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男「恋愛アンチなのに異世界でチートな魅了スキルを授かった件」 3スレ目
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580 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/19(日) 12:23:48.24 ID:ysm559um0
姉魔族「さて最後の通告よ。魔族、今なら許して上げる」
姉魔族「私たちの仲間に戻るって言うなら、その命を保証して上げてもいいのよ」
傭兵(完全に優位に立ったと確信した姉様が私の腕の中の魔族に呼びかける)
魔族「傭兵」
傭兵「そうか」
傭兵(その声で全て察した私は魔族を下ろす)
傭兵(魔族は魔法を発動して、中空に自らの足で立った)
581 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/19(日) 12:24:15.66 ID:ysm559um0
魔族「姉様。私、考えてみたんです。その結果、姉様には感謝しかないことを理解しました」
姉魔族「へえ、分かってるじゃない」
魔族「この世界に呼び出されて右も左も分からない私に色々と教えてくださりありがとうございました」
魔族「『世界滅亡』という偽物の使命についても、振り返ってみればそれがあったこそここまで長い間頑張る原動力になったと思います」
姉魔族「最初からそのつもりだったのよ。よく分かったわね」
魔族「今までありがとうございました。……でもここからは私一人で歩いていけます」
姉魔族「……は?」
魔族「未だに今後どうするかは思いつきませんが、少なくとも姉様の言葉に縛られて生きるのは止めようと思います」
傭兵(魔族は軽く頭を下げた。決別の意味を込めて)
582 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/19(日) 12:24:41.11 ID:ysm559um0
傭兵「………………」
傭兵(仲間になる。そう言えばこの場は見逃す)
傭兵(これが姉様とやらの罠だったのだろう)
傭兵(固有スキル『規律(ルール)』)
傭兵(最初見せたように、自殺すら強制させるその力)
傭兵(ならば浮かび上がる当然の疑問)
傭兵(どうして私たちに直接命令しないのか?)
傭兵(おそらくしないのではなく、出来ないのだろう)
傭兵(ルールとは同じ共同体を縛るためのもの)
傭兵(やつの強制力は味方にしか発揮することが出来ない)
傭兵(だからもし味方になると宣言した瞬間『規律(ルール)』により魔族は操られただろう)
傭兵(だが魔族はその手を拒んだ)
傭兵(呪縛を完全にはねのけた)
傭兵(魔族はもう一人でも生きていける)
583 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/19(日) 12:25:08.65 ID:ysm559um0
傭兵「そうか……」
傭兵(感慨深くなるが……ここは戦場。浸っている暇はない)
傭兵(さて、最期の仕事だ)
傭兵(敵に完全に囲まれたこの状況)
傭兵(正直に言って部が悪い)
傭兵(今まで見た固有スキルも五個ほど。敵の数は十数いて、その数だけ固有スキルが存在する)
傭兵(まだ見ぬ力に対処しながら、戦えると奢るつもりはない)
傭兵(だからせめて)
傭兵(魔族だけでもこの戦場から逃がす)
傭兵(誰がどの固有スキルを使用したのかは把握している)
傭兵(狙うは『印(マーク)』の使い手だ)
傭兵(あれに残られてはどこまで逃げても尾けられる可能性が残る)
傭兵(戦闘用の固有スキルでも無いことも鑑みて、この選択がベストで……)
584 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/19(日) 12:25:34.22 ID:ysm559um0
魔族「傭兵、私一人だけでも逃がそう……などと考えてはいないよな?」
傭兵「……いえ、そのようなことは」
魔族「おまえほどのやつでも、図星を突かれると言葉に詰まるんだな」
傭兵「どうして分かった?」
魔族「何となくだ。捉えどころがないと言っても、流石にこれだけ一緒にいればな」
傭兵「………………」
魔族「私がいつそのような命令をした?」
傭兵「……自分の判断だ」
魔族「なるほどな。私が一人で歩いていけると言ったからか」
傭兵「………………」
585 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/19(日) 12:26:01.17 ID:ysm559um0
魔族「語弊があったな。私は一人では生きていけない」
魔族「姉様の言葉に、掲げた使命に依存してきて生きてきたように……何かに支えられないと生きていけないんだ」
魔族「姉様にはもう付いていきたくない。傭兵、おまえと共に歩いていきたい」
魔族「別に利用してくれても良い。私が勝手に断言する、おまえが私に尽くせば、妹に対しての罪滅ぼしになると」
傭兵「魔族……」
魔族「分かったら命令だ。この場を二人揃って切り抜けろ。私の傭兵ならば叶えて見せろ」
傭兵「……承知した、我が主よ」
傭兵(臨戦態勢に入る私の背中にこつんと魔族の背中がぶつかる)
傭兵(背中合わせで360度対応出来る)
傭兵(数多の戦場を渡り歩いてきた私は判断する)
傭兵(これは完璧な布陣だと)
586 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/19(日) 12:26:37.18 ID:ysm559um0
姉魔族「……はぁ、残念ね。最後のチャンスだったのに。仲間になるって言ってくれたら……楽に殺して上げるつもりだったのに」
傭兵(姉様とやらはため息を吐いて呆れている)
姉魔族「私、壊れたおもちゃには興味ないのよね」
姉魔族「ていうか何、背中合わせになって? 二人で本当にこの状況をどうにか出来ると思っているわけ?」
姉魔族「ここまで対峙してそっちの男が凄まじい力を持っているのは分かったけど、魔族の方が完全に穴じゃない」
傭兵「おまえの目は節穴だな」
姉魔族「……それが最期の言葉? いいわよ、だったらお望み通り殺して上げる」
587 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/19(日) 12:27:03.82 ID:ysm559um0
傭兵(そして姉様は上げた手を振り下ろしながら)
姉魔族「『規律(ルール)』更新!! 全員突撃!! 固有スキルもフル解放してこいつらを殺しなさい!!」
傭兵(包囲していた敵たちが突っ込んでくる)
傭兵(戦闘に有用な固有スキル持ちはそれを発動しながら、そうでないなら魔法を発動しながら)
傭兵(迫り来る猛威。対峙出来るのは背中にいる存在のおかげだ)
傭兵「魔族」
魔族「傭兵」
傭兵(そして始まろうとした絶望の戦場を――――)
588 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/19(日) 12:27:30.28 ID:ysm559um0
傭兵(ピンク色の光が全てを包み込んだ)
589 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/19(日) 12:28:14.89 ID:ysm559um0
傭兵「なっ」
魔族「これは……!」
傭兵(見覚えのある色)
傭兵(そのスキルの特性は知っている)
傭兵(上か、下か)
傭兵(素早く確認して……上から降りて来る乱入者を発見した)
姉魔族「っ、何が……!」
傭兵(想定外の出来事に敵の将、姉様は付いていけないようだ)
傭兵(包囲する魔族たちの行動も停止する中、乱入者は一言)
590 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/19(日) 12:28:42.06 ID:ysm559um0
男「男性が半分……か。全てを戦力としていただけるなんて、ムシの良い話はないか」
傭兵(王国を転覆させ、支配した魔王)
傭兵(少年がそこにはいた)
591 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/19(日) 12:29:23.79 ID:ysm559um0
続く。
次で復活派パート終わります。
592 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/01/19(日) 21:30:07.31 ID:mu+4egFWO
乙ー
593 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/01/20(月) 01:45:05.23 ID:a8n6HKkT0
乙!
