相棒「目撃者・後日談 〜16年ぶりの再会〜」

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54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 15:58:53.70 ID:i/o/WJrU0
幸子「けど、その手塚守さんって人、今は立派に教師やってたんでしょ?」

冠城「えぇ…校長先生曰く、プロと思うくらいの腕前だったらしいですよ」

右京「恐らく、恭子さんから教師としてのノウハウを叩き込まれたのでしょう」

「そして、少年時代から持っていた頭脳も、彼を手助けしていたに違いありません」

幸子「だとしたら、可哀想ですね。せっかく更生して、大好きな先生みたいな教師になれたのに……」

「何か同情しちゃいます……」

冠城「そう言えば、女将さんも真面目にやり直した前科者の一例でしたね」

幸子「まあ…私は幸運が重なったのが大きいですけど」

「…あ!お酒、切らしちゃいました。ちょっと取ってきます」


そう言って幸子は、店の奥に消えていく。

それを見計らい冠城は
「右京さん…色々と気になる事が、あるんじゃないんですか?」と右京に尋ねた。
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 16:00:47.09 ID:i/o/WJrU0
右京「何がですか?」

冠城「とぼけないで下さいよ」

「あの学校の教師たちの態度……明らかにおかしかったでしょう?」

右京「えぇ…まるで、聞かれたくもない事を聞かれたかのような顔をしていました」

冠城「あの学校……16年前も、平良荘八の悪行を見て見ぬふりをして、黙っていたんでしょう?」

「だとしたら、今回も誰かからの報復を恐れて、本当の事を黙っている可能性は、充分あり得ます」

「実際、教頭先生に気になる点が多い……」

「本人は、栄養失調気味だと言っていましたが、そうだと考えると、あの手の震えがどうにも説明できません」

「後は、あの手の甲の傷跡。包丁で切ったんだと言ってましたが、包丁を使って手を切るんなら、普通指を切りますよね?」

右京「仮に本当に誤って切ったとしても、絆創膏数枚では済みませんよ」

冠城「あと他に謎なのは、陽性反応が出た髪の毛ですね」

「伊丹さん達は、組対の案件だと思っているようですが、そうだとしたら被害者の衣服に付着していたのがよく分からない」

右京「それもそうですが、僕はもっと他に気になる事があります」

冠城「なんです?」

右京「君は、教頭先生が錠剤の瓶を開けた際、顔を近づける程に気にしている様子でしたが…」

「あれは何故ですか?」

冠城「……」
56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 16:02:57.84 ID:i/o/WJrU0
冠城「『匂い』が、したんです」

右京「匂い…?」

冠城「えぇ…瓶を開けた瞬間に、甘い匂いが漏れてきたんです」

「例えるなら、大河内監察官のラムネみたいな……」

右京「ラムネのように甘い匂い……ですか」

冠城「まあ、気のせいかもしれないけど……」

右京「……」
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 16:03:31.30 ID:i/o/WJrU0
右京「とにかく、明日は朝一番に青木君に、佐々木の所在を調べさせましょう」

冠城「そんなに、あのボウガンが気になりますか?」

右京「今回の吉田先生殺害には、ボウガンが使用されていました」

「手塚先生が16年前の事件で使用した凶器も、ボウガンです」

「更に凶器に使われたボウガンの汚れ……あれは、長い間手入れがされていなかったと見て間違いありません」

「それでいて、佐々木がボウガンを持ったまま追い出されたという事実……」

「とても、偶然とは思えないんですよ」
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 16:04:27.91 ID:i/o/WJrU0
冠城「これらが仕込まれたものだとしたら、相手は16年前の事件を良く知る人物……」

「しかしそうなると、ボウガンの出所や監視カメラを破壊した人物が気になりますね」

「無論、吉田先生の奥様の借金がどう絡んでいるのかも……」

右京「いずれにせよ、明日は捜査の範囲をもう少し広げましょう。話はそれからです」

冠城「了解……」


明日の捜査内容を決定する特命係の2人。

しかし、彼らがそのようなことをしている同じ頃……

警視庁特命係でもある動きを見せる人物がいた。

青木年男だ。

彼は珍しく、遅くまで残ってあるデータを確認していた。

それは、手塚守が16年前に起こした事件と彼の人物像
そして、スケープゴートにされかけたろくでなしこと佐々木文宏のものである。

中でも、佐々木のボウガン関係の記載に特に着目していた。
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 16:06:18.06 ID:i/o/WJrU0



青木「佐々木……ボウガン……」


60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 16:09:35.51 ID:i/o/WJrU0
〜補足〜

No.EX・・・シーズン1〜シーズン2で用いられていた、
オープニングの後にその回の話数が表示される演出のオマージュ。
S1第5話の続編という事で取り入れました。
EXなのは、言うまでもなく本作が本編のエピソードに属さない作品であるため。

ろくでなしの本名・・・公式名です。
S1第5話で守君が言っていた通り、ろくでなしにはちゃんとした名前があって、佐々木文宏と言う名前が設定されているのです。
実際、エンディングでクレジットされているので、暇があるならば確認してみて下さい。

平良荘八・・・これも公式名です。
クレジットでは平良表記ですが、S1第5話でイタミンや美和子さんがフルネームで呼ぶ場面があります。

時田教頭の兄・・・S1第5話の最初の方でイタミンから、平良先生殺害を聞かされていた、薄毛&眼鏡のおじさんです。
特にそれ以上の描写がないのをいい事に、弟がいたり時田と言う苗字があったり
16年前の事件と引っ掛けて破滅させてしまったりと、勝手に味付けしてしまいました……

また、今回の為房校長と時田教頭、そして吉田先生はオリジナルキャラです。
名前の元ネタはありません。

それと、右京さんの語る「1968年にイギリスで10歳の少女が起こした連続殺人事件」
と言うのは、「メアリー・ベル事件」という実際に起きた事件のことです。
詳しく書くと本編と脱線してしまうので、ググってみて下さい。

一方、冠城君の言う特命係に出向していた頃に起きた、少年時代に殺人を犯してしまった男の事件と言うのは、S14第6話のこと。
こちらも、詳しく説明すると本編と脱線してしまうので、ググるなりDVDレンタルで確認するなりしてみて下さい。
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 16:10:05.54 ID:i/o/WJrU0
例のバグに遭遇するというアクシデントがありましたが、今日はここまでです。

前回、知ってる別ジャンル単体でやると言っておいて、結局相棒単体のオリジナル作品になりました。
(原作エピソードを下敷きにした内容ですが…)

しかし今回もまた、知識不足だったり話半分で書いたりなので、
自分で言うのもなんですが、突っ込みどころ満載だと思います。
そもそも、一から事件モノを書く事自体ほとんど初めてなものでありまして……

ちなみに何故、こうなったのかと言いますと、目撃者が気に入っているのと、
相棒単体のガチモノのオリジナルSSを見掛けなかったので、
そういうのをやってみようかと思ったんですね。

本当はもっと早めに投下するつもりでしたが、
色々あって平成最後の今月に投下する事になってしまいました……


次の更新は未定ですが、4月中には終わらせるつもりです。
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:04:11.15 ID:v13ERt4d0
時間が取れたので、続きとなります。
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:05:02.92 ID:v13ERt4d0
―翌日―


右京と冠城が普段通りに出勤して特命係の部屋入ってみると、青木が後ろ手を組んだ格好で彼らを待ち構えていた。


青木「お二人とも、おはようございます」

右京「おはようございます」

冠城「今日は随分と早いな」

青木「悪いですか?」

冠城「悪いなんて言ってないだろ」

右京「丁度いいところにいらっしゃいました。実は……」

青木「手塚守の事件のことですね?」

冠城「なんだ、調べたのか」
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:06:00.60 ID:v13ERt4d0
青木「いきなり芹沢さんに呼び出されてたんで、少し気になりまして……」

「一晩かけて調べてみましたが、今捕まってる先公、相当ヤバいガキんちょだったようですね?」

「気に入らない教師を殺っちゃったどころか、他人に罪まで擦り付けようとしてたなんて……」

「あぁ、恐ろしいったらありゃしない」


わざとらしく身震いして見せる青木。

それに対し右京は「そんな事よりも、これからやって欲しい事があるのですが……」
と言ったのだが、当の青木は「『佐々木文宏の所在を突き止めろ』でしょう?」と即答した。


冠城「そんな事まで先読みしていたか……」

青木「そりゃ、16年前の事件の凶器の実質的な出所ですからね。調べないはずがないじゃないですか」

「まあおかげで、色々と『面白い事』が分かりましたけど」

冠城「面白い事?」
65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:07:23.89 ID:v13ERt4d0
青木「僕も、今回の事件に同じ凶器が使われていたのが気になりましてね、周辺でボウガンを持った人物の目撃情報がなかったか、調べてみたんですよ」

