夕立「ボ、ボコフェス連れてってっぽい!!!!!!!」

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1 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/26(月) 21:12:46.97 ID:dDEA33/v0
提督「触ってねえよテキサスクローバーホールド極めるぞ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1425908876/

【艦これ】武蔵がチャリで来た
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1428585375/

加賀「乳首相撲です」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1429706128/

【艦これ】ウンコマン あるいは(提督がもたらす予期せぬ奇跡)
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1431856590/

時雨「流れ星に願い事」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1464825792/

【艦これ】居酒屋たくちゃん〜提督のクソ長い夜〜
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1468896662/

磯風「蒸発した……?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1477871266/

【艦これ】加古ちゃん空を飛ぶ、めっちゃ長く飛ぶ、すごい
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1479816994/

鈴谷「うわ不思議の国こわい、キモい」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1484788439/

【艦これ】ヒトミとイヨの恰好がスケベなので
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1493211800/

【艦これ】ウキウキ!!首相の鎮守府訪問!!のようです ※今回はこの後のお話
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1511697940/

時雨「静岡グレーゾーン連盟」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1518501606/

【艦これ】鎮守府微震!!五歳児と化した提督!!パワフル全開ですよみさえさーん!!
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1546267221/


エンド・オブ・オオアライのようです ※連載中のコラボ作品(◆vVnRDWXUNzh3作)
https://engawa.open2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1536501657/


艦これ×天華百剣 編

川д川 ウホウホ!!鎮守府に颯爽と登場した貞子ゴリラ、トランスフォームウホ!!
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1494169295/

【艦これ】艦天って略すとカロリー低い食材みたい 第一章【天華百剣】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1520554882/

【艦これ】艦天って略すとカロリー低い食材みたい 第二章【天華百剣】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1528764244/

『艦天って略すとカロリー低い食材みたい』 幕間
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1531108177/

【艦これ】艦天って略すとカロリー低い食材みたい 第三章【天華百剣】
https://engawa.open2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1537917602/

【艦これ】艦天って略すとカロリー低い食材みたい 第四章【天華百剣】
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1552399367/

【艦これ】『Last one week & Epilogue』【天華百剣】
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1554717008/


関連作品

ある門番たちの日常のようです ※作者別
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1501859857/

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1566821566
2 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/26(月) 21:13:12.69 ID:dDEA33/v0
や っ て や る ぜ と 意 気 込 ん だ 結 果 や ら か し て し ま っ た ぜ
『ワイルド・スピード スーパーコンボ』を観てください。現場からは以上です。スタジオにお返しします


・提督の表記は『( T)』になっています。マスク超人です
・提督はドウェイン・ジョンソン並みのマッスルです。ご結婚おめでとうございます
・ブーン系(AA)要素あります
・乳首要素ないです
・ある門番たちの後日譚及びエンドオブオオアライの前日譚となります。頑張ってください
・ホブスとショウ、二人のプリキュアがマッスルハートする!!ハリウッド版プリキュア『ワイルド・スピード スーパーコンボ』大ヒット上映中!!!!!!!!!(ノルマ)
・アジア版エクスペンダブルズ、遂に日本公開!!劇場でトニー・ジャーと握手!!『トリプル・スレット』9月6日公開!!!
3 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/26(月) 21:19:41.95 ID:dDEA33/v0
【お夜】オヤーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


ドア<コンッコココンッコッ (雪だるま作ろう式ノック) ※アナと雪の女王2 11月22日公開(ノルマ)


( T)「雪だるまつk……どうぞーい」

夕立「提督さん……」ガチャ

( T)「どうした夕立ちゃん。恐い夢見たか?」

夕立「……」

( T)「お腹空いたんか……?」

夕立「やっぱいい……」

( T)「いや話すだけ話してみろよとりあえず入ってこい」


よう、俺だ。最近、執務室に木人樁を設置した。これで俺もイップ師匠だ
『拳は老若男女を問わず、打あるのみ』。このセリフすごいかっこいい。イップ師匠好き


夕立「うう……あの……」

( T)「うん?」


書類仕事の手を止めて、作業用BGM代わりに流してた『ギャングバスターズ』が映るテレビの電源を切った
アマゾンプライムで配信中なんで是非観て欲しい。語彙力消し飛ぶくらいてぇてぇ映画だから。俺を信じろ。今までお勧めした映画全部最高だっただろ?


夕立「その……お願いが、あるっぽい……」

( T)「うん、言ってm……」


不意に気配を感じ、扉の方を向くと


時雨「……」


隙間から姉の突き刺さるような視線が飛んで来てた。返答次第では別の物も飛んできそうだ


( T)「……言ってみ?」


俺は何をさせられるんだろうか
4 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/26(月) 21:20:20.56 ID:dDEA33/v0







夕立「ボ、ボコフェス連れてってっぽい!!!!!!!」






5 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/26(月) 21:20:52.72 ID:dDEA33/v0







( T)「え?いいよ」アッサリ






6 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/26(月) 21:22:14.43 ID:dDEA33/v0
夕立「いいの!?」

( T)「いや……いいけど?」


何かと思えば遊びに連れて行って欲しかっただけか。ちょっと身構えちゃったじゃんか


時雨「だから言ったじゃないか。提督ゲロ甘なんだからお願いしたら二つ返事だって」バァン!!

( T)「ひょっとして俺チョロいって思われてる?後もう夜だから扉静かに開けろや」

夕立「で、でも、提督さん、お仕事は……?」

( T)「もしかして俺って全くデスクワークしない置物提督だと思われてる?」

時雨「違うの?」

( T)「しばき回s……あっ」

夕立「やっぱ、ダメ……?」

時雨「男に二言は無い筈だよねぇ?」

( T)「ああ違う違う。行けることには行けるんだが、この前クソ眼鏡からこんな電話があってな」
7 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/26(月) 21:24:34.79 ID:dDEA33/v0
【この前……】Kono Mae……


( T)「外出時には海軍からの同行者を派遣するだぁ?」

《うむ、大洗にて暁が一般市民三名と共に拉致された事件が過去にあっただろう。それ以来、艦娘の外出時は保護管理者及び護衛を付ける事を推奨していてな》

( T)「お前ここをどこだと思ってて、そんで俺を誰だと思ってて、ウチの連中が過激派組織ごときにホイホイ拉致されるただの小娘と思ってんの?」

《わかった上で、だ。正当防衛だとしても万が一『人間』を殺してしまえば世間一般の艦娘イメージは更に悪くなる。貴様らに限っては護衛ではなく『ストッパー』だ》

( T)「なんで女の子攫うようなクズ野郎ぶっ殺してイメージ悪くなんの?????????????????????」

《お前のような頭に筋組織しか詰まってないボケにこの国の法律を、それこそ新生児にもわかるようにかみ砕いて説明する暇は残念ながらないのでな》

( T)「お前産まれたばっかの赤ちゃんに法律教えようとしてんの?毒親通り越してサイコパスだな。荒岩一味の爪の垢でも煎じて飲めよ」

《吾輩とて外出許可証に書かれる名前が叢雲や古鷹のような分別のつく艦娘ばかりなら、わざわざテメーなんかに電話などしなかったさ。だがな》

( T)「もう切っていいか?」

《昔よりまともになったとは言え、貴様の所は時雨の皮を被ったクソガキを筆頭にアホの代名詞が揃っているのだぞ?それを貴様一人で面倒見切れるのか?》

( T)「余裕過ぎて腹筋の振動で茶を沸かす」

《とにかく、これは上層部からの指示でもある。これ以上面倒を追加されたくなければ、素直に聞き入れろ》

( T)「ケツで椅子を温めるしか能のねえボケカス共に伝えといてくれや。『死ね』って」

《そう腐るな。出来る限り同行させるのは猫山と椎名になるよう手配はする。たまには後輩も可愛がってやれ》

( T)「よし言質取った。五体満足は保証できないが責任は全部お前取れよ。じゃ」

《ちょ待っ》ガッチャン!!!!!!!!!!!
8 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/26(月) 21:25:10.91 ID:dDEA33/v0
( T)「って」

時雨「うわ……」

夕立「じゃあじゃあ、しぃちゃんも来れるの!?」

( T)「え?うーん、多分な」

夕立「やったーーーーーーーーー!!!!」

時雨「ついでに面白ヤンキーも付属されるけどね」

( T)「お前ら本当に仲悪いなぁ」
9 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/26(月) 21:26:28.10 ID:dDEA33/v0
時雨「これから外出の度にアレの顔見なきゃならないの?最っ悪だね」

( T)「ロマの野郎と階級だけ高いゴミクズ共の指示に従う義理はねーから無視してもいいんだけどよ。あの電話から初の外出だし、たまには面子ってのを立てさせてやんねーと」

時雨「提督は心にもないことスラスラと話すのが本当に上手いよね」

夕立「どういうこと?」

時雨「なーんでもありませーん」

( T)「で、お前はどうする?」

時雨「あわよくばって思ってたけど、今ので行く気失くした。好き勝っ……爆h……大人しく留守番してるよ」

( T)「別に好き勝手してもいいけど、叢雲にボロクソに怒られるのはお前だからな?」

夕立「時雨来ないっぽい……?」

時雨「僕ボコあんまよく知らないし

夕立「かっこいいのに……」

時雨「かっこいい……?」

( T)「その、ボコフェスってのはどこでやってんの?」

夕立「ここ!!」バッ!!

( T)「なんだチラシ持ってんn夕立ちゃん近い近い目の前ボコの顔しか見えない」


顔面に押し当てられたチラシを改めて確認すると、ちょいとお古い遊園地で期間限定ながら開催されているらしい
泊りにはなるが、ここからでも車で行ける距離だ。そりゃ、ボコフリークの夕立なら是が非でも行きたいだろう


( T)「期間も充分間に合うな……よっしゃ、そんじゃ予定組んでおくわ」

夕立「やったやったやった!!提督さん、ありがとっぽい!!」

( T)「いいって事よ。ほれ、明日も早いからもう寝な」

夕立「うん、うん!!おやすみなさいっぽーい!!」


あのテンションで今夜寝れるんだろうか
10 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/26(月) 21:27:36.84 ID:dDEA33/v0
時雨「夕立もここに着任して長いのに、まーだおねだりに抵抗あるみたいだね」

( T)「どっかの誰かは豹変したけどな」

時雨「ふてぇ野郎もいたもんだね」

( T)「やかましいわ……お前にしては珍しくお姉ちゃんしたな」

時雨「同室でずーっとグズグズ悩まれて鬱陶しかっただけだし……そういえばアレどうなったの?」

( T)「んー、直に完成だとよ」


別に物騒な兵器とかそんなんじゃない。明石が俺の顔面を3Dスキャニングして素顔のマスクを制作しているのだ
モデルが白日の下に晒された時、小娘共の爆笑に包まれたのを俺は一生根に持って生きようと思う。復讐帳にも書いた


時雨「これで提督も職質されずに遊びに行けるね」

( T)「疑惑の視線と顔面丸焦げ見せた時の憐憫の表情マジで気分悪くなるぞ」

時雨「顔面丸焦げになったことないからわかんないや」

( T)「一生わからんでいい」


諦めてはいたが、こうして再び自分の顔が戻ってくるのは素直に嬉しいものだ
例え「イケメンじゃないじゃん」とか心ない事言われてもその気持ちに変わりない。鈴谷は簀巻きにして渋柿と一緒に軒先に吊るした


時雨「楽しみだね」

( T)「せやな」


久々に真っ当な人として、つかの間の休暇を楽しむことが出来る
そう思うと、夕立ほどではないが心が弾むのであった――――
11 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/26(月) 21:28:09.02 ID:dDEA33/v0







【鈴谷干し柿】
「ごめんてー!!」と喚く鈴谷と一緒に吊るした干し柿。甘くて美味しい。お茶によく合う






.
12 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/26(月) 21:33:35.28 ID:dDEA33/v0
―――――
―――



二週間後、なんかこの間に首相やって来たりガンちゃん着任したりアメリカの大統領閣下と楽しくお喋りしたりした。楽しかった
詳しくは下記URL参照だ。下記URLって何だ。お前は誰だ俺の中の俺。影に隠れたその姿見せろ
(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1511697940/)

アポなし訪問と海外艦着任があって結構バタバタしたが、当初の予定通りここテーマパーク『Penny Y's』に訪れている。どうでもいいけどこの遊園地名前がすっごい不穏。ハァイジョウジィ
監視役兼オフの二人とは入場ゲート前で待ち合わせだったが、ちょっとした渋滞に巻き込まれて予定時間から少し遅れてしまった。なんかドジっ子彼女みたいに急いで来た感醸し出せば許して貰えるだろうか


(´・_・`)「お待たせ、待った?」

(*゚ー゚)「マッs……………」

(,,゚Д゚)「おっs……………」


(* ー )     ゚ ゚

(,, Д )    ゚ ゚


(´・_・`)「うわビックリして目ぇ飛び出す奴初めて見た」


よう、俺だ。実に六年ぶりくらいにテメーの顔面が甦った。小娘共からの評判はすこぶる悪い。なんでや
あいつらからしてみればマスクの方が見慣れてるってのもあるだろうが、流石に「顔面と肉体のバランスが悪すぎて引く」は無いだろうよ。秋雲は正座させてにぼしのワタ抜きさせた


夕立「目、目ぇ……」

(´・_・`)「大丈夫だ。あの、ワンピースとかでも良くある古典的表現で実際に目が飛び出したわけじゃない」

夕立「でも今飛び出したっぽい!!」

(´・_・`)「そう見えてるだけだ」


(*; ー )「あわわ……」


夕立「拾ってるっぽい!!」

(´・_・`)「ギャグ……ほら、ギャグだから……」


パンズ・ラビリンスのペイルマンかよ
13 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/26(月) 21:34:25.72 ID:dDEA33/v0







【秋雲にぼし】
「だってツッコミ待ちって思うじゃん!!」と喚く秋雲がワタ抜いたにぼし。おやつにもおつまみにもオススメの一品





.
14 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/26(月) 21:35:44.51 ID:dDEA33/v0
(,,;-Д-)「ビビった……二、三、質問させてくれ」

(´・_・`)「どうぞ」

(,,;゚Д゚)「顔は治ったのか?」

(´・_・`)「明石特性のマスクだ。顔面がまともな皆様には馴染みのないお悩みが解決したぜ」

(,,;-Д-)「外出申請書には加賀も書いてあった筈だが」

(´・_・`)「車酔いしてゲロ吐きに行ってる。百万石の誇りに懸けて到着まで我慢してたんだぞ」

(,,;-Д-)「安い誇りだな。今回の休暇に他意は?」

(´・_・`)「夕立、言うたれ」

夕立「ボコフェス!!!!!!!!!!」

(,,;゚Д゚)「普段からそれくらい強い説得力がありゃあな……よし、ちょっとロマさんに報告すっから待っててくれ」

(´・_・`)「海軍は逐一上に報告しないと遊びにも行けないのか?融通のきかねえゴミ組織だな。早く潰れろ」

(,,;゚Д゚)「仮にも佐官級の艦隊提督が言っていいセリフじゃねえぞ……ちょっと報告だけ済ますわ」


スマホを操作しつつその場から少し離れたこの男。猫山義古一曹改め、『海軍』少尉であり俺の後輩である『ギコ』。首相の警護としてウチに訪れて以来だ。あの時、結局あんまり話せず帰っちまった
なんか彼女連れて如何にもイケメンリア充オーラを醸し出してるが、男梅に轢かれて気絶した上に狂った上官に屋上で公開貫通式されそうになった面白ヤンキーなのだ。後世まで語り継がねばならない


夕立「しぃちゃん、目ぇ治った?」

(*;゚ー゚)「な、なんとか……お騒がせしました」

(´・_・`)「若が今の光景見たら発狂しそうだなぁ」

(*゚ー゚)「何言ってんですか?若って誰です?」

(´・_・`)「いや、最近出来た弟分の名前と顔がお前とクリソツだったんでな……」

(*゚ー゚)「えっ、すっごい気になるんですけど……写真あります?」
15 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/26(月) 21:37:25.67 ID:dDEA33/v0
夕立「はいこれ」

(*゚ー゚)そ「うわ本当だ……えっ、男の娘?ていうか、どこで撮ったの?コスプレ会場?」

(´・_・`)「話せば長い。番外編入れて六スレくらい必要になる」


銘治時代での活動記録を読んだ人は若干混乱するだろうが安心してくれ。若とは全くの別人だ
椎名美子一曹改め、『海軍』少尉であり俺の後輩である『しぃ』。こちらはムルマンスク以来だ。こいつの作る飯はマズい。ヤギのゲロ食った方がマシ


(,,゚Д゚)「スマン待たせた」

加賀「お待たせしました」

(*゚ー゚)「加賀さんお久しぶり。酔いは治った?」

加賀「鎧袖一触よ。心配いらないわ」

(´・_・`)「安売りして良いセリフじゃねえんだよなぁ。クソ眼鏡はなんて?」

(,,゚Д゚)「『問題ない、楽しんで来い』とだけ」

(´・_・`)「じゃあ解散って事で……」

(,,;-Д-)「俺だってそうしたいが、任務が終わったワケじゃねえからよ……それにウチの目当ても、そのけったいなクマ公だ」

(*゚ー゚)「やーっとお休みが取れて念願のボコフェスに来れたんですよ!!!???ここではいサヨナラなんて酷じゃないですか!!!!!」

夕立「わかるっぽい!!!!!!!!」

(*゚ー゚)「ほらね!!!!!?????」

(´・_・`)「オタクの必死なとこって怖いなぁ」

(,,゚Д゚)「あんたも似たような生き物だぞ」
16 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/26(月) 21:39:24.33 ID:dDEA33/v0
夕立「早く行こ!!早く!!」ダッ!!!!!

(´・_・`)「夕立ちゃん走らn……」

(*;゚q゚)「ハァ、ハァ……辛抱たまらん!!!!!!」ゴゥッ!!!!!!!!

(;´・_・`)「……」

(,,;゚Д゚)「いや……その……すまん。アレはちゃんと面倒見る」


<ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!顔恐いっぽおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!

<待ってえええええええええええええ夕立ちゃあああああああああああああああああああああああああん!!!!!!!一緒に行こうよおおおおおおおおおおお!!!!!!!!


加賀「……賑やかな彼女がいて毎日楽しそうね、猫山さん」

(´・_・`)「アレでよく警備府勤務が務まったな。変態に理解があったのか?」

(,,;-Д-)「普段はもう少し大人しいよ……しかし、アンタがやってくるとは想定外だ。てっきりあの時雨の皮を被ったクソガキがやって来るものかと」

加賀「あら、こう見えて、可愛いキャラクターは好きよ?少し拗れた設定の物なら特に」

(,,゚Д゚)「あー」

(´・_・`)「あーじゃねえなんで俺を見る」

加賀「誤解しないで貰いたいのだけれど、それの性癖とは一切関係ないわ」

(,,゚Д゚)「だよなぁ、スマン。おっと、あのまま放っとくと騒ぎになりそうだな。急ぐぜ」

加賀「ええ」

(´・_・`)「ちょっと後で話しようか?」


女も酒もギャンブルもやらないのに映画鑑賞が趣味なだけでこの言われよう。可笑しいと思いませんか?あなた
17 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/26(月) 21:41:11.56 ID:dDEA33/v0
―――――
―――



ボコ「オイお前!!!!!!今ぶつかったぞ気をつけろ!!!!!!!」

ネコ「なんだァ、てめぇ……」★猫、キレた!!!!!!!!!!

ネズミ「生意気だやっちまえ!!!!!!!!!」


<ドッゴッガァ!!!!!!!メメタァ!!!!!!!!!!ゲッコウガァ……


ボコ「グフゥ口ほどにもない奴め!!!!!!!!!」


(´・_・`)「いやめっちゃボコられてる〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」

夕立「それがボコだから!!!!!!」


平日だからだろうか。なんかめっちゃ閑散とした園内の野外ステージでボコのスペシャルショーとやらを鑑賞している
威勢がいい割には三人……三匹掛かりでボコボコにされてる。熊だよなあいつ?食物連鎖的に頂点だよな?え?俺が可笑しいの?


加賀「フフッ……」

(´・_・`)「笑うとこでもないやろ」

:(*゚q゚):「ドゥフッ……ああ……あんなに踏みつけられて……羨ま……素敵……」

(,,;゚Д゚)「頼む、普通に観てくれないか?」

(´・_・`)「俺も人の事言えないけど、流石に着ぐるみショーで興奮する成人女性は引く」

加賀「追体験させたらもっと悦ぶんじゃないかしら……」

(´・_・`)「ボソッと恐い事言うな」

(*゚ー゚*)彡「!!」ギャルンッ!!!!!