594 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/21(火) 23:42:13.18 ID:T/LbBzH20
乙、ありがとうございます。
投下します。
595 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/21(火) 23:44:04.62 ID:T/LbBzH20
傭兵(現れた第三勢力)
傭兵(数人の護衛を付けた少年、男は上空から降りてきた)
傭兵(少年に魔法の心得は初歩的な物しかなかったはずだが……どうやら護衛の一人の魔法によって浮いているのだろう)
傭兵(この場所にいるのはおそらく宝玉が盗まれた報告からだろう)
傭兵(王国を支配したなら、各地に監視の目を敷くのも容易だ)
傭兵(私たちが宝玉を使い召喚することはバレていて対応するために現れた、と)
傭兵(そしてピンクの光、魅了スキルを私たちを囲んでいた魔族相手に発動した)
傭兵(ならばこれから起きるのは――)
姉魔族「何よいきなり現れて上から目線で……誰だか知らないけど、そういうのムカつくのよね」
傭兵(この世界に召喚されたばかりの姉様は情勢など知る由もない)
傭兵(目の前にいる少年が大陸最大勢力の王国を転覆させ、魔王と呼ばれ民から恐怖されている存在であるという事も)
傭兵(その身に宿る力の事も)
596 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/21(火) 23:44:50.43 ID:T/LbBzH20
姉魔族「『規律(ルール)』更新。そこの乱入者もまとめて殺し尽くせ!!」
男「命令だ。招かれざる者ども、味方同士殺し合え」
傭兵(姉様と少年、異なる力を源泉とする二人の命令が同時に為される)
傭兵(結果起きた光景は……)
姉魔族「なっ、おまえたちどうした!? 何をやっている!!」
姉魔族「『規律(ルール)』更新、同士討ちを止めろ! ……どうして聞かない!!」
傭兵(虜となった魔族の女性たちが、男性の魔族を攻撃する)
傭兵(どうやら『規律(ルール)』でもその行動を止めることは出来ないようだ)
傭兵(予期せぬ出来事に姉様は混乱している)
597 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/21(火) 23:45:16.43 ID:T/LbBzH20
男「支配型の固有スキル『規律(ルール)』か……」
男「馬鹿だな。当然のことだ、ルールで愛が縛られてたまるか」
姉魔族「私の『規律(ルール)』を上書きしただと……っ!?」
姉魔族「そんなのが、そんなのがあってたまるか!!」
傭兵「優秀ではあるが……二流止まりの将か」
傭兵(一流ならばどのような出来事が起きても対応できる)
傭兵(今だって『規律(ルール)』が男性には効くことに気付いて、まとめ上げれば対抗できただろう)
傭兵(だがやつは自分の『規律(ルール)』が絶対だと思っていた。それが崩れて取り乱すことしかできない)
598 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/21(火) 23:46:58.68 ID:T/LbBzH20
姉魔族「あり得ない、あり得るはずがない!」
男「まだうるさく喚くのか」
傭兵(少年はそんな姉様の前まで赴く)
姉魔族「おまえたち、一体何なんだ!!」
男「一人だけ魅了スキルの範囲外にいたみたいだな」
姉魔族「く、来るな!!」
男「あっちの同士討ちの戦況も拮抗している」
姉魔族「折角召喚されたんだ! 今度こそ私はこの世界で思うがままに生きる!」
男「この場で召喚された者たちを全滅させる、そのためにもおまえは――」
姉魔族「欲しい物全てを手に入れて、逆らう者を全て殺して……この世界を支配して……!!」
599 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/21(火) 23:47:26.60 ID:T/LbBzH20
男「魅了、発動」
姉魔族「…………あっ」
傭兵(姉様は虜となる。こうなってはおしまいだろう)
男「命令だ、一人で死んでおけ」
姉魔族「はい!」
傭兵(虜となった者への命令は絶対)
傭兵(姉様は宙に浮かぶための魔法を切って……地上へと真っ逆様に落下していった)
600 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/21(火) 23:48:28.52 ID:T/LbBzH20
傭兵(そうして私たちと少年は空中にて対峙する)
男「お久しぶりです、傭兵さん。あと魔族さんも」
傭兵(少年は以前に会ったときと同じような態度で、軽く私たちに挨拶した)
傭兵「変わったな」
男「……よく言われます」
傭兵(少しバツが悪そうにする少年)
傭兵(その態度にはやはり変わりがない)
傭兵(直前に召喚された者同士を殺し合わせて、姉様に自殺を強要したその姿を見ていなければ、異常だとは感じなかっただろう)
601 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/21(火) 23:49:17.23 ID:T/LbBzH20
近衛兵長「ところであいつらはおまえら味方じゃなかったのか?」
傭兵(少年の傍らに控える女騎士――魔族の情報にあったな、元王国のスパイである近衛兵長か――が問いかける)
傭兵「やつらとは袂を分かれた。正直危ないところだった、救援感謝する」
近衛兵長「別にそのつもりはない。王国としてもあいつらに好き勝手されると面倒だったからな」
傭兵(近衛兵長が述べる言葉には本当に邪魔だったから排除したという以上の意味は無さそうだ)
傭兵(だとしたら次に排除されるのは)
602 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/21(火) 23:49:58.10 ID:T/LbBzH20
男「近衛兵長、止まれ」
傭兵(剣に手を伸ばそうとした近衛兵長を、少年は制止する)
近衛兵長「どうしてだ、我が主よ? 竜闘士と『変身』の魔族。ここで排除するつもりで赴いたのだろう? それだけの戦力は準備して……」
男「勝手に俺のことを分かったつもりか? 命令しないと分からないのか?」
近衛兵長「……失礼した、出過ぎた真似お詫びする」
傭兵(近衛兵長は手を戻して引っ込む)
603 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/21(火) 23:51:03.05 ID:T/LbBzH20
傭兵「どういうつもりだ、少年?」
傭兵(少年は権力などを求める性格ではなかったはずだ)
傭兵(だとすると王国を支配した少年の目的は正直なところ想像も付かない)
傭兵(だが現在の状況は分かる。少年の護衛として背後に控えるのはそれぞれがかなりの使い手のようだ)
傭兵(近衛兵長の言っていたように竜闘士と戦うことを前提にした備え)
傭兵(だというのにどうしてこの土壇場で翻すのか)
男「この前、学術都市で相談に乗ってくれたお礼です。この場は見逃してあげます」
傭兵(顔を背けながら告げられた言葉。嘘だとすぐに分かる言葉)
傭兵(いや、相談自体はあったことだ)
傭兵(竜闘士の少女との関係に悩む少年にアドバイスをして…………)
傭兵(そういえば、ふむ、報告には無かったから勝手に思いこんでいたが……)
604 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/21(火) 23:51:52.18 ID:T/LbBzH20
魔族「竜闘士の少女はどうしたんだ?」
傭兵(同じ事を疑問に思ったのか、ずっと黙っていた魔族が口を開く)
男「女とは袂を分かった」
男「……おまえたちには関係ないことだろう。それ以上ゴタゴタ抜かすなら、先ほどの言葉は撤回するぞ」
傭兵(急に早口になり魔族の言葉を否定する少年)
傭兵(……そのときだけ、真に依然通りの少年の姿が垣間見えた気がした)
魔族「おお、怖い怖い。ならば傭兵、行くぞ」
傭兵「……そうだな。気が変わらない内に」
傭兵(見逃してくれるというならばその言葉に甘えておこう)
傭兵(そうして別れる直前)
魔族「変身、発動」
傭兵(魔族がその身に宿る、固有スキルを発動した)
傭兵(何をするつもりかと訝しむ間も無く――――竜闘士の少女の姿に変身した魔族は)
605 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/21(火) 23:52:39.91 ID:T/LbBzH20
魔族(女の姿)「ありがとね、男君!」
男「……っ!!」
傭兵(少年にそんな言葉を投げかけた)
魔族(女の姿)「あははっ、やっぱり。ねえ私分かっちゃった」
男「おまえ……っ!!」
傭兵(目に見えて動揺している少年)
魔族(女の姿)「男君が王国を支配したのって……私が理由なんでしょ?」
男「その顔で、その声で……!! これ以上、話すな!!」
傭兵「魔族、挑発するな! ……くっ」
傭兵(一触即発の気配を感じて、私は慌てて魔族の手を引きその空域を離脱する)
傭兵(猛スピードで進んでからおそるおそる振り返るが……こちらへのプレッシャーは感じるが追いかけてくる様子はないようだ)
606 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/21(火) 23:53:18.01 ID:T/LbBzH20
魔族「どうして逃げた、傭兵」
傭兵「それはこっちのセリフだ。全くどういうつもりだ、魔族」
魔族「これからは使命に囚われずやりたいことをする……それに従っただけだ」
傭兵(変身を解除していつもの姿に戻った魔族はそう調子の良いことを言う)
傭兵「だとしても時と場合を選んでだな……」
魔族「少年のことだ、自分から言い出したことを反故にすることは無いと判断した」
魔族「それに……何かあっても私の傭兵が守ってくれるという確信もだな」
傭兵「……その結果がこの逃亡なんだがな」
傭兵(呆れながらも今し方の光景の意味を考える)
傭兵(危険を冒した価値はあったとも言えるだろう。派手に動く少年のその目的は……)
607 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/21(火) 23:54:01.39 ID:T/LbBzH20
傭兵「どうやら学術都市の時以上に拗れているようだな」
魔族「魅了スキルの少年と竜闘士の少女、二人が仲違いをして数日ほど口も聞かなかったという話か」
傭兵「後悔しないようにとはアドバイスしたが、その結果がこの事態だとしたら……」
傭兵「魔族、早急にすることがないなら、二人の行く末を見守るという方向で動きたいのだが」
魔族「いいだろう。私も気になるしな」
傭兵「感謝する。となると少年にはケンカを打ってきたばかりだし、そうでなくとも受け入れられないだろう」
傭兵「接触するなら少女の方だが……この前こちらから襲撃したことで心証が悪くなっているだろうな」
魔族「駄目で元々だ。第三者の立場で追う方法もある」
