他の閲覧方法【
専用ブラウザ
ガラケー版リーダー
スマホ版リーダー
BBS2ch
DAT
】
↓
VIP Service
SS速報VIP
更新
検索
全部
最新50
相棒「目撃者・後日談 〜16年ぶりの再会〜」
Check
Tweet
111 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/23(火) 11:41:12.87 ID:v13ERt4d0
冠城「正直、あっさりと取れて、ちょっと驚いています」
「……いや、むしろ必然か」
「もしも、この毛髪が現場の毛髪と一致すれば、教頭先生は違法薬物に手を染めていた事になる」
「薬物の中には、副作用で毛が抜けるものも少なくないんですよね?」
右京「えぇ、もちろんです」
冠城「だとしたら、一番考えられるのは、あの錠剤……」
「本人は、栄養剤と言っていましたが、あれが麻薬の類である可能性は非常に高い」
「ヤクザの友達がいるという噂の件も合わせると、犯罪の世界の人間とも繋がっていた可能性すらある」
右京「そう考えれば、防犯カメラの破壊や佐々木が一瞬で殺害された件も、それで説明がつきます」
112 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/23(火) 11:41:47.03 ID:v13ERt4d0
冠城「じゃあこの髪の毛、益子さんの所に持っていって、組対にも知らせます?」
右京「えぇ…恐らく課長も、あの髪の毛の持ち主を知りたがっている事でしょう」
冠城「ではさっさと戻りましょう…と、言いたいところですが……」
右京「何ですか?」
冠城「その前に、少し腹ごしらえしませんか?」
冠城の提案を聞いた右京は、「そう言えば、もうお昼ですねぇ……」
と言いながら自分の腕時計の示す時間を確認する。
冠城「じゃあ、この近くにマイナーな名店がありますから、そこに行きましょう」
右京「確かに、この近辺にはそのようなお店がありましたねぇ……」
冠城「えぇ、わさびたっぷりのお茶漬けも売ってるそうですよ」
こうして2人は、昼食をとるべくマイナーな名店に向かったのだが……
113 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/23(火) 11:42:22.73 ID:v13ERt4d0
ガッシャ―――ン!!
114 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/23(火) 11:42:54.66 ID:v13ERt4d0
その道中の途中にあるバーから、突如大きな物音がしたかと思えば、1人の黒い服を着た男が飛び出してくる。
角田課長「おい待て!」
そして、それに続いて組対の角田課長を始め、部下の『大木長十郎』と『小松真琴』が店から出てくる。
組対とそれから逃げる男……
目の前の光景を目の当たりにした特命係の2人は、すぐさま状況を把握した。
115 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/23(火) 11:43:26.45 ID:v13ERt4d0
右京「どちらへ行くおつもりですか?」
冠城「警察の人がご用みたいですけど?」
そう言って男の前に立ちはだかる特命係の2人。
前には特命、後ろには組対。
二組の警察官に挟まれ、男は逃げ道を失い、しばらく両者の様子を確認。
そして、一番年を食ってて倒しやすそうだと思ったのか、右京に突撃する。
だがこの杉下右京、こう見えて格闘戦は大得意であり、互角の取っ組み合いになる。
116 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/23(火) 11:45:03.49 ID:v13ERt4d0
コロコロ.....
その最中、男の懐から瓶が1つ、こぼれ落ちる。
一方、右京と男の取っ組み合いに冠城も参戦。
これを好機と言わんばかりに、組対の3人もやってきて、
男は瞬く間に取り押さえられ、手錠をかけられたのだった。
大木「よし!」
小松「確保完了」
角田課長「たく…手こずらせやがってよ!」
「あんがとな……後ちょっとで取り逃がすところだったぜ」
右京「礼には及びませんよ」
冠城「それにしても、こんな所でガサ入れですか?」
角田課長「例の『新型の麻薬』売りさばいてる密売グループらしき連中が、昨日からこのバーをアジトにしてるって情報掴んでよ…」
「朝からずっと張ってたんだ」
冠城「新型の麻薬?」
117 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/23(火) 11:45:43.58 ID:v13ERt4d0
角田課長「俺達が前々から追ってた連中だ」
「アンタらももう知ってるだろうけど、例の陽性反応の出た髪の毛あっただろ?」
「そいつの持ち主を探してたら、ここ最近世田谷区で怪しい動きみせてる連中がいる事が分かったんだ」
「その連中がコイツらだったって訳だよ」
右京「……」
課長の話しを聞き、右京は地面を確認してみると、
先程の取っ組み合いで男が落とした瓶が目に留まり、それを拾う。
その瓶には、見覚えのあるラベルが貼ってあり、中には見覚えのある錠剤が入っている。
ラベルを見た右京は、蓋を開けて中の匂いを嗅いでみる。
その傍ら、角田課長は「それよりお前さんら、ここで何やってんだ」と問い掛ける。
冠城「ちょっと腹ごしらえをしに行く途中だったもので……」
右京「ところで…その新型の麻薬と言うのは、『コレ』の事ですか?」
そう言って右京は、今拾った錠剤入りの瓶を見せた。
118 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/23(火) 11:47:04.90 ID:v13ERt4d0
角田課長「あ…それそれ!」
右京「なるほど……では冠城君、少し匂いを嗅いでみて下さい」
冠城「え…?」
「匂いを嗅げって……コレの?」
右京「他に何があるんですか?」
冠城「わ、分かりました」
突拍子のない上司の指示に少し困惑しつつ、
冠城は蓋の開けられたところから、中の錠剤の匂いを嗅いだ。
角田課長「あー、おいおい!何やってんだよ」
特命係の2人の行動を前に、慌てる角田課長。
一方、麻薬の匂いを嗅いだ冠城は、ピンときたような素振りを見せた後、再度麻薬の匂いを念入りに嗅いだ。
119 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/23(火) 11:47:37.29 ID:v13ERt4d0
右京「どうですか?」
冠城「コレだ…!コレですよ、昨日俺が嗅いだ匂い!」
右京「やはりそうでしたか」
冠城「右京さん、どうやら……」
右京「薬の事を調べ回る手間が、省けたかもしれません」
角田課長「え?お、おい……何、勝手に納得し合ってんだ?」
右京「角田課長、この麻薬はどういうものなのでしょうか?」
角田課長「コイツ?それはよ……」
角田課長は、右京の持つ麻薬の詳細を説明した。
120 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/23(火) 11:48:11.43 ID:v13ERt4d0
右京「なるほど、そういうものでしたか……」
冠城「これで繋がりましたね」
角田課長「繋がったって?何がよ……」
右京「僕達も、陽性反応の出た髪の毛の持ち主を探していたのですが……」
冠城「実は、それらしき人物に心当たりがあるんですよね」
角田課長「それは本当か!?」
冠城「えぇ…今、その人のものと思しき髪の毛も採取しました」
「それで丁度、お昼を食べてから益子さんに預けて、あなた達にその事を知らせようと思っていたところなんです」
右京「しかしどうやら、その手間も省けたようですね」
角田課長「そうだったのか!そういう事なら、協力してやってもいいぜ」
「んで、何したらいい?」
右京「とりあえず、摘発したグループを警視庁に連れていきましょう。話しはそれからです」
こうして特命係の2人は、組対五課と共に麻薬の密売グループを連行した。
今この瞬間……事件は、終焉へと進み始めた。
121 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/23(火) 11:53:57.21 ID:v13ERt4d0
〜補足〜
栄中央署の輿水聖治警部・・・オリキャラではありません。
S1第5話の序盤で、イタミンに「あの人達(特命係の2人)何者なんですか?」と聞いて、
イタミンに凄まれてしまったちょっと可哀想な所轄の刑事さんだった人です。
確認してみたら名無しだったので、今回名前を付けてあげました。
名前の元ネタは、S1第5話の脚本を担当した輿水泰弘さんと、同話の監督の和泉聖治さんから。
どちらも、昔から相棒を支えてくれた方ですね。
ただ、警部に昇進したって設定は要らなかったかな……とか思っていたりします。
なお、イタミンの「何で、アイツの襲撃現場にアンタの手帳が落ちてたんだ?」〜「ここまで決定的な証拠はねぇよな?」
右京さんの「…どうしてあなたは、証拠を残した上で犯行に及んだのですか?」〜「ここまで証拠を残したのは、何故ですか?」
あたりのくだりは、S1第5話でのろくでなしに対する台詞を踏襲したものです。
輿水警部の「とくめい」のネタも、同エピソードで出ていたものであります。