(;´・_・`)そ「うわ恐っ……こっちみんな……」
18 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/26(月) 21:43:15.51 ID:dDEA33/v0
ボコ「このままだと負けてしまう……みんな!!オイラに力をくれーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!」


夕立「がんばるっぽーい!!」

(*゚ー゚)「そのまm……がんばれー!!」

(´・_・`)「……」

(,,゚Д゚)「……」


ボコ「もっとだーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!」


夕立「がんばっ……ゲホッゴホッ!!」

(;´・_・`)「お前は頑張りすぎだなぁ」

加賀「今更なのだけれど、着ぐるみショーを成人四人が並んで鑑賞している光景って結構痛いわよね」

(,,;゚Д゚)「言うな」

(*゚ー゚)「諦めt……暴力を受け入れt……負けないでー!!ボコー!!」

(´・_・`)「こいつそろそろ黙らせていいか?」

(,,;゚Д゚)「しぃ、欲望は内に抑えといてくれ。先輩は本当にやるぞ」


<がんばれーーーーー!!!!

<ボコがんばれーーーーーーーーーー!!!!!


(´・_・`)「ん?」


客は俺らだけと思っていたが、背後から若い女性の声援が痛々しい熊へと贈られる
背丈から見るに、高校生と……中学生か?髪色が違うから、姉妹ってわけじゃ無さそうだ
19 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/26(月) 21:46:53.58 ID:dDEA33/v0
(,,゚Д゚)「あんまりジロジロ見るなって」

(´・_・`)「ちょっと確認しただけで人を変態呼ばわりかお前もあの熊と同じ目に遭わすぞ」

(,,゚Д゚)「変態だろ。ありゃ結構な有名人だ。戦車道って言えばわかるだろ?」

(´・_・`)「俺が一目でわかる有名人は北村昭博さんとトム・シックスだけだ。あとトニー・ジャーとステイサムとジェラルd」

(,,゚Д゚)「大洗女子学園の『西住みほ』さんと、大学選抜チーム隊長の『島田愛里寿』さんだよニュースも見ねーのかお前本当に佐官階級相当の司令官か?」


ボコ「きたきたきたァ!!みんなの応援が、オイラのパワーになったぜ!!お前らまとめてやってやrゲバァ!!!!」


応援パワーで立て直したように見えたが、瞬く間にボコボコにされる熊。幸運の星の加護が届かないラッキーマンか何かか


(´・_・`)「ああ……お前らしばらく大洗で勤務してたもんな。そんで、その何某さんがどうしてここへ?」

(,,゚Д゚)「俺らと一緒でオフなんだろ。どっちにしろ他人なんだし、そっとして置くのが吉ってもんだ」

(´・_・`)「いや別に俺ぁ興味ねーんだけどよ……」

(,,゚Д゚)「おっと悪い。全国大会優勝から大洗周辺に『おっきなおともだち』が増えたからな。警戒癖が抜けねえんだ」

(´^_^`)「ハハッ、よしわかった。後でお前の頭で連続便器破壊チャレンジギネス世界記録狙うわ」

(,,゚Д゚)「冗談だよ……冗談だっつってんだろ目がこええよ目が」


侮辱にも等しい冗談を受けた所で、ボコをボコボコにしてた敵役は引っ込み、その場には満身創痍のボコが残された


ボコ「また負けた……次はがんばるぞ!!」


と、ここで幕引きだ。球磨川かよ


(,,゚Д゚)「終わりか?」

夕立「え?」

(,,゚Д゚)「え、いや、逆転とかあるもんかと……」

(*゚ー゚)「それがボコだから!!」


トムとジェリーでももうちょっと展開捻るぞ
20 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/26(月) 21:49:00.83 ID:dDEA33/v0
加賀「なかなか楽しめましたね……次はどこへ?」

(´・_・`)「ほんまに言うてる〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜????俺らちょっとタバコ吸ってくるわ。しぃ、金渡すからおやつでも買ってこいつらと待ってろ」

(*゚ー゚)「いいんですか?ありが……うわ樋口。相変わらず気前いいですね。ロマさんと違って」

(,,゚Д゚)「あの人飲みに行ってもキッチリ割り勘だからな」

(´・_・`)「今のでお釣り返せって言えなくなっただろうが」

夕立「夕立、特製ボコアイス食べたいっぽい!!ボコップコーンも!!」

加賀「メニューを端から端まで制覇しましょう」

(*;゚ー゚)「お、お金足りるかなぁ……」


女連中と別れ、俺とギコは便所横に備え付けられている喫煙ブースへと入った
年々数が減っている気がしてならないカップ式自販機でアイスコーヒーを買い、ベンチに座ったギコへと差し渡す


(´・_・`)「ん」

(,,゚Д゚)「あざっす」

(´・_・`)「『俺の監視』だろ」


一口付けたところで、すかさず『ロマの目論見』を突っ込んだ


(,,;゚Д゚)「クソ……ヤケに羽振りがいいと思ったらそういうことかよ……」


警戒なしにコーヒー受け取ったテメーの迂闊さを呪いながら、タバコを咥える
俺は自販機に再び小銭を投入し、アイスカフェオレ砂糖抜きのボタンを押した


(´・_・`)「ま、アメ公さんからの勧誘を断ってからそう経ってねえしな……もしもの為ってのも頷ける」

(,,;-Д-)「俺はいらねえっつったんだけどな……『形だけでもいいから着いていけ』だとよ」

(´・_・`)「それ以上の事は?」

(,,゚Д゚)「そこまでの権限はねえよ……それこそ、『上』のみぞ知るってな」

(´・_・`)「山田くん一枚あげて」


嘘は吐いていないだろう。そもそも、こいつらは『俺の顔が丸焦げになった理由』すら
『俺をこんな目に遭わせた黒幕』すら知らないのだ。精々、『何かしらの秘匿が隠されている』と察する程度に留まっている筈だ
21 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/26(月) 21:50:41.52 ID:dDEA33/v0
(,,゚Д゚)「百円分の受け答えはしたぜ。満足か?」

(´・_・`)「ああ、ワンコインで海軍少尉殿を出し抜けたのは楽しかったぞ」

(,,;-Д-)「ハァ……ったく、いつまで経っても食えねえ野郎だ」

(´^_^`)「ガハハ!!お前の彼女が作る飯と一緒!!!!!!」

(,,゚Д゚)「人の痛い所ちょこちょこ突くのやめろ」


ちょうど出来上がったカフェオレを啜り、俺も一服つく。美味しくないこのカフェオレ。メロンソーダにすれば良かった


(´・_・`)「最近、調子はどうだ?」

(,,゚Д゚)「ヨーロッパ奪還に向けて準備ty」

(´・_・`)「悪い言葉足らずだった。『お前の調子』は?」


ギコは眉を顰めた。わざわざ強調した辺りで『これはただの世間話ではない』と察したのだろう


(,,゚Д゚)「別に。普段と変わりねえよ」

(´・_・`)「フゥー……ふぅん」

(,,゚Д゚)「……毎度毎度イラつかせるが、今のは感じ悪ぃぞ。何が言いたい?」


我が後輩ながら、簡単に誘導に引っかかるな。少尉の立場であるならば、こいつもそう簡単に靡きはしねえんだろう
相手が『俺』だからか。それとも、こいつ自身が気が付かないくらいの、些細な『引っ掛かり』によるものか
壁に耳あり障子に目ありと言うが、軍もクソも関係ない遊園地なら、誰も盗み聞きはしないだろう。遠慮なくぶっこませてもらうか
22 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/26(月) 21:52:15.54 ID:dDEA33/v0
(´・_・`)「ムルマンスクでのお前の采配、どうにも疑問に思うことがあってな」

(,,゚Д゚)「ほぉ?ようやく足りないオツムを使えるようになったのか」

(´・_・`)「ああ、少ないお脳でも違和感を覚えたよ。これから敵本拠地の最深部って時に、わざわざ時雨と江風を手放して支援に向かわせるっつートチ狂った指示にな」


ムルマンスクにてこいつは、貸し付けてた時雨と江風、そして海軍兵を引き連れ任務に当たっていた
具体的な内容を抜粋するなら、『ムルマンスク鎮守府の主要施設の奪還、ロシア連邦海軍の新型艦娘の救出、今回の襲撃を行った『武装集団指導者の生け捕り』
アホ共からの報告によると、道中でムルマンスク鎮守府の提督『ファルロ・ボヤンリツェフ』及び駆逐艦娘『ヴェールヌイ』含む現地兵と合流
新型深海凄艦やらゾンビよろしくよっこいしょ『寄生体』とやらの物量をなんとか凌ぎつつ、なんやかんやあって任務を遂行した。説明がめんどくなったとかそんなんじゃない


(´・_・`)「連戦で部隊も弾薬も消耗した中、フィジカル面で人を遥かに上回る艦娘を二人も離脱させるのはリスキーが過ぎる。確実に任務を遂行する気があんのなら、外の新手は俺らに任せてそのまま連れていくべきだった」

(,,-Д-)「……地下での作戦行動だった以上、地上での迎撃戦力を厚くするのは至極当然だと思うが?」

(´・_・`)「その結果が同行してたロシア兵の全滅か。大した戦術眼だ。海軍の未来は明るいな」

(,,゚Д゚)「なんとでも言え。俺は最善の判断をしたと思ってる。その結果は甘んじて受け入れているつもりだ」

(´・_・`)「では聞こう、手練れの少尉殿。『元』海軍だったヴェールヌイすら殺すほどの『寄生体』の襲撃に遭いながら、どうして彼らと共に司令室に踏み入れた『たった二人の海軍兵』は生き残れたんだ?」


それとなく出入り口を塞ぎながら、ヤニで汚れた窓から園内を眺めた。事務的なアナウンスに、ジェットコースターから聞こえる楽し気な叫び声
ヨーロッパは陥落し、ロシアでは大量の犠牲者が出た。それに比べて、この国の平穏は依然として保たれている
その平穏の裏で何が行われているか、一般市民には知る由もないし、知る必要もない。だが――――


(,,-Д-)「……」


俺は曲がりなりにも『クソ海軍』の一人だ。昔馴染みがムルマンスクで『何をしでかしてしまったのか』を知る権利はあるだろう
23 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/26(月) 21:53:25.18 ID:dDEA33/v0
(,,゚Д゚)「知るか。運が良かっただけだろ」


あくまでもシラを切るつもりか。なるほど、よほど俺に聞かれてはいけない内容らしい
では、意地悪ではあるが少々揺さぶってみるか。違和感を覚えたのは俺だけではないのだから


(´・_・`)「アホと江風を支援に出した後、お前は更に『海軍』側の兵力を分散させたんだってな」

(,,゚Д゚)「……誰が喋った?」

(´・_・`)「そりゃあ言えねえよ。それに忘れたか?階級なしとは言え一応俺は艦隊提督様だ。その辺の兵士捕まえて話を聞くなんざ造作もねえんだよ」

(,,-Д-)「ハァー……再教育の必要があるな」

(´・_・`)「言っちゃなんだが、見通し甘くて友軍全滅させた無能指揮官だぞお前。よくもまぁ部下に対してそこまで偉ぶれるよな。その無神経さ尊敬するよ」

(,,#゚Д゚)「……チッ」

(´・_・`)「おやおや、気に障ったか?あーあー、悪かった。過ぎた事だ仕方がない。納得いかずとも命令には従ったお前の部下にもそう伝えておくよ」

(,,#゚Д゚)「……もういいか?俺は先に戻る」


吸い切ったタバコを乱暴に灰皿へと投げ捨て、立ち上がろうとしたギコの肩を掴み、ベンチに押し戻す


(´・_・`)「いいや、まだだ。きっちり最後まで聞いてもらう」

(,,;-Д゚)「っ……てめぇ……」


握力を強めると、悲鳴こそあげなかったが痛みに顔を顰めた。抵抗しようものなら数か月はまともに右腕を使えない身体にしてやる


(´・_・`)「あの後なぁ、運び出されたロシア兵の死体を確認しに行ったんだよ」

(,,;-Д゚)「そんな事まで……!!」

(´・_・`)「すると、どうだ?ヴェールヌイの首は『鋭利な刃物』で一刀両断されていた。すげーよな。『寄生体』にそんな芸当出来る奴がいるたぁ驚きだわ」


仏さんにこんな事言うのもなんだが、実に『綺麗』な殺され方であった。細かな傷もあったが、致命傷はその一撃『のみ』
ギコの話が丸々真実だと仮定しても、やはり疑問が生じる。暴力の化身みてーな『寄生体』が、ほぼ原形を留めた状態で艦娘を殺した事にだ
そんな器用な芸当が出来る寄生体がいるのなら、俺らが相手にしたワールドウォーZみたいなクソザコナメクジの群れもザコナメクジ程度には強くなってた筈だ
24 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/26(月) 21:54:50.14 ID:dDEA33/v0
(´・_・`)「そんで、まーた可笑しな話なんだけどな。何人かそれと同じ『刃物』で殺された形跡があるんだ。なのに、現場からはそれらしい武器は見つからなかったってよ」

(,,;-Д゚)「それが……どうした?」

(´・_・`)「『どうした?』そこまで言わなきゃわかんねーか?いや、認めるわけにはいかねーもんな。だったら最初から『虚偽の報告』をする必要はない」


(´・_・`)「お前、やっただろ?」


(,,;゚Д゚)「……」

(´・_・`)「だんまりか?では二度と口が開けないほど完膚なきまで言い負かしてやろう」

(´・_・`)「ロシア兵が裏切る可能性があったから殺した?なら尚更全員で対処するべき事態だ。艦娘が混ざってんなら時雨と江風だって必要になるだろう」

(´・_・`)「もしもロシア側が戦力分散を申し出たなら、俺だって溜飲が下がったし致し方ねえと思えた。なんなら、ノコノコ戻ってきたアホの姉妹に拳骨の一つや二つ落としただろうよ」

(´・_・`)「だがあの時の人払いは指揮を執っていたお前が主導だった。ずっと敵意をひた隠しにしてた兵士を、たった二人で処分?舐めプも良いところだな」

(´・_・`)「時雨と江風を真っ先に離脱させたのは『邪魔されない為』。あるいは『後ろめたい物があった』か、はたまたその両方か。奢ってやったコーヒーと人の厚意を粗末にすんじゃねえ飲め」

(,,;゚Д゚)「ッ……」


直径七センチに収まる漆黒の水面がギコの左手の中で揺れたのを見逃さなかった
警告の意味も込めて俺ほどじゃないがそこそこ鍛え上げられた三角筋に親指をめり込ますと、呻き声を漏らしカップをベンチへと置いた
25 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/26(月) 21:56:15.86 ID:dDEA33/v0
(´・_・`)「部下すら無意味な警戒へ出向かせたのを見るに、有力視されるのは後者の方だ。では何故ロシア兵を全員引き連れていった?」

(´・_・`)「決まってる。余所者だけが根城の最深部へ突入するなど怪しさ満点だし、かと言って何人か見繕って連れて行けば『万が一』の場合残った連中に詰め寄られる。そうすりゃオメーの部下だって流石に黙っちゃいられねえよ」

(´・_・`)「最初っからヤる気でいた……ってのは、ちょいと乱暴すぎる。だから、『一か八か』だったんだろう。結果はご存じの通り」


ここまで聞き終えたギコは、蔑むように鼻で笑った


(,,;゚Д゚)「驚いたな。いつの間に推理小説を嗜むようになった?妄想癖に磨きが掛かってるぞ」

(´・_・`)「ハ……」

(´^_^`)「ガハハ!!!!!だよなぁ!!!!!いくらなんでも味方を斬り殺すなんざしねえよなぁ!!!!!」


奴の顔から僅かに残されていた『余裕』が消えた。昔馴染みは俺がこうなると、後は何が飛んでくるか理解していたからだ


(´^_^`)「寄生体が絡んでいるなら当然海軍が検死を行うだろう。何の刃物が使われたかなんざ、死体にメス入れなくとも一目瞭然だろうよ。なのに、味方を斬り殺したお前には何一つ処罰が下されていない。何故だ?」

(´^_^`)「答えは連中がお前の行為を『良し』としたからだ。殺されたヴェールヌイも言ってたんだろ?『海軍はクソ』と。知られちゃマズい情報を外部に漏らさないための口封じなんざ平気で容認する」

(´^_^`)「お上は見逃し、不信感を抱いた部下はお前が上官である以上口答えを許されない。だったら俺が言ってやるよ。猫山少尉殿」




(´^_^`)「この腐れ外道が」




.
26 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/26(月) 21:57:54.62 ID:dDEA33/v0
(,,゚Д゚)「……気は済んだか?だったら五秒以内にその手を放せ」

(´・_・`)「ステイサムかよ。反論があるなら聞いてやる」


言う通りにしてやると、ギコは大袈裟に肩を払いジャケットのシワを直した。いじめか?
激昂してくるもんかと思ったが、ベンチの背もたれに深くのし掛かって二本目のタバコに火を着ける
ヤンキーはキレ易いもんだと思ってたからちょいと拍子抜けしてしまった。『俺キレたら何すっかわかんねぇぞオラァンアハァン?????』って言え


(,,゚Д゚)「もし、ご自慢の妄想が真実だとしても、俺は選択を間違ったとは思わん。情報漏洩によって世界が混乱に陥るのなら、気の良い連中だろうと始末するだろうさ」

(,,゚Д゚)「勿論、最大限の譲歩をした上でな。それとも何か?俺に世界崩壊への引き金になれば良かったってか?そっちの方がよっぽど外道だぜ先輩?」

(´・_・`)「なるほど、世界を揺るがすに値する情報だったのか」


やはりこいつに余裕は残されていない。自分からムルマンスクには何が残されていたのかを提供してくれたのだから
顔には血が上り、一息も吸っていないタバコがへし折れた。お?出るか?ヤンキーのクソな所出るか?


(,,-Д-)「ハァー……」


かと思えば、たっぷりとため息を吐いて低い天井を仰ぐだけだった。ガッカリだよ。ヤンキーやめたら?


