて、言うつもりはないよネ?」


453 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 08:15:42.34 ID:h3Y4QDXJO



キーボ「……そうですね」

キーボ「 “ それだけ ” ではありませんよ」

真宮寺「………」

キーボ「 “ それだけ ” ならば、あんな風に、震えたりはしない……」

キーボ「ならば、アンジーさんがこわがる理由は、他にもある。いや、むしろ、それこそが、あんな風に震えてしまう最大の理由なのでしょう」

キーボ「……あの身体の震えは、その理由が根幹となったものでありーーー」

キーボ「ーーーボクが瀞霊廷に住めるという事実が、震えを誘発してしまった」

キーボ「こわがる、最大の理由を、想起させてしまった」

キーボ「そういうこと、なのでしょう」


454 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 08:16:24.89 ID:h3Y4QDXJO



真宮寺「……それで、結局それは、何なのかな? キーボ君?」



キーボ「………」



真宮寺「夜長さんが、他に、こわがっていることって、サ」


455 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 08:17:19.97 ID:h3Y4QDXJO



キーボ「……アンジーさんがこわがっているものーーー」






真宮寺「………」









キーボ「ーーーそれは、 “ 死 ” です」


456 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 08:21:10.19 ID:h3Y4QDXJO



真宮寺「………」



キーボ「……これは、事故や事件などに巻き込まれて “ 死 ” を迎えることだけを恐れているのではなくーーー寿命による “ 死 ” をも恐れているんです」



真宮寺「寿命、ネ」



キーボ「ええ、寿命です」

キーボ「事実として、流魂街の住民には、寿命があります」

キーボ「それも、【瀞霊廷に住める者達とは異なり】【短い時間の中で】【新しい命に生まれ変わらなければならない】ーーー」



キーボ「ーーーそんな寿命が」



真宮寺「………」



キーボ「……生まれ変わりとは、言い換えるのならば、現在有している自己が喪われ、全く違う新しい自分に存在を書き換えられるということです」

キーボ「ボクは、それを、ある意味での “ 死 ” であると考えています」


457 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 08:23:26.23 ID:h3Y4QDXJO



キーボ「……アンジーさんもまた、同じように考えている」

キーボ「故に、それをこわがっている」

キーボ「しかも、この流魂街では、いつ自分が輪廻の輪を通り、生まれ変わることになるかわからない」



真宮寺「………」



キーボ「……現世の出生率が増加した場合は、尸魂界の魂魄には輪廻の輪を通って現世の生命に生まれ変わって貰う必要が出て来ますしーーー」

キーボ「ーーー現世で多数の死亡者が出て、その魂魄が尸魂界に来た場合は、それによる世界バランスの変化を修正する必要がある。つまりは、これまで尸魂界にいた魂魄は輪廻の輪を通らなくてはならない」

キーボ「そう、現世の状況次第では、いつ自分が輪廻の輪を通らされるか、わからない」



キーボ「……いつ、輪廻の輪の中で、自己を喪うことになるか、わからない」

キーボ「いつ、現世のどこの誰に生まれ変わることになるか、わからない」



キーボ「そうした、 “ 死 ” を、いつ迎えても、おかしくはない」



キーボ「それを思えば、アンジーさんがあんな風に震えて、こわがるのは当然の反応でしょう」


458 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 08:31:00.30 ID:h3Y4QDXJO



真宮寺「……転生はある意味での “ 死 ” であり、それをこわがっている、ネ……」

キーボ「………」

真宮寺「……だけど、なんで夜長さんまでこわがるんだい?」

真宮寺「……彼女には、神さまがついているんだヨ?」

真宮寺「その神さまから、元気の出る言葉をかけて貰って……それで勇気を湧き上がらせればーーー」



キーボ「ーーーそういうわけにもいかなかったのでしょう」


459 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 08:32:10.78 ID:h3Y4QDXJO



キーボ「……なぜなら、今のアンジーさんはーーー」



真宮寺「………」












キーボ「ーーー神さまの声を、しっかりと聞くことができないのでしょうから……」


460 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 08:33:48.28 ID:h3Y4QDXJO



真宮寺「………」



キーボ「……神さまの声が生前と同様に聞こえていれば、その神さまに元気の出る言葉をかけて貰い、勇気を湧き上がらせることもできたかもしれません」



キーボ「そうした勇気をもって、生まれ変わりという “ 死 ” を、受け入れることもできたかもしれない……」



キーボ「……しかし、この尸魂界では、アンジーさんの定義する神さまの声を、生前のように聞くことができない」



キーボ「だから、生まれ変わりを……今の自分の “ 死 ” を、受け入れることはできなかった」



キーボ「だから、ああして、こわがっているんです」


461 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 09:04:09.67 ID:h3Y4QDXJO



真宮寺「……神さまの声が聞こえない、ネ……」

キーボ「……ええ、そうです」

真宮寺「そう思う根拠は、何かあるのかい?」

キーボ「……主に二つあります」

真宮寺「………」

キーボ「一つ目の根拠、それは、アンジーさんがこの世界で神さまの言葉を述べる際に、『きっと神さまは〜』という表現を何度も使っているということです」

キーボ「もし、生前と同じように、神さまの声がしっかりと聞こえるのであればーーー何度もああいった言い回しはしないでしょう」



真宮寺「……なるほど、ネ」



キーボ「そして、二つ目の根拠ですがーーーー」






キーボ「ーーーそれは、この屋敷に来た当初、アンジーさんの部屋に美術品の一切がなかったことです」


462 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 09:06:06.28 ID:h3Y4QDXJO



真宮寺「………」



キーボ「……生前のアンジーさんは、自分が美術品を作ることが可能なのは、神さまのおかげであるかのような発言をしていました」

キーボ「それはすなわち、アンジーさんの “ 才能を発揮できる条件 ” には、 “ 神さまの声が聞こえること ” が含まれていたということになります」

キーボ「逆に言えば、神さまの声が聞こえない場所では、才能を発揮できず、納得のいく作品が作れないということでもあります」

キーボ「そして、アンジーさんの部屋には美術品の一切がなかった」

キーボ「それは、アンジーさんが自分で納得のいく作品を作ることができない、すなわち才能を発揮できる状態にないことを意味している」

キーボ「そう、その才能を発揮する上で、必要となる神さまの声が聞こえないからーーー」



真宮寺「………」



キーボ「ーーーそうして、神さまの声が聞こえないが故に、神さまに元気の出る言葉をかけて貰うことができない」

キーボ「神さまのもたらす勇気をもって、恐怖を、抑え込むことができない」

キーボ「それでは、生まれ変わりという “ 死 ” を受け入れるなど、到底できやしない」



キーボ「そういうことなのでは、ありませんか?」


463 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 09:07:55.61 ID:h3Y4QDXJO



真宮寺「……神さまの声が聞こえないのならーーーどうして神さまの声が今でも聞こえているかのような発言をする必要があるんだい?」



キーボ「………」



真宮寺「どうして、素直に神さまの声が聞こえないと、言わないんだい?」



キーボ「……そんなの決まっているじゃないですか」

キーボ「そうしないと、耐えられなかったからです」



キーボ「死の恐怖に」



真宮寺「………」


464 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 09:09:32.90 ID:h3Y4QDXJO



キーボ「……今のアンジーさんは、生前の時とは違う」

キーボ「常に自分を導いてくれて、なおかつ最大級に信頼を寄せる神さまの声を、生前のように聞くことができなくなった」

キーボ「才能を振るうことも叶わなくなった」

キーボ「ただ、この流魂街で、生まれ変わりという名の “ 死 ” を待ち続けるだけ」



キーボ「……こわいに決まっています」



キーボ「そのこわさに耐えるためには、神さまに頼るしかなかった」



キーボ「だから、アンジーさんは【神さまの声が】【生前と同様に】【聞こえていることにする】しかなかったんです」



真宮寺「………」


465 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 09:10:45.10 ID:h3Y4QDXJO



