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男「恋愛アンチなのに異世界でチートな魅了スキルを授かった件」 3スレ目
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666 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/11(火) 02:41:00.36 ID:J9Cxm/0x0
続く。
667 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/02/11(火) 06:19:54.37 ID:Dt3ZIREKO
乙!
668 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/02/11(火) 14:21:41.44 ID:/u9N0jBPo
乙ー
669 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/16(日) 23:37:15.33 ID:wmBtSKTz0
乙、ありがとうございます。
投下します。
670 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/16(日) 23:37:55.87 ID:wmBtSKTz0
女(その後の会議は細々とした情報の共有や、これから起こり得る事への対策などをやって夕方頃にお開きになった)
女(夕食まで時間があるという事で、姉御が早速傭兵さんに挑戦して善戦こそしたものの返り討ちにあって、それを見ていて大笑いしたチャラ男君に八つ当たりしたり)
女(元々は敵と言っても、女友は男君に操られていただけだし、傭兵さんと魔族さんは使命を捨てたからか取っ付きやすくなっているし、チャラ男君はその持ち前のキャラでなし崩し的に馴染んでいた)
女(みんなで着いた夕食の席では)
チャラ男「なるほどそんなことが……よし、分かった!!」
チャラ男「俺も全面的に女が男のところにたどり着けるように協力するからなっ!!」
姉御「アンタ、よく言ったねえ!!」
気弱「ちょ、ちょっと二人とも酔いすぎですよ」
女(酔ったチャラ男君が調子よくそんなことを言って、姉御がその背中をバシバシ叩く)
女(その間で気弱君がおろおろしていた)
女(そして酔い潰れたチャラ男君は気弱君が介抱するということで部屋に運び)
女(傭兵さんと魔族さんも協力者という事で神殿内の客室が一部屋準備されて)
女(女友は私が寝泊まりしている部屋にやってきた)
671 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/16(日) 23:39:00.01 ID:wmBtSKTz0
女友「こうして二人きりになるのも久しぶりですね」
女(元々私が与えられた部屋は二人用の部屋で、今までそれを一人で使っていたものだ)
女(その今まで使っていなかったベッドに寝転がりながら女友が言う)
女「学術都市にいたとき以来だからそこまで期間は空いてないはずなのに……本当久しぶりって感じ」
女(私もその隣のベッドに寝転がる)
女友「はぁ、今日は本当しゃべり倒しましたね」
女「何か堰を切ったような感じだったね」
女友「王国にいたときはほとんど話なんてして無かったですから。男さんの命令を受けて、行動しての繰り返しで……たまに今後の方針を話し合うときくらいだったでしょうか」
女(おしゃべり好きの女友には地獄の環境だっただろう)
女「そういえば……男君は元気なの?」
女友「体調的なことを言えば元気ですよ。精神的に言うと……いつも無機質な目をしていて、私から言わせると死んでいるようなものでした」
女「……そっか」
女友「本当に男さんは……何を考えているんでしょうか? 立場上近くで行動していた私にも全く分からなくて……」
女「見ても分からない、考えても分からない…………だったら直接問いただすだけだよね」
女「うん、そうだよ。それに結局どんなことを考えていようと、私のすることは変わらないし!!」
女友「そうですね」
女「自分から振って難だけど、もうこの話はやめ、やめ! 違う話しよ、女友。王国で面白いこととかなかったの」
女友「雑なフリですね……。あ、でも面白いことと言えば……」
女(そうして私と女友の話は盛り上がり、どちらからともなく寝始めるまで続いたのだった)
672 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/16(日) 23:39:47.23 ID:wmBtSKTz0
<一方その頃>
気弱「ふぅ……ようやく寝ましたね」
気弱(僕は自室のベッドの前で一息吐く)
チャラ男「んー……だから…………言ってるやろ……」
気弱(寝言を言っているのはチャラ男君。酔った彼をここまで運んで寝かしつけるのは思いの外骨が折れた)
気弱「でも久しぶりに会えて良かったな」
気弱(頑張って手に入れた宝玉を持ち逃げされるという手酷い裏切りを受けたけど、僕はチャラ男君のことを嫌いになれなかった)
気弱(姉御には虫が良すぎる、って呆れられるかもしれないけど)
気弱(もう一つのベッドに寝転がる。もう夜も遅いし、寝ようと思って目をつぶるけど……)
673 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/16(日) 23:41:21.57 ID:wmBtSKTz0
気弱「眠れない……」
気弱(目がさえていた。理由は分かっている。頭の中で渦巻いている思考のせいだ)
気弱(今日の会議でも散々話題になった男さんの目的)
気弱(みんなが分からなくて頭を悩ませていたそれが――――分かったかもしれないということが気になるからだろう)
気弱「…………」
気弱(事の始まりは学術都市だ)
気弱(男さんは女さんに告白された)
気弱(おそらく普段の態度やこれまで聞いた話からして、男さんは女さんのことを好ましく思っている)
気弱(そのまま何もなければカップル成立するはずだったのに……そこに襲撃があった)
気弱(男さんと僕には似た一面がある)
気弱(だから女さんから表面的に話を聞いただけなのに……そのときの男さんの心情が手に取るように分かった)
674 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/16(日) 23:42:26.82 ID:wmBtSKTz0
気弱(不安だ)
気弱(そこに異世界という舞台、魅了スキルという力に魔神の『囁き』スキルまで加わった結果……)
気弱(欲望そのままに、男さんはその不安を払拭するためにここまでのことをしでかした)
気弱(だとしたら……僕は到底男さんのことを責める気にはなれなかった)
気弱(僕だって同じような状況になったらそんなことをしないとは言い切れないから)
気弱「僕は運が良かったんだな……」
気弱(このことを本当はみんなに話すべきなのかもしれない)
気弱(みんな気になっていたし、不安に思っているのだから)
気弱(でも僕は男さんに共感してしまったから)
気弱(裏切りだとしても……誰にも打ち明ける気にはなれなかった)
気弱「バレたら姉御に怒られるかもな……」
気弱(恋人の顔を思い浮かべてクスっとなって……そうして力が抜けたのが良かったのか、僕は吸い込まれるように眠りに就いた)
675 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/16(日) 23:43:20.73 ID:wmBtSKTz0
誰も彼もが眠りに就いた夜更けの独裁都市。
そこに蠢く影があった。
空中を滑るように動き、時折立ち止まる。
周囲を見回す仕草からして、どうやら自分がどこにいるかを確認しているようだ。
そうして辿り着いた先は……何の変哲もない建物だった。
しかし、その影は知っていた。
そこは重要な拠点だと。
古参商会が王国を攻略するためにかき集めて独裁都市に運んだ物資が貯蔵されている、と。
ここを攻撃されたら損害は量り知れず、立て直すことも難しい。
故に極少数しかこのことを知らない。
「………………」
影は手をその建物に向けて。
口を開き、魔法を紡ごうとして――――。
676 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/16(日) 23:54:17.99 ID:wmBtSKTz0
女「こんなところで何をしているの、女友?」
いつの間にか影の後ろに竜の翼をはためかせる少女、女がいた。
影は、女友は振り返って答える。
女友「何って……夜中の散歩ですよ」
女「そう? じゃあ、私を起こさないように細心の注意を払って部屋を抜け出したのは、ただの親切だったってわけ?」
女友「ええ、その通りですよ。結局起こしてしまったみたいでごめんなさいね」
女「いいよ、気にしてないから。それにしてもこの場所に気付くなんてね」
女友「……はて? この場所がどうかしたんですか?」
女「昼間普通に過ごしているように見えて探りを入れてたんだ」
女友「よく分かりませんがユウカもこの場所にいるってことはまさか私を尾行でもしていたんですか、あんまり良い趣味じゃないですよ」
女「ごめんね」
女友「いいえ、気にしてませんよ」
女「………………」
女友「………………」
