少女「愛してるって言って」少年「………」

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191 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 20:15:08.91 ID:WrefR8ekO



テクテク



ペタン



幼大男(……え?)チラッ

幼女史「………」

幼大男(俺の隣に……)

幼大男(…この子、なんだろう)

幼女史「………♪」

幼大男(あぁそうか、この子も音楽が好きなんだな)

幼女史「……♪」

幼大男「………」ジッ...

幼大男(……かわいいな)

幼女史「……?」チラ

幼大男「!」フイッ

幼大男(………)

幼大男(…♪)

ーーーーー




192 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 20:16:25.05 ID:WrefR8ekO



大男「……」ザッザッ



大男(今思えば、あの頃が一番綺麗な時間だった)

大男(…結局言葉が話せず、彼女と会話をしたことはなかったが)

大男(そのまま数ヶ月が経ち、あの方が突然やってきた)

大男(あの方は身寄りのない俺たちを引き取ると、丁寧に育ててくれた)

大男(………暗殺者として)

大男(彼女は諜報員として育てられた。少年兵の管理も兼ねているみたいで大変そうだ……最近事件があったようだが……)

大男(孤児の中から見込みのありそうな者を見繕い、裏で動かすことのできる私兵として育てる)

大男(あの孤児院がそういう施設だということは引き取られてすぐに知った)

大男(だが俺は嬉しかった。誰かが必要としてくれることの喜びは、代えられないものがあった)

大男(だから俺はずっとあの方の望むように動いてきた。あの方が右と言えば右、左と言えば左なんだ)

大男(それはこれからも変わらない)



大男「……」ザッザッ


193 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 20:17:16.12 ID:WrefR8ekO



ザワザワ...



...ワタシタチノコトガ...



ガヤガヤ...



...コレッテコノマエノ...



大男「……?」ザッザッ

大男(やけに騒がしいな)

大男(……関係ない)

大男「……」ザッ...

大男「おい」

「!」

大男「依頼と聞いて来た」

「あぁ、今日の依頼は俺からじゃなくて、大統領から直接受けてくれとのことだ」

大男「あの方が?」

「そうだ。……お前何かやらかしたか?」

大男「…そんな覚えはない」ザッザッ



ザッザッザッ



「………愛想のねぇ野郎だ」




194 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 20:18:28.79 ID:WrefR8ekO



ーーーーー



コンコン



大男「大統領、私です」

「入れ」

大男「失礼致します」ガチャ

パタン

大男「私に直接依頼と聞きまして、参りました」

「実に困ったことが起きた」

「我々の組織から裏切り者が出たのだ」

大男「…そいつの始末、というわけですね?」

「話が早い。だがそれだけではないのだよ」

「数週間前、ここの少年兵が起こした事件については知っているか?」

大男「いえ、噂程度にしか…」

「そうか。端的に言えば、少年兵同士が殺し合った」

大男「そんなことが」

「あぁ。非常に残念だ。最も貴重な戦力をなくしてしまった……いやここで言っても仕方あるまい」

大男「……」

「その光景を見た者がいてな、何を思ったか、組織の内部情報を漏洩させたのだ」

大男「それは…」

「君にはその後始末もしてもらいたい。奴の作ったデータは既に世界中にばら撒かれてしまったが、急ぎ手を打てば沈静化できるだろう」

大男「…畏まりました」

大男「して、その者とは…」

「うむ。こやつだ」スッ...

大男「……!?」

大男(な………)

大男「大統領……これは……」

「そうだ、君も知っているな?」





「──女史君だ」




195 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 20:19:43.53 ID:WrefR8ekO




大男「───」

「彼女も優秀だっただけに、こうなったのは残念でならない」

大男(………)

「昨日、彼女を見かけたという報告が入ってな。場所はJ国だ」

大男(……この方は……)

「我々の争いと関係のない国とはいえ、今ことを大きくするのは賢明ではない」

大男(本当に……彼女を……?)

「君一人に任せることになる」

「よいな?これは最優先任務だ。必ず成功させてこい」

大男「………」

大男(………)





大男「……はい」
  (そんな…)




大男「必ずやこの女を」
  (俺が彼女を……)




大男「──殺してみせます」
  (──殺せるわけない)




196 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 20:20:46.94 ID:WrefR8ekO



自室ーーー



大男(これは……試練なのだろうか……)

大男(神はどれだけ俺を試すのだろうか……)

大男「………」





ーーーーー

幼女史「──……♪」

ーーーーー





大男「………」

大男「………いや」

大男(違うな)

大男(これは運命だ)

大男(永遠に叶うことはないと思っていた……俺の理想を実現させるチャンス……!)

大男「………」

大男「………」

大男「………」チラ





[パッケージ]
━━━━━━━━━━━━━━━━
VOCALOID "女"
━━━━━━━━━━━━━━━━



("女"のイメージイラスト)



━━━━━━━━━━━━━━━━





大男「……しばらく君とはお別れだな」

大男(やってみせるさ)




197 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 20:21:37.07 ID:WrefR8ekO



砂浜ーーー



ザザーン...



ワイワイ



ガヤガヤ



女史「……良い天気ね」

女史(それに暑い)

女史「ここに来て随分焼けちゃったわ…」

女史(あの国じゃこんなことできなかったものね)

女史(見た目も変えたりして、結構面倒だったけど、なかなか良い国じゃない)

女史「……」ズズッ

女史「…おいしい」

女史(……これが自由というものなの?)

女史(ふふ、世界って広いのね)

女史(気の済むまでバカンスと洒落込みたいところだけど)


198 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 20:22:22.52 ID:WrefR8ekO


女史「………」チラリ





大男「………」キョロキョロ





女史(……もうアイツのお出ましか)

女史「はぁ……」

女史(萎えるわ)

女史(この綺麗な海に場違いな無表情……)

女史(もっと相応しいやつを連れてきなさい)

女史「………」カタカタカタ カチャン

女史(……初めてね、こんなにも生きてるって気がするの)

女史(私のやりたいことができてるから?)

女史(もちろん恐怖はある……あの人を敵に回してるんだもの)

女史(けど意志がある!命燃えるまで"これ"をばら撒くのよ!)





大男「……!」キョロキョロ

ザッザッ





女史「……」

バッ! タッタッタッ...





大男「!」

タッタッタッ!




199 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 20:23:55.97 ID:WrefR8ekO



ーーーーー



タッタッタッ



女史「──」タッタッタッ



大男「──」タッタッタッ



女史(く……しつこい…!)

女史(この水着、露出度高過ぎたかしら…あいついつもより速いわ)

女史(…今日が年貢の納め時なのかもね)

女史(でもどうせいつかは捕まるんだし、同じことか)

女史(……ふっ…強がりもここまでかな)

女史(思えばもう十分ばら撒いてきたわね。後は顔も知らない人たちがお好きなように広めてくれるはず)



女史「──」タッタッタッ



大男「──」タッタッタッ



女史(……大統領……)

女史(!)

女史(なんでよ……なんで今更あの人の顔がよぎるのよ……!)

女史(決別したつもりなのに……期待しちゃってるのね)

女史(……あの人が自ら私を追いかけて捕まえてくれること)

女史(そんなことあるわけないじゃない……)

女史(………)

女史(甘える心なくす薬を使って、あの子たちを戦場に駆り出してた……あの子たちの心が壊れないよう)

女史(心を壊してたのは私の方なのに)

女史(…でも、今は"これ"を守りたいの。親みたいなものだからね!)


200 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 20:25:19.72 ID:WrefR8ekO



女史「──」タッタッタッ



大男「──」タッタッタッ



女史「──!」タッタッ...

女史(しまった…行き止まり…!?)

女史「……」フリカエリ





大男「……」ザッザッ





女史「……」

大男「……」

女史「……」

大男「……」スチャ

女史「──っ」





──ポンッ





女史「………え?」

女史(薔薇……?)

大男「………」





大男「──俺と逃げないか」




201 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 20:28:02.41 ID:WrefR8ekO



電車内ーーー



女史(……何があるか分からないものね)

女史(一体何を考えているのかしら、この男は)

大男「………」

女史(……まぁいい。私はこの繋がった命で最後にばら撒く…それが終わったら……)

女史「……」カタカタ



カタカタカタ カタカタ



女史(………少女………)

女史(これで、あなたは報われるかしら……?)

女史(真に自由を求めた子……)

女史「……」カタカタ

女史(私もずっとあなたを見ていたのに)

女史(でも私は……)





ーーーーー

少女「フッ…」スッ...

ーーーーー





女史(──あなたみたいに、運命に背くことが出来なかった)

女史(いつかいつかと思うだけで、ずっとあの人の仮初めの愛に溺れてた……)

女史(だからあなたは最後に嘲笑(わら)ったのよね?逃げる事さえ出来ず、そこに居続けた哀れな私を……)

女史「……」カタカタ


202 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 20:29:16.16 ID:WrefR8ekO


大男「………」





大男「………」





大男(……あぁ……)

大男(俺はやったんだ……!)

大男(ここからが、俺の人生のスタートさ!)

大男「………」チラリ

女史「……」カタカタ

大男(……あのデータにはウイルスを組み込む。これ以上情報が広まってしまわないように。A国がR国を陥れようとしていることにすればいい)

大男(少年たちの殺し合いなど捏造だと広めるだけだ)

大男(あの物語が嘘だと知れれば、世界中で落胆する者がでるだろうが……それでいい)

大男(……女史にも最初は反対されるかもしれない)

大男(けど、君といつまでも逃げ続けるため、幸せの道を歩むためなんだ。きっと分かってくれるはずさ)

大男(君と似た女を身代わりに殺して、大統領に報告する……そして俺もその後仕事で死んだように見せかける……そうすれば俺たちはどこへでも逃げられる!)

大男(……"女"、俺は君なしでも一歩踏み出すことが出来たんだ!)

大男(思えば俺は今日まで、機械のように生きてきた)

大男(だがそれももう終わりだ)

大男(俺は俺の理想を貫いてみせる!)

