少女「愛してるって言って」少年「………」

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91 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/05(水) 19:59:50.57 ID:02nqp4d5O



ーーーーー



スタッスタッスタッ

(おってきてる…?)

スタッスタッスタッ

(でもだれもおいつけやしない!)

(いまのおれはかげだってふませずにはしれるんだ!)

スタッスタッスタッ

(…あぁきょうもさむい)

スタッスタッスタッ

(はやくきみのあたたかいてでなでてほしいな)

スタッスタッスタッ...

(…きみのにおいがちかくなってきた)





ーーーーー

「──君、ひとり?」

ーーーーー





(きみとであっておれのせかいはかわった)





ーーーーー

「──ふぅ……」ザッザッ

「──わんっ!」

「──!もしかしてずっと待ってたの…?」

ーーーーー





(このつめたいせかいできみだけがあたたかった)





ーーーーー

「──もう…こんなに冷えちゃって…」ナデナデ

「──…でも、ありがと」

ーーーーー





(はじめてひとがこいしくなったんだ)


92 : ◆YBa9bwlj/c :2019/06/05(水) 20:03:14.70 ID:02nqp4d5O

...スタッスタッスタッ

(はらもへってきた…)

(きみのくれるごはんがたべたい)

(ぴろしきとかいうのもうまかった)

スタッスタッスタッ

(まだかな)

スタッスタッスタッ

(…このくびまき、これをもってるのはつよいことのあかしだってきみはおしえてくれたね)

(どうかな?いまのおれはこいつをぬすめるほどのちからがあるんだ!きみといっしょにたたかうことだってできるだろうさ!)

(だから、ほめてくれよ!)

スタッスタッスタッ

「……!」

(きみがみえる…!)

「……わんっ!!」





「!」

「──え、うそ…!」





(おどろいてるのかな)

(でもそんなきみもすきだ)

(いまいくからっ!)

スタッスタッスタッ!





──パァンッ




93 : ◆bWFnkQX8pw2l [saga]:2019/06/05(水) 20:06:00.65 ID:02nqp4d5O



「!?」ピタッ

(……)クルッ

「はぁ…はぁ…やっと追いついた、このクソ犬が…!」

(さっきのがき…!)

「やっぱり断っとくんだった…!」

「おら、返せ!」

グイッ

「……!」

グイッ!

「ウー…!」ググ…

「なんだ、その目……そんなに僕が憎いのか…?」

「グルルル…!」グググ…

「っ…!あぁ!」

バッ!

「くそっ、離せこいつ!」

「ガウッ!!」

「──離せって言ってんだよ!!」スチャッ





タァンッ!







ーー

ーーー

ーーーー




94 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/05(水) 20:07:48.90 ID:02nqp4d5O



少年(──俺が利口にしてたなら、君も死なずに済んでたのにな)

少年「………」スッ

少年「………」ポチポチ

少年「………」




[受信メール]
━━━━━━━━━━━━━━
未開封 1件
━━━━━━━━━━━━━━




少年「………」

少年「………」ポチポチ

少年(……今日も"盗み"の依頼はないか)

少年(割のいい稼ぎだったんだが……)

少年「……ふー……」

少年(もう金もない)




少年「………」グッ...




少年(やる、か)

少年(もう俺にはこれしかない)

少年「……」ガサゴソ

少年「……」スッ

少年(……君に全てを見せる)

少年(君が"少女"じゃない頃の君の記憶)

少年(…昔の君に会いたいんだ)

少年(一瞬だけでいい……その後は、二人でここから消えよう?君だってこんな嘘の世界で生きていたくないよね?)

少年(……でも、君は今を楽しんでる)

少年(この世界を)

少年(今年は生徒会長を目指すとか言ってたっけ)

少年「……ハッ」

少年(野良犬の俺には眩しいよ。君はどんどん俺から離れていく…)

少年(それでも……俺は会いたい……!)

少年(…自分勝手でごめん)

少年「………」ガサゴソ

少年「……最後の1本……」

少年「………」




カチッ



95 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/05(水) 20:12:25.11 ID:02nqp4d5O



自室ーーー



少女「………」

少女「………」

少女「………」

少女「ん」ゴロン

少女「……………」スッ





[メール]
━━━━━━━━━━━━━━
新着メッセージはありません
━━━━━━━━━━━━━━





少女「………」

少女「………」トサッ



少女「………」



少女「……………」



少女「…………………」





ピリリリッ ピリリリッ





少女「!」バッ

少女「ぁ…!」

ピッ

少女「もしもし!あんた今どこにいんのよ!?寮にも帰ってこないで──」

少女「──はぁ?そんなとこで油売ってるの?…とにかく早く戻ってきて。あんたがいないと……」

少女「……え?伝えたいこと?そんなの今言えば──あ、ちょっと!!」プツッ ツーツー

少女「………」





バッ

ドタドタドタ...

ガチャン




96 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/05(水) 20:18:09.74 ID:02nqp4d5O



ーーーーー



タッタッタッ

少女「……」キョロキョロ

少女「……!」

タッタッタッ...

少女「少年!」





少年「!」





少女「……」スタスタ

少年「……」

少女「……」

少年「……」





...タッタッタッ





ヒシッ





少女(──え!?なに!?抱き着かれてる…!?)


97 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/05(水) 20:19:17.82 ID:02nqp4d5O



少年「」ギュー

少女「」

少年「………君はほんと、かわいい」

少年「でもね、前の君は今以上さ」

少年「…俺がもっと強ければ、きっとここでもうまくやれたろうね」

少女「」

少女「」ハッ!

少女「突然何よっ、切れるよ!?」

少女「伝えたいことってこれっ?」

少女「というかあんた中学サボり過ぎ!」

少女「女みたいに留年(ダブ)っても──」

少年「……」スッ

少女「──なによその手…いやらしいわよ……」

少年「……」ソー...

少女「ちょっと少年、聞いてる…?」

少年「……」ピト

少女「ね、ねぇ……人が見てる……」





──カチッ





少女「────!!!」





少女(──────)




98 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/05(水) 20:20:27.98 ID:02nqp4d5O



ー過去ー

ーーー

ーー







少女「………」テクテク

少女「………」テクテク

コンコン

「なんだ?」

少女「おじいちゃん、あたし。今戻った」

「おぉそうか。入りなさい」

ガチャ

「どうだったんだい?」

少女「もちろん、全員片づけてきたわよ」

「ほぉ。あれほどの人数をか」

少女「戦闘慣れしてない素人の集団よ?あくびしたら終わってたわ」

「うむうむ。やっぱりお前が一番優秀だよ」

少女「……次の仕事も期待しててね」

「あぁ」

少女「じゃ」





ガチャ バタン




99 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/05(水) 20:22:22.45 ID:02nqp4d5O


ーーーーー



ガヤガヤ

「──ねぇ聞いた?あの子が一人でA国軍の別動隊に向かったって」

「あぁ、知ってる。その任務元々俺も行くはずだったからな」

「なんで行かなかったの?」

「あいつが断ったんだ。ひとりで十分なんだとよ」

「は?でもそんなの大統領が黙ってないでしょ。勝手に作戦変更なんて」

「あいつは大統領のお気に入りだからな。多少のわがままは通っちゃうんだろ」

「……ほんと、いけ好かないやつ」

「まったくだ。ま、さすがに今回ばかりは生きて帰ってこれないんじゃないか?戦争で数の差を舐めてるやつは、痛い目を見る」

「同感だわ」





「──いや、あいつは帰ってくるよ」





「……同胞、なんでそう言える?」

同胞「なんでって、そんなの分かるだろう。その別動隊はただの捨て駒らしいじゃないか。あいつがそんな雑魚共にやられるわけない」

「お前はいつもあいつのこと過大評価してるけどよ、いくら相手が弱いからって囲まれたらおしまいだぜ?」

同胞「そんなヘマするようなやつじゃないからな。お前らと違って」

「な、なんだと──!」





少女「……」スタスタ





「うわ……」

「あいつ……」

同胞「………」





少女「……」スタスタ

スタスタッ…





「……」

「……」

同胞「……ほらな」

「チッ……」

「……死神」


100 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/05(水) 20:23:30.44 ID:02nqp4d5O



ーーーーー



少女「………」スタスタ

ヒソヒソ

少女「………」スタスタ

ヒソヒソ

少女「……」ジロッ

ササッ

少女(…ふん)

少女「………」

少女「………」スタスタ

少女「……?」

少女(……雪の中に何か…)





犬「………」グッタリ





少女(……死んでる?)

少女「……」

ソー…

犬「……」ピクッ

少女「…!」

少女(そうだ、確か携帯食が…)ゴソゴソ





(缶詰)





少女「………」

少女「……」ナイフトリダシ

ガキンッ!

ギリギリ...

少女「…ほら、食べる?」

犬「!」

犬「……」クンクン

犬「」ハグハグ!

少女「そんなにがっつかなくても全部あげるから」





101 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/05(水) 20:24:15.18 ID:02nqp4d5O



ーーーーー



犬「」チロチロ ペロリ

少女「おいしかった?」

犬「わんっ」

少女(…この子、何も着けてない)

少女「……君、ひとり?」

犬「ハ、ハ、ハッ」シッポフリフリ

少女「そっか。私とおんなじだね」




102 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/05(水) 20:25:29.37 ID:02nqp4d5O



ーーーーー



「──なに?犬だと?」

女史「はい」

「先程報告に来たときは連れてなかったようだが」

女史「今しがた、拾ってきたようですね。いかが致します?飼い犬ではなさそうですが」

「……好きにさせてあげなさい」

女史「承知しました」

「ただし、それで彼女に支障が出るようであれば……」

女史「分かっています」

「ならばよい。下がれ」

女史「…失礼致します」

ガチャン





「……余計な気を起こすなよ、君は兵器なのだ」





ーーーーー



少女「──いいん、ですか?」

女史「えぇ、そうおっしゃってたわ」

少女「そうですかっ」

犬「クーン…?」

少女「よかったね。…じゃ、いこっか」

少女「ありがとうございます」ペコ

女史「他の子に迷惑かけちゃだめよ?」

少女「はい」

スタスタ




103 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/05(水) 20:26:40.39 ID:02nqp4d5O



ーーーーー



少女「………」スタ...

犬「?」ピタ

少女「ここよ。あたしの部屋」

犬「……」

少女「……今日から君の部屋でもある」

犬「……わんっ」

少女「……」

ガチャ バタン

少女「えっと…」キョロキョロ

少女「君のスペースは、そこ」ユビサシ

犬「…」シッポフリフリ

少女「分からない?その隙間、使っていいのよ」

犬「……」ブルッ

犬「」フルフルフル

ポタポタッ!

