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男「恋愛アンチなのに異世界でチートな魅了スキルを授かった件」 3スレ目
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165 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/08/03(土) 23:47:49.12 ID:aEURjwQZ0
乙!
166 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/08/03(土) 23:53:34.30 ID:I8Gh1H480
乙ー
敵にさらわれて救出されたと思ったら新事実発覚で拗らせてたものぶり返しちゃうとは
ホント男さんのヒロインっぷりは半端ねーぜ
167 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/08/04(日) 11:34:56.38 ID:SuK1KcE8o
乙ー
168 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/08/06(火) 01:05:44.22 ID:jCtuVPPF0
乙、ありがとうございます。
>>166
ヒロイン力限界突破!!
投下します。
169 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/08/06(火) 01:06:11.00 ID:jCtuVPPF0
先生「昨日は魔法の基本を学びましたね。覚えているかなー?」
生徒「はーい、先生! 空気中の魔素を取り入れて自分の身体の内で魔力に変換することです!」
先生「そう、その通りよ! じゃあ今日はその先をやっていきましょうね!」
生徒「はーい!」
男(学術都市、初等部の教室。)
男(先生の呼びかけに応える元気な子供という光景は世界が変わっても存在するのかと)
男「…………」
男(同じく初等部の生徒として体験入学した俺は現実逃避するように考えていた)
男(周りに5、6歳の子供しかいない中に混じるのはやっぱりキツいとはいえ)
男(魅了スキルしか持たない俺が魔法の教育を受けるとなると、レベルとしては初等部と一緒になるので仕方ないことであった)
170 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/08/06(火) 01:06:45.09 ID:jCtuVPPF0
男(俺たちが学術都市にたどり着いたのは先日のこと)
男(俺たちが持つ宝玉を貸し出す代わりに、持っていた宝玉を譲ってもらう)
男(交渉が成立した後、研究室長の体験入学をしないかという提案に俺たちはせっかくだしということで乗ることにした)
男(この学園には初等部から大学まである)
男(体験入学するにしてもどこに入った方がいいのかを計るために、俺たちは事務局でステータスを開示した)
事務員「魔導士ですか! これは……凄まじいですね!」
女友「ありがとうございます」
男(事務員は女友のステータスを見て興奮していた)
男(どうやら女友ほどの魔法の使い手はこの学術都市にもいないらしい)
男(女友は大学で専門的な教育を一通り受けた後、宝玉の研究について手伝うことに決まった)
男(『これで一ヶ月より早く研究が終わるかもしれないですね』と女友が言っていた)
171 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/08/06(火) 01:07:16.28 ID:jCtuVPPF0
事務員「そちらの少女は竜闘士ですか……自前のスキルもあるでしょうし、魔法が使えても仕方ないとは思いますけど……」
女「そうですね……あ、でも敵が使ってくる魔法の種類とかよく分かってないし、そういうのを学べたらいいんですか」
事務員「となると実戦魔法コースですね」
男(女もとんとん拍子に決まって)
事務員「そちらの少年は魔法に関して…………えっと初等部で基本から教わるというのがオススメになってしまいますが……」
男「可能ならばそれでお願いします」
男(随分と言葉を選んだ事務員に、俺は一も二もなく頭を下げた)
男(元の世界では高校生だった俺が小学生扱いされてるわけだが、実際魔法についてはずぶの素人だ。当然の扱いだろう)
女友「初等部とは……大丈夫ですか、男さん? 周りが小学生くらいの子供ばかりってことなんですよ?」
男「逆に初等部に俺なんかを混ぜてもらえる方がありがたいことだ」
男(と、心配する女友に対して強がって見せたことを早くも後悔することになるとは思ってもいなかった)
172 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/08/06(火) 01:07:46.17 ID:jCtuVPPF0
男(先生による魔力から魔法に変換する説明も終わり実践練習の時間となった)
男(異世界人である俺でもちゃんと練習すれば魔法が使えるようになるらしい)
男(その言葉に心躍っていた俺だが……実際には魔法発動の第一プロセス、空気中の魔素を取り入れるというところから俺は躓いていた)
男(だいたい魔素って何だよ、本当にそんなもの存在するのか?)
生徒「出来た!」
先生「あら、すごいわねー!」
男(しかし子供たちの中から成功させる者が出てきて、俺の言い訳もつぶされた)
男(大人しく試行を繰り返す)
男「…………」
男(正直に言って、俺が魔法を使えるようになったところで何かが変わるとも思っていない)
男(今練習している初級魔法『火球』はその名前の通り小さな火の玉を一つ飛ばして相手にぶつける魔法だ)
男(しかし衝撃波を飛ばしたり氷塊の雨を降らせる仲間たちがいるのにそんなことが出来て何になるというのか)
男(分かっているのに俺がこんなところにいる理由……それは悩み事から気を紛らわせるためという側面が大きいだろう)
173 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/08/06(火) 01:08:25.76 ID:jCtuVPPF0
男(独裁都市での一連の出来事により、女への心証が変わってきた矢先の出来事)
男(王国のスパイ、聖騎士の近衛兵長が、状態異常耐性スキルを持っていると明かしたのだ)
男(それによって虜状態になることを防げると思っていたが、実際には魅了スキルの支配下において王国に対して逆スパイとして潜入させている)
男(そうなると同じく状態異常耐性スキルのおかげで魅了スキルが中途半端にかかっているという女の発言がおかしくなる)
男(……おそらく女が嘘を吐いて、俺を騙しているに違いない)
男(その発想に至った瞬間、俺の精神がズンと沈むのを感じられた)
男(思っていた以上にダメージは大きかった)
男(すぐにでも女を問い詰めようと思ったが、すんでのところで思い留まる)
男(というのも気付いたからだ。どう考えても辻褄が合わないことに)
174 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/08/06(火) 01:08:51.91 ID:jCtuVPPF0
男(状況を整理しよう)
男(まず近衛兵長の発言により、女に中途半端に魅了スキルがかかっていることが否定される)
男(となると女の本当の状態として考えられる可能性は二つ)
男(魅了スキルが完璧にかかっているか、完璧にかかっていないかだ)
男(どちらであるかを考えて、俺はすぐに後者だと判断した)
男(これまでに何度も女は命令を無視した実績があるからだ)
男(魅了スキルにかかっていてはそんなこと出来るはずがない)
男(ここまでは理詰めで考えられる。だがここからが分からない)
男(というのも女は現状、俺の魅了スキルにかかっていると言っているからだ)
175 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/08/06(火) 01:09:18.39 ID:jCtuVPPF0
男(その嘘を吐く意味が理解出来ない)
男(魅了スキルにかかっているフリをしても、俺に好意を持っているように見せたり俺の命令に無駄に従ったりしないといけないだけだ。何ら得がない)
男(逆だったら分かる。本当は魅了スキルにかかっているのに、俺に命令されたくないためにかかっていないと嘘を吐くのなら)
男(そんな非合理的な嘘を吐いたのには……何らかの事情があるのだと)
男(決して俺を悪意で持って騙そうとしているのではないのだと……そう思ったから、未だに行動を共にしている)
男(相手が女でなければ嘘を吐かれたということだけで失望し、後先考えずに縁を切って独りになっていたかもしれない)
176 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/08/06(火) 01:09:44.39 ID:jCtuVPPF0
男「…………」
男(とはいえすぐに今まで通り接することは難しい)
男(昨日も女とのやり取りがぎくしゃくしたことは自覚している)
男(幸いにも学術都市にいる間はこれまでよりも女とは顔を合わせずに済む)
男(日中は違うコースだし、夜も今までは節約のため同じ宿の部屋に泊まることが多かったが、今回は先方の厚意で女子寮の一室と男子寮の一室が割り当てられたため違う部屋に寝泊まりしているからだ)
男(女が抱える事情とは何なのか、今後どうするべきか、俺はどうしたいのか?)