ちなみに、本作のろくでなしなんですが、当初重傷を負って病院送りにする予定でしたが、
それだと後で疑問が出てくる展開となってしまうので、勝手ながら死んでもらう運びになりました。
なんか、ごめんなさい……
122 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/23(火) 11:56:53.41 ID:v13ERt4d0
今日はここまでです。
実は、今回のパート、どうにも納得できない内容だったので、丸っと書き直したんですよね。
本作を投下するのがこの時期になったのは、これが原因だったりします。
何はともあれ、次回で真相が全て判明し、おしまいとなります。
123 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/04/26(金) 19:11:08.34 ID:r6in7ffD0
続きです。
本日の更新で完結となります。
124 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 19:13:58.86 ID:r6in7ffD0
―翌日―
時田教頭は学校へ出勤すべく、家から出てきたのだが……
時田教頭「あ…」
右京「どうも…」
冠城「おはようございます」
彼の前に特命係の2人が待ち構えていた。
125 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 19:16:10.01 ID:r6in7ffD0
時田教頭「こ、こんな朝早くなんですか…?」
右京「実は…昨日の事でお詫びしたいことがありましてねぇ…」
時田教頭「お詫び…?」
右京「こちらにいる部下の者が、あなたに無礼を働いてしまったようでしてね……」
「その事を謝罪しに参りました」
冠城「昨日は、急に頭を叩いたりして、申し訳ありませんでした……」
と言って、冠城は深々と頭を下げ、右京も一緒に頭を下げた。
右京「僕の目の届かない所だと、好き勝手な事をしてしまうものでしてねぇ…」
「後でまた、きつく言って聞かせますので……」
時田教頭「いえ…あなた方が謝る必要なんかありませんよ。気にしていませんので」
冠城「本当ですか?」
時田教頭「えぇ…」
冠城「そう言って頂けると、大分気が楽です」
右京「君、調子に乗らないで下さいよ?」
冠城「調子になんか乗ってませんって……」
時田教頭「あ、あの…そろそろ、仕事に行かないといけませんので……」
そう言って、学校に行こうとする時田教頭であったが、
右京は「待って下さい」と言って引き止めた。
126 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 19:16:41.57 ID:r6in7ffD0
右京「実は、話しはこれだけではないんです」
時田教頭「と、言いますと?」
右京「ここでは何ですので、場所を移しましょう」
時田教頭「し、しかし…」
冠城「大丈夫です。学校へ遅刻なんて事はさせませんから」
時田教頭「は、はい…」
言われるがまま特命係の2人に着いて行く時田教頭。
その様子を、向かいの家の中から覗く人物が2人いると知らないまま……
127 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 19:17:34.92 ID:r6in7ffD0
数分後……
教頭は特命係の2人に案内され、寂れた街路地に足を踏み入れた。
時田教頭「あ、あの……何処まで行くんですか?
冠城「……」
右京「……着きました」
時田教頭「!!!!」
そして、案内された末に辿り着いたのは、
昨日、組対五課が摘発した麻薬の密売グループがアジトに使っていた、寂れたバーであった。
その店が目に入った瞬間、教頭は驚愕した。
128 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 19:18:52.21 ID:r6in7ffD0
冠城「知ってるお店ですか?」
冠城の問いに、時田教頭は「い、いえ……」と言葉を濁しつつ、
「そ、それより、こんなお店連れてきて、いったい何があるというのですか?」と聞き返した。
右京「実は、あなたに会いたがっている方達がいましてねぇ……」
「お店の中で待ってもらっているんですよ」
時田教頭「わ、私に…?」
右京「えぇ…」
冠城「そういう訳ですから、さっさと中に入りましょう」
時田教頭「……」
こうして、店の中に入った3人。
すると、店の中には3人の男が待ち構えていた。
組対五課の角田課長と大木と小松である。
129 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 19:22:51.66 ID:r6in7ffD0
角田課長「やっと来たか…待ちくたびれたぜ」
右京「お待たせして、すみませんね」
冠城「けど、安心して下さい。この通り、しっかりお連れしましたので…」
時田教頭「あ…あなた達は?」
角田課長「紹介が遅れたな…俺達も、警察だ」
そう言って角田課長と小松は、警察手帳を教頭に見せた。
角田課長「アンタが、栄第三小学校教頭の時田正敏だな?」
時田教頭「そ…そうですが?」
角田課長「じゃ、早速で申し訳ないけどよ…」
「詳しい話し、聞かせてくんねぇか?」
時田教頭「お、お話って…?」
角田課長「だから、俺達が追ってる事件に関してだよ」
時田教頭「あなた方が追ってる事件?な、何を言って……」
角田課長「おいおい、とぼけんじゃねぇよ…」
小松「時田正敏さん…あなたに、違法薬物所持及び常用の容疑が掛かってるんですよ」
時田教頭「!!」
130 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 19:24:33.18 ID:r6in7ffD0
伊丹「それだけじゃねぇぞ」
ここで入口から、芹沢を連れた伊丹がやってきてこう続けた。
伊丹「殺人の容疑もだ」
時田教頭「い、違法薬物…?殺人…?な、何を言ってるんですか?」
右京「今、彼らが言った通りですよ。何故なら教頭先生……」
131 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 19:25:08.70 ID:r6in7ffD0
「あなたが、この一連の事件を仕組んだ犯人なのですから」
132 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 19:25:58.03 ID:r6in7ffD0
指を差して、右京はそう言い切った。
これに、時田教頭は「…わ、私がですか?」と動揺の色を見せた。
右京「他に誰がいるのですか?」
時田教頭「ま、待って下さいよ。本当に、何がなんだか……」
角田課長「じゃあ…これは何だ?」
時田教頭「!!」
と言いながら小松に証拠品袋に入った、
昨日の密売グループが持っていた錠剤入りの瓶を見せさせる。
その瓶には、時田教頭が服用していた錠剤の瓶と同じラベルが貼ってあった。
角田課長「ここをアジトにしていた麻薬の密売グループ…昨日そいつらを、俺達は摘発した」
「この薬は、その摘発したグループから押収した、『ヘヴル』っていう麻薬だ」
時田教頭「へ、ヘヴル……」
133 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 19:27:59.27 ID:r6in7ffD0
角田課長「服用すれば、ストレスを大幅軽減し、集中力が向上する効果がある新型の麻薬だよ」
「効果ゆえに、日頃から鬱憤が溜まっている奴が買い求めるが……」
「この薬の恐ろしいところは、効き目が切れた時だ」
「コイツは効き目が切れると、薬で押さえられていたストレスが一気に湧き出てきて神経に異常をきたし、体が震えたり、痒みや痛みが起きたと錯覚したりしてしまう」
「その苦しみから逃れるため、服用者は薬を手放すことができなくなり、無くなればまた買わされる……」
「まさに、『ヘヴン(天国)』と『ヘル(地獄)』を味わされる悪魔の薬だよ。コイツのせいで、自ら命を絶った人間も出ている」
「しかも怪しまれないようにしながら、何処ででも服用できるように、栄養剤のラベルで偽装してラムネみたいな甘い味がするというおまけつきだ」
右京「そして奇妙な事に、あなたはこのヘヴルとそっくりな栄養剤を、お持ちになられています」
「いや……そもそも、あなたの持つ栄養剤は、本当に栄養剤なんですか?」
134 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 19:30:34.74 ID:r6in7ffD0
時田教頭「え、栄養剤に決まってるじゃありませんか!変な言いがかりは、止めて下さい!」
冠城「じゃあ、その栄養剤…見せてくれませんか?」
「今も持ってるんでしょ?」
時田教頭「え…?」
冠城の提案に、時田教頭は一瞬固まってしまった。
そして、躊躇するような素振りも見せ始める。
冠城「どうしたんですか?」
伊丹「持ってるもん出せって言ってんのに、なんで出さねぇんだ?」
芹沢「警察に調べられたら、困る事でもあるんですか?」
時田教頭「い、いえ……」
右京「じゃあ、お出ししてくれますね?」
そこまで言われ、見せないのはさすがに拙いと感じた時田教頭は、
渋々ながら、懐から例の錠剤を入りの薬瓶を出し、冠城に渡した。
渡されて早々、冠城は瓶の蓋を開けて、錠剤の匂いを嗅いだ。