傭兵「それもそうだな。しかし……少女が現在どこにいるかだが」
魔族「確か王国の反抗戦力が独裁都市に集まっていると聞いたことがある」
魔族「少女がいるかは分からないが、人が集まっているなら情報収集にもうってつけだ」
傭兵「承知した、そちらの方に向かう」
傭兵(言葉を受けて進路を変える)
608 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/21(火) 23:54:27.70 ID:T/LbBzH20
復活派。『世界滅亡』を為すため、魔神復活を掲げていた傭兵と魔族。
しかし今やその胸の内には何も使命はない。
四つの勢力の内、こうして一つの勢力が脱落していった。
609 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/21(火) 23:55:10.47 ID:T/LbBzH20
魔族と傭兵が去って。
近衛兵長「追いかけなくていいのか?」
男「……見逃すと言っただろう、撤回するつもりはない」
近衛兵長「承知した……ではこの場所にももう用はないな。一応確認のために散開するがいいか?」
男「ああ、そうしてくれ」
近衛兵長「それと先ほどの……」
男「…………」
近衛兵長「……いやいい。作業を開始する」
連れてきた戦力にも命令して、打ち漏らしがいないか確認する近衛兵長。
610 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/21(火) 23:55:46.99 ID:T/LbBzH20
一人その場に残った男はポツリと。
男「羨ましいな……」
脳裏に浮かぶのは背中合わせに戦おうとする傭兵と魔族の姿。
男「俺にも力が、自信があれば……」
自分の手を見つめながら握ったり開いたりを繰り返す。
そしてふと中空に視線を移してつぶやいた。
男「ああ、すまん。ありがとな。……分かってる。もうすぐだ、もうすぐだから」
611 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/21(火) 23:56:12.99 ID:T/LbBzH20
続く。
次回より新展開。
612 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/01/22(水) 00:03:01.49 ID:J8ly4jmZo
乙ー
613 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/01/23(木) 02:26:38.76 ID:jvafXnT7O
乙!
614 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/28(火) 23:36:52.60 ID:jCB9TWls0
乙、ありがとうございます。
投下します。
615 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/28(火) 23:38:02.00 ID:jCB9TWls0
時を少し遡る。
魔族と傭兵が宝玉を使用したその少し前の頃。
独裁都市の神殿の一室にて。
女「はぁ……」
姉御「そんなことしていると幸せが逃げちまうよ」
女「あ、姉御」
女(私は訪れた姉御に声をかけられた)
姉御「それにしても何だい? 随分と腑抜けている様子だねえ」
女「そんなこと無いって。今すぐにでも魔王城に突撃して、男君のところに向かいたいくらいだから……でも準備が終わるまで駄目なんでしょ?」
姉御「会議でも言われただろ。竜闘士といえど一人で王国を相手出来るはずがないって」
姉御「準備も順調なんだから、少しくらい待っておけって」
女「分かってるからこそ、こうしてすること無いなーって暇してため息を吐いているんでしょ」
女(はぁ、ともう一回ため息を吐く)
616 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/28(火) 23:38:32.05 ID:jCB9TWls0
女(魔王君臨対策会議から少し経って)
女(合流した古参会長は商会総出でバックアップをしてくれることを約束してくれた)
女(姫さんも周辺地域を回って協力を募っているため現在は不在)
女(各地に宝玉を寄越せと宣戦布告紛いの通達をしたことによる混乱や、単純に王国を転覆させたという力への恐怖ということから、王国をどうにかしたいという気運は高く、協力は順調に取り付けられそうだ)
女(とはいえ誰かと戦うような段階ではないため、竜闘士の力も役立つところがない)
女(一人の少女として大人しくしているしかないというわけだった)
617 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/28(火) 23:39:02.09 ID:jCB9TWls0
女「あーでも、こういうとき女友だったら何か色々して準備を早めたりしたんだろうなー」
姉御「女友か。そうだねえ、交渉事とか得意そうだし」
女(姉御が同意する。姉御は元の世界にいたときから女友とも知り合いだ)
女「いや、こういうことはあろうかもって既に準備を完了させているまであるね」
姉御「分かる、分かる」
女「こっちの世界に来てからずっと頼りにしていたし……いや、それは元の世界でも同じだけど」
姉御「そういや女友と女はいつからの知り合いなんだい?」
女「高校になってからかな。妙に波長が合ってすぐ仲良くなって……考えてみれば一回もケンカとかしたことないかもなあ」
姉御「それは仲良いことで」
女「あ、でもこっちきてからはずっと恋愛相談に付き合ってもらって……煮え切らない私にもしかしたら不満が爆発する寸前だったかもしれないけど」
姉御「まあこの前みたいな沈み方に毎回付き合っていたとしたら、本当その苦労は相当なもんだろうよ」
女「その節はごめんって」
618 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/28(火) 23:39:28.02 ID:jCB9TWls0
女「それにしても女友は今頃何してるんだろう……」
女(男君と決別したあの日、女友は男君に命令されて連れて行かれた)
女(それ以来、一度も会っていない)
女(魔導士で戦う力もあるわけだし、男君の命令で王国を転覆させる手伝いをさせられただろう)
女(それも完遂した今、男君だったら何をさせるか?)
女(女友だったら何が出来るか?)
女(その力と頭脳を見込まれて、おそらく何らかの重要な命令を任されているに違いないだろうけど…………)
619 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/28(火) 23:39:57.63 ID:jCB9TWls0
コン、コンと。
そのとき部屋の扉がノックされた音が響いた。
女「鍵なら開いてます、どうぞ」
職員「失礼します!」
女(声をかけると同時に扉を開けて入ってきたのは神殿に勤める職員だ)
女(ここまで走ってきたのか少々の息切れを整えることもなく入ってきて……焦っている様子が見えるけど)
女「何かあったんですか?」
職員「独裁都市と王国の境界線上の詰め所から連絡です!!」
職員「重要警戒対象の『魔導士』が現れました!」
女「……っ!! 分かりました、すぐ向かいます!!」
姉御「アタイも行くよ!!」
女(端的な報告で全てを理解する)
女(部屋を飛び出し駆けながら、職員が見せてくれた地図でその場所を確認する)
620 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/28(火) 23:40:53.42 ID:jCB9TWls0
女(そして神殿の外に出て)
女「私は現場に早速向かいます! 『竜の翼(ドラゴンウィング)』!! ほら、姉御も掴まって!」
姉御「『浮遊』!! あんがとね、頼むよ!!」
女(後の対応を職員さんに任せて、私と姉御は空を飛び現場に向かう)
女(姉御の職は『癒し手(ヒーラー)』だ)
女(回復魔法の使い手だが、初歩の浮遊魔法は使える。それで浮いたところを私が手を繋いで引っ張っているという形だ)
姉御「ほう、これは速いねえ!」
女「現場には十五分もあれば着くと思う」
姉御「そうかい……にしても本当に現れたねえ。『魔導士』……女友が」
女「…………」
621 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/28(火) 23:41:27.48 ID:jCB9TWls0
女(男君、王国にとってこの独裁都市は反抗戦力を集めている目下の問題勢力として捉えられているだろう)
女(だからこの前は秘書さんを使って状況を探りに来て……今回は女友を差し向けた)
女(もちろん予想はしていた。だからこそ重要警戒対象と呼ばれたのである)
女(男君は私がこの地にいることを分かっている。それなのに女友を向かわせた理由は……)
姉御「分かっているだろうけど、一応言っておくよ」
女「……うん」
姉御「女友が魅了スキルにかかっているのははっきりと分かっている」
姉御「アタイたちと敵対する男の支配下にある以上、どんなことがあっても敵だよ」
女「大丈夫、油断はしないから」
女(魔導士と竜闘士)
女(力の差ははっきりとしている)
女(女友がもし私に付け込む余地があるとしたら、それは私の親友であるという事)
女(情に訴える騙し討ちに引っかからないように気をつけて……)
622 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/28(火) 23:42:04.32 ID:jCB9TWls0
女「着いたみたい、降りるね」
姉御「ああ!」
女(目的のポイントであることに気付いた私は高度を下げてそのまま着地する)
女(そこで)
女友「あ、女! この人たちをどうにかしてください! さっきから話も聞いてくれなくて!」
兵士「動くな! 大人しくしろ!」
女(兵士に取り囲まれ、両手を上げて反抗の意志がないことを示す女友と久しぶりに出会ったのだった)
623 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/28(火) 23:42:40.96 ID:jCB9TWls0
女「…………」
女(目の前の親友は魅了スキルによる虜である)
女(男君の命令に従うしか出来ないはずだ)
女友「女!」
女(王国と反目している私たちとは敵対している…………そのはずだ)
624 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/28(火) 23:43:06.85 ID:jCB9TWls0
続く。
625 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/01/29(水) 08:03:00.78 ID:VxffPJ56o
乙ー
626 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/01/30(木) 15:00:51.64 ID:dSKJFctG0
乙!
