男「恋愛アンチなのに異世界でチートな魅了スキルを授かった件」 3スレ目

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

780 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/03(金) 00:09:06.07 ID:WSmNXtlS0

イケメン(地下道はしっかりとした造りだった)

イケメン(元は王族が緊急事態の際に逃げるための物だ。何かあったときに壊れていたりしたら話にならないからだろう)

イケメン(そのため進むのに苦は無いのだが……僕は部隊に警戒させながら歩かせたためスピードは遅かった)



ギャル「急ぐんじゃないの? こんなところでゆっくりしてていーの?」

イケメン(お気楽なギャルの言葉は無視する)



イケメン(ここまではスムーズに潜入できた。だからといってここからも上手く行くなんて思ってはいない)



イケメン「…………」



イケメン(何か出来すぎている。罠ではないのか?)

イケメン(そもそも最初チャラ男からの手紙を見たときから胡散臭いとは思っていた)

イケメン(自分の本拠地にある抜け道に気づかないままなんて間抜けすぎる)

イケメン(それほど抜け道を見つけた女友が優秀だったというだけか? それとも分かっていて泳がせているのか?)

781 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/03(金) 00:09:38.49 ID:WSmNXtlS0

イケメン(しかし僕の警戒も空しく何も起きず、地下道を進み続けた結果目の前に扉が現れた)



ギャル「ほら、何も無かったじゃん」

イケメン「……結果論だ」



イケメン(ギャルの軽口に僕は苦々しい面持ちで返す)

イケメン(扉を開けて地下道を出たところにあったのは部屋だった。食材がごったに転がっている)



イケメン「王城の調理室地下にある食料庫か。どうやら順調に進めているようだな」



イケメン(首尾良く魔王城に潜入することが出来た。だがここからが本番)

イケメン(今もって連合軍と王国軍は正面衝突しているはずだ。だからといって全ての戦力が本拠地であるこの魔王城から出払っているはずがない)

イケメン(チャラ男の手紙による女友からの情報によると、やつは魔王城の最上階、謁見の間にいることが多いらしい。警備の目をどうにか潜り抜けて辿り着いてみせる)

782 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/03(金) 00:10:07.75 ID:WSmNXtlS0



イケメン「作戦通りだ。まずは二人、表に出て警備の目を攪乱してこい」

隊員たち「「はっ!」」



イケメン(調理室へと通じる扉から隊員の二人が出て行く。それを後目に僕らは裏道を進む)

イケメン(この魔王城は元々人目に付かないように移動できる裏道が張り巡らされているようだ)

イケメン(その内の一つはもちろん謁見の間まで繋がっている)

イケメン(そうでなければ緊急事態の際に王族を逃がすことが出来ない)



イケメン(裏道を進んでまた扉に当たる。ここは一階の倉庫か)

イケメン(魔王城の構造は事前に頭に叩き込んでいる。大陸一の犯罪結社である『組織』には、そのような重要な機密情報さえ持っている)

783 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/03(金) 00:11:22.44 ID:WSmNXtlS0



イケメン「次は四人だ」

イケメン(また隊の一部を警備の攪乱のために放つ)



イケメン(そうして進みながら隊を分けていった結果、最終的に謁見の間の前に立ったのは僕とギャルの二人だけとなった)



ギャル「二人きりだね」

イケメン「ああ、そうだね」



イケメン(緊張感に合わない含みは無視して同意する)

イケメン(他の隊員は攪乱のため全て離れた。しかしその結果として辺りに警備の者も見当たらない)

イケメン(この二人きりという状況は想定したパターンの中でも良い方だろう)



イケメン(階下からはかすかに騒ぎとなっている音が聞こえる)

イケメン(いきなり本拠地に敵が侵入したとなれば蜂の巣をつついたようになって当然とも言える)

784 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/03(金) 00:12:07.42 ID:WSmNXtlS0

イケメン「さて、行こうか」

ギャル「うん。魅了スキルを持つあいつをぶっ飛ばして、みんなを解放するために!!」

イケメン「……その通りだ」



イケメン(いきなりギャルが意気込んだ言葉を言うものだから、反応が一瞬遅れた)



イケメン(そうだったな、この脳天気な女は未だに僕が魅了スキルにかかった者を助けるために行動していると思い込んでいる)

イケメン(後少し、全てが手にはいるまでは騙し通さなければ)

785 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/03(金) 00:12:37.08 ID:WSmNXtlS0

イケメン(謁見の間に二人で侵入する)

イケメン(そこにいたのは一人だけ)

イケメン(王座の前に立つその人物は――)





男「ようやく来たか。待っていたぞ」





イケメン(男は僕たちの姿を見ても驚く様子も無く、そのように言った)



786 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/03(金) 00:13:07.07 ID:WSmNXtlS0



ギャル「ようやく? 待っていた? ふん、どうせ強がりでしょ」

イケメン(最初はギャルの言うとおりだと思った)



イケメン(だがそれにしては男は自然体で、僕らの登場に驚いた様子はない)

イケメン(それを見て、地下道に入ったときから抱いていた嫌な予感の正体がようやく掴めた)





イケメン「あの手紙は罠じゃなくて誘いだった……ということかい?」

男「話が早いな」





イケメン(僕らはわざと侵入させられていた。女友に情報を流させれば辿り着けるだろうという読みか)

イケメン(本当なら男の手のひらの上だったということになるかもしれないが……)

787 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/03(金) 00:14:41.59 ID:WSmNXtlS0



ギャル「いやいやアタシだってそれがおかしいことは分かるって」

ギャル「あんた一人で待ってたら何も出来ないじゃん」



イケメン(そうだ、周囲に僕ら以外の存在の気配は感じられない)

イケメン(達人級の使い手であるギャルと最強級の使い手である僕)

イケメン(二人の前に魅了スキルしか持っていない男一人しかいないというこの状況が成立している時点で全てがもう終わっている)





イケメン「何かの計算違いでもあったのかい? まあ、待つつもりはないけどね、『影の束縛(シャドウバインド)』!!」





イケメン(僕は早速拘束スキルを、あの夜に使ったのと同じスキルを使用)

イケメン(男の影が実体化し、その主を縛ろうとする)



イケメン(やつに抵抗する力はない)

イケメン(あのときと同じようになすすべなく立ち尽くしたまま――――)

788 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/03(金) 00:15:07.92 ID:WSmNXtlS0





男「『閃光(フラッシュ)』」





イケメン(――否)

イケメン(男は魔法を発動。辺りを目映い光が埋め尽くし、影が消滅する)





イケメン「……なっ!!」

男「何も計算違いはない。全ては俺の思い描いたままだ」



イケメン(右手を振り払った動作を戻しながら男がのたまう)

789 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/03(金) 00:16:20.02 ID:WSmNXtlS0

イケメン「…………」

イケメン(そういえば情報を見た覚えがある)

イケメン(やつは学術都市で魔法を学んだ結果、基本的な魔法を使えるまでにはなったと)

イケメン(あの夜とは違ってやつには戦うための力がある)



イケメン(だとしても今の光景はおかしい)

イケメン(初級光魔法の『閃光(フラッシュ)』)

イケメン(本来は手元を光らせる程度の魔法のはずで、周囲を光で埋め尽くし影を消し去るほどの力はなかったはずだ)



イケメン(だとしたら今の状況を生みだしたトリックは――――)



790 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/03(金) 00:16:51.47 ID:WSmNXtlS0



男「付加魔法(エンチャント)だ」

イケメン「何……?」



男「今の俺は虜にした魔法使いたち――1000人からエンチャントを受けて強化されている」

イケメン「1000人だと!!」



イケメン(エンチャント)

イケメン(他者の筋力や魔力などを上げることが出来る魔法の一種だ)

イケメン(とはいえその一つ一つの効果はそこまで劇的なものではない。そもそも術者本人以上に強化できるなら、自分で戦う必要が無くなる)



