相棒「目撃者・後日談 〜16年ぶりの再会〜」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/21(日) 14:15:09.84 ID:i/o/WJrU0
例のバグで速報Rの方に立ってしまったので、立て直し実験です。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1555823709
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 14:20:25.55 ID:i/o/WJrU0
成功したので、改めて最初の部分を書かせて頂きます。
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 14:21:09.94 ID:i/o/WJrU0
以前、相棒と聲の形のクロスオーバーSS「灯台下暗し(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1526886958/)」を投下したものです。
二度目のSS投下となります。

以下は、読む前に把握していただきたい事です。

1.本作品はタイトル通り、相棒のシーズン1第5話「目撃者」の続編というコンセプトのオリジナルSSです。
該当エピソードを視聴していれば、より楽しめるかと思いますが、
それ故に同エピソードのネタバレが多分に含まれます。

2.時系列はシーズン17第3話と第4話の間。
なので相棒は冠城君で、特命係に青木君がいて、花の里も営業中です。

3.ストーリーの都合でオリジナルキャラや独自設定も出てきます。
苦手な方はご注意ください。


最後に、先述のクロスオーバーSSと世界観は共有していますが、
本作においては全く触れる事はないので、読んでいなくても大丈夫です。
むしろ、「目撃者」を観ていた方が、より楽しめるかと思います。
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 14:22:29.03 ID:i/o/WJrU0
―2018年・11月某日―


深夜……人気のない場所で密かに事件が起きていた。

その場所には、胸から血を流した、みすぼらしい風貌の男性が1人倒れている。

外見からして、ホームレスであろうか。

そのホームレスらしき男性を黒服の男が見下ろしており、
手には何かを持っている様子であった。


更に翌日、深夜1時過ぎ……

東京都世田谷区のとある公園で、また事件が起きる。

胸に何かが刺さった1人の男性が、倒れたまま動かなくなっていたのである。

そして、彼の目の前には、黒い服の青年が1人立ち尽くしている。


その青年の手には、ボウガンらしきものが握られていた。
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 14:23:59.61 ID:i/o/WJrU0
>>4いきなり抜けている個所がありました…

×→深夜……人気のない場所で密かに事件が起きていた。

〇→雨が降りしきる深夜……人気のない場所で密かに事件が起きていた。
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 14:24:46.08 ID:i/o/WJrU0
そして場面は、警視庁特命係に移る……


右京「……」

冠城「……」

青木「〜♪」


事件発生を知らない特命係は、相変わらず暇だった。

係長の杉下右京は、高々と紅茶を注ぎ舌鼓。

相棒の冠城亘は、新聞に目を通し
とある事件を起こした罰として、ここへ左遷させられた青木年男は暇なのを利用して、
『サイバーセキュリティ対策本部分室』と書かれたのれんと
パーテーションの向こうで、のん気にパソコンでゲームを楽しんでいる。

そんな中、隣の組織犯罪対策五課から課長の『角田六郎』が
「暇か?」と言いながらコーヒーを集りにきた。


冠城「まあ、暇ですね」

角田課長「だろうな。お隣さんも、サボってるみたいだし」

青木「違いますよ。暇だから、頭の体操やってるだけです」


サボりではないと言い張る青木。

一方、角田課長は「あ、そうそう。お前ら知ってるか?」
と言いながら、ある情報を特命係にもたらす。
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 14:25:29.93 ID:i/o/WJrU0
角田課長「さっき鑑識課で益子から聞いたんだけど、昨日世田谷の公園で殺しがあってよ…」

「一課の連中は、通報してきた第一発見者の男を、容疑者として捕まえたみたいなんだ」

冠城「通報者を捕まえた?」

右京「つまり、第一発見者に不審な点があったという事ですか?」

角田課長「それがその男、殺人の前科があった上に凶器を持ったまま現場にいたんで、そのまま確保したらしい」

冠城「随分と間抜けな犯人ですね」

角田課長「だろ?正直羨ましいよ」

「俺達が今追ってる連中も、こんぐらい簡単に捕まえられたらいいのによ……」


羨ましがりながらコーヒーに口を付ける角田課長。

話を聞いた右京は、「ちなみに、被害者はどのような方なんですか?」と問い掛けると
角田課長は「え?んーっと…確か……」と言って、自分の記憶を掘り起こした。


角田課長「確か、『栄第三小学校』って学校の教師だっつってたっけな」

「容疑者も、被害者と同じ学校で働いている教師らしい」

右京「栄第三小学校。久し振りに聞きましたねぇ……」

冠城「行った事、あるんですか?」

角田課長「あぁ…アンタは、知らねぇと思うけどよ、何年か前にも、あの学校の教師が殺される事件が起きたんだよ」

「しかも驚く事に、犯人はその学校の生徒だ」

冠城「学校の生徒……つまり、子供が殺人犯だった訳ですか」

「じゃあ、あなたはその事件の解決の為に、栄第三小学校に?」

右京「そんなところです」

冠城「その事件の犯人は、どんな子だったんですか?」

右京「それは……」
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 14:32:11.20 ID:i/o/WJrU0
芹沢「お邪魔しま〜す」