627 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/03(月) 00:13:41.08 ID:YpY4jEFX0
乙、ありがとうございます。
投下します。
628 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/03(月) 00:14:18.89 ID:YpY4jEFX0
女(独裁都市と王国の境界線上の詰め所にて)
女(親友、女友と久しぶりの邂逅を果たす)
女(その状況は兵士に囲まれていて、私に助けを呼ぶという中々難解な状況だ)
姉御「演技だね」
女(姉御は即刻その可能性を示す)
女「……うん、分かっている」
女(女友は魅了スキルによる虜状態だ)
女(男君の命令でこの地に赴いた)
女(ああやって私に助けを呼んでいるのは油断させるための演技に決まっている)
女(だとしても……)
629 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/03(月) 00:14:59.66 ID:YpY4jEFX0
姉御「どうするかい?」
女「女友と話をするよ」
姉御「だからねえ、それは……」
女「大丈夫、油断はしない。近づいた瞬間に攻撃とかされても、元々竜闘士の私の方が強いんだし取り押さえることは出来る」
姉御「……分かっているならいいさね。まあ話でも聞かなければ状況も進まないことだし」
女(注意するべきことを確認してから近づく)
女(兵士たちは私たちのことを知っているため囲いを通してもらって、女友と距離を置いて対面するのだった)
女友「いやあ、良かったです。ようやく知り合い、それも女に出会えて。姉御も久しぶりですね」
女(警戒する私たちと打って変わって女友は呑気に再会を喜んでいる)
630 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/03(月) 00:15:34.10 ID:YpY4jEFX0
女「女友」
女友「どうしたんですか、女、姉御。そんな怖い顔をして」
女「…………」
女友「……なんてね、分かっていますよ。状況からして私が警戒されることも」
女友「だって男さんの魅了スキルにかかっているんですからね」
女(女友は自分からその問題点に触れた)
女「だったら話が早いね。どうしてこの場に現れたの? 男君の命令によるものじゃないの?」
女友「白状します。私は男さんに独裁都市を叩くように命令されました」
女友「王国に反逆する目障りな勢力の力を削ぐために」
女「…………」
女友「ですが目下の問題は一つじゃありませんでした」
女友「復活派が動き出したため、男さんはそちらの対応にも迫られたんです」
女友「問題の大きさからして男さん自身がそちらに出向くしかなくて……チャンスだと思ったんです」
女「チャンス……?」
631 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/03(月) 00:16:03.91 ID:YpY4jEFX0
女友「ええ。女なら知っていますよね。私が魅了スキルの命令を何度も無視したことがあるのを」
女「うん、そうだね」
女友「その抜け道の一つを今まで温存していたんです」
女友「魅了スキルは本人が命令を自覚するのが必要ですから、自分が命令されているわけではないという意識を強く持てば抵抗できるんです」
女「そんな方法が……」
女友「でも男さんの目が届く場所では抜け出しても、すぐに新たに命令がされるのがオチですから、ここまで待っていたんです」
女「だから今の女友は男君の命令に従っているわけではないと……そう言いたいの?」
女友「はい、そうです。そして女たちの力になりたいと思ってここまでやって来たんです」
女友「……証明する手段が無いのがもどかしいですが」
女(女友は悔しそうにして俯く)
632 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/03(月) 00:16:31.86 ID:YpY4jEFX0
女「どう見る?」
姉御「女友が本当のことを言っているならとてもありがたい話だねえ」
姉御「魔導士としての戦力も、王国の事情にもかなり通じているはずの情報も得られるって点で」
女「そうだね」
姉御「問題は……ここまでの言い分含めて、まるっと嘘である可能性もあるってことだねえ」
女(その通りだ)
女(考え出すとキリがないことは分かっている)
女(でも考えないわけには行かない)
女(問題なのは女友自身が言ったように証明する手段がないということだ)
女(女友の言い分が本当であるか、嘘であるか確認するその方法は……いや、そうじゃないか)
女(この状況で大事なことは――)
633 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/03(月) 00:17:51.82 ID:YpY4jEFX0
女「私は女友の言うことを信じるよ」
女友「本当ですか、女!」
女(女友が私の言葉に目を輝かせる)
姉御「ちょっと本気かい?」
女「本気だよ」
姉御「だけどさっきの言葉が嘘だったら……」
女「裏切られるね。……でもそんなの魅了スキルがあろうと無かろうと一緒なんだよ」
姉御「……へ?」
女「嘘か本当か分からない言葉なんてどこにだってある」
女「そんなときに根拠にするのは、それを発した人が信じられるかどうか」
女「私は女友を信じている。だからその言葉も信じる。それだけだよ」
姉御「……まあ、そうか」
634 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/03(月) 00:18:21.40 ID:YpY4jEFX0
女友「ありがとうございます、女」
女「ううん、今まで助けてくれた女友を疑って、こっちこそごめんね」
女友「いいんですよ、状況が状況ですから」
女(そして私は女友に近寄って手を差し出す)
女「あ、言い忘れてたね、女友。久しぶり、元気だった?」
女友「女……いえ、もう本当クタクタですよ。男さん本当人使いが荒くてですね」
女(女友もそれに応じて、ガッチリと固い握手が交わされるのだった)
635 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/03(月) 00:18:48.55 ID:YpY4jEFX0
女友「さて、協力するとは言いましたが、何から始めればいいでしょうか?」
姉御「とりあえずアタイの希望としては、王国の状況について知っていることを全部話して欲しいところだけどねえ」
女「そうだね。独裁都市でもどうにか王国の状況を探ろうと手を尽くしているみたいだけど、成果は上がっていないみたいだし」
女(来たときと同じように私は姉御の手を引いて神殿に向かう)
女(女友は身体を軽くする魔法と風を呼び起こす魔法を組み合わせてそのスピードに付いてきていた)
女(その途中)
女「……っ、あれは!!」
女(私はその存在に気付いて空中で急停止する)
636 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/03(月) 00:19:26.95 ID:YpY4jEFX0
魔族「これはちょうどいい」
傭兵「探す手間が省けたな」
女(魔族と傭兵。復活派の二人)
女(あちらも『竜の翼(ドラゴンウィング)』で空を飛び移動していたようだが、こちらに気付いて中空に止まる)
姉御「まさかこんなところに……」
女友「傭兵と魔族……復活派の二人組……男さんが対応していたはずですが……」
女(警戒する姉御に、浮遊魔法に切り替えて疑問符を浮かべる女友)
女(私は一歩前に出て問いかけた)
637 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/03(月) 00:20:09.05 ID:YpY4jEFX0
女「お久しぶりですね、傭兵さん。何のつもりでしょうか?」
傭兵「警戒する気持ちは分かる。だが、私たちに争うつもりは無い」
女「……そうやって油断させるつもりですか? 学術都市での所行、忘れていませんからね」
女(この二人が駐留派に協力して襲撃したことが、男君との決別の引き金を引いた)
女(傭兵さんは両手を挙げるポーズまで取っているが、気を許すつもりは毛頭無い)