男(一人でゆっくり考える時間が持てるのはありがたかった)
177 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/08/06(火) 01:10:12.13 ID:jCtuVPPF0
続く。
178 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/08/06(火) 04:17:27.90 ID:LIjnSeyMO
乙!
179 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/08/06(火) 08:21:51.44 ID:e/MMIP23O
乙ー
180 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/08/06(火) 19:32:48.46 ID:O4SzFtPm0
乙
181 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/08/08(木) 00:35:58.78 ID:x/JedQkZ0
乙、ありがとうございます。
投下します。
182 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/08/08(木) 00:36:50.54 ID:x/JedQkZ0
女友「本当の、本当に心当たりはないんですね?」
女「もう、だから何回も言ってるでしょ。私だって訳が分からないのに」
女(学術都市女子寮の二人用の部屋にて)
女(私は、ここ数日何度も同じ質問をする女友に辟易していた)
女友「男さんも地雷が多いですから知らずに踏んでしまったとか」
女「……それも無いと思う。女友の方こそ、男君に何かしたとか無いよね?」
女友「私も心当たりありませんよ」
女(女友は力なく首を振る)
女(話題はここ最近の男君の様子についてだ)
女(私と接する際に明らかにぎくしゃくしている状況。女友とはそんな様子は見られないのに)
女(独裁都市で男君を助けて以来いいムードだったというのに、急転直下の展開に私は失望よりも困惑の方が大きかった)
女(男君の変調の理由が全く検討付かなかったからだ)
女(女友とは普通に会話出来ているのに、私とだけはぎくしゃくしてしまう理由)
183 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/08/08(木) 00:37:25.18 ID:x/JedQkZ0
女「もしかして……」
女友「やっぱり何かミスしてたんですか?」
女(口を開いた瞬間失礼なことを言い放つ女友)
女「どうして女友は私が失敗した前提で話すの?」
女友「今までの経験からです」
女「……とにかく、私分かったの! 男君がおかしくなっている理由!」
女(もうこれしかないというほどドンピシャの理由に思い当たった私は興奮しながら女友に話すが)
女友「……何の手がかりも無い状況ですからね。女の戯れ言に付き合ってもいいでしょう」
女(女友は塩対応だ)
女(まあでもこの名探偵女の見事な推理を聞けば『素敵!』と態度を翻すだろう)
女友「それで女の考える理由とは何ですか?」
女(先を促す言葉に私は自信満々に答えた)
184 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/08/08(木) 00:37:58.17 ID:x/JedQkZ0
女「独裁都市の時に颯爽と助けに来た私を見て、男君は私のことが大・大・大好きになっちゃったんだよ!」
女「だから私と話すときも意識しちゃってるんだって!!」
女友「…………」
女(女友は無言で頭を抱えている)
女(きっと私の考えの素晴らしさに感銘を受けたのだろう)
女「好きな人の前で緊張するなんて、男君もお茶目なところがあるよね!」
女友「……どちらかというと男さんの様子は照れているというよりは、陰がある感じでしたが」
女「それはあれだよ! 『陰のある男はカッコいい』ってことで私の気を引こうとしてるんだよ!」
女「はあ……ひとまず謝ってください。男さんはあなたほど単純な人じゃないです」
女(女友は何だか不服そうだ)
女(……あ、そうか。私と男君がいい感じになると、三人で旅している以上女友が仲間外れみたいになってしまう)
女(独りぼっちになるのが嫌なのだろう)
185 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/08/08(木) 00:38:46.94 ID:x/JedQkZ0
女「大丈夫だよ、女友。もし男君と付き合うことになっても、親友であることには変わりないから!」
女友「……一応ありがとうと言いましょうか。そしてよく分かりました」
女「でしょ? 男君の変調の理由は……」
女友「そうではなくて、女。あなたがすごい浮かれていることに」
女(女友がビシッと私を指さす)
女「浮かれるってこんな感じ? 『竜の翼(ドラゴンウィング)』」
女友「狭い部屋なのに翼を出さないでください! ああもう、そうやってノリが軽いのが浮かれている証拠ですよ!!」
女「はーい」
女(女友に怒られて、私は翼を引っ込める)
186 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/08/08(木) 00:39:17.66 ID:x/JedQkZ0
女友「女が浮かれるのも分かります。ようやく男さんと上手く行きそうだったんですから」
女友「今まで応援してきた私も本当なら手放しで賞賛したいところです」
女「でしょ!」
女友「ですが。だからこそ一転して今の状況に陥ってしまったことに危機感を覚えているんです」
女友「よっぽどの理由があるはずですから、対処を誤れば男さんとの関係はご破算ですよ」
女「だからその理由は男君が私のことを好きになったからじゃないの?」
女(私の再三の言葉に女友は考え込む)
女友「正直急な変調という点だけを見ると、状況からして女の考えも有力なのが悩ましいところなんですよね……」
女「ほら!」
女友「いえ、惑わされないでください、私。この単純野郎に引っ張られています。男さんの今の状況を見るに違うのは明らかです」
女(女友が自分の頭を握りこぶしで叩いて正気に戻るように努めている)
女(私が人を堕落させる何かのように扱われていて酷い話だ)
187 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/08/08(木) 00:39:49.72 ID:x/JedQkZ0
女「そんなに私の意見を否定するなら、女友の方こそ何か意見を言ってみせてよ」
女友「そうですね……女の嘘が男さんにバレたとしたら今の状況も分かるんですが」
女「嘘……っていうと、私が魅了スキルにかかっているという嘘?」
女友「はい。過去のトラウマから人に裏切られることを極端に恐れている男さんですから、女が信頼できる人物だと思った矢先に騙されていることに気付いたらショックを受けるでしょう」
女「それは……いつか打ち明けないといけないと思っているけど……」
女友「ええ分かっています。ですが女も不自然な点ばかり晒していますから」
女友「前回も魅了スキルの命令を無視して助けに行きましたし。男さんが自力で気付くのはあり得る可能性です」
女「そうは言うけど、今まで何だかんだバレなかったのに、そんな急に露呈するかな?」
女友「……やっぱり延々と考えても埒が明きませんね」
女友「よし、分かりました。私が直接男さんに話をします」
女(決心したように女友が立ち上がる)
188 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/08/08(木) 00:40:31.91 ID:x/JedQkZ0
女「……でも、大丈夫かな。男君、私が昼ご飯一緒に食べようって誘っても、まだ学校に慣れなくてなって断るし」
女「放課後一緒に遊ぼうとしてもちょっと復習したいって……明らかに避けられてるし」
女友「大丈夫なはずです。女と違って私とは普通に話せていましたし」
女「おおっ! じゃあ、任せるからね!」
女「もし男君が私のこと大好きで止まらないって言ってたらこっそりと教えてね」
女友「こっそりと教えるだけでいいんですか?」
女「というと……?」
女友「私なら男さんから女に告白するように仕向けることも可能です」
女「……女友様っ!!!!」
女(私は現人神の顕現に拝み倒す)
189 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/08/08(木) 00:41:01.30 ID:x/JedQkZ0
女友「苦しゅうない、苦しゅうない」
女友「やっぱり女も女の子ですからね。告白は男の子からされたいでしょう」
女「はい、その通りです!」
女友「何か女と話していると本当に男さんが女のことを好きで避けているのだと思い始めてきました」
女友「となればサクッと付き合わせて祝福することにしましょう!」
190 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/08/08(木) 00:41:33.38 ID:x/JedQkZ0
翌日。昼のこと。
男「ちょうど良かった。俺も女友と話をしたいと思っていたんだ」
女友「話とは……?」
学園の食堂にて、待ち合わせをした男と女友。
男「女は本当のところ魅了スキルにかかってないんじゃないか?」
女友「…………」
現実はそう甘くないのだった。
191 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/08/08(木) 00:42:01.79 ID:x/JedQkZ0
続く。
192 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/08/08(木) 01:08:51.64 ID:s0cPDc10o
乙ー
193 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/08/08(木) 06:06:34.09 ID:4GEw7O+PO
乙!