と、右京が犯人の少年の事を話そうとしたその時、捜査一課の『芹沢慶二』が特命係に入ってくる。


角田課長「あ…芹沢」

右京「おや…どうなさいましたか?」

冠城「一課は今、世田谷の殺しの件で忙しいんじゃありませんか?」

芹沢「やっぱり…もう、ご存知でしたか」

冠城「たった今、課長から聞かされたもので」


冠城の返事を聞いた芹沢は「じゃあ、話しは早いですね」と言って、ここに来た理由を説明しだす。


芹沢「実は、容疑者が働いてる学校で聞き込みしてみたら、被害者を殺す動機が充分あった事が分かりましてね」

「殺人容疑で逮捕状を取って聴取してるんですが、黙秘を続けてるんですよ」

冠城「随分と、手強い人を捕まえちゃったみたいですね」

芹沢「まったくですよ」

「もうあんまりにも口が堅いんで、先輩が業を煮やしてどうやったら口を利いてくれるんだと聞いたら……」

「『杉下さんと話をさせてくれたら、現場での出来事を全部話す』と言ってきたんです」

右京「僕と話をさせてくれたら……ですか」

芹沢「ですので、至急取調室に来て下さい、『今すぐに』」


「今すぐに」を強調する芹沢の様子に、右京と冠城はお互い顔を見合わせる。


右京「分かりました。そういう事でしたら、早速……」

冠城「でも、何で容疑者は右京さんを?その容疑者、右京さんの知り合いか何かなんですか?」

芹沢「俺もあんまり知らないんだけど、先輩曰く杉下さんとは『顔見知り』らしいんだよ」

「とにかく、実際に確かめてみれば、分かると思いますよ」

右京「もちろんです。行きましょう」

冠城「はい」


こうして特命係の2人は、芹沢とともに部屋を出て行った。
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 14:32:49.27 ID:i/o/WJrU0
角田課長「おいおい…何がどうなってんだよ?」

青木「……」

角田課長が少々困惑している一方で、青木はゲームを続けている。


角田課長「で…お前さんはサボりか?」

青木「だから…サボってるんじゃありませんって!」

角田課長「けどよ、今はアンタも特命係なんだから、留守番のひとつくらいちゃんとやっとけよ?」

青木「特命でもない人に言われたくないですね」


そう青木が返した直後、隣から「課長!いつまでコーヒー飲んでるんすか?」
「『例の奴』の調査に行きますよ!」という声が聞こえてくる。

それを聞いた角田課長は「もうそんな時間か?分かったすぐ行く!」と言って
急いでコーヒーを全て飲み干すと、足早に特命係から出ていった。

そして、残された青木はというと……
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 14:33:21.11 ID:i/o/WJrU0

青木(しかし、一課が直々に特命係を呼び出すなんて、いったい何事なんだろうね?)


と、何だかんだで2人が芹沢に呼び出された事が、少し気になっている様子であった。
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 14:35:01.60 ID:i/o/WJrU0
―取調室―


芹沢「先輩連れてきましたよ」

伊丹「ご苦労…」


芹沢に連れられた彼らを出迎えたのは、捜査一課の『伊丹憲一』である。


右京「お邪魔します」

冠城「珍しくお呼びがかかったので、参上にあがりました」

伊丹「ほんとは、そうしたくなかったんだがな……」

右京「容疑者の方は?」

伊丹「……」


右京に言われ、伊丹がデスクを見るよう促す。
促された方を見ると、そこにはデスクを挟んだ向こう側の椅子に座った1人の黒服の青年がいた。

年齢は26歳前後といったところで、妙に落ち着いた様子で右京と目を合わせる。

右京は、その青年の顔に既視感を覚えた。


右京「話を伺っても、宜しいでしょうか?」

伊丹「どうぞ…ご勝手に」


そのまま椅子に腰掛け、右京は青年と向かい合った。


右京「お待たせしました。特命係の杉下右京です」

「いきなり、このようなことをお聞きするのも、失礼かもしれませんが……前にも、お逢いになりましたか?」

青年「えぇ…お逢いましたよ」

「久し振りだな……16年前に、栄第三小学校で逢ったのが最初でしたね」

右京「16年前…栄第三小学校…!」

「もしかしてあなたは…!」

青年「もしかしなくても、僕です」
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 14:35:28.48 ID:i/o/WJrU0


「手塚守ですよ」

13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 14:36:16.83 ID:i/o/WJrU0


〜相棒シーズン17 オープニング〜

14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 14:37:59.15 ID:i/o/WJrU0
No.EX


右京「本当に久し振りですねぇ…」

手塚「『あの事件』以来、お互い顔を見せていませんでしたからね」

「ちなみに、恭子先生も実家で元気にやっていますよ」

右京「それを聞いて、安心しました」

「しかし…どうして君は、ここにいるのですか?」

手塚「上京したんですよ」

右京「上京?」

手塚「あの事件以来、先生と一緒に僕は探し続けたんです」

「僕の犯した罪をどう償えばいいのか…罪を背負った僕は何をすべきなのか…」

「その答えを……」

右京「……」


手塚「そうして見付けた答えが、『恭子先生みたいな教師になって、僕みたいな子を増やさないようにする事』でした」

「何が正しいのか、何が悪いのか…それを教えたい。そう考えたんです」

右京「それで、恭子先生の元から独り立ちしたわけですか」

手塚「でもって、3年前に栄第三小学校の教師になったんですよ」

右京「自らの母校の教師にですか……」

「色々と、大変だったんじゃありませんか?」

手塚「もちろんですよ。最初はなかなか信用されなくて、苦労しました」

「それでもめげずに続けた結果、何とかやっていけています」


まるで、昔からの友人のように会話を交わす2人の姿……

それを見た冠城は「確かに、顔見知りみたいですね、あの2人」と、伊丹に言った。


伊丹「あぁ…なんせ『ある事件の関係者同士』だからな」

冠城「事件関係者同士……」

伊丹「ここだけの話……この手塚って奴は、ガキの頃に自分の学校の教師を殺した事があるんだよ」

冠城「自分の学校の教師を殺害……」


伊丹のその言葉に、冠城は手塚の正体が何者なのか察しがついた。

そんな中、右京と手塚の会話は続く。
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 14:40:26.23 ID:i/o/WJrU0
右京「しかし、どうして君が、吉田先生殺害の容疑者に?」