135 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 19:31:36.56 ID:r6in7ffD0
冠城「間違いありません。課長達が押収した麻薬と、同じ匂いです」
角田課長「これで確定だなあ」
右京「しかし、これだけではないはずです。恐らく、複数買って自宅に保管している事でしょう」
角田課長「よし!大木、他の連中連れて、コイツの自宅洗ってこい」
大木「分かりました」
時田教頭「家も調べるんですか?!」
大木「すみません、捜査令状も出てますんで……」
そう言って令状を時田教頭に見せると、大木は足早に店を出て行った。
それを見て時田教頭は、ヘヴルの事を黙っているのは無駄だと悟った。
136 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 19:32:46.90 ID:r6in7ffD0
時田教頭「まさか、あの人達が捕まってたなんて……」
角田課長「残念だったな。根気強く聞き続けてみたら連中、アンタのこと全部白状しちまったからな」
右京「一昨日会った時から、あなたの手の震えや手の甲の傷が気になっていましてね……」
「単なる栄養失調ならば、手が痙攣する事はあり得ませんし、包丁で誤って切ったのなら、絆創膏で済む様な細かな傷にはならないはずです」
「しかし、ヘヴルが切れた時に起こる症状を課長から聞かされ、この疑問は一気に氷解しましたよ」
冠城「大方、ヘヴルが切れて痒みが走ったんで、掻きむしったんでしょう?その手の甲……」
時田教頭「……」
右京「それと、もう一度言いますが……」
「あなたが犯した罪は、これだけではありません」
「あなたは、1人の人間を殺害し、1人の人間に濡れ衣を着せようとました」
「言うまでもなく、吉田先生と手塚先生です」
時田教頭「ち、違います!何で私が、そんなこと……」
137 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 19:33:39.31 ID:r6in7ffD0
右京「いいえ……あなたには、吉田先生を殺害し、手塚先生をスケープゴートにする充分な動機があります」
「あなたは、言っていましたよね?『手塚先生の事件が原因で、お兄様が精神を病んだ』と……」
「こんな事があったならば、あなたは手塚先生に良い感情を持っていなかったはずです」
「彼をスケープゴートに指定したのは、お兄様に対する復讐だったと考えたら合点がいきます」
時田教頭「じゃあ、吉田先生は?吉田先生は、普通の人ですよ?わざわざ殺す必要なんか……」
右京「それがあなたにはあったんですよ。吉田先生を殺す必要が……」
時田教頭「ど、どういう意味ですか?」
右京「あなたが何故、吉田先生を殺さなくてはならなくなったのか」
「それは…あなたが麻薬に手を染めていた事が、関係しています」
それから右京は、一呼吸置いて自身の推理を語り始めた。
138 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 19:34:43.97 ID:r6in7ffD0
右京「まず、あなたがヘヴルを使うようになった経緯から説明しなければなりません」
「あなたがヘヴルを使うようになったのは、今年に入ってからです」
「そうなった原因は、手塚先生にありました」
「あなたは、自分のお兄様を精神的に追い詰める原因を作った彼が、まともな人間として生きているのが許せず、この3年間、大きな苛立ちを感じていた」
「そんなあなたの前に現れたのが、このバーをアジトにしていた密売グループでした」
「彼らから提供されたヘヴルの効果に酔いしれたあなたは、次第にヘヴルにのめり込んでいった……」
時田教頭「……」
右京「しかし、そこまでして何の変化がないはずがありません。学校職員の中にも、その事に気付いた者も数名いたはずです」
「その気付いた者の中に、吉田先生が含まれていたとしたら?」
「そう考えると、話しは簡単なんですよ」
そこまで言って右京は、教頭の方を向き直してこう続けた。
139 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 19:35:37.30 ID:r6in7ffD0
右京「教頭先生…あなた、吉田先生に麻薬をネタに、脅されたんじゃありませんか?」
140 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 19:36:26.52 ID:r6in7ffD0
時田教頭「……!」
右京「恐らく、吉田先生はあなたからお金を強請り取ろうと考えたのでしょう」
冠城「彼は、期限までに奥様の借金を返済できない事で悩んでいました」
「あなたから金を取る動機は、充分あったと言えます」
右京「吉田先生の奥様は、彼がもうすぐお金を返せるようになると話していた事があったことを、証言してくれました」
「この事からも、あなたから強請り取ったお金を、返済に当てようとしていたのが分かります」
「しかし、吉田先生からヘヴル常用の情報が漏れる事を恐れたあなたは、彼を殺害して口を封じようと考えました」
「そこで、前日のトラブルと手塚先生の前科を、今回の事件に利用しようと考えたのです」
「その為にあなたは、密売グループにその話を持ちかけた」
角田課長「連中、目を付けた客には決まって、『困った時はどんな相談にも乗る』って言ってたそうだぜ?」
141 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 19:40:17.29 ID:r6in7ffD0
右京「彼らの協力を得たあなたは、現場を偽装する準備の為、密売グループに佐々木の居場所を探らせた」
「一方あなたは、前日の出来事の話がしたいと言って手塚先生を呼び出し、彼が自分の机から離れるよう仕向けた」
「その間に、人目を盗んで彼の手帳を盗み出し、結局何の話もなかったと言って、その場を丸く収めた」
「そして、手塚先生の手帳を彼らに渡した」
時田教頭「……」
右京「その後、密売グループは佐々木を発見し、彼を殺害」
「殺害後、遺体を寝床に移し、遺体の側に手帳を置いてボウガンを持ち去った」
「わざわざ佐々木の遺体を寝床に運び込む必要があったのは、手帳を無傷な状態で警察に発見させる必要があったからです」
「佐々木が殺された当時、雨が降っていました」
「万が一、雨で濡れてしまえば、手帳が手塚先生のものである証拠が消えてしまう恐れがあったからでしょう」
「佐々木を殺害後、密売グループはあなたにボウガンを渡し、翌日には電話ボックスから通報を入れた」
「姿が割れないよう、付近の防犯カメラを仲間に破壊させた上で……」
時田教頭「………」
142 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 19:40:57.90 ID:r6in7ffD0
右京「準備が整ったあなたは、翌日に犯行を実行に移す事にしました」
「まず最初に姿が映らぬよう、グループの仲間に監視カメラの破壊をさせ……」
「あなたは『訳あって直接渡せないからお金だけ置いておく』と言って、吉田先生があの公園に行くよう仕向け、自身は公園内のトイレに身を潜めた」
「そして深夜1時……呼び出された吉田先生がやって来て、あなたが置いたお金の封筒に気を取られている隙に、あなたはトイレから姿を現し、心臓目がけて矢を放った」
「吉田先生が死んだのを確認するとお金を回収し、電話で呼び出した手塚先生の為に指紋を拭き取ったうえでボウガンを残して公園を去った……」
冠城「ちなみに、今回摘発されたグループのメンバーですが…」
「数十年前に世間を騒がせたテロ組織、『赤いカナリア』にかつて所属していた人物が大多数を占めていました」
「かつてテロ組織に所属していた人間なら、姿を見せないまま監視カメラを破壊したり…」
「抵抗する暇も与えないまま、佐々木を一瞬で殺害する事も造作もない事です」
「もっとも、味も匂いも甘い麻薬まで作れるなんて、さすがに意外でしたが……」
角田課長「まあ、発毛剤そっくりな踊りが止まらなくなる薬とか作ったりしてた、変な連中でもあったからな」
143 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 19:42:55.77 ID:r6in7ffD0
右京「何はともあれ…以上が、今回の事件の真相ですよ」
それを聞いた時田教頭の表情は真っ青であったが、すぐに……
時田教頭「なんとも、良くできた話ですね……」
「小説家にでも、なったらどうですか?」
と言って、シラを切った。
144 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 19:44:03.19 ID:r6in7ffD0
角田課長「おいおい…さっき言った事忘れたか?」
「密売グループは今回の事、全部白状したってのによ」
時田教頭「けど…証拠は?私が手塚先生の手帳を盗んだり、吉田先生を殺した物的証拠はあるんですか?」
冠城「それが、ここにあるんですね」
そう言って冠城は、髪の毛が入った証拠品袋を出した。
時田教頭「それは…?」
冠城「昨日採取した、あなたの髪の毛です」
「俺は、この髪の毛を調べてもらうよう、伊丹さん達にお願いしました」
伊丹「そしたら、奇妙な事が分かったんだよ」
冠城が昨日教頭にした事を回想しながら話した後、伊丹も髪の毛が入った証拠品袋を2つ取り出した。