キーボ「……いえ、ああして身体を震わせているところを見るに、完全に耐えきれているわけではないのでしょう」



キーボ「ですが、それでも耐えるために、今でも【神さまの声が】【生前と同様に】【聞こえていることにする】しかなかったんです」



真宮寺「………」



キーボ「……キミがそうして、正気でいられることがその証明でしょう」


466 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 09:12:36.35 ID:h3Y4QDXJO



真宮寺「……どういう意味かな?」

真宮寺「どうして、そこで、僕が出てくるんだい?」



キーボ「……人は、【一歩離れた場所から】【落ち着いていない誰かを見ることによって】【自分を落ち着かせることのできる】存在でもあるーーー」



キーボ「ーーーキミにも、よくわかる理屈だと思いますが」



真宮寺「………」



キーボ「実際にキミは、アンジーさんが、【神さまの声を】【聞こえていることにした】ーーーその姿を見ていたのではありませんか?」



真宮寺「!!」



キーボ「……見ていたからこそ、自分の “ 過去 ” と向き合うことができた」

キーボ「……冷静に見つめ直すことができた」

キーボ「だからこそ、そうして正気を保てている」



キーボ「そう、でしょう?」


467 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 09:14:23.72 ID:h3Y4QDXJO



真宮寺「………」






真宮寺「…………」









真宮寺「………………」


468 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 09:15:59.83 ID:h3Y4QDXJO



真宮寺「……そうだネ。その通りだヨ」

キーボ「!」

真宮寺「……僕は、この世界に来たばかりの頃、正気を保つのが困難だった」

真宮寺「死神からこの世界に関する説明を受ける際は、医療所の中で行われーーー」

真宮寺「ーーー途中で何度も鎮静剤を投与され、安静にするよう言われたり、妙な医療機器を頭に取り付けられたりもした」

キーボ「………」

真宮寺「それから……親切な死神からカウンセリングを受けるなどして、いくらか落ち着いたけどーーー」



真宮寺「ーーーそれでも、ずっと正気を保っていられるわけじゃあなかったんだ」


469 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 09:17:27.06 ID:h3Y4QDXJO



真宮寺「……そんな中で、この世界に来た他のみんなから、キーボ君が言うような状態の夜長さんを、見せられた……」

真宮寺「それで……いろいろと、思い、知らされた、ん、だヨ……」

キーボ「………」

真宮寺「……その後、茶柱さんに投げ飛ばされたり、百田君に何発か殴られたりもした」

真宮寺「だけど、その二人を含めたみんなと対話して、支えられてーーー」



真宮寺「ーーーその結果、どうにか今のように、正気を保ち続けることができるようになった」



真宮寺「……だから、僕が正気でいられるのは、君の言う通り、夜長さんのことがあるからなんだ」

真宮寺「それは、確かな事実だヨ」



キーボ「……やはり、そうでしたか」


470 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 09:20:41.55 ID:h3Y4QDXJO



真宮寺「……一応言っておくけどサ……」

真宮寺「……百田君達は、決して夜長さんを見捨てて、自分達だけ別の場所に行ったわけじゃないからネ?」



キーボ「……わかっていますよ。そのくらい」

キーボ「百田クン達は、アンジーさんのためにここに残るだなんて、できるはずがなかった」

キーボ「なぜなら、残ってしまえば、アンジーさんの心を殺してしまうことになるのですから」



真宮寺「………」


471 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 09:23:11.82 ID:h3Y4QDXJO



キーボ「……アンジーさんだって、生前のことを何も振り返らなかったわけではないのでしょう」

キーボ「きっと、アンジーさんは、自分の抱える過去と向き合った」

キーボ「だからこそ、百田クン達を引き止めるようなことはしなかったしーーーそれどころか、笑顔で送り出した」



キーボ「そうやって、みんなを、瀞霊廷へと……誰もが憧れる世界へと送り出したのでしょう」



キーボ「ボクを瀞霊廷へと、送り出そうとした時のように……」



真宮寺「………」



キーボ「……そんな中で、百田クン達が空鶴さん達に無理を言って、この屋敷に居座ったりすれば、どうなるか?」

キーボ「アンジーさんのために、百田クン達が自分の可能性を閉ざしてしまったら、何がどうなるか?」

キーボ「それは、アンジーさんに罪悪感を募らせ……最終的に心を殺してしまいかねない」

キーボ「故に、百田クン達は、アンジーさんを残して、瀞霊廷に行くしかなかったのでしょう」


472 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 09:26:12.04 ID:h3Y4QDXJO



キーボ「……もちろん、百田クン達もアンジーさんのために何かできることはないか必死に考えたとは思います」

キーボ「彼らが、真宮寺クンが言っていたような夢を想い描き、それを目指すようになった理由ーーー」

キーボ「ーーーそれは、彼ら自身の純粋な夢ということもあるでしょうが、アンジーさんに元気になって欲しいという気持ちもあったはずです」



真宮寺「………」



キーボ「だからこそ、東条さん、茶柱さん、ゴン太クンの三人は、人の心をケアする方法を学び、それをもってアンジーさんに元気になって貰えないかと考え、救護部隊を目指した」

キーボ「だからこそ、赤松さん、王馬クン、天海クン、星クンの四人は、アンジーさんの心に届いて元気になれるような演奏や芸を編み出そうと考え、音楽芸人を目指した」



キーボ「だからこそ、百田クンは科学者の道を選んだ」



キーボ「そうした道の上で、入間さんやその発明品から発想力というものを学び、それを我が物とすることに決めた」

キーボ「アンジーさんの心に届くような言葉を、そのための手法を、発想できるようになるために」

キーボ「入間さんは、それにできる限り協力して、百田クンを支える形で、アンジーさんに元気になって貰おうとした」



キーボ「そうして、それぞれ、アンジーさんが元気になるためには、どうすれば良いかを考え、実行に移したのでしょう」



真宮寺「………」



キーボ「……ですが、現状それは上手くいっていない」

キーボ「故に、アンジーさんは現在、ああなってしまっている」

キーボ「……ただ、それだけのことなのでしょう」


473 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 09:27:44.96 ID:h3Y4QDXJO



真宮寺「……君の言う通りだヨ、キーボ君」

真宮寺「百田君達は、決して、夜長さんを見捨てたわけじゃない」

真宮寺「それどころか、時間さえあれば、夜長さんに対して何かできないかを考えている」

真宮寺「それをわかってくれたようで何よりだヨ……」



キーボ「………」



真宮寺「……そう、だからこそ、夜長さんは、ああなった」

真宮寺「彼女の抱える死の恐怖を、誰も退けることができなかったが故に、ああなってしまった」

真宮寺「……これまで、聞こえるようにした神さまの声と、君の存在で抑えていた死の恐怖ーーー」



真宮寺「ーーーそれが、君が瀞霊廷に住めると知った瞬間に、吹き出してしまった」



真宮寺「君と離れ離れになることの淋しさのあまり、死の恐怖が吹き出してしまった」

真宮寺「だから、夜長さんは、ああなってしまったんだヨ」


474 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 09:28:56.27 ID:h3Y4QDXJO