「そしたら、16年近く前からボウガンを持ったホームレスの目撃情報が、世田谷区やその周辺区域で確認されていた事が分かりました」

「警察に通報された事も何度かあったようです」

冠城「まさか…そのボウガンを持ったホームレスが佐々木文宏?」

右京「確かに、目撃されるようになった時期が、佐々木がアパートから追い出された時期と重なりますね」

青木「でしょう?けど、話はこれで終わりじゃないんですよ」

「実は、昨日あなた達が色々嗅ぎまわっている間、捜査一課の方でも動きがありましてね……」

「何でも事件の証拠を探していたら、栄中央署に呼び出されて、あるものを確認させられたみたいなんですよ」

冠城「確認させられたって…何をだ?」

青木「ホームレスの遺体です」
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:08:48.96 ID:v13ERt4d0
冠城「ホームレスの遺体?」

青木「どうやら、何者かに襲われて殺害されたそうなんです」

「ちなみに、誰なのかも既に判明しています」

「いったい誰だと思いますか?そのホームレス……」

冠城「勿体ぶってないで、さっさと言え。こっちは遊んでんじゃねぇんだぞっと」


勿体ぶる青木の顔を両手で挟み込んで、ぐりぐり回す冠城。

された本人はすぐさま振り払うと、
「はいはい分かりましたよ!せっかちだなぁ……」と言いながら、ホームレスの正体を話す事にした。


青木「そのホームレスなんですけどね、どうやら『佐々木文宏』らしいんですよ」

冠城「え?!」

右京「それは、確かなんですか?」

青木「杉下さん…16年前の事件の時に、あの男を公務執行妨害で逮捕していますよね」

「その時に取られた指紋や顔のデータ等が、一致したんだそうです」

右京と冠城「「……」」


思いがけない形で判明した、佐々木の衝撃的な現状に、さしもの特命係の2人は絶句してしてしまった。

だが、2人を襲う衝撃はこれで終わらなかった。
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:09:37.35 ID:v13ERt4d0
青木「驚くべき事は、それだけではありませんよ」

「佐々木を殺害した犯人も、手塚守らしいんですよ」

右京「手塚先生が……ですか?」

青木「えぇ…現場に証拠が残っていて、調べてみたら手塚の所持品だったみたいなんです」

「おまけにこれまで確認されていた、ボウガンを持ったホームレスとも特徴が一致しています」

「しかし現場にボウガンはなく、その代わり佐々木の住処から、吉田に刺さっていた矢と同じものが見付かっています」

「凶器のボウガンが、佐々木のものであった可能性は非常に高い」

右京「……」

青木「これで、あの先公が犯人なのは決定的ですよ」

「残念ながら、あなた方の出る幕はもうないでしょうね」


嬉しそうに語る青木。

だが、右京は……
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:12:54.07 ID:v13ERt4d0
右京「……青木君。今、手塚先生は?」

青木「伊丹さん達から取り調べを受けていますが、相変わらず黙秘を続けているみたいです」

「やれやれ……さっさと吐けばそれでおしまいなのに……」

右京「そうですか……」

「では、行きましょうか冠城君」

冠城「はい」


冠城を連れて、何処かへ行こうとし始めた。


青木「ちょっと、何しに行くんですか?」

右京「取り調べの様子を見に……」

青木「さっきの話し聞いてませんでしたか?『あなた方の出る幕はもうない』と…!」

「行ったところで同じでしょう」

右京「無意味かどうかは、実際に見て確かめてから決めますよ」

「君は、他に頼み事ができた時のため、ここで待機していてください」

「これは命令です」

冠城「そういう訳だ。何かあるまで動くなよっと!」


冠城はそう言って青木の鼻先をチョンと突きながら、右京と共に部屋を出ていき、
青木は、まるで汚い物を落とすかのように、冠城に突かれた鼻先を払う。

その直後、右京が思い出したかのように、出入り口から顔を出すと
「それと、頭の体操もほどほどにしておいて下さい。これも、命令ですよ」
と、暗にゲームをしてサボらないように釘を刺してから、出ていった。
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:14:36.21 ID:v13ERt4d0
青木「……」


苦虫を噛み潰したような表情で、特命係の2人の背中を睨む青木。

その時、組対策五課に誰もいない事に気が付いたが、
関係ないだろうと思い大して気にも留めないまま、分室に入っていくのだった。
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:15:55.34 ID:v13ERt4d0
―取調室―


青木が話したとおり、芹沢が見守る中、伊丹による手塚への取り調べが行われていた。

特命係の2人は、隣の部屋からマジックミラー越しに、その様子を静かに見守る。


伊丹「お前が昔通っていた学校の近所にいたろくでなし……ホームレスになったアイツが、遺体で発見された」

「遺体の側に手帳が落ちていた。それが、アンタの所持品だって事も分っている」

手塚「……」

伊丹「何で、アイツの襲撃現場にアンタの手帳が落ちてたんだ?」

「なんて……聞くまでもねぇよな」

「アンタが、栄第三小学校教諭・吉田敏行殺害の凶器の調達の為、アイツを殺したからだ!」

「言い逃れはできねぇぞ。殺害現場にあったボウガンが、佐々木の物だって事も分かっている」

「ここまで決定的な証拠はねぇよな?」

手塚「……」


人相の悪い表情で問い掛ける伊丹。

だが、手塚は動じる様子は見せず、無言を貫いている。

その姿に、伊丹は苛立ちの色を隠せなかった。
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:17:23.41 ID:v13ERt4d0
伊丹「この質問……何度だと思う?黙ってないで、いい加減認めたらどうなんだ?」

「アンタには、吉田を殺す充分な動機もある!証拠と状況が全てを物語ってるんだ」

手塚「……」

伊丹「何とか言えよおい!」


バンッ!!

デスクを叩き、怒声を上げる伊丹。

しかし、手塚は表情一つ変えないで固く口を閉ざしたままだ。


冠城「右京さん……」

右京「行きましょう」


彼らの様子を確認した、特命係の2人は取調室に向かった。


伊丹「クソ…!別の証拠見付けたら、認めるんじゃなかったのかよ……!」

芹沢「先輩、ずっと気になってたんですけど、この先生、子供の時からこんな人なんですか?」

伊丹「コイツが子供の頃と言ったらは、お前が一課に配属される前だったな……」

「コイツとは、平良荘八を殺した犯人の目撃情報を聞いた時にしか会った事がないんだが、あの時点で、小生意気なガキんちょだとは思っていたんだよ」



16年前の事を振り返る伊丹。

そこへ「失礼します」と言いながら、右京と冠城が入ってきた。
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:18:44.98 ID:v13ERt4d0
芹沢「もう嗅ぎ付けたんですか……」

伊丹「警部殿…今取り込み中なんで、お引き取り願います」

冠城「けど、随分と苦戦してるようですねぇ?」

伊丹「うるせえ!さっさと出てけって!」

冠城「しかし、俺達も彼から依頼を受けて動いています。顔を合わせる権利は、あるはずですよ」

伊丹「顔合わせなら、これが終わってからにしてくれませんかぁ〜?」

右京「依頼された事をおざなりにされたまま進められても、こちらとしては困るものでしてねぇ……」

「ほんの少しだけ、話しをさせてもらえませんか?」

伊丹「……」

「ほんの少しだけですよ」


長年の付き合い故だろう、断っても無駄だとすぐさま察した伊丹は、潔く取り調べの交代を了解した。

それを聞いた右京は、足早に手塚の向かい側の席に座った。
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:19:11.89 ID:v13ERt4d0

手塚「待っていましたよ、刑事さん。そちらの成果は、どうでしたか?」

右京「その前に、僕から聞きたい事があります」

手塚「何です?」

右京「……」
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:26:20.90 ID:v13ERt4d0

右京「…どうしてあなたは、証拠を残した上で犯行に及んだのですか?」

手塚「え…?」

右京「昨日、あなたが働いている学校で伺いましたが……」

「あなたは、自身に殺人の前科がある事を、周囲に明かしていたそうですね?」

手塚「そうですよ。事実を隠してても、しょうがないですから」
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:29:21.88 ID:v13ERt4d0
右京「それでいて、16年前のあなたの犯行の手口は、我々警察も把握しています」

「栄第三小学校と警視庁両方に、あなたの前科が知れ渡っていたと言える」

「そんな中で、あなたとちょっとしたトラブルを起こしたのが、吉田先生で…」

「その吉田先生が、よりにもよって、16年前と同じボウガンで殺されてしまった」

「しかも、持ち主のろくでなしは殺害され、現場にはあなたの手帳が落ちていました」

「そうなると、真っ先にあなたに容疑がかかる」

「つまり、自身が犯人である事を隠してなさすぎなんです」

「だから、とても気になります」

「ここまで証拠を残したのは、何故ですか?」


ジッと手塚の目を見ながら問い掛ける右京。
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:30:26.48 ID:v13ERt4d0
手塚「刑事さん。あなたまで、僕を疑うんですか?」

「昨日も話したじゃないですか、吉田先生の遺体を見付けたから通報したんだって」


彼の眼差しから、手塚は右京の意図を悟ったのか、黙秘ではなく否認の言葉を述べた。


右京「では、何故あなたの手帳が、ろくでなしの殺害現場に落ちていたのですか?」

手塚「無くしたんですよ。1週間前に……」

芹沢「無くしただって?」

伊丹「何で無くした手帳が、ろくでなしの殺害現場に落ちてたんだよ!」

手塚「それは、こっちが聞きたいですよ」

右京「では、無くした時の状況を教えてくれませんか?」


と、右京が聞くと手塚は
「あれは確か、吉田先生とトラブった次の日の事です」と言って、手帳を無くすまでの経緯を語り出した。
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:31:55.23 ID:v13ERt4d0
手塚「教頭先生が、その時の事でもう一度話があると言って、僕を呼び出したんです」

