相棒「目撃者・後日談 〜16年ぶりの再会〜」

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10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 14:33:21.11 ID:i/o/WJrU0

青木(しかし、一課が直々に特命係を呼び出すなんて、いったい何事なんだろうね?)


と、何だかんだで2人が芹沢に呼び出された事が、少し気になっている様子であった。
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 14:35:01.60 ID:i/o/WJrU0
―取調室―


芹沢「先輩連れてきましたよ」

伊丹「ご苦労…」


芹沢に連れられた彼らを出迎えたのは、捜査一課の『伊丹憲一』である。


右京「お邪魔します」

冠城「珍しくお呼びがかかったので、参上にあがりました」

伊丹「ほんとは、そうしたくなかったんだがな……」

右京「容疑者の方は?」

伊丹「……」


右京に言われ、伊丹がデスクを見るよう促す。
促された方を見ると、そこにはデスクを挟んだ向こう側の椅子に座った1人の黒服の青年がいた。

年齢は26歳前後といったところで、妙に落ち着いた様子で右京と目を合わせる。

右京は、その青年の顔に既視感を覚えた。


右京「話を伺っても、宜しいでしょうか?」

伊丹「どうぞ…ご勝手に」


そのまま椅子に腰掛け、右京は青年と向かい合った。


右京「お待たせしました。特命係の杉下右京です」

「いきなり、このようなことをお聞きするのも、失礼かもしれませんが……前にも、お逢いになりましたか?」

青年「えぇ…お逢いましたよ」

「久し振りだな……16年前に、栄第三小学校で逢ったのが最初でしたね」

右京「16年前…栄第三小学校…!」

「もしかしてあなたは…!」

青年「もしかしなくても、僕です」
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 14:35:28.48 ID:i/o/WJrU0


「手塚守ですよ」

13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 14:36:16.83 ID:i/o/WJrU0


〜相棒シーズン17 オープニング〜

14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 14:37:59.15 ID:i/o/WJrU0
No.EX


右京「本当に久し振りですねぇ…」

手塚「『あの事件』以来、お互い顔を見せていませんでしたからね」

「ちなみに、恭子先生も実家で元気にやっていますよ」

右京「それを聞いて、安心しました」

「しかし…どうして君は、ここにいるのですか?」

手塚「上京したんですよ」

右京「上京?」

手塚「あの事件以来、先生と一緒に僕は探し続けたんです」

「僕の犯した罪をどう償えばいいのか…罪を背負った僕は何をすべきなのか…」

「その答えを……」

右京「……」


手塚「そうして見付けた答えが、『恭子先生みたいな教師になって、僕みたいな子を増やさないようにする事』でした」

「何が正しいのか、何が悪いのか…それを教えたい。そう考えたんです」

右京「それで、恭子先生の元から独り立ちしたわけですか」

手塚「でもって、3年前に栄第三小学校の教師になったんですよ」

右京「自らの母校の教師にですか……」

「色々と、大変だったんじゃありませんか?」

手塚「もちろんですよ。最初はなかなか信用されなくて、苦労しました」

「それでもめげずに続けた結果、何とかやっていけています」


まるで、昔からの友人のように会話を交わす2人の姿……

それを見た冠城は「確かに、顔見知りみたいですね、あの2人」と、伊丹に言った。


伊丹「あぁ…なんせ『ある事件の関係者同士』だからな」

冠城「事件関係者同士……」

伊丹「ここだけの話……この手塚って奴は、ガキの頃に自分の学校の教師を殺した事があるんだよ」

冠城「自分の学校の教師を殺害……」


伊丹のその言葉に、冠城は手塚の正体が何者なのか察しがついた。

そんな中、右京と手塚の会話は続く。
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 14:40:26.23 ID:i/o/WJrU0
右京「しかし、どうして君が、吉田先生殺害の容疑者に?」

手塚「それはですね……」

「あ、一課の刑事さん達。今から話しますんで、しっかり聞いてて下さい」


手塚は右京の問いに答える前に
彼らの後ろにいた伊丹と芹沢にも声をかけると、ここに来るまでの経緯を説明する。


まず最初に彼は、今日の午前1時ごろ、自宅の電話に奇妙な電話がかかってきたことを話す。

電話をかけてきた何者かは、鼻を摘まんだような男の声で……


『今すぐ近くの公園に来い』

『お前の過去について、話したい事がある』


と、言ってきたそうである。


手塚「それで言われたとおり公園に行ってみたら、同じ学校で働く『吉田敏行(よしだ としゆき)』先生が死んでいたんです」

「胸には矢が刺さっていて、現場にもボウガンが落ちていました。思わずそれを拾った僕は、確信しました」

「『吉田先生はこれで殺されたんだ』って……」

右京「…………」


手塚「それからすぐに、そちらの刑事さん達を呼んだのですが…」

「ボウガンを持ったままなのがいけなかったのか、前科ありの人間と明かしたのがいけなかったのか、そのまま取っ捕まっちゃいましてね」

「しかし、僕みたいな人がいくら容疑を否認しても、絶対信じてくれない」

「だからここは、16年前にお知り合いになった、あなたに話すのが適当と判断しました」

「というわけで、刑事さん達……今回、僕は殺していませんよ」


無実を主張する手塚守。

しかし、特命係の2人を含めたその場にいる警察官全員は、何も言わずに彼を見ている。


手塚「…やっぱり、信じてくれるわけないですよね」

「けど、嘘は言っていません。調べてみれば、分かると思いますよ」

右京「それはつまり…我々に自分の無実を証明しろと?」

手塚「あなた達特命係って、そういう所なんじゃないんですか?」

「あれから色々調べましたよ。捜査権は持っていないけど、特別に与えられた命令はなんでもやるって」

「この頼みだって、特別な命令に相当するはずですよ」

右京「…………」


しばし無言で見つめ合う2人。

手塚の目をジッと見据えた右京は、何かを理解したかのように「……分かりました」と言って席を立った。


右京「冠城君、行きましょう」

冠城「あ…はい」

「じゃあお二人とも、後はどうぞお好きに…」



そのような台詞を残し、冠城は上司とともに部屋を後にした。

それと入れ替わるように、伊丹が乱暴に椅子に座りながら、手塚を睨む。
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 14:41:53.23 ID:i/o/WJrU0
伊丹「変な奴から電話がかかって公園に行ってみたら、既に吉田先生が死んでいた?」

手塚「えぇ」

伊丹「現場のボウガンは、思わず拾っただけだった?」

手塚「そうですけど」

伊丹「嘘吐くんなら、もっとマシな嘘吐きな」

「証拠だって揃ってるし、何しろお前には吉田を殺す『充分な動機』がある事も分かってるんだ」

「それでいて、あの2人に無実を証明するよう頼むとは、どういう風の吹き回しだ?」

「そんな事しても、無意味なんだぞ?」

手塚「…………」

伊丹「チッ!まただんまりかよ……!」


伊丹は、手塚に対する苛立ちを隠す気もないようだ。

それを察したのか、手塚はこう言い出した。


手塚「そこまで僕が犯人だと仰るのなら、もっと他に証拠をあげてみて下さいよ」

「そうすれば、認めますよ」

伊丹「……」

「逮捕されておいて挑戦状か?いい度胸だ」

「だがな……そんな態度取っていられるのも今の内だぞ?」

手塚「……」
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 14:45:35.23 ID:i/o/WJrU0
―警視庁 廊下―


冠城「右京さん、ひょっとしてあの先生……」

右京「彼こそ、先程話していた16年前の殺人事件の犯人です」

冠城「まさか、過去に自分が殺した教師がいた学校の教師になっていたなんて、驚きですね」

右京「同感です」

冠城「でも…どうして彼は、殺人事件なんか起こしたんですか?」


先程聞けなかった手塚の犯行動機を聞かれ、右京は少し間を置いてから説明を始めた。


右京「既に知ってのとおり、16年前に栄第三小学校の男性教師がボウガンで殺害されました」

「被害者の名前は『平良荘八』。かつて、手塚先生の担任であった『前原恭子』さんの同僚でした」

「しかし被害者は、酒と女癖が悪い大変素行の悪い人間で、恭子さんにも手を出そうとしたのです」

冠城「それじゃあ、彼は自分の担任を守るために?」

右京「手塚先生は、その当時から大人顔負けの頭脳の持ち主で、それが災いして友人もいなければ自分を引き取った親戚とも不仲でした」

「彼にとって唯一心を許せる相手が、前原恭子さんだったんです」

冠城「だからこそ手塚先生は、恭子さんを襲おうとした平良荘八が許せなかった。だから、殺したと……」

右京「そんなところです」

冠城「子供に殺意を向けられるような事をしておいて、その平良って男はよく教師としてやっていけてましたね」

右京「どうやら、周りの大人は彼の仕返しを怖がって、見て見ぬふりをしていたようなんですよ」

「これは後から知った事ですが、当時の校長も平良荘八の仕返しと周囲から糾弾される事を恐れ、教師達に強く口止めしていたようです」

冠城「つまり、平良荘八を止める大人がいなかったから、手塚先生は自分の手で制裁を加えた訳ですか……」

右京「そして、自分に疑いの目が及ばないよう、学校の近所アパートに住んでいた『佐々木文宏』という男に自身の罪を擦り付けようとしました」

冠城「佐々木…そいつが、ボウガンの所持者ですか」

右京「佐々木は親のすねをかじっているばかりの男で、常日頃から通学中の小学生をボウガンで脅かしていました」

「それでいて、平良荘八にその事を注意されたことがあります」

「手塚先生がスケープゴートに彼を指定したのも、その一連の出来事があったからでした」

「彼曰く『クズを殺した犯人は、クズがなるのが一番だ』と……」

冠城「そして、手塚先生の罪をあなたが暴いた」

「暴いて……その後、どうしたんです?」

右京「僕の『かつての相棒』が『かつての親友』と彼を引き合わせました」

「そうする事で、手塚先生を犯罪の道から引き離したのです」


そう語る右京の脳裏に『初代相棒』の『亀山薫』と
今は亡き『平成の切り裂きジャック』にして『亀山の親友』だった『浅倉禄郎』の姿が思い浮かんだ。


右京「事件が終息した後、手塚先生は恭子さんに引き取られて東京を去りました」

「自身の犯した罪を、どう償えばいいのか。その答えを、彼女とともに探す為に……」

冠城「その出した答えが、自分が慕っていた人と同じ教師になり、同じ悲劇を繰り返さないようにすること…その為に、東京に帰ってきた」

「けれどその彼が、またしても殺人事件の容疑者になってしまった」

「いったい、何が起きたんだ?」

右京「まずは、鑑識課に行きましょう。吉田先生がボウガンで殺されたというのが気になります」


こうして特命係の2人は、ボウガンの事を確かめるため、
鑑識課にいる伊丹の同期の男、『益子桑栄』の下を尋ねた。
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 14:47:32.28 ID:i/o/WJrU0
益子「凶器のボウガンを見せて欲しい?」