677 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/16(日) 23:54:48.28 ID:wmBtSKTz0
女「理屈は無い。話して、触れ合ってみての私の直感」
女「ねえ、女友って――今も男君の支配から逃れられてないんじゃないの?」
女「自由になったフリして……独裁都市に潜入して、攻撃するように命令されているんじゃないの?」
女友「……はぁ。男さんの支配から逃れられていないって……何を根拠にそんな……って直感でしたね」
女友「でしたらそうですね……理屈的に考えましょうか。男さんは私にどんな命令をしたっていうんですか?」
678 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/16(日) 23:55:27.41 ID:wmBtSKTz0
女「とりあえず大きなものが『独裁都市に潜入して攻撃しろ』って命令だとして」
女「『怪しまれないように命令を無視したという演技をしろ』『独裁都市の重要拠点を探れ』『信じさせるために指定した情報は開示しろ』『都合の悪い情報は開示するな。ただし疑われそうな場合は臨機応変に』って感じで」
女「後は『裏切るようなことは禁止する』とか『余計なことを話すな』とか……まあそういう命令は元々かけているだろうけど」
女(まだまだ細かいことを考えればキリが無さそうだ)
女友「まるで命令のデパートですね」
女「そうでもしないと女友は本当に命令無視するでしょ」
女友「ですから本当に命令無視を……」
女「そういえば女友が言っていた理由だけど……命令されたのが自分だと認識しなければ無視できる……だったっけ?」
女「そんな初歩的なことに男君が気づかないとは思えないけど」
女友「……うっかりしていたんでしょう」
女「あ、それに女友さ、一般人を巻き込んだかって嘘をチャラ男君が言及するまで口にしなかったでしょ」
女「あれも本当は開示する情報じゃなかったんでしょ?」
女友「……順序ってものがあるでしょう。話題にならなくても、あの後話するつもりでしたよ」
女「本当に?」
女友「………………」
女「………………」
女(無言で視線と視線がぶつかり合う)
女(やがて根負けしたように女友は視線を外すとポツリと呟く)
679 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/16(日) 23:56:06.50 ID:wmBtSKTz0
女友「本当は……私だって女の力になりたいんですよ」
女「……うん、分かっている」
女友「でも女だって知っていますよね、魅了スキルの力を」
女「そりゃあね」
女友「『誰かにバレた場合、即座に帰還しろ』『邪魔された場合は全力で抵抗しろ』『手を抜いて捕まることは禁止する』……と、まあこのような命令もありまして」
女「逃げるつもりなのね。でも逃がすと思う?」
女友「分かっています。全力で行きます」
女友「ですから――どうにか私を逃がさないでください」
女(女友が空中で戦闘態勢に入る)
女(私も構えを取った)
680 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/16(日) 23:56:35.36 ID:wmBtSKTz0
女「ごめん、女友……私こんなときなのにワクワクしているんだ」
女友「そうですか……たぶん、私も同じですよ」
女「そう……なら良かった。じゃあ全力で……初めてのケンカをしよっか」
女友「『吹雪の一撃(ブリザードアタック)』!!」
女(返事は氷塊の雨で)
女(不意打ち的に放たれた攻撃)
女(卑怯だとも、不躾だとも思わなかった)
女(それが女友の本気だというなら……私は真っ向から迎え撃つ)
女「『竜の闘気(ドラゴンオーラ)』!!」
女(私は全方位に向けて衝撃波を放ち、攻撃を相殺した)
681 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/16(日) 23:57:49.98 ID:wmBtSKTz0
続く。
682 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/02/17(月) 02:08:52.70 ID:WBtv7FyKO
乙ー
683 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/02/17(月) 08:35:02.63 ID:tmAMcFWk0
乙!
684 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/19(水) 23:09:26.98 ID:dmrbe4Na0
乙、ありがとうございます。
投下します。
685 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/19(水) 23:10:10.09 ID:dmrbe4Na0
女友「『大火球(ビッグファイアーボール)』!!」
女(女友の手からその背丈を優に超える火の玉が放たれる)
女(竜闘士といえど直撃すればひとたまりも無いだろうが、そのような直線的な攻撃に当たるつもりはない)
女(私はその横を竜の翼で通り抜けようとして)
女友「逃がしません!! 『竜巻(トルネード)』!!」
女(女友は新たな魔法を発動)
女(避けた火の玉の進路上に風の渦を起こし巻き込み、炎をばらまきながら風の勢いが増す)
女(複数属性の魔法を使える魔導士の特性を生かす連続した攻撃)
女「『竜の鱗(ドラゴンスケイル)』!!」
女(避けきれないと判断した私は防御スキルを発動)
女(エネルギーの球に包まれ炎の渦を完全に遮断してやり過ごす)
女(防御力こそ高いものの、このスキルには使用後動けなくなる弱点があり、当然それは今まで一緒に戦ってきた女友も知っている)
686 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/19(水) 23:10:52.19 ID:dmrbe4Na0
女友「捉えました!! 『雷轟地帯(サンダーエリア)』!!」
女(私の頭上に雷雲を放たれた)
女(それがもくもくと成長しながら広がりきり無数のイカズチを落とすのと、ちょうど同じタイミングで私も動けるようになった)
女(攻撃範囲と密度から私は避けるのは不可能と判断)
女(故に頭上を向いて)
女「『竜の咆哮(ドラゴンシャウト)』!!」
女(衝撃波を放った)
女(それは雷雲の一部を打ち抜き、結果雷は私の周囲に落ちるだけに終わる)
687 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/19(水) 23:11:19.71 ID:dmrbe4Na0
女友「この攻撃も相殺しますか……!」
女「ギリギリだったけどね。女友も良い攻撃するじゃん」
女(戦いが始まって数分が経った)
女(悔しがりながらも女友は微塵の油断もしていないようで、私から十分に距離を取っている)
女(竜闘士相手に接近戦を挑む愚を犯すつもりは無さそうだ)
女(魔導士の本領を発揮できる距離を常にキープしている)
女(私もそれを分かっているから接近を試みているのだが、女友の猛攻により阻まれている)
女(とはいえそれも長く続かないはずだ)
女(格上の私に渡り合うために、先ほどから女友は大魔法を連発している)
女(いくら魔導士の魔力が多いとはいえ、そんなに使っては尽きるのも時間の問題だ)
女(魔力を失った魔導士となればただの人)
女(だから逃走にだけ警戒して、堅実に立ち回ればいずれ女友は立ち行かなくなるだろう)
688 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/19(水) 23:11:49.71 ID:dmrbe4Na0
女友「消極的な立ち回りなのに余裕ですね女。私の魔力を切らす作戦ですか?」
女「……さぁ、どうだろうね?」
女(私はうそぶく。とはいえ親友だ、それくらいのこと分かっているだろう)
女友「魔導士に竜闘士は倒せないと……そう侮っているなら……絶対に後悔させてみせます!!」
女「じゃあやってみせてよ」
女友「いいでしょう! 『巨大(グランド)――――」
女(私の挑発に女友は右手を振り上げながら何かの魔法を発動しようとして)
689 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/19(水) 23:12:27.06 ID:dmrbe4Na0
女「…………?」
女友「ぐっ……駄目です……」
女(女友は左手で右手を掴み、胸元に引き戻しながら苦しむように悶えていた)
女「女友?」
女友「オン……ナ……。おかしい、ですよ……こんなの。親友同士……争う、なんて……」
女(何かに抵抗するようにしながら、途切れ途切れに言葉を紡ぐ女友)
女「もしかして……男君の命令に抗って……」
女友「っ……長く、持ちません…………女、今の内に私を……!!」
女(魅了スキルの命令による強制力に逆らって、自分を討つようにお願いする女友)
女(私はその親友の強かさに感心した)
女(だからこそその苦しみを早めに終わらせるために近づいたり…………せずに)
690 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/19(水) 23:13:04.21 ID:dmrbe4Na0