194 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/08/10(土) 01:04:10.67 ID:Vlt9CL5c0
乙、ありがとうございます。
投下します。
195 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/08/10(土) 01:04:53.12 ID:Vlt9CL5c0
男「女は本当のところ魅了スキルにかかってないんじゃないか?」
女友「…………」
女友(険しい表情で口を開いた男さんに、私はさてどうしましょうか、と半ば思考放棄していました)
女友(現在私たちは学園の食堂にいます。初等部から大学まで、大勢の生徒が利用する食堂です)
女友(私は朝の内に男さんとここで会う約束を取り付けていました)
女友(女友一人だけならいい、と暗に女の同席を避ける発言をされたのは想定内です)
女友(そして午前の講義を終えて昼になり食堂に向かい、料理を持って二人座れるところを探し、落ち着いたところで先の発言をされたという流れです)
196 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/08/10(土) 01:05:47.43 ID:Vlt9CL5c0
男「――というわけで女に魅了スキルがかかっていないと思ったわけだ」
女友(さて、今までの流れを思い返す現実逃避を終えたところで、男さんの説明もちょうど終わりました)
女友(どうやら近衛兵長が『状態異常耐性』のスキルを持っているのに魅了スキルにかかったことから、私の吐いた嘘が見破られたことが原因だったようです)
女友(近衛兵長と私が直接対峙していれば、そのときに相手がどのようなスキルを持っているか看破して、この事態を避けることも出来たでしょうが……そんなこといっても詮無きことですね)
男「率直に聞く。女友、おまえは女の事情を知っているんじゃないか?」
女友「……そんな、私も知らなかったんですよ! まさか女が魅了スキルにかかっていないなんて! 状態異常耐性スキルのせいでないとしたら一体何が理由で――」
197 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/08/10(土) 01:06:15.65 ID:Vlt9CL5c0
男「………………」
女友「――と言っても信じてもらえなさそうですね」
男「ああ。今思い返してみると、状態異常耐性スキルのことを言い出したのは女友だろ」
男「おまえは女に魅了スキルがかかっていることにしようと奮闘していた」
男「つまり、そのときから女の事情について知っていたんだろ」
女友「実際にはあのときは疑い程度でしたが……ええ、今の私は女の事情について知っていますよ」
女友(誤魔化せる雰囲気ではなく、私は真実を打ち明けます)
198 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/08/10(土) 01:06:43.63 ID:Vlt9CL5c0
男「…………」
女友「軽蔑しないんですか? ずっと男さんのことを騙していたのに」
男「そう、だな。……女友が嘘を吐いたのは女の事情を汲んでのことなんだろ」
女友「まあそうですね」
男「だったら女が嘘を吐かせていたようなものだし……」
男「それにその状況を女友が良しとしていたのは、女のためでもあるんだろうが、俺のためでもあるんだろ?」
男「それくらいにはおまえの人となりも分かっているつもりだ」
女友「……はい」
女友(男さんの言う通りです)
女友女が男さんのことを好きであることを私が言えなかったのは、もちろん女の意向もありますが、男さんが好意をトラウマに思っていることも考慮してのことです)
女友(といっても言い訳にしかならないと、罰を受けるつもりだったのですが……男さんは私のことを許しているようです)
199 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/08/10(土) 01:07:25.51 ID:Vlt9CL5c0
女友「でしたら女は?」
男「女は駄目だ。あれだけ人のことを信じろって言いながら、騙していたとか無しだろ」
女友「まあ、そうですね」
男「大体女はだな――」
女友(そこから男さんが女に対する愚痴をつらつらと述べるのを、ほぼ全面的に同意しながら私は考えます)
女友(男さんは新たな街にたどり着く度に宝玉を手に入れるまでの道のりを私たちに指示して来たことから分かるように、状況把握の能力が高いです)
女友(今回も女に疑いを向けるや否や、魅了スキルにかかっていないとまで推理したのは流石です)
女友(だからこそ男さんがその先に気付いていないことは少々不可解でした)
200 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/08/10(土) 01:08:01.01 ID:Vlt9CL5c0
女友(女は一番最初に召喚された直後に魅了スキルを暴発させた際、しっかりと効果範囲にいました)
女友(男さんも女のことを魅力的に思っていたはずです)
女友(それなのに失敗したとなれば……その理由は対象が特別な好意を抱いている場合くらいしかないと分かりそうなものなのに)
女友(ですが男さんはその可能性を思い浮かべることすらしていなさそうです)
女友(その理由は…………ああ、そうですか)
女友(男さんは魅了スキル抜きに自分が好意を向けられることは無いと……呪縛に囚われている)
女友(トラウマから心の傷を癒すのに使った自己否定が、男さんの自己評価の低さを生み出し)
女友(そのせいで『自分が好かれる事なんて無い』と思いこませている)
201 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/08/10(土) 01:08:28.49 ID:Vlt9CL5c0
女友(その一方で)
男「大体女はいつも自分勝手で……聞いてるか、女友?」
女友「ええ、聞いてますよ。本当苦労しています」
男「だろ」
女友「それでこちらから質問なんですが、男さんは今後どうしたいんですか?」
男「今後……?」
女友「はい。女は男さんを長い間騙していました。ごめん一つで済む問題ではないでしょう」
男「ああ、その通りだ」
女友(頷く男さんに私は吹っかける)
202 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/08/10(土) 01:09:07.25 ID:Vlt9CL5c0
女友「ですから……そうですね、罰として女は死刑とか」
男「死刑!? いや、重すぎだろ!? おまえ女は親友じゃないのか!?」
女友「親友だからこそ厳しく当たるんです。これまで男さんを騙していた罪……万死に値します……!!」
男「それだと女友にも当てはまるような…………じゃなくて!! とにかく死ぬとかは無しだろ!」
女友「じゃあそうですね、騙していたのにのうのうとこれからも一緒に旅とかあり得ませんし、このパーティーから追放しましょう、追放」
男「……いや、それも無いだろ」
女友「もうだったらどうすればいいんですか? 男さんの問題なんですよ」
女友「ほら、私が手伝いますから、女をどうするべきか考えてください」
203 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/08/10(土) 01:09:41.37 ID:Vlt9CL5c0
男「女を…………俺は、どうしたいんだろうな……」
女友(考え込む男さん)
女友(トラウマから来る拒絶反応が出ていたとしたら、そうやって悩むことすら無かったでしょう)
女友(最初、魅了スキルにかかっていないことに気付かれたときは正直終わったと覚悟していましたが、どうやら状況は思っていたより悪くないようです)
女友(それどころか女と男さんの間に立ちはだかる問題を解決するいい機会ですらあります)
女友(学術都市にいる間は宝玉を手に入れることも考えずに済みますし、時間が十分にあることも追い風で、この機会に二人の関係を急接近させようと――――)
204 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/08/10(土) 01:10:16.48 ID:Vlt9CL5c0
男「ん、何だか騒がしいな」
女友「え…………あ、確かにそうですね」
女友(男さんの呟きに思考を中断すると、食堂が不自然に賑わっていることに気付きました)
女友(昼食時間に入ったばかりならばお腹の減った学生の歓声という可能性も考えられますが、もう十分に時間が経っています)
女友「え……?」
女友(だとしたら一体何が……と、騒ぎの中心にいる人物を見て私は気が遠くなりました)
生徒1「わあ、本物だ!!」
生徒2「講演に来てくれるのは聞いてたけど……」
生徒3「近代史に残る偉人、先の大戦を終結に導いた立役者――」
女友(生徒に囲まれるその人物は)
205 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/08/10(土) 01:10:45.93 ID:Vlt9CL5c0
生徒「伝説の傭兵さんですよね!!」
傭兵「その通りだが…………この時間に来たのはマズかったか」
女友(魔神復活派コンビの片割れ、伝説の傭兵その人でした)
206 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/08/10(土) 01:11:14.93 ID:Vlt9CL5c0
続く。
ぼちぼち縦軸も動かしていきます。
207 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/08/10(土) 04:44:59.17 ID:rEzNRpITO
乙!