145 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 19:45:35.85 ID:r6in7ffD0
伊丹「コレは、今回の事件で採取された髪の毛だ」
「右が吉田先生殺害現場の公園のトイレや出入り口から……」
「左が手塚守の手帳に挟まっていたものだ」
右京「そしてこちらは、ここから見付かった髪の毛です」
続いて右京も、同じような証拠品袋を取り出して教頭に見せる。
伊丹「昨日、冠城が持ってきたアンタの髪の毛と…」
「現場や手帳、そしてこっからから出てきた髪の毛のDNAが、アンタのものと一致したんだよ」
「しかもどれも、陽性反応まで出てる」
冠城「つまりこれって、あなたが手塚先生の手帳に触れたり、事件現場やこのバーに行った事があるということですよね?」
時田教頭「そ、それは……」
146 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 19:46:58.87 ID:r6in7ffD0
右京「確かヘヴルを常用していると、副作用で頻繁に毛髪が抜けるそうですねぇ…角田課長?」
角田課長「あぁ、そうだ。酷い時は、一瞬で禿げ頭になっちまう事もある」
伊丹「それだけじゃねぇぞ」
「アンタん家の近所で聞き込んでみたら、事件のあった晩、お向かいさんがアンタが家を出るところを偶然見たと証言してくれたんだ」
芹沢「さっき、本人にあなたの姿を見せて確認取ったので、間違いありませんよ」
一課の2人は、先程向かいの家から特命係に連れられる時田教頭の姿を見せながら、
吉田殺害の晩の出来事を住民から聞いた時の様子を回想した。
伊丹「教頭先生…アンタ、吉田先生が殺された晩、何処行ってた?」
芹沢「黙っててもしょうがないですよ?」
時田教頭「……」
捜査一課に聞かれる時田教頭。
いや、彼らだけでなく、特命係の2人も組対の2人も、
無言の圧力と言わんばかりに時田教頭を見た。
もはや時田教頭が、事件のことを黙っていられるのは不可能であった。
147 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 19:49:21.18 ID:r6in7ffD0
時田教頭「まさか…たかが、髪の毛だけで……」
右京「それだけではありませんよ」
「僕は、最初からあなたに目星を付けていました」
「一昨日、あなたはこう言っていましたね?」
148 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 19:49:52.84 ID:r6in7ffD0
『平良先生に引き続き、今度は吉田先生が、あのボウガンで殺されるなんて……16年前と全く同じです』
149 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 19:50:56.96 ID:r6in7ffD0
右京「僕達が学校を訪れた時点で、凶器のボウガンが佐々木のものである事は不明だったはずです」
「なのにあなたは、まるで16年前の事件と同じボウガンが犯行に使われたのを、知っているかのような口振りでした」
「それが、非常に気になったんですよ……」
時田教頭「……」
たったこれだけで、目を付けられていたなんて……
右京の視野の広さに、ただ驚く事しかできなかった。
時田教頭「とんでもない人ですよ……手塚先生の罪を見抜いたのも納得です」
右京「認めるんですね?」
150 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 19:53:32.37 ID:r6in7ffD0
時田教頭「はい……全部、あなたが話した通りですよ」
「何処から掴んだのか…吉田は私がヘヴルを持っている事を突き止めて、『1500億円出さないと、その事をみんなにバラす』と言って脅してきたんです」
「私はバレるのが怖くて、吉田の口を封じる事にしました」
「もちろん、それだけじゃないですよ。他の教員達も、最近私の事を色々と噂していましたからね……」
「彼を殺せば、みんな黙ると思ったんです」
「だから私は手塚先生を罠にはめようと、ろくでなしを襲ってボウガンを持ってくるよう、あの人達に頼んだんです」
冠城「しかし…あなたが常用していた薬の副作用が、あなたの首を絞めてしまった」
「何とも皮肉ですね」
時田教頭「まったくです…こんな間抜けな事ってないですよ」
右京「間抜けですか……」
伊丹「学校の教頭でありながら、麻薬をやってたのにか?」
151 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 19:54:31.01 ID:r6in7ffD0
時田教頭「警察官であるあなた方からしてみたら、馬鹿な事したと思うかもしれません」
「けど……けど、自分の身内を不幸にした原因を作った奴が、普通の人間のようにのうのうと働いてる姿を見てると、本当にむかっ腹が立つものなんです」
「私達は、確かに平良先生の悪行を見て見ぬふりをしてきました」
「けど、それは仕方がなかった……あの人を怒らせたら、どんな目に遭うか、分かったものじゃなかった」
「悪いのは、あの人とあの人を殺した手塚先生なのに……なんで、私達が非難されなければならなかったんですか?」
「学校もよく、あの人を採用したもんですよ。あれだけ我々を苦しめる原因を作ったというのに……!」
右京「……」
手塚らへの不満をもらしだす時田教頭。
6人の警察官は黙って聞いていたが、特に納得も否定もするような表情は見せていない。
152 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 20:01:50.21 ID:r6in7ffD0
右京「確かに、あなたには手塚先生に対して色々と複雑な感情はあったと思います。しかし……」
「あなたは、一校の教頭でありながら、超えてはならない一線を超え、己の罪から逃れるために1人の人間の命を奪い、そして…」
「更生した人間の尊厳を傷つけたのもまた、事実です」
「きっかけがどうであれ、決して許される行いではありませんよ」
冠城「それに、このまま行ってたら、あなたは命すら失っていましたよ?」
時田教頭「薬のせいでですか?」
冠城「いえ…もっと別な原因でですよ」
冠城の返事に時田教頭は「え…?」と言って首を傾げる。
そんな彼に説明するように、右京らはある事実を伝えた。
153 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 20:04:48.46 ID:r6in7ffD0
右京「確かに、あなたには手塚先生に対して色々と複雑な感情はあったと思います。しかし……」
「あなたは、一校の教頭でありながら、超えてはならない一線を超え、己の罪から逃れるために1人の人間の命を奪い、そして…」
「更生した人間の尊厳を傷つけたのもまた、事実です」
「きっかけがどうであれ、決して許される行いではありませんよ」
冠城「それに、このまま行ってたら、あなたは命すら失っていましたよ?」
時田教頭「薬のせいでですか?」
冠城「いえ…もっと別な原因でですよ」
冠城の返事に時田教頭は「え…?」と言って首を傾げる。
そんな彼に説明するように、右京らはある事実を伝えた。
154 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 20:06:08.07 ID:r6in7ffD0
ミスで、2つ書いてしまいました……
>>153
はないものとして下さい。
155 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 20:08:20.88 ID:r6in7ffD0
右京「今回摘発したグループが、何故あなたの計画に協力したのか……角田課長と共に理由を尋ねてみたんですよ」
角田課長「どうやら奴っこさん、アンタを使って吉田を殺させた後、最終的にアンタも消す気だったそうだぞ?」
時田教頭「私を……消す?」
角田課長「そうだ。ほとぼりが冷めたら、他の購入者もろともアンタを消して、他の街に行く気だったんだとよ」
時田教頭「な、何故……?」
角田課長「それが、闇社会に生きる奴らのやり方だよ」
「人の心に付け込んで、絞るだけ金を絞って、そして使えなくなったらゴミみたいにあっさり捨てる……」
「そういう奴らなんだよ」
時田教頭「そ…そんな……」
156 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 20:09:06.66 ID:r6in7ffD0
角田課長「いい加減、目ぇ覚ましなよ……」
「違法薬物持ってるような連中が、他人様をストレスから救うなんて虫のいい事する訳ねぇだろ?」
「アンタはずっと、あいつらの金ズルとして利用されてただけだったんだ」
「実際、連中が昨日ここで集まってたのも、事後処理の事を話し合っていたからそうだぜ?」
右京「それに、あなたも利用されていた事に薄々気付いていたはずです」
「しかし、ヘヴルにのめり込んでしまった以上、もう後戻りはできなかった……」
「違いますか?」
時田教頭「……」
右京の問いに時田教頭は黙っていたものの、否定している様子でもなかった。
それを確認すると、右京は最後にこう言い放つ。
右京「いずれにせよ、一時の感情に任せて麻薬に手を出した時点で、あなたは終わっていたんですよ」
