一休「夜な夜な悪さをしているのは屏風の虎ではありません」 将軍「何?」

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15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 00:07:45.09 ID:V3yOkWnx0
化生の言葉通り、新右衛門は半死半生である。

刀を振るえるのも、あと一度が限度であろう。

たったの一度だ。

その一撃で、化生を倒せるはずがない。

はずがないのだ。

それでも新右衛門は。



  「端を通るのが駄目なら」

         「食っちまった」

             「この腹具合だと」
      「真ん中」

  「この橋」 
            「胴体だけ」

「新右衛門さん」

            「真ん中を渡れば」

      「腹」

          「いいですか新右衛門さん」

    「真ん中です」



最後の一撃を放った。

化生の爪が新右衛門の左手を肩ごと吹き飛ばす。

それに怯まず、残った左手で刀を握りそのまま加速。

狙いは身体の真ん中。

その一刀は、確かに化生の腹に突き刺さった。
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 00:08:26.19 ID:V3yOkWnx0
 



だが、それだけだった。




 
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 00:09:13.38 ID:V3yOkWnx0



腹に刀が刺さった程度では化生は止まらなかった。

勢いを止めきれず、新右衛門は化生に引きずられるようにして橋を渡り切ってしまう。


「ケケケ!サムライ如きがワシを止められるはずがないだろうが!」

「さぁて、片っ端からニンゲンを……」


嗤う化生の耳に、僅かな声が聞こえる。

それは倒れ伏したズタボロの新右衛門から響いていた。


「かーっ!テメエまだ生きてんのかよ」

「はぁ……面倒くせぇな、まあいいや、テメエを殺すのは最後にしておいてやるよ」

「そこで大人しく待って……ム」


化生の表情が変わる。

邪悪な笑みではなく、困惑の表情に。


「な、なんだ、何か……身体が」


新右衛門の言葉が聞こえる。
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 00:11:07.81 ID:V3yOkWnx0
「拙者は、剣の道のみに溺れた愚者でござった」

「頭が良くなかったでござるよ」

「察しも悪く、一休殿の頓智を理解するのなんて、何時も最後で」

「ふ、ふはは、化生よ、お前もそれは一緒でござるな」

「未だに一休殿の頓智を理解していないでござる」

「拙者と、拙者と同じ、頭が悪い」

「ふ、ふふふ、いや、拙者は今、一休殿の頓智を理解したでござるか」

「だったら」

「だったら、なあ化生よ」
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 00:11:45.28 ID:V3yOkWnx0

 



「お前は拙者よりも頭が悪いって事だ」



 
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 00:45:12.01 ID:V3yOkWnx0
矢も槍も刀も化生を倒すことは出来なかった。

この化生は、仮に身体がバラバラになっても生き残ることができるのだ。

サムライが振るう武器で、倒せる道理がない。

だが、今、化生の身体には激しい「痛み」が走っていた。

放置するのが危険なほどの痛みが。

その痛みの発生源は、腹に突き刺さった新右衛門の刀。


「ば、馬鹿な、神鉄でもなんでもねえ、ただの刀だろうがあああああ!」


化生は刀を掴むとガチンとそのまま握りつぶした。

粉々になった刀が地面に落ちる。

だが、痛みが止まない。


ポタポタ、と何か音がする。

地面に落ちた刀の付近から、そんな音が。


「ああん?」


化生が注意を向ける。

よくよく見ると、それは化生の腹の傷跡から何かが落ちる音だった。


それは液体だった。

化生の血ではない。

透明で粘度の高い、甘い匂いのする液体。

まるで、そう。

水飴のような。
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 00:46:51.46 ID:V3yOkWnx0
数か月前。

安国寺にて外観和尚は小坊主たちを集めてこう言った。


「このツボの中に入っている物を、決して食べてはならぬぞ」


それに対し、一休は疑問を口に出す。


「何か甘い匂いがしますね、水飴ですか?」

「いや、毒じゃ」

「本当に?」

「……お前に隠し事をするのも厄介じゃから本当の事を言っておこう」


和尚は語る。

今から数百年前、東の地方に「毒を吐く妖怪」が現れた。

その妖怪は多数の被害者を出したのち、修験者達によって退治された。

だが、その妖怪は死ぬ間際に今までとは違う毒を吐き出した。

土地に留まり長く被害をもたらす「呪毒」だ。

処理に困った修験者達は毒を幾つものツボに封じ、長い時間をかけて浄化する事にした。

その甲斐あって、大半の毒は浄化がすることができた。

その毒ツボの最後の一つが、安国寺に持ち込まれたのだ。

22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 00:48:15.55 ID:V3yOkWnx0
「それって、食べるとどうなるんですか、和尚」

