男「恋愛アンチなのに異世界でチートな魅了スキルを授かった件」 3スレ目

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

638 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/03(月) 00:20:47.80 ID:YpY4jEFX0



姉御「だぁっもう、まどろっこっしいねえ!」

姉御「ストップだ、ストップ!」

姉御「そうやって言い合ってたら何の話もまとまらないだろう!」



女「だけど……」

姉御「だけども何もない! こんな空中でする話でもないだろう! 落ち着ける場所に移動するよ!」



女(食い下がろうとする私にピシャりと言い放った後、姉御は傭兵さんの方を向く)



姉御「本当に戦う意志は無いんだろうね?」

傭兵「ああ。魂に誓って」

姉御「だったら案内するよ。正直あんたたちの持っている話も気になるところだ」

傭兵「感謝する」



姉御「……あ、でも、気が向いたらでいいからアタイと一戦交えてくれると助かるねえ」

姉御「武闘大会の予選の時は不甲斐ないところをみせたけど、あのときから成長したからさ」

傭兵「いいだろう。あのときは結局拳を交えなかったからな」



女(姉御は話をまとめながらも、ちゃっかり傭兵さんと再戦の約束を取り付ける)

639 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/03(月) 00:21:56.66 ID:YpY4jEFX0



女(そうして行きは二人だったのに、女友、傭兵さん、魔族さんと三人を加えた一行で、独裁都市の中心、神殿前に着地して)



チャラ男「ようよう、やっと帰ってきたやな。入れ違いだったみたいで待ちぼうけ食らったで」



女(軽薄な調子の声が私たちを出迎えた)



女「チャラ男君……? でも、どうしてここに……」

女(最初は気弱君と姉御と一緒にパーティーを組んでいて武闘大会に出るべく向かった町で出会ったけど、何だかんだあって大会の後は私たちを裏切り駐留派に合流したクラスメイトの名前だ)



女(そう、駐留派であるから本来は敵であるはずなのだ)



チャラ男「ちょっと『組織』からアンタたちに話を付けて欲しいってことで、クラスメイトの中から暇している俺が選ばれてな」

姉御「……。だとしてもあんた、よくアタイの前に顔を出せたねえ?」

チャラ男「ははっ、やっぱり宝玉を盗んだことを怒っているんやな? まあまあ、そんな昔のことは水に流そって。俺は『組織』から大使やぞ、ちゃんと丁重に扱わなければ問題に……」

姉御「問答無用!!」

チャラ男「いたっ……!?」



女(姉御がチャラ男君に駆け寄り頭にゲンコツを落とす)

640 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/03(月) 00:22:28.21 ID:YpY4jEFX0



女友「まあまあ、姉御。気持ちは分かりますが、そこらへんにして……」

女(女友がその対応に走るのを横目に私は率直な感想を呟いた)





女「敵なのか、味方なのか……分からない人がたくさん集まったなあ……」



女(帰還派の私たち、駐留派からの大使、復活派の二人、支配派から抜け出した女友)

女(何の因果か、ここに全勢力の人間が揃った)



女(そしてそれぞれが話を用意している)

女(力押しで解決する問題ではないからこそ、情報は大事だ)

女(何としてでも男君の元に辿り着くために)

641 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/03(月) 00:26:53.79 ID:YpY4jEFX0
続く。
642 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/03(月) 01:34:10.53 ID:0XP9ukIJO
643 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/02/03(月) 10:01:09.05 ID:Lf/yFej4o
乙ー
644 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/04(火) 16:47:06.67 ID:1DBF+ZlEO
乙!
645 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/11(火) 02:22:02.46 ID:J9Cxm/0x0
毎度毎度、乙ありがとうございます。
励みになります。

投下します。
646 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/11(火) 02:23:03.20 ID:J9Cxm/0x0



女(私は神殿に集まったメンバーを見回す)

女(私、姉御、女友、傭兵さん、魔族さん、チャラ男君に加えて)



チャラ男「よっ、久しぶりやな、気弱」

気弱「わっ、チャラ男さん。久しぶりです」



女(神殿で事務作業を手伝っていた気弱君が合流して七人だ)



チャラ男「何や、普通の反応やな。姉御みたいに怒られるかと思ったけど」

気弱「今から大事な話し合いなのに邪魔するのも申し訳ないですし……それに僕の分まで姉御が怒ってくれたのは見て取れるので」

チャラ男「ほんとやで、ああもうまだ痛い……」



女(チャラ男君はしきりに頭のゲンコツされた部分を撫でている)



姉御「さっきのでも足りないくらいだよ。全く、持ってきた話ってのがしょうもなかったらもう一発……いや関係なく後でもう一発だね」

チャラ男「酷くない?」



女(姉御はまだ癇癪が収まらないようだ)

647 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/11(火) 02:23:34.82 ID:J9Cxm/0x0

女友「はいはい、静かにしてくださーい」



女(女友がパンパンと手を叩きながら呼びかける)

女(話し合いの進行は女友が率先して取ってくれることになった)

女(久しぶりに見る女友らしい姿に私は感慨深い気持ちになる)



女友「さてそれでは四派閥情報交換検討会兼王国対策会議の方を始めて行きますが……」

チャラ男「何や、その名前?」

女友「私は今決めました。ってどうでもいいところで引っかからないでください」



女(開始早々チャラ男君が横槍を入れる。いやでも長くて気になるところだ)

648 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/11(火) 02:24:05.35 ID:J9Cxm/0x0



女友「名前の通りそれぞれが持ち寄った情報を交換検討して、どうにか王国に対抗する方法を考えようということです。そのためにも最初は……」



傭兵「私が話そうかな」

女友「傭兵さん」

傭兵「私の情報が一番直近で知らない者の方が多く顛末も気になっているだろう」

傭兵「それに一番この場で信頼されていないようだからな」

傭兵「情報を開示することで協力するつもりがあるところを早めに示したい」

女友「うーん、そうですね……分かりました、ではお願いします」



女(挙手した傭兵さんに女友が発言権を譲る)



傭兵「ありがとう。では話そう」

傭兵「事の始まりは私たちが八個目の宝玉を手に入れたことで――――――」

649 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/11(火) 02:26:04.70 ID:J9Cxm/0x0

女(そして傭兵さんは語った)

女(宝玉によって戦力を呼び出し、しかし敵対することになって、その後男君によって蹂躙されて、今は使命も何も無い、と)



女「…………」

女(気になる情報が渋滞している。一つ一つ確認しないと)



姉御「宝玉で呼び出して戦力の増強ねえ。魔神復活ばかり言ってたから盲点だったよ」

女友「そうですね、私も見落としていました。男さんが気付かなかったらヤバい事態になっていたかもしれませんね」

女(私も同じだ。まあ女友も気づけなかった計画に私が気づけるはずがない)



チャラ男「でも最後には全員死んだってか。良い女もおったやろうに残念やな」

気弱「もう、チャラ男さん! ……えっと、魔族さんでしたか。失礼なことを……」

魔族「別に気にしていない。ただ同じ種族のやつらが死んだというだけだ。それに今の私には傭兵一人さえいればいい」



女(チャラ男君の軽薄な言葉に、気弱君が気を遣うが、魔族さんは気にしている素振りもない)

女(……っていうか二人の関係って、結構……その……)

650 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/11(火) 02:26:48.09 ID:J9Cxm/0x0

傭兵「そうだ、気になることがある」

傭兵「魅了スキルの効果対象が『魅力的だと思う異性』というのは間違いないな?」

女「はい、その通りです」



傭兵「だが、今回少年は当然のように女性の魔族たちを虜にしていた」

傭兵「話を交わしたことすらない者を魅力的だと思うようなものなのか?」



女「あ……言われてみれば……」



女(そうだ、魅了スキルは女性をお手軽に支配できるスキルのように見えて、意外と色々な条件が存在する)

女(そのせいで私と男君の関係も拗れたわけだし)

651 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/11(火) 02:27:32.42 ID:J9Cxm/0x0



女友「それなら私も同じ事を疑問に思って聞いたことがあるんですが――」

女友「男さんが言うには『どいつもこいつも俺の駒になると思えば魅力的だろう』ということみたいです」



女「それは……」



女友「実際女と別れてから魅了スキルを失敗したことは一回もありませんでしたし、本当のことなんでしょうね」

女友「というかその段階で手間取っていたらこんなに早く王国を転覆させることは出来せんよ」



女「……それもそうだけど」

女(魅力的かどうかには本人の認識が大きく関わる)

女(男君はそこまで割り切った考えをして……いや、でも)

652 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/11(火) 02:29:15.62 ID:J9Cxm/0x0

傭兵「だとしたらどうして魔族は虜になっていない?」

傭兵「先ほどの戦闘、囲んでいた魔族を対象に放った魅了スキルの範囲に魔族もいたぞ」



女友「あっ、それもそうですね。以前の老婆に化けたときの記憶に今も引っ張られているとか……?」

女友「いや、でも王国では普通に年配の市民にも魅了スキルをかけていましたし……」



魔族「確か術者に特別な好意を持っている場合も無効だという話だったが、当然私は少年にそのような好意を持っているわけではないぞ」



女(魔族さんも口を挟む)



女「…………」

女(他は虜になったのに、魔族さんだけならなかった理由)

女(それは魅了スキルの条件から考えて、男君が魅力的だと思わなかったからとしか考えられない)

女(駒という考えからすれば、変身を使えて強い魔族さんは魅力的なのに……それでも思えなかったのは)

653 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/11(火) 02:30:04.47 ID:J9Cxm/0x0



女「傭兵さんと魔族さんのことをよく知っていて……それでいて二人が特別な絆で結びついていると思ったから……なのかな?」

傭兵「どういう意味だ?」



女「男君はお互いがお互いを想い合う関係が恋愛の理想なんです」

女「話によるとそのとき背中合わせで戦い抜くつもりだったんですよね」

女「それで男君は自分の理想の関係を体現している二人を見て……魔族さんをそこから奪うなんて出来なかった」

女「うん、いくら表面上変わっていても男君はそんなこと出来ない」

女「だから魔族さんだけ虜にならなかった……」





傭兵「……いや、それは間違っているな」

女「え?」

女(傭兵さんの否定に思わず顔を上げると、呆れたように溜め息を吐いていた)

654 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/11(火) 02:30:43.07 ID:J9Cxm/0x0

傭兵「私と魔族がお似合いの関係だと? 少年も少女も節穴だな」

傭兵「私の好みはお淑やかな女性だ。気の強い魔族も悪くはないが、もう少し落ち着いて欲しい」



女「え?」



魔族「言うじゃないか、傭兵よ。私だっておまえの何を考えているか分からないところは苦手だ」

魔族「いざというときに頼れるのは良いところだがな」



女「え?」



傭兵「言葉使いももう少し直して欲しい。まあ姉様に啖呵を切ったときは愉快だったがな」



女「……」



魔族「それを言うならそちらこそ私を抱えて飛ぶとき全く配慮してなかっただろう。お陰で揺れが酷かったぞ」

魔族「まあそれでもおまえに包まれている安心感の方が大きかったが」



女「……」



655 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/11(火) 02:31:10.81 ID:J9Cxm/0x0

女(きょとんとした顔で周りを見回す。どうやら二人以外は私と同じ反応のようだ)

女(そして二人はというと至って真面目な顔つきでのろけているわけではないようだ)



女「え、えっと……それではお二人はお互いのことをどのような存在だと思っているのですか……?」



女(私はおずおずと二人に問う)





傭兵「共に生きていくと決めた者だな」

魔族「ああ、果てるそのときまでずっと一緒だ」





女(当然という顔つきで答える二人) 



女「………………」

女(それって実質結婚じゃないんですか?)

女(とはその場にいる誰も口に出すことが出来なかった)

656 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/11(火) 02:31:43.82 ID:J9Cxm/0x0

女(傭兵さんと魔族さん)

女(唐突なのろけ話に困惑する私たちだが、ある意味それで分かったこともあった)



女「傭兵さん、あなたを味方だと認めます」

傭兵「急にどうした?」

女「理屈はないです。話して、触れ合ってみての私の直感です」



傭兵「そうか……学術都市の件はすまなかったな。使命のためとはいえ、あのようなことをしてしまって」

女「もう過ぎたことですから」

傭兵「お詫びになるかは分からないが、必ず少女が少年のところまで辿り着けるよう協力しよう」

女「ありがとうございます」



傭兵「もっともその後どのような結末になるかは二人次第だ」

女「良い報告が出来るように頑張ります」



女(傭兵さんが差し出した手を私は握り返す)

657 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/11(火) 02:32:28.44 ID:J9Cxm/0x0

女友「さて、これで元復活派からの報告が終わって……そうですね、次は私から話しましょうか」

女(女友は進行をしながら、次の話し手に進み出る)



姉御「そうだねえ、男の元にいたアンタには色々聞きたいことがある」

姉御「まず率直になんだけど、今の男の目的は何なんだい?」



女友「……先に断っておきますが、私は知らないことの方が多いです」

女友「今の男さんは命令以外に話すことはめったになく、私に何かを打ち明けたり相談したりなんてしませんでしたから」

女友「それでも今までの行動などから察するに……今の男さんの目的は元の世界への帰還では無い、のだと思います」



姉御「今までそれを目標に頑張っていたのにかい?」



女友「ええ。私がここ独裁都市に向かう直前には宝玉が王国にゲートを開けるために必要な八個は集まっていました。周辺地域に宝玉を差し出すように通知した結果ですね」

女友「しかし、それでも男さんは特に行動を変えませんでした」

女友「帰還のための準備も、これ以上宝玉はいらないともしなかったんです」

658 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/11(火) 02:34:03.17 ID:J9Cxm/0x0

女(宝玉は数を集めることで力が増す)

女(八個以上集めて出来ること……それは十個で高位存在を呼び出すか、十二個集めて――)





女「もしかして男君は……魔神を呼び出すつもりなのかな……?」





女(私はポツリと呟く)

女(みんな同じことを考えていたのか、特に反対の意見は上がらなかった)

659 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/11(火) 02:34:59.43 ID:J9Cxm/0x0

女友「考えられる可能性ですね」

女友「男さんは魔神の『囁き』スキルによって今の状態になりました」

女友「その上時折虚空に向かって話していたり、おそらく今も魔神とのリンクは切れていないのでしょう」



傭兵「それで少年が絆されたか、懐柔されたか……あるいはスキルの効果で自分を復活させるように命令されたという可能性もあるのか?」

女友「いえ、『囁き』はあくまで対象の欲望を解放するスキルです。魅了スキルのような対象を思い通りにするという効果はないはずです」

傭兵「そうか。ならば少年自身が考えて魔神の復活を私たちに代わって成し遂げるというのか」





女「魔神を復活させたいのは分かったけど、それ自体が最終目的だとは思えない」

女「結局男君は何がしたいの?」

女友「すいません、それは私にも……」



女(私の問いに女友は力無く首を振る)

660 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/11(火) 02:35:48.02 ID:J9Cxm/0x0



気弱「王国に内乱を起こして、罪の無い一般人もたくさん巻き込んで」

気弱「そして支配が完了したら周辺地域にも宣戦布告紛いで混乱を招き、さらには魔神を呼び出そうとしている……」

気弱「男さんはそんな悪逆的な振る舞いをするような人では無いと思ってたんですが……僕が何も分かっていなかったって事でしょうか?」





チャラ男「……ん、今気弱何て言ったんか?」

気弱「えっと、男さんはそんな悪虐的な……」

チャラ男「違う違う、その前や。一般人もたくさん巻き込んだとか、どうとか」

気弱「言いましたけど……それの何が問題なんですか?」



チャラ男「いや、俺の知ってる情報と齟齬があったからな」

チャラ男「『組織』の情報網によると、王国で本格的な内乱が起こる前日、不自然に人の流れが誘導されていて、戦闘に巻き込まれた一般人はほとんどいなかったって話や」



気弱「え、ですが内乱の時ちょうど王国にいた秘書さんが言うには、多くの民が巻き込まれたって……」

チャラ男「どういうことや……? あ、言っておくけど、俺が嘘吐いてるわけやないからな」

チャラ男「というかこれくらい王国内の情報を確認すれば分かることやないか」

気弱「王国の警戒が強くて、独裁都市には全く情報が入ってないんです」

気弱「さっきの情報も秘書さんがたまたま……いえ、おそらく男さんの命令で探りに来たときにした話なので」

チャラ男「へえ、遅れとるなー。まあそういう諜報活動の類は『組織』の方が得意か」



女(何気ない会話から判明した帰還派と駐留派が掴んでいる情報の違い)

661 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/11(火) 02:37:19.40 ID:J9Cxm/0x0

女「本当なの、女友?」



女(帰還派の私は気弱君と同じ認識だ)

女(幸いにもここにはその出来事を一番近くでみていただろう人がいるので問う)



女友「……そういえばその疑問がありましたね」

女友「ええ、チャラ男さんの言っていることは事実です」

女友「男さんは魅了スキルを駆使して、内乱を起こす前日には一般人の避難を体制側に気づかせないまま完了させましたから。巻き込まれた人はいないでしょう」



女「男君なら可能か……首謀者だから安全地帯とかも分かるだろうし」

女「でも、だったらどうして秘書さんが嘘を吐いたのか……あのとき男君の命令で動いていたわけだし、男君が意図したことなの?」



女友「はい。布石として嘘を吐かせた、と呟いたのは聞きましたが……何の布石なのは私にもさっぱりで……」

女「布石か……」



女(本当は一般人を保護していた男君)

女(なのに秘書さんを通じて私たちに一般人も巻き込んだと嘘を吐いた)

女(その行動に何の意味があるのだろうか?)

女(これも男君の目的とやらに関わってくるのだろうか?)

女(男君の心証を悪くするくらいの効果しかないと思うんだけど…………)

662 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/11(火) 02:37:49.91 ID:J9Cxm/0x0

姉御「だぁっもう。分からないことばかり増えるねえ」

姉御「別れ際の言葉からして男は今も女のことを思っている」

姉御「そして傭兵さんたちから聞いた様子からして、男が王国をわざわざ支配した理由も女が絡んでいる」

姉御「何がしたいのか分からないけど、そんなに女のことを思うなら側にいてやることが一番じゃないかい?」



女(姉御の言う通りだ)

女(私は男君の側にいれればそれだけで幸せだったのに……男君は違うっていうのだろうか?)

663 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/11(火) 02:38:47.12 ID:J9Cxm/0x0



チャラ男「男は元の世界に戻るつもりはないんやろ?」

チャラ男「それでわざわざ王国を支配したってことは、俺みたいに欲望のままにハーレムを作りたくなったとかやないのか?」



女友「あり得ませんね。私が基本的に側にいましたが、男さんはそのような命令をしたことはありません」

姉御「適当なことを抜かすようならぶっ飛ばすよ」



チャラ男「おお、怖い怖い。じゃぶっ飛ばされない内に俺も話しとこっかな」



女(チャラ男君はおどけるようにして女友と姉御の集中砲火をかわす)

女(駐留派、バックにいる犯罪結社『組織』は何を目的に私たちに接触をもくろんだのか)



664 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/11(火) 02:39:36.34 ID:J9Cxm/0x0

チャラ男「俺からの話は提案ってことになるな。独裁都市は戦力を集めて近く王国を攻略にかかるんやろ?」

女「うん、そうだけど」

チャラ男「その作戦に『組織』も一枚噛ませて欲しいってところでな」



女「……続けて」

チャラ男「まずそもそもなんやけど、『組織』は今の王国が支配されて各地にも緊張感が漂うこの状況は歓迎してなくてな。平和ボケしてた方が色々と事も運びやすいし」

女「……是非はともかくとして、王国をどうにかしたいという気持ちは同じと」

女「だけど独裁都市やそれに協力する古参商会にも体面があるから、犯罪結社なんかと協力するわけにはいかないと思うよ」

女「大体協力するフリして裏切るなんて平気でしそうだし」



女(そもそも目の前のチャラ男君だって、最初は仲間面していて裏切った存在だ)

665 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/11(火) 02:40:32.63 ID:J9Cxm/0x0

チャラ男「そこらへんは『組織』も理解しているみたいでな」

チャラ男「というか『組織』こそ表の勢力と手を組んだとバレたら裏の世界での求心力が失われるし」



チャラ男「だから協力は最小限、王国に攻め入る日取りを一緒にする、これだけや」

チャラ男「独裁都市側と『組織』側の二正面作戦で、王国の防御を分断出来るだけでもありがたいしな」

チャラ男「『たまたま攻める日が被っただけだ』ってことにすれば体面も保てるやろ?」



女「……姫様や古参会長に相談しないといけないから、今ここで返事は出来ないけど提案はしてみる」

チャラ男「頼むでー。まあ俺なんかに頼む仕事やし、『組織』も是が非でもとは思ってないやろしな」



女(私個人としては魔王城に辿り着けさえすればいいので了承したかったが、そういう事情で返事は保留した)



666 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/11(火) 02:41:00.36 ID:J9Cxm/0x0
続く。
667 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/11(火) 06:19:54.37 ID:Dt3ZIREKO
乙!
668 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/02/11(火) 14:21:41.44 ID:/u9N0jBPo
乙ー
669 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/16(日) 23:37:15.33 ID:wmBtSKTz0
乙、ありがとうございます。

投下します。
670 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/16(日) 23:37:55.87 ID:wmBtSKTz0



女(その後の会議は細々とした情報の共有や、これから起こり得る事への対策などをやって夕方頃にお開きになった)



女(夕食まで時間があるという事で、姉御が早速傭兵さんに挑戦して善戦こそしたものの返り討ちにあって、それを見ていて大笑いしたチャラ男君に八つ当たりしたり)