208 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/08/10(土) 05:40:47.47 ID:tt6Pa5JvO
乙ー
209 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/08/13(火) 04:49:49.24 ID:Fx0uBfhA0
乙!
210 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/08/14(水) 09:27:13.85 ID:k7ul/X3r0
乙、ありがとうございます。
投下します。
211 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/08/14(水) 09:27:59.75 ID:k7ul/X3r0
男(放課後)
女「どうしてあなたがここにいるんですか!? 説明してください!!」
男(俺と女友は食堂で伝説の傭兵を見つけたことを昼休みの内に女に伝えた)
男(放課後になってから三人で傭兵の姿を探し、そしてこの職員室で見つけるや否や女が突っかけた次第である)
男(俺の気持ちが定まっていない中、女と一緒に行動をするのは避けたいところだったのだが)
男(復活派の出現は宝玉の、俺たちの使命の問題だ)
男(駄々をこねている場合ではないくらいの分別は付いている)
212 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/08/14(水) 09:28:34.47 ID:k7ul/X3r0
傭兵「君の名前は……確か女君だったか。職員室では静かにと習わなかったか?」
男(女の剣幕も何のその、傭兵はたしなめてみせる)
女「そんな教師みたいなこと言わないでください!」
傭兵「いや、今の私はこの学園の講師だ。臨時ではあるがな」
男(胸元に付いているプレートを見せると……確かに臨時講師と書かれてある)
女「どういうつもりですか……まさかこの学園に何かするつもりで……!」
傭兵「そう激昂するな。この事態は私が意図したところではない。逆に学園の方から申し出た話だ」
女「ふん、どうだか。本当は――!!」
男(女はさらに声を張り上げようとするが)
213 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/08/14(水) 09:29:23.92 ID:k7ul/X3r0
男「女、ちょっと落ち着け」
女友「そうです、声を抑えてください」
男(俺と女友がそれを止めにかかる)
女「どうしてなの! だってこの人は……」
男「いや、気持ちは分かるが……ここは職員室だぞ」
女友「さっきから周囲の視線が集まって……居心地が悪いです」
男(女に周囲を見るように促す)
男(実際教師たちもちょうど訪れていた生徒たちも『何かあったのか』と興味の視線をこちらに向けている)
女「あはは、すいません。何でもないんです、つい声を荒げてごめんなさい」
男(状況に気付いた女は両手を左右にあわあわと振りながらその場で頭を何回も下げる)
男(一旦は視線の集中も落ち着くが、それでも周囲の人たちはこちらの様子を窺っている雰囲気が感じ取れた)
傭兵「……仕方ない。付いてこい、おまえたち」
男(助け船を出したのは、敵であるはずの傭兵であった)
214 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/08/14(水) 09:30:06.70 ID:k7ul/X3r0
男(誘導されるままに俺たちは場所を職員室から生徒指導室に移す)
男(ここなら他の教師や生徒もいないので注目されることも無さそうだ)
傭兵「気になることは聞くがいい。答えられることなら答えよう。予定があるからそれまでの間に限るが」
女「じゃあ、どうしてここにあなたがいるんですか!! 経緯を説明してください!!」
男(傭兵の寛大な態度に、あれだけ恥ずかしい目にあったのに女は先ほどまでの剣幕を維持したまま同じ事を問いかける。精神が強い)
傭兵「別段に語ることはない。旅を続けていれば先立つものは必要だ」
傭兵「この学術都市に入る際何か仕事は無いか聞いたところ、この学園で臨時講師として講演などして欲しいという要請に従っただけだ」
男(伝説の傭兵の勇名はこの世界の人々のほとんどが知っているほどだ)
男(そんな人の話を教育者として生徒たちに聞かせたいと思ったのだろう)
男(学園の意図は分かるところだ)
男(問題は――)
215 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/08/14(水) 09:30:51.20 ID:k7ul/X3r0
女「何か裏の意図があるんじゃないですか?」
男(女が聞いたとおり、傭兵自身の思惑だ)
傭兵「この都市に宝玉があることは当然把握している。私が宝玉を奪いに来たと……そう言いたいのだろう」
女「その通りです」
傭兵「ならばこの際言っておこう。今回、私が直接宝玉を奪うことはないと」
女「そんな言葉信じられません」
傭兵「考えれば分かることだ。私は伝説の傭兵として数多くの民に顔を知られている」
傭兵「そのようなものがコソコソと動ける訳がないし、もし宝玉を盗むというような悪行が直接露呈すれば瞬時に知れ渡り私は往来を歩くことが出来なくなるだろう」
傭兵「そのようなリスクを背負ってまですることではない」
傭兵「武闘大会のような私が私であるままに宝玉を手に入れることが出来たのは例外中の例外だ」
男(傭兵の言葉には一理あると思った)
男(伝説の傭兵の名は伊達ではない。実際食堂に顔を出しただけであれだけ騒がれたではないか)
男(つまり目の前にいる男、傭兵は宝玉を奪いに来たわけではなく――)
216 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/08/14(水) 09:31:40.57 ID:k7ul/X3r0
男「復活派のもう一人、魔族が宝玉を奪うつもりだと……そう言いたいんだな」
傭兵「……ああ、その通りだ。既に魔族はその姿を変えて、この学術都市に潜入している」
男(俺の問いかけに傭兵はあっさりと白状した)
男「魔族の姿のままなら角も生えてるし目立つだろうが、やつの固有スキルは『変身』……潜入するにはピッタリの能力か」
傭兵「私も誰に化けたのかは聞いていないから教えられない。もっとも知っていたとしても答えないだろうが」
男(『魔導士』の女友ですら見抜くことが出来ない『変身』スキル)
男(そんな厄介なやつが宝玉を狙っているなら警戒しないといけないが……)
217 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/08/14(水) 09:32:26.08 ID:k7ul/X3r0
女「だったら研究室に言って警備の人を増やしてもらわないと!」
女「あそこには学術都市の宝玉だけじゃなくて、私たちが今までに集めた宝玉もあるし!」
男「待て、女。それは逆効果だ」
女「逆効果……?」
男「ああ。魔族は誰にだって化けられる。宝玉の周囲に人を増やすことは、つまり化けられるターゲットを増やすのと同義だ」
男(だからこそ傭兵も魔族が潜入していることを普通に明かしたのだろう)
男(警戒するのも難儀な『変身』スキル)
男(きっと俺の『魅了』スキルより宝玉を手に入れるのによっぽど役に立っているだろう)
女「男君……」
男「だが対策しないといけないのも確かでどうするか……って、どうした女?」
女「え、あ、いや、今は関係ないことで」
男「何だ女らしくないな。気になることがあるなら言っていいぞ」
女「でも絶対関係ないことだよ。……だって久しぶりに男君と普通に会話出来ているなあ、って思っただけだし……」
男「そ、それは……ああもう、今は真面目な話をだな……」
女「だ、だから関係ないって言ったじゃん!」
男(女が顔を真っ赤にしている。場違いなことを考えていた自覚はあるのだろう)
218 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/08/14(水) 09:33:10.08 ID:k7ul/X3r0
傭兵「どうした少年、彼女と喧嘩中か?」
男「……つかぬことを聞きますが、その『彼女』とは三人称代名詞のことですよね?」
傭兵「いや、恋人である女性のことだ。魅了スキルの少年と竜闘士の少女、二人は付き合っているのだろう?」
男「付き合っていません!!」
傭兵「む、そうか。これは失礼な邪推をした」
男(俺は声を張り上げて否定する)
傭兵「……しかしそれほど想い合っているのに付き合っていないとは……最近の若者はよく分からん…………」
女「た、確かにそうだけど……ムキになって否定しなくてもいいじゃん……」
男(傭兵と女、竜闘士二人がぶつぶつ何か言っているが俺の耳にまで届かない)
219 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/08/14(水) 09:33:53.16 ID:k7ul/X3r0
男(傭兵まで変なことを言い出して、完全に場の雰囲気が緩くなってきた)
男(宝玉を奪うつもりが無いとはいえ敵同士だ)
男(馴れ合う必要もないと、そろそろその場を去ろうとして)
女友「一つ質問をいいですか?」
傭兵「……どうした、魔導士の少女よ」
男(女友が真剣な声で傭兵に問いかける)
女友「あなたの過去についてです。先の大戦が終わった後、王国はあなたに何をしたんですか?」
傭兵「知ったのか……王国の名が出てくるとはな」
女友「王国は不明な点が多い勢力です。教えてもらえるならありがたいのですが」
傭兵「我が主に不利益が被る話ではない。特に隠すことも無いが……残念ながら時間だ」
男(時計を見て傭兵がタイムアップを告げる。そういえばこの後予定があると言っていたか)
傭兵「言ったように私はしばらく臨時講師としてこの学園に勤めている。時間のあるときにまた訪ねるといい」
男(傭兵はそのように言うと生徒指導室を去るのだった)
220 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/08/14(水) 09:34:40.57 ID:k7ul/X3r0
続く。
投下遅くなり申し訳ありません。
また書き溜め尽きたので、今後の更新も不定期になります。
ご了承ください。
221 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/08/14(水) 11:44:37.01 ID:AMxY291B0
乙!