手塚「それはですね……」

「あ、一課の刑事さん達。今から話しますんで、しっかり聞いてて下さい」


手塚は右京の問いに答える前に
彼らの後ろにいた伊丹と芹沢にも声をかけると、ここに来るまでの経緯を説明する。


まず最初に彼は、今日の午前1時ごろ、自宅の電話に奇妙な電話がかかってきたことを話す。

電話をかけてきた何者かは、鼻を摘まんだような男の声で……


『今すぐ近くの公園に来い』

『お前の過去について、話したい事がある』


と、言ってきたそうである。


手塚「それで言われたとおり公園に行ってみたら、同じ学校で働く『吉田敏行(よしだ としゆき)』先生が死んでいたんです」

「胸には矢が刺さっていて、現場にもボウガンが落ちていました。思わずそれを拾った僕は、確信しました」

「『吉田先生はこれで殺されたんだ』って……」

右京「…………」


手塚「それからすぐに、そちらの刑事さん達を呼んだのですが…」

「ボウガンを持ったままなのがいけなかったのか、前科ありの人間と明かしたのがいけなかったのか、そのまま取っ捕まっちゃいましてね」

「しかし、僕みたいな人がいくら容疑を否認しても、絶対信じてくれない」

「だからここは、16年前にお知り合いになった、あなたに話すのが適当と判断しました」

「というわけで、刑事さん達……今回、僕は殺していませんよ」


無実を主張する手塚守。

しかし、特命係の2人を含めたその場にいる警察官全員は、何も言わずに彼を見ている。


手塚「…やっぱり、信じてくれるわけないですよね」

「けど、嘘は言っていません。調べてみれば、分かると思いますよ」

右京「それはつまり…我々に自分の無実を証明しろと?」

手塚「あなた達特命係って、そういう所なんじゃないんですか?」

「あれから色々調べましたよ。捜査権は持っていないけど、特別に与えられた命令はなんでもやるって」

「この頼みだって、特別な命令に相当するはずですよ」

右京「…………」


しばし無言で見つめ合う2人。

手塚の目をジッと見据えた右京は、何かを理解したかのように「……分かりました」と言って席を立った。


右京「冠城君、行きましょう」

冠城「あ…はい」

「じゃあお二人とも、後はどうぞお好きに…」



そのような台詞を残し、冠城は上司とともに部屋を後にした。

それと入れ替わるように、伊丹が乱暴に椅子に座りながら、手塚を睨む。
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 14:41:53.23 ID:i/o/WJrU0
伊丹「変な奴から電話がかかって公園に行ってみたら、既に吉田先生が死んでいた?」

手塚「えぇ」

伊丹「現場のボウガンは、思わず拾っただけだった?」

手塚「そうですけど」

伊丹「嘘吐くんなら、もっとマシな嘘吐きな」

「証拠だって揃ってるし、何しろお前には吉田を殺す『充分な動機』がある事も分かってるんだ」

「それでいて、あの2人に無実を証明するよう頼むとは、どういう風の吹き回しだ?」

「そんな事しても、無意味なんだぞ?」

手塚「…………」

伊丹「チッ!まただんまりかよ……!」


伊丹は、手塚に対する苛立ちを隠す気もないようだ。

それを察したのか、手塚はこう言い出した。


手塚「そこまで僕が犯人だと仰るのなら、もっと他に証拠をあげてみて下さいよ」

「そうすれば、認めますよ」

伊丹「……」

「逮捕されておいて挑戦状か?いい度胸だ」

「だがな……そんな態度取っていられるのも今の内だぞ?」

手塚「……」
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 14:45:35.23 ID:i/o/WJrU0
―警視庁 廊下―