(,,-Д-)「じゃあ俺はどうすりゃ良かったんだよ……アンタは俺をどうしたいんだよ……」


ギコにしては珍しく弱音を吐いた。このまま泣いちゃうまで煽ってやっても良かったが、少々やり過ぎた感も否めない


(´・_・`)「外道は言い過ぎた。スマン。俺も少し冷静じゃなかったな」

(,,-Д-)「冷静なアンタなんざ今まで見たことねーよ」


力無く項垂れたギコに、無駄にした分のタバコをくれてやる
箱からフィルター部を摘み上げた指は、心なしか震えているように見えた
27 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/26(月) 21:59:25.28 ID:dDEA33/v0
(´・_・`)「それだけデカい選択を迫られりゃ、俺だって少なからず葛藤する。だがお前は、選択へと到る前に『処分』を念頭に置いていた。それがどうにも、歯痒くてな」

(,,゚Д゚)「ご心配どうも。普段からそれくらい優しけりゃ、俺もロマさんも胃を痛めずに済むってのに」

(´・_・`)「変わったよ、オメーもロマも。打算で人の命を軽々しく扱うような奴じゃなかった」

(,,゚Д゚)「アンタは違うってか。お笑い種だな。深海棲艦だろうが人間だろうが嬉々としてぶっ殺して回る戦闘狂集団の長とは思えねーわ」

(´・_・`)「殺すさ、楽しむさ。側から見りゃ悪魔とでも後ろ指差されるだろうさ。だが、『善き人』にまで手を下すほど落ちぶれちゃいないつもりだし、死んでいった奴らをただの『数』として勘定するほどお利口になれやしない」

(,,゚Д゚)「どうだかな……」

(´・_・`)「何も高潔に生きろだとか正義の味方になれとか言ってんじゃねえが、線引きはしろ。このままだとお前らは引き返せない所まで行っちまう。ロマにも言ったが、もしもウチの小娘共すら『世界』とやらの礎にするつもりなら」


想像したくもない。いくら俺を嵌め、秘密と陰謀を抱えた海軍の犬になり下がったとは言え


(´・_・`)「俺は迷いなくあいつらの為に世界を捨てる」


『友人』を殺すなど、御免被りたいものだ
28 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/26(月) 22:00:26.60 ID:dDEA33/v0
(,,゚Д゚)「……モンペの鑑だな。やっぱアンタも変わったよ。すっかり親バカが似合うようになっちまった」

(´・_・`)「マジで?」

(,,゚Д゚)「そうじゃなかったらわざわざガキを遊園地に連れてくるかよ」

(´^_^`)「それもそうやな!!ガハハ!!ほぼ毎日心が折れそうな罵倒を頂戴してるが」

(,,゚Д゚)「蛙の子はなんとやらだな……心に響くご高説をどうも。そろそろ戻ろうぜ」


日本語不自由なんかしらんが諺の一つもまともに言えないギコは吸い終えたタバコを、今度はストンと灰皿に落として立ち上がった
俺も言いたい事は言い終えた。これからこいつがどんな選択をして、どう変わっていくかはわからないが
少なくとも、友人として、先輩としての忠告と警告はやり終えた。酷な言い方にはなるが、後はどう転がろうと『その道』を選んだこいつらの責任だ


(´・_・`)「折角の休暇に水を差す真似をして悪かったな。本当はお前がクソブサイクな首相と来た時に済まそうと思ってたんだが」

(,,゚Д゚)「全くだ。気分が悪ぃよ。コーヒー一杯じゃ割に合わねえくらいにはな」

(´^_^`)「飯くらい奢ったるやないけ!!!!!!!」

(,,゚Д゚)「車も買え」

(´^_^`)「そこまでにしとけよ俺だって怪我の治療費なんざ奢りたくねえんだよ」


いくら悔やんでも過去はやり直しがきかない。ならせめて、未来で過ちを繰り返さないよう願いたいもんだ


(´^_^`)「ドアを開けて〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!」ガラリァン

(,,゚Д゚)「警備員にとっ捕まるからその気持ち悪いテンション元に戻せ」
29 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/26(月) 22:03:10.73 ID:dDEA33/v0
(´^_^`)そ「あっ」

(,,゚Д゚)そ「えっ?」


喫煙所を出ようとした足が止まった。目の前の光景が、一瞬の内に様変わりしていたからだ
雨やら雷やらなら『オイオイ勘弁してクレメンス』などとボヤくだけで済んだのだが、そういう次元じゃ無い
気持ちの良い秋晴れだったはずの空にはどんよりと厚い雲が被さり、絶賛稼働中だった遊具は廃墟の有様のように赤錆に覆われている
スピーカーからは聴いたことも無いような滅茶苦茶な音階の音楽がノイズと共に流れ、時折短い女の悲鳴が混じっている
勿論、入場者や従業員など一人も見当たらない。バグった世界に俺ら二人だけが突然放り込まれたかのようだ。つーか実際そうなる。困る


(´^_^`)「……」

(,,;゚Д゚)「……」

(´^_^`)「ドアを閉めて……」パタムン……

(,,;゚Д゚)「悪い、前言撤回するわ。ハイテンションのままでいてくれ」


なんで外に遊びに行って怪奇現象に巻き込まれなきゃならないの?俺前前前世でなんかした?死んで?


(´^_^`)「……」

(,,;゚Д゚)「……」

(#´^_^`)「死にてえなーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!あーーーーーーーーーもーーーーーーーーーーーーこんなめんどくさい事態に度々巻き込まれるくらいなら来世に賭けるわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」

(,,;゚Д゚)「アンタは慣れてるからいいが、こちとら怪奇現象初心者だぞ?どうしてくれるんだ」

(#´^_^`)「知るかボケーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!俺の所為ちゃうわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!!!!!!!!!!!!」


やっぱり一回ちゃんとお祓いとか受けた方がいいかもしれない
30 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/26(月) 22:04:32.62 ID:dDEA33/v0
(´^_^`)「……」

(,,゚Д゚)「……どうすんだよ」

(´^_^`)「……顔、戻していいか?」

(,,゚Д゚)「どうぞ」


『戻す』の言葉に自嘲が零れる。全く、少しでも平穏な休日を期待した俺が馬鹿だったよ
良くわかった。身に染みるほど理解した。顔を戻した程度で、『安息』なんて上等なモンを得られるワケが無いってことを
だったら後は単純だ。いつも通りにすればいい。いつもの顔で、いつもの対処法で――――


( T)「皆殺しにしてやる」


所詮、今の俺にとっての『日常』の一部に過ぎないのだと、見ず知らずの怪異に思い知らせてやる


(,,;-Д-)「恐い物知らずに拍車が掛かってて何よりだ」

( T)「馬鹿言うなオメエ今でも叢雲と発情した榛名が恐い」


よう、俺だ。マスク変えた時の顔のサイズ感可笑しいって?大人の都合だガタガタ抜かすな坂井の鉄っちゃんと同じ目に遭わすぞ


(,,゚Д゚)「で、専門家さんの見解は?」

( T)「『裏世界』だ」

(,,゚Д゚)「裏世界?」


物の試しに引き戸をもう一度開けて、中身の残った紙コップを投げてみる
カコンと軽い音を立てて落ち、湿り気のある地面に茶色い水たまりができた事以外特に何事もない


( T)「ネットの都市伝説とかで聞いたことないか?『きさらぎ駅』とかよ。それと同じ類だ」

(,,゚Д゚)「終電の駅が見知らぬ場所だったっつーアレか……早い話が、異界に迷い込んじまったってワケか」

( T)「理解が早くて助かるよ。個人的には泣きわめいて小便でも漏らしてくれた方が面白かったが」

(,,゚Д゚)「本当にそう思うんなら実践してやろうか?」

( T)「ごめんめっちゃ困る」
31 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/26(月) 22:05:43.11 ID:dDEA33/v0
(,,゚Д゚)「何が原因でこうなった?」

( T)「原因は知らんが、入り口ってのは至る所にある。ウチからちょっと離れた山の中にもあってな。毎年一回踏み入っては害虫駆除して回ってる」

(,,゚Д゚)「ベテランがいて心強いよ。出口は?」

( T)「さぁな」

(,,゚Д゚)「さぁなって……来たことあるんじゃねえのか?」

( T)「同じ裏世界とは限らねえ。俺も遊園地のパターンは初めてだ」

(,,゚Д゚)「じっと待ってりゃ元に戻る可能性は?」

( T)「気が狂うか餓死の方が早いんじゃねえかな……」

(,,゚Д゚)「クソッタレが……どうあがいても絶望ってか」

( T)「SIREN体験コーナーって割り切れ」

(,,゚Д゚)「よっぽどの楽天家でもそりゃ無茶な注文だろ……これからアンタと行動する時は、オフだろうと武器を携行するよ」

( T)「お前のゲンコは何のためについてんだ?」

(,,゚Д゚)「早く出ろ」


ヤンキーの癖に小心者の後輩にせっつかれ、喫煙所の外へと踏み出した途端
最期の砦であったその場所も、染みが広がっていくかのように錆へと覆われていった


(,,;゚Д゚)「後には引けなくなったな……」

( T)「上官が節操のないタイプのクズなゲイの幽霊に憑りつかれて公開貫通式されそうになるよりマシでは〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜??????」

(,,゚Д゚)「やめろあのクソガキにバカほど動画送られて携帯叩き割りそうになったんだぞ」

( T)「マジ?まぁどうでもいいやワッショイ。他人事だし」

(,,゚Д゚)「お前のクソガキだろちゃんと面倒を見ろ」


俺は努力してる
32 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/26(月) 22:19:54.64 ID:dDEA33/v0
(,,゚Д゚)「携帯は……通じねえわな。お約束だ」

( T)「一回こういうとこでガチャ回したら一周回って神引き出来んじゃねえかなって思ってんだが」

(,,゚Д゚)「俺ならその運で帰れる方に賭ける」

( T)「文明の利器が使えないのなら仕方ない……スゥーーーーーー」

(,,;゚Д゚)「おいちょ待っ」



(#T)「夕立ぃぃぃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



(,,;⁻Д゚)「っっっ〜〜〜〜〜〜……なんでアンタはいつもいつもフラグを立てる!?」

( T)「は?」


ちょっと大きな声で小娘呼んだだけでなんでキレられらなアカンのやろか。ヤンキーだからキレ所がクソなのだろうか


(,,#゚Д゚)「そもそも、あいつらまで取り込まれているだなんて思えないだろうが!!見ろよ周りを!!さっきまでピーチクパーチク騒いでた客が一人でもいるか!?ああ!?」

( T)「いや絶対取り込まれてるって。今までのパターンならそうだったもん胸倉を掴むな服が伸びちゃうだろうがジャンかお前は。え?じゃあ俺が獣を屠る」


_人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人_
> ( T)「イェーーーーーガーーーーーーーーーー!!!!???」 <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄


(,,#゚Д゚)「フンッ!!」ドゥァ!!

( T)・'.。゜「オファッ殴んなくてもいいじゃん」


ちょっと雰囲気を和ませようと思ってふざけたら腹パンをされる。可笑しいと思いませんか、あなた
33 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/26(月) 22:21:06.51 ID:dDEA33/v0



『ぎしっ』


(,,゚Д゚)「ッ!!」

( T)「ん?」


『ぎしっ、ぎしっ』と、メリーゴーランドがワザとらしく軋みを鳴り響かせながら回り始める
よほど長い間整備されていないのだろう。歯車がイかれた時計の針のように、不規則な寸動を繰り返す


(,,;゚Д゚)「なぁオイ。アンタ、ホラー映画好きだよな?」

( T)「うんまぁ」

(,,;゚Д゚)「こういう展開だと、次にどう続く?」

( T)「ふむ……2パターンかな」


一つ、『メリーゴーランドの裏側から怪物、もしくはそれに準ずる何かが現れる』
遊園地だとピエロとかが妥当だろう。引きのカメラからBGMを抑え気味に
木馬に乗って徐々に正面へと回るにつれて盛り上がり、一度止めてバァ。鬼ごっこ開始。そんな所か


( T)「……は、無いと」


しかし待てど暮らせど怪物的な何某は現れない。つまりこれは次の恐怖へと繋げる『ミスディレクション』
古典的手法だ。例えば、物音がした部屋の扉を開けて何事も無く安心した次の瞬間、窓から化け物が現れる等
意識の別方向から驚愕をぶち込むことで、より恐怖を引き立てる王道パターンだ。好き


( T)「ハァ〜〜〜〜〜〜……」


随分と嘗められたものだ。隣のアホはともかく、こちとら不本意ながら幽霊退治百戦錬磨
ただ映画をなぞっただけの演出で俺を出し抜こうなど一億光年早い


(#T)「クソザコナメクジがァ!!!!!!!!!!」


肩越しに背後へ放った右の肘打ちは、『枕』のような感触越しに


((゜)(エ)(゜))「ぴゅぎゃああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!????????」


『人ならざるモノ』の顔面を砕いた
34 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/26(月) 22:22:28.07 ID:dDEA33/v0
(,,;゚Д゚)そ「う、おっ!?」


俺と並ぶくらいの身の丈の『着ぐるみ』は、頭と胴体の結合部から腐った臭いの汁を漏らしながら倒れる。くっせ
片耳が千切れているが、恐らくは熊だろう。元のデザインも可愛らしいとは言えず、あの、ちょっと古い……目にハイライトの無い感じの、なんかアレだった


(,,;-Д-)「ああ、クソッ、そこそこキツい……まさか俺が気づけないとはな……」

( T)「人の気配とは別モンだからな。ああやってあからさまにこっちの目を引いて来た時は罠と思った方がいい」

(,,;゚Д゚)「先に言えよ……」

( T)「まぁ俺おるし行けるやろ思うて……っと」




((゜)(エ)(゜)) ((゜)(エ)(゜)) ((゜)(エ)(゜)) ((゜)(エ)(゜))




( T)「熊さんの群れ」

(,,;゚Д゚)そ「っ、と、マジふざけんなよ音もなく現れやがって!!」


同じデザインの熊の着ぐるみが総勢……八体くらい?割と多い
迂闊に近寄っては来ず、遠目から此方を無機質なプラ製の瞳で覗いてくる


(,,;゚Д゚)「……襲って来ねえのか?」

( T)「フン、あんなナリでもお脳は寄生体より賢いらしい。君子、危うきに近寄ら……ああ、違うわこれ」

(,,;゚Д゚)「は?」

( T)「『俺ら』を警戒しているんじゃなくて、もっと大きな物を恐れてる」

(,,;゚Д゚)「……」


今度は妖気に鈍感なギコも気づいたらしい。空気がピシ、ピシとひび割れるかのように鳴る。『ラップ音』だ。チェケラ
続いて、荒い息遣いにズルズルと何かを引きずる音。雨も降ってねえのに湿り気を帯びた足音
35 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/26(月) 22:24:32.75 ID:dDEA33/v0
(,,;゚Д゚)「うっ……わ」


ブサイクで悍ましい着ぐるみの群れが怯えの視線を向ける先には、オーバーオール姿の大男の姿。恰幅のいい脇腹は斜めに切り裂かれ、汚い音と黒いあぶくと共にガスを漏らしている
モノクロ映画かよってくらいの肌色を見れば常人じゃないことなど一目瞭然だ。赤いチェックのシャツは黒ずんだ染みで覆われ、太い首は産まれたての赤ん坊のようにぐらりぐらりと揺れていた


「オ、友dち……」


両手には、汚い麻袋……もとい、『中身』のない着ぐるみを握り引きずっていた


( T)「なるほどぉ!!俺らをアレと同じにしようって魂胆か!!頭賢いな!!」

(,,;゚Д゚)そ「ハァ!?冗談じゃねえぞ!!」


最初っからそのつもりだったのか、それとも今の一撃で考えを改めたのか知らんが、人を見る目はある
俺は言うまでもなく世界最強の漢だし、面白ヤンキーも深海棲艦を白兵戦でギリギリ殺せる程度のクソザコ野郎だ。手駒にしたがる奴は世界中にいる


「hヒ、だiス……」


( T)「だが悪いな。マダム・マルキンの洋装店丁で制服仕立てて貰ってる時にハグリッドの悪口言ったマルフォイくらい無理だわ。臭い」

(,,;゚Д゚)「こ、殺すのか!?逃げるのか!?早く決めろ俺はもう限界だ!!」

( T)「ちょっと考えさせろ」

(,,;゚Д゚)そ「お前よくもまぁアレを目の前にして悠長に構えてられんな!!??」


さて、前門の臭い男、後門の熊さん。珍しくガチなホラーに巻き込まれてる俺だ。お腹空いてきたな
残らず皆殺しにしてやってもいいが、無限湧きなら結構めんどくせえな。異界ジェノサイダーとか呼ばれるようになったらどうしよう


( T)「でもなんかサイレントヒルの方が近い気がするんだよなぁ……」

(,,;゚Д゚)「なぁオイまさか世界観の考察やってんのか今!?」

( T)「ピーチクパーチクうるせえヤンキーだな山守組が市議選に絡んでることをピーチクパーチク喋って土居組にボコボコにされた挙句その後結局組裏切った神原かお前」

(,,;゚Д゚)「なぁなぁなぁ頼むやるならやるで早くしてくれ」
36 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/26(月) 22:25:07.10 ID:dDEA33/v0






「ヒッ……!!」






37 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/26(月) 22:27:27.83 ID:dDEA33/v0
微かに、だが確実に聞こえた小さな悲鳴に、俺らも異形も一斉にその方向を向いた
数多の視線を一身に受けた『主』は、腰を抜かした弾みにひと際大きな物音を立ててしまった


「っつ、ぅ……」


その酷く運のないお嬢さんは、先ほど野外ステージで目にしたばかりであった


((゜)(エ)(゜))「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」

((゜)(エ)(゜))「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」

((゜)(エ)(゜))「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」

((゜)(エ)(゜))「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」


それは正しく、『歓喜の咆哮』だった。奴らの興味の対象は瞬く間に彼方へと移り、滅茶苦茶なフォームで駆け出した
同じくオーバーオールも着ぐるみを手放し、さながら奇行種のように手をバタつかせて走り始める


( T)「あの子を回収してずらかるぞ!!連中の妨害は俺がする!!」

(,,;゚Д゚)「あーあー了解!!クソ、悪夢であって欲しかった!!」


勿論、思う通りになどさせる気はない。ホラー映画は好きだが、理不尽を押し付ける化け物は吐き気を催すほど憎々しい
あの子の位置は俺達から見て左斜め前。先頭はオーバーオール、着ぐるみは俺らを経由せず直線で向かっている。やや面倒だな


(#T)「真っすぐ向かえ!!」


ギコの返答を待たず、俺はオーバーオールを追う。距離にして十メートルも無い。足も遅い


(#T)「死ッ……」


このまま核弾頭を凌ぐ俺の拳で後頭部を殴り割ってやろうとして、寸での所で留まった
年端もいかねえお嬢さんにゴアシーンを見せつけるわけにはいかない。センシティブ重点で行こう


(#T)「若干死ね!!!!!!!!!!」


軽めの飛び蹴りで倒れこませ、着地と同時に着ぐるみの群れへと向かう
38 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/26(月) 22:29:00.98 ID:dDEA33/v0
((゜)(エ)(゜))「ごぎゃあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」

((゜)(エ)(゜))「ごぎゃあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」


『お呼びじゃない』と汚い叫び声を上げ、先頭の一匹が腕を振り上げる
目的は撃破ではない。派手な一撃は必要ないが、如何せん数が多い
しかし纏まっているのはやり易くていい。ここは人間ボウリングもとい化け物ボウリングと洒落こもうか


( T)「俺に力比べを挑もうたぁいい度胸してんじゃねぇ……かッ!!」


((゜)(エ)(゜))「あgっやああ!!???」


先頭の胸元にドロップキックをブチかますと、後続を巻き込みひっくり返る
立て直しには多少手間取るだろう。俺一人なら原型無くなるまでグチャグチャにしてやった所だが


(,,゚Д゚)「確保したぞ先輩!!」

(#T)「行け行け行け!!てめえ何追おうとしてんだカス野郎寝てろ!!」


起き上がろうとしたオーバーオールの側頭部をうっかり蹴り飛ばしてしまい、千切れ跳んだ頭がメリーゴーランドの木馬の首に衝突し、弾け飛んだ。死に際まで汚ぇな
足早にギコと合流すると、女の子は白目を剥いてクタリと伸びていた。ヤンキーアレルギーだろうか


(#T)「ナイッシュー!!おいその子どうした!?」

(,,;゚Д゚)「おめえの人体タイガーショットで気ぃ失ったんだよ!!それでよく俺に説教垂れたな!?」

( T)「それとこれとは全然関係なくない????????論点のすり替えやめな?????????」

(,,#゚Д゚)「クッソ腹立つ!!叢雲の気苦労が知れるぜ!!どこに逃げりゃいいんだ!?」

( T)「その辺の建物に入っちまえ。気を失ったんならもういいや」


オーバーオールは始末したが、着ぐるみの群れは残っている。見苦しく立ち上がると、痛みを感じさせない足取りでまた此方へと向かってきた
このまま逃げてもいいが、クソザコナメクジ共に追われるってのもなんか癪だ。手早くゴミ掃除を済ましてしまおう


(,,;゚Д゚)「あーもー、好きにしてくれ……」

( T)「言われるまでもない」


結局皆殺しにするんだったら、脊髄で決断しときゃ早かったな
39 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/26(月) 22:31:12.57 ID:dDEA33/v0
―――――
―――



( T)「皆殺しにしてきた」

(,,゚Д゚)「五分と経ってねえぞ……」

( T)「マッコールさんなら19秒で終わらせてる」


一仕事終え、レストランで一先ず身を隠すことになった。先に入店していたギコは、テーブル席のソファーで女の子の介抱を行なっている
モンブラン色の髪を黒いリボンでサイドテールに纏め、サスペンダー付きのフリルスカートにボコ柄のロングソックスを履いている
靴はヒール高めのパンプスだ。どれも質の良い物を使っている。どこかしらの令嬢であるのは間違いなさそうだ
あれ?この子大学選抜チームの隊長って言ってたよな?大学生?あれ?可笑しない?ヤンキーは頭悪いから間違えたのか?