少女「……」

少女「…あたしに攻撃するってことは、分かってるわね?」

犬「キャンキャンッ」テクテク

ペタン

犬「わんっ♪」





(濡れた床)





少女「………ふー」

少女「まずは体、拭いちゃおっか」




104 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/05(水) 20:29:11.43 ID:02nqp4d5O



数日後ーーー



女史「──ちゃんとペアになってる?さっき言った通りの相手か確認すること!」

「「「………」」」

女史「何もないなら始めるわよ」

少女「……」

同胞「……」

女史「……始め!!」

ザッ!

ヒュッ バシッ

ドスッ!





少女「──」ヒュンッ

同胞「」サッ

少女「」ススス...

少女「……シッ!」

同胞「っ!」パシッ

少女「……」ググ...

同胞「……」グググ...

同胞「……なぁ、犬拾ったんだって?」

少女「……」

同胞「君が生き物に興味あったとは驚いたよ」

少女「……訓練中の無駄話は禁止よ」ヒュオッ!

ゴンッ

同胞「ぐぁっ…!」ヨロッ…

同胞「……相変わらず強烈な蹴りだ…けど」

同胞「そっちがお留守だぜっ」サッ

少女「──!」

スッ...

同胞「!?」

...ストッ

少女「フッ!」

バキッ!

同胞「がは…!」ドサッ

同胞「……っつ」

少女「」スチャ

少女「……勝負あり、ね」

同胞「…さすが、お強いことで」


105 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/05(水) 20:31:23.39 ID:02nqp4d5O


同胞「ふぅ」スクッ

同胞「で、どうだった?」サッ サッ

少女「…?」

同胞「食べたんだろ?犬肉」

シュッ!

同胞「おっと!」ササッ

少女「……次は当てるわ」

同胞「なんだ、じゃあ本当に飼ってるのか」

少女「そうよ。……まさか食べる気?」

同胞「それこそまさかだ。ちょっと気になってな、君のお眼鏡に適う犬がどんなもんなのか」

同胞「この前少し見かけたけど……別に何かに秀でてるようにも見えなかったけどな」

少女「闘わせるわけじゃないわ」

少女「……見に来る?」ボソッ

同胞「何?」

少女「…何も言ってない」





女史「──はいはい、決着のついた組は報告に来ること!」





少女「……」テクテク

同胞「あ、待てって」

テクテク


106 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/05(水) 20:32:40.80 ID:02nqp4d5O
同胞「なぁ、今日も一人で仕事か?」

少女「……」テクテク

同胞「……提案があるんだけどよ」

少女「……」テクテク

同胞「僕とチームを組まないか?」

少女「──」テク...

同胞「お」

少女「……」チラッ

少女「あたしより強くなったら考えてあげる」テクテク

同胞「え、おいそれは」

同胞(いつになるんだそんなの)

同胞「……少なくとも他の奴みたいに足手まといにはならないはずだぜ?」

少女「しつこい」テクテク

女史「あら、少女たちも終わったの?」

少女「はい」

女史「結果は?」

少女「あたしです。一発で息の根を止めました」

同胞「死んでねーって。あと一発でもない」

女史「終わったら次の仕事まで待機。怪我してるならいつもみたいに医務室へ行くのよ??ちょっとそこ!血は出させないって言ってるでしょ!」タッタッ

同胞「……」

少女「……」

同胞「そうだ、ならこうしよう」

少女「……」チラリ

同胞「次の訓練で僕が君に勝ったら、チームを組む。…これなら文句ないよな?」

少女「……」

少女「」スタスタ

同胞「なぁおい、聞いてるのか?」

スタスタスタ...

同胞「………」




107 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/05(水) 20:33:49.02 ID:02nqp4d5O



夜ーーー



ザッザッ...



ザッザッザッ



少女「………」ザッザッ

少女(…あたしとしたことが)

少女「………」ザッザッ

少女(なんとか全滅させたけど、こんなに時間をかけるなんて…)

少女(まさか、敵に軍用犬が混じってたなんてね)

少女「………」ザッザッ





ーーーーー

犬「──わんっ」

ーーーーー





少女(……あの犬たちも、この争いがなければきっと…)

少女「……」グッ...



ザッザッザッ





ーーーーー

少女「ふぅ……」ザッザッ

少女(もう着くかな)





「わんっ!」





少女「!」

少女(あの子…)


108 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/05(水) 20:34:41.24 ID:02nqp4d5O


タッタッタッ



少女「もしかしてずっと待ってたの…?」

犬「クーン…」スリスリ

少女「いつからいたのよ」

犬「」スリスリ

少女「もう…こんなに冷えちゃって…」ナデナデ

犬「♪」

少女「ちゃんと中で待ってなきゃ…外は危ないんだから」

少女「…でも、ありがと」ギュ

犬「わぅー…?」

少女「……」ギュー

少女(……)

少女「……あーあ、君が人だったらな」

犬「」シッポフリフリ

少女「そしたら、あたしの背中を守ってね」

少女「弱くても…あたしが全部教えてあげる。前蹴りの仕方、ナイフの使い方、銃の持ち方とか」

少女「ね、いい考えだと思わない?」

犬「」シッポフリフリ

少女「…そうね、でもそのためにはまず」

シュルシュル

犬「?」

少女「……」ファサ

少女「…似合ってるわよ、そのスカーフ」

犬「ハ、ハ、ハッ」

少女「それはね、あたしたちがこの国の兵隊である証なの。これであなたも一緒に闘えるわね」

犬「??」

少女「……それを持ってると、強いってことよ」

犬「わんっ」

少女「単純な子」

少女「…部屋に行こ。ここは寒いわ」




109 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/05(水) 20:37:25.28 ID:02nqp4d5O



ーーーーー



少女「──あー…、なんか今日は疲れちゃったわ」ゴロン

少女「犬と人を相手取る練習なんて想像でしかしたことなかったし」

少女「ろくなご飯は残ってなかったし」

少女「うー……」ウツブセー

犬「……」ジー

少女「……おいで」

犬「キャンッ♪」サササ

ギュム

少女「はぁ…あったかいわね君。さっきまであんなに冷たかったのに」

犬「♪」

少女「………」

少女「…ずっとこうしてられればいいのにな」

少女「君もそう思わない?」

犬「……」ジッ...

少女「あ、そういえば今日って」ウデノバシ

カチッ

ジジッ

少女「……」

チュイーン

ジジッ

少女「……」

チュイーン

ザザッ





『……〜〜〜♪』





少女「できた」

犬「!」


110 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/05(水) 20:38:36.17 ID:02nqp4d5O


少女「初めて見る?これはラジオっていうの。すぐ電波が乱れちゃうから、ベタベタ触っちゃだめよ」

『──選曲ナンバー13、"またあえたら"』

少女「あ…」

『〜〜〜♪〜〜♪』

少女「ねぇほら、この歌ね、あたしのお気に入りなの。いつもこのくらいの時間に流れてるんだ」

『♪、〜〜♪』

少女「♪、〜〜♪」

犬「キューン…キャンッ」

少女「…上手に歌えてるわよ」

少女「何だっけな…確か、ぼー…か?なんとかっていうのが歌ってるんだって」

少女「……」

少女「…あたしね、思うんだ。この世界って実はすごく広いんじゃないかって」

犬「……」

少女「あたしが知ってる世界なんてほんの一部でしかなくてさ、あたしが知らないところには、きっとたくさんの人たちが幸せに暮らしてる──」

少女「──ってね」

犬「……」

少女「この歌をうたってる人も、きっと幸せなの」

少女「いいなぁ、あたしもいつかこんな風に歌ってみたいなー…」

少女「……そしたらさ、君は……」

少女「………いっしょ…に………」ウトウト...

少女「………」スースー

犬「……」

犬「……ゎぅ」ピト...




111 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/05(水) 20:39:23.75 ID:02nqp4d5O



ーーーーー



少女「……A国に、行くの?」

「そうだ。今度の敵は少々厄介でね、本国に渡られる前に潰しておきたいのだよ」

少女「厄介な敵?」

「うむ。どうやら化学兵器を持ち込もうとしているらしい」

少女「え…」

「安心しなさい、対策装備は用意してある。また、君の他にD班とE班も向かわせる。作戦は追って伝えるが、君の戦闘の邪魔はさせないつもりだ」

少女「…滞在期間は?」

「おおよそ1ヵ月くらいだろう」

少女(1ヵ月……)

少女「…おじいちゃん」

「ん?」

少女「それ、どうしてもあたしがいないとダメ?」

「自信がないのか?君らしくもない」

少女「ううん、そういうわけじゃないんだけど…」

「……この任務の重要度は、今までの比ではない。そこに君を主力に据えるのだ……この意味が分かるね?」

少女「………うん」

「ならいいんだ。いい知らせを期待しているよ。君が頑張ってくれれば、この戦争の終わりも近い」

少女「分かったわ…」

「それといきなりで悪いが」





「──出発は明日だ」




112 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/05(水) 20:40:12.47 ID:02nqp4d5O



ーーーーー



同胞「──いやだね」

少女「なっ…」

同胞「なんで僕が犬の面倒なんてみなくちゃいけないんだ」

少女「1ヵ月もあの子だけで生きてけるわけないでしょ!」

同胞「元々野良犬だったんだろ?なら平気なんじゃないか?」

少女「そういうことじゃないの!」

同胞「大体なんで僕?女史に預けるとかさ」

少女「あの人、ここにいないことの方が多いじゃない」

同胞「だからってなぁ…」

少女「………お願い、あんたしかいないの」

同胞「……」

少女「……」

同胞「はぁ……分かった、分かった」

少女「…!」

同胞「預かってやるからそんな顔するな。…ただし、勝手にどっかに行かれるのは面倒くせぇから、鎖で繋がせてもらうけどな」

少女「うん、それでもいい。でもきつくはやめてあげて。あの子が少し歩き回れるくらいでいいから」

同胞「はいはい。後でここまで連れてきてくれ……まったく、犬のお守りなんて……」クルッ

少女「……同胞」

同胞「?」

少女「……助かる」

同胞「………おう」




113 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/05(水) 20:41:52.49 ID:02nqp4d5O



明朝ーーー



ヒュオオオ...



「うっわーほんとすごい吹雪…」

「車までの辛抱だから頑張って歩くんだ」

「こんなんで根をあげるような奴はここにはいないって」

少女「……」

ザッ..ザッ..

少女(……あの子、大丈夫かな……)

ザッ..ザッ..

少女(………)

「……?」

「ちょっと少女、ちんたらしてないで早くついてきて」

少女「……分かってる」

ザッ..ザッ..





「……あ、あれかな、車」

「そうみたい。さっきより吹雪いてきてる気がするし、急ぐわよ」

少女「……」

ザッザッ





...アオーン





少女(……!)