女(元々は敵と言っても、女友は男君に操られていただけだし、傭兵さんと魔族さんは使命を捨てたからか取っ付きやすくなっているし、チャラ男君はその持ち前のキャラでなし崩し的に馴染んでいた)



女(みんなで着いた夕食の席では)



チャラ男「なるほどそんなことが……よし、分かった!!」

チャラ男「俺も全面的に女が男のところにたどり着けるように協力するからなっ!!」

姉御「アンタ、よく言ったねえ!!」

気弱「ちょ、ちょっと二人とも酔いすぎですよ」



女(酔ったチャラ男君が調子よくそんなことを言って、姉御がその背中をバシバシ叩く)

女(その間で気弱君がおろおろしていた)



女(そして酔い潰れたチャラ男君は気弱君が介抱するということで部屋に運び)

女(傭兵さんと魔族さんも協力者という事で神殿内の客室が一部屋準備されて)

女(女友は私が寝泊まりしている部屋にやってきた)

671 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/16(日) 23:39:00.01 ID:wmBtSKTz0

女友「こうして二人きりになるのも久しぶりですね」



女(元々私が与えられた部屋は二人用の部屋で、今までそれを一人で使っていたものだ)

女(その今まで使っていなかったベッドに寝転がりながら女友が言う)



女「学術都市にいたとき以来だからそこまで期間は空いてないはずなのに……本当久しぶりって感じ」

女(私もその隣のベッドに寝転がる)



女友「はぁ、今日は本当しゃべり倒しましたね」

女「何か堰を切ったような感じだったね」

女友「王国にいたときはほとんど話なんてして無かったですから。男さんの命令を受けて、行動しての繰り返しで……たまに今後の方針を話し合うときくらいだったでしょうか」



女(おしゃべり好きの女友には地獄の環境だっただろう)



女「そういえば……男君は元気なの?」

女友「体調的なことを言えば元気ですよ。精神的に言うと……いつも無機質な目をしていて、私から言わせると死んでいるようなものでした」

女「……そっか」

女友「本当に男さんは……何を考えているんでしょうか? 立場上近くで行動していた私にも全く分からなくて……」



女「見ても分からない、考えても分からない…………だったら直接問いただすだけだよね」

女「うん、そうだよ。それに結局どんなことを考えていようと、私のすることは変わらないし!!」

女友「そうですね」

女「自分から振って難だけど、もうこの話はやめ、やめ! 違う話しよ、女友。王国で面白いこととかなかったの」

女友「雑なフリですね……。あ、でも面白いことと言えば……」



女(そうして私と女友の話は盛り上がり、どちらからともなく寝始めるまで続いたのだった)



672 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/16(日) 23:39:47.23 ID:wmBtSKTz0

<一方その頃>





気弱「ふぅ……ようやく寝ましたね」

気弱(僕は自室のベッドの前で一息吐く)





チャラ男「んー……だから…………言ってるやろ……」

気弱(寝言を言っているのはチャラ男君。酔った彼をここまで運んで寝かしつけるのは思いの外骨が折れた)



気弱「でも久しぶりに会えて良かったな」



気弱(頑張って手に入れた宝玉を持ち逃げされるという手酷い裏切りを受けたけど、僕はチャラ男君のことを嫌いになれなかった)

気弱(姉御には虫が良すぎる、って呆れられるかもしれないけど)



気弱(もう一つのベッドに寝転がる。もう夜も遅いし、寝ようと思って目をつぶるけど……)

673 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/16(日) 23:41:21.57 ID:wmBtSKTz0



気弱「眠れない……」

気弱(目がさえていた。理由は分かっている。頭の中で渦巻いている思考のせいだ)





気弱(今日の会議でも散々話題になった男さんの目的)

気弱(みんなが分からなくて頭を悩ませていたそれが――――分かったかもしれないということが気になるからだろう)





気弱「…………」

気弱(事の始まりは学術都市だ)

気弱(男さんは女さんに告白された)

気弱(おそらく普段の態度やこれまで聞いた話からして、男さんは女さんのことを好ましく思っている)

気弱(そのまま何もなければカップル成立するはずだったのに……そこに襲撃があった)



気弱(男さんと僕には似た一面がある)

気弱(だから女さんから表面的に話を聞いただけなのに……そのときの男さんの心情が手に取るように分かった)

674 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/16(日) 23:42:26.82 ID:wmBtSKTz0



気弱(不安だ)



気弱(そこに異世界という舞台、魅了スキルという力に魔神の『囁き』スキルまで加わった結果……)

気弱(欲望そのままに、男さんはその不安を払拭するためにここまでのことをしでかした)





気弱(だとしたら……僕は到底男さんのことを責める気にはなれなかった)

気弱(僕だって同じような状況になったらそんなことをしないとは言い切れないから)





気弱「僕は運が良かったんだな……」





気弱(このことを本当はみんなに話すべきなのかもしれない)

気弱(みんな気になっていたし、不安に思っているのだから)

気弱(でも僕は男さんに共感してしまったから)

気弱(裏切りだとしても……誰にも打ち明ける気にはなれなかった) 



気弱「バレたら姉御に怒られるかもな……」



気弱(恋人の顔を思い浮かべてクスっとなって……そうして力が抜けたのが良かったのか、僕は吸い込まれるように眠りに就いた)



675 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/16(日) 23:43:20.73 ID:wmBtSKTz0





 誰も彼もが眠りに就いた夜更けの独裁都市。

 そこに蠢く影があった。





 空中を滑るように動き、時折立ち止まる。

 周囲を見回す仕草からして、どうやら自分がどこにいるかを確認しているようだ。



 そうして辿り着いた先は……何の変哲もない建物だった。

 しかし、その影は知っていた。



 そこは重要な拠点だと。

 古参商会が王国を攻略するためにかき集めて独裁都市に運んだ物資が貯蔵されている、と。

 ここを攻撃されたら損害は量り知れず、立て直すことも難しい。

 故に極少数しかこのことを知らない。



「………………」

 影は手をその建物に向けて。

 口を開き、魔法を紡ごうとして――――。





676 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/16(日) 23:54:17.99 ID:wmBtSKTz0







女「こんなところで何をしているの、女友?」







 いつの間にか影の後ろに竜の翼をはためかせる少女、女がいた。

 影は、女友は振り返って答える。



女友「何って……夜中の散歩ですよ」

女「そう? じゃあ、私を起こさないように細心の注意を払って部屋を抜け出したのは、ただの親切だったってわけ?」



女友「ええ、その通りですよ。結局起こしてしまったみたいでごめんなさいね」

女「いいよ、気にしてないから。それにしてもこの場所に気付くなんてね」



女友「……はて? この場所がどうかしたんですか?」

女「昼間普通に過ごしているように見えて探りを入れてたんだ」



女友「よく分かりませんがユウカもこの場所にいるってことはまさか私を尾行でもしていたんですか、あんまり良い趣味じゃないですよ」

女「ごめんね」

女友「いいえ、気にしてませんよ」



女「………………」

女友「………………」



677 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/16(日) 23:54:48.28 ID:wmBtSKTz0



女「理屈は無い。話して、触れ合ってみての私の直感」

女「ねえ、女友って――今も男君の支配から逃れられてないんじゃないの?」

女「自由になったフリして……独裁都市に潜入して、攻撃するように命令されているんじゃないの?」



女友「……はぁ。男さんの支配から逃れられていないって……何を根拠にそんな……って直感でしたね」

女友「でしたらそうですね……理屈的に考えましょうか。男さんは私にどんな命令をしたっていうんですか?」



678 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/16(日) 23:55:27.41 ID:wmBtSKTz0



女「とりあえず大きなものが『独裁都市に潜入して攻撃しろ』って命令だとして」

女「『怪しまれないように命令を無視したという演技をしろ』『独裁都市の重要拠点を探れ』『信じさせるために指定した情報は開示しろ』『都合の悪い情報は開示するな。ただし疑われそうな場合は臨機応変に』って感じで」

女「後は『裏切るようなことは禁止する』とか『余計なことを話すな』とか……まあそういう命令は元々かけているだろうけど」



女(まだまだ細かいことを考えればキリが無さそうだ)



女友「まるで命令のデパートですね」

女「そうでもしないと女友は本当に命令無視するでしょ」

女友「ですから本当に命令無視を……」



女「そういえば女友が言っていた理由だけど……命令されたのが自分だと認識しなければ無視できる……だったっけ?」

女「そんな初歩的なことに男君が気づかないとは思えないけど」



女友「……うっかりしていたんでしょう」



女「あ、それに女友さ、一般人を巻き込んだかって嘘をチャラ男君が言及するまで口にしなかったでしょ」

女「あれも本当は開示する情報じゃなかったんでしょ?」



女友「……順序ってものがあるでしょう。話題にならなくても、あの後話するつもりでしたよ」

女「本当に?」



女友「………………」

女「………………」



女(無言で視線と視線がぶつかり合う)

女(やがて根負けしたように女友は視線を外すとポツリと呟く)

679 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/16(日) 23:56:06.50 ID:wmBtSKTz0



女友「本当は……私だって女の力になりたいんですよ」

女「……うん、分かっている」



女友「でも女だって知っていますよね、魅了スキルの力を」

女「そりゃあね」



女友「『誰かにバレた場合、即座に帰還しろ』『邪魔された場合は全力で抵抗しろ』『手を抜いて捕まることは禁止する』……と、まあこのような命令もありまして」





女「逃げるつもりなのね。でも逃がすと思う?」

女友「分かっています。全力で行きます」

女友「ですから――どうにか私を逃がさないでください」





女(女友が空中で戦闘態勢に入る)

女(私も構えを取った)

680 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/16(日) 23:56:35.36 ID:wmBtSKTz0



女「ごめん、女友……私こんなときなのにワクワクしているんだ」

女友「そうですか……たぶん、私も同じですよ」





女「そう……なら良かった。じゃあ全力で……初めてのケンカをしよっか」

女友「『吹雪の一撃(ブリザードアタック)』!!」





女(返事は氷塊の雨で)

女(不意打ち的に放たれた攻撃)

女(卑怯だとも、不躾だとも思わなかった)



女(それが女友の本気だというなら……私は真っ向から迎え撃つ)



女「『竜の闘気(ドラゴンオーラ)』!!」



女(私は全方位に向けて衝撃波を放ち、攻撃を相殺した)

681 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/16(日) 23:57:49.98 ID:wmBtSKTz0
続く。
682 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/02/17(月) 02:08:52.70 ID:WBtv7FyKO
乙ー
683 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/17(月) 08:35:02.63 ID:tmAMcFWk0
乙!
684 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/19(水) 23:09:26.98 ID:dmrbe4Na0
乙、ありがとうございます。

投下します。
685 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/19(水) 23:10:10.09 ID:dmrbe4Na0

女友「『大火球(ビッグファイアーボール)』!!」



女(女友の手からその背丈を優に超える火の玉が放たれる)

女(竜闘士といえど直撃すればひとたまりも無いだろうが、そのような直線的な攻撃に当たるつもりはない)

女(私はその横を竜の翼で通り抜けようとして)



女友「逃がしません!! 『竜巻(トルネード)』!!」



女(女友は新たな魔法を発動)

女(避けた火の玉の進路上に風の渦を起こし巻き込み、炎をばらまきながら風の勢いが増す)

女(複数属性の魔法を使える魔導士の特性を生かす連続した攻撃)



女「『竜の鱗(ドラゴンスケイル)』!!」



女(避けきれないと判断した私は防御スキルを発動)

女(エネルギーの球に包まれ炎の渦を完全に遮断してやり過ごす)

女(防御力こそ高いものの、このスキルには使用後動けなくなる弱点があり、当然それは今まで一緒に戦ってきた女友も知っている)

686 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/19(水) 23:10:52.19 ID:dmrbe4Na0



女友「捉えました!! 『雷轟地帯(サンダーエリア)』!!」



女(私の頭上に雷雲を放たれた)

女(それがもくもくと成長しながら広がりきり無数のイカズチを落とすのと、ちょうど同じタイミングで私も動けるようになった)

女(攻撃範囲と密度から私は避けるのは不可能と判断)

女(故に頭上を向いて)



女「『竜の咆哮(ドラゴンシャウト)』!!」



女(衝撃波を放った)

女(それは雷雲の一部を打ち抜き、結果雷は私の周囲に落ちるだけに終わる)

687 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/19(水) 23:11:19.71 ID:dmrbe4Na0

女友「この攻撃も相殺しますか……!」

女「ギリギリだったけどね。女友も良い攻撃するじゃん」



女(戦いが始まって数分が経った)

女(悔しがりながらも女友は微塵の油断もしていないようで、私から十分に距離を取っている)

女(竜闘士相手に接近戦を挑む愚を犯すつもりは無さそうだ)

女(魔導士の本領を発揮できる距離を常にキープしている)

女(私もそれを分かっているから接近を試みているのだが、女友の猛攻により阻まれている)



女(とはいえそれも長く続かないはずだ)

女(格上の私に渡り合うために、先ほどから女友は大魔法を連発している)

女(いくら魔導士の魔力が多いとはいえ、そんなに使っては尽きるのも時間の問題だ)

女(魔力を失った魔導士となればただの人)

女(だから逃走にだけ警戒して、堅実に立ち回ればいずれ女友は立ち行かなくなるだろう)

688 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/19(水) 23:11:49.71 ID:dmrbe4Na0



女友「消極的な立ち回りなのに余裕ですね女。私の魔力を切らす作戦ですか?」

女「……さぁ、どうだろうね?」



女(私はうそぶく。とはいえ親友だ、それくらいのこと分かっているだろう)



女友「魔導士に竜闘士は倒せないと……そう侮っているなら……絶対に後悔させてみせます!!」

女「じゃあやってみせてよ」

女友「いいでしょう! 『巨大(グランド)――――」



女(私の挑発に女友は右手を振り上げながら何かの魔法を発動しようとして)

689 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/19(水) 23:12:27.06 ID:dmrbe4Na0



女「…………?」

女友「ぐっ……駄目です……」



女(女友は左手で右手を掴み、胸元に引き戻しながら苦しむように悶えていた)



女「女友?」

女友「オン……ナ……。おかしい、ですよ……こんなの。親友同士……争う、なんて……」



女(何かに抵抗するようにしながら、途切れ途切れに言葉を紡ぐ女友)



女「もしかして……男君の命令に抗って……」

女友「っ……長く、持ちません…………女、今の内に私を……!!」



女(魅了スキルの命令による強制力に逆らって、自分を討つようにお願いする女友)

女(私はその親友の強かさに感心した)

女(だからこそその苦しみを早めに終わらせるために近づいたり…………せずに)

690 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/19(水) 23:13:04.21 ID:dmrbe4Na0



女「『竜の咆哮(ドラゴンシャウト)』」

女(フルパワーの衝撃波を放った)





女友「……っ!? やばっ……!」

女(苦しげからギョッとした表情に変わった女友は、慌てるようにその攻撃を避ける)





女「ああもう、やっぱり」

女友「何するんですか、女! 苦しんでいる親友に攻撃を仕掛けるなんて」

女「それが本当なら私だって心配するわよ。命令に抗おうと苦しむ演技、だったんでしょ」

女友「…………」

女「随分上手くなったね。一瞬騙されそうになったよ」

女友「……ふふっ、流石ですね。通用しませんか」



女(非難から一転、けろっと態度を変えた女友は微笑を浮かべる)

女(演技に騙され心配した私が不用意に近づいたところで攻撃でも加える予定だったのだろう)

女(相変わらず人を食ったような態度の親友だ)

691 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/19(水) 23:13:37.58 ID:dmrbe4Na0

女「そもそも最初からして不意打ちだったし正々堂々戦うはずないわよね」

女友「ええ、それも含めて私の全力ですから」

女(皮肉に対して堂々と宣われる)



女「それで小細工は終わり? だったらそろそろ幕を下ろす時間だけど」

女友「そうですね……では最後の大細工と行きましょうか」



女(女友は右手を振り上げて、先ほどは中断した魔法を今度こそ発動する)





女友「『巨大隕石(グランドメテオ)』!!」




692 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/19(水) 23:14:17.20 ID:dmrbe4Na0



女(遠く天上に生成されたのは巨大な隕石)



女友「逃げるだけの魔力を残して、その他全部を注ぎ込みました」

女友「これが私の最後の攻撃……どうか対処してくださいね」

女「いいよ、受けて立つ!!」



女(拳を構えながら私は毛ほどの油断もしていなかった)

女(生成された隕石にはかなりの魔力を感じる。魔力がほとんど残っていないのはおそらく本当だろう)

女(女友自身に何かをする力は無い。隕石だけに注意すればいい)



女(でも、女友のことだ。素直に私に向けて落とすだけ……ということはあり得ないだろう)

女(考えられるのは最初に攻撃目標としていた建物に落とすことで、慌てて守りに入った私に無茶な防御を強いる方法)

女(もしくは市街地に落とす可能性も……いやそんな誰かを巻き込む方法を取るとは思えないけど)



女(何にしろ、どこに隕石を落とされようと対処してみせる)

693 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/19(水) 23:14:54.19 ID:dmrbe4Na0



女(――と、警戒していたのにそれでも私は虚を突かれた)

女(隕石がゆっくりと術者に……女友に向かって落ちていくからだ)



女「っ、何を……!?」

女友「『逃げられない場合は自害しろ』なんて命令が……いや、嘘ですけどね」



女「だったら……!!」

女友「魔法は解除しませんよ。だって……私の親友が守ってくれるって信じていますからね」



女(にっこりと笑う親友)

女(今さらながらに姉御に注意をされたときの自戒を思い出した)



女『女友がもし私に付け込む余地があるとしたら、それは私の親友であるという事』



694 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/19(水) 23:15:23.53 ID:dmrbe4Na0



女「…………」

女(これは攻撃にすらなっていない)

女(ただの自爆だ)



女(どうせ当たりそうになったら解除するに決まっている)

女(わざわざ飛び込むなんて愚の骨頂)



女(だと……分かっているのに)





女「女友ォォォォォォォッ………!!」

女(私は隕石の落下地点に飛び込む)






女(その数瞬後、隕石は大量の破壊を振りまいた)

695 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/19(水) 23:16:05.80 ID:dmrbe4Na0



女友「信じていましたよ、女なら守ってくれるって」

女「女……友……」



女(破壊の中心点で)

女(防御も回避も迎撃も……何も間に合わなかった私は大きくダメージを受けて地べたをはいずくばっていた)



女(一方、隕石が落下する直前、私が攻撃範囲から弾き飛ばした女友は空中に浮き無傷だ)



女友「ごめんなさいね、女の思いをこんな踏みにじるようなマネをして。親友失格です」

女「そんな……ことないよ……。女友は……命令に従っただけでしょ」



女友「確かに全力で、手を抜くなという命令です」

女友「しかし方法までは命令されたわけではありません」

女友「……そうです、こんな最低な方法を思いついたのは私ですから」



女(私に勝ったのに、くしゃくしゃに顔を歪めている女友)

女(魅了スキルは感情まで操ることは出来ない。命令のために非情に徹しろということは出来ない)

696 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/19(水) 23:16:50.78 ID:dmrbe4Na0

女「あはは……何を今さら……」

女友「女……?」



女「私の親友は……初恋に悩む私に既成事実を作るようにアドバイスしたり……いつだってえげつない方法を考えてるような人だよ」



女友「……誰ですか、そんな酷い人」

女「だから……今さらそんなことで見限ったりはしないって」



女(そうだ考えることが罪になるはずがない。その実行を強制させた力の方が問題だ)





女友「おん……っ、いえ……」

女友「追っ手はこれ以上戦闘出来ないと判断。しかし破壊工作を行うだけの時間も魔力もありませんね」

女友「というわけで、これよりすみやかに逃走させてもらいます」



女(女友は何かを言おうと寸前まで出かけた言葉を呑み込んで状況を判断する)

697 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/19(水) 23:17:25.63 ID:dmrbe4Na0

女「早いね。もうちょっとゆっくりしていけばいいのに」

女友「私だってそうしたいところです。寝心地の良さそうな枕だったのに、あのベッドで結局一睡も出来ませんでしたし」

女「……あ、じゃあ最後に一つ伝言いい?」

女友「何ですか?」





女「男君に。絶対に会いに行くからって伝えといて」

女友「分かりました」





女「ありがと……じゃあまたね」

女友「ええ、また会えるそのときを待っています」



女(隕石の直撃を受けたダメージは大きい)

女(今まで気力を振り絞っていたけど、限界だった)

女(私は去ってゆく親友を見送りながら気を失うのだった)

698 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/19(水) 23:18:09.30 ID:dmrbe4Na0
続く。
699 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/02/20(木) 03:50:41.79 ID:1VXy6v2ro
乙ー
700 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/24(月) 00:33:00.17 ID:tJUygwuU0
乙、ありがとうございます。

投下します。
701 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/24(月) 00:33:35.82 ID:tJUygwuU0

女(翌朝)

女(私は神殿の医務室のベッドで目が覚めた)



女(隕石のダメージが大きかった私は女友が去ったのを見た後、気絶していたようだ)

女(騒ぎを聞きつけた巡回兵により私は神殿に運ばれて、そこで治癒魔法を受けた)

女(結果もうすでに回復に向かっていた)



姉御「それで昨夜何があったってんだい?」



女(『癒し手(ヒーラー)』として私の治療をしていた姉御こと姉御筆頭に、集まったみんなに私は事情を説明した)

702 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/24(月) 00:34:27.91 ID:tJUygwuU0