キーボ「ーーーアンジーさんは、自分と誰かとの間に、深い繋がりが欲しかったんですね」

キーボ「それこそ、空鶴さんと岩鷲クンの関係のようなーーー」



キーボ「ーーー他者が入り込めない程の、深い繋がりが」



真宮寺「………」



キーボ「……アンジーさんは、生まれ変わりという名の、今の自分の “ 死 ” に怯えていた」

キーボ「故に、それを抑えようと、誰かを求めた」

キーボ「誰かとの、深い繋がりを持とうとした」

キーボ「そして、その対象は、最初は真宮寺クンだった」



真宮寺「………」


475 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 09:31:32.89 ID:h3Y4QDXJO



キーボ「……キミにそれを求めることは、アンジーさんとしても迷いがあったでしょうがーーー」



キーボ「ーーーあの学園での、当時の状況を考慮すれば、アンジーさんは、キミのことをトラウマになるレベルで恐怖はしていないはずです」



真宮寺「………」



キーボ「それに加えて、今のキミは信頼できる言動を取っている」

キーボ「アンジーさんもまた、キミと一緒にいたい思えるくらいには、今のキミを信頼していた」

キーボ「故に、アンジーさんは、今のキミならば、死の恐怖を抑えるに足る存在であると考え、キミを居候させることを空鶴さんに頼み込んだ」

キーボ「そうして、可能な限り、二人、一緒にいることにした」

キーボ「ボク達が再会したばかりの時、一人で渡しに行くことも可能な回覧板を、二人で渡しに行っていたくらいには」



真宮寺「………」


476 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 09:32:34.65 ID:h3Y4QDXJO



キーボ「……ですが、やはり、どこか上手くいかなかった」

キーボ「……まあ、無理もないことですね」



真宮寺「………」



キーボ「……そこで、新たに現れた存在が、ボクでーーー」

キーボ「ーーーそれが、百田クン達と同じように瀞霊廷に住めるとなればーーー」






キーボ「ーーー戸惑いも、しますよ」


477 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 09:35:36.22 ID:h3Y4QDXJO



真宮寺「ーーー君は、本当によく、わかっているようだネ……」

真宮寺「そう、君は間違いなく夜長さんの希望だった」

キーボ「………」

真宮寺「君はロボット。常識的に考えて瀞霊廷に住めるはずのない存在だ」

キーボ「……ええ、まあ……」

真宮寺「故に、流魂街……この志波邸に留まり続けることになると考えるのが自然だ」



真宮寺「……しかも、君がこの志波邸に留まれば、どうなるか?」

真宮寺「君は今後、誰を最優先対象とすることになるか?」

真宮寺「言うまでもなく、夜長さんだ」



キーボ「………」



真宮寺「それは、夜長さんにとっても同じこと」

真宮寺「お互いを、これ以上にないほど大切にできる関係を築き上げることができる」

真宮寺「夜長さんは、そう考えたはずだ」


478 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 09:36:50.47 ID:h3Y4QDXJO



真宮寺「だけど、君が瀞霊廷に住めるとなると話は変わる」

真宮寺「瀞霊廷に住めるなら、ここにいる理由はなくなる」

真宮寺「夜長さんは、君を送り出さなくてはならない」



真宮寺「自分の抱える過去を、理由に」



キーボ「………」



真宮寺「そうして、君は夜長さんから離れ、入間さん達と一緒にいることになる」

真宮寺「そんな中で、君が夜長さん個人を最優先対象にするのは難しい」

真宮寺「そうだよネ?」


479 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 09:38:24.48 ID:h3Y4QDXJO



キーボ「……そうですね」



キーボ「アンジーさんと一緒に住めるのは、今日来た通知によれば、あと一週間しかない」



真宮寺「………」



キーボ「……もちろん、空間転移装置がある以上は、ボクが瀞霊廷に住んだ後も定期的にアンジーさんと会うことはできるでしょうがーーー」







キーボ「ーーー流石に、アンジーさんだけを最優先で……というのは困難であると言わざるを得ません……」


480 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 09:39:59.82 ID:h3Y4QDXJO



真宮寺「ーーーそれに加えて、君は瀞霊廷に住むことによる特権を享受できることになる」



真宮寺「輪廻転生の輪から逃れることが可能となる、特権を、ネ」



キーボ「………」



真宮寺「それは、生まれ変わりという名の “ 死 ” に怯える夜長さんにとって、羨みの対象となり得るんだ」


481 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 09:41:51.35 ID:h3Y4QDXJO



キーボ「羨み、ですか……」

真宮寺「……それも、百田君達に対するものよりも、ずっと大きな、ネ」

キーボ「……まあ、確かに、ボクは百田クン達とは違いますからね……」

真宮寺「………」

キーボ「……百田クン達は、瀞霊廷に住めるため、かなりの長生きが可能ですがーーーそれでも寿命はある」



キーボ「……だけど、ボクは、違う」



真宮寺「………」



キーボ「それは、否定できないことです」


482 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 09:42:48.94 ID:h3Y4QDXJO



真宮寺「……そうだネ。その通りだヨ、キーボ君」



キーボ「………」



真宮寺「君には寿命がない」



真宮寺「君は、永遠を持っている」



真宮寺「ロボットであるが故に」


483 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 09:45:08.69 ID:h3Y4QDXJO



真宮寺「……もちろん、機械的な寿命はあるかもしれないけどーーー悪くなった部分は取り替えれば済む話だ」

真宮寺「入間さんに頼めば、そういったことを自動でしてくれる発明品を作ってくれるんじゃないかな?」



キーボ「………」



真宮寺「……そうなれば、君は永遠だ」

真宮寺「君は、永遠の存在となり得るんだ」



真宮寺「……瀞霊廷の霊力ある魂魄が、倫理を廃した時、寿命を超越し永遠になれる可能性を持つ存在だとするならばーーー」



真宮寺「ーーー君は倫理を廃さずとも、永遠になれる存在であると言える」



キーボ「………」



真宮寺「……短い時間の中でしか生きられない、夜長さんとは、真逆の存在だ」

真宮寺「それが、夜長さんにとって、どう見えるか?」

真宮寺「その相手と、深い繋がりを持つことができるだろうか?」

真宮寺「一緒にいて、死の恐怖を抑えられるだろうか?」



真宮寺「……想像に難くない話だヨ」



真宮寺「期待と現実のあまりのギャップに、夜長さんがああなってしまうのは、無理もないことだろうネ……」


484 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 09:46:19.79 ID:h3Y4QDXJO



真宮寺「……そんな中で、君がそこまで現状を理解している」

真宮寺「それほどまでの進化を、君は遂げている」

キーボ「………」

真宮寺「それは、霊体という自由度の高い身体になって電子頭脳が活性化したが故なのかーーー」

真宮寺「ーーーそれとも、単純に “ 頼れる誰か ” がいないが故に成長したのかはわからないけどーーー」

真宮寺「ーーーそうして、君が進化したことは、今の状況において、とても喜ばしいことだヨ」



キーボ「………」



真宮寺「……うん、この分なら、君が夜長さんの神さまを全否定することはなさそうだネ……」


485 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 09:48:00.68 ID:h3Y4QDXJO



キーボ「……そんなこと、するはずがないでしょう」



真宮寺「………」



キーボ「神さまを、全否定する?」

キーボ「それは、人の心の基盤を破壊するということですよ」


486 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 09:49:27.67 ID:h3Y4QDXJO