女「『竜の咆哮(ドラゴンシャウト)』」
女(フルパワーの衝撃波を放った)
女友「……っ!? やばっ……!」
女(苦しげからギョッとした表情に変わった女友は、慌てるようにその攻撃を避ける)
女「ああもう、やっぱり」
女友「何するんですか、女! 苦しんでいる親友に攻撃を仕掛けるなんて」
女「それが本当なら私だって心配するわよ。命令に抗おうと苦しむ演技、だったんでしょ」
女友「…………」
女「随分上手くなったね。一瞬騙されそうになったよ」
女友「……ふふっ、流石ですね。通用しませんか」
女(非難から一転、けろっと態度を変えた女友は微笑を浮かべる)
女(演技に騙され心配した私が不用意に近づいたところで攻撃でも加える予定だったのだろう)
女(相変わらず人を食ったような態度の親友だ)
691 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/19(水) 23:13:37.58 ID:dmrbe4Na0
女「そもそも最初からして不意打ちだったし正々堂々戦うはずないわよね」
女友「ええ、それも含めて私の全力ですから」
女(皮肉に対して堂々と宣われる)
女「それで小細工は終わり? だったらそろそろ幕を下ろす時間だけど」
女友「そうですね……では最後の大細工と行きましょうか」
女(女友は右手を振り上げて、先ほどは中断した魔法を今度こそ発動する)
女友「『巨大隕石(グランドメテオ)』!!」
692 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/19(水) 23:14:17.20 ID:dmrbe4Na0
女(遠く天上に生成されたのは巨大な隕石)
女友「逃げるだけの魔力を残して、その他全部を注ぎ込みました」
女友「これが私の最後の攻撃……どうか対処してくださいね」
女「いいよ、受けて立つ!!」
女(拳を構えながら私は毛ほどの油断もしていなかった)
女(生成された隕石にはかなりの魔力を感じる。魔力がほとんど残っていないのはおそらく本当だろう)
女(女友自身に何かをする力は無い。隕石だけに注意すればいい)
女(でも、女友のことだ。素直に私に向けて落とすだけ……ということはあり得ないだろう)
女(考えられるのは最初に攻撃目標としていた建物に落とすことで、慌てて守りに入った私に無茶な防御を強いる方法)
女(もしくは市街地に落とす可能性も……いやそんな誰かを巻き込む方法を取るとは思えないけど)
女(何にしろ、どこに隕石を落とされようと対処してみせる)
693 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/19(水) 23:14:54.19 ID:dmrbe4Na0
女(――と、警戒していたのにそれでも私は虚を突かれた)
女(隕石がゆっくりと術者に……女友に向かって落ちていくからだ)
女「っ、何を……!?」
女友「『逃げられない場合は自害しろ』なんて命令が……いや、嘘ですけどね」
女「だったら……!!」
女友「魔法は解除しませんよ。だって……私の親友が守ってくれるって信じていますからね」
女(にっこりと笑う親友)
女(今さらながらに姉御に注意をされたときの自戒を思い出した)
女『女友がもし私に付け込む余地があるとしたら、それは私の親友であるという事』
694 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/19(水) 23:15:23.53 ID:dmrbe4Na0
女「…………」
女(これは攻撃にすらなっていない)
女(ただの自爆だ)
女(どうせ当たりそうになったら解除するに決まっている)
女(わざわざ飛び込むなんて愚の骨頂)
女(だと……分かっているのに)
女「女友ォォォォォォォッ………!!」
女(私は隕石の落下地点に飛び込む)
女(その数瞬後、隕石は大量の破壊を振りまいた)
695 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/19(水) 23:16:05.80 ID:dmrbe4Na0
女友「信じていましたよ、女なら守ってくれるって」
女「女……友……」
女(破壊の中心点で)
女(防御も回避も迎撃も……何も間に合わなかった私は大きくダメージを受けて地べたをはいずくばっていた)
女(一方、隕石が落下する直前、私が攻撃範囲から弾き飛ばした女友は空中に浮き無傷だ)
女友「ごめんなさいね、女の思いをこんな踏みにじるようなマネをして。親友失格です」
女「そんな……ことないよ……。女友は……命令に従っただけでしょ」
女友「確かに全力で、手を抜くなという命令です」
女友「しかし方法までは命令されたわけではありません」
女友「……そうです、こんな最低な方法を思いついたのは私ですから」
女(私に勝ったのに、くしゃくしゃに顔を歪めている女友)
女(魅了スキルは感情まで操ることは出来ない。命令のために非情に徹しろということは出来ない)
696 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/19(水) 23:16:50.78 ID:dmrbe4Na0
女「あはは……何を今さら……」
女友「女……?」
女「私の親友は……初恋に悩む私に既成事実を作るようにアドバイスしたり……いつだってえげつない方法を考えてるような人だよ」
女友「……誰ですか、そんな酷い人」
女「だから……今さらそんなことで見限ったりはしないって」
女(そうだ考えることが罪になるはずがない。その実行を強制させた力の方が問題だ)
女友「おん……っ、いえ……」
女友「追っ手はこれ以上戦闘出来ないと判断。しかし破壊工作を行うだけの時間も魔力もありませんね」
女友「というわけで、これよりすみやかに逃走させてもらいます」
女(女友は何かを言おうと寸前まで出かけた言葉を呑み込んで状況を判断する)
697 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/19(水) 23:17:25.63 ID:dmrbe4Na0
女「早いね。もうちょっとゆっくりしていけばいいのに」
女友「私だってそうしたいところです。寝心地の良さそうな枕だったのに、あのベッドで結局一睡も出来ませんでしたし」
女「……あ、じゃあ最後に一つ伝言いい?」
女友「何ですか?」
女「男君に。絶対に会いに行くからって伝えといて」
女友「分かりました」
女「ありがと……じゃあまたね」
女友「ええ、また会えるそのときを待っています」
女(隕石の直撃を受けたダメージは大きい)
女(今まで気力を振り絞っていたけど、限界だった)
女(私は去ってゆく親友を見送りながら気を失うのだった)
698 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/19(水) 23:18:09.30 ID:dmrbe4Na0
続く。
699 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/02/20(木) 03:50:41.79 ID:1VXy6v2ro
乙ー
700 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/24(月) 00:33:00.17 ID:tJUygwuU0
乙、ありがとうございます。
投下します。
701 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/24(月) 00:33:35.82 ID:tJUygwuU0
女(翌朝)
女(私は神殿の医務室のベッドで目が覚めた)
女(隕石のダメージが大きかった私は女友が去ったのを見た後、気絶していたようだ)
女(騒ぎを聞きつけた巡回兵により私は神殿に運ばれて、そこで治癒魔法を受けた)
女(結果もうすでに回復に向かっていた)
姉御「それで昨夜何があったってんだい?」
女(『癒し手(ヒーラー)』として私の治療をしていた姉御こと姉御筆頭に、集まったみんなに私は事情を説明した)
702 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/24(月) 00:34:27.91 ID:tJUygwuU0
姉御「女友は魅了スキルの支配から逃れられていなかったか……くそ、気づいていればこんなことには」
傭兵「対象が余りにも限定的で、さらにあまり褒められた戦法ではないが……こうして格上を破った結果が全てか」
魔族「全く。おまえたち『クラスメイト』とやらは本当に一枚岩ではないのだな。一夜にして二人も抜けるなんて」
女「二人……? それってどういうことですか?」
気弱「あ、それなんですけど……今朝部屋に書き置きが残されていて」
女(私の疑問に気弱君が紙を見せる。それには)
703 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/24(月) 00:34:54.29 ID:tJUygwuU0
『いやー、久しぶりに旨いもん食ったで。ほんとごちそーさん。
そういうわけで俺はここらで退散させてもらうわ。
あ、『組織』にも戻らんつもりやからな。
