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相棒「目撃者・後日談 〜16年ぶりの再会〜」
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161 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 20:26:59.07 ID:r6in7ffD0
伊丹「…話は、これで終わりじゃない」
「実は時田の逮捕に際して、校長の為房が出頭してきたんだ」
手塚「校長先生が?何で……」
伊丹「時田が麻薬に手を染めていた事を、黙認していたからだそうだ」
「理由は、アンタへのストレスが原因で、そうなっちまった事を薄々感付いてしまったから、言い出したくても言い出せなかったみたいなんだ」
「そうしている間に事件が起きてしまって……余計に、話したくても話せなくなっちまったんだ」
手塚「なんて馬鹿な事を…」
「そんな気遣い、要らないのに……」
伊丹「……」
手塚「僕があの学校に入ったのは、単純に自分の望みを叶える為だけではありません」
「僕がいない16年の間、何が変わったのか確かめる為でもありました」
「けど…結局あの学校は、何も変わっちゃいなかった」
「校長先生は要らない気遣いで犯罪を見逃し、教頭先生は犯罪に手を染めてしまった……」
「その事を咎める人は、誰もいなかった」
「平良先生がいた頃と、まるで成長していない」
「いや、それとも……」
162 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 20:28:36.76 ID:r6in7ffD0
手塚「僕のせいでしょうかね?」
「僕が、教頭先生への影響を考えないで、あの学校に入ったのがいけなかったんでしょうか?」
伊丹「……」
そのような疑問を投げかける手塚。
黙って聞いていた伊丹は、次のように答えた。
163 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 20:31:42.01 ID:r6in7ffD0
伊丹「さあな…そんなの俺には、分かんねぇよ」
「けど…散々疑った俺が言っても説得力無いかもしれないが……」
「アンタは、自分みたいに馬鹿な奴を増やしたくなかったから、教師になったんだろ?」
手塚「そうですよ」
伊丹「だったら…それでいいんじゃねえか?」
「正しい事する為に先生になったんだ……それだけで立派だよ」
「だから…今回捕まえた奴らは、俺達が絶対に罪を償わせてやる」
164 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 20:32:11.66 ID:r6in7ffD0
伊丹「絶対にな…!」
165 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 20:33:06.81 ID:r6in7ffD0
手塚「……」
真摯な言葉を投げつけてくる伊丹。
その表情は、最初に手塚のことを疑っていた時とは、大違いな程真面目で真剣そのものあった。
彼の真剣な眼差しを確認し、手塚は口を開く。
手塚「刑事さん…僕、あなたの事を誤解していたみたいです」
「あなたは、緻密さに欠けた無礼な人だと思っていましたが…」
「今のあなたは、『あの人』と同じ目をしています。僕を犯罪から救ってくれた『あの人』と……」
そう言って手塚は、亀山の顔を思い浮かべた。
それを聞いた伊丹は、誇らしげにしたものの、
その直後、手塚に「でもまぁ…出世できない人である事も、間違いないみたいですけどね」
と言われ「それは余計だ…」と言って溜め息を吐いた。
手塚「ごめんなさい。けど……」
166 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 20:34:43.73 ID:r6in7ffD0
手塚「僕が、あなた方を引っかき回したのは事実です」
「そのせいで、犠牲者も出てしまいましたし……」
伊丹「……」
手塚のその言葉に、伊丹は何も答える事はできなかった。
そして、右京もそれを黙って聞いていた。
手塚「……もう、帰ってもいいですよね?」
伊丹「今日のところはな…」
「もっとも、被害者として明日また証言を取ってもらう事になる」
「だから、今の内に伝えとく……」
167 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 20:35:11.04 ID:r6in7ffD0
「もう二度と、来るんじゃねえぞ」
168 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 20:36:01.00 ID:r6in7ffD0
二度と来るな……