「けど、行ってみたら教頭先生、凄く遅れてやって来て、しかも……」

「『昨日の事を蒸し返すのはよくないと思ったから、やっぱり止めにするよ』とか言い出してましてね」

「結局何も話さずに職員室に戻ったんです」

「無くした事に気付いたのは、その後ですよ」

右京「なるほど、教頭先生に呼び出された後ですか……」

冠城「けど、よく1週間、見付からない事を不審に思いませんでしたね?」

手塚「そりゃ、あの手帳には仕事のこと以外、何も書いていませんでしたから……」

「同じ学校で働く職員が盗んだところで、何の得もないからそんなのあり得ないと思ったんです」

「大体、無くなった時の事も考えて、予備の手帳に内容を丸写ししていましたし……」
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:34:32.06 ID:v13ERt4d0
右京「要するに、単純に無くしただけだと思っていたら、何者かに盗まれていて…」

「それが、あなたに罪を擦り付ける手段に利用されてしまった……と、いう事ですね?」

手塚「恐らくそうだと思います」

「吉田先生はともかく、あのろくでなしがホームレスになってたなんて、そこの刑事さんに言われて初めて知りましたから」


そう言って、伊丹の方に顔を向ける手塚。

当の伊丹は、忌々しそうに手塚を睨み返していた。

その様子を確認した後、手塚は右京の方を向き直る。


手塚「それじゃあ、今度はこっちが聞く番ですね」

右京「その事ですが、吉田先生は奥様の借金の事で焦っていた事が判明しました」

手塚「奥さんの借金で?」

右京「完済が出来ないまま、返済期間が差し迫っていたそうです」

手塚「そうだったんですか。だったら、最初からそう言ってくれれば、よかったのに……」

右京「……」

手塚「吉田先生が殺されたのは、その事と関係あるんでしょうかね?」

右京「まだ、何とも言えません」

「しかし、いずれ全てを明らかにしてみせます」

手塚「それを聞いて、安心しました」

「引き続き、お願いします」


文字通り安心した表情を浮かべる手塚に対し、右京は「えぇ…」と軽く答えた。

それを見計らい、伊丹は「警部殿…もうよろしいですか?」と右京に聞いてくる。
すると右京は、すかさず「最後にひとつ……」と言って、ある事を手塚に聞いた。
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:35:17.02 ID:v13ERt4d0

右京「現場の公園を訪れて、伊丹さん達が来るまでの間、誰か見かけませんでしたか?」

手塚「いいえ…刑事さん達が来るまで、あの公園では僕と死んだ吉田先生だけでした」

右京「分かりました。では、これで……」


そう言い残し、右京は冠城と共に取調室から立ち去った。
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:36:35.74 ID:v13ERt4d0
―警視庁 廊下―


冠城「妙ですね…」

右京「えぇ、妙です」

冠城「あの髪の毛は、遺体に付着していただけでなく、現場のトイレなどにも落ちていた」

「仮に手塚先生が犯人で、被害者殺害後に現場にいたと仮定した場合…」

「彼はその髪の毛の持ち主を見ていないはずがない」

「しかし、手塚先生はそんな人物は見ていなかったと証言した……」

「となると、あの髪の毛が、手塚先生が現場に来る前に落ちていたものでなければ、辻褄が合わない」

「手塚先生の再犯の可能性が、限りなく薄くなりましたね」

右京「……」

冠城「次は、どうします?」

右京「佐々木の殺害現場から見付かったという、手塚先生の手帳の鑑定結果を青木君に取り寄せてもらいましょう」

「吉田先生殺害の現場同様、他に何か出ているはずですよ」

冠城「猫で釣る作戦は、昨日使っちゃいましたからね」


こうして、特命係に戻った2人は、青木に佐々木の殺害現場から見付かった
手塚の手帳の鑑定結果の資料を持ってこさせた。
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:37:43.92 ID:v13ERt4d0
こうして、特命係に戻った2人は、青木に佐々木の殺害現場から見付かった
手塚の手帳の鑑定結果の資料を持ってこさせた。


青木「はい、これが手塚の手帳の鑑定結果です」

右京「ご苦労様…」

青木「まったく……待機を命じたと思ったら、いきなりパシられるとは思いませんでしたよ」


愚痴をこぼす青木に対し、冠城は「暇じゃないだけマシだろ?」と言ってみせる。


そんな2人を尻目に、手帳の鑑定結果に目を通す右京。

そこには、指紋と筆跡が手塚のものと一致しているという事実が載っていたのだが……
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:39:35.81 ID:v13ERt4d0
右京「おや…手帳に、手塚先生以外の人間の毛髪が挟まっていたとありますねぇ……」


右京のその言葉を聞き、冠城はすぐさま彼の横までやってきて、確認の為に横から資料を覗き込む。


冠城「確かに、そのようですね」

右京「DNAの型も、吉田先生の殺害現場にあった毛髪と一致しているようです。陽性反応も出ている……」

冠城「だけど、伊丹さん達は重要視していないみたいですね」

青木「そりゃそうでしょう。状況的に考えても、あの先公の方が真っクロけなんですから」

「他部署の案件なんか、いちいち気にしてなんていられませんよ」

右京「しかし裏を返せば、これは大きな盲点と言えますよ」

「冠城君、行きますよ」

冠城「分かりました」

右京「そして青木君。君は、引き続き、待機していて下さい」

青木「それは構いませんが、まだ何か調べるおつもりなんですか?」

右京「事件はまだ終わっていませんからねぇ……」

冠城「そういう訳だから、サボるんじゃないぞ?」


そう言って、右京と冠城はまた特命係から出ていった。
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:43:00.58 ID:v13ERt4d0
―世田谷区某所の空き地付近―


冠城「それで、最初に何をするんです?」

右京「別行動と行きましょう」

「僕は、栄中央署に行って、佐々木の殺害現場の事を調べます」

「君は、栄第三小学校に行って……」

「…………おや?」

女性教師B「あ…!」


と、右京が指示を入れたその時であった。

彼らの側にある空き地から、昨日話しを聞いた女性教師Bが出てきて、彼らと鉢合わせしたのである。


女性教師B「昨日の刑事さん?」

右京「…どうやら、こっちが先になりそうですねぇ……」

こうして、女性教師Bもとい『広田(ひろた)かなえ』と出会った特命係の2人は、
そのまま彼女の自宅に移動する事になった。
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:44:08.55 ID:v13ERt4d0

―広田の自宅アパート 居間―


広田「どうぞ……」


広田はそう言って、ちゃぶ台を挟んだ向こうに座る特命係の2人にお茶を出した。


右京「ありがとうございます」


出されたお茶を、ありがたく頂く特命係の2人。

そして、一旦飲む手を止めると、右京が口を開いた。
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:47:46.86 ID:v13ERt4d0
右京「実は、あなたにも話を伺おうと思っていたんですよ」

冠城「まさか、学校を休まれていましたとはね」

広田「まあ、色々あって……」

「それはそうと、手塚先生は?」

右京「詳しい事は言えませんが、また新たな嫌疑をかけられている状態です」

「状況は、すこぶる悪いと言えます」

広田「そ、そんな……」

右京「だからこそ、あなたのお話を聞きたいんです」

広田「わ、私に何を聞きたいんですか?お話なら昨日……」

右京「いいえ…あなたは、まだ何も話していないはずですよ」

「あなただけではない、あの学校にいる方たち全員が……」

広田「だったら…何故私なんですか?」
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:53:23.54 ID:v13ERt4d0
右京「昨日、他の教員に話を伺ったところ、全員が手塚先生がやったかもしれないと答えていました」

「しかしあなたは、何も知らないとは答えましたが、手塚先生を犯人扱いするような事は言わなかった」

「この違いが気になったんです」

広田「それだけ……ですか?」

冠城「この人、細かい事が気になる人なんですよ」

広田「……」

右京「あなたがお休みで、助かりました。ここでなら、学校で言えない事も話せるはずですよ」

広田「……」

右京「ここで聞いた事は、絶対に他言しません。だから、お願いします」

「手塚先生の身の潔白を証明するには、あなたの協力が不可欠なんですよ」


真摯な言葉を投げかける右京。その顔をじっと見る広田。

彼の瞳に何かを感じたのだろう、広田は少しすると「何を聞きたいんですか?」と問いかけた。
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:55:44.97 ID:v13ERt4d0

右京「無論、吉田先生の事です。確かに彼は、手塚先生とトラブルを起こした事があったようですが…」

「今回殺害されたのは、それだけが関係しているとは思えないんです」

「学校の教員は、その事に『心当たり』があり、その『心当たり』からの報復を恐れているから、全てを話そうとしない……」

「違いますか?」

広田「……」


右京の言う事に、広田は少し間を置くと「えぇ、その通りです」と答え、そしてこう続けた。
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:58:11.63 ID:v13ERt4d0
広田「教頭先生には、昨日お会いしたんですよね?」

