【オリロンパ】矛盾の希望とコロシアイ洋館生活RESTART

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22 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/15(日) 11:53:19.01 ID:kmZ3CMrA0
訂正

天童「あれ?でも超高校級のピアニストって確か女の子じゃなかったか?」



東「あれ?でも超高校級のピアニストって確か女の子じゃなかったか?」
23 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/15(日) 12:07:34.42 ID:kmZ3CMrA0
東「俺なんか悪い事言ったかな……」

伊勢「東君ではなく僕の出そうとした名前に反応したようだ。東君の気に病む事ではないだろう」

「んしょんしょ……」

扉の開く音がしてそちらを見ると現れたのは……花束?

伊勢「喋る花束か……興味深いな」

一里塚「いや、誰かが花束抱えてるだけだよ……」

「誰かいるの?もしかして妖精さん?」

天童「よ、妖精さんですか?」

伊勢「ふむ、もしかしたらその可能性もあるから否定は出来ないな」

甲羅「マジか!?」

一里塚「いや、ないと思う……えっと花で見えないからちょっと顔見せてくれる?」

一里塚君の言葉に応えたのか、花束がゆっくり床に置かれる。

その向こうにいたのは白いフリルが大量についた服を着たツインテールの少女。

「こんにちは妖精さん。ユナは祭田結奈だよ」

・祭田 結奈(マツリダ ユナ)
〔超高校級の花屋〕

紫乃「祭田……もしかしてマツリダフラワーの方ですか?」

祭田「それはユナのお花屋さんだよ?」

ダヴィテ「あらやだ、妖精さんみたいに可愛らしい子じゃない!アタシには少し負けるけど!」

祭田「むぎゅ」

祭田結奈……小さな花屋をマツリダフラワーというフラワーアレンジメントも手掛ける大会社に成長させた〔超高校級の花屋〕。

彼女の飾った花は芸術品としての評価も高い……この小柄な少女がそうなのか。

符流「ふん」

祭田「……」ジー

符流「なんだ〜♪」

祭田「巨人さん?」

符流「巨人……!?」

姫島「……っ」

東「えっ、今姫島笑って」

姫島「……」

ふむ、だいぶ賑やかになったな……もう十人いるのだから当たり前かもしれないが。
24 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/15(日) 12:29:52.03 ID:kmZ3CMrA0
伊勢「……」

人数も増えて雰囲気もどこか柔らかい。

やはり同じような境遇が1人ではなかったというのがよかったのだろう。

バンッ!!

一里塚「わっ!?な、なに?」

まるで壊すんじゃないかと言わんばかりに開かれた扉。

そこから出てきたのはセパレートの青いコスチュームの上からブレザーを羽織った金髪の女性。

その眉はつり上がり、洋子君以上の気の強さを如実に表している。

天童「はやてお嬢様!」

天童君が笑顔を浮かべてその女性に駆け寄る。

そうか、彼女が天童君の主人……

・駆祭 はやて(カケマツリ ―――)
〔超高校級のレースクイーン〕

駆祭はやて……レーシングチームのサポートや広報をこなし、勝利に導く〔超高校級のレースクイーン〕。
しかしそれはあくまでも表の顔……裏ではまさにクイーンの名の通りレーシングチームを支配し、運営しているらしい……

バシッ!

天童「っ!」

ダヴィテ「あら?」

紫乃「いきなり頬をはたくなんて……」

頬を打たれて床に倒れた天童君を駆祭君は冷たい目で見下ろしている。

見知った執事に会えた喜びなどそこには全くない。

駆祭「このワタシを探しもせず随分と他人と仲良しこよししてたようね昴」

天童「申し訳ありません、はやてお嬢様……」

駆祭「お前、自分が超高校級だからって調子に乗っているわね?」

天童「そ、そのような事は……っ!」

駆祭「主に口答えか。それが既に調子に乗っているのよ!」

天童「も、申し訳ありません!」

天童君の髪を掴み、さらに平手打ちをぶつける駆祭君。

これは止めなければまずいと僕を含めた何人かが2人の下に向かう。

東「おいおい、そこまでにしておけよ。いくらなんでも」

駆祭「触るな下等!」

東「か、下等?」

駆祭「ちっ、下等に触れられて汚れた!昴、何を寝ているの!今すぐ消毒しなさい!」

天童「は、はい……」

駆祭君の命令に素直に従う天童君……どうやらこの主従は相当歪なようだ。

東「……」
25 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/15(日) 13:08:25.18 ID:kmZ3CMrA0
駆祭君が現れてから雰囲気は完全に悪化していた。

いつ破裂するかもわからない緊張感。

「ああん?なんだこの空気はよ」

そんななかで、また扉が開く。

そこにいるのは目つきの鋭い男……ふむ、緑のジャージや抱えているバッグから見えるテニスラケットからして彼は……

「オイ、この百鬼勇次様にガンつけてんじゃねえぞ、こらぁ!!」

・百鬼 勇次(ナキリ ユウジ)
〔超高校級のテニス部〕

百鬼勇次……高校生にして世界ランキングに入る〔超高校級のテニス部〕。
噂ではトーナメントでは優勝者が彼と試合する権利を得るという形になっているとか……

百鬼「オイ、てめえだよてめえ!!この俺をさっきからジロジロ見やがって!!」

そんな百鬼君が睨んでいるのは……よりによって駆祭君。

駆祭「また下品な下等が入ってきたと呆れただけよ」

百鬼「それは俺の事を言ってんだな?」

駆祭「あら、自分が言われたという事を理解できる知能はあるみたい。プランクトンに格上げしてあげるわ、光栄に思いなさい」

百鬼「このアマ……痛い目見ねえとその口は閉じねえらしいな」

駆祭「……やれやれ、低脳プランクトンはこれだから嫌ね」

天童「……お嬢様へ危害を加えるようなら私がお相手いたします」

百鬼「上等だ!ぼろ雑巾にして……ああん?」

今にも暴れそうだった百鬼君は、天童君を見るなり眉を潜める。

そして……握っていた拳を解いて駆祭君に背中を向けた。

百鬼「ちっ、やめだやめ。怪我してんのなんか相手にできっか」

駆祭「あら、逃げるのかしらプランクトン」

百鬼「……てめえ、そいつのご主人様ってとこか?」

駆祭「それが?」

百鬼「……かわいそうなやつだなてめえ」

駆祭「は?」

百鬼「……」

駆祭「今哀れんだ?この駆祭はやてを?あのプランクトンごときが?」

駆祭「……昴!!今すぐそのプランクトンを――」

伊勢「……ふむ、プランクトンと言うが、随分その言葉に左右されているようだ」

駆祭「!!」

その言葉に駆祭君がこちらを睨み付ける。

しかしもう何も出来ないのか、その口が開く事はなかった。

百鬼「やるなてめえ」

伊勢「思った事を言っただけだ。そちらも冷静な判断感謝する」

百鬼「へっ」

どうやら彼は言動に隠れているが、的確な判断力を持つようだな……
26 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/15(日) 13:53:28.15 ID:kmZ3CMrA0
「ぐすっ、ここどこぉ……?」

駆祭君と百鬼君が衝突せずに済んだ事に安堵の空気が漂うなか、入ってきたのは祭田君と変わらない身長をした少年だった。

ふむ、スーツが妙にアンバランスに感じるな。

「あっ、あー!誰かいる!良かったぁ……」

僕達を見つけたらしい少年はハンカチで涙を拭くと僕達に向かってくる。

「あ、あの!ぼく奥寺軌跡って言います!ここの家の人ですか!?」

・奥寺 軌跡(オクデラ キセキ)
〔超高校級のプロデューサー〕

奥寺軌跡……数多くのプロデュースを成功させてきた〔超高校級のプロデューサー〕。

彼によって花開いた芸能人はたくさんいて、彼がその気になれば芸能界を掌握できる程らしい。

最も、彼にその気は全くないようだが。

奥寺「ぐすっ、そうですか……皆さんもぼくと同じでしたか……」

祭田「泣かないで」ナデナデ

奥寺「あうっ、ありがとう」

一里塚「うーん、なんて微笑ましい光景……」

ダヴィテ「うふふ、食べちゃいたいぐらいね!」

2人共高校生なのだが……確かに微笑ましくはあるか。

姫島「……久しぶりプロデューサー」

奥寺「姫島さん!?まさかこんなところで会えるなんて……」

どうやら姫島君も知り合いだったようだな。

奥寺君もこれで少しは安心出来るだろう。
27 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/15(日) 23:10:42.05 ID:kmZ3CMrA0
伊勢「ふむ」

これだけの人数が集まったわけだが……まだ他にも人はいるのだろうか?

それに誰もここに来た経緯を知らないというのも気にかかる。

「ふふふふふ……」

伊勢「……?」

なんだ?この笑い声は……

「いいね!実にいい!」

伊勢「っ!?」

喜色に満ちた声と共に扉を勢いよく開いて入ってきたのは、モノクルを着けた青いベストに焦げ茶色のスカートを履いた少女。

モノクルを弄りながら僕達を見るその顔は満面の笑みという形容が相応しいものだった。

「素晴らしいよ。超高校級の人達がいっぱいだ!」

「おっと自己紹介が遅れたね!」

「ボクは中後直巳!しがない鑑定士さ!」


・中後直巳(ナカウシロ ナオミ)
〔超高校級の鑑定士〕


中後直巳……数々の美術品や骨董品の鑑定を任されてきた〔超高校級の鑑定士〕。
真偽を確かめたければ中後直巳に頼ればいい……そんな言葉すらあるほどだ。

中後「うんうん、この屋敷といいここにいる人達といい素晴らしいの一言だね」

中後「だけど特に君は興味深いよ」

伊勢「僕がか?」

中後「このボクが簡単に鑑定の結論を出せない……鑑定しがいがあるよ。是非とも隅々まで調べあげて……」

伊勢「……近いのだが」

中後「おっと失礼。鑑定の事になると熱くなる……ボクの悪い癖だ」

それだけ己の職務に熱心という事になるのだろうか……しかしまだ近いぞ中後君。
28 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/15(日) 23:44:06.21 ID:kmZ3CMrA0
伊勢「……んっ?」

何か、臭ってきたぞ……?

「おはようございまーす!」

伊勢「っ!?」

どうやら臭いの元らしい少女が入ってくる。
ボロボロの服、ボロボロの帽子、ボロボロのリュックを着た彼女が入ってきた瞬間……ホールは阿鼻叫喚と化した。

甲羅「くせえっ!?」

一里塚「うっ……!?」

祭田「スマトラオオコンニャクの臭いがするよ……」

奥寺「うええっ……!」

姫島「……」フラッ

符流「なんだこの悪臭は〜……歌えるか……!」

東「は、はは、なかなか個性的な……」

紫乃「こ、これは……」

駆祭「昴!!何とかしなさい!!」

天童「は、はい!マスクをどうぞ!」

ダヴィデ「いやん!こんな臭いノーセンキューよ!」

百鬼「こっち来んなてめえ!!」

中後「ダメだね、うん、これはダメだ。ダメダメダメだって」

「おやおや?なんだか盛り上がってます?盛り上がっちゃってます?」

「だったらこの野場夕貴にお任せあれ!この野場夕貴がいるだけでみんな盛り上がる事間違いなし!」


・野場 夕貴(ノバ ユウキ)
〔超高校級の冒険家〕

野場夕貴……世界中を旅し、あらゆる遺跡や奥地を踏破した〔超高校級の冒険家〕。
彼女のおかげで明らかになった文明は少なくないと……ダメだ、集中出来ない!

伊勢「野場君と言ったか、その臭いはなんなんだ……!」

野場「ああ、半年ぐらいお風呂入ってませんからね!まあ、野場はお風呂に入らない程度で死にはしませんからご安心あれ!」

このままではこちらが死ぬ……!

その後なんとか野場君を隔離する事に成功した……さすがにあれはダメだろう。
29 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/15(日) 23:51:22.44 ID:kmZ3CMrA0
「いやぁ、少年少女が揃いも揃って賑やかなこったなぁ?」

野場君の放つ悪臭を逃がしているとヘラヘラした声が聞こえてくる。

見るとサングラスに黒い上下の服を着た男性が煙草を吸いながらニヤニヤと笑っていた。

伊勢「君は……」

「月ヶ瀬流行。キハハハハ、世界の敵って言えばわかるよなぁ?」


・月ヶ瀬 流行(ツキガセ ハヤリ)
〔超高校級のクラッカー〕


月ヶ瀬流行……並外れたハッキング技術を犯罪のみに使用する〔超高校級のクラッカー〕。

彼のハッキングによって三つの国と五つの都市が実質滅ぼされた。

さらに暇つぶしに病院にハッキングして停電を起こし患者を殺したりしている……超高校級どころか世界に名を知られる世界級の犯罪者だ。

月ヶ瀬「しかしアレだな。お前ら、なかなか図太い神経してんなぁ?」

伊勢「どういう意味だろうか?」

月ヶ瀬「キハハ、すぐにわかるさ」

月ヶ瀬「もうすぐ最高にスリリングなゲームが始まるって事がなぁ」

……月ヶ瀬流行。

まさにわかりやすい危険人物だな。
30 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/16(月) 22:19:49.21 ID:WNzEC0eA0
それからしばらく待ったが……もう誰も現れる気配はなかった。

どうやらこの場にいるのは僕達十六人だけのようだ。

伊勢「つまり全員気がついたらこの家にいたというわけか?」

ダヴィデ「そうねぇ……あやふやだけどそんな感じかしら」

紫乃「しかし不思議なお話です。皆様気がついたらこの場にいて、なぜそうなったかを覚えていらっしゃらない……」

中後「確かに、何かしらの意図を感じるね」

百鬼「なんでこうなったかなんざどうでもいいだろうが!!んな事よりこの家の奴を見つけてシメんのが先だ!!」

甲羅「うっさい!!んなもんオレ達だってわかってんだよ!!」

百鬼「んだとコラァ!?」

甲羅「なんだやんのかテメエ!?」

奥寺「け、喧嘩はよくないですよぉ」

百鬼「うっせえ!」

甲羅「黙ってろ!」

奥寺「ううっ……」

祭田「泣かないでキセキ」ナデナデ

これでは収拾がつかないな……
31 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/16(月) 22:37:58.41 ID:WNzEC0eA0
百鬼「女だからって手加減すると思うなよ!」

甲羅「上等だ!バラしてやんよ!」

伊勢「落ち着きたまえ洋子君」ギュッ

甲羅「ほわぁ!?」ビクンッ!

