梨子「未来のあなたが知ってるね」

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380 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:12:29.38 ID:jWyG/GcGO




千歌「・・・・・・」ニコ






梨子(目の前の少女の表情が、笑みに変わった)


梨子(その笑顔は、私が慣れ親しんだもの。いつもの、笑顔)



梨子(でも、私が……こんな荒唐無稽な考えを話した途端、明らかにその質が変わった)



梨子(笑顔であるのに、どこか自分の感情を窺わせない……そんな、笑み)


梨子(その眼差しからはまるでこちらの全てを見透かしているかのような印象さえ受ける)







梨子「・・・・・・っ!」ゾクッ






梨子(とてつもない、焦燥感……!)


梨子(……さっき何度か感じたものとは比べ物にならない……)



381 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:13:36.08 ID:jWyG/GcGO


「っ………」


「…………!」


「!………」





梨子(……皆も、私と同じように感じているみたいだった)


梨子(目の前の、よく知っているはずの存在が、今までまるで見たこともないような表情を浮かべ……)



梨子(感じたこともないような、得体の知れない雰囲気をまとっている姿を見て。動揺を隠せないようだった)




梨子(……ち、千歌ちゃん……!)




382 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:14:23.43 ID:jWyG/GcGO


千歌「・・・・・・それじゃあ私は人間じゃないって思われているんだ」



梨子「ご、ごめんなさい……こんな突拍子もない話をしちゃって」


千歌「それで?」


梨子「え?そ、それでって……」




千歌「・・・・・・それで、どうして梨子ちゃんはそう思ったの?」


梨子「……!」




梨子(どうして……)


383 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:15:13.12 ID:jWyG/GcGO

梨子「……どうして、否定しないの……」


梨子「どうして……。こんな、とんでもないことを言われてるのに、すぐに否定するんじゃなくて……」


梨子「私がそんなことを考えた、理由なんて聞いているの……」



千歌「・・・別に否定しないってわけじゃないよ。ただ、どうしてそう思ったのか、純粋に聞きたいだけ」



梨子「…………」



千歌「梨子ちゃんのことだから、何の根拠もなくそんなことを言うとは思えないし」


善子「そ、そんなのわからないじゃない!だって!……」




梨子「……だって、善子ちゃんに影響されてヘンなことを言ってるだけかもしれないのよ?」

384 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:15:55.95 ID:jWyG/GcGO

善子「……そ、そうよ。そういうことだって、あるかもしれないじゃない……」



千歌「・・・・・・」




梨子「……(善子、ちゃん……)」




千歌「・・・。梨子ちゃんは、そんな冗談は言わないよ。……そんな真剣な表情で、ね」


千歌「それは善子ちゃんだっておんなじ。……私の仲間に、冗談でそんなことを言う人はいない」



善子「……ち、千歌……」



梨子「……。私はその仲間のことを……あなたのことを、人間じゃないかもしれないって、疑っているのよ?」


千歌「そうだね」


梨子「だったら!どうしてそんな平気でいられるの!?」



梨子(それじゃ、まるで本当に……!)


385 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:17:30.84 ID:jWyG/GcGO



千歌「・・・・・・私は仲間のことを、<あなたたち>のことを、信じているから」



梨子「……っ!」



千歌「それにね、自分自身がどうしてもやりたいこと、やらなきゃいけないと思ったことを邪魔する権利は誰にもないと思うから」



梨子「…………」



千歌「……梨子ちゃんは言ったよね。信じぬきたいって」


千歌「そのために、どんな思い付きでもいいから追いかけたいって」



梨子「…………」




千歌「『今≠ェ、その時』……そうなんだよね。皆?」



ダイヤ「……」


善子「……」




千歌「・・・その結果、心躍る場所に辿り着くかどうかは、わからないけどね……」



果南「……」


ルビィ「……」


梨子「……そんな、こと……」




千歌「・・・・・・それじゃ、そろそろ聞かせてくれるかな。・・・私が、アンドロイドだと、どうして言えるのか」



千歌「その、理由をね・・・」

386 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:18:16.33 ID:jWyG/GcGO


梨子(千歌ちゃん……どういうつもりなの?)


梨子(千歌ちゃんが人間ならこんなことをする必要は、ない)


梨子(かと言って、アンドロイドでもこんなことをする必要はないはず)


梨子(さっきの言葉通り、おふざけでこんな話をしているという感じでもない)


梨子(……本当に、試しているというの?だとしたら、それこそ何のために?)





千歌「・・・・・・」ニコ






梨子(相変わらず千歌ちゃんの表情からは何も読み取ることは出来ない)


梨子(例え試されているんだとしても。私はもう選んでしまった。後戻りの許されない、追求する道を……)


梨子(……こうなったらもう、ただその道を進むしかない……っ!)