あっちも色々ひりついてて面倒くさくてな。
面倒なことはゴメン、が俺のモットーや。適当にこの世界で好き勝手生きさせてもらうで。
ほな、じゃあな。 チャラ男』
女(とその調子に合わせたような走り書きの言葉が綴られていた)
女「そっか……チャラ男君も」
女(正直元々当てにしていなかったし、心も許していなかったからそんなに感情は動かなかった)
704 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/24(月) 00:35:26.80 ID:tJUygwuU0
姉御「メッセージを伝えるついでに『組織』から離れて、そのまま逃走する計画だったんだろうねえ」
姉御「ったく、その上、手癖も悪くて懲りちゃいない」
姉御「気弱が個人的に持っていたお金もちゃっかり盗んでいったって話だから、女も何か盗まれたかもしれないよ」
女「あーそっか、昨夜は私部屋にいなかったし……でもあんまり手元にお金持つようにしてなかったし大丈夫だよ」
姉御「ならいいけどね……ああもう、女が男のところにたどり着けるように頑張るとか、あの言葉も嘘だったんだねえ」
女(姉御が歯噛みして悔しがる)
気弱「でも、本当にチャラ男さんらしくて感心さえしました」
女(お金を盗まれたという話の気弱君なのに、のほほんとしたことを言う)
姉御「……まあ、そうだねえ。これだけ世界に危機が迫る問題だって分かっているはずなのに……それでも放り投げて逃げ出せるんだから、ある意味大物なのかもねえ」
女(一時とはいえ一緒に冒険した二人には色々と思うところがあるのだろう)
705 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/24(月) 00:35:53.52 ID:tJUygwuU0
傭兵「去った者の事を考えても仕方ない。しかし、今回のことで少女の弱点ともいえる面が露呈したな」
女(傭兵さんが話を軌道修正する)
女「弱点ですか?」
傭兵「ああ。魔導士の少女を自爆だと分かっていながら助けた」
傭兵「今後魔王城を攻め入った際に同じ事をされないとは限らない。それは少年も同じ事だ」
女「……そうですね。男君相手でも私は同じ事をしたでしょう」
女(もし男君が自分の首にナイフを当てて、これ以上傷つけられたくなかったら大人しくしろ、と脅しにもならないことを言われたら……それでも私は従ってしまうだろう)
傭兵「その気質は戦場でなければ美点なのだろうがな。さてどうするか……」
気弱「いえ、それなら大丈夫だと思いますよ」
女(傭兵さんの言葉に物申したのは意外にも気弱君だった)
706 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/24(月) 00:36:28.91 ID:tJUygwuU0
傭兵「どういうことだ?」
気弱「男さんの動機からして……そんな好意を盾にした行動は取らないはず……ということです」
傭兵「動機……? 何か知っているのか?」
気弱「えっ……あ、いや……その」
女(気弱君はどうやら独り言くらいのつもりで発言していたようだ。みんなの注目が集まって慌て出す)
女「どういうこと、気弱君? 男君の動機について、何か心当たりでも――」
気弱「あ、僕はちょっとチャラ男さんに他に盗まれた物が無いか確認してくるので失礼します!!」
女(私の問いにあたふたしながら気弱君はその場を去っていった)
707 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/24(月) 00:36:56.77 ID:tJUygwuU0
傭兵「あの様子……何やら気づいたのか?」
魔族「だったら何故共有しない」
姉御「女、あんたは大人しくしているんだよ。治療こそしたけど、あれだけのダメージだったからね」
女「えー、でも……」
姉御「代わりにアタイが気弱から聞き出しておくからさ。……まあいざとなったときの気弱はかなり頑固だから無理かも知れないけど」
女(ひらひらと後ろ手を振りながら姉御は医務室を出て行く)
女「……まあ、そっか。安静にしておかないとね」
女(女友による襲撃の被害は私だけに止まり、結果的に防げた形だ)
女(独裁都市の戦力は順調に集まっている)
女(決戦は近い、そのときに万全の状態じゃないなんて話にもならない)
女(今の私がするべきことは回復に努めることだと判断して……)
女(そう思うとダメージから来る疲れと、夜更けに起きていたことからそのまま眠りに就いた)
708 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/24(月) 00:37:25.15 ID:tJUygwuU0
姉御(アタイは医務室を出て左右を見回した)
姉御「ああもう、こういうときはすばしっこいね」
姉御(気弱の姿は近くに見当たらない)
姉御(さて、どこに向かったのか……考えてとりあえず見当は付いた)
姉御「気弱は真面目だから、言い訳のようにして出てきたけど本当にチャラ男からの被害がどれだけあったか確かめている……ってところだろうねえ」
姉御(そうなれば向かうは客室だ)
姉御(この神殿は政治の中枢としても使われる拠点だ)
姉御(そちらの方は今は決戦準備のため24時間体制で動いている)
姉御(そのように人がいるところでは流石にチャラ男も盗みは働けないだろう)
姉御(だから被害があったとしたら客室方面だ。私は足をそちらに向ける)
709 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/24(月) 00:37:51.58 ID:tJUygwuU0
姉御「さて後はどこに行ったかという問題だが……そういえば……」
姉御(最初に目が付いたのは女が使っている客室だった)
姉御「昨夜はいなかったから入られたかも知れないって言ってたねえ……」
姉御(とはいえ女子が使っている部屋に入る度胸は気弱にはないだろう)
姉御「でもまあ一応、一応。代わりに被害状況を確認するってことで」
姉御(アタイはそう言いながら部屋に入る)
710 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/24(月) 00:38:19.64 ID:tJUygwuU0
姉御(二人用の客室)
姉御(二つのベッドにはどちらも使用された形跡があった)
姉御「女友も寝るフリだけはしたって言ってたし、そのせいかね……」
姉御(それにしても……未だに歯痒かった)
姉御(女友が命令に従って動いていたことに気づけなかった自分に)
姉御(演技の可能性は思い浮かんでいたのに……それでも自然に振る舞う女友に騙された)
姉御「全く悔しいねえ……女友、あんたも悔しくないのかい」
姉御(ここにはいない人に問いかける)
姉御(女友はおそらくアタイ以上に悔しがっているだろう)
姉御(男の命令通りに動くしかないことに)
姉御(本当はアタイたちに協力したいと、昨夜女にも言ったようだ。それなのに真逆の行動をさせられて…………)
711 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/24(月) 00:38:58.50 ID:tJUygwuU0
姉御「……ん、あれは」
姉御(そのとき視界の隅に違和感を覚えた)
姉御(正体は枕だ)
姉御(枕カバーのファスナーが閉まりきっていない)
姉御(この神殿の清掃員は都市の中枢であるこの建物に勤めるだけあって丁寧な仕事を心掛けている)
姉御(アタイなら気にしないような細かいことまできっちりする人たちだ)
姉御(こんな雑をするはずがない。だとしたら……その後ベッドを使った人による仕業……?)
姉御(アタイは枕を手にとって枕カバーを取り外す)
姉御(すると中身と一緒に……一枚の紙が滑り落ちた)
姉御(アタイはそれを拾い上げて……そこに書かれた内容を読む)
712 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/24(月) 00:39:32.15 ID:tJUygwuU0
姉御「……はんっ。なるほどねえ。女友、あんたも中々やるじゃないか」
姉御(メッセージは女友によるものだった)
『女友です。
申し訳ありません、これを読まれている頃には私はそこにいないでしょう。
男さんの命令下ではこんなものを残すことが精一杯でした。
女たちが役立てることを願って、私が独自に掴んだ情報について記します。
魔王城の抜け道についてです』
713 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/24(月) 00:40:00.37 ID:tJUygwuU0
続く。
714 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/02/24(月) 04:32:46.11 ID:DCiQDWX5O
乙ー
715 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/02/24(月) 10:39:33.09 ID:laabw0rW0
乙!
716 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/02/24(月) 22:26:31.27 ID:9qgndLLy0
乙!
