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男「恋愛アンチなのに異世界でチートな魅了スキルを授かった件」 3スレ目
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466 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/11/06(水) 04:11:54.87 ID:r25qXZrpO
乙!
467 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/11/07(木) 23:21:00.23 ID:islyLKZY0
乙、ありがとうございます。
投下します。
468 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/11/07(木) 23:22:00.07 ID:islyLKZY0
女(魔王城に、男君のいるところに乗り込む)
女(今後の大きな方針が決まった)
女(そうだ、私は何をごちゃごちゃと悩んでいたんだろう)
女(はっきりとした言葉で拒絶されたならともかく、あんなふんわりとした言葉で私の長年の想いを否定されてたまるものか)
女(男君に告白の返事をさせる。返ってくる言葉は絶対にYESだ、みんなもそう言っているし)
女(そして恋人同士になった私たちは、色んな場所に一緒に行って、同じ気持ちを共有して、二人の思い出を紡いでいく)
女(そんな日が来るのが楽しみで…………楽しみすぎて……)
女「ねえ、今すぐ魔王城に乗り込んじゃ駄目なの?」
女(抑えきれずに私は提案していた)
469 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/11/07(木) 23:22:31.21 ID:islyLKZY0
姫「はぁ……話を聞いてましたか?」
姫「男さんは今や王国の持っていた軍事力を保有しているも同然なんですよ」
姫「内戦による同士討ちで少しは削れたかもしれませんが、いずれにしても竜闘士一人で敵う相手じゃありません」
姫「各所から対抗できるだけの戦力を集めるしかないわけで、それまでおとなしく待ってください」
女「その理屈は分かっているんだけど……実際そんな正面衝突になるのかなぁ、と思って」
姫「……はい?」
女「いや、だからね。男君は私のこと大事に思っているわけでしょ?」
女「だから案外私だけで王国に向かったら、叩き潰すようなこと出来なくて、魔王城までスルっと到達できるんじゃないかな……って」
姫「断言します。有り得ませんね」
470 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/11/07(木) 23:23:05.49 ID:islyLKZY0
女「いや、まあ姫さんがそう言いたいのは分かるけど……」
姫「鼻に付く言い方ですね……先ほど神妙に振る舞って損した気分ですよ」
姫「それと別に嫉妬で言っている訳じゃありません。男さんは女さん相手に手を抜くことは無いでしょう」
女「え、どうして?」
姫「その程度の覚悟で王国を支配するなんて出来るはず無いからです」
姫「女さんを置いていくことが正しいと思ったなら、簡単に翻すとは思いません」
姫「元々男さんは頑固な人ですから」
姫「私のときだって自分が犠牲になることが正しいと、どれだけ説得しても聞く耳持たずに貫こうとしましたし」
女「……そっか、そうだよね」
姫「加えて『囁き』がその思いをさらに強固にするでしょうから……本気で対抗してくると思いますよ」
471 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/11/07(木) 23:23:37.07 ID:islyLKZY0
女(男君は思いこんだら頑ななところがある)
女(そのせいで私と男君は何度も衝突してきて、それを乗り越えることで絆を深めてきた)
女(今回もそれと同じ……いや、それ以上だ)
女(『囁き』の影響だけじゃない、今まで男君は私に魅了スキルをかけてしまったという負い目をいつだってどこか感じていたはずだ)
女(しかし、今やその嘘も暴かれた)
女(本気でぶつかってくる男君はとても厄介になるだろう)
女(でもそれが私には嬉しかった)
女(障害が大きければ大きいほど、乗り越えた時の報酬も大きくなる……そう思うから)
472 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/11/07(木) 23:24:06.23 ID:islyLKZY0
姫「といっても男さんも今はまだ王国内外の対応に忙しいでしょうし、しばらくは私たちに何かする余裕も無いと思いますけど」
女「そっか、その内に準備を進めておきたいね」
女(男君がどんな手を打ってくるか、想像も付かない)
女(出来ることは早めにやっておかないと)
秘書「女さんが前向きになったようで何よりです」
秘書「古参商会としても各地で混乱が起きているこの状況では商売上がったりです」
秘書「何としてでも解決するよう尽力いたします」
女(秘書さんの言葉にふと疑問が沸く)
473 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/11/07(木) 23:25:01.42 ID:islyLKZY0
女「そういえば魔王君臨における各地の混乱って具体的にはどういうことなんですか?」
秘書「まずは単純に王国を乗っ取る勢力の登場による恐怖ですね」
秘書「王国の武力は誰でも知っていましたから、それを圧倒する力への畏怖が一つ」
秘書「もう一つは男さんの出した宣言、宝玉を差し出すように迫ったことによるものです」
女「宣言がですか? 王国が手段を選ばないって言っている以上、抵抗するのも難しいですから、みんな普通に差し出して終わりだと思ってましたけど」
秘書「ええ。宝玉の所在が分かっている地域はその通りの対応ですね」
女「……あ、そっか。私たちが観光の町で体験したように、宝玉がどこに行ったのか分からない地域もあって……」
秘書「そういう場所では血眼になって宝玉を探す者や、急ぎ避難しようとする者、行政に対してさっさと差し出すように詰めかける者もいて……軽いパニックになっていますね」
秘書「場所が分かっていても、所有者が首を縦に振らない場所などもあるようです」
秘書「安全のためとはいえ、宝玉は高価な宝石です」
秘書「差し出せと言われて、はい分かりました、とは行かないのが人間ですから」
女「思ったより大変なことになっているんだ……」
女(他者に迷惑をかけることを嫌がる男君らしくない手段…………いや、そういう遠慮を取っ払ったのが今の男君だ)
474 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/11/07(木) 23:25:31.43 ID:islyLKZY0
秘書「……。……。……」
秘書「とりあえずこれまでの会議の内容と急ぎ対抗戦力を集めるよう進言するため、私は一度商会に戻ろうと思います」
女(秘書さんが窓の外を眺めながら言った)
姫「はい。お願いします」
女「本当にありがとうございます!」
秘書「いえいえ、私に出来ることはこれくらいですから。それでは」
女(姫さんと私が礼を言うと、秘書さんはお辞儀をして執務室を出て行った)
475 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/11/07(木) 23:26:05.31 ID:islyLKZY0
姫「古参商会が全面的にバックアップしてくれるのはありがたいですね」
女「私たちが宝玉を順調に集められたのも、最初に商業都市で古参商会とのパイプが出来たおかげです」
姫「独裁都市としても復興にとても協力的で助かっていますね」
女「でも商売上がったりなのにそんな協力してもらって……何か悪い気もするね」
姫「まあそれこそが古参商会がここまで繁盛した本質なんでしょうけど」
女「……?」
姫「本来なら商会にとって今は絶好の稼ぎ時なんですよ」
姫「王国に武器を売って、不安になった周辺諸国にも武器を売って、緊張下で不足した物資を値段を釣り上げて売って……」
姫「お金を稼ぐだけならこんなにも楽なことはありません」
女「そっか古参商会も色々手広く商売しているから……」
姫「ですがそうやって一時的に儲ける代わりに顧客の不興を買えば、長期的に見るとマイナスになるに決まっています」
姫「商売に大事なのは信用。それを分かっているからこそ、この非常時に多くを助けるように活動しているんでしょう」
女「私たちに協力するのもその一環ってことか……なるほど」
女(古参商会の裏にある打算……とても暖かいものに触れて、私も嬉しくなる)
476 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/11/07(木) 23:26:44.52 ID:islyLKZY0
姫「とにかく早めに古参商会と連携を取れたのは助かりました」
姫「秘書さんを会議に呼んでくれてありがとうございます、女さん」
女「いえいえ、そんなこと。呼んだのは姫さんでしょう。こちらこそ助かりました」
姫「何言ってるんですか。秘書さんが女さんに誘われたって言ってたんですよ」
女「そちらこそ間違っています。姫さんに誘われたって言ってました」
姫「とにかく私は秘書さんに声をかけていません」
女「こっちこそ声をかけていません」
姫「………………」
女「………………」
二人「「………………?」」
女(二人とも首を傾げる)
女(この齟齬は……一体どういうことだろうか?)