荒っぽい言い方だったが、もう事件に巻き込まれて欲しくないという伊丹なりの願いの現れであった。
手塚もそれを悟ったのか「えぇ…こんな所、二度と来るものですか」と、笑顔で返して席を立った。
右京「行きましょうか?」
手塚「はい…」
そして手塚は、右京に連れられて取調室から出ていった。
その姿を、伊丹と芹沢は静かに見送った。
169 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 20:37:09.90 ID:r6in7ffD0
―警視庁の外―
手塚「こんなところにまで、着いてこなくていいんですよ?もう、子供じゃないんですから」
右京「……」
手塚「……あ」
手塚がそんな疑問を抱いたその時であった。
目の前に、広田を連れた冠城が現れた。
手塚「広田先生……」
広田「手塚先生…!」
手塚「……」
170 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 20:37:55.50 ID:r6in7ffD0
手塚「なるほど、そういうわけですか?」
冠城「彼女、あなたの無実を信じていましたからね。すぐにでも、会わせてあげようと思ったんですよ」
広田「話は全部、こちらの刑事さんに聞かせてもらいました」
「手塚先生…本当に、良かった……」
目の前の手塚の姿を見て、彼の無実が証明された事を改めて実感し、広田は喜びをあらわにした。
171 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 20:44:58.44 ID:r6in7ffD0
右京「さて…無事に再会できたところで、次の話題に移らなくてはなりません」
広田「次の話題って…?」
右京「あなた方をこうして会わせたのは、事件の顛末を知らせる為だけではありません」
「残された謎をすべて明らかにする為、広田先生にもお越し頂いた次第なのです」
広田「謎って何ですか?」
手塚「……」
右京の言葉に小首を傾げる広田。
その一方で、手塚は落ち着き払った様子でいる。
そんな彼に、右京はこう言った。
右京「手塚先生…実は、今回のあなたの行動に、いくつか不可解な点がありました」
「まずは、その事から始めたいと思います」
手塚「……」
右京の言う事を黙って聞いている手塚。
それを確認しつつ、右京は彼の行動の不可解な点を語りだした。
172 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 20:47:25.11 ID:r6in7ffD0
右京「最初に引っ掛かったのは、あなたが一課に通報を入れた後も、凶器であるボウガンを拾ったまま現場に留まっていた事でした」
「ボウガンによる殺人を犯した前科のあるあなたが、そんなものを持っていれば、真っ先に疑われるのは分かっていたはずです」
「そして、次に引っ掛かったのは、あなたが時田の電話の要求に応じた事です」
「時田は、あなたに自分の過去について、話したい事があると言って、あの公園にあなたを呼び出したそうですが…」
「そのあなたの過去と言うのは、間違いなく16年前の事件のことでしょう」
「しかし…そう考えると、ある疑問が浮かび上がってきます」
「それは、あなたが周囲に殺人の前科がある事を、自ら明かしていたという事実です」
「自身の前科を周囲に明かしていたのならば、あなたにとって16年前の事件のことは、秘密と呼ぶには相応しくなかったはず……」
「つまり、その時点で事件の夜に掛かった電話が、罠であった事に気付けたはずなんです」
「なのにあなたは、あっさりと罠に引っ掛かり自分を不利な状況に追い込んでしまった……」
手塚「……」
173 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 20:49:15.11 ID:r6in7ffD0
右京「そして…最後に気になったのは、手帳が無くなった事にあまり関心を持っていなかった事です」
「いくら内容を丸写した予備を持っていたとはいえ、仕事に関する事柄を書き記した手帳です。そんな大事なものが無くなること自体、一大事であるはず……」
「しかも、学校内で無くしたものなのに1週間経っても見付からないとなると、その時点で盗まれた可能性も考えられたはずです」
「なのにあなたは、昨日まであくまで無くしただけという認識で、そこまで関心を持っている様子ではありませんでした」
「16年前の時点で、明晰な頭脳を持っていたあなたとは思えない行動です」
「何故あなたは、ここまで詰めの甘い行動をとってしまったのか?」
「その謎の答えが、先程の取調室でのあなたの言葉に集約されていました」
174 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 20:49:42.73 ID:r6in7ffD0