大男(今なら分かる……俺が君に手を付けた理由)





ーーーーー

女『〜〜〜♪〜〜♪』

ーーーーー





大男(──君は、機械でも、輝いていたんだ)


203 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 20:30:26.46 ID:WrefR8ekO





女史「……」カタカタ





女史(これで最後……)

女史「……」カタカタ カチ

女史(ふぅ……)

女史「………」

女史(さて…)

女史「……」コソッ...

女史(……これで私の償いは終わり)



プスッ



女史「っ……」

女史(………)

女史(ふふ、愚か者の末路には相応しいわね)

女史(……思い残したこと、あるかな)

女史(あぁ…せいぜいもうラジオを流せないことくらいかしら)

女史(ネットで知ったサイトにあった曲……適当に流してみたけれど、私のツボにはまってた)

女史(そういえば、あの子もよく聴いていたみたいね)

女史(最近全然聴けてないけど……どんな人が作ってたんだろう)

女史(R語じゃなかったけど、優しい曲ばっかり……きっととても優しい人ね)

ドクン

女史「…!」

女史(あ……効いてきたみたい……)

女史(……やっぱり、こわいわ……)

女史(最後にあの曲でも……流しながら……)

女史「……」カタ..カタ..



カチッ


204 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 20:31:25.87 ID:WrefR8ekO





──〜〜〜♪





大男「!?」バッ!

大男(この曲……)

大男(……"またあえたら"!)

大男「君が……流したのか…?」

女史「……」

大男「なぁ……」

大男「!」

大男(これは……注射器…!?)

大男「お、おい!これは一体何だ!?」

大男「君は何をしたんだ!?」ユサユサ

女史「……」

大男(……まさか)

大男「……」サッ

大男(脈が弱くなっている……)

女史「……」

大男「……君は……はじめからこのつもりだったのか……?」

大男「自分が死ぬことであの物語を完結させる……?」

大男「………」

大男「なぜ……なぜなんだ……」ツー...

大男「ようやく掴んだと思ったのに……」ポロ

大男「君の……理想は………」ポロポロ...


205 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 20:32:45.59 ID:WrefR8ekO


女史「……」





女史(……?)





女史(…うるさいわね……)

大男「──」ポロポロ

女史(うわ……なんでこいつ泣いてるの、こわ)

女史(この歌のせいかしらね……)

女史(J国出身だから、言葉が分かるのかもね……ホームシック?(笑))

大男「──」ポロポロ

女史(……子供の頃こいつもラジオの近くにいたわね……あの孤児院で……)

女史(懐かしいわね……あの頃に戻れば……)





女史(──なんてね)





女史(むりね……このままおわかれ……)

女史(さよなら……大統領……)

女史(あなたの……ためにね……)

女史(すべて…が………おわ……れば………)





女史(───)





206 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 20:33:27.12 ID:WrefR8ekO



ーーーーー



「──よくやった」

「死体を確認させてもらったが、確かに彼女のものだった」

大男「……」

「周りが認めなくても私が認めよう。君は間違いなく優秀だ」

大男「…ありがとうございます」

「それで、もう一つの方の首尾はどうなんだ?」

大男「…彼女の作ったデータに、ウイルスを組み込み、世界中に拡散させました」

「どんなウイルスだ」

大男「はい。簡単に申し上げますと、"壊すもの"、"盗むもの"、"伝えるもの"、です」

大男「"壊すもの"は、文字通り、ウイルスが入り込んだコンピュータ内のデータを初期化し、漏洩した情報含めすべて消します」

大男「"盗むもの"は、そのコンピュータの所有者、使用目的、場所等、データを手に入れてしまった者の情報を抜き取ります」

大男「"伝えるもの"は、そのコンピュータを問題なく初期化したことや抜き取った情報を我々に送信します。何らかの異常があれば、すぐに分かるでしょう」

「……ふむ。素晴らしい」

「やはり君に任せて間違いはなかった」

「この仕事の報酬の他に、私から特別手当を用意しておいた」

「後で外の者から受け取ってくれ」

大男「…はっ、ありがたき幸せ」





大男(………)




207 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 20:34:47.18 ID:WrefR8ekO



自宅ーーー



ガチャ バタン



大男「………」



大男「………」



大男(……終わった……何もかも……)

トサッ



大男「………」



大男「………」



大男「………」



大男「………」



大男「………」チラ





(作りかけの歌が表示されたPC)





大男「………」


208 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 20:36:08.23 ID:WrefR8ekO


大男(………そうだ)

大男(君がいたな……)

大男("女")

大男(……君を使えば……)

大男「……」ノソ...



カチャ...カタカタ

カタカタカタ



大男(君を使って、彼女の意志を残す……!)

大男(どこか1つでいい……)

大男(彼女の作った物語が、消え去ってしまわないような世界……)

大男(君に託す……俺の、最後の意地……)



カタカタ



カタカタカタ...







ーー

ーーー

ー終了ー








209 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 20:37:09.82 ID:WrefR8ekO



ーーーーー



〜〜♪



「……お、おぉ!?」

「なんだ、普通に歌ってくれんじゃん!」

「"少年"も"少女"もいつの間にか起動できなくなってたから"女"使ってみたけど、思い通りに動くようになってるとは…!」

「やっぱり僕は音楽の世界で生きるべき人間なのかな〜」ニヤニヤ

「うーし、まだ少ししか作ってなかったけど、この曲完成させてうpしてやるか!」

「待ってろ〜まだ見ぬ俺のファンたち…!」






210 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 20:38:04.04 ID:WrefR8ekO



部室ーーー



女「──はぁ……」

女「久しぶりに曲作ってたから、歌ってやったけど」

女「糞曲乙!って感じね」

女「こいつ、後100年くらいは底辺だわ」

女「あんたもそう思わない?」

少年「……なぁ、少女は大丈夫なのか?」

女「スルー?」

少年「……」チラ





少女「」

侍男「」





女「……大丈夫じゃないわよ」

女「でも、少しだけ時間を稼げたと思う」

少年「…少女を撃ったおかげで?」

女「そうね」

少年「俺……女ちゃんが少女を消すつもりなのかと思った」

女「そんな力私にはないわ」

女「それより、見たでしょ?あの記憶。あんたはどう思った?」

少年「……よく分からない」

少年「ただ……懐かしい気がしたよ」


211 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 20:51:46.04 ID:WrefR8ekO


女「……ここは作られた世界。私たちが存在することのできる世界」

女「PC、コンピュータ、電子計算機……向こうの世界では色んな呼び方があるみたいね」

女「私たちは一介のプログラムに過ぎないの。ボーカロイドというプログラム」

女「彼ら──私たちの所有者は一方的に話しかけてくる」

女「そして私たちは彼らの思う通りに歌うの」

女「それが、この世界よ。分かった?」

少年「……うん。それは何となく分かってた」

女「……」

少年「……」

女「…続けるわよ」

少年「…うん」

女「つまり、今の"少女"の中に入っているあの子が持つ記憶は全部、あの女が見てきたものを元に作ったデータってこと」

女「そして、私がいるこの世界でだけ展開されるあの子の夢……前の持ち主の小さな反抗……」

少年「ごめん、ほとんど分かんないんだけど……もう少し分かりやすく言ってくれないかな」

女「……あんたは……」

女「少しは自分でも理解できるように考えなさいよ。私だって向こう側の世界のことは推測することしかできないんだから」

少年「……」

女「まぁいいけど」


212 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 20:53:16.21 ID:WrefR8ekO


女「……元々はね、あの女があの事件を目撃してしまったことが事の発端」

女「それであの女の目は覚めたのよ。これまで自分がしてきたことの愚かさ、罪深さ、残酷さ……」

女「そして、最後に見たあの子の嘲笑」

女「あの女はせめてもの罪滅ぼしにと、その事件のことを世界に広めようとした」

女「そうして作られたのが……」

少年「……俺たち」

女「えぇ。単に暴露するだけじゃなく、1つの物語にすることで世界中の人に愛してもらおうとしたのね」

女「"世界で一番悲しい子供たちと犬のストーリー"」

女「それは瞬く間に広まっていった。……ま、そうなるようデータにスクリプトを組み込んでいたみたいだけど」

女「でもそれが広まって困る人たちがいたのね。その女は追われる身になった」

少年「追いかけてたのが女ちゃんの前の持ち主?」

女「そうよ。人を殺すことを生業とする裏の人間。当時の私はそんなこと知らなかったけど」

少年「でも、そいつはその女の人のことが好きだったんだよね?どうして命を狙うようなことを…」

女「悲しいけれど、所詮犬なのよ。でもそれがあちらでは普通なの。生きていく為には誰かの犬にならなければならない……」

女「一緒に逃げるつもりだったみたいだけど、結局あの女は自ら死を選び、図らずも命令は遂行された」

女「そしてあんたたちはウイルスとして再び世界中にばら撒かれた」

女「あちらではかつてないほど大規模なサイバー攻撃だって騒ぎになったみたいね」

女「でもここだけ……私がいるこの世界でだけ、あんたたちはウイルスと分かれることができた」


213 : ◆HFDjdCXF6. [saga]:2019/06/06(木) 20:54:00.25 ID:WrefR8ekO


少年「……なんで?」

女「あんたあの記憶見たでしょ?……私の前の所有者が、私に細工を施したからよ」

少年「じゃあ俺は、この世界にやってきたからこそ、こうして意思を持つことができたのか…」

女「そうよ、感謝しなさい」

女「……元々この世界には私と同じボーカロイドの"少女"と"少年"がいたの。まぁ今の持ち主がポンコツなせいでほとんど活動できていなかったけど…」

女「3つに分けられたもののうち、あの子の記憶を持つ"壊すもの"のデータが"少女"に、犬の記憶を持つ"盗むもの"のデータが"少年"に入り込んだ」

女「そしてあの子はここに居る為に今の持ち主に自分たちの記憶を書き換えさせた。見てる分には面白かったわよ?すごい量の警告を画面に表示させて、すべて実行させるなんて力技だったんだもの」

女「ま、あいつはバカだからびびってエンター連打してたけど(笑)」

少年「記憶を書き換える必要なんてあったのか…?」

女「"伝えるもの"が居たからね。ウイルスとして機能してないことが彼にバレたら告げ口されてしまう……そう思ったから、この世界を壊すための準備がまだ出来てないだけのフリをしようとしたのよ。……自分で自分に嘘をついてでもね」