( T)「怪我は?」

(,,゚Д゚)「手のひらを擦りむいたくらいだ。呼吸も脈も正常」

( T)「ほんなら応急キット出すか」

(,,゚Д゚)「用意がいいな」

( T)「ガキが多いと何かと入り用でな。残念ながら馬鹿につける薬はない。ガッカリしたか?」

(,,゚Д゚)「ああ、テメーの常備薬に何を使ってるかを確認できなかったのは残念でならねえよ」


ペットボトルの水で軽く傷口を洗い、ティッシュで水分を取って消毒液を掛ける


「いっ……はっ!?」


すると沁みた驚きで目が覚めたのか、女の子は飛び起きた


「あっ、い、嫌っ!!だ、誰!?」

( T)「落ち着けお嬢さん」

「来ないで!!ひっ、うぐぅ……」


そりゃいきなり変な場所に送り込まれて怖いもん見て目の前にヤンキーがいたらこうなるよな……
40 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/26(月) 22:33:14.72 ID:dDEA33/v0
( T)「お前がヤンキーだから怖がってんじゃねえか……」

(,,゚Д゚)「いやどう考えても可笑しなマスク着けてる怪しいオッサンの方が怖い」

( T)「マ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜?????」

「ひっ、ぐっ、どこ……み、みほさんは……なんで……怖い……怖いよ……」


まいった。ウチの子ならともかく他所の泣く子はどうにも手に余る
まぁ俺もギコも第一印象でガキに好かれるようなナリじゃねえからな。しぃが居りゃ楽だったろうが


( T)「怖いのはよくわかる。俺も目が覚めて急に目の前に変なオッサンが二人もいたら凄く怖い。漏らす」

(,,゚Д゚)「よく言うよ……」

「どこかに行ってよ!!消えて!!」

( T)「そうはいかない。君を見逃してしまえば、俺は一生後悔する羽目になる……よし、少し時間をやろう。絆創膏、一人で貼れるか?」


テーブルに先ほど使った水とキャラ物の絆創膏。ついでに飴を置いて離れる


「ボコ……」


ああ、そういや夕立が喜ぶから熊さんの絆創膏だったか。これは僥倖だ
泣き止みはしないが、パニックは少し治まったらしい


( T)「一服つくか」

(,,゚Д゚)「んな悠長に……」

( T)「ジタバタしたって始まんねえよ。それに、ヒントは手に入った」


テーブル席から少し離れたカウンターに座り、灰皿を引き寄せる
ギコも冷静とは言えないが、俺がタバコに火をつけたのを見て、渋々と言った様子で椅子に座った
41 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/26(月) 22:34:55.80 ID:dDEA33/v0
( T)「めんどくせえとこに来ちまったぜ全く……」

(,,゚Д゚)「何かあったか?」


人差し指をクイクイと曲げ、奴の顔を寄せる。やだ……ラブコメみたい……
冗談はさて置き、ここから先の会話は女の子にはキツすぎる。聞かせるわけにはいかない


( T)「オーバーオールが引きずってた着ぐるみに近づいたら、なんかフェイスハガーみたいに襲ってきてな。まぁ縦半分に引き裂いたら大人しくなったが」

(,,゚Д゚)「やはり中身はそういう……」

( T)「ああ。オーバーオールを恐れたのは、奴に作り変えられた記憶が残っていたからだ。中身はご存知の通り、元に戻ることは叶わねえ」


着ぐるみの中身は汚い液体だった。取り込まれた人間はドロドロに溶かされ、燃料的な何かとして機能していたのだろう
胸糞悪いシステムだ。貞子やら妖怪乳首相撲の方がまだ生易しい。いや、比較対象も可笑しいな。どっちもクソだわ


(,,゚Д゚)「サクッと殺してくれた方がマシだな……あの子を狙ったのは?」

( T)「恐らくは、主な目的が『それ』だったんだろうぜ……あの子自身なのか、それとも、『女性』をターゲットにしているかまではまだ分からんがな」

(,,゚Д゚)「っつーことは……他にも誰か取り込まれた可能性はあると」

( T)「かもな……」
42 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/26(月) 22:36:34.31 ID:dDEA33/v0
(,,゚Д゚)「……」

( T)「よろしくない事を考えてる時の顔だぜ。少しは隠す努力をしたらどうだ」

(,,゚Д゚)「っ……誰も彼もがお前みたいにヒーロー気取りじゃねえんだよ」


ギコの脳裏には『囮』やら『餌』やらの単語が、不本意ながら過ってしまったのだろう
腐っても軍人だ。一般市民を犠牲にする気など無いだろうが、脱出の為に年端もいかない女の子に一生残るトラウマを植え付けるのは、俺としては忍びない
ギコの言葉を返すなら、『誰も彼もが他人の為に勇敢にはなれないし、強要も出来ない』。自覚はあるだろうから、言い返しはしなかった


「あの……」


と、言ったところで女の子は見ず知らずの俺らに呼び声を掛けるまで回復した
まだ不安の残る表情だったが、会話は聞こえていなかったらしい。タバコを揉み消して歩み寄った


( T)「しんどいんならもう少しゆっくりしてもいいぞ?」

「だ、大丈夫……あの、おじさん達は……?」

( T)「君と同じく、この場所に迷い込んだモンだ。お名前は?」

「愛里寿……島田、愛里寿……」

( T)「愛里寿ちゃんか。俺の事はマッスルおじさんって呼んでくれ。向こうのヤンキーのお兄さんは猫山義古。下顎を撫でると喉を鳴らす」

(,,゚Д゚)「雑なご紹介をどうも。くたばれ」

( T)「いいって気にすんな。それでー……そうだな、少しお話しようか」

愛里寿「う、うん……」


目線を合わせる為に向かいの席に座る。やはり緊張は解けないようで、身動ぎをして気まずそうに目を逸らした
こんな事になるなら気合入れる為にマスク着け替えなきゃよかった
43 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/26(月) 22:38:19.90 ID:dDEA33/v0
( T)「実は、ステージの観客席で君を見てな……お友達も一緒だっただろう?」

愛里寿「そう、なんだけど……お手洗いに行ってて、それで……」

( T)「扉を開けたら……か?」

愛里寿「うん……うううう……」

(;T)「ああごめん恐いよな。でも必要な確認なんだ。もう少し頑張ってくれないか?」

(,,゚Д゚)「悪鬼羅刹も泣く子には勝てねえのか。人間らしいとこがあって安心したよ」

( T)「クソザコナメクジの自覚が無いようだから教えてやるが、無駄口を叩く暇があるなら武器の一本や二本探す方がよっぽど建設的だぜ?」

(,,゚Д゚)「……一理あるな」


おっと、意外と素直に言うことを聞いた。罵倒の一つや二つ飛んでくるものかと思ったが
女の子がいる以上、教育によろしくないお下品な言葉を慎んだか。なんか良好なヤンキーイメージ守ってるみたいで気持ち悪いな


(,,゚Д゚)「それでは、詩音ちゃんの仰せの通りに」

( T)「お前ぶっ殺すぞ」


かと思えば、とんでもない爆弾をぶっこんできやがった。ギコは『してやったり」と口角を上げると、厨房へと向かっていった
ここで殺しても証拠は残らないここで殺しても証拠は残らないここで殺しても証拠は残らないここで殺しても証拠は残らない
44 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/26(月) 22:39:50.57 ID:dDEA33/v0
愛里寿「詩音ちゃん……?」

(;T)「おじさんの名前だ……恥ずかしいから内緒にしてもらってもいいか?」


俺が本名を頑なに喋らなかった理由をご理解いただけただろうか?ウチの連中に聞かれてみろ。横断幕作られて全員で大合唱されるわ
ギコは後で人目がつかない場所で小指をもぎ取って鶏小屋の中に捨ててやろうと固く心に誓ったここで殺しても証拠は残らない


( T)「余計な横やりが入ったな。俺たち以外に誰か他の人を見たか?」

愛里寿「えっと……わからない、けど……どこかで泣き声は聞こえた……ような……」

( T)「もしかして『ビャアアアアアアアアア』って感じだったか?」

愛里寿「うん……た、多分……」

(;T)「マジかよ……」

愛里寿「知ってる人……?」

(;T)「おじさんの娘……妹?とにかく、身内だ」


はい夕立ほぼ確定。つい先日異世界に乗り込んで帰ってきたばかりだってのに災難が続く


愛里寿「なら、ジッとしてる場合じゃ……そう、そうだ、みほさんだって、ここにいるかも……!!」

( T)「……そうだな。移動しよう」


作戦を立てる時間が欲しかったが、それは道すがらでもいいだろう。夕立が心配なのもあるが、他の二人と一緒の可能性も高い
それに、ビビりとはいえ青葉や時雨に並ぶ武勲艦だ。加賀だって元は呉鎮守府でトップクラスの実力を誇っていたし、変態は変態だ
俺一人で十分とは言え、合流できれば戦力的にも心強い。愛里寿ちゃんだって見ず知らずの野郎二人と行動するよりも女性がいた方が安心できるだろう
45 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/26(月) 22:42:03.26 ID:dDEA33/v0
( T)「歩けそうか?」

愛里寿「だ、大丈夫……!!」


<てめぇなん……ゴラァ!!!!!


席を立とうとした瞬間、怒声と共に厨房のスイングドアから何者かが蹴り出される
仰向けに倒れたそいつは、俺らの存在に気付いた途端、縋るように這い寄ってきた


「あ、ああ!!助けてくれ!!殺される!!」

(#T)「そこを動くな!!」

「ひぃっ!?」


愛里寿ちゃんを背に庇い、得体の知れない男に怒鳴りつけると、その場で小さく丸まった


(#T)「ギコォ!!なんだこいつは!?」

(,,#゚Д゚)「知らねえよクソが!!いきなり飛び掛かってきやがった!!」


遅れて厨房から肉切り包丁を手に飛び出したギコは、男の襟首を掴むと床へと押し付ける。『げぇえ』と蛙のようなうめき声を上げた


(,,#゚Д゚)「てめえ覚悟出来てんだろうなァ!?」

「い、痛い痛い痛いぃぃ!?た、助けてくれぇ!!」

( T)「ギコ、やめろ!!」


このままだとマジでジビエの血抜き処理をしかねない。ギコは舌打ちを一つ漏らし、首筋に沿わせていた包丁を引っ込めた
46 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/26(月) 22:42:45.13 ID:dDEA33/v0
( T)「災難だな、オッサンよ。今度からヤンキーは避けて歩け。一服するか?」

「いるかそんなもん!!クソ、ちくしょう……きょ、許可もなく俺の店に立ち入りやがって!!」

( T)「俺の店?」


言われてみれば、男の身なりは……ほぼ灰色に近いとはいえ、調理用の白衣だった
伸び放題の髭といい、垢と脂で塗れた顔といい、長い間ロクに風呂も入ってないように見える。臭い


愛里寿「臭い……」

( T)「事実だとしてもそのセリフは中年に刺さるから使いどころを考えような。それでー……ミスター。あんた、いつからここに?」

「……」

( T)「オッサン?ヘイ!!あんまり初対面の女の子を穴が開くほど見るもんじゃねえ通報されんぞ」

「魔女……ああ、魔女様だ!?あ、あ、あんたらなんてことを!?」


愛里寿ちゃんの存在に気付いた男は、再び大きく取り乱す。唾を飛ばすな汚いな
47 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/26(月) 22:45:30.31 ID:dDEA33/v0
(,,#゚Д゚)「ジタバタすんじゃねえ!!」

「放せ!!殺される!!なんで、なんで俺の店に!?魔女様、魔女様!!わ、私は無関係です!!慈悲を!!どうかご慈悲を!!」

愛里寿「ヒッ……」

( T)「もういい、わかった。ギコ」


男の上半身を持ち上げてもらい、顎に裏拳を掠めるように軽く当てる
呆気なく脳震盪を起こし気絶したそいつを、ギコはゴミのように投げ捨てた


( T)「……サイレントヒルっぽーい」

(,,゚Д゚)「まだ言うか」


映画版しか観たことないけど、大体こんな感じだった筈だ


愛里寿「わ、私の所為?私の所為で、みほさんやおじさん達も巻き込んで……」

( T)「それは無い。君も被害者の一人だ」

(,,゚Д゚)「元凶との関わりはあるってのは確実だがな」

( T)「身長伸ばすぞ」

(,,゚Д゚)「そのセリフを脅し文句として機能させる奴初めて見た」

愛里寿「どうしよう……ねぇ、私……どうしたらいい……?」


ああ全くキレそうだ。遊びに来ただけの普通の女の子が、どこの馬の骨とも知らねえ野郎どもに縋りつかなきゃならない状況を作り出したクソ怪異に
こういう場面は提督になってからいくつも見てきた。クソ野郎にいい様に扱われてきた艦娘を何人も引き取った。その度に、『大人』の意義を考える


( T)「どうもしなくていい。俺らがなんとかしてやる」


その答えは恐らく、生き様によって得た自信と、年長者としての責任を持って『子供』を守る事だ
取り乱さず、弱音を吐かず、余裕を見せつける『力』を持ってして、理不尽を砕くのだ
48 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/26(月) 22:47:05.41 ID:dDEA33/v0
(,,⁻Д⁻)「ハァー……そうだな、今のは失言だった。すまん」

( T)「お前素直に謝れるのか。ヤンキーとは思えないほど殊勝だな。普通の人へ一歩前進だ。なんならドキュメンタリー番組作ってもらうか?」

(,,#゚Д゚)「ぐっ、この……」

愛里寿「……フフ、あはは」


余裕は伝染する。絶望の淵に立たされた女の子を笑顔にするくらいワケはない
俺のママもこう言った。『女は笑顔が一番のお化粧』だってな。ママの言うことに間違いはない。あるとすれば息子に女の子みたいな名前つけた事だ。一生許さん


愛里寿「あの、よっ……よろしく、お願いします」

( T)「任せとけ。キンニク モリ マモル」

(,,゚Д゚)「完全に蛮族のそ……ッ!?」


『パキッ』と小枝が折れるような、本来なら店内で聞こえるはずかない音に、多少和やかになった空気は破られた
発生場所は先程黙られた名も知らぬ調理師のオッサンだ。見ると、右腕の関節が独りでに有り得ない方向へと折れ曲がっている
本来ならば悲鳴を上げて然るべき大怪我にも関わらず、ぐうの音一つも漏らしてはいない。これはマズい
49 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/26(月) 22:48:00.27 ID:dDEA33/v0
( T)「直ぐに出るぞ!!走れるな!?」

愛里寿「う、うん!!」

(,,゚Д゚)「俺が先行する!!カバーは頼むぞ!!」


ギコは包丁を構え、扉を蹴破って飛び出す。愛里寿ちゃんの手を引いて、俺たちも後に続いた


愛里寿「アレ何!?あの人、ハァッ、どうなるの!?」

( T)「予測が正しけりゃ……着ぐるみよりも厄介なモンが来る!!」


奴は『魔女様』とやらに赦しを乞うていた。愛里寿ちゃんをその何某と見間違った可能性もあるが
ここは常識の通じない『裏世界』だ。遠隔で、この世界の住人に何かしら施せると考えた方がいい。現に―――



「ヴぁあああぎヴぇえええええええええええええ!!!!!!!!!」



店の窓をブチ破って現れた祟り神みてーなバケモンは、俺らを捕らえるためにあのオッサンを変貌させたモノなのだろうから
50 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/26(月) 22:50:11.25 ID:dDEA33/v0
愛里寿「ッ……!?」

(;T)「失礼ッ!!」


子供の脚力では追いつかれる。腰に手を回し、片腕に抱きかかえた
背中の皮膚を突き破って生えた肉と骨で形成された足は節足動物のように忙しく駆け回り
肩甲骨から首筋にかけてバクリと裂け、不規則に並んだ前歯と太く短い舌が覗く
唯一、男の名残を残していた頭は今しがた千切れ落ち、踏み付けられて中身をぶち撒けた。これが本当のカオナシってかガハハ!!


(,,゚Д゚)「殺せるか!?」

(;T)「あのなぁ俺だって出来る限りキモいもんに触れたくねえんだよ!!」


遊星からの物体Xはクリーチャーの造形含め神映画だと思うが、実際に目の当たりにしたいとは
ましてや正面切って殴り殺したいとも思わねえ。マッチョでもキモいもんはキモい。犬のとことか心がしんどかった


「がえぜがえぜがえぜがえぜがあああああああえええええええぜええええええええええええ!!!!!!!!!!」


愛里寿「ハァッ、ハァッ……んぐっ」

(;T)「……クソッ!!」


狙われている側のプレッシャーと恐怖は計り知れない。腕の中の愛里寿ちゃんは耳を塞ぎ、こみ上げたものを吐き出さないように耐えている
四の五の言ってる場合じゃねえ。ここで男気見せねえでいつ見せるってんだ!!


(;T)「ギコ!!この子を……」


「その必要は無いわ」


ほむらちゃ……いや、聞き覚えのある声と共に、側面から『棒状の物』が飛来し


「ヴぁっ……!?」


バケモンの胴を貫き、地面へと釘付けにした
51 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/26(月) 22:54:06.69 ID:dDEA33/v0
(;T)「ほ……ほむらちゃん!!」

加賀「加賀です。まだそれに近寄らないように」


颯爽と登場した加賀は、続けて二本三本と鉄パイプを投げつける
艤装は無くともベースはアスリート越えのフィジカルを持つ艦娘。豆腐に箸を刺すかのように胴体を貫いていく


「あが……ぎぃぃぃ……」


か細い断末魔を上げ、バケモノは活動を停止する。すると、ドロドロと身体が溶けていき、その場には地面に突き刺さるパイプだけが残った


加賀「聞くまでも無いようですが、お怪我は?」

(;T)「大丈夫だ。お前は?」

加賀「問題ありません。猫山さんもご無事で?」

(,,;゚Д゚)「ああ、助かったぜ……」

加賀「股座を濡らしているものかと思いましたが、案外栓はキツく締めているようですね。残n……安心しました」

(,,;゚Д゚)「お前ら俺のこと嫌いか?」

( T)「草」

加賀「……その子」

( T)「そこで保護してな……」


青白い顔色の愛里寿ちゃんをゆっくりと下ろす。呼吸が纏まっていない、過呼吸状態だ


愛里寿「ハッ、ハッ、ハッ……」

( T)「深呼吸だ。目を瞑ってそれだけを考えろ」

愛里寿「うっ、う……」

加賀「……ダメね、代わって頂戴」


加賀は俺の肩を掴んで強引に下がらせると、愛里寿ちゃんをソッと抱きしめ


加賀「怖かったわね……大丈夫、もう大丈夫よ……」


背中を撫でながら、優しく語りかける。すると


愛里寿「う、んぐっ……うわあああああああああ!!!!」


安心感からか、彼女は大きく泣いた
52 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/26(月) 22:56:19.70 ID:dDEA33/v0
(,,゚Д゚)「血も涙も無いと思ってたが、撤回するよ」

加賀「貴方や杉浦准将と一緒にしないで。提督、貴方なら手慣れたものでしょうに」

( T)「お前ウチの連中ならともかく他所の子に抱きつけるか通報されるわ」


人の体温はあながち馬鹿には出来ない。落ち着きを与えるには効果的だ
小さな頃は誰しも親にそうされた記憶があるのだから。俺らに出来ない事は無いが、女性なら尚更効き目がある
母ってのは偉大だ。俺も実家に帰って親孝行がしたい。ただ息子に女の子みたいな名前付けたのは絶対に許さん


(,,゚Д゚)「だが一概に『めでたし』とは言えねえぞ。いつ連中が集まってくるかわかったもんじゃねえ」

加賀「それなら、一度拠点へと戻りましょう。夕立や椎名さんもそこにいます」

( T)「結局全員集合かよ……お前らはどうやって?」

加賀「売店へ足を踏み入れた瞬間よ。夕立が泣き叫んで白目を剥いて気を失ってゲロ吐いて大変だったわ」

(,,゚Д゚)「ゲロ吐きすぎだろ」

( T)「他に誰かいたか?例えば……その……」


チラリと加賀の腕に収まる女の子に目配せする。加賀はちゃんと意図を読み取って、それでいてハッキリと伝わるように


加賀「他に誰もいなかった。巻き込まれたのは、私達だけ」


と、答えてくれた


( T)「そう、か……いやマジでなんで俺らばっかり……ハァ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜もう不貞寝してぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」ゴロン

(,,゚Д゚)「気ぃ緩めすぎだろ。寝んな」ガッ

( T)「蹴んな」

加賀「質問は以上?では、移動しましょう。この子は私が」

( T)「ギコ、おんぶ」

(,,゚Д゚)「加賀、案内を頼む」スタスタスタ

加賀「ええ、此方へ」スタスタスタ


この場でダダでもこねてやろうか
53 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/26(月) 23:04:04.30 ID:dDEA33/v0
今日はここまで

これ書いてた所為でFGOの夏イベ周回出来てません。水着沖田さん出ました
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/27(火) 00:07:03.83 ID:FAc4XKcBO
艦これss…?
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/27(火) 09:22:20.46 ID:3oDblFW3O
7割が映画サイレントヒルじゃねーかタイトルのボコ一瞬で退場じゃねーか
56 : ◆L6OaR8HKlk [saga]:2019/08/27(火) 20:25:17.55 ID:8agroj4w0
―――――
―――



夕立「でえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!」ビャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!