イケメン(しかし、一つ一つの効果は大きくないとはいえ、1000人も集まれば話は別だ)

イケメン(それだけの強化を受ければ……本来はちょっと魔法を覚えただけの素人が最強級と渡り合えるまで強化されてもおかしくはない)



791 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/03(金) 00:17:53.67 ID:WSmNXtlS0



イケメン「でも、随分と回りくどい方法を取るんだね」

イケメン「その1000人で僕らを囲めば簡単に倒せるだろうに」



男「全ては永遠の孤独に至るためだ」

男「おまえの襲撃から全ては始まったんだ」

男「俺に力があれば、おまえの襲撃をはねのけるだけの力があれば、俺は助けられる必要はなかったんだ」



男「誰かに対して執着心を抱いたまま孤独に至れるわけがない」

男「力の使い方を自覚してから、自然とこう思っていたよ。俺の力でおまえを倒したいって」



イケメン「おまえの力じゃなくて、エンチャントを受けた仮の力だよね」

男「おまえの『影使い』だって女神から授かった力だろうが」

イケメン「……」



男「何による力かなんて関係ない。イケメン、おまえを、俺のこの手で倒す」

男「そのためにここまで誘い込んだんだ。そうやって初めて俺はあの夜を乗り越えることが出来る」



イケメン「OK、OK。分かった、そういうことなら慣れているよ。僕はイケメンだからね、男から嫉妬されるのは慣れっこさ」



792 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/03(金) 00:18:33.33 ID:WSmNXtlS0

イケメン(男は王座に立てかけていた剣を手に取り戦闘態勢を取った)

イケメン(剣を扱うようなスキルも無いはずだが、単純に強化された筋力でぶん回されるだけで脅威だろう)



ギャル「結局どういうことなの、イケメン?」

イケメン「やつにも意地があるってことさ。まあ踏みつぶすだけなんだけどね」

ギャル「やることは変わらないってこと?」

イケメン「ああ、魔王を討伐してエンディングと行こう」





イケメン(ギャルと僕も戦闘体勢に入る)

イケメン(大戦の再来とも言える大規模戦闘の最中、支配派と駐留派の将による直接対決が始まった)



793 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/03(金) 00:18:59.39 ID:WSmNXtlS0
続く。
794 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/04/03(金) 00:58:11.93 ID:UNyj7ulwo
乙ー
795 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/04/04(土) 14:01:22.93 ID:UwYfOEn+0
乙!
796 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:45:26.09 ID:n4S9Drl30
乙ありがとうございます。

投下します。
797 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:45:53.12 ID:n4S9Drl30



男「『火球(ファイアーボール)』」



イケメン(元々は野球ボールほどの大きさの炎を発射する魔法)

イケメン(エンチャントで身体能力と魔力共に強化された男が使うとその大きさは桁違いとなる)



イケメン「ちっ……!」

イケメン(僕は身を投げ出すような横っ飛びで回避する)



ギャル「『雷速拳(ライトニングナックル)』!!」



イケメン(僕に魔法を放った後の隙を狙って、男の背後にギャルが回る)

イケメン(身体強化『雷速稼働(ライトニングスピード)』による超速度から繰り出される拳が振り下ろされて)



男「ふっ!」



イケメン(しかし男は剣を掲げることで頭上からの攻撃を受け止めた)



798 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:46:21.72 ID:n4S9Drl30

イケメン(魔王城、謁見の間で始まった戦いは一進一退の攻防を繰り広げていた)

イケメン(エンチャントで強化された男の力は凄まじいことになっていたが、こちらは僕とギャルの二人)

イケメン(二対一でそもそも数が有利な上、やつの弱点も見えている)



イケメン(それがどれだけ強化されていても使えるのは初級魔法だけということだ)

イケメン(初級魔法はシンプルな、直線軌道な攻撃がほとんどだ)

イケメン(故に僕とギャルで挟むように陣取るだけで、男は同時に二人を攻撃することが出来ない)



イケメン(辺り一帯を攻撃する魔法、たとえば魔導士の『吹雪の一撃(ブリザードアタック)』などをこの魔力で使われたら厄介だった)

イケメン(だがこれなら二人で入れ替わり立ち替わり削っていけばいい)

799 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:46:52.49 ID:n4S9Drl30

ギャル「ああもうっ、守ってばっかでムカつく!!」

イケメン(懇親の攻撃を防がれてギャルが地団駄を踏む)



イケメン「落ち着いて、ギャル。あいつは僕たち二人相手に守るしかないんだ」

イケメン「あんな攻撃力の数値だけバグった雑魚敵みたいなやつ、今の状態を維持していればいずれは倒せる」



ギャル「分かってるけど……だったらどうしてあいつは打って出ないのよ」

イケメン「っ、それは……」



イケメン(ギャルの疑問に答えられない)

イケメン(戦闘熟練度がない男は雑魚敵のような単純な挙動しか出来ない)

イケメン(だがやつは人間、思考する生き物だ)

イケメン(だったらどうしてこの不利なやりとりを続けている)

イケメン(何かの狙いが……)

800 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:47:23.87 ID:n4S9Drl30





男「やっぱり実戦が一番だな。魔素の取り込み方、魔力の練り方……よく分かってきた」





イケメン(自分の手のひらを見つめながら呟く男)





男「そろそろこちらから行くぞ。『二重火球(ダブルファイアーボール)』」





イケメン(そして両手をこちらに向け、それぞれから炎を放った)



801 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:48:00.96 ID:n4S9Drl30

イケメン「ちっ! 戦いの中での成長……それを見越して!」



イケメン(今までと違って二個になった火の玉)

イケメン(大きさは変わらないため、こうなると炎の壁が迫ってきているようなものだ)

イケメン(回避では間に合わないと判断した僕はスキルを発動)



イケメン「『影剣(シャドウソード)』!!」



イケメン(影で作られた剣で炎の壁を一刀両断。迎撃に成功する)

イケメン(炎が二つに分かれて僕らの両脇を通り過ぎて)



802 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:48:31.94 ID:n4S9Drl30



男「『風塊(ウィンドブロック)』」



イケメン(その奥から男が魔法を発動しながら飛び込んできた)

イケメン(炎の壁をブラインドに接近という単純な策)

イケメン(攻撃の有効度が上がりこちらが対応しないといけなくなったことで、やつも打って出れるようになったということか)



イケメン(掲げた手に圧縮・収束された風)

イケメン(それが『影剣(シャドウソード)』を使った後隙に硬直する僕をめがけて叩きつけられて)



ギャル「危ない!! っ……!」

イケメン「くそっ……!」



イケメン(その直前でギャルが僕を抱えて高速移動)

イケメン(直撃は免れたが叩きつけられた風の余波に当てられてギャルは転び僕ともども地面を転がる羽目になった)





男「『水の矢(ウォーターアロー)』」

イケメン(男はさらなる追撃を仕掛ける)

イケメン(水を矢のように何本も飛ばして地面に転がる僕とギャルを打ち抜こうとする)

イケメン(怒濤の連撃に対応が間に合わずその身を貫かれて――)

803 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:49:06.07 ID:n4S9Drl30



イケメン(身体にノイズが走ったように揺れてその姿が消えた)



男「!?」

イケメン「ようやくその余裕そうな表情が崩れたね」



イケメン(ギャルに助けられた瞬間、僕は『影の投影(シャドウコントロール)』を発動)

イケメン(逃げる方向と反対に僕らの幻影を放っていた)



イケメン(『潜伏影(ハイドシャドウ)』で自分たちの姿を隠すことまでは間に合わなかったけど、幻影を派手に地面に転がせた結果男の注意はそちらの方に向いていたようだ)

イケメン(魔法を無駄撃ちして決定的な隙を晒した男に)



イケメン「『影の装甲(シャドウアーマー)』!!」



イケメン(僕は自身の影を身に纏って身体能力を強化)

イケメン(男に突進してそのバランスを崩し、地面に倒れたところでマウントポジションを取った)