冠城「右京さん、ひょっとしてあの先生……」

右京「彼こそ、先程話していた16年前の殺人事件の犯人です」

冠城「まさか、過去に自分が殺した教師がいた学校の教師になっていたなんて、驚きですね」

右京「同感です」

冠城「でも…どうして彼は、殺人事件なんか起こしたんですか?」


先程聞けなかった手塚の犯行動機を聞かれ、右京は少し間を置いてから説明を始めた。


右京「既に知ってのとおり、16年前に栄第三小学校の男性教師がボウガンで殺害されました」

「被害者の名前は『平良荘八』。かつて、手塚先生の担任であった『前原恭子』さんの同僚でした」

「しかし被害者は、酒と女癖が悪い大変素行の悪い人間で、恭子さんにも手を出そうとしたのです」

冠城「それじゃあ、彼は自分の担任を守るために?」

右京「手塚先生は、その当時から大人顔負けの頭脳の持ち主で、それが災いして友人もいなければ自分を引き取った親戚とも不仲でした」

「彼にとって唯一心を許せる相手が、前原恭子さんだったんです」

冠城「だからこそ手塚先生は、恭子さんを襲おうとした平良荘八が許せなかった。だから、殺したと……」

右京「そんなところです」

冠城「子供に殺意を向けられるような事をしておいて、その平良って男はよく教師としてやっていけてましたね」

右京「どうやら、周りの大人は彼の仕返しを怖がって、見て見ぬふりをしていたようなんですよ」

「これは後から知った事ですが、当時の校長も平良荘八の仕返しと周囲から糾弾される事を恐れ、教師達に強く口止めしていたようです」

冠城「つまり、平良荘八を止める大人がいなかったから、手塚先生は自分の手で制裁を加えた訳ですか……」

右京「そして、自分に疑いの目が及ばないよう、学校の近所アパートに住んでいた『佐々木文宏』という男に自身の罪を擦り付けようとしました」

冠城「佐々木…そいつが、ボウガンの所持者ですか」

右京「佐々木は親のすねをかじっているばかりの男で、常日頃から通学中の小学生をボウガンで脅かしていました」

「それでいて、平良荘八にその事を注意されたことがあります」

「手塚先生がスケープゴートに彼を指定したのも、その一連の出来事があったからでした」

「彼曰く『クズを殺した犯人は、クズがなるのが一番だ』と……」

冠城「そして、手塚先生の罪をあなたが暴いた」

「暴いて……その後、どうしたんです?」

右京「僕の『かつての相棒』が『かつての親友』と彼を引き合わせました」

「そうする事で、手塚先生を犯罪の道から引き離したのです」


そう語る右京の脳裏に『初代相棒』の『亀山薫』と
今は亡き『平成の切り裂きジャック』にして『亀山の親友』だった『浅倉禄郎』の姿が思い浮かんだ。


右京「事件が終息した後、手塚先生は恭子さんに引き取られて東京を去りました」

「自身の犯した罪を、どう償えばいいのか。その答えを、彼女とともに探す為に……」

冠城「その出した答えが、自分が慕っていた人と同じ教師になり、同じ悲劇を繰り返さないようにすること…その為に、東京に帰ってきた」

「けれどその彼が、またしても殺人事件の容疑者になってしまった」

「いったい、何が起きたんだ?」

右京「まずは、鑑識課に行きましょう。吉田先生がボウガンで殺されたというのが気になります」


こうして特命係の2人は、ボウガンの事を確かめるため、
鑑識課にいる伊丹の同期の男、『益子桑栄』の下を尋ねた。
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 14:47:32.28 ID:i/o/WJrU0
益子「凶器のボウガンを見せて欲しい?」

右京「えぇ…」

冠城「どうしても、気になる事があるそうで……」

益子「そう言われても、容疑者はとっくに逮捕されてるしなぁ……」

冠城「見せてくれたら『コレ』……あげますよ?」


そう言って冠城は小さい紙を見せる。


益子「……ん!?」


冠城が見せた紙を見た瞬間、益子は目の色を変えて紙を凝視する。
その紙は映画のチケットであり、『キャット・ザ・ドキュメント』というタイトルが書かれてあった。


益子「そ、それは…!今度上映されるキャット・ザ・ドキュメントの前売りチケット!?」

冠城「えぇ…益子さんの為に、恥を忍んで買っておいたんですよ」

益子「な…なんだよ!そんなもの持ってんなら先に言えよ!」

冠城「じゃあ見せてくれますね?凶器と思われるボウガン」

益子「もちろんだ。ちょっと待ってろ」
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 14:48:52.04 ID:i/o/WJrU0
右京「これが、吉田先生殺害の凶器ですか…」

冠城「この矢が吉田先生に刺さっていたんですね?」

益子「あぁ…コイツで心臓を射抜かれたのが致命傷になったようだ」

「死亡推定時刻は、今日の深夜1時から3時の間……」

「ボウガンと矢の形式、矢に付着した血液が被害者のものと一致している。コイツが凶器で間違いない」


冠城「1時から3時の間……」

「右京さん、手塚先生が電話で呼び出されたのは確か……」

右京「深夜1時頃です」

冠城「手塚先生は、吉田先生が殺された前後に呼び出された」

右京「…ボウガンの指紋は?」

益子「手塚の指紋が検出されたが、それ以外の指紋は出なかった」

冠城「手塚先生の逮捕は、それが決め手ですか……」

益子「それだけじゃない」

「伊丹に言われて、米沢が16年前に担当した事件の資料と照合してみたら、このボウガン16年前に手塚が平良荘八殺害に使用したボウガンと、同じタイプだったんだよ」

冠城「16年前と同じタイプ……見た感じ古そうですし、同一のものでしょうかね?」

益子「さあな…そこまでは分からねえよ」

右京「……」
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 14:49:37.44 ID:i/o/WJrU0
右京は目の前にあるボウガンを神妙な面持ちで見た後、
「ところで、他に何かありませんでしたか?」と改めて益子に尋ねた。

益子「何だよ。凶器が見たかったんじゃ……」

冠城「教えてくれたら、このチケットあげますよ」

益子「分かった待ってろ」


再び猫ちゃんパワーに負け、益子は毛が数本入った袋を持ってくる。
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 14:51:06.76 ID:i/o/WJrU0
右京「毛髪ですか」

益子「手塚が証拠隠滅を図った可能性があったからな、周辺を徹底的に調べてみたんだ」

「それで、現場にあったトイレから見付けたってわけだ」

「とはいえ、手塚や吉田のものと一致するDNAを持つものはなかったがな」

冠城「トイレなんて誰でも使うから、事件と関係ない人の毛は、いくらでもあるでしょうね」

益子「まあ、そうなんだが……」
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 14:51:46.23 ID:i/o/WJrU0
右京「どうしました?」