(;T)・'.。゜「ごるぱァ夕立ちゃんは今日も泣き虫元気っ子」


土産屋とおぼしき建物。拠点からの出迎えは低位置からのキツめタックルだった


(*;゚ー゚)「ギコくん!!ああ、良かった!!」

(,,;-Д-)「一概に喜べねえが……無事で何よりだ」

(*;゚ー゚)「私は楽しいからいいけど、ギコくん恐がりだからきっと泣いちゃってると思ってて……」

(,,゚Д゚)「ちょっと待て今聞き捨てならないセリフ出てきたな?」

(*゚ー゚)「え?」

(,,゚Д゚)「え?」

夕立「しぃちゃんずっとハァハァ言ってて怖がっだあああああああああああああああ!!!!!!」ビャアアアアアアアアアアア!!!!!

( T)「え?そっちの方が怖いの?」


早く変態が治る特効薬を開発してほしい


( ∵)「……」


( T)「それで……彼は?」


そしてもう一人、この場に見慣れない中年男性がいる。身なりは先ほどのコックよりは多少マシと言えるレベルの古い洋服
落ち着きなく貧乏ゆすりをしているが、愛里寿ちゃんを見て取り乱したりしない程度にはまともらしい
57 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/27(火) 20:28:50.68 ID:8agroj4w0
(*゚ー゚)「私たち、この方のお陰で無事だったんです。『ここは安全だ』って連れて来られて」

(,,゚Д゚)「本当か?」

( ∵)「う、う、嘘は、つ、つ、吐いてない。わ、わ、私は味方、だ」


吃音症だろうか。率直な言葉を放った男は、暗い眼孔を向けて力なく笑った


( ∵)「こ、こ、後天的な『どもり』でね。い、い、イラつくだろうが、か、か、勘弁してほしい」

( T)「構いやしねえよ。俺ぁスキャットマンもよく聴く」

( ∵)「き、き、君らの、じ、じ、時代でも、か、か、彼は有名なのか?」

( T)「天国へコンサートしに行った男として名を馳せてるぜ……アンタ、いつの人間だ?」

( ∵)「せ、せ、1996年……お、お、驚かないのだな」

( T)「慣れっこでね。アンタこそ、マスク超人目の前に良く喋るじゃねえか」

( ∵)「ふふ、き、き、聞いた通り、た、た、頼りになりそうな男で、あ、あ、安心した。か、か、加賀さん、そ、そ、その子を奥で、や、や、休ませなさい」

加賀「ええ、心遣い感謝致します。さぁ、こっちへ」

愛里寿「グスッ……」


愛里寿ちゃんを連れてバックヤードへと消えていくのを確認し、タバコの箱を差し出した


( ∵)「あ、あ、ありがたい……ま、ま、まともなタバコなど、い、い、いつぶりだろうか」

( T)「まさかとは思うが二十年間もこの場所で生き残ってるワケじゃねえよな?」


火を近づけると、男は深く煙を吸って、大きく咳き込んだ


(;∵)・'.。゜「ゲホッゴホッ!!ゴエエエエエエエエエ!!」

夕立「ピィ!?」

( T)「夕立ちゃん怖いのはわかったから提督さんの首から腕を放して締まってる息できないマジちょギコ頼む引き離して」

(,,;゚Д゚)「毎度のことながら手のかかるガキだな……夕立、先輩が死n……海に沈めても死なないと思うが、話が進まねえから」

夕立「ギコくんが優しくて怖いぃぃぃ……」

(,,゚Д゚)「おうなんだこのガキ時雨と同じ扱いにしてやろうかアアン?」

(*;⁼ー⁼)「怒っちゃダメだよギコくん……ほらおいで夕立ちゃん」


めちゃくちゃ厳しい人たちが急に見せた優しさって必ずしも通じるわけじゃないんだなぁって思った
58 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/27(火) 20:33:23.40 ID:8agroj4w0
(;∵)「す、す、すまない……わ、わ、私は、長い方で、も、も、もう半年になる」

(;∵)「こ、こ、この世界は、じ、じ、時間の流れが、ら、ら、乱雑だ。み、み、未来から現れた者もいれば、そ、そ、その逆も然り」

( T)「元の世界に戻った場合は?」

( ∵)「さ、さ、さぁな。ぜ、ぜ、前例がない」

(,,゚Д゚)「とっても素敵な情報だ。ありがたくて涙が出るぜ」

( ∵)「か、か、彼は、そ、そ、その子が言った通り、い、い、嫌味な男だな……」

(,,゚Д゚)「夕立、ちょっと来い」

夕立「だってだってだってぇ〜……しぃちゃーん……」

(*゚ー゚)「ギコくん虐めないの」

( T)「お前普段の素行を振り返って素敵なお兄さん呼ばわりされると思ってんのか?自分に都合のいいオツムだな。親御さんもさぞ苦労したことだろう」

(,,゚Д゚)「なぁ、なんで俺が悪者みたいに扱われてんだ?」


弄られ慣れてないヤンキーはちょっとおちょくっただけですーぐ不機嫌になるな


( T)「そう言えば自己紹介もまだだったな。俺はマッスル。嫌味な男はオニャンコポンだ」

(,,#゚Д゚)「全力でぶん殴っても折れない頑丈な棒探してくる……」

(*;゚ー゚)「やめなよ……今のはマッさんが悪いですよ」

( ∵)「き、き、聞き及んでいるよ。わ、わ、私は、『鳴神こだま』と申す者だ」


こだま。言われてみればどことなくもののけ姫に出てくるカタカタなるアレに似てる気がする
59 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/27(火) 20:37:12.34 ID:8agroj4w0
( ∵)「つ、つ、つかぬことを聞くが、そ、そ、そのマスクは?」

( T)「ちょっとした事故でね」


マスクの顎下を軽く捲り、中に隠された醜い皮膚を見せると、鳴神はバツが悪そうに目を伏せた


(;∵)「す、す、すまない。け、け、軽率だった」

( T)「構わねえよ。一言も謝罪しねえ当事者に比べりゃ聖人に見えらぁ……そんじゃあ鳴神さん。アンタの要求を聞こうか」


鳴神は姿勢を正すと、真っすぐ俺の目を見てから、頭を深々と下げた


( ∵)「こ、こ、この世界を、お、お、終わらせてほしい」


随分と大きく出たものだ。しかし、勝算もなく無責任に頼むとも思えない


( T)「……方法は?」

( ∵)「に、に、逃げればいい。ま、ま、待てばいい。あ、あ、あの子を、ま、ま、魔女の手に渡すな」

(,,゚Д゚)「その、魔女ってのは何者だ?」

( ∵)「こ、こ、この世界の、ぬ、ぬ、主だ。ま、ま、魔女と呼んではいるが、い、い、意識や知能はない。た、た、ただ存在を維持するために、き、き、機能している」

(,,゚Д゚)「……ん?」

( T)「……明確な弱点が無い、植物のような存在か?」

( ∵)「は、は、話が早いな。そ、そ、そう捉えて構わない」

夕立「ど、どういうこと?」

( T)「動物は頭や心臓を潰せば簡単に死ぬが、木は幹から切り倒しても根っこが残ってりゃまた生え伸びる。つまり、いつもの方法で解決しようと思ったらこの世界丸ごと握殺しなきゃならない」

夕立「……つまり、すっごーく大変?」

( T)「すっごーく大変」

(*゚ー゚)「興奮してきた」

(;∵)「か、か、彼女も、や、や、休ませるべきだろうか?」

( T)「寝て治るような性癖なら良かったんだがな……」
60 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/27(火) 20:39:57.90 ID:8agroj4w0
(,,゚Д゚)「っつーことは、ここでジッとしてりゃ戻れるのか?」

( ∵)「そ、そ、そうなら良かったのだが、こ、こ、ここは魔女の世界。い、い、いずれ捜索の目も、と、と、届く」

(,,゚Д゚)「そうは問屋が卸さねえってか……」

(*゚ー゚)「期限はいつまでですか?」

( ∵)「こ、こ、この世界は、い、い、一時間だけ、み、み、短い夜がある。そ、そ、それを耐え凌げば、か、か、勝ちだ」

( T)「逃走中より楽じゃね?」

(,,゚Д゚)「どういう神経してんだ?」

夕立「賞金出る?」

(,,゚Д゚)「ふざけてんのかお前」

夕立「しぃちゃーん……」

(*⁼ー⁼)「よしよし、意地悪なお兄さんですねー」

( T)「お前らが普段どうやってイチャついてるのか若干わかってきたわ。おヴぇっ!!!!!!!」

(,,゚Д゚)「俺はあのガキと同レベルか?えぇ?」

(;T)「そうだよ気持ち悪い……」

(,,゚Д゚)「テメーの勝手な妄想で勝手にダメージ受けてんじゃねえ。気持ち悪いのは俺の方だ」

( ∵)「ふ、ふふ……こ、こ、これほど賑やかなのも、ひ、ひ、久しい。き、き、君達に賭けて、せ、せ、正解だろう」


笑顔、とは到底呼べない、歪んだ表情で枯れた笑い声を上げる
きっと、この狂った世界で笑い方も忘れてしまったのだろう。哀れなものだ


( T)「ふむ……夕立、お前らは着ぐるみのバケモノとか、変態丸出しのオッサンと遭遇したか?」

夕立「う、うん……加賀ちゃんが全部やっつけたっぽい」

( T)「めっちゃ追われたりした?」

夕立「んーん。で、でも、着ぐるみ着せられそうには、なった」

( T)「……」


つまり、『魔女』の狙いは愛里寿ちゃん一人。俺らは多分、『ついで』の扱いなのかもしれない
着ぐるみは人が動力源だった。世界、ひいては魔女を維持する為に必要な手足として機能させるつもりだったのだろう
数多い来場客の中で選ばれた理由だが、俺らには一つだけ共通点がある。『強い』のだ
俺や艦娘である夕立と加賀は言わずもがな、ギコやしぃも軍人で、そこらの連中が束になっても敵いはしない

では何故、『愛里寿ちゃん』が選ばれてしまったのか?
61 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/27(火) 20:44:34.82 ID:8agroj4w0
( T)「なぁ、魔女ってのは本当に曖昧な存在か?」

( ∵)「……ど、ど、どういう意味だ?」

( T)「いやな、俺らはアンタより先にここの住人らしきコックと接触してるんだ。そん時、奴はハッキリと愛里寿ちゃんを見て『魔女』と言ってな」

( ∵)「!!」


薄い唇が戦慄いた。どうやら、この質問は確信を突いている
だが観察してる中で彼が嘘を吐いているようにも見えなかった。何か、何か穴がある


( T)「身内を匿ってくれた事、こうして情報提供をしてくれている事、感謝の念に絶えない。だから、偽りなく話してはくれないか?魔女は、一体何者で、どうしてあの子を狙う?」


自分で言うのもなんだが、人を見る眼はここ数年で鍛えられた。彼はきっと『善き人』だ。多少の打算はあれど、この狂った世界で正気を保ち、迷い込んだ人の手助けをしている
だから、出来ることならば敵対はしたくないし、与えられた恩も返したい。その為には、包み隠さず全てを打ち明けて貰いたい


( ∵)「……」


彼はタバコを口元に近づけると、そのフィルターを


( ∵)「んぎっ……!!」

(;T)「アンタ何してんだ!?」


『噛みちぎった』


(;T)「飴じゃねえんだぞ!!」


このままだと葉や先端の火まで食いかねない。強引にタバコを取り上げ投げ捨てる
彼の瞳は目まぐるしく左右に揺れている。噛みちぎったフィルターが、口の端からポロリと落ちた


( ∵)「違う違う違うあの子があんなものになるわけがない魔女はシステムだOSだこの世界は世界として機能している私は間違っていない間違っていない間違っていない」


吃音症が嘘のように、息継ぎも無く言葉を滑らせる。その全てが、『自分』へ向けた言い訳だった
両手で首筋を掻き毟り始め、手首を掴んでそれを止めた。ストレスによる自傷行為だ


( ∵)「娘は生きているこの日を待ちわびたパパが今迎えに行く待っていろ………………あ」
62 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/27(火) 20:45:01.36 ID:8agroj4w0








( ∵)「名前は、なんだったっけか?」








.
63 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/27(火) 20:45:37.10 ID:8agroj4w0









( ∵)「あはははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」







.
64 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/27(火) 20:48:50.12 ID:8agroj4w0
(;T)「……っ」

(,,#゚Д゚)「らぁッ!!」


ギコが後頭部にキツい一撃を与えると、フッと意識を手放した
地雷を踏んでしまったらしい。彼が正気を保つ為の『嘘』を、俺は暴いてしまったのだ


(,,゚Д゚)「……平気か?」

(;T)「ああ……悪い」


魔女の正体は未だ不明だが、一つだけわかった事がある
彼の娘は、『選ばれてしまった』。この世界を機能させる為の人柱として、魔女になってしまった


夕立「ヒッ……ヒィ……」

(*;゚ー゚)「……」


人が狂うところなど、見ていて気持ちの良いものではない
案の定、二人は抱き合いながら青ざめた顔色をしていた


(,,゚Д゚)「……魔女はいる。そして、それが弱点でもある。娘惜しさにテメーで都合よく真実を改竄していやがったな」

(;T)「彼を責めるな。俺だってこんな場所に半年もいりゃどうにかなっちまうだろうよ」

(,,゚Д゚)「お人好しもそこまでにしとけよ。危うく俺らはこいつの二の舞になっちまう所だったんだぞ」

(;T)「……」

(,,⁻Д⁻)「あのなぁ先輩……」


グイと胸倉を掴まれ詰め寄られる。表情は冷静だが、静かな苛立ちと怒りが募っていた
65 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/27(火) 20:52:20.55 ID:8agroj4w0
(,,゚Д゚)「『善き人の味方』、大いに結構だ。三十路も近ぇのにご立派だよ。だが独善って言葉もあるのは知ってるよな?」

(;T)「……」

(,,゚Д゚)「何でもかんでも筋肉で思い通りにはならねえんだよ。切り捨てなきゃならねえもんは選んでかねえと、俺らまで道連れにされてしまう。そんなのは御免だ」

(*;゚ー゚)「ギコくん、やりすぎだよ!!」

(,,゚Д゚)「口を出すな。いいか、この際だからハッキリ言っておく」


(,,゚Д゚)「俺はアンタのそういう所が、虫唾が走るほど嫌いだよ」


(;T)「……」


まさか、説教された後に説教し返されるとはな。だが、ギコは間違ってはいない
きっと俺は幼稚なのだろう。取捨選択はしていたつもりだが、側から見れば大人としての割り切りが出来ていなかった


( T)「……悪かった。放せ。関節逆方向に曲げるぞ」

(*;゚ー゚)「そ、それもちょっとどうなのかなって……」

( T)「いや、夕立が。夕立落ち着け、どうどう」

夕立「……」


俺の懐刀の一人は、手を上げようものならいつでも飛び掛かろうとしぃの腕の中で牙を剥いている
折角の休暇に野暮な怪我は勘弁だ。それと、これ以上険悪にもなりたくない。やだ、今更……?
66 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/27(火) 20:56:53.32 ID:8agroj4w0
(,,゚Д゚)「……ご立派な番犬だな。これじゃ言いたい事も言えやしねえ」

( T)「ポイズン」

(*;゚ー゚)「マッさん、ふざけるとこじゃないよ……?」


舌打ちを一つして、乱暴に突き放される。俺は襟首を大袈裟に払ってシワを直した。イジメだ


(,,゚Д゚)「それじゃ、作戦を立てるとするか」

( T)「そうだな」

(*;゚ー゚)そ「二人とも立て直し早くない!?情緒どうなってんの!?」


こいつの好きな所を一つ挙げるとするならば、禍根をいつまでも引きずらない事だ
目的は脱出であり、俺の人格矯正ではない。こういう切り替えの早さには、良くも悪くも救われる


( T)「ッメ……ッテロヨ……ソガ……」

(,,;゚Д゚)「無事に帰ったら飯奢るから機嫌直せよ……」


まぁ俺は根に持つけど。後でしっかりしばき回すけど


(*;⁼ー⁼)「もー、さっきから心臓に悪いことばっかだよ……この人、どうするの?」

(,,゚Д゚)「まさか連れて行くなんて言わねえよな?」

( T)「……今は触れずに置こう」


彼も被害者に他ならない。だが、既に手遅れなのだろう。きっと娘は元には戻らないし、場合によっては俺らの手でトドメを刺してしまうかもしれない
連れて行けばその現場を目の当たりにさせてしまう。捨て置けば、誰にも気づかれずひっそりと孤独に死んでいくのかもしれない。どちらにしても、詰みだ
『何でもかんでも筋肉で思い通りにはならねえ』。ああ、これだから怪異はクソだ。絶対の自信を、いとも簡単に無用の長物に変えちまう


( T)「先ずは手がかりだ。それを探そう」


せめて、彼の二の舞にはならないようもがき続けるのが関の山だ
67 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/27(火) 20:59:52.38 ID:8agroj4w0
―――――
―――



( T)「加賀」


愛里寿ちゃんを寝かせているソファーの傍らで船を漕ぐ加賀を揺り起こす
本人は寝るつもりは無かったのだろう。ハッと顔を上げ、涎を拭い取った


加賀「ごめんなさい、気を抜いてたわ……」

( T)「構わねえよ。お前だってこんな事態慣れてねえだろ。疲れるのは当然だ」

加賀「ええ……とんだ休暇になりましたね……進展は?」

( T)「地図と手記を見つけた。ボスとは正面切ってかち合う事になりそうだ……少し、外してくれるか?」


毛布を頭まで被る愛里寿ちゃんに目配せすると、加賀は去り際に俺の耳元に顔を寄せて囁いた


加賀「デリカシーのある会話を心がけて頂戴」


俺ってそんなに信用無いの???????