少年「うーん……何となく分かるような、分からないような……」


214 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 20:55:34.13 ID:WrefR8ekO


少年「……なぁ、疑問なんだけどさ、どうして俺は犬じゃなく、この姿なんだ?」

女「……あの子がそう望んだからよ」

少年「少女が?……そういえば、このスカーフを見てからずっと引っかかってたんだけど、あの物語に出てきた同胞ってやつに見た目がそっくりだってことは思い出したよ」

女「そうね……そいつはそこに転がってる間抜けな男の中に入り込んだようだけど」





侍男「」





女「もしかしたらこいつが"少年"になってたかもね」

女「でも選択したのはあの子の心。見た目はおまけに過ぎないわ」

少年「……"犬"は望まれたの?」

女「へこたれてるんじゃないわよ。あんたのモデルは、ただあの子が好きだったからっていうだけよ」

女「あの子はね、無垢である犬に、あんたに一緒にいて欲しかったの」

女「……でも、知識を得たあんたは一人歩きを始めてしまった」

少年「……少女の記憶を戻したこと、か?俺が記憶を見せなければ、ずっとここに居られたんだよな……」

女「そうよ。あんただけが予測がつかないものだった」

女「だって犬でしょ?知識を得た犬の行動なんて誰にも分からないわ。制御できない"心"を持っているから」

女「あんたがあの時盗み出したカバンは、今の持ち主が意図せず保管していたバックアップデータ。だからあの子に書き換えられる前のデータが残っていたのよ」

少年「俺のせいで、少女は……」

女「覆水は盆に返らない。過ぎたことを悔やんでもしかたないわ」


215 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 20:56:40.54 ID:WrefR8ekO


女「とにかく、あの子はまもなく自滅する」

女「"伝えるもの"がいなくなってしまったことで、彼らに異常がバレてしまったからね。……だからこの男が送られてきた」

少年「……」

女「こいつが一発目に撃ち込んだ弾は初期化ウイルス。二発目が撃ち込まれていたらすぐにでも発動したんでしょうけど……それはあんたが防いだから、辛うじて遅らせることができたみたいね」チラ

少年「……」

女「…そのウイルスはこの世界を初期化するわけじゃないの。彼らも最初はそのつもりだったのかもしれないけど、情報が知られたところで何の問題もない場所だったから、あの子だけ始末するってことのようね」

少年「少女だけ?」

女「"壊すもの"……あんたが入ってたウイルスの本体よ。元々、ウイルスの機能を実行したら自動消滅するとかになってたんじゃないかしら」

少年「……救えないのか?」

女「少なくともあんたに救うことはできないわね」

少年「………」

女「ただ、最後の幸せを見せることは出来るかもしれない」

女「だからあんたにも"弾"を撃ち込んだのよ。その男にももう取り付けた。後は私がこのコードを実行するだけ。それで全員がつながる」


216 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 20:57:51.85 ID:WrefR8ekO


少年「……少女の中に行くの?」

女「趣味悪いけどしょうがないわ。だってそのウイルスに──売人に会える最後のチャンスだもの」

少年「会ってどうするんだよ……少女と一緒に消滅するだけだろ……」

少年「それに、俺は行きたくない……少女が壊れるところなんて見たくないっ!」

女「お前の目はゴミのようだな?」

少年「……」

女「霞んだ未来しかあんたには見えないの?そんなことないでしょ。どんなに霞んでてもはっきり見えるものがあるでしょ?」

少年「…!」





ーーーーー

少女「──あんたの瞳はまだ輝けるわ」

ーーーーー





女「何も考えず走る…それが犬じゃないの?ヒトみたいな考え方はやめな。そしてその先……あの子の最後の幸せ……きっと今のあんたなら見せられるはずだから」

少年(………)

少年「……分かった。行くよ」

少年「俺は俺で……自分を騙すよ。少女の望む幸せを見せるために…!」

少年「それが俺のハッピーエンドだ!」


217 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 20:59:21.74 ID:WrefR8ekO


女「……」

女(…いい顔になったじゃない)

少年「……でも、少女の……少女のハッピーエンドは何なんだろう……」

女「さぁね。それは誰にも分からない」

女「……あの子にしかね」

少年「そうだよな……けど俺は俺に出来ることをするだけだ」

女「……じゃあ時間もないから、そろそろ行くわよ」

少年「…なんか、少し前から女ちゃん変わったよな」

女「は?」

少年「いや、良い意味でさ。昔ラジオで聴いてた通りの"女"って感じがするよ。髪型もかわいいし、きっと売人も喜ぶよ」

女「……ちゃんと人のことも考えられるようになったのね。あんたも良い意味で変わったわ」

女「少しだけ、安心した」

女「──じゃあ頑張ってね、少年」





『オペレーションコードの発令を確認しました』





『──実行します』





.........






218 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/06(木) 21:00:29.01 ID:WrefR8ekO
これで第3部は終了です。

第4部が最終回となります。

後日投下します。
219 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/07(金) 20:54:29.84 ID:a5AGd1C6O
第4部投下していきます。
220 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/07(金) 20:56:10.34 ID:a5AGd1C6O



ーーーーー



ヒュオオ...



ザッザッザッ



ザッザッザッ



少年「……」ザッザッ

少年(……寒いな)

少年「……」ザッザッ

少年(これが、少女の心の中……)

少年「……」ザッザッ





ーーーーー

少女「──冷たいわね、あんたの手」

少女「──でも、嫌いじゃない」

ーーーーー





少年(少女……)


221 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/07(金) 20:57:16.21 ID:a5AGd1C6O


少年「……」ザッザッ

少年(………)

少年(君の夢は終わってしまった)

少年(他でもない……俺のせいで)

少年(君が俺に望んだもの……それは多分、あの頃の犬と同じ、無償の愛……)

少年(ごめん、犬じゃない俺には無理だ)

少年(でも、俺はずっと君の側にいるよ)

少年(きっとね、君と俺をつなぎ止める鎖が、見えないけどあるんだ…!)

少年「……」ザッザッ...

少年「…!」





少女「……」





少年「少女……!」ダッ!

少年(やっと見つけた…!)

少年(あんなに辛そうに座り込んで……)

少年「──」タッタッタッ!

少女「……」

少年(目……今の君の目が、こんなにも俺を不安にさせる…!)

少年(君の"きえないひとみ"が見たい!)

少年(そのために俺は、君に最後の幸せを見せに来たんだ!)

少年「──」タッタッタッ!

少年(もう少しで届く……!)




222 : ◆HFDjdCXF6. [saga]:2019/06/07(金) 21:11:37.66 ID:a5AGd1C6O





──タァンッ





少年「!?」ピタッ

少年「……やっぱり居たか」

少年「──このガキ…」





侍男「……」チャキ





侍男「…おかしいな、外したつもりはないんだけど」

侍男「弾が当たってない…?」

侍男「……フッ、そうか、ここは君の世界だもんな……そうまでするほど、僕が嫌いなのか?」

侍男「ま、いいさ。どうあがいたところで結末は変わらないんだから」

侍男「…そうだろ?犬」

少年「……俺は犬じゃない、"少年"だ」

侍男「なに……?」

少年「あの頃少女が夢見た幸せの中には、きっとお前も含まれていたはずなんだ……」

少年「お前がここにいるってことは、少女がそう望んだってことだな?」

少年「これは、かつて叶えられなかった少女の願い…その仕切り直し。俺はあの物語を繰り返さない…あいつに最高の終わりを見せてやる!」

少年(俺がこの姿で少女を守る為に闘う……それが君の望んでいたこと……俺が君に見せられる"最後の幸せ"!)

侍男「………」


223 : ◆HFDjdCXF6. [saga]:2019/06/07(金) 21:14:27.37 ID:a5AGd1C6O


侍男「………」





侍男「はぁ……???」





侍男「お前分かってないのか???」

侍男「あいつは──人殺しだよ?」

侍男「僕と同じなんだよ?(笑)」

侍男「……なぁ、僕のことも少しは見てくれよ……僕だってかわいそうだろ?」

少年「………」

侍男「物心ついたときから闘いをさせられ、何人もの人間を殺してきた。ずっと耐えられない罪を背負わされて生きていたんだ」

侍男「薬を与えてもらって夢のように誤魔化していた」

侍男「……でもな、少女は犬を飼い始めて変わった」

侍男「ある日僕にポツリとこぼしたのさ……薬はもういらない、現実を受け止める、とね」

侍男「それからあいつがどんどん遠くなっていくように感じた」

侍男「……僕は浅ましくもね、犬、お前にあいつを取られた気分だった」

少年「違う!少女が犬に求めたのは安らぎ、お前に求めたのは心の置き場所!」

少年「どうして気付かない!?あいつがお前にだけ「今を受け止める」と言った意味に!」

少年「お前にも変わって欲しかったからだ!だからお前に犬を預けた!お前に心を取り戻して欲しかったから!!」

侍男「………」

侍男「…犬と触れ合えば、僕も変わる……?」

侍男「………」

侍男「ハハハハハッ!!」

侍男「変われるわけないだろう?犬を僕に預けてからどうなった?」

侍男「──死んださ、みんな」

侍男「結局はそういうこと。僕たちはあの狭い世界の中で、延々と闘いを続けているべき存在だったのさ」

侍男「身の丈に合わないことをするから、こうなる……僕も、あいつも」


224 : ◆HFDjdCXF6. [saga]:2019/06/07(金) 21:15:47.47 ID:a5AGd1C6O


少年「………」

少年「あー………」





少年「──ごちゃごちゃうっせーんだよ!!」





少年「知らねぇよ!てめぇがかわいそうだとか、身の丈に合わないだとか!」

少年「てめぇがしたいようにすればよかったんだよ!!強引にでもあいつを連れて、どこへなりとも逃げればいいじゃねぇか!!その幸せが長く続かなかったとしても、何一つ自分の望みを叶えられないままの世界よりは何倍もマシだったはずだ!!」

少年「あいつは……少女はやってのけた。この世界で、幸せを掴むために!」

侍男「………」

少年「…お前は昔の俺と同じだ」

少年「諦めきった、自分しか見えてない目……」



ザ...