「あなたはこれから、その罪を一生背負い、そして後悔しながら生きていく事になります。そう……」
157 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 20:10:37.92 ID:r6in7ffD0
「手塚先生のように」
158 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 20:16:13.60 ID:r6in7ffD0
時田教頭「………」
「あ、あぁ………!!!」
とどめを刺されたかのように、時田教頭は……いや、時田はその場に膝をついた。
右京は手塚のようにとは言ったが、自分は成人男性……
それでいて、麻薬、殺人そして冤罪にすら手を染めてしまったのだ。
16年前の手塚以上に重い罰を受ける事になるだろう。
そうなれば、身内である兄も、何を言われるか分かったものではない。
今この瞬間、時田は重大な過ちを犯した事に気付いたが、それももう遅い……
159 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 20:17:36.36 ID:r6in7ffD0
伊丹「…行きましょうか」
それを見計らうと、伊丹と芹沢は時田を立たせ、連行していく。
そんな彼らの跡を、組対の2人が慌てて追う。
角田課長「おい!何さり気なく、自分達の手柄みたいに連れてこうとしてんだよ?麻薬の件が先だろ!」
伊丹「何言ってるんですか?こっちは危うく冤罪生みかけたんですよ?こっちが先です」
角田課長「何だと?!」
お互い手柄について争いながら、一課の2人と組対の2人は時田を連行していく。
その姿を、特命係の2人は黙って見送った。
それから少しして、時田の自宅からヘヴルが複数発見され、押収された。
こうして、時田は麻薬の所持・常用及び殺人と手塚への冤罪の罪で、逮捕されたのだった。
160 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 20:19:40.56 ID:r6in7ffD0
数時間後……
―警視庁の取調室―
芹沢と右京に見守られる中、伊丹が今回の事件の顛末を手塚に報告していた。
伊丹「今回の事件だが……確かに犯人は、アンタじゃなかった」
「犯人は時田正敏。アンタの学校の教頭だ」
「時田はアンタの事が気に入らなくて、麻薬に手を染めていた。それを吉田先生に嗅ぎつかれて、金を出せと脅されていたんだ」
「それで周囲にバレるのを恐れて、密売グループと共謀して彼を殺し、あんたに罪を着せようとしたんだ」
「ま、その時田も、最終的に消される予定だったらしいけどな」
手塚「やっぱり、そうでしたか……」
右京「……」
161 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 20:26:59.07 ID:r6in7ffD0
伊丹「…話は、これで終わりじゃない」
「実は時田の逮捕に際して、校長の為房が出頭してきたんだ」
手塚「校長先生が?何で……」
伊丹「時田が麻薬に手を染めていた事を、黙認していたからだそうだ」
「理由は、アンタへのストレスが原因で、そうなっちまった事を薄々感付いてしまったから、言い出したくても言い出せなかったみたいなんだ」
「そうしている間に事件が起きてしまって……余計に、話したくても話せなくなっちまったんだ」
手塚「なんて馬鹿な事を…」
「そんな気遣い、要らないのに……」
伊丹「……」
手塚「僕があの学校に入ったのは、単純に自分の望みを叶える為だけではありません」
「僕がいない16年の間、何が変わったのか確かめる為でもありました」
「けど…結局あの学校は、何も変わっちゃいなかった」
「校長先生は要らない気遣いで犯罪を見逃し、教頭先生は犯罪に手を染めてしまった……」
「その事を咎める人は、誰もいなかった」
「平良先生がいた頃と、まるで成長していない」
「いや、それとも……」
162 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 20:28:36.76 ID:r6in7ffD0
手塚「僕のせいでしょうかね?」
「僕が、教頭先生への影響を考えないで、あの学校に入ったのがいけなかったんでしょうか?」
伊丹「……」
そのような疑問を投げかける手塚。
黙って聞いていた伊丹は、次のように答えた。
163 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 20:31:42.01 ID:r6in7ffD0
伊丹「さあな…そんなの俺には、分かんねぇよ」
「けど…散々疑った俺が言っても説得力無いかもしれないが……」
「アンタは、自分みたいに馬鹿な奴を増やしたくなかったから、教師になったんだろ?」
手塚「そうですよ」
伊丹「だったら…それでいいんじゃねえか?」
「正しい事する為に先生になったんだ……それだけで立派だよ」
「だから…今回捕まえた奴らは、俺達が絶対に罪を償わせてやる」
164 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 20:32:11.66 ID:r6in7ffD0
伊丹「絶対にな…!」
165 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 20:33:06.81 ID:r6in7ffD0
手塚「……」
真摯な言葉を投げつけてくる伊丹。
その表情は、最初に手塚のことを疑っていた時とは、大違いな程真面目で真剣そのものあった。
彼の真剣な眼差しを確認し、手塚は口を開く。
手塚「刑事さん…僕、あなたの事を誤解していたみたいです」
「あなたは、緻密さに欠けた無礼な人だと思っていましたが…」
「今のあなたは、『あの人』と同じ目をしています。僕を犯罪から救ってくれた『あの人』と……」
そう言って手塚は、亀山の顔を思い浮かべた。
それを聞いた伊丹は、誇らしげにしたものの、
その直後、手塚に「でもまぁ…出世できない人である事も、間違いないみたいですけどね」
と言われ「それは余計だ…」と言って溜め息を吐いた。
手塚「ごめんなさい。けど……」
166 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 20:34:43.73 ID:r6in7ffD0
手塚「僕が、あなた方を引っかき回したのは事実です」
「そのせいで、犠牲者も出てしまいましたし……」
伊丹「……」
手塚のその言葉に、伊丹は何も答える事はできなかった。
そして、右京もそれを黙って聞いていた。
手塚「……もう、帰ってもいいですよね?」
伊丹「今日のところはな…」
「もっとも、被害者として明日また証言を取ってもらう事になる」
「だから、今の内に伝えとく……」
167 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 20:35:11.04 ID:r6in7ffD0
「もう二度と、来るんじゃねえぞ」
168 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 20:36:01.00 ID:r6in7ffD0
二度と来るな……
荒っぽい言い方だったが、もう事件に巻き込まれて欲しくないという伊丹なりの願いの現れであった。
手塚もそれを悟ったのか「えぇ…こんな所、二度と来るものですか」と、笑顔で返して席を立った。
右京「行きましょうか?」
手塚「はい…」
そして手塚は、右京に連れられて取調室から出ていった。
その姿を、伊丹と芹沢は静かに見送った。
169 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 20:37:09.90 ID:r6in7ffD0
―警視庁の外―
手塚「こんなところにまで、着いてこなくていいんですよ?もう、子供じゃないんですから」
右京「……」
手塚「……あ」
手塚がそんな疑問を抱いたその時であった。
目の前に、広田を連れた冠城が現れた。
手塚「広田先生……」
広田「手塚先生…!」
手塚「……」
170 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 20:37:55.50 ID:r6in7ffD0
手塚「なるほど、そういうわけですか?」
冠城「彼女、あなたの無実を信じていましたからね。すぐにでも、会わせてあげようと思ったんですよ」
広田「話は全部、こちらの刑事さんに聞かせてもらいました」
「手塚先生…本当に、良かった……」
目の前の手塚の姿を見て、彼の無実が証明された事を改めて実感し、広田は喜びをあらわにした。
171 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 20:44:58.44 ID:r6in7ffD0
右京「さて…無事に再会できたところで、次の話題に移らなくてはなりません」
広田「次の話題って…?」
右京「あなた方をこうして会わせたのは、事件の顛末を知らせる為だけではありません」
「残された謎をすべて明らかにする為、広田先生にもお越し頂いた次第なのです」
広田「謎って何ですか?」
手塚「……」
右京の言葉に小首を傾げる広田。
その一方で、手塚は落ち着き払った様子でいる。
そんな彼に、右京はこう言った。