女友「それよりどうしてあなたたちがこんなところにいるんですか?」
女「どういうこと?」
女友「先ほど少し触れたように、復活派は男さんが直々に対処に向かったはずなんです」
女友「それこそ討つつもりで戦力を揃えて。なのにここにいるということは……」
女「男君が逃がしたってこと?」
女友「それならまだマシで……もしかしたら返り討ちにあった可能性も……」
女「まさか……男君を……!?」
傭兵「違うな。私たちは少年に見逃された方だ」
魔族「別れ際のあの反応はおまえたちにも見せてやりたかったな」
女友「見逃す……ですか? 男さんに限ってそんな甘いことを……」
女(傭兵さんに魔族さんも加わり、入り乱れ始めた話を打ち切ったのは姉御だった)
638 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/03(月) 00:20:47.80 ID:YpY4jEFX0
姉御「だぁっもう、まどろっこっしいねえ!」
姉御「ストップだ、ストップ!」
姉御「そうやって言い合ってたら何の話もまとまらないだろう!」
女「だけど……」
姉御「だけども何もない! こんな空中でする話でもないだろう! 落ち着ける場所に移動するよ!」
女(食い下がろうとする私にピシャりと言い放った後、姉御は傭兵さんの方を向く)
姉御「本当に戦う意志は無いんだろうね?」
傭兵「ああ。魂に誓って」
姉御「だったら案内するよ。正直あんたたちの持っている話も気になるところだ」
傭兵「感謝する」
姉御「……あ、でも、気が向いたらでいいからアタイと一戦交えてくれると助かるねえ」
姉御「武闘大会の予選の時は不甲斐ないところをみせたけど、あのときから成長したからさ」
傭兵「いいだろう。あのときは結局拳を交えなかったからな」
女(姉御は話をまとめながらも、ちゃっかり傭兵さんと再戦の約束を取り付ける)
639 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/03(月) 00:21:56.66 ID:YpY4jEFX0
女(そうして行きは二人だったのに、女友、傭兵さん、魔族さんと三人を加えた一行で、独裁都市の中心、神殿前に着地して)
チャラ男「ようよう、やっと帰ってきたやな。入れ違いだったみたいで待ちぼうけ食らったで」
女(軽薄な調子の声が私たちを出迎えた)
女「チャラ男君……? でも、どうしてここに……」
女(最初は気弱君と姉御と一緒にパーティーを組んでいて武闘大会に出るべく向かった町で出会ったけど、何だかんだあって大会の後は私たちを裏切り駐留派に合流したクラスメイトの名前だ)
女(そう、駐留派であるから本来は敵であるはずなのだ)
チャラ男「ちょっと『組織』からアンタたちに話を付けて欲しいってことで、クラスメイトの中から暇している俺が選ばれてな」
姉御「……。だとしてもあんた、よくアタイの前に顔を出せたねえ?」
チャラ男「ははっ、やっぱり宝玉を盗んだことを怒っているんやな? まあまあ、そんな昔のことは水に流そって。俺は『組織』から大使やぞ、ちゃんと丁重に扱わなければ問題に……」
姉御「問答無用!!」
チャラ男「いたっ……!?」
女(姉御がチャラ男君に駆け寄り頭にゲンコツを落とす)
640 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/03(月) 00:22:28.21 ID:YpY4jEFX0
女友「まあまあ、姉御。気持ちは分かりますが、そこらへんにして……」
女(女友がその対応に走るのを横目に私は率直な感想を呟いた)
女「敵なのか、味方なのか……分からない人がたくさん集まったなあ……」
女(帰還派の私たち、駐留派からの大使、復活派の二人、支配派から抜け出した女友)
女(何の因果か、ここに全勢力の人間が揃った)
女(そしてそれぞれが話を用意している)
女(力押しで解決する問題ではないからこそ、情報は大事だ)
女(何としてでも男君の元に辿り着くために)
641 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/03(月) 00:26:53.79 ID:YpY4jEFX0
続く。
642 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/02/03(月) 01:34:10.53 ID:0XP9ukIJO
乙
643 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/02/03(月) 10:01:09.05 ID:Lf/yFej4o
乙ー
644 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/02/04(火) 16:47:06.67 ID:1DBF+ZlEO
乙!
645 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/11(火) 02:22:02.46 ID:J9Cxm/0x0
毎度毎度、乙ありがとうございます。
励みになります。
投下します。
646 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/11(火) 02:23:03.20 ID:J9Cxm/0x0
女(私は神殿に集まったメンバーを見回す)
女(私、姉御、女友、傭兵さん、魔族さん、チャラ男君に加えて)
チャラ男「よっ、久しぶりやな、気弱」
気弱「わっ、チャラ男さん。久しぶりです」
女(神殿で事務作業を手伝っていた気弱君が合流して七人だ)
チャラ男「何や、普通の反応やな。姉御みたいに怒られるかと思ったけど」
気弱「今から大事な話し合いなのに邪魔するのも申し訳ないですし……それに僕の分まで姉御が怒ってくれたのは見て取れるので」
チャラ男「ほんとやで、ああもうまだ痛い……」
女(チャラ男君はしきりに頭のゲンコツされた部分を撫でている)
姉御「さっきのでも足りないくらいだよ。全く、持ってきた話ってのがしょうもなかったらもう一発……いや関係なく後でもう一発だね」
チャラ男「酷くない?」
女(姉御はまだ癇癪が収まらないようだ)
647 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/11(火) 02:23:34.82 ID:J9Cxm/0x0
女友「はいはい、静かにしてくださーい」
女(女友がパンパンと手を叩きながら呼びかける)
女(話し合いの進行は女友が率先して取ってくれることになった)
女(久しぶりに見る女友らしい姿に私は感慨深い気持ちになる)
女友「さてそれでは四派閥情報交換検討会兼王国対策会議の方を始めて行きますが……」
チャラ男「何や、その名前?」
女友「私は今決めました。ってどうでもいいところで引っかからないでください」
女(開始早々チャラ男君が横槍を入れる。いやでも長くて気になるところだ)
648 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/11(火) 02:24:05.35 ID:J9Cxm/0x0
女友「名前の通りそれぞれが持ち寄った情報を交換検討して、どうにか王国に対抗する方法を考えようということです。そのためにも最初は……」
傭兵「私が話そうかな」
女友「傭兵さん」
傭兵「私の情報が一番直近で知らない者の方が多く顛末も気になっているだろう」
傭兵「それに一番この場で信頼されていないようだからな」
傭兵「情報を開示することで協力するつもりがあるところを早めに示したい」
女友「うーん、そうですね……分かりました、ではお願いします」
女(挙手した傭兵さんに女友が発言権を譲る)
傭兵「ありがとう。では話そう」
傭兵「事の始まりは私たちが八個目の宝玉を手に入れたことで――――――」
649 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/11(火) 02:26:04.70 ID:J9Cxm/0x0
女(そして傭兵さんは語った)
女(宝玉によって戦力を呼び出し、しかし敵対することになって、その後男君によって蹂躙されて、今は使命も何も無い、と)
女「…………」
女(気になる情報が渋滞している。一つ一つ確認しないと)
姉御「宝玉で呼び出して戦力の増強ねえ。魔神復活ばかり言ってたから盲点だったよ」