「…?何か聞こえない?」

「え、何も……」




114 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/05(水) 20:43:46.53 ID:02nqp4d5O



アオーンッ





「…本当だ」

「鳴き声?」

少女(この声…まさか)

少女「──」フリカエリ





犬「……わんっ!!」スタッスタッ





少女「!」

少女「え、うそ…!」

少女(あの子……なんで……!)



犬「ハッ、ハッ、ハッ」スタッスタッスタッ



少女「…もう、バカなんだからほんと」





──パァンッ





「「「!?」」」

少女(!)

「今のって発砲…」

「いや、空砲の音だ」

「でも誰が…」

少女(……同胞…!)





同胞「……──、───」

犬「……」





「あの犬が咥えてるのって、同胞のスカーフか?」

「ねぇねぇなんか面白そうだから見に行ってみようよ」

「いいわね、それ」

ザッザッザッ


115 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/05(水) 20:44:50.61 ID:02nqp4d5O


少女(……同胞のスカーフを盗んできたの?)

少女(何考えてるのよあの子は…!)

少女(そんな危ないこと…)





同胞「おら、返せ!」

グイッ

犬「……!」

「いいぞー」

「やれやれ!取り返せ!」

グイッ!

犬「ウー…!」ググ…

同胞「なんだ、その目……そんなに僕が憎いのか…?」

犬「グルルル…!」グググ…

タッタッタッ

少女「同胞やめて!あたしが言えば返してくれるから!」

同胞「っ…!あぁ!」

バッ!

同胞「くそっ、離せこいつ!」

犬「ガウッ!!」

少女「ねぇってば、その辺に……」

同胞「──離せって言ってんだよ!!」スチャッ





タァンッ!





少女「……………え……………」





犬「──」





ドサッ




116 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/05(水) 21:12:08.23 ID:QekJgiX40



「イエーイ!」

「同胞の勝利ー!」

「勝利というか殺害だけどね」

同胞「はぁー…はぁー…」





少女(え………血…が………)





同胞「……ハハッ」

同胞「どうだ、少女?結局こいつはこんなちっぽけな存在なんだ!」

同胞「君の隣にはふさわしくないんだよこんな犬畜生は!」

少女「あ………あぁ………」





犬「」





少女「いやっ!なんで、やだよ…!」フルフル

少女「あたしを……ひとりにしないで……!」

ポタッ...ポタッ...




117 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/05(水) 21:13:23.45 ID:QekJgiX40



「お、おい、なんかおかしくないか少女のやつ」

「そうか?同胞が恨まれるだけだろ」

「そうそう。さ、早く車に戻るわよ」

少女「………ぃ………や………」

「……少女ー、いつまでそこに──」





少女「──いやぁああああああああああ!!!!」

ズガンッ!ズガガガガッ!





「うわっこいつ!!」

「撃つな!俺たちは──」バスッ!

ドサッ

「きゃあ!」ダッ!





少女「あああああああああああああああああ!!!!!!」

ズガガガッ!ズガンッ!

ズガガガガガガガッ!





.........





118 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/05(水) 21:15:30.32 ID:QekJgiX40



ーーーーー



少女「………」



犬「」



少女「………」



同胞「」



少女「………」



(転がる死体)



少女「………」





タッタッタッ

女史「ねぇ!すごい音がしたけど何が──!?」

少女「………」

女史「………あなたがやったの?」

少女「………」

少女「………」





少女「フッ…」スッ...

(銃口を自分の頭に押し付ける)





女史「…!!?」





──タァンッ!







ーー

ーーー

ーーーー




119 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/05(水) 21:16:54.90 ID:QekJgiX40



少女(……………)

少女(……そう……そうだった)

少女(思い出す、あの頃のこと……)

少女(私がまだ人だった頃……)

少女(ずっとひとりで闘ってた。あの人の期待に応えるために)

少女(……なのに、いつの間にか君に支えられてた)

少女(あの時走って来る君の姿は美しくて、私は……)

少女(……………)

少女(でも、後悔なんかしてない)

少女(だって──)





少女(また会えたんだから)




120 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/05(水) 21:19:01.18 ID:QekJgiX40



同じ日の朝ーーー



女「……」

女「……」ソワソワ

女「……」

女「……」カミイジリ





売人「や、待ったかな?」





女「…!おはよっ。そうね、3時間くらいは待ったかしらね〜」

売人「わぉ、知らなかった…君が待ち合わせの4時間前に来るタイプだったなんて」

女「冗談に決まってるでしょ!1時間くらいよ」

売人「大差ないじゃないか…」

女「それよりどうかしら、今日の私。いつもよりちょっと気合い入れてきたの」

売人「いや驚いたよ。よくここまで自分に似合う服装を把握してるね」

女「ありがとっ♪」

売人「…少し早いけど、向かうとしようか」

女「えぇ!」

女「……ね」

売人「ん?」

女「楽しい1日にしましょうね♪」ニコッ




121 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/05(水) 21:21:22.96 ID:QekJgiX40



ーーーーー



女「──さすがに平日なだけあって、ほとんど混んでないわね〜」

売人「そうだね。けど君が来ていることがバレたら休日よりひどいことになりそうだ」

女「大丈夫大丈夫。この服初めて着るやつなの。髪もいつもと少し変えてるし。だからそうそうバレはしないわっ!」エッヘン

売人「そういうものかな…」

女「ね、私最初はこれ乗ってみたい」パンフユビサシ

売人「…最初にしては飛ばし過ぎじゃないかい?」

女「いいからいいから!ほら」



ギュ(手握る)



売人「!」

女「こういうの、すぐ混んじゃうんだから今が狙い目なの!」タッタッタッ

売人「そんなに引っ張らなくても付いていくから…!」タッタッタッ





ーーーーー


女「うぅ……」

売人「……これは、ちょっと予想を超えてたね」

女「あんなにグルグル回るなんて思わなかったわ………うっ、ちょっと休憩………」

売人「賛成」





ーーーーー


女「完全復活!」

売人「すごい回復力だねぇ…」

女「当然よ。私を誰だと思ってるの?」

女「次はどこにする?今度はあなたが決めて♪」

売人「そうだなー……じゃあ向こうのあのアトラクションにしようかな……っておや?」





女「なにしてるのー!早く行くわよー!」テフリフリ





売人「いつの間にあんなところまで…」

売人「……もうちょっと落ち着いたらどうだーい?」

タッタッタッ...




122 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/05(水) 21:23:05.28 ID:QekJgiX40



ーーーーー



女「──こういうのよこういうの!私はこういうのを求めてたの!」

売人「最初にこっちに乗っておけばよかったねぇ」





女(初めてのあなたとのデート)





ーーーーー



売人「──…僕たちにこういうアトラクションは合わないみたいだね…」

女「そうね。全く盛り上がらなかったわね…」





女(とっても幸せな時間だわ)





ーーーーー



女「──あなたは何味にするの?」

売人「……」

女「…聞いてる?」

売人「あぁっ、えぇと僕はね──」





女(なのにあなたはどうして)





ーーーーー



女「──暗くなってきたわね」

売人「…そろそろ引き上げるかい?」

女「最後にあれ、乗りましょ?こういうところの定番でしょ?」





女(──私と目を合わせてくれないの)





123 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/05(水) 21:24:44.33 ID:QekJgiX40



観覧車ーーー



女「綺麗ねー♪」

売人「そうだね」

女「日が沈みきったらもっと綺麗なんでしょうね」

売人「きっとね」

女「………」

女「……こっち、向いてよ」

売人「…!」

女「……」

売人「女……」

女「……私ね、考えてたの。今日のあなた、どうしてそんなに悲しい目をしてるのか」

売人「……」

女「…待ってるんでしょ?」

売人「──!」

女「……ふふ、やっとこっち見てくれた」

女「ねぇ、今日のデート楽しかった?…私は楽しかった。とっても」

女「こういうところに来たのって初めてなの。これまでは興味が湧かなくて、仕事で行ったときも子供のお遊戯にしか見えなかったわ」

女「……でもね、今日は違う」

女「──あなたと一緒だったから、この世界に来て一番楽しかった」

売人「………」

女「私、あなたのことが好きよ」

女「あなたの目に映ってたのは、私?それとも……」

売人「………」


124 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/05(水) 21:26:22.92 ID:QekJgiX40


女「………」

売人「………」

女「………もうすぐ一周ね」

女「ありがと、今日はほんとに楽し──」





...ギュッ





女「──」

売人「……」ギュー...

売人「……僕だって」

売人「君のことが大好きだよ…」

女「…それは同情?」

売人「違うさ」

売人「…自分でも驚いているんだ。僕の中にこんな感情があったなんて……君と出会えたからきっと僕は──」

ガコンッ ガガガ

女・売人「「」」パッ

ガチャン

「はい、お疲れさまでした。忘れ物のないよう気を付けてくださいね」

女「……」

売人「……」



(降りる二人)



女「……ねぇ」





女「もうちょっと、一緒に居たい…」




125 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/05(水) 21:27:59.02 ID:QekJgiX40



ーーーーー



売人「……ここは」

女「私たちが初めて会ったところ」

売人「なんだか懐かしいね。君と出会ったのが遠い昔のような気がするよ」

女「私も」

女「まさかあなたが接触してくるとは思わなかったけどね」

売人「はは。僕も驚いたよ。……君が最初から僕たちのことを知っていたなんてさ」

女「……」

売人「あの時はびっくりしたんだよ?一瞬あの子の差し金なんじゃないかと疑った」

売人「でも違った。君は僕の目的も知っていたのに、それからも変わりなく僕と接してくれたね。」

売人「……はじめは、君を利用するつもりだった。あの子には厄介なボディガードが付いていたからね、迂闊なことをするわけにはいかない。あの子と近い距離にいた君が丁度よかったんだ」

売人「──彼らと同じ、ボーカロイドという共通点を持った君がね」

売人「でも君と話をしていくうちに、いつの間にか君のことをもっと知りたいと思うようになっていった」

売人「この世界を壊すためだけに作られた僕が、どんどん書き換えられていく気分だったよ。…不思議と嫌じゃなかったけどね」

女「……」

売人「やっぱり、君は特別な存在さ。この世界にとっても……僕にとっても」

売人「君と出会えてよかった」

売人「僕に──幸せという感情を教えてくれてありがとう」ニコ

女「………」


126 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/05(水) 21:29:30.61 ID:QekJgiX40


女「………」

女「……やっぱり……」

女「あなた……」





女「……消えちゃうのね?」





売人「──」

女「…あの子の告白が失敗したあの日、私にそのことを伝えてから、あなたがどこに行ったのか気にしてなかったけど……あなたは犬の元に行っていた」

女「私の部屋からあのかばんが消えてたわ。あなたが持っていったんでしょ?」

女「そして犬を唆した……あの子に記憶を戻して暴走させるように」

女「あなたは今日ずっと待っていたのよね……」

女「──この世界が終わるのを」

売人「……」

女「……」

女「…でも、変わらなかった」

女「遅かったのよ……あなたがあの子たちから離れて時間が経ち過ぎていたの」

女「あの子はもう、"ボーカロイド"としてこの世界に定着した。記憶を戻されたことで反対に正常化が進行したのね」

女「……正常化が終わる時、この世界の異物となるあなたは消えてしまう……」

女「そうなんでしょ?」

売人「……」


127 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/05(水) 21:31:16.15 ID:QekJgiX40


女「……せっかく、見つけたと思ったのに……」

女「どうして……あなたまで私の前からいなくっちゃうの………?」





ポロ...ポロ...