804 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:49:42.56 ID:n4S9Drl30



イケメン「弱い癖にちょっと成長したくらいで調子に乗るからこんなことになるんだ」

イケメン「最初から弱者は強者に従っていればいいのにね」



男「くそっ、黙れ!!」

イケメン「そっちこそね」



イケメン(圧倒的有利な状況からタコ殴りにする)

イケメン(男は身体能力こそ強化されているものの、身体の使い方は素人だ)

イケメン(影使いの専門外ではあるが、戦闘スキルの延長上に授けられた技術があるためこちらの方に長がある)

805 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:50:16.57 ID:n4S9Drl30

イケメン「ようやく力が抜けてきたか」

男「…………」



イケメン(ボコボコにされた男の抵抗が弱くなってきた)

イケメン(僕の目的、魅了スキルを使う道具とするためにこいつを殺すわけには行かない)

イケメン(誰かを服従させる魔法などあれば簡単だったが、生憎なことにそれに準じるような力も含めて目の前にある魅了スキルくらいしかこの世界に存在しない)

イケメン(故にこいつは力で屈服させるしかない)

イケメン(しかし、身体の抵抗こそ弱まってきたものの、男の目には未だ強い意志が宿っている)





イケメン「全く、そろそろ諦めて欲しいものなんだけどね。助けでも待っているのかい?」

イケメン「残念だけど僕の部下たちが警備を攪乱している。しばらくは誰も来れないと思うよ」



男「他人の手は借りねえよ。言っただろ、おまえは俺の手で倒すって」

イケメン「その状況でも強気な言葉を吐けるところは評価するよ」



イケメン(さてもう少し痛めつけるか、と拳を握り直したところで)

806 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:51:37.68 ID:n4S9Drl30



ギャル「そうよ、さっさと女や女友たち、みんなにかけた魅了スキルを解除しなさいよ!!」



イケメン(ギャルが口を挟んできた)



男「……おまえもスキルの説明は見たはずだろ。魅了スキルは解除不可能だ」



ギャル「それは異世界に来たばかりの時の話でしょ」

ギャル「成長してコントロール出来るようになって、オンオフくらい自由に出来るようになってないわけ?」



男「無理だな。そういう類のスキルじゃない」



ギャル「あっそ。じゃあ殺すしかないわね」

男「…………」

807 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:52:22.28 ID:n4S9Drl30



ギャル「殺せば流石にスキルの効果も無くなるでしょ」

ギャル「あんたは憎い思いもあるけど、アタシだって積極的にクラスメイトを殺そうだなんて思いたくない」



ギャル「でも本気よ」

ギャル「魅了スキルをかけて女や女友はあんたなんかに惚れさせられて、その自由を奪われた」

ギャル「いわばあんたに殺されたようなものでしょ」

ギャル「それにこうして王国も乗っ取って多くの人に迷惑をかけている。殺されても仕方ない所行でしょ」





男「……まあ他人の自由を奪ってきた俺が、自分の自由を奪われることを拒むのは筋違いだろうな」

ギャル「何だ、覚悟は出来てるのね。じゃあ、イケメン」





イケメン(ギャルは僕に呼びかける)

808 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:53:05.73 ID:n4S9Drl30



イケメン「…………」



イケメン(何が『じゃあ』なのだろうか?)



ギャル「あ、それともアタシが殺した方がいい? なら代わるけど」



イケメン(殺す? 僕の欲望を叶えるための魅了スキルの持ち主を?)



ギャル「……? ねえ、イケメン聞いてるの?」



イケメン(ああ、聞いてるさ)



イケメン(本当に、もう……我慢の限界だ)



809 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:53:51.79 ID:n4S9Drl30



イケメン「ちょっと黙っててくれないか、ギャル?」

ギャル「え……ご、ごめん。何か気に障った?」



イケメン「何か? おかしいこと言うね。全部だよ、ギャルの言うこと全部が耳に障る」

ギャル「ぜ、全部って……そ、そんなおかしいこと言った?」

ギャル「だってそいつを殺さないとみんな魅了スキルから解放されない……アタシたちの目的はずっとそれで……」



イケメン「たち、じゃない。ギャルだけの目的だろう」

ギャル「……え?」





イケメン「僕の目的は最初から――魅了スキルを手に入れて、全ての女性を支配することだ」





810 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:54:24.28 ID:n4S9Drl30

イケメン(ずっと騙してきた)

イケメン(目的を達成するまで騙しきるつもりだった)

イケメン(でももう男はボロボロで圧倒的有利は変わらず、目的達成間近ともいえる)



イケメン「…………」

イケメン(だったらちょっとくらい早くてもいいよね?)



イケメン(ちょうどいい趣向とも言える)

イケメン(今まで調子に乗っていたこいつが絶望する姿を見ながら、目標達成と行こうじゃないか)

811 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:55:20.27 ID:n4S9Drl30



ギャル「何……言ってるの、イケメン?」

ギャル「全ての女性って……そんなの必要ないでしょ」

ギャル「だってイケメンには、アタシっていう彼女がいるんだから」



イケメン「そうだね。じゃあ別れようか、僕たち」

ギャル「……っ!? じょ、冗談だよね?」



イケメン「もちろん冗談だよ」

イケメン「だって……僕は最初からギャルのことを彼女だなんて思っていない」

イケメン「付き合ってなければ別れることも出来ないからね」



ギャル「彼女じゃないって……な、何でそんなこと言うの?」

ギャル「アタシたちいっぱいデートもしたし、ちゃんと付き合ってたじゃん!」



イケメン「ああ、本当おまえみたいなやつ相手に彼氏のフリをするのは疲れたよ」



イケメン(今まで貯まっていた鬱憤が晴れていく)

812 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:56:00.63 ID:n4S9Drl30



ギャル「……アタシが悪いの? だったらはっきり言ってよ。全部直すから!」



イケメン「そう? じゃああげていこうか。まずはガサツなところが駄目でしょ」

イケメン「独占欲が強いところも駄目。頭が悪いのも駄目だし……」

イケメン「うーん、困ったね。多すぎて手間がかかるよ」



イケメン「あ、そうだ。逆にいいところをあげておこうか」

イケメン「顔だよ、顔。見てくれだけはいいから、キープにはちょうど良かったんだ」



ギャル「な、何それ……う、嘘だよね?」

イケメン「そうやって元彼を疑うところも駄目なところだね。本当にもう駄目駄目さんだ」



ギャル「そ、そんな……」

イケメン「全く、ギャルが女みたいに完璧だったら楽だったんだけどね」

813 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:57:40.13 ID:n4S9Drl30



男「あの夜のときも言ってたな……未だに女がおまえの理想の人なのか?」



イケメン(はぁ、と溜め息を吐いたところで、その名前に反応したのかマウントポジションを取られたままの男が言葉をこぼす)



イケメン「当然だろう。貞淑で、スタイルも良くて、気遣いも出来る……完璧な女性だ!」

男「……ふっ」

イケメン(男が鼻で笑う)



イケメン「何がおかしい?」

男「あいつが、女が完璧な女性……? 全くどんな幻想を見ているんだか」



イケメン「自分は分かっているアピールかい? ただ一緒に長く旅していただけな癖に」

男「ああ、俺と女は所詮一緒のパーティーっていうだけの関係だ。少なくとも俺はそう思ってた」



イケメン「……何が言いたい」

男「おまえはイケメンの癖に、全く女性の心が分かってないんだな。それじゃモテねえぞ」



イケメン「女性と付き合ったこともない君には言われたくないね」

イケメン「全く、その良く回る口を閉じる必要がありそうだ」



イケメン(動こうとしたそのとき)

814 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:58:29.06 ID:n4S9Drl30





男「おまえが目的を達成して魅了スキルを手中に収めたとしても、おまえが一番に欲しいもの――女は手に入らねえよ」

男「だってあいつには魅了スキルがかかってないんだからな」





イケメン「……………………………………は?」

イケメン(何を……言っている。こいつは……?)