どちらを止めるかを考えた結果、僕に触れている間はおとなしかった洋子君を止める事にした。

こういう場合はとにかくこちらに意識を向かせる事が重要……そういうわけで後ろから抱き締めてみたわけだが。

甲羅「お、おまっ、ミノルッ、何しやがっ!?」

ふむ、少なくとも意識を逸らすのは成功したようだな。

一里塚「わぁ……!」

ダヴィデ「あら大胆ねぇ」

東「本当にすごいな……色んな意味で」

紫乃「あんなにお顔を真っ赤にされて……」

駆祭「ふん、くだらない茶番」

天童「……」

……周りが騒がしいな。

百鬼「……」

伊勢「すまない、百鬼君。しかし今は冷静に事を運ぶのが最優先だ。ここは矛を収めてほしい」

百鬼「……はあ、なんか萎えちまった」

伊勢「感謝する。洋子君も落ち着いただろうか」

甲羅「お、おう…………」

伊勢「それならよかった」

甲羅「こ、この野郎……人の気も知らねえで……」
32 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/16(月) 23:02:50.02 ID:WNzEC0eA0
伊勢「落ち着いたところで僕達の今置かれた状況をきちんと整理しようではないか。東君」

東「えっ、俺か?」

伊勢「先ほどの会話を覚えているだろうか?」


――――


東「だけどあれだな……ここにいるのって【超高校級】ばっかりじゃないか?」

伊勢「んっ、ああ、それは僕も感じていた。洋子君、東君、姫島君、一里塚君……【超高校級】と呼ばれる者ばかりがここにはいる」


――――


伊勢「この発言からしてここにいるのは【超高校級】と呼ばれる者ばかり……そうではないかと思うのだが」

東「ああ、そうだよ。それも99期生だ。みんなもスカウトはされてたんじゃないか?」

符流「なるほどな〜♪確かにオレは99期生としてスカウトされている〜♪」

一里塚「言われてみれば今年の入学生って掲示板で名前を見た人達ばっかりだ……」

姫島「……」

伊勢「ふむ」

ここにいるのは希望ヶ峰学園第99期生……これは何らかの手がかりになるかもしれないな。

そしてこの中にいるのならば僕自身もおそらく……



月ヶ瀬「はぁ……」
33 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/16(月) 23:10:58.71 ID:WNzEC0eA0
伊勢「むっ?」

これ見よがしにため息を吐いたのは月ヶ瀬君だ。

その目にはあからさまな侮蔑の色が見えている。

月ヶ瀬「どいつもこいつもヌルイ、ヌルイなぁ。この状況の真の意味を理解できてない」

伊勢「何が言いたいのかね月ヶ瀬君」

月ヶ瀬「集められた十六人、脱出が出来ない空間、そして全員希望ヶ峰の関係者……キハハ」

月ヶ瀬「まるでアレを彷彿とさせるじゃないか」

伊勢「アレ?」

月ヶ瀬「本当にわからないのか?それとも認めたくないのか?」

月ヶ瀬「そろそろ来るんじゃないか?アイツが」

月ヶ瀬「俺達を絶望に導く……」

月ヶ瀬「悪魔がな」
34 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/16(月) 23:13:17.96 ID:WNzEC0eA0






「ようこそ、いらっしゃいました!」

「希望の絶える館……【希絶館】へようこそ!」






35 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/16(月) 23:20:01.86 ID:WNzEC0eA0
月ヶ瀬君の声に応えるように、ホールにそれは現れた。

「ボクはモノクマ……」

モノクマ「この【希絶館】の管理者にしてこれから執り行う……」

モノクマ「コロシアイ共同生活の責任者でーす!」

伊勢「……」

モノクマ……モノクマ?
絶望。絶望のために産まれ、絶望のために。

絶望絶望絶望絶望絶望絶望……

伊勢「ぐうっ!?」

甲羅「ミノル!?」

な、なんだこの今までにない頭痛は……!

モノクマ、あのぬいぐるみを認識した途端に……

野場「モノクマ!かつて世界を震撼させた【人類史上最大最悪の絶望的事件】で量産されたロボット兵器!」

奥寺「コロシアイって、あの【78期生連続殺傷事件】の……」

月ヶ瀬「キハハ、未確認なだけで実際は他にもコロシアイはあったがな」

モノクマ「まあそんな過去のお話はいいじゃない!」

モノクマ「重要なのは……そのコロシアイにオマエラが選ばれたって事なんだから!」

中後「な、なんだって!?」

一里塚「う、嘘……」

ダヴィデ「穏やかじゃないわね……」

いきなりの事に起こる混乱。

くっ、まずは、この場を――
36 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/16(月) 23:25:53.42 ID:WNzEC0eA0






ガシャンッ!!






37 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/16(月) 23:28:01.54 ID:WNzEC0eA0
伊勢「!?」

それはいきなりの事だった。

喋っていたモノクマが後ろに吹き飛んだのだ。

眼に何か当たったのか、赤い破片がパラパラと床にこぼれる。

百鬼「舐めた口叩いてんじゃねえぞオイ!!」

百鬼「コロシアイだぁ?くだらねえ事言ってねえで出しやがれ!!」

百鬼君がテニスボールをモノクマにぶつけたとわかったのは、彼が二球目をモノクマにさらに打ち込んでからだ。

百鬼「ケッ、てめえなんぞぶっ壊しちまえば痛くも痒くもねえ!」

中後「これは凄い……二球共全く同じ場所に当てたよ」

一里塚「さすが超高校級……」

東「これなら、いけるんじゃないか……!」

百鬼君のボールによってモノクマは倒れたまま動かない。

そのためかみんなは百鬼君の腕に注目している。

月ヶ瀬「あーあ……馬鹿だなぁ」

だけど僕は。

月ヶ瀬「そんな事したら死ぬだけだってのに」

その月ヶ瀬君の言葉に促されるように。

伊勢「百鬼君!!下がれ!!」

そう叫んでいた。
38 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/16(月) 23:30:56.30 ID:WNzEC0eA0
百鬼「うおっ!?」

僕の声に咄嗟に下がった百鬼君の驚きの声が聞こえる。

百鬼君が立っていた場所……今そこにはどこからか飛んできた槍に埋め尽くされていた。

超高校級のテニス部である百鬼君だからこそ、僕の声に咄嗟に反応出来たのだろうが……もしこれが他の誰かだったら。

串刺しになって、死んでいた。

奥寺「わ、わあっ!?」

天童「お嬢様!下がってください!」

駆祭「……」

百鬼「な、なんだってんだよオイ!」

モノクマ「なんだとはなんだよ!オマエがいけないんだろ!」

起き上がったモノクマがボロボロになった赤い左目で百鬼君を睨む。

先ほど当たったボールによって割れてこそいたが、動きには支障がないようだった。

モノクマ「この館の管理者たるボクに暴力を振るうなんてなんたる無礼千万!」

モノクマ「本来なら百鬼君には死んでもらう所だよ!」

百鬼「なっ」

モノクマ「だけどボクもまだルールを説明してなかったからね……今回はまあ勘弁してあげるよ!」

完全に空気は凍り付いていた。

百鬼君が本当に死にかけた……その事が僕達に実感させたのだ。

モノクマは本気であると。
39 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/16(月) 23:40:49.61 ID:WNzEC0eA0
モノクマ「さてルール説明ですが……」

モノクマ「殺し合ってください!以上!」

甲羅「それだけかよ!?」

モノクマ「うぷぷ、冗談だよ冗談」

モノクマ「肝の学級裁判についても説明しておかないと」

東「学級裁判……?」

モノクマ「オマエラの間でコロシアイが起きた場合、一定の捜査時間の後行われるんだよ」

モノクマ「オマエラは犯人が誰かを議論し、見事当てられた場合は犯人、クロをおしおきします」

モノクマ「ただし外した場合はクロはこの【希絶館】から出られ、他のシロ全員がおしおきされます!」

ダヴィデ「ちなみにおしおきって……?」

モノクマ「処刑です!」

紫乃「……!」

モノクマ「うぷぷ、ちなみにボクや監視カメラに傷を付けた場合もルール違反として処刑するからそのつもりで!」

祭田「あっ……」

モノクマ「詳しくはオマエラに用意した個室にある物で確認してね!」

モノクマ「うぷぷ、それでは改めて……」

モノクマ「コロシアイ共同生活を始めたいと思いまーす!」

モノクマの宣言。

それがこれから起こる絶望的事件の始まりだった。
40 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/16(月) 23:41:51.56 ID:WNzEC0eA0






〔プロローグ〕

〔絶望の館への招待状〕

〔END〕

生き残りメンバー

伊勢実
東夕人
ダヴィデ・エピメニデス
甲羅洋子
姫島在留
一里塚ニコ
天童昴
符流ケン
百鬼勇次
紫乃美月
奥寺軌跡
月ヶ瀬流行
祭田結奈
駆祭はやて
中後直巳
野場夕貴

以上十六名。






41 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/16(月) 23:42:41.25 ID:WNzEC0eA0
今回はここまで。
次回一章を開始します。
42 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/17(火) 21:36:56.61 ID:eyRwX/yA0






CASE.1【花開く絶望の種】(非)日常編






43 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/17(火) 21:41:06.22 ID:eyRwX/yA0
モノクマ「うぷぷ……」

モノクマによる宣言を受けた僕達十六人は誰一人として動けずにいた。

あの百鬼君や洋子君まで静かになっている……

「……キハハ!」

だが1人だけ。

この状況で笑っている人間がいた。

月ヶ瀬「いいねぇ。実にいい」

月ヶ瀬流行……世界を敵に回す犯罪者である彼はこの状況さえも楽しんでいるらしい。

月ヶ瀬「モノクマ、今ここで皆殺しにしたらその瞬間ゲームは俺の勝ちになるかぁ?」

モノクマ「ダメに決まってんでしょうが!そんなのコロシアイじゃなくてただの虐殺じゃないのさ!」

月ヶ瀬「そりゃ残念」

ダヴィデ「ちょっと待ちなさい!あなた自分が何言ってるか……」

月ヶ瀬「キハハ、もちろんわかってるさ」

あまりに堂々と彼は宣言する。

月ヶ瀬「お前ら15人をいかに出し抜いて勝つか……それを考えなきゃいけなくなったって事がな」

コロシアイへの積極的な参加……それを示した月ヶ瀬君は笑いながらホールから出ていこうとしている。

思わず僕はその背中を呼び止めた。

伊勢「どこに行く気だね、月ヶ瀬君」

月ヶ瀬「部屋に戻るのさ。ああ、お前らの部屋もこっちにあるからなぁ?」

月ヶ瀬君は煙草を吹かし、右にあった扉から出ていった。

あちらに僕達の部屋が……既に調査済みという事か。
44 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/17(火) 21:44:54.67 ID:eyRwX/yA0
モノクマ「うぷぷ、とりあえず開始宣言はしたからこれからは自由にしていいよ」

モノクマ「ルールに関しては各自の部屋にある物で確認出来るからさ」

モノクマ「それじゃあどれだけオマエラが楽しいコロシアイをするか楽しみにしてるからね!」ピョーン!

モノクマも消え、月ヶ瀬君を除いた僕達はホールへと取り残された。

コロシアイ……とんでもない事に巻き込まれてしまったな。

奥寺「な、なんでコロシアイなんて……」

祭田「うっ、ぐすっ、怖いよ……」

一里塚「ふ、2人共、泣かないで!」

衝撃が抜ければ、次に訪れるのは恐怖と困惑。

口々に漏れ出す不安はどうしようもなく、止められそうもない。

しかしこのままではパニックからそれこそモノクマの言う虐殺が始まりかねない……何とかしなくては。
45 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/17(火) 22:48:55.70 ID:eyRwX/yA0
伊勢「……さて、月ヶ瀬君はいなくなってしまったが僕達はこれからどうする?」

ざわめきの中に響くように意識しながら僕は声を出す。

どうやら効果があったらしく、皆の視線はこちらの方に向いていた。

伊勢「僕としては、まずこの館がどれだけの規模かなどを調査するべきだと考えるのだが」

コロシアイに巻き込まれた以上、このまま何もせず怯えるだけというわけにはいかない。

そう判断した僕の言葉に皆も同じだったのか、何人かが僕の言葉に頷いている。

符流「くだらないな〜♪オレは群れる気はないと言った〜♪」

駆祭「……ふん、昴」

天童「お、お嬢様!も、申し訳ありません皆様!」

ふむ、3人ほどさらにいなくなってしまったが……これだけ残れば上々だろう。

伊勢「今いるのは12人か……ちょうどこのホールにはエントランスに繋がる物以外に3つの扉がある」

東「4人ぐらいで分かれて調べるって事か?」

伊勢「それがいいだろうな」

さて、どうやら僕に振り分けを任せてくれるようだ……どうしたものか。
46 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/17(火) 23:29:22.28 ID:eyRwX/yA0
すみませんがここまでで。
47 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/19(木) 21:48:15.24 ID:6IcxpH9A0
伊勢「ふむ……」

考えた結果僕は一里塚君、奥寺君、百鬼君と調査をする事にした。

洋子君が不満を口にしていたが、彼女と僕が調査を共にすれば先ほどまでの状態から見ておそらく洋子君は調査どころではなくなる。

一里塚「あはは、私は伊勢君達と一緒だね」

奥寺「よ、よろしくお願いします!」

一里塚君と奥寺君、2人共常識的な部類だ……調査をするのに大きな問題は起きないだろう。

百鬼「……」

問題なのはどこか上の空な百鬼君だ。

さっき殺されかけたのが堪えているのかもしれない……注意深く見ておこう。

一里塚「伊勢君、私達はどこに行くのかな?」

伊勢「正面の扉に行こう。月ヶ瀬君が行った右はどうやら個室のあるエリアのようだからな」

奥寺「わ、わかりました!」

さて、何が待っているのか……
48 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/19(木) 21:56:46.22 ID:6IcxpH9A0
【希絶館一階・大食堂】

伊勢「食堂か」

ホールよりは狭いがここも十二分に広い。

中央に置かれた円形の巨大なテーブルは僕達16人全員でも座れそうだ。

中心にモノクマの像がなければ楽しい食事も出来ただろうに……

一里塚「なんかお金かけてますって感じだね……」

奥寺「奥にも部屋があるみたいですね……えっと」

奥寺君がメモ帳と眼鏡を取り出すと何かを書き記している。

伊勢「何をしているのかね?」

奥寺「地図を描いておこうかと思いまして」

……なるほど、それは大切な事だな。

奥寺「よし、出来た!」

伊勢「奥寺君はマメなのだな」

奥寺「いえいえ、そんな事ありませんよー。こうしないと落ち着かないっていうだけですし……」

伊勢「ふむ……」

職業病、というものなのかもしれないな……
49 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/19(木) 22:04:00.94 ID:6IcxpH9A0
【希絶館一階・厨房】