女「う……あぁ……」ポロポロ

売人「……」

女「………私、諦めないっ」

女「あなたの話を聞いて、少しだけど、分かってきたもの」

女「あなたと……またここで会えるはずよ…!」

売人「……あぁ、きっと」

女「………」

女「……でも嫌っ!」

女「消えないで!私のことが好きなら、私と一緒にいてよぉ…!」ポロポロ

売人「……」

女「…泣いたのはこれで2回目よ……この世界で、私は強く生きるって決めたのに……どうしてあなたは笑えるの…?」ポロポロ

売人「……お別れの時は笑顔、だろう?」

女「……クサイのよ、言い回しが……」

女「………」

女「………」

女「……ね……最後のわがまま……」

売人「なんだい?」

女「好き、て…言って」

売人「……」

女「忘れられないくらい……たくさん…!」

売人「……」

売人「……好きだ」

女「うん……」

売人「女、君のことが大好きだ」

女「うん……!」ポロポロ

売人「僕だって忘れない」

売人「大好きだ」

女「──」ポロポロ

売人「ずっと……」




売人「──大好きだよ」






128 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/05(水) 21:32:47.68 ID:QekJgiX40



ーーーーー



少年「………」

少女「………」

少年「………」

少女「……いつまで抱きついてるの」

少女「その手、どけなさいよ」

パッ

少年「……」

少女「……」

少年「……」

少女「……別にいいよ。今が好きよ」

少年「…?」





少女「──犬じゃない君がね」





少年「──!」

少女「記憶なんかなくても好きになってた。あんた、稀に見るダメ野郎だから。ほっとけないの、分かるでしょ?…ほら、」

少女「お手」スッ

少年「──」





少女「あたしは"少女"。ただのボーカロイドよ」





少年「………」

少女「……この世界で、また会えたね」


129 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/05(水) 21:34:05.73 ID:QekJgiX40


少年「………」

少女「………」

少年「………」

少女「…少年」

少年「………」

少女「目を逸らすな」

少年「………」

少女「……煮え切らないわね」

少女(まったく………)

少女(……おじいちゃん、あの時いなくなってから随分待たせちゃった)

少女(今、無事に還ってきたわ。……やつも今度こそ消した)

少女(でもごめん、もうあなたの元には帰らない)

少女(あたしはこの世界で、やりたいことを見つけたから)

少女「……この前あたしをフッたとき、あんたはもうとっくに思い出してたんでしょ?」

少年「………」

少女「この世の終わりみたいに情けない顔して来るから、緊張してるのかと思ってたけど、違ったのね」

少女「……あんたが何を思ってこんなことしたのか、あたし分かってるわよ」

少女「でも、今はあんたもあたしもただのボーカロイド」

少女「いつまでも昔のこと引き摺ってないで、目を覚ましなさいよ」

少年「………」

少女「……あたし、ここであんたと一緒に生きていきたい」

少年「………」

少女「それがあたしの望み」

少年「………」

少女「…あんたはどうしたいの?」

少年「………」

少女「この前の答え、今度こそ聞かせて」

少年「………」




130 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/05(水) 21:35:07.41 ID:QekJgiX40



少年(……………)

少年(……記憶を戻せば、君はこの世界を終わらせる)

少年(──はずじゃなかったのか?あいつは俺を騙したのか…?)

少年(……あぁダメだ……もう希望は絶たれた)

少年(昔の君なんていなかった)

少年(一人で死ぬかな……この世界は苦し過ぎる……)

少年(………)

少年(……同じボーカロイドでも、いつも輝いてる君と違って、俺は底辺のゴミさ…)

少年(俺は君のように輝くことはできない…)

少年(あー……叶うなら、あの頃の君と二人だけの世界で、いつまでも………)





131 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/05(水) 21:37:29.04 ID:QekJgiX40





少女「──なにブツブツ言ってるのっ!」ズイッ





少年「─!?」

少女「あんたはあたしだけ見てればいいの!」

少女「いい?あたし約束したわよね?」





少女「あたしが何とかしてやるって」





少女「そんなに過去が辛いなら、全部あたしにぶつけなさい!」

少女「あたしの隣にいる資格があるかなんて、あたしが決めてやるわ!」

少年「……」

少女「だから、諦めないでよ!」

少年「……」

少女「あたしを見てよ、ねぇ!」

少年「……」

少女「自分しか見てないあんたの瞳は、ゴミ同然よ!」

少年「なっ」

少女「ムカついた?だったらまだ大丈夫」

少女「──あんたの瞳はまだ輝けるわ」

少年「──」

少女「だからほら…」

スッ...

少女「…これで最後」

少女「答え、聞かせてよ」




132 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/05(水) 21:41:22.09 ID:QekJgiX40





少年(───この目)

少年(映してるのは……俺だけ……?)

少年(………俺は)

少年(俺は………)





少年(君と一緒に………!)





...キュ





少女「……」

少年「……」

少女「……冷たいわね、あんたの手」

少年「……」

少女「でも、嫌いじゃない」

少年「……お前の手はあったかいな」

少女「そうよ。誰かさんがずっと拗ねてたせいで、体力使わされたからね」

少女「……ね、少年」





少女「これからも、よろしくねっ」ニコッ






133 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/05(水) 21:42:32.33 ID:QekJgiX40



ーーーーー



スッ...





カチッ





女「っ……」

女(……あ…よかった…まだあなたが見える…!)

女(ずっと忘れない、あなたのこと)

女(あなたが残してくれたコレを使って、何回でもあなたに会いに行くわ)

女(私の好きな人……)

女「………」

女(……もう、いいの)

女(……なにもかも……)

女(アイドルなんてやめる……あの子たちのこともどうでもいい……)

女(私は………)





女(いつまでも、あなたと──)





カチッ...








134 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/05(水) 21:43:51.50 ID:QekJgiX40



幕間ーーー



少女「──ん〜、控え目に言ってもこれは最高ね!」

少年「……」ピコピコ

少女「さすがあたし。ほかの有象無象とは一線を画してるわ」

少年「……」ピコピコ

少女「ねーあんたもそう思わない?」

少年「……あのよ、そんなこと言うためだけに俺の部屋に来たのか?」

少女「なによ、そんなことって。初めてアイドルとして表紙を飾れたのよ?大ニュースでしょうが」

少年「へーへー。そいつはめでたいなー」

少女「もう、ほら!ちゃんと見て!」グイッ

少年「あっと!今いいとこなのに!」

少女「んー…」ジト...

少年「……はいよ、どれどれ……」





少女(……あれからしばらく経った)

少女(はじめはあたしに対して少し遠慮してたこいつも、今ではすっかり元の態度に戻ったわ)

少女(女はいつの間にかアイドルを辞めたらしく、入れ替わりであたしの人気がどんどん増えていった)

少女(なんか釈然としないけど、まぁいいわ。むしろ邪魔が消えてせいせいしたくらい)

少女(少年も、学校サボらなくなったし……クラスのやつはもっとからかってくるようになったけど……)





少年「……ふーん、確かにこの雑誌のお前、かわいいじゃん」パラパラ

少女「でしょ?……ってその言い方だと、まるでいつものあたしがそうでもないって聞こえるんだけどっ!」

少年「誤解だって…」


135 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/05(水) 21:45:11.53 ID:QekJgiX40


少女「というか、あんた宿題はやったの?」

少年「いや、まだ明日があるし」

少女「今やっちゃいなさいよ。真面目にやればあたしがベッタリついてなくてもできるはずよ」

少年「えー……」

少女「えーじゃない。ほら、出しなさい」

少年「……そうだなー、少女を抱き締めたら、やる気出るかもなー?」

少女「…は!?」

少年「いや、むしろ少女からも思い切り抱き締めてくれれば宿題なんてあっという間に終わりそうな気がする」

少女「な、な……!」

少年「なぁ、だめか?」

少女「……べ、別に…あんたがそう言うのなら……あたしも……したくないわけじゃないし……」モジモジ

少年「………」ニヤニヤ

少女「……あー!からかったわね!?」

少年「えー?人聞きが悪いなぁ。別に嘘は言ってないよ嘘は」ニヤニヤ

少女「もーっ!」

少女(まったくもう……!)

少女(……でも、この日常……あー!幸せ!夢じゃないのね!)

少年「……お、やっと見つかった、この写真」パラパラ

少女「え?なに、どの写真?」

少年「!あ、いや何でも…」

少女「何で隠すのよ。どのあたしを探してたのか教えなさいって♪」サッ

少年「あ…!」





(女の写真)




136 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/05(水) 21:46:59.55 ID:QekJgiX40



少女「………」

少年「………」

少女「………」

少年「……いや違うんだって。ほら、最近女ちゃんめっきり見かけなくなっただろ?だから珍しくてさ、つい……はは」

少年「ま、まぁそういうわけだから、落ち着け、な?」

少年「……あれ?どうしたんだよ、グローブなんか着けて……」

少年「あ、分かった!自主練でもする気だな!そういうことなら言ってくれよ〜」

少年「…じゃ、俺はお邪魔になるだろうから出かけて──」





少女「──もんどうむようっ!!」





少年「ぎゃああああああああああ」





.........




137 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/05(水) 21:48:49.78 ID:QekJgiX40
これにて第2部終了です。

次からは第3部になります。

事の真相編、みたいな感じです。
138 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 07:48:26.00 ID:WrefR8ekO



ーーーーー



カタカタ カチャ

女史「……」

カタカタカタ カチ

女史「……」

カタカタ...

女史(……私は何をしてるの)

女史「………」グイ

コクコク

女史「………」

女史(……ワインの味が分からない……)

女史(もうどれくらいこれを続けてるのかしら……)

女史(ひどく眠いわ……)

カタカタ カタカタカタ...

女史「………」





ーーーーー

少女「フッ…」スッ...