益子「実は、トイレ以外にも被害者の衣服や、現場から出入り口にかけての場所からも見付かったんだ」

「調べてみたら同一人物の毛髪だったが、前科者に一致するものがなくて、誰のものかは不明だ」

「けど妙なのは、コイツから陽性反応が出ている事なんだ」

冠城「陽性反応…という事は、ウイルスにかかったもしくは薬物に手を染めた人間のものという事ですか」

益子「だが、ガイシャも容疑者も徹底的に調べてみたが、そっちは陰性だった」

「そしたら、急に組対の課長がやってきて『これは自分達が調べるべきヤマかもしれない』つって、髪の毛の持ち主の捜査権を一課から持っていっちまいやがった」

「何でも、今追っている麻薬の密売グループと関係あるかもしれないとか……」

冠城「そういえば角田課長、確かにさっきあなたの所に行ったと言っていましたね」

益子「まぁ、伊丹達は殺人とは無関係だろうと思って、ほっといてるみたいだけどよ」

右京「……」
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 14:52:21.68 ID:i/o/WJrU0
益子「どうだ?満足か」

右京「えぇ…どうもありがとう」

冠城「コレ、お礼です」

益子「うおぉ〜!ありがとなぁ」


益子が嬉しそうに、冠城から猫映画のチケットを受け取る中
右京は、気になるような視線を、ボウガンと髪の毛に向けていた。
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 14:56:20.08 ID:i/o/WJrU0
―東京都 世田谷区―


特命係の2人は、栄第三小学校を訪れた。

右京が16年ぶりに訪問してみたその学校は、ある程度整備された様子が見られたが、
それ以外は16年前とほとんど変わりなかった。

しかし今の特命係の2人にとって、学校の見た目の変化はまったく重要ではなかった。

2人は、手塚と吉田のことを聞きに、校長室を訪れる。


校長「どうも……校長の『為房栄三(ためふさ えいぞう)』です」

教頭「教頭の『時田正敏(ときだ まさとし)』です」


校長室にいたのは為房と名乗る校長だけでなく、時田と名乗る教頭も一緒であった。
頭を下げながら名を名乗った2人に対し、特命係の二人も自分の身分と名前を明かしながら頭を下げる。

そして為房校長に「さ…お掛け下さい」と促され、特命係の二人は椅子に腰かけ、
校長たちもそれに続いて机を挟んだ向かい側の椅子に座る。


右京「既に、ご存知だと思いますが。昨晩、こちらに努めている吉田先生が何者かに殺害されました」

「現場の状況などから、捜査一課は手塚先生を容疑者として確保しました」

「現在、正式に逮捕され、警視庁で拘束されている状態です」

為房校長「えぇ…ですから、先程緊急の会議を済ませたばかりなんですよ」

時田教頭「でも、どうして?逮捕したんでしたら、わざわざここに来る必要なんてないはずでは……」

右京「本来ならそうなのですが、相手が容疑を否認しているものでしてねぇ……」

冠城「それどころか、『自身の無実を証明してくれ』と我々に頼んできたのです」

時田教頭「それだけで…ですか?」

冠城「僕達、誰かに頼まれたら断れないものでして……」

右京「ですので、また同じような質問をする事になるのを、ご了承下さい」

時田教頭「は、はあ……」

為房校長「分かりました」
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 14:58:19.24 ID:i/o/WJrU0
特命係の2人の説明を聞き、了解の意思を見せる教頭と校長。

そうして、右京は話の本題に移る。


右京「手塚先生が、吉田先生を殺害するのに充分な動機があると伺ったのですが、それはどのようなものなのでしょうか?」

為房校長「……」

時田教頭「……」


右京の質問に為房校長と時田教頭は、お互い顔を見合わせた後、時田校長が口を開いた。


時田教頭「1週間前の事なんですが……」

「吉田先生が、手塚先生を怒鳴って突き飛ばした事がありましたね」

右京「吉田先生が手塚先生を……」

冠城「どうして?」

為房校長「我々も吉田先生に理由を尋ねたんですが、我々には関係のない事だと言って、話してくれませんでした」

「手塚先生にも同様の事を聞きましたが、『彼が凄く焦っている様子だったので、気にかけたら怒られた』との事で、それ以上の理由は知らないと」

時田教頭「私も現場を見たのですが……『前科者が同情なんかするな!』と言っていたのは覚えています」

右京「他にもその現場を目撃した方は?」

時田教頭「多くの教職員が目撃しています。嘘だと思うのでしたら、聞いてみて下さい」

「会議も終わって間もないですし、まだ何名か残っているはずです」

右京「そうさせて頂きます」

冠城「ちなみに、殺された吉田先生はどんな人物だったんですか?」

為房校長「普通の方でしたよ。あまりにも普通で、恨まれる要素を探す方が大変な人です」

「それだけに、焦っていた様子が際立っていたくらいで……」

右京「なるほど……」
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 14:59:15.46 ID:i/o/WJrU0
冠城「ところで、話しが変わりますが……手塚先生は、かつてこの学校の生徒だったんですよね?」

為房校長「はい…前の校長と、こちらの時田君から話は聞いています」

時田教頭「……」

右京「ちなみに、この学校でこの事を知る方は……」

為房校長「この学校の職員全員が把握しています。手塚先生が、自ら話したそうです」

右京「なるほど、手塚先生がご自分で……」

冠城「こんな事を言うのも何ですが……よく、この学校で3年もいられましたね」

為房校長「実を言うと彼、教師として腕がかなり立つ方でしてね、研修の時点でプロかと思えるような腕前だったんですよ」

「おまけに、人当たりもかなり良くて……この3年で、彼のことを頼りにする職員や彼を慕う生徒も増えていました」

右京「人当たりが良かった……ですか」


人当たりがかなり良い……

当時小学生だった手塚守は、大人顔負けの頭脳の持ち主であり、
そのことが災いして響子以外の人間をあまり寄せ付けないような人物であった。

それが、人当たりが良いと評価される日が来るとは……

16年前の手塚を知っている右京は、
あの事件がきっかけで手塚の性格が変化した事を感じ取った。
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 15:01:22.70 ID:i/o/WJrU0
時田教頭「しかしその矢先、今回の事件ですよ」