477 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/11/07(木) 23:27:25.95 ID:islyLKZY0
姉御「何だい、何だい? 結局どっちが正しいんだ?」
気弱「ちなみに言っておくと僕たちも違いますよ。連絡を受けてこの独裁都市に急ぎ向かうので精一杯でしたから」
女(気弱君の補足)
女(誰も声をかけていないとしたら……秘書さんはこの会議のことをどこで知ったのか?)
女(どうして参加したのか?)
女(ちょうどそのとき執務室の扉がドンドンとノックされ、答える前に扉が開けられた)
古参会長「秘書!! 秘書はここにいるのか!!」
女(ドタバタと慌てた様子で入ってきたのは意外な人物。古参商会の長、古参会長だった)
女(商会の本部がある商業都市にいることが多いと聞いていたので、わざわざ独裁都市まで足を運ぶのが意外ということである)
478 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/11/07(木) 23:28:05.68 ID:islyLKZY0
姫「いつもお世話になっています。それにしても急な訪問ですね」
女(姫さんが立ち上がって一礼する。予定にない来客のようだが、復興の世話になっている恩もあって歓迎して当然だ)
女「秘書さんならさっきちょうど出て行って……あれ、タイミング的に鉢合っていると思ったけど」
古参会長「おぉ……良かった、良かった……! 秘書……生きておったのだな!!」
女(古参会長は感極まって涙まで流した)
女「……?」
女(事態がうまく飲み込めない。涙? 生きていて? でも……)
479 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/11/07(木) 23:28:50.17 ID:islyLKZY0
姫「ええと、事情を窺ってもいいですか?」
姫「思えば先ほどもノックに答える前に扉を開けるほど慌てていて……古参会長らしくない振る舞いでしたが」
古参会長「ああ、そうだな。説明すると……事の始まりは秘書が一週間ほど前から王国支部に視察に行っていたことからだな」
古参会長「四日ほど前から連絡が取れなくなって――王国で内戦が始まったからであろう」
古参会長「私はいてもたってもいられなくて、秘書の安否を確認しようと王国には入れないでも、周辺諸国で情報でも集めるためにこの辺りまでやってきて……」
古参会長「そしたら秘書がこの地にいると聞いてすっ飛んできたのだ」
女(この独裁都市はわりかし王国から近い位置にある)
女(思えば秘書さんは内戦に巻き込まれたと他人事のように語ったが、実際かなり危険だったということだ)
女(だからこうして古参会長も心配した)
女(なるほど…………と納得しそうになったが、そうなるとまた一つ疑問が浮かび上がる)
女(姫さんも同じ事を思ったようでそれを指摘する)
480 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/11/07(木) 23:29:21.64 ID:islyLKZY0
姫「おかしいですね……」
姫「秘書さんはこの状況をどうにかするためにも古参商会として私たちをバックアップすると言っていたので」
姫「既に会長には連絡を付けて話くらいはしているのだろうと思ったんですが」
古参会長「どういうことだ? もちろん協力をするのは吝かではないが……」
古参会長「秘書がそのような大事なことを私に相談せずに決めるとは思えん」
古参会長「あくまで私の秘書であって、商会の長ではないのだからな」
女(いくら古参会長が秘書さんのことを大事に思っていたとしても、そういう公私混同はしないだろう)
女「そもそも会長が心配していることを想像して、真っ先に連絡を取るはずだよね」
古参会長「そうだな、秘書はそこまで気を回せる人だ」
女(私の言葉も頷かれて……ますます分からなくなる)
481 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/11/07(木) 23:29:55.90 ID:islyLKZY0
女「………………」
女(私は思考する)
女(秘書さんが去ってようやく気付いた違和感の数々)
女(これが意味するものは……ただの勘違いで済ましていいのだろうか?)
女(いや、そういえば秘書さんは去る直前窓の外を見ていて…………………………)
女「……そっか。そういうことか」
姫「何か分かったんですか、女さん」
女「うん。姫さんも見ていたと思うけど、秘書さん執務室を去る直前、窓の外を見ていたでしょう?」
姫「そういえばそうでしたね。……って時間的に考えると秘書さんが見たのは」
女「古参会長がこの神殿にたどり着いたのを見たんだと思う。だからこの場から去った」
女(商会に報告をするためという理由は、ここまで連絡していないことを見るに嘘だろう)
482 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/11/07(木) 23:30:28.07 ID:islyLKZY0
古参会長「どうして私を見て去ったんだ?」
女「それは古参会長と出会えば、嘘が暴かれて自分が商会に連れ戻されることが分かっていたからです」
古参会長「……? 当然だろう、秘書は商会長である私の秘書だ」
古参会長「連れ戻すも何も、商会は帰ってくる場所だ」
女「ええ。ですがそれでは今の秘書さんは困るんですよ。だって――――」
女(私はその可能性を――早速打たれていた手を指摘する)
女「それでは命令を遂行出来なくなるじゃないですか」
483 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/11/07(木) 23:30:58.29 ID:islyLKZY0
姫「なっ……!?」
気弱「それは……」
姉御「なるほどねえ……既に一本取られていたってことかい」
女(会議で話していた三人はすぐにその意味を察知する)
女(秘書さんが王国にいたという時点で怪しむべきだったのだ)
女(王国にいる人のことを、そして彼女自身この異世界で二番目に魅了スキルをかけられたという事実を)
女「…………」
女(どうしよう、今からでも追ってその身柄を確保するべき?)
女(いや、秘書さんは商業都市で最初居酒屋にいたとき周囲に全く気づかれなかったほどの隠蔽スキルの持ち主だ)
女(だから古参会長に見つからずに神殿を出ることが出来た。今さら追ったところで捕らえられないだろう)
484 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/11/07(木) 23:31:32.04 ID:islyLKZY0
古参会長「命令とは……まさか王国を支配した者の正体は……」
古参会長「少年がそんなことをするはずがないと、嘘だと思っていたが――」
女(古参会長のところまではまだ情報の真偽について、確証高い物が届いていなかったようだ)
女(私はその人の名を呼ぶ)
女「はい。王国を支配した魔王、男君」
女「秘書さんはその手の内にいるんだと思います」
女(本気の意味をその身で思い知る)
女(想像していたよりも一手も二手も速い)
485 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/11/07(木) 23:32:08.43 ID:islyLKZY0
二日後、王国。
王都の中心、かつては王城と呼ばれ、現在は魔王城と呼ばれるその建物。
最上階に位置する謁見の間にて。
秘書「潜入調査してきた女さんたちの動向について報告します」
休み無く行軍して独裁都市から王都へと帰還した秘書は、現在の主の前で膝を付く。
486 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/11/07(木) 23:32:48.87 ID:islyLKZY0
男「ああ、聞かせてもらおう」
その主……男は座ったまま尊大な態度で先を促した。
487 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/11/07(木) 23:33:17.26 ID:islyLKZY0
続く。
男の魔王ムーブ開始。
488 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/11/08(金) 00:36:40.19 ID:vuG1KueMO
乙!
489 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/11/08(金) 00:49:53.28 ID:rqcnnoACo
乙ー
490 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/11/15(金) 06:09:08.81 ID:xVInREqC0
乙!