待ってるぜ!
222 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/08/14(水) 17:23:56.93 ID:J1P1zVKCO
乙ー
223 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/08/16(金) 14:26:18.57 ID:rEDkmhiy0
乙!
224 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/01(日) 22:48:14.88 ID:Gk83vwYH0
乙、ありがとうございます。
大変遅くなって申し訳ありません。
投下します。
225 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/01(日) 22:48:51.43 ID:Gk83vwYH0
男(生徒指導室を後にした俺たちはその足で宝玉を貸し出している研究室に向かう)
男(その道中で俺は謝った)
男「いや、その……すまんな、女友」
女友「いきなりどうしたんですか?」
男「さっきの傭兵との会話だ。やつの過去、王国の所行について聞き出すのは必要なことだったのに、俺はすっかり忘れていたから」
女友「ああ、そのことですか。別に気にしていませんよ。男さんも魔族のことについて聞き出してくれましたし」
男「いや、それでも俺が気付くべき事だったんだ……」
男「戦闘で役に立たない俺はせめてこういうところだけでも頑張らないといけないのに……そうだ、関係ない事なんて考えている余裕は……」
男(女に関する問題と宝玉に関わる問題は別物だ。切り替えて対処しないと)
女「男君……」
女友「はぁ……分かりました」
男(心配げな女の声が聞こえたかと思うと、先導していた女友がその場で立ち止まる)
226 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/01(日) 22:49:20.28 ID:Gk83vwYH0
女友「研究室には私一人で行きます。二人は付いてこなくていいです」
男(そして冷たい声で宣告した)
男「一人でって……でも、宝玉に関わる問題だぞ!」
女「そうだよ、どうして!」
男(俺と女は異を唱えるが女友は動じることなく続ける)
女友「私一人で十分だからです。魔族によって宝玉を奪うことを防ぐ対策、人を増やしたからって上手く行くような話でもないでしょう。それにあまり多くで押し掛けても迷惑でしょうし」
男「そうかもしれないけど……だったら俺が!」
女友「以前、研究室に訪れた際に魔法式トラップが仕掛けられていることを確認しています」
女友「そういう専門的なことも話すだろう事を考えると、代表して『魔導士』の私が出向くのが一番です」
男「それは……」
男(授業を受けているのに、未だに魔法の一つも使えない俺にその言葉は重くのしかかる)
227 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/01(日) 22:49:52.77 ID:Gk83vwYH0
女「だったら私は……!? もし魔族が力押しで来た場合、竜闘士の私がいた方がいいでしょ! その確認のためにも私は行った方が……」
女友「いえ、竜闘士の傭兵さんが加わるならまだしも、魔族一人相手取るなら私だけで事足ります」
女友「もし傭兵さんが嘘を吐いていて奇襲したとしても、この学園には警備員もしっかりいますし、実戦魔法教育を受けた生徒もいていざというときの戦力はかなり高いですし、女が遅れてでも駆けつけるなら十分に対処できます」
女「だとしても……何もしないでいるのは……」
女友「――というのは全部建前です」
男「な……?」
女「え?」
男(一気に前言を翻した女友に俺と女は付いていけない)
228 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/01(日) 22:50:19.52 ID:Gk83vwYH0
女友「何もしないで? 今、そう言いましたね。そんな遊ばせるわけ無いでしょう」
女友「当然女にしてもらわないといけない大事なことがあります、宝玉に関する問題以上に大事なことが」
女「それって……」
女友「決まっているでしょう。男さんとの関係修復です」
女友「どうやら男さんは女に魅了スキルがかかっていないことに気付いたみたいですよ」
女「……っ!?」
男(昼間に相談したことを、女友はあっさりと女にバラす)
229 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/01(日) 22:50:48.53 ID:Gk83vwYH0
男「女友、おまえ……」
女友「ごめんなさいね、男さん。でも特に口止めもされていませんでしたし、それにこちらの方が話は早いでしょう?」
男「……だとしても、これは俺の個人的な問題だ。俺たちの使命に関わる宝玉問題より優先されるとは――」
女友「いえ、優先すべき問題です。パーティー内に不和があって大きな事をなせるでしょうか? そんなはずないと私は考えます」
男「……」
男(確かに今の俺は女との問題のせいで気もそぞろになっている)
女「男君にバレて……」
女友「ええ、詳しくは省きますが魅了スキルにかかっていないということだけに気付いて、女の事情は分かっていないようです」
女「……」
女友「事情を明かすかはあなたの判断に任せます」
男(女の事情……俺が皆目検討付かないそれについて目の前でやり取りが行われる)
女友「さて、二人とも状況を理解したようですね。私は研究室に向かいますから後はお願いします。それでは」
男(俺たちが反対しないことを確認して、女友は研究室に向かって歩き出した)
230 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/01(日) 22:51:15.63 ID:Gk83vwYH0
男「………………」
女「………………」
男(残された俺と女の間を沈黙が支配する)
男(俺は何を話していいのか分からなかったし、女は騙していたことがバレて気まずいようだ)
男(正直に言うとこのまま対話を放棄して寮の自室に逃げ出したかった)
男(ただそれではあまりに女友に不誠実過ぎる)
男(今まで俺たちの意図を汲んで何度も助けてくれた女友がここまで強引に事を運んだのは、その荒療治が必要だと判断したからだろう)
男(だが、未だに考えがまとまっていないのに女と何を話せばいいのか)
男(……いや、逆なのか? これまでずっと一人で考えて結論が出ないんだ)
男(ならばこれ以上考えても堂々巡りになるだろう。だったら元凶の女に当たるのが正解なのかもしれない)
男(……どちらが砕けるのかは想像も付かないけど)
男(と、冷静に思考できたのはそこまでだった)
231 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/01(日) 22:51:46.00 ID:Gk83vwYH0
女「ごめんなさい」
男(先に口を開いた女)
男(いつになくしおらしい態度を目にして、俺は自然と口が動いていた)
男「どうして謝るんだ?」
女「私が男君のことを騙していたからです」
男「ああ、そうだな。まさか人を信じるようにあれだけ言ってた女が俺のことを騙しているとは思ってもいなかった」
女「……本当にごめん」
男(女が一層に萎縮する)