姉御「女友は魅了スキルの支配から逃れられていなかったか……くそ、気づいていればこんなことには」



傭兵「対象が余りにも限定的で、さらにあまり褒められた戦法ではないが……こうして格上を破った結果が全てか」



魔族「全く。おまえたち『クラスメイト』とやらは本当に一枚岩ではないのだな。一夜にして二人も抜けるなんて」





女「二人……? それってどういうことですか?」

気弱「あ、それなんですけど……今朝部屋に書き置きが残されていて」



女(私の疑問に気弱君が紙を見せる。それには)

703 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/24(月) 00:34:54.29 ID:tJUygwuU0





『いやー、久しぶりに旨いもん食ったで。ほんとごちそーさん。

 そういうわけで俺はここらで退散させてもらうわ。

 あ、『組織』にも戻らんつもりやからな。

 あっちも色々ひりついてて面倒くさくてな。

 面倒なことはゴメン、が俺のモットーや。適当にこの世界で好き勝手生きさせてもらうで。

 ほな、じゃあな。   チャラ男』





女(とその調子に合わせたような走り書きの言葉が綴られていた)



女「そっか……チャラ男君も」

女(正直元々当てにしていなかったし、心も許していなかったからそんなに感情は動かなかった)

704 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/24(月) 00:35:26.80 ID:tJUygwuU0

姉御「メッセージを伝えるついでに『組織』から離れて、そのまま逃走する計画だったんだろうねえ」

姉御「ったく、その上、手癖も悪くて懲りちゃいない」

姉御「気弱が個人的に持っていたお金もちゃっかり盗んでいったって話だから、女も何か盗まれたかもしれないよ」



女「あーそっか、昨夜は私部屋にいなかったし……でもあんまり手元にお金持つようにしてなかったし大丈夫だよ」



姉御「ならいいけどね……ああもう、女が男のところにたどり着けるように頑張るとか、あの言葉も嘘だったんだねえ」

女(姉御が歯噛みして悔しがる)



気弱「でも、本当にチャラ男さんらしくて感心さえしました」

女(お金を盗まれたという話の気弱君なのに、のほほんとしたことを言う)





姉御「……まあ、そうだねえ。これだけ世界に危機が迫る問題だって分かっているはずなのに……それでも放り投げて逃げ出せるんだから、ある意味大物なのかもねえ」

女(一時とはいえ一緒に冒険した二人には色々と思うところがあるのだろう)

705 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/24(月) 00:35:53.52 ID:tJUygwuU0

傭兵「去った者の事を考えても仕方ない。しかし、今回のことで少女の弱点ともいえる面が露呈したな」

女(傭兵さんが話を軌道修正する)



女「弱点ですか?」

傭兵「ああ。魔導士の少女を自爆だと分かっていながら助けた」

傭兵「今後魔王城を攻め入った際に同じ事をされないとは限らない。それは少年も同じ事だ」

女「……そうですね。男君相手でも私は同じ事をしたでしょう」



女(もし男君が自分の首にナイフを当てて、これ以上傷つけられたくなかったら大人しくしろ、と脅しにもならないことを言われたら……それでも私は従ってしまうだろう)



傭兵「その気質は戦場でなければ美点なのだろうがな。さてどうするか……」



気弱「いえ、それなら大丈夫だと思いますよ」



女(傭兵さんの言葉に物申したのは意外にも気弱君だった)

706 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/24(月) 00:36:28.91 ID:tJUygwuU0

傭兵「どういうことだ?」

気弱「男さんの動機からして……そんな好意を盾にした行動は取らないはず……ということです」

傭兵「動機……? 何か知っているのか?」

気弱「えっ……あ、いや……その」



女(気弱君はどうやら独り言くらいのつもりで発言していたようだ。みんなの注目が集まって慌て出す)



女「どういうこと、気弱君? 男君の動機について、何か心当たりでも――」

気弱「あ、僕はちょっとチャラ男さんに他に盗まれた物が無いか確認してくるので失礼します!!」



女(私の問いにあたふたしながら気弱君はその場を去っていった)

707 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/24(月) 00:36:56.77 ID:tJUygwuU0

傭兵「あの様子……何やら気づいたのか?」

魔族「だったら何故共有しない」



姉御「女、あんたは大人しくしているんだよ。治療こそしたけど、あれだけのダメージだったからね」

女「えー、でも……」

姉御「代わりにアタイが気弱から聞き出しておくからさ。……まあいざとなったときの気弱はかなり頑固だから無理かも知れないけど」



女(ひらひらと後ろ手を振りながら姉御は医務室を出て行く)



女「……まあ、そっか。安静にしておかないとね」

女(女友による襲撃の被害は私だけに止まり、結果的に防げた形だ)

女(独裁都市の戦力は順調に集まっている)

女(決戦は近い、そのときに万全の状態じゃないなんて話にもならない)



女(今の私がするべきことは回復に努めることだと判断して……)

女(そう思うとダメージから来る疲れと、夜更けに起きていたことからそのまま眠りに就いた)



708 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/24(月) 00:37:25.15 ID:tJUygwuU0



姉御(アタイは医務室を出て左右を見回した)



姉御「ああもう、こういうときはすばしっこいね」



姉御(気弱の姿は近くに見当たらない)

姉御(さて、どこに向かったのか……考えてとりあえず見当は付いた)



姉御「気弱は真面目だから、言い訳のようにして出てきたけど本当にチャラ男からの被害がどれだけあったか確かめている……ってところだろうねえ」



姉御(そうなれば向かうは客室だ)

姉御(この神殿は政治の中枢としても使われる拠点だ)

姉御(そちらの方は今は決戦準備のため24時間体制で動いている)

姉御(そのように人がいるところでは流石にチャラ男も盗みは働けないだろう)

姉御(だから被害があったとしたら客室方面だ。私は足をそちらに向ける)

709 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/24(月) 00:37:51.58 ID:tJUygwuU0



姉御「さて後はどこに行ったかという問題だが……そういえば……」



姉御(最初に目が付いたのは女が使っている客室だった)



姉御「昨夜はいなかったから入られたかも知れないって言ってたねえ……」



姉御(とはいえ女子が使っている部屋に入る度胸は気弱にはないだろう)



姉御「でもまあ一応、一応。代わりに被害状況を確認するってことで」



姉御(アタイはそう言いながら部屋に入る)


710 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/24(月) 00:38:19.64 ID:tJUygwuU0

姉御(二人用の客室)

姉御(二つのベッドにはどちらも使用された形跡があった)



姉御「女友も寝るフリだけはしたって言ってたし、そのせいかね……」

姉御(それにしても……未だに歯痒かった)

姉御(女友が命令に従って動いていたことに気づけなかった自分に)

姉御(演技の可能性は思い浮かんでいたのに……それでも自然に振る舞う女友に騙された)



姉御「全く悔しいねえ……女友、あんたも悔しくないのかい」



姉御(ここにはいない人に問いかける)

姉御(女友はおそらくアタイ以上に悔しがっているだろう)

姉御(男の命令通りに動くしかないことに)

姉御(本当はアタイたちに協力したいと、昨夜女にも言ったようだ。それなのに真逆の行動をさせられて…………)

711 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/24(月) 00:38:58.50 ID:tJUygwuU0



姉御「……ん、あれは」



姉御(そのとき視界の隅に違和感を覚えた)

姉御(正体は枕だ)

姉御(枕カバーのファスナーが閉まりきっていない)

姉御(この神殿の清掃員は都市の中枢であるこの建物に勤めるだけあって丁寧な仕事を心掛けている)

姉御(アタイなら気にしないような細かいことまできっちりする人たちだ)



姉御(こんな雑をするはずがない。だとしたら……その後ベッドを使った人による仕業……?)



姉御(アタイは枕を手にとって枕カバーを取り外す)

姉御(すると中身と一緒に……一枚の紙が滑り落ちた)

姉御(アタイはそれを拾い上げて……そこに書かれた内容を読む)

712 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/24(月) 00:39:32.15 ID:tJUygwuU0



姉御「……はんっ。なるほどねえ。女友、あんたも中々やるじゃないか」



姉御(メッセージは女友によるものだった)










『女友です。

 申し訳ありません、これを読まれている頃には私はそこにいないでしょう。

 男さんの命令下ではこんなものを残すことが精一杯でした。



 女たちが役立てることを願って、私が独自に掴んだ情報について記します。

 魔王城の抜け道についてです』

713 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/24(月) 00:40:00.37 ID:tJUygwuU0
続く。
714 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/02/24(月) 04:32:46.11 ID:DCiQDWX5O
乙ー
715 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/24(月) 10:39:33.09 ID:laabw0rW0
乙!
716 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/24(月) 22:26:31.27 ID:9qgndLLy0
乙!
717 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/27(木) 00:21:50.87 ID:PTwvBPgd0
乙、ありがとうございます。

投下します。
718 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/27(木) 00:22:58.80 ID:PTwvBPgd0

女(翌日)

女(一日安静にしていた私はすっかり元気になった)



女(私、姉御、気弱君、傭兵さん、魔族さんに加えて)

女(ちょうど周辺地域を回って協力を取り付けから帰ってきた姫様と、古参会長も交えて最終確認を行っている)







姫「準備は整いました。決戦は三日後です」



女(姫さんの宣言に、ようやくこの時が来たかという心持ちだ)



女「王国に攻め入って、絶対に魔王城を落としてみせるよ……!!」

姫「一応注意しておきますが、外でそんなこと言わないでくださいね」

姫「今回、名目上は王国解放作戦です。大義名分の無い他国への攻撃はただの侵略ですから」

姫「男さんたちを、王国を乗っ取ったテロリストとして扱い、それから王国を解放することが今回連合軍が結成された目的です」



女(姫さんに注意される)

女(今回の作戦には大勢が関わる。私が分かっていないだけで、色々としがらみや建前と本音が入り交じるドロドロとした物が裏にはあるのだろう)

719 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/27(木) 00:23:28.92 ID:PTwvBPgd0

古参会長「気にすることはない。女君は彼をどう説得するかだけを考えていたまえ」

女「……ありがとうございます」



女(私の微妙な面持ちを見抜いた古参会長に声をかけられる)



傭兵「極論、今の王国は少年の魅了スキル一つで成り立っているようなものだ」

傭兵「少年を攻略することが、そのまま王国を攻略することに繋がる」

魔族「少女よ、そのための策について後で提案したいことがある」



女(傭兵さんに続いて魔族さんが言うけど……策の提案って何だろう……?)



姉御「そうなってくると女友が残してくれた情報が役立ってくれそうだねえ」

女(姉御が拳をもう一つの手にパチンと打ち付ける)

720 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/27(木) 00:24:08.79 ID:PTwvBPgd0

女「そうだね」



女(女友が残してくれた情報)

女(姉御が見つけてくれたそれについては昨日の内に目を通していた)



女(曰く、魔王城には抜け道があると)

女(元は王国の王族が使っていた城だ。有事の際に王族だけでも逃がすために秘密の抜け道が設えられていた)

女(王都の近くの森に出るそれを逆に侵入路として使ってみてはどうか、と)



女(命令が無い間に城を見回っていた女友が見つけたもので、男君はその存在も知らないようだ)

女(おそらく一番防御の堅いだろう王都をスキップして、直接魔王城に侵入できるならありがたい)



女(私としてはその情報の内容以上に、女友が男君の命令の外で残してくれたという事実の方が大きかった)

女(こちらに協力するという証だから)



女(女友が使ったベッドの枕からメモ紙が出てきたって話だったけど……よく考えてみれば襲撃から去る直前)



女友『私だってそうしたいところです。寝心地の良さそうな枕だったのに、あのベッドで結局一睡も出来ませんでしたし』



女(と、自分が使っていた枕を気にするように言葉を残していた)

女(気づけなかった私はニブチンだ)

721 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/27(木) 00:24:36.12 ID:PTwvBPgd0



女「そういえば気弱君。やっぱり男君の動機について気づいたこと、教えてもらえないの?」

気弱「……な、何の話ですか?」



女(私の問いかけに気弱君は目を逸らして答える。嘘を吐いていると誰だって分かる様子だ)



気弱『男さんの動機からして……そんな好意を盾にした行動は取らないはず……ということです』



女(昨日口を滑らせたその言葉の意味は分からないまま)



姉御「ああなった気弱は頑固でねえ。すまんね、女」

女「姉御が謝る事じゃないでしょ」

姉御「まあ流石にアタイたちに大きく不利益が出るようなことなら、気弱だって黙ること無いはずだ」

姉御「黙っていても大丈夫だと判断したことだろうから、気になるだろうけど気にしないでくれ」



女「……はーい」

女(本人よりもすまなそうにしている姉御の姿に免じて、それ以上の追求は止める)

722 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/27(木) 00:25:11.44 ID:PTwvBPgd0

女「『組織』との共闘の話って、どうなったんですか?」



女(気を取り直して私は古参会長に聞く)

女(チャラ男君は去っていったけど、その情報は本物だった……と信じたい)

女(王国をどうにかするために犯罪結社の『組織』と協力するかという話だったけど)



古参会長「『組織』とは特に話をしていないが、三日後連合軍が王国解放作戦を実行することは大々的に報じておる」

古参会長「協力するつもりなら、勝手にあちらの方で日程を合わせるだろう」



女「あ……そっか。二正面作戦をするだけだから、特に連携も取る必要がないと」

古参会長「『組織』が現れようと現れまいとすることに変わりはないからな」

723 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/27(木) 00:26:00.18 ID:PTwvBPgd0

女(私たちの準備は完了した)

女(気になるのは残る二つの勢力の状況)



女(『組織』をバックにイケメン君を筆頭とする駐留派はどう動くつもりなのか)



女(そして王国、支配派である男君はどう応じるつもりなのか)



女「あー……気になるなあ……」



724 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/27(木) 00:26:28.17 ID:PTwvBPgd0

<『組織』本部>





イケメン「三日後、連合軍が動く。僕たち『組織』もその日に合わせて動く事にするよ」





ギャル「三日後? 随分早いわね」

イケメン「ああ、トップがかなり優秀なようでね」

イケメン「生まれ変わった独裁都市の姫、そして古参商会の長の力のおかげだろう」

ギャル「ふーん、まあどうでもいいけど」

イケメン「そうだな、王国の気を引いてくれさえすればいい」



イケメン(僕の頭にあるのは作戦が上手く行くか、否かだけ)

イケメン(すなわち魅了スキルの奪取だ)



イケメン(最初からそれを目的に動いてきた)

イケメン(状況が推移して、やつが積極的に魅了スキルを使用するようになった今も変わりはない)



イケメン(いや、それ以上の旨味が増えたとも言えるだろう)

イケメン(魅了スキルによって王国を支配している現状、僕が魅了スキルを支配することが出来れば、王国もまるっと戴けるということだから)

イケメン(そうして今度こそ女を手に入れる)

725 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/27(木) 00:26:56.53 ID:PTwvBPgd0

ギャル「にしてもチャラ男も薄情者よねえ。ギャルたちや『組織』への恩も忘れて出て行くなんてさ」

イケメン「最近あいつが不満を溜めていたのは分かっていたからな。遅いか早いかの問題だったさ」

イケメン「まあ最後に重要な情報を残してくれた辺り、完全に恩を忘れたわけではないだろう」



イケメン(独裁都市に大使として向かわせたチャラ男から送られてきた手紙)

イケメン(それには情報を伝えたという旨と、『組織』から脱退すること、そして魔王城の抜け道についてが記されていた)



イケメン(最後の情報については、金目の物を探している内に見つけた情報らしい)

イケメン(男に支配されている女友が支配の外で残した情報とやら記されていて、どうやら向こうも向こうで複雑な事情があるようだが関係ない。情報の中身が全てだ)



イケメン(魔王城に直接侵入する通路の存在については喉から手が出るほど欲しかった情報だ)

イケメン(その重要さは、チャラ男が抜けた戦力の穴と十分に釣り合うほど)

726 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/27(木) 00:27:24.14 ID:PTwvBPgd0

イケメン「…………」



イケメン(世界全てが僕の都合のいいように回っている)

イケメン(三日後僕は全てを手に入れる)

イケメン(そうなるとこいつともそろそろおさらばだな)



ギャル「ん、どうしたのギャルの顔を見て? あーそういえば最近恋人らしいことしてなかったもんね。キスでもする?」

イケメン「……そうしたいのはやまやまだけどね。この後ちょっと用事があってね」

ギャル「えー。最近イケメンずっとそんな感じじゃない?」

イケメン「ごめんって、今回の作戦が終わったら思う存分付き合うからさ」

ギャル「……ならいいけど」



イケメン(ギャルは口を尖らせながらも引き下がる)

イケメン(のうてんきな提案に口調を荒げる寸前で、僕がこいつの彼氏であったことを思いだして、聞き当たりの良い言葉を並べる)

イケメン(まだ我慢だ。こいつは僕のためといって、最近ますます力を付けている。魔王城攻略に当たって、有力な駒となる)

イケメン(この脳みそ空っぽ女は、最後の最後まで自分が利用されていることに気づかないのだろう。まあそうやってコントロール出来る自信があったからこいつを選んだとも言える)



イケメン「………………」

イケメン(帰還派の連合軍と支配派の王国はどのように動くか)

イケメン(気にはなるが関係ない)

イケメン(最終的な勝者は僕に決まっている)

イケメン(ああ……三日後が待ち遠しいくらいだ)

727 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/27(木) 00:27:54.62 ID:PTwvBPgd0

<魔王城・謁見の間>



女友「――――というわけです」

男「……まあいいだろう、総合的な首尾は上々だ」



女友(私は独裁都市から帰った魔王城にて、男さんに今回の作戦の経過について報告しました)





女友(今回命じられていたことは大きく分けて三つ)

女友(まず一つは独裁都市の現状を探ること。これについては概ね達成できたと見て構わないでしょう)

女友(もう一つは独裁都市の戦力を削ること。これはユウカに妨害されて失敗)

女友(最後に……一番妖しげな企み)





女友(『男さんの命令の外ではこの情報を残すことが精一杯』という体で、男さんに命令された通りの情報を流すこと)





女友(これについては……最後に枕に注目するように言いましたが、女は気づいたのでしょうか)

728 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/27(木) 00:28:21.03 ID:PTwvBPgd0

女友(魔王城への抜け道)

女友(確かに私が発見した代物ですが、『気づいたことは全て知らせろ』という命令により男さんに共有されその存在は知っています)

女友(こんな嘘の情報を流して、一体何の意味があるのか。いつも通り男さんは命令だけして何の説明もしてくれません)



女友(考えても分かりませんが、いずれにしろ全てが男さんの手の平の上で進行しているようにしか思えなくて恐ろしいばかりです)

女友(男さんはその先に何を見ているのでしょうか?)