491 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/11/19(火) 00:22:11.88 ID:ZvONJyR/0
乙、ありがとうございます。
随分間が空いて申し訳ありません。
投下します。
492 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/11/19(火) 00:22:46.44 ID:ZvONJyR/0
女友(魔王城、謁見の間にて)
女友(女たちの動向を探っていた秘書さんの報告を、王座に座って聞く男さんの横で)
女友「はぁ……」
女友(私は周囲に気付かれないようにため息を吐きました)
女友(どうしてこんなことになったのか)
女友(一週間ほど前からずっと思っていることです)
493 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/11/19(火) 00:23:16.56 ID:ZvONJyR/0
女友(学術都市で駐留派と復活派の襲撃を退け、様子の変わった男さんによって女を一人置いて連れ立ち、そこからの日々はもう大変の一言で表せないほどでした)
女友(先に逆スパイとして潜入させていた近衛兵長さんの情報も使って、どうやって王国を転覆させるかを男さんは考え、命令して私たちに実行させる)
女友(裏で暗躍するのはもちろんのこと、男さんが持っている駒の内、魔導士の私は最強格の駒として戦闘にも参加させられる)
女友(王国の上層部はまあ世界征服なんて事を本気で考えている連中で腐っている人たちばかりでしたから、体制を破壊しても心こそ痛まなかったのは幸いでしょうか)
女友(そうして王国を制圧して少しは楽になるかと思えば、今度は内部の統治と外部への対応とさらに忙しくなって……もう本当に大変です)
494 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/11/19(火) 00:23:51.45 ID:ZvONJyR/0
女友(そんな折りに飛び込んできたのが、現在なされている帰還した秘書さんによる報告でした)
女友(数日前、王国の支配を完了する前から先を見越して男さんが女の動向を探るために、秘書さんに命令していたようです)
女友(古参会長がその場にやってきて、それ以上は嘘が露呈して調査の続行が不可能になると判断して帰還したようです)
女友(そのため報告されたものは対策会議における発言だけでしたが十分な収穫でした)
女友(男さんの言葉に惑わされていた女が、みんなの力も借りて前向きになり事態を解決しようとしている)
女友(久しく聞いていなかった親友の様子に、つい私は涙腺が緩みそうになりました)
秘書「報告は以上です。失礼します」
女友(さて報告を終えた秘書さんを下がらせて、謁見の間に残ったのは三人です)
女友(王座に座る男さん、その左に立つ私と、右に立つのは――)
495 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/11/19(火) 00:24:22.43 ID:ZvONJyR/0
女友「それにしても未だにあなたが殊勝に協力していることが信じられません」
近衛兵長「今さらだな。そろそろ信用してくれていると思ったが」
女友(王国のスパイにして、元独裁都市の近衛兵長です)
女友(聖騎士の職を持つ彼女は、強さこそ私と同等のためこうして並び立つのもおかしくはないと言えますが……)
女友「あなたは王国に忠誠を誓っていたじゃないですか」
女友「王国を転覆させた私たちに従っているのはおかしなことです。魅了スキルの命令でも心までは操れませんし」
近衛兵長「それなら簡単なことだ」
近衛兵長「私も終わってから気付いたが、忠誠を誓っていたのは王国というとてつもない力に対してだったようだ」
近衛兵長「ならばそれ以上の力を持つ新たな主に従うのは自明のこと」
女友(そんな理屈で近衛兵長は現在男さんに忠誠を誓っている)
女友(腹の内で本当はどのように思っているのかは分からないですけど)
496 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/11/19(火) 00:25:08.15 ID:ZvONJyR/0
女友(まあ今それは置いといていいでしょう)
女友(気にするべきは先ほどの報告。私たちへの対策会議とやらは、秘書さんによって一言一句逃さず報告されました)
女友(それは男さんが未だに女のことが好きであるだろうということ)
女友(女が告白の返事を聞くために魔王城に乗り込むという言葉もです)
女友「………………」
女友(あの日、『囁き』がかかってから男さんは己の感情を全く表に出すことが無くなりました)
女友(表情はいつも能面のように無で、口を開くのは命令をするときくらいです)
女友(とはいえ流石にこの報告を聞いて何も思わないはずがありません。私でさえ少し顔が赤くなりましたし)
女友(久しぶりに今までの男さんらしい様子が見れると期待して)
497 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/11/19(火) 00:25:34.46 ID:ZvONJyR/0
男「想定の範囲内だな」
女友(一言、つまらなさそうに言った男さんに裏切られました)
女友「…………っ!」
女友(どういうつもりですか!)
女友(反射的にかけようとした言葉が音になることはありませんでした)
女友(自由に動いているように見えて、私は今も魅了スキルの虜となった身)
女友(命令によって男さんの胸の内を問いただすことや説き伏せようとすることを禁じられています)
女友(命令までしてそんなに自分が言い負かされるのが怖いんですか…………という言葉を発することも、今の私には出来ないのです)
498 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/11/19(火) 00:26:07.82 ID:ZvONJyR/0
近衛兵長「あのとき戦った竜闘士か」
女友(近衛兵長は偽りの結婚式の際、助けに入った女と一戦交えています)
近衛兵長「個人としても伝説級の力を持つ竜闘士に、大陸最大の古参商会と着々と力を取り戻しつつある独裁都市のバックアップ」
近衛兵長「王国にとって最大の反抗勢力となると思うが、どうする我が主よ」
男「対処法は考えている。おまえが心配することじゃない」
近衛兵長「これは失礼、承知した」
女友(男さんの厳しい言葉にも近衛兵長は動じた様子はありません)
499 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/11/19(火) 00:26:34.70 ID:ZvONJyR/0
男「女……やはりおとなしくはしてくれないか」
男「まあいい布石は……秘書によって嘘の情報も流させた」
女友(男さんが漏らしたつぶやき)
女友(秘書さんに流させた嘘の情報……確かに報告された会議の様子で私も一つ気になるところがありましたが……しかしあんな嘘を吐かせて何になるというんでしょうか……?)
500 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/11/19(火) 00:27:09.06 ID:ZvONJyR/0
女友「………………」
女友(分かりませんが……私も覚悟を決めました)
女友(男さんに今まで協力していたのはもちろん命令で強制されていたというのもありますが、私が協力しなければ途中で死んでもおかしくないくらい無謀なことをしでかしていたからです)
女友(様子が違っていても仲間を、親友の好きな人を死なせるわけには行かせませんから)
女友(正直なことを言うと、現在の男さんの目的は分かりません)
女友(ただ宝玉を集めて元の世界に戻る……それだけで無いことは確かです)
女友(だって私たちの手元には今までの旅で集めてきた宝玉六個があります)
女友(元の世界に戻るためには八個必要なので残りは二個)
女友(それを集めるだけならこのように王国を支配するのは大がかりすぎます)
女友(適当に宝玉のある地を二つ訪れて、魅了スキルを駆使して宝玉を手に入れる方が楽です)
女友(ですからおそらく男さんは宝玉を八個以上手に入れたいのだと……それが私の読みです)
501 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/11/19(火) 00:28:03.22 ID:ZvONJyR/0
女友(その先に何を見ているのかは分かりませんがもう付き合いきれません)
女友(王国の支配も盤石となってきた今、私の協力ももう必要ないでしょう)
女友(ここから脱出して女たちと合流する)
女友(もちろんそのようなことは魅了スキルの命令で禁止されています)
女友(ですけどね、男さん。あなたの命令を一番聞いてきたのは誰だと思っているんですか?)
女友(何度も命令無視する姿を見せた私には警戒されて今まで以上に雁字搦めな命令をされていますが……)
女友(それでも抜け道はありますから)
502 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/11/19(火) 00:28:35.22 ID:ZvONJyR/0
女友(私が決意を新たにしていると男さんは次の事を考えていました)
男「もう一つ対処しないといけないことがある。復活派だ」
男「今朝各地に張り巡らさせた諜報員から、やつらと思しき二人組に宝玉を奪われたと報告があった」
女友「復活派……ですか?」
女友(私の口から純粋な疑問が漏れます)
女友(魔神復活派。その目的は名前の通り魔神の復活です)
女友魔神の固有スキルである『囁き』。男さん一人にかかっただけでこんな大惨事を引き起こして……いや、男さんだからこそとも言えますが……とにかく魔神が復活すればこれ以上の事態になることは容易に想像が付きます)
女友(しかし太古の昔に虚無の世界へと飛ばされた魔神を呼び戻すには宝玉が十二個も必要です)
女友(学術都市で駐留派に協力したことから、復活派の所持している宝玉は七個)
女友(新たに一個入手したところでまだ状況は変わらないはず)
503 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/11/19(火) 00:29:11.42 ID:ZvONJyR/0
男「やつらの最終目的は魔神復活。だが当面必要な宝玉は八個のはずだ」
女友「……え?」
女友(私の思考を読んだかのような男さんの言葉)
女友(どういうことでしょうか? 復活派も私たちと同じ八個必要?)