キーボ「……人には、それぞれ、心の基盤としている過去があります」

キーボ「家族、友人、恩師、恋人、夢……人によって内容は変わるでしょうが、それでも基盤としている過去がある」



真宮寺「………」



キーボ「アンジーさんの場合、それが神さまだった」



キーボ「……そう、神さまは、人によっては、かけがえのない心の基盤、立派な過去なんです」

キーボ「なのに、その神さまが存在する可能性を奪い尽くせばどうなるか?」

キーボ「そうやって心の基盤を破壊するような真似をすれば、人に何を与えることになるか?」



キーボ「……計算するまでもないことです」



キーボ「ボクは、そういった行為に手を染めたくなどありません」



真宮寺「………」


487 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 09:50:51.68 ID:h3Y4QDXJO



キーボ「……もちろん、場合によっては、そうした行為に手を染めねばならない時もあるでしょう」

キーボ「……神さまの存在を盾に、誰かの人生を搾取したりーーー」

キーボ「ーーー人の首を集めまわる人物がいたのであれば、ボクは全身全霊を込めて破壊することでしょう……」



真宮寺「………」



キーボ「……しかし、アンジーさんは違う」

キーボ「アンジーさんが、それも過去と向き合い、生前のことを振り返ったアンジーさんが、そうした行為に手を染めるはずがない」

キーボ「……仮に、それをしているのならば、あの空鶴さん達に気づかれないとは思えない」

キーボ「そして、空鶴さん達に気づかれているのなら、空鶴さんの元に、未だアンジーさんがいられるはずがない。既に罪人として、死神の管理する施設に拘束されているはずです」

キーボ「それらの事実を考慮すれば、今のアンジーさんは、何もしていない」

キーボ「ならば、ボクに、ボクらに、アンジーさんの神さまを全否定する権利などない」



キーボ「そうでしょう?」


488 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 09:53:05.01 ID:h3Y4QDXJO



真宮寺「……その通りだと思うヨ」

真宮寺「その言葉は、王馬君達の主張と同じだ」

真宮寺「彼らと同じことを話してくれて、僕は本当に嬉しいヨ」



キーボ「………」



真宮寺「……彼らは、たった一つしかないとされる真実が、どういった結末を生み出すか知っている」

真宮寺「それを知っている彼らが、誰かの命がかかっているわけでもない状況でーーー」



真宮寺「ーーー誰かが傷つくわけでもない状況で、不用意に神さまを全否定するような言葉を放つはずがなかった」



真宮寺「そして、それは君もまた同じ」



キーボ「………」



真宮寺「……君が彼らと同じで、夜長さんと向き合うに足る存在で、僕は本当に嬉しいヨ」


489 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 09:54:09.03 ID:h3Y4QDXJO






キーボ「ーーーそうは言っても、まだ、どうしてもわからないことが残っているんですけどね……」






真宮寺「……?」





490 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 09:54:59.52 ID:h3Y4QDXJO









キーボ「……そもそも、なぜ、アンジーさんは瀞霊廷に住めないのでしょうか?」








491 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 09:57:52.23 ID:h3Y4QDXJO



真宮寺「………」



キーボ「……入間さんの【パワーセンサー】に反応した以上、アンジーさんには霊力があるはずです」

キーボ「しかし、瀞霊廷に住むことはできない」

キーボ「住めるのであれば、流魂街に留まっていないでしょうし……こうして空鶴さんのお世話になることもなかったでしょうから」

キーボ「ならば、瀞霊廷に住めない、相応の理由があるはずです」



真宮寺「………」



キーボ「……教えてください、真宮寺クン」

キーボ「これは、アンジーさんと向き合うために必要な情報なんです」

キーボ「不用意なことを言わないようにするためにも、知識が必要なんです」

キーボ「どうか、教えてくれませんか……?」







キーボ「真宮寺クン……!」


492 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 09:58:51.57 ID:h3Y4QDXJO









真宮寺「…………」








493 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 10:00:20.59 ID:h3Y4QDXJO



真宮寺「……わかった。教えるヨ」



キーボ「!」



真宮寺「どうして、夜長さんが瀞霊廷に住むことができないのか?」



真宮寺「その理由を、ネ」



キーボ「……お願いします!」


494 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 10:02:19.23 ID:h3Y4QDXJO



真宮寺「……実は言うと、夜長さんは瀞霊廷に住める条件を満たしている」



キーボ「!」



真宮寺「夜長さんは君の言う通り霊力を持っているし、僕と違って失われることもなく、今も保たれ続けている」

真宮寺「手続き上は、住むことが可能なはずだヨ」


495 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 10:03:02.22 ID:h3Y4QDXJO



キーボ「……それなら、どうしてーーー」



真宮寺「それは、夜長さんの霊力の形に問題があるからサ」



キーボ「……形……?」



真宮寺「……夜長さん、彼女はーーーー」


496 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 10:03:47.74 ID:h3Y4QDXJO









真宮寺「ーーー滅却師(クインシー)だ」








497 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 13:30:34.19 ID:uI7ZOlQMO



キーボ「……クインシー?」



真宮寺「……滅却師とは、種族単位で特殊な霊力を宿すに至ったーーー人間の突然変異種のことサ」



キーボ「ーーー!!?」



真宮寺「突然変異種である滅却師は、DNAレベルで特殊な霊力を宿している」

真宮寺「その霊力の強さによっては、生前の時点から、幽霊を見ることもできるしーーー」






真宮寺「ーーー霊子を操作することも可能だという話だ」


498 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 13:33:35.04 ID:uI7ZOlQMO



キーボ「……霊子を操作?」

真宮寺「……まァ、念動力のような力で霊子を集めて、弓矢のような武器を構築したりだとかーーーそういうことができると思ってくれれば良いヨ」

キーボ「えっ、いや、しかし、アンジーさんにそんな力はーーー」

真宮寺「そうだネ。夜長さんは昔も今もそんな力は一切扱えない」



キーボ「………」



真宮寺「……もっとも、夜長さんの場合は、種族としては滅却師でも、滅却師として育てられていたわけではないようだからネ」

真宮寺「滅却師としての、鍛錬もしていない」

真宮寺「それでは、霊力や霊圧の質が滅却師というだけの人間の魂魄でしかない」



真宮寺「故に、夜長さんに滅却師の力が扱えないのは当然だヨ」


499 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 13:39:09.71 ID:uI7ZOlQMO



キーボ「……鍛錬が必要なんですね」

真宮寺「そう、滅却師がその力を扱うためには、滅却師の力をコントロールする鍛錬をしなければならないんだ」

真宮寺「もっとも、純血の滅却師は、そのあまりに強い霊力のおかげか、鍛錬せずとも一部の力を行使できるみたいだけどーーー」



真宮寺「ーーー夜長さんは、通常の人間との混血のようでネ……」

キーボ「………」



真宮寺「……混血の滅却師は、通常の人間の血が混じっている分だけ、霊力の強さは抑え気味になる傾向にあるらしくてネ。そのため、鍛錬抜きで滅却師の力を扱うなんて、まず不可能」

真宮寺「そして、夜長さんが滅却師として育てられていたわけではないということは、鍛錬を一切していないことになる」



真宮寺「それは、今も同じ」

キーボ「………」



真宮寺「……夜長さんは、その鍛錬をするために、 “ どうにか瀞霊廷の図書館などを利用して鍛錬の仕方を調べられないか ” とも思ったようだけれどーーー」



真宮寺「ーーーそういった情報が記載された文献は、死神や貴族以外が閲覧することを禁止されているという話でネ。結局、鍛錬は諦めざるを得なかったのサ」


500 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 13:41:18.98 ID:uI7ZOlQMO