『やっぱり、そうでしたか……』
『僕が、あなた方を引っかき回したのは事実です』
『そのせいで、犠牲者も出てしまいましたし……』
175 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 20:50:22.83 ID:r6in7ffD0
右京「やっぱり……」
「僕達を引っかき回した……」
「自分のせいで、犠牲者が出てしまった……」
「これらの3つの言葉から察するに、あなたは自らの意図があって時田の罠にかかったように感じます」
「実際、真犯人の正体を聞かされた時と、為房が時田の行動を黙認したと知らされた時のあなたの反応は、まったく違っていました」
「つまり……」
176 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 20:52:38.88 ID:r6in7ffD0
右京「手塚先生…あなた、最初から時田が事件を起こす事を、予見していたのではありませんか?」
手塚「……」
広田「え…!?」
右京の一言に驚く広田。
一方、手塚はこう答えた。
177 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 20:54:48.21 ID:r6in7ffD0
手塚「刑事さん…相変わらず鋭いですね」
「その通りですよ。僕は、あの人が何か事件を起こすだろうと考えていました」
「教頭先生は最近悪い噂が絶えなかったし、何しろ吉田先生と揉めてましたからね」
右京「なるほど…広田先生が他にも見ている職員がいたと仰っていましたが…」
「やはり、あなたもその現場の目撃者の1人だったんですね?」
冠城「わざと罠にはまったのも、俺達を利用して教頭先生の罪を暴く為だった……」
手塚「僕が事件に巻き込まれたと知れば、あなたは絶対にあの学校の出来事を調べて、教頭先生に行き着くと確信していましたからね」
「だってあなたは、僕の罪を暴いた人ですから」
「だからあの人の罪を全て、暴いて欲しかったんです」
右京「……」
178 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 20:56:47.23 ID:r6in7ffD0
冠城「でも…だったらなんで、こんな回りくどい事を?」
「最初から時田が怪しいと思ってたんなら、すぐにでも知らせてくれたら良かったのに」
手塚「確かに、教頭先生が怪しいと睨んではいましたが、状況証拠と直感だけで物証がありませんでした」
「独自に調べても良かったんですが、前科者の僕が変な動きを見せれば、どうなるか分かったものじゃありません」
「それに、事件を起こすと予見してたと言っても、本当に起こすかどうかも分かりませんでしたし…」
「何をしてくるのかも、見当つきませんでしたから」
冠城「だから、様子見するべきだと判断した訳か…」
手塚「でも…そのせいで、吉田先生どころか、ろくでなしが犠牲になってしまいました……」
「僕は、またしても人の命を奪ってしまったんです。それも2人も……」
「だから……裁判が終わったら、またこの街から去ろうと思っています」
広田「そ、そんな…!」
179 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 20:58:46.59 ID:r6in7ffD0
手塚「安心して…また別の街の学校で、教師をやりに行くだけだから……」
「でも、その前に吉田先生の奥さんやろくでなし…いや、佐々木の家族に今回の事を謝らないとね」
「そして、吉田先生の奥さんには、借金の返済費用もあげなくちゃならない」
「それで許してくれるかどうか、分からないけど……」
広田「だったら、私も一緒に行きます!」
手塚「え?でも……」
広田「私…あなたの力になりたいんです。お願いします!」
真剣な面持ちで頼み込む広田。
手塚は少しばかり戸惑ったが、その真剣な様子を見てすぐにその頼みを受け入れる事にした。
180 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 20:59:34.56 ID:r6in7ffD0
手塚「分ったよ。君がそこまで言うなら……」
広田「ありがとうございます!」
冠城「良かったですね、あなたに着いて来てくれる人がいてくれて」
右京「しかし…話はまだ終わっていませんよ」
広田「え…?」
右京「広田先生……実は、僕はあなたの事も気になっていました」
広田「私も……ですか?」
手塚「……」
右京の一言を聞いて、手塚は急に真剣な面持ちになる。
その様子を確認しつつも、右京は話を続ける。
181 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 21:00:14.16 ID:r6in7ffD0
右京「昨日、あなたが現われた空き地なのですが……」