男「ほらな、分かってねえ。俺と同レベルじゃねえか」

イケメン「それは……おかしい。だって女には魅了スキルにかかった素振りが……」

男「フリだとさ。俺に好意を抱いていることがバレないようにするためのな」



イケメン「おまえに好意…………それならば理屈は…………だが、そんなことあり得るはずが……っ!?」



男「ははっ、初めて意見があったかもな」

男「全くその通りだ。どうして俺なんかを好きになったのか……」



イケメン(身体的にマウントを取られている癖に、精神的にマウントを取ってくる男)

815 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:58:58.70 ID:n4S9Drl30



イケメン「…………はははっ。なるほど、なるほど」

イケメン「そういうことか。僕としたことが焦ったよ」

イケメン「この状況を逃れるためにまさかここまでの嘘を吐くとはね」



男「嘘だったらいいけどな」



イケメン「黙れ、黙れ、黙れ……!!」

イケメン「仮におまえの言うことが本当だったとしても関係ない」

イケメン「魅了スキルは予定通り手に入れる!!」



男「女は手に入らないのにか?」



イケメン「うるさい! 女が手に入らなくてもだ!!」

イケメン「世界中の女性が手に入るなら十分におつりが来るからな!!」



イケメン(そうだ、例えこいつの言葉が万が一本当でも……!)

816 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:59:29.73 ID:n4S9Drl30



男「おまえのこれまでの行いには全く頷けるところがない」

男「だけどな、一つだけ」

男「理想の人を手に入れるためには善悪問わずに何でもするその姿勢だけはすごいな、と思ってたよ」



男「だけど……そうか。その程度で諦められる、代替出来るものだったのか……」

男「本当ガッカリだ」



イケメン(男は嘆息すら吐いてみせた)



817 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 01:00:07.41 ID:n4S9Drl30



イケメン「調子に乗りすぎだ」

イケメン「おまえは死んだ方がマシだ、と思えるような目に合わせる」



イケメン(廃人となるまで追い込むと道具として使い勝手が悪いから遠慮していたが、こいつの図太さだ)

イケメン(ぶっこわすつもりでちょうどいいだろう)



男「あっそ、やってみな」



イケメン(もう軽口には付き合わない)

イケメン(僕は手を出そうとして――)



818 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 01:00:33.65 ID:n4S9Drl30

 ――激情に駆られているようでイケメンはずっと冷静だった。

 男がマウントポジションを解除する方法は一つ。

 肉弾戦が駄目なら、魔法を使えばいい。



 だからこそイケメンはギャルとの会話の間も、男との口論の時も、男が魔素を取り込み、魔力を練らないかの観察を怠っていなかった。

 その傾向が見えた瞬間殴ることで男の集中を阻害、魔法を使わせないつもりだった。



 今この瞬間も男に魔力を練る気配はない。

 故に魔法は使われない、想定外の事態は起きない。



 そのように考えていて。

 ――だからこそ、その行動には虚を突かれた。

819 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 01:01:08.25 ID:n4S9Drl30



男「魅了、発動!!」

イケメン「っ……!!」



 魅了スキル。

 男が授かったただ一つのスキル。

 魔力を練らずとも使えるそのスキルの効果は異性の支配が主で、同姓のイケメンには効かない。



 だが、効果はそれだけではない。

 ピンク色の光。



男「ふんっ……!!」



 イケメンの目が眩んだその隙に男は全力を絞る。



 元々影使いのイケメンとエンチャントを受けた男の身体能力は拮抗していた。

 イケメンが技術により男を押さえつけていたが、一瞬の緩みを突くだけで逆転される程度の差。

 結果男は拘束を振り解き距離を取ることに成功した。

820 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 01:01:42.76 ID:n4S9Drl30



男「油断したな」

イケメン「ちっ、魅了スキルか」



イケメン(やけに大人しくしていると思ったら、このワンチャンスに賭けていたのか)

イケメン(だがダメージは十分にあるはず、面倒だが第二ラウンドの開始……と思って僕は戦闘体勢に入るが)



男「ふぅ……」

イケメン(男は身体から力を抜いてリラックスしていた)



イケメン「何のつもりだ?」

男「今までの問答でよく分かった。俺の手でおまえを倒そうなんて間違っていたってことに」

イケメン「今さら命乞いでもするつもりかい? だが容赦するつもりはない、僕はおまえを――」

821 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 01:02:22.74 ID:n4S9Drl30



男「そういうことじゃない」

男「おまえ程度のやつにこだわる意味をなくしたってことだ」

男「まあそれも戦った結果だから無駄ではなかったんだろうが」



イケメン「はっ、戯れ言を」



男「それにおまえを倒すのに、俺よりふさわしいやつがいる」



男「命令だ、イケメンをやれ」



イケメン(興味を失ったという言葉は本当なのか、男は面倒そうに命令を下す)

822 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 01:02:56.64 ID:n4S9Drl30

イケメン「っ……」



イケメン(命令)

イケメン(それこそずっと警戒していた選択肢だ)



イケメン(ここは魔王城、敵の本拠地)

イケメン(周囲の気配は窺っていたが、その程度では足りるはずがない)

イケメン(伏兵が配置されていてもおかしくはないと思っていた)



イケメン(自分の手で倒す……そんなことにこだわって負けるようでは本末転倒だからね)



イケメン(最初から男の言葉は信じていない)

イケメン(故に男の方針転換を素直に受け取った)

イケメン(そして全力で敵の気配を察知しようと周囲に気を配る)



イケメン(どこからだ……壁は遠い、隠れられるような場所もない、天井は高くもしものときに間に合わない……なら下だ!)



823 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 01:03:29.38 ID:n4S9Drl30





 敵に警戒した――だからこそ。

 イケメンは味方からの攻撃に反応することが出来なかった。





イケメン「ぐふっ……!?」



イケメン(後頭部を思いっきり殴られて派手に倒れる)

イケメン(後頭部……後ろ?)

イケメン(後ろにいたのは――)



イケメン「ギャル!! 何をしている!!」



イケメン(元彼女、縁を切ったはずのその人しかいない)

824 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 01:03:56.60 ID:n4S9Drl30

イケメン(一瞬で状況を理解した)

イケメン(早めに種明かししすぎたか)

イケメン(僕に捨てられたギャルが自暴自棄になって僕を殴ったということだろう)



イケメン(全く女ってやつは非合理的過ぎる)

イケメン(役に立たないどころか、足まで引っ張るとは)

イケメン(僕に貢献するなら手元に置いておくことも考えたというのに)



イケメン(そう思いながら振り向きギャルの姿を見上げて)



825 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 01:04:30.42 ID:n4S9Drl30



ギャル「ち、違うの……わ、私は……その、身体が勝手に……」



イケメン(ギャルが拳を振り切った姿勢のまま――涙を流していることに気づいた)



イケメン「え……?」



イケメン(流石に想定していなかった事態に思考がフリーズする)

イケメン(涙……? どうして自分を切り捨てた僕を憎んでいない?)