右京「えぇ…」

冠城「どうしても、気になる事があるそうで……」

益子「そう言われても、容疑者はとっくに逮捕されてるしなぁ……」

冠城「見せてくれたら『コレ』……あげますよ?」


そう言って冠城は小さい紙を見せる。


益子「……ん!?」


冠城が見せた紙を見た瞬間、益子は目の色を変えて紙を凝視する。
その紙は映画のチケットであり、『キャット・ザ・ドキュメント』というタイトルが書かれてあった。


益子「そ、それは…!今度上映されるキャット・ザ・ドキュメントの前売りチケット!?」

冠城「えぇ…益子さんの為に、恥を忍んで買っておいたんですよ」

益子「な…なんだよ!そんなもの持ってんなら先に言えよ!」

冠城「じゃあ見せてくれますね?凶器と思われるボウガン」

益子「もちろんだ。ちょっと待ってろ」
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 14:48:52.04 ID:i/o/WJrU0
右京「これが、吉田先生殺害の凶器ですか…」

冠城「この矢が吉田先生に刺さっていたんですね?」

益子「あぁ…コイツで心臓を射抜かれたのが致命傷になったようだ」

「死亡推定時刻は、今日の深夜1時から3時の間……」

「ボウガンと矢の形式、矢に付着した血液が被害者のものと一致している。コイツが凶器で間違いない」


冠城「1時から3時の間……」

「右京さん、手塚先生が電話で呼び出されたのは確か……」

右京「深夜1時頃です」

冠城「手塚先生は、吉田先生が殺された前後に呼び出された」

右京「…ボウガンの指紋は?」

益子「手塚の指紋が検出されたが、それ以外の指紋は出なかった」

冠城「手塚先生の逮捕は、それが決め手ですか……」

益子「それだけじゃない」

「伊丹に言われて、米沢が16年前に担当した事件の資料と照合してみたら、このボウガン16年前に手塚が平良荘八殺害に使用したボウガンと、同じタイプだったんだよ」

冠城「16年前と同じタイプ……見た感じ古そうですし、同一のものでしょうかね?」

益子「さあな…そこまでは分からねえよ」

右京「……」
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 14:49:37.44 ID:i/o/WJrU0
右京は目の前にあるボウガンを神妙な面持ちで見た後、
「ところで、他に何かありませんでしたか?」と改めて益子に尋ねた。

益子「何だよ。凶器が見たかったんじゃ……」

冠城「教えてくれたら、このチケットあげますよ」

益子「分かった待ってろ」


再び猫ちゃんパワーに負け、益子は毛が数本入った袋を持ってくる。
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 14:51:06.76 ID:i/o/WJrU0
右京「毛髪ですか」

益子「手塚が証拠隠滅を図った可能性があったからな、周辺を徹底的に調べてみたんだ」

「それで、現場にあったトイレから見付けたってわけだ」

「とはいえ、手塚や吉田のものと一致するDNAを持つものはなかったがな」

冠城「トイレなんて誰でも使うから、事件と関係ない人の毛は、いくらでもあるでしょうね」

益子「まあ、そうなんだが……」
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 14:51:46.23 ID:i/o/WJrU0
右京「どうしました?」

益子「実は、トイレ以外にも被害者の衣服や、現場から出入り口にかけての場所からも見付かったんだ」

「調べてみたら同一人物の毛髪だったが、前科者に一致するものがなくて、誰のものかは不明だ」

「けど妙なのは、コイツから陽性反応が出ている事なんだ」

冠城「陽性反応…という事は、ウイルスにかかったもしくは薬物に手を染めた人間のものという事ですか」

益子「だが、ガイシャも容疑者も徹底的に調べてみたが、そっちは陰性だった」

「そしたら、急に組対の課長がやってきて『これは自分達が調べるべきヤマかもしれない』つって、髪の毛の持ち主の捜査権を一課から持っていっちまいやがった」

「何でも、今追っている麻薬の密売グループと関係あるかもしれないとか……」

冠城「そういえば角田課長、確かにさっきあなたの所に行ったと言っていましたね」

益子「まぁ、伊丹達は殺人とは無関係だろうと思って、ほっといてるみたいだけどよ」

右京「……」
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 14:52:21.68 ID:i/o/WJrU0
益子「どうだ?満足か」

右京「えぇ…どうもありがとう」

冠城「コレ、お礼です」

益子「うおぉ〜!ありがとなぁ」


益子が嬉しそうに、冠城から猫映画のチケットを受け取る中
右京は、気になるような視線を、ボウガンと髪の毛に向けていた。
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 14:56:20.08 ID:i/o/WJrU0
―東京都 世田谷区―


特命係の2人は、栄第三小学校を訪れた。

右京が16年ぶりに訪問してみたその学校は、ある程度整備された様子が見られたが、
それ以外は16年前とほとんど変わりなかった。

しかし今の特命係の2人にとって、学校の見た目の変化はまったく重要ではなかった。

2人は、手塚と吉田のことを聞きに、校長室を訪れる。


校長「どうも……校長の『為房栄三(ためふさ えいぞう)』です」

教頭「教頭の『時田正敏(ときだ まさとし)』です」


校長室にいたのは為房と名乗る校長だけでなく、時田と名乗る教頭も一緒であった。
頭を下げながら名を名乗った2人に対し、特命係の二人も自分の身分と名前を明かしながら頭を下げる。

そして為房校長に「さ…お掛け下さい」と促され、特命係の二人は椅子に腰かけ、
校長たちもそれに続いて机を挟んだ向かい側の椅子に座る。


右京「既に、ご存知だと思いますが。昨晩、こちらに努めている吉田先生が何者かに殺害されました」

「現場の状況などから、捜査一課は手塚先生を容疑者として確保しました」

「現在、正式に逮捕され、警視庁で拘束されている状態です」

為房校長「えぇ…ですから、先程緊急の会議を済ませたばかりなんですよ」

時田教頭「でも、どうして?逮捕したんでしたら、わざわざここに来る必要なんてないはずでは……」

右京「本来ならそうなのですが、相手が容疑を否認しているものでしてねぇ……」

冠城「それどころか、『自身の無実を証明してくれ』と我々に頼んできたのです」

時田教頭「それだけで…ですか?」

冠城「僕達、誰かに頼まれたら断れないものでして……」

右京「ですので、また同じような質問をする事になるのを、ご了承下さい」

時田教頭「は、はあ……」

為房校長「分かりました」
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 14:58:19.24 ID:i/o/WJrU0
特命係の2人の説明を聞き、了解の意思を見せる教頭と校長。

そうして、右京は話の本題に移る。


右京「手塚先生が、吉田先生を殺害するのに充分な動機があると伺ったのですが、それはどのようなものなのでしょうか?」

為房校長「……」

時田教頭「……」


右京の質問に為房校長と時田教頭は、お互い顔を見合わせた後、時田校長が口を開いた。


時田教頭「1週間前の事なんですが……」

「吉田先生が、手塚先生を怒鳴って突き飛ばした事がありましたね」

右京「吉田先生が手塚先生を……」

冠城「どうして?」

為房校長「我々も吉田先生に理由を尋ねたんですが、我々には関係のない事だと言って、話してくれませんでした」

「手塚先生にも同様の事を聞きましたが、『彼が凄く焦っている様子だったので、気にかけたら怒られた』との事で、それ以上の理由は知らないと」

時田教頭「私も現場を見たのですが……『前科者が同情なんかするな!』と言っていたのは覚えています」

右京「他にもその現場を目撃した方は?」

時田教頭「多くの教職員が目撃しています。嘘だと思うのでしたら、聞いてみて下さい」

「会議も終わって間もないですし、まだ何名か残っているはずです」

右京「そうさせて頂きます」

冠城「ちなみに、殺された吉田先生はどんな人物だったんですか?」

為房校長「普通の方でしたよ。あまりにも普通で、恨まれる要素を探す方が大変な人です」

「それだけに、焦っていた様子が際立っていたくらいで……」

右京「なるほど……」
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 14:59:15.46 ID:i/o/WJrU0
冠城「ところで、話しが変わりますが……手塚先生は、かつてこの学校の生徒だったんですよね?」

為房校長「はい…前の校長と、こちらの時田君から話は聞いています」

時田教頭「……」

右京「ちなみに、この学校でこの事を知る方は……」

為房校長「この学校の職員全員が把握しています。手塚先生が、自ら話したそうです」

右京「なるほど、手塚先生がご自分で……」

冠城「こんな事を言うのも何ですが……よく、この学校で3年もいられましたね」

為房校長「実を言うと彼、教師として腕がかなり立つ方でしてね、研修の時点でプロかと思えるような腕前だったんですよ」

「おまけに、人当たりもかなり良くて……この3年で、彼のことを頼りにする職員や彼を慕う生徒も増えていました」

右京「人当たりが良かった……ですか」


人当たりがかなり良い……

当時小学生だった手塚守は、大人顔負けの頭脳の持ち主であり、
そのことが災いして響子以外の人間をあまり寄せ付けないような人物であった。

それが、人当たりが良いと評価される日が来るとは……

16年前の手塚を知っている右京は、
あの事件がきっかけで手塚の性格が変化した事を感じ取った。
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 15:01:22.70 ID:i/o/WJrU0
時田教頭「しかしその矢先、今回の事件ですよ」