キーボ「……それで、アンジーさんがそのクインシーだったとして、いったい何が問題なんですか?」

真宮寺「……滅却師が、死神と相容れない種族だから、かな?」

キーボ「……どういうことですか?」

真宮寺「……滅却師はDNAレベルで霊力を宿している人間で、当然その魂魄も霊力を宿している」

真宮寺「そして、霊力ある魂魄は、悪霊に襲われやすい」

真宮寺「だから、滅却師が身を守るためには、霊子を操作する力で悪霊を倒す必要があるのだけれどーーーそれを死神が受け入れるわけにはいかないんだ」

キーボ「……?」

真宮寺「……滅却師は、その力で悪霊に攻撃すると、悪霊の魂魄が崩壊して、消滅してしまう」

キーボ「消滅……」

真宮寺「そう、昇華ではなく、消滅」

真宮寺「故に、その魂魄が、尸魂界に送られることはない……」



キーボ「なっーーー」



真宮寺「だけど、そんなことをすれば、その魂魄は救われないしーーー」



真宮寺「ーーーそれに加えて、現世と尸魂界にある魂魄の全体量が減少し、世界のバランスを崩してしまう」



キーボ「………」



真宮寺「滅却師が身を守るための行動が、魂魄の救済を妨げ、世界のバランスを崩してしまうことになるんだ」


501 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 13:45:10.54 ID:uI7ZOlQMO



真宮寺「故に、滅却師と死神は永きに渡り、対立を続けていた」

真宮寺「その結果、死神は滅却師と三度、戦争をすることになった」

キーボ「戦争……」

真宮寺「そう、戦争」

真宮寺「身もふたもないことを言えば、殺し合いだネ」



キーボ「………」



真宮寺「……前に、死神とは、 “ 生きている人を殺して、無理やりあの世に連れて行く ” ような存在ではないと説明したけどーーー」

真宮寺「ーーーそれはあくまでも、 “ 現在の死神が、生者を積極的に殺害することを目的とした集団ではない ” という意味で言ったこと」

真宮寺「相手が自分達にとって、害となるのであれば、例外的にその命を奪う選択をすることもある……」



真宮寺「……時には、肉体だけでなく、その魂魄ごと、ネ」



キーボ「…………」


502 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 13:51:28.93 ID:uI7ZOlQMO



真宮寺「……そうした殺し合い、戦争は、とても残酷なものだ」

真宮寺「中でも、十年近く前、 “ ユーハバッハ ” という滅却師の王が引き起こした戦争は、相当凄惨なものだったようでネ」

真宮寺「 “ 見えざる帝国 ” という、霊体に進化した滅却師の群勢が、瀞霊廷の中にまで侵攻しーーー護廷十三隊の死神の約半数を、殺害するに至ったそうだ」



キーボ「………!!?」



キーボ「ま、待ってください!!」

キーボ「瀞霊廷……赤松さん達は、盤石なセキュリティで守られているんじゃーーー」



真宮寺「当時は、瀞霊壁と遮魂膜の性能が現在ほど高くなかったらしい」

真宮寺「また、瀞霊廷の門番達も、まだ特殊な結界霊術を扱いきれなかったとのことだ」



キーボ「結界霊術……?」



真宮寺「……僕も詳しくは知らないんだけどーーー現在は門番達の霊圧などを媒介に、特殊な結界霊術が常時発動されているようでネ」

真宮寺「無意識に発動されし “ 見えない結界 ” が、瀞霊廷やその付近を覆い、特殊な形で守っているらしいんだ……」



キーボ「………」


503 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 13:55:10.67 ID:uI7ZOlQMO



真宮寺「……亡くなった死神達とその関係者の名誉のためにも言っておくけどーーー別に当時のセキュリティが脆弱だったわけじゃない」

真宮寺「当時の瀞霊壁や遮魂膜だって、大概のものなら決して通さなかったしーーー」



真宮寺「ーーー瀞霊廷への不法侵入を試みる者が現れた時には、まるでそれを予知していたかのように、瀞霊壁は降り注いだ」

真宮寺「不法侵入されるより前のタイミングで、必ずと言っていいほど空から降り注ぎーーーその壁の効力で、門以外からの侵入をほとんど阻止し守ってくれた」

真宮寺「門を任された門番達だって、大概の相手ならば一撃で倒していたという話だ」



キーボ「………」



真宮寺「……ただ、滅却師が何枚か上手で、僅かな隙を突かれてしまった」

真宮寺「それだけのことに過ぎないのサ……」


504 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 13:57:14.40 ID:uI7ZOlQMO



真宮寺「……そうして僅かな隙を突かれた結果、滅却師の群勢が瀞霊廷の中にまで侵攻してしまった」



キーボ「………」



真宮寺「……もっとも、それは、死神達によって返り討ちにしたもののーーーそれでも被害が甚大なことに変わりはない」

真宮寺「かつての護廷十三隊のトップ……総隊長を殺され、その副官を含め、最終的には約半数もの死神を殺されるに至った……」



キーボ「…………」



真宮寺「……そうした前代未聞の大被害は、人手不足など多数の問題を生み出し、今も死神達に多大な影響を与えているんだ」


505 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 14:02:00.39 ID:uI7ZOlQMO



真宮寺「……もちろん、今では、多少は人手も回復しているし、セキュリティもより盤石と呼べる状態に昇華されている」



キーボ「………」



真宮寺「……ただ、どんなに頑張って外側を埋め直したとしても、人の心まで同じように直るとは限らない」



真宮寺「戦争でつけられた心の傷は未だ残っており……油断すれば、傷口から負の感情が吹き出してしまいそうになる」


506 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 14:04:45.77 ID:uI7ZOlQMO



真宮寺「そう、仲間を、大切な人を奪われる……取り返しのつかない痛み……」

真宮寺「……そうした痛みが、死神の心から強い恐怖と憎しみを生じさせることになった」



キーボ「………」



真宮寺「….…そうして生まれた感情は、今だけではなくこれからも強く残り続けるだろう」



真宮寺「死神の寿命が長い以上、そうなるのが自然だ」



真宮寺「そうしたこともあってか、夜長さんと僕、他のみんなが尸魂界に辿り着いたばかりの時、大勢の死神に囲まれた」

真宮寺「その時の僕は冷静じゃなかったから具体的には覚えていないけどーーー星君が言うには、死神から相当の憎悪を感じたそうだヨ」



キーボ「………」


507 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 14:06:10.85 ID:uI7ZOlQMO



真宮寺「そう、死神達は、それほどまでの憎悪……いや、あらゆる負の感情を、滅却師に抱いてしまっている」

真宮寺「そんな中で滅却師が瀞霊廷に住んだりしたらーーーいつ嬲り殺しにされてもおかしくはない」



キーボ「………」



真宮寺「たとえ、滅却師であることを黙っていても同じこと」

真宮寺「滅却師は存在するだけで滅却師としての霊力や霊圧を発生させてしまうし、死神はそうしたものを見分ける感知能力を有しているのだから」



キーボ「………」



真宮寺「そうした状況で、滅却師である夜長さんが瀞霊廷に住めばどうなるか?」



真宮寺「死神達の近くにいれば、何が起きてしまうか?」



真宮寺「……想像に難くない話サ」


508 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 14:07:48.76 ID:uI7ZOlQMO



キーボ「……戦争をしたのは、そのクインシーの人達でアンジーさんではないでしょうに……」

真宮寺「……そうだネ」

キーボ「それに、クインシーとしての力を扱えないアンジーさんに、悪霊を消滅させたり、死神を殺したりなんて、できるはずがないのに……」

真宮寺「……君の言う通りだと思うヨ」



真宮寺「夜長さんは、そういったことはしていない」



真宮寺「だから、死神が夜長さんに危害を加えるような真似をすれば、その死神は自分達の法で厳重に罰せられるというリスクを背負うことになるはずだ」

真宮寺「きっと、いや間違いなく、死神の力と称号を剥奪され、名実共に死神でいられなくなるだろうネ」



キーボ「………」


509 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 14:09:17.10 ID:uI7ZOlQMO