イケメン(よく分からないがそれなのにどうして殴って……)



男『命令だ、イケメンをやれ』



イケメン(もしかして……。だが、いや、それこそ――)

826 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 01:05:05.75 ID:n4S9Drl30



イケメン「有り得ない!! ギャルが虜になるはずがない!!」



イケメン(ギャルが意志に反して僕を殴ったのは、男の命令によるものだろう)

イケメン(先ほど目くらましに使用された魅了スキルの範囲にギャルもいて、そのとき虜になったと)



イケメン(だが……そうだ、異世界に召喚された際、暴発した魅了スキルはギャルに効果を発揮しなかった)

イケメン(なのに……どうして今回は成功して……)



827 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 01:05:56.36 ID:n4S9Drl30

男「俺の魅了スキル、効果対象は『魅力的な異性』だ」

男「だが絶世の美女がいたとして……そいつが老いておばあちゃんになっても魅力的かというと、絶対にそうとは限らないだろ?」



イケメン(男が頭の悪い子供に言い聞かせるような調子で話す)



男「魅力的かどうかなんて同じ人だとしてもその時々によって変わる」

男「魅力的じゃなくなることもあるし、逆もまた然りだ」



男「無駄な人間関係をすぐ切り捨てられるおまえには分からないだろうな」

男「最初は嫌な印象を持っていたとしても、ふとしたことで評価がガラリと変わることもあるってことを」



イケメン「つまり今のおまえには、ギャルが魅力的な異性に見えているってことか?」

イケメン「はっ、馬鹿な。それこそ有り得ない。こいつのどこが魅力的だって言うんだ」

828 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 01:06:32.71 ID:n4S9Drl30



男「簡単だ。おまえに裏切られた今このときに涙を流すことが出来るところだ」



イケメン「……?」



イケメン(涙? それに一体何の意味が……?)



男「ギャル、独裁都市での襲撃の際女友と交わしたやりとりは聞いた」

男「おまえは自分がイケメンに愛されてないことを知っていたんだろ」



ギャル「…………」



男「命令だ、質問に答えろ」



ギャル「……はい、その通りです」



829 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 01:07:08.85 ID:n4S9Drl30



イケメン「な、何を言っている……僕はきちんと彼氏のフリをして、騙して――」

男「浅い演技なんてバレていたわけだ」



イケメン「そんなはずあるか! おかしいだろ! 騙されていることが分かっていて、どうして僕に尽くしたんだ!」



男「それでも好きだから、ってことだろ」

イケメン「なっ……」



イケメン(今度こそ僕は絶句する)



830 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 01:07:42.33 ID:n4S9Drl30



男「自分を騙していて、他の女を追っていて」

男「それでも諦めきれなかった。一途に思い続けた」



男「ギャルは十分に魅力的な女の子じゃねえか」

男「そんな子に慕われて……おまえは何が不満だったんだよ? なあ、教えてくれよ」



イケメン「…………」





男「なんて……まあ俺が言えた立場じゃねえか」

男「命令だ、そいつを気絶させて、地下牢まで運べ」



イケメン(男は命令を残し、その身を翻した)

831 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 01:08:08.97 ID:n4S9Drl30



ギャル「ごめん、イケメン」



イケメン(命令を実行するために近づいてきたギャル)



イケメン「…………」



イケメン(僕を殴ってしまったことで、未だに涙を流す彼女に何かを言えるはずもなく)







イケメン(――視界が暗転した)

832 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 01:08:35.97 ID:n4S9Drl30
続く。
833 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/04/08(水) 13:49:51.48 ID:Xh8gKN5qo
乙ー
834 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/04/08(水) 16:46:27.02 ID:zR4wGbd/O
乙!
835 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/07(木) 10:22:02.06 ID:rMfR1SqU0
待ってるぞ
836 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/09(土) 21:12:32.68 ID:biI/Iwp20
乙、ありがとうございます。


お待たせしました、投下します。
837 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/09(土) 21:13:36.21 ID:biI/Iwp20

女友(私は魔王城に戻ってすぐにその異変を感じ取りました)

女友(城のあちこちが荒らされているのです)



女友「…………」

女友(心当たりはありました)

女友(今回の作戦、サトルさんから何をするかは聞かされています)

女友(駐留派、カイさんをこの魔王城を誘った際に、その部下がこの魔王城を荒らしたということでしょう)

女友(しかし、既にその動きも警備に残っていた者たちによって沈静化されているようでした)



幼女「お腹減ったー、おやつ!!」

女友(一緒に連れていた幼女、魔神は私の手を離れ食堂めがけて無邪気に走り出します)



女友「転ばないように気を付けてくださいねー」

女友(城の中ならもう安全だろうと、私はその一言だけで送り出しました)

838 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/09(土) 21:14:21.78 ID:biI/Iwp20

女友(一人になった私は謁見の間を訪れました)

女友(そこではサトルさんがボロボロの状態のままぼーっと佇んでいます)



女友「サトルさん、無事でしたか!?」

女友(私は慌てて駆け寄りました)



男「あー……リオか」

女友「今すぐ回復します! 許可をください!!」

男「……俺に回復魔法をかけることを許可する」



女友(裏切り防止にサトルさんからかけられた命令『俺の意図する場合以外での魔法の使用を禁ずる』による一手間を置いて、ボロボロだったサトルさんの治療が始まりました)

839 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/09(土) 21:15:14.81 ID:biI/Iwp20
あー、変換するの忘れてました。
ちょっと投稿しなおします。
840 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/09(土) 21:16:58.69 ID:biI/Iwp20

女友(私は魔王城に戻ってすぐにその異変を感じ取りました)

女友(城のあちこちが荒らされているのです)



女友「…………」

女友(心当たりはありました)

女友(今回の作戦、男さんから何をするかは聞かされています)

女友(駐留派、イケメンさんをこの魔王城を誘った際に、その部下がこの魔王城を荒らしたということでしょう)

女友(しかし、既にその動きも警備に残っていた者たちによって沈静化されているようでした)



幼女「お腹減ったー、おやつ!!」

女友(一緒に連れていた幼女、魔神は私の手を離れ食堂めがけて無邪気に走り出します)



女友「転ばないように気を付けてくださいねー」

女友(城の中ならもう安全だろうと、私はその一言だけで送り出しました)

841 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/09(土) 21:18:14.63 ID:biI/Iwp20

女友(一人になった私は謁見の間を訪れました)

女友(そこでは男さんがボロボロの状態のままぼーっと佇んでいます)



女友「男さん、無事でしたか!?」

女友(私は慌てて駆け寄りました)



男「あー……女友か」

女友「今すぐ回復します! 許可をください!!」

男「……俺に回復魔法をかけることを許可する」



女友(裏切り防止に男さんからかけられた命令『俺の意図する場合以外での魔法の使用を禁ずる』による一手間を置いて、ボロボロだった男さんの治療が始まりました)

842 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/09(土) 21:19:11.56 ID:biI/Iwp20

女友「だから私は反対だったんですよ。自分自身の手で決着を付けるなんて」

男「…………」



女友(男さんは私の問いかけに反応しません)

女友(無視しているのではなく、どうやらそもそも聞こえていないようです)

女友(心ここにあらずといった様子で物思いに耽っています)



女友(イケメンさんと戦ったことで何か思うところがあったんでしょうか?)

女友(今回の作戦に当たって男さんの目的について私にも説明がありました)

女友(永遠の孤独を目指す、と。その目的は今回の大規模戦闘を制すれば叶うでしょう)



女友(そんなことのために、というのが私の率直な感想でした)

女友(独りただ生きるために生きるなんて寂しすぎます)



女友(出来れば考え直して欲しい)

女友(ですが命令によって説得することを物理的に禁止されている私には止めようがありません)

843 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/09(土) 21:19:57.04 ID:biI/Iwp20

女友「…………」



女友(女)

女友(私の親友)

女友(ことここに至っては彼女だけが頼みでしょう)

女友(連合軍と王国軍の戦いの行方はどうなっているのか……?)