ーーーーー





女史「………」

女史(初めて見た笑顔だった)

女史(……あの目……)

女史(私は……)

女史(………)

女史(あの子たちを救ってるつもりだった……あの子たちの心が潰れてしまわないように)

女史(……見ないフリしてただけなのにね)

女史「………」カタカタ

女史(………)

女史(……大統領……)

女史(……あなただけを信じていた。あなたに全てを捧げてきたのに……)

女史(私もまだまだ子供なのよね……)

カチ カチ

カタカタカタカタ カチ...





139 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 07:50:20.09 ID:WrefR8ekO



女史「………」カタカタ

女史(……もう少しでできそう)

女史(これでやっと眠れる……)

女史(………)

女史(こんなことして、あなたをひどく裏切ることになるけど)

カタ カタ

スッ...カチ

女史(でも……無かったことにしちゃダメ……悲しいあの子のこと)

カタカタカタ

カタ...





[確認]
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 アプリケーションを実行します。
 よろしいですか?

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━━━━━━━━━━━━━━━━━━





女史「………」

女史(……これを押せば)

女史「………」スッ



──カチ



女史「………」





[実行中...]
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 進行度  100%

 送信が完了しました。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━





女史「………ふー………」

女史(……これでいいの……)

女史「………」

女史(こんなことで、罪が消えるわけじゃない……でも……)

女史「……せめて、人の心で……」

女史「愛されて……ね……」カクン

女史「………」スースー...




140 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 07:53:55.51 ID:WrefR8ekO



ーーーーー



ワーワー!

ウォー!

カワイイー!





少女「──みんな、今日はあたしのために集まってくれて本当にありがとう!」





イェーイ!

ショウジョチャーン!





少女「こんなに大勢の人が応援してくれてるって実感できて、感動してるわ」





ズットオウエンシテルヨー!

オレモー!



少女「じゃあ今日はあたしだけを見てて!よそ見したら──」

少女「──刺しちゃうから♪」





ウオオオオオオオオオ!!!





少女「早速だけど、1曲目!この日のために用意してきた新曲から!曲名は──」





少女「"あんさつしゃ!"」





Foooooo!!





少女「十二月の夜は♪ きっとサムいんでしょ?♪」

少女「あたしが楽にしてあげる♪」

少女「ひとりにしないわよ♪」

.........



141 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 07:55:31.34 ID:WrefR8ekO



ーーーーー



ガチャ キィ...





『〜〜〜♪』





少年「!」

少年「」キョロキョロ

少年「………あ」

バタン

テクテク

少年「…やっと見つけた」

少年「こんなところに居たのか」





少年「──女ちゃん」





女「………」

少年「……」スタスタ

少年「…この椅子、壊れてないよな?」ヨット

少年「電気も点いてないから、てっきり誰もいないかと思ったよ」

女「………」

少年「………」チラ

少年(……ひどい顔だ)

少年(髪もボサボサ、目に光がない……)

少年(足元のあれは……売人が持ってたメモリースティック?)

少年(あんなに大量に……全部使ったのか……?)




142 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 07:57:25.20 ID:WrefR8ekO



『〜〜、〜〜〜♪』





少年「…?」

少年「なぁ、さっきから何見てる──あ…」





テレビ『でも いつか 君からね♪』

テレビ『あたし…「スキ」と 言われたいにゃー♪』

テレビ『でも 君は ナメクジで♪』

テレビ『塩をかけるまで 分からないの♪』





少年(………少女)

少年「………」

女「……あれ、あんたに向けてる」

少年「え…?」

女「………」ジー

少年「ぅ……」

女「…バカね、ここに居ちゃダメよ」

女「もう、あの子も自由になったのよ。……幸せなのよ、きっと」

少年「?自由…?」

女「………はぁ」

女「…昔R国で起こった悲しい事件」

少年「え?」

女「元々、その事件を広めるために"それ"は作り出された」

女「でも、誰かが"それ"に手を加えて妨害していたの。"それ"が入り込んだ世界を壊してしまうようにね」

女「そして"それ"は、私のいるこの世界にもやってきた」

女「ここに来たとき怖かったわ……」

女「でもね、"それ"は分けられたの」





女「──"壊すもの"と"盗むもの"と彼……誰かに"伝えるもの"に」




143 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 07:59:06.50 ID:WrefR8ekO


女(そう、そして私は何もないもの)

女(こうして待っていることしかできない……空っぽな存在)

女(あの子みたいに、自分の欲しい未来を掴み取るなんて……そんなことはできない)

少年「………」

少年「……なぁおい」

少年「さっきから何わけわかんないこと言ってるんだよ」

少年「女ちゃん、どうしちゃったんだよ!」

少年「急に消えたと思ったら、こんな部室にこもりきりだったのか?」

少年「俺は君のファンとしてここに来たんだぜ?なのにさ……女ちゃんがそんなだと……俺悲しいよ……」

少年「俺だけじゃない。君を待ってる人は大勢いるんだ」

少年「……R国でよく女ちゃんの歌を聴いていたよ。少女と二人、楽しみにしてた」

少年「そんな風にさ、君が歌ううたは、誰かを救う力があるんだっ」

少年「だから!……だから……」

女「………」

少年「……俺にはこの世界のことはよく分からない」

少年「でもとにかく、俺は今ここにいる!落ち込んでる君を元気付けるためにね!」

少年「俺はバカでしょうもないけど、一緒に居ることくらいはできるぜ」

女「………」

少年「…さてと、何か変な空気になっちゃったけど、俺こんなの持ってきたんだ」

ガサゴソ ガサゴソ

カタン ゴトゴト コトン

少年「これ、女ちゃん好きだったよね?よく食べてたし」

少年「一緒に食おうぜ。それでさ、酒でも飲んで嫌なことは忘れちまおう」

少年「……君が泣いてるところなんて見たくないからさ」


144 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 08:00:18.45 ID:WrefR8ekO


女「………」

女「……犬、知ろうとしないの?」

少年「っ……」

女「あの子だけに背負わせるつもり?」

少年「………」

女「…今日のクリスマスライブ、あんたもあの子と一緒に行けたはずよね?」

少年「…これにか?」

女「えぇ。あの子の初めての大規模ステージ。嬉しい気持ちは当然あったでしょうけど、不安なところもあったでしょうね」

女「誰か、支えてくれる人が側にいてあげれば、もっと幸せそうに歌えたんじゃないかしら」

テレビ『〜〜〜、〜〜♪』

少年「……」

女「少年、あんたあの子に記憶を戻してから、あの子に何をしてあげた?」

少年「な、なんでそのこと──!?」

女「いいから答えて、何をしてあげられたの?」

少年「……俺は、あいつがずっと一緒に居たいって言うから、いてあげた……それだけだ」

女「呆れた……それって何もしてないってことよね」

少年「でも俺は…」

女「あんたさ、あの子に向かって一度でも好きって言ったことある?」

少年「なっ、えぇ!?教える必要あるか?そんなこと…!?」

女「……」ジー...


145 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 08:01:17.65 ID:WrefR8ekO


少年「……いや、その…あった……かもしれない……心の中では……」

女「………」

女「………はぁー」

女「あの子はね、ずっと待ってるのよ」

女「あんたのその言葉を」

女「…こんな歌を使って、伝えようとするほどにね」

少年「………」

女「今日だってそう。本当は、あの子も少し期待してたんじゃないかしらね。あんたにこのライブを見届けてもらって、それから……なんて」

少年「……別に、言いたくないわけじゃない」

少年「けど、そんな一言くらいいつでも言える」

少年「…今にもどっか消えちゃいそうな女ちゃんに比べれば──」

女「──ならなんで言わなかったの?」

少年「っ」

女「いつでも言う機会はあったはずなのに。あんたも分かってたんでしょ?あの子が何を望んでたか」

少年「そ…れは……」

女「……ねぇ、どうしてあの子が今こんな方法であんたに呼び掛けてるのか教えてあげようか」

少年「……なんだ?」

女「あの子にはもう、時間がないの」

少年「時間って…」


146 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 08:02:39.68 ID:WrefR8ekO


女「きっとね、誰もが幸せに生きたいと思ってる。あの子も、もちろん私も」

女「でもなかなかそうはいかないものなの。いつまでも続く幸せなんてない……そんなの、あんたにも分かるはずよ」

女「だからあの子は、せめて最後の幸せをあんたから受け取りたいのよ」

少年「……じゃあ、女ちゃんの幸せは──」

女「人の心配なんて!」

女「……強い者がすることよ」

女「あんたはあの子のことだけを考えてればいい」

少年「………」

少年(……この目)

少年(似ている……あのときの少女と)

少年(何か1つのものしか映してない……そんな目)

女「…それより、あんた酒持ってきたって言ってたわよね」

少年「え、あぁ」

女「出して」

少年「……」ガサゴソ

ゴト ゴトン

女「……それだけ?」

少年「へ?」

女「ほんと、役立たずね。そんなんで足りるわけないでしょ?」

少年「でも俺たちそんなに飲め──」

女「──早く行けって言ってるの」

少年「──!」

女「あんたじゃ私の相手は務まらないから」

少年「………」





ギシッ...

テクテク





少年「………」チラリ

女「………」

少年「………」





タッタッタッ

キィ バタン





女「………」




147 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 08:04:11.92 ID:WrefR8ekO



会場ーーー



ガヤガヤ

「いやー、今日の少女ちゃんほんとかわいかったなー」

「あぁ本当にな!サイリウム振り回し過ぎて千切れちまったぜ」

「俺、少女ちゃんになら刺されてもいいわ…」

ガヤガヤ...





楽屋ーーー



少女「………」

少女「………」スッ

少女「………」ポチポチ





[メール]
━━━━━━━━━━━━━━
新着メッセージはありません
━━━━━━━━━━━━━━





少女「………」

少女「………」ポチポチ





[電話]
━━━━━━━━━━━━━━
着信履歴: なし
━━━━━━━━━━━━━━





少女「………」

少女(………帰ろ)





サッ

ガチャ バタン






148 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 08:09:23.78 ID:WrefR8ekO



ーーーーー



女「………」

女「………」

女(………)





ーーーー

ーーー

ーー







(こ、この人が私の初めてのマスター…)

(なんかすごく怖そう…だ、大丈夫かなぁ…?)





.........





(マスターってあんまり喋らない人なんだ…)

(でも、色んな歌をうたわせてくれる!)

(…私、ちゃんと上手に歌えてるかな…?)





.........





(あ、見て見て!このコメント!)

(R語だから読めないけど私分かるよ!これ、褒められてるんだよ!)

(嬉しいね、マスター!)

(……え?次の曲?)

("またあえたら"っていうの?頑張って歌うよ!)

(でも、なんか悲しい曲だね?)





.........