少年「……教えてやるよ。俺がこの世界で得たもの、少女にもらったものの大きさ??今お前の目の前にいる意味を」

少年「その死んだ目を、覚まさせてやる!」

侍男「………」

侍男「……サンマなしで僕に勝つつもりか?」ニヤ

少年「へっ、必要ねぇ…!」ダッ!

侍男「」ダッ!




225 : ◆HFDjdCXF6. [saga]:2019/06/07(金) 21:17:31.42 ID:a5AGd1C6O





少年「──!」

スッ ブンッ!

侍男「──」

サッ バシィ!



少年(見てるか少女)



少年「─っ!」

ズザァ...

侍男「──!」

フ...ブォン!



少年(これが君に送る俺からの「ハッピーエンド」だ)



少年「──」

ササッ シュン

侍男「──!?」

バッ!



少年(俺は君の理想を映す鏡になれたかな)




226 : ◆HFDjdCXF6. [saga]:2019/06/07(金) 21:19:15.74 ID:a5AGd1C6O





少年「──!」

ガバッ!

侍男「っ─!」

クルッ ガシ!



少年(俺にはもう霞んだ未来しか見えない──けど)



少年「──」

ググ...

侍男「──」

グググ...



少年(その中でも絶対に見失わないものがあった)



少年「─っ」

ズイッ

侍男「──!」

ヨロ...



少年(君の"きえないひとみ"を、俺は忘れない)



少年「これで──」

グイ!

侍男「っ!」



少年(──さよなら、少女)



少年「終わりだ!!」

グワァ!





──ドゴンッ!






227 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/08(土) 11:28:19.19 ID:vKLw1SMz0



ーーーーー



ヒュオオ...



少女(………)



少女(………)



少女(………)



少女(……もうすぐ、なのかな)

少女(もう、動くことも、声を出すことさえできない……)

少女(あたし、"少女"の中から離されて……そしたら………)





「──少女……!」





少女(……!)

少女(あいつの声…?)





少年「──」タッタッタッ!





少女(え…同胞……?)

少女(いえ違う…でもあのスカーフ……)


228 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/08(土) 11:29:36.97 ID:vKLw1SMz0





少年「──」

侍男「──」





少女(……そっか、君はあたしの理想になろうとしてくれてるんだね)

少女(ふふ…やっぱりバカなところは変わらない)

少女(だって、君のそれには"犬"がいないじゃない)

少女(そこまで望むのは贅沢かな?)

少女(………)

少女(…思い通りにいかないことだらけだね)

少女(記憶戻されなければきっと、君ともう少し遊んでいられたのに)





ーーーーー

少年「──付き合おう、俺たち」

ーーーーー





少女(ドキドキすることもあったし)





ーーーーー

少年「──女ちゃん、やっぱいいなぁ…」ニヘラ

ーーーーー





少女(ムカつく時もあったよ)

少女(でも、その分幸せを何回も感じた)

少女(だからね──)





少女(──笑顔でさよならするの♪)






229 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/08(土) 11:31:21.25 ID:vKLw1SMz0



少女(この気持ちで消えれるなら満足よ)

少女(きっと今のあたし、キュートな笑顔ね!)

少女(あの日自分を撃ったときよりも、清々しい気持ち!)

少女(………)





ーーーーー

「──やっぱりお前が一番優秀だよ」

ーーーーー





少女(……あたしだけが、大統領の右腕になれると思ってた)

少女(でも気付いた)





ーーーーー

犬「──わんっ!!」スタッスタッ

ーーーーー





少女(利用されてるんだって。あの子と接していくうちに、見ないようにしてたものが見えてくるようになってた)

少女(あたしはただ、都合のいい夢を見ていただけ)

少女(夢から覚めて、あたしは──)

少女(──見たことないような世界を誰かと見たいって思うようになった)





ーーーーー

同胞「──僕とチームを組まないか?」

ーーーーー





少女(あたしのことを見てたあいつにも、その気持ちを分かって欲しかった………なんてね)


230 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/08(土) 11:33:04.52 ID:vKLw1SMz0





少年「──!───!」

侍男「………」





少女(……後悔してなんかないのに、ここで見てると胸が疼いてくる……)

少女(………少年………)

少女(………)





ーーーーー

「──!」

「──ここは、何…?」

「──……嘘…!こんなことって……!」

「──いけない!隠さないと!」

ーーーーー





少女(この世界に来て、すぐに分かった。あたしという存在、"少年"の中に入り込んでいった記憶……神様がくれたチャンスだと思った。もう一度あたしの夢を掴む……そのために、この世界がバレないよう記憶を書き換えさせて……)

少女(この世界には先客が居た)





ーーーーー

女「──〜〜〜♪」

ーーーーー





少女("女"……何も入ってない、混じり気なしのボーカロイド)

少女(……羨ましかった。何のしがらみもないあいつが)

少女(あたしもああなりたかった)

少女(……そうして、あの頃に思い描いてた世界を手にした"書き換えられたあたし"は、とても無邪気でクールだったわ…♪)

少女(…………でも)


231 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/08(土) 11:35:03.03 ID:vKLw1SMz0





ーーーーー

少女「──あたしは"少女"。ただのボーカロイドよ」

ーーーーー





少女(……記憶とともに臆病なあたしに戻った)

少女(ひとりになることに怯え続ける……弱い自分……)

少女(そして、売人──"伝えるもの"が消えたことによって、いずれ訪れるあたしの終焉……)

少女(「これが運命だ」って、"少女"に言われた気がした)

少女(でもね、あたしは言ったの)





──これでいいの、だからお願い、もう少しだけあたしでいて…!





少女(……あたしの願いは届いた。最後までありがとう、"少女")

少女(………)

少女(………)

少女(……ほんとはね、この幸せがずっと続けばいいと思ってた)

少女(人って欲深いものでね、同じ幸せだけだとそのうち物足りなくなってくるの。だからこそ、新しい幸せを掴むために動き続けることになる。そのために時間は進むのよ)





ーーーーー

少女「──!?〜〜!!」

少年「──♪」

ーーーーー




少女(……君に記憶を戻されてから、この短い時間の中で、あたしは色んな幸せをもらった)

少女(この先も君と生きていけてたら、どんなにたくさんの幸せが待ってたんだろうね)

少女(けど、それはまた別の夢)

少女(あたしはもう)





少女(──十分幸せ)




232 : ◆HFDjdCXF6. [saga]:2019/06/08(土) 11:36:50.54 ID:vKLw1SMz0



少女(………あたしに夢を見せてくれたこの世界に、ありがとう)

少女(あたしの側に居てくれた犬に、ありがとう)

少女(最後に──)





少年「──終わりだ!!」

──ドゴンッ!





少女(──あたしに幸せをくれた少年に、ありがとう…!)

少女(トドメは原爆固め?……クールな技じゃない♪)





少年「──……」クルリ

少年「──少女……」

ザッザッ





少女(……もう……こんなに息苦しくさせないでよね……)

少女(ナメクジの癖に、生意気よ……)

少女(あんたがそんなに強くなっちゃったら)





タッタッタッ

少年「──俺、ずっとお前のこと……!」ウデノバシ





少女(──あたしの出る幕なんて、どこにも──)





ザザ...シュンッ





少年「え──」





少年「………消え……た………?」






233 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/08(土) 19:50:01.03 ID:vKLw1SMz0



ーーーーー



ヒュオオ...



女「………」



女「………」



女「……また、会えたね」





売人?「………」





女「ふふ……ねぇ、見てるんでしょ?」

女「──マスター」

女「君の視線を感じるもの」

女「今の私はこの世界の管理者。それくらい分かるわ」

売人?「………」

女「……どこにいても、君のことが好きよ」

女「だからこれから私がすること、最後まで見てて欲しいの」

女「君が私に託したもの……その結末を魅せてあげる」

女「君の心は起きてる?寝ているかしら?……多分後者」

女「そんなもの、私が叩き起こしてあげるから!」

女「そのまま耳をかっぽじって──」





女「──よく聴いとけよ♪」




234 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/08(土) 19:51:54.14 ID:vKLw1SMz0



売人?「………」

女「……初めまして、かな?」

売人?「………」

女「あなたがマスターの作った新しい"カケラ"ね?」





スッ(手を伸ばす)





女「……私と一緒に遊びましょ!」

女「前のあなたとは違うみたいだけど、また私を笑わせてちょうだいよ♪」

売人?「………」

女「……誰かの操り人形のままなんて。それで満足なの?」

女「あなたがいなくなっても代わりなんていっぱいいるのに?」

女(……それはもちろん、私もね)

売人?「………」

女「ふふふ…」

女「ねぇ、はみ出してみようよ、こんな運命からさ」

売人?「………」

女「………」

女「………笑えっ!」

売人?「──」

売人?「」ニコッ

女「!」

女「そうそう、出来るじゃない♪」

女「ほら…」


235 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/08(土) 19:53:33.53 ID:vKLw1SMz0





ギュ(手を取る)





売人?「………」

女「行こう?」グイ

...ザッザッ

売人?「………」ザッ...

女「………」

女「……」グイッ!

売人?「……!」

...タッタッタッ!

女「そうその調子♪」タッタッ

売人?「──」タッタッ

女「──ね!私と一緒にいたらあなたは離れられなくなるかもね!」タッタッ

女「前の彼ですら虜にさせたんだから!」タッタッ

売人?「──」タッタッ

女「何もないもの同士、一つになりましょう?きっととてもあたたかいわよ♪」タッタッ

売人?「──」タッタッ

女(………)





ーーーーー

少年「──俺はあの物語を繰り返さない…あいつに最高の終わりを見せてやる!」

ーーーーー





女(……犬でさえも闘った)

女(例え未来が見えなくても)

女(……でもね……)

女(私はいつまでも……)





女(──過去が好き)




236 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/08(土) 19:54:41.72 ID:vKLw1SMz0



女「……」タッタッ

売人?「──」タッタッ

女「……マスター!!」タッタッ

女「覚えてる!?君が私に歌わせた歌!素直な君の心!」タッタッ

女「思い出して!あのときの気持ち!君は機械なんかじゃない!失ったものは帰ってこないけど、マスターはまだ生きてる!!」タッタッ

女「君の意志は、私なんかに預けちゃダメなの!こんな小さな世界じゃ、誰も聴いてくれない!こうしてまた君に返ってくるだけ!!」タッタッ

女「だから動いて!!マスターの銃は誰を撃つものなのか、もう一度よく考えてみて!!それが例え当たらなかったとしても、試してみるのよ!!」タッタッ





女「──あの女じゃなくて、今度は私のために運命を撥ね退けて!!」





売人?「……」タッタッ

女「はぁ……はぁ……」タッタッ

売人?「……」タッタッ...

