“らしくない私たち” に 祝福と喝采を

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33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/07/02(火) 00:31:05.74 ID:ndUIllUw0

「何って……もう!二人があんまり遅いから見に来たんじゃない!まったく、未来は世話がやけるんだから……」

「ごめんね、二人とも。すっかり待たせちゃったみたいで」

「い、いえ、大丈夫です!そんなに待ってな──」

「も〜ホントですよ〜?静香ちゃんなんて『せっかくのうどんが伸びちゃう〜』って、スッゴくうるさかったんですよ?」

「ちょっ!? ちょっと、翼!? 余計な事言わないで!」

「え、えへへ……」

「あ、未来まで笑って!もともと未来が遅かったから……」

「まぁまぁ、私がついつい話し込んじゃったせいなのよ。ね、未来?」

「ふぇ?は、はい……」

 合間に、空いたドアから聞こえてきた。ううん、二人だけじゃない、ざわざわって大勢の声が……みんな、待っててくれてるんだ。

「ふふ、でもちょうど良かった」

「さぁ、行って。あんまりみんなを待たせちゃ悪いわ。私は……もう少しだけここで考え事をしていくから」

「え、でも……」

「お願い、もう少しだけ夜風にあたっていたいの……大丈夫、本当にすぐ戻るから。ね?」

「大丈夫だよ、未来。千早さんもああ言ってるんだし、早く行こっ♪……あ、ホントにすぐ来てくださいね?約束ですよ?」

「えぇ、分かってる」

「千早さん!乾杯まで多分10分くらいは余裕があると思いますけど……10分ですからね、絶対それまでには下りて来てください!」

「もぅ、大丈夫だってば。静香は心配性ね」

静香ちゃんが、翼が、引っ張ってくれる。屋上を出て、階段を降りて、みんなが待っている場所へ。それを千早さんが小さく手を振って見送ってくれて──。

34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/07/02(火) 00:32:30.16 ID:ndUIllUw0

「…………うん」

でも、やっぱりそれじゃダメだよ。

「ごめん、二人とも!先行ってて!私、千早さん連れてくる!」

「え?──あ、ちょっと未来!?」

二人には悪いけど、繋いでる手を振り切って階段を駆け上がる。そうだよ、千早さんがいなきゃ意味ないよ。だって、それじゃ“みんな”じゃないんだもん!

 それに、まだ。
いつもの私に戻るその前に、どうしてもここで言わなきゃいけない事もあるんだから!

「──あの、千早さん!」

 屋上に戻った私は、大きな声で呼び掛ける。千早さんがびっくりした顔で振り向いたけど、今は後──この気持ちをどうしても伝えたいから。

「今日は本当にありがとうございました!」

千早さんと向き合って、まっすぐにこの気持ちを伝えたいから!
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/07/02(火) 00:34:09.63 ID:ndUIllUw0

「私、翼みたいに何でもすぐできるわけじゃないし、静香ちゃんみたいにすっごくアイドルになりたかったわけでもないですけど……でも、私だってアイドルが好きなんです!これから先も、みんなと一緒にアイドル続けたいんです!」

「私、これからもっともっと、も〜っとがんばりますから!千早さんが言ってくれた、みんなを笑顔にできるアイドルに、きっとなれるようにがんばりますから!だから──」

 私は、“765プロアイドルの春日未来”はもう大丈夫!って、千早さんに──みんなに!そのためにも今は!

「だから、一緒に行ってください!だって、みんなの中には千早さんだっているんですから! だから……千早さんも揃ってじゃないと意味がないんです! お願いします!」

そう強く宣言して、右手を差し出す。

──私の手を取ってください!

そんな思いを視線に込めて、まっすぐに千早さんの目を見るんだ。

 見つめあってたのは、多分ほんの少しの短い時間。んん〜……って私の目線を受け止めて、千早さんは──。

「ふ、ふふ……ふふふ」

笑った……あれ、笑った?なんで?
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/07/02(火) 00:36:13.09 ID:ndUIllUw0

「あ、あれぇ?私、また何か変なこと言っちゃいました……?」

予想してたのと全然違う反応が返ってきて、変な声が出そうになる。どういうこと?

「ううん、違うわ──嬉しかったの」

「へぇ?」

出ちゃった……うぅ、恥ずかしい……。

「そうよね、“みんな”ってことは、私自身も含めての“みんな”、なのよね。それってすごく当たり前のことなのに……ありがとう、未来。気付かせてくれて」

「い、いえ!そんな……」

「私ね、今日貴女と色々話せて、貴女を深く知ることができて、それがとっても嬉しかったの。でもね、同時にその……少し恥ずかしかったな、って思って。その、みっともない所も見せちゃったし」

「だから、火照った顔を冷まして行こうかしら……って思ったのよ」

「えぇっ?じゃあ、考え事っていうのは特に無くて──」

「えぇ、未来が思ってるようなものでは全然ないの。それに静香達もいたしね、正直に言うのもなんだか気恥ずかしくて……」

「な、な〜んだ〜!そうだったんだ〜……」

「言い方がちょっと紛らわしかったかも。ごめんね」

 本当に申し訳なさそうに、肩を小さくして謝る千早さん。その姿を見てると、年上だし先輩なんだけど、なんだかすっごく……かわいいな、って思っちゃった。
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/07/02(火) 00:37:56.86 ID:ndUIllUw0