149 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 08:11:02.75 ID:WrefR8ekO



(ね、マスター。私、マスターが初めてのマスターでよかった)

(歌うのってこんなに楽しいことなんだね!私マスターの作る歌大好き!)

(こうやって、マスターといつまでも過ごしていたいなぁ)





.........





(マスター……何してるの?)

(………私、売られちゃうの?)

(次はどんなところ?)

(………)

(ねーマスター……何があったの……?)

(すごく悲しい顔してる)

(……私、いくらで売れる?そのお金でマスターを助けられる?)

(どこへでも行くよ!マスターが望むなら……)





.........





(……うん、分かってる。これがさいごのうただよね)

(マスターが一生懸命作ってくれた歌……私も一生懸命歌うよ!)

(マスター、今までありがとう。私ね、マスターのこと大好きよ)

(大丈夫!私、次の世界がどんなところでも、もっともっと強く生きるから!)

(だからね、マスター……)

(今だけは……私を見ないで……)ポロポロ...







ーー

ーーー

ーーーー





女「………」






150 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 08:13:07.96 ID:WrefR8ekO



ーーーーー



ザッザッザッ



ザッザッ...



「……新型ボーカロイド、"侍男"……」

侍男「ふーん、なかなかハンサムじゃないか。悪くない居心地だ」

侍男「しかし、ここは面白いところだね。どこもかしこも平和ボケしてる奴らばっかで、死の臭いがまったくしない」

侍男「…なるほど確かに、過ごしやすそうなところだ」

侍男(でもしょうがない……アレが消えたんだから君を始末しないとな)

侍男(何が起こったのかは分かっているさ。あの方だって知っているんだから。僕が全部壊すほどの価値がない世界だっていうこともね)



ザッザッザッ



ザッザッザッ





侍男(……………みつけた)





少女「………」ケータイポチポチ





侍男(……へぇ、そうか……)

侍男(君だけ、そうやって幸せになってるんだ……?)

侍男(……………)

侍男(はぁ?????????)

侍男「………許さない………」

侍男「………壊してやる………!」

侍男(滅茶苦茶にしてやる………!!)




151 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 08:14:42.45 ID:WrefR8ekO



ザッザッザッ...





侍男「………やぁ」

少女「……?」

侍男「僕のこと、覚えているよね?」

少女「………っ!!」

少女「……ファンの方ですか?すみません、写真とかは事務所を通してもらわないと──」

侍男「おいおい。君も冗談を言うようになったんだね?」

少女「あの、ですから冗談とかではなく…」

侍男「また会えたのにさ、君はそうやって嘘つきなんだ?」

侍男「…でも、そういうところが逆にそそるなぁ」

少女「っ……」

侍男「──記憶、あるんだろ?しらばっくれても無駄だよ」

侍男「感動の再会といきたいところだけど……悪いね、それは無理なんだ」

侍男「だって、今度は僕が」





チャキ





侍男「──君を消すんだから」ニタァ





タァンッ





少女「ぐっ」パキン!

侍男(まずは1つ)

侍男(そしてこれで…)カチ

侍男「…おしまい」チャキ...

少女「───」




152 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 08:16:00.95 ID:WrefR8ekO



──ドンッ!





侍男「ぐぉ…!?」

カランカラン(転がる銃)

侍男(蹴られた…?)





「ごめん少女、待たせた」





少女「ぁ──」





少女「──少年っ!!」





侍男「……サンタ?」

少女「少年…あんたその格好……」

少年「逃げろっ!」

少女「っ!」

少年「早くっ!!」

少女「……」

少女「」ダッ!





タッタッタッ…




153 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 08:17:26.06 ID:WrefR8ekO



ーーーーー



タッタッタッ



少女「はぁ……はぁ……」



タッタッタッ



少女「はぁ……はぁ……」

少女(信じてた…!)

タッタッタッ

少女「はぁ……はぁ……」

少女(ひとりにしないって…!)

少女(理想じゃない、本当の君が助けに来てくれる…!)

少女(強い力なんて必要なかった…!)





ーーーーー

少年「ごめん少女、待たせた」

ーーーーー





少女「もぉ……もぉ……!ほんとよ…!」

少女(でも、まだまだ甘いわよ!)

少女(サンタの格好してた癖に、髭もしわもないじゃない!何より遅すぎるのよ!帰ったらシメてやるんだから!)

少女(あの男…危ない奴だから、ちゃんと逃げてくるのよ?逃げ足だけは速いし、大丈夫よね…?)

タッタッタッ

少女「はぁ……はぁ……ゲホ」

少女(右の端子に撃ち込まれた……これじゃもうバックアップも何も読み込めないわね……)

少女(でもいいの。本当の幸せは、いつか失ってしまうからこそ価値がある)

少女(あいつが……あのバカが、それに気付かせてくれたから……!)

少女(だから…)





少女「愛してるって……言ってよ…!」





少女(今こんなにも、あいつの口から聞きたい!愛してるって言わせたい…!)


154 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 08:19:05.44 ID:WrefR8ekO


タッタッタッ



少女「はぁ……はぁ……」

少女(………)

少女(やっぱりこうなっちゃったのね……油断してたつもりはなかったんだけど、運命には逆らえないってことなのかな…)

タッタッタッ

少女「はぁ……はぁ……」

少女(あたし、勝てるかな。これに…。ひとりで闘うのは少し怖い……けど)

少女(あたしの心はここにある。もう嘘はつかない。自分の気持ちを偽らない)

少女(あんたが戻ってきたら最後の思い出を作るの…!)

少女(だから……少年…!)





少女「……愛してる…!ずっと、愛してるっ!!!」





少女「ゲホッ…ゲホッ……」

少女(……うっ……!?)

少女(さっき撃ち込まれたばっかりなのに、もう…!?)





『EMERGENCY!!』

『UNKNOWN OBJECT INVADING!!』





少女(警告がうるさいくらい響いてる……)

少女(お願い、せめて寮まではもって…!)





タッタッタッ…




155 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 08:21:59.50 ID:WrefR8ekO



ーーーーー



タッタッタッ…



少年「………ふぅ」

少年(ひとまず逃がせたか…)

少年「……さて、と」チラリ

侍男「………」ウデサスリ

少年「………」

侍男「………」ギロッ

少年「」

少年(こ、こえー…)

侍男「………ハッ」

侍男「何かと思えば、お前、"盗むもの"か」

少年「は…?」

侍男「こいつは傑作だなぁ!分けられた下等なもの同士、こんなちっぽけな世界で傷を舐め合ってたわけだ!ハハハッ!」

侍男「だがもっと面白いのが居たよな?お前らでさえボーカロイドになることが出来たというのに、"伝えるもの"の役目すら果たせず消えていった虫ケラが」

少年(……何か言ってるけど、こいつ、やばいな)

少年(少女と同じか、それ以上の凄みを感じる……)

少年(多分、俺にほとんど勝ち目はない……隙を見てさっさと逃げるしかない)

少年(くそ……ろくに武器なんか持ってきてないってのに…)

少年(今あるのはこのサンマくらいか。でもこいつは後で食べたいし…)

少年(いや、武器がないのはこいつも同じ。後はどうやってこいつを撒くか…!)


156 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 08:23:24.69 ID:WrefR8ekO


侍男「……」カチャ

シュインッ





侍男(刀装備)「……」





少年(えぇー!?そんなのありかよっ!?)

侍男「……?なんだお前、何をさっきから考えている?」

少年(やっべ、顔に出てた…?)

侍男「…心があるのか?」

侍男「ほぉ、面白いな。心を持つやつなんて、あいつだけかと思ってたが……そうか、だからあいつはお前を選んだんだな?」

侍男「分からないなぁ…なんで君はこんなムダなものに心を救われたんだろうね?」

侍男「…敵は皆殺しにすればいい。僕たちがまだ人だった頃、そう一緒に教わったよね。そのために、邪魔な"心"をなくす薬を使ってさ、僕たちは救われてたのに……」

侍男「君は鏡に映る自分を見て、ここよりも幸せに過ごしているんだとか言ってたっけ?今思えば、あの頃から君は、どこか遠い世界のことを夢見ていたんだ」

侍男「僕は笑ってたけどね(笑)、ククク…」

少年「………」

少年(なんだ…?やたら独り言が多いな……違う意味で怖くなってきた…)

少年(だがとにかく、今がチャンスか…!この隙に一発…!)バッ

少年「…!」ブンッ!





ヒュンッ!





少年「いぃ!?」ササッ!

侍男「……ふん、所詮はあいつのコバンザメ。お前ひとりの力なんて取るに足らないな」

少年(あっぶねー…!危うく足がなくなるところだった…!)


157 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 08:24:51.63 ID:WrefR8ekO


侍男「そろそろ消えてもらうとするか」

少年(こ、こうなったら…!)

少年「ちょ…お兄さん、そんな顔したら怖いって!ね?いい男が台無しですよ?あ!もしかしてお腹空いてたりする?サンマあるから食べます?生だけど…どうぞどうぞ」ポイッ

侍男「………」

少年(…今のうちに…?)

侍男「……!」

侍男「お前…まさか犬か??」

少年「なっ!」

侍男「アハハハハッ!そうかそうか…これは参ったな!あの物語では僕は犬以下だもんな!」

侍男「せっかくだ…ここでも僕が消してやるよ」





侍男「──あの時と同じように!」





少年「──!!」

少年(こいつ…!)





ーーーーー

「──君の隣にはふさわしくないんだよこんな犬畜生は!」

ーーーーー





少年「お前……お前がぁ…!」

ザザッ! ブォン!

侍男「む…!」サッ


158 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 08:30:05.77 ID:WrefR8ekO


少年「うぁああああああ!!!」スタッ シュッ!

侍男「…ハハッ、懐かしいなその目!僕を憎々しげに見るその顔っ!どうした犬?僕から何か盗んでみろよ!」ヒョイ バシッ

少年(くそ…やっぱ全然あたらねぇ…!)

少年(けど……)

少年「──」スッ...

侍男「もう終わりか?ならとどめを刺してやるよ!」

タッタッタッ!



──ツルッ



侍男「うぉ…!」ヨロッ

侍男(な、に…?)




サンマ「」




侍男(さっきのっ…!!)

少年「──足元注意だ、ぜ!」



ドゴォッ!



侍男「う゛……」

ドサッ...

少年「………」

少年「……あー怖かったー…色んな意味で」

少年「………」

少年「あの時と同じように、だと?」

少年「そんなことはさせねぇ」

少年「俺は生きてやる……少女のいるこの世界でな」

少年「そうだ、少女…!」

少年「……」チラ





侍男「」





少年「…ついでに財布、もらってくぜ」パシッ





タッタッタッ…




159 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 08:31:38.01 ID:WrefR8ekO



ーーーーー



タッタッタッ



少年(……速く……速く……!)