真宮寺「夜長さんに危害を加えるだなんて、大間違いも良いところだと思うけどーーー」

真宮寺「ーーー死神の全てが、己が恐怖や憎しみを御しきれるとは限らないしーーー」



真宮寺「ーーーなにより、人は、間違いを犯す存在だ」



真宮寺「時には、間違いをも超える……大間違いに手を染めることもある……」



キーボ「………」



真宮寺「……どんなにルールで縛り付けられてもそれを破り……程度の差はあれ、人を傷つける者がいるように、ネ」



キーボ「…………その通りですね」


510 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 14:10:15.91 ID:uI7ZOlQMO



真宮寺「……人によっては、死神であることを捨ててでも、大間違いに手を染めるかもしれない……」

真宮寺「……目の前に恐怖、憎しみの対象が存在するとなれば、尚更……」



キーボ「………」



真宮寺「……よほどの人格者、あるいは、 “ 間違わないよう、支えてくれる誰か ” を持つ者であれば、目の前の恐怖や憎しみにも対抗できるかもしれない」

真宮寺「だけど、世界は必ずしも、そんな存在ばかりではない……」



キーボ「………」


511 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 14:12:28.82 ID:uI7ZOlQMO



真宮寺「……もちろん、夜長さんは、種族が滅却師というだけで、恐怖や憎しみの対象となるようなことはしていない」

真宮寺「だけど、人は、対象と同一性があるというだけで、関係のない誰かに対しても同様の感情を抱いてしまうこともある」

真宮寺「故に、人によっては、滅却師である夜長さんは恐怖や憎しみの対象となってしまうかもしれない」



キーボ「………」



真宮寺「……人が罪を犯せば、その当人だけでなく、その家族まで恐怖され、憎まれることがあるように」

真宮寺「一つの種族が殺人などの罪を犯せばーーーそれと同じ種族の全てが、まるで同罪かのように扱われてしまいかねないんだ」



キーボ「………」


512 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 14:14:03.07 ID:uI7ZOlQMO



真宮寺「そして、恐怖や憎しみ……負の感情は、人を苦しめる」

真宮寺「そうした苦しみから目を逸らし、苦しみを感じることから逃げ出したくもなる」

真宮寺「そうやって逃げ出したい気持ちに駆られておかしくなってしまえばーーー恐怖や憎しみの対象となる存在に、暴言を吐くこともあり得る」



キーボ「………」



真宮寺「【暴言を吐いて追い詰めて】【対象を “ 死 ” に近づければ】ーーー」



真宮寺「ーーー【そうやって近づけた分だけ】【自分の気持ちは晴れるだろう】……」



真宮寺「……【我が身の安全は保障され】【苦しみは消えるだろう】….…」



真宮寺「……そんな間違った認識をしてーーーその認識のままに、大間違いを犯してしまうこともあり得る」

真宮寺「それが、人という存在でもあるんだヨ」



キーボ「………」


513 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 14:15:50.72 ID:uI7ZOlQMO



真宮寺「……あァ、断っておくけど、夜長さんは、これまで死神から危害を加えられたことはないからネ?」

キーボ「……わかってます」

キーボ「キミがアンジーさんの前で死神の話をしていたことから考えるにーーーアンジーさんは、死神から感情のままに暴言を吐かれたりなど、危害を加えられたことはないのでしょう」

キーボ「そうでもなければ、キミは、アンジーさんの前で、死神の話をするだなんて、できなかったでしょうから」

真宮寺「………」

キーボ「それに、ボクらが再会したばかりの時、アンジーさんが外を出歩いていたことから考えてーーーアンジーさんの行動範囲に出向いている死神は、人格者ばかりなのでしょう」

キーボ「ただ、それでも、アンジーさんはクインシーであり、その事実は、アンジーさんの心に不満を生じさせてしまう」

キーボ「……瀞霊廷に住めないという、不満を」



真宮寺「………」



キーボ「……そういうこと、なのでしょう」


514 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 14:18:25.04 ID:uI7ZOlQMO



真宮寺「……そうだネ」



真宮寺「夜長さんは、滅却師だった」

真宮寺「そしてそれは、死神の管理する尸魂界において、デメリットの塊だった」

真宮寺「この辺りでは、まともな扱いをされてはいるけれどーーーそれ以外の場所では、どう扱われるかわからない」



キーボ「………」



真宮寺「滅却師であることのメリット……特別な力を持っているということを活かし、その力を鍛えて自らを誇ることもできない」

真宮寺「それに加えて、霊力ある身でありながら、死神全体の感情の問題から、瀞霊廷に住むこともできない」



真宮寺「どんな力も、それを御しきれないのならば、本人にとっては何の意味もない」



真宮寺「夜長さんが置かれている状況は、その証明であるとも言える」

真宮寺「……たとえ、自分がどんなにすごい超能力を持っているかもしれなくても、実際に超能力を扱えなければ、その超能力はないも同然ーーー」



真宮寺「ーーーいや、夜長さんの場合、完全になかった方がまだメリットがある」



真宮寺「完全になければ、瀞霊廷に出入りするくらいは普通にできただろうからネ……」


515 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 14:20:12.40 ID:uI7ZOlQMO



キーボ「……だからこそ、アンジーさんは、ああなってしまったわけですね」



真宮寺「……そうだネ」



真宮寺「滅却師という、自分にはよくわからないことを理由に、世界の管理者である死神から睨まれるという現実」

真宮寺「そのせいで、瀞霊廷に住めず、輪廻転生から逃れられないという現実」

真宮寺「神さまの声を生前のように聞くことが叶わず、才能を行使できないという現実」

真宮寺「そんな残酷な状況下で、いつ転生を迎えるかわからないという現実」

真宮寺「そうして、いずれ、今の自分が終わり、 “ 死 ” を迎えることになるという現実」



真宮寺「……それらの現実は、夜長さんにとって、あまりにあまりだった」


516 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 14:21:39.65 ID:uI7ZOlQMO






キーボ「……故に、アンジーさんは、死の恐怖を抑えるために、深く繋がれる誰かを求めーーー」






キーボ「ーーーそれが叶わなくなったと感じ、ああなってしまった……」





517 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 14:23:09.77 ID:uI7ZOlQMO



真宮寺「……解決し難い、根深い問題だヨ」

真宮寺「生前の……今までの常識が通用しない世界に突如として放り込まれ、上手く適応することができない……」

真宮寺「さらには、瀞霊廷という誰もが憧れる世界に住むことも叶わず……生まれ変わりを待って生きるしかない」



真宮寺「そうして、 “ 死 ” に、怯え続けることになる」



真宮寺「それも、生前に抱いていた信仰を揺るがされ、生前に最も信頼していた相手(神さま)と語らうこともできずに、ネ….…」



キーボ「………」


518 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 14:24:39.17 ID:uI7ZOlQMO



真宮寺「……そうした一面を切り取ってみれば、程度の差はあれ、この尸魂界では当たり前のように起きていることでもあるけれどーーー」



真宮寺「ーーーだからこそ、解決の目処が立たない、根深い問題でもあるのサ」



真宮寺「決して、目を逸らしてはいけない程に、ネ」



キーボ「………」


519 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 14:25:52.52 ID:uI7ZOlQMO



真宮寺「……ねェ、キーボ君?」



キーボ「………」



真宮寺「君はこの問題とーーー」









真宮寺「ーーー夜長さんと、どう向き合うつもりなんだい?」


520 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/09/30(月) 14:26:59.65 ID:uI7ZOlQMO