「平良先生に引き続き、今度は吉田先生が、あのボウガンで殺されるなんて……16年前と全く同じです」

「結局、前科者は前科者でしかないのしょうか?」

為房校長「時田君…そう決めるのはまだ早いよ」

時田教頭「し…しかし、現に手塚先生は逮捕され……」

「あ…!」


その時、急に時田教頭の手が震え始める。


冠城「大丈夫ですか?」

時田教頭「し、失礼……」


と言って教頭は、懐から栄養剤のラベルが張られた薬瓶を取り出すと、
ふたを開けて中の錠剤を出し、それを噛んで飲み込んだ。


冠城「……」


それを見た冠城は、何故か時田教頭に顔を近づけ薬瓶や彼をまじまじと見つめた。
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 15:02:30.51 ID:i/o/WJrU0
時田教頭「な…なんですか?」

冠城「あぁ、いえ……」

「それって、栄養剤ですよね?噛んで大丈夫なのかと思いまして……」

時田教頭「あ…実は私、昔から薬は噛んでイケるクチなんですよ」

冠城「変わってますね」

時田教頭「よく言われます…」

右京「そういえば、随分とやつれていらっしゃいますねぇ……」

時田教頭「最近、栄養失調気味で……」

「ほら、昔手塚先生のことで色々ありましたし……」
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 15:04:39.15 ID:i/o/WJrU0
右京「確か、平良荘八の件で批判を受けたそうですね?」

時田教頭「はい…事件解決後、平良先生の悪行が何処からか流れ、その上犯人が手塚先生であるという噂も広まりましてね……」

「『平良先生に対する学校の抑止力不足が、罪もない子供を人殺しにしたんだ』とか、言いたい放題いう人も多かったんです」

右京「その際、前の校長先生は退職。教頭先生も、心労でお辞めになられたとか……」

時田教頭「その前の教頭が、私の兄です。兄が辞めた後、経験を積んでいた私が後を継ぐ形で、今の教頭になりました」

「それから校長と共に体制を立て直すのに、どれだけ苦労したことか……」

右京「なるほど……だから、手塚先生の事をよく知っていらしたのですね?」

「しかし、その時からこの学校の…それも、教員だったとは驚きです」

時田教頭「刑事さん、手塚先生や恭子先生とばかり会ってましたからね……知らないのも無理ありません」

右京「……」
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 15:05:25.70 ID:i/o/WJrU0
右京「さて、本題に戻りますが……」

「吉田先生が手塚先生を突き飛ばした事以外に、特に変わった点はなかったのですね?」

時田教頭「はい」

為房校長「私達の知る限りでは……」

右京「分かりました」

冠城「お時間取らせて、すみませんね」

為房校長「滅相もない!むしろ、あまり力になれなくて申し訳ないくらいですよ」

「とにかく、一刻も早く手塚先生の無実が証明されることを、願っています」

右京「では、これで……」


一通り話し終わって両者立ち上がり、特命係の2人はお辞儀をして立ち去ろうとする。


右京「あ!最後に、ひとつだけ……」


だが右京は、そう言ってパンッと手を叩いて人差し指を立てると、時田教頭に向き直る。
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 15:09:34.46 ID:i/o/WJrU0
右京「教頭先生…その両手の甲は、どうされたのでしょうか?」

時田教頭「え…?」


右京の指摘した通り、時田教頭の両手の甲には絆創膏が2・3枚ほど貼られていて、
更に良く見ると、細かな傷らしき跡がはみ出ているのも散見された。


時田教頭「じ、自分で料理しようとした時、誤って包丁で切っちゃいまして……」

右京「そうですか。野暮な事を聞いてしまいましたねぇ……」

時田教頭「気にしないで下さい…こんなの着けてたら、誰だって何かあったって思うでしょうし……」

右京「……」


申し訳なさそうにしている教頭。

そんな彼をジッと見た後、今度こそ特命係の2人は部屋を後にした。
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 15:11:30.00 ID:i/o/WJrU0
時田教頭「……」

為房校長「時田君……」

時田教頭「大丈夫です。それより重要なのは、今回の件をどうするのかという事ですよ…」

為房校長「……」

「そうだったな……」
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 15:12:33.10 ID:i/o/WJrU0
―職員室―


特命係の2人は、まずは男性教師の1人に話を聞いてみることにした。


男性教師A「手塚先生と吉田先生の事ですか?」

右京「はい」

冠城「先程、校長先生たちにも話を伺いましたが、1週間前に吉田先生が手塚先生とちょっとしたトラブルがあったそうですね?」

男性教師A「はい」

冠城「そうなった原因に、心当たりありませんかね?」

男性教師A「多分…吉田先生が焦ってたからだと思います」

冠城「吉田先生が、焦っていた?」

右京「校長先生も言っていましたが、何故吉田先生は焦っていたんですか?」

男性教師A「分かりません」

「なんせ、その事を気遣った手塚先生に対して、ああだったわけですし……我々が聞いたところで、たかが知れてますよ」

右京「そうですか…それは残念です」

男性教師A「ところで、吉田先生を殺した犯人は手塚先生のはず…ですよね?」

右京「確かに、その事で逮捕されましたが、否認しているのでまだ何とも……」

冠城「ですので、吉田先生に変わった事は他にもなかったのか、聞きにきた次第で……」
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 15:13:46.28 ID:i/o/WJrU0
男性教師A「……」


冠城がその事を聞いた途端、男性教師は急に気まずい顔をして黙ってしまった。


冠城「……」

右京「…どうかされましたか?」

男性教師A「い…いいえ。特に何も……」

「それより、手塚先生と吉田先生の事ですけど。他に心当たりはありませんよ」

右京「そうですか?」

冠城「本当に何も知らないんですか?」

男性教師A「知りません。あんな事があったから手塚先生、つい頭に血が上って殺ってしまったんでしょう」

「嘘だと思うなら、他も当たってみて下さいよ」


突き放すように言うと、男性教師は話を終わらせてしまう。

その様子を不審に思いつつも、特命係の2人は他の教師に話を伺ってみたが……
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 15:18:34.10 ID:i/o/WJrU0
男性教師B「手塚先生を突き飛ばした以外で、吉田先生に何かなかったかって?」

右京「えぇ…」

冠城「他に何か知りませんか?」


男性教師B「そ、そんなの知りませんよ!原因も他に考えられません」


女性教師A「わ、私…!その時の事以外、何も知りません。先週の事が原因に決まっていますよ……」


男性教師C「吉田さんが手塚さんを突き飛ばしたこと以外、何も知らないよ。だから、手塚さんが犯人じゃないか?」


男性教師D「でなきゃ、アンタらあの人捕まえないだろうよ」


と、全員口を揃えて『吉田が手塚を突き飛ばしたこと以外、何も知らない』

『手塚が犯人なのではないか』と証言した。


そして、特命係が最後に話を伺った女性教師も……
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 15:20:50.49 ID:i/o/WJrU0
女性教師B「す、すみません…私、その時の事以外は何も……」

冠城「そうですか…」

右京「……」


こうして、一通り話を聞き終えた特命係の2人は、
有力な証言は得られないだろうと判断し、教職員の態度に不信感を募らせながら学校を後にした。
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 15:24:57.64 ID:i/o/WJrU0
学校を後にした2人は、吉田の殺害現場である世田谷区某所の公園に足を運んだ。

到着すると、右京は現場を見て回り、
冠城がこの公園から手塚の自宅まで歩いてどれほど掛かるかを確かめに向かった。

そして数分して、右京のところへ冠城が戻ってくる。


冠城「右京さん。手塚先生の自宅とこの公園の距離を確かめてみましたが、それほど離れていませんでした」

「歩いて10分程度の距離です」

「確か吉田先生の死亡推定時刻は、午前1時前後……」

右京「手塚先生でも、余裕をもって来ることは可能……ですか」

冠城「それと、付近の防犯カメラなんですが……」

「どうも昨日の夕方、何者かに全て壊されてしまったようで、犯行のあった時刻の映像は記録されていませんでした」

右京「壊されていた?」

冠城「はい。警備会社にも確認を取ったので、間違いありません」

「しかし、壊される直前の映像を見せてもらったところ、妙なことに犯人が映っていなかったんですよ」

右京「……」


監視カメラに映らないようにしながら、監視カメラが破壊された。

それも、昨日の夕方に全て同時に……

余程慣れた人間でなければ、できない芸当だ。
しかも、壊されたカメラは犯行現場付近一帯のもの。

とても偶然とは思えない。

報告を聞いた右京は、今度は自分がこの場で確かめたことを冠城に伝える事にした。
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 15:26:42.13 ID:i/o/WJrU0
右京「僕もこの現場一帯を見て回りましたが、この場所で隠れられそうな所は、あのトイレしかありませんでした」

冠城「あそこって確か、髪の毛が見つかった場所ですよね?」

右京「おまけに、吉田先生の遺体の比較的近くにありました」

「ですが…あの場所から、手塚先生の髪の毛は見付かっていません」

冠城「妙ですね……」

「ボウガンは、音もたてずに離れた相手を殺傷するのに特化してはいるけど、あれほどの大きさの物を持ったままでいるのは得策ではない」

「何処かに隠すか、ボウガンごと隠れる必要があります」

「手塚先生がそうするには、あのトイレに隠れる以外に手はなかったはずです。なのに、彼のいた痕跡が見付からないなんて……」

右京「それも気掛かりですが、それ以上に気になる事があります」

「吉田先生は、何故この場所に来たのでしょうか?それも、夜の1時という夜更けに……」

冠城「確かに…何ででしょうね」

「この公園は、昼間も利用者が少なくて、夜に至ってはほとんど無人……」

「誰もいない公園で、何を…?」
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 15:28:06.73 ID:i/o/WJrU0
右京「やはり、学校で焦っていた事と、何か関係があるのでしょう」

冠城「じゃあ、吉田先生の自宅に行ってみましょう」

「こんなこともあろうかと、住所なども調べておきました」

「どうやら彼、会社勤めの奥様と2人暮らしであったようです」

右京「君、先を読むのが得意ですねぇ…」


こうして特命係の2人は、吉田の自宅を訪れる。

そこで、吉田の妻である『吉田みさき』と対面した。
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 15:29:35.26 ID:i/o/WJrU0
みさき「申し訳ございません……特におもてなしもできなくて……」