「あの後、またあそこに行ってみたんです」
「その結果あの場所は16年前、僕が『ある事件』の捜査に行った事がある場所だと判明しました」
広田「……」
右京「更に僕が気になったのは、あなたのこの一言です」
182 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 21:01:38.62 ID:r6in7ffD0
『確かに手塚先生は、16年前おじさんを殺しました』
183 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 21:04:07.44 ID:r6in7ffD0
右京「手塚先生が16年前におじさんを殺した……」
「手塚先生が16年前に殺した人物は、1人しかいません」
「平良荘八…かつて、あの学校で働いていた教師です」
「そして、あなたが現われたあの空き地は、その平良荘八が殺害された現場だった」
広田「……」
右京「なので僕は、部下にあなたの経歴等を調べさせました」
「その結果、ある事実が判明しました」
そう言って右京は、昨日栄中央署を出た後、
青木に調べさせた結果出てきた、その『ある事実』を話し始める。
184 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 21:06:31.20 ID:r6in7ffD0
右京「あなたは、父『広田小城(ひろた こじろ)』さんと母『広田紀子(ひろた のりこ)』さんの間に生まれた娘さんで、家族3人暮らしでした」
「しかし16年前、『ある出来事』がきっかけで、小城さんと紀子さんとの関係にひびが入り、最終的に離婚してしまった」
「離婚後あなたは、小城さんに引き取られ、12年間彼の下で暮らしてきた……」
「それが祟ったのか……小城さんは過労で倒れ、亡くなられてしまった。それ以来あなたは、1人で職を転々としながら生活を続けていた」
広田「……」
右京「しかし……ここで重要なのは、お父様の方でなくお母様の方です」
「調べによると、あなたのお母様の紀子さんの旧姓は『平良』……」
「『平良紀子(たいら のりこ)』……そう、16年前に殺害された平良荘八の妹である事が分かったんですよ」
「つまり、広田先生……」
185 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 21:07:25.11 ID:r6in7ffD0
右京「あなたは、手塚先生が16年前に殺害した平良荘八の姪御さんですね?」
「離婚の原因も、平良荘八の件が関係していた……違いますか?」
広田「……」
右京の推理を静かに聞いていた広田。
最後に投げかけられた問いに、素直に「はい…そうです」と答え、その時の出来事を語り出した。
186 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 21:07:59.74 ID:r6in7ffD0
広田「16年前、叔父さんが手塚先生に殺され、更に学校での悪行のせいで殺されたという記事が出回ってから、色んな所から非難の声が上がって……」
「それに耐え兼ねて、父は母と縁を切ったんです」
「そして、『叔父さんと血の繋がった母なんかに、私の事を任せられない』と言って、私を母から引き離し、育てました」
「でも……私からしてみれば、非があるのは叔父さんの方なのに、どうして父は母と別れる必要があったのか……とても、理解ができませんでした」
「そんな複雑な気持ちで過ごしたせいでしょうか…5年前に父が亡くなってから、私は生きる為に必要な事だけ繰り返すだけの人間になっていました」
「まるで、心が空っぽな……そんな感じでした」
冠城「そして3年前…手塚先生が栄第三小学校で教師をやっているという噂を聞きつけた」
187 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 21:09:54.97 ID:r6in7ffD0
広田「本当にあれは、偶然でした。Twitterを見ていたら、その事で騒いでいる人がいて……」
「それで独自に調べてみたら、確かに叔父さんを殺した犯人だって分かったんです」
右京「なるほど…3年前に栄第三小学校の教師になったのは、やはり手塚先生に近づく為でしたか」
冠城「けど近づいて、どうするつもりだったんですか?」
広田「それが…自分でも分かんないんですよね……」
「多分…『叔父さんを殺した人と会ってみたら、何か変わるんじゃないか』とか、そんな曖昧な事を考えていたのかもしれません……」
冠城「でも…心中あまり穏やかじゃなかったんじゃないですか?」
広田「始めはそうでした。けど……」
「手塚先生は生徒に対して、時に優しくて時に厳しくて……まるで、教師の鑑のような人で、生き生きしていたんです」
「空っぽになった私とは、まるで正反対でした」