729 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/27(木) 00:28:47.51 ID:PTwvBPgd0



男「報告はそれで終わりか?」



女友(男さんが問います)

女友(今回命令されたことについては一通り既に述べたので……最後に大事な伝言を伝えましょう)





女友「女から男さんに伝言をもらいました。『絶対に会いに行くから』だそうです」

男「……そうか。下がっていいぞ」





女友(男さんは何の反応も見せずに、私に退室するよう勧めたのでした)

730 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/02/27(木) 00:29:37.89 ID:PTwvBPgd0
続く。
731 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/02/27(木) 06:47:13.09 ID:LIdwO3eWo
乙ー
732 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/28(金) 00:24:54.42 ID:B+auoKVBO
乙!
733 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/03/01(日) 19:58:07.79 ID:dXWyQ+D50
乙!
734 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/04(水) 00:18:45.89 ID:GvLpIzs10
乙、ありがとうございます。

投下します。
735 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/04(水) 00:19:30.27 ID:GvLpIzs10

近衛兵長(私のこれまでの人生は数奇なものだった)



近衛兵長(物心付いたときから王国の工作員としての教育を受け、それも十分となった頃命令により各地を暗躍)

近衛兵長(数年前からは長期ミッションとして元宗教都市、現独裁都市に潜入した)



近衛兵長(傀儡政権を樹立させ、富を王国に横流しする準備と共に都市の弱体化を計るも)

近衛兵長(魅了スキルを持った少年たちによって阻まれる)



近衛兵長(その後命令により王国への逆スパイとして働かせられたと思うと、王国を乗っ取るために利用される)

近衛兵長(結果こうして乗っ取った王国でNo.2としての地位に就いている)

736 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/04(水) 00:20:20.90 ID:GvLpIzs10

女友「近衛兵長さんは今回の命令についてどう考えますか」



近衛兵長(主との謁見を経て退出したところで、魔導士の少女に声をかけられる)

近衛兵長(同じNo.2の立場として少女とはそれなりに交流がある。元が敵同士であったためかその関係はぎこちないものもあるが)



近衛兵長「抜け道の情報を流したことか」

女友「ええ」

近衛兵長「単純に考えるならば罠だな。抜け道に入った時点でそれを封鎖することで一網打尽にする」

女友「私も一番にそれを考えました……しかし」

近衛兵長「ああ。王国の戦力は十分にある。わざわざ面倒な罠を使わずとも、正面から叩き潰せばいい」

女友「そうなんですよね……」



近衛兵長「故にもう一つ考えられる可能性として……誰かをこの魔王城に誘き出したいのではないか?」

近衛兵長「心当たりはないのか、主の昔からの知己として」



女友「心当たりは何人かいますが……その目的までは」

近衛兵長「少女に分からないことが、私に分かるわけ無かろう」



近衛兵長(それもそうですね、と魔導士の少女は頷いてその場を去っていく)

近衛兵長(独裁都市での戦闘の疲れを癒すために自室待機するように命じられていたはずだ)

近衛兵長(私も護衛を終えて待機を命じられていたため、自室に向かうのだった)

737 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/04(水) 00:21:01.63 ID:GvLpIzs10



近衛兵長(その夜)

近衛兵長(私は唐突に主に呼び出された)



近衛兵長(別にそれ自体は良くあることだった)

近衛兵長(珍しかったのは呼び出されたのが私だけだったということ)

近衛兵長(二人のNo.2という立場からか、もしくは魅了スキルにかかっているとはいえ未だ私のことを信用していないのか、これまで呼び出すときは必ず魔導士の少女も一緒だったからだ)



近衛兵長「呼び出したのは私だけか?」

近衛兵長(分からないことは素直に問うに限る)





男「はい。決戦を三日後に控えて……個人的に頼みたいことがあるんです」





近衛兵長(主、男の様子はいつもと違った。口を開けば命令ばかりだったのに……頼みとは一体)

738 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/04(水) 00:23:15.85 ID:GvLpIzs10

近衛兵長「珍しいことが続くな」

男「今回限りです。それより近衛兵長さん、俺について何か気になることがあるんじゃないですか?」



近衛兵長(ここまで命令がない会話も珍しい。私の意見を求めることもだ)

近衛兵長(どういう考えなのかは分からないが、私だって機械ではない。気になることなどたくさんある)



近衛兵長「気になること……と言われると山ほどあるが、一番は……そうだな、何故王国を支配したのかということだ」

男「王国を支配した理由は簡単です。この大陸で一番強大な王国を支配することが、全てを支配する足がかりとしてちょうどいいと判断したからです」



近衛兵長「ならば続けて質問だ。何が目的で全てを支配する?」

男「俺の夢のためです」



近衛兵長「夢とは何だ?」



739 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/04(水) 00:24:12.72 ID:GvLpIzs10





男「永遠の孤独です。誰にも干渉されず、誰にも邪魔されない、俺一人だけの空間」

男「あっちの世界では諦めた俺の夢が、この世界ならば叶えられる」

男「全てを支配したその中心で、俺は永遠の孤独を享受してやるんです……!」





近衛兵長(少年は両手を広げ意気込んで語る)

近衛兵長(その様子はいつもと違って、年相応に見えた)



近衛兵長「なるほどな……」

男「そんな下らないことのために、って思いましたか?」



近衛兵長「いや、微塵も」

男「本当ですか? 引かれると思ってましたが」

740 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/04(水) 00:24:44.62 ID:GvLpIzs10



近衛兵長「ならば逆に問うが、どのような理由で世界を支配すれば崇高だと言える?」

男「それは……」



近衛兵長「世界を支配する。そもそもが下らない行為だ」

近衛兵長「ならば理由も下らない物になって当然」

近衛兵長「世界を救うために、などと言われた方がよほど反吐が出る」



男「……ははっ、そうですね。近衛兵長さんにこのことを話して良かったと心底から思いました」



近衛兵長(少年が笑い飛ばす)

741 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/04(水) 00:25:20.11 ID:GvLpIzs10



近衛兵長「全てを支配するか……なるほどな、全てが繋がった」

近衛兵長「少年がこれまでにしてきた行動、その意味も」



男「分かったんですか?」

近衛兵長「ああ。少年と竜闘士の少女の奇怪な関係については聞いているからな」



男「……女友か。そっちは明かすつもりはなかったんですが」

近衛兵長「論理的に考えてだからな。正直その行為がどのような意味を持つのかは分からん。恋というものを知らずに育ったからな」



男「ハニートラップを仕掛けたこともあると聞いた覚えがありますが」

近衛兵長「あれは欲を理解していれば務まる」



近衛兵長(珍しく軽口の応酬となる。私も少年もどうやらテンションが高まっているようだ)

742 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/04(水) 00:25:59.94 ID:GvLpIzs10



近衛兵長「それで。私への頼みとは何だ。そういう話だっただろう?」

男「そうでしたね。二つあります。一つは三日後の決戦時に、防衛隊の指揮を取って欲しいということです。ああこれは命令です」

近衛兵長「命令か、当然承った」



男「もう一つは……こちらが頼みですね」

男「決戦を制せば、この世界のほとんどを掌握出来るといっても過言ではないでしょう」

男「そうなったら支配権を俺から近衛兵長さんに委譲したいんです」



近衛兵長「委譲……?」

男「ええ。虜になった人間には『近衛兵長の命令に従うように』という命令を下しますから、その後は好きにお任せします」

743 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/04(水) 00:26:35.76 ID:GvLpIzs10

近衛兵長「何故そのようなことを?」



男「支配を維持するために一々命令しないといけないなんて、永遠の孤独に程遠いじゃないですか」

男「同じ理由で近衛兵長さんに命令ではなく、頼みとしてお願いしたいんです」

男「世界支配を目的としていた元王国に従っていた身として、そういう欲望は持っていますよね?」



近衛兵長「……何の罠だ? 私が一方的に得するだけに思えるが」

男「言ったとおりですよ。俺の夢のためです」

近衛兵長「そのために支配した世界をまるっと私に譲ると?」

男「はい。……あ、でも最低限の命令として俺を裏切れないようになどの効力はそのままですからね」



近衛兵長(真意は分からないが……今の主に嘘を吐いている様子は感じ取れない)

近衛兵長(ならば私の返事は一つ)



近衛兵長「裏切るものか、私に多大な恵みをくれる主に」

男「承ってくれるんですね」

近衛兵長「もちろんだ」



近衛兵長(成り行きで仕えることになったが、今のやりとりを経て私はこのときのために今までを過ごしてきたのだと思うまでになった)

744 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/04(水) 00:27:04.19 ID:GvLpIzs10

近衛兵長(と、話が一段落したところで)





幼女「ねえ、パパ。まだ話終わらないの……?」





近衛兵長(そのとき第三者の、幼い声が響いた)

745 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/04(水) 00:27:32.14 ID:GvLpIzs10



男「……寝ておけって言っただろ」



近衛兵長(少年が不服そうに口を開く)



幼女「嫌。パパと一緒に寝るの」



近衛兵長(しかし幼女に引く様子はない)



男「分かった、すぐに行くから」

幼女「絶対に約束だからね」



近衛兵長(仕方なく少年は折れたようだ)

746 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/04(水) 00:28:33.86 ID:GvLpIzs10

近衛兵長「苦労しているようだな」

男「ええ、割と。まあリンクしていたときからですから元々です」



近衛兵長「ならば魅了スキルで支配すればいい」



男「駒として見るには関わりすぎましたから」

男「そうなるとあのような幼き者にまで魅力的に思うほど猿でもないですし」



近衛兵長「……まあそうなったら擁護は出来まい」



男「三日後、役割を持ってもらうつもりですから。それまではご機嫌取りしますよ」



近衛兵長(話は終わりだと言わんばかりに少年は手を振りながら、幼女も引っ込んだ寝室に向かう)

近衛兵長(私も部屋を出た)

747 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/04(水) 00:29:16.07 ID:GvLpIzs10

<寝室>





幼女「すぅ……すぅ……」

男「ようやく寝たか」



男(はぁ、と俺は一息吐く)





男「………………」



男(あの襲撃の日、『囁き』を受けた瞬間に思い描いていた通りに)

男(抱いた感情そのままに、ここまで突き進むことが出来た)



男(順調に進んでいる)

男(誰にも邪魔はさせない)



男(俺の夢を叶えて、理想を諦めるために――)



748 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/04(水) 00:29:49.25 ID:GvLpIzs10





男「必ず会いに行くから……か」



男「いいだろう。全てを終わらせよう……女」





749 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/04(水) 00:30:15.14 ID:GvLpIzs10





 そして三日後。

 異世界の命運の賭かった決戦の日を迎える。





750 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/04(水) 00:32:40.62 ID:GvLpIzs10
続く。

最終章が始まってから4か月。
投稿ペースが遅くなったせいで時間がかかりましたが、ようやくここまで来ました。

次回から最終局面に入ります。
最終章も残り10話前後くらいなので、付き合ってもらえると幸いです。
751 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/03/04(水) 01:43:15.46 ID:HoEWpGN5o
乙ー
752 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/03/04(水) 05:28:38.70 ID:tVkua0ptO
乙!
753 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/03/07(土) 13:48:49.08 ID:adWkq/Sh0
754 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/25(水) 23:27:14.15 ID:FjdzGLil0
遅くなりました。
投下します。
755 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/25(水) 23:27:49.05 ID:FjdzGLil0

姫(私は初めて見るその光景に恐れおののいていました)



姫(武器を手に取り相手を打ち倒さんと迫る者たち、雨霰のように飛び交う魔法、気勢や怒号や悲鳴といった強い感情の籠もった声の響き)

姫(それがいたるところに溢れている場所)

姫(戦場)



姫(前の大戦の際、私は物心が付いていない子供でした)

姫(大陸でそのとき以来に起こった大規模な戦闘だと言えるでしょう)





古参会長「体が震えておるな。悪いことは言わない、今からでも帰っていいのだぞ?」

姫「会長さん……」

756 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/25(水) 23:28:30.40 ID:FjdzGLil0

姫(私が今いるここは今回の王国解放作戦を実行する連合軍の司令所です)

姫(戦闘中ということで色々な人が立ち替わり入れ替わりで忙しなく動いています)

姫(戦場を見ただけで震える私のような小娘がいるべき場所では無いのでしょう)



姫(それでも私はこの戦いの結末を自分の目で見届けたい、ということで自ら望んでこの場にいました)

姫(正直邪魔だと思われているでしょうが、私は独裁都市の代表であり、今回の作戦の提案者。無碍に扱うことも出来ないのです)



古参会長「全く。何ともなワガママを通したものだ」



姫(動く様子を見せない私に、会長さんは呆れた様子で呟きました)



姫「ええ、ワガママは得意なんです。元は『少女姫』でしたから」

古参会長「話は聞いたことはあるぞ」

757 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/25(水) 23:30:19.97 ID:FjdzGLil0

姫「私をあの操り人形だった日々から解放してくれたのは男さんです。莫大な恩があるんです」

姫「理由も目的も思惑も分かりません」

姫「それでも今の男さんを、私はおかしいと判断します」

姫「ならばそこから戻すのが私の恩返しです」



古参会長「そうか……各所への交渉、やけにはりきっておるとは思ったが」



姫「本当は直接男さんに言いたいんです。誰にだってその役割を譲りたくない」

姫「……でも、分かるんです。私の想いでは届かないだろうことが」



姫(私は視線を上に向ける)

姫(女さんは戦場上空にて王国のドラゴン部隊と戦闘中だった。数体のドラゴン相手に一歩も引かない立ち回りをしている)

758 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/25(水) 23:30:57.04 ID:FjdzGLil0

古参会長「あの中に私が売ったドラゴンが何体いるだろうか」

姫「そういえば古参商会はドラゴンの取り扱いもしていましたね」



古参会長「ああ。別にそのこと自体に思うところはない。商人として必要としている人に必要な物を売っただけだからな」

古参会長「だが……直近でドラゴンを取り扱ったのが、少年たちがテイムしたものだったからそれを思い出してな」



姫「男さんの話で聞きました。古参商会のスパイ騒動を解決したことも」

古参会長「秘書を過去や苦しみから解放して、私との絆も守ってくれた少年たちには感謝してもしきれない。そういう意味では姫、そなたと同じだな」

姫「なるほど……腑に落ちました。かき集めても足りなかった今回の作戦の費用。足りなかった分を私財を投入までして補った、会長の気持ちが」

古参会長「少年たちが守ってくれた物を思えばまだまだ足りないくらいだ」



姫(会長は頭を振りますが……独裁都市の一ヶ月分の運営費ほどの額です)

姫(とてつもない額だというのに……いやそれほど男さんたちの行為に感謝しているということでしょうか)

759 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/25(水) 23:32:41.35 ID:FjdzGLil0

古参会長「いやはや、年を取るとどうにも昔話ばかりしてしまう。大事なのは今だというのにな」

姫(古参会長はポンと手を叩いて話題を変えた)



姫「あ、すいません。会長は補給の責任者。私と無駄話している暇はありませんよね」

古参会長「いや何、本当に余裕が無ければそもそも話しかけてはおらん。次の補給が到着するまで後少しあるから大丈夫だ」

古参会長「それまでに現在の戦況を説明しておこう。ここは指令所。流れ弾が飛ばないように陣の最後衛に位置している分、状況も分かりづらいだろうしな」

姫「ありがとうございます」



古参会長「正直なことを言うと、現在連合軍は王国軍に押され気味だ」

古参会長「想定外なことが二つ発生しているからだろう。戦場に伝説の傭兵殿の姿が無いことと王国軍の数が多いことだ」



姫「傭兵さんがいないんですか?」

古参会長「ああ。元々傭兵殿からは『連合軍の指揮下で動くつもりはない、自分たちの策の下に動くつもりだ』とは聞いている」

姫「策というと魔族さんと女さんと何か打ち合わせをしているのは耳に挟みましたが」



古参会長「何を企んでいるのかは分からないが、とにかく一騎当千の竜闘士が二人いれば盤石だと思っていたところで、戦場に女君一人しかいないため目論見が外れているところが一点」

760 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/25(水) 23:34:26.34 ID:FjdzGLil0

姫「もう一つ、王国軍の数が多いというのは?」

古参会長「そのままの意味だ。正確には連合軍と戦闘中の数が、ということになるな」



姫(古参会長の曖昧な言い回し)

姫(この場所は連合軍の司令所。二人で話しているが、先ほどから周囲の人の行き来も激しい)

姫(つまりその無関係な人に聞かれるわけには行かない言葉を避けているということで…………)



姫「あれが動いていないというわけですか?」

姫(すなわち犯罪結社『組織』のことだ。元々、二正面作戦によって戦力の分散を計るという話である)



古参会長「その可能性が高いのだろうな」

姫「まだ王国側にあれが動いていることを気づかれていないだけという可能性も……」

古参会長「いや、無いだろう。使者の話を魔導士の少女、女友君は聞いている。王国には筒抜けのはずだ」

姫「あっ、そうでした」



古参会長「だとしてもやることには変わりない。ここを突破して、王都にたどり着き、何としても魔王城までたどり着かねば」



姫(今の戦場は王国の郊外だ。王都にあると言われる魔王城まではまだまだ遠い)

761 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/25(水) 23:35:43.42 ID:FjdzGLil0

古参会長「さて、時間だな。私は行くぞ」

姫「貴重な時間を割いてくれて、ありがとうございました」

姫(去っていく会長に私は礼をする)



姫「…………」

姫(どうやら戦況は芳しくないようです)

姫(王国の力は強大。それに対抗しうる力をかき集められたのは奇跡で一回限り。作戦を失敗すれば、王国の支配はもはや誰にも止められないでしょう)



姫(戦う力も戦場を動かす権限も持たない私)

姫(唯一出来ることといえば)



姫「お願いします、女神様。私たちを勝たしてください」



姫(願うこと)

姫(それは女神教の大巫女として祈りは欠かしたことが無い私には得意分野でした)

762 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/25(水) 23:36:26.72 ID:FjdzGLil0

<王都近郊>



女友「はぁ……」

女友(私は空中で溜め息を吐きました)



女友(現在の状況は連合軍による王国解放作戦の進行中です)

女友(男さんの魅了スキルによって王国に味方するしかない私は防衛する側と言えます)



女友(連合軍はかなりの戦力を揃えてきたようですが、王国軍だって盤石の準備をしています)

女友(総司令官を命じられた近衛兵長さんの指揮の下、ほぼ全勢力で以て当たっているはずです)

女友(遅れは取らない、いえこちらが圧倒することもあり得ますね)

763 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/25(水) 23:38:06.19 ID:FjdzGLil0



女友(――と、想像するしかないのは私がその場にいないからです)

女友(連合軍に王国軍の全力で当たった結果、生じる当然の問題)

女友(すなわち『組織』の攻撃を如何にして防衛するかということです)



女友「うじゃうじゃいますね……」



女友(浮遊魔法で宙を行く私の眼下に見えてきたのは地上を埋め尽くす『組織』の構成員)

女友(ざっと数えて5000人ほどでしょうか。それら全てが王都に向けて進んでいます)

女友(浮遊魔法に加えて透明化魔法をかけているため地上の構成員たちに気づかれていませんが、気づかれた瞬間魔法や矢が飛んできてたちまち危機に陥るでしょう)



女友「『組織』はどうやらかなりの数を揃えてきたようですね」

女友(チャラ男さんの話が嘘だったら、私の仕事も無くなったのですが)

764 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/25(水) 23:43:16.41 ID:FjdzGLil0

女友(『組織』に対しての防衛は男さんの命令によって私に任されました)

女友(しかし、何度も言っていますが現在連合軍相手にほとんどの戦力を割いていますし、何かあったときのための人員を王都と魔王城にも配置しなければなりません)



女友(結果、『組織』防衛にかけられる人員は――2人)

女友(私ともう1人で5000を越える数を相手しろ、というわけです)



女友(見た感じ『組織』の構成員にそこまでの練度は無いようですので、魔導士である私なら一度に十数人ほどは相手出来るでしょう)

女友(ですがそれが限界で、まともに戦えば一瞬でやられるに決まっています)



女友(男さんが私への嫌がらせにこのような配置にしたのか?)

女友(今の男さんがおかしくなっているとはいえ、そこまでのことをするはずがありません。勝算があっての行動です)



女友(鍵となるのはもう一人の存在)

765 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/25(水) 23:45:22.18 ID:FjdzGLil0





幼女「空飛んでる!! あ、ねえねえ、お姉ちゃん!! 人がいっぱいいるよ!!」





女友(私の脇に抱えている幼女の発言)

女友(私が独裁都市から帰ってきたときには、集まった宝玉を使い既に呼び出されていた存在)





女友(つまりは――これまで魔神と呼んできた存在です)




766 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/25(水) 23:45:50.76 ID:FjdzGLil0

女友「ああもう暴れないでください」

女友(空中にいるのに落ちたら一大事です。はしゃぎだした幼女を強く抱えます)

女友(魔神と呼ばれていてもその正体は幼き少女です。戦う力も持っていません)



女友(その身に宿すのは一つのスキルのみ)

女友(固有スキル『囁き』)

女友(この世界を滅ぼす直前まで追い詰めた最凶のスキル)



女友「この辺りで大丈夫ですか?」

幼女「もうちょっと高い方がいいかも」

女友「……本当ですか? 地上からさらに離れることになりますが」



幼女「うん、もうちょっと高いところに行った方が楽しそう…………あ、じゃなくて」

女友「はぁ……真面目にやらないとパパに言いつけますよ」

幼女「ごめんなさい、嘘を吐きました! パパには言わないでください!」

767 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/25(水) 23:46:17.65 ID:FjdzGLil0

女友(私が出したパパという単語)

女友(幼女は男さんのことをパパと呼んでいます)

女友(召喚されて男さんの姿を見たところ、パパに似ているということからです)



女友(そしてこのように自由に振る舞っているのも男さんの魅了スキルがかかっていないからです)

女友(学術都市でリンクが繋がって以来、頻繁に会話が交わされた結果、男さんは幼女を駒として見ることが出来なくなったそうです)

女友(そうなると幼き少女を魅力的に思うほど腐ってはいないという言い分で、虜に出来ていないのです)



女友(ですから普通に関係を築いた結果、幼女は男さんの言うことだけは聞くようになりました。本当に娘と父のような関係です)

768 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/25(水) 23:47:53.02 ID:FjdzGLil0

女友「だったら言われたとおりお願いします」

幼女「うん、分かった。お姉ちゃん、透明化解いて。そしてみんなの注目を集めて」

女友「了解です。『不可視(インビジブル)』解除。『吹雪の一撃(ブリザードアタック)』!!」



女友(私は言われた通り透明化を解除して、氷の雨を地上に降らせてこちらに注目を向けさせます)



構成員1「いたっ……何だいきなり……って、誰だあいつ?」

構成員2「おまえ情報にあっただろ、クラスメイトとかいうくくりに属する魔導士だ」

構成員3「魔導士とかやべえな。でも一人、しかも子連れとか無謀すぎるだろ」



女友(気づいた構成員たちがこちらを見上げだしました)

女友(私と幼女の姿しか見えないことに嘲笑が辺りに満ちます)

女友(犯罪結社の構成員だけあって、下卑で粗野な男たちばかりです)



女友(だからこそこれからの行動の効果が増すでしょう)

769 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/25(水) 23:48:18.17 ID:FjdzGLil0





幼女「じゃあ行くよ! 『囁き』!!」





女友(幼女が、魔神がその最凶のスキルを発動します)

女友(その条件はお互いに存在を認識すること)

女友(その効果は対象の欲望を解放すること)





構成員たち「「「あっ…………」」」





女友(『組織』の構成員全てに『囁き』がかかった結果起きることは)

770 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/25(水) 23:48:54.15 ID:FjdzGLil0

構成員1「おまえ前から気に入らなかったんだよ!!」

構成員2「その得物いいな、よこせっ!!」

構成員3「いっつも、いっつも嫌がらせをしやがって!! うんざりなんだよ!!」

構成員4「おまえの女いいやつだよな! おまえが死ねば俺の物になるよな!」

構成員5「いっつも偉そうにしやがってよぉっ!!」





女友(壮絶な同士討ち)

女友(5000の数を1人で自滅に追い込む)



女友(これこそが固有スキル『囁き』の本領)



771 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/25(水) 23:49:21.24 ID:FjdzGLil0



幼女「ねえ、お姉ちゃん。手退けてよ」



女友(私は自然と目の前の醜い光景を見せないために幼女の目を手で覆っていました)