「平良先生に引き続き、今度は吉田先生が、あのボウガンで殺されるなんて……16年前と全く同じです」

「結局、前科者は前科者でしかないのしょうか?」

為房校長「時田君…そう決めるのはまだ早いよ」

時田教頭「し…しかし、現に手塚先生は逮捕され……」

「あ…!」


その時、急に時田教頭の手が震え始める。


冠城「大丈夫ですか?」

時田教頭「し、失礼……」


と言って教頭は、懐から栄養剤のラベルが張られた薬瓶を取り出すと、
ふたを開けて中の錠剤を出し、それを噛んで飲み込んだ。


冠城「……」


それを見た冠城は、何故か時田教頭に顔を近づけ薬瓶や彼をまじまじと見つめた。
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 15:02:30.51 ID:i/o/WJrU0
時田教頭「な…なんですか?」

冠城「あぁ、いえ……」

「それって、栄養剤ですよね?噛んで大丈夫なのかと思いまして……」

時田教頭「あ…実は私、昔から薬は噛んでイケるクチなんですよ」

冠城「変わってますね」

時田教頭「よく言われます…」

右京「そういえば、随分とやつれていらっしゃいますねぇ……」

時田教頭「最近、栄養失調気味で……」

「ほら、昔手塚先生のことで色々ありましたし……」
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 15:04:39.15 ID:i/o/WJrU0
右京「確か、平良荘八の件で批判を受けたそうですね?」

時田教頭「はい…事件解決後、平良先生の悪行が何処からか流れ、その上犯人が手塚先生であるという噂も広まりましてね……」

「『平良先生に対する学校の抑止力不足が、罪もない子供を人殺しにしたんだ』とか、言いたい放題いう人も多かったんです」

右京「その際、前の校長先生は退職。教頭先生も、心労でお辞めになられたとか……」

時田教頭「その前の教頭が、私の兄です。兄が辞めた後、経験を積んでいた私が後を継ぐ形で、今の教頭になりました」

「それから校長と共に体制を立て直すのに、どれだけ苦労したことか……」

右京「なるほど……だから、手塚先生の事をよく知っていらしたのですね?」

「しかし、その時からこの学校の…それも、教員だったとは驚きです」

時田教頭「刑事さん、手塚先生や恭子先生とばかり会ってましたからね……知らないのも無理ありません」

右京「……」
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 15:05:25.70 ID:i/o/WJrU0
右京「さて、本題に戻りますが……」

「吉田先生が手塚先生を突き飛ばした事以外に、特に変わった点はなかったのですね?」

時田教頭「はい」

為房校長「私達の知る限りでは……」

右京「分かりました」

冠城「お時間取らせて、すみませんね」

為房校長「滅相もない!むしろ、あまり力になれなくて申し訳ないくらいですよ」

「とにかく、一刻も早く手塚先生の無実が証明されることを、願っています」

右京「では、これで……」


一通り話し終わって両者立ち上がり、特命係の2人はお辞儀をして立ち去ろうとする。


右京「あ!最後に、ひとつだけ……」


だが右京は、そう言ってパンッと手を叩いて人差し指を立てると、時田教頭に向き直る。
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 15:09:34.46 ID:i/o/WJrU0
右京「教頭先生…その両手の甲は、どうされたのでしょうか?」

時田教頭「え…?」


右京の指摘した通り、時田教頭の両手の甲には絆創膏が2・3枚ほど貼られていて、
更に良く見ると、細かな傷らしき跡がはみ出ているのも散見された。


時田教頭「じ、自分で料理しようとした時、誤って包丁で切っちゃいまして……」

右京「そうですか。野暮な事を聞いてしまいましたねぇ……」

時田教頭「気にしないで下さい…こんなの着けてたら、誰だって何かあったって思うでしょうし……」

右京「……」


申し訳なさそうにしている教頭。

そんな彼をジッと見た後、今度こそ特命係の2人は部屋を後にした。
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 15:11:30.00 ID:i/o/WJrU0
時田教頭「……」

為房校長「時田君……」

時田教頭「大丈夫です。それより重要なのは、今回の件をどうするのかという事ですよ…」

為房校長「……」

「そうだったな……」
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 15:12:33.10 ID:i/o/WJrU0
―職員室―


特命係の2人は、まずは男性教師の1人に話を聞いてみることにした。


男性教師A「手塚先生と吉田先生の事ですか?」

右京「はい」

冠城「先程、校長先生たちにも話を伺いましたが、1週間前に吉田先生が手塚先生とちょっとしたトラブルがあったそうですね?」

男性教師A「はい」

冠城「そうなった原因に、心当たりありませんかね?」

男性教師A「多分…吉田先生が焦ってたからだと思います」

冠城「吉田先生が、焦っていた?」

右京「校長先生も言っていましたが、何故吉田先生は焦っていたんですか?」

男性教師A「分かりません」

「なんせ、その事を気遣った手塚先生に対して、ああだったわけですし……我々が聞いたところで、たかが知れてますよ」

右京「そうですか…それは残念です」

男性教師A「ところで、吉田先生を殺した犯人は手塚先生のはず…ですよね?」

右京「確かに、その事で逮捕されましたが、否認しているのでまだ何とも……」

冠城「ですので、吉田先生に変わった事は他にもなかったのか、聞きにきた次第で……」
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 15:13:46.28 ID:i/o/WJrU0
男性教師A「……」


