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加蓮「カミサマなんて信じない」
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1 :
◆ukgSfceGys
[saga]:2019/06/18(火) 21:17:29.88 ID:tLeGcQVf0
モバマスSS。地の文形式。
公式と若干違う設定&過去捏造があるので注意。
次から投稿していきます。
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1560860249
2 :
◆ukgSfceGys
[saga]:2019/06/18(火) 21:18:53.17 ID:tLeGcQVf0
◆◇◆
──だが神は死んだ!(フリードリヒ・ニーチェ 1844 - 1900)
3 :
◆ukgSfceGys
[saga]:2019/06/18(火) 21:19:37.99 ID:tLeGcQVf0
◆◇◆
「ねぇ奈緒? カミサマっていると思う?」
4 :
◆ukgSfceGys
[saga]:2019/06/18(火) 21:20:31.43 ID:tLeGcQVf0
今日は奈緒、凛と一緒に取材のお仕事。それまでまだ少し時間があり、こうして三人で事務所に待機している。
そんな空き時間に読んでたファッション誌を片手に私はそんなことを奈緒に問う。
「どうしたんだ? いきなりそんな話して」
「いや、これ見てたらさ、今週は星座占いで最下位だったから……。その嫌な気持ちを吹き飛ばそうと思ってね!」
「後ろ向きに前向きだな……」
奈緒はそう言って、うーん……と唸ったまま天井を見上げる。
どう回答しようか迷ってるのかな? もしかしたらあたしを傷つけないよう、色々考えてくれてるのかもしれない。
でもそう思わせといて、単に自分がいじられないような回答を考えてるだけなのかも。
「どうだろうな……。凛はどう思う?」
困り顔の奈緒は結局、別の雑誌を読んでいた凛にそのまま質問をパスした。
「うーん……。まあ、信じてる……っていうか、『いるのかな?』って思うくらいかな」
「毎週教会とかにいくわけではないけど、初詣行っておみくじ引いたり、クリスマスパーティーやったりとかはする……みたいな感じか?」
「うん、そんな感じかな?」
「ふーん……。まー、そんくらいが普通だよなぁ」
うんうん、頷きながら肯定する奈緒。まるで『あたしもそう思ってます』というような感じを出してる。
そんな逃げる奈緒に追撃。私は簡単に逃がさないよ?
「でも奈緒は信じてそうだよね? ソシャゲとかグッズのクジとかの時にさ。『カミサマお願いしまーす!』ってな感じで」
「ウッ……。そんな言い方はないだろ、加蓮?!」
「あ、でも否定しないんだ」
「うぅ……。…………いや、その通りだよ! 全くその通りだよ! 悪かったな! 自分の都合のいい時だけ信じるようなやつで!」
「いやいや悪いだなんて一言も言ってないよ? ただ奈緒は可愛いーなーって思っただけ」
「だぁー! 結局いじられんのかよ! だから回答するのが嫌だったんだ!」
「奈緒、諦めなよ。加蓮に質問された時点で負けてるんだから」
「うー……凛までそんなこと言う……」
悪かったね、よしよし、と奈緒の頭を撫でて宥める凛。そのおかげで奈緒の機嫌はすぐに直りそうだ。良かった、良かった。
でも凛の撫で方がハナコを撫でる時と一緒の手つきなことは、今は黙っておいた方が後々美味しくなりそうだね。
「そういや、そういう加蓮は一体どうなんだよ?」
暫く凛にワシャワシャされてた奈緒が思い出したように私に問いかける。
あ、ちゃんと元の話題覚えてたんだ。まぁ聞かれたら、ちゃんと答えないとね。
「私? 私はねー──」
5 :
◆ukgSfceGys
[saga]:2019/06/18(火) 21:21:19.48 ID:tLeGcQVf0
私はカミサマを信じない。自分の持ち歌で『神様がくれた時間』とか歌っておきながら、カミサマの存在なんてちっとも信じちゃいない。
だってカミサマがいるなら……。何でも救ってくれるはずのカミサマがいるのなら──
──どうしてあの子はあの病院から出ることなく死んじゃったの? 神は越えられない試練は与えないっていうのに──
6 :
◆ukgSfceGys
[saga]:2019/06/18(火) 21:22:06.00 ID:tLeGcQVf0
◆◇◆
奈緒への質問をきっかけとして、私はなんとなく気になってきたことを他の人に聞きまわることにした。