右京「もちろんです」

広田「あの人、なんだかやつれていたでしょう?」

右京「確かにやつれていましたねえ」

冠城「本人は、最近栄養失調気味と言っていましたが……」

広田「確かに、あの人がああなったのは、割と最近です。ちょっと前までは普通だったんですよ」

「けど、あまりにも急過ぎるんです…」

「私、まだ3年しか務めていませんが、去年までは特に何も問題ない人でした。それが突然ああなったんです」

「なので、私達教員の間で噂になってたんです。『ヤクザの友達か何かできたんじゃないか』って……」

「そして先週……見ちゃったんです。あの人が吉田先生と揉めてる現場を……」
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:59:57.82 ID:v13ERt4d0
右京「教頭先生が吉田先生と揉めていた……」

冠城「ちなみに、どうしてそんな事に?」

広田「遠目からだったので、よく分かりません」

「けど、他にもその光景を見た人もいたらしくて、例の悪い噂の信憑性が強くなっていました」

「その矢先、彼と揉めてた吉田先生が殺されてしまって……」

「だからみんな、今回の事件は例の悪い噂と関係があると思って怖がってるんですよ」

「だから…前科のあるあの人のせいにしたいだけなんです……!」

「そう考えると、あんな所にいたくなくって……!」

冠城「だから、仮病を使って休んだわけですか」

右京「なるほど…あなたは、嘘でも手塚先生のせいにしたくなかったわけですね」
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 11:01:15.70 ID:v13ERt4d0
広田「私…他の学校から転勤してまだ3年ですが、その3年間あの人と一緒にやってきたから分かるんです」

「確かに手塚先生は、16年前おじさんを殺しました」

「でも…今は違う。過去の過ちをどう繰り返さないようにしているのか、真面目に考えている……」

「そんな人が、また事件を起こすとは思えません」

「だから刑事さん…お願いします!手塚先生の無実を証明してください!」


手塚守の無実を証明して欲しい……

頭を下げて頼み込む広田に対する、特命係の2人の答えはひとつだけだ。
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 11:05:33.23 ID:v13ERt4d0

右京「よく話してくれました。あなたの証言は、彼の潔白を証明する重要な手掛かりになるでしょう」

冠城「後は俺達に任せて下さい」

広田「あ…ありがとうございます!」


こうして、広田から情報を得た特命係の2人は、広田の自宅を後にした。

そして人気のあまりない道で、これまでの情報の整理を始めた。
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 11:06:03.72 ID:v13ERt4d0

冠城「事件の背景が一気に見えてきましたね」

右京「教頭先生は、16年前あの学校の教師を務めていました」

「しかし、手塚先生の起こした事件が原因で、前の教頭である彼の兄は精神を病んでしまい退職」

「そこに原因となった人物が再び姿を現し、真面目に働く人間になっていた……」

「それを見て、心中穏やかでいられるはずがありません」

冠城「おまけに、彼は吉田先生と何か揉めていた……」

「何故揉めていたのかは不明ですが、少なくとも吉田先生の方は奥さんの借金が関係している可能性がありますね」

右京「では、今度こそ別行動といきましょう」

冠城「分かりました。」

「それで、俺は何をすればいいんです?」

右京「それはですねぇ……」


右京は、冠城にして欲しい事を話し、彼はそれを了承。

こうして2人は、別行動を開始した。
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 11:07:39.95 ID:v13ERt4d0

まず、冠城と別れた右京は、世田谷区栄中央署を訪れたのだが、
そこで思いがけない人物と再会した。

それは、16年前の平良荘八殺害の現場に居合わせた、所轄の刑事である。

しかもこの16年間、何があったのか警部に昇進していた


所轄の警部「いやぁ…お久し振りですね」

右京「こちらも、久し振りです」

所轄の警部「あの後、あなたが何者なのか調べましたけど、まさか噂の特命係の係長でしたとは……」

右京「大した事ではありませんよ」


謙遜の言葉を述べる右京。

その後、所轄の警部は「あ…私、『輿水聖治(こしみず せいじ)』と申します。以後よろしく」と自己紹介を入れた。
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 11:09:28.52 ID:v13ERt4d0
輿水警部「ところで、用事は確か……」

右京「佐々木文宏殺害の件です。少しばかり、現場の資料を見せて頂けませんか?」

輿水警部「構いませんが、犯人の目星は付いているはずでは…?」

右京「それが、どうにも不審な点が多いものでしてねぇ……今一度、調べてみようかと」

輿水警部「……分かりました。ちょっと待ってて下さい」


若干腑に落ちない様子を見せながらも、輿水警部は佐々木の殺害現場の資料を持ってくる。


輿水警部「こちらです」

右京「……」


そして右京は、出された資料や現場写真に目を通す。

現場写真には、殺された佐々木文宏も映っており、
その顔は16年前に出会った当時より老け込み尚且つ無精髭を生やし
髪の毛がボサボサな、みすぼらしいものに変わってしまっていた。

右京はそんな変わり果てた佐々木の顔を確認すると、次は死因の方に目を通した。
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 11:14:19.94 ID:v13ERt4d0
右京「刃物で心臓を一突きにされ、即死……ですか」

「それ以外に、目立った外傷はないようですね」

輿水警部「この事から最初、犯人は殺人のプロだと思ったんですが……」

「手帳の内容を調べてみたら、16年前の平良荘八殺害事件の犯人が捜査線上に浮かび上がってきましてね」

右京「それで、伊丹さん達を呼んで確認を取ったわけですね」


輿水警部の話を聞きながら、右京は遺体の死亡推定時刻や状態に関する記載に目を通す。


右京「死亡推定時刻は、3日前の深夜11時〜1時の間……」

「その時間帯には雨が降っていて、事実遺体は濡れていた」

「しかし発見時は、屋根のある寝床に戻された状態で、手塚先生の手帳も寝床の中から見付かったそうですね」
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 11:15:24.49 ID:v13ERt4d0
輿水警部「引きずった跡もありましたし、何しろ寝床の外に血痕が多く残されていましたからね、移動させられたのは間違いありません」

右京「ちなみに、第一発見者は?」

輿水警部「分かりません。何せ、『とくめい』の電話だったもので……」

右京「『とくめい』ですか……」

輿水警部「決して、あなたの事じゃないですよ?名前を名乗らない方の『匿名』です」

右京「それは言われないでも、分かっているのですが?」


右京に突っ込みを入れられ、輿水警部は「す、すいません…」と謝った。

それを確認して右京は、改めて電話が何処から掛けられたものかを尋ねた。


輿水警部「現場近くの電話ボックスから掛けられた事だけは、分かってるんですが……」
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 11:20:51.94 ID:v13ERt4d0
右京「どうしました?」

輿水警部「それが、あの付近の防犯カメラが、何者かに壊されていましてね……」

「特定しようにも、手掛かりがないんですよ」

右京「では、カメラを破壊した犯人は?」

輿水警部「死角から壊されたみたいで、そちらも特定は難しそうです」

右京「……」


防犯カメラが壊された……

確か、吉田の殺害現場付近のカメラも同様の状態だった。
それでいて壊した犯人は、カメラに写らないようにしながら破壊している。

右京は、とても偶然とは思えなかった。

そして、これまでの話から、大きな違和感も感じていた。
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 11:21:24.23 ID:v13ERt4d0

その後右京は、輿水警部にお礼を言って署を出ると、スマホで青木に電話を繋ぐ。


右京「青木君…今、暇ですか?」

青木『えぇ、暇ですよ。誰かさんが待機を命じたおかげでね』

右京「それでは、今から調べて欲しい事があります」

青木『何ですか?』

右京「……」
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 11:22:04.17 ID:v13ERt4d0


「栄第三小学校の、広田かなえさんの事です」

100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 11:22:35.07 ID:v13ERt4d0

―栄第三小学校・校長室付近のトイレ前―


教頭の時田が、用を終えて出てきたのだが……


時田教頭「…?」


トイレから出てきた彼の目の前に、冠城亘が待ち構えていた。
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 11:23:39.21 ID:v13ERt4d0
冠城「どうもこんにちは、教頭先生」

時田教頭「昨日の刑事さん……」

「あれ?もう1人の方は……」

冠城「上司部下とはいえ、必ずしも一緒にいる訳じゃないんですよ」

時田教頭「ところで、今日は何の用ですか?お話は、昨日もしましたけど……」

冠城「いや実は、手塚先生から気になる事を伺ったもので……」

時田教頭「何ですか?」

冠城「先週、あなたは吉田先生とのトラブルの事で、再度手塚先生を呼び出した事があったとか……」
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 11:25:16.05 ID:v13ERt4d0