冠城がその事を聞いた途端、男性教師は急に気まずい顔をして黙ってしまった。


冠城「……」

右京「…どうかされましたか?」

男性教師A「い…いいえ。特に何も……」

「それより、手塚先生と吉田先生の事ですけど。他に心当たりはありませんよ」

右京「そうですか?」

冠城「本当に何も知らないんですか?」

男性教師A「知りません。あんな事があったから手塚先生、つい頭に血が上って殺ってしまったんでしょう」

「嘘だと思うなら、他も当たってみて下さいよ」


突き放すように言うと、男性教師は話を終わらせてしまう。

その様子を不審に思いつつも、特命係の2人は他の教師に話を伺ってみたが……
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 15:18:34.10 ID:i/o/WJrU0
男性教師B「手塚先生を突き飛ばした以外で、吉田先生に何かなかったかって?」

右京「えぇ…」

冠城「他に何か知りませんか?」


男性教師B「そ、そんなの知りませんよ!原因も他に考えられません」


女性教師A「わ、私…!その時の事以外、何も知りません。先週の事が原因に決まっていますよ……」


男性教師C「吉田さんが手塚さんを突き飛ばしたこと以外、何も知らないよ。だから、手塚さんが犯人じゃないか?」


男性教師D「でなきゃ、アンタらあの人捕まえないだろうよ」


と、全員口を揃えて『吉田が手塚を突き飛ばしたこと以外、何も知らない』

『手塚が犯人なのではないか』と証言した。


そして、特命係が最後に話を伺った女性教師も……
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 15:20:50.49 ID:i/o/WJrU0
女性教師B「す、すみません…私、その時の事以外は何も……」

冠城「そうですか…」

右京「……」


こうして、一通り話を聞き終えた特命係の2人は、
有力な証言は得られないだろうと判断し、教職員の態度に不信感を募らせながら学校を後にした。
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 15:24:57.64 ID:i/o/WJrU0
学校を後にした2人は、吉田の殺害現場である世田谷区某所の公園に足を運んだ。

到着すると、右京は現場を見て回り、
冠城がこの公園から手塚の自宅まで歩いてどれほど掛かるかを確かめに向かった。

そして数分して、右京のところへ冠城が戻ってくる。


冠城「右京さん。手塚先生の自宅とこの公園の距離を確かめてみましたが、それほど離れていませんでした」

「歩いて10分程度の距離です」

「確か吉田先生の死亡推定時刻は、午前1時前後……」

右京「手塚先生でも、余裕をもって来ることは可能……ですか」

冠城「それと、付近の防犯カメラなんですが……」

「どうも昨日の夕方、何者かに全て壊されてしまったようで、犯行のあった時刻の映像は記録されていませんでした」

右京「壊されていた?」

冠城「はい。警備会社にも確認を取ったので、間違いありません」

「しかし、壊される直前の映像を見せてもらったところ、妙なことに犯人が映っていなかったんですよ」

右京「……」


監視カメラに映らないようにしながら、監視カメラが破壊された。

それも、昨日の夕方に全て同時に……

余程慣れた人間でなければ、できない芸当だ。
しかも、壊されたカメラは犯行現場付近一帯のもの。

とても偶然とは思えない。

報告を聞いた右京は、今度は自分がこの場で確かめたことを冠城に伝える事にした。
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 15:26:42.13 ID:i/o/WJrU0
右京「僕もこの現場一帯を見て回りましたが、この場所で隠れられそうな所は、あのトイレしかありませんでした」

冠城「あそこって確か、髪の毛が見つかった場所ですよね?」

右京「おまけに、吉田先生の遺体の比較的近くにありました」

「ですが…あの場所から、手塚先生の髪の毛は見付かっていません」

冠城「妙ですね……」

「ボウガンは、音もたてずに離れた相手を殺傷するのに特化してはいるけど、あれほどの大きさの物を持ったままでいるのは得策ではない」

「何処かに隠すか、ボウガンごと隠れる必要があります」

「手塚先生がそうするには、あのトイレに隠れる以外に手はなかったはずです。なのに、彼のいた痕跡が見付からないなんて……」

右京「それも気掛かりですが、それ以上に気になる事があります」

「吉田先生は、何故この場所に来たのでしょうか?それも、夜の1時という夜更けに……」

冠城「確かに…何ででしょうね」

「この公園は、昼間も利用者が少なくて、夜に至ってはほとんど無人……」

「誰もいない公園で、何を…?」
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 15:28:06.73 ID:i/o/WJrU0
右京「やはり、学校で焦っていた事と、何か関係があるのでしょう」

冠城「じゃあ、吉田先生の自宅に行ってみましょう」

「こんなこともあろうかと、住所なども調べておきました」

「どうやら彼、会社勤めの奥様と2人暮らしであったようです」

右京「君、先を読むのが得意ですねぇ…」


こうして特命係の2人は、吉田の自宅を訪れる。

そこで、吉田の妻である『吉田みさき』と対面した。
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 15:29:35.26 ID:i/o/WJrU0
みさき「申し訳ございません……特におもてなしもできなくて……」