奥にあったのは厨房だった。

左側にも扉があって冷凍庫に繋がるようだな。

一里塚「これだけ大きいと料理も捗りそうだね」

奥寺「一里塚さんは料理とかするんですか?」

一里塚「一応人並みにはね。見た目が見た目だからこういう所で……ね」

一里塚君がどこか遠い目をしている……

百鬼「食材は毎日補充します……だとよ」

百鬼君が壁の貼り紙を剥がして僕達に見せる。

なるほど、確かに餓死の心配はなさそうだな。

最も餓死の危険性があるほど長くはいたくないが……

伊勢「一里塚君」

一里塚「どうしたの?」

伊勢「おそらく食事は僕達で用意しなければならないだろう。後で提案するつもりだが、食事を全員でとるようにしたい」

一里塚「なるほど、その時は私に料理を頼みたいと」

伊勢「無論他にも料理を出来る者がいるかは確かめるが……」

一里塚「うん、いいよ。さすがに1人では厳しいけど何人かでなら」

伊勢「感謝する。もちろん僕も出来る限りのサポートをしよう」

一里塚「あはは、その時はよろしく!」

記憶のない僕がどれほどサポート出来るかはわからないが、頑張って取り組まなくてはな……
50 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/19(木) 22:16:03.00 ID:6IcxpH9A0
【希絶館一階・冷凍庫】

何があるかと冷凍庫に入ってみたが……肉や魚、冷凍食品など以外には何もなさそうだ。

一里塚「さ、寒っ!」

奥寺「ううっ、寒い……!」

伊勢「こちらもなかなか広いな……厨房とあまり変わらない広さだ」

百鬼「ちっ、どんだけの規模なんだよ……」

一里塚「は、はっくしゅん!も、もう出ない?」

伊勢「そうだな……ホールに戻ろう」

百鬼「……オイ」

ホールに戻る途中、百鬼君に声をかけられる。

どこかばつの悪そうな様子だが……

伊勢「百鬼君、どうしたのかね」

百鬼「さっきの事だけどよ……てめえのおかげで助かった」

伊勢「声をかけた事なら気にしなくていい。僕はやりたい事をしただけだ」

百鬼「それじゃあ俺が納得いかねえんだよ!」

伊勢「ふむ……ならば僕にどうしろと?」

百鬼「別にどうもしなくていい。ただ借りは借りだ……いつか返してやるから覚悟しやがれ!」

伊勢「……」

まるで仕返しされるような言い方なのだが……

百鬼「それだけだ!」

ふむ……まあ危害を加えられるわけではないだろう。
51 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/21(土) 22:50:23.92 ID:SF37kjYA0
【希絶館一階・ホール】

ホールに戻ってくると他のメンバーも戻ってきていた。

早速調査結果を報告するとしよう。

伊勢「食事については問題ないと判断する……僕からは以上だ」

東「それじゃあ俺達の報告をさせてもらうな。俺達は月ヶ瀬が行った方に行ったんだけど……」

甲羅「男子の個室が4つずつ並んでたぜ。奥には倉庫もありやがった」

紫乃「倉庫にはタオルや換えの服などがありました。後保存食も」

姫島「……それぐらい」

ダヴィデ「アタシ達は夕人くん達とは反対側に行ったわ。あったのは女子の個室よ」

祭田「こっちは奥にお風呂があったよ?」

伊勢「もしや野場君がこの場にいないのは……」

中後「お風呂に叩き込んできたんだよ。あのままでいられたら商売道具の鼻がおかしくなってしまう」

紫乃「あの、ちなみにお風呂は男女別ですか?」

ダヴィデ「仕切りはなかったわね。混浴みたい」

紫乃「そうですか……」

伊勢「……?」

どことなく紫乃君が嬉しそうなのは気のせいだろうか……
52 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/21(土) 22:56:59.01 ID:SF37kjYA0
伊勢「1つ提案があるのだがいいだろうか?」

東「どうした伊勢?」

伊勢「今回の調査を踏まえると脱出まではなかなかの長期戦になると予想される」

百鬼「癪だが否定も出来ねえな」

伊勢「その間安否確認も兼ねて食事会を行いたい」

中後「安否確認って、事件が起きると思っているのかい?」

伊勢「月ヶ瀬君がいる限りその不安は拭いきれないのではないだろうか」

奥寺「で、でも、月ヶ瀬さんも話せばわかる人かも……」

ダヴィデ「それはどうかしら……彼は本気にしか見えなかったわよ?」

奥寺「うっ……」

祭田「泣かないで」ナデナデ

奥寺「あう」

野場「野場ただいま帰還!すっきりしました!」

一里塚「おかえ……って野場さん!?なんでバスタオル一枚なの!」

野場「替えの服がありません!」

伊勢「……誰でもいい。とりあえずこの上着を野場君に」

甲羅「アイツとんでもねえな、色々と」
53 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/21(土) 23:03:39.84 ID:SF37kjYA0
その後野場君を一度部屋に戻し、着替えて戻ってくるのを待つ。

そして戻ってきた野場君は出会った時とは違う新品の服を着ていた。

伊勢「こほん、話を戻そう。とにかく異論がなければ僕としては毎日の食事会をしたいのだが」

中後「いいんじゃないかな?何かあってもすぐわかるしね」

甲羅「でもメシは誰が作んだよ」

伊勢「ふむ、一里塚君には既に打診してあるのだが、他にこの中で炊事が得意な者はいるだろうか?」

紫乃「あっ、わたくしは出来ますが……」

ダヴィデ「アタシも得意よ!」

天童君も出来るだろうが、彼は駆祭君の相手で手一杯だろうから……

伊勢「ふむ、それでは基本は3人に任せていいだろうか?他の皆も出来る事があれば手伝ってほしい」

ダヴィデ「任せてちょうだい!」

一里塚「頑張ってみるよ」

紫乃「かしこまりました」

伊勢「今は……5時か。各自部屋を確認して7時頃に食堂に集合としよう」

僕の言葉に頷いて皆はホールから個室に向かう。
ふむ、僕もあてがわれた部屋に行くとしようか……
54 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/22(日) 22:12:29.23 ID:heMUSoRA0
【希絶館一階・男子側客室廊下】

廊下に出ると報告にあったように4つの部屋がズラリと左右に並び、奥には倉庫に繋がるらしい扉があった。

扉のネームプレートによると僕の部屋は……左側の1番手前、1号室か。

その後、念のために確認したところ

・左側
1号室…伊勢
2号室…天童
3号室…符流
4号室…月ヶ瀬
・右側
5号室…ダヴィデ
6号室…百鬼
7号室…東
8号室…奥寺

という部屋割りである事が確認出来た。

ダヴィデ君が向かい、天童君が隣か。

伊勢「ふむ、廊下はこれぐらいにして部屋を調べるとしよう」
55 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/23(月) 05:42:28.66 ID:LVsG1Z3A0
【1号室・伊勢の客室】

部屋の中はベッドとテーブルなどが置かれた簡素な物だった。

テーブルの上にはこの部屋の鍵と電子機器のような物が置いてある。

伊勢「【希絶館専用端末】……」

操作してみると希絶館の地図、ここにいる十六人の簡易的なプロフィール、そしてルールが記載されていた。

ルール1…あなたはこの希絶館で共同生活を行いましょう。

ルール2…夜10時から朝7時までは夜時間とします。夜時間は一部の部屋が立ち入り禁止になるので注意しましょう。

ルール3…個室以外での故意の就寝は禁止します。

ルール4…この希絶館について調べるのは自由です。特に行動に制限は課せられません。

ルール5…管理者であるモノクマへの暴力行為、監視カメラやモニターの破壊を禁じます。

ルール6…お客様の間で殺人が起きた場合は、その一定時間後に、全員参加が義務付けられる学級裁判が行われます。

ルール7…学級裁判で正しいクロを指摘した場合は、クロだけが処刑されます。

ルール8…学級裁判で正しいクロを指摘できなかった場合は、残りのお客様は全員処刑されます。

ルール9…3人以上の人間が死体を最初に発見した際に、それを知らせる死体発見アナウンスが流れます。

ルール10…大浴場と脱衣場での殺人は禁止します。

ルール11…同一のクロが一度に殺せるのは二人までです。

ルール12…封鎖テープを剥がしたりする事は禁じます。

ルール13…ルールは増える場合もあります。

伊勢「ふむ……」

百鬼君はこのルール5に違反したという事か……
56 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/23(月) 06:06:52.54 ID:LVsG1Z3A0
伊勢「さて……まずは今の状況を整理するとしようか」

僕の名前は伊勢実。

なぜかはわからないがこの希絶館でコロシアイとやらに巻き込まれる事になってしまった。

なおそれ以前の記憶は一切ない。

どんな家で育ったか、家族構成は、いったいどんな物を好み、どんな物を嫌っていたか……

名前以外のありとあらゆる記憶が抜け落ちている。

しかし読み書きや言葉を話す事に支障はない。

さらに他の皆についての情報は顔と名前を一致させた途端に頭に浮かんできた。

そして……この希絶館にいる者達からの推測だが……

僕も何かしらの【超高校球】の才能を持っている可能性がある。

この端末に記載されていればよかったのだが、どうやら把握していないのかわざとなのか僕の才能は【超高校級の???】となっていた。

しかしここから1つの推測も出来る。

この記憶喪失は、モノクマによって引き起こされた可能性があるという事だ。

伊勢「ふむ……しかし、そうだとすればなぜ僕の記憶を消したのだろうか?」

それを聞いて話すような相手ではない事はわかるため、ここからは推測にしかならない。

伊勢「ふむ、記憶に関しては一時保留とするべきか」

現状最大の問題はこのコロシアイをどう乗り切るか……もちろん殺人以外の方法でだ。

伊勢「ふむ……」

さて、どうしたものか…………
57 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/23(月) 06:08:47.17 ID:LVsG1Z3A0






「希×のた×に」

「×望を」

「××を××を××を」

「××××××××××××」






58 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/23(月) 06:15:27.15 ID:LVsG1Z3A0
ピンポーン

伊勢「……むっ?」

チャイムの音に僕の意識が覚醒する。

しまった。

どうやら考え込む内に寝てしまっていたようだ。

時間は……ふむ、6時50分か。

7時頃と時間指定したのは僕だ、誰かが呼びにきたのかもしれないな。

ガチャリ

奥寺「あっ、い、伊勢さん」

伊勢「奥寺君か。呼びに来てくれたのかね?」

奥寺「あう、は、はい」

伊勢「すぐ準備をする。少し待っていてくれるだろうか?」

奥寺「は、はい」

伊勢「……ふむ、どうやらそれはついでといったところか」

奥寺「ふえっ!?」

伊勢「僕に話があるのだろう?あまり時間もないが、それでもよければ聞こう」

奥寺「……あ、あの伊勢さん」

奥寺「食事会に、4人も呼べませんか……?」

伊勢「それは月ヶ瀬君、符流君、駆祭君、天童君の事かな?」

奥寺「は、はい。ぼく、皆さんも話せばきっとわかってくれると思うんです!」

奥寺「だから、あの……」

伊勢「ふむ」

あの4人も食事会に、か……天童君はともかく他の3人は未知数だが。

しかし様子を見る事もいずれしなければならない事。

ふむ、となれば答えは1つだな。
59 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/23(月) 08:24:54.49 ID:LVsG1Z3A0
伊勢「わかった、声をかけてみよう」

奥寺「あっ……ありがとうございます!」

伊勢「気にしないでほしい。どのみち彼らとも話はしなければならないからな」

それではまずは……隣にいる天童君に声をかけるとしようか。

ピンポーン

天童「はい、どちら様でしょうか?」

伊勢「僕だ、天童君」

奥寺「こ、こんばんは」

天童「伊勢様、奥寺様。どうなさいましたか?」

伊勢「これから僕達は食事会を行う事になっているのだが……よかったら天童君と駆祭君も参加してもらえないだろうか」

天童「わたしとはやてお嬢様もですか?」

伊勢「どうだろうか?」

天童「……申し訳ありません、おそらく不可能です。はやてお嬢様はわたしの料理しか口になさらないでしょうから」

奥寺「だ、だったら駆祭さんの分だけ天童さんが作れば……」

天童「それに今お嬢様は気が立っていますので……皆様の空気を悪くするだけかと」

奥寺「そ、そんなぁ……」

伊勢「ふむ……仕方がない、か」

ここで天童君だけを招いてまたあんな事態になるのは避けたい……それに半ばわかりきっていた事だ。

食事会は安否確認だけではなく交流の側面もある……今の状況で彼女を招いたところでただ衝突がさらなる衝突を引き起こし険悪になるだけ。

まず、こちらの地盤を固めなくてはならないだろうな。

伊勢「すまない天童君。食事会はこれから毎日行う、また機会があれば」

天童「はい、ありがとうございます伊勢様」
60 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/23(月) 08:31:01.85 ID:LVsG1Z3A0
奥寺「ううっ……」

伊勢「奥寺君、気を落とさないでくれ。いつか機会は来るだろう」

奥寺「はい……」

伊勢「次は符流君だ。行くとしよう」

ピンポーン

伊勢「……ふむ」

ピンポーン

奥寺「……留守なんですか?」

伊勢「……」

おそらく居留守だろうが……さて、ここは。

ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン

奥寺「い、伊勢さん!?」

バンッ!!