女友(これまで触れ合って分かったのは、規格外の力を持ってしまっただけのただの幼き少女だということです)

女友(こんなもの見せるわけにはいけません。男さんの命令で禁止されている事項じゃなくて助かりました)



女友「駄目です。見ちゃいけないものがあるんです」

幼女「でも見えないと上手く行ったか分からないじゃん」

女友「それなら完璧ですよ。きっとパパも褒めてくれると思います」

幼女「本当っ!?」

女友「さて仕事も終わりましたし帰りますよ」



女友(命令されたことをこなした私は、次なる命令『魔王城に帰還すること』の実行に移りました)

772 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/03/25(水) 23:49:49.00 ID:FjdzGLil0
続く。
773 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/03/26(木) 05:09:56.49 ID:So1KGHneo
乙ー
774 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/03/27(金) 18:33:20.94 ID:LMEZiJgPO
乙!
775 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/03(金) 00:06:01.78 ID:WSmNXtlS0
乙、ありがとうございます。

投下します。
776 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/03(金) 00:06:40.23 ID:WSmNXtlS0

<王都近郊>



イケメン「何だ、この戦闘音は! 接敵はまだだったはずだろう! 一体何が起きた!」 

伝令「そ、それが空に脇に何者かを抱えた王国の魔導士が現れ何らかのスキルを使われた結果、突然我が方が同士討ちを始めたようで……」

イケメン「同士討ちを誘うスキル……まさか」



伝令「そして……俺もいつもいけすかない態度のおまえをぶっ殺したくなったんだよ!!」

イケメン「っ……! 『影の束縛(シャドウバインド)』!!」



イケメン(態度を豹変させた伝令を僕はスキルを使って拘束する)



伝令「くそっ、離せ!!」

イケメン「離すわけ無いだろう。はぁ……面倒なことになったみたいだね」

777 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/03(金) 00:07:19.76 ID:WSmNXtlS0

イケメン(僕は『組織』の王国討伐作戦における全権を受け持っている)

イケメン(組織への貢献から幹部へと昇進しこのような重大な役職も任されるようになった)



イケメン(今回部隊は主に二つに分けている)

イケメン(一つは寄せ集めの大部隊。もう一つは僕が直接指揮する少数精鋭の部隊だ)

イケメン(大部隊が王国軍と正面からやりあい注意を引いている間に僕らが潜入する手はずだったけど、どうもその目論見には陰りが差しているようだ)



ギャル「同士討ち? 何でこの時に? 寄せ集めだとしても馬鹿すぎない?」

イケメン「想像は付く、魔神だろうね。『囁き』のスキルにより欲望を解放された結果、日頃から不満を溜めていた味方に当たり散らかし始めたというところだろう」

ギャル「使えないわね」

イケメン「ああ、全くだ」



イケメン(ギャルの言葉に演技でなく僕は同意する)

778 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/03(金) 00:08:01.97 ID:WSmNXtlS0

イケメン「さてそうなると、注意を引ける時間も限られる。急がないとね」



イケメン(僕は部隊に指示を出して捜索を急がせる)

イケメン(現在位置は王都付近の森の中)

イケメン(チャラ男からの手紙にあった、魔王城への抜け道があるはずの場所だ)

イケメン(今回の作戦に当たって設立された部隊、30人ほどの達人級の使い手が散らばって抜け道の出口を探す)



イケメン(ちなみに当然ながら隊員は全員男性である)

イケメン(女性を支配する魅了スキルの持ち主の根城に乗り込むのに、のこのこと対象となる女性を連れていくはずがない)



ギャル「ほらーきりきり働きなさいよー」



イケメン(唯一の例外が僕の隣に立ったまま捜索をサボっているギャルだ)

イケメン(こいつはそもそも異世界に召喚されたばかりの時に魅了スキルを食らったが虜になっていない)

イケメン(条件である術者が魅力的だと思う異性に当てはまっていないというわけだ)

779 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/03(金) 00:08:27.83 ID:WSmNXtlS0

イケメン(チャラ男の手紙から、今の男がどんな女性も自身の駒だと思えば魅力的だと思える、という考えは知っている)

イケメン(だがそれも以前に関わりの無かった人間に限られるわけで、復活派の魔族が対象外だったようにこいつも対象外という判定になるはず)

イケメン(というわけで魅了スキルを気にしないで良いとなると、十分に力を持ちそして僕に従順と連れて行かない理由がない。そういうわけでこいつも部隊に同行させているのだった)





イケメン(隊員たちには地面の感触を確かめながら捜索させている)

イケメン(抜け道は地下道だ。どこかに空洞があるはず)



隊員「見つかりました!!」



イケメン(程なくして報告が上がった。魔法によって地表を吹き飛ばされた結果ぽっかりと穴が空いている)



イケメン「よくやったね。さて進むよ」



イケメン(僕は隊員を集めて地下へと降りるのだった)

780 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/03(金) 00:09:06.07 ID:WSmNXtlS0

イケメン(地下道はしっかりとした造りだった)

イケメン(元は王族が緊急事態の際に逃げるための物だ。何かあったときに壊れていたりしたら話にならないからだろう)

イケメン(そのため進むのに苦は無いのだが……僕は部隊に警戒させながら歩かせたためスピードは遅かった)



ギャル「急ぐんじゃないの? こんなところでゆっくりしてていーの?」

イケメン(お気楽なギャルの言葉は無視する)



イケメン(ここまではスムーズに潜入できた。だからといってここからも上手く行くなんて思ってはいない)



イケメン「…………」



イケメン(何か出来すぎている。罠ではないのか?)

イケメン(そもそも最初チャラ男からの手紙を見たときから胡散臭いとは思っていた)

イケメン(自分の本拠地にある抜け道に気づかないままなんて間抜けすぎる)

イケメン(それほど抜け道を見つけた女友が優秀だったというだけか? それとも分かっていて泳がせているのか?)

781 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/03(金) 00:09:38.49 ID:WSmNXtlS0

イケメン(しかし僕の警戒も空しく何も起きず、地下道を進み続けた結果目の前に扉が現れた)



ギャル「ほら、何も無かったじゃん」

イケメン「……結果論だ」



イケメン(ギャルの軽口に僕は苦々しい面持ちで返す)

イケメン(扉を開けて地下道を出たところにあったのは部屋だった。食材がごったに転がっている)



イケメン「王城の調理室地下にある食料庫か。どうやら順調に進めているようだな」



イケメン(首尾良く魔王城に潜入することが出来た。だがここからが本番)

イケメン(今もって連合軍と王国軍は正面衝突しているはずだ。だからといって全ての戦力が本拠地であるこの魔王城から出払っているはずがない)

イケメン(チャラ男の手紙による女友からの情報によると、やつは魔王城の最上階、謁見の間にいることが多いらしい。警備の目をどうにか潜り抜けて辿り着いてみせる)

782 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/03(金) 00:10:07.75 ID:WSmNXtlS0



イケメン「作戦通りだ。まずは二人、表に出て警備の目を攪乱してこい」

隊員たち「「はっ!」」



イケメン(調理室へと通じる扉から隊員の二人が出て行く。それを後目に僕らは裏道を進む)

イケメン(この魔王城は元々人目に付かないように移動できる裏道が張り巡らされているようだ)

イケメン(その内の一つはもちろん謁見の間まで繋がっている)

イケメン(そうでなければ緊急事態の際に王族を逃がすことが出来ない)



イケメン(裏道を進んでまた扉に当たる。ここは一階の倉庫か)

イケメン(魔王城の構造は事前に頭に叩き込んでいる。大陸一の犯罪結社である『組織』には、そのような重要な機密情報さえ持っている)

783 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/03(金) 00:11:22.44 ID:WSmNXtlS0



イケメン「次は四人だ」

イケメン(また隊の一部を警備の攪乱のために放つ)



イケメン(そうして進みながら隊を分けていった結果、最終的に謁見の間の前に立ったのは僕とギャルの二人だけとなった)



ギャル「二人きりだね」

イケメン「ああ、そうだね」



イケメン(緊張感に合わない含みは無視して同意する)

イケメン(他の隊員は攪乱のため全て離れた。しかしその結果として辺りに警備の者も見当たらない)

イケメン(この二人きりという状況は想定したパターンの中でも良い方だろう)



イケメン(階下からはかすかに騒ぎとなっている音が聞こえる)

イケメン(いきなり本拠地に敵が侵入したとなれば蜂の巣をつついたようになって当然とも言える)

784 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/03(金) 00:12:07.42 ID:WSmNXtlS0

イケメン「さて、行こうか」

ギャル「うん。魅了スキルを持つあいつをぶっ飛ばして、みんなを解放するために!!」

イケメン「……その通りだ」



イケメン(いきなりギャルが意気込んだ言葉を言うものだから、反応が一瞬遅れた)



イケメン(そうだったな、この脳天気な女は未だに僕が魅了スキルにかかった者を助けるために行動していると思い込んでいる)

イケメン(後少し、全てが手にはいるまでは騙し通さなければ)

785 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/03(金) 00:12:37.08 ID:WSmNXtlS0

イケメン(謁見の間に二人で侵入する)

イケメン(そこにいたのは一人だけ)

イケメン(王座の前に立つその人物は――)





男「ようやく来たか。待っていたぞ」





イケメン(男は僕たちの姿を見ても驚く様子も無く、そのように言った)



786 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/03(金) 00:13:07.07 ID:WSmNXtlS0



ギャル「ようやく? 待っていた? ふん、どうせ強がりでしょ」

イケメン(最初はギャルの言うとおりだと思った)



イケメン(だがそれにしては男は自然体で、僕らの登場に驚いた様子はない)

イケメン(それを見て、地下道に入ったときから抱いていた嫌な予感の正体がようやく掴めた)





イケメン「あの手紙は罠じゃなくて誘いだった……ということかい?」

男「話が早いな」





イケメン(僕らはわざと侵入させられていた。女友に情報を流させれば辿り着けるだろうという読みか)

イケメン(本当なら男の手のひらの上だったということになるかもしれないが……)

787 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/03(金) 00:14:41.59 ID:WSmNXtlS0



ギャル「いやいやアタシだってそれがおかしいことは分かるって」

ギャル「あんた一人で待ってたら何も出来ないじゃん」



イケメン(そうだ、周囲に僕ら以外の存在の気配は感じられない)

イケメン(達人級の使い手であるギャルと最強級の使い手である僕)

イケメン(二人の前に魅了スキルしか持っていない男一人しかいないというこの状況が成立している時点で全てがもう終わっている)





イケメン「何かの計算違いでもあったのかい? まあ、待つつもりはないけどね、『影の束縛(シャドウバインド)』!!」





イケメン(僕は早速拘束スキルを、あの夜に使ったのと同じスキルを使用)

イケメン(男の影が実体化し、その主を縛ろうとする)



イケメン(やつに抵抗する力はない)

イケメン(あのときと同じようになすすべなく立ち尽くしたまま――――)

788 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/03(金) 00:15:07.92 ID:WSmNXtlS0





男「『閃光(フラッシュ)』」





イケメン(――否)

イケメン(男は魔法を発動。辺りを目映い光が埋め尽くし、影が消滅する)





イケメン「……なっ!!」

男「何も計算違いはない。全ては俺の思い描いたままだ」



イケメン(右手を振り払った動作を戻しながら男がのたまう)

789 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/03(金) 00:16:20.02 ID:WSmNXtlS0

イケメン「…………」

イケメン(そういえば情報を見た覚えがある)

イケメン(やつは学術都市で魔法を学んだ結果、基本的な魔法を使えるまでにはなったと)

イケメン(あの夜とは違ってやつには戦うための力がある)



イケメン(だとしても今の光景はおかしい)

イケメン(初級光魔法の『閃光(フラッシュ)』)

イケメン(本来は手元を光らせる程度の魔法のはずで、周囲を光で埋め尽くし影を消し去るほどの力はなかったはずだ)



イケメン(だとしたら今の状況を生みだしたトリックは――――)



790 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/03(金) 00:16:51.47 ID:WSmNXtlS0



男「付加魔法(エンチャント)だ」

イケメン「何……?」



男「今の俺は虜にした魔法使いたち――1000人からエンチャントを受けて強化されている」

イケメン「1000人だと!!」



イケメン(エンチャント)

イケメン(他者の筋力や魔力などを上げることが出来る魔法の一種だ)

イケメン(とはいえその一つ一つの効果はそこまで劇的なものではない。そもそも術者本人以上に強化できるなら、自分で戦う必要が無くなる)



イケメン(しかし、一つ一つの効果は大きくないとはいえ、1000人も集まれば話は別だ)

イケメン(それだけの強化を受ければ……本来はちょっと魔法を覚えただけの素人が最強級と渡り合えるまで強化されてもおかしくはない)



791 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/03(金) 00:17:53.67 ID:WSmNXtlS0



イケメン「でも、随分と回りくどい方法を取るんだね」

イケメン「その1000人で僕らを囲めば簡単に倒せるだろうに」



男「全ては永遠の孤独に至るためだ」

男「おまえの襲撃から全ては始まったんだ」

男「俺に力があれば、おまえの襲撃をはねのけるだけの力があれば、俺は助けられる必要はなかったんだ」



男「誰かに対して執着心を抱いたまま孤独に至れるわけがない」

男「力の使い方を自覚してから、自然とこう思っていたよ。俺の力でおまえを倒したいって」



イケメン「おまえの力じゃなくて、エンチャントを受けた仮の力だよね」

男「おまえの『影使い』だって女神から授かった力だろうが」

イケメン「……」



男「何による力かなんて関係ない。イケメン、おまえを、俺のこの手で倒す」

男「そのためにここまで誘い込んだんだ。そうやって初めて俺はあの夜を乗り越えることが出来る」



イケメン「OK、OK。分かった、そういうことなら慣れているよ。僕はイケメンだからね、男から嫉妬されるのは慣れっこさ」



792 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/03(金) 00:18:33.33 ID:WSmNXtlS0

イケメン(男は王座に立てかけていた剣を手に取り戦闘態勢を取った)

イケメン(剣を扱うようなスキルも無いはずだが、単純に強化された筋力でぶん回されるだけで脅威だろう)



ギャル「結局どういうことなの、イケメン?」

イケメン「やつにも意地があるってことさ。まあ踏みつぶすだけなんだけどね」

ギャル「やることは変わらないってこと?」

イケメン「ああ、魔王を討伐してエンディングと行こう」





イケメン(ギャルと僕も戦闘体勢に入る)

イケメン(大戦の再来とも言える大規模戦闘の最中、支配派と駐留派の将による直接対決が始まった)



793 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/03(金) 00:18:59.39 ID:WSmNXtlS0
続く。
794 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/04/03(金) 00:58:11.93 ID:UNyj7ulwo
乙ー
795 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/04/04(土) 14:01:22.93 ID:UwYfOEn+0
乙!
796 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:45:26.09 ID:n4S9Drl30
乙ありがとうございます。

投下します。
797 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:45:53.12 ID:n4S9Drl30



男「『火球(ファイアーボール)』」



イケメン(元々は野球ボールほどの大きさの炎を発射する魔法)

イケメン(エンチャントで身体能力と魔力共に強化された男が使うとその大きさは桁違いとなる)



イケメン「ちっ……!」

イケメン(僕は身を投げ出すような横っ飛びで回避する)



ギャル「『雷速拳(ライトニングナックル)』!!」



イケメン(僕に魔法を放った後の隙を狙って、男の背後にギャルが回る)

イケメン(身体強化『雷速稼働(ライトニングスピード)』による超速度から繰り出される拳が振り下ろされて)



男「ふっ!」



イケメン(しかし男は剣を掲げることで頭上からの攻撃を受け止めた)



798 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:46:21.72 ID:n4S9Drl30

イケメン(魔王城、謁見の間で始まった戦いは一進一退の攻防を繰り広げていた)

イケメン(エンチャントで強化された男の力は凄まじいことになっていたが、こちらは僕とギャルの二人)

イケメン(二対一でそもそも数が有利な上、やつの弱点も見えている)



イケメン(それがどれだけ強化されていても使えるのは初級魔法だけということだ)

イケメン(初級魔法はシンプルな、直線軌道な攻撃がほとんどだ)

イケメン(故に僕とギャルで挟むように陣取るだけで、男は同時に二人を攻撃することが出来ない)



イケメン(辺り一帯を攻撃する魔法、たとえば魔導士の『吹雪の一撃(ブリザードアタック)』などをこの魔力で使われたら厄介だった)

イケメン(だがこれなら二人で入れ替わり立ち替わり削っていけばいい)

799 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:46:52.49 ID:n4S9Drl30

ギャル「ああもうっ、守ってばっかでムカつく!!」

イケメン(懇親の攻撃を防がれてギャルが地団駄を踏む)



イケメン「落ち着いて、ギャル。あいつは僕たち二人相手に守るしかないんだ」

イケメン「あんな攻撃力の数値だけバグった雑魚敵みたいなやつ、今の状態を維持していればいずれは倒せる」



ギャル「分かってるけど……だったらどうしてあいつは打って出ないのよ」

イケメン「っ、それは……」



イケメン(ギャルの疑問に答えられない)

イケメン(戦闘熟練度がない男は雑魚敵のような単純な挙動しか出来ない)

イケメン(だがやつは人間、思考する生き物だ)

イケメン(だったらどうしてこの不利なやりとりを続けている)

イケメン(何かの狙いが……)

800 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:47:23.87 ID:n4S9Drl30





男「やっぱり実戦が一番だな。魔素の取り込み方、魔力の練り方……よく分かってきた」





イケメン(自分の手のひらを見つめながら呟く男)





男「そろそろこちらから行くぞ。『二重火球(ダブルファイアーボール)』」





イケメン(そして両手をこちらに向け、それぞれから炎を放った)



801 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:48:00.96 ID:n4S9Drl30

イケメン「ちっ! 戦いの中での成長……それを見越して!」



イケメン(今までと違って二個になった火の玉)

イケメン(大きさは変わらないため、こうなると炎の壁が迫ってきているようなものだ)

イケメン(回避では間に合わないと判断した僕はスキルを発動)



イケメン「『影剣(シャドウソード)』!!」



イケメン(影で作られた剣で炎の壁を一刀両断。迎撃に成功する)

イケメン(炎が二つに分かれて僕らの両脇を通り過ぎて)



802 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:48:31.94 ID:n4S9Drl30



男「『風塊(ウィンドブロック)』」



イケメン(その奥から男が魔法を発動しながら飛び込んできた)

イケメン(炎の壁をブラインドに接近という単純な策)

イケメン(攻撃の有効度が上がりこちらが対応しないといけなくなったことで、やつも打って出れるようになったということか)



イケメン(掲げた手に圧縮・収束された風)

イケメン(それが『影剣(シャドウソード)』を使った後隙に硬直する僕をめがけて叩きつけられて)



ギャル「危ない!! っ……!」

イケメン「くそっ……!」



イケメン(その直前でギャルが僕を抱えて高速移動)

イケメン(直撃は免れたが叩きつけられた風の余波に当てられてギャルは転び僕ともども地面を転がる羽目になった)





男「『水の矢(ウォーターアロー)』」

イケメン(男はさらなる追撃を仕掛ける)

イケメン(水を矢のように何本も飛ばして地面に転がる僕とギャルを打ち抜こうとする)

イケメン(怒濤の連撃に対応が間に合わずその身を貫かれて――)

803 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:49:06.07 ID:n4S9Drl30



イケメン(身体にノイズが走ったように揺れてその姿が消えた)



男「!?」

イケメン「ようやくその余裕そうな表情が崩れたね」



イケメン(ギャルに助けられた瞬間、僕は『影の投影(シャドウコントロール)』を発動)

イケメン(逃げる方向と反対に僕らの幻影を放っていた)



イケメン(『潜伏影(ハイドシャドウ)』で自分たちの姿を隠すことまでは間に合わなかったけど、幻影を派手に地面に転がせた結果男の注意はそちらの方に向いていたようだ)

イケメン(魔法を無駄撃ちして決定的な隙を晒した男に)



イケメン「『影の装甲(シャドウアーマー)』!!」



イケメン(僕は自身の影を身に纏って身体能力を強化)

イケメン(男に突進してそのバランスを崩し、地面に倒れたところでマウントポジションを取った)

804 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:49:42.56 ID:n4S9Drl30



イケメン「弱い癖にちょっと成長したくらいで調子に乗るからこんなことになるんだ」

イケメン「最初から弱者は強者に従っていればいいのにね」



男「くそっ、黙れ!!」

イケメン「そっちこそね」



イケメン(圧倒的有利な状況からタコ殴りにする)

イケメン(男は身体能力こそ強化されているものの、身体の使い方は素人だ)

イケメン(影使いの専門外ではあるが、戦闘スキルの延長上に授けられた技術があるためこちらの方に長がある)

805 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:50:16.57 ID:n4S9Drl30

イケメン「ようやく力が抜けてきたか」

男「…………」



イケメン(ボコボコにされた男の抵抗が弱くなってきた)

イケメン(僕の目的、魅了スキルを使う道具とするためにこいつを殺すわけには行かない)

イケメン(誰かを服従させる魔法などあれば簡単だったが、生憎なことにそれに準じるような力も含めて目の前にある魅了スキルくらいしかこの世界に存在しない)

イケメン(故にこいつは力で屈服させるしかない)

イケメン(しかし、身体の抵抗こそ弱まってきたものの、男の目には未だ強い意志が宿っている)





イケメン「全く、そろそろ諦めて欲しいものなんだけどね。助けでも待っているのかい?」

イケメン「残念だけど僕の部下たちが警備を攪乱している。しばらくは誰も来れないと思うよ」



男「他人の手は借りねえよ。言っただろ、おまえは俺の手で倒すって」

イケメン「その状況でも強気な言葉を吐けるところは評価するよ」



イケメン(さてもう少し痛めつけるか、と拳を握り直したところで)

806 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:51:37.68 ID:n4S9Drl30



ギャル「そうよ、さっさと女や女友たち、みんなにかけた魅了スキルを解除しなさいよ!!」



イケメン(ギャルが口を挟んできた)



男「……おまえもスキルの説明は見たはずだろ。魅了スキルは解除不可能だ」



ギャル「それは異世界に来たばかりの時の話でしょ」

ギャル「成長してコントロール出来るようになって、オンオフくらい自由に出来るようになってないわけ?」



男「無理だな。そういう類のスキルじゃない」



ギャル「あっそ。じゃあ殺すしかないわね」

男「…………」

807 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:52:22.28 ID:n4S9Drl30



ギャル「殺せば流石にスキルの効果も無くなるでしょ」

ギャル「あんたは憎い思いもあるけど、アタシだって積極的にクラスメイトを殺そうだなんて思いたくない」



ギャル「でも本気よ」

ギャル「魅了スキルをかけて女や女友はあんたなんかに惚れさせられて、その自由を奪われた」

ギャル「いわばあんたに殺されたようなものでしょ」

ギャル「それにこうして王国も乗っ取って多くの人に迷惑をかけている。殺されても仕方ない所行でしょ」





男「……まあ他人の自由を奪ってきた俺が、自分の自由を奪われることを拒むのは筋違いだろうな」

ギャル「何だ、覚悟は出来てるのね。じゃあ、イケメン」





イケメン(ギャルは僕に呼びかける)

808 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:53:05.73 ID:n4S9Drl30



イケメン「…………」



イケメン(何が『じゃあ』なのだろうか?)