男(……違う、俺はこんなこと言いたいんじゃなくて……)
男「それでどうだったんだ? まんまと騙されている俺を見るのはさぞかし楽しかったんじゃねえか?」
女「そ、そんなことないよ!」
男「本当か? なら罪悪感の一つでもあったっていうのか?」
女「罪悪感はもちろんあったけど……最近は……」
男「忘れてたっていうのか、なるほどな」
女「……ごめん」
男(言葉が、感情が収まらない)
232 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/01(日) 22:52:22.35 ID:Gk83vwYH0
男「さっきからごめん、ごめんって、それしか言葉を知らねえのかよ」
女「……」
男「ごめんって言うにしても普通はさ、こういう事情があったんです、ごめんなさいだろ。なあ、どんな事情があったのか言えないのかよ」
女「……ズルいことは分かってる。でも、まだ言えないの……ごめん」
男「そうか……そんなに俺のことが信頼できないのか」
女「ち、違うって! それは私の勇気が無いからで…………」
男「意味分からねえよ!! 結局俺のこと信頼してないから秘密にするんだろ!!」
女「それは……」
男「俺は……やっと女のこと信じられそうだと……そう思ってたのに……」
男(自覚できるほど頭に血が上っているのに、涙で視界が霞む)
男(怒りと悲しみ、相反する感情が俺の心を散り散りに裂いていく)
男「っ……!」
男(これ以上この場にいられないと俺はこの場を離れようとして……何でもない段差に躓いて派手に転んだ)
233 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/01(日) 22:52:59.20 ID:Gk83vwYH0
女「男君!」
男「来るなっ!」
男(心配そうに駆け寄ってきた女を俺は拒む)
女「で、でもすりむいて血が出ているし……早く保健室に行かないと……」
男「……だからもう騙されていることには気付いているって言っただろ」
女「え……?」
男「もういいんだよ。魅了スキルにかかっているフリは、俺に好意を持っているフリをするのは」
女「フリって……そんなんじゃ……」
男「そうやってまた騙す気か? 懲りないんだな」
男(俺はよろよろと一人で立ち上がる)
男「女友に言われたこともあるしな。宝玉に関することには協力する。でもそれ以外のときは話しかけるな」
男(吐き捨てるように言って俺は意地を張るように女に一瞥もくれないまま去る)
男(それなのに女が今どんな表情をしているのか気になってしょうがなかった)
234 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/01(日) 22:53:33.37 ID:Gk83vwYH0
男(夜)
男(保健室で怪我の手当を受けた後、俺はそのまま寮の自室のベッドに体を投げた)
男(夕食を取っておらず腹の虫の主張がすごい。なのに全く食欲が沸かなかった)
男「………………」
男(しばらくぼーっとしていた)
男(ただ呼吸するだけの物体となって、何時間経っただろうか)
男(ふと思考が浮かび上がる)
男「これで女にも嫌われただろうな……」
男(女にも非があったとはいえ、さっきの俺の発言は酷いものだった)
男(言い返せないところに付け込んで、ネチネチと嫌味を言って……)
男(あんなこと言うつもりじゃなかった………………じゃあ、どんなことを言うつもりだったんだ)
男(自分の中に存在しない言葉を口に出すことは不可能だ。つまりあれは俺の中にあった言葉)
男(感情のままに振る舞って、子供のように喚いて……俺は……)
235 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/01(日) 22:54:12.63 ID:Gk83vwYH0
男「……全部もう過ぎたことだ」
男(終わったことを悩んだってしょうがない)
男(あれだけ拒絶したんだ。女が今後俺に関わることはないだろう)
男(そもそも魅了スキルがかかっていないってバレたんだ。好意を持ったフリをするために俺に絡む必要も無い)
男(ていうか、さっきのもおかしいか)
男(嫌われたって……何好かれている前提で話しているんだ)
男(今までのことは全部幻、夢が覚めたんだ)
男(だとしても別にそう悲観することでは無い)
男(戻っただけだ。異世界に来る前、ずっと独りで生きていた頃に)
男(ただそれだけ)
236 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/01(日) 22:54:59.96 ID:Gk83vwYH0
幼女『お兄さんも一人なの?』
男(声が聞こえた。幼い女の子の声だ)
男(いつの間にか眠ってしまっていたのだろうか。妙に思考の制御が出来ず思ったままの言葉を返す)
男「ああ、俺は独りだよ」
幼女『……変なの。お兄さんの近くにはいっぱい人がいるよ?』
男「学生寮だから周囲の部屋に人がいるだろうな。でも俺の心の中には誰もいない……いなくなった」
幼女『よく分かんない。心って何なの?』
男「難しい問いだな。俺にも分からねえ。こんなものがあるせいで怒ったり悲しんだりしないといけないんだから面倒だよな」
幼女『そっか、大変だね』
男「大変だよ。あんたはそういう経験無いのか?」
幼女『……覚えてない。昔あったかもしれない。でも今この世界にいるのは……一人だから』
237 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/01(日) 22:55:51.24 ID:Gk83vwYH0
男「世界に一人か、それは大変だな。でも俺もそんな世界に行ってみてえな」
幼女『ほんと?』
男「ほんとだ、ほんと。誰もいなければ……最初から独りならこんなに悩まなくても、傷つかなくても済んだのにな」
幼女『……だったら一人になればいいんじゃないの?』
男「なれたらどんなに楽か。俺は一人で生きていけないことを知っているからな。独りになったって言いながら、怪我の治療も自分で出来ないから保健室の先生を頼った。この異世界でだって独りじゃ身を守ることも出来ないから……あいつたちと……」
幼女『……?』
男「……まあおまえも大きくなれば分かるさ」
幼女『お兄さん面白いね』
男「そんな面白いことを言ったつもりはないんだが」
幼女『うーん、っと。久しぶりにいっぱい話したら疲れちゃった。お兄さんとリンク出来たのは………………のときの………………が…………また………………話…………』
男(意識が途切れ途切れになる、うとうとなってきた)
男(あれだけのことがあっても人は変わらず眠くなる)
男(俺は意識を手放そうとして……)
男「夢の中でまた眠るってのも……おかしな話だ…………」
男(生じた違和感は微睡みの中に霧散した)
238 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/01(日) 22:56:39.82 ID:Gk83vwYH0
続く。
次は早めに届けたいです。
239 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/09/01(日) 23:45:37.99 ID:C5quRSR4o
乙ー
待ってた。
240 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/09/02(月) 08:14:39.80 ID:o51/ZerE0
乙!