387 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:18:45.18 ID:jWyG/GcGO

曜「……問題は。千歌ちゃん≠ェ、どうしてアンドロイドだと考えられるか、だよね」


梨子「……その通りよ、曜ちゃん」



ダイヤ「アンドロイドがもし、実在するとして。それがパラメータを自由に変更できる存在を指すのだとしたら。……入れ替わり自体は、可能だと考えられます」


果南「……でも、じゃあ何で、千歌と入れ替わっていると言えるのか。……どうして、他の誰でもなく、千歌≠ェアンドロイドだと言えるのか」


果南「……根拠が、必要になるわけだね」

388 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:20:31.58 ID:jWyG/GcGO


梨子「……さっきも話した通り。[亡霊]の目撃されているところでは、必ず不思議な出来事が起こっていた」


梨子「そして。……そこには、ある共通点がありました」


ダイや「共通点……?」


梨子「はい。私達が不思議だと言っていること。それらは、現代の技術から考えた場合に不可能であることなんです」



鞠莉「……また、技術的に不可能なことを問題にするの……?」


善子「……不思議な現象が、なぜ不思議なのか。その理由は、あくまでも技術的な問題にあるってわけね」


梨子「うん。でも、起こっている現象それぞれは、必ずしも不可能なことじゃない」


曜「……そっか。例えば船の例なら、重機を使わなきゃ出来ないような、壊れ方って言ってたけど……」


曜「重機を使えば、可能なことが、なぜか重機なしで起こった。……っていうことでもあるんだね」


梨子「……その通りだよ、曜ちゃん。逆に考えれば……」


梨子「もし。……重機がなくても、船を壊せるような力があれば……出来ないことじゃない」



ダイヤ「……しかし。そういったものを用いるのなら少なくとも痕跡が残ります。だから現代の技術の水準からすると、考え難い……」


花丸「技術の進歩。それを前提にするなら、進歩さえすれば現代の技術で出来なかったことも出来るようになるかもしれないずらね」



梨子「……もし、何の道具も必要なく、船を壊せる力があるのだとしたら。人がいたこと以外に、痕跡を残すことなく、あの事件は起こせた」



ルビィ「……人間とソックリな、機械……。それも、重機の力を持った機械なら……不自然なことも出来るってことだよね……」



梨子「……」



389 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:21:18.45 ID:jWyG/GcGO


善子「……それで?それで、何だっていうの?」



梨子「……」



善子「そりゃあ、百歩譲って……技術の進歩があれば、今出来ないことも出来るようになるかもしれないっていうのはわかるわよ」


善子「でも、それが今の話とどう関わるっていうの?」


花丸「……。確かに、技術の進歩の問題と千歌ちゃんが入れ替わっているかどうかは、直接関係するものじゃないずら」


梨子「ええ、そこはそれほど問題じゃないわ。……問題は、千歌ちゃん≠フ方にある」



果南「ち、千歌≠フ方……?」



梨子「千歌≠ソゃんは……《不可能》なことを『可能』にしてきた」


鞠莉「……《不可能》を、『可能』に……?」

390 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:22:03.19 ID:jWyG/GcGO

梨子「……。[亡霊]の話をした、帰り道。私たちは、一つの奇跡≠見た……」



善子「……!!」



ルビィ「そ、それって……」


梨子「モチロン、覚えてますよね、ダイヤさん?……ダイヤさん自身が、何を言ったのか」

ダイヤ「……!は、はい。確かに、わたくしは言いました……」




ダイヤ『今の、動き……。まるで、達人のようでした』

梨子『た、達人?』

ダイヤ『ええ。善子さんを支えつつ、片足ながらも自身も体勢を崩さない、その絶妙なところで、ピタリと止まった……』

ダイヤ『非常に難しいバランスを、一瞬のうちですが千歌さんはとれていた。……一歩間違えれば、二人とも海に落ちていたでしょう』

ダイヤ『考えられないことですが、善子さんを助けた今の動き。千歌さんの体運びは、武術を極めた達人のごとく洗練されたものだったように見えましたね』

ダイヤ『それこそ、奇跡≠ネのでしょうけど、ね』フフッ





善子「……千歌≠ェ、私を助けてくれた時……」



梨子「……多少なりとも、武術の心得のあるダイヤさんが言った言葉。信じることが出来ると思う」


391 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:22:53.80 ID:jWyG/GcGO

ダイヤ「し、しかし。自分で言うのも変な話ですが、それだけなら勘違いのセンもあるのでは……?」


梨子「それはもちろんその通りです。だけど、千歌≠ソゃんはこれ以外にも、色んな奇跡≠起こしている」


梨子「体感天気予報もそう。ルビィちゃんの体調を、本人も気付かなかったのに言い当ててたのもそう」



曜「……!」

ルビィ「……!」


ダイヤ「たっ。……たしか、に」



千歌「・・・」



392 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:23:46.55 ID:jWyG/GcGO

梨子「……千歌ちゃんのいるところに、奇跡≠ヘ溢れていた」

梨子「ただ。それが全く《不可能》なことかというと、そうじゃない」

梨子「達人なら、出来た。感覚を研ぎ澄ませれば、注意深く見ていたなら、出来た」


梨子「……でも、そんなことが一人に、それも短い期間の内で、出来る?……起こる?」


花丸「……偶然で済ませるには……確かに、難しいかも……」


鞠莉「で、でも。それこそ、難しいだけで、あり得ないとまでは言えないわ」


鞠莉「それに……。[亡霊]のやったことは、Aqoursの誰も目撃していない」


ダイヤ「……ここで、[亡霊]を目撃したか、ですか?」


鞠莉「うん。正直なところを言えば、千歌が奇跡≠起こしたって話は、ちょっと信じちゃう。自分の目で見てるから……」

鞠莉「けど、[亡霊]に関しては違う。あくまで、ウワサや、痕跡だけが残っているだけよ」



梨子「……」


393 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:24:43.47 ID:jWyG/GcGO

ダイヤ「確かに。少なくともわたくし達は、[亡霊]そのものが何かを行っているのを見たわけではありません」


ダイヤ「それにそもそも、葉百さんという方と、[亡霊]が同一人物だということも、確証はないのです」


果南「……ペンダントの写真に写っている人。葉百さんが[亡霊]の正体だとすれば。入れ替わりなんてことも多少は疑えると思うけど」

果南「そもそもとして、葉百さんが[亡霊]であるというところを示してもらわないことには、判断できないってことだね」



梨子「……」



曜「……。どうなの、梨子ちゃん?今果南ちゃん達が言ったようなことって、証明できるの?」


梨子「……うん。実は、私……一度だけ、目撃しているの」


ダイヤ「……!も。目撃……ですって?」

果南「い、いったい何を……?」

394 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:26:03.41 ID:jWyG/GcGO

梨子「当然。……葉百さんが奇跡≠起こして見せた、瞬間をだよ!」


鞠莉「……!」


ダイヤ「……ま。間違いないのですか?奇跡≠目の当たりにした、というのは……」



梨子「……はい」




善子「……ちょ、ちょっと待って!」

善子「奇跡≠ニいうのなら……・それはどんな奇跡≠セったのかが問題になるでしょ!」


梨子「……どんな、奇跡=c…?」


善子「そ、そうよ!奇跡≠チて一口に言っても、それは人それぞれあるでしょ!」

善子「じゃんけんで一人勝ちするとかだって充分私には奇跡よ」


395 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:26:40.62 ID:jWyG/GcGO

ルビィ「……そんなこと言い出したらキリないんじゃ……」


ルビィ「それに、人によって違うものだったら、それって本当に奇跡≠チて呼べるのかな」


善子「ぐ。……」



花丸「……でも、善子ちゃんの言いたいこともわかるずら」


ルビィ「花丸ちゃん?」


花丸「梨子ちゃんが見た、奇跡=c…それを見たのって一度だけなの?」


梨子「……うん。そうだよ」


花丸「なるほど。で、それはどんな内容だったのかな」


梨子「……内容?」


花丸「うん」

396 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:27:31.13 ID:jWyG/GcGO

曜「……えっと。花丸ちゃんの質問の目的がよくわからないんだけど……」


ダイヤ「……善子さんの話は、奇跡≠見たのが一度だけだったのであれば、どんな奇跡≠セったかが、問題になる……。ということでしたが」

花丸「その通りずら」

ダイヤ「しかし、なぜそれが問題になるというのですか?」


花丸「……。信じるために、必要だから」


梨子「……信じるため?」


花丸「……おら達が、千歌ちゃん≠ェ奇跡≠行ったと思えるのは、何度もそれを見てきたから」

花丸「でも、《不可能》を『可能』にした瞬間が、もし一度だけしかなかったら……それは、たまたまだって思って、自分でも信じられなくなる」


花丸「……ダイヤさんも、それは言っていたよね」


曜「!」

ルビィ「!」

397 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:28:24.04 ID:jWyG/GcGO

ダイヤ「……確かに、先程言いました。『それだけなら勘違いのセンもあるのでは』、と……」


ダイヤ「ということは……梨子さんは、たった一度の奇跡≠ェ、単なる偶然ではなく、本当に奇跡だったということを……何度も”見た”ということ以外で証明しなければならないということになるのですか」


花丸「そういう……ことです」


果南「……だから、内容を聴いたってわけだね」

曜「……梨子ちゃんの言う奇跡≠ェ。単なる偶然じゃすまされないような、凄いことを引き起こしているんじゃなきゃ……疑いの余地が出るってこと、か」


梨子「私が見た、奇跡=c…」




鞠莉「……オーケー。じゃあ、聞くわね?」


鞠莉「梨子が、目撃した奇跡≠チて……どんなこと?」



398 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:29:08.94 ID:jWyG/GcGO



梨子(……。目撃。そう、私も皆も、言ってしまったけど……)


梨子(本当は、見たんじゃない。……単に、目で見たことじゃない)


梨子(私は、聴いたんだ。奇跡≠フ”音”を……)


梨子(そして。私が見たのは……その音を通じて、見えたもの。本当に、肝心なこと)


梨子(それを、皆にもわかってもらえるような……その[記録]は、既に持っている!)


梨子(なら、やることは決まっている……!)




梨子「……。それは。……」


399 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:30:25.86 ID:jWyG/GcGO


梨子「それは。ピアノの、音です」



曜「ピアノの、音……?」


梨子「うん。……私が初めて葉百さんに会った時。……皆にも、千歌ちゃんにも、会う前の時。 私は、不思議な女性に会った」


果南「……!?千歌に、会う前……?」



梨子「……、引っ越しでゴタゴタしている中、届いたばかりのピアノを。自分でも不思議なことに、その見知らぬ女の人に弾いてもらったの」


梨子「……。その女の人に会っていたからかな。私は、千歌ちゃんと初めて会った時……初めて会ったような感じがしなかった」


梨子「その女の人は。千歌ちゃんの生き別れの姉妹と言っても、おかしくないぐらい……千歌ちゃんに似ていたから」




ダイヤ「その人が……。葉百さん、というわけですか……」



ルビィ「……それで。……ハオさん、って人のピアノは……どんな音だったの?」



梨子「……。美しかったの。繊細で、精確で、人間が持つムラのような部分が一切ない」


梨子「そう。まるで、[機械]みたいに……精確だった」



果南「……き、[機械]……」


400 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:49:48.43 ID:jWyG/GcGO

善子「ちょっと待ちなさい!何をもって、[機械]だなんて言えるの!?」


梨子「……善子ちゃん」



善子「精確だったって……そりゃ、梨子のピアノの腕は知ってるから、梨子の言う[精確]がとんでもないレベルで精確だったんだろうなって思えるけど!」


善子「それでも!……たまたま、ピアノが凄い得意な人が演奏したから、そうなったってだけかもしれないじゃない!」



梨子「……善子ちゃんの言うことはもっともだと思う。……だからこそ」


梨子「私は。[証拠]を出します!」



善子「……!」



ダイヤ「しょ、[証拠]!?まさか、あったんですか!?[証拠]が……」


花丸「た、確かに。[証拠]があるんだったら、疑いようがない……!」


花丸「単なる梨子ちゃんの勘違いでも、偶然でもなく。本当に、奇跡≠起こしたと言えるずら……!」

401 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:50:31.41 ID:jWyG/GcGO

鞠莉「……梨子。だったら、何で今までそれを出さなかったの?」


梨子「……!」


鞠莉「私言ったでしょ?[証拠]がないからこそ、私たちの言葉だけが頼りになるって」

鞠莉「出さなかった理由を聞かないと、[証拠]を出すって言葉。信じられないわ」


梨子「……状況が変わったからだよ」


鞠莉「……状況?」



梨子「……<未来>から来たこと、入れ替わりを示す[証拠]はなかった。でも……」

梨子「皆の話が進むにつれて。言葉が語られることで。持っていた[記録]が、[証拠]としての意味を持つようになったの」



善子「……要するに奇跡≠示す[証拠]があったってことでしょ。……鞠莉、わかっててイジワルなこと言ったでしょ」


鞠莉「……まあね。ただ、半端なものを見せられても、私たちは納得しないってこと」


梨子「……大丈夫。きっと、鞠莉ちゃんも納得できると思う」
402 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:51:38.12 ID:jWyG/GcGO