717 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/27(木) 00:21:50.87 ID:PTwvBPgd0
乙、ありがとうございます。
投下します。
718 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/27(木) 00:22:58.80 ID:PTwvBPgd0
女(翌日)
女(一日安静にしていた私はすっかり元気になった)
女(私、姉御、気弱君、傭兵さん、魔族さんに加えて)
女(ちょうど周辺地域を回って協力を取り付けから帰ってきた姫様と、古参会長も交えて最終確認を行っている)
姫「準備は整いました。決戦は三日後です」
女(姫さんの宣言に、ようやくこの時が来たかという心持ちだ)
女「王国に攻め入って、絶対に魔王城を落としてみせるよ……!!」
姫「一応注意しておきますが、外でそんなこと言わないでくださいね」
姫「今回、名目上は王国解放作戦です。大義名分の無い他国への攻撃はただの侵略ですから」
姫「男さんたちを、王国を乗っ取ったテロリストとして扱い、それから王国を解放することが今回連合軍が結成された目的です」
女(姫さんに注意される)
女(今回の作戦には大勢が関わる。私が分かっていないだけで、色々としがらみや建前と本音が入り交じるドロドロとした物が裏にはあるのだろう)
719 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/27(木) 00:23:28.92 ID:PTwvBPgd0
古参会長「気にすることはない。女君は彼をどう説得するかだけを考えていたまえ」
女「……ありがとうございます」
女(私の微妙な面持ちを見抜いた古参会長に声をかけられる)
傭兵「極論、今の王国は少年の魅了スキル一つで成り立っているようなものだ」
傭兵「少年を攻略することが、そのまま王国を攻略することに繋がる」
魔族「少女よ、そのための策について後で提案したいことがある」
女(傭兵さんに続いて魔族さんが言うけど……策の提案って何だろう……?)
姉御「そうなってくると女友が残してくれた情報が役立ってくれそうだねえ」
女(姉御が拳をもう一つの手にパチンと打ち付ける)
720 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/27(木) 00:24:08.79 ID:PTwvBPgd0
女「そうだね」
女(女友が残してくれた情報)
女(姉御が見つけてくれたそれについては昨日の内に目を通していた)
女(曰く、魔王城には抜け道があると)
女(元は王国の王族が使っていた城だ。有事の際に王族だけでも逃がすために秘密の抜け道が設えられていた)
女(王都の近くの森に出るそれを逆に侵入路として使ってみてはどうか、と)
女(命令が無い間に城を見回っていた女友が見つけたもので、男君はその存在も知らないようだ)
女(おそらく一番防御の堅いだろう王都をスキップして、直接魔王城に侵入できるならありがたい)
女(私としてはその情報の内容以上に、女友が男君の命令の外で残してくれたという事実の方が大きかった)
女(こちらに協力するという証だから)
女(女友が使ったベッドの枕からメモ紙が出てきたって話だったけど……よく考えてみれば襲撃から去る直前)
女友『私だってそうしたいところです。寝心地の良さそうな枕だったのに、あのベッドで結局一睡も出来ませんでしたし』
女(と、自分が使っていた枕を気にするように言葉を残していた)
女(気づけなかった私はニブチンだ)
721 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/27(木) 00:24:36.12 ID:PTwvBPgd0
女「そういえば気弱君。やっぱり男君の動機について気づいたこと、教えてもらえないの?」
気弱「……な、何の話ですか?」
女(私の問いかけに気弱君は目を逸らして答える。嘘を吐いていると誰だって分かる様子だ)
気弱『男さんの動機からして……そんな好意を盾にした行動は取らないはず……ということです』
女(昨日口を滑らせたその言葉の意味は分からないまま)
姉御「ああなった気弱は頑固でねえ。すまんね、女」
女「姉御が謝る事じゃないでしょ」
姉御「まあ流石にアタイたちに大きく不利益が出るようなことなら、気弱だって黙ること無いはずだ」
姉御「黙っていても大丈夫だと判断したことだろうから、気になるだろうけど気にしないでくれ」
女「……はーい」
女(本人よりもすまなそうにしている姉御の姿に免じて、それ以上の追求は止める)
722 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/27(木) 00:25:11.44 ID:PTwvBPgd0
女「『組織』との共闘の話って、どうなったんですか?」
女(気を取り直して私は古参会長に聞く)
女(チャラ男君は去っていったけど、その情報は本物だった……と信じたい)
女(王国をどうにかするために犯罪結社の『組織』と協力するかという話だったけど)
古参会長「『組織』とは特に話をしていないが、三日後連合軍が王国解放作戦を実行することは大々的に報じておる」
古参会長「協力するつもりなら、勝手にあちらの方で日程を合わせるだろう」
女「あ……そっか。二正面作戦をするだけだから、特に連携も取る必要がないと」
古参会長「『組織』が現れようと現れまいとすることに変わりはないからな」
723 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/27(木) 00:26:00.18 ID:PTwvBPgd0
女(私たちの準備は完了した)
女(気になるのは残る二つの勢力の状況)
女(『組織』をバックにイケメン君を筆頭とする駐留派はどう動くつもりなのか)
女(そして王国、支配派である男君はどう応じるつもりなのか)
女「あー……気になるなあ……」
724 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/27(木) 00:26:28.17 ID:PTwvBPgd0
<『組織』本部>
イケメン「三日後、連合軍が動く。僕たち『組織』もその日に合わせて動く事にするよ」
ギャル「三日後? 随分早いわね」
イケメン「ああ、トップがかなり優秀なようでね」
イケメン「生まれ変わった独裁都市の姫、そして古参商会の長の力のおかげだろう」
ギャル「ふーん、まあどうでもいいけど」
イケメン「そうだな、王国の気を引いてくれさえすればいい」
イケメン(僕の頭にあるのは作戦が上手く行くか、否かだけ)
イケメン(すなわち魅了スキルの奪取だ)
イケメン(最初からそれを目的に動いてきた)
イケメン(状況が推移して、やつが積極的に魅了スキルを使用するようになった今も変わりはない)
イケメン(いや、それ以上の旨味が増えたとも言えるだろう)
イケメン(魅了スキルによって王国を支配している現状、僕が魅了スキルを支配することが出来れば、王国もまるっと戴けるということだから)
イケメン(そうして今度こそ女を手に入れる)
725 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/27(木) 00:26:56.53 ID:PTwvBPgd0
ギャル「にしてもチャラ男も薄情者よねえ。ギャルたちや『組織』への恩も忘れて出て行くなんてさ」
イケメン「最近あいつが不満を溜めていたのは分かっていたからな。遅いか早いかの問題だったさ」
イケメン「まあ最後に重要な情報を残してくれた辺り、完全に恩を忘れたわけではないだろう」
イケメン(独裁都市に大使として向かわせたチャラ男から送られてきた手紙)
イケメン(それには情報を伝えたという旨と、『組織』から脱退すること、そして魔王城の抜け道についてが記されていた)
イケメン(最後の情報については、金目の物を探している内に見つけた情報らしい)
イケメン(男に支配されている女友が支配の外で残した情報とやら記されていて、どうやら向こうも向こうで複雑な事情があるようだが関係ない。情報の中身が全てだ)
イケメン(魔王城に直接侵入する通路の存在については喉から手が出るほど欲しかった情報だ)
イケメン(その重要さは、チャラ男が抜けた戦力の穴と十分に釣り合うほど)
726 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/27(木) 00:27:24.14 ID:PTwvBPgd0