ギャル「あ、それともアタシが殺した方がいい? なら代わるけど」



イケメン(殺す? 僕の欲望を叶えるための魅了スキルの持ち主を?)



ギャル「……? ねえ、イケメン聞いてるの?」



イケメン(ああ、聞いてるさ)



イケメン(本当に、もう……我慢の限界だ)



809 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:53:51.79 ID:n4S9Drl30



イケメン「ちょっと黙っててくれないか、ギャル?」

ギャル「え……ご、ごめん。何か気に障った?」



イケメン「何か? おかしいこと言うね。全部だよ、ギャルの言うこと全部が耳に障る」

ギャル「ぜ、全部って……そ、そんなおかしいこと言った?」

ギャル「だってそいつを殺さないとみんな魅了スキルから解放されない……アタシたちの目的はずっとそれで……」



イケメン「たち、じゃない。ギャルだけの目的だろう」

ギャル「……え?」





イケメン「僕の目的は最初から――魅了スキルを手に入れて、全ての女性を支配することだ」





810 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:54:24.28 ID:n4S9Drl30

イケメン(ずっと騙してきた)

イケメン(目的を達成するまで騙しきるつもりだった)

イケメン(でももう男はボロボロで圧倒的有利は変わらず、目的達成間近ともいえる)



イケメン「…………」

イケメン(だったらちょっとくらい早くてもいいよね?)



イケメン(ちょうどいい趣向とも言える)

イケメン(今まで調子に乗っていたこいつが絶望する姿を見ながら、目標達成と行こうじゃないか)

811 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:55:20.27 ID:n4S9Drl30



ギャル「何……言ってるの、イケメン?」

ギャル「全ての女性って……そんなの必要ないでしょ」

ギャル「だってイケメンには、アタシっていう彼女がいるんだから」



イケメン「そうだね。じゃあ別れようか、僕たち」

ギャル「……っ!? じょ、冗談だよね?」



イケメン「もちろん冗談だよ」

イケメン「だって……僕は最初からギャルのことを彼女だなんて思っていない」

イケメン「付き合ってなければ別れることも出来ないからね」



ギャル「彼女じゃないって……な、何でそんなこと言うの?」

ギャル「アタシたちいっぱいデートもしたし、ちゃんと付き合ってたじゃん!」



イケメン「ああ、本当おまえみたいなやつ相手に彼氏のフリをするのは疲れたよ」



イケメン(今まで貯まっていた鬱憤が晴れていく)

812 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:56:00.63 ID:n4S9Drl30



ギャル「……アタシが悪いの? だったらはっきり言ってよ。全部直すから!」



イケメン「そう? じゃああげていこうか。まずはガサツなところが駄目でしょ」

イケメン「独占欲が強いところも駄目。頭が悪いのも駄目だし……」

イケメン「うーん、困ったね。多すぎて手間がかかるよ」



イケメン「あ、そうだ。逆にいいところをあげておこうか」

イケメン「顔だよ、顔。見てくれだけはいいから、キープにはちょうど良かったんだ」



ギャル「な、何それ……う、嘘だよね?」

イケメン「そうやって元彼を疑うところも駄目なところだね。本当にもう駄目駄目さんだ」



ギャル「そ、そんな……」

イケメン「全く、ギャルが女みたいに完璧だったら楽だったんだけどね」

813 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:57:40.13 ID:n4S9Drl30



男「あの夜のときも言ってたな……未だに女がおまえの理想の人なのか?」



イケメン(はぁ、と溜め息を吐いたところで、その名前に反応したのかマウントポジションを取られたままの男が言葉をこぼす)



イケメン「当然だろう。貞淑で、スタイルも良くて、気遣いも出来る……完璧な女性だ!」

男「……ふっ」

イケメン(男が鼻で笑う)



イケメン「何がおかしい?」

男「あいつが、女が完璧な女性……? 全くどんな幻想を見ているんだか」



イケメン「自分は分かっているアピールかい? ただ一緒に長く旅していただけな癖に」

男「ああ、俺と女は所詮一緒のパーティーっていうだけの関係だ。少なくとも俺はそう思ってた」



イケメン「……何が言いたい」

男「おまえはイケメンの癖に、全く女性の心が分かってないんだな。それじゃモテねえぞ」



イケメン「女性と付き合ったこともない君には言われたくないね」

イケメン「全く、その良く回る口を閉じる必要がありそうだ」



イケメン(動こうとしたそのとき)

814 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:58:29.06 ID:n4S9Drl30





男「おまえが目的を達成して魅了スキルを手中に収めたとしても、おまえが一番に欲しいもの――女は手に入らねえよ」

男「だってあいつには魅了スキルがかかってないんだからな」





イケメン「……………………………………は?」

イケメン(何を……言っている。こいつは……?)



男「ほらな、分かってねえ。俺と同レベルじゃねえか」

イケメン「それは……おかしい。だって女には魅了スキルにかかった素振りが……」

男「フリだとさ。俺に好意を抱いていることがバレないようにするためのな」



イケメン「おまえに好意…………それならば理屈は…………だが、そんなことあり得るはずが……っ!?」



男「ははっ、初めて意見があったかもな」

男「全くその通りだ。どうして俺なんかを好きになったのか……」



イケメン(身体的にマウントを取られている癖に、精神的にマウントを取ってくる男)

815 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:58:58.70 ID:n4S9Drl30



イケメン「…………はははっ。なるほど、なるほど」

イケメン「そういうことか。僕としたことが焦ったよ」

イケメン「この状況を逃れるためにまさかここまでの嘘を吐くとはね」



男「嘘だったらいいけどな」



イケメン「黙れ、黙れ、黙れ……!!」

イケメン「仮におまえの言うことが本当だったとしても関係ない」

イケメン「魅了スキルは予定通り手に入れる!!」



男「女は手に入らないのにか?」



イケメン「うるさい! 女が手に入らなくてもだ!!」

イケメン「世界中の女性が手に入るなら十分におつりが来るからな!!」



イケメン(そうだ、例えこいつの言葉が万が一本当でも……!)

816 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 00:59:29.73 ID:n4S9Drl30



男「おまえのこれまでの行いには全く頷けるところがない」

男「だけどな、一つだけ」

男「理想の人を手に入れるためには善悪問わずに何でもするその姿勢だけはすごいな、と思ってたよ」



男「だけど……そうか。その程度で諦められる、代替出来るものだったのか……」

男「本当ガッカリだ」



イケメン(男は嘆息すら吐いてみせた)



817 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 01:00:07.41 ID:n4S9Drl30



イケメン「調子に乗りすぎだ」

イケメン「おまえは死んだ方がマシだ、と思えるような目に合わせる」



イケメン(廃人となるまで追い込むと道具として使い勝手が悪いから遠慮していたが、こいつの図太さだ)

イケメン(ぶっこわすつもりでちょうどいいだろう)



男「あっそ、やってみな」



イケメン(もう軽口には付き合わない)

イケメン(僕は手を出そうとして――)



818 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 01:00:33.65 ID:n4S9Drl30

 ――激情に駆られているようでイケメンはずっと冷静だった。

 男がマウントポジションを解除する方法は一つ。

 肉弾戦が駄目なら、魔法を使えばいい。



 だからこそイケメンはギャルとの会話の間も、男との口論の時も、男が魔素を取り込み、魔力を練らないかの観察を怠っていなかった。

 その傾向が見えた瞬間殴ることで男の集中を阻害、魔法を使わせないつもりだった。



 今この瞬間も男に魔力を練る気配はない。

 故に魔法は使われない、想定外の事態は起きない。



 そのように考えていて。

 ――だからこそ、その行動には虚を突かれた。

819 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 01:01:08.25 ID:n4S9Drl30



男「魅了、発動!!」

イケメン「っ……!!」



 魅了スキル。

 男が授かったただ一つのスキル。

 魔力を練らずとも使えるそのスキルの効果は異性の支配が主で、同姓のイケメンには効かない。



 だが、効果はそれだけではない。

 ピンク色の光。



男「ふんっ……!!」



 イケメンの目が眩んだその隙に男は全力を絞る。



 元々影使いのイケメンとエンチャントを受けた男の身体能力は拮抗していた。

 イケメンが技術により男を押さえつけていたが、一瞬の緩みを突くだけで逆転される程度の差。

 結果男は拘束を振り解き距離を取ることに成功した。

820 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 01:01:42.76 ID:n4S9Drl30



男「油断したな」

イケメン「ちっ、魅了スキルか」



イケメン(やけに大人しくしていると思ったら、このワンチャンスに賭けていたのか)

イケメン(だがダメージは十分にあるはず、面倒だが第二ラウンドの開始……と思って僕は戦闘体勢に入るが)



男「ふぅ……」

イケメン(男は身体から力を抜いてリラックスしていた)



イケメン「何のつもりだ?」

男「今までの問答でよく分かった。俺の手でおまえを倒そうなんて間違っていたってことに」

イケメン「今さら命乞いでもするつもりかい? だが容赦するつもりはない、僕はおまえを――」

821 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 01:02:22.74 ID:n4S9Drl30



男「そういうことじゃない」

男「おまえ程度のやつにこだわる意味をなくしたってことだ」

男「まあそれも戦った結果だから無駄ではなかったんだろうが」



イケメン「はっ、戯れ言を」



男「それにおまえを倒すのに、俺よりふさわしいやつがいる」



男「命令だ、イケメンをやれ」



イケメン(興味を失ったという言葉は本当なのか、男は面倒そうに命令を下す)

822 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 01:02:56.64 ID:n4S9Drl30

イケメン「っ……」



イケメン(命令)

イケメン(それこそずっと警戒していた選択肢だ)



イケメン(ここは魔王城、敵の本拠地)

イケメン(周囲の気配は窺っていたが、その程度では足りるはずがない)

イケメン(伏兵が配置されていてもおかしくはないと思っていた)



イケメン(自分の手で倒す……そんなことにこだわって負けるようでは本末転倒だからね)



イケメン(最初から男の言葉は信じていない)

イケメン(故に男の方針転換を素直に受け取った)

イケメン(そして全力で敵の気配を察知しようと周囲に気を配る)



イケメン(どこからだ……壁は遠い、隠れられるような場所もない、天井は高くもしものときに間に合わない……なら下だ!)



823 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 01:03:29.38 ID:n4S9Drl30





 敵に警戒した――だからこそ。

 イケメンは味方からの攻撃に反応することが出来なかった。





イケメン「ぐふっ……!?」



イケメン(後頭部を思いっきり殴られて派手に倒れる)

イケメン(後頭部……後ろ?)

イケメン(後ろにいたのは――)



イケメン「ギャル!! 何をしている!!」



イケメン(元彼女、縁を切ったはずのその人しかいない)

824 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 01:03:56.60 ID:n4S9Drl30

イケメン(一瞬で状況を理解した)

イケメン(早めに種明かししすぎたか)

イケメン(僕に捨てられたギャルが自暴自棄になって僕を殴ったということだろう)



イケメン(全く女ってやつは非合理的過ぎる)

イケメン(役に立たないどころか、足まで引っ張るとは)

イケメン(僕に貢献するなら手元に置いておくことも考えたというのに)



イケメン(そう思いながら振り向きギャルの姿を見上げて)



825 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 01:04:30.42 ID:n4S9Drl30



ギャル「ち、違うの……わ、私は……その、身体が勝手に……」



イケメン(ギャルが拳を振り切った姿勢のまま――涙を流していることに気づいた)



イケメン「え……?」



イケメン(流石に想定していなかった事態に思考がフリーズする)

イケメン(涙……? どうして自分を切り捨てた僕を憎んでいない?)

イケメン(よく分からないがそれなのにどうして殴って……)



男『命令だ、イケメンをやれ』



イケメン(もしかして……。だが、いや、それこそ――)

826 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 01:05:05.75 ID:n4S9Drl30



イケメン「有り得ない!! ギャルが虜になるはずがない!!」



イケメン(ギャルが意志に反して僕を殴ったのは、男の命令によるものだろう)

イケメン(先ほど目くらましに使用された魅了スキルの範囲にギャルもいて、そのとき虜になったと)



イケメン(だが……そうだ、異世界に召喚された際、暴発した魅了スキルはギャルに効果を発揮しなかった)

イケメン(なのに……どうして今回は成功して……)



827 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 01:05:56.36 ID:n4S9Drl30

男「俺の魅了スキル、効果対象は『魅力的な異性』だ」

男「だが絶世の美女がいたとして……そいつが老いておばあちゃんになっても魅力的かというと、絶対にそうとは限らないだろ?」



イケメン(男が頭の悪い子供に言い聞かせるような調子で話す)



男「魅力的かどうかなんて同じ人だとしてもその時々によって変わる」

男「魅力的じゃなくなることもあるし、逆もまた然りだ」



男「無駄な人間関係をすぐ切り捨てられるおまえには分からないだろうな」

男「最初は嫌な印象を持っていたとしても、ふとしたことで評価がガラリと変わることもあるってことを」



イケメン「つまり今のおまえには、ギャルが魅力的な異性に見えているってことか?」

イケメン「はっ、馬鹿な。それこそ有り得ない。こいつのどこが魅力的だって言うんだ」

828 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 01:06:32.71 ID:n4S9Drl30



男「簡単だ。おまえに裏切られた今このときに涙を流すことが出来るところだ」



イケメン「……?」



イケメン(涙? それに一体何の意味が……?)



男「ギャル、独裁都市での襲撃の際女友と交わしたやりとりは聞いた」

男「おまえは自分がイケメンに愛されてないことを知っていたんだろ」



ギャル「…………」



男「命令だ、質問に答えろ」



ギャル「……はい、その通りです」



829 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 01:07:08.85 ID:n4S9Drl30



イケメン「な、何を言っている……僕はきちんと彼氏のフリをして、騙して――」

男「浅い演技なんてバレていたわけだ」



イケメン「そんなはずあるか! おかしいだろ! 騙されていることが分かっていて、どうして僕に尽くしたんだ!」



男「それでも好きだから、ってことだろ」

イケメン「なっ……」



イケメン(今度こそ僕は絶句する)



830 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 01:07:42.33 ID:n4S9Drl30



男「自分を騙していて、他の女を追っていて」

男「それでも諦めきれなかった。一途に思い続けた」



男「ギャルは十分に魅力的な女の子じゃねえか」

男「そんな子に慕われて……おまえは何が不満だったんだよ? なあ、教えてくれよ」



イケメン「…………」





男「なんて……まあ俺が言えた立場じゃねえか」

男「命令だ、そいつを気絶させて、地下牢まで運べ」



イケメン(男は命令を残し、その身を翻した)

831 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 01:08:08.97 ID:n4S9Drl30



ギャル「ごめん、イケメン」



イケメン(命令を実行するために近づいてきたギャル)



イケメン「…………」



イケメン(僕を殴ってしまったことで、未だに涙を流す彼女に何かを言えるはずもなく)







イケメン(――視界が暗転した)

832 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/04/08(水) 01:08:35.97 ID:n4S9Drl30
続く。
833 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/04/08(水) 13:49:51.48 ID:Xh8gKN5qo
乙ー
834 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/04/08(水) 16:46:27.02 ID:zR4wGbd/O
乙!
835 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/07(木) 10:22:02.06 ID:rMfR1SqU0
待ってるぞ
836 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/09(土) 21:12:32.68 ID:biI/Iwp20
乙、ありがとうございます。


お待たせしました、投下します。
837 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/09(土) 21:13:36.21 ID:biI/Iwp20

女友(私は魔王城に戻ってすぐにその異変を感じ取りました)

女友(城のあちこちが荒らされているのです)



女友「…………」

女友(心当たりはありました)

女友(今回の作戦、サトルさんから何をするかは聞かされています)

女友(駐留派、カイさんをこの魔王城を誘った際に、その部下がこの魔王城を荒らしたということでしょう)

女友(しかし、既にその動きも警備に残っていた者たちによって沈静化されているようでした)



幼女「お腹減ったー、おやつ!!」

女友(一緒に連れていた幼女、魔神は私の手を離れ食堂めがけて無邪気に走り出します)



女友「転ばないように気を付けてくださいねー」

女友(城の中ならもう安全だろうと、私はその一言だけで送り出しました)

838 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/09(土) 21:14:21.78 ID:biI/Iwp20

女友(一人になった私は謁見の間を訪れました)

女友(そこではサトルさんがボロボロの状態のままぼーっと佇んでいます)



女友「サトルさん、無事でしたか!?」

女友(私は慌てて駆け寄りました)



男「あー……リオか」

女友「今すぐ回復します! 許可をください!!」

男「……俺に回復魔法をかけることを許可する」



女友(裏切り防止にサトルさんからかけられた命令『俺の意図する場合以外での魔法の使用を禁ずる』による一手間を置いて、ボロボロだったサトルさんの治療が始まりました)

839 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/09(土) 21:15:14.81 ID:biI/Iwp20
あー、変換するの忘れてました。
ちょっと投稿しなおします。
840 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/09(土) 21:16:58.69 ID:biI/Iwp20

女友(私は魔王城に戻ってすぐにその異変を感じ取りました)

女友(城のあちこちが荒らされているのです)



女友「…………」

女友(心当たりはありました)

女友(今回の作戦、男さんから何をするかは聞かされています)

女友(駐留派、イケメンさんをこの魔王城を誘った際に、その部下がこの魔王城を荒らしたということでしょう)

女友(しかし、既にその動きも警備に残っていた者たちによって沈静化されているようでした)



幼女「お腹減ったー、おやつ!!」

女友(一緒に連れていた幼女、魔神は私の手を離れ食堂めがけて無邪気に走り出します)



女友「転ばないように気を付けてくださいねー」

女友(城の中ならもう安全だろうと、私はその一言だけで送り出しました)

841 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/09(土) 21:18:14.63 ID:biI/Iwp20

女友(一人になった私は謁見の間を訪れました)

女友(そこでは男さんがボロボロの状態のままぼーっと佇んでいます)



女友「男さん、無事でしたか!?」

女友(私は慌てて駆け寄りました)



男「あー……女友か」

女友「今すぐ回復します! 許可をください!!」

男「……俺に回復魔法をかけることを許可する」



女友(裏切り防止に男さんからかけられた命令『俺の意図する場合以外での魔法の使用を禁ずる』による一手間を置いて、ボロボロだった男さんの治療が始まりました)

842 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/09(土) 21:19:11.56 ID:biI/Iwp20

女友「だから私は反対だったんですよ。自分自身の手で決着を付けるなんて」

男「…………」



女友(男さんは私の問いかけに反応しません)

女友(無視しているのではなく、どうやらそもそも聞こえていないようです)

女友(心ここにあらずといった様子で物思いに耽っています)



女友(イケメンさんと戦ったことで何か思うところがあったんでしょうか?)

女友(今回の作戦に当たって男さんの目的について私にも説明がありました)

女友(永遠の孤独を目指す、と。その目的は今回の大規模戦闘を制すれば叶うでしょう)



女友(そんなことのために、というのが私の率直な感想でした)

女友(独りただ生きるために生きるなんて寂しすぎます)



女友(出来れば考え直して欲しい)

女友(ですが命令によって説得することを物理的に禁止されている私には止めようがありません)

843 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/09(土) 21:19:57.04 ID:biI/Iwp20

女友「…………」



女友(女)

女友(私の親友)

女友(ことここに至っては彼女だけが頼みでしょう)

女友(連合軍と王国軍の戦いの行方はどうなっているのか……?)





