冬優子「あいつの部屋と、二人の場所」

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/27(月) 23:11:16.16 ID:npx55dB+0
すみません、>>16に一部セリフ抜けがありました。
>>17から続いて読んでいただけると助かります。
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/27(月) 23:12:53.50 ID:npx55dB+0

それから、あいつの家に遊びに行くようになって。

最初は、本当に漫画を読ませてもらってただけ。

この漫画のこのキャラがカッコいいんだとか。

時には、この解釈はこうなんだとか話したり。

ふゆが読んでいる横で、あいつが仕事をしていたり。

そのうち、打ち合わせなんかも、あいつの家でするようになって。

外食ばかりだって言ってたから、ご飯も作ってあげたり。

知らない場所だったあいつの家が、とても居心地のいいところになっていた。
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/27(月) 23:15:26.11 ID:npx55dB+0

ただ

男と女が一つの部屋にいれば。

いつかはそうなるもので。
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/27(月) 23:16:53.26 ID:npx55dB+0

「ほーら、やっぱりあるじゃない!」

「あっ、お前!どこから出したそれ!」

「次はもうちょっとうまく隠すのね!」

「こら!返せ!」

「へ〜、こういうのが好きなんだ〜」

「見るな!」

「うわぁ、これはちょっとマニアック過ぎない……?」

次に読む漫画を探してたら、あいつのお宝本を見つけて。

からかってやろうとしたら、取り合いになって。
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/27(月) 23:17:20.80 ID:npx55dB+0

「見るなっての!」

「わっ、ちょ……!きゃぁ!」

「……!」

そのまま、二人して、ベッドに倒れ込んでしまった。

「あっ……」

「……」
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/27(月) 23:20:10.68 ID:npx55dB+0

あいつが、ふゆに覆いかぶさってて。

いわゆる、押し倒された形。

お互いの顔が近くて。

すごく恥ずかしかったけど、逃げようとは思わなかった。

いつかは、こうなるのかな。

こうなるといいな、って思ってはいたから。

いざその時になると、緊張して何も言えなくなっちゃってけど。

あいつの喉が鳴るのが聞こえて、思わずぎゅっと目をつぶってしまった。
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/27(月) 23:23:26.95 ID:npx55dB+0

「ごめん、冬優子」

「えっ……?」

それでも、あいつは謝った。

拒絶されたのかと、思った。


「……いいか?」

「……!」

けど、あいつはふゆを求めてくれた。

今思うと、ベタな展開だなって我ながらあきれる。

いつもは、ふゆがわがままを言ってばかりで。

何かをしてもらってばっかりだったから。

あいつから、はっきりと求めてもらえたことが。

とても。

とっても、嬉しくて。
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/27(月) 23:24:15.43 ID:npx55dB+0

「???冬優子?」

「???うん」

そっと、あいつの背に手を回して。

「きて」

答えて、今度は、そっと目を閉じた。
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/27(月) 23:25:22.57 ID:npx55dB+0

「ねぇ、これの続きってどこにあるの?」

「あ〜、それなら向こうの棚だったかな」

「ん、ありがと」

それから。

あいつの家によく泊まるようになった。

週に何度か、休みの日はほとんど毎回。
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/27(月) 23:26:17.18 ID:npx55dB+0

漫画を読みにくるだけじゃなくて、たまに料理も作ってあげたり。

特に用がない時、ゴロゴロして。

……ときには、そういうこともして。

ただ、この関係を明確にはしなかった。

あいつははっきり言わなかったし、ふゆも言葉にはしていなかったから。

今のこの関係が、心地よかった。

「……さて。これ読んだら、今日は寝ようかなぁ」

「珍しく早寝だな」

「明日はオフだし、朝からお買い物いこうかなって」

「そっか。俺も明日は休みだし、付き合うよ」

「とーぜん。荷物持ち、お願いね」

「はいはい」

そんなやり取りをしながら、寝支度をする。

泊り用の荷物から、洗顔用具を出そうとして。

……その間にも、あいつからの視線を感じた。
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/27(月) 23:27:49.79 ID:npx55dB+0

「……何よ?」

「いや、別に」

「何でもないってことはないでしょ」

「……今日は、ずいぶん早いなって思っただけだ」

「あー、そういうこと」

「なんだよ」

「はっきり言えばいいのに。このすけべ」

「うっさい」

―――これも、知らなかったこと。

結構、がっつくタイプだったみたい。

求められるのは嬉しいけど、どうしてもからかいたくなる。

そういうところが可愛いと思えるようになったのも、変化の一つ。
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/27(月) 23:28:30.59 ID:npx55dB+0

「あっ」

「?どうした」

「歯ブラシ、忘れちゃった」

泊まる時には、いつも持ち歩くように持ってくるようにしていたんだけど。
今日に限って忘れてきたみたいだった。

「ちょっと買ってくる」

「あ〜……いや、いいよ行かなくて」

「……?」

意地悪を言うつもりじゃなかったんだけど、妙に歯切れの悪いあいつの言い方が気になった。

「まさか、もう待てないとかいうんじゃないでしょうね」

「そんなこと言うわけないだろ!そうじゃなくて、その……」

「……?」
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/27(月) 23:29:30.17 ID:npx55dB+0