鞠莉「……。そこまで言うのなら、見せてもらおうかしら」


鞠莉「梨子が見たという……奇跡≠捉えた[証拠]を!」



梨子「……わかった。これを、見て」


鞠莉「……。スマホ……?」


善子「……。見てって、画面に何も表示されてないじゃない!こんな状態を見ても……」



梨子「……。ゴメン、言い方が悪かったね。”見て”って言ったけど……本当は違うの」

梨子「……私が”見て”って言ったスマホ。ここから流れる曲を。《聴いて》ほしかったのよ」


曜「……曲?」

善子「”見る”じゃなくて……《聴く》……」


梨子「うん。……始まるよ」



梨子「皆、ちゃんと聴いてね。……この、曲を」


403 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:53:20.46 ID:jWyG/GcGO







善子「……」


ルビィ「……」


花丸「……」


曜「……」


果南「……」


鞠莉「……。ビューティフルね。……それで?」


ダイヤ「……。それで。何が、奇跡だったのですか?」


梨子「……。もう一曲、聴いて貰えればわかるはずです」


花丸「……一度だけじゃ、なかったずら?奇跡≠フピアノは……」


梨子「……。何も言わず、聴いてほしいんだ」


鞠莉「……オッケー。じゃあ、聴いてみましょっか?」


ダイヤ「……しょーがないですねー!では、もう一度、梨子さんのリクエストに応えてみましょう!」


梨子「……」




千歌「・・・」



404 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:54:24.57 ID:jWyG/GcGO





千歌「・・・・・・」


善子「……」


ルビィ「……」


花丸「……」


曜「……」


果南「……」


鞠莉「……。ビューティフルね。……それで?」


ダイヤ「……。それで。何が、奇跡だったのですか!」



梨子「……皆さん。この曲を聴いて、どう思いました?」

405 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:55:41.45 ID:jWyG/GcGO



果南「う、ううん……」


ルビィ「どうも何も……。一個前の曲と、全部同じだったよね」

ルビィ「ちょっと、音質は落ちてたけど……」


曜「あの……言いづらいんだけどさ。梨子ちゃん、同じ曲再生してたりしない?」

曜「間違えて、収録されたアルバムは違うけど、同じ曲を流したとか……」


花丸「うん……。おらも、そう思ったよ。[証拠]って、同じ曲を再生することじゃないと思うずら」


善子「……。真面目にやって欲しいんだけど」


果南「同じ曲を流すのは……多分、ミスなんじゃないかな」


梨子「……。モチロン、ミスじゃないよ。だって……」



梨子「今聞いてもらった二つの曲は、CD音源をそのまま流した後に、私が録音した曲の二つだったんだから」




ルビィ「……ぇ?」

鞠莉「録音……!?」


ダイヤ「そ、それでは……。音質の落ちていた、後に流した方は……」


406 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:56:37.05 ID:jWyG/GcGO



梨子「……。葉百さんが弾いたものです」





果南「な、な……!」


ダイヤ「なんてこと……!」



果南「梨子の言ってた、[機械]みたいに精確だったって……こういうことだったんだね」


曜「いくらピアノが得意だからと言って……CDの曲そのままを、コピーするなんて出来ないはず……」


ルビィ「でも、この録音は……それをやってる」


善子「私達が、音楽の素人だから。同じように聴こえてるってことはないの?」


ルビィ「それは、でも……」

407 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:57:25.11 ID:jWyG/GcGO


鞠莉「……。梨子が、言う以上。そんなこと、考えられない」



梨子「……!鞠莉ちゃん……!」



善子「……。それは、そう、だけど……」


花丸「それに……記憶じゃなくて、[記録]を梨子ちゃんは出した」

花丸「もし一度きりの記憶だったとしたら、おら達には真偽はわからないけど……」


花丸「[記録]は、検証できる。……何度でも、納得のいくまで……」


曜「……何度でも確認できるから。[証拠]って、言えるってことだね」


鞠莉「何なら、音を解析する技術自体は現代にもあるし……それで、本当に同じかどうかわかるわ」

鞠莉「梨子は、それも承知の上で……この[証拠]を出したのよね」



梨子「……はい」



408 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 08:58:17.34 ID:jWyG/GcGO