右京「手塚先生…実は、今回のあなたの行動に、いくつか不可解な点がありました」
「まずは、その事から始めたいと思います」
手塚「……」
右京の言う事を黙って聞いている手塚。
それを確認しつつ、右京は彼の行動の不可解な点を語りだした。
172 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 20:47:25.11 ID:r6in7ffD0
右京「最初に引っ掛かったのは、あなたが一課に通報を入れた後も、凶器であるボウガンを拾ったまま現場に留まっていた事でした」
「ボウガンによる殺人を犯した前科のあるあなたが、そんなものを持っていれば、真っ先に疑われるのは分かっていたはずです」
「そして、次に引っ掛かったのは、あなたが時田の電話の要求に応じた事です」
「時田は、あなたに自分の過去について、話したい事があると言って、あの公園にあなたを呼び出したそうですが…」
「そのあなたの過去と言うのは、間違いなく16年前の事件のことでしょう」
「しかし…そう考えると、ある疑問が浮かび上がってきます」
「それは、あなたが周囲に殺人の前科がある事を、自ら明かしていたという事実です」
「自身の前科を周囲に明かしていたのならば、あなたにとって16年前の事件のことは、秘密と呼ぶには相応しくなかったはず……」
「つまり、その時点で事件の夜に掛かった電話が、罠であった事に気付けたはずなんです」
「なのにあなたは、あっさりと罠に引っ掛かり自分を不利な状況に追い込んでしまった……」
手塚「……」
173 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 20:49:15.11 ID:r6in7ffD0
右京「そして…最後に気になったのは、手帳が無くなった事にあまり関心を持っていなかった事です」
「いくら内容を丸写した予備を持っていたとはいえ、仕事に関する事柄を書き記した手帳です。そんな大事なものが無くなること自体、一大事であるはず……」
「しかも、学校内で無くしたものなのに1週間経っても見付からないとなると、その時点で盗まれた可能性も考えられたはずです」
「なのにあなたは、昨日まであくまで無くしただけという認識で、そこまで関心を持っている様子ではありませんでした」
「16年前の時点で、明晰な頭脳を持っていたあなたとは思えない行動です」
「何故あなたは、ここまで詰めの甘い行動をとってしまったのか?」
「その謎の答えが、先程の取調室でのあなたの言葉に集約されていました」
174 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 20:49:42.73 ID:r6in7ffD0
『やっぱり、そうでしたか……』
『僕が、あなた方を引っかき回したのは事実です』
『そのせいで、犠牲者も出てしまいましたし……』
175 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 20:50:22.83 ID:r6in7ffD0
右京「やっぱり……」
「僕達を引っかき回した……」
「自分のせいで、犠牲者が出てしまった……」
「これらの3つの言葉から察するに、あなたは自らの意図があって時田の罠にかかったように感じます」
「実際、真犯人の正体を聞かされた時と、為房が時田の行動を黙認したと知らされた時のあなたの反応は、まったく違っていました」
「つまり……」
176 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 20:52:38.88 ID:r6in7ffD0
右京「手塚先生…あなた、最初から時田が事件を起こす事を、予見していたのではありませんか?」
手塚「……」
広田「え…!?」
右京の一言に驚く広田。
一方、手塚はこう答えた。
177 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 20:54:48.21 ID:r6in7ffD0
手塚「刑事さん…相変わらず鋭いですね」
「その通りですよ。僕は、あの人が何か事件を起こすだろうと考えていました」
「教頭先生は最近悪い噂が絶えなかったし、何しろ吉田先生と揉めてましたからね」
右京「なるほど…広田先生が他にも見ている職員がいたと仰っていましたが…」
「やはり、あなたもその現場の目撃者の1人だったんですね?」
冠城「わざと罠にはまったのも、俺達を利用して教頭先生の罪を暴く為だった……」
手塚「僕が事件に巻き込まれたと知れば、あなたは絶対にあの学校の出来事を調べて、教頭先生に行き着くと確信していましたからね」
「だってあなたは、僕の罪を暴いた人ですから」
「だからあの人の罪を全て、暴いて欲しかったんです」
右京「……」
178 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 20:56:47.23 ID:r6in7ffD0
冠城「でも…だったらなんで、こんな回りくどい事を?」
「最初から時田が怪しいと思ってたんなら、すぐにでも知らせてくれたら良かったのに」
手塚「確かに、教頭先生が怪しいと睨んではいましたが、状況証拠と直感だけで物証がありませんでした」
「独自に調べても良かったんですが、前科者の僕が変な動きを見せれば、どうなるか分かったものじゃありません」
「それに、事件を起こすと予見してたと言っても、本当に起こすかどうかも分かりませんでしたし…」
「何をしてくるのかも、見当つきませんでしたから」
冠城「だから、様子見するべきだと判断した訳か…」
手塚「でも…そのせいで、吉田先生どころか、ろくでなしが犠牲になってしまいました……」
「僕は、またしても人の命を奪ってしまったんです。それも2人も……」
「だから……裁判が終わったら、またこの街から去ろうと思っています」
広田「そ、そんな…!」
179 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 20:58:46.59 ID:r6in7ffD0
手塚「安心して…また別の街の学校で、教師をやりに行くだけだから……」
「でも、その前に吉田先生の奥さんやろくでなし…いや、佐々木の家族に今回の事を謝らないとね」
「そして、吉田先生の奥さんには、借金の返済費用もあげなくちゃならない」
「それで許してくれるかどうか、分からないけど……」
広田「だったら、私も一緒に行きます!」
手塚「え?でも……」
広田「私…あなたの力になりたいんです。お願いします!」
真剣な面持ちで頼み込む広田。
手塚は少しばかり戸惑ったが、その真剣な様子を見てすぐにその頼みを受け入れる事にした。
180 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 20:59:34.56 ID:r6in7ffD0
手塚「分ったよ。君がそこまで言うなら……」
広田「ありがとうございます!」
冠城「良かったですね、あなたに着いて来てくれる人がいてくれて」
右京「しかし…話はまだ終わっていませんよ」
広田「え…?」
右京「広田先生……実は、僕はあなたの事も気になっていました」
広田「私も……ですか?」
手塚「……」
右京の一言を聞いて、手塚は急に真剣な面持ちになる。
その様子を確認しつつも、右京は話を続ける。
181 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 21:00:14.16 ID:r6in7ffD0
右京「昨日、あなたが現われた空き地なのですが……」
「あの後、またあそこに行ってみたんです」
「その結果あの場所は16年前、僕が『ある事件』の捜査に行った事がある場所だと判明しました」
広田「……」
右京「更に僕が気になったのは、あなたのこの一言です」
182 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 21:01:38.62 ID:r6in7ffD0
『確かに手塚先生は、16年前おじさんを殺しました』
183 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 21:04:07.44 ID:r6in7ffD0
右京「手塚先生が16年前におじさんを殺した……」
「手塚先生が16年前に殺した人物は、1人しかいません」
「平良荘八…かつて、あの学校で働いていた教師です」
「そして、あなたが現われたあの空き地は、その平良荘八が殺害された現場だった」
広田「……」
右京「なので僕は、部下にあなたの経歴等を調べさせました」
「その結果、ある事実が判明しました」
そう言って右京は、昨日栄中央署を出た後、
青木に調べさせた結果出てきた、その『ある事実』を話し始める。
184 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 21:06:31.20 ID:r6in7ffD0
右京「あなたは、父『広田小城(ひろた こじろ)』さんと母『広田紀子(ひろた のりこ)』さんの間に生まれた娘さんで、家族3人暮らしでした」
「しかし16年前、『ある出来事』がきっかけで、小城さんと紀子さんとの関係にひびが入り、最終的に離婚してしまった」
「離婚後あなたは、小城さんに引き取られ、12年間彼の下で暮らしてきた……」