イケメン「…………」
イケメン(世界全てが僕の都合のいいように回っている)
イケメン(三日後僕は全てを手に入れる)
イケメン(そうなるとこいつともそろそろおさらばだな)
ギャル「ん、どうしたのギャルの顔を見て? あーそういえば最近恋人らしいことしてなかったもんね。キスでもする?」
イケメン「……そうしたいのはやまやまだけどね。この後ちょっと用事があってね」
ギャル「えー。最近イケメンずっとそんな感じじゃない?」
イケメン「ごめんって、今回の作戦が終わったら思う存分付き合うからさ」
ギャル「……ならいいけど」
イケメン(ギャルは口を尖らせながらも引き下がる)
イケメン(のうてんきな提案に口調を荒げる寸前で、僕がこいつの彼氏であったことを思いだして、聞き当たりの良い言葉を並べる)
イケメン(まだ我慢だ。こいつは僕のためといって、最近ますます力を付けている。魔王城攻略に当たって、有力な駒となる)
イケメン(この脳みそ空っぽ女は、最後の最後まで自分が利用されていることに気づかないのだろう。まあそうやってコントロール出来る自信があったからこいつを選んだとも言える)
イケメン「………………」
イケメン(帰還派の連合軍と支配派の王国はどのように動くか)
イケメン(気にはなるが関係ない)
イケメン(最終的な勝者は僕に決まっている)
イケメン(ああ……三日後が待ち遠しいくらいだ)
727 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/27(木) 00:27:54.62 ID:PTwvBPgd0
<魔王城・謁見の間>
女友「――――というわけです」
男「……まあいいだろう、総合的な首尾は上々だ」
女友(私は独裁都市から帰った魔王城にて、男さんに今回の作戦の経過について報告しました)
女友(今回命じられていたことは大きく分けて三つ)
女友(まず一つは独裁都市の現状を探ること。これについては概ね達成できたと見て構わないでしょう)
女友(もう一つは独裁都市の戦力を削ること。これはユウカに妨害されて失敗)
女友(最後に……一番妖しげな企み)
女友(『男さんの命令の外ではこの情報を残すことが精一杯』という体で、男さんに命令された通りの情報を流すこと)
女友(これについては……最後に枕に注目するように言いましたが、女は気づいたのでしょうか)
728 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/27(木) 00:28:21.03 ID:PTwvBPgd0
女友(魔王城への抜け道)
女友(確かに私が発見した代物ですが、『気づいたことは全て知らせろ』という命令により男さんに共有されその存在は知っています)
女友(こんな嘘の情報を流して、一体何の意味があるのか。いつも通り男さんは命令だけして何の説明もしてくれません)
女友(考えても分かりませんが、いずれにしろ全てが男さんの手の平の上で進行しているようにしか思えなくて恐ろしいばかりです)
女友(男さんはその先に何を見ているのでしょうか?)
729 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/27(木) 00:28:47.51 ID:PTwvBPgd0
男「報告はそれで終わりか?」
女友(男さんが問います)
女友(今回命令されたことについては一通り既に述べたので……最後に大事な伝言を伝えましょう)
女友「女から男さんに伝言をもらいました。『絶対に会いに行くから』だそうです」
男「……そうか。下がっていいぞ」
女友(男さんは何の反応も見せずに、私に退室するよう勧めたのでした)
730 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/27(木) 00:29:37.89 ID:PTwvBPgd0
続く。
731 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/02/27(木) 06:47:13.09 ID:LIdwO3eWo
乙ー
732 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/02/28(金) 00:24:54.42 ID:B+auoKVBO
乙!
733 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/03/01(日) 19:58:07.79 ID:dXWyQ+D50
乙!
734 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/03/04(水) 00:18:45.89 ID:GvLpIzs10
乙、ありがとうございます。
投下します。
735 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/03/04(水) 00:19:30.27 ID:GvLpIzs10
近衛兵長(私のこれまでの人生は数奇なものだった)
近衛兵長(物心付いたときから王国の工作員としての教育を受け、それも十分となった頃命令により各地を暗躍)
近衛兵長(数年前からは長期ミッションとして元宗教都市、現独裁都市に潜入した)
近衛兵長(傀儡政権を樹立させ、富を王国に横流しする準備と共に都市の弱体化を計るも)
近衛兵長(魅了スキルを持った少年たちによって阻まれる)
近衛兵長(その後命令により王国への逆スパイとして働かせられたと思うと、王国を乗っ取るために利用される)
近衛兵長(結果こうして乗っ取った王国でNo.2としての地位に就いている)
736 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/03/04(水) 00:20:20.90 ID:GvLpIzs10
女友「近衛兵長さんは今回の命令についてどう考えますか」
近衛兵長(主との謁見を経て退出したところで、魔導士の少女に声をかけられる)
近衛兵長(同じNo.2の立場として少女とはそれなりに交流がある。元が敵同士であったためかその関係はぎこちないものもあるが)
近衛兵長「抜け道の情報を流したことか」
女友「ええ」
近衛兵長「単純に考えるならば罠だな。抜け道に入った時点でそれを封鎖することで一網打尽にする」
女友「私も一番にそれを考えました……しかし」
近衛兵長「ああ。王国の戦力は十分にある。わざわざ面倒な罠を使わずとも、正面から叩き潰せばいい」
女友「そうなんですよね……」
近衛兵長「故にもう一つ考えられる可能性として……誰かをこの魔王城に誘き出したいのではないか?」
近衛兵長「心当たりはないのか、主の昔からの知己として」
女友「心当たりは何人かいますが……その目的までは」
近衛兵長「少女に分からないことが、私に分かるわけ無かろう」
近衛兵長(それもそうですね、と魔導士の少女は頷いてその場を去っていく)
近衛兵長(独裁都市での戦闘の疲れを癒すために自室待機するように命じられていたはずだ)
近衛兵長(私も護衛を終えて待機を命じられていたため、自室に向かうのだった)
737 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/03/04(水) 00:21:01.63 ID:GvLpIzs10
近衛兵長(その夜)
近衛兵長(私は唐突に主に呼び出された)
近衛兵長(別にそれ自体は良くあることだった)
近衛兵長(珍しかったのは呼び出されたのが私だけだったということ)
近衛兵長(二人のNo.2という立場からか、もしくは魅了スキルにかかっているとはいえ未だ私のことを信用していないのか、これまで呼び出すときは必ず魔導士の少女も一緒だったからだ)
近衛兵長「呼び出したのは私だけか?」
近衛兵長(分からないことは素直に問うに限る)
男「はい。決戦を三日後に控えて……個人的に頼みたいことがあるんです」
近衛兵長(主、男の様子はいつもと違った。口を開けば命令ばかりだったのに……頼みとは一体)
738 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/03/04(水) 00:23:15.85 ID:GvLpIzs10
近衛兵長「珍しいことが続くな」
男「今回限りです。それより近衛兵長さん、俺について何か気になることがあるんじゃないですか?」
近衛兵長(ここまで命令がない会話も珍しい。私の意見を求めることもだ)
近衛兵長(どういう考えなのかは分からないが、私だって機械ではない。気になることなどたくさんある)