つまりは『みんなはカミサマを信じているの?』ってこと。
大勢のアイドルが在籍するこの事務所、きっと色々な答えが聞けそうな予感がする。聞く人に聞けば面白い回答が返ってきそう。
そんな思いもあり、私は翌日からすぐに行動に移すことにしてみた。まずトップバッターはこの人。
7 :
◆ukgSfceGys
[saga]:2019/06/18(火) 21:22:42.15 ID:tLeGcQVf0
「神様の存在ですか〜? それはもう信じてますよ〜」
8 :
◆ukgSfceGys
[saga]:2019/06/18(火) 21:23:23.82 ID:tLeGcQVf0
聞く人皆を安心させるような、そんなおっとりした声でそう答える彼女。まぁこの人に聞いたら、そりゃ当然こう答えるよね。
幸運の化身。あるいは女神様。昔は『仕込みネタでしょ?』と揶揄されてたけど、今やそんな軽率な言葉は一切聞こえなくなった、そんなアイドル。
それくらい自身と周りに幸運を巻き起こすアイドル、鷹富士茄子さん。
正直この人自体がカミサマみたいな扱いされて、拝まれてるのをよく見かける。
主に営業へ行く前のプロデューサー達が拝むのを。そして何故かその後ちひろさんも拝んで出かけていくのを……。
そんなような人にカミサマの存在有無を聞くなんて、はっきり言って馬鹿らしいのかもしれない。
だからこそ、いの一番に聞いてみたかった人でもある。
「茄子さんは良く幸運に出会ってるもんね。それもカミサマのおかげかな?」
「そうですねー……生まれてこの方、運が良かったのは確かですね。そして幸運に出会えたことを神社などで御礼してることも確かです」
「まぁそうだろうね……茄子さんの場合は……」
おみくじを引けば大吉。抽選すれば当選間違いなし。福引きを回せば特賞のハワイ旅行を掻っ攫う。
『カコが歩けば幸運に当たる』と言われるくらいのツキの良さ。
「まあ、そのおかげでプロデューサーさんにも出会えてアイドルになれましたし……。アイドルになってその幸運を皆さんにおすそ分けできてとても嬉しいです!」
あぁ……確かに茄子さんの担当プロデューサー始め、茄子さんのファンや関係者はやけにニコニコしてることが多い。
きっと幸せなんだろう。それがカミサマから与えられたものだろうが、茄子さんから与えられたものだろうが……。
そんなものは関係なく、きっと幸せを感じるんだろう。
もし私もカミサマを信じたら、茄子さんみたいにみんなへ幸運を分けられるのかな?
でもきっと茄子さんだからこそできるんだろうな。今までの人生で培ってきたものがあるからこそ。
そんなものがない私じゃきっと無理だろうな……。
9 :
◆ukgSfceGys
[saga]:2019/06/18(火) 21:24:21.36 ID:tLeGcQVf0
「ですが……」
考え事をしている間に、茄子さんはそう言って言葉を続ける。
「時々、神様なんていない方が良いんじゃないかって思うことがあります」
「えっ?! どうして……?」
衝撃の発言。これだけ幸運に恵まれて……。言っちゃえばカミサマに愛されてる人がそんなことを言い出すなんて……。
カミサマなんて信じない私だけど、茄子さんのことは私も信じちゃうような、そんな人がこんなことを言い出すなんて。
その驚きが顔にも大きく出てたのだろうか? 茄子さんはちょっと困ったように微笑んだ。そんな顔のままこう続ける。
「だって──」
10 :
◆ukgSfceGys
[saga]:2019/06/18(火) 21:24:51.13 ID:tLeGcQVf0
「──今の幸運が……今の幸せが……全部神様の掌の上なんて少し悲しいじゃないですか。ちょっとは自分の手柄にしたいものですよ。『私の頑張りが報われた』ってことの方が、只の幸運なんかよりも、ずっとずっと嬉しいじゃないですか」
11 :
◆ukgSfceGys
[saga]:2019/06/18(火) 21:25:18.20 ID:tLeGcQVf0
そんな風におどけて見せる茄子さん。そう言い切った顔は普段は滅多に見ることのできない小悪魔みたいな顔だった。
カミサマも悪魔も味方につけるなんて、どうやったってこの方面では茄子さんに勝てなさそう……。
そんな風に思った茄子さんとのお話だった。
12 :
◆ukgSfceGys
[saga]:2019/06/18(火) 21:26:01.72 ID:tLeGcQVf0
◆◇◆
正直茄子さんがあんなこと思ってるなんて意外だった……。あれだけ"カミサマ"に愛されたような人なら、全肯定するかと思ったのに……。
じゃあそれなら彼女はなんていうのだろうか? 茄子さんとはある意味真逆なあの娘は?