「それが祟ったのか……小城さんは過労で倒れ、亡くなられてしまった。それ以来あなたは、1人で職を転々としながら生活を続けていた」
広田「……」
右京「しかし……ここで重要なのは、お父様の方でなくお母様の方です」
「調べによると、あなたのお母様の紀子さんの旧姓は『平良』……」
「『平良紀子(たいら のりこ)』……そう、16年前に殺害された平良荘八の妹である事が分かったんですよ」
「つまり、広田先生……」
185 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 21:07:25.11 ID:r6in7ffD0
右京「あなたは、手塚先生が16年前に殺害した平良荘八の姪御さんですね?」
「離婚の原因も、平良荘八の件が関係していた……違いますか?」
広田「……」
右京の推理を静かに聞いていた広田。
最後に投げかけられた問いに、素直に「はい…そうです」と答え、その時の出来事を語り出した。
186 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 21:07:59.74 ID:r6in7ffD0
広田「16年前、叔父さんが手塚先生に殺され、更に学校での悪行のせいで殺されたという記事が出回ってから、色んな所から非難の声が上がって……」
「それに耐え兼ねて、父は母と縁を切ったんです」
「そして、『叔父さんと血の繋がった母なんかに、私の事を任せられない』と言って、私を母から引き離し、育てました」
「でも……私からしてみれば、非があるのは叔父さんの方なのに、どうして父は母と別れる必要があったのか……とても、理解ができませんでした」
「そんな複雑な気持ちで過ごしたせいでしょうか…5年前に父が亡くなってから、私は生きる為に必要な事だけ繰り返すだけの人間になっていました」
「まるで、心が空っぽな……そんな感じでした」
冠城「そして3年前…手塚先生が栄第三小学校で教師をやっているという噂を聞きつけた」
187 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 21:09:54.97 ID:r6in7ffD0
広田「本当にあれは、偶然でした。Twitterを見ていたら、その事で騒いでいる人がいて……」
「それで独自に調べてみたら、確かに叔父さんを殺した犯人だって分かったんです」
右京「なるほど…3年前に栄第三小学校の教師になったのは、やはり手塚先生に近づく為でしたか」
冠城「けど近づいて、どうするつもりだったんですか?」
広田「それが…自分でも分かんないんですよね……」
「多分…『叔父さんを殺した人と会ってみたら、何か変わるんじゃないか』とか、そんな曖昧な事を考えていたのかもしれません……」
冠城「でも…心中あまり穏やかじゃなかったんじゃないですか?」
広田「始めはそうでした。けど……」
「手塚先生は生徒に対して、時に優しくて時に厳しくて……まるで、教師の鑑のような人で、生き生きしていたんです」
「空っぽになった私とは、まるで正反対でした」
「それで、どうしてそこまで出来るのか、一度聞いてみたんです。するとこの人は、こう答えました……」
188 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 21:11:06.26 ID:r6in7ffD0
『これが…僕がしなくちゃならないことだからさ』
『理由はどうあれ、僕は一人の人間を手をかけ、無実の人間に罪を擦り付けようとしてしまった……』
『同時に、この事件から学んだからこそ、僕は前を向いて進んでいってるんだよ』
『そうじゃなきゃ、僕は恭子先生を守るためと言って、今も人を殺し続けてただろうからね……』
189 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 21:11:37.94 ID:r6in7ffD0
広田「これを聞いて、私は感動しました…そして、今まで何事にも無関心だった自分が恥ずかしくなったんです」
「『叔父さんを殺した犯人は、自分の罪と向き合ってしっかりと自分の人生を歩んでいるのに、そうじゃない私は何でそれができてなかったんだろう』って……」
「だからこそ、今回の事件やみんなの対応がショックで…」
「それで思わず、叔父さんにも手塚先生を不幸にしないでと、頼みにあの空き地に行ってたんです……」
手塚「……」
冠城「なるほど……だからあなたは、被害者遺族でありながら、手塚先生をあそこまで信じていたんですね?」
広田「けど……今までずっと、黙っていました」
「お互いが被害者の遺族と加害者だと知ってしまえば、今までの関係が壊れてしまうような気がして、怖くて……」
手塚に自身の正体を明かせなかった理由を話す広田。
しかし、手塚は……
190 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 21:13:54.03 ID:r6in7ffD0
手塚「いや……知ってたよ」
広田「え…?」
その一言に、広田はきょとんとした表情で手塚の顔を見る。
手塚も、視線を合わせたままこう続けた。
191 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 21:15:13.19 ID:r6in7ffD0
手塚「君が、平良先生の家族だってこと…途中から気づいてた」
「だって君、他の先生達と僕を見る目が違っていたし、それに……」
「前に殺した相手だったからかな?君からは、平良先生と似た何かを感じたんだよ」
「けど僕も、君とは教師同士という関係でいたくてね……平良先生の遺族だって事に、気づいてないふりしてたんだ」
「だから……お互い様だよ」
広田「手塚先生……ッ!」
その言葉に感極まってか、広田は手塚に抱き着いた。
これに手塚は「止めろよ……刑事さん達がいる前で」と言いながら恥ずかしがった。
右京「手塚先生…君の選択は、間違っていなかったようですよ?」
「やはり…恭子先生に君を預けて正解でした」
192 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 21:16:05.54 ID:r6in7ffD0
右京「君は、立派な大人になれましたよ……」
「守君」
守君……16年前の手塚に対する呼び名を引っ張り出した右京に、手塚は誇らしげな表情を浮かべた。
手塚「いえ…これも、あなたの部下の刑事さんのおかげです」
「どうもありがとうございました……刑事さん」
「いや、杉下右京さん……!」
「そして、冠城亘さん」
初めて右京と冠城の名を口にした手塚。
そして、両者離れて深々と特命係の2人に向かって彼らに頭を下げた。
193 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 21:16:45.27 ID:r6in7ffD0
手塚「じゃあ、平良先生のところに行こうか?」
広田「はい…!」
それから2人は、平良荘八殺害現場に向かって歩き出す。
仲良く並んで歩み出した2人の姿を、右京と冠城は優しく見送るのであった。
194 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 21:17:51.32 ID:r6in7ffD0
―夜 花の里―
幸子「そう…被害者の遺族と和解できたんですね?手塚先生」
冠城「と言っても、姪御さんとだけですけどね」
右京「しかし、あの様子なら何とかなるでしょう」
「これからは、かつての加害者と被害者遺族の枠を超え、お互い助け合いながら生きていく事になるでしょうねえ」
幸子「悪い人達も捕まって、手塚先生の更生の努力も報われて……めでたしめでたし、ですね」
嬉しそうにする月本幸子。
だが、冠城は何故か「いや……まだ、終わってませんよ」と言い出す。
右京「おや…それはどういう事でしょうか?」
冠城「実は、僕も手塚先生が起こした事件の事、調べてみたんですよ」
右京「そうですか…」
「しかし、君の興味を引くような出来事は無かったと、記憶していますが?」
195 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 21:18:32.18 ID:r6in7ffD0
冠城「確かに、事件の内容は概ねあなたが話した通りでした」
右京「なら、それでいいじゃありませんか」
冠城「ところが、ひとつだけ明らかになっていない謎があった事が分かったんですよ」
右京「謎ですか…それは、どういったもので?」
冠城「すっとぼけるのは止めて下さい。その謎には、あなたが関係している可能性があるんですよ」
右京「僕がですか?」
疑問符を浮かべる右京を見ながら、冠城は次のような質問をする。
196 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 21:20:25.28 ID:r6in7ffD0
冠城「右京さん…16年前の事件の当事者である、あなたにお聞きします」
「16年前の事件は、所轄とあなたの元に第一発見者からの通報があった事で、判明したんですよね?」
右京「えぇ…それで、亀山君と米沢さんを連れて現場に向かいました」
冠城「しかし、あなた方に通報を入れた人間は、自身の正体を一切明かさなかったんですよね?」
「なので当初は、その人物が事件と関係していると疑われていたようですが…」