近衛兵長「気になること……と言われると山ほどあるが、一番は……そうだな、何故王国を支配したのかということだ」
男「王国を支配した理由は簡単です。この大陸で一番強大な王国を支配することが、全てを支配する足がかりとしてちょうどいいと判断したからです」
近衛兵長「ならば続けて質問だ。何が目的で全てを支配する?」
男「俺の夢のためです」
近衛兵長「夢とは何だ?」
739 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/03/04(水) 00:24:12.72 ID:GvLpIzs10
男「永遠の孤独です。誰にも干渉されず、誰にも邪魔されない、俺一人だけの空間」
男「あっちの世界では諦めた俺の夢が、この世界ならば叶えられる」
男「全てを支配したその中心で、俺は永遠の孤独を享受してやるんです……!」
近衛兵長(少年は両手を広げ意気込んで語る)
近衛兵長(その様子はいつもと違って、年相応に見えた)
近衛兵長「なるほどな……」
男「そんな下らないことのために、って思いましたか?」
近衛兵長「いや、微塵も」
男「本当ですか? 引かれると思ってましたが」
740 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/03/04(水) 00:24:44.62 ID:GvLpIzs10
近衛兵長「ならば逆に問うが、どのような理由で世界を支配すれば崇高だと言える?」
男「それは……」
近衛兵長「世界を支配する。そもそもが下らない行為だ」
近衛兵長「ならば理由も下らない物になって当然」
近衛兵長「世界を救うために、などと言われた方がよほど反吐が出る」
男「……ははっ、そうですね。近衛兵長さんにこのことを話して良かったと心底から思いました」
近衛兵長(少年が笑い飛ばす)
741 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/03/04(水) 00:25:20.11 ID:GvLpIzs10
近衛兵長「全てを支配するか……なるほどな、全てが繋がった」
近衛兵長「少年がこれまでにしてきた行動、その意味も」
男「分かったんですか?」
近衛兵長「ああ。少年と竜闘士の少女の奇怪な関係については聞いているからな」
男「……女友か。そっちは明かすつもりはなかったんですが」
近衛兵長「論理的に考えてだからな。正直その行為がどのような意味を持つのかは分からん。恋というものを知らずに育ったからな」
男「ハニートラップを仕掛けたこともあると聞いた覚えがありますが」
近衛兵長「あれは欲を理解していれば務まる」
近衛兵長(珍しく軽口の応酬となる。私も少年もどうやらテンションが高まっているようだ)
742 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/03/04(水) 00:25:59.94 ID:GvLpIzs10
近衛兵長「それで。私への頼みとは何だ。そういう話だっただろう?」
男「そうでしたね。二つあります。一つは三日後の決戦時に、防衛隊の指揮を取って欲しいということです。ああこれは命令です」
近衛兵長「命令か、当然承った」
男「もう一つは……こちらが頼みですね」
男「決戦を制せば、この世界のほとんどを掌握出来るといっても過言ではないでしょう」
男「そうなったら支配権を俺から近衛兵長さんに委譲したいんです」
近衛兵長「委譲……?」
男「ええ。虜になった人間には『近衛兵長の命令に従うように』という命令を下しますから、その後は好きにお任せします」
743 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/03/04(水) 00:26:35.76 ID:GvLpIzs10
近衛兵長「何故そのようなことを?」
男「支配を維持するために一々命令しないといけないなんて、永遠の孤独に程遠いじゃないですか」
男「同じ理由で近衛兵長さんに命令ではなく、頼みとしてお願いしたいんです」
男「世界支配を目的としていた元王国に従っていた身として、そういう欲望は持っていますよね?」
近衛兵長「……何の罠だ? 私が一方的に得するだけに思えるが」
男「言ったとおりですよ。俺の夢のためです」
近衛兵長「そのために支配した世界をまるっと私に譲ると?」
男「はい。……あ、でも最低限の命令として俺を裏切れないようになどの効力はそのままですからね」
近衛兵長(真意は分からないが……今の主に嘘を吐いている様子は感じ取れない)
近衛兵長(ならば私の返事は一つ)
近衛兵長「裏切るものか、私に多大な恵みをくれる主に」
男「承ってくれるんですね」
近衛兵長「もちろんだ」
近衛兵長(成り行きで仕えることになったが、今のやりとりを経て私はこのときのために今までを過ごしてきたのだと思うまでになった)
744 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/03/04(水) 00:27:04.19 ID:GvLpIzs10
近衛兵長(と、話が一段落したところで)
幼女「ねえ、パパ。まだ話終わらないの……?」
近衛兵長(そのとき第三者の、幼い声が響いた)
745 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/03/04(水) 00:27:32.14 ID:GvLpIzs10
男「……寝ておけって言っただろ」
近衛兵長(少年が不服そうに口を開く)
幼女「嫌。パパと一緒に寝るの」
近衛兵長(しかし幼女に引く様子はない)
男「分かった、すぐに行くから」
幼女「絶対に約束だからね」
近衛兵長(仕方なく少年は折れたようだ)
746 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/03/04(水) 00:28:33.86 ID:GvLpIzs10
近衛兵長「苦労しているようだな」
男「ええ、割と。まあリンクしていたときからですから元々です」
近衛兵長「ならば魅了スキルで支配すればいい」
男「駒として見るには関わりすぎましたから」
男「そうなるとあのような幼き者にまで魅力的に思うほど猿でもないですし」
近衛兵長「……まあそうなったら擁護は出来まい」
男「三日後、役割を持ってもらうつもりですから。それまではご機嫌取りしますよ」
近衛兵長(話は終わりだと言わんばかりに少年は手を振りながら、幼女も引っ込んだ寝室に向かう)
近衛兵長(私も部屋を出た)
747 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/03/04(水) 00:29:16.07 ID:GvLpIzs10
<寝室>
幼女「すぅ……すぅ……」
男「ようやく寝たか」
男(はぁ、と俺は一息吐く)
男「………………」
男(あの襲撃の日、『囁き』を受けた瞬間に思い描いていた通りに)
男(抱いた感情そのままに、ここまで突き進むことが出来た)
男(順調に進んでいる)
男(誰にも邪魔はさせない)
男(俺の夢を叶えて、理想を諦めるために――)
748 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/03/04(水) 00:29:49.25 ID:GvLpIzs10
男「必ず会いに行くから……か」
男「いいだろう。全てを終わらせよう……女」
749 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/03/04(水) 00:30:15.14 ID:GvLpIzs10
そして三日後。
異世界の命運の賭かった決戦の日を迎える。
750 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/03/04(水) 00:32:40.62 ID:GvLpIzs10
続く。
最終章が始まってから4か月。
投稿ペースが遅くなったせいで時間がかかりましたが、ようやくここまで来ました。
次回から最終局面に入ります。
最終章も残り10話前後くらいなので、付き合ってもらえると幸いです。
751 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/03/04(水) 01:43:15.46 ID:HoEWpGN5o
乙ー
752 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/03/04(水) 05:28:38.70 ID:tVkua0ptO
乙!