女友「そうですね、私も見落としていました。男さんが気付かなかったらヤバい事態になっていたかもしれませんね」
女(私も同じだ。まあ女友も気づけなかった計画に私が気づけるはずがない)
チャラ男「でも最後には全員死んだってか。良い女もおったやろうに残念やな」
気弱「もう、チャラ男さん! ……えっと、魔族さんでしたか。失礼なことを……」
魔族「別に気にしていない。ただ同じ種族のやつらが死んだというだけだ。それに今の私には傭兵一人さえいればいい」
女(チャラ男君の軽薄な言葉に、気弱君が気を遣うが、魔族さんは気にしている素振りもない)
女(……っていうか二人の関係って、結構……その……)
650 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/11(火) 02:26:48.09 ID:J9Cxm/0x0
傭兵「そうだ、気になることがある」
傭兵「魅了スキルの効果対象が『魅力的だと思う異性』というのは間違いないな?」
女「はい、その通りです」
傭兵「だが、今回少年は当然のように女性の魔族たちを虜にしていた」
傭兵「話を交わしたことすらない者を魅力的だと思うようなものなのか?」
女「あ……言われてみれば……」
女(そうだ、魅了スキルは女性をお手軽に支配できるスキルのように見えて、意外と色々な条件が存在する)
女(そのせいで私と男君の関係も拗れたわけだし)
651 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/11(火) 02:27:32.42 ID:J9Cxm/0x0
女友「それなら私も同じ事を疑問に思って聞いたことがあるんですが――」
女友「男さんが言うには『どいつもこいつも俺の駒になると思えば魅力的だろう』ということみたいです」
女「それは……」
女友「実際女と別れてから魅了スキルを失敗したことは一回もありませんでしたし、本当のことなんでしょうね」
女友「というかその段階で手間取っていたらこんなに早く王国を転覆させることは出来せんよ」
女「……それもそうだけど」
女(魅力的かどうかには本人の認識が大きく関わる)
女(男君はそこまで割り切った考えをして……いや、でも)
652 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/11(火) 02:29:15.62 ID:J9Cxm/0x0
傭兵「だとしたらどうして魔族は虜になっていない?」
傭兵「先ほどの戦闘、囲んでいた魔族を対象に放った魅了スキルの範囲に魔族もいたぞ」
女友「あっ、それもそうですね。以前の老婆に化けたときの記憶に今も引っ張られているとか……?」
女友「いや、でも王国では普通に年配の市民にも魅了スキルをかけていましたし……」
魔族「確か術者に特別な好意を持っている場合も無効だという話だったが、当然私は少年にそのような好意を持っているわけではないぞ」
女(魔族さんも口を挟む)
女「…………」
女(他は虜になったのに、魔族さんだけならなかった理由)
女(それは魅了スキルの条件から考えて、男君が魅力的だと思わなかったからとしか考えられない)
女(駒という考えからすれば、変身を使えて強い魔族さんは魅力的なのに……それでも思えなかったのは)
653 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/11(火) 02:30:04.47 ID:J9Cxm/0x0
女「傭兵さんと魔族さんのことをよく知っていて……それでいて二人が特別な絆で結びついていると思ったから……なのかな?」
傭兵「どういう意味だ?」
女「男君はお互いがお互いを想い合う関係が恋愛の理想なんです」
女「話によるとそのとき背中合わせで戦い抜くつもりだったんですよね」
女「それで男君は自分の理想の関係を体現している二人を見て……魔族さんをそこから奪うなんて出来なかった」
女「うん、いくら表面上変わっていても男君はそんなこと出来ない」
女「だから魔族さんだけ虜にならなかった……」
傭兵「……いや、それは間違っているな」
女「え?」
女(傭兵さんの否定に思わず顔を上げると、呆れたように溜め息を吐いていた)
654 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/11(火) 02:30:43.07 ID:J9Cxm/0x0
傭兵「私と魔族がお似合いの関係だと? 少年も少女も節穴だな」
傭兵「私の好みはお淑やかな女性だ。気の強い魔族も悪くはないが、もう少し落ち着いて欲しい」
女「え?」
魔族「言うじゃないか、傭兵よ。私だっておまえの何を考えているか分からないところは苦手だ」
魔族「いざというときに頼れるのは良いところだがな」
女「え?」
傭兵「言葉使いももう少し直して欲しい。まあ姉様に啖呵を切ったときは愉快だったがな」
女「……」
魔族「それを言うならそちらこそ私を抱えて飛ぶとき全く配慮してなかっただろう。お陰で揺れが酷かったぞ」
魔族「まあそれでもおまえに包まれている安心感の方が大きかったが」
女「……」
655 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/11(火) 02:31:10.81 ID:J9Cxm/0x0
女(きょとんとした顔で周りを見回す。どうやら二人以外は私と同じ反応のようだ)
女(そして二人はというと至って真面目な顔つきでのろけているわけではないようだ)
女「え、えっと……それではお二人はお互いのことをどのような存在だと思っているのですか……?」
女(私はおずおずと二人に問う)
傭兵「共に生きていくと決めた者だな」
魔族「ああ、果てるそのときまでずっと一緒だ」
女(当然という顔つきで答える二人)
女「………………」
女(それって実質結婚じゃないんですか?)
女(とはその場にいる誰も口に出すことが出来なかった)
656 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/11(火) 02:31:43.82 ID:J9Cxm/0x0
女(傭兵さんと魔族さん)
女(唐突なのろけ話に困惑する私たちだが、ある意味それで分かったこともあった)
女「傭兵さん、あなたを味方だと認めます」
傭兵「急にどうした?」
女「理屈はないです。話して、触れ合ってみての私の直感です」
傭兵「そうか……学術都市の件はすまなかったな。使命のためとはいえ、あのようなことをしてしまって」
女「もう過ぎたことですから」
傭兵「お詫びになるかは分からないが、必ず少女が少年のところまで辿り着けるよう協力しよう」
女「ありがとうございます」
傭兵「もっともその後どのような結末になるかは二人次第だ」
女「良い報告が出来るように頑張ります」
女(傭兵さんが差し出した手を私は握り返す)
657 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/11(火) 02:32:28.44 ID:J9Cxm/0x0
女友「さて、これで元復活派からの報告が終わって……そうですね、次は私から話しましょうか」
女(女友は進行をしながら、次の話し手に進み出る)
姉御「そうだねえ、男の元にいたアンタには色々聞きたいことがある」
姉御「まず率直になんだけど、今の男の目的は何なんだい?」
女友「……先に断っておきますが、私は知らないことの方が多いです」
女友「今の男さんは命令以外に話すことはめったになく、私に何かを打ち明けたり相談したりなんてしませんでしたから」
女友「それでも今までの行動などから察するに……今の男さんの目的は元の世界への帰還では無い、のだと思います」
姉御「今までそれを目標に頑張っていたのにかい?」
女友「ええ。私がここ独裁都市に向かう直前には宝玉が王国にゲートを開けるために必要な八個は集まっていました。周辺地域に宝玉を差し出すように通知した結果ですね」
女友「しかし、それでも男さんは特に行動を変えませんでした」
女友「帰還のための準備も、これ以上宝玉はいらないともしなかったんです」
658 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/11(火) 02:34:03.17 ID:J9Cxm/0x0
女(宝玉は数を集めることで力が増す)