女友(宝玉八個で出来ることは指定した世界に多数の存在が通れるゲートを開くことです)
女友(そんなことをして復活派に何の得が…………)
504 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/11/19(火) 00:30:39.32 ID:ZvONJyR/0
女友「まさか……」
男「復活派の魔族。太古の昔、この世界に一人残った『魔族』で……別の世界にはやつと同じような『魔族』がたくさんいる」
男「それも種族特性として、各々が固有スキルを持っているわけだ」
女友「…………」
男「それらを呼び出して集団となりこの世界を蹂躙して、宝玉を奪い今度こそ魔神を復活させる。これが俺の読みだ」
男「いくら王国の勢力が巨大とはいえ、固有スキル持ちを複数人も相手にするのは面倒」
男「だから――俺が出る」
505 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/11/19(火) 00:31:27.91 ID:ZvONJyR/0
女友(私たち支配派のブレインであり、魅了スキルにより支配を維持する要)
女友(万が一でさえあってはならない存在。であるからこそ王国に侵攻して以来、男さんは裏方に徹してきました)
女友(そんな男さんが直接出るほどの事態)
男「近衛兵長、おまえと何人かを連れて護衛しろ」
近衛兵長「はっ!」
女友(近衛兵長は異を唱えることもなくその命令に従います)
女友(近衛兵長の名前だけが呼ばれたということは……私は留守番をしろということでしょうか?)
女友(まあトップが不在なのもマズいですし、せめて私を残しておくと)
女友(だとしたらこれはチャンスです)
女友(男さんがいない間に何としてでも命令を破って女たちと合流して――――)
506 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/11/19(火) 00:31:56.14 ID:ZvONJyR/0
男「ああそうだ。女友、おまえにも命令がある」
女友「……何ですか?」
男「おまえの手で女たちを潰せ」
507 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/11/19(火) 00:32:22.83 ID:ZvONJyR/0
魔王君臨事件から数日。
世界は落ち着くことなく、新たな騒動に巻き込まれていく。
508 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/11/19(火) 00:32:52.52 ID:ZvONJyR/0
続く。
次の更新もまた間が空くと思います。
509 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/11/19(火) 00:57:20.29 ID:BZfwLeq+O
乙!
510 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/11/19(火) 10:45:03.81 ID:mv/Fa6YBo
乙ー
511 :
◆YySYGxxFkU
[saga sage]:2019/12/02(月) 18:10:16.56 ID:uU+NetVho
ご無沙汰しております。
期間が空いてきたので途中報告です。
最近リアルが忙しいのと、次が傭兵と魔族の過去編でぶつ切り投稿も良くないなーと書き溜めしている関係で投稿が滞っています。
もうしばらくお待ちくださいm(_ _)m
512 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/12/02(月) 21:52:40.57 ID:72y1DTblO
待っとるよー
513 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/12/03(火) 00:22:22.79 ID:FWiw1gO/O
待ってるぜ!
514 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/12/03(火) 05:57:24.03 ID:kMNIMDbs0
舞ってる
515 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/12/18(水) 00:28:31.99 ID:egRl8SK90
お久しぶりです。
長い間待たせて申し訳ありません。
投下します。
516 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/12/18(水) 00:29:23.89 ID:egRl8SK90
復活派の魔族は思い返す。
太古の昔の記憶を。
魔族(種族としての魔族は元々この世界の住人ではない。魔界と呼んでいる世界の住人だ)
魔族(なのにどうしてこの世界にいるのかというと、酔狂な人間により宝玉を使って呼び出されたのが始まりだったと聞いている)
魔族(その人間には復讐したい者がいたそうだ)
魔族(同じ町に住む者に恋人を奪われたとか、そんなどうでもいい理由らしい)
魔族(そのために固有スキルと強大な魔力を持つ魔族の集団を呼び出した)
517 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/12/18(水) 00:29:50.87 ID:egRl8SK90
魔族(復讐は成った)
魔族(町一つ、魔族を呼び出した者も含めて全て滅ぶという形で)
モブ魔族「ははっ、何だ! この人間とかいう弱っちい種族はよっ!」
魔族(人間と魔族の力には圧倒的な差があった)
魔族(後に魔神と呼ばれる存在と出会ったことを契機に、魔族は欲望のままにこの世界にて破壊の限りを尽くし始めた)
魔族(それを止める者はいない……と思われていた)
魔族(しかし、人間は後に女神と呼ばれる存在を中心に団結した)
魔族(人間にあって魔族にないアドバンテージ、数により魔族は徐々に劣勢に陥る)
魔族(そして奉っていた魔神様が人間たちに封印されたことで敗走する羽目となった)
518 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/12/18(水) 00:30:24.58 ID:egRl8SK90
モブ魔族「ちっ……人間どもめ……!」
魔族(木々生い茂る森の中を駆け抜けながら誰かが舌打ちした)
魔族(ここも既に包囲されている。生き残るための手段は一つだけ)
魔族(集めておいた宝玉8つを使い、ゲートを開いて魔界に戻ることだった)
魔族(しかし、そうなればこの世界に二度と戻ることは出来ない)
魔族(魔界は世界を渡る手段もないほどに荒廃した世界だったから)
魔族(もう一度この世界に召喚されるような偶然が起きるとも思えない)
魔族(この世界への未練と生存することが両天秤に乗る)
魔族(そしてまた生存することを選んだ場合にも一つ問題があった)
魔族(この数が通る場合、宝玉八つを使ったゲートの容量では足りない)
魔族(おそらく一人はこの世界に残らないといけなくなると)
519 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/12/18(水) 00:30:52.71 ID:egRl8SK90
魔族(ではその一人をどうするか? 争って誰か蹴落とすとでもいうのか)
魔族(危機が迫る中、内部分裂している場合じゃないと誰もが分かっているが解決策は出てこない)
魔族(緊張感を持ってそれぞれが迷う中、私は手を挙げた)
魔族「私がこの世界に残ります! そしていつの日か必ず姉様たちをこの世界に呼び戻します!」
姉魔族「そうか……おまえがいたか」
魔族(答えたのは姉様。この魔族集団のリーダーにして、血のつながりこそないものの私が姉のように慕っていた人)
魔族(偶然異世界召喚に巻き込まれて、右も左も分からない幼い私に色々と教えてくれた人)
魔族「私一人なら『変身』を使って人間に紛れてこの窮地も脱せるはずです!」
姉魔族「ああそうだな。何とも都合が良い。私たちの使命は分かっているな」
魔族「はい! 魔族の使命は世界滅亡です!」
姉魔族「…………ははっ、では頼んだぞ」
520 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/12/18(水) 00:31:22.70 ID:egRl8SK90
魔族(その後姉様たちはゲートを開き、魔界へと戻って行った)
魔族(私は変身を使い人間へと化けて包囲網を何とか脱出)
魔族(そこまでは上手く行って……そこからが大変だった)
魔族(魔神様を封印した集団が女神教なるものを興し、『災い』の驚異の伝承や宝玉の分割保管を進めたからだ)
魔族(伝承により魔族はどこに行っても警戒されて、分割により物理的に集めるのが難しくなった)
魔族(私は途方に暮れた。しかし、諦めるという選択肢は無かった)
魔族(姉様に教えられた魔族の使命『世界滅亡』を果たすためにも)
魔族(姉様の期待に応えるためにも)
521 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/12/18(水) 00:31:49.68 ID:egRl8SK90
魔族(だから『変身』を使って一つ一つ出来ることをやっていった)
魔族(女神教の信仰を落とすために高名な人に化けて不祥事を働き女神教の信仰を落として、『災い』も魔族の存在も何もかもが風化した現代)
魔族(ようやく宝玉の収集、本命に取りかかれると…………その思いが気の緩みを招いたのだろうか)
魔族(一年ほど前)
魔族(私は一人、王国領の森を駆けていた。追っ手から逃げるために)
魔族「マズったな……」
魔族(現代で動くに当たって避けられない相手。大陸最大勢力の王国)
魔族(その状況を見極めるために忍び込んで……予想以上の警戒により侵入がバレてしまった)
522 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/12/18(水) 00:32:16.94 ID:egRl8SK90
魔族(どんな看破スキルでも見破れない『変身』にも二つの弱点がある)
魔族(それは一回姿を変えるごとに魔力を多く消費すること)
魔族(もう一つは化けた姿のステータスそのものになることだ)
魔族(兵士の詰め所に侵入していた私はそこから脱出するために何度も変身を使ったため魔力がもう無くなっていて)
魔族(兵の油断を誘うために変身した村娘の姿から戻ることが出来なくなっていた)
魔族(運動能力が低く、このままでは追ってくる兵士に捕まってしまう)
兵士「見つけたぞ! 怪しいやつめ!!」
魔族(その懸念は現実となり、森の中で私は王国の兵士たちに囲まれてしまった)
兵士「ほ、本当にこの村娘が侵入者なのですか?」
兵長「警戒を怠るな! 姿を発見して以来、こやつは何度も姿を変えている! おそらく化け物の類だ!」
兵士「了解しました!」
魔族(日和った様子の兵士も兵長の檄に立て直す。どうやら演技をしても無駄だろう)
523 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/12/18(水) 00:33:06.01 ID:egRl8SK90
魔族(森の中、人間に囲まれる。太古の昔を思い出すシチュエーション)
魔族(しかし私は一人で、『変身』も通じないと来ている)
魔族(後少しだったが……ここまでか)
魔族(太古の昔生き延びてから、ずっと使命を『世界滅亡』を果たすことだけを考えてきた)
魔族(だが私の力ではあと一歩足りなかった)
魔族(仕方ない、諦めよう)
魔族「誰か……助けてください!!」
魔族(そう覚悟を決めていたから、次の瞬間発せられた言葉が自分の口からであることに気付くのに時間がかかった)
魔族(助けて……私はそう言ったのか?)