冠城「いえいえ…僕たち、話を聞きにきただけですので、どうかお気になさらず……」


吉田の件でバタバタしていたのだろう、
お茶を満足に出せなかったことをみさきは真っ先に謝罪した。


みさき「ところで、主人を殺した犯人を捕まえた事は、今朝そちらから聞かされたばかりなのですが……」

冠城「それが…容疑者が、無実を主張していましてね。念の為に再度、事実確認をして回っているんです」

右京「お手数をおかけします」

みさき「そ、そうですか……」

「…で、主人の何を?」
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 15:30:49.89 ID:i/o/WJrU0
右京「先程、ご主人が勤めている学校で聞いたのですが…」

「ご主人は最近、ひどく焦っていらしたとか……」

冠城「どうやら、その事で容疑者と少しばかり揉めたそうですが、旦那様が焦っていた理由に、何か心当たりはありませんか?」

みさき「……」

「それはきっと、私のせいですよ……」

冠城「あなたのせい?」
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 15:32:00.78 ID:i/o/WJrU0
みさき「……実は私、会社での失敗が原因で、借金を背負ってしまいまして……」

右京「借金を、ですか?」

みさき「はい……」

「はじめは、主人とお金を出し合って順調に返済を進めていたのですが、結局それだけでは間に合わず、現在返済期限が差し迫っている状況で……」

「学校で焦っていたのは、その事で間違いありません」

「私も、それで何度か主人と衝突したことがあります。しかし……」

右京「しかし…?」

みさき「この間、主人が妙なこと言ってたんですよ」

「『もうじき、借金を全部返せるようになる』と……」
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 15:33:44.20 ID:i/o/WJrU0
右京「もうじき借金を返せるようになる…」

冠城「それは、どのようにして?」

みさき「聞いてみたんですが、教えてくれませんでした」

「変ですよね…冬のボーナスとか、まだ先なのに……」

冠城「……」
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 15:38:55.12 ID:i/o/WJrU0
右京「…ところで、ご主人の遺体が公園で見付かったわけですが、殺される前にご主人は何か言っていませんでしたか?」

みさき「分かりません」

「昨日、出掛ける際に『今日は用事があって帰りが遅くなる』としか言っていなくて……」

「しかし、朝になっても帰ってきていなくて……探しに行こうと思ったら、刑事さん達がやって来て、主人が殺された事を聞かされたんです」

右京「用事があって遅くなる…ですか」

冠城「どんな用事があったんでしょうか?」

みさき「さあ?あの人とは結婚して随分経ちますが、こんなこと初めててで……」

右京「ちなみに、ご主人が借金を返せると言い出したのは、いつ頃あたりか覚えていらっしゃいませんか?」

みさき「確か……1週間ちょっと前あたりだったと思います」

右京「1週間ちょっと前……そうですか」


こうして、みさきから話を聞き終えた特命係の二人は吉田家から離れ、『とある場所』を目指して歩き出す。

その間、彼らは吉田の情報の整理をはじめた。
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 15:41:19.87 ID:i/o/WJrU0
冠城「吉田先生が焦っていた理由は、今ので大体分かりましたね」

「彼は、奥さんが背負った借金を、奥さんと協力して返済していた」

「しかし、それだけでは間に合わず、返済期限が目前に迫りつつあった」

「学校でも、その事が頭の中を駆け巡っていたんでしょうね。だから、最近焦っていた」

「誰にもその事を話さなかったのは、あくまで家庭の問題であり他人を巻き込みたくなかったから……」

「手塚先生を前科者呼ばわりして突き放したのは、そうしようと思うあまりついカッとなって言ってしまっただけで、本心からの言葉ではなかったのかもしれませんね」

右京「しかし、吉田先生は殺され、手塚先生が容疑者になってしまった……」

冠城「吉田先生はもうすぐ借金を返せると、奥様に言っていて、しかも殺される前日は遅くなると言って家に帰らなかった」

「恐らく、あの公園に行く為なんでしょうが、そうなると……」

右京「『あの公園で何者かから返済のお金を受け取る予定だった』と、考えるべきでしょう」

冠城「おまけに深夜の公園……後ろめたいやり方で、得ようとしたものであった可能性は高い」

右京「それに、借金を返せると言い出した時期も気になります」

冠城「1週間前というと、手塚先生とトラブルがあった時期と重なります」

「いったい、何の関係があるんでしょうね?」

右京「……」

冠城「ところで、今度は何処に…?」

右京「『ここ』ですよ……」


そう言って右京が指し示した場所は、一軒のアパートであった。
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 15:41:50.88 ID:i/o/WJrU0
冠城「アパート?」

右京「かつて、佐々木文宏が暮らしていた場所ですよ」

冠城「やっぱり、あのボウガンが気になってますね?」

右京「えぇ、とても……」


そうして特命係の2人は、佐々木が住んでいた2階の部屋の玄関まで足を運ぶ。


キンコーン!

それから呼び鈴を鳴らしてみたが、反応がない。

ノックをしても同様だ。

よく見れば、玄関のドアの側にある表札がかかっていない。
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 15:43:17.32 ID:i/o/WJrU0
冠城「表札がありません」

右京「今は住んでいないようですねぇ……」

冠城「アパートの管理人に聞いてみましょうか?」

右京「そうしましょう」


特命係の2人は、アパートの管理人のところに行き、佐々木の所在を確かめることにした。

管理人は中年の女性であり、16年前からずっと管理を担当している人物であった。
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 15:44:07.07 ID:i/o/WJrU0
アパートの管理人「佐々木文宏さん?」

右京「えぇ…先程、話を伺いに行ったところ、既に住んでいなかったようでして……」

冠城「それで、何があったのかお聞きしたくて参りました」

アパートの管理人「あぁ…あのろくでなしなら、16年前に追い出しちゃったよ」

冠城「追い出した?」

アパートの管理人「警察なら知ってるでしょ?あの人のボウガンが盗まれて、人殺しに使われた事件」

「その事件がきっかけで、あの人がボウガン使って近所の子供脅かしてる事が親にバレちゃってね、滅茶苦茶怒られたんだよ」

冠城「怒られて、どうなったんですか?」

アパートの管理人「ボウガンは取り上げられなかったようだけど、その代わり1円もお金を出してくれなくなっちゃったようでさ」

「家賃を払ってもらえなくなったんで、そのまま追い出したわけよ」
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 15:44:47.38 ID:i/o/WJrU0
右京「なるほど…あの後、そのような事があったんですね」

アパートの管理人「正直、あの人を追い出した時は、それはもう気分が良かったね」

「あの人、口も態度も悪いし、近所の人にも偉そうだしで感じ悪くって……」

「不謹慎な事言うようで悪いけど、事件の犯人には正直感謝してるよ。アレがなかったら、今も色々言い訳つけて居座ってたろうからね」

冠城「……」


この話を聞いて、冠城は思った。

『アパートの管理人にここまで言わせてしまうなんて
佐々木という男は、一体どこまでろくでなしだったのだろうか?』と……
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 15:46:46.73 ID:i/o/WJrU0
右京「では、彼のその後は知らないんですね?」

アパートの管理人「もちろんよ。親んところにも戻ってないらしいし、多分どっかでホームレスかなんかやってんじゃないの?」

右京「そうですか。では、最後にひとつだけ……」

「アパートから出られた際、彼はボウガンを持っていっていませんでしたか?」

アパートの管理人「持っていったも何も、あたしが持っていかせましたよ」

「あんな物騒なもの、置きっぱなしにされちゃ困るし、何しろあんなもん二度と見たくなかったかったからね」

右京「なるほど…つまり、彼は今もあのボウガンを持っているかもしれないと……」

アパートの管理人「それは分かんないよ。あれから大分経ってるし、もうとっくに捨てちゃってるんじゃないかしら?」

右京「そうですか、分かりました」


納得して見せた右京に対し、アパートの管理人が「もう充分かしら?」と聞き返した。
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 15:47:42.56 ID:i/o/WJrU0
右京「えぇ…貴重な情報を、ありがとうございます」

アパートの管理人「お礼を言われるほどじゃないよ」

「そんな事より、お仕事頑張ってね」

右京「もちろんです」

冠城「お邪魔いたしました」


そうして特命係の2人は、管理人の部屋から出ていった。

だが……
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 15:48:32.67 ID:i/o/WJrU0
伊丹「お邪魔します」


少しして、入れ替わるかのように捜査一課の伊丹と芹沢が入ってきたのだ。

そして入って早々、2人は警察手帳を見せる。


伊丹「警察の者です」

芹沢「16年前、こちらに住んでいた佐々木文宏の事で、お知らせに来たんですが……」

アパートの管理人「あら?また来たの?」


管理人の反応に、一課の2人は「「またぁ?」」と間抜けな声で言いながら、首を傾げた。
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 15:57:08.18 ID:i/o/WJrU0
一方、そんな事を知らない特命係の2人は、佐々木の両親も尋ねたが、管理人の言うように16年間帰っていないらしく
その上佐々木とほとんど縁を切っている様子であった為、結局佐々木の所在を確かめる事はできなかった。


その後、時間は夜になり、今日の勤務を終えた特命係の2人は、行きつけの居酒屋『花の里』に足を運び
現在この店を切り盛りする、2代目女将『月本幸子』に、今回の事件や手塚の事を話した。


幸子「小学生の時に殺人を?ちょっと、信じられませんね」

冠城「まあ、10歳の子供がそこまでするなんて、普通はあまり考えられませんよね」

右京「しかし、探せば割とあるケースですよ」

「1968年にも、イギリスで10歳の少女が2人の男児を殺害した事件を起こした、という前例がありました」

冠城「そういや、俺が特命係に出向していた頃にも、少年時代に殺人を犯してしまった人が関わった事件があったな……」
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 15:58:53.70 ID:i/o/WJrU0
幸子「けど、その手塚守さんって人、今は立派に教師やってたんでしょ?」