時田教頭「そうですよ。けど、やっぱり聞いても無意味だと思って、結局止めにしたんです」

冠城「しかしあなた、自分で呼び出しておいて、来るのが随分遅かったらしいじゃないですか」

「それでいきなり話を断ち切るなんて、随分とご勝手ですね?」

時田教頭「べ、別に構わないじゃないですか!私の判断なんですし」

「大体、警察がそんな事を聞いてどうするんですか?違法でも何でもないでしょう!」

冠城「そうですね、失礼しました。しかし……」
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 11:25:49.66 ID:v13ERt4d0

冠城「手塚先生と合流するまでの間、何処で何をしていたんです?」

時田教頭「…!」


冠城の質問に、教頭の表情が青ざめた。

その様子を、冠城は見逃さない。


冠城「…どうしました?」
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 11:28:57.40 ID:v13ERt4d0
時田教頭「い、いや…あの時、急にトイレに行きたくなって、それで遅れたんですよ」

「そんな事より、手塚先生の事件はどうしたんです?」

冠城「その事と、関係があるかもしれないんですよね」

時田教頭「と、言いますと?」

冠城「実は、16年前に近所のアパートに住んでいた佐々木文宏……通称ろくでなしが、遺体で発見されました」

「その、ろくでなしの殺害現場に、手塚先生の手帳が落ちてたんですが……」

「何でも手塚先生曰く、あなたに呼び出され、戻ってきた後に手帳が無くなっている事に気付いたそうです」

「この事から、手塚先生の手帳は何者かに盗まれた可能性があります」

「しかも、この学校の中で……」

時田教頭「……」


冠城の話を聞き、時田教頭は冷や汗を滲ませる。

その事を確認しながら、冠城は話を続ける。
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 11:29:52.46 ID:v13ERt4d0
冠城「もし、盗んだ人間がいるとしたら、この学校の関係者でしょう」

「そのような事をしそうな人物に、心当たりはありませんか?」

時田教頭「……」

「……あ、ありません」

冠城「そうですか……」

「ん…?」


その時、突然冠城は、時田教頭の頭を見ながら彼の目の前まで接近。

突然の行動に時田教頭は「な、何ですか?」と聞いたが、
冠城は無視して彼の頭を、パッパッと払う。
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 11:30:43.14 ID:v13ERt4d0

時田教頭「何するんですか!?」

冠城「失礼…ゴミが付いてるように見えたもので……」

時田教頭「最近の警察は、断りもなしに人の体に触れるのが趣味なんですか?」

「気持ち悪いから止め……あ!」


冠城の行動に憤慨していたその時であった。

突然、何故かまた両手が震え始めたのである。
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 11:31:47.91 ID:v13ERt4d0
冠城「どうかしましたか?」

時田「い…いえ!」

「こ、こんな事する暇があるなら、早いとこ事件を片付けて下さいよ!こっちも、それで忙しいんですから!」

「それではッ!!」


と、慌てたように時田は強引に話しを切り上げると、逃げるようにその場を立ち去った。


冠城「……」


一方、冠城は何処からか視線を感じて後ろを振り返ると
そこには、教師達が覗き見しており、彼と顔を合わせるや、全員逃げるように立ち去った。


冠城「……」


一旦周囲を見回して、教師が全員いなくなった事を確認すると、
冠城はどういう訳か、先程教頭が立っていた場所に目を向けるのであった。
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 11:34:41.40 ID:v13ERt4d0
―校長室―


冠城を振り切った時田教頭は、急いで懐から薬瓶を取り出すと、中の錠剤を2・3粒口にした。


為房校長「時田君」

時田教頭「!」

「こ…校長先生……」

為房校長「先程、警察の方が聞きに来ていたようだけど?」

時田教頭「え、えぇ…実に、無礼な奴でした。あんな人、もう入れないで下さいよ」

為房校長「……」


憤慨する時田教頭。

その姿に為房校長は、何か思うところがある様子であったが、
あえて表には出さず「大丈夫かい?」と問い掛けた。


時田教頭「え…?」

為房校長「何だか、疲れているように見えてね……」

「少しは休んだらどうだね?」

時田教頭「し、心配しなくても大丈夫です」

為房校長「……」

「なら、いいんだよ」


そうは言うものの、為房校長は複雑な表情を浮かべていたが、
時田教頭は、その事に全くとして気付かなかった。
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 11:38:38.69 ID:v13ERt4d0

世田谷区某所の人の気配が限りなく薄い、寂れた街路地……

別行動をとっていた右京と冠城は、この場所で合流した。

右京「戻りましたか」

冠城「右京さん、そっちはどうでしたか?」

右京「栄中央署によると、佐々木は刃物で心臓を刺されて即死であり、抵抗した形跡もなかったそうです」

「抵抗する間もなく、一瞬で殺害されたとみて間違いないでしょう」
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 11:39:38.22 ID:v13ERt4d0
冠城「だとしたら妙ですね」

「手塚先生にそこまでのスキルがあるなら、わざわざ佐々木のボウガンを奪って犯行に使う必要なんてなかったはず…」

「手塚先生が犯人である可能性は、これでゼロになりましたね」

右京「ところで、そちらは?」

冠城「頼まれた通り、手に入れてきました」


そう言って冠城は、白ハンカチに包み込んだ『ある物』を右京に見せた。

それは時田教頭の髪の毛数本であり、それを見た右京は「確かに、手に入れたようですね」と返した。
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 11:41:12.87 ID:v13ERt4d0
冠城「正直、あっさりと取れて、ちょっと驚いています」

「……いや、むしろ必然か」

「もしも、この毛髪が現場の毛髪と一致すれば、教頭先生は違法薬物に手を染めていた事になる」

「薬物の中には、副作用で毛が抜けるものも少なくないんですよね?」

右京「えぇ、もちろんです」

冠城「だとしたら、一番考えられるのは、あの錠剤……」

「本人は、栄養剤と言っていましたが、あれが麻薬の類である可能性は非常に高い」

「ヤクザの友達がいるという噂の件も合わせると、犯罪の世界の人間とも繋がっていた可能性すらある」

右京「そう考えれば、防犯カメラの破壊や佐々木が一瞬で殺害された件も、それで説明がつきます」
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 11:41:47.03 ID:v13ERt4d0
冠城「じゃあこの髪の毛、益子さんの所に持っていって、組対にも知らせます?」

右京「えぇ…恐らく課長も、あの髪の毛の持ち主を知りたがっている事でしょう」

冠城「ではさっさと戻りましょう…と、言いたいところですが……」

右京「何ですか?」

冠城「その前に、少し腹ごしらえしませんか?」


冠城の提案を聞いた右京は、「そう言えば、もうお昼ですねぇ……」
と言いながら自分の腕時計の示す時間を確認する。


冠城「じゃあ、この近くにマイナーな名店がありますから、そこに行きましょう」

右京「確かに、この近辺にはそのようなお店がありましたねぇ……」

冠城「えぇ、わさびたっぷりのお茶漬けも売ってるそうですよ」


こうして2人は、昼食をとるべくマイナーな名店に向かったのだが……
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 11:42:22.73 ID:v13ERt4d0



ガッシャ―――ン!!


114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 11:42:54.66 ID:v13ERt4d0

その道中の途中にあるバーから、突如大きな物音がしたかと思えば、1人の黒い服を着た男が飛び出してくる。


角田課長「おい待て!」


そして、それに続いて組対の角田課長を始め、部下の『大木長十郎』と『小松真琴』が店から出てくる。

組対とそれから逃げる男……

目の前の光景を目の当たりにした特命係の2人は、すぐさま状況を把握した。
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 11:43:26.45 ID:v13ERt4d0
右京「どちらへ行くおつもりですか?」

冠城「警察の人がご用みたいですけど?」


そう言って男の前に立ちはだかる特命係の2人。

前には特命、後ろには組対。

二組の警察官に挟まれ、男は逃げ道を失い、しばらく両者の様子を確認。
そして、一番年を食ってて倒しやすそうだと思ったのか、右京に突撃する。
だがこの杉下右京、こう見えて格闘戦は大得意であり、互角の取っ組み合いになる。
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 11:45:03.49 ID:v13ERt4d0
コロコロ.....