魔族(何とも往生際の悪い言葉だろうか)
魔族(私は魔族。この人間の世界における異分子)
魔族(世界全てが敵)
魔族(分かっていたから太古の昔よりずっと一人で活動してきたのだ)
魔族(だというのに……どうして助けを呼んだ?)
魔族(誰かが魔族の私を助けると思ったのか?)
魔族(私は……本当は誰かに助けてもらいたかったというのか?)
524 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/12/18(水) 00:33:38.44 ID:egRl8SK90
兵長「確保………………ぐはっ!!」
魔族(迷いを押しつぶすように兵長の号令によって兵士が私に殺到して…………次の瞬間その全てが吹き飛んだ)
魔族「え……?」
魔族(何が起きたのか分からなかった)
魔族(私が何かをしたわけではない。未だ魔力は枯渇し力の無い村娘の姿のまま無様に地べたに座り込んでいるだけだ)
魔族(だからそれを為した人間は空から降りてきた)
傭兵「助けるつもりは無かったのだが…………」
魔族(竜の翼をはためかせ着地する)
魔族(その姿には見覚えがあった)
魔族(人間社会の隅で生活する私でさえ存在を知るその人)
魔族(先の大戦を終結させた英雄)
傭兵「そうだな……大丈夫か?」
魔族(魔族の私に人間の手が差し伸べられる)
魔族(これが私と伝説の傭兵の初邂逅であった)
525 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/12/18(水) 00:34:04.35 ID:egRl8SK90
魔族(私と傭兵は更なる追っ手を警戒してすぐにその場を離れた)
魔族(落ち着ける場所にたどり着いたところで傭兵が口を開く)
傭兵「君はどうして兵士たちに襲われていた?」
魔族(当然の疑問であった)
魔族(それを予想して既に返答は考えてある)
魔族「それが……分からないんです。急に襲われて……」
魔族(私の現在の姿は普通の村娘である)
魔族(何か派手な言い訳をするよりも巻き込まれたとする方が信じられやすいだろう)
526 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/12/18(水) 00:34:33.08 ID:egRl8SK90
傭兵「……そうか」
魔族(傭兵は頷く。それが本心なのか、ポーズからなのかは表情から全く読みとれない)
魔族「………………」
魔族(一難去って、また一難といったところか)
魔族(未だ枯渇した魔力は回復しない。『変身』で元の姿に戻ることが出来ない以上、この戦闘力0の村娘の姿を続けるしかない)
魔族(だが魔族としての力を取り戻したとしても、目の前の男に敵うとは思えなかった)
魔族(伝説の傭兵……話には聞いていたが、実際相対してみると想像以上に凄まじい力を感じる)
魔族(だからといってすぐにこの男の側を離れるのも良くない)
魔族(この森には魔物が出るため今の状態で襲われてはひとたまりもないからだ)
魔族(魔力が回復するまでの間、この男に怪しまれないように過ごすしかない)
魔族(とにかく絶対に正体がバレてはいけない。魔族だと……世界の敵だとバレた瞬間、私はそこで終わりだ)
527 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/12/18(水) 00:35:03.49 ID:egRl8SK90
傭兵「ところで君はどこに住んでいるんだ?」
魔族「あ、えっと近くの村に住んで……といっても、逃げている間に森の深いところまで来てしまったんですけど……」
傭兵「そうだな……辺りが暗くなってきた。今日はこれ以上動くのは危険だろう」
傭兵「今夜は野宿して、明日の朝村まで送り届ける。それでいいか?」
魔族「助けてもらう立場で文句なんてありません」
傭兵「……分かった」
魔族(傭兵から渡りの船の提案。明日の朝なら魔力も回復しているだろう。となれば今夜凌ぎさえすればいい)
魔族(それから二人でたき火を囲み、傭兵の取り出した食料を分けてもらい夕食を取る)
魔族(意外というか傭兵はイメージとは違って、その間も黙ることなく私と会話を続けていた)
528 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/12/18(水) 00:35:42.49 ID:egRl8SK90
傭兵「そうだ、君は王国の司令について知っているか」
魔族「えっと軍のトップですよね?」
傭兵「ああ。私は大戦の時に王国に付いていたから彼を知っているんだが」
魔族「え、そうなんですか!? その勇ましさから民からも支持も高い有名人と!?」
傭兵「勇ましい……か」
魔族「違うんですか?」
傭兵「まああいつが絶対に話す訳ないか。初陣の時敵にビビって、小便を漏らしたことなんて」
魔族「ええー!? そんな一面があったんですか!?」
魔族(取り留めもない話題で盛り上がる)
魔族「………………」
魔族(一体何をしているんだろうか?)