ダイヤ「……これで。千歌さん≠ニ、葉百さんに、共通点を認めることが出来てしまいました」


曜「じゃ、じゃあ。やっぱり、千歌ちゃん≠ヘ……」


鞠莉「……」





善子「……甘いわ」




梨子「……!」



花丸「善子ちゃん?……甘い、って、どういうこと?」


善子「言葉通りよ。……だから、何って話」



ダイヤ「善子さん……。気持ちはわかりますが」

ダイヤ「今、梨子さんは示したのですよ?常識では考えられない、『可能性』を……」



善子「……。何が、常識よ。常識を語るなら、もっと根本を話さなきゃいけないでしょ?」



ルビィ「根本……?」




善子「トーゼン。……そもそも、未来から過去へ遡ることが出来るのかよ」




梨子「!」


409 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:00:50.34 ID:jWyG/GcGO


善子「千歌と梨子も話してたけど。可能性は、あくまで可能性。……偶然と同じようなものよ」


善子「でも、不可能なことは。必然的に、不可能なの」


善子「そして……〈未来〉から[過去]に遡るのは、不可能なの!」



ダイヤ「しかし……それは!」


ダイヤ「それは、流石にわたくしたちの手には余る話です。だから、ここにある可能性と証拠でコトを考えてきたのでは?」



善子「……そうね。梨子が示すことは、確かに『可能性』を示すのには十分だったと思う」



善子「けど……《不可能性》を否定するには、不十分だった」



梨子「……!」



善子「少なくとも、私の考える《不可能性》を覆すことは……出来ていないと思う」


善子「……鞠莉も、そう思わない?」


410 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:02:09.32 ID:jWyG/GcGO

鞠莉「…………正直、混乱してはいるんだけど」



鞠莉「ここまでで明らかになった不自然さは、全てがちゃんと繋がっているとは思えない」


鞠莉「千歌も、[亡霊]も……。ペンダントも、普通では考えられないようなものではあると思う」


鞠莉「でも、それらが関連していると断言することは出来ないと思う。……だって」


鞠莉「だって、未来から来たってことが、それらを結び付けている根拠のはずなのに……未来から来たという、決定的な理由はまだ何も考えられていないから」



ダイヤ「……梨子さんの提示した、[証拠]でも不十分だというのですか?」


鞠莉「ええ。奇跡≠ヘ、どうしても偶然という性質を持つものだからね」


鞠莉「……梨子が、奇跡≠セと確信している以上。その奇跡≠ェ、たった一度のものだったと考えることは出来てしまうと思うの」


411 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:03:18.94 ID:jWyG/GcGO

ダイヤ「……どうなのですか、梨子さん?」



梨子「……。彼女は確かに、自分の演奏を機械のようだと言っていました」

梨子「でも……。たまたま、そういった特技を持っている人だったと、考えることは出来ると思います」


ダイヤ「その場合……。たまたま、そういう人に会っただけで、奇跡≠起こすという意味での共通点があるとは、断言できないとも考えられますね……」


梨子「……そう、だね……」



鞠莉「だとしたら、やっぱり……。否定は、出来る」


鞠莉「未来から来ることが不可能なら。本当に一度きりの奇跡≠、たまたま梨子が目撃しただけなんじゃないかって考えることが出来るの」



梨子「……」




ダイヤ「……。わかりました」


ダイヤ「では。……考えてみましょうか。〈未来〉から来るということが、可能なのか」



ダイヤ「わたくし達なりに。また、話してみましょう……!」


412 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:04:24.35 ID:jWyG/GcGO


果南「……」


曜「……」




鞠莉「……私から、話してもいい?」


ダイヤ「……口火を切った、善子さんがいいのなら」


善子「私に異論はないわ。……鞠莉の考え、話してほしいし」

鞠莉「ありがとう。……私も完璧には理解していない話になっちゃうんだけど」



鞠莉「……理論的に。未来から過去に来るのは、不可能だと言われているの」


曜「……理論的に?」


413 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:05:04.23 ID:jWyG/GcGO

鞠莉「そうよ。どれだけ科学技術が進歩しても、そこは覆せないの」


鞠莉「確かに、アンドロイドのようなものは作れるようになるかもしれない。でも、それが過去に戻ることは、出来ないの」



鞠莉「……技術の大前提。技術を生み出す基盤となっている、理論。それが、過去に戻ることは出来ないという理論である限り。技術は、そこで終わりなの」



ダイヤ「……わたくしも、聞いたことはあります。[過去]へ遡るタイムマシンは、作ることが出来ないだろう、と」

ダイヤ「逆に、未来へ行くタイムマシンは出来るかもしれないと」


果南「……どうして?」


ダイヤ「過去へ来る方は、手段がないとのことです」

ダイヤ「それに対して、未来へ行く方は、比較的簡単に実現できるそうです」


ダイヤ「……光の速度に近づけば。時間の流れは、遅くなるためだと。そう、聞き及んでいます」

414 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:06:16.32 ID:jWyG/GcGO

善子「……相対性理論、ってやつね」


鞠莉「そう。多くの人が、タイムマシンを語る時……どんなに技術が発展しても。未来へは行けるかもしれないけど、過去へは来れないって、話している」

鞠莉「だから、どんなに技術が進歩しても……過去に戻ることはできない、と言わざるを得ないの」


果南「……なるほど、ね」



梨子「……一つ疑問があるんだけど」


鞠莉「何、梨子?」



梨子「技術の話で思い出したんだけど。……千歌ちゃんの持っているペンダントの技術って、相当凄いと思うんだけど……」

梨子「これが、現代の技術レベルじゃ作れないものだったら、その時点で〈未来〉のものって証明になるんじゃないの……?」

415 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:07:03.08 ID:jWyG/GcGO

鞠莉「……。だから、私も最初に千歌に見せてって言ったの。ペンダントを、ね」


ダイヤ「……見た時点で問題があれば、鞠莉さんは何か言うはずですよね……?」



梨子「じゃ、じゃあ……」



鞠莉「ええ。……確かに驚いた。この前の交流会で見たものが、ここにあるなんてね」


鞠莉「……どうしてここにあるのかは問題だけど。そのペンダントの技術自体は、現代でも実現可能よ」



梨子「……!」



曜「……これだけ技術に詳しい鞠莉ちゃんが言うなら。……さっきの、理論の話も……ホント、なんだよね」

花丸「……技術を支えている、理論。それが、ダメだって言ってしまったら……技術は、そこでおしまいなんだよね……」


鞠莉「そういうこと、よ」

416 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:07:44.32 ID:jWyG/GcGO

ルビィ「……でも。それは、根拠になんかならないよ」


善子「……!」


鞠莉「え……?」




ルビィ「だって。『パラダイムシフト』が起きるかもしれないでしょ?」




曜「!?」

梨子「!?」

花丸「!?」



千歌「・・・・・・!」



ダイヤ「る。ルビィ……!?」


鞠莉「!!……な、な!」


果南「……ぱ。ぱらだいむ、しふと……?」

417 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:08:28.33 ID:jWyG/GcGO

ルビィ「そう。パラダイムっていうのは、科学の常識、科学の考え方全部」


ルビィ「普通に科学をする時、皆が考える、前提だったり、信じるものだったり、価値観のこと」


ルビィ「でも。……それは、変わる可能性がある」



ルビィ「……そうだよね、鞠莉ちゃん?」



鞠莉「……え、ええ。それは、……そう、ね」



ルビィ「だったら。その、考え方が変わること……つまり、『パラダイムシフト』が起きたら。……理論は変わって、技術も、もっと変わる」


ルビィ「そうだとしたら……。過去に戻る技術だって、ないなんて言い切れないでしょ……!」


鞠莉「……る。ルビィ……!」


418 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:09:07.20 ID:jWyG/GcGO

曜「ルビィちゃん。……凄い」


梨子「ルビィちゃん……!た、頼もしくなって……!」


梨子「流石よ!私の、妹にしたいくらい……!」

ルビィ「え、いいの?」

ダイヤ「ダメです!……ルビィはわたくしの妹なのです!!」


ダイヤ「そ。そんなことより。ど、どこで……どこで、そんな言葉を……!?」



ダイヤ「わ、わたくしの知っているルビィは。こんな、高度なことを考えられるような、娘ではなかったのに……!」


419 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:09:42.83 ID:jWyG/GcGO

果南「……は?」

花丸「……何気に、凄い酷い話ずら」


ルビィ「……え、えへへ。……実は、善子ちゃんから借りた小説で、私も勉強してたんだ」

ルビィ「アイドルの曲を聴いてたら、パラダイムって言葉があったから。何のことかなって思って、それで善子ちゃんと話してたら……」


ダイヤ「ル、ルビィ。……立派になって……!」



花丸「……姉妹コントは置いといて。確かに、ルビィちゃんの言ってる通りなら、鞠莉ちゃんの話は、絶対不可能なことを話していることにはならないずら」


果南「未来から来るってことが出来ないのは、理論的にダメだから。……そう言った、鞠莉の言葉が、崩されちゃうからだよね」


鞠莉「……っ」


420 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:10:20.64 ID:jWyG/GcGO


善子「……でも。まだ、私は認めていないわよ」



果南「……善子?」


ルビィ「善子、ちゃん……」


善子「……この本を読めば、解るかもしれないって。そう言って、渡したんだったのよね?」

ルビィ「う。うん……」

善子「だったら、わかるでしょ。私が、貸したんだから。……私が、そんな考え、納得しないってことぐらい」



善子「……私が、そんな反論も織り込み済みで、でも未来から過去になんてことが出来ないって、考えていたって」



ルビィ「……」



善子「……過去に戻ることは、単純に技術や科学理論だけの問題じゃないの。それ以上の《不可能》さがある」


花丸「……それって、一体……?」

421 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:11:12.12 ID:jWyG/GcGO

善子「簡単よ。……皆、タイムパラドックスって知ってるでしょ?」


果南「……流石に、それは私でも分かるよ」


曜「……未来の自分と、今や過去の自分。会っちゃうと、ダメなやつだよね」


善子「まあ、ザックリ言うとそんなトコロ。……で、これは技術の問題が消えても、更に根元で残る話なの」



ダイヤ「しかし……タイムパラドックスが、なぜ、未来から過去へ戻ることを否定するのですか?」

ダイヤ「創作の世界などでは、過去の自分に会わないようにすることで回避出来る例もありますが……」


善子「それは、あくまで創作だからよ。……ちゃんと、過去に戻るってどういうことか考えると、それは論理的にあり得ない話になるの」

422 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:12:11.53 ID:jWyG/GcGO

果南「……理論的とか、論理的とか……。なんか、頭が痛くなってきたよ」


花丸「善子ちゃんに、論理的なんて言葉が使えるずらか……?」

善子「何言ってんの。誰だって使えるわよ!」


曜「……果南ちゃんは使えてないみたいだけどね」


果南「……失礼な奴だなぁ」


千歌「2人とも・・・・・・。ケンカはしないでよね」




梨子「……それで?どうして、過去に戻ることが論理的に出来ないっていうの?」


423 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:12:46.26 ID:jWyG/GcGO

善子「問題は。……もし、私達に、過去に遡れる能力があったとしても意味を為さないということよ」


果南「過去に戻ること自体が、無意味ってこと……?」


ルビィ「意味がないっていうのは、どういうこと?」


善子「たとえ過去に戻れる力があったとしても。戻った事実そのものが、存在出来ないってことよ」



曜「……よく、わかんない」


善子「……順を追って説明していくわ」



424 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:13:57.43 ID:jWyG/GcGO

善子「ある過去の出来事Lがあったとする。この出来事は、何でもいいわ。昔、サンタさんを捕まえようとしてお母さんに叱られただとか、天使になろうとして高いところから飛び降りてケガしただとか、そんなことを当てはめてくれればいい」



ルビィ「……叱られたんだ」

梨子「……ケガしたんだ」


千歌「・・・・・・可愛い」



善子「うるさい!……コホン。ここで、自分が過去を変えることが出来る力を持っていたとしましょう」


善子「力というのは、出来事Lを出来事Oに変える力のことよ。例えば、サンタを捕まえようとせずにおとなしく寝て、次の日お母さんに怒られないようにするとか、そういうことをする力」


ダイヤ「……過去に戻る話ではなかったのですか?」


善子「過去に戻った時点で、過去は変わってるでしょう?そんな事実は、過去にはなかったはずなんだから」

ダイヤ「それは……まぁ、そうですわね……」



善子「重要なのは。過去に戻れるかどうか自体じゃなく、過去を変えられるかどうかなのよ」


鞠莉「過去に戻る……。その時点で、変化は起きているはず、よね」


花丸「過去に戻って、おっきい善子ちゃんがちっちゃい善子ちゃんにお母さんの言うことを聴くように言っても、変化はないかもしれないけどね」

善子「うっさいってば!……とにかく、どんな形であれ、過去を変えられる力があるとして、それが成立するか考えてみるのよ」



果南「この場合だと、LがOになったらどうなるかってことだよね」


鞠莉「どうなるって、言われても……う〜ん……」



千歌「・・・」


425 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:15:10.66 ID:jWyG/GcGO


曜「……どうも、ならないんじゃ……」


梨子「ど、どうもならないってことは、ないような……」



善子「いいえ。よくわかってるじゃない、曜?」


曜「え?」

梨子「え?」



善子「どうもならないっていうのは、どんな意味?」


曜「え、えっと……。サンタさんに怒られないように言われて、その通りにしたら……なんか、怒られるから注意したのに、その注意自体、大人になってからしようと思うかなって……」

426 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:17:43.29 ID:jWyG/GcGO


果南「あ……」


鞠莉「……なるほどね」



花丸「そっか。……善子ちゃんの例でいくと、もし、過去を変えようとして、実際に過去が変わったとしたら。そもそも、過去を変えようとする動機自体が、未来になくなっちゃうね」


善子「動機を例にするならそうなるわ。でも、これは動機に限った話じゃない。『原因と結果』が連鎖していると考えられる限り、あらゆることに当てはまるはずなの」


ルビィ「過去が変わった時点で、未来も一緒に変わっちゃうから……変える前の、変えようとした未来がそもそもあるのはおかしくなって、なくなる……ってこと?」



善子「……察しが良くて助かるわ。これって、一般化するとこういうことにならない?」


427 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:22:47.04 ID:jWyG/GcGO


『ある世界Vに因果関係が成立しており、過去を変化させられる能力Eがあったとする』


『ここで、過去のある出来事Lを変更できる能力Eを行使し、Oという出来事に変更したとする』


『すると、Lという出来事はそもそも生じておらず、世界VにはOという出来事が生じたという事実のみが残る』


『なぜなら、因果関係により、Oが成立した時点で世界はOに基づいた時間軸に再構成されるので(Oという出来事に基づいてまた別の出来事が生じていくので)、LからOに変わったという事実を証明することが出来ないからだ』


『つまりLからOという変更があったという事実は世界Vには全く存在しないことになる』


『したがって、Eが存在するかどうかは誰にも証明できない。言い換えれば、Eがあると考えることは無意味な想定である』


『無論、因果関係を前提とするならば、OはLによって引き起こされたと考えねばならないが、Lを行使したという証拠はOが成立した以降の時間、世界には存在しない。つまり、矛盾してしまう』