符流「貴様、何の嫌がらせだ!?」

伊勢「やはり居留守だったか、符流君」

符流「くっ…………ゴホン」

符流「何の用だ〜♪」

伊勢「僕達はこれから食事会を行う。君にも来てほしいのだが」

符流「群れないと言ったはずだが〜♪」

伊勢「君はわかっていない符流君。単独行動がこのコロシアイという環境においてどれだけ危険か」

符流「……どういう意味だ〜♪」

伊勢「僕達は食事会を行う事になった。そして主従の駆祭君と天童君を除外して単独行動をしているのは月ヶ瀬君と君だけだ」

伊勢「さて、考えてみてほしい。コロシアイを行うと宣言した月ヶ瀬君が狙うとしたら、誰が一番可能性があるだろうか?」

伊勢「仮に僕なら単独行動している者は格好の獲物なのだが……」

符流「…………」

伊勢「しかし符流君がどうしても行かないと言うならば……」

符流「待て」

伊勢「なんだろうか」

符流「……食堂には一緒にいよう〜♪」

奥寺「本当ですか符流さん!」

符流「……群れるわけではないからな〜♪」

バタンッ

伊勢「うまくいったようだな」

奥寺「良かったぁ……」

伊勢「さて、それでは最後の目標の所に行くが……奥寺君は符流君をここで待っていてくれ」

奥寺「えっ?あっ、はいわかりました!」

わかりきっている結果をわざわざ見せる必要もないだろうからな……
61 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/23(月) 10:01:50.01 ID:LVsG1Z3A0
月ヶ瀬「キハハ、お断りだ」

伊勢「だろうな」

予測通り月ヶ瀬君には即答で断られる結果となった。

元々彼が来る事は全く期待していなかったので驚きもない。

むしろ来ると答えたら何を企んでいるのかと警戒していただろう。

伊勢「しかしわかってはいたが、とりつく島すらないな」

月ヶ瀬「おあいにく様だなぁ、俺は島にとりつかせるなら蹴り落とすタイプだ」

伊勢「ふむ、上手い事を言っているつもりなのだろうが生憎僕には理解出来ないセンスのようだ」

月ヶ瀬「手厳しいねぇ。ああ、1つ頼みを聞いてくれたら行ってもいいぞ」

伊勢「ほう?聞くだけ聞こう、それは何かね?」


月ヶ瀬「2人ほど殺してから死んでくれないかぁ?」


伊勢「……」

月ヶ瀬「同一のクロは2人までしか殺せないだろう?」

月ヶ瀬「だけど13人相手に学級裁判はリスクが高い」

月ヶ瀬「だからお前が減らしてくれるなら食事会ぐらいは行ってもいいぞ?俺も労力が減って助かる」

3人の命を引き換えに食事会の参加か。

自分を随分と高く見積もったものだな……

伊勢「失礼した、月ヶ瀬君は不参加という事にしておく」

月ヶ瀬「残念。やっぱり13人相手にするしかないなぁ……キハハ!」

改めて危険人物だと理解できただけ、よしとしておこう。
62 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/23(月) 13:01:06.21 ID:LVsG1Z3A0
伊勢「ふむ、符流君だけか……」

全滅も覚悟していた分最悪ではないのだろうが……

奥寺「あ、あの伊勢さん」

伊勢「なんだろうか?」

奥寺「ありがとうございます。ぼくの我が儘に付き合ってくれて……」

伊勢「結局1人しか成果はあげられなかったが……」

奥寺「でも、伊勢さんがいたから符流さんは来てくれる事になったと思いますから……!」

奥寺「だからありがとう、と言わせてください!」

伊勢「……ふむ、ならばどういたしましてと言っておこう」

奥寺「はい!」

符流「オレは食堂に行くだけだ〜♪」
63 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/23(月) 13:05:37.72 ID:LVsG1Z3A0
【大食堂】

伊勢「遅れてすまない」

奥寺「す、すみません!」

東「伊勢、奥寺。結構遅かったけど何かあったのか?」

中後「言い出しっぺが来ないから正直心配してしまったよ」

伊勢「それはすまない。彼を迎えに行っていた」

符流「……」

一里塚「符流君!まさか来てくれるなんて思わなかったよ!」

符流「……違う〜♪」

甲羅「違うって何がだよ」

符流「オレは食事に来た〜♪そうしたらオマエ達がいた〜♪」

符流「それだけだ〜♪」

百鬼「屁理屈じゃねえか!」

野場「野場は初めて素直じゃない人を見ました!」

符流「黙れ……!」

ダヴィデ「まあまあ、とりあえずご飯にしましょ!たくさんあるからケンくんも是非食べていってちょうだい!」

紫乃「はい、どうぞ」

そうして3人ほどいないが……僕達の食事会は始まった。
64 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/23(月) 13:08:24.06 ID:LVsG1Z3A0
伊勢「ふむ……」

食事をした記憶も失っている状態だが……はっきり言える。

この食事は美味しいと。

ダヴィデ「ふふふ、気に入ったみたいね実君」

紫乃「良かったです。これだけの方々に食べていただくのは初めてでしたから」

伊勢「ダヴィデ君と紫乃君か。美味しくいただいているよ」

ダヴィデ「な、なんか出会った時からそうだけど堅いわね実君って」

伊勢「ふむ、おそらくこれが僕の性分なのだろう。気に障ったのなら謝罪するが……」

ダヴィデ「い、いいわよ!そんな事しなくても!」

紫乃「クスッ、実様は面白い方ですね」

伊勢「しかし随分と量を作ったようだが……」

ダヴィデ「ニコちゃんがなんか恐ろしく張り切ってねぇ。アタシ達もなんだか当てられちゃったのよ」

伊勢「一里塚君が?」

紫乃「はい。なんでも自分は夜行性だから夜になるに連れ気分が高揚すると……」

一里塚君にそんな一面があったとは……

ダヴィデ「だからケン君も来てくれて助かったわ〜」

紫乃「一人当たりの量が減りましたからね。太らずに済みました」

ダヴィデ「あーら、美月ちゃんは全部胸にいくタイプみたいだからいいじゃないの」

紫乃「そ、そのような事は……」

ふむ、女子の会話というものはここまで居心地悪いものか……
65 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/23(月) 13:16:54.05 ID:LVsG1Z3A0
夕食後、僕達は必要な事について話し合っていた。

現状の議題は……

紫乃「わざわざ分ける必要がありますか?いいじゃないですか、人類皆兄弟と言いますし」

一里塚「いやいや!いくらなんでもそれはおかしい!」

……大浴場の使用についてだった。

なぜかはわからないが、紫乃君が混浴に積極的であり、それに何人か同調している。

そしてそれに一里塚君が中心となって反対している……といった様相だ。

伊勢「ふむ……」

なぜだ。

既に1時間経つが、なぜこの議題にここまで時間がかかっているのだろうか。

ある意味では平和な事かもしれないがまだ決めるべき事はいくつもある、あまり時間をかけるのも問題だ。

……そして聞きたい。

符流「……」

なぜ君は賛成側にいる。
66 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/23(月) 17:42:58.80 ID:LVsG1Z3A0
ダヴィデ「でもねぇ、男は獣。このアタシの美しい肌を見せたらきっととんでもない事になるわ」

君は女子として入る気かダヴィデ君……無理もないのだが、そうなるとまた色々と考えなければ。

野場「いいじゃないですか!山奥のとある部族なんて服を着ない風習ですし!」

ここは山奥では……いや、山奥に建っている可能性もないとは言えないのだがそういう問題ではないな。

奥寺「あう、あう……」

祭田「ふああ……」

奥寺君や祭田君は話し合いに参加出来そうにない……このまま続くなら眠そうな祭田君には途中で部屋に戻らせる必要があるかもしれない。

中後「ボクとしてはタダというわけにもね」

そういう問題なのだろうか。

そもそも今僕達は誰も財布を携帯していない……つまり中後君は反対という事か。

甲羅「いいんじゃねえの、別によ。ミノルならむしろチャンス……」

君は何をする気なのだろうか、洋子君。

百鬼「……てめえ、手が早いな」

誤解だ百鬼君、そのような事実は全くない。

全くこれでは話し合いにならないな……

東「なんというか、コロシアイしてるとは思えないな」

伊勢「全くだ……むっ?」

姫島「……」

伊勢「姫島君、君はどう思う?」

姫島「私は」

伊勢「脇役とは自身の意見さえ封殺しなければいけない、というものではないのでは?」

姫島「……時間で決めればいいと思う」

伊勢「僕も同意見だ」

さて、いつになったらこの提案が出来るのだろうか……
67 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/23(月) 17:50:38.51 ID:LVsG1Z3A0
【伊勢の部屋】

あれから大浴場の使用時間と食事会の時刻、その他細部について話し合った。

コロシアイを起こさないための第一、それは他の事で思考を割く事。

少なくとも今の皆は状況を飲み込むために思考を割いているから何か起きる心配はないだろう。

問題はこの後……3日過ぎた辺りだろう。

そもそもモノクマがこのままおとなしく傍観するとも思えない。

伊勢「さらに問題なのは月ヶ瀬君と駆祭君だな……ふむ」

やらなければならない事、考えなければならない事……山のように積み上がった問題。

さて、どうするか……

ピンポーンパンポーン……

モノクマ「夜十時になりました!」

モノクマ「今から夜時間とさせていただきます」

モノクマ「うぷぷ、生きてたらまた明日」

伊勢「…………全く」

不安を煽る放送とは……悩みの種が増えてしまったな。

明日から、忙しくなりそうだ……
68 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/23(月) 17:55:37.57 ID:LVsG1Z3A0
【2日目】

ピンポーンパンポーン…

モノクマ「7時です!7時です!」

モノクマ「生きてたらおはよう!死んでたらさようなら!」

モノクマ「オマエラはどうかなー?うぷぷぷぷぷぷぷぷぷ……」

伊勢「最低の放送だな」

倉庫の物をメモしながら僕は眠気覚ましの缶コーヒーを胃に流し込む。

時間だ、食堂に行くとしようか。

【大食堂】

伊勢「皆、おはよう」

符流君はきちんと来ているな……おや?

伊勢「紫乃君、ダヴィデ君。一里塚君はどうしたのだろうか」

紫乃「そういえば朝から見てませんね……」

ダヴィデ「ニコちゃんって遅刻癖とかそういう事なさそうなのにねぇ」

伊勢「……ふむ」

寝過ごしただけならばいいのだが、状況が状況だ。

様子を見に行くか……

伊勢「すまない、一里塚君の様子を見てくる」

そういえば彼女は自分が夜行性だと昨日話していたらしいが……まさか。
69 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/23(月) 18:21:59.16 ID:LVsG1Z3A0
【女子側客室廊下】

伊勢「ふむ、こちらの部屋割りは手前右側から……」

・右側客室
1号室…野場
2号室…一里塚
3号室…中後
4号室…甲羅
・左側客室
5号室…姫島
6号室…紫乃
7号室…駆祭
8号室…祭田

一里塚君は2号室か……

ピンポーン

伊勢「一里塚君、朝だぞ。どうかしたのだろうか?」

ピンポーン

伊勢「一里塚君。まだ寝ているのか?」

ピンポーン

伊勢「……むっ?」

鍵が開いている?

伊勢「入るぞ、一里塚君」

扉を開けて中を覗く。

一里塚「んうっ……」

伊勢「……」

一里塚君はベッドで寝ていた。

着の身着のままといった様子だ、どうやら夜中まで起きていたようだな……

伊勢「鍵もかけずに不用心な……」

とりあえず起こすとしよう。

この様子ではすぐ起きるかわからないが……

伊勢「一里塚君、起きたまえ」

一里塚「んっ……」

伊勢「朝だぞ一里塚君。鍵をかけずに寝るのはどうかと思うのだが」

一里塚「んえっ……?」

伊勢「起きたようだな」

一里塚「…………」

伊勢「一里塚君?」

一里塚「きゃああああああああああっ!?」

バシーン!!
70 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/23(月) 18:29:08.82 ID:LVsG1Z3A0
※※※※

伊勢「……」

一里塚「ご、ごめんね伊勢君!」

伊勢「いや、僕もあまり寝ていなかったから目が覚めた」

未だに頬が痛むが……男がいきなり部屋にいたら無理もないのかもしれない。

しかし扉を閉めたためか、あの悲鳴は食堂まで聞こえなかったようだ。

ふむ……あらぬ誤解をされなかったのは幸いだが、ここまで防音がしっかりしているのなら襲われてもわからないという事でもある。

となると……

一里塚「……伊勢君?」

伊勢「……ああ、すまない。少し考え事をしていた」

一里塚「急に黙っちゃったからやっぱり怒ってるのかと思ったよ……いや、私が悪いんだけど」

伊勢「僕も配慮が足らなかった。しかし夜中まで起きていたようだが……」

一里塚「あはは、私って昔から夜起きて昼間寝る生活で」

ダヴィデ君や紫乃君の話通り、というわけか。

伊勢「……ふむ、それでは朝の食事会は参加出来そうにないのでは?」

一里塚「うん……正直今も眠くて」

伊勢「わかった。その旨を2人には話しておこう」

一里塚「本当にごめんね」

伊勢「気にしなくていい。ただ鍵だけはしっかりかけるように」

一里塚「うん」

バタンッ

伊勢「さて、戻るとしよう」

この赤くなった頬をどう誤魔化したものか……
71 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/23(月) 18:32:47.32 ID:LVsG1Z3A0
【伊勢の部屋】

伊勢「朝食についてはこれでいいとして……おや、もうこんな時間か」

探索も兼ねて少し外に出るとするか……

ガチャッ

甲羅「うおっ!?」

伊勢「おや?」

扉を開けると驚いたような声が聞こえた。

覗いてみると洋子君が頬をかきながら立っている。

甲羅「よ、ようミノル」

伊勢「洋子君、すまない。僕の部屋の前にいたとは気がつかなかった」

甲羅「いや、オレが突っ立てたのが悪いしよ……気にすんなって!」

伊勢「むっ?僕の部屋の前に立っていたのかね?」

甲羅「まあな!」

伊勢「ふむ……何か話したい事でもあるのだろうか?」

甲羅「いや、なんつうかさ……」

甲羅「ミノル、牛乳飲んでねえよな?」

伊勢「……」

洋子君はなぜ僕に牛乳を飲ませたくないのだろうか……

甲羅「ま、まさか飲んでんのか!?オレは許さねえぞ!?」

伊勢「……飲んでないから安心したまえ」

甲羅「そ、そうか!だったらいいんだよ」

伊勢「……まさかそれを聞くためにわざわざ?」

甲羅「あっ、それだけじゃねえよ!ミノル、ちょっと手出せ」

伊勢「またか……こうだろうか?」

甲羅「サンキュー」

……僕の手を握る洋子君の眼が少々濁っているように見えるのは気のせいだろうか?

甲羅「へ、へへっ……」

伊勢「……」

本人がこれで満足なら、まあそれもいいだろう……
72 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/23(月) 18:49:22.37 ID:LVsG1Z3A0
満足した様子の洋子君と別れて大食堂に行くと天童君が厨房で料理をしていた。

ふむ、いい香りが漂っているな……

天童「あっ、伊勢様。よろしかったらコーヒーをお飲みになりませんか?」

伊勢「いいのだろうか?」

天童「少々作りすぎてしまったので」

伊勢「それならばありがたくいただくとしよう」

※※※※

伊勢「ふむ、いい味だ……天童君はコーヒーを入れる才能もあるのだな」

天童「いえ、わたしなどまだまだですよ」

そうは言うがどことなく嬉しそうな顔をしている。

天童君はコーヒーに相当な自信があるのだろうな。

伊勢「そういえばその包丁、ここで見なかった気がするのだが」

天童「ああ、これは私物です。いつでもはやてお嬢様の要望にお応え出来るように一通り持ち歩いていたので」

伊勢「道具からこだわるか……さすがだな」

やはり天童君が優秀な執事である事に疑いはない。

だからこそ……僕は彼が発したあの時の発言が今でも引っ掛かっていた。
73 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/23(月) 18:56:08.21 ID:LVsG1Z3A0
伊勢「……天童君に1つ聞きたい事があるのだが」

天童「なんでしょうか?」

伊勢「君は僕を知っているのだろうか?」

天童「はい?」

伊勢「昨日君と出会った時……」

※※※※

天童「あの、少しいいですか?」

伊勢「僕か?」

天童「はい。わたしは天童昴と言います」

天童「伊勢様、わたしの主人を知りませんか?」

※※※※

伊勢「あの時君は僕が名乗る前に、僕を伊勢様と呼んだ」

伊勢「つまり君は僕を知っていたという事になる……どうなのだろうか?」

天童「……さすが伊勢様ですね」

天童「ですが残念ながら自分でもわからないのです」

伊勢「わからない?」

天童「わたしがなぜ伊勢様のお名前を知っていたか……自分自身も不思議なのです」

天童「わたしははやてお嬢様以外に仕えてはいないはずで、その関係者も全て把握していますから……」

ふむ……天童君自身もわからない繋がりが僕達の間にはあるのか?