冠城「えぇ…校長先生曰く、プロと思うくらいの腕前だったらしいですよ」

右京「恐らく、恭子さんから教師としてのノウハウを叩き込まれたのでしょう」

「そして、少年時代から持っていた頭脳も、彼を手助けしていたに違いありません」

幸子「だとしたら、可哀想ですね。せっかく更生して、大好きな先生みたいな教師になれたのに……」

「何か同情しちゃいます……」

冠城「そう言えば、女将さんも真面目にやり直した前科者の一例でしたね」

幸子「まあ…私は幸運が重なったのが大きいですけど」

「…あ!お酒、切らしちゃいました。ちょっと取ってきます」


そう言って幸子は、店の奥に消えていく。

それを見計らい冠城は
「右京さん…色々と気になる事が、あるんじゃないんですか?」と右京に尋ねた。
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 16:00:47.09 ID:i/o/WJrU0
右京「何がですか?」

冠城「とぼけないで下さいよ」

「あの学校の教師たちの態度……明らかにおかしかったでしょう?」

右京「えぇ…まるで、聞かれたくもない事を聞かれたかのような顔をしていました」

冠城「あの学校……16年前も、平良荘八の悪行を見て見ぬふりをして、黙っていたんでしょう?」

「だとしたら、今回も誰かからの報復を恐れて、本当の事を黙っている可能性は、充分あり得ます」

「実際、教頭先生に気になる点が多い……」

「本人は、栄養失調気味だと言っていましたが、そうだと考えると、あの手の震えがどうにも説明できません」

「後は、あの手の甲の傷跡。包丁で切ったんだと言ってましたが、包丁を使って手を切るんなら、普通指を切りますよね?」

右京「仮に本当に誤って切ったとしても、絆創膏数枚では済みませんよ」

冠城「あと他に謎なのは、陽性反応が出た髪の毛ですね」

「伊丹さん達は、組対の案件だと思っているようですが、そうだとしたら被害者の衣服に付着していたのがよく分からない」

右京「それもそうですが、僕はもっと他に気になる事があります」

冠城「なんです?」

右京「君は、教頭先生が錠剤の瓶を開けた際、顔を近づける程に気にしている様子でしたが…」

「あれは何故ですか?」

冠城「……」
56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 16:02:57.84 ID:i/o/WJrU0
冠城「『匂い』が、したんです」

右京「匂い…?」

冠城「えぇ…瓶を開けた瞬間に、甘い匂いが漏れてきたんです」

「例えるなら、大河内監察官のラムネみたいな……」

右京「ラムネのように甘い匂い……ですか」

冠城「まあ、気のせいかもしれないけど……」

右京「……」
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 16:03:31.30 ID:i/o/WJrU0
右京「とにかく、明日は朝一番に青木君に、佐々木の所在を調べさせましょう」

冠城「そんなに、あのボウガンが気になりますか?」

右京「今回の吉田先生殺害には、ボウガンが使用されていました」

「手塚先生が16年前の事件で使用した凶器も、ボウガンです」

「更に凶器に使われたボウガンの汚れ……あれは、長い間手入れがされていなかったと見て間違いありません」

「それでいて、佐々木がボウガンを持ったまま追い出されたという事実……」

「とても、偶然とは思えないんですよ」
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 16:04:27.91 ID:i/o/WJrU0
冠城「これらが仕込まれたものだとしたら、相手は16年前の事件を良く知る人物……」

「しかしそうなると、ボウガンの出所や監視カメラを破壊した人物が気になりますね」

「無論、吉田先生の奥様の借金がどう絡んでいるのかも……」

右京「いずれにせよ、明日は捜査の範囲をもう少し広げましょう。話はそれからです」

冠城「了解……」


明日の捜査内容を決定する特命係の2人。

しかし、彼らがそのようなことをしている同じ頃……

警視庁特命係でもある動きを見せる人物がいた。

青木年男だ。

彼は珍しく、遅くまで残ってあるデータを確認していた。

それは、手塚守が16年前に起こした事件と彼の人物像
そして、スケープゴートにされかけたろくでなしこと佐々木文宏のものである。

中でも、佐々木のボウガン関係の記載に特に着目していた。
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 16:06:18.06 ID:i/o/WJrU0



青木「佐々木……ボウガン……」


60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 16:09:35.51 ID:i/o/WJrU0
〜補足〜

No.EX・・・シーズン1〜シーズン2で用いられていた、
オープニングの後にその回の話数が表示される演出のオマージュ。
S1第5話の続編という事で取り入れました。
EXなのは、言うまでもなく本作が本編のエピソードに属さない作品であるため。

ろくでなしの本名・・・公式名です。
S1第5話で守君が言っていた通り、ろくでなしにはちゃんとした名前があって、佐々木文宏と言う名前が設定されているのです。
実際、エンディングでクレジットされているので、暇があるならば確認してみて下さい。

平良荘八・・・これも公式名です。
クレジットでは平良表記ですが、S1第5話でイタミンや美和子さんがフルネームで呼ぶ場面があります。

時田教頭の兄・・・S1第5話の最初の方でイタミンから、平良先生殺害を聞かされていた、薄毛&眼鏡のおじさんです。
特にそれ以上の描写がないのをいい事に、弟がいたり時田と言う苗字があったり
16年前の事件と引っ掛けて破滅させてしまったりと、勝手に味付けしてしまいました……

また、今回の為房校長と時田教頭、そして吉田先生はオリジナルキャラです。
名前の元ネタはありません。

それと、右京さんの語る「1968年にイギリスで10歳の少女が起こした連続殺人事件」
と言うのは、「メアリー・ベル事件」という実際に起きた事件のことです。
詳しく書くと本編と脱線してしまうので、ググってみて下さい。

一方、冠城君の言う特命係に出向していた頃に起きた、少年時代に殺人を犯してしまった男の事件と言うのは、S14第6話のこと。
こちらも、詳しく説明すると本編と脱線してしまうので、ググるなりDVDレンタルで確認するなりしてみて下さい。
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 16:10:05.54 ID:i/o/WJrU0
例のバグに遭遇するというアクシデントがありましたが、今日はここまでです。

前回、知ってる別ジャンル単体でやると言っておいて、結局相棒単体のオリジナル作品になりました。
(原作エピソードを下敷きにした内容ですが…)

しかし今回もまた、知識不足だったり話半分で書いたりなので、
自分で言うのもなんですが、突っ込みどころ満載だと思います。
そもそも、一から事件モノを書く事自体ほとんど初めてなものでありまして……

ちなみに何故、こうなったのかと言いますと、目撃者が気に入っているのと、
相棒単体のガチモノのオリジナルSSを見掛けなかったので、
そういうのをやってみようかと思ったんですね。

本当はもっと早めに投下するつもりでしたが、
色々あって平成最後の今月に投下する事になってしまいました……


次の更新は未定ですが、4月中には終わらせるつもりです。
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:04:11.15 ID:v13ERt4d0
時間が取れたので、続きとなります。
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:05:02.92 ID:v13ERt4d0
―翌日―


右京と冠城が普段通りに出勤して特命係の部屋入ってみると、青木が後ろ手を組んだ格好で彼らを待ち構えていた。


青木「お二人とも、おはようございます」

右京「おはようございます」

冠城「今日は随分と早いな」

青木「悪いですか?」

冠城「悪いなんて言ってないだろ」

右京「丁度いいところにいらっしゃいました。実は……」

青木「手塚守の事件のことですね?」

冠城「なんだ、調べたのか」
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:06:00.60 ID:v13ERt4d0
青木「いきなり芹沢さんに呼び出されてたんで、少し気になりまして……」

「一晩かけて調べてみましたが、今捕まってる先公、相当ヤバいガキんちょだったようですね?」

「気に入らない教師を殺っちゃったどころか、他人に罪まで擦り付けようとしてたなんて……」

「あぁ、恐ろしいったらありゃしない」


わざとらしく身震いして見せる青木。

それに対し右京は「そんな事よりも、これからやって欲しい事があるのですが……」
と言ったのだが、当の青木は「『佐々木文宏の所在を突き止めろ』でしょう?」と即答した。


冠城「そんな事まで先読みしていたか……」

青木「そりゃ、16年前の事件の凶器の実質的な出所ですからね。調べないはずがないじゃないですか」

「まあおかげで、色々と『面白い事』が分かりましたけど」

冠城「面白い事?」
65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:07:23.89 ID:v13ERt4d0
青木「僕も、今回の事件に同じ凶器が使われていたのが気になりましてね、周辺でボウガンを持った人物の目撃情報がなかったか、調べてみたんですよ」

「そしたら、16年近く前からボウガンを持ったホームレスの目撃情報が、世田谷区やその周辺区域で確認されていた事が分かりました」

「警察に通報された事も何度かあったようです」

冠城「まさか…そのボウガンを持ったホームレスが佐々木文宏?」

右京「確かに、目撃されるようになった時期が、佐々木がアパートから追い出された時期と重なりますね」

青木「でしょう?けど、話はこれで終わりじゃないんですよ」

「実は、昨日あなた達が色々嗅ぎまわっている間、捜査一課の方でも動きがありましてね……」

「何でも事件の証拠を探していたら、栄中央署に呼び出されて、あるものを確認させられたみたいなんですよ」

冠城「確認させられたって…何をだ?」

青木「ホームレスの遺体です」
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:08:48.96 ID:v13ERt4d0
冠城「ホームレスの遺体?」

青木「どうやら、何者かに襲われて殺害されたそうなんです」

「ちなみに、誰なのかも既に判明しています」

「いったい誰だと思いますか?そのホームレス……」

冠城「勿体ぶってないで、さっさと言え。こっちは遊んでんじゃねぇんだぞっと」


勿体ぶる青木の顔を両手で挟み込んで、ぐりぐり回す冠城。

された本人はすぐさま振り払うと、
「はいはい分かりましたよ!せっかちだなぁ……」と言いながら、ホームレスの正体を話す事にした。


青木「そのホームレスなんですけどね、どうやら『佐々木文宏』らしいんですよ」

冠城「え?!」

右京「それは、確かなんですか?」

青木「杉下さん…16年前の事件の時に、あの男を公務執行妨害で逮捕していますよね」

「その時に取られた指紋や顔のデータ等が、一致したんだそうです」

右京と冠城「「……」」


思いがけない形で判明した、佐々木の衝撃的な現状に、さしもの特命係の2人は絶句してしてしまった。

だが、2人を襲う衝撃はこれで終わらなかった。
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:09:37.35 ID:v13ERt4d0
青木「驚くべき事は、それだけではありませんよ」