伝令「失礼します! 戦況の定期報告に窺いました!」

女友(ちょうどいいことに、そのとき謁見の間に伝令が姿を出しました)



男「ああ、頼む」

伝令「はい! では報告します! 連合軍と我が方との戦いはこちらの優勢で押し返しています!」

伝令「『組織』軍は同士討ちが加速し壊滅状態に! 城に侵入した『組織』の部隊も全てを拘束しました!」



男「要注意戦力は?」

伝令「竜闘士の少女は変わらず一人で我が方のドラゴン部隊と渡り合っています!」

伝令「伝説の傭兵、魔族は相変わらず姿を見せません!」



男「……そうか。下がって良いぞ」

伝令「はっ!」



女友(伝令は敬礼すると回れ右して謁見の間を後にします)

844 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/09(土) 21:21:07.82 ID:biI/Iwp20

女友「…………」



女友(私たち王国軍の優勢)

女友(命令により協力しているとはいえ、心は連合軍の方にある私にとっては絶望の知らせでした)



女友(ですがこの結果も予想出来てはいました)

女友(王国軍 VS 連合軍&『組織』軍)

女友(両者の戦力は開戦時ほぼ同じくらいだったと思われます)



女友(ならばどうしてこのような結果になってしまったのか)

女友(ランチェスターの法則というものがあります)

女友(詳細は省きますが、一対一で個別に戦う近距離戦ではなく、銃や魔法などの遠距離から集団でやりあう戦場では)

女友(弾幕の密度などからして、人数が多くなるほど加速度的に有利になるのです)



女友(私と魔神の働きによって『組織』軍5000人を2人で突破した結果、そこに回さないといけなかったはずの戦力を他に回すことが出来て、じわじわと優位が拡大していった、と)



女友(連合軍がここまでの戦力を集めることが出来るのもこの一回のみでしょう)

女友(その一回限りの希望が費えようとしている)

845 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/09(土) 21:22:03.92 ID:biI/Iwp20



女友「これは…………もう終わりですか」

男「いいや、まだだぞ」

女友「え……?」



女友(治療を終えて立ち上がった男さんからの反論)



男「おまえが考えていることは大体分かる。戦場での戦力差はもはや決定的だ」

女友「ええ、ですから……!」

男「だがこの戦いの運命は最初からそんなところで推移していない」

女友「……?」



男「結局のところ連合軍の勝利条件は俺を倒すことだからだ」

男「魅了スキルによる極端なワントップ構造でここまでやってきた王国だからこそ、俺をどうにかすれば一瞬で瓦解する」



女友「それは……そうですが」

女友(男さんは何を言いたいのか、今いち把握しかねていると)

846 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/09(土) 21:22:40.50 ID:biI/Iwp20



男「イケメンたちが来る前に、一度護衛を付けて連合軍方面の戦場を見てきた」

男「女が戦う姿を見て……なるほど賭けに出てきたな、と感心したよ」



女友「何を言って……?」

男「噂をすればだ。来るぞ」



女友(男さんが天井を見上げます)

女友(つられて私も視線を上に向けたところで)



847 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/09(土) 21:23:31.65 ID:biI/Iwp20



ガッシャーーーーン!!

女友(天窓が破壊されて、超スピードの何かが落ちてきました)



女友「っ……!!」

女友(その音と衝撃に思わず顔を背けます)

女友(落ち着いたところで何が降ってきたのかを見て……)



女友「どうして……?」

女友(疑問が沸き上がりました)



女友(王国軍と連合軍の戦場は王都の郊外で行われている)

女友(先ほどの伝令ではそこで戦っているはずの者が……時間的にこの魔王城に訪れられるわけがない)



女友(無理矢理突破したならしたで、先に警告の方が来るはず)

女友(要注意戦力の動きは重点的に確認するように通達が行われていました)



女友(なのに――)

848 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/09(土) 21:24:52.00 ID:biI/Iwp20



女友「どうして……ここにいるんですか、女?」



女「ちゃんと『またね』って言ったじゃん。女友」





女友(竜の翼をはためかせる親友は私に一声かけた後、改めてこの城の主と向き合う)





女「さて、伝言は伝わってたかな。会いに来たよ――男君」



男「やっぱり来たのか、女」





女友(魅了スキルにより数奇な関係を築いてきた二人が)

女友(王国軍の魔王と連合軍の勇者となって)

女友(今、再び相対した)

849 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/09(土) 21:26:51.41 ID:biI/Iwp20

<王都郊外・激戦区>

近衛兵長(私はその報告に最初自分が聞き間違えたのかと思った)



近衛兵長「何だと! 城に竜闘士の少女が現れただと!」

伝令「は、はいっ! 監視の者が超高高度から振ってくる姿を見たと……」



近衛兵長(王国軍の指揮を預かり、連合軍と大規模戦闘を繰り広げる私の元にもたらされた報告)

近衛兵長(なるほど竜闘士ならば地上から確認できないほどの高さまで飛び上がって、直接魔王城に降下することも可能かもしれない)



近衛兵長(だが、可能なだけで有り得るはずがない出来事だった)

近衛兵長(理由は至極簡単なこと)



近衛兵長「だったら今もなお、あのドラゴン部隊と戦っている姿は一体何なんだ!?」



850 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/09(土) 21:27:49.88 ID:biI/Iwp20

近衛兵長(元々王国に組織されていたドラゴン部隊)

近衛兵長(今回の戦闘でも運用されているが、それに対して開戦当初から竜闘士の少女が一人で立ち向かい制空権の奪い合いとなっていた)

近衛兵長(一人で十数体のドラゴンと渡り合う少女がすごいというべきか、一騎当千の少女の進撃をどうにか止めていると見るべきか……)



近衛兵長(魔王城と戦場。二カ所に現れた少女)

近衛兵長(どちらかが偽物ということか?)

近衛兵長(いやだが報告が間違いでないのならば、超高高度からの降下など竜闘士でなければ出来るはずもないし、ドラゴン十数体と渡り合うことも竜闘士でなければ出来るはずがない)

近衛兵長(ならば――)





近衛兵長「……? 竜闘士?」





近衛兵長(二人の竜闘士)

近衛兵長(気づけば後は簡単だった)



近衛兵長「〜〜っ!! まさか最初からペテンに引っかかっていたというのか!!」



851 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/09(土) 21:28:29.57 ID:biI/Iwp20

<激戦区・上空>



魔族「少女の魔王城突入を確認した」

傭兵「そうか……ならばもう細工は必要ないだろう」

魔族「ああ――『変身』解除する」





傭兵(魔族がスキルを解除すると……竜闘士の少女の姿から、褐色角付きのいつもの姿に戻った)





傭兵「『不可視(インビシブル)』の解除も頼む」

魔族「ああ、そうだったな」



傭兵(魔族が魔法を解除すると、私の姿も戦場に現れた)



852 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/09(土) 21:29:07.63 ID:biI/Iwp20

傭兵(私たちが連合軍に力を貸している理由は一つ)

傭兵(少女を少年のところまで送り届けること)

傭兵(そのための策として考えた結果……私たちが二人一役で少女の姿に扮装することで、少女への警戒を外すのがいいと判断した)



傭兵(魔族の『変身』は変身した者の力を再現するが、竜闘士の力は別格のため再現できない)

傭兵(そのため少女の姿になった魔族の近くで、透明になった私がスキルを使うことでこれまで戦場を欺いてきた)

傭兵(策の提案と同時に、侵入路についても少女に一つアドバイスはした)



女『女友が残した抜け道は使わない方がいいんですか?』

傭兵『ああ。正直罠のにおいしかしない』

女『罠って女友がそんなことを……って思ってたから、この前も騙されたんですよね』

傭兵『それにわざわざそのようなことを竜闘士だから出来る強襲ルートが存在する』



傭兵(そしてそのアドバイス通りに上空から魔王城に侵入したようだ)

853 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/09(土) 21:29:35.11 ID:biI/Iwp20

魔族「さて、これからどうする?」

傭兵「連中が魔王城に戻って二人の対面の邪魔を阻止するためにも、ここに釘付けにする」

魔族「なるほど……することに変わりはないというわけか。いや、私が少女のフリをする必要が無くなるからその分こちらの戦力追加となるな」

傭兵「気を付けろ。どうやら敵方の指揮は優秀だ。すぐ対応してくるだろう」



傭兵(近衛兵長、だったか。兵の運用などからしてかなりのやり手と見える)



魔族「分かった。とりあえずこのドラゴンたちをどうにかするか」

傭兵「懐に潜り込む。サポートは頼んだ」



傭兵(これまで二人一役の弊害として近距離スキルを使うことは出来なかったのもあるが、多数に囲まれても大変なので遠距離スキルで戦ってきた)