「ほたるちゃんはさ、カミサマの存在って信じる?」
というわけで、日を改めて私はもう一人の運にまつわる娘。つまりはほたるちゃんとお話していた。
一旦別の話をして、緊張をほぐしてから本題に入る。その方がほたるちゃんの素の意見を聞けそうだと思ったから。
13 :
◆ukgSfceGys
[saga]:2019/06/18(火) 21:26:28.10 ID:tLeGcQVf0
「え? 神様ですか?」
14 :
◆ukgSfceGys
[saga]:2019/06/18(火) 21:27:11.82 ID:tLeGcQVf0
ほたるちゃんは少し驚いた表情をする。
そりゃそうだろうね。今まではアイドル活動やファッションの話ばっかりしてたのに、急にこんな話題が出てきたらビックリするに決まってる。少なくとも私だったら何度か聞き直しちゃう。
「うーんと……そうですね……」
随分と歯切れの悪そうな声。答えがないというより、『答えてしまっていいのか?』といった迷いをその声色に感じる。
大丈夫だよ。私、酷いことは結構言い慣れてるし、言われ慣れてるから。
そんな脳内の考えがサイキックで伝わったのかほたるちゃんはおずおずとしながら口火を切り出した。
「あの……? 加蓮さんって私の噂は知ってるんですよねぇ……?」
「えーっと……うん、知ってるよ」
ほたるちゃんの噂。
曰く、不幸に愛されてる。
曰く、所属したプロダクションは倒産する。
曰く、自分だけでなく関わった他人まで不幸にする。
曰く、疫病神である。
ちょっと聞くだけでもこんな感じ。きっと本人はもっと色んなことを言われてるだろうし、言われてきたんだろう。
前回質問した茄子さんとはホント真逆に言われている、そんなほたるちゃん。さて、彼女はなんていうんだろうか?
「知っていて、敢えて聞くなんて……加蓮さんって結構ひどい人なんですね」
そう切り返してくるほたるちゃん。酷いことを言われ慣れてるとはいったものの、ホントに『酷い』と言われるとは思わなかった。やるな、ほたるちゃん。
でも、ほたるちゃんの顔は言葉に似合わず穏やかな笑顔で……。もしカミサマがいたらつい加護したくなるような、そんな素敵な笑みだった。
「そうですね、前にやったファンタジーのお仕事で『神よ、足だけは引っ張らないで』なんて言ったことがありますけど」
いわゆる闇落ちしたような騎士を演じた時の話だろう。いやー、あの時は雰囲気出てたよねー。普段のほたるちゃんを知ってるはずなのに、その演技を見るだけで思わず身構えちゃった。
「そう、だからきっと、多分神様っているんでしょうね。信じる、信じないというより、いるんじゃないかなって思うだけですけど」
信じる信じない、じゃなくて、いるいないっていう次元の話か。結構ハードな経験をしないと出てこない発想だよね。
「だってこれだけ不幸に見舞われる私ですよ。神様の存在なんて信じたくなくても、いるんじゃないかって思いたくなりますもん」
まぁ神様と言っても疫病神とかでしょうけど、と付け加えるほたるちゃん。
そんな酷いことを言う割に結構楽しそうな表情している。私も結構ハードな経験ある方だと思っていたけど、一体どんだけの経験をすればこんな風に笑ってそんなことが言えるんだろう。
15 :
◆ukgSfceGys
[saga]:2019/06/18(火) 21:27:38.78 ID:tLeGcQVf0
「でも、それを言い訳にしたくありません」
16 :
◆ukgSfceGys
[saga]:2019/06/18(火) 21:28:53.22 ID:tLeGcQVf0
そんな笑顔のまま、きっぱりとほたるちゃんは言い放った。まるで目の前にいるカミサマに対して宣言するように。
「いや、確かに挫けそうになる時だって当然ありますけど……。それでも私はアイドル活動において、不運を言い訳にしたくありません」
「そう思うだけの……そう思えるだけの事務所に、プロデューサーさんに、そしてユニットの仲間に恵まれました。だから、神様を信じるかどうかなんて関係なく、私は私のアイドル活動を続けていきたいです!」