「佐々木を殺害した犯人も、手塚守らしいんですよ」

右京「手塚先生が……ですか?」

青木「えぇ…現場に証拠が残っていて、調べてみたら手塚の所持品だったみたいなんです」

「おまけにこれまで確認されていた、ボウガンを持ったホームレスとも特徴が一致しています」

「しかし現場にボウガンはなく、その代わり佐々木の住処から、吉田に刺さっていた矢と同じものが見付かっています」

「凶器のボウガンが、佐々木のものであった可能性は非常に高い」

右京「……」

青木「これで、あの先公が犯人なのは決定的ですよ」

「残念ながら、あなた方の出る幕はもうないでしょうね」


嬉しそうに語る青木。

だが、右京は……
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:12:54.07 ID:v13ERt4d0
右京「……青木君。今、手塚先生は?」

青木「伊丹さん達から取り調べを受けていますが、相変わらず黙秘を続けているみたいです」

「やれやれ……さっさと吐けばそれでおしまいなのに……」

右京「そうですか……」

「では、行きましょうか冠城君」

冠城「はい」


冠城を連れて、何処かへ行こうとし始めた。


青木「ちょっと、何しに行くんですか?」

右京「取り調べの様子を見に……」

青木「さっきの話し聞いてませんでしたか?『あなた方の出る幕はもうない』と…!」

「行ったところで同じでしょう」

右京「無意味かどうかは、実際に見て確かめてから決めますよ」

「君は、他に頼み事ができた時のため、ここで待機していてください」

「これは命令です」

冠城「そういう訳だ。何かあるまで動くなよっと!」


冠城はそう言って青木の鼻先をチョンと突きながら、右京と共に部屋を出ていき、
青木は、まるで汚い物を落とすかのように、冠城に突かれた鼻先を払う。

その直後、右京が思い出したかのように、出入り口から顔を出すと
「それと、頭の体操もほどほどにしておいて下さい。これも、命令ですよ」
と、暗にゲームをしてサボらないように釘を刺してから、出ていった。
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:14:36.21 ID:v13ERt4d0
青木「……」


苦虫を噛み潰したような表情で、特命係の2人の背中を睨む青木。

その時、組対策五課に誰もいない事に気が付いたが、
関係ないだろうと思い大して気にも留めないまま、分室に入っていくのだった。
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:15:55.34 ID:v13ERt4d0
―取調室―


青木が話したとおり、芹沢が見守る中、伊丹による手塚への取り調べが行われていた。

特命係の2人は、隣の部屋からマジックミラー越しに、その様子を静かに見守る。


伊丹「お前が昔通っていた学校の近所にいたろくでなし……ホームレスになったアイツが、遺体で発見された」

「遺体の側に手帳が落ちていた。それが、アンタの所持品だって事も分っている」

手塚「……」

伊丹「何で、アイツの襲撃現場にアンタの手帳が落ちてたんだ?」

「なんて……聞くまでもねぇよな」

「アンタが、栄第三小学校教諭・吉田敏行殺害の凶器の調達の為、アイツを殺したからだ!」

「言い逃れはできねぇぞ。殺害現場にあったボウガンが、佐々木の物だって事も分かっている」

「ここまで決定的な証拠はねぇよな?」

手塚「……」


人相の悪い表情で問い掛ける伊丹。

だが、手塚は動じる様子は見せず、無言を貫いている。

その姿に、伊丹は苛立ちの色を隠せなかった。
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:17:23.41 ID:v13ERt4d0
伊丹「この質問……何度だと思う?黙ってないで、いい加減認めたらどうなんだ?」

「アンタには、吉田を殺す充分な動機もある!証拠と状況が全てを物語ってるんだ」

手塚「……」

伊丹「何とか言えよおい!」


バンッ!!

デスクを叩き、怒声を上げる伊丹。

しかし、手塚は表情一つ変えないで固く口を閉ざしたままだ。


冠城「右京さん……」

右京「行きましょう」


彼らの様子を確認した、特命係の2人は取調室に向かった。


伊丹「クソ…!別の証拠見付けたら、認めるんじゃなかったのかよ……!」

芹沢「先輩、ずっと気になってたんですけど、この先生、子供の時からこんな人なんですか?」

伊丹「コイツが子供の頃と言ったらは、お前が一課に配属される前だったな……」

「コイツとは、平良荘八を殺した犯人の目撃情報を聞いた時にしか会った事がないんだが、あの時点で、小生意気なガキんちょだとは思っていたんだよ」



16年前の事を振り返る伊丹。

そこへ「失礼します」と言いながら、右京と冠城が入ってきた。
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:18:44.98 ID:v13ERt4d0
芹沢「もう嗅ぎ付けたんですか……」

伊丹「警部殿…今取り込み中なんで、お引き取り願います」

冠城「けど、随分と苦戦してるようですねぇ?」

伊丹「うるせえ!さっさと出てけって!」

冠城「しかし、俺達も彼から依頼を受けて動いています。顔を合わせる権利は、あるはずですよ」

伊丹「顔合わせなら、これが終わってからにしてくれませんかぁ〜?」

右京「依頼された事をおざなりにされたまま進められても、こちらとしては困るものでしてねぇ……」

「ほんの少しだけ、話しをさせてもらえませんか?」

伊丹「……」

「ほんの少しだけですよ」


長年の付き合い故だろう、断っても無駄だとすぐさま察した伊丹は、潔く取り調べの交代を了解した。

それを聞いた右京は、足早に手塚の向かい側の席に座った。
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:19:11.89 ID:v13ERt4d0

手塚「待っていましたよ、刑事さん。そちらの成果は、どうでしたか?」

右京「その前に、僕から聞きたい事があります」

手塚「何です?」

右京「……」
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:26:20.90 ID:v13ERt4d0

右京「…どうしてあなたは、証拠を残した上で犯行に及んだのですか?」

手塚「え…?」

右京「昨日、あなたが働いている学校で伺いましたが……」

「あなたは、自身に殺人の前科がある事を、周囲に明かしていたそうですね?」

手塚「そうですよ。事実を隠してても、しょうがないですから」
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:29:21.88 ID:v13ERt4d0
右京「それでいて、16年前のあなたの犯行の手口は、我々警察も把握しています」

「栄第三小学校と警視庁両方に、あなたの前科が知れ渡っていたと言える」

「そんな中で、あなたとちょっとしたトラブルを起こしたのが、吉田先生で…」

「その吉田先生が、よりにもよって、16年前と同じボウガンで殺されてしまった」

「しかも、持ち主のろくでなしは殺害され、現場にはあなたの手帳が落ちていました」

「そうなると、真っ先にあなたに容疑がかかる」

「つまり、自身が犯人である事を隠してなさすぎなんです」

「だから、とても気になります」

「ここまで証拠を残したのは、何故ですか?」


ジッと手塚の目を見ながら問い掛ける右京。
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:30:26.48 ID:v13ERt4d0
手塚「刑事さん。あなたまで、僕を疑うんですか?」

「昨日も話したじゃないですか、吉田先生の遺体を見付けたから通報したんだって」


彼の眼差しから、手塚は右京の意図を悟ったのか、黙秘ではなく否認の言葉を述べた。


右京「では、何故あなたの手帳が、ろくでなしの殺害現場に落ちていたのですか?」

手塚「無くしたんですよ。1週間前に……」

芹沢「無くしただって?」

伊丹「何で無くした手帳が、ろくでなしの殺害現場に落ちてたんだよ!」

手塚「それは、こっちが聞きたいですよ」

右京「では、無くした時の状況を教えてくれませんか?」


と、右京が聞くと手塚は
「あれは確か、吉田先生とトラブった次の日の事です」と言って、手帳を無くすまでの経緯を語り出した。
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:31:55.23 ID:v13ERt4d0
手塚「教頭先生が、その時の事でもう一度話があると言って、僕を呼び出したんです」

「けど、行ってみたら教頭先生、凄く遅れてやって来て、しかも……」

「『昨日の事を蒸し返すのはよくないと思ったから、やっぱり止めにするよ』とか言い出してましてね」

「結局何も話さずに職員室に戻ったんです」

「無くした事に気付いたのは、その後ですよ」

右京「なるほど、教頭先生に呼び出された後ですか……」

冠城「けど、よく1週間、見付からない事を不審に思いませんでしたね?」

手塚「そりゃ、あの手帳には仕事のこと以外、何も書いていませんでしたから……」

「同じ学校で働く職員が盗んだところで、何の得もないからそんなのあり得ないと思ったんです」

「大体、無くなった時の事も考えて、予備の手帳に内容を丸写ししていましたし……」
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:34:32.06 ID:v13ERt4d0
右京「要するに、単純に無くしただけだと思っていたら、何者かに盗まれていて…」

「それが、あなたに罪を擦り付ける手段に利用されてしまった……と、いう事ですね?」

手塚「恐らくそうだと思います」

「吉田先生はともかく、あのろくでなしがホームレスになってたなんて、そこの刑事さんに言われて初めて知りましたから」


そう言って、伊丹の方に顔を向ける手塚。

当の伊丹は、忌々しそうに手塚を睨み返していた。

その様子を確認した後、手塚は右京の方を向き直る。


手塚「それじゃあ、今度はこっちが聞く番ですね」

右京「その事ですが、吉田先生は奥様の借金の事で焦っていた事が判明しました」

手塚「奥さんの借金で?」

右京「完済が出来ないまま、返済期間が差し迫っていたそうです」

手塚「そうだったんですか。だったら、最初からそう言ってくれれば、よかったのに……」

右京「……」

手塚「吉田先生が殺されたのは、その事と関係あるんでしょうかね?」

右京「まだ、何とも言えません」

「しかし、いずれ全てを明らかにしてみせます」

手塚「それを聞いて、安心しました」

「引き続き、お願いします」


文字通り安心した表情を浮かべる手塚に対し、右京は「えぇ…」と軽く答えた。

それを見計らい、伊丹は「警部殿…もうよろしいですか?」と右京に聞いてくる。
すると右京は、すかさず「最後にひとつ……」と言って、ある事を手塚に聞いた。
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:35:17.02 ID:v13ERt4d0