傭兵(遠巻きに削ってきた今なら、各個撃破していくことも可能だろう)



傭兵「行くぞ!!」

魔族「ああ」



傭兵(私たちはドラゴン部隊との戦いに挑む)

854 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/09(土) 21:30:02.23 ID:biI/Iwp20

<魔王城・謁見の間>





女「あんまり驚かないんだね」

女(天窓をぶち抜いて侵入した私は落ち着いた様子の男君に問いかける)





男「ああ。一度王国軍と連合軍の戦場は見ていたからな。すぐに分かった、女が偽物だって」

女「魔族さんの変身を見破ったの?」

男「ずいぶんと似せるように努力しているのは分かったが、細かい癖が女と全く違ったからな」

女「まあ私も男君なら見抜くと思っていたよ」



女(私も男君も事も無げに言う)





女友「え、何ですか? この信頼しているのか、気持ち悪いのかよく分からないやりとりは?」

女(女友が何か言っているけど、久しぶりの再会に興奮している私の耳を素通りした)

855 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/09(土) 21:31:13.49 ID:biI/Iwp20



男「それで? 俺の城に何の用だ?」

女「分かんないの?」

男「ああ」



女「告白……したんだから、返事を聞かせて欲しいと思うのは当然でしょ」



女(もう大昔のように思える、二週間ほど前の出来事)

女(学術都市の校舎の屋上で沈みゆく夕日をバックに私は告白した)



男「返事か。なら簡単だ。断らせてもらおう」

女「嘘吐き。ちゃんと答えて」



男「何を言っているんだ? 告白した、断られた。それで終わりの話だろう?」

女「ほらそうやって都合が悪くなると煙に巻く。男君らしいね」



男「話が通じてるのか?」

女「分かってる癖に」

男「……ちっ」



女(男君は舌打ちする。私の言い分を認めた証拠だ)

856 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/09(土) 21:31:54.21 ID:biI/Iwp20



女「やっぱり答えるつもりはないんだね」

男「だったらどうする?」





女「力ずくで聞き出す」

女「男君の動きからしてすごい強化を受けているのは分かる」

女「でも竜闘士の私に勝てるはずないでしょ」





男「それはやってみないと分からないだろ」

男「……まあいい、どうせ永遠の孤独に至るためにどこかでおまえとは戦わないといけないとは思っていた」





女「永遠の孤独……?」

女(男君の言葉の中、それだけ意味が分からない)

857 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/09(土) 21:32:36.22 ID:biI/Iwp20





男「今の俺は、おまえに守られていただけの俺じゃない」

男「変わったんだ。そして――全てを終わらせる!!」



女「よく分からないけど……これだけは言える!」

女「終わらせない! ここからが私たちのスタートだから!!」





女(剣を構えた男君が手加減なしに突っ込んでくる)

女(私も今この時は相対する者が愛するものであることを忘れ――否)

女(愛するものだからこそ全力で戦うことを選択する)



男「ふんっ……!!!」

女「『竜の拳(ドラゴンナックル)』!!」





女(剣と拳が交差する)

女(絶対に譲れない戦いの始まりだ)


858 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/09(土) 21:33:23.46 ID:biI/Iwp20
続く。

続きも近いうちに投げたいです。
859 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/05/10(日) 00:15:39.97 ID:ETrckrtLo
乙ー
860 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/13(水) 23:04:38.19 ID:jcF5ixXz0
乙、ありがとうございます。

投下します。
861 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/13(水) 23:05:40.81 ID:jcF5ixXz0

女(始まった私と男君との勝負)

女(こうなる予感はあった)

女(私が説得したくらいで頑固な男君が意見を翻すはずがない)

女(力押しがどこかで必要になるとは思っていた)



女(だから想定外なのは二つ)

女(一つは戦う相手が男君自身だということ)

女(大量のエンチャントで強化するというその手段を私は予想していなかった)

女(そのせいで男君は竜闘士の私と勝負になるくらいの力を…………いや)



女「『竜の息吹(ドラゴンブレス)』!!」

男「『風爆(ウィンドブラスト)』!!」

女「くっ……!」



女(放とうとしたエネルギー弾が一足早く放たれていた男君の魔法に当てられて至近距離で誘爆)

女(余波を自分が食らってしまう)



女(二つ目は――男君に私が圧倒されていたことだ)

862 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/13(水) 23:06:08.47 ID:jcF5ixXz0



男「大きく引いてエネルギー弾をばらまく……何度その攻撃パターンを見てきたと思っている」



女(強化されたとはいえ男君の力は、伝説級である私に及ぶまでは行かない)

女(問題なのは私の行動パターンが読まれ切っていることだ)



女(私が次にどのように行動するかを読んで、それに対して完璧な対処をしてくる)

女(読まれていると分かっていつもと行動パターンを変えようと意識しているのに、それでもなお逃れられない)

女(小手先の戦いに対する読みだけじゃない。私という人間性全体を把握した読み)



女(そうだ、この異世界に来てから男君を守るために何度戦ったのか)

女(私の戦いを一番近くで見てきたからこそ)

女(私という人となりを知っている男君だからこそ出来る芸当)

863 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/13(水) 23:06:46.67 ID:jcF5ixXz0



女「『竜の翼(ドラゴンウィング)』!!」

男「『空石落下(スイケメンストーンフォール)』!!」



女(翼を生やし空中に逃げようという動きを阻止するように、頭上から石が降ってくる)

女(私はダメージ覚悟で石をぶち割りながらどうにか空中に留まる)



女「………………」

女(私だって男君のことは理解している)

女(男君が私の動きを予想するなら、私だって男君の動きを予想すればいい)

女(でも初めて戦う姿を見せる男君に、戦いの中で急成長していく男君にどうにも後手に回っているのが現状だ)



女(いや……本当に理解出来ているのかな?)



女(こうして直接会って話すことさえ出来ればどうにかなると思っていた)

女(何だかんだ話せば分かるんじゃないかと希望的観測を持っていた)

女(でも現実は私に攻撃する手を弛めない)



女(男君のことが分からない)

女(どうしてあの日私を置いて去っていったのか)

女(何を目的に動いているのか)

女(永遠の孤独とやらは何なのか)

864 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/13(水) 23:07:13.43 ID:jcF5ixXz0



女「ねえ、聞きたいことがあるんだけど!!」

男「『氷槍(アイスランス)』」



女(分からないなら問いただせばいい。私はそうやって生きてきた)

女(しかし、男君からの返事は魔法だった)

女(氷の槍を飛びながら避けて、なおも言葉を続ける)



女「どうして私たち戦わないといけないの!?」

男「『光爆弾(ライトボム)』」



女(飛翔ルートを潰すように爆発が私の目の前を覆う)



女「私たち好き同士なのに……戦うなんて間違っているよ!!」

男「…………」



女「男君!!」



865 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/13(水) 23:07:50.58 ID:jcF5ixXz0



男「好き同士だと……勝手に決めつけるな」



女(男君が攻撃の手を止めて言葉で応じる)





女「私の自惚れじゃなければ……そうでしょ」

男「だったらおまえの自惚れだな。俺はおまえのことが嫌いだ」



女「嘘だね」

男「どうしておまえが俺の気持ちを勝手に決めつける」

男「言い続けてれば現実になるとでも思っているのか?」



女「…………」



男「今のおまえにふさわしい言葉を教えてやる」

男「ストーカーだ」

男「不都合な現実を認めず、自分が思い込んだ世界を正しいと思う……たちの悪いストーカーだよ」



女(男君に酷いことを言われて……それでもその言葉は嘘だと思った)

女(これまで一緒に旅してきたから分かる直感だ)



女(でも……それこそが男君の言う思いこみだとしたら?)

