「核のボタンを押してください!」

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1 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga sage]:2019/05/10(金) 21:06:48.10 ID:rBcPHpC60

「核のボタンを押してください!」

人類救済コントロールセンターに響いた声はしかし、その場を占める重苦しい沈黙によって空耳のように扱われた。

室内には制服を着た人間が四、五人。

その誰もが絶望を堪えるように沈痛な面持ちで座っている。

「聞こえませんでしたか、局長? 今こそ核の出番だと言ってるんです」

中でも一番若いワカモトがそう皆に進言したのだった。

核。ご存知核ミサイル。恐らくは人類史に残る破壊力を有していた兵器の名前である。

ワカモトの、そして職員たちの視線が局長に集まった。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1557490007
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/10(金) 21:08:13.52 ID:rBcPHpC60

待ち望まれる彼の言葉。

しかし局長は落ち着き払った動作で煙草を一本取り出すと、

「ワカモト、提案ってのは思い付きだけで口に出すもんじゃない」

火をつけ、吸い、煙を吐いて。
彼は壁面に備え付けの巨大なモニターを睨みつける。

「確かに核は用意してある。もしもの時の最後の手段、それはこの場にいる全員が以前より承知していたことだしな」

「だったら悠長にしていないで! 我々には時間が無いんですよ!?」

「分かっている。だからこうして皆思案している」

「わか、わっ、わかってるって――それで結局、何時間無駄に過ごしてきたと思ってるんです!?」


ワカモトの叫びに誰もが心で肯いた。それは局長だって同じだった。

事態がこうなってしまうまでに有益だと思われていた行動は既に取り尽くされ、
事前準備されていた他の装備も使い潰された後だった。

最早今、現時点で、コントロールセンターにはワカモトの言う核しか残っていないのだ。

これ以上の時間の浪費には耐えられない。

有効な代替案が出ない以上は使用も止むを得ないことを局長だって分かっていた。
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/10(金) 21:09:26.07 ID:rBcPHpC60

「だが使わん。いや、使えん」

「なぜです! 道徳的な問題なら――」

「ワカモト! それはな、僅かとは言え希望が残っているからだ。
丸一日に近い時間が残されているからだ。……故にボタンを押すのはまだ早い」

局長がモニターに表示されたカウント表示に目を向ける。ワカモトも追って視線をやった。

しばしの沈黙、誰も動かず、刻々と迫るタイムリミット。

「局長!」

言って、再び局長と向き合ったワカモトの手には鈍く輝く武器が握られていた。

躊躇している時間はもう無かった。こうなったら暴力的手段に訴えてでも自分がボタンを押してやる。

「僕は押します、僕が押します。もうこんな状況には耐えられない!」

局長のデスクへにじり寄り、凄むワカモトの手の中で武器が光る。
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