その最中、男の懐から瓶が1つ、こぼれ落ちる。

一方、右京と男の取っ組み合いに冠城も参戦。

これを好機と言わんばかりに、組対の3人もやってきて、
男は瞬く間に取り押さえられ、手錠をかけられたのだった。


大木「よし!」

小松「確保完了」

角田課長「たく…手こずらせやがってよ!」

「あんがとな……後ちょっとで取り逃がすところだったぜ」

右京「礼には及びませんよ」

冠城「それにしても、こんな所でガサ入れですか?」

角田課長「例の『新型の麻薬』売りさばいてる密売グループらしき連中が、昨日からこのバーをアジトにしてるって情報掴んでよ…」

「朝からずっと張ってたんだ」

冠城「新型の麻薬?」
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 11:45:43.58 ID:v13ERt4d0
角田課長「俺達が前々から追ってた連中だ」

「アンタらももう知ってるだろうけど、例の陽性反応の出た髪の毛あっただろ?」

「そいつの持ち主を探してたら、ここ最近世田谷区で怪しい動きみせてる連中がいる事が分かったんだ」

「その連中がコイツらだったって訳だよ」

右京「……」


課長の話しを聞き、右京は地面を確認してみると、
先程の取っ組み合いで男が落とした瓶が目に留まり、それを拾う。
その瓶には、見覚えのあるラベルが貼ってあり、中には見覚えのある錠剤が入っている。

ラベルを見た右京は、蓋を開けて中の匂いを嗅いでみる。
その傍ら、角田課長は「それよりお前さんら、ここで何やってんだ」と問い掛ける。


冠城「ちょっと腹ごしらえをしに行く途中だったもので……」

右京「ところで…その新型の麻薬と言うのは、『コレ』の事ですか?」


そう言って右京は、今拾った錠剤入りの瓶を見せた。
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 11:47:04.90 ID:v13ERt4d0
角田課長「あ…それそれ!」

右京「なるほど……では冠城君、少し匂いを嗅いでみて下さい」

冠城「え…?」

「匂いを嗅げって……コレの?」

右京「他に何があるんですか?」

冠城「わ、分かりました」


突拍子のない上司の指示に少し困惑しつつ、
冠城は蓋の開けられたところから、中の錠剤の匂いを嗅いだ。


角田課長「あー、おいおい!何やってんだよ」


特命係の2人の行動を前に、慌てる角田課長。

一方、麻薬の匂いを嗅いだ冠城は、ピンときたような素振りを見せた後、再度麻薬の匂いを念入りに嗅いだ。
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 11:47:37.29 ID:v13ERt4d0
右京「どうですか?」

冠城「コレだ…!コレですよ、昨日俺が嗅いだ匂い!」

右京「やはりそうでしたか」

冠城「右京さん、どうやら……」

右京「薬の事を調べ回る手間が、省けたかもしれません」

角田課長「え?お、おい……何、勝手に納得し合ってんだ?」

右京「角田課長、この麻薬はどういうものなのでしょうか?」

角田課長「コイツ?それはよ……」


角田課長は、右京の持つ麻薬の詳細を説明した。
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 11:48:11.43 ID:v13ERt4d0
右京「なるほど、そういうものでしたか……」

冠城「これで繋がりましたね」

角田課長「繋がったって?何がよ……」

右京「僕達も、陽性反応の出た髪の毛の持ち主を探していたのですが……」

冠城「実は、それらしき人物に心当たりがあるんですよね」

角田課長「それは本当か!?」

冠城「えぇ…今、その人のものと思しき髪の毛も採取しました」

「それで丁度、お昼を食べてから益子さんに預けて、あなた達にその事を知らせようと思っていたところなんです」

右京「しかしどうやら、その手間も省けたようですね」

角田課長「そうだったのか!そういう事なら、協力してやってもいいぜ」

「んで、何したらいい?」

右京「とりあえず、摘発したグループを警視庁に連れていきましょう。話しはそれからです」


こうして特命係の2人は、組対五課と共に麻薬の密売グループを連行した。

今この瞬間……事件は、終焉へと進み始めた。
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 11:53:57.21 ID:v13ERt4d0
〜補足〜

栄中央署の輿水聖治警部・・・オリキャラではありません。
S1第5話の序盤で、イタミンに「あの人達(特命係の2人)何者なんですか?」と聞いて、
イタミンに凄まれてしまったちょっと可哀想な所轄の刑事さんだった人です。
確認してみたら名無しだったので、今回名前を付けてあげました。
名前の元ネタは、S1第5話の脚本を担当した輿水泰弘さんと、同話の監督の和泉聖治さんから。
どちらも、昔から相棒を支えてくれた方ですね。
ただ、警部に昇進したって設定は要らなかったかな……とか思っていたりします。

なお、イタミンの「何で、アイツの襲撃現場にアンタの手帳が落ちてたんだ?」〜「ここまで決定的な証拠はねぇよな?」
右京さんの「…どうしてあなたは、証拠を残した上で犯行に及んだのですか?」〜「ここまで証拠を残したのは、何故ですか?」
あたりのくだりは、S1第5話でのろくでなしに対する台詞を踏襲したものです。
輿水警部の「とくめい」のネタも、同エピソードで出ていたものであります。

ちなみに、本作のろくでなしなんですが、当初重傷を負って病院送りにする予定でしたが、
それだと後で疑問が出てくる展開となってしまうので、勝手ながら死んでもらう運びになりました。

なんか、ごめんなさい……
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 11:56:53.41 ID:v13ERt4d0
今日はここまでです。

実は、今回のパート、どうにも納得できない内容だったので、丸っと書き直したんですよね。
本作を投下するのがこの時期になったのは、これが原因だったりします。


何はともあれ、次回で真相が全て判明し、おしまいとなります。
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/26(金) 19:11:08.34 ID:r6in7ffD0
続きです。

本日の更新で完結となります。
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/26(金) 19:13:58.86 ID:r6in7ffD0

―翌日―

時田教頭は学校へ出勤すべく、家から出てきたのだが……


時田教頭「あ…」

右京「どうも…」

冠城「おはようございます」


彼の前に特命係の2人が待ち構えていた。
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/26(金) 19:16:10.01 ID:r6in7ffD0
時田教頭「こ、こんな朝早くなんですか…?」

右京「実は…昨日の事でお詫びしたいことがありましてねぇ…」

時田教頭「お詫び…?」

右京「こちらにいる部下の者が、あなたに無礼を働いてしまったようでしてね……」

「その事を謝罪しに参りました」

冠城「昨日は、急に頭を叩いたりして、申し訳ありませんでした……」


と言って、冠城は深々と頭を下げ、右京も一緒に頭を下げた。


右京「僕の目の届かない所だと、好き勝手な事をしてしまうものでしてねぇ…」

「後でまた、きつく言って聞かせますので……」

時田教頭「いえ…あなた方が謝る必要なんかありませんよ。気にしていませんので」

冠城「本当ですか?」

時田教頭「えぇ…」

冠城「そう言って頂けると、大分気が楽です」

右京「君、調子に乗らないで下さいよ?」

冠城「調子になんか乗ってませんって……」

時田教頭「あ、あの…そろそろ、仕事に行かないといけませんので……」


そう言って、学校に行こうとする時田教頭であったが、
右京は「待って下さい」と言って引き止めた。
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/26(金) 19:16:41.57 ID:r6in7ffD0

右京「実は、話しはこれだけではないんです」

時田教頭「と、言いますと?」

右京「ここでは何ですので、場所を移しましょう」

時田教頭「し、しかし…」

冠城「大丈夫です。学校へ遅刻なんて事はさせませんから」

時田教頭「は、はい…」


言われるがまま特命係の2人に着いて行く時田教頭。

その様子を、向かいの家の中から覗く人物が2人いると知らないまま……
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/26(金) 19:17:34.92 ID:r6in7ffD0

数分後……

教頭は特命係の2人に案内され、寂れた街路地に足を踏み入れた。


時田教頭「あ、あの……何処まで行くんですか?

冠城「……」

右京「……着きました」

時田教頭「!!!!」


そして、案内された末に辿り着いたのは、
昨日、組対五課が摘発した麻薬の密売グループがアジトに使っていた、寂れたバーであった。

その店が目に入った瞬間、教頭は驚愕した。
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/26(金) 19:18:52.21 ID:r6in7ffD0
冠城「知ってるお店ですか?」


冠城の問いに、時田教頭は「い、いえ……」と言葉を濁しつつ、
「そ、それより、こんなお店連れてきて、いったい何があるというのですか?」と聞き返した。


右京「実は、あなたに会いたがっている方達がいましてねぇ……」

「お店の中で待ってもらっているんですよ」

時田教頭「わ、私に…?」

右京「えぇ…」

冠城「そういう訳ですから、さっさと中に入りましょう」

時田教頭「……」


こうして、店の中に入った3人。

すると、店の中には3人の男が待ち構えていた。

組対五課の角田課長と大木と小松である。
129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/26(金) 19:22:51.66 ID:r6in7ffD0
角田課長「やっと来たか…待ちくたびれたぜ」

右京「お待たせして、すみませんね」

冠城「けど、安心して下さい。この通り、しっかりお連れしましたので…」

時田教頭「あ…あなた達は?」

角田課長「紹介が遅れたな…俺達も、警察だ」


そう言って角田課長と小松は、警察手帳を教頭に見せた。


角田課長「アンタが、栄第三小学校教頭の時田正敏だな?」

時田教頭「そ…そうですが?」

角田課長「じゃ、早速で申し訳ないけどよ…」

「詳しい話し、聞かせてくんねぇか?」

時田教頭「お、お話って…?」

角田課長「だから、俺達が追ってる事件に関してだよ」

時田教頭「あなた方が追ってる事件?な、何を言って……」

角田課長「おいおい、とぼけんじゃねぇよ…」

小松「時田正敏さん…あなたに、違法薬物所持及び常用の容疑が掛かってるんですよ」

時田教頭「!!」
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/26(金) 19:24:33.18 ID:r6in7ffD0

伊丹「それだけじゃねぇぞ」


ここで入口から、芹沢を連れた伊丹がやってきてこう続けた。


伊丹「殺人の容疑もだ」

時田教頭「い、違法薬物…?殺人…?な、何を言ってるんですか?」

右京「今、彼らが言った通りですよ。何故なら教頭先生……」
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/26(金) 19:25:08.70 ID:r6in7ffD0