女(八個以上集めて出来ること……それは十個で高位存在を呼び出すか、十二個集めて――)
女「もしかして男君は……魔神を呼び出すつもりなのかな……?」
女(私はポツリと呟く)
女(みんな同じことを考えていたのか、特に反対の意見は上がらなかった)
659 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/11(火) 02:34:59.43 ID:J9Cxm/0x0
女友「考えられる可能性ですね」
女友「男さんは魔神の『囁き』スキルによって今の状態になりました」
女友「その上時折虚空に向かって話していたり、おそらく今も魔神とのリンクは切れていないのでしょう」
傭兵「それで少年が絆されたか、懐柔されたか……あるいはスキルの効果で自分を復活させるように命令されたという可能性もあるのか?」
女友「いえ、『囁き』はあくまで対象の欲望を解放するスキルです。魅了スキルのような対象を思い通りにするという効果はないはずです」
傭兵「そうか。ならば少年自身が考えて魔神の復活を私たちに代わって成し遂げるというのか」
女「魔神を復活させたいのは分かったけど、それ自体が最終目的だとは思えない」
女「結局男君は何がしたいの?」
女友「すいません、それは私にも……」
女(私の問いに女友は力無く首を振る)
660 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/11(火) 02:35:48.02 ID:J9Cxm/0x0
気弱「王国に内乱を起こして、罪の無い一般人もたくさん巻き込んで」
気弱「そして支配が完了したら周辺地域にも宣戦布告紛いで混乱を招き、さらには魔神を呼び出そうとしている……」
気弱「男さんはそんな悪逆的な振る舞いをするような人では無いと思ってたんですが……僕が何も分かっていなかったって事でしょうか?」
チャラ男「……ん、今気弱何て言ったんか?」
気弱「えっと、男さんはそんな悪虐的な……」
チャラ男「違う違う、その前や。一般人もたくさん巻き込んだとか、どうとか」
気弱「言いましたけど……それの何が問題なんですか?」
チャラ男「いや、俺の知ってる情報と齟齬があったからな」
チャラ男「『組織』の情報網によると、王国で本格的な内乱が起こる前日、不自然に人の流れが誘導されていて、戦闘に巻き込まれた一般人はほとんどいなかったって話や」
気弱「え、ですが内乱の時ちょうど王国にいた秘書さんが言うには、多くの民が巻き込まれたって……」
チャラ男「どういうことや……? あ、言っておくけど、俺が嘘吐いてるわけやないからな」
チャラ男「というかこれくらい王国内の情報を確認すれば分かることやないか」
気弱「王国の警戒が強くて、独裁都市には全く情報が入ってないんです」
気弱「さっきの情報も秘書さんがたまたま……いえ、おそらく男さんの命令で探りに来たときにした話なので」
チャラ男「へえ、遅れとるなー。まあそういう諜報活動の類は『組織』の方が得意か」
女(何気ない会話から判明した帰還派と駐留派が掴んでいる情報の違い)
661 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/11(火) 02:37:19.40 ID:J9Cxm/0x0
女「本当なの、女友?」
女(帰還派の私は気弱君と同じ認識だ)
女(幸いにもここにはその出来事を一番近くでみていただろう人がいるので問う)
女友「……そういえばその疑問がありましたね」
女友「ええ、チャラ男さんの言っていることは事実です」
女友「男さんは魅了スキルを駆使して、内乱を起こす前日には一般人の避難を体制側に気づかせないまま完了させましたから。巻き込まれた人はいないでしょう」
女「男君なら可能か……首謀者だから安全地帯とかも分かるだろうし」
女「でも、だったらどうして秘書さんが嘘を吐いたのか……あのとき男君の命令で動いていたわけだし、男君が意図したことなの?」
女友「はい。布石として嘘を吐かせた、と呟いたのは聞きましたが……何の布石なのは私にもさっぱりで……」
女「布石か……」
女(本当は一般人を保護していた男君)
女(なのに秘書さんを通じて私たちに一般人も巻き込んだと嘘を吐いた)
女(その行動に何の意味があるのだろうか?)
女(これも男君の目的とやらに関わってくるのだろうか?)
女(男君の心証を悪くするくらいの効果しかないと思うんだけど…………)
662 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/11(火) 02:37:49.91 ID:J9Cxm/0x0
姉御「だぁっもう。分からないことばかり増えるねえ」
姉御「別れ際の言葉からして男は今も女のことを思っている」
姉御「そして傭兵さんたちから聞いた様子からして、男が王国をわざわざ支配した理由も女が絡んでいる」
姉御「何がしたいのか分からないけど、そんなに女のことを思うなら側にいてやることが一番じゃないかい?」
女(姉御の言う通りだ)
女(私は男君の側にいれればそれだけで幸せだったのに……男君は違うっていうのだろうか?)
663 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/11(火) 02:38:47.12 ID:J9Cxm/0x0
チャラ男「男は元の世界に戻るつもりはないんやろ?」
チャラ男「それでわざわざ王国を支配したってことは、俺みたいに欲望のままにハーレムを作りたくなったとかやないのか?」
女友「あり得ませんね。私が基本的に側にいましたが、男さんはそのような命令をしたことはありません」
姉御「適当なことを抜かすようならぶっ飛ばすよ」
チャラ男「おお、怖い怖い。じゃぶっ飛ばされない内に俺も話しとこっかな」
女(チャラ男君はおどけるようにして女友と姉御の集中砲火をかわす)
女(駐留派、バックにいる犯罪結社『組織』は何を目的に私たちに接触をもくろんだのか)
664 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/11(火) 02:39:36.34 ID:J9Cxm/0x0
チャラ男「俺からの話は提案ってことになるな。独裁都市は戦力を集めて近く王国を攻略にかかるんやろ?」
女「うん、そうだけど」
チャラ男「その作戦に『組織』も一枚噛ませて欲しいってところでな」
女「……続けて」
チャラ男「まずそもそもなんやけど、『組織』は今の王国が支配されて各地にも緊張感が漂うこの状況は歓迎してなくてな。平和ボケしてた方が色々と事も運びやすいし」
女「……是非はともかくとして、王国をどうにかしたいという気持ちは同じと」
女「だけど独裁都市やそれに協力する古参商会にも体面があるから、犯罪結社なんかと協力するわけにはいかないと思うよ」
女「大体協力するフリして裏切るなんて平気でしそうだし」
女(そもそも目の前のチャラ男君だって、最初は仲間面していて裏切った存在だ)
665 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/11(火) 02:40:32.63 ID:J9Cxm/0x0
チャラ男「そこらへんは『組織』も理解しているみたいでな」
チャラ男「というか『組織』こそ表の勢力と手を組んだとバレたら裏の世界での求心力が失われるし」
チャラ男「だから協力は最小限、王国に攻め入る日取りを一緒にする、これだけや」
チャラ男「独裁都市側と『組織』側の二正面作戦で、王国の防御を分断出来るだけでもありがたいしな」
チャラ男「『たまたま攻める日が被っただけだ』ってことにすれば体面も保てるやろ?」
女「……姫様や古参会長に相談しないといけないから、今ここで返事は出来ないけど提案はしてみる」
チャラ男「頼むでー。まあ俺なんかに頼む仕事やし、『組織』も是が非でもとは思ってないやろしな」
女(私個人としては魔王城に辿り着けさえすればいいので了承したかったが、そういう事情で返事は保留した)
666 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/11(火) 02:41:00.36 ID:J9Cxm/0x0
続く。
667 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/02/11(火) 06:19:54.37 ID:Dt3ZIREKO
乙!