『よって、因果関係が成立するいかなる世界でも、過去の変更はあり得ない。そして、因果関係の成立していない世界は考えることが出来ない』


『すなわち、[過去]を変更するということは、成立しない』

428 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:23:40.23 ID:jWyG/GcGO

花丸「……LがなきゃOが成立しないのに、Oが成立したら、Lが消える……」


鞠莉「論理的にあり得ない。……そう言った意味はコレだったのね」


果南「で、でも。物語なんかだと、ちゃんと過去を変えた人は帰る前の記憶を持ってたりするよね?」



善子「……そこが、創作の所以なのよ、果南」


果南「……!」



善子「もし、本当にそんなことが出来るとしたら。……それは、過去を変える能力とは別に、過去を変えたことを知覚できる能力があるということになるの」




梨子「……過去を変えたことを、知ることの出来る力……!」


429 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/07/06(土) 09:24:31.25 ID:jWyG/GcGO

善子「変わったかどうか。それは、比較によってしかわからないものよ」


ルビィ「でも、時間の流れがこの世界に一つしかないとすれば。……記憶もそれに従って、変わるはず」


鞠莉「……だから、もし過去が変わったとしても、その時点で時間の流れも変わって、それに沿って記憶は構成される」


善子「そうよ。もし、記憶同士を比較しようとするなら。……世界に時間の流れが一つしかないということを、否定できないといけない」



ダイヤ「人や、場所。物や動きの速度によって、時間が変わるとは考えられないのでしょうか……?」


善子「ここで言ってるのは、歴史や因果関係としての時間のことよ。ある出来事が、何か別の出来事を引き起こすと考える場合には、個々の時間の流れ方は問題にならない」



善子「……時間の流れっていうのが上手くなかったわね。さっき言った通り、因果関係や時間軸、って考えてもらった方がその辺りのこともわかるかもね」


ダイヤ「時間軸……ですか」


430 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:25:24.60 ID:jWyG/GcGO


果南「……あのさ。話を蒸し返して悪いんだけど、やっぱ納得いかないことがあるんだけど」


曜「……果南ちゃんと同じで。私も、実はあったんだけど」



善子「何、果南、曜?」



果南「過去を変えたら全部変わっちゃうんだから、そもそも[変わった]って事実はあり得なくなるってのはわかったよ」


曜「でも……何というか、じゃあ何で私らってもしあの時ああだったら〜とか、過去を変えたら〜って考えられるのかな?」



鞠莉「……考えられるかどうかが疑問なの?」


果南「だってさ、カンペキに不可能なものだったら、考えることすら出来ないと思うんだよ。でも、私らって普通に過去が変わったらとか、未来を変えたいとか、そんなことを考えられるじゃん?それって何で?って思って」



ダイヤ「……本当に不可能なものは。そもそも、想定すら出来ないのではないか……そういうことですわね」


曜「でも、実際に私たちは考えることが出来ている……。だったら、善子ちゃんの言う不可能って、絶対じゃないかもしれないってことだよね?」


花丸「すこし違うかもしれないけど、知のパラドックスっていう議論も似たことを問題にしてた覚えがあるずら」


431 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:26:11.22 ID:jWyG/GcGO

善子「……なるほどね」


果南「善子。どう、考えてるの?」


善子「……私の考えを言う前に。先に、褒めとくわ、曜、果南」



善子「……やるじゃない。いい批判よ」


果南「……え?」


曜「え、え……?」



ルビィ「善子ちゃん?褒めとくって……?」


善子「今の質問によって。私の考えが、より正確に説明できるからよ」


善子「そのお陰で、もっと詳しく、疑問の余地を潰すことが出来るでしょ?」


善子「疑問の余地があるせいでこんな状況になってるんだから、いい質問は褒めて当然じゃない」



梨子「……(懐が、広い……!)」


ルビィ「でも何故か上から目線なんだね」

432 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:27:08.46 ID:jWyG/GcGO

善子「……。私の話してきた考え。これには、前提があった」


善子「時間軸が世界に一つだけしかないとすれば。時間軸は、因果と同様に、連なった一つのもので、それに記憶も沿うとすれば」


善子「そういった前提を基に、話を進めたら、過去には戻れないってことになったわけだけど……」


善子「じゃあ、過去に戻ることが成立するためにはどうすればいいのか。……この前提を基に考えることも出来る」


善子「世界に時間軸が一つしかないとしたら。……過去に戻るということは、意味を為さない……」



善子「じゃあ。……たくさんの時間軸が世界にあるとしたら……」



善子「……もしくは。世界そのものが複数あると考えたら?」




果南「……!」


善子「結局のところ、過去に戻るということ自体は出来ないとしても、過去にそっくりな別の世界に行くと考えれば、過去に戻ったように思うことはできるわね」



曜「べ、別の世界……」

433 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:27:52.57 ID:jWyG/GcGO



千歌「・・・・・・」




善子「もし過去を変えたとして、それを証明する証拠なんて、あるはずがない。[記録]も記憶≠焉A全部変わった後の物に置き換わってしまうから」



ルビィ「……宇宙5分前創造仮説っていうの、善子ちゃんに借りた本にも出てきたよね」


ダイヤ「それはわたくしも聞いたことがあります。確か、平和の賞も受賞した、哲学者の説でしたか」

果南「どんな内容なの?」


ダイヤ「宇宙がもし5分前に生まれたとしても、誰にもそれを証明することは出来ないということでしたが……」


ルビィ「記憶≠濕記録]も、全部辻褄が合うように作られるんだったら。私たちが生まれてずっとやってきたことも、本当は全部錯覚で、本当に私たちが何かをやり遂げたって考えられるものはどこにもないんだって……」



果南「……だから、宇宙がもし5分前に生まれたとしても、誰にもそれを証明することは出来ないってことか……」



善子「そうね。……で、その根拠こそが、時間軸が世界に一つしかないことにあるのだとすれば、複数の世界さえ成立していれば、時間の変更は知覚できる」


434 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:28:35.22 ID:jWyG/GcGO

鞠莉「……別の世界同士で、どこがどう違ったのか、比較ができるからね」


善子「そうよ。……そう考えれば、何で過去に戻ることを想定できてしまうのか、説明が出来る」



善子「……私達には、別の世界を。……可能世界と言ってもいい。とにかく、現実とは違う世界を想定する力がある」



果南「だから……現実には不可能なことも、考えられるって、ことなんだね……」


善子「そういうこと。タイムトラベルが想定できるのは、あくまで別の世界との比較が出来るようになるからってだけ」


善子「現実には、本当の意味で過去に戻るってことは、意味のない考えなのよ」



梨子「じゃあ、よく見るタイムマシンで過去に戻るってことは、実は……」



梨子「世界を、移動していることになるの……?」




千歌「・・・・・・」

435 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:29:10.23 ID:jWyG/GcGO

善子「そうなるわね。だとすると、本当はタイムマシンって呼び方は正しくないって考えなきゃいけないわね」



善子「……さしずめ、ワールドマシンってところかしら?」



曜「世界を移動する、機械……」


花丸「世界……途方もない話ずら……」



梨子「……じゃあ、もし、世界に時間軸が複数あるのだとしたら?」


善子「現実においては、時間軸は一つしか存在しないとしか考えられないんだから、結局世界の中に複数世界が存在できる仕方で成り立っていると考えないといけないわね」


善子「そうね……たとえば、細部は違っても結局は一つの時間の流れでしかない、って考えが成り立つかもしれない」



梨子「……まるで。あの作品の、『世界線』、ね……」


善子「……よくわかるようになったじゃない」


梨子「私も……善子ちゃんに借りたからね」

436 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:29:57.08 ID:jWyG/GcGO
ダイヤ「そこまでです」


ダイヤ「……。善子さんによって。少なくとも、〈未来〉から[過去]に遡ることは……かなり難しいと考えざるを得ないことがわかりました」


梨子「……っ」


善子「……難しい止まり、ね」



ダイヤ「《不可能》ではなく、難しいと言っているのは……最後の果南さんの質問で、一つの『可能性』が示唆されたからです」


ダイヤ「……すなわち、別の世界への移動であるなら、完全に《不可能》とは言い切れないということです」

善子「……。まあ、それに関しては異論はないわ」


鞠莉「でも、時間の移動ならともかく、別世界の移動に関する技術的な理論の話は……オカルトな話以外で、ほとんど耳にしたことはない」



花丸「……困難さは、より増したのかな……」

花丸「別の世界から来れたとしても、なんでそこまでして……っていう動機の部分もわからないし……」

437 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:31:13.81 ID:jWyG/GcGO


鞠莉「……どうするの、梨子?」


梨子「……どうする、って?」



鞠莉「少なくとも、アンドロイドなんていう、技術の延長線上にあるかもしれない存在が世界を移動したというよりは、まだ[亡霊]のようなオカルトな存在が世界を移動したと考える方が『可能性』はありそうよ?」



梨子「………!」



鞠莉「そうすれば、諸々の不自然さは、ある意味クリア出来る。……まだ話題になっていない、動機の問題も解決できるかも知れない」


ダイヤ「……」



花丸「鞠莉ちゃんの話って、入れ替わろうとして入れ替わったんじゃなくて、何か想像もつかない事態が起きて、入れ替わってしまったと言えるってこと?」


鞠莉「そういうこと。これだったら、一気にカタがつくでしょ?」

438 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:32:13.60 ID:jWyG/GcGO


曜「でも、梨子ちゃんは[亡霊]……ハオさんと、千歌ちゃん≠ェ入れ替わってるって言ってるんだよね……」


果南「梨子の考えだと、いつの間にか入れ替わってたは、通用しない……そういうことになるのかな」



梨子「……うぅ」



善子「それか……全ての不思議なことが、本当に偶然起こっただけだと考えるか」


梨子「全てが……偶然……?」



善子「もちろん、疑問の余地は沢山ある。でもその答えを出そうとして考えられたものにも、疑問を挟むことが出来る」


善子「そして、少なくとも千歌の入れ替わりだなんてことだけは、不自然なことの集まりだけで認められることじゃない」




善子「……さっきも言ったと思うけど。疑問の余地がある限り。その結論は認められないの」




梨子「くうっ……!」




439 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:33:05.65 ID:jWyG/GcGO

ダイヤ「……梨子さんの考えが正しいとすれば、未来からアンドロイドが来ることによって、入れ替わりは成立するとのことでしたね」


梨子「……う、うん」


ダイヤ「入れ替わりの部分は、[証拠]もあったために梨子さんの考えを我々も持てますが……今しがた善子さんが示したように、その前提であるような過去に遡る部分に関しては、疑いを持たねばなりません」