866 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/13(水) 23:08:18.84 ID:jcF5ixXz0



女友「惑わされないでください、女!」



女(私の芯がブレようとしたそのとき、声がかかった)



女「女友……」



女(この場にいる三人目、親友である女友の声)

女(ここまで傍観していた女友)

女(おそらく何も出来ないように命令されていたはずなのに……それでも私のピンチに動いた)


867 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/13(水) 23:10:23.46 ID:jcF5ixXz0





女友「ぼんやりとは考えてましたが、今のやりとりで確信しました!」

女友「男さんの目的は――」

男「命令だ、口を閉じろ」

女友「んぐっ……!?」



女(女友の言葉が命令によって遮られる)





男「口出しできないように命令していたはずだが……まだ抜け道を隠していたか。強かなやつだ」

男「……そうだな、ちょうどいい」



女(男君は感心しながら女友の方に向かって進む)



女「何を……するつもりなの」



女(その後ろ姿に今まで見たことがない怖さを感じる)

868 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/13(水) 23:11:03.81 ID:jcF5ixXz0



男「おまえはこれまで命令のせいとはいえ俺のために尽力していた」

男「No.2の肩書きにふさわしい働きだった」

男「有能なやつだった」



男「だがな、肝心なときに裏切るようなやつが配下に必要だと思うか?」



女(そして女友の前に立った男君は)





男「命令だ、一切の抵抗を禁じる」

男「『闇の死神(ダークスカル)』」





女(手のひらから闇の奔流を――即死魔法を放って)





女友「…………」



女(ドサッ、と)

女(直撃を食らった女友は声もなくその場に倒れた)

869 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/13(水) 23:11:35.69 ID:jcF5ixXz0



女「女友!! 『竜の咆哮(ドラゴンシャウト)』!!」



女(衝撃波を放ちながら親友の元に急行する)



男「直線的な攻撃だな」



女(男君は特に防御することなく退いた)



女「ねえ、女友!! しっかりして!!」



女(倒れ込む親友の上半身を抱えて起こす)

女(しかし一切の力が抜けたように首も腕もだらんと垂れ下がる)

女(極め付きに胸元に耳を押しつけると――心臓の鼓動が止まっていた)



870 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/13(水) 23:12:08.41 ID:jcF5ixXz0



女「男君……どうして?」

男「世界の支配も目前、そいつは用済みだ」



女「……」



男「後は俺の支配にあらがう連合軍の旗頭、おまえをどうにかすれば完了する」

男「一時とはいえ一緒に旅した関係だ、殺さずに済まそうと思っていたが――」

男「おまえもそいつと一緒のところに送ってやろうか?」





女(おおよそ私の知る男君からは出てこないだろう言葉)

女(どうしてこんなことに……『囁き』のせいで……でもあれは本来の欲望を解放するもので……男君が本当はこうだった……いや、そんなはずが……何かの勘違い……)




女(動揺、疑問、混乱)

女(揺れ動く私の感情の中、一番表に出てきたのは)

871 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/13(水) 23:12:49.77 ID:jcF5ixXz0





女「よくも女友を――っ!!」





女(憎悪)

女(親友の命を奪った目の前の――敵に、私はもう一切の情けを掛けるつもりはなかった)





女「『竜の狂化(ドラゴンブースト)』!!!!」





女(これまでずっと使わずにいたそのスキルを発動する)

女(ただでさえ強い竜闘士の全ての力を狂化する代わりに、一定時間経つと大きな反動ダメージを受け戦闘不能になる)

女(強力だと分かっていながらも、×君をいついかなるときも守るために、戦闘不能な時間が出来るこのスキルを今まで使うわけには行かなかった)



女(でも……もうそれもいいから)

872 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/13(水) 23:13:42.40 ID:jcF5ixXz0



女「『竜の咆哮・三連(ドラゴンシャウトトリプル)』!!」



女(狂化された今、衝撃波を三発同時に放つことが出来る)

女(敵はどうにか二発の衝撃波を避けるが……逃がすものか、残りの一発が直撃する)



男「ちっ……『妖精の歌(フェアリーコーラス)』!」



女(敵はすぐに回復魔法を使用する。だがのうのうと回復を許すはずがない)



女「『竜の撃滅(ドラゴンブラスト)』!!」



女(狂化された全方位衝撃波)



男「『地の盾(アースシールド)』!!」



女(回避不能のその攻撃に地面からせり出したドーム状の防壁でやり過ごそうとしているが……甘い、その程度の盾は破壊して吹き飛ばす)



873 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/13(水) 23:16:54.64 ID:jcF5ixXz0



男「ぐっ……!」



女「人は誰だって幸せになるために生きている……でもね死んだらもう幸せになれないの!!」

女「おまえが、女友の幸せを奪ったんだ!!」



女「『竜の震脚・狙撃(ドラゴンスタンプスナイプ)』!!」



女(一点狂化された衝撃波を天空から打ち下ろす)

女(吹き飛ばされたその状態では流石に防御も間に合わなかったようで直撃して――その姿が飛沫となって消えた)





男「『火球(ファイアーボール)』!!」

女「『竜の重鱗(ドラゴンスケイルズ)』!!」



女(分身を掴まされたと判断した瞬間、防御スキルを発動)

女(背後から飛んできた火の玉をエネルギー防御で完全にやり過ごす)



874 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/13(水) 23:17:43.94 ID:jcF5ixXz0



男「ちっ、今のを防ぐか」

女「どうして……抵抗するの? 破壊させてよ……ねえ、破壊させてよ!!」



女(衝動が収まらない)

女(でも収める必要も無かった)

女(ちょうど目の前にぶつけるべき敵がいる)

女(その何と幸せなことか)



男「ははっ、そんなものか!? おまえの本気は! もっと憎めよ! 俺を!」



女(挑発してくる敵に返す言葉などない)



女「『竜の咆哮・三連(ドラゴンシャウトトリプル)』」



女(代わりに衝撃波三発を放つ)



女(目の前の敵を滅ぼす。それまで私は止まるつもりはない)

875 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/13(水) 23:19:36.13 ID:jcF5ixXz0
続く。
876 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/05/14(木) 03:20:27.96 ID:wJbCM6EBo
乙ー
877 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/20(水) 23:57:40.41 ID:NK1w9k6Z0
乙、ありがとうございます。

投下します。
878 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/20(水) 23:58:35.51 ID:NK1w9k6Z0

『竜の狂化(ドラゴンブースト)』

男(在りし日に、そのスキルの存在は聞いたことがあった)

男(十分間、ただでさえ強い竜闘士の全能力を強化する代わりに、その反動として効果時間が終わると戦闘不能になる)





男『ありがちな暴走技だな』

男(俺は一言で評した)





女『まあそもそもそうやって強化しないといけないレベルの敵がいるとも思えないし』

女『反動で戦えない間男君を守ることも出来ないし、使うことは無いと思うよ』

男(女もそのように言った)





男(それが今はどうだ)

男(その暴走スキルが使われただけでなく、その矛先は守ると言った俺に向けられている)

879 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/20(水) 23:59:53.76 ID:NK1w9k6Z0



女「『竜の息吹雨(ドラゴンブレスレイン)』!!」



男(いつもの数倍の量の追尾エネルギー弾が文字通り雨のように降り注ぐ)



男「『磁力球(マグネットボール)』!!」

男(戦いの中で急成長していく俺は、原始的な属性ではない魔法も使えるようになった)

男(打ち出した黒い球にエネルギー弾は吸われていくが……いかんせん数が多すぎる)



男「『重力場(グラビティフィールド)』!!」

男(周囲に重力の濃い力場を展開することでエネルギー弾を叩き落とす)

男(直撃は避けれられたが、その余波までは防げない)



男「くそっ……!」

男(『竜の狂化(ドラゴンブースト)』終わりまでまだ五分もある)

男(残り半分もやり過ごせるか……?)



女「ちょこまかと逃げおって……」



男(女の視線がこちらを向く)

男(込められた憎悪の感情によって反射的に身が竦む)



男(精神的に来るものがある……だけどそれが俺の選択した結果だ)

584.52 KB Speed:0.4   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 続きを読む
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)