753 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/03/07(土) 13:48:49.08 ID:adWkq/Sh0
乙
754 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/03/25(水) 23:27:14.15 ID:FjdzGLil0
遅くなりました。
投下します。
755 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/03/25(水) 23:27:49.05 ID:FjdzGLil0
姫(私は初めて見るその光景に恐れおののいていました)
姫(武器を手に取り相手を打ち倒さんと迫る者たち、雨霰のように飛び交う魔法、気勢や怒号や悲鳴といった強い感情の籠もった声の響き)
姫(それがいたるところに溢れている場所)
姫(戦場)
姫(前の大戦の際、私は物心が付いていない子供でした)
姫(大陸でそのとき以来に起こった大規模な戦闘だと言えるでしょう)
古参会長「体が震えておるな。悪いことは言わない、今からでも帰っていいのだぞ?」
姫「会長さん……」
756 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/03/25(水) 23:28:30.40 ID:FjdzGLil0
姫(私が今いるここは今回の王国解放作戦を実行する連合軍の司令所です)
姫(戦闘中ということで色々な人が立ち替わり入れ替わりで忙しなく動いています)
姫(戦場を見ただけで震える私のような小娘がいるべき場所では無いのでしょう)
姫(それでも私はこの戦いの結末を自分の目で見届けたい、ということで自ら望んでこの場にいました)
姫(正直邪魔だと思われているでしょうが、私は独裁都市の代表であり、今回の作戦の提案者。無碍に扱うことも出来ないのです)
古参会長「全く。何ともなワガママを通したものだ」
姫(動く様子を見せない私に、会長さんは呆れた様子で呟きました)
姫「ええ、ワガママは得意なんです。元は『少女姫』でしたから」
古参会長「話は聞いたことはあるぞ」
757 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/03/25(水) 23:30:19.97 ID:FjdzGLil0
姫「私をあの操り人形だった日々から解放してくれたのは男さんです。莫大な恩があるんです」
姫「理由も目的も思惑も分かりません」
姫「それでも今の男さんを、私はおかしいと判断します」
姫「ならばそこから戻すのが私の恩返しです」
古参会長「そうか……各所への交渉、やけにはりきっておるとは思ったが」
姫「本当は直接男さんに言いたいんです。誰にだってその役割を譲りたくない」
姫「……でも、分かるんです。私の想いでは届かないだろうことが」
姫(私は視線を上に向ける)
姫(女さんは戦場上空にて王国のドラゴン部隊と戦闘中だった。数体のドラゴン相手に一歩も引かない立ち回りをしている)
758 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/03/25(水) 23:30:57.04 ID:FjdzGLil0
古参会長「あの中に私が売ったドラゴンが何体いるだろうか」
姫「そういえば古参商会はドラゴンの取り扱いもしていましたね」
古参会長「ああ。別にそのこと自体に思うところはない。商人として必要としている人に必要な物を売っただけだからな」
古参会長「だが……直近でドラゴンを取り扱ったのが、少年たちがテイムしたものだったからそれを思い出してな」
姫「男さんの話で聞きました。古参商会のスパイ騒動を解決したことも」
古参会長「秘書を過去や苦しみから解放して、私との絆も守ってくれた少年たちには感謝してもしきれない。そういう意味では姫、そなたと同じだな」
姫「なるほど……腑に落ちました。かき集めても足りなかった今回の作戦の費用。足りなかった分を私財を投入までして補った、会長の気持ちが」
古参会長「少年たちが守ってくれた物を思えばまだまだ足りないくらいだ」
姫(会長は頭を振りますが……独裁都市の一ヶ月分の運営費ほどの額です)
姫(とてつもない額だというのに……いやそれほど男さんたちの行為に感謝しているということでしょうか)
759 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/03/25(水) 23:32:41.35 ID:FjdzGLil0
古参会長「いやはや、年を取るとどうにも昔話ばかりしてしまう。大事なのは今だというのにな」
姫(古参会長はポンと手を叩いて話題を変えた)
姫「あ、すいません。会長は補給の責任者。私と無駄話している暇はありませんよね」
古参会長「いや何、本当に余裕が無ければそもそも話しかけてはおらん。次の補給が到着するまで後少しあるから大丈夫だ」
古参会長「それまでに現在の戦況を説明しておこう。ここは指令所。流れ弾が飛ばないように陣の最後衛に位置している分、状況も分かりづらいだろうしな」
姫「ありがとうございます」
古参会長「正直なことを言うと、現在連合軍は王国軍に押され気味だ」
古参会長「想定外なことが二つ発生しているからだろう。戦場に伝説の傭兵殿の姿が無いことと王国軍の数が多いことだ」
姫「傭兵さんがいないんですか?」
古参会長「ああ。元々傭兵殿からは『連合軍の指揮下で動くつもりはない、自分たちの策の下に動くつもりだ』とは聞いている」
姫「策というと魔族さんと女さんと何か打ち合わせをしているのは耳に挟みましたが」
古参会長「何を企んでいるのかは分からないが、とにかく一騎当千の竜闘士が二人いれば盤石だと思っていたところで、戦場に女君一人しかいないため目論見が外れているところが一点」
760 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/03/25(水) 23:34:26.34 ID:FjdzGLil0
姫「もう一つ、王国軍の数が多いというのは?」
古参会長「そのままの意味だ。正確には連合軍と戦闘中の数が、ということになるな」
姫(古参会長の曖昧な言い回し)
姫(この場所は連合軍の司令所。二人で話しているが、先ほどから周囲の人の行き来も激しい)
姫(つまりその無関係な人に聞かれるわけには行かない言葉を避けているということで…………)
姫「あれが動いていないというわけですか?」
姫(すなわち犯罪結社『組織』のことだ。元々、二正面作戦によって戦力の分散を計るという話である)
古参会長「その可能性が高いのだろうな」
姫「まだ王国側にあれが動いていることを気づかれていないだけという可能性も……」
古参会長「いや、無いだろう。使者の話を魔導士の少女、女友君は聞いている。王国には筒抜けのはずだ」
姫「あっ、そうでした」
古参会長「だとしてもやることには変わりない。ここを突破して、王都にたどり着き、何としても魔王城までたどり着かねば」
姫(今の戦場は王国の郊外だ。王都にあると言われる魔王城まではまだまだ遠い)
761 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/03/25(水) 23:35:43.42 ID:FjdzGLil0
古参会長「さて、時間だな。私は行くぞ」
姫「貴重な時間を割いてくれて、ありがとうございました」
姫(去っていく会長に私は礼をする)
姫「…………」
姫(どうやら戦況は芳しくないようです)
姫(王国の力は強大。それに対抗しうる力をかき集められたのは奇跡で一回限り。作戦を失敗すれば、王国の支配はもはや誰にも止められないでしょう)
姫(戦う力も戦場を動かす権限も持たない私)
姫(唯一出来ることといえば)
姫「お願いします、女神様。私たちを勝たしてください」
姫(願うこと)
姫(それは女神教の大巫女として祈りは欠かしたことが無い私には得意分野でした)
762 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/03/25(水) 23:36:26.72 ID:FjdzGLil0
<王都近郊>
女友「はぁ……」
女友(私は空中で溜め息を吐きました)
女友(現在の状況は連合軍による王国解放作戦の進行中です)
女友(男さんの魅了スキルによって王国に味方するしかない私は防衛する側と言えます)
女友(連合軍はかなりの戦力を揃えてきたようですが、王国軍だって盤石の準備をしています)
女友(総司令官を命じられた近衛兵長さんの指揮の下、ほぼ全勢力で以て当たっているはずです)
女友(遅れは取らない、いえこちらが圧倒することもあり得ますね)
763 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/03/25(水) 23:38:06.19 ID:FjdzGLil0
女友(――と、想像するしかないのは私がその場にいないからです)
女友(連合軍に王国軍の全力で当たった結果、生じる当然の問題)
女友(すなわち『組織』の攻撃を如何にして防衛するかということです)
女友「うじゃうじゃいますね……」
女友(浮遊魔法で宙を行く私の眼下に見えてきたのは地上を埋め尽くす『組織』の構成員)
女友(ざっと数えて5000人ほどでしょうか。それら全てが王都に向けて進んでいます)
女友(浮遊魔法に加えて透明化魔法をかけているため地上の構成員たちに気づかれていませんが、気づかれた瞬間魔法や矢が飛んできてたちまち危機に陥るでしょう)
女友「『組織』はどうやらかなりの数を揃えてきたようですね」
女友(チャラ男さんの話が嘘だったら、私の仕事も無くなったのですが)
764 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/03/25(水) 23:43:16.41 ID:FjdzGLil0
女友(『組織』に対しての防衛は男さんの命令によって私に任されました)
女友(しかし、何度も言っていますが現在連合軍相手にほとんどの戦力を割いていますし、何かあったときのための人員を王都と魔王城にも配置しなければなりません)
女友(結果、『組織』防衛にかけられる人員は――2人)
女友(私ともう1人で5000を越える数を相手しろ、というわけです)
女友(見た感じ『組織』の構成員にそこまでの練度は無いようですので、魔導士である私なら一度に十数人ほどは相手出来るでしょう)
女友(ですがそれが限界で、まともに戦えば一瞬でやられるに決まっています)
女友(男さんが私への嫌がらせにこのような配置にしたのか?)
女友(今の男さんがおかしくなっているとはいえ、そこまでのことをするはずがありません。勝算があっての行動です)
女友(鍵となるのはもう一人の存在)
765 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/03/25(水) 23:45:22.18 ID:FjdzGLil0
幼女「空飛んでる!! あ、ねえねえ、お姉ちゃん!! 人がいっぱいいるよ!!」
女友(私の脇に抱えている幼女の発言)
女友(私が独裁都市から帰ってきたときには、集まった宝玉を使い既に呼び出されていた存在)
女友(つまりは――これまで魔神と呼んできた存在です)
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