善子「……トーゼン、ね」



ダイヤ「しかし……。これで引き下がれない。そんな、気もしている……」


善子「…………」


ダイヤ「あと一歩。カンペキに、判断を下せる何かがあれば、良いのですが……」


果南「困ったね……」


ルビィ「……じゃあ、私たち、どうすればいいの?」



ルビィ「もう判断が出来ないんだったら……結局、千歌ちゃん≠ヨの疑いだけが残って、終わっちゃうんじゃないの……?」



曜「………っ」


花丸「それは……そうだけど……!」


鞠莉「…………」


善子「…………ぅ」


果南「く…………」


梨子「……」

440 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:33:54.20 ID:jWyG/GcGO



梨子(皆、このまま終わることを、よしとしていない……)


梨子(こんな気持ちを引きずったまま、明日もスクールアイドルで、仲間で……Aqoursでいることは出来ない。そう思ってるからなんだろうか)


梨子(でも、どうずれば……)


梨子(どうすれば、この壁を壊せるというの……!?)


梨子(……なら。やっぱり、今日のところは、ここで終わるしか……)





千歌「ちょっと待って」





梨子(……!ちか、ちゃん……!?)






千歌「・・・・・・」





441 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:34:35.68 ID:jWyG/GcGO


ダイヤ「……ち、千歌さん。一体、何を……?」



千歌「・・・・・・。鞠莉ちゃんのお陰で。……疑問の余地を消すことが出来るって、思い付けたんだよ」



鞠莉「え、わ、わたし……?」



ルビィ「……千歌ちゃん=c…?お陰って。その、鞠莉ちゃんのお陰って、どういうこと?」


千歌「・・・仲間の言っていることを、ただ否定するんじゃなく。理解して、受け入れた上で。でももしそれを受け入れると、こういう反論があり得る、って形で、皆……さっきだと果南ちゃん、曜ちゃん、善子ちゃんが話していたけど」


千歌「私も。そのやり方で、私自身の疑いを、晴らすことが出来る・・・」


千歌「そして、そのきっかけは鞠莉ちゃんの一言だったって」


千歌「そう思ったって、ことだよ」



ルビィ「!」

442 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:35:29.70 ID:jWyG/GcGO


千歌「鞠莉ちゃんの言葉は。もっと広げれば、どんな存在だったらどんなことが出来るのか・・・ってことを、問題にしているとも、考えられると思うんだ」


千歌「それを踏まえた上で、アンドロイドのことを考えると・・・・・・・」



千歌「・・・・・・私への疑いの前提。その全部を、もし受け入れたとしたら。受け入れたとしても、説明できない疑問が出ちゃうんだよ」



梨子「……!」



花丸「具体的には……どういうこと?」




千歌「・・・・・・。簡単な話だよ。皆は、覚えてる?」



千歌「部室での・・・・・・鞠莉ちゃんの話」


443 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:36:08.55 ID:jWyG/GcGO

果南「鞠莉の……?」



千歌「うん。・・・チューリングテストの、話だよ・・・・・・」



鞠莉「……!」


梨子「……AIと、人間の……?」




千歌「・・・・・・。うん。そこで、鞠莉ちゃんは言ってたよね?」



千歌「・・・AIは、『不自然過ぎるほど、自然』だって」



善子「!!」


444 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:36:49.12 ID:jWyG/GcGO


鞠莉「……言った。……言ったよ」




千歌「・・・・・・。逆に。人間の方こそ、不自然だって思わせないほど、自然で……。機械のイメージと同じやり取りを、不自然かもしれないけど、人間の方こそやってしまうって」




曜「……!!」


ダイヤ「……っ!」




梨子「……そ。それじゃあ……」




千歌「・・・。解ったみたいだね」


445 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:37:30.07 ID:jWyG/GcGO


千歌「つまり。・・・・・・もし、私がアンドロイドだったとしたら。当然、その思考は・・・AIによって生まれるはずなの」



千歌「でも。もし、AIだったら・・・不自然さを残すはずがない」




千歌「・・・・・・。カンペキに、入れ替わることができるはずなんだよ」




梨子「……!!」




千歌「でも、現実には不自然なことが起こってる。アンドロイドなら、パラメーターを変えられる存在なら。・・・入れ替わってるってことすら、誰にも知られずにできるはずなのにね」




千歌「・・・・・・これって、おかしくない?」


千歌「何で、気付かれるようなことをするの?何で、不自然なことをするの?」


千歌「アンドロイドなら、そんなことをしないはずだよね?入れ替わりを目的としているアンドロイドなら、そんなことするはずがないよね?」




梨子「ぐ。……ぐっ・・・…!」


446 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:38:23.30 ID:jWyG/GcGO


千歌「・・・・・・。アンドロイドなら、入れ替わりは出来る。それは、その通りだと思うよ」



千歌「未来から来れるような技術があったとして。そんな技術が進んだ世界なら、アンドロイド・・・・・・それも、パラメーターを変えられるアンドロイドも、生み出せるかもしれない」



千歌「しかも記憶すら、パラメーターに出来るアンドロイドが作り出せるなら。もし、人間と入れ替わったとしても、誰にも気付かれない」



千歌「だって、全てのパラメーターを変えられるなら、何にでも。・・・・・・誰にでも、なれるんだからね」




花丸「何にでも……」


善子「誰に、でも……」





千歌「でも。だからこそ、おかしいの」




千歌「そんな存在が、不自然なことをするなんてこと。・・・入れ替わりをしたなんてこと、気付かれるはずがないんだから!」





千歌「つまり・・・不自然なことをやってることこそが、アンドロイドであるはずがないってことを証明しているんだよ!」



梨子「…………う」










梨子「うわああああぁぁぁぁ!!」






447 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:39:26.67 ID:jWyG/GcGO

ダイヤ「……た。確かに……!」


ダイヤ「梨子さんの言う、入れ替わり。それは、もしパラメーターを変えられる存在があったとすれば。……アンドロイドが存在するとしたらと考えればこそ、成り立つものでした……!」


ダイヤ「しかし……。そもそも、そんな存在は、入れ替わりを感づかせるはずがない……!」



曜『でもさ、もし本当に自由に姿や性格を変えられるんだったらもうそれって見分けがつかないよね』


善子『そうよ!知らず知らずの内に人間は入れ替わっているのよ!』



曜「私達……話したもんね」


善子「……そう、ね」




花丸「もし本当にアンドロイドが人間に成りすますとしたら人間離れした行為は起こさない」


鞠莉「……完璧にパラメーターを人間に合わせるはず。……パラメーターを、変更できるのなら……」


ルビィ「アンドロイドだって考えた時点で。矛盾が、出ちゃうんだ……!」



448 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:40:53.01 ID:jWyG/GcGO




梨子「………」




ダイヤ「…………梨子さん」


梨子「ダイヤ、さん……」



ダイヤ「まだ、反論がありますか……?」



梨子「……」



ダイヤ「……。もう、無いはずです」




ダイヤ「意固地になる理由……追求すべき疑問……。それらは、もうない」


ダイヤ「全て、明らかになったように思います」



ダイヤ「だから。これで……終わりで……」








梨子「……」


梨子「……(これで、終わり……)」



梨子「………(本当の、終わり?………)」




梨子「………(違う!)」





449 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:42:08.53 ID:jWyG/GcGO


梨子「まだ、考えなきゃいけないことがある……!」




梨子「そう、思うの!……ダイヤちゃん!!」




ダイヤ「……!!」




鞠莉「……何を言っているの!もう、全てわかったじゃない!!」


鞠莉「千歌は、千歌の言う通り、千歌の入れ替わりなんてなかったって!!」



梨子「……うん。そうかもしれないね」


鞠莉「……!」



梨子「だから、その話はこれでおしまい。……千歌ちゃんの入れ替わりの話は、おしまい」



梨子「でも。まだ、おしまいにできないことが、あるでしょ……?」


450 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:42:53.74 ID:jWyG/GcGO


果南「な、何……?」



善子「梨子……!何を、言うつもり……?」



梨子「……私達は。千歌ちゃんを信じるために、話してきた」




梨子「でも。……それ以上に!!」





梨子「私達は!真実を追求したいはずよ!」



曜「………!!」










千歌「・・・・・・ふふっ」







451 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:44:00.72 ID:jWyG/GcGO



ダイヤ「……。では、何を考える必要があると……?」



ダイヤ「既に、言葉は尽くされました。……Aqoursの、全ての言葉が真実だとするなら」




ダイヤ「梨子さんが導き出す真実とは……!一体、何だというのですか……!?」




梨子「……」






梨子(今までの、皆の……Aqoursの、話。……私も含めて……。その全てが、正しかったとしたら)


梨子(まだないはずのアクセサリーが、なぜか今≠るってこと。葉百さんが弾いたピアノの音が、機械のように精確だったって言うこと)


梨子(過去に遡れないっていうこと。……アンドロイドだったら、不自然な痕跡を残すはずがないっていうこと)



梨子(全てを最初から考えてみよう……!)