もしくは天童君も記憶喪失か……

どちらにせよ、僕の記憶の手がかりも彼が持っているかもしれないな……
74 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/23(月) 23:15:00.58 ID:LVsG1Z3A0
中後「この壺は……」

倉庫を見回っていると中後君が壺を虫眼鏡で見つめているところに出くわした。

ふむ、どうやら鑑定しているようだが……

中後「んっ?ああ、伊勢君。君もお宝を探しに来たのかい?」

伊勢「僕は見回りに。随分とその壺を見ていたようだが」

中後「そうなんだ!まだ確定は出来ないけどこの壺は数千万はする代物みたいなんだよ!」

伊勢「ほう」

乱雑に置いてある壺にそんな値打ちがあるとは……

中後「これは鑑定士としての血が騒いでしまうね……ここにあるもの全て鑑定してみたい!」

伊勢「ふむ、だいぶ数があるが大丈夫なのだろうか」

中後「ボクにとってはこれぐらいなんて事ないさ!さーて、次はどの壺を調べようかな……」

やはりこういう環境では才能を思うがままに使えるというのはストレスがたまらないためにも必要な事なのだろう。

その証拠に中後君の瞳はイキイキしていて眩しいくらいだ。

中後「ふふふ……一番高い物は慰謝料に……」

……いや、中後君の場合違うのかもしれない。
75 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/23(月) 23:22:24.47 ID:LVsG1Z3A0
祭田「んしょ、んしょ」

奥寺「祭田さん、ぼくも手伝いますよ!」

祭田「……大丈夫?転んでお花さんばらまいたりしない?」

奥寺「し、しません!」

祭田「だったら……はい」

奥寺「ありがとう!ぼく頑張ります!」

あれは奥寺君と祭田君か……ふむ、確かに微笑ましいな。

伊勢「何をしているのかね?」

祭田「ミノルだ。お花さんを飾ってるの」

奥寺「ぼくはそのお手伝いです」

伊勢「花か。なるほど、皆の気を落ち着かせるにはいい方法かもしれないな。どこに飾るのだろうか」

祭田「食堂にエントランスに……みんなの部屋にも飾りたいな」

奥寺「それいい考えです!」

伊勢「花瓶などは足りるかね?」

祭田「倉庫にたくさんあったよ?」

奥寺「えっ、あれ花瓶じゃなくて壺……しかも中後さんがかなりの値打ち物だって……」

中後君はまだやっていたのか……

祭田「お花さんが住めるならみんな花瓶だよ?」

伊勢「ふむ、花を飾るのに花瓶にこだわる必要はないか……」

奥寺「い、いいんでしょうか……」

伊勢「構わないだろう、あれだけ倉庫に置いてあるのだからな。僕が取ってこよう」

祭田「お花さんたくさん飾れるのがいいな」

伊勢「ああ、わかった」

奥寺「あっ、中後さん、慰謝料に持って帰るから1番大きな壺には誰にも触らせないようにって言ってましたけど……」

伊勢「……ふむ、ならば2番目に大きな物にしよう」

その後倉庫にあった壺に祭田君が花を飾り付けた。

中後君が悲鳴をあげていたような気がするが……気のせいだろう。
76 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/24(火) 00:18:11.29 ID:B63Ww6tA0
ダヴィデ「直巳ちゃんが悲鳴をあげてたけど、何かあったのかしら?」

伊勢「ふむ、なぜだろうな」

時刻はお昼前……僕は昼食を作るダヴィデ君と紫乃君を手伝っていた。

一里塚君も先ほどまで厨房にいたが、今は食堂の方で準備をしている。

紫乃「実様、手際がよろしいですね」

伊勢「そうだろうか?」

ダヴィデ「あら本当!実君包丁の扱い上手じゃない!」

ふむ、意識してはいなかったが、この2人が言うのであればそうなのだろうな。

伊勢「僕は日常的に料理をしていた可能性があるという事か」

ダヴィデ「だったら今度料理を作ってみたら?身体が覚えてるかもしれないわよ?」

伊勢「ふむ、それもいいかもしれないな……」

紫乃「実様の手料理、楽しみにしていますね」

伊勢「期待に応えられるよう努力しよう」

ダヴィデ「そんな硬くなくてもいいのよもう!」

伊勢「いや、やるからには……全力を尽くしたい」

ダヴィデ「本当に真面目ねぇ」

紫乃「うふふ、それがいいところなんでしょうね」

さて、どんなものを作るとしようか……
77 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/24(火) 00:18:42.23 ID:B63Ww6tA0
今回はここまで。
78 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/25(水) 22:35:24.19 ID:j925u4vA0
野場「おかわりください!」

ダヴィデ君、紫乃君、一里塚君の料理は昼食会でも好評のようだ。

特に野場君の消費ペースは早い……しかし少々食べ過ぎなのではないだろうか?

伊勢「野場君、そんなに食べて大丈夫なのかね?」

野場「大丈夫です!なぜなら野場は野場なので!」

伊勢「よくわからないが……限界は本人が一番よく知っているか」

野場「お気遣い感謝します伊勢隊長!」

伊勢「……隊長?」

野場「野場はそう判断しました!」

伊勢「ふむ、隊長か……」

数多くの危険地帯にも足を踏み入れたであろう野場君がそう言ってくれるのであれば……それに恥じないよう努力しなければならないな。

伊勢「感謝する野場君。これでますます気が引き締まった」

野場「どういたしまして!それよりおかわりはまだですか!野場はお腹が空きました!」

伊勢「……消化が早すぎるのではないだろうか?」
79 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/25(水) 22:49:18.65 ID:j925u4vA0
伊勢「ふむ……」

13人分となると皿洗いも一苦労だな。

東「伊勢、1人で皿洗いしてるのか?」

伊勢「3人は手伝いを申し出ていたが、夕食会もあるので休憩を優先してもらった」

東「だったら俺も手伝うよ。まかせっぱなしっていうのも居心地悪いしな」

伊勢「ああ、すまない」

東「そういう時は謝罪よりお礼の方が嬉しいぞ」

伊勢「むっ、そうか……感謝する」

東「はは、まあ堅いけどそれでいいか」

それから東君と皿洗いを行った。

やはり2人でやるとスムーズに進むな。

伊勢「ふむ、これで最後だな」

東「ようやく終わった……経験ないから結構疲れるなこれ」

伊勢「確かに……」

最も僕は経験があるかないかもわからないのだが。

東「じゃあ俺は部屋に戻るよ。じゃあな伊勢」

伊勢「ああ、ゆっくり休んでくれたまえ」

しかし東君にも手間をかけさせてしまった……いずれ何かで返すとしよう。
80 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/28(土) 21:58:29.73 ID:AgDQ0RIA0
伊勢「……むっ?」

百鬼「てめえ、よく出てこれやがったな」

月ヶ瀬「はぁ……」

昼食会の後見回りをしていると、百鬼君と月ヶ瀬君の姿を見かけた。

ふむ……どうやら出てきた月ヶ瀬君を百鬼君が見咎めたといったところか。

月ヶ瀬「俺はただ昼飯取りに行くだけだ。通してくれないかねぇ?」

百鬼「けっ、どうだか……出来ればこのまま餓死させてやりてえぐれえだ」

月ヶ瀬「キハハ、そしたらお前がクロで死ぬってわけだ?モノクマに歯向かったのといい自殺願望でもあるのかぁ?」

百鬼「んだとてめえ!!」

月ヶ瀬「図星を突かれたからってキレんなよ、キハハ!」

まずいな、そろそろ百鬼君が月ヶ瀬君を殴ってしまいそうだ。

伊勢「そこまでにしたまえ」

月ヶ瀬「また増えやがったなぁ……」

百鬼「ああ?なんか文句あんのか!!」

伊勢「百鬼君、月ヶ瀬君を餓死させてしまえば彼の言う通り君がクロにされてしまう可能性がある」

百鬼「てめえも俺が自殺願望あるとでも言いてえのか!?」

伊勢「そうではない。言い方は悪いが、こんな人間のために君が命を散らす必要などない」

百鬼「……!」

月ヶ瀬「キハハ、はっきり言いやがる」

伊勢「月ヶ瀬君、食事を取るのはいい。だが見張りはつけさせてもらう」

月ヶ瀬「息苦しいなぁ、ったく」

伊勢「君はその気になれば毒を混入出来るからな。諦めるのを推奨する」

彼は煙草を所持している……つまりニコチンでの毒殺が可能という事だ。

そんな彼を厨房に1人で置くわけにはいかない。

月ヶ瀬「へーへー、わかりましたよ」

伊勢「百鬼君、不満があるなら君も見張りに来たまえ」

百鬼「……ちっ、わかったよ」

その後月ヶ瀬君が食事を取るのを百鬼君と監視した……ふむ、次からは1人でこなせるようにしなくてはな。
81 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/28(土) 22:11:07.90 ID:AgDQ0RIA0
符流「……」

月ヶ瀬君が部屋に帰ったのを見届けた後、大浴場に向かうと脱衣場で符流君と出くわした。

ふむ、今は男子の入浴時間……1人で入りに来たのだろうな。

伊勢「符流君、入浴だろうか?」

符流「オレは脱衣場で料理をする趣味はない〜♪」

伊勢「ふむ、料理をする環境でもないから妥当ではあるな」

符流「……」

伊勢「どうかしたのかね?」

符流「ふん、なんでもない〜♪」

伊勢「ゆっくり入浴してくれたまえ。脱衣場と大浴場は殺人禁止……数少ない安全地帯なのだから」

符流「言われなくてもそのつもりだ〜♪」

大浴場に入っていく符流君を見送る……さて、僕は見回りを再開するとしよう。

【数十分後】

伊勢「……何やら騒がしいな」

符流「……」

伊勢「符流君、その顔の怪我はいったいどうしたのだろうか」

符流「ふん、安全地帯から追い出されただけだ〜♪」

……まさか今までずっと大浴場にいたのだろうか?
82 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/28(土) 23:24:33.24 ID:AgDQ0RIA0
伊勢「姫島君、調子はどうかね?」

姫島「……特に問題はない」

伊勢「そうか、ならばいいのだが」

姫島「……」

伊勢「……」

ふむ、姫島君と話す感覚をなかなか掴めないな……

姫島「……伊勢君」

伊勢「ふむ、なんだろうか?」

姫島「私と無理に話そうとしなくていい」

伊勢「むっ?」

姫島「私は脇役、置物みたいな物……だから放置してくれて構わない」

伊勢「……」

姫島君のプロ意識には頭が下がるが……

伊勢「それを聞くわけにはいかない」

姫島「……なぜ?」

伊勢「僕はこのコロシアイを乗り切りたいからだ」

伊勢「僕にとって主役も脇役も関係ない……誰も死なせたくないという気持ちの上では全員平等だ」

姫島「……」

伊勢「そのためにはまずコミュニケーションを取る事……故に君を放置するなど出来るはずもない」

姫島「……」

伊勢「理解してもらえただろうか?」

姫島「……好きにして」

伊勢「ああ、好きにさせてもらおう」

さて、次はどのような話題を話すべきか……
83 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/28(土) 23:34:50.93 ID:AgDQ0RIA0
伊勢「ふむ……」

先ほど天童君が料理をしに厨房に入っていった……彼が離れている今が駆祭君と話す絶好の機会か。

ピンポーン

伊勢「駆祭君、話があるのだがいいかね」

ガチャッ

駆祭「なに。下等と話す時間はないのよ」

伊勢「そう言わないでくれたまえ。僕としても君をこのままにするわけにはいかない」

駆祭「なぜ」

伊勢「ふむ、簡単に言ってしまえば君が孤立無援になるのを避ける意味合いがあるな」

駆祭「昴がいるから無用な心配ね。そもそも月ヶ瀬がいる時点でそんな詭弁に価値はない」

伊勢「これは手厳しいな。だが月ヶ瀬君に関してもこのままにしておくつもりはない」

駆祭「あらそう。どのみちワタシは昴がいればそれでいい。失せなさい」

伊勢「1つ聞きたいのだが、このまま籠もって君はどうする気なのかね?」

駆祭「愚問ね。待ってるだけよ」

伊勢「待つ?脱出出来る時をかね」

駆祭「事件が起きるのをよ」

伊勢「それは、君が月ヶ瀬君と同じ考えと判断していいのだろうか」

駆祭「あんなゴミと一緒にしないで。ワタシはお前達とは違うのよ」

駆祭「何もかもがね」

伊勢「……なるほど。主張は理解した」

伊勢「ただ忠告だけはしよう」

伊勢「このままだと破滅しか君には待っていない。気が変わったらいつでも出てきたまえ」

駆祭「破滅するのはお前達よ」

バタンッ!!