キーボ「………」



キーボ「…………」






キーボ「………………」









キーボ「……………………」



ーーーーーーーーーー


ーーーーーー


ーーーー


ーー


521 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/10/01(火) 21:46:18.41 ID:cZTh89m1O



これで前編は終了です。下記の次スレから後編に突入します。


【BLEACH×ロンパV3】キーボ 「砕かれた先にある世界」【後編】
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1569933726/


よろしければお読みください。



522 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/10/01(火) 21:52:48.00 ID:cZTh89m1O



真宮寺「……あァ、断っておくけど、夜長さんは、これまで死神から危害を加えられたことはないからネ?」

キーボ「……わかっています」

キーボ「キミがアンジーさんの前で死神の話をしていたことから考えるにーーーアンジーさんは、死神から感情のままに暴言を吐かれたりなど、危害を加えられたことはないのでしょう」

キーボ「そうでもなければ、キミは、アンジーさんの前で、死神の話をするだなんて、できなかったでしょうから」

真宮寺「………」

キーボ「それに、ボクらが再会したばかりの時、アンジーさんが外を出歩いていましたからね」

キーボ「そのことから考えて……アンジーさんの行動範囲に出向いている死神は、よほど負の感情を抑えるのに長けた人達かーーー」



キーボ「ーーーあるいは、アンジーさんと十年前のクインシーを完全に区別できる、そんなサッパリした人達ばかりなのでしょう」



真宮寺「………」



キーボ「ただ、それでも、アンジーさんはクインシーであり、その事実はアンジーさんの心に不安や不満を生じさせてしまう」



キーボ「……クインシーというイレギュラーな身の上で、死神の世界を生きるしかないという不安を」

キーボ「……霊力があるのに瀞霊廷に住むこと叶わず、いつ生まれ変わることになるか、わからないという不満を」



キーボ「生じさせて、しまう」



真宮寺「………」



キーボ「……そういうこと、なのでしょう」


523 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/10/01(火) 21:54:20.12 ID:cZTh89m1O



>>513>>522に差し替えます。


また、後で同じように、他の部分を差し替えるかもしれません。なので、このスレは埋め立てないようにお願いします。


それでは次スレで。



524 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/10/03(木) 18:07:57.46 ID:mG1LC3nJO



キーボ「……なんですか、それらは?」

真宮寺「まず、瀞霊壁についてだけどーーー瀞霊廷の外側を取り囲む巨大な壁のことサ」

真宮寺「その壁は、本来、霊王宮を取り囲んでいるんだけどーーー」

真宮寺「ーーー瀞霊廷への不法侵入を試みる者が現れた場合などに限り、地上まで降って瀞霊廷を囲み、侵入を防いでくれるんだ」

キーボ「!?」

真宮寺「……たとえ、空間転移を悪用して不法侵入を試みようとも、光の速度で不法侵入を試みようともーーー」

真宮寺「ーーー瀞霊壁はそれらを何らかの方法で察知し、自らを地上へと降り注がせるそうだ」

真宮寺「……不思議なことに、侵入が完了する前に地上に到達する」

真宮寺「そして、その壁の機能によって、瀞霊廷外部からの空間転移などは阻害されーーー超スピードなどによる侵入さえも不可能にしてくれるんだ」



キーボ「?!?!?」



真宮寺「……あァ、もちろん、不法侵入以外の場合でも、瀞霊壁は降り注ぐ」

真宮寺「瀞霊廷に危機が迫っている時ーーーあるいは、ここしばらくのように、瀞霊壁が地上でも機能するか、入念な定期チェックを行う場合などに限りーーー」

真宮寺「ーーー必ず降って、瀞霊廷を取り囲んでくれるんだヨ」



キーボ「…………ち、ちょ、ちょっと待ってください!?!」

キーボ「……た、確か、霊王宮の下には、七十二以上の障壁があるのではーーー」

真宮寺「大丈夫。瀞霊壁が降る場合、霊王様の御力で自動的に障壁などを透過するようになっているから」

キーボ「……!!?」

真宮寺「……もっとも、障壁を破壊することなく地上まで届けられるかは、体調次第らしいけどーーー」

真宮寺「ーーー現在、霊王様の体調が急激に悪化することはないらしくてネ。それ故に、どんな時もオートで可能とされている」

真宮寺「まァ、いくらか制限はあるようだけどーーーそれに引っかからなければ、万物を透過する力を一時的に付与するくらいは、可能らしい」


525 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/10/03(木) 18:11:18.46 ID:mG1LC3nJO
>>286>>524に差し替えます。


……もう、あまり差し替えはしたくないのですが、個人的にどうしても許容できない部分があったので。差し替えさせて頂きます。


すみません。
526 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/10/22(火) 23:11:42.44 ID:Lvdsr++LO



真宮寺「……いや、まァ、正確には、現世でも多かれ少なかれ超常現象は起こり得るんだけどネ。霊子は現世にもあるわけだからサ」

真宮寺「だけど、それらのものを、現世に生きる大多数が見て記憶することは “ 基本的に ” 無理だ」

真宮寺「霊子やそれによって引き起こされる超常現象を、認識しきれないのが現状なんだヨ」

アンジー「………」

真宮寺「……もちろん、【生前の時点から相応の霊力を持ち】【その影響で霊子などを】【ある程度知覚可能になっている】などといった状況にあれば話は別だ」

真宮寺「でも、そういうケースはとても少ないしーーー」



真宮寺「ーーーもしも、【なんらかの理由で】【本来霊力を持たない人達でも】【霊子などを知覚できる状況にあった】としても、それらを記憶し続けることはできないだろうネ」

キーボ「!?」

真宮寺「……死神が、混乱防止のため、別の記憶に書き換えてしまうだろうからサ」

真宮寺「記換神機(きかんしんき)と呼ばれる記憶操作技術を使って、ネ」

キーボ「………!」

真宮寺「だから、現世では、霊子やそれによる超常現象を、当たり前のものとされていない」

真宮寺「……もちろん、知らないもの、目に見えないものに対して、想像を働かせることはできるだろうけどーーー」



真宮寺「ーーー全容を知り、記憶する術を持たない以上、自分達の想像が実状と一致しているかどうか、死ぬまで確かめることはできない……」

真宮寺「……そう、実際に死を迎えて魂だけの状態になり、死の側の存在とならない限り、確かめることは不可能」

キーボ「………」

真宮寺「……多くの人達は、霊子やそれによる現象を、死ぬまで当たり前のものとして認識できない運命にあるのサ……」


527 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/10/22(火) 23:14:14.32 ID:Lvdsr++LO
>>251の内容を>>526の内容に修正します。
528 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/10/25(金) 16:54:05.57 ID:mgyLMstaO



キーボ「……もちろん、場合によっては、そうした行為に手を染めねばならない時もあるでしょう」

キーボ「……もしも現在、神さまの存在を盾に、誰かの人生を搾取したりーーー」

キーボ「ーーー人の首を集めまわる、とんでもない人物がいるのであれば、ボクは全身全霊を込めて破壊することでしょう……」



真宮寺「………」



キーボ「……しかし、アンジーさんは違う」

キーボ「アンジーさんが、それも過去と向き合い、生前のことを振り返ったアンジーさんが、神さまを盾に、とんでもないことをするはずがない」



キーボ「……仮に、それをしているのならば、あの空鶴さん達に気づかれないとは思えない」



キーボ「そして、空鶴さん達に気づかれているのなら、この家に、未だアンジーさんがいられるはずがない。既に罪人として、死神の管理する施設に拘束されているはずです」

キーボ「それらの事実を考慮すれば、今のアンジーさんは、何もしていない」

キーボ「ならば、ボクに、ボクらに、アンジーさんの神さまを全否定する権利などない」



キーボ「そうでしょう?」


529 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/10/25(金) 16:56:38.36 ID:mgyLMstaO
>>487>>528の内容に修正します。
530 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/11/03(日) 13:08:10.96 ID:D/3mEdeRO