「それで、どうしてそこまで出来るのか、一度聞いてみたんです。するとこの人は、こう答えました……」
188 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 21:11:06.26 ID:r6in7ffD0
『これが…僕がしなくちゃならないことだからさ』
『理由はどうあれ、僕は一人の人間を手をかけ、無実の人間に罪を擦り付けようとしてしまった……』
『同時に、この事件から学んだからこそ、僕は前を向いて進んでいってるんだよ』
『そうじゃなきゃ、僕は恭子先生を守るためと言って、今も人を殺し続けてただろうからね……』
189 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 21:11:37.94 ID:r6in7ffD0
広田「これを聞いて、私は感動しました…そして、今まで何事にも無関心だった自分が恥ずかしくなったんです」
「『叔父さんを殺した犯人は、自分の罪と向き合ってしっかりと自分の人生を歩んでいるのに、そうじゃない私は何でそれができてなかったんだろう』って……」
「だからこそ、今回の事件やみんなの対応がショックで…」
「それで思わず、叔父さんにも手塚先生を不幸にしないでと、頼みにあの空き地に行ってたんです……」
手塚「……」
冠城「なるほど……だからあなたは、被害者遺族でありながら、手塚先生をあそこまで信じていたんですね?」
広田「けど……今までずっと、黙っていました」
「お互いが被害者の遺族と加害者だと知ってしまえば、今までの関係が壊れてしまうような気がして、怖くて……」
手塚に自身の正体を明かせなかった理由を話す広田。
しかし、手塚は……
190 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 21:13:54.03 ID:r6in7ffD0
手塚「いや……知ってたよ」
広田「え…?」
その一言に、広田はきょとんとした表情で手塚の顔を見る。
手塚も、視線を合わせたままこう続けた。
191 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 21:15:13.19 ID:r6in7ffD0
手塚「君が、平良先生の家族だってこと…途中から気づいてた」
「だって君、他の先生達と僕を見る目が違っていたし、それに……」
「前に殺した相手だったからかな?君からは、平良先生と似た何かを感じたんだよ」
「けど僕も、君とは教師同士という関係でいたくてね……平良先生の遺族だって事に、気づいてないふりしてたんだ」
「だから……お互い様だよ」
広田「手塚先生……ッ!」
その言葉に感極まってか、広田は手塚に抱き着いた。
これに手塚は「止めろよ……刑事さん達がいる前で」と言いながら恥ずかしがった。
右京「手塚先生…君の選択は、間違っていなかったようですよ?」
「やはり…恭子先生に君を預けて正解でした」
192 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 21:16:05.54 ID:r6in7ffD0
右京「君は、立派な大人になれましたよ……」
「守君」
守君……16年前の手塚に対する呼び名を引っ張り出した右京に、手塚は誇らしげな表情を浮かべた。
手塚「いえ…これも、あなたの部下の刑事さんのおかげです」
「どうもありがとうございました……刑事さん」
「いや、杉下右京さん……!」
「そして、冠城亘さん」
初めて右京と冠城の名を口にした手塚。
そして、両者離れて深々と特命係の2人に向かって彼らに頭を下げた。
193 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 21:16:45.27 ID:r6in7ffD0
手塚「じゃあ、平良先生のところに行こうか?」
広田「はい…!」
それから2人は、平良荘八殺害現場に向かって歩き出す。
仲良く並んで歩み出した2人の姿を、右京と冠城は優しく見送るのであった。
194 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 21:17:51.32 ID:r6in7ffD0
―夜 花の里―
幸子「そう…被害者の遺族と和解できたんですね?手塚先生」
冠城「と言っても、姪御さんとだけですけどね」
右京「しかし、あの様子なら何とかなるでしょう」
「これからは、かつての加害者と被害者遺族の枠を超え、お互い助け合いながら生きていく事になるでしょうねえ」
幸子「悪い人達も捕まって、手塚先生の更生の努力も報われて……めでたしめでたし、ですね」
嬉しそうにする月本幸子。
だが、冠城は何故か「いや……まだ、終わってませんよ」と言い出す。
右京「おや…それはどういう事でしょうか?」