伊勢「ふむ」

困ったものだ。
84 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/28(土) 23:56:25.55 ID:AgDQ0RIA0
【大食堂】

一里塚「いや、本当に朝はごめんね!」

ダヴィデ「いいのよ。誰にでも得意な事と苦手な事があるわ」

紫乃「ニコ様の場合それが朝起きる事というだけですから」

一里塚「ありがとう、そう言ってもらえると助かるよ」

ダヴィデ「ちなみにアタシが苦手なのは鏡をずっと見る事よ!」

紫乃「そうなのですか?」

ダヴィデ「だって怖いじゃない……アタシの美しい顔をずっと見ていたら時間を忘れちゃうわ」

一里塚「本気……なんだろうなぁ」

野場「うまいうまい!」

符流「それはオレの分だ、箸を離せ……!」

百鬼「あっ、てめえ!俺の取るんじゃねえよ!」

伊勢「……ふむ」

賑やかでいいことだ。

東「……」

伊勢「むっ?どうしたのだろうか東君」

東「えっ、あっ、いや……実は1つ気になる事があってさ」

伊勢「何かね」


東「伊勢って……何の才能でスカウトされたんだ?」
85 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/29(日) 00:02:12.87 ID:KgdEyI1A0
伊勢「僕の才能?」

東「他の皆は有名だけどさ、伊勢に関しては全く聞いた覚えがないんだよ」

東「だからどんな才能なのか気になってたんだ」

中後「それはボクも気になるね。何というか、君はつかみ所がなくて鑑定しようがない」

中後「せめて才能ぐらいは知りたいところだよ」

伊勢「ふむ」

いつの間にやら周りも僕に注目している。

隠す事でもないか……そもそも洋子君は知っているしな。

伊勢「わからない」

百鬼「わからないだぁ?」

伊勢「僕には記憶がないからな」

奥寺「え、ええっ!?」

野場「今明かされる衝撃の真実!なんという事でしょう!」

甲羅「なんだ、オマエラ知らなかったのかよ?」

ダヴィデ「洋子ちゃんは知ってたのね」

姫島「……私も聞いてた」

一里塚「えっと、それ本当なの?」

伊勢「名前以外はまるで覚えていない。皆のプロフィールについてはパッと頭に浮かんだが」

祭田「そうだったんだ……」

紫乃「そのわりには、あまり焦っていらっしゃらないのですね」

伊勢「名前は覚えていたんだ。いつか他の記憶についても思い出すだろう」

符流「前向きなのか〜♪考えなしなのか〜♪」

伊勢「そういう事だから才能については覚えていない。君達の中にいたのならおそらく何かの才能はあるのだろうが」

モノクマの用意周到さを考えれば、僕だけ巻き込まれたとは考えにくい。

唯一才能に関する記憶がない……おそらく記憶があると都合が悪かったと推察は出来る。

最も、全て推測でしかないのが歯がゆいが……


東「…………」
86 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/10/02(水) 21:53:59.91 ID:QsdTKGBA0
明日クエストと合わせて更新します。
ちなみに以前とは被害者、クロを全く同じにはしないつもりですので。
87 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/10/03(木) 23:59:56.85 ID:gTu9NrYA0
【伊勢の部屋】

ピンポーンパンポーン……

モノクマ「夜10時になりました!」

モノクマ「今から夜時間とさせていただきます」

モノクマ「うぷぷ、生きてたらまた明日」

伊勢「ふむ……もう夜時間か」

昨日は放送の後に眠ってしまった、今日は外に出てみよう。

1つ気になる事もあるからな……

【大食堂】

伊勢「ふむ、やはりか」

厨房への扉が閉まっていて、午前6時までは入れませんと札がかかっている。

食材補充の現場を見られたくないだろう事は予測していたが……

しかしもしも厨房にそのままいた場合はどうなるのか、気になる事も多い。

明日試してみるのも1つの手か……

伊勢「とにかく明日報告するとしよう……むっ?」

誰か来たようだ。

この時間にわざわざ現れた……ふむ、少し警戒が必要かもしれないな。
88 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/10/04(金) 00:07:48.44 ID:M/sdoW+A0
姫島「……」

あの影は姫島君か。

ふむ、ここは声をかけて様子を見るとしよう。

伊勢「姫島君」

姫島「っ!?」

誰かがいることをまるで考慮していなかったのか、姫島君の表情が驚愕に染まる。

ふむ、普段が無表情だけに新鮮ではあるな。

伊勢「そこまで驚く事もないと思うのだが……」

姫島「……こんな時間に何を」

伊勢「それについてはお互い様というものだ。僕は厨房に用があったのだが」

姫島「厨房……」

伊勢「食材補充の現場を押さえたかったのだが……見ての通り入れないようだ」

姫島「入れない……」

伊勢「もしかして姫島君も厨房に用があったのかね?」

姫島「……そんなところ」

伊勢「そうか……ふむ、保存食ならば倉庫にもあるはずだからそちらを当たるのはどうだろうか」

姫島「そうする」

伊勢「ただ月ヶ瀬君の部屋が近い。念のためについて行ってもいいが」

姫島「大丈夫。護身術ぐらいは心得てるから」

姫島君はそう言って食堂から出ていく。

様子を見てみると、彼女はそのまま女子側の個室エリアに戻っていった。

伊勢「ふむ……」

夜時間にわざわざ厨房に来たわりには倉庫には行かずか……

どうやら、また1つ考えるべき事が増えたようだ。

伊勢「倉庫を見てから、部屋に戻るとしよう」
89 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/10/04(金) 00:20:33.52 ID:M/sdoW+A0
【3日目】

ピンポーンパンポーン…

モノクマ「7時です!7時です!」

モノクマ「生きてたらおはよう!死んでたらさようなら!」

モノクマ「オマエラはどうかなー?うぷぷぷぷぷぷぷぷぷ……」

伊勢「さて朝の見回りも終わった……食堂に行くとしよう」

【大食堂】

伊勢「ふむ、一里塚君はやはりいないか」

夜行性と言うからには簡単にそのサイクルを直せはしないだろうが……どうしたものか。

伊勢「……今はそれについては保留か。たまには牛乳でも飲んで」

テーブルに置いてある牛乳に手を伸ばす。

しかしその手は牛乳に届く前に横から伸びた手に掴まれた。

甲羅「ダメだ」

伊勢「……目敏くないだろうか、洋子君」

甲羅「ミノルが悪いんだよ。オレの断りもなしに目を盗んで牛乳なんて」

伊勢「まさか許可がいるとは……」

ここまで頑なだと気になってしまうな……1つ聞いてみるとしよう。

伊勢「洋子君、1つ聞きたいのだがなぜ君はそこまで牛乳を飲ませたくないのだろうか」

甲羅「あん?なんでって、そりゃ……」

伊勢「……」

甲羅「そりゃ、まあ……」

伊勢「……」

甲羅「なん、つうか…………」カァァ

洋子君、なぜ頬を赤らめているのだ?

甲羅「あああっ!んな事女に言わせんじゃねえよこの変態野郎!」

……とんでもない濡れ衣を着せられた気がするのだが。

しかし周りは騒ぎの中心が僕と洋子君だとわかると途端に興味を失っているようだ……なぜなのだろう。

甲羅「とにかく牛乳はダメだからな!後食生活には気をつけやがれよ!!」

そう言って洋子君は離れていった……牛乳をしっかりと回収して。

伊勢「……」

洋子君は本当に謎だな……
90 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/10/04(金) 00:30:39.52 ID:M/sdoW+A0
伊勢「洋子君が牛乳を飲ませたくない理由は変態的な物……ふむ」

しかし牛乳を飲ませたくない変態的理由……思いつかないな。

伊勢「むっ?」

東「だから符流だって本当はさ……」

符流「訳の分からない事を言うな〜♪」

洋子君の言う変態的理由を考えながら歩いていると、会話が聞こえてくる。

どうやら東君と符流君が言い争っているようだ……

東「でもだったらなんで……」

符流「それは違う……!」

ふむ、どうやら符流君が押され気味のようだが……話を聞いてみるとしよう。

東「あっ、伊勢。ちょうど良かった」

伊勢「どうしたのかね?」

東「いや、符流が本当はみんなと仲良くしたいんじゃないかって」

符流「そんなわけないだろう〜♪」

伊勢「なるほど、それが話の内容だったか」

符流君が本当は仲良くしたいのかどうか、か……今までの彼を考慮すると。

伊勢「確かに東君の見解には頷ける物があるな」

符流「どいつもこいつも〜♪勘違いするな〜♪」

伊勢「そうでなければ大浴場の話し合いで混浴に賛成したりはしない」

符流「……!」

東「やっぱりそう思うよな?」

符流「だからそれは違う……!」

伊勢「違うとは?」

符流「……どうでもいいから賛成しただけだ〜♪」

符流「断じて深い意味などない〜♪」

符流「いいな、絶対に勘違いするな……!」

ここまで否定していると逆に肯定とも思えるが……それにあの時君は紫乃君をわりと援護していたはずだが。

東「そうか……ごめんな。そこまで否定されたらさすがに信じるよ」

符流「わかればいい〜♪」

表情に安堵しているのがよく見える……どうやら符流君はかなりわかりやすい性格のようだ。
91 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/10/04(金) 00:37:38.53 ID:M/sdoW+A0
2人と別れて再び歩く。

しかし符流君は群れるのを嫌っているが東君は仲良くしたいと判断した……

伊勢「東君は周りをよく見ているのかもしれないな……むっ?」

この煙草の臭いは……

月ヶ瀬「キハハ、ヌルイ事してやがるみたいだなぁ」

伊勢「月ヶ瀬君か」

月ヶ瀬「全くこんな事してる暇があったらトリックの1つや2つ考えた方が有意義だろうに……」

月ヶ瀬「キハハ、俺からしたら大助かりだがなぁ」

伊勢「わざわざそんな事を言うために出てきたのか。ご苦労な事だが、君は暇なのかね?」

月ヶ瀬「ただ飯を取りに来ただけだぁ。すぐ部屋に戻る」

伊勢「ああ、ならば見張らなければな」

月ヶ瀬「……余計な事言っちまった」

伊勢「しかしそのような露骨な態度では、事件が起きたら間違いなく君が疑われると思うが」

月ヶ瀬「キハハ、そんな事は承知の上だぁ」

月ヶ瀬「だけどそう考えていると、いつか足元をすくわれる結果になるんじゃないか?」

月ヶ瀬「キハハ、その時お前がどうなるか楽しみだ……」

伊勢「挑発のつもりだろうが、何を言ったところで君が望む結果にはならないだろう」

月ヶ瀬「キハハ、言ってろ」

月ヶ瀬君が何を考えていようと、僕は僕のやるべき事をする。

それだけだ。
92 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/10/04(金) 00:38:20.94 ID:M/sdoW+A0
今回はここまで。
93 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/10/09(水) 22:39:28.87 ID:s+/u7QEA0
月ヶ瀬君はいずれ対処しないといけないが……どうしたものか。

伊勢「いざという時は手荒な手段も考える必要があるな……」

野場「姫島隊員!待ってください!」

姫島「……!」

伊勢「……」

ふむ、気の休まる暇がないとはこの事か。

逃げる姫島君、それを追いかける野場君をさらに追って僕は走り出した……

※※※※

姫島「はぁ、はぁ……」

野場「捕まえました!野場は野性動物にも勝ったので当たり前ですが!」

伊勢「……やっと追いついた」

野場「伊勢隊長!なぜここに!」

伊勢「君達がただならぬ様子だから追ってきたのだが……」

姫島「はぁ、はぁ……」

伊勢「姫島君は話せそうにないな……野場君、いったい何があったのかね」

野場「……?」

なぜ、野場君は首を傾げているのだろうか?

野場「……姫島隊員、何があったんでしょう?」

姫島「あなたが、はぁ、いきなり突撃してきたから、怖くなって、はぁ、逃げた……」

野場「……」

伊勢「……」

姫島「はぁ、はぁ……」

野場「……ああ、姫島隊員!奥寺隊員が呼んでました!」

姫島「…………それ、だけ?」

野場「はい!」

満面の笑みの野場君をしばし見つめて、姫島君が項垂れる。

気持ちは、よくわかるな……
94 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/10/09(水) 22:51:38.66 ID:s+/u7QEA0
伊勢「野場君は少し落ち着いた方がいいのではないだろうか……」

奥寺「あっ、伊勢さん!姫島さん見ませんでしたか?」

伊勢「知ってはいるが……急用ではないのなら、後にした方がいいと思う」

奥寺「へっ?まあ、それは構いませんけど……」

伊勢「感謝する。そういえば奥寺君はプロデューサーとの事だが……やはり姫島君ともその関係で?」

奥寺「はい、そうですよ!姫島さんは昔ぼくがプロデュースをした1人なんです!」

伊勢「その口ぶりでは他にもプロデュースしているようだが」

奥寺「そうですね。才能があってもそれだけじゃ、あの世界ではやっていけません」

奥寺「だからぼくは少しでも皆さんの力になりたくて手助けをしてるんです!」

奥寺「企画、キャスティング、資金やスケジュールの管理……」

奥寺「大変ですけどやりがいはありますよ」

伊勢「それだけ仕事があると大変ではないかね?」

奥寺「まあ、眠れない事もありますね。そういえば普通に眠れたの久しぶりかも……」

伊勢「それでもやりがいがあるか。奥寺君は真面目なのだな」

奥寺「そ、そんな事ありませんよぉ」

奥寺君がなぜ慕われているか、少しわかる気がするな……
95 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/10/09(水) 23:13:22.22 ID:s+/u7QEA0
中後「だからなぜあの壷を使ったんだい!」

祭田「お花さんが住めるからだよ?」

中後「それは散々聞いたよ!」

中後君と祭田君が何やら揉めているようだ。

しかし内容はだいたいわかるな……僕も関わっていたからには無視するわけにもいかないだろう。

伊勢「中後君、落ち着きたまえ」

中後「伊勢君か、聞いてくれ!ボクが目をつけていた壷を祭田君が花瓶に使ってしまったんだよ!」

祭田「お花さん飾りたかったから」

中後「それなら何もあの壷を使わなくても……!」

伊勢「祭田君を責めないでくれ、中後君。あの壷を彼女に渡したのは僕だ」

中後「なんだって!?君はあの壷にどれだけの価値があるのかわかっているのかい!」

伊勢「ふむ、一番大きな壷が数千万の値打ちがあるのは昨日君から聞いたな」

中後「だったら他の壷の値打ちも想像がつくだろう!」

伊勢「そうは言うが中後君、この館にあるものは君の所有物というわけでもない。そして僕と祭田君は花瓶にふさわしいと判断した」

祭田「お花さんたくさんだから寂しくないよ」

中後「ぐぐぐ……もういいよ!だけど一番大きな壷には触れないようにしてくれ!」

伊勢「ああ、それは約束しよう」

どこか疲れたような様子の中後君が去っていく……祭田君には悪い事をしたな。

祭田「お花さんにお水あげなきゃ」

伊勢「僕も手伝おう」

祭田「ありがとうミノル」

さほど気にしていない様子なのは、救いと言えるだろうか……
96 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/10/09(水) 23:31:11.85 ID:s+/u7QEA0
一里塚「ふあぁ……」

伊勢「眠そうだが、大丈夫なのかね」

一里塚「大丈夫大丈夫。ちょっとしたら完全に目覚めるから……」

しかしこれではいつ眠ってしまうかわからないな……ふむ、眠気覚ましにコーヒーでも入れるか。

百鬼「なんだそいつ、眠そうだな」

伊勢「百鬼君か。一里塚君は昼夜逆転の生活を送っていたらしいからな」

一里塚「ふあっ」

百鬼「危なっかしいな……ちっ、ちょっと待っとけ」

そう言って厨房に向かった百鬼君は、少ししてから皿を持って戻ってくる。

この匂いは、カレーだろうか?