241 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/08(日) 23:35:06.06 ID:HaY5L1dh0
乙、ありがとうございます。
投下します。
242 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/08(日) 23:35:35.57 ID:HaY5L1dh0
男(それから数日経った)
男「………………」
男(授業を終えて放課後、俺は学園の図書室にいた)
男(学園の規模同様に図書室も広く、それでいて雰囲気が生み出す静けさが気に入っているスポットだ)
男(本の虫である俺は圧倒的な蔵書数に目を輝かせていただろう)
男(いつもならば)
男「はぁ……」
男(机に置いた本はさっきからページがめくられていない)
男(頬杖付く俺の視線の先は窓の外、中庭で修練している実戦科コースの生徒たちに向けられていた)
男(二チームに分かれて模擬戦をしているようだ。女子の姿しか見当たらないので、男子はどこかで別のカリキュラムを行っているのだろう)
243 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/08(日) 23:36:06.11 ID:HaY5L1dh0
男(と、そんなどうでもいいことを考えていた)
男(ここ数日、俺の生活は全く変わり映えの無いものだった)
男(日中は初等部に交わり魔法習得の授業)
男(無心に頑張った結果、俺も魔素を取り込み魔法を発動させる事に成功していた)
男(一度コツをつかめば後は早いもので、火球(ファイアーボール)だけでなく初級レベルの魔法は大体使えるようになっていた)
男(そして放課後は授業で躓いたところがあれば図書室で復習を、そうでなくとも図書室に来てぼーっとしていた)
男(夜になれば寮の自室に戻り何もすること無くただ眠る)
男(繰り返しの日々は時間の進みを早く感じさせてくれた)
男(時間とは万能薬だ。どれだけ傷ついたとしても癒してくれる)
男(あれだけ重かった俺の心も今ではすっかり元に戻った)
244 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/08(日) 23:36:50.31 ID:HaY5L1dh0
幼女『本当に?』
男(すっかり聞き慣れた幼女の声が俺の核心を突く)
男「……ははっ、そんなはず無いだろ」
男(俺は疑問に思うことなくそれに答えて)
??「ここにいたのか」
男(そのとき現実に声がかかった)
男「っ!?」
男(あわてて振り向くとそこにいたのは)
傭兵「探したぞ少年。それにしても妙な気配を感じるが……」
男(伝説の傭兵であった)
245 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/08(日) 23:37:24.50 ID:HaY5L1dh0
男「くっ……!」
傭兵「そう身構えるな、少年。この場で争うつもりはない。図書館ではお静かに、だ」
男(イスを倒れそうな勢いで引き飛ばしながら立ち上がった俺に対して、傭兵は両手を広げて戦う意志が無いジェスチャーを取る)
男(……まあそうだな。もしやつが俺をどうにかするつもりなら声なんてかけないし、そもそも竜闘士相手に俺ごときが抵抗して何になる)
男「だったらどういうつもりだ?」
男(俺はイスに座り直して聞いた)
傭兵「様子を見に来ただけだ」
男「偵察か」
傭兵「そうとも言う。しかしこの気配は……」
男(思案顔になった傭兵はいぶかしげな視線を最初俺に向けて、次に俺の後方の何もない空間に向ける)
246 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/08(日) 23:38:26.74 ID:HaY5L1dh0
男「そういやさっき妙な気配とか言ってたな。言っとくけど俺は何もしてないぞ」
男(両手をホールドアップしてこちらも戦う意志が無いことを示す)
男(何か反攻の意志ありと見なされて竜闘士の逆鱗に触れたら一巻の終わりだ)
傭兵「それくらいは分かっている。私が気になるのは………………ふむ、消えたか? しかし……」
男(傭兵は首を捻っている)
男(その雰囲気からして俺自身ではない何かが気になっているようだが……)
男(あいにくまるで心当たりが無い)
傭兵「まあいい。ところで少年、こんなところで燻ってていいのか?」
男「何の話だ?」
傭兵「……何だ、知らないのか。今や学園中の話題となっているぞ、ある研究室から研究物資と研究員一人が忽然と消えたと」
男「それは……」
男(抽象的に話しているが……やつの口から出てきたという事はつまりそういうことだろう)
男(魔族が化けた研究員によって宝玉が盗まれたと)
247 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/08(日) 23:39:19.36 ID:HaY5L1dh0
傭兵「魔導士の少女の提言により厳重に警戒していた中での犯行だ」
傭兵「犯人は物理的にも魔法的にも痕跡を残していない」
傭兵「躍起となって消えた犯人を追っているそうだが、果たして見つかるかどうか」
男「他人事のように言うが、あんたはその裏側を知っているんじゃないのか?」
傭兵「いや。今回私たちはそれぞれ独立して動いている。魔族の思惑は知るところではない」
男「……まあ知っていたとしてもそういうだろうし、意味無い問いだったな」
傭兵「そうだな」
男(傭兵が返答して……しばらく無言の空間が続く。再び口を開いたのは傭兵の方だった)
傭兵「行かないのか?」
男「どこに」
傭兵「研究室に。少年たちが所持する宝玉が奪われた事態、一大事だと思うが」
男「あー……そうだな。行くべきなんだろうが……」
傭兵「……」
男「まあ、女友ならすぐ気付いて取り返すだろ。消えた人間が一人じゃなくて、二人であることくらい」
男(話を聞いただけで俺が解ける問題に、女友が気付けないとは思わない)
248 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/08(日) 23:40:03.69 ID:HaY5L1dh0
傭兵「信頼……もあるのだろうが、ただの投げやりにも見える」
男「そうだな……正直言うと今は宝玉のことすらどうでもいいと思ってしまってる」
男「というか逆に質問だ。どうしてそう俺のことを気にする?」
傭兵「理解できない挙動をする敵に気を付けるのは当然だろう」
傭兵「腑抜けた様子に見せて裏では、と警戒したがどうやらそうでもないようだな」
男「ああ、演技でもなく今の俺は腑抜けてるだろうよ」
傭兵「ここ数日竜闘士の少女、魔導士の少女どちらとも話していないのは、何らかの策や別行動でもなくただの仲違いであると」
男「……あんた意外と目敏いんだな。もっと豪快な性格だと思っていたよ」
傭兵「状況を掴めない者は戦場で生き残れない。当然のことだ」
男(傭兵に言われたとおり、あの日拒絶してから俺は女、女友どちらとも一度も話していない)
男(今さらどのような口を聞けばいいというのか)
男(その点では敵でありどう思われてもいい傭兵の方が話しやすいくらいだ)
249 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/08(日) 23:41:27.23 ID:HaY5L1dh0
傭兵「なるほど、理性的な言動をするから忘れていたが少年は15、6くらいの歳だったな。青春真っ盛りだ」
男「知ったような口聞くんだな」
傭兵「何、十分に知っている。理屈的でない行動をしてしまう。それが若者の特権であり、青春だ。輝かしいばかりだ」
男「大人は大変なんだな」
傭兵「少年も大きくなれば分かる」
男「そうなんだろうが…………俺が知りたいのは未来じゃなくて、今だ」
男「俺はどう行動するのが正解だったんだ? 正解なんだ?」
傭兵「考えの出発段階から間違っているな。この世に正解なんてものは存在しない」
傭兵「とはいえそのような問答をしたいのではないのだろう」
男「……ああ、その通りだよ」
男(やけに真摯に答えてくれる傭兵に、つい俺は心からの訴えをしてしまう)
男(そして)
250 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/08(日) 23:41:53.08 ID:HaY5L1dh0
傭兵「そうだな……ちょうど約束していたしいいだろう」
男「何の話だ?」
傭兵「私が経験してきたことを話そう。少年たちの現状の参考になるかは分からないがな」
男「本当に関係なさそうだが」
傭兵「まあ聞いておけ、年寄りの昔話を聞くスキルは社会に出てからも役に立つぞ」
男(長話をするつもりなのか傭兵は近くの机のイスを二つ引いてその内の一つに座る)
男(そうして唐突に紐解かれるのだった)
男(伝説の傭兵と呼ばれる男の、過去が)
251 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/08(日) 23:42:25.97 ID:HaY5L1dh0
続く。
過去編はそんな長くならない予定です。
252 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/09/09(月) 02:33:41.26 ID:VO8DktvL0
乙!
253 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/09/09(月) 20:38:08.11 ID:I7LdHY4Bo
乙ー
254 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/23(月) 02:50:05.68 ID:oA3RdXrf0
乙、ありがとうございます。
投下します。
255 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/23(月) 02:50:39.85 ID:oA3RdXrf0
さてまずは私の生まれから話そうか。
聞いたこともあるかもしれないが、私は貧しくも平凡な村の平凡な家庭に生まれた子供だった。
唯一の例外と言えば、竜闘士の力を持っていたことだろう。
……何、竜闘士の力って持って生まれたものなのかと?