右京「現場の公園を訪れて、伊丹さん達が来るまでの間、誰か見かけませんでしたか?」

手塚「いいえ…刑事さん達が来るまで、あの公園では僕と死んだ吉田先生だけでした」

右京「分かりました。では、これで……」


そう言い残し、右京は冠城と共に取調室から立ち去った。
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:36:35.74 ID:v13ERt4d0
―警視庁 廊下―


冠城「妙ですね…」

右京「えぇ、妙です」

冠城「あの髪の毛は、遺体に付着していただけでなく、現場のトイレなどにも落ちていた」

「仮に手塚先生が犯人で、被害者殺害後に現場にいたと仮定した場合…」

「彼はその髪の毛の持ち主を見ていないはずがない」

「しかし、手塚先生はそんな人物は見ていなかったと証言した……」

「となると、あの髪の毛が、手塚先生が現場に来る前に落ちていたものでなければ、辻褄が合わない」

「手塚先生の再犯の可能性が、限りなく薄くなりましたね」

右京「……」

冠城「次は、どうします?」

右京「佐々木の殺害現場から見付かったという、手塚先生の手帳の鑑定結果を青木君に取り寄せてもらいましょう」

「吉田先生殺害の現場同様、他に何か出ているはずですよ」

冠城「猫で釣る作戦は、昨日使っちゃいましたからね」


こうして、特命係に戻った2人は、青木に佐々木の殺害現場から見付かった
手塚の手帳の鑑定結果の資料を持ってこさせた。
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:37:43.92 ID:v13ERt4d0
こうして、特命係に戻った2人は、青木に佐々木の殺害現場から見付かった
手塚の手帳の鑑定結果の資料を持ってこさせた。


青木「はい、これが手塚の手帳の鑑定結果です」

右京「ご苦労様…」

青木「まったく……待機を命じたと思ったら、いきなりパシられるとは思いませんでしたよ」


愚痴をこぼす青木に対し、冠城は「暇じゃないだけマシだろ?」と言ってみせる。


そんな2人を尻目に、手帳の鑑定結果に目を通す右京。

そこには、指紋と筆跡が手塚のものと一致しているという事実が載っていたのだが……
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:39:35.81 ID:v13ERt4d0
右京「おや…手帳に、手塚先生以外の人間の毛髪が挟まっていたとありますねぇ……」


右京のその言葉を聞き、冠城はすぐさま彼の横までやってきて、確認の為に横から資料を覗き込む。


冠城「確かに、そのようですね」

右京「DNAの型も、吉田先生の殺害現場にあった毛髪と一致しているようです。陽性反応も出ている……」

冠城「だけど、伊丹さん達は重要視していないみたいですね」

青木「そりゃそうでしょう。状況的に考えても、あの先公の方が真っクロけなんですから」

「他部署の案件なんか、いちいち気にしてなんていられませんよ」

右京「しかし裏を返せば、これは大きな盲点と言えますよ」

「冠城君、行きますよ」

冠城「分かりました」

右京「そして青木君。君は、引き続き、待機していて下さい」

青木「それは構いませんが、まだ何か調べるおつもりなんですか?」

右京「事件はまだ終わっていませんからねぇ……」

冠城「そういう訳だから、サボるんじゃないぞ?」


そう言って、右京と冠城はまた特命係から出ていった。
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:43:00.58 ID:v13ERt4d0
―世田谷区某所の空き地付近―


冠城「それで、最初に何をするんです?」

右京「別行動と行きましょう」

「僕は、栄中央署に行って、佐々木の殺害現場の事を調べます」

「君は、栄第三小学校に行って……」

「…………おや?」

女性教師B「あ…!」


と、右京が指示を入れたその時であった。

彼らの側にある空き地から、昨日話しを聞いた女性教師Bが出てきて、彼らと鉢合わせしたのである。


女性教師B「昨日の刑事さん?」

右京「…どうやら、こっちが先になりそうですねぇ……」

こうして、女性教師Bもとい『広田(ひろた)かなえ』と出会った特命係の2人は、
そのまま彼女の自宅に移動する事になった。
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:44:08.55 ID:v13ERt4d0

―広田の自宅アパート 居間―


広田「どうぞ……」


広田はそう言って、ちゃぶ台を挟んだ向こうに座る特命係の2人にお茶を出した。


右京「ありがとうございます」


出されたお茶を、ありがたく頂く特命係の2人。

そして、一旦飲む手を止めると、右京が口を開いた。
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:47:46.86 ID:v13ERt4d0
右京「実は、あなたにも話を伺おうと思っていたんですよ」

冠城「まさか、学校を休まれていましたとはね」

広田「まあ、色々あって……」

「それはそうと、手塚先生は?」

右京「詳しい事は言えませんが、また新たな嫌疑をかけられている状態です」

「状況は、すこぶる悪いと言えます」

広田「そ、そんな……」

右京「だからこそ、あなたのお話を聞きたいんです」

広田「わ、私に何を聞きたいんですか?お話なら昨日……」

右京「いいえ…あなたは、まだ何も話していないはずですよ」

「あなただけではない、あの学校にいる方たち全員が……」

広田「だったら…何故私なんですか?」
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:53:23.54 ID:v13ERt4d0
右京「昨日、他の教員に話を伺ったところ、全員が手塚先生がやったかもしれないと答えていました」

「しかしあなたは、何も知らないとは答えましたが、手塚先生を犯人扱いするような事は言わなかった」

「この違いが気になったんです」

広田「それだけ……ですか?」

冠城「この人、細かい事が気になる人なんですよ」

広田「……」

右京「あなたがお休みで、助かりました。ここでなら、学校で言えない事も話せるはずですよ」

広田「……」

右京「ここで聞いた事は、絶対に他言しません。だから、お願いします」

「手塚先生の身の潔白を証明するには、あなたの協力が不可欠なんですよ」


真摯な言葉を投げかける右京。その顔をじっと見る広田。

彼の瞳に何かを感じたのだろう、広田は少しすると「何を聞きたいんですか?」と問いかけた。
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:55:44.97 ID:v13ERt4d0

右京「無論、吉田先生の事です。確かに彼は、手塚先生とトラブルを起こした事があったようですが…」

「今回殺害されたのは、それだけが関係しているとは思えないんです」

「学校の教員は、その事に『心当たり』があり、その『心当たり』からの報復を恐れているから、全てを話そうとしない……」

「違いますか?」

広田「……」


右京の言う事に、広田は少し間を置くと「えぇ、その通りです」と答え、そしてこう続けた。
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:58:11.63 ID:v13ERt4d0
広田「教頭先生には、昨日お会いしたんですよね?」

右京「もちろんです」

広田「あの人、なんだかやつれていたでしょう?」

右京「確かにやつれていましたねえ」

冠城「本人は、最近栄養失調気味と言っていましたが……」

広田「確かに、あの人がああなったのは、割と最近です。ちょっと前までは普通だったんですよ」

「けど、あまりにも急過ぎるんです…」

「私、まだ3年しか務めていませんが、去年までは特に何も問題ない人でした。それが突然ああなったんです」

「なので、私達教員の間で噂になってたんです。『ヤクザの友達か何かできたんじゃないか』って……」

「そして先週……見ちゃったんです。あの人が吉田先生と揉めてる現場を……」
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 10:59:57.82 ID:v13ERt4d0
右京「教頭先生が吉田先生と揉めていた……」

冠城「ちなみに、どうしてそんな事に?」

広田「遠目からだったので、よく分かりません」

「けど、他にもその光景を見た人もいたらしくて、例の悪い噂の信憑性が強くなっていました」

「その矢先、彼と揉めてた吉田先生が殺されてしまって……」

「だからみんな、今回の事件は例の悪い噂と関係があると思って怖がってるんですよ」

「だから…前科のあるあの人のせいにしたいだけなんです……!」

「そう考えると、あんな所にいたくなくって……!」

冠城「だから、仮病を使って休んだわけですか」

右京「なるほど…あなたは、嘘でも手塚先生のせいにしたくなかったわけですね」
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 11:01:15.70 ID:v13ERt4d0
広田「私…他の学校から転勤してまだ3年ですが、その3年間あの人と一緒にやってきたから分かるんです」

「確かに手塚先生は、16年前おじさんを殺しました」

「でも…今は違う。過去の過ちをどう繰り返さないようにしているのか、真面目に考えている……」

「そんな人が、また事件を起こすとは思えません」

「だから刑事さん…お願いします!手塚先生の無実を証明してください!」


手塚守の無実を証明して欲しい……

頭を下げて頼み込む広田に対する、特命係の2人の答えはひとつだけだ。
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 11:05:33.23 ID:v13ERt4d0

右京「よく話してくれました。あなたの証言は、彼の潔白を証明する重要な手掛かりになるでしょう」

冠城「後は俺達に任せて下さい」

広田「あ…ありがとうございます!」


こうして、広田から情報を得た特命係の2人は、広田の自宅を後にした。

そして人気のあまりない道で、これまでの情報の整理を始めた。
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 11:06:03.72 ID:v13ERt4d0

冠城「事件の背景が一気に見えてきましたね」

右京「教頭先生は、16年前あの学校の教師を務めていました」

「しかし、手塚先生の起こした事件が原因で、前の教頭である彼の兄は精神を病んでしまい退職」

「そこに原因となった人物が再び姿を現し、真面目に働く人間になっていた……」

「それを見て、心中穏やかでいられるはずがありません」

冠城「おまけに、彼は吉田先生と何か揉めていた……」

「何故揉めていたのかは不明ですが、少なくとも吉田先生の方は奥さんの借金が関係している可能性がありますね」

右京「では、今度こそ別行動といきましょう」

冠城「分かりました。」

「それで、俺は何をすればいいんです?」

右京「それはですねぇ……」


右京は、冠城にして欲しい事を話し、彼はそれを了承。

こうして2人は、別行動を開始した。
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 11:07:39.95 ID:v13ERt4d0