百鬼「ほら、食ってみろ」

一里塚「あ、ありがと。いただきます……」

差し出されるまま寝ぼけ眼でカレーを食べる一里塚君。

しかしその表情は、一口食べた途端に一変した。

一里塚「甘っ!?いや辛っ!?えっ、何これ!なんか変な味するんだけど!?」

百鬼「んだよ、どんなもんかと思ったら外れかよ」

一里塚「人を毒味に使わないで!?」

ふむ、百鬼君なりに一里塚君を眠らせないようにしたのか……

伊勢「僕も困ったらそうするべきか」

一里塚「やめて!?」
97 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/10/16(水) 23:28:59.14 ID:YHIou58A0
紫乃「ふうっ」

伊勢「疲れているようだな、紫乃君」

紫乃「あっ、実様……はい、やはり環境がよくないんだと思います」

伊勢「ふむ、野場君のように振る舞えればいいのだろうが、あれは誰にでも出来る事ではないからな」

紫乃「夕貴様はまた特殊な気もいたします……」

伊勢「ふむ……紫乃君は何か趣味などはあるのだろうか?」

紫乃「趣味、ですか?」

伊勢「ストレス解消にそういう事をするのもいいだろうと思ったのだが」

紫乃「……そうですね、やはり」

伊勢「やはり?」

紫乃「……いえ、これは人がいる事なのでまだ簡単には出来ませんね」

伊勢「ふむ?」

紫乃「でもいずれ……ふふっ、その時は実様もよろしくお願いいたしますね」

伊勢「それが僕に出来る事なら、協力しよう」

紫乃「……ふふっ」

紫乃君の趣味か……いったいどんなことなのだろうな。
98 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/10/16(水) 23:43:43.44 ID:YHIou58A0
【大食堂】

中後「ふう」

ダヴィデ「どしたの直巳ちゃん」

中後「いや、もうここでの生活も3日目が終わるんだなと思ってね」

一里塚「そういえばそうだね……今頃外は大騒ぎしてるかも」

百鬼「ちくしょう!試合があるのにこのままじゃ不戦敗になっちまう!」

紫乃「わたくしも依頼人の方々が待っています……困りました」

奥寺「ううう、色々キャンセルだよね絶対……プロデューサーは信用第一なのに……!」

ふむ、やはり皆も不安を抱き始めたか……

このままいつになったら出られるかわからない……そんな漠然とした不安を。

これを放置すれば、不協和音を生み出しろくな展開にはならないだろう。

なんとか、しなくてはな。

伊勢「皆、落ち着きたまえ」

符流「これが落ち着いていられるか〜♪」

伊勢「ならばモノクマの誘惑に乗るのだろうか。人を殺し、その血塗られた手で外に出ていくという誘いに」

姫島「それは……」

伊勢「モノクマがどこまで本気にせよ、最終的に無事に帰れたなら全てはチャラだ」

伊勢「人を殺す重み、それをわざわざ抱える必要などない」

伊勢「それに命あっての物種……そう言うだろう?」

祭田「物種ってどんな花が咲くの?」

伊勢「ふむ……僕も見てみたいな」

伊勢「そのためにも無事に脱出する事を考えていこう」

伊勢「後の事はそれから考えるべきだ」

皆も渋々ながら頷いている。

ひとまずこれで抑止になればいいのだが……ふむ、何か打開案を考えなければならないな。
99 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/10/16(水) 23:47:30.00 ID:YHIou58A0
伊勢「ふむ……」

さて、現状どうにかしなければならない人間は二人いる。

月ヶ瀬君と駆祭君だ。

月ヶ瀬君はともかくも駆祭君は部屋から全く外に出てこない。

それをこのままほうっているのはマズいだろう。

伊勢「ふむ」

これから駆祭君の部屋に行くとして……さて、1人で行くか、それとも。

ダヴィデ君に頼んでみるか……彼はなかなか冷静な判断が出来る人物だからな。

※※※※

ダヴィデ「いいわよ。アタシもあの子は気になってたから」

伊勢「助かる」

ダヴィデ「でも実君もすっかりリーダーね」

伊勢「僕がリーダー?野場君も僕を隊長と呼んでいたが……」

ダヴィデ「あら、みんなもうそのつもりよ?今日だって落ち着かせてくれたじゃない」

伊勢「みんなにもそんな風に見られていたのか僕は……着いたようだ」

ピンポーン

伊勢「駆祭君、ちょっといいかね?」

ピンポーン

ダヴィデ「はやてちゃん出てきなさい!」

伊勢「ふむ……出てこないな」

ダヴィデ「居留守ね!居留守なのね!」

伊勢「そうだろうな」

ダヴィデ「どうするの?」

伊勢「長期戦は覚悟の上だ。続けよう」

ピンポーン
100 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/10/16(水) 23:49:07.82 ID:YHIou58A0
ピンポーン

ガチャッ

駆祭「何」

伊勢「ふむ、思ったより早かったな」

ダヴィデ「全くね。でも夜更かしせずに済んだわ」

駆祭「ワタシは何と聞いているのよ下等」

伊勢「この3日君は全く外に出ていない。それについて話をしたいと思ったのでね」

駆祭「話す事なんてない。ワタシは今忙しいのよ」

ダヴィデ「ひきこもってるだけじゃない。一体何が忙し……ってちょっと!?」

伊勢「むっ?どうしたダヴィデ君」

ダヴィデ「部屋の中、ちょっと見て!」

伊勢「……これは」

駆祭君の身体に遮られていたが、少しの隙間からダヴィデ君が見ただろうモノを僕も見た。

それは……

服を脱いだ状態で、ボロボロの身体をした天童君だった。
101 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/10/22(火) 19:48:20.22 ID:r9blZRXA0
ダヴィデ「ちょっと昴君、しっかりしなさい!」

天童「うっ、くうっ……」

思わず飛び込んだダヴィデ君に続いて僕も部屋に入る。

天童君は上半身に服を着ておらず、その身体は皮膚が裂けたのか血がところどころ出て酷い状態だ。

そして部屋の隅にある鞭……ここで何が行われていたかはあまりにも明白だった。

駆祭「大げさな連中ね。昴はその程度で壊れるほど柔な家具じゃないわよ」

ダヴィデ「はやてちゃん、何てことをしてるのよ!昴君にこんな……」

駆祭「何勘違いしてるの。これは全部昴が自分で望んだのよ」

伊勢「天童君が、自分から?」

駆祭「それがワタシと昴の関係性。お前達には理解できないでしょうね」

ダヴィデ「理解したくもないわよ!」

伊勢「とにかく天童君を治療しよう。ダヴィデ君、肩を」

ダヴィデ「わかったわ」

気絶した天童君を抱えて駆祭君の横を通り過ぎる。

一瞬合った彼女の目はこちらへの侮蔑を隠さない冷めきったものだった。

駆祭「……くだらない。お前達が何をしても昴はワタシの所に戻るわ」

駆祭「だってワタシの家具だもの」

駆祭君の言葉を背に受けながら僕達は部屋を出て天童君の治療に向かう。

天童君……これが君の忠誠だとでも言うのか?
102 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/10/22(火) 20:44:26.56 ID:r9blZRXA0
ピンポーンパンポーン……

モノクマ「夜十時になりました!」

モノクマ「今から夜時間とさせていただきます」

モノクマ「うぷぷ、生きてたらまた明日」

伊勢「……」

あれから天童君を治療し、部屋のベッドに寝かせてからダヴィデ君と別れた僕は倉庫の見回りをしていた。

天童君の事は気がかりだが、それだけに意識を向けるわけにもいかない。

リーダーと認識されているというならその期待には応えなければ。

伊勢「……」

しかしなぜ僕はここまでしているのだろう?

ここにいる皆と出会ってまだ3日……それなのに僕は様々な事に気をかけ、こうして見回りまでしている。

記憶喪失である自分、本来なら自分の事だけ考えていてもおかしくないだろうに。

伊勢「……ふむ」

少し思案し……難しい事ではないとすぐに結論を出す。

僕は記憶喪失だ。

つまり僕にとってはこの館こそが世界であり、ここにいる皆こそが世界で共に生きる存在。

そんな存在を失いたくないと考えるのは当たり前の事。

伊勢「ふむ、納得も出来た。見回りを再開するとしよう」
103 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/10/23(水) 09:33:14.67 ID:2aUb99zA0
【4日目】

ピンポーンパンポーン…

モノクマ「七時です!七時です!」

モノクマ「生きてたらおはよう!死んでたらさようなら!」

モノクマ「オマエラはどうかなー?うぷぷぷぷぷぷぷぷぷ……」

伊勢「ふむ……」

天童君は目を覚ましただろうか。

しかし駆祭君と天童君……2人が普通の主従ではないと思ってはいたが……

伊勢「とにかく天童君の部屋に行ってみよう」

【天童の部屋前】

ピンポーン

伊勢「……いないようだな」

まだ目を覚ましていないという可能性もあるにはあるが……

そうでないとすれば、まさか本当に駆祭君の所に戻ったのだろうか……

伊勢「食堂に行ってみよう」



【大食堂】

伊勢「ここにもいない、か」

ダヴィデ「あら、実君」

伊勢「ダヴィデ君か」

ダヴィデ「ねぇ、昴君見なかった?部屋に行っても留守みたいなのよ」

伊勢「こちらも捜していたところだが……むっ?」

テーブルの上に置かれた1枚のメモ用紙。

昨日は確かになかったそれを手に取る。

【どなたか存じ上げませんが、ありがとうございました。
わたしは仕事に戻りますがご心配には及びません。
天童昴】

伊勢「……駆祭君の元に戻ったようだ」

ダヴィデ「嘘、あんな目にあったのに!?」

伊勢「……」

天童君の忠誠心も少し厄介な代物のようだな……
104 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/10/23(水) 09:55:36.69 ID:2aUb99zA0
天童君に関しては相当てこずりそうだと思案している内に、今日の朝食会は始まった。

ふむ、おそらく2人は普段からああなのだろうが……

野場「いらないのならいただきます!」

伊勢「むっ」

考え込んでいたら野場君に朝食を奪われてしまうな……

野場「今日も元気だ!ご飯が美味しい!」

にこやかに食事をする野場君を見ていると、どうもここがどういう場所か失念してしまいそうになるな……

伊勢「しかし本当に野場君は毎日元気だ。元気ではないという時はないのではないか?」

野場「野場ですから!野場=元気と言っても過言ではないです!」

伊勢「ふむ……」

野場君は自分に自信を持っているという事なのだろうか……

野場「いつか野場は未開の地などないほどに世界中を踏破し!その全てに元気を振りまくのです!」

伊勢「それはまた……随分と大きな夢だ」

野場「大きく持ったっていいじゃないですか!だって夢だもの!」

伊勢「ふむ、それは確かに言えているな……」

野場「だから野場は夢は大きく持ちます!叶うんですけどね!だって野場ですから!」

伊勢「全く、野場君のその自信は真似できないな」

野場「褒めないでください!照れます!」

僕も前向きな方だと思っているが、少しは野場君を見習うべきだろうか……

とはいえ、彼女のようにしていれば体力がもちそうにないが……
105 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/12/12(木) 23:46:04.40 ID:YWR//6NA0
伊勢「……むっ」

あそこにいるのは……

奥寺「あ、あの天童さん?」

天童「なんでしょうか奥寺様」

奥寺「なんだか、顔色が悪くないですか?」

天童「そうでしょうか?特に普段と変わりはないのですが」

伊勢「そんな事はないだろう天童君」

奥寺「あっ、伊勢さん」

天童「伊勢様……その様子では昨日お手を煩わせたのは伊勢様でしたか。申し訳ありません」

伊勢「そう思うのであれば、駆祭君を止めてほしいのだが……今日も彼女の所に行っていたのかね?」

天童「はい。はやてお嬢様はわたしの主ですので当たり前の事です」

伊勢「あんな事があっても、か」

天童「わたしは執事ですから」

奥寺「……?」

これは、やはり一筋縄ではいかないようだ。

伊勢「駆祭君は部屋から出る気はないのだろうか」

天童「今のところ、その気はないようです」

奥寺「今のところ、ですか?」

天童「はい。ですので、いつかは出てきてくださるはずです」

伊勢「いつかは……未定という事か」

駆祭君は部屋の中で天童君を痛めつけているようだ……そしてそれに彼は抵抗しようとしない。

最悪の事態を防ぐためにも、やはり彼女には部屋から出てきてもらいたいところなのだが……

どうしたものか……
106 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/12/13(金) 00:01:15.79 ID:UQjhmhiA0
伊勢「……ふむ」

駆祭君と天童君の事は気がかりだが、そればかりに気をとられてもいられない。

月ヶ瀬「キハハ……そう睨まれたらやりにくいなぁ」

伊勢「日頃の行いというものだ。諦めたまえ」

今食事をしている月ヶ瀬君もしっかり見張らなければならない……この後は見回り、そして……

甲羅「よおっ、ミノル」

伊勢「洋子君か」

甲羅「見張りしてんのか?なんつうかミノルもよくやるよな」

伊勢「何も起こさないためだ。苦ではないさ」

甲羅「そんなもんかねぇ」

月ヶ瀬「……キハハ、人前でいちゃついてんなよなぁ」

伊勢「言いがかりはやめてほしいものだな月ヶ瀬君」

僕と洋子君は恋人というわけでもない、そもそも普通に会話しているだけでなぜ睦み合いと言われなければならないのか。

月ヶ瀬「キハハ……言いがかりねぇ」

甲羅「……」

伊勢「洋子君、どうしたのかね」

甲羅「いや、なんつうか……面白くねぇ」

伊勢「月ヶ瀬君の食事を見張っているだけだからな……退屈だと感じるのも無理はない」

甲羅「そうじゃなくて、ああ、わけわかんねえ!」

洋子君はどこか不機嫌そうに食堂から出ていった……ふむ。

月ヶ瀬「へっ」

伊勢「何がおかしいのかね」

月ヶ瀬「さぁねぇ、キハハ!」
107 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/12/13(金) 00:01:41.20 ID:UQjhmhiA0
短いですがここまでで。
108 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/12/23(月) 22:03:13.82 ID:mr57CQaA0
25日21:00より更新します。
109 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/01/18(土) 21:37:44.69 ID:gpUR300A0
一里塚「ふああ……おはよう」

伊勢「おはよう一里塚君」

月ヶ瀬君を見張り、見回りを終えた昼少し前に一里塚君は起きてきた。

まだ眠いようで欠伸を何回もしているが……

伊勢「一里塚君、寝てしまわないように。ルール違反になってしまう」

一里塚「んうっ……わかってる……」

伊勢「本当に大丈夫なのだろうか……」

一里塚「大丈夫だって……ご飯作るから……」

どうも危ないな……

伊勢「一里塚君、僕が作ろう。君は個室で待っていたまえ」

一里塚「……はえっ?」

伊勢「ルールの事を除いても今の君は危なくて見ていられないからな」

一里塚「伊勢君……料理出来るの?」

伊勢「包丁の扱いはダヴィデ君と紫乃君のお墨付きだ。とはいえ記憶を失ってから料理をするのは初めてだが……」

一里塚「じゃあ、お言葉に甘える……もう少し部屋で寝てるね……」

一里塚君がフラフラと食堂から出ていくのを見送って僕は厨房に向かう。

伊勢「……さて、やってみるとしようか」

もしかしたら料理関係の才能かもしれない……何にしろ手がかりになるなら挑戦しなくてはな。
110 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/01/18(土) 22:35:17.89 ID:gpUR300A0
【厨房】

伊勢「ふむ、まずはメニュー決めだが」

一里塚君は寝起きだ、昼とはいえ重い物は避けた方がいいだろう。

今冷蔵庫にある材料と照らし合わせると……

トントン

カチャカチャ

グツグツ

祭田「いい匂い」

伊勢「祭田君か、ちょうどいいところに来てくれた」

祭田「ミノル、お昼?」

伊勢「いや、これは一里塚君の朝食だ」

祭田「ニコ、今起きたの?」

伊勢「そのようだ。まだ眠そうだったが……それが一里塚君の日常だったのだろう」

祭田「ユナがお花さんのお世話するのと同じ?」

伊勢「ふむ、そうかもしれないな」

日常……それは自身に染み付いているものと言っても過言ではないだろう。

僕にもそういったものがあればよかったのだが……

祭田「それでちょうどいいって?」

伊勢「ああ、それを忘れていたな。味見をしてもらえないだろうか」

スープをよそった小皿を祭田君に差し出す。

小皿を受け取ってスープを口にした祭田君は、顔を綻ばせた。

祭田「美味しい……!」

伊勢「そう言ってもらえると、作り手としてはありがたいな」

もう少しダヴィデ君や紫乃君に感謝を示した方がいいかもしれないな……

余談だが、祭田君が希望したため僕の料理は昼にも出される事になった。
111 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/01/18(土) 22:59:46.14 ID:gpUR300A0
伊勢「ふむ……なんとか完成したな」

一里塚君に持っていくとしよう。

…………

一里塚「…………」

伊勢「どうだろうか」

一里塚「お……」

一里塚「美味しすぎて、眠気が飛んだ……」

伊勢「気に入ってもらえたなら僕としても作った甲斐があるな」

一里塚「というか、自信がなくなった……何それ反則すぎるって……」

伊勢「一里塚君?」

一里塚「ごめんね、ちょっと一人にして……」

伊勢「……?」

何か気に障るような事をしてしまったのだろうか……

バタンッ

伊勢「ふむ……」

祭田君や一里塚君の反応から見ても僕の料理の腕は高いようだ。

つまり僕の才能は料理に関係するもの?