魔族(内心で自問する)
魔族(自分の反応は考えてやっていることではない)
魔族(これまでも『変身』を駆使し人間社会に溶け込んでいた経験から、化けた姿でどう振る舞うべきかはもう骨身に染みついた動きだ)
魔族(バレたらマズい状況であるというのに、端から見れば楽しんでいるような状況に、一番歯噛みしたいのは自分自身である)
529 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/12/18(水) 00:36:08.73 ID:egRl8SK90
魔族「こんな私なんかの話を聞いて面白いんですか?」
魔族(会話が一段落したところで、私は自然とそんなことを聞いていた)
魔族(別に事情に踏み込みたい訳ではないが、逆に聞かなければ不自然といった雰囲気になってしまったからだ)
傭兵「……ああ」
魔族「どうしてですか?」
傭兵「そうだな……人と会話すること自体が久しぶりだからだろうか」
魔族「人と会話を……えっともしかして、大戦の後しばらく行方不明だったことと関係して……」
傭兵「………………」
魔族「あ、ごめんなさい」
魔族(傭兵は口を噤むが、実のところ噂レベルであれば話を聞いたことがある)
魔族(大戦を終えて王国から何らかの勧誘を受けた)
魔族(それを突っぱねた結果、故郷が報復として焼き落とされたと)
魔族(王国に目を付けられては表舞台に出るのも難しい)
魔族(またその知名度から正体がバレればすぐに騒ぎになる)
魔族(だから人目に付かないように細々と……大戦が終わって数年も経つのにその間もずっと……この男『も』一人で生きてきたのだろう)
530 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/12/18(水) 00:36:38.94 ID:egRl8SK90
魔族「………………」
魔族(だからどうした)
魔族(情に絆されるな)
魔族(仲間だと思うな)
魔族(私も彼も同じような境遇なのかもしれない)
魔族(だからといって手を取り合えるというわけではないのだ)
魔族(彼は人間で、私は魔族だ。種族の隔たりは厳として存在して、その正体がバレては排除されるに決まって――)
531 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/12/18(水) 00:37:06.62 ID:egRl8SK90
傭兵「さて……そろそろはっきりさせよう。君が姿を偽り何をしていたのかを」
魔族「……!?」
魔族(先ほどまでの雰囲気は霧散していた)
魔族(全てを見通すような視線が我が身に突き刺さる)
魔族(数多の戦場を制圧してきた英雄の油断も隙もない佇まい)
魔族「な、何を言っているんですか?」
魔族(そのプレッシャーに屈しそうになりながらも、どうにか言葉を絞り出す)
532 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/12/18(水) 00:37:43.35 ID:egRl8SK90
傭兵「勝手ながら『鑑定』スキルでステータスを確認させてもらった」
傭兵「何の変哲もない数値で……だからこそおかしい。君からは戦場の雰囲気が感じ取れる」
魔族「……そんな勘違いですよ! いやですねえ、傭兵さんも冗談が上手で……」
傭兵「とぼけ続けても構わない」
傭兵「世間は私を大戦を早期に終わらせた英雄、ともすれば聖人のように語るが……別にそのようなことはない」
傭兵「その活躍と比べて数は少ないだろうが……誰も殺さなかったわけではないからだ」
魔族「………………」
傭兵「元々君だって助けるつもりはなかった」
傭兵「今さらこんなことで王国を敵に回すなんて馬鹿げている」
傭兵「……白状しないならば、今からでも君を先ほどの兵士の詰め所に引き渡す」
傭兵「そこで君がどのような目に遭おうが私の知るところではない」
533 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/12/18(水) 00:38:43.21 ID:egRl8SK90
魔族(冷徹な宣告)
魔族(それには誇張も嘘も含まれておらず、言うとおりにしなければ実行するという確信を私に抱かせた)
魔族(故に私に出来るのは)
魔族「『変身』解除」
魔族(戻ってきた魔力を使いスキルを発動することだけだった)
魔族(元の魔族の姿に戻るが、これでまた魔力が空になったため魔法一つ使うことすら出来ない。無力なのは一緒のままだ)
傭兵「その姿……頭に生えた角は……」
魔族(呟く傭兵からは僅かに動揺が感じられた。失われた伝承にしかない魔族の姿を見たからだろうか9
魔族「『変身』を見破られたのは初めてのことだ」
魔族「流石は伝説の傭兵といったところか」
魔族「私は魔族。太古の昔より生き、この世界の滅亡を使命としている」
534 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/12/18(水) 00:39:12.60 ID:egRl8SK90
魔族「さあ、やるならさっさとやれ」
魔族(私は身体から力を抜き覚悟を決めた)
魔族(『変身』を見破られた時点で私は詰んでいたのだ)
魔族(正体を明かさねば怪しいやつだと誅され、明かせば魔族として人類の敵として殺される)
魔族(この男、伝説の傭兵に会った時点で運の尽きだった)
魔族(しかし)
傭兵「私の要求を聞いていなかったのか?」
魔族「は?」
傭兵「君がすることは覚悟する事ではない。何をしていたのか説明することだ」
魔族「……どうせ話した後で殺すつもりだろう。面倒だ」
傭兵「そうか……ならば話せば命の保証はしてやる」
535 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/12/18(水) 00:39:38.83 ID:egRl8SK90
魔族(傭兵からの提案)
魔族(真っ先に思ったのは『どうせ嘘だろう』だった)
魔族(だとしても1%でも可能性があるならば、私は諦めるわけには行かない)
魔族「話せばいいんだな?」
傭兵「ああ。言っておくが経緯・発端も含めてだ」
傭兵「そうだな、君が本当に伝承の魔族であるならば、太古の昔から現在に至るまでも語ってもらおうか」
魔族「……本気か? どれだけ長くなると思っている」
傭兵「本気だとも。幸いにもまだ夜は長い」
魔族(奇妙な話になった)
魔族(傭兵はどうして私の事情を聞きたがるのだろうか?)
魔族(分からないが……やると決めたことだ)
魔族「いいだろう、ならば『災い』から現在に至るまでを話してやる」
536 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/12/18(水) 00:40:51.20 ID:egRl8SK90
魔族(そのまま太古の昔からこれまでにやってきたこと、その果てにある使命『世界滅亡』についても伝説の傭兵に語った)
魔族(それは私にとって初めてのことだった)
魔族(使命のためにずっと前へ前へと進んできた私が過去を振り返ることも)
魔族(一人で世界相手に戦ってきた私が誰かに胸の内を打ち明けることも)
魔族(傭兵は時折相槌を打ちながら話を聞いていた)
魔族(全て話し終えたのは何時間も後、夜も終わりかけて、空が白み始めた頃だった)
傭兵「なるほどな」
魔族(傭兵は静かに頷く)
537 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/12/18(水) 00:41:20.70 ID:egRl8SK90
魔族「これで全てだ。満足したか?」
魔族(寝ずにずっと話していたのだ、流石に疲労感が漂う)
魔族(しかし、私の内にはそれ以上に充足感であった)
魔族(満足したというのか……どうして?)
魔族(ずっとずっと一人で戦ってきた。それが当然だった)
魔族(別に苦に思うことも無かった)
魔族(だが、それは錯覚で……本当はこの思いを誰かと分かち合いたかったのだろうか?)
魔族「………………」
魔族(駄目だ、調子が狂う)
魔族(何が悪いのか、目の前の男だ)
傭兵「ふむ……」
魔族(今を持って何を考えているのかよく分からない、この男のせいだ)
538 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/12/18(水) 00:41:47.80 ID:egRl8SK90
魔族「本当にここまで長話をさせおって……まあいい」
魔族「約束は果たした。これで命は保証されるんだろうな?」
魔族(やれやれと呆れた雰囲気を出しながら、実のところ傭兵の動きに意識を集中させていた)
魔族(話している間に魔力もある程度回復した)
魔族(万全には程遠い状態だが、どうせ万全でもこの男には敵わない以上関係ない)
魔族(約束を反故にしてこちらを襲う動きを見せたなら徹底的に抗うつもりだった)
魔族(逃げの一手に全力を注げばどうにか……)
傭兵「……ああ、そういえばそんな約束だったな」
傭兵「魔力も戻っただろうし、付近の魔物も一人で十分対処できるだろう」
傭兵「どこへでも行け」
魔族(だが、傭兵の反応は予測に無いもの)
魔族(上の空のまましっしっと追い払うように手を振ったのだ)
539 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/12/18(水) 00:42:22.94 ID:egRl8SK90
魔族「………………」
魔族(こちらの魔力の回復に気付いているほどだ。抜けているわけではない)
魔族(だったら何を考えて上の空なのか)
魔族(分からないが絶好のチャンスだ。この隙におさらばして――)
魔族「本当にいいのか?」
魔族(気付けば口が開いていた)
傭兵「……何が?」
魔族「私は使命を語った。世界を滅亡させると言ったのだぞ」
傭兵「…………」
魔族「ならばそれを防ぐことが普通だ。そのための力もおまえなら持っている。なのにどうして見逃す?」
魔族(余計なことを言った。なのに口は止まらない)
魔族(思い直してしまったら私は終わる。なのにどうして)
540 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/12/18(水) 00:43:16.69 ID:egRl8SK90