「どんなに困難があったって、どんなに苦しいことがあったって、私はアイドルでいたいんです」
そうはっきりと宣言するほたるちゃん。
眩しい、眩しすぎる……。きっと不幸を乗り越えて、真っ直ぐ前を見つめられるようになったんだろうな。
私だったらほたるちゃん級の不幸にあったら、絶対捻くれる自信があるもん。まぁ、そもそも今ですら結構捻くれてるんだけど。
「それで……。加蓮さんはどうなんですか? 神様を信じるんですか? 疫病神や貧乏神かもしれませんけど……」
「私はそんなのゴメンかな? 普通の人生万歳って思ってるよ。だからカミサマなんて信じないかな?」
真っ直ぐなほたるちゃんに向かってそんな返しをする。こんな回りくどい言い方しかできないなんて、やっぱり私は捻くれちゃってるんだろう。
これも全部カミサマが悪い。まぁそんなのいないんだろうから文句を言っても仕方ないけど。
17 :
◆ukgSfceGys
[saga]:2019/06/18(火) 21:29:29.54 ID:tLeGcQVf0
◆◇◆
幸運に愛された茄子さん。
不幸に愛されてしまったほたるちゃん。
二人とも運に関する娘だった。
でもカミサマが関わる所はそれだけじゃない。
そしてそれを一番信じてそうな娘のとこに私は来た。ていうか、この娘は絶対信じてそうだから喧嘩にならないか今から心配……。
18 :
◆ukgSfceGys
[saga]:2019/06/18(火) 21:30:05.82 ID:tLeGcQVf0
「神様ですかぁ? もちろん信じてますよ」
19 :
◆ukgSfceGys
[saga]:2019/06/18(火) 21:31:21.83 ID:tLeGcQVf0
「へー……。『運命の出会いなんて信じてなかった』なんて持ち歌で歌ってるクセに?」
「ですから謝ってるじゃないですか、『神様ごめんね』って。……というか加蓮ちゃんだって歌ってるじゃないですか、『神様がくれた時間』って」
そう言って痛いトコを突いてくるまゆを完全に無視して、私はまゆの話を聞く態勢に入る。
それを察したのかまゆも深追いはせず、自分の話を切り出す。
「まぁ、まゆが信じてるのは神様というより運命の出会いですけどね」
そんなこと言いながらウットリした顔を浮かべるまゆ。きっとまゆの担当プロデューサーさんのことを思い浮かべてるのだろう。
どうせこうなるってわかってたんだから、話なんて聞かなきゃよかった。既に後悔。
「そうなんだ。赤い糸なんてどこにも見えやしないけど」
「それは加蓮ちゃんが神様を信じてないから見えないだけじゃないですか?」
グッ……! 何も知らないはずなのに嫌なところを突いてくる。
もしかしたら最近の私がカミサマについて聞き回っているのを知った上で嫌味かもしれないけど……。
でもきっとまゆの事だから自然に出た言葉なんだろうな。
それはつまり、自身の信条を示してるっていう証拠なんだろうけど……。
「まゆにはちゃーんと見えてますよ。プロデューサーさんとの赤い糸が」
「ふーん。そんなのがあるんだったら、試しにちょん切ってあげようか? 今ならタダでやってあげるよ?」
「切っても切れない縁っていう言葉を知らないんですか? どんなに他人が切り裂こうとしても、まゆとプロデューサーさんはガッチリ縁で結ばれてるんですよ」
全くこれだからまゆは……。運命とか赤い糸だとかを根っから信じる上に、それに乗っかってアプローチしまくりだから手に負えない……。
「それが神様のおかげだって言うの?」
「そうですよ。だってそうじゃなきゃ、きっとあんな素敵な人に、まゆのプロデューサーさんに出会えなかったわけですから」
「ケッ……。そいつはおめでたいことで」
そう言い放ってから汚い言葉を使ってることに気が付く。ついついまゆ相手だと悪態をついてしまう。
気を許してるってことなのかな? なんとなくまゆ相手だとそんな自分が出てしまう。
20 :
◆ukgSfceGys
[saga]:2019/06/18(火) 21:32:39.06 ID:tLeGcQVf0