452 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:47:52.27 ID:jWyG/GcGO


梨子(〈未来〉から[過去]へ遡れるか……)



梨子(これは、あり得ない。……善子ちゃんが証明した通り、《不可能》だと思う……)



梨子(入れ替わりも……出来ない。体格が同じでないと、記憶が同じでないと、決して成功しない)



梨子(もし、入れ替わりが成立するとしたら……。体格も、記憶も、同じにしないといけない……)


梨子(でも、そんな存在は、そもそも入れ替わりを感づかれること自体があり得ない)



梨子(私が考えた、アンドロイドならっていうこと。それは……成り立たない)


梨子(鞠莉ちゃんも言っていたように。……アンドロイド……AIは、不自然過ぎるほど、自然に振舞うことが出来るから……)




453 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:48:21.99 ID:jWyG/GcGO



鞠莉『AIってね、人間がやりそうな不自然というか、合理的じゃないことをカンペキに再現できるのよ」


鞠莉「ああ、人間じゃなかったらこんなことやらないだろうなーって、コンピューターだったらそんな無駄なことしないだろうなーって常識を逆手に取ってるのかもしれないけど』


鞠莉『人間の方が、よっぽどコンピューターみたいに合理的なことを言ってることもあるみたいよ』


鞠莉『AIは。不自然過ぎるほどに、人間にとって自然な行動をとれちゃう、ともいえるわね』


鞠莉『案外、人間の方が自然に不自然なことをやっちゃうのかもね』






梨子(………あれ)






梨子(……人間の方が。人間だからこそ、不自然な行動を起こしてしまうとしたら………?)





梨子「…………」




454 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:49:12.71 ID:jWyG/GcGO



梨子(……。もう一つ、気になることがある。それは、あのペンダントのこと)



梨子(ルビィちゃんが今″っているはずのアクセサリーが写っている、あのペンダント。あのアクセサリー自体は、既成の物……?)


梨子(それに……技術的にも、多分量産されていないようなペンダントを、一体どこで手に入れられるんだろう……?)


梨子(いや……どこで手に入れられるかはこの際問題じゃない。鞠莉ちゃんが見ている以上、どこかで手に入れること自体は出来る)



梨子(問題はむしろ……千歌ちゃん≠ェ《いつ》、ペンダントを手に入れたのか)




梨子(……時間を遡れないと考える以上。[過去]のある時点で手に入れたと考えるしか、ない)


梨子(なら……そこに写る写真も、過去の光景を撮影したもののはず……)



梨子(………そうすると。私は、[過去]に存在しているはずのアクセサリーが。なぜか、〈未来〉にしかあり得ないと、カン違いをしていたことになるの……?)




梨子(じゃあ、そもそも何でそんなカン違いを。私は……私たちは、しちゃったんだろう……)



455 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:49:48.97 ID:jWyG/GcGO


梨子(……理由は、客観的に考えればシンプルだ。その時点で、『桜内梨子』と『黒澤ルビィ』しか知らないはずのものが、写真にあったからだ……)



梨子(でも……。その時点って、《いつ》の時点なの……?)


梨子(その時点が、一つしかないなら。写真だって、しいたけちゃんにアクセサリーをプレゼントしたその瞬間の物しか、ないはず……)











梨子(一つしか、ないなら……)







梨子(一つしか、ないなら……!?)




456 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:50:36.09 ID:jWyG/GcGO



梨子(一つしかないが、私達を縛っているとしたら。……一つしかないを、やめれば)




梨子(複数あった可能性を、考えれば……!)






梨子(……も、もしも。『その』時点が複数あったとしたら……話は、成り立ってしまう……!)






梨子「……ぁ」







梨子(もしも……もしも!……[過去]とそっくりな、《未来》があったとしたら。……[過去]の模倣をしているだけの、《未来》があったとしたら……!)




梨子(……1人だけ。その模倣をカンペキには再現できない人がいたら……!)









梨子「………ぁあ……!」





457 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:51:34.65 ID:jWyG/GcGO

梨子(……舞台に立つって。何度も立つって、すごくタイヘンなこと)



梨子(重要な場面で、1人でも崩れちゃうと……。連鎖的に、皆も崩れちゃう)



梨子(……もし、それが。心の支えになってる人だったら……なおさら……)




梨子(………。崩れ、ちゃう……)








梨子「……ぁぁあ!ぁあぁあ!」






458 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:52:03.23 ID:jWyG/GcGO



梨子(……1人だけ。セリフが、飛んじゃって。間違って、シナリオを先取りしちゃって。これまでのお話が、辻褄の合わないような形になってしまって……)


梨子(誰もが、毎回同じことを……。多少のアドリブがあっても、本筋ではいつも同じことを演じられれば。観る人を満足させられるのに……)



梨子(でも、人間は、そうじゃない。いつだって、同じことを出来るわけじゃない……!)




梨子(……っ。……いつでも、同じことを精確に出来るのは)





梨子(同じことが出来るのは……!)











梨子(……機械の、方)



459 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:53:32.78 ID:jWyG/GcGO








梨子(……)






梨子(……そうだ……)




梨子(簡単なコト、だったんだ……)




梨子(全ての言葉が正しいとすれば。全てが、成り立つのは)



梨子(………全ては……)


梨子「……全ては」



460 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:54:04.56 ID:jWyG/GcGO
















梨子「《逆》……だったん、だね……」














461 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:55:00.08 ID:jWyG/GcGO



ダイヤ「……りこ、さん?」



曜「逆って……どういうこと……?」





梨子「……過去から未来には戻れない。でも、未来にしかあり得ないって、考えてしまう条件」




果南「……りこ?」




梨子「……既に、過去にあったのに。未来にしかあり得ないって思っちゃうのは……」




鞠莉「り。りこ……。何を、言おうとしているの……?」




梨子「千歌ちゃん≠セけが不自然で。……まるで、〈未来〉に生きているようで」





ルビィ「……りこちゃん……。まさか……」



462 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:55:28.35 ID:jWyG/GcGO





梨子「私たちは自然で。[過去]もちゃんと持ってて……」





花丸「りこ……ちゃん……」





梨子「でも、本当はどっちなんだろう。……そう、考えたらね」





曜「……!」







善子「り、りこ……!」





463 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:56:21.24 ID:jWyG/GcGO


梨子「皆の言葉。その全てが、正しいとしたら」



梨子「私達は……千歌ちゃん∴ネ外の、Aqoursは………!!」



梨子「わ、わたしたちは。……私たちは……!!」







梨子「私たちは、人間じゃない!!!」





鞠莉「………そんなっ!!」

曜「……!!」

果南「……っ!!」

花丸「……いや……!!」

ルビィ「……!」





梨子「私たちは!……人間じゃないの!!……私たち、こそが……!!」











梨子「アンドロイドなのよ…………!!!」














善子「……………っ!………っ!!」


千歌「・・・・・・。・・・・・・・・・」


464 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:57:18.82 ID:jWyG/GcGO

梨子「……全ての言葉が。Aqoursの皆の全てが、正しかったとしたら」


梨子「未来の存在は、考えられない。だから、一見未来のように思えるものも、過去に存在していないと考えなきゃならない」



善子「……」



梨子「なら、ペンダントに残された写真。それは、過去に残されたものじゃなきゃいけない」


梨子「でも、写っている内容は……未来のもの」


梨子「……今″られているもの、今♀ョ成していないものが、写っているから……」



曜「……」



梨子「……ここで。……どっちが本当なのかって問いを立てることが出来る」


梨子「………。答えは簡単だよね。本当に未来にあるはずのものなら、ここにあるわけがない」


梨子「未来にしかないと考えたら、そんなもの手に入るはずがないけど」


梨子「過去にあるから。手に入れることが出来る……」


梨子「明らかに、このペンダントは過去にあったはずのもの」



花丸「……」


465 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:58:28.26 ID:jWyG/GcGO


梨子「じゃあ、何で過去にあったはずのものを、未来のものだと考えてしまったのか?」


梨子「この、ペンダント。……なんで、その中の写真を、未来にあるとしか思えなかったのか……」


梨子「つまり。……一番の謎は、今≠るはずのないものが、ここになぜかあるってこと」


梨子「じゃあ。今≠るはずがないと言い切れるのは、誰≠ネんだろう……?」



ルビィ「……」



梨子「作っている当人達にしかあり得ない、よね」


梨子「しかも、オリジナルのデザインで作っているとなれば……。その存在が、複数存在するなんてあり得ないって、断言できる」


梨子「でも。……写真という[記録]があった以上。それは、間違い。……カン違い、錯覚のはず」


梨子「……重要なのは。錯覚でなくすためには、何が必要なのかじゃなくて、錯覚が起きている以上、その理由があるということ。錯覚が起こるしかないとしたら、どんな条件が考えられるのかということ」


梨子「……どうやったら既に[記録]も残っているものを、自分が作っている最中の物だと。〈未来〉に存在するはずのものだと、思ってしまうのか」




梨子「……忘れることによって、だよね」




鞠莉「……」




梨子「でも……。どんなに似ているものであっても、オリジナルで作ろうとする限り、同じものは作れない……」


梨子「……それこそ、機械でもない限り」


梨子「それに、このアクセサリーには意味がある。……私の意図した”文字”が彫られている」


梨子「意味のあるものを、作ることにおいて。……似るものが出来てしまうことはあっても、同じものを作ることは、やっぱり不自然なの」




果南「……」


466 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 09:59:10.96 ID:jWyG/GcGO