傭兵「そうだな……それが普通の反応なのだろう」
魔族「…………」
傭兵「だが生憎私は世界の行く末に興味など無い」
傭兵「……いや、それどころかこんな世界など滅んだ方がいいとも思っている」
傭兵「だから君のすることに口を出すつもりはない」
魔族「そうか」
傭兵「もっとも私一人程度に敵わないような者に世界を滅ぼせるのかは疑問だがな」
魔族「……はあ?」
魔族(奇特な人間だと思いながらも頷いていたら、付け足すように心外な発言が飛び出した)
541 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/12/18(水) 00:49:15.03 ID:egRl8SK90
傭兵「悪いことは言わない、使命など忘れて静かに生きた方がいいぞ」
魔族「馬鹿にするな! 世界滅亡は魔族の悲願だ!」
魔族「私はそのために今まで生きてきたんだ!! それを捨てろだと!?」
傭兵「ふむ。だが……いや、これも絶好の……そうか」
魔族(こちらを慈しむように、圧倒的上から目線のまま傭兵は)
傭兵「ならばその使命、私も手伝おう」
魔族「貴様、それは本気で言っているのか?」
傭兵「本気だとも」
魔族「今さっき使命を忘れろと言ったばかりだろうが」
傭兵「だが忘れるつもりはないのだろ? このまま死なれては寝覚めが悪い、それくらいなら私が側にいた方がいいという判断だ」
魔族「………………」
傭兵「安心しろ。協力する振りして邪魔をすることなどはしない。先ほど述べた世界など滅亡するべきだという言葉は本心だしな」
魔族「………………」
傭兵「………………」
魔族「嘘は吐いていないんだろう。……だが気に食わん、拒否する」
傭兵「残念だが私より弱い君に拒否権はない」
魔族「ちっ……」
傭兵「分かったな?」
魔族「……仕方がない。いいだろう、だが邪魔をしたら承知しないぞ」
542 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/12/18(水) 00:49:44.88 ID:egRl8SK90
魔族(それから私は傭兵と行動を共にした)
魔族(最初こそどういう意図か分からず警戒したが、傭兵に妨害の意志はなく、それどころか私の命令全てに従った)
傭兵『傭兵として主の命令に答えるのは当然だ』
魔族(とは傭兵の意見だが、いつの間に私が主になったというのか)
魔族(しかしながらやつがこちらを主として行動を続けた結果、こっちも主として振る舞うようになってしまった)
魔族(宝玉集めは順調だった)
魔族(最強の武力による力押しと『変身』による搦め手)
魔族(女神教の教えも絶えて邪魔をする者も……いなかったのは最初だけで、途中から女神の遣いを称する召喚者に邪魔されることとなったが……)
魔族(それでも使命達成のための第一段階には到達した)
543 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/12/18(水) 00:50:12.39 ID:egRl8SK90
<現在>
魔族(帰還派の一人、あの忌々しい女神の力『魅了』を継いだ少年による王国の乗っ取り)
魔族(それによって大陸全土が混乱する最中を狙い手に入れたもの)
魔族「これで宝玉も八個目だ」
魔族(人里から離れた場所にある洞窟。今回の行動の拠点としていたその場所まで戻り戦果を確認していた)
傭兵「今回は拍子抜けするほど楽だったな、魔族」
魔族「ああ。これもあの少年が起こした騒ぎのおかげだ。敵である私たちに利してしまったとは思ってもいまい」
傭兵「…………」
魔族「どうした、傭兵」
傭兵「いや、どうして少年が今回のような行動を取ったのか気になってだな」
魔族「そういえば学術都市では接触して直接やりとりしたと言っていたな」
傭兵「こんな大それたことをするとも出来るとも思え…………いや、力だけならば可能か」
魔族「そうだな。話によると王国を陥落させたのもあの『魅了』の力を駆使してとのことだ」
傭兵「ならばその精神に何らかの…………」
魔族「気にしても仕方あるまい。それよりも今回の収穫の方が大事だ」
544 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/12/18(水) 00:50:43.93 ID:egRl8SK90
魔族(改めて宝玉を眺める)
魔族(魔神様を復活させるためには12個必要)
魔族(そのため他の勢力は私たちが12個集めようとしているという勘違いの隙を狙っていた)
魔族(八個。これだけあればかなりの規模のゲートを開くことが出来る)
魔族(姉様たち全員を呼び戻すことも可能なはずだ)
傭兵「早速呼び出すのか?」
魔族(傭兵が問う)
魔族(当然ながら傭兵も姉様たちを呼び出す計画のことは知っている)
魔族「『災い』の起きた太古の昔より幾久しい時が経った。これ以上待たせるのも忍びないだろう」
傭兵「そうか……予定外だったが事が楽に運んだおかげで力も存分に残している。いいだろう」
魔族「……?」
魔族(力を残す……? 傭兵が何を懸念しているのかは分からないが……まあいい)
魔族(この男は時折私にも分からない振る舞いを見せる)
魔族(そのときに限ってはいくら命令をしてもその意図を明かしたりしない)
魔族(つまり気にしてもキリがないだけだ)
545 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/12/18(水) 00:51:13.13 ID:egRl8SK90
魔族(洞窟の奥、だだ広い空間に場所を移す)
魔族(これから姉様たちが出てきても大丈夫なスペースを確保してから作業に取りかかる)
魔族(宝玉八個を一カ所にまとめると中の魔法陣の輝きを増し始める)
魔族(それに手を置いてイメージする)
魔族(繋ぐべき世界、呼び出す者)
魔族(そして――)
魔族「ゲート開放!!」
魔族(その宣言した瞬間、薄暗かった洞窟内が目映い光で溢れた)
魔族(目を閉じるだけでは足りずに顔を伏せて光をやり過ごす)
魔族(凄まじい魔力の奔流が収まると共に、明るさも落ち着き始める)
546 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/12/18(水) 00:53:24.40 ID:egRl8SK90
魔族(目を開けて最初に目に入ったのは力を失った宝玉だった)
魔族(中の魔法陣が消えて、ただの青い宝石のような見た目になっている)
魔族(徐々に目線を上げて、そこにいたのは)
魔族「姉様……」
魔族(太古の昔に離ればなれとなったとき以来だが、そのときと姿は全く変わらなかった)
魔族(魔族の証としての巻き角、褐色の肌。私よりずっと自身に満ちあふれている顔つきの姉様)
魔族(他にも男性と女性が半々の魔族十数人、あの日ゲートの向こう側へと消えていったその全員を呼び戻すことに成功した)
魔族(その一人一人が最強級の使い手である。これだけの戦力があれば人間たち相手に力押しする選択肢を取ることも可能だろう)
姉魔族「これは……ん?」
魔族(突然召喚されたことに状況がつかめない様子だった姉様がようやくこちらに気付いた)
魔族「………………」
魔族(何と言われるだろうか?)
魔族(姉様に教えてもらった使命を果たすためこれまで頑張ってきたことを賞賛されるか)
魔族(それとも呼び戻すのに時間がかかったことを叱責されるだろうか)
魔族(気にすることなく、魔神を呼び戻すための行動に移るように言われるか)
魔族(何が来てもいいように私は心を構えて――)
547 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/12/18(水) 00:53:50.83 ID:egRl8SK90
姉魔族「は? おまえまだ生きていたの?」
魔族「………………え?」
548 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/12/18(水) 00:54:56.60 ID:egRl8SK90
続く。
次こそ早めに投下したいです。
549 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/12/18(水) 02:15:47.21 ID:wOGPQtl6o
乙ー
550 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/12/19(木) 05:25:11.54 ID:OOTYtOfDO
乙!
551 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/17(金) 23:55:21.35 ID:mBrjcu1l0
お久しぶりです。
本当に遅くなって申し訳ありません。
投下します。
552 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/17(金) 23:55:49.99 ID:mBrjcu1l0
姉魔族『は? おまえまだ生きていたの?』
魔族(太古の昔より再会した姉様は心底から呆気に取られた表情でその言葉を放った)
魔族『………………え?』
魔族(予想もしていなかった言葉に私の思考もフリーズする)
チャラ魔族「ん、どしたん? って、そいつは……」
魔族(姉様と同じく召喚された、一人の魔族の男が姉様に声をかける)
姉魔族「ねえ、聞いて聞いて! あの子が生き残っていたみたいなのよ!」
チャラ魔族「え、マジ!? ていうか置き去りにしたのいつだって言うんだよ!」
姉魔族「私だって分かんないってば! いやもう本当生きて、しかも私たちを呼び戻すとかさ……」
チャラ魔族「じゃああのとき本気で言ってたってわけ!?」
魔族(ゲラゲラと笑いながら交わされる言葉)
魔族(意味が、全く、分からない)
553 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/17(金) 23:56:17.95 ID:mBrjcu1l0
魔族「ね、姉様……」
魔族(声が震える)
魔族(どうして笑われているのか?)