「……俺の予備があるから、それ使って」

「いいの?あんたのでしょ」

「また買っておけばいいだけだし」

「そ。……じゃ、遠慮なく使わせてもらうわ」

「あぁ。洗面台の、左の扉に入ってるから」

「ありがと」

言われて、洗面所へ向かう。

どこに何があるか、すっかり覚えてしまっていた。

そんな自分の変化も喜びつつ、言われたところを探す。

「えっと、これ……かな?……ん?」
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/27(月) 23:29:57.07 ID:npx55dB+0

「見つけたか?」

「ねぇ」

「どうした?」

「『予備』って、これのこと?」

「……そうだよ」

応えるなり、そっぽを向いてしまう。

あいつが言った場所には、確かに一本、新品の歯ブラシがあった。

それも、かわいらしい、ふゆが好きなアニメキャラのデザインのものが。

明らかに男物じゃなくて。

「『予備』ねぇ……ふふっ」

「な、なんだよ」

「なんでもなーい♪」

素直に用意してくれてた、って言えばいいのに。

『俺の』なんて言ったのは、きっと照れ臭かったんだろう。
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/27(月) 23:30:24.56 ID:npx55dB+0

からかおうかとも思ったけど、そんなあいつのことを考えたら、なんだかこっちまで照れ臭くなっちゃって。

なんとなく、あいつから目を逸らして、部屋を見渡す。

色んなものが、目に入った。

テーブルに乗った、小さな鏡。

本棚の上にある、アクセサリーケース。

ソファの隅に座ってる、やけにかわいらしいクッション。

暇つぶしに、って置いてあったゲーム機には、真新しい二つ目のコントローラー。

そして、あの歯ブラシ。

それは全部、いつの間にかあいつが用意してくれていたもの。
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/27(月) 23:32:12.84 ID:npx55dB+0

ここは、あいつが生活している部屋で。

仕事以外の、プロデューサーではない、素のあいつの空間。

気づけば、そのいたるところにふゆの場所があって。

あいつの生活の一部に、ふゆがいて。

いつの間にか、それが当たり前みたいに思わせてくれていた。
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/27(月) 23:32:48.15 ID:npx55dB+0

あいつは、いつもそうだった。

いつもこうやって、ふゆに居場所をくれる。

それが、嬉しかった。

だから

「……?冬優子?」

「……別に、なんでもない」

こうやって、抱きしめたくなるのは当然のことで。

でも、恥ずかしいから、後ろから。

今のふゆの顔は、きっと見せられたものじゃないから。
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/27(月) 23:33:25.05 ID:npx55dB+0

「……ねぇ」

「……ん?」

「……ありがと」

「……おぅ」

交わしたのは、たったそれだけのやりとり。

それが、たまらなく心地よかった。
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/27(月) 23:34:27.31 ID:npx55dB+0

それから、どんどんあいつの部屋にふゆのものが増えて。

自分の家で過ごす時間より、あいつの部屋で過ごす時間の方が増えた頃。

「ほら、これ」

「……これって」

「前々から、早めに渡そうと思ってたんだけどな。作るのに時間がかかっちゃって」

差し出されたのは、真新しい鍵。

それが意味しているのは―――
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/27(月) 23:38:14.37 ID:npx55dB+0

「い、いいの?」

「今更だよ」

「で、でも―――」

「もうどこに何があるかもわかるだろ?」

「それは、そうだけど……」

「俺がいない時でも、いつでも来ていいから、ないと不便だろ」

確かに、もうすっかり、あそこは『あいつの部屋』ではなくなっていたけど。

そうじゃない。

そうじゃなくて。

ふゆが聞きたいのは
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/27(月) 23:43:13.67 ID:npx55dB+0

「……いや、違うな。悪い、照れくさくてな」

「俺が帰る時、冬優子に迎えてほしいんだ」

「あそこは、もう俺だけの部屋じゃないから」

「だから、持ってほしい」

改めて、差し出される鍵。
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/27(月) 23:43:43.60 ID:npx55dB+0

いつも、やきもきさせられたり、ハラハラさせられたりしたけど。

本当に欲しい時には、本当に欲しい言葉をくれる。

ふゆの気持ちを、ちゃんとわかってくれる。

だから、ふゆはこいつを。

この人を―――

「……うん、ありがとう」

涙ながらに、応えて、その鍵を受け取った。
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/27(月) 23:44:59.67 ID:npx55dB+0

そして

「お、お邪魔します」

いつもの習慣で、部屋に入る時に口を出た言葉。

そんなふゆを見て、あいつはちょっと笑っていた。

「冬優子、もう違うぞ」

「えっ……あっ」

言われて、ようやく気付く。

ここは、もう

「おかえり、冬優子」

「……うん」

いつかと同じ言葉でふゆを迎えてくれたあいつに。

「……ただいま!」

いつか、ちゃんと言えなかった言葉で、答えた。

41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/27(月) 23:48:50.35 ID:npx55dB+0
以上になります。

冬優子は笑顔で幸せになってほしい。

HTML化依頼出してきます。
お付き合いいただきありがとうございました。
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/28(火) 01:01:29.68 ID:gOQTYeTq0
おつおつ
ふゆすき
21.11 KB Speed:0   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 新着レスを表示
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)