「あなたが、この一連の事件を仕組んだ犯人なのですから」


132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/26(金) 19:25:58.03 ID:r6in7ffD0
指を差して、右京はそう言い切った。

これに、時田教頭は「…わ、私がですか?」と動揺の色を見せた。


右京「他に誰がいるのですか?」

時田教頭「ま、待って下さいよ。本当に、何がなんだか……」

角田課長「じゃあ…これは何だ?」

時田教頭「!!」


と言いながら小松に証拠品袋に入った、
昨日の密売グループが持っていた錠剤入りの瓶を見せさせる。

その瓶には、時田教頭が服用していた錠剤の瓶と同じラベルが貼ってあった。


角田課長「ここをアジトにしていた麻薬の密売グループ…昨日そいつらを、俺達は摘発した」

「この薬は、その摘発したグループから押収した、『ヘヴル』っていう麻薬だ」

時田教頭「へ、ヘヴル……」
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/26(金) 19:27:59.27 ID:r6in7ffD0
角田課長「服用すれば、ストレスを大幅軽減し、集中力が向上する効果がある新型の麻薬だよ」

「効果ゆえに、日頃から鬱憤が溜まっている奴が買い求めるが……」

「この薬の恐ろしいところは、効き目が切れた時だ」

「コイツは効き目が切れると、薬で押さえられていたストレスが一気に湧き出てきて神経に異常をきたし、体が震えたり、痒みや痛みが起きたと錯覚したりしてしまう」

「その苦しみから逃れるため、服用者は薬を手放すことができなくなり、無くなればまた買わされる……」

「まさに、『ヘヴン(天国)』と『ヘル(地獄)』を味わされる悪魔の薬だよ。コイツのせいで、自ら命を絶った人間も出ている」

「しかも怪しまれないようにしながら、何処ででも服用できるように、栄養剤のラベルで偽装してラムネみたいな甘い味がするというおまけつきだ」

右京「そして奇妙な事に、あなたはこのヘヴルとそっくりな栄養剤を、お持ちになられています」

「いや……そもそも、あなたの持つ栄養剤は、本当に栄養剤なんですか?」
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/26(金) 19:30:34.74 ID:r6in7ffD0
時田教頭「え、栄養剤に決まってるじゃありませんか!変な言いがかりは、止めて下さい!」

冠城「じゃあ、その栄養剤…見せてくれませんか?」

「今も持ってるんでしょ?」

時田教頭「え…?」


冠城の提案に、時田教頭は一瞬固まってしまった。

そして、躊躇するような素振りも見せ始める。


冠城「どうしたんですか?」

伊丹「持ってるもん出せって言ってんのに、なんで出さねぇんだ?」

芹沢「警察に調べられたら、困る事でもあるんですか?」

時田教頭「い、いえ……」

右京「じゃあ、お出ししてくれますね?」


そこまで言われ、見せないのはさすがに拙いと感じた時田教頭は、
渋々ながら、懐から例の錠剤を入りの薬瓶を出し、冠城に渡した。

渡されて早々、冠城は瓶の蓋を開けて、錠剤の匂いを嗅いだ。
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/26(金) 19:31:36.56 ID:r6in7ffD0
冠城「間違いありません。課長達が押収した麻薬と、同じ匂いです」

角田課長「これで確定だなあ」

右京「しかし、これだけではないはずです。恐らく、複数買って自宅に保管している事でしょう」

角田課長「よし!大木、他の連中連れて、コイツの自宅洗ってこい」

大木「分かりました」

時田教頭「家も調べるんですか?!」

大木「すみません、捜査令状も出てますんで……」


そう言って令状を時田教頭に見せると、大木は足早に店を出て行った。

それを見て時田教頭は、ヘヴルの事を黙っているのは無駄だと悟った。
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/26(金) 19:32:46.90 ID:r6in7ffD0
時田教頭「まさか、あの人達が捕まってたなんて……」

角田課長「残念だったな。根気強く聞き続けてみたら連中、アンタのこと全部白状しちまったからな」

右京「一昨日会った時から、あなたの手の震えや手の甲の傷が気になっていましてね……」

「単なる栄養失調ならば、手が痙攣する事はあり得ませんし、包丁で誤って切ったのなら、絆創膏で済む様な細かな傷にはならないはずです」

「しかし、ヘヴルが切れた時に起こる症状を課長から聞かされ、この疑問は一気に氷解しましたよ」

冠城「大方、ヘヴルが切れて痒みが走ったんで、掻きむしったんでしょう?その手の甲……」

時田教頭「……」

右京「それと、もう一度言いますが……」

「あなたが犯した罪は、これだけではありません」

「あなたは、1人の人間を殺害し、1人の人間に濡れ衣を着せようとました」

「言うまでもなく、吉田先生と手塚先生です」

時田教頭「ち、違います!何で私が、そんなこと……」
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/26(金) 19:33:39.31 ID:r6in7ffD0
右京「いいえ……あなたには、吉田先生を殺害し、手塚先生をスケープゴートにする充分な動機があります」

「あなたは、言っていましたよね?『手塚先生の事件が原因で、お兄様が精神を病んだ』と……」

「こんな事があったならば、あなたは手塚先生に良い感情を持っていなかったはずです」

「彼をスケープゴートに指定したのは、お兄様に対する復讐だったと考えたら合点がいきます」

時田教頭「じゃあ、吉田先生は?吉田先生は、普通の人ですよ?わざわざ殺す必要なんか……」

右京「それがあなたにはあったんですよ。吉田先生を殺す必要が……」

時田教頭「ど、どういう意味ですか?」

右京「あなたが何故、吉田先生を殺さなくてはならなくなったのか」

「それは…あなたが麻薬に手を染めていた事が、関係しています」


それから右京は、一呼吸置いて自身の推理を語り始めた。
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/26(金) 19:34:43.97 ID:r6in7ffD0
右京「まず、あなたがヘヴルを使うようになった経緯から説明しなければなりません」

「あなたがヘヴルを使うようになったのは、今年に入ってからです」

「そうなった原因は、手塚先生にありました」

「あなたは、自分のお兄様を精神的に追い詰める原因を作った彼が、まともな人間として生きているのが許せず、この3年間、大きな苛立ちを感じていた」

「そんなあなたの前に現れたのが、このバーをアジトにしていた密売グループでした」

「彼らから提供されたヘヴルの効果に酔いしれたあなたは、次第にヘヴルにのめり込んでいった……」

時田教頭「……」

右京「しかし、そこまでして何の変化がないはずがありません。学校職員の中にも、その事に気付いた者も数名いたはずです」

「その気付いた者の中に、吉田先生が含まれていたとしたら?」

「そう考えると、話しは簡単なんですよ」


そこまで言って右京は、教頭の方を向き直してこう続けた。
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/26(金) 19:35:37.30 ID:r6in7ffD0



右京「教頭先生…あなた、吉田先生に麻薬をネタに、脅されたんじゃありませんか?」


140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/26(金) 19:36:26.52 ID:r6in7ffD0
時田教頭「……!」

右京「恐らく、吉田先生はあなたからお金を強請り取ろうと考えたのでしょう」

冠城「彼は、期限までに奥様の借金を返済できない事で悩んでいました」

「あなたから金を取る動機は、充分あったと言えます」

右京「吉田先生の奥様は、彼がもうすぐお金を返せるようになると話していた事があったことを、証言してくれました」

「この事からも、あなたから強請り取ったお金を、返済に当てようとしていたのが分かります」

「しかし、吉田先生からヘヴル常用の情報が漏れる事を恐れたあなたは、彼を殺害して口を封じようと考えました」

「そこで、前日のトラブルと手塚先生の前科を、今回の事件に利用しようと考えたのです」

「その為にあなたは、密売グループにその話を持ちかけた」

角田課長「連中、目を付けた客には決まって、『困った時はどんな相談にも乗る』って言ってたそうだぜ?」
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/26(金) 19:40:17.29 ID:r6in7ffD0
右京「彼らの協力を得たあなたは、現場を偽装する準備の為、密売グループに佐々木の居場所を探らせた」

「一方あなたは、前日の出来事の話がしたいと言って手塚先生を呼び出し、彼が自分の机から離れるよう仕向けた」

「その間に、人目を盗んで彼の手帳を盗み出し、結局何の話もなかったと言って、その場を丸く収めた」

「そして、手塚先生の手帳を彼らに渡した」

時田教頭「……」

右京「その後、密売グループは佐々木を発見し、彼を殺害」

「殺害後、遺体を寝床に移し、遺体の側に手帳を置いてボウガンを持ち去った」

「わざわざ佐々木の遺体を寝床に運び込む必要があったのは、手帳を無傷な状態で警察に発見させる必要があったからです」

「佐々木が殺された当時、雨が降っていました」

「万が一、雨で濡れてしまえば、手帳が手塚先生のものである証拠が消えてしまう恐れがあったからでしょう」

「佐々木を殺害後、密売グループはあなたにボウガンを渡し、翌日には電話ボックスから通報を入れた」

「姿が割れないよう、付近の防犯カメラを仲間に破壊させた上で……」

時田教頭「………」
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/26(金) 19:40:57.90 ID:r6in7ffD0
右京「準備が整ったあなたは、翌日に犯行を実行に移す事にしました」