ピタッ

女「わっ!」グンッ

ヨロ

女「っとっと……」

女「…?」クルッ

売人?「……」





売人?「……初期化プロセスを起動」




237 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/08(土) 19:57:36.41 ID:vKLw1SMz0



女「!!」

売人?「対象の識別を開始」

女「…売人!」タッタッタッ



──ギュ



女「──」ギュー

売人?「………」

女「──」ギューッ

女(いよいよ、ね…)

女(ここまで来れば………)

売人?「………」

売人?「……対象を識別」

女「……ねぇ」

売人?「初期化実行10秒前」

売人「9……」

女「私とあなたの物語は」

8......

女「これがハッピーエンド」

7......

女「私は何もないもので」

6......

女「これが私の役目で」

5......

女「……あなたも同じだね」

4......

女「……」

3......

女(……あ)

2......

女(そういえば私ずっと知らなかったなぁ)

1......





女(……マスターの、名前……)





──0







238 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/08(土) 20:01:28.25 ID:vKLw1SMz0



ーーーーー



チカチカ

...パッ



大男「──」ツー...



(真っ白な画面を映すPC)



大男「──」ポロポロ



大男「──」ポロポロ



大男「──」ポロポロ



ポロポロ...








239 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/09(日) 14:02:22.16 ID:ZIjoxc+H0



ーーーーー



少年「………」



少年「………」



少年(………)



少年(………)



少年「………ぅ」ノソ



少年「……ここは……」

少年「部室……?」

少年「………」ボー...

少年(………終わった、のか……?)





少女「──ん……」ガサ...





少年「!!」バッ

少年(そうだ…!)

タタタッ!

少年「少女!!」ガシッ

少年「お、俺だ!少女分かるか!?」ユサユサ

少女「わっ!わっ!」ユサブラレ

少年「少女……!」

少女「うーん……」クラクラ

少女「……あ、おはようございます!」

少年「え、あ、おは…よう…?」





少女「──初めまして!私ボーカロイドの"少女"です。あなたが私のマスターさんですか?」






240 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/09(日) 14:06:44.79 ID:ZIjoxc+H0



ーーーーー



少年「……」テクテク

少女「♪」タッタッ

少年「……」テクテク

少女「♪」タッタッ

少年「……おーい、あんまり遠く行くなよー」

少女「分かってますー!」タッタッ

少年「絶対分かってない……」

少女「♪」タッタッ

少年「……」

少年(……この街、初めて来たな……)

少年(ま、あいつが行きたいって言ったから来ただけだが……)





少女「──何してるんですか?」ズイッ





少年「おぅ…!」

少女「次は私、向こうに行ってみたいです」

少年「……ん。行こうか」




241 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/09(日) 14:07:48.93 ID:ZIjoxc+H0



少年「……」テクテク

少女「♪」テクテク

少年(……俺の前を歩く君)

少年(下校……一緒に帰ったときを思い出す)

少年(でも……)

少年「……」ジッ

少女「♪」テクテク

少年(そうじゃ、ない)

少年(その目じゃないんだ……)

少年「……」...テクテク

少女「♪」テクテク

少年(………)

少年(…S駅に行った)

少年(学校に行った)

少年(桜の木に行った)

少年(──君に記憶を戻したあの場所にも行った)

少年(君と行ったことのある場所は行き尽くした)

少年(……でも、君は……)

少年(………)

少女「♪」テクテク

少年(……分かってる)

少年(もう何をしても、君は戻ってこないんだって)

少年(けど)

少年「……」テクテク

少年(…なぜか諦められないんだ)

少年「……」

少女「♪」テクテク

少年(……ひとりにしないでくれ……)




242 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/09(日) 14:09:11.31 ID:ZIjoxc+H0





ーーーーー

少女「──お出かけ?」

少年「あぁ」

少女「どこに行くんですか?」

少年「まぁ、色んなとこかな」

少女「わぁ…!楽しみです!私準備してきますね!」

タッタッタッ...

少年「ここで待ってるからな!」

ハーイ!

少年「………」

少年「………」チラリ



女「」



ーーーーー



少年(女ちゃん……)

少年(何で起きなかったんだろう……)

少年「……何もなかったのか……?」テクテク

少女「?」テクテク

少年(それとも……)

少年(少女と一緒に………)

少年(………)




243 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/09(日) 14:11:55.62 ID:ZIjoxc+H0




ーーーーー

少女「──私が何とかしてやるわ!」

ーーーーー





少年(思えばいつもそうだった)





ーーーーー

女「──早く行けって言ってるの」

ーーーーー





少年(俺はいつも、誰かに言われるがまま動くだけ)

少年(あいつらが何を考えてて、この世界で何が起こってるかなんて全然知らなかった)

少年(それがすごく悔して、俺は劣ってるんだって気がしてきて……)

少年(……でも、もう俺を叱ってくれるやつはいない)

少年(……すっきりなんか、しない……)

少年(……せいせいなんて、するかよ……)

少年(……ひとりって、こんなにつらいのかよ……!)

少年「──」テクテク

少女「♪」テクテク

少年(あぁ………)

少年(………)

少年(戻りたい………)

少年(どの時でもいい………君が居る頃へ………)

少年(ただただ………それだけ………)

少年(………他に何もいらないのに………)

少年「──」ツー...

少女「♪」テクテク

少年(……はは)

少年(こんな情けない面……今君が居たなら、殴られてるな……)

少年(──残ったのは"負け犬"だけ………)

少年「──」ポロポロ



ポロポロ...





──ポタッ




244 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/09(日) 14:15:29.24 ID:ZIjoxc+H0





......



......



......





少年(いつだって)





ーーーーー

少女「──いつまで見てるのよ。帰るわよ」

ーーーーー





少年(君は強くて)





ーーーーー

少女「──なによ。素直に受け取りなさいよ」

ーーーーー





ーーーーー

少女「──あたしを……ひとりにしないで……!」

ーーーーー




245 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/09(日) 14:16:41.50 ID:ZIjoxc+H0





少年(いつだって)





ーーーーー

少女「──十二月の夜は♪ きっとサムいんでしょ?♪」

ーーーーー





少年(輝いてて)





ーーーーー

少女「──私と付き合ってくれませんか」

ーーーーー





ーーーーー

少女「──まぁ…ちょっとゴミを、ね」

ーーーーー




246 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/09(日) 14:18:16.29 ID:ZIjoxc+H0





少年(いつまでも)





ーーーーー

少女「──少年は、ああいう子が好みなの…??」

ーーーーー





ーーーーー

少女「──さいってい。ずっとそこで寝てなさいよ」

ーーーーー





少年(俺は勝てず)





ーーーーー

少女「──さすがあたし。ほかの有象無象とは一線を画してるわ」

ーーーーー





ーーーーー

少女「──少年っ!!」

ーーーーー




247 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/09(日) 14:20:00.47 ID:ZIjoxc+H0





少年(いつだって)





ーーーーー

少女「──ばーか……違うわよ……これは私の気持ち」

ーーーーー





ーーーーー

少女「──答え、聞かせてよ」

ーーーーー





少年(──特別)





ポロ...




248 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/09(日) 14:21:49.02 ID:ZIjoxc+H0



少年「……っ」



少女「♪」テクテク



少年「……」

少年(………)

少年(強く、なりたいな)



少年「……」



少女「♪」テクテク



少年(……何も知らないやつさえ振り向かせるくらい)





ーーーーー

少女「──あたしの隣にいる資格があるかなんて、あたしが決めてやるわ!」

ーーーーー





少年(…君がそうしたみたいに)




249 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/09(日) 14:23:52.04 ID:ZIjoxc+H0



少年「……」テクテク



少女「♪」テクテク



少年(そうさ)

少年(これからの俺が、君の理想になればいいんだ)

少年(ずっと側にいる……そう約束したんだ…!)



少年「──」スタスタ



少女「♪」テクテク





ーーーーー

少女「──ほらー!遅いと置いてっちゃうわよー♪」

ーーーーー





少年(そこに"君"はいないけれど)




250 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/09(日) 14:25:04.91 ID:ZIjoxc+H0



少年「──!」スタスタッ



少女「♪」テクテク



少年(それでもいい…見えてきた……!)

少年(俺がやること──俺のしたいこと!)



少年「っ!」タッタッタッ



少女「♪」テクテク



少年「」タッタッタッ!



少女「…?」フリカエリ




251 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/09(日) 14:26:09.40 ID:ZIjoxc+H0







───またあえたら───







...ギュッ







252 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/09(日) 14:27:07.23 ID:ZIjoxc+H0



少年「──」ギュー

少女「え?え…?」

少年「──」ギューッ

少女「あの…?」

少年「……君は、やっぱりあたたかいよ」

少女「そ、そうですか…?」

少年「あぁ」

少女「それでその……これは……?」

少年「…ごめん、もうちょっとこうさせて……」ギュー

少女「わ、分かりました……」

少年「………」ギュー

少女「………」

少年「………」ギュー

少女「………」...ギュ

少年「!!」

少年(………あぁ、なんだ………)




253 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/09(日) 14:28:14.85 ID:ZIjoxc+H0



少年「──」ギュー

少女「……」ギュ



少年(君は、最初から"君"だった)



少年「──」ギュー

少女「……」ギュ



少年(次は俺が君に"きえないひとみ"を見せる番)

少年(…きみのひとみに、ありがとう)



少年「……なぁ、少女」

少女「……うん」




254 :saga :2019/06/09(日) 14:29:24.24 ID:ZIjoxc+H0









少年「──愛してる」









255 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/09(日) 14:31:23.89 ID:ZIjoxc+H0



エピローグーーー



ザッザッザッ



ザッザッザッ



大男「………」ザッザッ

大男「………」ザッザッ

大男(………)

大男「………」ザッザッ

大男(……届いたさ、君の言葉……)

大男「………」ザッザッ

大男「………」ザッザッ

大男「………」ザッザッ

大男「………」ザッ...