魔族(思考の焦点が定まらない)
魔族(それでもどうにか振り絞って言葉を紡ぐ)
魔族「わ、私はやり遂げました。ね、姉様たちを呼び戻しました」
魔族「こ、これから使命を果たすためにどう動いていくか、き、教示してください」
魔族(膝を付き、首を垂れて姉様の指示を待つ)
魔族(姉様はいきなりの出来事に混乱しているだけ。すぐに状況を理解してくれるはず)
魔族(そして使命を果たすために必要なことを、あの頃のように私に教えて――)
554 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/17(金) 23:56:48.34 ID:mBrjcu1l0
姉魔族「……? えっと使命ってなんだっけ?」
魔族「冗談はよしてください! 使命『世界滅亡』は姉様が私に言ったことです!!」
姉魔族「あー……そういえばそんなことも吹き込んだんだっけ? うわあ、懐かしー」
魔族「……っ!?」
魔族(あっけらかんと放たれた姉様の言葉に私の思考はフリーズする)
チャラ魔族「世界滅亡? 何言ってんの?」
姉魔族「いやね、こいつがさ、前の召喚の時右も左も分からない年頃だったのよ」
姉魔族「それで私がリーダーとして面倒見てたんだけど、ただお守りするのもつまんなかったからさ」
姉魔族「魔族の使命は『世界滅亡』だって吹き込んだらまるっと信じちゃったのよ」
チャラ魔族「何だよ、それ。めっちゃ面白いじゃん」
姉魔族「本当にね。ずっとそんなこと信じてたなんて……ぷっ!」
555 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/17(金) 23:57:19.59 ID:mBrjcu1l0
魔族「姉様……」
魔族(私はその場にへたり込む)
魔族(ガラガラと何かが崩れ落ちる音がする)
魔族(崩れ落ちるのは私という存在の根底)
魔族(太古の昔からずっとずっと使命を果たすために生きてきた)
魔族(その使命が空虚であったと知って……私はどうすればいいというのか)
556 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/17(金) 23:57:55.42 ID:mBrjcu1l0
姉魔族「ところで気になってたけど、その隣のイケメンは誰なん? めっちゃタイプなんだけど」
チャラ魔族「でもそいつと行動一緒にしてたって事は、それなりの仲なんじゃねえの?」
姉魔族「……ねえ、そんなやつ捨てて私の物にならない? こう見えて私結構尽くすほうよ?」
チャラ魔族「いや、一目惚れすぎない? 俺は、俺はどうなの?」
姉魔族「鏡を見て出直してきな」
チャラ魔族「酷くね?」
魔族(二人の会話にハッとなる)
魔族(傭兵は今どのような表情をして、どのような胸中なのだろうか)
魔族(隣にいるのだ。ならばそちらの方を向けばいい。なのに怖くて見れない)
魔族(……いや、そんなこと気にしてどうする)
魔族(出会ったときから得体の知れないやつだった)
魔族(『世界滅亡』を聞いても有無を言わさず勝手に付いてきた男)
魔族(これで離れられるならせいせいして――)
557 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/17(金) 23:58:23.02 ID:mBrjcu1l0
魔族「………………」
魔族(私が使命を唯一打ち明けた人)
魔族(使命のために。そう言って協力してくれるのが嬉しかった)
魔族(だが……その使命が空虚であると分かった今……彼が私と一緒にいる意味は失われて)
魔族「傭兵……」
魔族(焦がれるようにその名前を呼びながら、隣に立つその人を見上げる)
傭兵「はぁ……」
魔族(姉様たち、そして私。全員の注目を浴びる中、傭兵は一つため息を吐いてから)
558 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/17(金) 23:59:04.66 ID:mBrjcu1l0
傭兵「言っておくが……私の使命は『世界滅亡』などではない」
魔族「……。……?」
魔族(私と手を切る前の最後の言葉……だと思ったが、よく考えてみるとそうではないようだ)
魔族(すぐにはその言葉の真意を測ることが出来ない)
傭兵「勘違いされてることは分かっていた。そちらの方が都合が良いから訂正してこなかったが……」
魔族「っ、だったら傭兵! おまえの使命とは一体……」
魔族(すがりつくように問いかける私に、傭兵はこの期に及んでマイペースで話し始める)
559 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/17(金) 23:59:46.07 ID:mBrjcu1l0
傭兵「私たちが初めて出会った日のことを覚えているか?」
魔族「……は?」
傭兵「君は力のない村娘の姿で王国の兵士から逃げていたな」
傭兵「私には力がある、助けることは容易だ」
傭兵「だが王国に目を付けられることは避けたかった」
傭兵「それに王国ではあのような事は日常茶飯事だ」
傭兵「だからそれまでと同様にあの日も心を殺してスルーしようとして……君の助けを呼ぶ声が聞こえた」
魔族「…………」
傭兵「それがそっくりだった。私の妹に。気が付いたら体が動いていた」
560 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/18(土) 00:00:19.44 ID:c04xaU6I0
魔族「あの村娘の姿が……? だがあれは私の『変身』の一つ……ただの偶然で……」
傭兵「ああ。その後話す内に君が姿を偽っていることを暴き素の君と相対して……」
傭兵「ますます妹にそっくりだと思った」
傭兵「妙に勝ち気な態度、一度言ったことは曲げない頑固さ……本当に生まれ変わりかと思った」
魔族「……そうか」
傭兵「あの日ケンカをしたまま王国に赴き、私があいつに謝る機会は永遠に失われた」
傭兵「ずっと、ずっとそう思っていた」
傭兵「だが、ここに妹そっくりの世界相手に一人で奮闘している者がいて」
傭兵「チャンスだと思った。罪滅ぼしをする」
魔族「…………」
561 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/18(土) 00:01:13.77 ID:c04xaU6I0
傭兵「死者に生者を重ね合わせて……妹にも、君にも失礼なのかもしれない」
傭兵「だが不器用な私にはこんな方法しか思いつかなかった」
傭兵「私の使命は――魔族、君の望むことを何でも叶えることだ」
傭兵「教えられた使命が虚構だと分かった今、君はどうしたいんだ?」
傭兵「君自身が考えるんだ。何でもいい――」
傭兵「それこそ、酷い裏切りにあってもなお『世界滅亡』を成し遂げたいというなら私はお供しよう」
魔族「私は……」
傭兵「…………」
魔族「私は……私は……っ!!」
傭兵「何だ?」
562 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/18(土) 00:01:42.31 ID:c04xaU6I0
魔族「……分からない。ずっとずっと信じていたことが崩れ去って……」
魔族「何をしていいのか、今すぐには分からない」
魔族「だから…………一人でゆっくり考えさせてほしい」
傭兵「『一人でゆっくり考えさせてほしい』……か。承った、我が主よ」
魔族(へたり込む私の頭の上にポンと手を載せて、傭兵は正面の姉様たちを見据える)
563 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/18(土) 00:02:09.40 ID:c04xaU6I0
傭兵「ならば、こいつらは邪魔だな」
姉魔族「ちっ……何勝手に美談を繰り広げてやがるのよ」
傭兵「姉様……といったか。悪いがそういうことだから君の物になることは出来ない。断らせてもらおう」
姉魔族「律儀か。うっせえな」
564 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/18(土) 00:03:00.04 ID:c04xaU6I0
チャラ魔族「あはははっ! すげえ、やっべえ! あれだけ上から言ってて、フられてやがんの!」
姉魔族「……はぁ? おまえ、今何て言った?」
魔族(姉様がギロリとそちらを睨む)
チャラ魔族「え、あ、いや、やばっ……」
姉魔族「私さ、人に笑われるのが一番嫌いって言ったよね?」
チャラ魔族「そ、それは……」
姉魔族「『規律(ルール)』発動。自殺しろ」
チャラ魔族「ちょ、ちょっとマジでそれは――――」
魔族(『規律(ルール)』)
魔族(姉様が持つ固有スキル)
魔族(チャラ魔族は顔面蒼白になりながら手のひらを自分の顔に押し当てて魔法を発動)
魔族(ボシュ! と顔から上が消し飛んだ)
565 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2020/01/18(土) 00:03:37.24 ID:c04xaU6I0
魔族「ひっ……」
魔族(魔族の世界は荒廃している。そのため弱肉強食で資源を、食べ物を、命を奪い合う)
魔族(戯れで命が奪われる……よくあることだったのに……人間の世界に慣れきった私は情けない声を上げてしまった)
姉魔族「あーもうムカつく、ムカつく、ムカつく……」
魔族(姉様は一つの命を、それも味方の命を奪ったことから既に関心が失われている)
魔族(その頭の内を占めるのは自身の不快感だけのようだ)
姉魔族「私の物を奪うやつはいらない。私の物にならないやつもいらない」
姉魔族「『規律(ルール)』発動。おまえら、あの二人を襲え!」
魔族(その感情の矛先が私と傭兵に向く)
魔族(味方にするべく召喚したその力が、そのまま反転して強大な敵へと変わる)
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