冠城「実は、僕も手塚先生が起こした事件の事、調べてみたんですよ」
右京「そうですか…」
「しかし、君の興味を引くような出来事は無かったと、記憶していますが?」
195 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 21:18:32.18 ID:r6in7ffD0
冠城「確かに、事件の内容は概ねあなたが話した通りでした」
右京「なら、それでいいじゃありませんか」
冠城「ところが、ひとつだけ明らかになっていない謎があった事が分かったんですよ」
右京「謎ですか…それは、どういったもので?」
冠城「すっとぼけるのは止めて下さい。その謎には、あなたが関係している可能性があるんですよ」
右京「僕がですか?」
疑問符を浮かべる右京を見ながら、冠城は次のような質問をする。
196 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 21:20:25.28 ID:r6in7ffD0
冠城「右京さん…16年前の事件の当事者である、あなたにお聞きします」
「16年前の事件は、所轄とあなたの元に第一発見者からの通報があった事で、判明したんですよね?」
右京「えぇ…それで、亀山君と米沢さんを連れて現場に向かいました」
冠城「しかし、あなた方に通報を入れた人間は、自身の正体を一切明かさなかったんですよね?」
「なので当初は、その人物が事件と関係していると疑われていたようですが…」
「すぐに佐々木が容疑者に上がり、真犯人が手塚先生だと判明した為、結局事件とは無関係な一般人として片付けられた」
右京「それの何が、おかしいのでしょうか?」
197 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 21:21:52.34 ID:r6in7ffD0
冠城「警察に色々と聞かれるのが苦手で、匿名で通報するだけのケースもなくはありません」
「しかし…俺が気になっているのはそこではなく、その人物が所轄だけでなく、わざわざあなたにまで通報した事です」
「特命係に直接通報する人って、大体が特命係と面識がある人ですよね?」
「という事は、その通報者はあなたと縁の深い人間……」
「そして右京さん……あなたの事ですから、通報者の正体も知ってるんじゃありませんか?」
「しかし、通報者の事情を汲んで、あなたは正体を知りながら黙っている……」
「違いますか?」
右京「…………」
冠城の問いに、右京は焼酎を飲んでから軽くため息を吐いた。
198 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 21:23:26.96 ID:r6in7ffD0
右京「本当に君は、時と場合によっては僅かな手掛かりで、踏み込んだところまで行き着いてしまうんですねぇ……」
冠城「そのような言葉が出るという事は、当たり……ですか?」
右京「そう取って頂ければ結構です」
冠城「じゃあ、いったい誰なんですか?あなたにも通報した人物」
通報者の正体を聞く冠城。
その彼と顔を合わせる右京。
その様子を固唾を呑んで見守る幸子。
これがテレビなら、ドン!っという効果音と共に
右京と冠城の顔が交互に映される演出でも入りそうな光景だ。
そして、右京の口から出た答えは……
199 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 21:24:46.57 ID:r6in7ffD0
右京「ちょっとした知り合いです」
200 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 21:25:18.54 ID:r6in7ffD0
冠城「……」
右京「……………」
冠城「…………………」
「え…?」
予想外の答えに間抜けな声を出してしまう冠城。
そんな彼をよそに、右京は「……幸子さん。焼酎のお代わりを」と言って焼酎のお代わりを注文。
幸子も少し戸惑いつつも、「は、はい」と言って焼酎のお代わりを出した。
201 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 21:27:38.88 ID:r6in7ffD0
冠城「ちょっと…それだけですか?」
右京「えぇ、これだけです」
冠城「あのですね…僕が聞きたかったのは、もっとはっきりした答えをでしてね……」
右京「そこまで辿り着けた君なら、はっきりした答えがなくても自ずと分かるはずですよ」
冠城「そう思っているんなら、答えを教えてくれるのが礼儀なんじゃないんですか?」
右京「君…うるさいですよ」
冠城「いや…教えて下さいよ右京さん!」
「右京さん!!」
202 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 21:28:12.97 ID:r6in7ffD0