「加蓮ちゃんは信じないんですか? 憧れのアイドルになれたきっかけを。加蓮ちゃんのプロデューサーさんとの出会いを。それを神様が演出してくれたってことを」
「うーん……」
確かにプロデューサーさんに出会えたのは幸運だった。ナンパされるかのように出会ってスカウトされた。アイドルになれたのは本当に運が良かったのだろう。
こんな病弱で捻くれまくっていた私がアイドルやってるなんて、それこそ奇跡なんだろう。だけど──
「確かにプロデューサーさんと出会えて、アイドルにスカウトされたのは幸運だったけどさ」
私はまゆに正直に胸の内を吐き出す。
それは運命を信じるまゆに対しての宣戦布告めいたものだったのかもしれない。
「その後にたくさんレッスンして、常に他のアイドルの娘達と協力しながらも競い合って、そしてプロデューサーさんと二人三脚で頑張って」
「だからこそ、こうして今アイドルとして輝けてる。それが全部幸運……というかカミサマの掌の上なんて勘弁。私は私がそう望んでるからこそアイドルを頑張ってるし、今ここに居られてる。そう思いたいんだ」
21 :
◆ukgSfceGys
[saga]:2019/06/18(火) 21:33:14.22 ID:tLeGcQVf0
「だから、この全てが運命だなんてイヤ。少なくとも私は"運命"っていう言葉で済ませたくない」
22 :
◆ukgSfceGys
[saga]:2019/06/18(火) 21:34:15.80 ID:tLeGcQVf0
私はそう毅然と宣言する。運命の出会いを信奉する彼女に向かって、運命なんて嫌だと言い放つ。
「そう……ですか……。まあ、見解の違いですかね。それとも──」
そんな否定されるようなことを言われて怒るかと思ったのに、まゆはニコリと笑っている。なんでそんなに余裕があるのか。
「なに? そんなニヤニヤした顔して」
「──うん。いえ、加蓮ちゃんはまだ気が付いてないだけかもしれませんね。自分の、心の中に秘めたる思いに」
「あぁん? 何か言いたいことでもあるっていうの? ハッキリ言いなよ?!」
まゆの含んだような言い方につい苛立ちを覚えてしまう。まるで時子さんみたいな声を出してしまった……。
「大丈夫です。加蓮ちゃんもきっといつか気が付きますよ。自分の思いに。そして運命の"出会い"に」
「何を言ってるかさっぱりなんだけど……」
「そうでしょうね、今はまだ……。あら? もうこんな時間? プロデューサーさんのところに行かなくちゃ。ごめんなさいね、加蓮ちゃん」
そう言ってまゆは楽しそうに去っていった。
自分の持ち歌を口ずさむみながらそれはもう幸せそうに。
『大好きだよ、ささやいてよ』か……。
私も"運命"ってやつを信じたら、まゆみたいに可愛く恋する乙女になれるのかな……?
…………ごめん、今の無し。自分で想像して鳥肌が立っちゃった。
やっぱカミサマなんて信じず、己の力で進んでいくのが一番だよね。
23 :
◆ukgSfceGys
[saga]:2019/06/18(火) 21:35:02.56 ID:tLeGcQVf0
◆◇◆
前の三人は何かしらカミサマに関わってる人を訪ねてみた。だからこそ次は逆の発想で行こう。そろそろ賛同者が欲しい所だしね。
カミサマから一番遠い存在ってなんだろう? そう考えた時にふと思い浮かんだのが彼女の存在だった。
24 :
◆ukgSfceGys
[saga]:2019/06/18(火) 21:35:37.43 ID:tLeGcQVf0
「カミサマを信じるかって? 面白い質問するねー、加蓮ちゃん」
25 :
◆ukgSfceGys
[saga]:2019/06/18(火) 21:36:29.25 ID:tLeGcQVf0
「面白いでしょ? 生粋の科学者にこんな質問するなんて」
カミサマという非科学的なものの真逆、つまりは科学的なもの。それはまさに科学でありそれを信奉する科学者だろう。
ということで今回は志希にインタビューしてみる。場所も屋外のカフェテラスで、まるでホントに取材をしてるみたいだ。
『天才科学者志希、ギフテッドは神様を信じるのか?』なーんていう見出しかな? ちょっと俗すぎだったり?