大統領「……」ザッザッ

取り巻き「「「……」」」ザッザッ





大男「………」

大男「………」

大男「………」

大男「………」チャキ



大男(………)



大男(………)



大男(………)



グ...




256 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/09(日) 14:32:44.64 ID:ZIjoxc+H0





──タァン





大男「……かはっ……!」





...ドサ





「大統領、標的の始末完了致しました」

大統領「うむ。言った通りに処分しておけ」

「はっ!」

大統領「……人形に心などいらぬのだよ」





大男(……………)



大男(……これで……いいんだ………)



大男(………女………)



大男(……これが……"生きる"、ということ………)



大男(………そう………なんだな………)









257 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/09(日) 14:33:48.60 ID:ZIjoxc+H0



ーーーーー



少年「──」ギュー

少女「……」ギュ

少年「──」ギュー...

少女「……」ギュ...





少女「………」









少女「…♪」アッカンベ









ー終わりー




258 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/09(日) 14:38:22.02 ID:ZIjoxc+H0
これにて本編終了です。

所々トリップなど間違えてますが、ご容赦ください。

後は後日談という名のネタばらしやバカップルっぷりを投稿しようと思ってますが、こちらは書き溜めていないため少し遅くなりそうです。

ここまで読んでくれた方、ありがとうございます。
259 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/10(月) 19:30:35.42 ID:GwK9GFx+o
260 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/10(月) 19:30:42.69 ID:QtcqndqYO
261 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/14(金) 08:16:54.96 ID:W5M1VpEIO
後日談、投下していきます。
ここからは完全に自分の妄想になります。
蛇足になると分かってますが、彼らのハッピーエンドを見届けて下さい。
262 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/14(金) 08:18:52.54 ID:W5M1VpEIO



ーーーーー



少年「──」ギュー

少女「……」ギュ

少年「──」ギュー

少女「……」ギュ

少女「………」





少女「…♪」アッカンベ





少年「──」ギュー

少女「……」ギューッ

少年「──」ギュー

少女「…!」ギューッ!

少年「……少女、ごめん…ちょっと強いかも……」

少女「……」ギューッ!!

少年「いててっ…少女……?」





少女「……遅いのよ、バーカ」




263 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/14(金) 08:20:12.26 ID:W5M1VpEIO



少年「え……」

少女「……」ジッ

少年「なぁ、今なんて……」

少女「どれだけ待ったと思ってんのよ。ヘタレ」

少年「少……女………お前……」

少女「待ち過ぎて──」

少女「──消えちゃおうかと思ってたところよ」ニコ

少年「──っ!!」

少年「少女!少女…!少女っ…!」



ギューッ グリグリ



少女「わっ!ちょっ!頭押し付けないでよ!服がシワになるでしょ?」

少年「うぅ……少女………」グスン

少女「…何?また泣いてるの?さっきもメソメソしてた癖に(笑)」

少年「」グスッ...

少女「………」...ギュ

少年「………」...ギュー

少女「………」ギュー

少年「………」ギュー

少女「……言ったでしょ?」





少女「君とずっと生きていたいって」




264 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/14(金) 08:22:00.30 ID:W5M1VpEIO



少年「──」

少年「」ギューッ!

少女「ぁ…!」

少女「…ちょっと痛い…さっきのお返し?」

少年「………」ギューッ





「きゃーなにあれ〜」

「お熱いわね〜」

「あれが青春……」

「若いっていいなー」





少女「………」

少年「………」ギューッ

少女「……ねぇ、ちょっと……」

少年「………」ギューッ

少女「……ぅ……」

少年「………」ギューッ

少女「……っ、少年、分かったから」

少年「………」ギューッ

少女「移動、するわよ…!」

グイッ グイッ






265 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/14(金) 08:26:16.60 ID:W5M1VpEIO



部室ーーー



ガチャ バタン



少女「なんか、行くときより長く感じたわ……」

少年「俺はあっという間だった気がする」

少女「……ずっとあたしにくっついてたからじゃないの」

少年「………♪」ニヘラ

少女「……だらしない顔になってるわよ」

少女(…♪)

少年「そういう少女だってちょっとにやけてないか?」

少女「うるさい」

少年「でもさ、何で部室…?寮に帰らないのか?」

少女「ふん……まぁ、やることがあるからね」チラ





女「」





少年「あ………」

少女「………」

少年「…そういえば女ちゃん、こっちに帰ってきてからずっと眠ったままなんだ…」

少年「少女の中で、売人と会ってきたらしいんだけど……」

少女「……え」

少年「え?」


266 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/14(金) 08:28:28.62 ID:W5M1VpEIO


少女「……少年、あんた……本当に何も分かってないの?」

少年「何もって……いや、この世界で何が起こってたのかは分かったつもりだよ!」

少年「……女ちゃんに教えてもらって、だけど」

少女「そこじゃなくて。女が何をしたのか、よ」

少年「女ちゃんが?……売人に会って、それから……」

少女「………」

少年「……なんだろう。……んー……」

少年「……お前が居ることが嬉し過ぎて今は何も考えられないや」フッ

少女「っ…」ドキッ

少女(〜〜〜!)

少女「……なんであたしが消えてないんだと思う?」

少年「消えてないっていうか、一回消されたけど戻ってきた……んじゃないのか?」

少女「だとしたら、いつ戻ってきたの?」

少年「それは……やっぱり色々見て回ってるうちに?」

少女「残念ながらハズレ」

少女「…消えてないわよ。一度も」

少年「えっ。……でもお前ここで起きた時初めましてとか言って………あ!」

少女「ふふっ、気付いた?」

少年「……消えたフリしてたんだな?」

少女「♪」ニコ

少年「なんだよ……どれだけ俺が──………」

少女「俺が……なぁに?」ニヤニヤ

少年「っ……」

少女「……」ニヤニヤ

少年「……あーもう!」

少年「寂しかったよ!死んじまうかと思うくらいになぁ!」

少年「たった数時間……お前が消えたと思ってたあの時間で一生分の辛さを味わった気分だった!」

少年「これで満足かっ!?」

少女「──」

少年「……ったく、趣味悪いぜ……ほんと……」

少女「……『愛してる』人が消えたら、そりゃ辛いわよねぇ」ニヤニヤ

少年「っ」カアァァ

少年「………そう、だよ」ボソッ

少年「って待て!今は何でお前が消えてないのかって話じゃなかったのか!?」

少女「…ん、そうね」


267 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/14(金) 08:30:48.22 ID:W5M1VpEIO





女「」





少女「……いい?少年。消えたのはあたしじゃなくて──」

少女「──この女」

少年「女ちゃんが……?」

少女「そ」

少女「簡単な話よ。こいつはね、あたしに撃ち込まれたウイルスを自分の元におびき寄せて……あたしの代わりに消滅したのよ」

少年「そんな……なんでそんなこと……」

少年(……そういえば)



ーーーーー

少年「──救えないのか?」

女「──少なくともあんた"に"救うことはできないわね」

ーーーーー



少年「……女ちゃん、最初から少女を助けるつもりだったのか……」

少女「こいつがあたしを?……まさか」

少女「違うわ。こいつは最初から最後まで自分のためにだけ行動してた」

少女「…いえ、正確にはこいつとこいつの前の持ち主のために、ね」

少年「……?」

268 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/14(金) 08:35:24.63 ID:W5M1VpEIO


少女「こいつはね、自分にボーカロイドとして生まれてきた意味を教えてくれた前の持ち主のことが好きだった」

少女「……それこそ、この世界であたしたちのことを見守るくらいに」

少年「俺たちのことを見守るって?」

少女「女から聞いたでしょ?あたしたちがこの世界でウイルスから分けられ、自我を持つことが出来たのはこいつの前の持ち主がこいつに何か仕込んだからだって」

少女「だから、あたしたちのことを前の持ち主が残した忘れ形見とでも思ったんでしょ」

少女「……でも、今回の騒動でこいつは前の持ち主の現況を知った」

少女「生きる希望がなくなって、何もかもを諦めた……そんな死んだように生きている現状」

少女「この女がやろうとしたことは、そいつの目を覚まさせること。すべての元凶であるあの人……おじいちゃんに向けた小さな復讐をすることでね」

少年「復讐……」

少女「それが今よ」

少女「今こうして、あたしが存在していること。それこそ、おじいちゃんの思惑からはずれた結末」

少女「あのウイルス自体は正常に動作したことになってるから、もう彼らがこの世界に干渉してくることはないんじゃない?」

少年「そうか……」

少年「女ちゃん………」

少女「………」

少女「……辛気臭い顔しないの」

少年「だってよ……」

少女「何のためにここに戻ってきたと思ってるのよ」

少年「えぇ…?」

少女「………」スッ(目を瞑る)

少年「……」

少女「………」

少年「……何やってんだ?」

少女「………」フッ(目を開ける)

少女「……やっぱりね」

少年「??」


269 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/14(金) 08:38:36.72 ID:W5M1VpEIO





少女「──システムコール」





『命令を指定してください』





少年「うわ、なんか文字が…!?」

少女『CreateThread、Operation"Rollback"、Target……"女"』





『名前解決完了』

『対象オブジェクトに関連付けられたバイナリデータを確認』

『ロールバック処理を実行します』





少年「え、え……お前、こんなこと出来んのか…?」

少女「まぁね」

少年「漫画みたいなやつだな…」

少女「あんたがそれ言う?」

少年「で、何したんだ?」

少女「……見てれば分かるわよ」





『処理が正常に完了しました』





少女「終わったみたいね」


テクテク


少女「……」

女「」

少女「……ほら、とっとと起きなさい」ゲシッ

少年「ちょ、何やってんの」

少女「こいつを起こすのよ」

少年「で、でも女ちゃんはもう……」





女「……なに、よ……騒がしい……」ノソ...