( T)「やれやれよっこらマキシマム・ソルジャー……平気か?」


ソファーに腰掛け声を掛けると、毛布から目元がひょこりと現れる
散々泣き腫らした瞳は真っ赤だった。無理もないだろう。俺だって一人だったら失禁してた


愛里寿「は……恥ずかしい所を、お見せした……」

( T)「何のことだかさっぱりだな。俺にはずっと頑張っていた君しか見えなかったが」


話し方が大人びたな。取り繕う余裕は出来たようだ
あの後、ギコからこの子は飛び級で大学生になったと聞いた。段飛ばしで成長せざるを得ない環境にいたのだろう
大したものだ。つくづく、女の子ってのは男の数倍強い性別だと感心してしまう
68 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/27(火) 21:12:05.00 ID:8agroj4w0
( T)「……」

愛里寿「おじさん……?」


言いづれえ。散々議論しても、これ以上の策は思いつかなかった
魔女の狙いはこの子だ。誘い出すには、作戦に参加してもらう必要がある
これ以上怖い目に遭わせたくはない。だが、相手の正体も力量もわからない以上、手札は全て切って挑まねばならない


愛里寿「……お話、しよう」

( T)「ん?」


なんて切り出すか迷っていると、彼女から先に提案をされた
レストランで最初に会話した時もこんな始まり方だったな。つい数時間前の事だが、随分昔に感じてしまう


愛里寿「おじさんは、軍人さんなんでしょ?」

( T)「ああ……まぁ、ちょっと特殊な環境と立場でな」

愛里寿「マスクも特殊の一つ?」

( T)「そうだ。美貌を隠さないと嫉妬と羨望の視線で心を病んじまうからな」

愛里寿「ふふ……そうは思えないよ」

( T)「バレたか」
69 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/27(火) 21:15:20.23 ID:8agroj4w0
お互いクスクスと笑いあうと、愛里寿ちゃんは天井を仰いで溜息を吐いた


愛里寿「こんな時に言う事じゃないんだけど……相談があるの。聞いてくれる?」

( T)「勿論。ただし、恋愛相談だけは勘弁な。色男はロクなアドバイスが出来ない」

愛里寿「私にはまだ早いよ……」

( T)「おや、引く手数多かと思ったんだがな。世の中の野郎は度胸がないと見える……それで?」

愛里寿「……友達がね、軍人さんになっちゃうかもしれない」

( T)「……」


よもや、高校生にも満たない年頃の女の子からこのような相談を持ちかけられるとは
いよいよ日本も切羽詰まったか。その一端を担っている身としては、申し訳なさが募る


愛里寿「その人の友達がね……ドイツにいるんだけど、深海凄艦の侵攻を受けて軍人に成らざるを得なくなっちゃって、みほさ……私の友達も、責任感が強い人だから、周りも心配してて……」

(;T)「ベルリンか……」


欧州が陥落する引き金となったベルリン侵攻。その余波が、遠い島国にまで届いている
国民の存亡が懸かっているのは重々承知だが、志願にしろ招集にしろ、決して賢い行いとは言えない


愛里寿「気分転換になるかなって、ボコフェスに誘ったのは良いけど……ずっとどこか上の空なの。ねぇおじさん。私は止めるべきなのかな?それとも、みほさんの思う通りにさせるべきなのかな……?」

(;T)「そう、だな……」


残酷な選択肢だ。本人もさる事ながら、周りにすら重圧を押し付けている
これはきっと、『頼りない大人』が招いた事態だ。何物かもわからないバケモノの暴力を跳ね除けられなかった、俺たちの責任問題なのだ
70 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/27(火) 21:18:31.65 ID:8agroj4w0
( T)「……おじさんはな、高校卒業してねえ」

愛里寿「え?」


だから、俺は選択肢から目を逸らす事にした。『ごまかし』とも言い換えられる
『みほさん』とやらは泥沼の中にいる。戦いの道を選んだ友人に続かねばならないという、呵責に苛まれている
引き揚げるのが叶わなくとも、少しでも沈む速度を遅らせる事は出来る筈だ


( T)「十四人……くらい?ボコボコのボコにして退学食らってな。その後すぐに自衛隊に入った。教官も何人かボコボコにした」

愛里寿「えぇ……?」

( T)「まぁ十年以上前の話で、当時は深海凄艦もクソも無かった。その頃を振り返ると、別の道もあったんじゃねえかなって思う」

愛里寿「……」

( T)「その、みほさんとやらに会ったことはねえから、偉そうな口聞けねえが……アドバイスをするなら、『良く考えろ』に尽きる。ドイツの友達だって、その子にプレッシャー与える為に軍人になったってワケじゃねえだろうしな」

( T)「そんで……在り来たりにはなるが、周りを良く見て欲しい。彼女が大きな決断を下せば、第二、第三の『みほさん』が産まれてしまう。行くも勇気だが、退くも勇気だ。おじさんからはこれ以上言えねえ」


気の利いた答えではないのは重々承知だ。しかし、無責任に『送り出せ』とも、『止めるべき』とも答えられない
結局は自分自身で『納得』しなければならないのだ。それが周りにどんな影響を与えるのかも弾き出した上で
人は他人の思い通りにはならないし、そうなる義務も無い。だから、どんな答えを出そうと、それもまた『納得』として飲み込まねばならない
71 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/27(火) 21:20:47.45 ID:8agroj4w0
愛里寿「……私は、どうするべきかな」

( T)「そうだな……君はみほさんにどうして欲しい?」


また、目尻に涙が溢れ出し、彼女は両手で抑え込んだ


愛里寿「行って欲しくない……あんな、あんな恐ろしい場所に、い、行って欲しくない……!!」


その想いもまた、重く受け止めるべき一つの要素だ


( T)「なら、気が済むまでそう伝えろ。おじさんの毒にも薬にもならないアドバイスより、よっぽど効き目がある」

愛里寿「ほ、本当に、そうかなぁ……?」

( T)「当たり前だ……そうだな。じゃあ一つだけ、約束をしよう」

愛里寿「約束……?」


俺はみほさんの友達でもないし、愛里寿ちゃんほど深く想ってもいない。無意味な行為に終わるかもしれない
だが、やっぱり泣く子には勝てねえ。これが精一杯だが、多少の気休めにはなるだろう


( T)「もしも、みほさんがいよいよって所まで来ちまったのなら……出来る限り引き返すように薦めよう」

愛里寿「本当に……?」

( T)「余り過度な期待はしないで貰いたいがね……だが、『友達』に泣かれたまま引き下がれはしねえよ」

愛里寿「友達……」


ちょっと踏み込み過ぎたか。ヤバい元の世界に戻って真っ先に通報されたらどうしよう
72 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/27(火) 21:22:33.08 ID:8agroj4w0
愛里寿「ふふ……うん、ありがとう。じゃあ、約束しよ?」


その心配も、杞憂に終わったようだ。ちょっとタメあったからめっちゃ焦った
愛里寿ちゃんは小指を差し出す。触れれば折れてしまうほど細い指に、俺の小指を絡めた


愛里寿「ゆーびきーりげんまん嘘ついたら……」

愛里寿「17ポンド砲はーなつ」

(;T)「えっちょっと待ってペナルティクッソ重い」

愛里寿「指切った!」


そう言えば戦車道大学選抜チームの隊長だった。俺はこの子に殺されるのかもしれない


(;T)「変な汗かいてきたんだけど……」

愛里寿「おじさんが言い出しっぺなんだから、ちゃんと守らないと本当に撃つからね」

(;T)「褌締め直すよ……」


言葉通り、意識を改めなければいけない。狭いコミュニティでの生活で、俺は市井の生の声に触れる機会が無かった
活動方針は変える気は無い。俺たちはロクデナシの悪魔のまま、戦争行為を楽しむ。だが、長く続ける気など無い
せめて今の子供が『兵士』にならぬよう、一刻でも早くあのクソ共を根絶やしにしてやる
73 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/27(火) 21:23:20.04 ID:8agroj4w0
愛里寿「じゃあ、次はおじさんの番。私に何をして欲しいの?」


いつの間にか、会話の主導権は向こうへと渡っている。やっぱ女の子は強ぇわ
そして俺自身、先程までのバツの悪さは消えていた。今なら、すんなりと頼めるだろう


( T)「この世界を脱出する為に、君の力を貸して欲しい」

愛里寿「いいよ」

( T)そ「わぁ即答」

愛里寿「大方、予想は出来ていたから」

(;T)「あー……不安にさせたくは無いが、何が起こるか俺にもわかんねえ。相当怖い目に遭うかも知れないが、大丈夫か?」

愛里寿「そんなの、戦車道だって一緒だから」


砲弾ブチかまし合うスポーツの主将は、俺が思ってた以上に肝が据わってらっしゃる
それかもしくは、俺たちをチームとしての信頼し、勇気が湧いたか。どちらにせよ、いい傾向だ


( T)「もうじき夜だ。作戦開始は近いぞ」

愛里寿「うん。覚悟を決める」


愛里寿ちゃんは毛布を跳ね除け、勇み足でフロアへと向かう。その姿は紛れもなく小さくて立派な戦士だ
俺も、彼女の覚悟に見合うだけの働きをしなければな。働き盛りの底力って奴を見せる時だ
74 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/27(火) 21:25:09.42 ID:8agroj4w0
―――――
―――



( T)「作戦の最終確認を行う」


愛里寿「そうそう!!三十五話の大将軍ボコ、側面に敵将がいたのに気づいたんだけど結局倒されちゃって!!」

夕立「うんうん!!遂に勝っちゃうのかなって思っちゃったけど、結局負けて安心したっぽい!!」

(*゚ー゚)「あの話だけ別監督が撮っててどこかで似た展開あっただろって炎上して、結局円盤に収録されなかったんだよね!!」


( T)「この短時間で滅茶苦茶仲良くなってボコトークで盛り上がるウチら陽気なかしまし娘誰が言ったが知らないが女三人寄ったらかしましいとは愉快だねさん達、最終確認を行う。あとそれ劇辛だろ」

(,,゚Д゚)「古ぃし長ぇよ」

加賀「提督」

( T)「なんだ?」

加賀「愛里寿さん……その、凄く、可愛いので……どうにかして持ち帰れないかしら?」

( T)「俺は誘拐の一端を担いたくない。最終確認を行う」

(,,゚Д゚)「サッサと纏めろよ隊長殿。それでも艦隊提督様か?」

( T)「さっきからガタガタガタガタうるせえなお前が横やり入れるから始まんねえんだろうが皮はぎ取って三味線作るぞ」

(,,゚Д゚)「日本版ソーヤー家の一員かお前」


なんか一つ段落を越える毎にボケを挟まないといけない呪いか何かに掛かってるのだろうか?
緊張が解けてるのは良い事なんだが、それにしても緩み過ぎでは?ジャージのゆるゆるゴムか?紐締めなきゃずり落ちるやつか?
75 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/27(火) 21:27:30.28 ID:8agroj4w0
( T)「はいはい最終確認するぞ!!外も暗なってきたし時間もあんまり残ってねえんだからな!!」


\はーい!!/


(;T)「大丈夫?無理に明るく努めてない?不安になってきたんだけど」


土産屋に陣取って三時間近くが経過。鳴神が言った『短い夜』は近づいてきていた
見つけた手記と照らし合わせても、彼の話は一つを除いて辻褄が合っている。この夜の間に、魔女は『衣替え』を行うらしい


( T)「現在地の土産屋はメインゲート近くのここ。で、魔女のいる場所は四ブロック先の『夢見のお城』。この遊園地の最深部だ」


卓上に広げた地図……ガイドブックを指し示す
どっかで見た事あるような、なんかディズニーとか怒りそうな形状の城に黒丸が付けられている。ハハッ


( T)「手記によると、捕まった人物はこの城に運ばれ、魔女の新たな『依り代』にされる。そしてまた、この世界を維持していく」

( T)「選考基準は気まぐれで、ある時は子供、ある時は成人、ある時は老人が、時代を問わずに連れ込まれる。今回白羽の矢が立ったのは、島田愛里寿ちゃん」

愛里寿「……」

( T)「そのついでに『働きアリ』を増やすため、着ぐるみの中身として俺たちが選ばれた。つまり、全員が狙われる立場にある」

(,,゚Д゚)「だが、付け入るスキは十分にある、と」

( T)「その通り。依り代以外も必要だと言う事は、手持ちの『働きアリ』に限りがあるって事だ。無限湧きじゃない」

加賀「ただし、決して少ないとは言い切れない。ある程度の余裕があると考えるべき」

(*゚ー゚)「だからこそ、『数の優位』という油断はきっと生じる。そこさえ突けば……」

愛里寿「勝機は、ある……!!」

夕立「……えっと、えーっと、頑張るっぽい!!」

( T)「無理に発言せんでもええんやで……」
76 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/27(火) 21:28:24.19 ID:8agroj4w0
( T)「一番の狙いである愛里寿ちゃんを加賀が運び、俺、ギコ、しぃでマッスルトライアングルを形成する。夕立は遊撃だ。場合によってはスーパーつよつよ夕立ちゃんモードも使う」

(*;゚ー゚)「やだなぁそのフォーメーション名……」

(,,;゚Д゚)「ドン引きするほど頭の悪いモードだな……」

( T)「すーーーーーーーーーーーーーーぐ文句言うよなお前ら」


手記、地図に加え、土産屋では役に立つアイテムが勢ぞろいだった。L4Dのセーフティハウスかここは
先ず全員に『雨合羽』を着せた。これは飛び散る汁が服に付かないようにする為だ。折角のオシャレ着を台無しにはしたくない
夕立の物だけは、フードを被った際に視界が狭くなるよう細工を施してある。腐れ魔女様の度肝が抜ける姿が目に浮かぶな
それぞれの武器についてだが、夕立は包丁二振り、しぃと加賀は長めの鉄パイプの先端に包丁を括りつけた簡易槍
ギコはレストランで見つけた肉切り包丁。そしてこの俺は言わずもがな、世界最強の肉体と両拳。俺以外は心許ないが、なんとかなるだろう
そして、愛里寿ちゃんにも役割がある。最重要と言っても過言ではない仕事を任せたのだ


( T)「愛里寿ちゃんには指揮とナビを頼む。どこから敵が来る、程度の簡単なもので構わない。その都度対応する」

愛里寿「わかった。よろしくお願いする」


作戦タイムになると一変して大人モードか。きっと戦車道の試合の時もこのように凛然とした態度で挑んでいるのだろう
この余裕を維持し続けられるのなら、彼女の指示は俺たちにとって有益なものとなる。使わない手はない


( T)「確認できた敵は着ぐるみ、着ぐるみの革、デブ、祟り神の四種類。手記を読んでもこれ以上の存在は無い」

( T)「刃向かう奴は殺し、逃げる奴は追わない。俺らが『脅威』であることを知らしめながら根城へと向かう。魔女も減っていく配下任せには出来ず、自ら獲りに現れるだろう」


右手を掲げ、ギュウと握りしめる。概念を握りつぶす事に慣れ、数多の悪霊を握殺した俺だ
今回も例外なくぶち殺させて貰う。死が生ぬるいほどの苦痛を込めて


( T)「その時が、奴の最期だ」


ようやくエンジンが温まってきたようだ。存分に愉しませて貰おう
77 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/27(火) 21:29:15.24 ID:8agroj4w0
夕立「ヒッ……提督さん、外、多分……」


臆病故に気配に敏感な夕立が袖を引いた。賽は投げられたか
唯一の心残りは目を覚まさない鳴神だが、簡単には見つからない場所に隠すのが精いっぱいだった。連れていく余裕はない
『コック』の件もある。彼が変貌してしまえば、この作戦は内側から破綻する。残酷だが、リスクは回避しなければならない


( T)「各々方、配置に着け。先陣は俺が切る。夕立、最初は俺に着いてこい」

夕立「わ、わかったっぽい」

加賀「愛里寿さん、どうぞ」

愛里寿「はい……重くない?」

加賀「いえ、全く。これでも空母ですので。大船に乗ったつもりでいてください」


加賀は愛里寿ちゃんを背負う。閂をした扉から、ドン、ドンとぶつかる音が響いた
それで先手を打ったつもりなら、笑わせる。ザコが集まった所で所詮はザコだ。俺に『スイミー』は通じない


( T)「スゥー……」


さて、始めようか。獲るか獲られるかの『フラッグ戦』を





(#T)「続けェェェェエエエエエエエエエエエエエエエッッッ!!!!!!!!!」




78 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/27(火) 21:32:33.86 ID:8agroj4w0
短い助走を経て、トニー・ジャー直伝(魂に刷り込まれるほど映画観た)の飛び膝で扉をブチ破る
馬鹿正直に真正面でガンガンやってた着ぐるみ一体にその威力を十二分に味わわせ、その後ろに控えていた二体の頭を掴み、地面に叩き付ける
討ち漏らした二体が側面から襲い掛かってくるが、相手にする必要はない


(,,#゚Д゚)「らぁッ!!」

(*#゚ー゚)「はっ!!」


ヤンキー&変態の海軍カップルに任せておけばいい。湿っぽい音を立てて倒れ、着ぐるみは絶命した


加賀「夕立!!怯むと余計に怖いわよ!!」

夕立「わ、わかってるっぽいぃ!!」


出だしは上々。だが、目に入るあちこちの建造物から染み出るように着ぐるみが湧いて出てくるのが確認できる
やはり脚の勝負となる。一匹一匹丁寧丁寧丁寧にブチ殺したいのは山々だが、目標優先だ


愛里寿「ッ!!飛来物接近!!アーチの中へ!!」

(#T)「御意ィ!!!!!」


岳牙副官の一面を見せつつ、歩道アーチの中へ潜る。間も無くして、飛んできた『着ぐるみの革』が天井の骨組みと衝突した
顎下から股にかけて縦にバクリと裂け、不揃いな牙と太く短く生々しい舌が覗いている。暴走状態のグラトニーかよ
でも多分これ性癖拗らせた人に任せたらなんでもかんでもスケベにしてしまうんだろうな。世の中は変態が多いからな


(,,;゚Д゚)「走り抜けろ!!」


元より老朽化してたアーチは次々と投げ込まれる革の重量に耐え切れず、メキメキと折れていく。頼りのない傘だ


(*;゚ー゚)「この先の建物は!?」

愛里寿「フードコート!!」

(#T)「夕立、変身!!斥候、行けッ!!」


夕立はいつものお面の代わりに、手書きのボコが描かれたフードを目深に被った


夕立「ガガガガガゴゴガアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!!」


獣が如き咆哮と俊敏さで一足先を駆ける夕立の頭上から、骨組みの隙間から漏れ落ちた一体が襲い来るが


夕立「ガァッ!!!!!!!」


『邪魔だ』と言わんばかりに包丁を交差させると、きっちり四等分された革の残骸が弾け飛んだ
79 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/27(火) 21:34:36.41 ID:8agroj4w0
(#T)「五月(いつき)の分ねーから!!」

(,,;゚Д゚)「こんな時まで意味わかんねーことほざいてんじゃねえ!!」

(*;゚ー゚)「ギコくん五等分の花嫁読んでないの!?」

(,,;゚Д゚)そ「ハァ!?」

加賀「面白かったでs……アーチが限界!!急いで!!」


夕立は既にフードコートの扉を蹴破って突入している。その入口も、積み重なった革の重しで徐々に狭まっていた
横に抜ける手もあるが、射線から抜け出せるわけではない。遮蔽物なしでこの物量に襲われれば、正直俺以外は一溜りも無いだろう


愛里寿「崩れる……!!」


支柱が一際大きな悲鳴を上げてへし折れていく。このままだと、後続が全員飲み込まれる可能性すらある
ここは人身御供作戦に切り替えるしかない。瞬きの間に腹を括った


(#T)「先に行ってろ……オラァッ!!」


今まさに雪崩落ちそうになった入口のアーチを、へし折れた支柱に代わって俺が支える
その脇を、指示に忠実に従う『軍人』は振り返らずに通り抜けた


愛里寿「おじさん!!」


ただ一人、加賀の背中に乗る『普通の女の子』だけは振り返った


(#T)「よいしょっと!!!!!!!!!!」

愛里寿「投げた!?」


まぁ普通に抜けられるんですけど。筋肉は死亡フラグすら凌駕する
俺を薄焼き煎餅にしたけりゃ気分次第《アンカーテイク》で小惑星コーラでも落としてこい
80 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/27(火) 21:36:18.88 ID:8agroj4w0
夕立「ガァッ!!ガァァ!!」

(#T)「夕立、解除!!そのまま裏口抜けろ!!」


案の定待ち伏せしてたであろう『中身』ありの着ぐるみを死体蹴りしていた夕立を元に戻し、一息も吐かず裏手へと向かう


(*;゚ー゚)「射線は切れたっぽいけど、外に出たらまた放射を受けるんじゃない!?」

(#T)「わかっっっっっ!!!!!!!!!!!!っっっっってるよ!!!!!!!!!!!!!!!」

(*;゚ー゚)そ「ヒァァ珍しくイライラしてる」


あんだけバカスカ投げ込まれるのは想定外だ。建物から建物へと走り移っても良いが、一々遠回りしては待ち伏せを破るなど繰り返してられない
出来ることなら消耗を抑えつつ最短距離で目標まで到達したい。何か手はないか……


(,,゚Д゚)「止まれ!!」

(#T)「んだよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

(,,;゚Д゚)「うわマジだすげえキレてる。バカみてーな策だが一つ思いついた。乗るか?」


そう言ってギコが親指で差した先は、フードコートじゃお馴染みの『長机』
なるほど、マジで脊髄しか使ってないような安直な策だ。叢雲が聞いたら鼻で笑った後にボロックソに扱き下ろされる事だろう。だが


( T)「……悪くねえな」

夕立「ハッ、ハッ……だ、大丈夫っぽい?」

加賀「どうかしらね……対応次第かしら」

愛里寿「ほ、本気?」

(,,゚Д゚)「そりゃ、センチュリオンの装甲に比べりゃ頼りないだろうがね。異論があるなら乗り気になった『おじさん』へどうぞ」

愛里寿「……ムゥ」

( T)「お前そんな意地悪な言い方しか出来ねえから艦娘にも懐かれねえんだよ」


さて、ここでクエスチョン。長机を使った対処法とは何?
81 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/27(火) 21:37:45.32 ID:8agroj4w0
答え


(#T)「行くぞォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!」ダバダバドゥ!!!!!!!!!


長机を傘にして脇目も振らず走り抜ける、でした。坂東さん黒柳さんボッシュートになります


(*;゚ー゚)「ねぇギコくんこれ本当に有効だと思ったの!?」

(,,;゚Д゚)「先輩いるからイケるだろって思っちまった!!今は後悔してる!!スマン!!」

夕立「ギコくんはいつも余計なことばっか言うっぽいぃ!!」ビャアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!