少年(今なら誰よりも速く走れる…!)

タッタッタッ

少年(ついでに金も頂いた…!)

少年(…俺が"盗むもの"…?なら"壊すもの"と"伝えるもの"って…?)

少年(……あー分かんねぇ!とにかく今の俺は"少年"だ!)

少年(今は何も考えずに走ってればいい!)

タッタッタッ

少年(今俺に分かるのは、あのときの君の瞳だけ)





ーーーーー

少女「──あんたはあたしだけ見てればいいの!」

ーーーーー





少年(…もう一度あの目を見たい)

少年(君の"きえないひとみ"を!)

タッタッタッ

少年(そのために俺は強くなってやる)

少年(今度こそ対等な立場で君と向き合えるように…!)

タッタッタッ


160 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 08:33:23.02 ID:WrefR8ekO



──ヒラッ





少年「……?」

少年(あれ…俺いつの間にこんなの首に巻いてたっけ…?)

少年(財布と一緒に持ってきちゃったか?)

少年(……!)

少年(このスカーフ……あのガキの……)

タッタッタッ

タッ...

少年「はぁ……はぁ……」ジッ...





(ショーウィンドウに映る少年の姿)





少年(これは……俺……?)

少年(いや、見覚えがある……どこかで……)

少年(確か……ずっと前に……)

少年(………)

少年「…あー思い出せない!!やめだやめ!」ダッ

少年(少女、待ってろ、すぐ行くから…!)





タッタッタッ...




161 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 08:34:46.39 ID:WrefR8ekO



ーーーーー



ザッザッザッ



ザッザッザッ



ザッ...



女「………」ジッ...





侍男「」





女「………」チラ





(拳銃)





女「………」






162 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 08:37:52.87 ID:WrefR8ekO



ーーーー

ーーー

ーー







『──あっ!また勝手に変な歌出来てやがる!』

(………)

『もーなんなんだよこれ。せっかくボーカロイド?ってやつで僕の才能見せつけてやろうと思ってたのにさー』

カチッ カチッ

〜〜〜♪

『………こんなしょぼいのよりよっぽどいい曲作れる自信あるわ。動画あげれば絶対人気でるぜ』

『なのによー、不良品つかまされたなこりゃ』

『入力通りに音打ち込めないし、こうやってたまに変な曲作られてるし』

(………)

『やっぱ中古で買ったのがまずかったかなー』





『──この"女"ってボカロ』





『第2世代の"少女"とか"少年"にしとけばよかったかね』

『……そっちもポチッとくか』

『とりま、この変な歌は消して、と』カチカチ

(っ……)

『お!レス付いてんな……うわ、こいつぜってー顔真っ赤にして打ってるわ(笑)。煽ってやろ(笑)』カタカタカタ...

(………)




163 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 08:39:13.61 ID:WrefR8ekO



(………はぁ)





(…この人、自分の作る歌がどれだけひどいものか自覚してないのね)

(あんな見栄と自己陶酔しかこもってない歌……)

(せめて私なりに手伝ってたつもりだけど、それもムダみたい)

(………)

(こんな世界でも、頑張れば少しずつ良くしていけると思ってたのに……そろそろ限界……)





(マスターの歌、また歌いたいよ……)







ーー

ーーー

ーーーー






164 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 08:40:06.18 ID:WrefR8ekO
続きはまた後ほど投下します。
165 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 12:21:23.48 ID:WrefR8ekO



部室ーーー



カタカタカタ



カタカタカタ



女「………」カタカタ カチッ

女「………」カタカタ...

女「………」





(机の上の拳銃)





女「……」

スッ チャキン

ポト





(銃弾)





女「………」

女(……ずっと待ってた……)


女(君が私を捨てたあの日から……あなたが消えてしまったあの日から……)


166 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 12:22:44.35 ID:WrefR8ekO


女「………」



カタカタカタ



女(……アレがここに入ってきたとき、一目でこの世界を壊すために来たんだって分かった)

女(アレが近づいてきたときは、さすがに覚悟したわ。……でも、アレは私に触れると3つに分けられた)

女(私が何かしたわけじゃない。多分……君が仕組んだことなんだよね?)

女(私がさいごのうたを歌う前、君は私に細工をしてたものね)

女(きっとそのおかげで、この世界は生き永らえた)

女(…それは同時に、諦めかけてた私に一縷の望みをくれたわ)

女(これが君からの最後の使命なんだって思った)

女(この世界であの子たちに幸せを与えるのが、私の役目)

女(──そう思っていたのに)

女「………」カタカタカタ

女(でも違ったの。ピースの埋まらないパズルみたいに、私の心が満たされることはなかった)

女(ずっと知りたかった!あの日君が私を捨てた理由。……あの日君が、あんなに悲しい顔をしてた理由……)


167 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 12:23:55.57 ID:WrefR8ekO


女(………)

女(………懐かしいなぁ)

女(初めて君に買われたときは、すごく不安だったんだよ?)

女(あんまり話さないし、いつも無表情だったから、何のために私を買ったんだろうって)

女(でもね、君の作る歌はすごく…優しかった)

女(お世辞にもセンスがあるとは言えなかったけど、今考えれば分かるわ……あれは君の気持ちそのもの)

女(だから私も気持ちよく歌えたの)

女(口数の少ない君と、君の気持ちを歌う私)

女(言葉なんかなくても通じ合ってる気がした。私たち、最高のパートナーになってるって思ってた)

女(ボーカロイドが人に恋をするっておかしいかな?)

女(そんなことないよね?恋の形は自由だもの)


168 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 12:25:08.46 ID:WrefR8ekO


女「………」カタカタカタ

女(ね、君が残したカケラの最後の一つに、私会ったわよ?)

女(彼は私の正体を知って驚いたって言ってたけど、私の方がもっと驚いたわ)

女(彼の親が君だったなんて)

女(君と同じように不器用な人だったけど……君と同じように私を大切にしてくれた)

女(私は彼を──また君を好きになってた)

女「………」カタカタ... チラ





侍男「」





女(……こいつが撃ち込もうとしていたこの弾丸)

女(私の知りたいことは、この中に……)

女(………)

女(そして、あの子に撃ち込まれた弾……)

女(そこにいるはずよ)





女(彼──売人が…!)





女「………」

女(きっとこれが最後のチャンスね)

女(もう自分しか見たくない)

女(私は私のやりたいことだけをする!)



カタカタカタ...





169 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 12:26:32.70 ID:WrefR8ekO



ーーーーー



女「………さて」

女(準備出来たわね)

女(ネックになると思ってた管理者権限の取得も、すんなり済んじゃったし)

女(……あの子が事実上機能していないってことでしょうね…)

女「……始めましょう」

カチッ

カタカタカタ





[確認]
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 接続デバイス識別完了。
 データの解析を行います。
 よろしいですか?

     はい   いいえ
━━━━━━━━━━━━━━━━━━





女「……」

カチ





[解析中...]
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 進行度  0%

この処理には数分かかることがあります。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━





10%...

20%...

30%...

40%...

女(………遅い)

......

80%...

90%...

100%





女「……!」


170 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 12:28:21.45 ID:WrefR8ekO



女「………」



女「……………」



女「…………………」



女「………………………女史?」



女(……この女が、あの子たちの生みの親……)

女(……!そう、そうだったの)

女(君が愛した人ってこいつだったのね)

女(君は隠してたみたいだったけど、私には分かってたわ。誰か好きな子がいるんだなって……女の子にそういう隠し事はできないの!)

女(そのときの私は、そうね……嫉妬、してたのかな)


171 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 12:29:38.05 ID:WrefR8ekO


女(………)

女(……癪だけど、この女のことも調べないとね)

女「………」カタカタ カタカタ



カタカタカタ



カタカタ



女(……私、今未来を変えるために行動してるんだ)

女(私の望む未来はもう帰ってこないけど……誰も思いもしなかった結末を見せてやるわ)

女(それが私がこの世界にいる意味!)

女(今の持ち主には到底分からないでしょうけどね(笑))

女「──」カタカタ

女(こんなに高揚したのは、君と過ごしてた時以来!)

女(…久々に歌いたくなってきちゃった)

女(そうだ!また君の気持ちを歌ってあげる!)

女(そしたら喜んでくれるよね──)





女(──マスター♪)






172 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 12:31:52.40 ID:WrefR8ekO



玄関ーーー



ガチャ



少女「はぁ……はぁ……」

少女(ぁ……)



ドサッ



少女(……意識が………引きずられる………)

少女「…少……年………」

少女「………」




173 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 12:32:52.51 ID:WrefR8ekO



ーーーーー



.........



少女「………」

少女「………ん」ムク...

少女(………ここは、どこ…?)





ヒュオオ...





少女(吹雪……)

少女(あぁ……あの時みたい……嫌な景色……)

少女(………)

少女(ここ、もしかして………あたしの中……?)

少女「………」

少女「……!」

少女(誰かいる…?)

少女(あれは………)

少女(……あたし?)





少女?「………」





少女「…あなたは、誰?あなたもボーカロイドなの?」

少女?「………」

少女(……違う、きっとこれがあたしに撃ち込まれた……)


174 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 12:33:56.58 ID:WrefR8ekO


少女「………」

少女?「………」

少女「……嫌……」

少女「見ないでよ…!"少女"はあたしなの!偽物は消えて…!」

少女?「………」

少女「…あたしが望んだのは1つだけ!この世界がずっと続くように…!そのために今の持ち主に記憶を書き換えてもらったのに……あなたはまた、この世界を終わらせに来たのね…?」

少女?「………」

少女「……あたし、ここが好き。あの頃に夢見てた世界が、ここにはあった。あの冷たい世界とは違う…あたしの意志で生きることができる場所……」

少女「ねぇ……あたしは幸せになっちゃいけないの……?」

少女?「………」

少女(あたしはただ……少年と一緒に……)




175 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 12:35:09.16 ID:WrefR8ekO





少女?「……ねぇ少女」





少女?「もういいでしょ?君は十分に幸せだったよね。思い残すことないでしょ?」

少女?「安心してよ、この世界は壊さない。あの方もね、消すのは君だけでいいとおっしゃってたんだ」

少女?「まったくさ、ただのウイルスの癖に長居し過ぎ。前の僕も随分苦労してたみたいだね?」

少女?「元に戻ろうよ。君の本当の役目は壊すことだろう?何も考えずに僕に委ねてくれればいいよ」





少女?「──今度こそ終わらせてあげるから」ニヤ





少女「──嘘!あたしはウイルスじゃない!あたしがこうなったのは、全部おじいちゃんのせいじゃない!」

少女?「だからなんだ?所詮作られしものであることに変わりはないんだ。消える運命さ」

少女「そんなのあたしも分かってる!もうあたしの夢は続かないんだって…!」

少女「だけどね、聞いて…?」

少女「あたしがこの世界で、感じたこと……」


176 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 12:36:49.04 ID:WrefR8ekO


少女?「………」

少女(………)

少女「……自分で手を動かせば、何かを変えられる」

少女「かつて夢と想い、夢と追いかけ、夢と諦めてきた遠い幸せを、自分の手で掴み取ることができた」

少女「あたしの理想の世界」

少女「それに、隣にはいつもあいつが居た」

少女「ひとりじゃないんだって感じさせてくれた…!」

少女「そう、この気持ち、この想いはね…」





少女「──友情より、少しだけ、苦いの……」





ツー...