伝令「失礼します! 戦況の定期報告に窺いました!」

女友(ちょうどいいことに、そのとき謁見の間に伝令が姿を出しました)



男「ああ、頼む」

伝令「はい! では報告します! 連合軍と我が方との戦いはこちらの優勢で押し返しています!」

伝令「『組織』軍は同士討ちが加速し壊滅状態に! 城に侵入した『組織』の部隊も全てを拘束しました!」



男「要注意戦力は?」

伝令「竜闘士の少女は変わらず一人で我が方のドラゴン部隊と渡り合っています!」

伝令「伝説の傭兵、魔族は相変わらず姿を見せません!」



男「……そうか。下がって良いぞ」

伝令「はっ!」



女友(伝令は敬礼すると回れ右して謁見の間を後にします)

844 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/09(土) 21:21:07.82 ID:biI/Iwp20

女友「…………」



女友(私たち王国軍の優勢)

女友(命令により協力しているとはいえ、心は連合軍の方にある私にとっては絶望の知らせでした)



女友(ですがこの結果も予想出来てはいました)

女友(王国軍 VS 連合軍&『組織』軍)

女友(両者の戦力は開戦時ほぼ同じくらいだったと思われます)



女友(ならばどうしてこのような結果になってしまったのか)

女友(ランチェスターの法則というものがあります)

女友(詳細は省きますが、一対一で個別に戦う近距離戦ではなく、銃や魔法などの遠距離から集団でやりあう戦場では)

女友(弾幕の密度などからして、人数が多くなるほど加速度的に有利になるのです)



女友(私と魔神の働きによって『組織』軍5000人を2人で突破した結果、そこに回さないといけなかったはずの戦力を他に回すことが出来て、じわじわと優位が拡大していった、と)



女友(連合軍がここまでの戦力を集めることが出来るのもこの一回のみでしょう)

女友(その一回限りの希望が費えようとしている)

845 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/09(土) 21:22:03.92 ID:biI/Iwp20



女友「これは…………もう終わりですか」

男「いいや、まだだぞ」

女友「え……?」



女友(治療を終えて立ち上がった男さんからの反論)



男「おまえが考えていることは大体分かる。戦場での戦力差はもはや決定的だ」

女友「ええ、ですから……!」

男「だがこの戦いの運命は最初からそんなところで推移していない」

女友「……?」



男「結局のところ連合軍の勝利条件は俺を倒すことだからだ」

男「魅了スキルによる極端なワントップ構造でここまでやってきた王国だからこそ、俺をどうにかすれば一瞬で瓦解する」



女友「それは……そうですが」

女友(男さんは何を言いたいのか、今いち把握しかねていると)

846 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/09(土) 21:22:40.50 ID:biI/Iwp20



男「イケメンたちが来る前に、一度護衛を付けて連合軍方面の戦場を見てきた」

男「女が戦う姿を見て……なるほど賭けに出てきたな、と感心したよ」



女友「何を言って……?」

男「噂をすればだ。来るぞ」



女友(男さんが天井を見上げます)

女友(つられて私も視線を上に向けたところで)



847 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/09(土) 21:23:31.65 ID:biI/Iwp20



ガッシャーーーーン!!

女友(天窓が破壊されて、超スピードの何かが落ちてきました)



女友「っ……!!」

女友(その音と衝撃に思わず顔を背けます)

女友(落ち着いたところで何が降ってきたのかを見て……)



女友「どうして……?」

女友(疑問が沸き上がりました)



女友(王国軍と連合軍の戦場は王都の郊外で行われている)

女友(先ほどの伝令ではそこで戦っているはずの者が……時間的にこの魔王城に訪れられるわけがない)



女友(無理矢理突破したならしたで、先に警告の方が来るはず)

女友(要注意戦力の動きは重点的に確認するように通達が行われていました)



女友(なのに――)

848 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/09(土) 21:24:52.00 ID:biI/Iwp20



女友「どうして……ここにいるんですか、女?」



女「ちゃんと『またね』って言ったじゃん。女友」





女友(竜の翼をはためかせる親友は私に一声かけた後、改めてこの城の主と向き合う)





女「さて、伝言は伝わってたかな。会いに来たよ――男君」



男「やっぱり来たのか、女」





女友(魅了スキルにより数奇な関係を築いてきた二人が)

女友(王国軍の魔王と連合軍の勇者となって)

女友(今、再び相対した)

849 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/09(土) 21:26:51.41 ID:biI/Iwp20

<王都郊外・激戦区>

近衛兵長(私はその報告に最初自分が聞き間違えたのかと思った)



近衛兵長「何だと! 城に竜闘士の少女が現れただと!」

伝令「は、はいっ! 監視の者が超高高度から振ってくる姿を見たと……」



近衛兵長(王国軍の指揮を預かり、連合軍と大規模戦闘を繰り広げる私の元にもたらされた報告)

近衛兵長(なるほど竜闘士ならば地上から確認できないほどの高さまで飛び上がって、直接魔王城に降下することも可能かもしれない)



近衛兵長(だが、可能なだけで有り得るはずがない出来事だった)

近衛兵長(理由は至極簡単なこと)



近衛兵長「だったら今もなお、あのドラゴン部隊と戦っている姿は一体何なんだ!?」



850 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/09(土) 21:27:49.88 ID:biI/Iwp20

近衛兵長(元々王国に組織されていたドラゴン部隊)

近衛兵長(今回の戦闘でも運用されているが、それに対して開戦当初から竜闘士の少女が一人で立ち向かい制空権の奪い合いとなっていた)

近衛兵長(一人で十数体のドラゴンと渡り合う少女がすごいというべきか、一騎当千の少女の進撃をどうにか止めていると見るべきか……)



近衛兵長(魔王城と戦場。二カ所に現れた少女)

近衛兵長(どちらかが偽物ということか?)

近衛兵長(いやだが報告が間違いでないのならば、超高高度からの降下など竜闘士でなければ出来るはずもないし、ドラゴン十数体と渡り合うことも竜闘士でなければ出来るはずがない)

近衛兵長(ならば――)





近衛兵長「……? 竜闘士?」





近衛兵長(二人の竜闘士)

近衛兵長(気づけば後は簡単だった)



近衛兵長「〜〜っ!! まさか最初からペテンに引っかかっていたというのか!!」



851 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/09(土) 21:28:29.57 ID:biI/Iwp20

<激戦区・上空>



魔族「少女の魔王城突入を確認した」

傭兵「そうか……ならばもう細工は必要ないだろう」

魔族「ああ――『変身』解除する」





傭兵(魔族がスキルを解除すると……竜闘士の少女の姿から、褐色角付きのいつもの姿に戻った)





傭兵「『不可視(インビシブル)』の解除も頼む」

魔族「ああ、そうだったな」



傭兵(魔族が魔法を解除すると、私の姿も戦場に現れた)



852 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/09(土) 21:29:07.63 ID:biI/Iwp20

傭兵(私たちが連合軍に力を貸している理由は一つ)

傭兵(少女を少年のところまで送り届けること)

傭兵(そのための策として考えた結果……私たちが二人一役で少女の姿に扮装することで、少女への警戒を外すのがいいと判断した)



傭兵(魔族の『変身』は変身した者の力を再現するが、竜闘士の力は別格のため再現できない)

傭兵(そのため少女の姿になった魔族の近くで、透明になった私がスキルを使うことでこれまで戦場を欺いてきた)

傭兵(策の提案と同時に、侵入路についても少女に一つアドバイスはした)



女『女友が残した抜け道は使わない方がいいんですか?』

傭兵『ああ。正直罠のにおいしかしない』

女『罠って女友がそんなことを……って思ってたから、この前も騙されたんですよね』

傭兵『それにわざわざそのようなことを竜闘士だから出来る強襲ルートが存在する』



傭兵(そしてそのアドバイス通りに上空から魔王城に侵入したようだ)

853 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/09(土) 21:29:35.11 ID:biI/Iwp20

魔族「さて、これからどうする?」

傭兵「連中が魔王城に戻って二人の対面の邪魔を阻止するためにも、ここに釘付けにする」

魔族「なるほど……することに変わりはないというわけか。いや、私が少女のフリをする必要が無くなるからその分こちらの戦力追加となるな」

傭兵「気を付けろ。どうやら敵方の指揮は優秀だ。すぐ対応してくるだろう」



傭兵(近衛兵長、だったか。兵の運用などからしてかなりのやり手と見える)



魔族「分かった。とりあえずこのドラゴンたちをどうにかするか」

傭兵「懐に潜り込む。サポートは頼んだ」



傭兵(これまで二人一役の弊害として近距離スキルを使うことは出来なかったのもあるが、多数に囲まれても大変なので遠距離スキルで戦ってきた)

傭兵(遠巻きに削ってきた今なら、各個撃破していくことも可能だろう)



傭兵「行くぞ!!」

魔族「ああ」



傭兵(私たちはドラゴン部隊との戦いに挑む)

854 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/09(土) 21:30:02.23 ID:biI/Iwp20

<魔王城・謁見の間>





女「あんまり驚かないんだね」

女(天窓をぶち抜いて侵入した私は落ち着いた様子の男君に問いかける)





男「ああ。一度王国軍と連合軍の戦場は見ていたからな。すぐに分かった、女が偽物だって」

女「魔族さんの変身を見破ったの?」

男「ずいぶんと似せるように努力しているのは分かったが、細かい癖が女と全く違ったからな」

女「まあ私も男君なら見抜くと思っていたよ」



女(私も男君も事も無げに言う)





女友「え、何ですか? この信頼しているのか、気持ち悪いのかよく分からないやりとりは?」

女(女友が何か言っているけど、久しぶりの再会に興奮している私の耳を素通りした)

855 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/09(土) 21:31:13.49 ID:biI/Iwp20



男「それで? 俺の城に何の用だ?」

女「分かんないの?」

男「ああ」



女「告白……したんだから、返事を聞かせて欲しいと思うのは当然でしょ」



女(もう大昔のように思える、二週間ほど前の出来事)

女(学術都市の校舎の屋上で沈みゆく夕日をバックに私は告白した)



男「返事か。なら簡単だ。断らせてもらおう」

女「嘘吐き。ちゃんと答えて」



男「何を言っているんだ? 告白した、断られた。それで終わりの話だろう?」

女「ほらそうやって都合が悪くなると煙に巻く。男君らしいね」



男「話が通じてるのか?」

女「分かってる癖に」

男「……ちっ」



女(男君は舌打ちする。私の言い分を認めた証拠だ)

856 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/09(土) 21:31:54.21 ID:biI/Iwp20



女「やっぱり答えるつもりはないんだね」

男「だったらどうする?」





女「力ずくで聞き出す」

女「男君の動きからしてすごい強化を受けているのは分かる」

女「でも竜闘士の私に勝てるはずないでしょ」





男「それはやってみないと分からないだろ」

男「……まあいい、どうせ永遠の孤独に至るためにどこかでおまえとは戦わないといけないとは思っていた」





女「永遠の孤独……?」

女(男君の言葉の中、それだけ意味が分からない)

857 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/09(土) 21:32:36.22 ID:biI/Iwp20





男「今の俺は、おまえに守られていただけの俺じゃない」

男「変わったんだ。そして――全てを終わらせる!!」



女「よく分からないけど……これだけは言える!」

女「終わらせない! ここからが私たちのスタートだから!!」





女(剣を構えた男君が手加減なしに突っ込んでくる)

女(私も今この時は相対する者が愛するものであることを忘れ――否)

女(愛するものだからこそ全力で戦うことを選択する)



男「ふんっ……!!!」

女「『竜の拳(ドラゴンナックル)』!!」





女(剣と拳が交差する)

女(絶対に譲れない戦いの始まりだ)


858 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/09(土) 21:33:23.46 ID:biI/Iwp20
続く。

続きも近いうちに投げたいです。
859 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/05/10(日) 00:15:39.97 ID:ETrckrtLo
乙ー
860 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/13(水) 23:04:38.19 ID:jcF5ixXz0
乙、ありがとうございます。

投下します。
861 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/13(水) 23:05:40.81 ID:jcF5ixXz0

女(始まった私と男君との勝負)

女(こうなる予感はあった)

女(私が説得したくらいで頑固な男君が意見を翻すはずがない)

女(力押しがどこかで必要になるとは思っていた)



女(だから想定外なのは二つ)

女(一つは戦う相手が男君自身だということ)

女(大量のエンチャントで強化するというその手段を私は予想していなかった)

女(そのせいで男君は竜闘士の私と勝負になるくらいの力を…………いや)



女「『竜の息吹(ドラゴンブレス)』!!」

男「『風爆(ウィンドブラスト)』!!」

女「くっ……!」



女(放とうとしたエネルギー弾が一足早く放たれていた男君の魔法に当てられて至近距離で誘爆)

女(余波を自分が食らってしまう)



女(二つ目は――男君に私が圧倒されていたことだ)

862 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/13(水) 23:06:08.47 ID:jcF5ixXz0



男「大きく引いてエネルギー弾をばらまく……何度その攻撃パターンを見てきたと思っている」



女(強化されたとはいえ男君の力は、伝説級である私に及ぶまでは行かない)

女(問題なのは私の行動パターンが読まれ切っていることだ)



女(私が次にどのように行動するかを読んで、それに対して完璧な対処をしてくる)

女(読まれていると分かっていつもと行動パターンを変えようと意識しているのに、それでもなお逃れられない)

女(小手先の戦いに対する読みだけじゃない。私という人間性全体を把握した読み)



女(そうだ、この異世界に来てから男君を守るために何度戦ったのか)

女(私の戦いを一番近くで見てきたからこそ)

女(私という人となりを知っている男君だからこそ出来る芸当)

863 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/13(水) 23:06:46.67 ID:jcF5ixXz0



女「『竜の翼(ドラゴンウィング)』!!」

男「『空石落下(スイケメンストーンフォール)』!!」



女(翼を生やし空中に逃げようという動きを阻止するように、頭上から石が降ってくる)

女(私はダメージ覚悟で石をぶち割りながらどうにか空中に留まる)



女「………………」

女(私だって男君のことは理解している)

女(男君が私の動きを予想するなら、私だって男君の動きを予想すればいい)

女(でも初めて戦う姿を見せる男君に、戦いの中で急成長していく男君にどうにも後手に回っているのが現状だ)



女(いや……本当に理解出来ているのかな?)



女(こうして直接会って話すことさえ出来ればどうにかなると思っていた)

女(何だかんだ話せば分かるんじゃないかと希望的観測を持っていた)

女(でも現実は私に攻撃する手を弛めない)



女(男君のことが分からない)

女(どうしてあの日私を置いて去っていったのか)

女(何を目的に動いているのか)

女(永遠の孤独とやらは何なのか)

864 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/13(水) 23:07:13.43 ID:jcF5ixXz0



女「ねえ、聞きたいことがあるんだけど!!」

男「『氷槍(アイスランス)』」



女(分からないなら問いただせばいい。私はそうやって生きてきた)

女(しかし、男君からの返事は魔法だった)

女(氷の槍を飛びながら避けて、なおも言葉を続ける)



女「どうして私たち戦わないといけないの!?」

男「『光爆弾(ライトボム)』」



女(飛翔ルートを潰すように爆発が私の目の前を覆う)



女「私たち好き同士なのに……戦うなんて間違っているよ!!」

男「…………」



女「男君!!」



865 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/13(水) 23:07:50.58 ID:jcF5ixXz0



男「好き同士だと……勝手に決めつけるな」



女(男君が攻撃の手を止めて言葉で応じる)





女「私の自惚れじゃなければ……そうでしょ」

男「だったらおまえの自惚れだな。俺はおまえのことが嫌いだ」



女「嘘だね」

男「どうしておまえが俺の気持ちを勝手に決めつける」

男「言い続けてれば現実になるとでも思っているのか?」



女「…………」



男「今のおまえにふさわしい言葉を教えてやる」

男「ストーカーだ」

男「不都合な現実を認めず、自分が思い込んだ世界を正しいと思う……たちの悪いストーカーだよ」



女(男君に酷いことを言われて……それでもその言葉は嘘だと思った)

女(これまで一緒に旅してきたから分かる直感だ)



女(でも……それこそが男君の言う思いこみだとしたら?)

866 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/13(水) 23:08:18.84 ID:jcF5ixXz0



女友「惑わされないでください、女!」



女(私の芯がブレようとしたそのとき、声がかかった)



女「女友……」



女(この場にいる三人目、親友である女友の声)

女(ここまで傍観していた女友)

女(おそらく何も出来ないように命令されていたはずなのに……それでも私のピンチに動いた)


867 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/13(水) 23:10:23.46 ID:jcF5ixXz0





女友「ぼんやりとは考えてましたが、今のやりとりで確信しました!」

女友「男さんの目的は――」

男「命令だ、口を閉じろ」

女友「んぐっ……!?」



女(女友の言葉が命令によって遮られる)





男「口出しできないように命令していたはずだが……まだ抜け道を隠していたか。強かなやつだ」

男「……そうだな、ちょうどいい」



女(男君は感心しながら女友の方に向かって進む)



女「何を……するつもりなの」



女(その後ろ姿に今まで見たことがない怖さを感じる)

868 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/13(水) 23:11:03.81 ID:jcF5ixXz0



男「おまえはこれまで命令のせいとはいえ俺のために尽力していた」

男「No.2の肩書きにふさわしい働きだった」

男「有能なやつだった」



男「だがな、肝心なときに裏切るようなやつが配下に必要だと思うか?」



女(そして女友の前に立った男君は)





男「命令だ、一切の抵抗を禁じる」

男「『闇の死神(ダークスカル)』」





女(手のひらから闇の奔流を――即死魔法を放って)





女友「…………」



女(ドサッ、と)

女(直撃を食らった女友は声もなくその場に倒れた)

869 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/13(水) 23:11:35.69 ID:jcF5ixXz0



女「女友!! 『竜の咆哮(ドラゴンシャウト)』!!」



女(衝撃波を放ちながら親友の元に急行する)



男「直線的な攻撃だな」



女(男君は特に防御することなく退いた)



女「ねえ、女友!! しっかりして!!」



女(倒れ込む親友の上半身を抱えて起こす)

女(しかし一切の力が抜けたように首も腕もだらんと垂れ下がる)

女(極め付きに胸元に耳を押しつけると――心臓の鼓動が止まっていた)



870 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/13(水) 23:12:08.41 ID:jcF5ixXz0



女「男君……どうして?」

男「世界の支配も目前、そいつは用済みだ」



女「……」



男「後は俺の支配にあらがう連合軍の旗頭、おまえをどうにかすれば完了する」

男「一時とはいえ一緒に旅した関係だ、殺さずに済まそうと思っていたが――」

男「おまえもそいつと一緒のところに送ってやろうか?」





女(おおよそ私の知る男君からは出てこないだろう言葉)

女(どうしてこんなことに……『囁き』のせいで……でもあれは本来の欲望を解放するもので……男君が本当はこうだった……いや、そんなはずが……何かの勘違い……)




女(動揺、疑問、混乱)

女(揺れ動く私の感情の中、一番表に出てきたのは)

871 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/13(水) 23:12:49.77 ID:jcF5ixXz0





女「よくも女友を――っ!!」





女(憎悪)

女(親友の命を奪った目の前の――敵に、私はもう一切の情けを掛けるつもりはなかった)





女「『竜の狂化(ドラゴンブースト)』!!!!」





女(これまでずっと使わずにいたそのスキルを発動する)

女(ただでさえ強い竜闘士の全ての力を狂化する代わりに、一定時間経つと大きな反動ダメージを受け戦闘不能になる)

女(強力だと分かっていながらも、×君をいついかなるときも守るために、戦闘不能な時間が出来るこのスキルを今まで使うわけには行かなかった)



女(でも……もうそれもいいから)

872 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/13(水) 23:13:42.40 ID:jcF5ixXz0



女「『竜の咆哮・三連(ドラゴンシャウトトリプル)』!!」



女(狂化された今、衝撃波を三発同時に放つことが出来る)

女(敵はどうにか二発の衝撃波を避けるが……逃がすものか、残りの一発が直撃する)



男「ちっ……『妖精の歌(フェアリーコーラス)』!」



女(敵はすぐに回復魔法を使用する。だがのうのうと回復を許すはずがない)



女「『竜の撃滅(ドラゴンブラスト)』!!」



女(狂化された全方位衝撃波)



男「『地の盾(アースシールド)』!!」



女(回避不能のその攻撃に地面からせり出したドーム状の防壁でやり過ごそうとしているが……甘い、その程度の盾は破壊して吹き飛ばす)



873 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/13(水) 23:16:54.64 ID:jcF5ixXz0



男「ぐっ……!」



女「人は誰だって幸せになるために生きている……でもね死んだらもう幸せになれないの!!」

女「おまえが、女友の幸せを奪ったんだ!!」



女「『竜の震脚・狙撃(ドラゴンスタンプスナイプ)』!!」



女(一点狂化された衝撃波を天空から打ち下ろす)

女(吹き飛ばされたその状態では流石に防御も間に合わなかったようで直撃して――その姿が飛沫となって消えた)





男「『火球(ファイアーボール)』!!」

女「『竜の重鱗(ドラゴンスケイルズ)』!!」



女(分身を掴まされたと判断した瞬間、防御スキルを発動)

女(背後から飛んできた火の玉をエネルギー防御で完全にやり過ごす)



874 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/13(水) 23:17:43.94 ID:jcF5ixXz0



男「ちっ、今のを防ぐか」

女「どうして……抵抗するの? 破壊させてよ……ねえ、破壊させてよ!!」



女(衝動が収まらない)

女(でも収める必要も無かった)

女(ちょうど目の前にぶつけるべき敵がいる)

女(その何と幸せなことか)



男「ははっ、そんなものか!? おまえの本気は! もっと憎めよ! 俺を!」



女(挑発してくる敵に返す言葉などない)



女「『竜の咆哮・三連(ドラゴンシャウトトリプル)』」



女(代わりに衝撃波三発を放つ)



女(目の前の敵を滅ぼす。それまで私は止まるつもりはない)

875 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/13(水) 23:19:36.13 ID:jcF5ixXz0
続く。
876 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/05/14(木) 03:20:27.96 ID:wJbCM6EBo
乙ー
877 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/20(水) 23:57:40.41 ID:NK1w9k6Z0
乙、ありがとうございます。

投下します。
878 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/20(水) 23:58:35.51 ID:NK1w9k6Z0

『竜の狂化(ドラゴンブースト)』

男(在りし日に、そのスキルの存在は聞いたことがあった)

男(十分間、ただでさえ強い竜闘士の全能力を強化する代わりに、その反動として効果時間が終わると戦闘不能になる)





男『ありがちな暴走技だな』

男(俺は一言で評した)





女『まあそもそもそうやって強化しないといけないレベルの敵がいるとも思えないし』

女『反動で戦えない間男君を守ることも出来ないし、使うことは無いと思うよ』

男(女もそのように言った)





男(それが今はどうだ)

男(その暴走スキルが使われただけでなく、その矛先は守ると言った俺に向けられている)

879 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/20(水) 23:59:53.76 ID:NK1w9k6Z0



女「『竜の息吹雨(ドラゴンブレスレイン)』!!」



男(いつもの数倍の量の追尾エネルギー弾が文字通り雨のように降り注ぐ)



男「『磁力球(マグネットボール)』!!」

男(戦いの中で急成長していく俺は、原始的な属性ではない魔法も使えるようになった)

男(打ち出した黒い球にエネルギー弾は吸われていくが……いかんせん数が多すぎる)



男「『重力場(グラビティフィールド)』!!」

男(周囲に重力の濃い力場を展開することでエネルギー弾を叩き落とす)

男(直撃は避けれられたが、その余波までは防げない)



男「くそっ……!」

男(『竜の狂化(ドラゴンブースト)』終わりまでまだ五分もある)

男(残り半分もやり過ごせるか……?)