「右京さーんッ!!!」
203 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 21:29:48.97 ID:r6in7ffD0
その後、冠城亘は通報者の正体を何度も上司に尋ねたが、結局最後まで教えてくれなかったという……
204 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 21:30:46.69 ID:r6in7ffD0
〜この作品は、二次創作です〜
205 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 21:32:01.64 ID:r6in7ffD0
〜補足〜
広田かなえ・・・オリキャラ。無論、平良先生に妹がいたと言うのも捏造設定です。
正直、いてもいなくても問題ないキャラだったかな…と書いている最中に思いましたが、
手塚の更生の努力が実らなければ、救いがないと思い登場させました。
…が、出番が少なくて、かえって陳腐な感じになってしまったかも……
名前の元ネタは特にありません。
ヘヴル・・・今回の話の為に用意した架空の麻薬。
当然ながら、現実にこんな麻薬存在しませんし、効果が切れて神経が異常をきたすものもないと思います。
麻薬の知識に疎いので、なんともいえませんが……
名前の元ネタは、本編にもある通りヘヴン(天国)とヘル(地獄)
発毛剤そっくりの踊りが止まらなくなる麻薬・・・裏相棒第1作目の第三夜に出ていた奴。
米沢さん曰く「赤いカナリアが資金源に開発した、頭皮から摂取するタイプの特殊な麻薬」(ちなみに正式名称不明)
で、一度摂取したものは音楽を聴くと体が反応して、踊りが止まらなくなるという代物。
なお、この麻薬の事に触れてる角田課長と今回未登場の中園参事官)にとっては、ある意味黒歴史な一品かもしれません。
どういう事か気になる方は、レンタル店のDVDを借りるなどして見てみましょう。
確か、シーズン6のDVDとして単品レンタルされていたはず……
16年前の事件の通報者の正体・・・昔からの相棒ファンなら言わないでも分かるかもですが、正体は小野田官房長。
彼が孫を立ちションさせに、空き地に行ってみたら、偶然にもそこが平良先生の殺害現場であったのが、S1第5話の始まりとなっています。
当初この話しは一切触れない予定でしたが、さすがにそれは可哀想だと思ったので、オチに持ってくる運びになりました。
なお、手塚の「相変わらず鋭いですね」という発言は、
S1第5話でも右京さんに対して言っていた台詞の引用です。
冠城君の質問に対する答えも、S1第5話で亀山君に通報者の正体を尋ねられた時と同じものです。
206 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 21:32:27.13 ID:r6in7ffD0
以上で、当作品はおしまいです。
お気に入りエピソードの続編という自己満足的なものなので、
更生した前科者という重いテーマを扱っている割に、
話しが軽くなってしまった感が否めなかったりします……
そもそも、今回もまた勉強不足なまま書いていたり……
それでも楽しめたというならば、幸いです。
207 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 21:34:49.24 ID:r6in7ffD0
しばし様子見してからHTML化の依頼を出そうと思いますので、
それまで感想等がございましたら、どうぞお気軽に……
208 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/04/26(金) 22:00:28.56 ID:HatjRWK50
面白かったです
209 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/04/26(金) 22:23:59.13 ID:23l6elNGO
1500億の借金ってもうどうしようもないだろ
210 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/04/30(火) 19:13:04.47 ID:hnQSrzD70
コメントはお二つだけでしたが、読んでくださりありがとうございます。
今回の反省点は
>>209
の方が言うように、吉田先生が教頭先生から脅し取ろうとした金額を明記しちゃった事ですね。
確かにこんな大金、手塚先生にも用意できないって…というか、書く前に気付けよと……
とにもかくにも、次こそはまったくの別作品のSSを投下する予定です。
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