「今はアイドルだけどね〜。ギフテッドだから文字通り生まれながらの科学者だったりするかもね〜、にゃはは〜!」
「うーん……なんとも反応しづらいジョーク……。でも科学を信望する人たちだもんね。カミサマなんて非科学的なものは信じな……」
「信じてるよ」
「……え?」
食い気味に発せられたその言葉はよく聞き取れなかった。志希は今なんて言った? この科学者は今なんて……?
26 :
◆ukgSfceGys
[saga]:2019/06/18(火) 21:37:50.47 ID:tLeGcQVf0
「だから信じてるって」
27 :
◆ukgSfceGys
[saga]:2019/06/18(火) 21:38:32.40 ID:tLeGcQVf0
愕然とした私を見かねたのか、志希はもう一度自身の考えを口にする。
志希が、カミサマを、信じる、だって……?
「科学者なのに……?」
まだ動揺している私が絞り出せた言葉はたったそれだけ。そんな言葉にも志希はちゃんと正面で向き合ってくれる。
「科学者だからこそだよ」
「……どういうことなの?」
「つまりはね」
志希は大げさなジェスチャーを取りながら説明を続ける。まるで大学の先生みたいと思っちゃった。
そしたらこっちは回答の意図を捉えられない出来の悪い学生なのかも。
「研究をつき進めてくとさー、当然未知の発見をするわけだけど、それがあまりに"出来すぎ"てることがあってね。例えば極端にシンプルな答えだったり」
「懸命に追いかけて難解だと思ってた答えが、あまりにシンプルすぎて、そして美しすぎるとね。信じちゃうんだ、創造主という名の神様を。この世の法則を創りあげた神様ってのが存在するのを」
「……驚いた……。意外とロマンチストなんだね、志希って」
「ノンノン、違う、違う。誤解されがちなんだけど、あたしだけじゃなくて科学者自体、結構ロマンチストが多いんだよ?」
「そうなの?」
「そうだよ〜。大体まだ見ぬ世界を探索しようという奴らなんてね。ロマンに憧れて、そのロマンを見つけ出そうとする奴らなんてね、そんなもん。ロマンチストじゃないとこんな探求やってらんないよ」
28 :
◆ukgSfceGys
[saga]:2019/06/18(火) 21:39:32.40 ID:tLeGcQVf0
意外すぎる回答が返ってきて、私は正直ポカーンとした。さっきから呆然としたまま帰ってこれない。
こんな話を聞く前は、志希とカミサマの悪口言いまくって、その存在を否定しまくって楽しむつもりだったのに……。
「大体ギフテッドって自称してることからして神様を信じてる証拠だって。だって元々は『神様から与えられた才能』っていうところからきてる言葉だしね」
こんな風に志希教授の講座は続いていく。今更ながらにそれもそうかと思い始めた。
「まぁ、『一方的に与えといて何が神だー!』と思う時もあるけどね〜。そんな風に思った時は腹いせにこの才能を使い倒してやるんだ〜!」
何という前向きな姿勢。神様にすらそんな自由な態度をとる志希は、なんだが神様だって従えられるように思えてきた。
しかし予想外の答えのせいで結構話し込んじゃったな……。ホントは「いない」って言われた瞬間、場所を移動して、誰にも聞かれないような場所で散々愚痴を言うつもりだったんだけど……。
だからこんなに長く外にいるとは思わなかった。思った以上にこのテラスは寒くて薄着の私には少し堪える。
あれ? なんだが鼻がムズムズしてきた。これはもう我慢できなさそう……。仕方ない、アイドルとして最低限の体裁を整えつつ我慢しないことにしよう。
「くしゅんっ」
あたしは可愛らしく声を上げる。今のだったらアイドルとして許容範囲でしょ? なんて誰に対してかも分からず言い訳する。
29 :
◆ukgSfceGys
[saga]:2019/06/18(火) 21:40:31.57 ID:tLeGcQVf0
「God bless you」
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