「も〜ホントですよ〜……でも、それなら良かったです!だって私とおんなじですもん!えへへ〜♪」

「そう、ね、同じね……同じなのね、ふふふ♪」

「そうです!おんなじですよ〜、えへへ♪」

 私と千早さん、二人揃って笑いあう。ちゃんと、お互いの顔を見ながら。

「やっぱり未来ってすごいわね……すごく強い」

「えぇ、私がですか!?そ、そんなことないですよ〜」

「そうかしら?」

「そうですよ! だって……だって、周りのみんなの方がすごいんですもん。千早さん達はもちろんですけど、静香ちゃんも翼も、他のみんなだって……だから、みんなにおいてかれないように、ついてくのに必死なだけで、それだけなんですよ……きっと、みんなが思ってるほど強くないですよ、私なんて」

「ううん、そういう風に言えることがすごく強いことだと思う。私はそんなふうに感じたの」

「そう言ってもらえると、嬉しいです──でも、私って結構おっちょこちょいですから。千早さんにはお見通しだと思いますけど」

 ──でも、それはアイドルの私で。

38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/07/02(火) 00:38:35.71 ID:ndUIllUw0

「もしかしたらまた今日みたいに失敗しちゃって、へこんじゃう事もあるかもしれないです……」

ただの女の子、普通の女の子の私は、まだそんなに強くはないから。

「だから……その時は、また今日みたいにぎゅ〜ってしてもらっても、いいですか?」

時々でいい……ううん、実際にやってくれなくたっていい。ただ、そう言ってもらえたってだけで、きっと私はがんばれるから。

 そんな気持ちが溢れだしてたんだ。
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/07/02(火) 00:43:35.23 ID:ndUIllUw0

「えっと、ぎゅーってことは、その……さっきみたいに、ってことよね?」

「あ、えっと、その……はぃ……」

自分が何を言ったのか、気付いた時にはかーっと頬っぺたが熱くなっちゃって、小さな返事しかできなかった……うぅ、はずかしいよぉ……。

「そうね、私の返事は──」

ごくり。すっごくドキドキする。なんでかな、ステージの前よりもドキドキしちゃってるかも……。

「もちろんオーケーよ。私なんかで──ううん、そうじゃないわね。貴女一人じゃどうしようもなくなったら、いつでもいらっしゃい。私で良ければ、いつでも力になるから。いつでも頼ってね」

「はいっ!」

 そんな私のわがままも、千早さんは受け止めてくれた。よ、良かったぁ、ってホッと息を吐いた時だ。

40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/07/02(火) 00:45:32.02 ID:ndUIllUw0

──ぐぅぎゅるるる……。

「あぅ……」

大きな大きな、お腹の音。安心したら、急にお腹が減ってきちゃったけど……うぅ〜、なんでこんなことに……。

「ふふ、もう未来ったら♪」

「で、でへへ〜……」

と、そこへ──。

「未来、千早さん!二人ともまだなんですか?」
「もう〜、おしゃべりしてるんなら、はやく行きましょ〜よ〜!」

 焦れったそうな声と一緒に、二人が顔を覗かせる。静香ちゃん、翼も……まだ待っててくれたんだ……。
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/07/02(火) 00:46:37.08 ID:ndUIllUw0

「いっけない、早く行きましょう!静香ちゃん、怒るとスッゴくこわいんですよ」

「なっ!? もう、ちょっと未来、聞こえてるわよ!千早さんに変なこと言わないで!」

「は、は〜い、ごめんなさ〜い……」

「ふふ、どうやら未来の言う通りみたいね♪」

「えぇ!? そんな、千早さん……」

「アッハハ♪静香ちゃん変なかお〜♪」

「ん〜もうっ、翼まで!やめてってば!」

「さっきからもーもーって、静香ちゃんウシみたい♪」

「もう、からかわないで!」

「アハハ、もーもー♪」

「うぅ〜……こらっ、翼!待ちなさい!」

「あっはは♪」「ふふふ」

からかって逃げる翼も、私も千早さんも笑って。それに静香ちゃんだって最後には笑って……なんだ、やっぱりそうなんだ。一人じゃなきゃ、笑顔になるのってそんなに難しいことじゃないんだ。

 じゃれあう二人と、隣で一緒に笑う千早さんを見てると、そんな風に思うんだ──それに、それだけじゃダメって教えてもらえたしね。
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/07/02(火) 00:47:46.24 ID:ndUIllUw0

「──ねぇ、未来?」

「はい?なんですか?」

「……楽しみね、パーティー」

「はいっ、楽しみですね!えへへへ〜♪」

 だから、これから先、どんな事が待ってても私は大丈夫。だって、いっしょに歩く仲間と、頼りになる先輩達がついてるんだもん!えへへ♪

「さぁ、今度こそみんなの所に行かないとね。また静香に叱られちゃうわ」

「そうですね!行きましょう!」

私達は、どちらともなく手を伸ばし、しっかりと繋ぐ。理由なんてわかんない。ただ繋ぎたかったんだもん。私達なら──“765プロ”なら、それでいいんだって思ったんだから。