(#T)「今更泣き言漏らしてもおせええええええええええええんだよぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」


前方の脚を俺が、後方の脚をギコ(アホ)が持ち、その中に女性陣を潜らせる
一見アホの考えたアホ丸出しの策だが、保険として使う分には存外悪くない。使い捨てが利くし


((゜)(エ)(゜))「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」


(#T)「うるせえ!!!!!加賀ァ!!!!!!!」

加賀「了解!!」


向かってくる着ぐるみは、内から槍で突いてサクッと駆除す……


(#T)「いやもう蹴った方が早いわ!!」ドゴォイ!!!!!!

((゜)(エ)(゜))「ぴいいがあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!?!???????????」

加賀「ちょっと」

愛里寿「傍若無人の化身……?」


なんかえらい言われようだった
82 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/27(火) 21:38:59.97 ID:8agroj4w0
(,,;゚Д゚)「城まで後どれくらいだ!?」

愛里寿「えっと……あれ!!」


ジェットコースターのレールの先、物見棟の屋根の先端が見える。ディズニーランドのそれとは違って随分とこじんまりとした城のようだ
目測で残り二ブロック足らず。順調にいけば到着まで二分も掛からないだろう。だが


加賀「来ました!!備えて!!」


再び開始される革の投擲。行き先を塞ぐように、前方に落とし込まれた


(;T)「レールの下……」

愛里寿「ダメ!!待ち伏せされてる!!」


視界の端で、『乗客』をごっそりと乗せたコースターが動き始める。中身がある分、頭上に落ちてきた時の破壊力は計り知れない
アーチの一件で学習したか。他の建物や屋根には待ち構えていると考えたほうが無難か


(#T)「回避行動ッ!!しっかりついてこい!!」


少しでも直撃を避けるため、蛇行走行で進む。せめて投擲場所さえ掴めれば対処のしようもあるんだが


(,,;゚Д゚)「先輩ッ!!直上!!」

(#T)「クソが!!」


机を斜めに傾け、頭上に落ちてきた革を『滑らせる』。盾のテクニックの応用だ
しかし逸らしたにも関わらず、机は大きく軋みを上げた。この手は何度も通じないか


愛里寿「……わかった!!」

(*;゚ー゚)「え!?何が!?」

愛里寿「敵の居場所!!量が多いから断続的に見えるけど、一定の周期が……ッ!!」


愛里寿ちゃんが息を飲む。その原因を作ったのは、『ペタペタ』と這い寄る足音


(,,;゚Д゚)「『祟り神』だッ!!」


這いずるの化け物のお出ましであった
83 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/27(火) 21:42:20.90 ID:8agroj4w0
(#T)「夕立ッ!!」

夕立「うううううう気が進まないっpガゴガアガガアッゴゴッゴガガガガガアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」


スピードは確かに向こうが上だし、気持ち悪さも格段だが、所詮ザコはザコだ。夕立の敵ではない
やはり早急に対処すべきは『革の雨』だ。ここは一つ、指揮官に勇気を振り絞って貰わねば


(#T)「ビビるな!!その他の障害は俺らが何とかする!!野郎はどこにいる!!」

愛里寿「っ……四時方向、バイキング!!振り子運動を利用して、あそこから投げ込んでる!!」

(#T)「バイキング……あれか!!」


船を模した大型ブランコ。大きく揺れ動くそのアトラクションの『船首像』に当たる位置に、ニヤケ面のデブが括りつけられている
地面と接近した際に掴んだのであろう、両手いっぱいの着ぐるみの革を、勢いに乗せて放り投げた


夕立「ガァァアアアアアアアアア!!!!!」


案の定祟り神を瞬殺した夕立は、飛来する革を次の目標に定めている
机の耐久度も一度くらいなら耐えきれるだろう。後は……


(#T)「加賀……っとぉ!!」

(*;゚ー゚)「ひゃあっ!?」


着弾、机の真ん中に大きく亀裂が入る。バイキングは次の『弾』の補給と投擲に備え、後方へと揺れた


(#T)「任せるぞ!!一撃で仕留めろ!!」

加賀「了解……!!」


愛里寿ちゃんを背に乗せたまま、加賀は『槍』を300終盤のレオニダスのように構える。円盤擦り切れるほど観た
目測で凡そ七、八十メートルといった所。狙う箇所は小さく、その上常に移動している
84 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/27(火) 21:45:18.59 ID:8agroj4w0
加賀「スゥーっ……」


だが、砲弾飛び交う中で弓を引き絞り、艦載機を正確に放てる集中力を持つ加賀だ


加賀「ハッ!!」


例え息をするのも悍ましい異界に置いても、『正射必中』に狂いはない
鏑矢のような音を鳴り響かせながら、艦娘のフィジカルで投げ込まれた槍は、きしょくて臭そうな男の胸を貫いた
投げ込まれる筈だった革は、手の中から零れ落ちて中途半端な位置へボタボタと落ちていく


(,,゚Д゚)「ヒュウ、お見事」

加賀「正鵠得る……他愛もないわ」

愛里寿「加賀さん、凄い……!!」

加賀「それほどでも……ある、わね……ある」ドヤカガ

(,,゚Д゚)「調子乗っ……」

(*;゚ー゚)「ギコくんシーッ!!」

( T)「夕立、解j……いやもうそのまま行くか!!やったるか!!」

夕立「ガゴっぽガ!!!!!!!」


やべえ一瞬素に戻りかけた。一番の脅威は取り除かれたが、数の多い着ぐるみはまだまだ残っている
現に、待ち伏せの必要が無くなった連中が続々と表へ出てきていた


(*;゚ー゚)「ここから本領発揮ってカンジかな……?」

( T)「そりゃ俺も同じだよ。ギコ、机寄越せ」


半壊した長机の縁を掴んで持ち上げる。此方もコソコソ動く必要が無くなった
悪行超人ですら裸足で逃げ出す残虐ファイトの出番が、ようやく訪れたのだ
85 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/27(火) 21:49:24.91 ID:8agroj4w0
(#T)「このまま一直線に突っ切って魔女の首をねじ切るぞッ!!こいつは……」

(#T)「挨拶替わりだァァァッ!!!!!」


机を着ぐるみの集団に向かい投げつけ、駆け出す


((゜)(エ)(゜))「あああいあいあいあああああああああああああああ!!!!!????」


(#T)「そのままよっこいしょぉ!!」

夕立「ガァァアアアアアアアアッ!!」


衝突し、よろめいた着ぐるみを机ごと蹴り飛ばす。机は亀裂から真っ二つにバキ折れ、木片を巻き上げた
夕立は俺の肩を踏み台に跳躍、着ぐるみの頭上を越え、背後を襲う


(,,;゚Д゚)「まるで台風だな!!さぁ急げ!!そろそろうんざりしてきた!!」

(*;゚ー゚)「そうだね!!マッさんの犠牲を無駄にしちゃいけない!!」

(#T)「聞こえてんだぞメシマズ女ァ!!まだ死んでねえよ!!」


((゜)(エ)(゜))「あああああああああああああああああああああああああああい!!!!!!!!!!!」


(#T)「うるせえクソザコクマ公がァ!!」


顔面へ向かってきた大振りのラリアットを躱し、ローキックで蹴り上げて転倒させる
蹴った脚をそのまま弧を描くように回し、背中を踏み潰す。まるで毛虫でも潰したかのように体液が飛び出した


(#T)「テメエらのボスに伝えろ!!お姫様が欲しけりゃまず俺を殺してみろってなぁ!!!!」


城までの距離は、一ブロックを切っていた
86 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/27(火) 21:50:49.39 ID:8agroj4w0
―――――
―――



(;T)「ハァー……ハァー……」

夕立「ハァッ!!ハァッ!!ゲホッ、オエッ!!」

(,,゚Д゚)「吐くなよ」

夕立「ゼェッ、んぐっ……ギコくんと、一緒にすんなっぽい……」

(,,゚Д゚)「さっきから言葉に棘があんな」

(*;⁼ー⁼)「ギコくんが悪い」

(,,゚Д゚)「えっ?」

加賀「一番頑張った夕立に対してその言い方は酷いわね」

愛里寿「最低……」

(;T)「お前ぜってー提督業出来ねえよ。だって顔は良くても中身はクソだもん」

(,,;゚Д゚)「おっ、おう……わ、悪かった……」


体液でベトベトになった合羽を脱ぎ捨てる。振り返ると、殺して殺して殺しつくした着ぐるみの死体が、道しるべのように点々と連なっている
最後の一匹が、涙が出るほど健気な抵抗として足首を掴もうとしたので、丁重に踏み潰してやった
ボコなら『次は頑張るぞ!!』と意気込む所だが、こいつらは汚ぇ汁を撒き散らすだけ。可愛げの欠片もねえ連中だ


(;T)「とにかく……ハァァ……着いたな……」


高くそびえる……なんて、大層なもんじゃない。チープで、小さくて、今の子供ならガッカリするような、名ばかりの城だ
入口の看板には、ポップなフォントで『夢見のお城』とピンクのネオンが光る。やらしい店か何かか
87 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/27(火) 21:52:24.80 ID:8agroj4w0
(,,゚Д゚)「如何わしい宿みてえだな……」

加賀「あら、ご贔屓にしていらっしゃるようね?」

(,,;゚Д゚)「失言だった」

(*;゚ー゚)「ギコくんもう喋んないで。私までダメージ受けるから」

夕立「提督s( T)「もうちょっと大きくなったら榛n……ダメだあいつにまともな教育が出来るとは思えねえ」あっエッチなのはわかったっぽい」


あいつは殺生院キアラか?


愛里寿「ここに、魔女が……」


加賀の背中から降りた物の、不安げに裾を掴む愛里寿ちゃんは恐れから身震いをする
加賀はてぇてぇの波動に中てられてニヤケ面を噛み殺しながら身震いをした。間違いを起こす前に早めに引き剥がすべきだろうか。そん時しばき回せばいいか


( T)「そうらしい……駒も粗方ぶっ殺したし、ボス戦突入だな」

(,,゚Д゚)「途中から無双ゲームになってたぞ」

( T)「得てしてそういうもん」

(,,゚Д゚)「なんでもハリウッド映画にする天才か?」

( T)「それほどでもある。開けるぞ。各自、構えろ」


加賀は愛里寿ちゃんを背に一歩下がり、他はそれぞれ強襲に備える。俺は拳を握りしめた


( T)「……」


ふと、一人の『友人』とのやり取りを思い出す。一つ再現してみるか


( T)「ノックは必要か?」

(,,゚Д゚)「どうでもいいからサッサと開けろよ」

( T)「……」


惜しい別れだった。あれほど気が合う奴と、『元の世界』でも出会えるだろうか


(#T)「オラァッ!!」


あの時と同じく、見かけだけが立派な扉を蹴破った
88 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/27(火) 21:52:51.25 ID:8agroj4w0




























89 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/27(火) 21:53:48.01 ID:8agroj4w0
(,,゚Д゚)「……モンペの鑑だな。やっぱアンタも変わったよ。すっかり親バカが似合うようになっちまった」

( T)「マジで?」

(,,゚Д゚)「そうじゃなかったらわざわざガキを遊園地に連れてくるかよ」

( T)「それもそうやな!!ガハハ!!ほぼ毎日心が折れそうな罵倒を頂戴してるが」

(,,゚Д゚)「蛙の子はなんとやらだな……心に響くご高説をどうも。そろそろ戻ろうぜ」


日本語不自由なんかしらんが諺の一つもまともに言えないギコは吸い終えたタバコを、今度はストンと灰皿に落として立ち上がった
俺も言いたい事は言い終えた。これからこいつがどんな選択をして、どう変わっていくかはわからないが
少なくとも、友人として、先輩としての忠告と警告はやり終えた。酷な言い方にはなるが、後はどう転がろうと『その道』を選んだこいつらの責任だ


( T)「折角の休暇に水を差す真似をして悪かったな。本当はお前がクソブサイクな首相と来た時に済まそうと思ってたんだが」

(,,゚Д゚)「全くだ。気分が悪ぃよ。コーヒー一杯じゃ割に合わねえくらいにはな」

( T)「飯くらい奢ったるやないけ!!!!!!!」

(,,゚Д゚)「車も買え」

( T)「そこまでにしとけよ俺だって怪我の治療費なんざ奢りたくねえんだよ」


いくら悔やんでも過去はやり直しがきかない。ならせめて、未来で過ちを繰り返さないよう願いたいもんだ


( T)「ドアを開けて〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!」ガラリァン

(,,゚Д゚)「警備員にとっ捕まるからその気持ち悪いテンション元に戻せ」
90 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/27(火) 21:54:41.24 ID:8agroj4w0
喫煙者ではあるが、ヤニ臭いタコ部屋から解放された瞬間ってのは清々しい
その上、遊園地だ。ガキの頃に心躍った場所は、大人になれば『懐かしさ』というテイストを加えて更に味わい深くなる


( T)「こんなとこ野郎二人で歩いてたら誤解されんな。サッサと合流するか」

(,,゚Д゚)「ああ」

( T)「そういや腹も減って来たし、俺らもなんか頼むか。遊園地って大体チュロスとか置いてあるし」

(,。Д゚)「そうだな」

( T)「しっかし売店ってどこにあるんだ?そんな遠かったっけか?」

(,。D゚)「ああ」

( T)「まぁ、コウノトリに渡し賃払ってスケープゴートしてもらえば二日も掛からねえか。波止場で踊って蜂蜜酒で乾杯だ」

(,。D゚9「そうだな」

( T)「インフィニティストーンの傍受でラッパがガラガラ鳴り響いて裸の心がまぁ裸って言っても心が丸出し状態なんだけど文字記号で形成されたキャラクター達のスターシステムによって形成された物語に登場した自動販売機のレンジ機能搭載スプリンクラーでネジを間引いて」

(,。D;9「ああ」


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( T)「@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@」


@@@「@@」
91 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/27(火) 21:55:14.49 ID:8agroj4w0








「おい、おい!!し、し、しっかりしろ!!」







.
92 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/27(火) 21:57:19.99 ID:8agroj4w0
(;T)そ「ーーーーーーーーーーーーーッ!!??」


先ず最初に感じたのは、地面の冷たさ。程なくしてやってきたのは、三半規管の狂いによる眩暈と吐き気
そして、何だ、今の……『悪夢』は?ああ、悪夢、悪夢だ!!支離滅裂で纏まりがなく、目を覚ましてほぅと安堵する、正真正銘の悪夢だ!!


(;T)「ハァーーーーーーッ!!ハァーーーーーーッ!!」

(;∵)「こ、こ、こっちだ、こっちを見ろ!!わ、わ、私を見ろ!!」

(;T)「だ、大丈夫だ……人より錯乱には慣れている……アンタ、どうして……」


頬を掴む両手の暖かみが、現実だと教えてくれる。俺もヤキが回った。出会って間もない見ず知らずのオッサンの体温に、こうも安心してしまうとは!!


(;∵)「あ、あ、後を着けた。お、お、驚いたよ。き、き、君たちの強さもそうだが、お、お、お嬢さんの慧眼にも」

(;T)「ッ!!あいつらは!?」


背筋が凍り付いた。俺以外の誰もがこの場に残っていない事に


(;∵)「ま、ま、まだ間に合う!!つ、つ、着いてこい!!」

(;T)「恩に着る!!」


足腰はまだ頼りなかったが、強く踏みしめて気合を入れ立ち上がる
口の中は鉄の味がした。気を失い、倒れた時に切ったのだろう。血が止まってないのを見るに、そう時間は経っていない
入口はすぐ背後。正面にはレールから脱線したコースターと、埃と蜘蛛の巣を被って無機質にほほ笑む『魔法使い』の蝋人形
『夢見のお城』はキャラクターと仕掛けを眺めて楽しむ低速ライドアトラクションらしい。ストーリーは王道のシンデレラ仕立てか
鳴神はランタンを引っ掴むと、乗り場からレールへと降りる。俺も急いで後に続いた


(;∵)「ひ、ひ、酷い悪夢を見ただろう。あ、あ、あれを三時間も見続けてしまえば、わ、わ、我々の仲間入りだ」

(;T)「ああ、最悪な気分だ!!テメーの内側がバグっていく感覚がしたよ!!鳴神さん、アンタ正気か!?」

(;∵)「も、も、勿論だ。わ、わ、私が語った話も、い、い、偽りの真実だと、は、は、ハッキリと言い切れる」

(;T)「その点に関しては手記が役に立ったよ!!だが悪夢の記述はなかったぞ!?」

(;∵)「ひ、ひ、比較的まともな方とは言え、わ、わ、私も魔女の管理下だ。き、き、切り札は、か、か、隠し通したかったのだろう」
93 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/27(火) 21:58:56.98 ID:8agroj4w0
レールの外では意地悪な継母と義姉が笑い、シンデレラが涙ながらに床を拭いている
物語の序盤だ。ハッピーエンドまではまだ遠い。逸れたあいつらとの距離を表しているようだ


(;T)「アンタはどうしてまともなんだ!?」

(;∵)「そ、そ、それはきっと、ま、ま、魔女のベースとなっている、む、む、娘の、さ、さ、最後の抵抗だろう。す、す、『スイーパー』の種も、う、う、植え付けられなかった」

(;T)「祟り神か……人間の体裁を保った奴を残すのは、『崇拝』による存在維持の為か?」

(;∵)「そ、そ、その通りだ。く、く、詳しいな」

(;T)「少し前に説明を受けてな」


貞子襲来の際にあきつ丸から『怪異とは人から恐れられることで力を得る代物』と聞いた
魔女は世界を維持し、奴を恐れ、崇拝する『拉致被害者』が魔女を維持する。何とも自分勝手なシステムだ


(;∵)「つ、つ、詰めが甘かったが、き、き、着ぐるみや『クラフトマン』の、た、た、大半を殺している。ま、ま、魔女も、お、お、追い詰められている」

(;T)「待てよ……今の魔女の依り代は……」

(;∵)「も……もう手遅れだ!!わかっているさ!!都合の良い妄想に逃げ込んでいたツケだ!!君たちの責任じゃない!!」


魔女は依り代を交換する。ここでの『依り代』は、バッテリーに相当する物だろう。尽きれば、ゴミだ


(;∵)「だから頼む……この連鎖を断ち切って欲しい……む、む、娘を、解放してやって欲しい……」

( T)「……」


言葉が尻つぼみになっていくと同時に、走る速度が落ちていく彼の肩を、後ろから支えた
受けた恩を蔑ろにはしない。それが彼の『救い』になるのなら


( T)「勿論だ、急ごう!!」


これ以上の恩返しはない
94 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/27(火) 22:01:06.91 ID:8agroj4w0
シンデレラは魔法使いと出会い、ドレスとガラスの靴を纏いガボチャの馬車に乗り込んだ
どこかのセンサーに引っかかったのか、スピーカーから大音量で割れた音楽が流れ、電球が切れかけたスポットライトがチカチカと光る


(;∵)「こ、こ、この先が、あ、あ、アトラクションの見せ場だ。ぶ、ぶ、舞踏会の、ひ、ひ、広間となる。ま、ま、魔女のお気に入りの場所だ」

( T)「……」


この先に、最終目標がいる。数多の魑魅魍魎をこの手でぶっ殺してきた俺だ。多少の妖気的なモノは感じ取れる
にも拘わらず、『特に何も感じない』。何が一番恐ろしいかって、捕らわれている筈のあいつらの気配すら読み取れない


(;∵)「こ、こ、ここから先は、み、み、未知だ……わ、わ、私がもしまた、と、と、取り乱したりした時は、よ、よ、容赦なく切り捨てろ……」

( T)「ああ、また暫く眠ってもらう。行こうか」


彼は『間に合う』と言った。その言葉を信じて、次の舞台へと足を踏み入れた


(;T)「っ……」


眼が眩むほどの強烈な照明が出迎え、色とりどりに着飾った男女が手を取り合ってクルクルと踊り始める
その輪の中で、あいつらが積み重なる状態で眠っている。中心には


愛里寿「」


(;T)「愛里寿ちゃん!!」


老婆のように干からびた顔面の少女に覆いかぶさられる愛里寿ちゃんの姿があった
今まさに、『口づけ』を交わそうとした『魔女』は、予期せぬ来訪者にどす黒い眼孔を向けた


「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!」


入れ替わりより、排除を優先したか。天幕が揺れるほどの甲高い雄叫びを上げて、此方へと向かってくる


(;∵)「よ、陽子……陽子ォ!!」

(;T)「鳴神さん、待て!!動くなァ!!」


威嚇する肉食獣のようなバケモノに、『父』は恐れを抱かない。耐え切れぬと言った様子で駆け出した
肩を掴んで止めようとした俺の手は、細腕からは考えられないほどの強さで払いのけられてしまう


(;∵)「『行け』」

(;T)そ「なっ……!?」


そして、これまで聞いた中で一番、ハッキリと確かな声で短い指示を下された
彼は正気だ。正気の上で、狂気を演じている。その意図は考えずとも理解できる

自らを犠牲に、俺達を救う道を選んだのだ
95 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/27(火) 22:03:21.27 ID:8agroj4w0


「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」


(:∵)そ「うぶっ……!!」


惨烈の形相で襲い掛かる魔女を、彼は包み込むように抱きしめた。枯れ枝のように細い指は肩に食い込み、そして沈んでいく
首筋を噛みつかれるが血は吹き出ず、一体化するかのように身体の中へと埋まっていった


(;T)「鳴神さん!!」

(;∵)「行け、行けぇ!!家族を救え!!」

(;T)「ッ……ああ!!」


嘘つきめ、何が『未知』だ。彼は最初っから魔女のやり口を知っていて、この方法を取る事を決めていた
自信満々に皆殺しにする気だった俺の立つ瀬がねえ。だが、このチャンスは最大限に活用せねばならない
舞台上へと上がり、延々と踊り続ける人形を押しのけ、連中の元へと辿り着く


(;T)「愛里寿ちゃ……」

愛里寿「……洗いボコ……洗濯機……ふへ……」

(;T)「寝言!?な、なんか大丈夫そう!!」


体温は平常。呼吸、脈共に乱れがない。妖気的なモノも一応感じない。眠っているだけのようだ
対し、他の奴らは明らかに顔色が悪く呼吸も荒い。依り代と崇拝者との扱いの差は歴然だった


(;T)「夕立、加賀!!頼むから目を覚ませ!!メシをゴミに作り変える女!!サッサと起きろ!!」

夕立「う……ヒィア!?」

加賀「ッ、ハァッ!!あ、ああ!!」

(*;゚q゚)そ「ペニュヌス!!トンビマグガイバー!?」

(;T)そ「うわぁ思いの外すぐ起きた!!!!!!!良かった!!!!!!!!」


若干一名バグりっぱなしのようだが、元からこんなもんだろう


:(,,; Д ):「ア……ア……」

(#T)「いつまで寝てんだチンカス野郎!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」ドゴォッ!!!!!!!!