梨子「………ところで。そもそも、そのペンダント自体も、この世に一つしか存在しないものだったはず」




千歌「・・・・・・」




梨子「……技術的な問題を乗り越えたとしたら、ペンダントがこの世に一つしかないというのは、オーダーメイドであるという意味になるはず」


梨子「全ての話が正しいとしたら。……葉百さんの、千歌ちゃん≠フ話が正しいとしたら」


梨子「ここに、たった一つのものが、あることになる」


梨子「……たった一つの、ペンダント。そこに写る、真実。……意味のあるはずのそれを、自身のオリジナルだと思ってしまうのは……」


梨子「自分の、オリジナルだと。[過去]に存在したものではないと、思ってしまう存在は」


梨子「自分の記憶≠、忘れることが出来て。……その上で、フリじゃなくて、本当に過去の自分そのままに振舞える存在」


梨子「……記憶≠焉A性格も、全て自由に変更できる存在にしか出来ない。じゃないと、齟齬がおきてしまう」



ダイヤ「………っ!」



梨子「記憶≠焉A性格も。パラメーターとして、変えられる存在」





梨子「…………アンドロイドなら、それが出来る」




曜「……!」



467 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:01:32.68 ID:jWyG/GcGO



果南「……一個。聴いても、いい?」



梨子「果南ちゃん……?」



果南「私らがアンドロイドなら。……当然、すごい技術の力で生み出されたものなわけだよね?」



梨子「………そう、だね」



果南「じゃあさ。……何で、そんな私たちを生む力があるのに、なんで街並みは田舎のまんまなの?」



梨子「……」



果南「……モチロン、ハイテクになったら、街並みもある程度、自由に出来るかもしれないよね」


果南「……でも、それを変えた[記録]がなんで残らないの?……[記録]が少しでも残れば、記憶≠熄o来ちゃうよ?」


果南「[記録]は、ある程度は消せるかもしれないよ。でも、記憶≠ヘ、人によってマチマチでしょ」


果南「……それに。記憶≠もし、消せたとしても……その消したってこと自体が、痕跡を残すんだよね」




468 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:02:30.06 ID:jWyG/GcGO


梨子「……記憶≠ヘ、確かに、変えたら痕跡が出る。……全ての人の記憶を変えようと考えたとしても、そんなことは出来ない」


梨子「……だからこそ、なの。だから、アンドロイドの話が出てくるんだよ」


果南「……記憶≠ヘ、消せないから……?」



梨子「そうだよ。でも、パラメーターとして残っているものなら。……[記録]なら、変えられる」


梨子「一つの齟齬もなく、変えることが出来てしまうの……!」



梨子「……未来の技術。未来の、アンドロイドなら、入れ替わりはできる」



梨子「……[過去]の、模倣だって……出来る」


梨子「それこそ……不自然なほど、自然に……」



鞠莉「………っ!」




469 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:04:03.41 ID:jWyG/GcGO



梨子「過去の模倣が出来るなら。……今ここにいる私たちが、過去のマネをしている存在だって、否定することはできない」



ダイヤ「だけど。……そんなこと、あり得ない!」



梨子「……そう、あり得ない。……[証拠]が、あるはずがないから……」




梨子「でも………。見つけてしまった」



善子「……っっ!」




470 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:05:06.90 ID:jWyG/GcGO



梨子「……今≠特別視するのをやめて。……[過去]にあったことを、ちゃんと受け入れれば」



梨子「……私達は。[証拠]の意味を、ちゃんと理解することが出来る……」



梨子「あの写真。……葉百さんと、しいたけちゃんが写っている写真」



梨子「これが、過去に撮られたものだとしたら…………!」



梨子「……生き別れの姉妹だって。その2人が写っているんだって、千歌ちゃん≠フ言う通りに考えれば……」



梨子「この写真は、成長した千歌ちゃんと。その家族のしいたけちゃんが写っているものだって、考えられる……!」






千歌「・・・・・・」




471 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:05:51.02 ID:jWyG/GcGO


ダイヤ「……やめて」




梨子「もし。『桜内梨子』が、『ある時点』では知る由もないことを、知ってしまったら」



梨子「……『ある時点』。『桜内梨子』。この二つには、ある前提がある」



梨子「………同じ時は。同じ人間は。あり得ないっていう、前提が……」




曜「りこ、ちゃん……」



472 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:06:25.56 ID:jWyG/GcGO



梨子「でも。……同じ時も、同じ人間も。……同じ、存在も」



梨子「実現できてしまうと、したら……?」



梨子「……〈未来〉を問題にしたのは。同じ時間なんて、あり得ないから」



梨子「でももし、[過去]に遡れる技術があったら。……もし、そこで……[過去]にはなかったことが、起きたら」




花丸「……」




梨子「同じ時間があり得て。……こんな疑問が、ありえちゃうよね……」


473 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:07:00.07 ID:jWyG/GcGO



果南「………」





梨子「違和感を持っちゃうよね。………けど」



梨子「善子ちゃんが言ったように。それは、時間の違いじゃない。世界の違い」



梨子「二つの世界を比べて、こっちの世界ではこういうことが起きたとか……」



梨子「……それこそ、未来でしか起きないって思ってしまったから」



梨子「でも。……これも善子ちゃんの言った通りだけど、過去になんて、絶対にいけない」



梨子「だったら。……同じ世界を、比べるためには。……未来の世界と比べることが出来ないのなら」



梨子「過去の世界で、同じことをしている、してしまっている存在が必要になる……!」



474 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:07:42.64 ID:jWyG/GcGO



ダイヤ「…………いやっ!」







梨子「……『桜内梨子』が。『渡辺曜』が。」



梨子「『黒澤ダイヤ』が。……『黒澤ルビィ』が、『松浦果南』が。『国木田花丸』が。」



梨子「……『小原鞠莉』も。『津島善子』も」




梨子「オリジナルが、あったとしたら……?」




梨子「………。皆、オリジナルを真似しているんだとしたら……?」




梨子「そして……それをカンペキに模倣できる、存在があったとしたら……」




475 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:08:45.64 ID:jWyG/GcGO


ルビィ「アンドロイドなら……出来るっていうこと……!?」



ダイヤ「じゃ、じゃあ!……千歌さん≠ヘ、何なんですか!?」



ダイヤ「入れ替わることが出来るのはアンドロイドだけだとしたら。そもそも千歌さん≠ェ疑われることはなかったはずです……!」



ダイヤ「パラメーターを変えられる……それこそが、アンドロイドの特徴」



ダイヤ「しかし、人間だとしたら。そんなことは出来ない……!」



ダイヤ「全ての話、主張が正しいのなら。りこさんの示してきた、……千歌さん≠ェ、人間には、不可能なことを行っているということ。それが、あり得ないことになります」



ダイヤ「破綻しているんです。……入れ替わっているのがわたくし達の方なら。なぜ、[亡霊]と千歌さん≠ェ、結び付けられるのでしょう……?」





梨子「……見方を変えれば。パラメーターを変えられて。しかも、アンドロイドのようには、出来ない……カンペキに同じようには振舞えない存在」



梨子「その存在が、あればいいってことだよね」



ダイヤ「………!で、では。……アンドロイドでないとして、何だというのです!?」









梨子「……。サイボーグだと、思う」



ダイヤ「……!?」

476 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:09:41.74 ID:jWyG/GcGO



鞠莉「サイボーグ……。元は、人間で……機械になった、存在……」



梨子「……元々人間だったのを改造したのが、サイボーグだとしたら。……入れ替わりの考え方も、変わる」



梨子「アンドロイドなら、ボロは出ない。……人間だから、ボロが出る」



梨子「……元は人間の、サイボーグなら。機械の特徴があるから、色んなパラメーターを変えることが出来るかもしれない」



梨子「でも、アンドロイドと違って。……人間だからこそ、カンペキなマネが出来ないことも、考えられる……」





ダイヤ「……いやぁっ……!」



477 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:10:23.74 ID:jWyG/GcGO



花丸「千歌ちゃん≠ェ、ハオさんと入れ替えられるのは。……千歌ちゃん≠ェ、サイボーグだったから……」




果南「………じゃあ、千歌≠ヘ。……」



果南「ずっとずっと、生きてきて。機械の体になっても、生きてきて」



果南「一度、経験した時を。……また、繰り返しているっていうの……!?」








千歌「・・・・・・・・・」








曜「………そんな」



478 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:11:06.49 ID:jWyG/GcGO


梨子「……今℃vえば。……私が、最初に葉百さんに会った時。葉百さんの反応は、不自然だった」



ダイヤ「ふ、不自然……?」





『え。……え?……なんで、〈あなた〉が……』





梨子「……すごく、驚いていたの」



梨子「………まるで。いないはずのものを。[亡霊]を、見たかのように……!」





曜「いないはずのものを……」







千歌「・・・・・・」





479 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 10:11:48.61 ID:jWyG/GcGO


ルビィ「前に、いなくなったはずのものが目の前にいたら。……ビックリ、しちゃう」



梨子「……そう」




梨子「その、ビックリを、私は、見ているの……!」



鞠莉「……な」



善子「な……!」



花丸「なんずらぁーーーーーー!!?」




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