いや、日常的に料理をしていただけかもしれない……決めるのは早計か。

ダヴィデ「あら、実君じゃない。ニコちゃんにご飯届けてたの?」

伊勢「ダヴィデ君。一応僕が作った食事を渡したのだが」

ダヴィデ「あらやだ、実君!いつの間に料理なんてしたの!」

伊勢「一里塚君がフラフラだったのでな」

ダヴィデ「アタシも食べてみたいわねぇ、実君の手料理」

伊勢「まだ厨房に余っているから、それでもよければ」

ダヴィデ「ワオ!それはいい事を聞いたわ!それじゃあ行きましょ!」

その後ダヴィデ君からも美味であるとお墨付きをもらった。

ふむ、これで1つ自分を理解できたようだ……
112 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/01/18(土) 23:01:05.34 ID:gpUR300A0
短いですがここまでで。
113 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/02/06(木) 10:24:12.60 ID:i3apzn5A0
伊勢「完食か、ありがたい事だ」

昼食に出した僕の料理は高い評価をもらえたらしい。

空になった鍋を洗いながら僕の心の中にはどこか達成感のような物が生まれていた。

姫島「伊勢君、手伝う」

伊勢「姫島君か。ありがたい話だがいいのかね?」

姫島「お礼でもあるから」

伊勢「お礼?」

姫島「今日のご飯」

ふむ、あれは一里塚君への朝食に手を加えた物だからお礼を言われると少々むず痒いな。

姫島「……伊勢君には記憶がないんでしょう?」

伊勢「ああ。だから料理が出来るという事実は僕にとって自分を知る手がかりになったと言えるだろう」

姫島「……」

伊勢「これからも少しずつ自分を知ればいずれ記憶も戻るはず。そう思いたいどころだな」

姫島「……私には理解できない。こんな環境で自分を失っているのにそこまで落ち着いていられるなんて」

伊勢「もしかしたら僕の元々の性格なのかもしれないな」

その後も姫島君と談笑?しながら洗い物を片付けた。

人と話す事も刺激になるかもしれない……こうして関わりを持つようにしなくてはな。
114 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/02/06(木) 10:56:47.30 ID:i3apzn5A0
伊勢「ふむ、次の見回りは……」

「ちょっ!離れやがれ!!」

伊勢「……この声は百鬼君?」

何があったのか急いで行ってみると……百鬼君が紫乃君に押し倒されていた。

どうやら何かあったようだが……

伊勢「百鬼君、どうしたのかね」

百鬼「あっ、おい!この女何とかしろ!!」

紫乃「申し訳ありません、足を滑らせてしまって……」

百鬼「別にそこを責めてんじゃねえよ!いつまでも離れねえから離れろって言ってんだ!」

紫乃「そんなに拒絶されなくても……悲しいです……」

百鬼君に乗ったままシクシクと泣く仕草をする紫乃君……どうしたものか。

百鬼「……」

ふむ、百鬼君がなぜかこちらをにらみ出した……ここは動いた方がよさそうだ。

伊勢「紫乃君、百鬼君も困っている。僕が手伝うから起き上がった方がいい」

紫乃「はい……」

起こされた紫乃君は目に見えて沈んでいる。

そんなに百鬼君に離れろと言われたのがショックだったのだろうか……

百鬼「ったく、色々と危ねえんだよ……」
115 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/02/06(木) 11:20:28.35 ID:i3apzn5A0
一悶着あったが見回りは問題なく終わったな……次は。

中後「はぁ」

伊勢「むっ?中後君、何かあったのかね?」

中後「ああ、伊勢君か。少し家の事をね」

伊勢「家か……」

そういった考えが出てくるのは、当然か……

中後「家がまた騙されてやしないか心配で心配で……」

伊勢「騙されて?」

中後「僕の父がね、もう言われるがままに贋作を買わされる人なんだよ」

中後「ボクがこうして鑑定士として働くようになってからはなくなったけど、今はどうなってるか……」

伊勢「ふむ……」

中後君も苦労しているのだな……

中後「あっ、だからといって殺人はしないから安心していいよ」

中後「確かに家は心配だけど……天秤にかけたらいけないものぐらいは理解しているつもりだからね」

伊勢「そう言ってもらえると助かる」

中後「それにここの調度品を慰謝料にいただければ借金チャラどころかお釣りが……ふふふ」

伊勢「……」

中後君はたくましいのか繊細なのかよくわからないな……
116 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/02/06(木) 12:28:07.59 ID:i3apzn5A0
符流「……」

符流君がテーブルを指で叩いている。

あの手つきは、イメージでピアノを弾いているようだな。

符流「ちっ……」

伊勢「符流君、もういいのかね?」

符流「……いつからそこにいた〜♪」

伊勢「今来たところだ。何か都合が悪かっただろうか?」

符流「……ふん、問題ない〜♪」

伊勢「今のはピアノのイメージトレーニングだろうか?」

符流「……話す必要はない〜♪」

伊勢「……」

軽く話すようにはなったが、相変わらず刺々しい態度は崩さないか。

最も駆祭君や月ヶ瀬君のような存在に比べればまだ問題はない。

伊勢「符流君、今日の夕食会には来るのだろうか?」

符流「……言ったはずだ、オレは参加しているのではない〜♪」

伊勢「ふむ、了解した」

さて、夕食会の準備をするとしよう。
117 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/02/07(金) 20:49:57.84 ID:rVNxSG2A0
「いや、だからさ……今は皆で力を合わせて」

「……」

伊勢「んっ?」

夕食の準備をダヴィデ君達に引き継ぎ、夕食会前の見回りをしていた僕は思わず眉を潜める。

東「駆祭だって本当はこのままだと駄目だって思ってるんだろ?」

駆祭「……」

東君が駆祭君を説得、しているのだろうか?

いや、しかしあの駆祭君だ……何をするかわからな――

パンッ!

東「いつっ……!」

伊勢「東君!」

嫌な予感が的中した……初日の天童君にしたように東君の頬を駆祭君が殴り付け、東君が尻餅をつく。

伊勢「大丈夫かね、東君」

東「あっ、伊勢……変なとこ見られちゃったな」

駆祭「言いたい事は全部言えたかしら雑魚」

東「はは、駆祭はキツいなぁ……」

駆祭「気持ち悪い笑顔を見せるな!たかだか運が良かっただけの下等が!」

東「…………」

天童「な、何をなさっているんですか!?」

駆祭「昴!!今すぐその下等を追い払いなさい!」

バタンッ!!

駆祭君が乱暴に扉を閉め、その場には僕と東君、そして状況を掴みきれていない天童君が残される。

東「あー……」

伊勢「東君、頬が腫れている。今すぐ治療をしよう」

東「……わかった」

天童「あ、あの」

伊勢「すまない、天童君。駆祭君には僕から謝罪をしていたと」

天童「は、はい」

伊勢「立てるかね東君」

東「ああ、大丈夫だよ」

笑みを浮かべた東君が頬を押さえながら歩いていくのを僕も追いかける。

東「【たかだか運が良かっただけ】……か」

そう呟いた東君の表情は、僕からは見えなかった。
118 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/02/07(金) 20:59:19.17 ID:rVNxSG2A0
【大食堂】

甲羅「ほらよ、治療終わりだ!」

東「いたた」

伊勢「ふむ……洋子君は治療も出来るのだな」

甲羅「人体も言っちまえば精密機械みたいなもんだからな!」

ダヴィデ「あら夕人君、その頬どうしたの!」

伊勢「駆祭君の所に向かって、な」

東「あはは、怒らせちゃったみたいだ」

奥寺「い、痛そうです……」

姫島「女王様相手に何をしたの……」

伊勢「女王様?駆祭君がかね」

東「ああ、駆祭はやての女王様っぷりは有名なんだ。家でも従者をよく痛めつけて楽しんでるって噂だし」

一里塚「見た限り本当っぽいよね」

東「きっと根は悪くないとは思うけどな。駆祭だけじゃなくて月ヶ瀬も」

百鬼「本気で言ってのかよてめえ」

中後「あの二人に関してそんな事が言えるなんて感心するよ」

東「根っからの悪人なんていないって思いたいだけだって」

伊勢「……だから説得を?」

東「まあな」

根っからの悪人なんていない。

僕もそう思いたいところではあるが……

ピンポンパンポーン

祭田「あれ?」

百鬼「あん、なんだ?」

モノクマ「オマエラ!今すぐホールに集合してください!」

モノクマ「うぷぷ、遅刻したらおしおきだからね!」

紫乃「いったい何なのでしょう……?」

野場「きっと飽きて帰してくれるのでしょう!」

符流「本気で言ってるのか〜♪」

伊勢「とにかく行くとしよう。遅刻厳禁のようだからな」
119 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/02/07(金) 21:14:16.54 ID:rVNxSG2A0
【ホール】

ホールに行くと、既に三人が来ていた。

月ヶ瀬「キハハ」

駆祭「ふん」

天童「……」ペコリ

どうやらあの二人もこの状況では出てこざるを得ないようだな。

最も、それは状況の好転を意味しない……あの我の強い二人ですらモノクマには逆らえないという事なのだから。

モノクマ「やあやあ、集まったみたいだねオマエラ!」

甲羅「何の用だこの悪趣味野郎!バラバラにされに来たのか、オイ!?」

モノクマ「きゃー!バラバラなんてされたらボクの秘密が明るみになっちゃうじゃない!」

奥寺「か、帰してくれるとかですかぁ?」

モノクマ「んなわけないでしょ!いや、広義的な意味では正解かな?」

姫島「どういう事?」

モノクマ「ボクも反省したんだよ。オマエラは簡単にコロシアイなんて出来る訳ないチキンなのに、後押しもしないなんてさ」

伊勢「後押し……動機の提示でもする気かね」

モノクマ「正解です!」

動機……コロシアイを進めるための何かを仕掛けてきたというわけか。

伊勢「……」

恐れていた事態ではあった。

ただ帰れないという事ならいずれ助けが来るという希望を抱き、膠着状態に陥りやすい。

ならば背中を押す一手をモノクマ側が仕掛けてくるのは当然警戒すべき可能性だった。

伊勢「……」

いったいどんな動機で来る……

それによって立ち回りを考えなくては。
120 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/02/07(金) 21:29:39.98 ID:rVNxSG2A0
モノクマ「さて、というわけですので……」

モノクマ「オマエラにはこれを差し上げます!」

伊勢「これは……」

モノクマが持ってきたのは封筒に入ったUSBメモリのような物。

封筒にはご丁寧に一人一人の名前まで書いてある。

モノクマ「オマエラはそれぞれ端末を持ってるよね?」

モノクマ「これを挿したら面白い物が見られるから……うぷぷ、楽しみにしてなよ!」

モノクマ「あっ、きちんと見ないとダメだからね!」

このUSBメモリの中にある映像が最初の動機というわけか……しかし面白い物が見られるとはどういう意味だろうか。

モノクマ「それじゃあそれだけなんで!うぷぷ、頑張ってコロシアイしてねー!」ピョーン!!

そして封筒だけ残してモノクマは姿を消した。

一里塚「えっと、どうする?」

伊勢「とにかく自分の分を取って部屋で見た方がいいだろう」

中身によっては動揺が生まれ、その動揺が伝わってパニックを引き起こす可能性もある。

何より動揺した人間を見て【この人物は誰かを殺すかもしれない】と思わせてしまうのは一番避けたい。

【誰かがやるなら自分も】……この異常な空間で動くきっかけなど、それで十分なのだから。

見た瞬間の様子を確かめられないのは痛いが……

東「それが無難だな……」

皆は封筒を手に取って部屋に戻っていく。

さて、特に問題なく済むのが一番なのだろうが……
121 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/02/07(金) 21:45:42.32 ID:rVNxSG2A0
伊勢「ふむ……皆行ったか」

全員がいなくなったのを確かめて電子端末にUSBメモリを挿す。

いったい何が映るのか……

伊勢「…………」

おかしい。

いつまで経っても、何も映らない。

伊勢「……!」

まさかこれは……

モノクマ「うぷぷ、どう?最初の動機はお気に召したかな?」

伊勢「モノクマ……これはもしや他の皆の物は外の世界が映っているのか……それも個人個人に関わる映像が」

モノクマ「よくわかったね!今回は皆の家族からビデオレターってやつだよ!」

モノクマ「伊勢君は記憶がないから仕方なく今回の動機はなし!」

モノクマ「まあ、他の人はコロシアイをしちゃうかもしれないけど!」

モノクマ「うぷぷ、さてどうなるかなー!」ピョーン!!

……動機は家族からの声か、これは痛いな。

いつまで続くかわからない生活の中での、家族に会いたいという気持ちは毒物に近い。

早く出たい早く出たいと逸る気持ちに負けてしまう人間が出るのを、モノクマは期待しているという事なのだろうな。

伊勢「ふむ……」

説得するにしてもこの動機がないに等しい僕の言葉など皆には軽いものでしかないだろう。

となれば……

ピンポーンパンポーン……

モノクマ「夜十時になりました!」

モノクマ「今から夜時間とさせていただきます」

モノクマ「うぷぷ、生きてたらまた明日」

伊勢「……食堂は閉まった、包丁などを取りに即座に動く人間はいないだろうが」

明日は、少し警戒を強くする必要があるな。

いや、警戒だけでは意味がない。

ジワジワと効いてくる毒を何とかしなくてはならない……そのために僕が打つべき一手。

伊勢「…………」

よし、ここは……
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