 並んで歩く私の足取りは軽く、スキップしそうなくらいに弾んでいたんだ。
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/07/02(火) 00:53:25.31 ID:ndUIllUw0

───────────────────side:如月 千早

「──あっ!」

手を繋ぐ彼女が不意に声を上げた。

「最後にあらためて──千早さん、今日は本当に、色々ありがとうございました!」

「突然どうしたの? お礼なら、さっきも聞いたわよ?」

「それは、そうなんですけどぉ……だって、言いたかったんですもん」

「今日はほら、色々悩みも聞いてもらっちゃいましたし、あと励ましてくれたのと、あとは〜……ともかく!色々教えてくれたんですから! それに、お礼は何回言ったっていい、ってうちのお父さんも言ってましたし!」

「もぅ、何それ……それに、お礼を言うべきなのは、むしろ私の方だわ」

「はれ? そうなんですか?」

「ふふ、そうなの♪」

「えぇ、なんでだろ。う〜ん──あっ!私、当ててみてもいいですか?ちょっと考えてみますね!」

「私は別に構わないけど……でも、いいの? さすがに、これ以上はみんなを待たせられないわよ?」

「あぁ、そっか!じゃあ、う〜んと、え〜と……」

不満気に口を尖らせたり、顎に手をあて考え込んでみたり──ころころと目まぐるしく変わる未来の表情。そのどれもが生き生きとしていて、見てるこっちの心まで浮き立ってくるみたい。

「あっ!じゃあじゃあ、今度のお休み、一緒にお出かけしませんか? 私、千早さんともっと色々お話したいんです!」

「そうね、プロデューサーとも相談してみないと確かなことは言えないけど……でも、大丈夫。きっと行きましょう」

「わぁーい、やったぁ!楽しみだなぁ〜、えへへ♪」

でも──。

44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/07/02(火) 00:54:29.55 ID:ndUIllUw0

「うん、やっぱり貴女には笑顔が一番似合ってる」

やっぱり貴女の笑顔が一番好き。
だって貴女が肯定してくれたから。貴女の笑顔が後押ししてくれるから、私は変わっていける。これからも関わり続けられる。
貴女がそう、思わせてくれたんだから。

「その笑顔があれば、きっと大丈夫。他の誰にも負けない、貴女だけの笑顔だもの。その笑顔があれば、きっといつかすごいアイドルになれるわ」

「えっへへ〜♪ そんな急に誉められたら照れちゃいますよ〜♪」

「そういえば、私からも一つ言わなくちゃいけないことがあったの。聞いてくれる?」

「はい? もちろんいいですよ!」

「──誕生日おめでとう、未来」

「はいっ、ありがとうございます!えへへ♪ 」

隣を歩く貴女の、満面の笑顔を見てると、自然と頬が綻んでくるのを感じる。未来のようにとはいかないけれど、私の足取りもきっと軽やかなものになっているんだろう。

──どうかこの笑顔と一緒に、これからも歩んでゆけますように。

 そんな願いを込めて、繋いだその手を強く握り返した。

おわり。
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/07/02(火) 00:58:42.05 ID:ndUIllUw0

はい、以上になります。長々とここまでお付き合いいただきまして、ありがとうございました。

今年の未来ちゃんの誕生日(6月28日)をお祝いするために書いたお話でした。
未来ちゃんも千早ちゃんも、生まれてきてくれてありがとう。大好きです。
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/07/02(火) 01:11:52.35 ID:ndUIllUw0

それと、ただいま「ミリマスSS交流会」という企画を行っていて、自分もそこにこのお話で参加しています。(詳しくはこちらで https://www65.atwiki.jp/millionss1st2019/)

様々な方のバラエティー豊かなSSがたくさんございますので、よろしければご一読してみてくださいませ。きっと面白いと思います。

ありがとうございました。
47 : ◆NdBxVzEDf6 [sage]:2019/07/02(火) 01:12:25.43 ID:julvIQ1qO
珍しい組み合わせだったけど、悩み方や解決の仕方に千早と未来らしさが感じれて良いね
乙です

>>2
春日未来(14) Vo/Pr
http://i.imgur.com/mQYVQUt.png
http://i.imgur.com/nKbq6wi.png

>>6
如月千早(16) Vo/Fa
http://i.imgur.com/pKTzdjr.png
http://i.imgur.com/UMI4tqA.jpg

>>32
伊吹翼(14) Vi/An
http://i.imgur.com/JUAw9ZX.jpg
http://i.imgur.com/pHtr5IL.jpg

最上静香(14) Vo/Fa
http://i.imgur.com/VHDs2b4.png
http://i.imgur.com/CfNZjkM.jpg
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/07/02(火) 01:14:44.10 ID:ndUIllUw0
では、完結報告を出してきます。

読んでくれた皆さまが、お楽しみいただけたのであれば幸いです。
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