女「ちょこまかと逃げおって……」



男(女の視線がこちらを向く)

男(込められた憎悪の感情によって反射的に身が竦む)



男(精神的に来るものがある……だけどそれが俺の選択した結果だ)

880 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/21(木) 00:00:22.23 ID:nSQbQfde0



女「『竜の幻惑軍隊(ドラゴンミラージュアーミー)』!!」



男(武闘大会、決勝戦。傭兵さんとの戦いで一度だけ見せた幻惑スキル)

男(狂化されたことによって、女の分身が十数人と現れる)

男(それぞれが迫ってくる中どれが本物なのか、見抜けさせずに倒すという考えなのだろうが)



男「おまえだ」

男(殴りかかってきた八人目の拳を俺は受け止める。予想通り実体があった)



女「っ、何故……!?」

男「さあな、『音撃(サウンドブラスト)』!!」



男(指向性の音波を放つ。普通に攻撃しても竜闘士には効果が薄い、なら警戒されていないだろう音)

男(三半規管を狂わせてバランスが取れないようにしようとの考えだったが)



女「うるさい……!!」

男(特に効果はなかったようで振り払われる。逆らわずに俺は距離を取った)

881 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/21(木) 00:00:48.49 ID:nSQbQfde0

男(狂化されているとはいえ、根底の考え方というものはそう安々と変えられるものではない)

男(女ならどうするか、その読みだけでどうにかこれまで凌いできた)

男(とはいえそろそろ限界か)



男(防ぎきれず掠ってきた攻撃の数々によりダメージが蓄積している)

男(さっきだって拳を避けきれずに受け止めた手のひらが未だに痺れている)



男(残り三分ほど)

男(もちろん暴走技を使っている相手を倒そうだなんて端から思っていない)

男(俺の狙いは時間切れによる戦闘不能のみ)



男(逃げ回るだけでいいのだが……果たして逃げきれるだろうか)

882 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/21(木) 00:01:16.32 ID:nSQbQfde0



女「最初から……逃げ切るつもりか」

男(攻め気の無さに女も勘付いたようだ)



男「残りちょっとだろ。簡単に逃げられそうだな」

男(弱っているところを見せるつもりはない。俺は強がる)



女「『竜の翼(ドラゴンウィング)』」



男(女は翼を生やして飛び上がる)

男(謁見の間の天井まであがり、最初突入してきた突き破った天窓も通って、さらにさらに上へ)



男(逃げたわけではない)

男(女の狙いは読める。次の一撃で決めるつもりなのだと)

男(そのためには高度が必要なのだろう)



男(『竜の潜行(ドラゴンダイブ)』)

男(高所から急降下して攻撃するスキル)

男(それが狂化された今は――)

883 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/21(木) 00:01:43.10 ID:nSQbQfde0





女「『竜の隕石(ドラゴンメテオ)』!!!!」





男(高高度から一点、俺をめがけて落ちてくる)

男(避けることはおそらく不可能だろう)

男(余波だけでこの謁見の間を吹き飛ばせる)

男(だったら受け止めるしかない)



男「『筋力強化(マッスルブースト)』」

男「『腕力強化(アームブースト)』」

男「『脚力強化(キックブースト)』!!」



男(エンチャントされた魔力で、ありとあらゆる強化魔法をかける)


884 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/21(木) 00:02:31.96 ID:nSQbQfde0



男(そして次の瞬間、女が降ってきた)



女「アアアアアアアアッ!!!!」

男「うおおおおおおおっ!!!!」



男(拳を先頭にしたそれを受け止めた瞬間、俺の足が謁見の間の石張りの床を砕きめり込む)

男(それだけの衝撃があった)



男(初動は成功。だが、まだ女のスキルは終わっていない)

男(俺を押し潰さんと勢いを弛めない攻撃に、どうにか踏ん張ってみせる)



885 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/21(木) 00:03:34.82 ID:nSQbQfde0



女「許せない、許せない、許せない……!!」

男「そうだ、許すな! 俺はおまえの親友の命を奪った男だ!!」



女「おまえなんか、×君なんか…………!!」

男「そうだ……俺なんか好かれる価値もない男だ!!」



男(お互いに意地を通そうと精一杯だ)

男(言葉を考える余裕もない、感情の爆発がそのまま叫びとなる)







男(至近距離でお互いの全てをぶつけ合うが……徐々に差が明確になってきた)

男(女の方が優勢だ)



男(そもそも単純な力勝負だ)

男(強化したとはいえ、狂化された竜闘士に敵うわけがない)



男(『竜の狂化(ドラゴンブースト)』終わりまで粘れればと思ったが……まだ少し時間があるはず)

男(それよりも先に俺の防御は打ち破られてぺっしゃんこだろう)

886 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/21(木) 00:04:33.32 ID:nSQbQfde0



男(まあ……そういう結末も仕方がない)

男(俺は諦めて力を抜こうとした……そのとき)





男(女の力が先に弛んだ)





男「え……?」

男(どうして?)

男(効果時間終わりまではまだあったはず)

男(なのに……いや、夢中になり過ぎてカウントを間違えたのか?)



男(疑問が頭を埋め尽くす中、女は反動で戦闘不能となり)

男(その場に倒れ伏した)

887 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/21(木) 00:06:35.33 ID:nSQbQfde0



男「締まらない決着だが……勝ちは勝ちか」



男(埋まっていた足をどうにか引っ張り出す)

男(そして俺は女を見下ろした)





女「………………」





男(息はある……だが立ち上がる力は無いようだ)

男(竜闘士といえどここまで消耗してはどうしようもない、殺そうと思えば簡単に殺せるだろう)



男(まあ、俺の目的はそんなところにはないのだが)







男「今のうちに全てを終わらせておくか」



男(俺自身に宿った唯一のスキル)

男(今度は暴発ではなく、自分の意志で発動する)

888 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/21(木) 00:07:10.72 ID:nSQbQfde0







男「魅了、発動」







男(ピンク色の光柱の顕現)

男(時刻はもう夕方)

男(最後の攻防のせいで壁がボロボロになった謁見の間には直接夕日が差し込む)



男(光のコントラストが見事だ)

男(異世界冒険譚の終わりにふさわしい光景だった)

889 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/21(木) 00:07:38.04 ID:nSQbQfde0





男「さて、と。ああ、忘れないうちに……命令を解除する、女友」

男「うーん、ようやく終わったかー……」





男(身を翻し晴れ晴れしい気持ちそのままに大きく伸びをしながら、俺はエピローグという名の余韻に浸って――――)





890 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/21(木) 00:08:05.19 ID:nSQbQfde0





女「そういうこと……だったんだ」



男(背後で誰かが立ち上がろうとする音がした)





891 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/21(木) 00:09:14.92 ID:nSQbQfde0





男「……命令だ、口を閉じろ」

男(付き合うつもりはない、俺は早速命令を下して)





女「黙らないよ。残念だったね、私は虜になってないから」

男(それでも口を開く少女に)





男「なっ……!?」

男(俺は心の底から動揺して振り返った)





892 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/21(木) 00:09:48.91 ID:nSQbQfde0



女「許せない……許せなかった。女友の命を奪った人を――それでも嫌いになれない自分が」



男(ボロボロになった身体に鞭を打って)



女「×君なんか――男君なんか……思っても、想いは消えなかった」



男(立ち上がろうとしながら)



女「中途半端な自分が嫌になる……でもそれは男君も同じだったんだ」



男(言葉を紡ぐ少女)



女「おかげで全部分かった。男君はあの日……私と別れてからずっと――」



男(ヨロヨロと腕を上げ、俺を指さしながら)

男(核心を、真実を、想いを、言い当てる)



893 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/21(木) 00:10:28.93 ID:nSQbQfde0







女「私に嫌われようと……していたんだね」







894 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/21(木) 00:11:07.55 ID:nSQbQfde0
続く。

次が最終章、最終話です。
895 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/05/21(木) 05:05:09.32 ID:fpuEIDNro
乙ー
896 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/25(月) 02:41:27.43 ID:sGpD2UUk0
乙!
897 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/27(水) 23:37:17.29 ID:6xsigKqM0
乙、ありがとうございます。

投下します。
898 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/27(水) 23:37:51.60 ID:6xsigKqM0

女(私には今全てが分かっていた)



女(全ての発端は魅了スキル)

女(最初から最後まで私と男君の関係にこのスキルは付きまとってくるのだ)

女(その詳細を私は思い出す)





 スキル『魅了』

 効果範囲:術者から周囲5m
 効果対象:術者が魅力的だと思う異性のみ

・発動すると範囲内の対象を虜にする。
・虜になった対象は術者に対して好意を持つ。
・虜になった対象は術者のどんな命令にも身体が従う。
・元々対象が術者に特別な好意を持っている場合、このスキルは効力を発揮しない。
・一度かけたスキルの解除は不可能。





899 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/27(水) 23:38:36.40 ID:6xsigKqM0

女「男君の真なる目的……永遠の孤独」

女「それって文字通り誰からも干渉されないことを目指したんでしょ」



女「何でそう思うようになったのかは分からないけど……その場合邪魔な存在がいる」

女「それが私」



女「魅了スキルにかかっていないから命令することも出来ないし、男君のことを好きだからどれだけ突き放そうが構ってくる」

女「おまけに竜闘士というとてつもない力を持っているからタチが悪い」



女「どうにかする方法が無いかと思案して……魅了スキルを使うことを考えたんだよね」



女「『効果対象:術者が魅力的だと思う異性のみ』に私は当てはまる」

女「でも、もちろん私は魅了スキルにかからない」

女「『元々対象が術者に特別な好意を持っている場合、このスキルは効力を発揮しない』から」

900 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/27(水) 23:39:06.86 ID:6xsigKqM0



女「だけど裏を返せば……私が男君への好意を無くせば魅了スキルをかけることが出来る」



女「だから男君は私に嫌われようとした」



女「宝玉を手に入れるだけなら過剰とも言えるのに、わざわざ王国を支配したのも」



女「王国の無辜の民を虐殺したって嘘情報を私たちだけに流したのも」



女「そして今の戦い。わざと私の憎悪を煽ったのも」



女「『俺はこれだけ悪いことをした。どうだ嫌いになったか?』ってことだったんだよね?」



女「全部、私に魅了スキルをかけるためだったんだ」



901 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/27(水) 23:39:58.44 ID:6xsigKqM0





男「いや……違う。そうじゃないんだ」





男(女の言葉に俺は反対する)



女「何が違うっていうの?」

女「倒れた私相手に魅了スキルをかけようとしたこと、さっき私に命令したこと……」

女「全部そうじゃないと辻褄が合わない」



男(女の反論はもっともだ)



男(女の意見は全部当たっている)

男(別に俺も全てが暴かれて抵抗するつもりはなかった)

男(ただ一つだけ、訂正する箇所があった)

902 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/27(水) 23:40:53.43 ID:6xsigKqM0





男「魅了スキルをかけるために嫌われようとしたんじゃないんだ」

男「嫌われたら魅了スキルをかけることが出来るってことなんだ」





女「……続けて」





男「始まりは……ああ、そうだ。学術都市で女に告白されたことだった」



男「嬉しかったよ。俺も女となら一緒に歩いていける。告白を受けるつもりだったんだ」



男「だけど直後に襲撃があって……俺を守るために傷つく女を見て思ったんだ」



903 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/27(水) 23:41:42.15 ID:6xsigKqM0



男「俺なんかが女に釣り合うだろうかって」



男「確かに今俺と女は想い合っている。でもそれがずっと続くだろうかって」

男「俺の不甲斐なさは俺自身が一番知っている」

男「付き合うことになって、俺のどうしようも無さを間近で見るようになれば、きっと近い将来女は俺を嫌いになる」



男「いつか必ず訪れるだろうそのときが……俺は怖かったんだ」



男「だから……そんなことになる前に、先に嫌われようと思ったんだ」



男「今の内に嫌われれば受けるダメージは少なくて済む」



男「魅了スキルをかけることが出来れば、嫌われたという証明になる」



男「そうなって俺は『ははっ、やっぱりそうだよな』と思いながら、今度こそ誰にも関わらずに生きていく」



男「『永遠の孤独』……何も得られることが無い代わりに、何も失わないで済む世界で……ただただ生きて、そのまま朽ち果てるつもりだった」



904 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/27(水) 23:42:17.86 ID:6xsigKqM0

男(骨の髄から陰湿してジメジメとした生き方)

男(自分から嫌われようとしたのに、やっぱり嫌いになったのかと見返そうという考え方)

男(どうしようもなく嫌になる俺なんかを――)





女「それでも私は男君のことを好きなままだった」

男「…………」





男(女は太陽のように照らす)

905 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/27(水) 23:42:43.59 ID:6xsigKqM0



男「………………」

女「………………」



男(お互いがお互いを見つめ合う)

男(無言でともすれば切迫しているとも取られるかもしれないが、不思議と居心地は悪くない)



男(いつまでもこうでもいいと思い始めたところで――)



906 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/27(水) 23:43:28.69 ID:6xsigKqM0



女友「だぁっもう、じれったいですね」



男(そんな雰囲気を壊すように、第三者の声が上がった)



女「女友……って、ええっ!? どうして!? 死んだんじゃなかったの!?」

女友「勝手に殺さないでください……って言いたいところですが、実際死んでましたよ。仮ですけどね」

女「仮?」





男(そう、俺は女友を殺していない)

男(即死魔法を打った闇の奔流の中で女友に仮死状態になるように命令して、さっきその命令を解除したから起きたというわけだった)



男(そもそも魔導士は魔法抵抗力が高いため無防備なところに即死魔法を受けても効果が発揮することはない)

男(女に嫌われるための策として咄嗟に思いついた方法だった)



女「よく分かんないけど……生きてて本当に良かったよ!!」

女友「ああもう、抱きつかないでください!!」

男(抱きつく女に揉みくちゃにされる女友)

907 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/27(水) 23:44:00.59 ID:6xsigKqM0



男「女友、おまえにかけられた全ての命令を解除する」

男「……今まで、そして最後まで済まなかったな」



女友「男さん……謝れば許されると思ってますか?」



男「思っていない。どんな罰でも受ける覚悟だ」



男(俺は女友に、いや魅了スキルで支配して強制してきた全ての人に対して償いをしなければならないだろう)

908 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/27(水) 23:44:44.94 ID:6xsigKqM0

女友「はぁ……とりあえずそれは置いておきます」

女友「さっさとやらないといけないことがありますから」



女友「私は今から軍の方に出向いて戦闘行為の停止を申告してきますね」

女友「男さんももう戦う理由が無くなったでしょうし、いいですよね」

男「ああ、頼む」



女友「了解しました。では私がまた帰ってくるまでにお二人も決着を付けておいてくださいね」



男「け、決着って……な、何を」



男(女友は人を食ったような笑みを浮かべている)

男(久しぶりに見る表情だ)

909 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/27(水) 23:45:24.20 ID:6xsigKqM0



女友「分かってるでしょうに」

女友「今回の騒動は結局のところ異世界をまたに掛けた痴話喧嘩だったってことじゃないですか」

女友「ちゃんとケリを付けないとオチが付かないですよ」



男「だ、だが……」



女友「言い訳は聞きたくありません」

女友「帰ってきたときに何も進んでなかったら、この魔王城を吹き飛ばしますからね」



男(女友は物騒な発破をかけるとボロボロになった謁見の間を出て行った)

男(これで正真正銘女と二人きりになったわけだ)

910 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/27(水) 23:45:55.54 ID:6xsigKqM0



女「男君」

男「……」



女「私からはもう何も言わないからね。だってもう伝えているから」

男「ああ、そうだな」 



男(俺は既に女から告白されている)

男(その返事をさっさとしろ、というのが女友も言いたかったことだろう)

男(どのように返事をするか考える)





女「………………」

男(待ちきれなくなった女はボロボロになった謁見の間を手持ちぶさたに歩き回る)

男(俺はその後ろを付いていきながら口を開いた)

911 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/27(水) 23:46:38.55 ID:6xsigKqM0

男「なあ、女。その何言ってるんだって思われるかもしれないんだけど……」

女「うん」



男「あのときの告白……無かったことに出来ないかな」

女「……どういう意味?」



男「ああいや断るとかそういうんじゃなくて…………その、な」

男「こういうのって本当は男の方からびしっと言うべきだろ」

男「でも俺が不甲斐ないから女に言わせてしまって」

男「いや、やり直したってその何かが変わるわけじゃないかもしれないけど……」



女「もう……男君はズルいな」

男「いや、本当におっしゃる通りで」



女「違うよ。男君は私のツボをしっかり押さえていて……本当にズルいってこと」

男「……?」

912 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/27(水) 23:47:04.89 ID:6xsigKqM0





女「うん、分かった。私はあの日何も言っていない」

女「それで男君は何を伝えたいの?」





男(女が振り返る)

男(話している間も俺たちの足は動いていて、ちょうどベランダに出たところだった)

男(眼下に王都を一望出来る絶好のロケーション)

男(正面にはあの日と同じく夕日が沈みゆく最中だ)



男(いざとなると決心も思考も必要なかった)

男(驚くほど自然に、するりと俺の想いを伝えるための言葉が紡がれる)

913 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/27(水) 23:47:30.05 ID:6xsigKqM0





男「好きだ、女。これからもずっと俺の隣を一緒に歩いて欲しい」





914 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/27(水) 23:48:03.19 ID:6xsigKqM0




女(ずっとずっと夢に描いていたものと一致していた)

女(お互いに落ち着いていて)

女(男性の方から言い出したのもプラス)

女(ちゃんと等身大の言葉で伝えてくれたのもプラスだ)

女(場所も完璧。沈みゆく夕日はどうしてこうも心の原点を浮き彫りにしてくれるのだろうか)





女(男君は頭を下げ、私に手を差し出して返事を待っている)

女(ここまで待たされたのだ)

女(少しイジワルでもしようかと思ったけど)



女(……駄目だ、もう私の心を抑えきれない)



915 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/27(水) 23:48:29.80 ID:6xsigKqM0





女「男君、私も好きだよ。これからもずっとずっとよろしくね!」





916 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/27(水) 23:48:56.57 ID:6xsigKqM0



女(その手を握ると感極まったように男君も顔を上げた)

女(ニコりと微笑んでみせると男君にぐいっと引っ張られて強く抱きしめられる)





男「ああ! ずっと、ずっと大切にするからな……!!」





917 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/27(水) 23:49:24.79 ID:6xsigKqM0





こうして魔王君臨を発端に大戦とまで至った一連の騒動は決着を迎えたのだった。





918 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2020/05/27(水) 23:50:23.26 ID:6xsigKqM0

終章完結です。
ここまで読んでいただきありがとうございました。

投稿間隔が大幅に広がり、内容もグダったところが散見されましたが、思い描いていた結末までどうにか辿り着きました。



物語はこれで終わりではなく、エピローグへと続きます。
色々と取りこぼした要素を拾うのとその後を短く描いて今度こそ終わる予定です。



919 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/05/28(木) 00:55:13.14 ID:GOqfjXSDo
乙ー
920 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/28(木) 15:47:29.47 ID:wqS4McZg0
乙!
921 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/06/01(月) 00:29:09.59 ID:/zNaQyia0
乙!
922 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/07/08(水) 15:10:36.91 ID:IFbAdbapo
923 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/10/02(金) 04:32:42.05 ID:AISitEXSo
924 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/10/14(水) 13:12:38.02 ID:ph++uam/o
エピローグとは一体
925 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/11/15(日) 21:31:28.60 ID:EBjy4b8ro
584.52 KB Speed:0.4   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 新着レスを表示
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)