その通りだ、聞いたこと無かったのか?
そもそも竜闘士の力が量産できるようなものであれば、各国は競って増やしただろう、どんな手でも使って。
少年の魅了スキルが属する固有スキル同様に、竜闘士もまた突然変異的に生まれるものだ。
私は今思うとやんちゃなガキだった。馬鹿なことをする度に両親に叱られたものだ。
そのときには既に竜闘士の力を十分に使いこなせたから、やろうと思えば普通の力しか持たない両親を上回ることが出来ただろう。
しかし、両親はそんなこと気にせず叱った。竜闘士である前に親と子であったということだ。
そんなこともあり私は力に溺れることもなく成長していった。
256 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/23(月) 02:51:07.96 ID:oA3RdXrf0
妹『ねえ、お兄ちゃん! また空中散歩したい!! 背中に乗せて飛んでよ!』
傭兵『もうしょうがないなあ』
特筆するとすれば、私には妹がいた。
妹もまた両親同様に私が竜闘士であることを気にせずに、いやそれも含めて慕ってくれたものだ。
そうして私が少年になったころに先の大戦が起きた。
幸いにも私の住む村は戦火から遠いところにあり、直接巻き込まれることはなかった。
しかし戦費としての特別税により村は一層貧しくなった。
このままではこの村は立ち行かなくなる。
何もない村、だが私には立派な故郷だ。
だから。
257 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/23(月) 02:51:38.57 ID:oA3RdXrf0
傭兵『僕が……戦場に行くよ』
元々村の中でまことしめやかに話されていたことだった。
竜闘士の私が戦場に出向けばいいと。竜闘士なら十分に活躍できるだろうと。
ただ少年でしかない歳である私を戦場に送るなんて馬鹿なこと出来るかと否定されてきた。
そんな優しい村民が私は好きだった。
みんなのためならば、私は戦場に立つ決意が付いた。
戦場はこの世の地獄だった。
尊ばれるべき命が軽々と散る。
少年だった私の精神は未熟だった。震える私とは裏腹に力だけは成熟していた。
初陣は今思うと酷い有様だった。泥臭い特攻でどうにか勝利を勝ち取った。
258 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/23(月) 02:52:12.56 ID:oA3RdXrf0
それからも地獄で過ごす日々だった。
竜闘士の力は各地に伝わった。こぞって私を雇おうという話に、私はただ提示された金額の多寡だけで判断した。
少しでも多くの金を故郷に。
私が私であるように繋ぎ止めていたものは、その意志だけであった。
がむしゃらに戦い、戦い……ひたすらに戦い続けて。
永遠に続くかと思われた大戦にも終わりが告げられた。王国の元で力を振るった私のおかげで。
259 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/23(月) 02:52:46.36 ID:oA3RdXrf0
大戦が終わってもしばらくは忙しかった。
王国によって私は英雄として祭り上げられたからだ。
祝賀会、戦勝パレード、あらゆる催しに呼ばれる日々は、ある意味戦場にいたころよりも疲れた。
私は英雄なんて柄じゃない。
大切ものを守るために戦っただけだ。
それも一段落したころ、久々に故郷の村に帰った。
村のみんなは私を暖かく迎えてくれた。
しかし、両親だけは私の頭にゲンコツを落とした。
父『ったく、おまえは危ない橋ばかり渡りよって!』
母『ちゃんと連絡は寄越しなさいって言ったでしょうが!』
私に対して怒る両親。
ああ、この人たちの前では私は英雄でもなく、伝説の傭兵でもなく、ただの息子でいられる。
妹『もう、本当に心配したんだからね!』
私に抱きついて泣きじゃくる妹。
ただの兄となった私は久しぶりにその言葉をつぶやいた。
傭兵『ごめん。それとただいま』
260 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/23(月) 02:53:18.04 ID:oA3RdXrf0
こうしてただの人となった私だが、世間からの評価は変わらない。
あるとき私は伝説の傭兵として、王国から話があると呼ばれていた。
そのため村を発つ前日。
傭兵『おまえももうそろそろ年頃だろ? いつまでもお兄ちゃん、お兄ちゃん言っていないで、結婚したらどうだ?』
妹『もう、お兄ちゃんまでその話? いい人が見つからないんだからしょうがないじゃん』
傭兵『いや、おまえが選ぶ立場なのか? おまえみたいなおてんばは選んでもらう立場だろ』
妹『はぁ? 何言ってんの? 私だって結構モテるんだよ』
傭兵『ははっ、それはどうだか』
妹『……ふんっ、もうお兄ちゃんなんて嫌い!』
よくある兄妹喧嘩だった。
しかし、へそを曲げたのか妹は翌日の見送りの際も一言も口を聞いてくれなかった。
帰ったら謝らないとなあ、まあおみやげに王国名物でも持って帰れば許してくれるだろう。
そう思いながら私は王国の地を踏み、そして連れられた王宮でとんでもない提案を受けた。
261 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/23(月) 02:53:44.41 ID:oA3RdXrf0
傭兵『王国による……大陸全土の支配……その片棒を私に担げと?』
その場に集まった王国の重鎮、そして王はそのような絵空事を本気で実現させるつもりだったようだ。
伝説の傭兵である私が協力すればその実現も早くなる、その暁には莫大な富や権力も約束しようと。
私の答えは一つだった。
傭兵『そのようなこと私には出来ません』
過ぎた富も権力も私には必要なかった。
故郷のあの村さえあればそれでいい。
262 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/23(月) 02:54:12.45 ID:oA3RdXrf0
王『そうか……残念だ』
王は嘆くように言った。
王『まあいい、もとよりそなたに首輪を付けられるとは思っていない。ゆえにそなたは今このときより……王国の敵だ』
傭兵『敵……ならば排除するとでも? 無理だ、それが出来ないからこそ私は伝説の傭兵と呼ばれている』
王『何も……直接戦うだけが戦争ではない』
傭兵『……?』
王『相手を戦意を挫くことも……また戦争だ』
傭兵『なっ……!?』
私は衛兵が取り囲もうとする中、急ぎその場を脱出し故郷へ帰ろうとした。
嫌な予感しかなかった。
そしてたどり着いた故郷の地は――。
炎に包まれていた。
263 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/23(月) 02:54:41.06 ID:oA3RdXrf0
世間には不幸な山火事が起きたと発表されたようだ。
村一つの壊滅。
しかし、不自然なほどにその続報は無かった。
その日以来、私は表舞台から姿を消し、細々と生きることにした。
王国に見つかるわけには行かなかったから。
竜闘士としての力を使って王国に復讐することはもちろん考えた。
しかし、大国相手にはいくら強大とはいえ私一人では分が悪い。
いや、そもそも幼い頃の教えが私に復讐という手段を奪っていた。
264 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2019/09/23(月) 02:55:11.14 ID:oA3RdXrf0
傭兵『どうして、お父さん!! あいつは妹を泣かしたんだ! だったらあいつも同じ目に遭うべきだろ!』
父『そうやって復讐してどうなる? おまえはスカッとするだろう。だがそれだけ、空しいだけだ』
傭兵『でも……っ!』
父『大丈夫、話し合うんだ。同じ人間……分かりあえ無いことなんて滅多にない』
両親は幼い私に復讐の空しさを教えてくれた。
だが……どうしようもないほどの悪意、それとの対峙方法は教えられていなかった。
傭兵『…………』
腑抜けたように姿を隠し生活する私。
こんなことになるなら、王国の話を受けるべきだったか。
……いや、たとえ何回繰り返したとしても私は断っただろう。
だから、後悔することがあるとしたら。
傭兵『あいつに……謝っとくんだったな』
胸の内に秘めた気持ちを伝える機会は永遠に失われたままだ。
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