「まず最初に姿が映らぬよう、グループの仲間に監視カメラの破壊をさせ……」

「あなたは『訳あって直接渡せないからお金だけ置いておく』と言って、吉田先生があの公園に行くよう仕向け、自身は公園内のトイレに身を潜めた」

「そして深夜1時……呼び出された吉田先生がやって来て、あなたが置いたお金の封筒に気を取られている隙に、あなたはトイレから姿を現し、心臓目がけて矢を放った」

「吉田先生が死んだのを確認するとお金を回収し、電話で呼び出した手塚先生の為に指紋を拭き取ったうえでボウガンを残して公園を去った……」

冠城「ちなみに、今回摘発されたグループのメンバーですが…」

「数十年前に世間を騒がせたテロ組織、『赤いカナリア』にかつて所属していた人物が大多数を占めていました」

「かつてテロ組織に所属していた人間なら、姿を見せないまま監視カメラを破壊したり…」

「抵抗する暇も与えないまま、佐々木を一瞬で殺害する事も造作もない事です」

「もっとも、味も匂いも甘い麻薬まで作れるなんて、さすがに意外でしたが……」

角田課長「まあ、発毛剤そっくりな踊りが止まらなくなる薬とか作ったりしてた、変な連中でもあったからな」
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/26(金) 19:42:55.77 ID:r6in7ffD0

右京「何はともあれ…以上が、今回の事件の真相ですよ」


それを聞いた時田教頭の表情は真っ青であったが、すぐに……


時田教頭「なんとも、良くできた話ですね……」

「小説家にでも、なったらどうですか?」


と言って、シラを切った。
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/26(金) 19:44:03.19 ID:r6in7ffD0
角田課長「おいおい…さっき言った事忘れたか?」

「密売グループは今回の事、全部白状したってのによ」

時田教頭「けど…証拠は?私が手塚先生の手帳を盗んだり、吉田先生を殺した物的証拠はあるんですか?」

冠城「それが、ここにあるんですね」


そう言って冠城は、髪の毛が入った証拠品袋を出した。


時田教頭「それは…?」

冠城「昨日採取した、あなたの髪の毛です」

「俺は、この髪の毛を調べてもらうよう、伊丹さん達にお願いしました」

伊丹「そしたら、奇妙な事が分かったんだよ」


冠城が昨日教頭にした事を回想しながら話した後、伊丹も髪の毛が入った証拠品袋を2つ取り出した。
145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/26(金) 19:45:35.85 ID:r6in7ffD0
伊丹「コレは、今回の事件で採取された髪の毛だ」

「右が吉田先生殺害現場の公園のトイレや出入り口から……」

「左が手塚守の手帳に挟まっていたものだ」

右京「そしてこちらは、ここから見付かった髪の毛です」


続いて右京も、同じような証拠品袋を取り出して教頭に見せる。


伊丹「昨日、冠城が持ってきたアンタの髪の毛と…」

「現場や手帳、そしてこっからから出てきた髪の毛のDNAが、アンタのものと一致したんだよ」

「しかもどれも、陽性反応まで出てる」

冠城「つまりこれって、あなたが手塚先生の手帳に触れたり、事件現場やこのバーに行った事があるということですよね?」

時田教頭「そ、それは……」
146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/26(金) 19:46:58.87 ID:r6in7ffD0
右京「確かヘヴルを常用していると、副作用で頻繁に毛髪が抜けるそうですねぇ…角田課長?」

角田課長「あぁ、そうだ。酷い時は、一瞬で禿げ頭になっちまう事もある」

伊丹「それだけじゃねぇぞ」

「アンタん家の近所で聞き込んでみたら、事件のあった晩、お向かいさんがアンタが家を出るところを偶然見たと証言してくれたんだ」

芹沢「さっき、本人にあなたの姿を見せて確認取ったので、間違いありませんよ」


一課の2人は、先程向かいの家から特命係に連れられる時田教頭の姿を見せながら、
吉田殺害の晩の出来事を住民から聞いた時の様子を回想した。


伊丹「教頭先生…アンタ、吉田先生が殺された晩、何処行ってた?」

芹沢「黙っててもしょうがないですよ?」

時田教頭「……」


捜査一課に聞かれる時田教頭。

いや、彼らだけでなく、特命係の2人も組対の2人も、
無言の圧力と言わんばかりに時田教頭を見た。

もはや時田教頭が、事件のことを黙っていられるのは不可能であった。
147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/26(金) 19:49:21.18 ID:r6in7ffD0

時田教頭「まさか…たかが、髪の毛だけで……」

右京「それだけではありませんよ」

「僕は、最初からあなたに目星を付けていました」

「一昨日、あなたはこう言っていましたね?」
148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/26(金) 19:49:52.84 ID:r6in7ffD0


『平良先生に引き続き、今度は吉田先生が、あのボウガンで殺されるなんて……16年前と全く同じです』

149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/26(金) 19:50:56.96 ID:r6in7ffD0
右京「僕達が学校を訪れた時点で、凶器のボウガンが佐々木のものである事は不明だったはずです」

「なのにあなたは、まるで16年前の事件と同じボウガンが犯行に使われたのを、知っているかのような口振りでした」

「それが、非常に気になったんですよ……」

時田教頭「……」


たったこれだけで、目を付けられていたなんて……

右京の視野の広さに、ただ驚く事しかできなかった。


時田教頭「とんでもない人ですよ……手塚先生の罪を見抜いたのも納得です」

右京「認めるんですね?」
150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/26(金) 19:53:32.37 ID:r6in7ffD0
時田教頭「はい……全部、あなたが話した通りですよ」

「何処から掴んだのか…吉田は私がヘヴルを持っている事を突き止めて、『1500億円出さないと、その事をみんなにバラす』と言って脅してきたんです」

「私はバレるのが怖くて、吉田の口を封じる事にしました」

「もちろん、それだけじゃないですよ。他の教員達も、最近私の事を色々と噂していましたからね……」

「彼を殺せば、みんな黙ると思ったんです」

「だから私は手塚先生を罠にはめようと、ろくでなしを襲ってボウガンを持ってくるよう、あの人達に頼んだんです」

冠城「しかし…あなたが常用していた薬の副作用が、あなたの首を絞めてしまった」

「何とも皮肉ですね」

時田教頭「まったくです…こんな間抜けな事ってないですよ」

右京「間抜けですか……」

伊丹「学校の教頭でありながら、麻薬をやってたのにか?」
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/26(金) 19:54:31.01 ID:r6in7ffD0
時田教頭「警察官であるあなた方からしてみたら、馬鹿な事したと思うかもしれません」

「けど……けど、自分の身内を不幸にした原因を作った奴が、普通の人間のようにのうのうと働いてる姿を見てると、本当にむかっ腹が立つものなんです」

「私達は、確かに平良先生の悪行を見て見ぬふりをしてきました」

「けど、それは仕方がなかった……あの人を怒らせたら、どんな目に遭うか、分かったものじゃなかった」

「悪いのは、あの人とあの人を殺した手塚先生なのに……なんで、私達が非難されなければならなかったんですか?」

「学校もよく、あの人を採用したもんですよ。あれだけ我々を苦しめる原因を作ったというのに……!」

右京「……」


手塚らへの不満をもらしだす時田教頭。

6人の警察官は黙って聞いていたが、特に納得も否定もするような表情は見せていない。
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/26(金) 20:01:50.21 ID:r6in7ffD0
右京「確かに、あなたには手塚先生に対して色々と複雑な感情はあったと思います。しかし……」

「あなたは、一校の教頭でありながら、超えてはならない一線を超え、己の罪から逃れるために1人の人間の命を奪い、そして…」

「更生した人間の尊厳を傷つけたのもまた、事実です」

「きっかけがどうであれ、決して許される行いではありませんよ」

冠城「それに、このまま行ってたら、あなたは命すら失っていましたよ?」

時田教頭「薬のせいでですか?」

冠城「いえ…もっと別な原因でですよ」


冠城の返事に時田教頭は「え…?」と言って首を傾げる。

そんな彼に説明するように、右京らはある事実を伝えた。
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/26(金) 20:04:48.46 ID:r6in7ffD0
右京「確かに、あなたには手塚先生に対して色々と複雑な感情はあったと思います。しかし……」

「あなたは、一校の教頭でありながら、超えてはならない一線を超え、己の罪から逃れるために1人の人間の命を奪い、そして…」

「更生した人間の尊厳を傷つけたのもまた、事実です」

「きっかけがどうであれ、決して許される行いではありませんよ」

冠城「それに、このまま行ってたら、あなたは命すら失っていましたよ?」

時田教頭「薬のせいでですか?」

冠城「いえ…もっと別な原因でですよ」


冠城の返事に時田教頭は「え…?」と言って首を傾げる。

そんな彼に説明するように、右京らはある事実を伝えた。
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