668 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/02/11(火) 14:21:41.44 ID:/u9N0jBPo
乙ー
669 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/16(日) 23:37:15.33 ID:wmBtSKTz0
乙、ありがとうございます。
投下します。
670 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/16(日) 23:37:55.87 ID:wmBtSKTz0
女(その後の会議は細々とした情報の共有や、これから起こり得る事への対策などをやって夕方頃にお開きになった)
女(夕食まで時間があるという事で、姉御が早速傭兵さんに挑戦して善戦こそしたものの返り討ちにあって、それを見ていて大笑いしたチャラ男君に八つ当たりしたり)
女(元々は敵と言っても、女友は男君に操られていただけだし、傭兵さんと魔族さんは使命を捨てたからか取っ付きやすくなっているし、チャラ男君はその持ち前のキャラでなし崩し的に馴染んでいた)
女(みんなで着いた夕食の席では)
チャラ男「なるほどそんなことが……よし、分かった!!」
チャラ男「俺も全面的に女が男のところにたどり着けるように協力するからなっ!!」
姉御「アンタ、よく言ったねえ!!」
気弱「ちょ、ちょっと二人とも酔いすぎですよ」
女(酔ったチャラ男君が調子よくそんなことを言って、姉御がその背中をバシバシ叩く)
女(その間で気弱君がおろおろしていた)
女(そして酔い潰れたチャラ男君は気弱君が介抱するということで部屋に運び)
女(傭兵さんと魔族さんも協力者という事で神殿内の客室が一部屋準備されて)
女(女友は私が寝泊まりしている部屋にやってきた)
671 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/16(日) 23:39:00.01 ID:wmBtSKTz0
女友「こうして二人きりになるのも久しぶりですね」
女(元々私が与えられた部屋は二人用の部屋で、今までそれを一人で使っていたものだ)
女(その今まで使っていなかったベッドに寝転がりながら女友が言う)
女「学術都市にいたとき以来だからそこまで期間は空いてないはずなのに……本当久しぶりって感じ」
女(私もその隣のベッドに寝転がる)
女友「はぁ、今日は本当しゃべり倒しましたね」
女「何か堰を切ったような感じだったね」
女友「王国にいたときはほとんど話なんてして無かったですから。男さんの命令を受けて、行動しての繰り返しで……たまに今後の方針を話し合うときくらいだったでしょうか」
女(おしゃべり好きの女友には地獄の環境だっただろう)
女「そういえば……男君は元気なの?」
女友「体調的なことを言えば元気ですよ。精神的に言うと……いつも無機質な目をしていて、私から言わせると死んでいるようなものでした」
女「……そっか」
女友「本当に男さんは……何を考えているんでしょうか? 立場上近くで行動していた私にも全く分からなくて……」
女「見ても分からない、考えても分からない…………だったら直接問いただすだけだよね」
女「うん、そうだよ。それに結局どんなことを考えていようと、私のすることは変わらないし!!」
女友「そうですね」
女「自分から振って難だけど、もうこの話はやめ、やめ! 違う話しよ、女友。王国で面白いこととかなかったの」
女友「雑なフリですね……。あ、でも面白いことと言えば……」
女(そうして私と女友の話は盛り上がり、どちらからともなく寝始めるまで続いたのだった)
672 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/16(日) 23:39:47.23 ID:wmBtSKTz0
<一方その頃>
気弱「ふぅ……ようやく寝ましたね」
気弱(僕は自室のベッドの前で一息吐く)
チャラ男「んー……だから…………言ってるやろ……」
気弱(寝言を言っているのはチャラ男君。酔った彼をここまで運んで寝かしつけるのは思いの外骨が折れた)
気弱「でも久しぶりに会えて良かったな」
気弱(頑張って手に入れた宝玉を持ち逃げされるという手酷い裏切りを受けたけど、僕はチャラ男君のことを嫌いになれなかった)
気弱(姉御には虫が良すぎる、って呆れられるかもしれないけど)
気弱(もう一つのベッドに寝転がる。もう夜も遅いし、寝ようと思って目をつぶるけど……)
673 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/16(日) 23:41:21.57 ID:wmBtSKTz0
気弱「眠れない……」
気弱(目がさえていた。理由は分かっている。頭の中で渦巻いている思考のせいだ)
気弱(今日の会議でも散々話題になった男さんの目的)
気弱(みんなが分からなくて頭を悩ませていたそれが――――分かったかもしれないということが気になるからだろう)
気弱「…………」
気弱(事の始まりは学術都市だ)
気弱(男さんは女さんに告白された)
気弱(おそらく普段の態度やこれまで聞いた話からして、男さんは女さんのことを好ましく思っている)
気弱(そのまま何もなければカップル成立するはずだったのに……そこに襲撃があった)
気弱(男さんと僕には似た一面がある)
気弱(だから女さんから表面的に話を聞いただけなのに……そのときの男さんの心情が手に取るように分かった)
674 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/16(日) 23:42:26.82 ID:wmBtSKTz0
気弱(不安だ)
気弱(そこに異世界という舞台、魅了スキルという力に魔神の『囁き』スキルまで加わった結果……)
気弱(欲望そのままに、男さんはその不安を払拭するためにここまでのことをしでかした)
気弱(だとしたら……僕は到底男さんのことを責める気にはなれなかった)
気弱(僕だって同じような状況になったらそんなことをしないとは言い切れないから)
気弱「僕は運が良かったんだな……」
気弱(このことを本当はみんなに話すべきなのかもしれない)
気弱(みんな気になっていたし、不安に思っているのだから)
気弱(でも僕は男さんに共感してしまったから)
気弱(裏切りだとしても……誰にも打ち明ける気にはなれなかった)
気弱「バレたら姉御に怒られるかもな……」
気弱(恋人の顔を思い浮かべてクスっとなって……そうして力が抜けたのが良かったのか、僕は吸い込まれるように眠りに就いた)
675 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/16(日) 23:43:20.73 ID:wmBtSKTz0
誰も彼もが眠りに就いた夜更けの独裁都市。
そこに蠢く影があった。
空中を滑るように動き、時折立ち止まる。
周囲を見回す仕草からして、どうやら自分がどこにいるかを確認しているようだ。
そうして辿り着いた先は……何の変哲もない建物だった。
しかし、その影は知っていた。
そこは重要な拠点だと。
古参商会が王国を攻略するためにかき集めて独裁都市に運んだ物資が貯蔵されている、と。
ここを攻撃されたら損害は量り知れず、立て直すことも難しい。
故に極少数しかこのことを知らない。
「………………」
影は手をその建物に向けて。
口を開き、魔法を紡ごうとして――――。
676 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/16(日) 23:54:17.99 ID:wmBtSKTz0
女「こんなところで何をしているの、女友?」
いつの間にか影の後ろに竜の翼をはためかせる少女、女がいた。
影は、女友は振り返って答える。
女友「何って……夜中の散歩ですよ」
女「そう? じゃあ、私を起こさないように細心の注意を払って部屋を抜け出したのは、ただの親切だったってわけ?」
女友「ええ、その通りですよ。結局起こしてしまったみたいでごめんなさいね」
女「いいよ、気にしてないから。それにしてもこの場所に気付くなんてね」
女友「……はて? この場所がどうかしたんですか?」
女「昼間普通に過ごしているように見えて探りを入れてたんだ」
女友「よく分かりませんがユウカもこの場所にいるってことはまさか私を尾行でもしていたんですか、あんまり良い趣味じゃないですよ」
女「ごめんね」
女友「いいえ、気にしてませんよ」
女「………………」
女友「………………」
677 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/16(日) 23:54:48.28 ID:wmBtSKTz0
女「理屈は無い。話して、触れ合ってみての私の直感」
女「ねえ、女友って――今も男君の支配から逃れられてないんじゃないの?」
女「自由になったフリして……独裁都市に潜入して、攻撃するように命令されているんじゃないの?」
女友「……はぁ。男さんの支配から逃れられていないって……何を根拠にそんな……って直感でしたね」
女友「でしたらそうですね……理屈的に考えましょうか。男さんは私にどんな命令をしたっていうんですか?」
678 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/16(日) 23:55:27.41 ID:wmBtSKTz0
女「とりあえず大きなものが『独裁都市に潜入して攻撃しろ』って命令だとして」
女「『怪しまれないように命令を無視したという演技をしろ』『独裁都市の重要拠点を探れ』『信じさせるために指定した情報は開示しろ』『都合の悪い情報は開示するな。ただし疑われそうな場合は臨機応変に』って感じで」
女「後は『裏切るようなことは禁止する』とか『余計なことを話すな』とか……まあそういう命令は元々かけているだろうけど」
女(まだまだ細かいことを考えればキリが無さそうだ)
女友「まるで命令のデパートですね」
女「そうでもしないと女友は本当に命令無視するでしょ」
女友「ですから本当に命令無視を……」
女「そういえば女友が言っていた理由だけど……命令されたのが自分だと認識しなければ無視できる……だったっけ?」
女「そんな初歩的なことに男君が気づかないとは思えないけど」
女友「……うっかりしていたんでしょう」
女「あ、それに女友さ、一般人を巻き込んだかって嘘をチャラ男君が言及するまで口にしなかったでしょ」
女「あれも本当は開示する情報じゃなかったんでしょ?」
女友「……順序ってものがあるでしょう。話題にならなくても、あの後話するつもりでしたよ」
女「本当に?」
女友「………………」
女「………………」
女(無言で視線と視線がぶつかり合う)
女(やがて根負けしたように女友は視線を外すとポツリと呟く)
679 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/02/16(日) 23:56:06.50 ID:wmBtSKTz0
女友「本当は……私だって女の力になりたいんですよ」
女「……うん、分かっている」
女友「でも女だって知っていますよね、魅了スキルの力を」
女「そりゃあね」
女友「『誰かにバレた場合、即座に帰還しろ』『邪魔された場合は全力で抵抗しろ』『手を抜いて捕まることは禁止する』……と、まあこのような命令もありまして」
女「逃げるつもりなのね。でも逃がすと思う?」
女友「分かっています。全力で行きます」
女友「ですから――どうにか私を逃がさないでください」
女(女友が空中で戦闘態勢に入る)
女(私も構えを取った)
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