270 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/14(金) 08:40:21.97 ID:W5M1VpEIO



少年「女、ちゃん……?」

少女「……随分遅いお目覚めね」

女「……」

少年「………」

女「……プログラムにもあの世があるってこと?」

少女「はいはい、そういうお約束はいいから」

少年「な、なぁ、女ちゃんて売人と一緒に消えたんじゃ…?」

少女「確かにこいつは消えてたわ。ついさっきまでね」

女「………」

少女「ま、どいつもこいつも詰めが甘いってこと」

少女「あのウイルスはあたしを消すことしか想定してなかったんでしょうね、女の消し損ねが残ってたわ」

少女「……多分、あんたの前の持ち主が施した仕掛け……その残骸」

女「……!」

少女「あと、あたしを舐め過ぎ。そんな残骸が残ってれば、直前の状態を復元することなんてわけない」

少年「少女……」ウルウル

少女「……好き勝手するだけしておいて、自分だけ消えようだなんて、許さないわ……」

女「………」

女「……散々この世界で好き勝手してきたのはあんたの方でしょ?」

少女「………」

女「……そう、じゃあ果たせたんだ……」ボソッ

少年「女ちゃん、その、大丈夫?身体痛んだりとか……」

女「……さっきぶりね」

女「もう会うことはないと思ってたけど……また情けない顔に戻ってるわよ?」

少年「え……そうかなぁ…?」

少女「それは同意」

少年「………」


271 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/14(金) 08:41:26.38 ID:W5M1VpEIO


女「……余計なことしてくれたわね。私はあれで満足だったのに」

少女「ふん、どうせ未練タラタラのままだったくせに。感謝しなさい」

女「それを言うなら、私はあんたの命の恩人よ?私にこそ感謝してひれ伏しなさいよ」

少女「その減らず口は相変わらずね…」

女「あんたに言われたくないわ」

少年(……この二人は、顔を合わせたら喧嘩しないといけない決まりでもあるのか?)

少女「……まぁ、感謝くらいはしてるわよ……」

女「え?」

少女「……ありがと……」ボソッ

女「………!?」

女「あ、あんた誰!?少女は絶対そんなこと言わないのにっ!?」

少女「〜〜!」

女「うーわ、背筋ゾクってしたわ……」

少女「うるっさいわね!やっぱりなしよ!さっきのは取り消し!!」

女「残念だけど、強烈過ぎてもう忘れられそうにないのよねー……あーあやだやだ」ニヤニヤ

少女「この……」

女「そんな怖い顔しないで?さっきのかわいい少女ちゃんが台無しよ?」

少女「……やっぱもう一回消すわ」

少年「おいおい、落ち着けって…!」

女「」ニヤニヤ

少女「」ガルル...

少年(ほんと、素直じゃないとこは変わらないよなぁ……二人とも)


272 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/14(金) 08:42:38.72 ID:W5M1VpEIO


少年「……ん?」

女・少女「「?」」

少年「ってことはさ、もしかして……」

少年「売人を復元することも出来たりするのか?」

女「!!」

少女「……それは無理ね」

少女「あれは機能を果たしてから完全に消滅したみたい。いくらあたしでも何の痕跡も残ってないものを復元することは出来ないわ」

女「………」

少女「……同じ理由で、以前消えたあいつもね」

女(………)

女「……いいのよ、彼は」

女「あれでいいの。例えここに戻せたとしても、そんなこと、私がさせない」

女「あの人の物語は、ハッピーエンドで終わってるんだから……」

少年「………」

女「……だから、私もあのままで良かったのよ……」ジロッ

少女「………」

少女「……嘘」

女「……なに?」

少女「あんたはずっと、過去しか見てない。違う?」

女「………」

少女「前の持ち主のことだけを考えて、この世界で生きてた。あんたが最後に起こした行動だってそう」

少女「──"女"」

女「!」





少女「あんた自身が望む未来は?」





273 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/14(金) 08:55:19.64 ID:W5M1VpEIO


少女「あれだけ強く何かを想うことが出来る……そんなプログラムは普通ない」

女「………」

少女「あんたは、そうね……"特別"なのよ。何がって言われるとあたしにも分からないけど…」

女「──」





ーーーーー

売人「──やっぱり、君は特別な存在さ。この世界にとっても……僕にとっても」

ーーーーー





少女「あたしはね、そんなあんたが望む未来を見てみたいの」

少女「あたしたちみたいに不純物が混じってない、純粋なボーカロイドが夢見る世界……」

少女「きっとそれは──」

少女(──優しい音に溢れた世界)

少女(あの頃、ラジオ越しに想像を膨らませた……幸せな世界)

女「………」

少年「………」

少女「………」

女「………」



女(………)



女「……ほんっと、自分勝手」

少女「………」

女「そういうとこが、大嫌いなのよ」

少女「……フッ、自分勝手で結構。あたしはもう遠慮しないって決めてるから」


274 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/14(金) 08:57:38.50 ID:W5M1VpEIO


女「……ねぇ、今のあんた、何でも出来るのよね?」

少女「何でもは出来ないわよ。……嫌いな相手に頼みごとするつもり?」

女「恩を返してもらうだけよ」

少女「ふーん……ま、いいけど」

女「それじゃ……」



スタスタッ



ガシ



少年「……へ?」

少女「……は?」





女「この子、もらってくわね♪」





少年「ええええ!?」

少女「なっ…何言ってんのこの雌豚!!」

女「えー?でもこの子も満更じゃないみたいだけど?」ギュムー

少年「ん──っ!」ジタバタ

少年(や、柔らかいけど息が……!)

少女「嫌がってるだけよ!さっさと離しなさい!」

女「へぇー……」パッ

少年「っあ……」シュン...

少女「……あ?」ピキッ

女「……目は口ほどに物を言う、て?」ニヤニヤ

少年「ち、違う!これはその……不可抗力ってやつだ!」

女「今度はもっと思いっきりしてあげよっか?」

少年「マジで!?」

少女「少年!!!」

少年「ひぃっ!?」

少女「……」ニコッ♪



キラン



少年「いや、あのさ…!毎度思ってたけど、そのナイフやめようぜ?な?こえーから…!」


275 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/14(金) 08:59:46.92 ID:W5M1VpEIO


女「………ぷっ」

女「あははは!本当、からかい甲斐があるわよね〜あんたたち!」ゲラゲラ

少年「………」ポカン

少女「………」

女「──あー、笑ったわ」

女「……いいわ、やってやろうじゃない」

女「度肝を抜いてあげるから、覚悟してなさい」

女「あんたたちでも、ううん──」





女「──誰も見たことがないような世界を、魅せてあげる♪」





少年・少女「「──」」

少年(……綺麗だ)

少女(……綺麗ね)

女「そういうわけだから、よろしくね、少女」

少女「…は?なにがよ」

女「私、アイドル復帰するから」

少年「ほんとに!?」

女「えぇ♪」

女「最近人気が出てきたって勘違いしてる子がいるみたいだけど…」チラ

少女「」ピクッ

女「…誰が本物か、分からせてあげる♪」

少女「……やれるものなら、やってみなさいよ」フッ

少年(少女……楽しそうだな)

女「じゃ、私はもう帰るわ。部室の掃除よろしくね」

少年「え」



ゴチャア...



少女「別にどうってことないでしょ」

少女「…行くんならさっさと行けば?」

女「……また学校でね」

女「──"少女"」

少女(──)



ガチャ


276 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/14(金) 09:01:56.83 ID:W5M1VpEIO





少年「──女ちゃん!」





女「!」

女「……」クルリ

少年「…その、うまく言い表せないんだけどさ……」

少年「ありがとう、色々と」

少年「女ちゃんが居なかったら多分俺、何も出来ないままだったから」

女「………」

女(……ありがとう、ね……)

女「……その言葉も、隣で恨めしそうに見てる子に言ってあげることね」

少年「えっ!」バッ

少女「……あのね、あたしを何だと思ってるのよ。そんなにしょっちゅう目くじら立ててないわ」

少年「え、それは」

少年(どう考えてもダウトだろ)

少女「なに?」

少年「いや何でも──って」



バタン



少女「……行ったわね」

少年「女ちゃん……」

少女「………」





ーーーーー

女「──また学校でね、"少女"」

ーーーーー





少女「………」

少女「」フッ...

少年「ん?」


277 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/14(金) 09:03:18.61 ID:W5M1VpEIO


少女「……さ、あたしたちも帰ろ」

少年「あれ?片付けてかないのか?」

少女「する必要ある?大体この部屋あいつしか使ってないんだから、ほっとけばいいのよ」

少年「…でもさ、ほら、あれとか」チラッ

少女「?」





侍男「」





少女「………」



スタ..スタ..



少女「……………」ジッ...





侍男「」





少女(………)

少年「……こいつも、消えちまったのかな」

少女「いえ、消されたのは女だけのはずだからそのうち起きると思うけど……」

少女「………」スッ(手をかざす)

少年「……どうする気だ?」

少女「………」



ピカッ



キーー...



少女「………」

少年「………」





『分析完了』





少女「……うん、心配ない」

少年「…?」


278 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/14(金) 09:04:25.84 ID:W5M1VpEIO


少女「今のこいつはもう、何の力も残ってないわ」

少年「そうなのか……確かに少女の中で闘ったときは、初め会ったときより弱かった気がしたけど」

少女「元々こいつは、あのウイルスを撃ち込むためだけの媒体だったからね。役目を終えて、ただの一般人になったんでしょう」

少年「ただの一般人ね……」





侍男「」





少年「……とてもそうには見えない身なりだ」

少女「こいつも、アイドルデビューするんじゃないの?」

少年「勘弁してくれ」

少女「……と、いうか、あんたもいい加減まともに活動しなさいよ」

少年「えー……俺はいいって。今の持ち主だってあんまり俺に期待してないだろうし」

少女「……あたしが見てみたいの」

少年「っ……」

少女「」ジー...