真宮寺「……その通りだと思うヨ」

真宮寺「その言葉は、王馬君達の主張と同じだ」

真宮寺「彼らと同じことを話してくれて、僕は本当に嬉しいヨ」



キーボ「………」



真宮寺「……彼らは、たった一つしかないとされる真実が、どういった結末を生み出すか知っている」

真宮寺「それを知っている彼らが、神さまを全否定するはずがなかった」

真宮寺「……自分や他の誰かの命がかかっているような状況であれば、話も変わるだろうけどーーー少なくとも、現在はそうじゃない……」



真宮寺「……もちろん、個人の主義主張、心情的な理由などもあり、【神さまには従えない】【神さまに頼ることはできない】などと述べてはいたけどーーー」



キーボ「……っ、!!」



真宮寺「ーーーだけど、それでも、夜長さん本人を見守っている神さま……その存在を丸ごと否定することはなかったんだ」



真宮寺「……そんな彼らは、【キーボ君達がここに来たら】【自分達と同じように考え】【決して神さまを、全否定することはないだろう】とも言っていた」



キーボ「!」



真宮寺「彼らが、キーボ君に向けた信頼……やはりそれは間違いじゃなかった……」



真宮寺「君が彼らと同じで、夜長さんと向き合うに足る存在で……僕は本当に嬉しいヨ」


531 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/11/03(日) 13:10:10.98 ID:D/3mEdeRO
>>488>>530の内容に修正します。
532 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/11/03(日) 13:19:34.04 ID:D/3mEdeRO



キーボ「……そうは言っても、まだ、どうしてもわからないことが、二つ残っているんですけどね……」

真宮寺「……?」

キーボ「……まず、一つ目ですがーーーそれはキミの言動についてです」

真宮寺「!」

キーボ「……この世界でのキミの言動ーーーそれは、生前に暴露した “ あれ ” と比較して……信頼できるものではあります」

キーボ「ですが、それでも、思い返してみるとーーーいくらか無神経な部分が見受けられたように思います」

真宮寺「………」

キーボ「……いや、ボクもあまり、とやかく言えた身ではありませんがーーーそれでも、この世界でのキミの言動には、どこかおかしなところがあった」

キーボ「キミは当時のボクと違って、アンジーさんの精神が不安定な状態にあることを知っていたはずで……その理由も理解していたはずです」

キーボ「しかし、それにしては、言動にいくらか無神経な部分があったように思えるのですがーーー」



真宮寺「ーーーそれは、僕のミスだネ」



キーボ「………」



真宮寺「……それ以外に、答えようがない」



真宮寺「……どこがどういけなかったのか? 後で教えてくれると、助かるヨ……」



キーボ「…………わかりました。後でお教えします。これからは、ボクと一緒に、気をつけあっていきましょう」



真宮寺「………」



キーボ「……そして、最後、二つ目にわからない部分についてですがーーーー」


533 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/11/03(日) 13:22:31.99 ID:D/3mEdeRO
>>489>>532の内容に修正します。
534 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/11/06(水) 22:27:28.64 ID:MBqHbLacO



アンジー「……転子なら大丈夫だと思うよー?」



キーボ「……アンジーさん?」



アンジー「……転子は、すごい子だからねー」



アンジー「そんな転子なら……守りたい女の子のため、どんなことだってできちゃうよー!」


535 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/11/06(水) 22:28:11.27 ID:MBqHbLacO
>>334>>534の内容に修正します。
536 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/11/06(水) 22:49:17.33 ID:MBqHbLacO



キーボ「…………そう、でしたか…………」



アンジー(……あー、やっぱり、謝らないんだねー、キーボ。きのうやおととい、言ったこと……)


アンジー(……もう、神さまに頼る気はない。従う主がいないーーー)


アンジー(ーーーそうした言葉を……キーボは謝らない)



キーボ「………」



アンジー(……まあ、そうなるよねー……)


アンジー(…… “ キーボたちは ” 、アンジーの神さまに頼ってーーーそのために、アンジーを、止められなかった)


アンジー(……だから、アンジーは、こうしてーーー)


アンジー(ーーーそれを思えば、キーボは、もう神さまにーーー)


アンジー(ーーーその選択を、謝るなんて……キーボには、できなかったんだ……)


アンジー(……だって、そんなことをしたら、アンジーはーーー)



キーボ「………」



アンジー(ーーーうん、この話、これ以上はヤメだね。イヤな気持ちが、酷くなる)


アンジー(……それに、いまはもっと前向きでいかないとー……!)


アンジー(……そうだよ。せっかく、キーボがアンジーのところまで来てくれたんだからさー!)




アンジー(……だったら、アンジーは、もっともっと、キーボにーーー)




アンジー(ーーーアンジーの、気持ちをーーーー)


537 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/11/06(水) 22:50:53.68 ID:MBqHbLacO
>>411>>536の内容に修正します。
538 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/11/07(木) 20:26:00.81 ID:N3Dty6MdO



キーボ「……別の、神さまーーー」



キーボ「ーーーその存在を、ボクが頼りにすることは、ないでしょう……」



アンジー「………」



キーボ「……なぜなら、ボクはーーー」









キーボ「ーーー神さまに、頼ることが……できません、から……」


539 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/11/07(木) 20:26:47.61 ID:N3Dty6MdO
>>393>>538の内容に修正します。
540 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/11/07(木) 23:03:56.80 ID:N3Dty6MdO
ごめんなさい。>>530>>531はミスでした。なかったことにしてください。
541 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/11/07(木) 23:08:46.85 ID:N3Dty6MdO



真宮寺「……その通りだと思うヨ」

真宮寺「その言葉は、王馬君達の主張と同じだ」

真宮寺「彼らと同じことを話してくれて、僕は本当に嬉しいヨ」

キーボ「………」

真宮寺「……彼らは、たった一つしかないとされる真実が、どういった結末を生み出すか知っている」

真宮寺「それを知っている彼らが、神さまを全否定するはずがなかった」

真宮寺「……誰かの命がかかっている状況なら、話も変わるだろうけどーーー少なくとも、現在はそうじゃない……」



真宮寺「……無論、個人の主義主張……あるいは、経験上の…………理由によりーーー」



真宮寺「ーーー【神さまには従えない】【神さまに頼ることはできない】ーーー」



キーボ「!」



真宮寺「ーーー彼らもまた、そう述べざるを、得なかった…………」



キーボ「っ、!!」



真宮寺「……だけど、それでも、夜長さん本人を見守っている神さま……その存在を丸ごと否定することはなかったんだ」

真宮寺「……そんな彼らは、【キーボ君達がここに来たら】【自分達と同じように考え】【決して神さまを、全否定することはないだろう】とも言っていた」

キーボ「!!!」

真宮寺「彼らが、キーボ君に向けた信頼……やはりそれは間違いじゃなかった……」

真宮寺「君が彼らと同じで、夜長さんと向き合うに足る存在で……僕は本当に嬉しいヨ」


542 : ◆02/1zAmSVg [saga]:2019/11/07(木) 23:11:07.38 ID:N3Dty6MdO
>>488の内容を>>541の内容に改めて修正します。

こっちが正しい修正内容です。>>530>>531はミスなので、なかったことにしてください。

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