(,,; Д )・'.。゜「ブフォァ!?」


手のかかる後輩だな全く
96 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/27(火) 22:06:20.41 ID:8agroj4w0
夕立「ごめんなさいごめんなさい!!殴らないで!!閉じ込めないで!!夕立、役に立つから!!」

(;T)「ただの夢だ!!夕立ちゃん強い子!!大丈夫!!」

:(,,; Д ):「て、てめえ……い、今、蹴り……」

( T)「優しく起こしただろ文句言うな」

加賀「不覚を、取りました……最っ低の夢を……」

(*;゚q゚)「アヒィーーーーン!!!!ブルブルティンティン!!!!!!!」

(#T)「マッスル指パッチン!!」バチコォン!!!!!!!!

(*;゚ー゚)そ「どわぁ!?な、何々なんなの!?」


錯乱したのは夕立一人で、残りは比較的早く立ち直っている
俺は自意識がぶっ壊される夢だったが、彼女の場合は過去のトラウマか
加賀も、あの黒い表情を見るに呉鎮守府にいた頃の出来事を思い返されたのだろう


( T)「加賀、夕立を。しぃは愛里寿ちゃんを見といてくれ。手ぇ出したら折るぞ」

(*;゚ー゚)「へ?あ、はい……え?私って子供に欲情する女って思われてます?」

加賀「どちらへ?それに、魔女はどうなりました?」

( T)「……そいつを、どうにかしに行くんだよ。誰も着いてくるな。そこで待ってろ」


鳴神の姿は見えないが、舞台の下から『ミチミチ』と音が聞こえている。立つことも儘ならなくなったのだ
この世界からの解放の手段は、『生きて帰る』だけじゃない。俺が為すべき事は、一つだけだ


( ∵)「……」

(;T)「……鳴神さん」

( ∵)「……やぁ、上手くいったかい?」


顔面こそ残っていたが、身体は既に見る影もなかった。ビニール袋にホルモンをギチギチに詰め込んだような風貌へと変化している
膨らみ過ぎた血管は穏やかに脈打ち、拳大の『できもの』から血とも膿とも取れない液体が、パチンと弾け飛んだ
だが彼の表情は、今までになく安らかで満たされている。それが『成り代わり』の作用なのか、彼自身の満足感なのかは知る由もないが
97 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/27(火) 22:08:16.07 ID:8agroj4w0
( T)「……貴方のお陰だ。本当に感謝している」

( ∵)「いや……ハハ、いやいや、此方こそ、お礼を言わせてくれ……君達の奮闘によって、私は娘と再会を果たせた……これ以上の幸せは無い……ありがとう、ありがとう……」

( T)「……」


これも、また一つの『救い』なのだろうか。彼と、彼の娘の物語はここで終わるのだ。口が滑っても『めでたし』とは言えない終幕だ
そして、その幕引きは、『善き人』に救われた俺が請け負う責務だ。元の世界に帰るカギも、彼と一体になっているのだから


( ∵)「……心苦しいよ。君たちに厄介ごとを押し付けてしまうのは」

( T)「気にしなさんな……殺しは俺の特技だからな」

( ∵)「そうか、そうか……いつか、君達の身の上話を、きかs、き、聞か」

( T)「……ああ、必ず」


膨張の影響が、頭にも及び始めたか。眼球は下から押し出されるように浮き上がり、歯茎から抜け落ちた歯が喉奥へと落ちていく
これ以上苦しい思いをさせられない。一撃で、感謝と敬意を込めて――――


「どけ」


(;T)「は……がっ!?」


右拳を振り上げたその時、側頭部に肘が叩きこまれる
大して効きはしなかったが、上げた拳はよろめく身体を支えようと反射的に床を着く。その隙に





(,,#゚Д゚)「フンッ!!」





『介錯』の役目は、後輩に奪われてしまった
98 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/27(火) 22:10:34.65 ID:8agroj4w0


「ぎゅぎっ」


振り落とされた肉切り包丁は、鳴神の顔面を両断する。顔の皮が本の閉じ目のように中央へと寄り、砕かれた前歯がレール上を跳ねる


「コ、ココココココココココ、ビ、ガビ、カ……」


喉からではなく、腹に当たる位置から奇妙な音が痙攣と共に鳴り響き、それが止んだ瞬間


「」


彼の身体は、先の方から灰に変わっていった


(#T)「お前っ……」

(,,⁻Д⁻)「待て、一服させろ。それに見ろ。どうやらゲームクリアだ」


灰に変わっていくのは死体だけじゃない。地面が、レールが、天井が、ボロボロと崩れ落ちていく
その先からは、照明など目じゃないほどの強烈な光が漏れだした。太陽に似た、暖かい光だった


( T)「……」


怒りを忘れ、見惚れてしまうほど、美しい光だった


(,,゚Д゚)「フゥー……我慢ならなかった。『善き人』に手を下さないと言ったアンタが、手遅れだとは言え、『恩人』を殺すのに」

( T)「……珍しく、情に動いたな」

(,,゚Д゚)「そうかもな……それに、こんな仕事は俺の方が慣れてる。適材適所さ」

( T)「一端の口を利きやがって……」


城の崩壊は光が強まる度に速度を増し、地面ですら無くなっていく
いよいよ眩さに耐え切れず、瞳を閉じた。意識は、眠りに誘われるように深く、深くへと――――
99 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/27(火) 22:11:53.32 ID:8agroj4w0






















100 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/27(火) 22:13:58.81 ID:8agroj4w0
―――――
―――



( T)「……」

(,,゚Д゚)「……戻って来たな」

( T)「ああ……」


次に目を開けた瞬間、俺たちは元の喫煙所へと戻っていた
念の為引き戸を開けて見たが、平穏な遊園地の風景は変わりない。携帯も確かめてみると、電波が通っていrうわ鬼LINE来てる


( T)「もしもし加賀?」

《良かった、通じたわね……無事?》

( T)「ああ、ギコもいる。そっちは?」

《全員一緒よ……それより、愛里寿さんは……》

( T)「確認する、少し待て。ギコ、バッグから俺の顔出してくれ」

(,,;゚Д゚)「あ、ああ……作り物だとわかってても引くくらい精巧だなこれ……」


喫煙所の隣は便所だ。愛里寿ちゃんはお手洗いに行った最中に巻き込まれたと言っていた


(´・_・`)「ギコ、座ってろ。出来る限り目立つな。加賀も、もし見かけたとしても絶対に……っ!!」


女子トイレの出口から、勢いよくモンブランの髪色の少女が飛び出していく
そして、その子を待っていたのであろう女の子が、困惑した様子で腕の中へと迎え入れた


(´・_・`)「ふぅー……無事だ。お友達に泣きついてるよ」

《そう……夕立、椎名さん。あの子も無事です》


スピーカーの向こう側から泣き声と安堵が聞こえてくる。これにて、一件落着……と言いたいが
101 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/27(火) 22:16:15.59 ID:8agroj4w0
《提督、愛里寿さんにご挨拶は?夕立や椎名さんは今すぐにでも会いたいと仰っているけれど》

(´・_・`)「悪夢は悪夢のままにしておいた方が良い。下手に関係を残せば、あの子は今日の事を一生引きずっていく。裏世界での出来事も、俺達との共闘も、全部夢と言う事にしちまおう」

《……了解しました。そのように伝えておきます。では、後程》

(´・_・`)「ああ、お疲れ……ハァーーーーー……」


通話を切断し、ベンチにドカリと腰かけてタバコに火を着ける。今回ばかりはかなり滅入った


(,,゚Д゚)「五時間はあの裏世界にいたと思うんだが、二分と経ってねえな」

(´・_・`)「言ってたろ……あの世界は時間の流れが乱雑ってよ……まぁ、こっちとしては休みを無駄にしなくて済んだんだがよ」

(,,゚Д゚)「そういうもんなのか……結局、あの世界は何だったんだろうな?」

(´・_・`)「さあな……魔女の怨念なのかもしれねえし、この地に曰くがあったのかもしれねえ」

(,,゚Д゚)「曖昧だな」

(´・_・`)「怪談ってのは得てしてそういうもんだよ。理解が出来ない、原因が分からないから、人はそれらに『恐怖』する」

(,,゚Д゚)「つまり……考えるだけ無駄ってか?」

(´・_・`)「その通り。強いて言うなら、酒でも飲んで忘れちまうのが一番だ。奴らにとっての最大の脅威は筋肉でも勇気でもない。『忘却』だ」

(,,゚Д゚)「そりゃ……クク、難しいな」

(´^_^`)「ハハ、全くだ……ギコ」

(,,゚Д゚)「なんだよ改まって気持ち悪ぃ」

(´^_^`)「気遣ってくれてありがとよ」


今日の出来事は、鳴神こだまという男の存在は、決して忘れられない重荷として残るだろう
だが、友がその一部を引き受けてくれた。激昂こそしたが、感謝に値する行為だ


(,,⁻Д⁻)「言っただろ、適材適所だ。礼は受け取るが……」

(,,゚Д゚)「いや、やっぱ気持ち悪ぃ。死んでくれ」

(´^_^`)「人が素直にありがとうしてんのになんだその態度はぶっ殺すぞ」


気は合わないが、俺は良い友人に恵まれているようだ
102 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/27(火) 22:18:06.87 ID:8agroj4w0
(,,゚Д゚)「行くか」

(´・_・`)「そうだな。腹減ったし」グルルルルオナカペッコペコォン!!!!!!!!!!!

(,,゚Д゚)「えっ何その腹の音」


膝を叩いて立ち上がり、喫煙所の扉を開ける。スピーカーからは、ボコのテーマソングが流れていた
現実のありがたみをしみじみと噛み締めながら売店へと向かう。チミチャンガとか食いたい


「おじさん!!猫山さん!!」


(,,;⁻Д⁻)「……」

(;´・_・`)「……行くかちゃうかったな」ボソリヌス

(,,;⁻Д⁻)「悪い……」ヒソリヌス


直前まで話してた会話の内容直ぐ忘れるあたり、頭が大分オッサン化してるかもしれない
背後から駆け寄って来た女の子の小さな手が、俺のジャケットの裾を引っ張っている
いやまぁ今日一日遊園地おったら多分確実にエンカウントしてしまうだろうから、遅かれ早かれだっただろうが


愛里寿「ねぇ、おじさんなんでしょ!?マスクはどうしたの!?」

「愛里寿ちゃん、ダメだよ!!」

愛里寿ちゃん「みほさん!!この人、この人が助けてくれたんだよ!!」


ああ、ハッキリと覚えているか。そりゃ、悪夢で終わらせるには濃厚な恐怖体験だったものな。ゲーム版呪怨かよ


(´・_・`)「あの、誰かと間違えてやしないかい?」

愛里寿「え……?」


だったら、こっちが忘れた振りをしてしまおう
103 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/27(火) 22:19:56.98 ID:8agroj4w0
愛里寿「お、覚えてないの……?」

(;´・_・`)「その、あー……お前なんかやったか?」

(,,゚Д゚)「覚えがないな。アンタこそ余計な真似しちまったんじゃないか?」

(´・_・`)「まさか」


初対面のように振舞い、確信を疑惑へと変えてしまおう。現実離れした体験は、それだけ誤魔化しが効く


「ごめんなさい!!すみません!!愛里寿ちゃん、行こう?」

愛里寿「や、約束したじゃない!!嘘ついたら、17ポンド砲放つって言ったよね!?」

「ひ、人に向けて撃っちゃダメだよ!?」


ボロボロと涙を流す彼女の姿に、胸が締め付けられる。『これが最善か?』とも、自問自答を始めてしまう


「どうされました?何か、問題でも?」

「いえ、なんでもありません!!こ、この方たちは何も悪くありませんので!!」

愛里寿「こんなお別れなんて嫌だ!!と、友達だって、言ってくれたのに!!」


愛里寿ちゃんを抑えつけながらも、西住さんとやらは駆け寄って来た警備員に断りを入れる
まぁ、このシチュエーションならデカい男二人が悪者だよな。周りの視線も痛くなってきたし、任せて去ろう


(,,゚Д゚)「……本当に良いのか?」

(´⁻_⁻`)「良いさ、良いに決まっている」


一歩、また一歩と彼女から離れていく。『これで良い』。そう言い聞かせて


愛里寿「おじさん、猫山さん!!」
104 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/27(火) 22:21:06.69 ID:8agroj4w0






愛里寿「助けてくれて、ありがとう!!」





105 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/27(火) 22:22:47.08 ID:8agroj4w0
(;´⁻_⁻`)「っ……」


ここに来て二度目のミスを犯してしまった。感極まって立ち止まるとは、俺もまだまだ青い
ギコは呆れたように鼻で笑い、『観念しろ』と言いたげに俺の背中を強く叩いた。痛ぇなクソが後で腰骨砕こう


(,,゚Д゚)「誰に対しても過保護なんだよアンタは。あの子が忘れたくねえってんなら、その想いを汲んでやるのも大切なんじゃねえか?」

(;´・_・`)「……ハァー、ったく、お前に道徳を説かれるとはな……」


彼女と交わした約束を反故にする気は当然無い。だが、俺達との関係を忘れた方がいいという判断も、結局はただのエゴか
それに、夕立と加賀にも新しい友人が出来た。その繋がりを断つのも酷だろう。言い訳がましいが、そういう事にしておくか


(;´・_・`)「やっぱ、泣く子にゃ勝てねえ」

(,,゚Д゚)「だったらサッサと詫びいれようぜ」

(´・_・`)「言われなくともそうするさ……」


自論だが、男が勝てない女の要素は大きく分けて三つある。一つは『母親』、二つは『涙』、そして三つめが


愛里寿「あ、あはは……おじさん!!」


満面の『笑顔』だ


(´^_^`)「ハハ……」


さて、頭を下げたら休暇を再開しよう。小さな友人とのひと時は、きっと格別に違いないだろうから―――――






おわり
106 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/27(火) 22:23:30.12 ID:8agroj4w0



















107 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/27(火) 22:24:05.62 ID:8agroj4w0




















深海棲艦による大洗女子学園襲撃及び、『学園艦棲姫』侵攻。【列島事変】発生から数時間後
時刻、一六三八。オスプレイ機内にて―――――
108 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/27(火) 22:27:08.96 ID:8agroj4w0
時雨「全く、いい加減“海軍”司令部は僕の扱いを考え直した方がいいと思うね!僕ほどの美少女なら空調の効いたリムジンにテレビとフルコース料理付きで送迎すべきさ!」


時雨ほどの優遇は望まないが、やはりオスプレイの乗り心地はお世辞にも良いとは言えない
悪態が吐けるならまだマシだ。夕立なんか別のもんまで吐きそうな顔色になってる。酔い止めを飲ませときゃ良かった


(,,#゚Д゚)「なるほど貴重な意見だ!俺からも上層部に掛け合ってやるよ!そしたら邪神も真っ青の性格してるクソガキのお守りなんて二度と任されなくて済むからな!!」


こいつらホント仲悪いな。いつもなら頭一発ドツいて黙らせるか、泣いちゃうくらいまで罵倒をしてやるかのどっちかなんだが、今日はどうもその気になれない
よりにもよって、『大洗』だ。叢雲の安否は勿論だが、あの場所にはつい最近出来た友人の『親友』がいる
面倒を避けるために、あの関係は夕立と加賀を含む三人だけの秘密にしていたが、こんなことになるなら叢雲に伝えときゃ良かったと今更後悔してしまう


時雨「死ね!!」

(,,#゚Д゚)「てめえが死ね!!」


この空飛ぶ鉄の棺桶に乗り込む直前、彼女から電話があった。泣き腫らして、枯れた声で、あの子は俺にこう言ったのだ


『みほさんを助けて。大洗の皆を助けて』


喧噪とプロペラの駆動音の中でも、悲痛な願いは確かに俺の耳と心に届いた


古鷹「………あのっ、t!」

《Stork-01より全搭乗員に通達、後20秒で着陸する!総員戦闘用意!繰り返す、総員戦闘用意!》

古鷹「あう………」


俺達は……まぁ鷹さんとか比較的良い子は除いて、ロクデナシの集団だ。戦場へ、遊び半分で乗り込むようなクズだ
だが、一度関わりを持ってしまった以上……『約束』を交わしてしまった以上、今回ばかりは『ガチ』にならなきゃいけない
109 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/27(火) 22:27:52.94 ID:8agroj4w0
(,,#゚Д゚)「よし、戦闘用意だ!!敵は手強いぞ、心してかかれ!!」


奴らは、忌々しい事に奴らは、あの子が最も恐れていた事態を、事もあろうに『大洗女子学園』で引き起こしやがった
クソが、クソが、クソが!!一報を貰った瞬間から、腸は煮えくり返っている!!叢雲の休暇を台無しにした事も含めてだ!!



《Shit, Stork-01 One hit!! One hit!!》

《Stork-01より管制機、敵高角砲弾頭が至近で起爆!右翼に甚大な損害、ローターが
脱落した!》

《姿勢制御……クソッ》



必ず成し遂げてやる。勝報を待っていろ愛里寿ちゃん
君との友情と、底なしの怒りに懸けて必ず



( T)「……」



奴らを、皆殺しにしてやる――――
110 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2019/08/27(火) 22:36:14.44 ID:8agroj4w0
終わりです。お疲れさまでした

この話書くにあたって手あたり次第に島田愛里寿ちゃんの資料を閲覧しました。映画も見たし愛里寿・ウォーも見たしらぶらぶ作戦も読んだし二次創作も漁りました
結果、島田愛里寿ちゃんがものすごく可愛いって事だけわかりました。このシリーズは艦これSSです。よろしくお願いします
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/27(火) 22:38:12.77 ID:GMlNlLId0
乙。力作でした。
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/27(火) 22:39:02.52 ID:evKTYSb20
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/28(水) 03:17:56.45 ID:sDu29+Ago
おつかーれ
まってた
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2024/02/06(火) 00:55:06.44 ID:rEeD9fE10
乙です 早起きを犠牲にしてまで読み切る価値がある一作
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