「食べるでないぞ、一休、呪いが薄まっているとはいえ、食べると確実に死ぬ」

「死ぬだけですか」

「血を吐き長く苦しみぬいて死ぬじゃろうよ、そんな死に方はしとうないじゃろ」

「ああ、それは御免被りたいですねえ」

「良いか、このツボはワシの部屋に保管しておく、決して触れるではないぞ」

「はいはい、決して触らないように注意しておきますよ」
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 00:49:15.67 ID:V3yOkWnx0
その甘い匂いを嗅いで、化生の毛が逆立つ。


「こ、こりゃあ、あの糞梟の毒じゃねえかあああああ!」


そう、あの時、一休は和尚の部屋に隠してあったツボの毒を全て飲んだのだ。

血を吐き苦しみ死に至る毒を飲み干し、死ぬ前に化生に飲み込まれたのだ。


これが一休の頓智である。

寺の小坊主を食い殺した化生を退治する為の、頓智である。


一休の身体に溜まった毒は、新右衛門の刀によって突き破られ、化生の身体を直接汚染し始めていた。
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 01:35:03.35 ID:V3yOkWnx0
>>15
それに怯まず、残った左手で刀を握りそのまま加速。

それに怯まず、残った右手で刀を握りそのまま加速。
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 02:29:54.78 ID:V3yOkWnx0
「ぎゃあああああ!いってえええええ!く、くそ!くそがあああああああ!」


化生はのた打ち回るも、毒はぬぐえない。

さもありなん、毒は化生の体内から湧いているのだ。

拭いきれる物ではない。

自ら腹を切り裂いて掻き出さぬ限り、毒は化生を蝕み続けるだろう。

化生の苦しむ様子を見ながら、新右衛門は思う。


「流石は、一休殿の頓智でござる……」

「効果は……一級品で、ござるな……」


化生が川に飛び込み逃げ去るのを見届け、新右衛門は意識を失った。
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 02:30:53.82 ID:V3yOkWnx0
その後、蜷川新右衛門は国境守護部隊と共に駆け付けた足利義満によって保護される。

また調査の結果、安国寺の被害状況も明らかになる。

寺の住民は当時不在だった外観和尚を除き全員の死亡が確認されている。

義満は今回の騒動に甚く心を痛め、寺の跡地に慰霊碑を立てたと言われる。

また、化生を祓った功労者である新右衛門には好きな褒美が与えられる手筈であったが当人がそれを辞退。

新右衛門は傷が癒えた後も任を退かず、生涯、足利義満を守りつくした。

件の化生が新右衛門の前に再び現れることはなかったという。
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 02:31:21.46 ID:V3yOkWnx0
赤い夕陽が空を照らす中、安国寺に建てられた慰霊碑の前には二つの人影が見える。

一つは寺の唯一の生き残り、外観和尚。

もう一人は、年端もいかない幼い子供だった。


「一休しゃんは、何処へ行ってしまったでつか」

「一休は、遠い所へ行ってしまったのじゃ」

「どちて?」

「死んで、しまったからのう」

「どちて?」

「化生に、食われたんじゃ」

「どちて?」

「……」

「和尚しゃま?」

「……」

「どちて、和尚しゃまは泣いてるの?」


日が暮れ、空が暗くなってきていた。

何処からか、風が、こんな唄を運んでくる。
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 02:31:56.97 ID:V3yOkWnx0
頓智は鮮やかだよ 一級品

度胸は満点だよ 一級品

悪戯厳しく 一級品

だけど喧嘩はからっきしだよ 三級品

嗚呼

嗚呼

南無三だ
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 02:32:35.94 ID:V3yOkWnx0
頓智は鮮やかだよ 一級品

度胸は満点だよ 一級品

悪戯厳しく 一級品

だけど喧嘩はからっきしだよ 三級品

嗚呼

嗚呼

南無三だ
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 02:33:02.63 ID:V3yOkWnx0
夜が更け月が出る中、二人は慰霊碑の前で何時までも立ち尽くす。

月は、その様子を、ずっと見つめていた。

ずっと。

ずっと。

ずっと。








31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/05/19(日) 02:55:49.82 ID:ySKkaUYPO
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/19(日) 06:14:16.57 ID:apfmDfUWO
偽物のとらかと思ったらそういう感じでもなかった
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/19(日) 09:30:16.74 ID:r8jLW6uk0
おもしろい
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/19(日) 09:48:58.84 ID:g7vOZUsk0

とらの過去にこういう話があっても良いなぁって思えるSSだった
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