「すぐに佐々木が容疑者に上がり、真犯人が手塚先生だと判明した為、結局事件とは無関係な一般人として片付けられた」
右京「それの何が、おかしいのでしょうか?」
197 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 21:21:52.34 ID:r6in7ffD0
冠城「警察に色々と聞かれるのが苦手で、匿名で通報するだけのケースもなくはありません」
「しかし…俺が気になっているのはそこではなく、その人物が所轄だけでなく、わざわざあなたにまで通報した事です」
「特命係に直接通報する人って、大体が特命係と面識がある人ですよね?」
「という事は、その通報者はあなたと縁の深い人間……」
「そして右京さん……あなたの事ですから、通報者の正体も知ってるんじゃありませんか?」
「しかし、通報者の事情を汲んで、あなたは正体を知りながら黙っている……」
「違いますか?」
右京「…………」
冠城の問いに、右京は焼酎を飲んでから軽くため息を吐いた。
198 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 21:23:26.96 ID:r6in7ffD0
右京「本当に君は、時と場合によっては僅かな手掛かりで、踏み込んだところまで行き着いてしまうんですねぇ……」
冠城「そのような言葉が出るという事は、当たり……ですか?」
右京「そう取って頂ければ結構です」
冠城「じゃあ、いったい誰なんですか?あなたにも通報した人物」
通報者の正体を聞く冠城。
その彼と顔を合わせる右京。
その様子を固唾を呑んで見守る幸子。
これがテレビなら、ドン!っという効果音と共に
右京と冠城の顔が交互に映される演出でも入りそうな光景だ。
そして、右京の口から出た答えは……
199 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 21:24:46.57 ID:r6in7ffD0
右京「ちょっとした知り合いです」
200 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 21:25:18.54 ID:r6in7ffD0
冠城「……」
右京「……………」
冠城「…………………」
「え…?」
予想外の答えに間抜けな声を出してしまう冠城。
そんな彼をよそに、右京は「……幸子さん。焼酎のお代わりを」と言って焼酎のお代わりを注文。
幸子も少し戸惑いつつも、「は、はい」と言って焼酎のお代わりを出した。
201 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 21:27:38.88 ID:r6in7ffD0
冠城「ちょっと…それだけですか?」
右京「えぇ、これだけです」
冠城「あのですね…僕が聞きたかったのは、もっとはっきりした答えをでしてね……」
右京「そこまで辿り着けた君なら、はっきりした答えがなくても自ずと分かるはずですよ」
冠城「そう思っているんなら、答えを教えてくれるのが礼儀なんじゃないんですか?」
右京「君…うるさいですよ」
冠城「いや…教えて下さいよ右京さん!」
「右京さん!!」
202 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 21:28:12.97 ID:r6in7ffD0
「右京さーんッ!!!」
203 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 21:29:48.97 ID:r6in7ffD0
その後、冠城亘は通報者の正体を何度も上司に尋ねたが、結局最後まで教えてくれなかったという……
204 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 21:30:46.69 ID:r6in7ffD0
〜この作品は、二次創作です〜
205 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 21:32:01.64 ID:r6in7ffD0
〜補足〜
広田かなえ・・・オリキャラ。無論、平良先生に妹がいたと言うのも捏造設定です。
正直、いてもいなくても問題ないキャラだったかな…と書いている最中に思いましたが、
手塚の更生の努力が実らなければ、救いがないと思い登場させました。
…が、出番が少なくて、かえって陳腐な感じになってしまったかも……
名前の元ネタは特にありません。
ヘヴル・・・今回の話の為に用意した架空の麻薬。
当然ながら、現実にこんな麻薬存在しませんし、効果が切れて神経が異常をきたすものもないと思います。
麻薬の知識に疎いので、なんともいえませんが……
名前の元ネタは、本編にもある通りヘヴン(天国)とヘル(地獄)
発毛剤そっくりの踊りが止まらなくなる麻薬・・・裏相棒第1作目の第三夜に出ていた奴。
米沢さん曰く「赤いカナリアが資金源に開発した、頭皮から摂取するタイプの特殊な麻薬」(ちなみに正式名称不明)
で、一度摂取したものは音楽を聴くと体が反応して、踊りが止まらなくなるという代物。
なお、この麻薬の事に触れてる角田課長と今回未登場の中園参事官)にとっては、ある意味黒歴史な一品かもしれません。
どういう事か気になる方は、レンタル店のDVDを借りるなどして見てみましょう。
確か、シーズン6のDVDとして単品レンタルされていたはず……
16年前の事件の通報者の正体・・・昔からの相棒ファンなら言わないでも分かるかもですが、正体は小野田官房長。
彼が孫を立ちションさせに、空き地に行ってみたら、偶然にもそこが平良先生の殺害現場であったのが、S1第5話の始まりとなっています。
当初この話しは一切触れない予定でしたが、さすがにそれは可哀想だと思ったので、オチに持ってくる運びになりました。
なお、手塚の「相変わらず鋭いですね」という発言は、
S1第5話でも右京さんに対して言っていた台詞の引用です。
冠城君の質問に対する答えも、S1第5話で亀山君に通報者の正体を尋ねられた時と同じものです。
206 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 21:32:27.13 ID:r6in7ffD0
以上で、当作品はおしまいです。
お気に入りエピソードの続編という自己満足的なものなので、
更生した前科者という重いテーマを扱っている割に、
話しが軽くなってしまった感が否めなかったりします……
そもそも、今回もまた勉強不足なまま書いていたり……
それでも楽しめたというならば、幸いです。
207 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/26(金) 21:34:49.24 ID:r6in7ffD0
しばし様子見してからHTML化の依頼を出そうと思いますので、
それまで感想等がございましたら、どうぞお気軽に……
208 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/04/26(金) 22:00:28.56 ID:HatjRWK50
面白かったです
209 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/04/26(金) 22:23:59.13 ID:23l6elNGO
1500億の借金ってもうどうしようもないだろ
210 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/04/30(火) 19:13:04.47 ID:hnQSrzD70
コメントはお二つだけでしたが、読んでくださりありがとうございます。
今回の反省点は
>>209
の方が言うように、吉田先生が教頭先生から脅し取ろうとした金額を明記しちゃった事ですね。
確かにこんな大金、手塚先生にも用意できないって…というか、書く前に気付けよと……
とにもかくにも、次こそはまったくの別作品のSSを投下する予定です。
151.47 KB
Speed:0.1
[ Aramaki★
クオリティの高いサービスを貴方に
VIPService!]
↑
VIP Service
SS速報VIP
更新
専用ブラウザ
検索
全部
前100
次100
最新50
新着レスを表示
名前:
E-mail
(省略可)
:
書き込み後にスレをトップに移動しません
特殊変換を無効
本文を赤くします
本文を蒼くします
本文をピンクにします
本文を緑にします
本文を紫にします
256ビットSSL暗号化送信っぽいです
最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!
(http://fsmから始まる
ひらめアップローダ
からの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)
スポンサードリンク
Check
Tweet
荒巻@中の人 ★
VIP(Powered By VIP Service)
read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By
http://www.toshinari.net/
@Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)