まず、冠城と別れた右京は、世田谷区栄中央署を訪れたのだが、
そこで思いがけない人物と再会した。

それは、16年前の平良荘八殺害の現場に居合わせた、所轄の刑事である。

しかもこの16年間、何があったのか警部に昇進していた


所轄の警部「いやぁ…お久し振りですね」

右京「こちらも、久し振りです」

所轄の警部「あの後、あなたが何者なのか調べましたけど、まさか噂の特命係の係長でしたとは……」

右京「大した事ではありませんよ」


謙遜の言葉を述べる右京。

その後、所轄の警部は「あ…私、『輿水聖治(こしみず せいじ)』と申します。以後よろしく」と自己紹介を入れた。
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 11:09:28.52 ID:v13ERt4d0
輿水警部「ところで、用事は確か……」

右京「佐々木文宏殺害の件です。少しばかり、現場の資料を見せて頂けませんか?」

輿水警部「構いませんが、犯人の目星は付いているはずでは…?」

右京「それが、どうにも不審な点が多いものでしてねぇ……今一度、調べてみようかと」

輿水警部「……分かりました。ちょっと待ってて下さい」


若干腑に落ちない様子を見せながらも、輿水警部は佐々木の殺害現場の資料を持ってくる。


輿水警部「こちらです」

右京「……」


そして右京は、出された資料や現場写真に目を通す。

現場写真には、殺された佐々木文宏も映っており、
その顔は16年前に出会った当時より老け込み尚且つ無精髭を生やし
髪の毛がボサボサな、みすぼらしいものに変わってしまっていた。

右京はそんな変わり果てた佐々木の顔を確認すると、次は死因の方に目を通した。
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 11:14:19.94 ID:v13ERt4d0
右京「刃物で心臓を一突きにされ、即死……ですか」

「それ以外に、目立った外傷はないようですね」

輿水警部「この事から最初、犯人は殺人のプロだと思ったんですが……」

「手帳の内容を調べてみたら、16年前の平良荘八殺害事件の犯人が捜査線上に浮かび上がってきましてね」

右京「それで、伊丹さん達を呼んで確認を取ったわけですね」


輿水警部の話を聞きながら、右京は遺体の死亡推定時刻や状態に関する記載に目を通す。


右京「死亡推定時刻は、3日前の深夜11時〜1時の間……」

「その時間帯には雨が降っていて、事実遺体は濡れていた」

「しかし発見時は、屋根のある寝床に戻された状態で、手塚先生の手帳も寝床の中から見付かったそうですね」
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 11:15:24.49 ID:v13ERt4d0
輿水警部「引きずった跡もありましたし、何しろ寝床の外に血痕が多く残されていましたからね、移動させられたのは間違いありません」

右京「ちなみに、第一発見者は?」

輿水警部「分かりません。何せ、『とくめい』の電話だったもので……」

右京「『とくめい』ですか……」

輿水警部「決して、あなたの事じゃないですよ?名前を名乗らない方の『匿名』です」

右京「それは言われないでも、分かっているのですが?」


右京に突っ込みを入れられ、輿水警部は「す、すいません…」と謝った。

それを確認して右京は、改めて電話が何処から掛けられたものかを尋ねた。


輿水警部「現場近くの電話ボックスから掛けられた事だけは、分かってるんですが……」
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 11:20:51.94 ID:v13ERt4d0
右京「どうしました?」

輿水警部「それが、あの付近の防犯カメラが、何者かに壊されていましてね……」

「特定しようにも、手掛かりがないんですよ」

右京「では、カメラを破壊した犯人は?」

輿水警部「死角から壊されたみたいで、そちらも特定は難しそうです」

右京「……」


防犯カメラが壊された……

確か、吉田の殺害現場付近のカメラも同様の状態だった。
それでいて壊した犯人は、カメラに写らないようにしながら破壊している。

右京は、とても偶然とは思えなかった。

そして、これまでの話から、大きな違和感も感じていた。
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 11:21:24.23 ID:v13ERt4d0

その後右京は、輿水警部にお礼を言って署を出ると、スマホで青木に電話を繋ぐ。


右京「青木君…今、暇ですか?」

青木『えぇ、暇ですよ。誰かさんが待機を命じたおかげでね』

右京「それでは、今から調べて欲しい事があります」

青木『何ですか?』

右京「……」
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 11:22:04.17 ID:v13ERt4d0


「栄第三小学校の、広田かなえさんの事です」

100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 11:22:35.07 ID:v13ERt4d0

―栄第三小学校・校長室付近のトイレ前―


教頭の時田が、用を終えて出てきたのだが……


時田教頭「…?」


トイレから出てきた彼の目の前に、冠城亘が待ち構えていた。
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 11:23:39.21 ID:v13ERt4d0
冠城「どうもこんにちは、教頭先生」

時田教頭「昨日の刑事さん……」

「あれ?もう1人の方は……」

冠城「上司部下とはいえ、必ずしも一緒にいる訳じゃないんですよ」

時田教頭「ところで、今日は何の用ですか?お話は、昨日もしましたけど……」

冠城「いや実は、手塚先生から気になる事を伺ったもので……」

時田教頭「何ですか?」

冠城「先週、あなたは吉田先生とのトラブルの事で、再度手塚先生を呼び出した事があったとか……」
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 11:25:16.05 ID:v13ERt4d0

時田教頭「そうですよ。けど、やっぱり聞いても無意味だと思って、結局止めにしたんです」

冠城「しかしあなた、自分で呼び出しておいて、来るのが随分遅かったらしいじゃないですか」

「それでいきなり話を断ち切るなんて、随分とご勝手ですね?」

時田教頭「べ、別に構わないじゃないですか!私の判断なんですし」

「大体、警察がそんな事を聞いてどうするんですか?違法でも何でもないでしょう!」

冠城「そうですね、失礼しました。しかし……」
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 11:25:49.66 ID:v13ERt4d0

冠城「手塚先生と合流するまでの間、何処で何をしていたんです?」

時田教頭「…!」


冠城の質問に、教頭の表情が青ざめた。

その様子を、冠城は見逃さない。


冠城「…どうしました?」
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 11:28:57.40 ID:v13ERt4d0
時田教頭「い、いや…あの時、急にトイレに行きたくなって、それで遅れたんですよ」

「そんな事より、手塚先生の事件はどうしたんです?」

冠城「その事と、関係があるかもしれないんですよね」

時田教頭「と、言いますと?」

冠城「実は、16年前に近所のアパートに住んでいた佐々木文宏……通称ろくでなしが、遺体で発見されました」

「その、ろくでなしの殺害現場に、手塚先生の手帳が落ちてたんですが……」

「何でも手塚先生曰く、あなたに呼び出され、戻ってきた後に手帳が無くなっている事に気付いたそうです」

「この事から、手塚先生の手帳は何者かに盗まれた可能性があります」

「しかも、この学校の中で……」

時田教頭「……」


冠城の話を聞き、時田教頭は冷や汗を滲ませる。

その事を確認しながら、冠城は話を続ける。
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 11:29:52.46 ID:v13ERt4d0
冠城「もし、盗んだ人間がいるとしたら、この学校の関係者でしょう」

「そのような事をしそうな人物に、心当たりはありませんか?」

時田教頭「……」

「……あ、ありません」

冠城「そうですか……」

「ん…?」


その時、突然冠城は、時田教頭の頭を見ながら彼の目の前まで接近。

突然の行動に時田教頭は「な、何ですか?」と聞いたが、
冠城は無視して彼の頭を、パッパッと払う。
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 11:30:43.14 ID:v13ERt4d0

時田教頭「何するんですか!?」

冠城「失礼…ゴミが付いてるように見えたもので……」

時田教頭「最近の警察は、断りもなしに人の体に触れるのが趣味なんですか?」

「気持ち悪いから止め……あ!」


冠城の行動に憤慨していたその時であった。

突然、何故かまた両手が震え始めたのである。
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 11:31:47.91 ID:v13ERt4d0
冠城「どうかしましたか?」

時田「い…いえ!」

「こ、こんな事する暇があるなら、早いとこ事件を片付けて下さいよ!こっちも、それで忙しいんですから!」

「それではッ!!」


と、慌てたように時田は強引に話しを切り上げると、逃げるようにその場を立ち去った。


冠城「……」


一方、冠城は何処からか視線を感じて後ろを振り返ると
そこには、教師達が覗き見しており、彼と顔を合わせるや、全員逃げるように立ち去った。


冠城「……」


一旦周囲を見回して、教師が全員いなくなった事を確認すると、
冠城はどういう訳か、先程教頭が立っていた場所に目を向けるのであった。
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 11:34:41.40 ID:v13ERt4d0
―校長室―


冠城を振り切った時田教頭は、急いで懐から薬瓶を取り出すと、中の錠剤を2・3粒口にした。


為房校長「時田君」

時田教頭「!」

「こ…校長先生……」

為房校長「先程、警察の方が聞きに来ていたようだけど?」

時田教頭「え、えぇ…実に、無礼な奴でした。あんな人、もう入れないで下さいよ」

為房校長「……」


憤慨する時田教頭。

その姿に為房校長は、何か思うところがある様子であったが、
あえて表には出さず「大丈夫かい?」と問い掛けた。


時田教頭「え…?」

為房校長「何だか、疲れているように見えてね……」

「少しは休んだらどうだね?」

時田教頭「し、心配しなくても大丈夫です」

為房校長「……」

「なら、いいんだよ」


そうは言うものの、為房校長は複雑な表情を浮かべていたが、
時田教頭は、その事に全くとして気付かなかった。
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/23(火) 11:38:38.69 ID:v13ERt4d0

世田谷区某所の人の気配が限りなく薄い、寂れた街路地……

別行動をとっていた右京と冠城は、この場所で合流した。

右京「戻りましたか」

冠城「右京さん、そっちはどうでしたか?」

右京「栄中央署によると、佐々木は刃物で心臓を刺されて即死であり、抵抗した形跡もなかったそうです」

「抵抗する間もなく、一瞬で殺害されたとみて間違いないでしょう」
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