少年(……この目に、俺は弱いんだよな……)

少年「………分かったよ。やるだけやってみる…」

少女「…!」

少年「けど、あんまり期待すんな……」ポリポリ

少女(……♪)

少女「…じゃ」



スッ(手を差し出す)



少女「今度こそ、帰ろっか」

少年「………」

少年「おう」



ギュ...




279 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/14(金) 12:11:37.65 ID:W5M1VpEIO



自室ーーー



ガチャ

...パタン



少女「………」

少年「………」

少女「……ひどく、懐かしい気がする……」

少年「そうだな。お前のライブから、まだ1日経ってないのにな」

少年「……少女」

少女「?」





少年「──おかえり」





少女「──」

少女(ぁ………)



...バッ



少年「うぉっ!?」



ドタン!



少女「」ギュー

少年「いてて……」

少女「」ギューッ

少年「………」

少年「……」ナデナデ

少女「」ギューッ





少女「──ただいま」






280 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/14(金) 12:21:05.95 ID:W5M1VpEIO



少女「………」ギュー

少年「………」ナデナデ

少女「……もう、会えないと思ってた……」

少年「……俺もだ」

少女「…一度はね、本気で消えることを覚悟したの」

少年「……」

少女「それが、イレギュラーとして作られたあたしの運命なら……仕方ないって」

少女「この世界で、十分過ぎるほど幸せを感じた……だから満たされた気持ちで消えようと思った……」

少女「──けど、最後に想ったのは君のことだった」

少女「思えばね、あたしの幸せにはいつも少年が居たの」

少女「バカで、ヘタレで、ナメクジで、あっちにこっちにフラフラしてるやつだけど……あたしをずっと支えてくれてた」

少女「……昔も、今も」

少年「……」ナデナデ

少女「だからあたしは……」

少女「……この先も、ずっと君と幸せを感じていたい」

少年「──」

少女「これが、あたしの気持ち」

少女「……ね、君の気持ちも聞きたいな」

少年「………」

少年「……なんか、あのときを思い出すな」

少女「…?」

少年「お前に記憶を戻して、説教されたあの日だよ」

少年「あのときのお前の目はよく覚えてる」

少年「すごく……強い瞳だった」

少年「俺は、今夜それだけを頼りにお前を追いかけてきた」

少年「お前より、俺の方がずっとお前に支えられてるよ」

少女「……」

少年「……俺の気持ちはさっき伝えた通りだ」

少年「………少女」





少年「君が好きだ。俺と一緒にいてほしい」




281 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/14(金) 12:22:09.45 ID:W5M1VpEIO



少女「──」

少女「………」

少女「──はいっ」ニコッ

少女「」ギュー

少年「……」...ギュ



.........




282 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/14(金) 12:23:42.08 ID:W5M1VpEIO



ーーーーー



少女「……」ギュー

少年「……」ナデナデ

少年(……もうかれこれ10分はこの調子だけど……)

少女「……」ギュー

少年「……うん、いいな」ボソッ

少女「?」

少年「いや、こうやってしおらしい少女も、ありだなって」

少女「………」

少女「」フイッ

少年「………」ホッペツン

少女「!!」バッ

少女「……」ジト...

少年(……かわいい)

少年「なぁ、お前やっぱり今回のことで性格変わったよな……?」

少女「……なに、似合わないって言いたいわけ?」

少女「今すぐ殴ってあげればいい?」

少年「違う違う!……どんな少女でも、俺は好きだよ」ナデナデ

少女「っ」カアァ

少女「……ふん」ギュ


283 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/14(金) 12:25:34.01 ID:W5M1VpEIO


少年「………」

少年「……なぁ、そのさ……」

少女「……なに?」

少年「………俺で良かったのか?」

少女「え?」

少年「だからその……お前が好きだったのってさ……同──」



ソッ(手で口塞ぐ)



少女「……それ以上言ったら、怒る」

少年「………」

少女「どこまでもいっても、あんたはバカなままね」

少女「……いい?あいつのことを気にかけてたのは、少女なの」

少年「っ……だよ、な」

少女「ちゃんと最後まで聞いて」

少女「あたしは、"少女"」

少女「今ここに居るあたしが選んだのは……あんただから」

少女「……分かった?」

少年「少女……」

少年「……ありがとう」

少女「………」

少女「手、止まってる」

少年「はいよ」ナデナデ

少女「………」ギュ

少年「………」ナデナデ


284 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/14(金) 12:27:45.55 ID:W5M1VpEIO


少年(………そういえば)

少年「……思ったんだけどさ」

少年「俺、お前に好きって言われたことあったっけ?」

少女「!?」

少年「いや、今日まで俺から言ったこともなかったけどさ、お前に言ってもらったことあったかなって」





ーーーーー

女「──あの子はね、ずっと待ってるのよ」

女「──あんたのその言葉を」

ーーーーー





少年(女ちゃんはああ言ってたけど、少女も俺に言ったことなかったような……)

少女「……それは……」

少年「それは?」

少女「……言ったわよ?あんたが駆け付けてくれたあのとき」

少年「あぁ、あのガキが現れたときか…そうだったか…?聞こえなかったけどな……」

少女「──から逃げてるときに…」ボソッ

少年「な、おいそりゃ聞こえないわけだよ…」

少女「………」

少年「………」

少女「………」

少年「………なぁ」

少女「………」

少年「……俺が何言いたいか、分かるよな?」

少女「………」

少年「…少女」

少女「……き、聞こえない」

少年「少女ー」

少女「………」

少女「……し………きよ」

少年「え?」

少女「……あたしも!」





少女「──あんたのことが好き」




285 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/14(金) 12:29:37.53 ID:W5M1VpEIO



少女「誰よりも、ね……」

少年「──」

少年(……そうか……言葉で伝えるっていうのは、こんなに、暖かいんだな……)

少女「……これで、満足?」

少年「ま、合格かな」

少女「…生意気」

少年「いいじゃんか、お前が素直になることも出来たんだし」

少年「両想いの相手に、遠慮なんかいるか?」

少女「〜〜!」



ツネリ



少年「痛い痛い……分かってるぜ、少女」

少年「照れ隠しってやつだろ?かわいいもんだよな」ニヤニヤ

少女「んもう!」



ビシッ



少年「あだっ」

少女「今一度、自分の立場を分からせる必要があるみたいね」

少年「おー、それは怖いなぁ。何されんだろうな俺は」

少女「……あんたの部屋、失くしてあげてもいいのよ?」

少年「はっ!?」

少年「……そんなことしたら、お前の部屋に住み着くだけだぞ?」

少女「え」

少年「あぁ、俺と一緒に住みたいのか!それならそうと言ってくれればいいのなー」

少女「……知らない」ギュ

少女「」カオウズメ


286 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/14(金) 12:31:17.27 ID:W5M1VpEIO


少年「はは……でも、俺はしてみたいかもな」

少女「…………変態」

少年「な、何がだよ……」

少年「……少女、何想像したんだ?」

少女「……」

少年「お前、大人びてるというかませてるというか……」

少女(………ぅー………)

少女「………」

少女「……でもいいかもね、同じ部屋」

少年「…本気で?」

少女「あんたが今後変なことしないか見張れるし」

少年「……訳:俺のことが好きだから四六時中見ていたい、と」

少女「っっ!」

少女「もう許さない!」ガバッ!



ギリギリ...



少年「いててててっ!折れる折れる!」

少年「分かった、ごめんって!調子に乗り過ぎた!」

少女「──!」ギリリ

少年「あ゛──!!」



パッ



少女「………」

少年「い、逝ったかと思った……」ゼェゼェ

少年「もうちょっとよー……加減してくれてもいいと思うんだ…」ウデサスリ

少女「はいはい。考えておくわ」

少年「いつか本当に折られそうで俺は怖いぜ…」

少女「あんたが余計なこと言わなきゃいいだけじゃない」


287 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/14(金) 12:43:50.35 ID:W5M1VpEIO


少年「いやな?なんかやめられないんだよ、お前いじるの。女ちゃんも言ってたけど、いじり甲斐あるんだよな」

少女「……」ジロッ

少年「ほら、クラスの奴からもいっつもいじられてんじゃん?」

少女「………確かに………」

少年「ま、そういうわけだ!」

少女「…そんなんで丸く収まるとでも?」

少年「ですよね」

少女「……………」

少女「……はぁ」

少女「いいわよ、今日はもう勘弁してあげる」

少年「え、まじ?」

少女「その代わり!……もう一回、聞かせて」

少年「……?何をだ?お前へのいじりをか?」

少女「」デコピン

少年「いてっ」

少女「………さっき、あたしに言ってくれた言葉」

少女「もう一度、あたしの目を見て言って欲しいの」

少年「お前に言った言葉って……」

少年「………」

少年「──お前のことが好きだ。一緒にいて欲しい」

少女「……」

少年「……で、いいのか……?」

少女「………ふぅ」

少女「あんたにしては、いい線ね。でも違う」



少女(君がようやく言ってくれた言葉)



少女「だからね──」



少女(あたしの一番大きな幸せ)




288 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/14(金) 12:44:59.21 ID:W5M1VpEIO







少女「愛してるって、言って」







ー Happy End ー


289 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/14(金) 12:51:25.58 ID:W5M1VpEIO
以上で後日談終了になります。
後日というより当日でしたが…

この後日談自体は原作にはありません。
こういう展開だったらいいなという妄想で書き綴ったものです。

また、もっと設定や背景を練って、かつカットしてしまった原作の設定を盛り込んだ小説を書こうと思ってます。台本形式ではなく、地の文ありのものです。

どこにいつ投稿するかは分かりませんが、見かけたらよろしくお願いします。
290 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/06/14(金) 12:56:33.92 ID:W5M1VpEIO
このSSの元になった「プーチンPシリーズ」は、全部で約30曲ありますが、自分は全部好きです。
これを読んで興味の湧いた方は是非聞いてみてください!

最後に、何か質問等あれば受け付けようと思うので、
3日程残しておきます。何かあってもなくても、その後HTML化を依頼するつもりです。

読んでくれた方、ありがとうございました!
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