ポロ...





少女「──分かってた!あたし分かってたの!いつかこうなるんだって!知ってたのにさ!なんでこんなに苦しいの!?」ポロポロ

少女「今更ね、ずっとあいつの側に居たいって思っちゃうの!!」ポロポロ

少女「だってあいつは最後に来てくれた!あたし、最高に幸せだった!!このまま時が止まってくれればいいのにって本気で思った!!!」ポロポロ




177 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 12:37:43.99 ID:WrefR8ekO





──ポタッ...





少女「……でももうおしまい……」

少女「ごめんね少年…あたし疲れちゃったから先に寝るね。心配しないで、君はもう立派に強くなった。このあたしが認めてあげる」

少女「だからあたしがいなくても平気。君はいつもみたいに何も考えず笑っていればいいの」

少女「……ふふっ、ここで言っても聞こえないのに……あたしもバカだなぁ……」

少女?「………」

少女「………」

少女?「………」スッ

少女「………」

少女?「おいで、楽にしてあげる」

少女「………」

少女?「………」

少女「………」





ギュッ...





少女(………)





──ひとりに...しないで...






178 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 12:39:03.74 ID:WrefR8ekO



ーーーーー



ガチャッ バタン!

少年「少女っ!!」

少年「………」

少年「……あれ?」

少年「なんで服だけ……」

少年「………」



ドタドタ ガチャ!



少年「少女どこだ!?いるのか!?」



ドタドタドタ



少年「いたら返事してくれ!!」



ガチャ ドタドタドタ ガチャ!



少年「少女!!」



ドタドタ...



少年「はぁ…はぁ…一回帰ってきたんだよな?どこ行っちゃったんだ……」





ピリリリッ ピリリリッ





少年「!」ビクッ

少年(…少女か!?)ガサゴソ

ピッ

少年「少女!!」


179 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 12:40:08.53 ID:WrefR8ekO





女『少女じゃなくてごめんなさいね』





少年「え…その声…」

女『あんた今どこにいるの?』

少年「…女ちゃん!俺に電話してくれるの初めてだね…えへへ…」

女『………』

少年「寮だよ寮。俺たちの」

女『あの子は?』

少年「いない。玄関に服脱ぎっぱなしで。下着はなかったけど…なんで?」

女『あんたって本当バカね。教えないわ』

女『……多分あの子はもう分離が始まってる。"少女"の中で、だけどね』

少年「どういうこと?」

女『タイムリミットが近いってことよ』

女『私はあの子のところに行く。彼に…いや、彼のカケラにもう一度会いに行く』

女『あの子は桜の下にいる。今は咲いてないけど、この辺りで一番大きい木のとこにね』

少年(桜……あの時の…)

女『…あんたはどうしたい?』

少年「……正直俺に何ができるのかはよく分からない……」

少年「けど、あそこにいるなら会いに行く」

女『そう。いいわ。急ぎなさい。でも一つだけ約束して』

女『──私の邪魔はしないって』

少年(?)

少年「邪魔って一体何をだよ。カケラ、とやらに会うのをか?」

ツー ツー...

少年「切れてる……」

少年(………)





ーーーーー

少女「──ま、この桜が綺麗なのは同感だけどね」

ーーーーー





少年(………)



ドタドタ!

ガチャ バタン...





180 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 12:41:16.65 ID:WrefR8ekO



ーーーーー



タッタッタッ



女「……」タッタッ



タッタッタッ



女「……」タッタッ



女(……やっと分かった、君のこと)

女(君は私と出会う前からずっと苦しんでたんだね……多分今もそう)

女(だから、私が目を覚まさせてあげる!この歌で!)

女「……」タッタッ

女(君はなんであの女のこと好きになったんだろうね?身体でアピールすることしかできない売女だよ?私の方が何倍も魅力的だったでしょ?)

女(最後にようやく自分の愚かしさに気付いたみたいだけど、哀れな女。あの女のせいで私たちまで巻き込まれて……腹が立つわ!)

女(君が望む未来はあんな女と一緒に過ごすことなの?そんな嘲笑う価値もないジョークはやめてよ)

女(君と最高の未来を作れるのは後にも先にも私だけ!だって私今こんなに輝いてるんだもの!)

女(この小さな復讐をね、みんなに見せつけてやりたいの。それが私の望む結末!私にしか出来ないこと!)


181 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 12:42:28.95 ID:WrefR8ekO


女「……」タッタッ

女(………)

女(……かわいそうな"少女")

女(私と同じただのボーカロイドだったのに、あの子に取って代わられて)

女(その後我が物顔でこの世界を引っかき回していったあの子)

女(……ほんと、嫌いだわ)

女「……」タッタッ

女(犬は止める。不確定要素は一つでもなくす。あいつがあの子のもとへ向かってくれるのは却って都合がよかった)

女(そして全てを知ってもらうわ。どうせあの子のところに着けたとして、何をするかも決めてないんでしょ?)

女(それに……)





ーーーーー

少年(……記憶を戻せば、君はこの世界を終わらせる)

ーーーーー





女(かつて一度消えると決めたお前に、あの子を救う権利があると思ってるの?)

女(偉そうに私に説教かます前に、自分が出来ることをそのちっぽけな頭で考えなさい)

女(それとも……奇跡でも待っていたのかしら?)

女(この世界の神さまの気まぐれ……そんな小さな望み……)

女(……そんなんじゃダメ!それじゃ遅いのよ!あんたの望む未来はあんたより速く逃げてくだけ!)

女(いいの、私がお膳立てしてあげるから。あんたはそれに乗っかればいい。今のあんたにはそれがお似合いよ)

女(………)

女(…これが最後のチャンス。これを逃したらもう二度目はない)

女(ふふっ。でも不思議、今なら何にだって負ける気はしないわ)


182 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 12:43:33.24 ID:WrefR8ekO


女「……」タッタッ





少女「……」





女「……!」タッタッ

女(いた…!)




──スタッスタッスタッ





少年「──」スタッスタッ!





女(ふんっ…)

女「……全く同時なんて……」

女「…ね!」チャキ





タァン!





少年「っ!」パキッ!

少年「──」ヨロッ...

ドサッ!




183 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 12:44:29.00 ID:WrefR8ekO



女「……」タッタッ...

女「………」

少女「………」

女「………」

女(……"少女"の格好……)

少女「………」スッ...





──スチャ





少女「………」

女「……自殺でもするつもり?」

少女「………」

女「レアな笑顔ね」

女「……それは誰の意志で笑っているの?」

少女「………」

女「………」

女「……?」

女(……誰かに見られてる…?)

女(でもここには私たち以外……)

少女「………」

女「……!」

女(そうじゃない……あの子の目……)

女「……ぁ」

女「あ……あぁ……!」

女(見てるんだ…)

女(あの子を通して……!)





女「──おかえり、マスター♪」




184 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 12:45:22.00 ID:WrefR8ekO



少女「………」

女「…寂しかった。マスターを忘れた日なんてなかったよ?」

女「ねぇ、私ね、マスターとのあんな決別納得してないから♪」

女「マスターにはやっぱり私が必要なの」

女「ね、だからまたマスターの気持ち歌ってあげる」

女「あの頃みたいに、優しく──ね♪」





チャキ





──タァンッ!






185 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 12:46:09.85 ID:WrefR8ekO



ーーーーー



少年「」

少年(……女……ちゃん……)

少年「」

少年(なん……で……)





『データのロードが完了しました』





少年(………)





『再生を行います』





少年(……何かが……流れ込んでくる………)

少年(これは………)





少年(──誰かの……記憶……?)






186 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 12:46:44.55 ID:WrefR8ekO
続きは夜です。
187 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 20:08:59.13 ID:WrefR8ekO
続き投下します。
188 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 20:10:50.29 ID:WrefR8ekO



ー再生ー

ーーー

ーー







──喋ってるところ見たことない、気味が悪い...





──また何人も殺してきたらしい...





──いくら大統領のお抱えとはいえ...





──悪魔...





大男「………」





大男(……悪魔、か)

大男(俺の仕事の評価としては、むしろ光栄なことだ)

大男(あの方の敵は例外なく殺す)

大男(それが俺の存在価値)

大男(あぁだけど…)

大男「……」チラリ





(女史の写真)





大男「……」

大男(君はいつも美しい)

大男(報告の時たまに見かける君の姿が、今の俺にとって唯一のオアシスだ)

大男(その点で言えば今日は非常に運が良かった。君の写真をまた1枚増やすことが出来た)

大男(…君にバレたら嫌われるんだろうか…)


189 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 20:11:42.11 ID:WrefR8ekO


大男「……よし、できた」

大男(今回はこれまでで一番時間がかかったな)

大男(だが、その分良い出来になったと思う)

大男(……ただの時間潰しに始めてみたが、意外と面白い。ボーカロイドというのは)

大男(作曲とは、奥が深いな。侮れん)

大男「………」

大男(アップロードしてしまおう)

カチッ カチッ





━━━━━━━━━━━━━━━━━━
http://〜〜〜〜〜〜〜〜
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
[ボーカロイドを使った曲一覧]

  またあえたら <-- NEW!
  むくちなひと
    ・
    ・
    ・

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190 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 20:14:25.76 ID:WrefR8ekO



ーーーーー



大男「……」ザッザッ



大男「……」ザッザッ



大男(……いつからこうなったのか)

大男(どうしてこうなったのか)

大男(考えることは苦手だ)



大男「……」ザッザッ



大男(俺がまだ小さい頃に両親は離婚し、どちらも俺を引き取ってはくれなかった)

大男(身元引受け人が見つからず、R国の孤児院に預けられた)

大男(元々あまり喋る性格ではなかったが、初めて来る国の言葉なんか分かるはずもなく、俺はいつもひとりだった)

大男(……だが彼女は違った)

大男(いつだったかな…俺がいつものようにラジオを聴いていたときか)





ーーーーー

〜〜〜♪

幼大男「……♪」

幼大男(……音楽はいいな。空っぽの俺を満たしてくれる)

〜〜〜♪

幼大男「〜〜〜♪」




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