冠城「いえいえ…僕たち、話を聞きにきただけですので、どうかお気になさらず……」


吉田の件でバタバタしていたのだろう、
お茶を満足に出せなかったことをみさきは真っ先に謝罪した。


みさき「ところで、主人を殺した犯人を捕まえた事は、今朝そちらから聞かされたばかりなのですが……」

冠城「それが…容疑者が、無実を主張していましてね。念の為に再度、事実確認をして回っているんです」

右京「お手数をおかけします」

みさき「そ、そうですか……」

「…で、主人の何を?」
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 15:30:49.89 ID:i/o/WJrU0
右京「先程、ご主人が勤めている学校で聞いたのですが…」

「ご主人は最近、ひどく焦っていらしたとか……」

冠城「どうやら、その事で容疑者と少しばかり揉めたそうですが、旦那様が焦っていた理由に、何か心当たりはありませんか?」

みさき「……」

「それはきっと、私のせいですよ……」

冠城「あなたのせい?」
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 15:32:00.78 ID:i/o/WJrU0
みさき「……実は私、会社での失敗が原因で、借金を背負ってしまいまして……」

右京「借金を、ですか?」

みさき「はい……」

「はじめは、主人とお金を出し合って順調に返済を進めていたのですが、結局それだけでは間に合わず、現在返済期限が差し迫っている状況で……」

「学校で焦っていたのは、その事で間違いありません」

「私も、それで何度か主人と衝突したことがあります。しかし……」

右京「しかし…?」

みさき「この間、主人が妙なこと言ってたんですよ」

「『もうじき、借金を全部返せるようになる』と……」
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 15:33:44.20 ID:i/o/WJrU0
右京「もうじき借金を返せるようになる…」

冠城「それは、どのようにして?」

みさき「聞いてみたんですが、教えてくれませんでした」

「変ですよね…冬のボーナスとか、まだ先なのに……」

冠城「……」
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 15:38:55.12 ID:i/o/WJrU0
右京「…ところで、ご主人の遺体が公園で見付かったわけですが、殺される前にご主人は何か言っていませんでしたか?」

みさき「分かりません」

「昨日、出掛ける際に『今日は用事があって帰りが遅くなる』としか言っていなくて……」

「しかし、朝になっても帰ってきていなくて……探しに行こうと思ったら、刑事さん達がやって来て、主人が殺された事を聞かされたんです」

右京「用事があって遅くなる…ですか」

冠城「どんな用事があったんでしょうか?」

みさき「さあ?あの人とは結婚して随分経ちますが、こんなこと初めててで……」

右京「ちなみに、ご主人が借金を返せると言い出したのは、いつ頃あたりか覚えていらっしゃいませんか?」

みさき「確か……1週間ちょっと前あたりだったと思います」

右京「1週間ちょっと前……そうですか」


こうして、みさきから話を聞き終えた特命係の二人は吉田家から離れ、『とある場所』を目指して歩き出す。

その間、彼らは吉田の情報の整理をはじめた。
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 15:41:19.87 ID:i/o/WJrU0
冠城「吉田先生が焦っていた理由は、今ので大体分かりましたね」

「彼は、奥さんが背負った借金を、奥さんと協力して返済していた」

「しかし、それだけでは間に合わず、返済期限が目前に迫りつつあった」

「学校でも、その事が頭の中を駆け巡っていたんでしょうね。だから、最近焦っていた」

「誰にもその事を話さなかったのは、あくまで家庭の問題であり他人を巻き込みたくなかったから……」

「手塚先生を前科者呼ばわりして突き放したのは、そうしようと思うあまりついカッとなって言ってしまっただけで、本心からの言葉ではなかったのかもしれませんね」

右京「しかし、吉田先生は殺され、手塚先生が容疑者になってしまった……」

冠城「吉田先生はもうすぐ借金を返せると、奥様に言っていて、しかも殺される前日は遅くなると言って家に帰らなかった」

「恐らく、あの公園に行く為なんでしょうが、そうなると……」

右京「『あの公園で何者かから返済のお金を受け取る予定だった』と、考えるべきでしょう」

冠城「おまけに深夜の公園……後ろめたいやり方で、得ようとしたものであった可能性は高い」

右京「それに、借金を返せると言い出した時期も気になります」

冠城「1週間前というと、手塚先生とトラブルがあった時期と重なります」

「いったい、何の関係があるんでしょうね?」

右京「……」

冠城「ところで、今度は何処に…?」

右京「『ここ』ですよ……」


そう言って右京が指し示した場所は、一軒のアパートであった。
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 15:41:50.88 ID:i/o/WJrU0
冠城「アパート?」

右京「かつて、佐々木文宏が暮らしていた場所ですよ」

冠城「やっぱり、あのボウガンが気になってますね?」

右京「えぇ、とても……」


そうして特命係の2人は、佐々木が住んでいた2階の部屋の玄関まで足を運ぶ。


キンコーン!

それから呼び鈴を鳴らしてみたが、反応がない。

ノックをしても同様だ。

よく見れば、玄関のドアの側にある表札がかかっていない。
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 15:43:17.32 ID:i/o/WJrU0
冠城「表札がありません」

右京「今は住んでいないようですねぇ……」

冠城「アパートの管理人に聞いてみましょうか?」

右京「そうしましょう」


特命係の2人は、アパートの管理人のところに行き、佐々木の所在を確かめることにした。

管理人は中年の女性であり、16年前からずっと管理を担当している人物であった。
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 15:44:07.07 ID:i/o/WJrU0
アパートの管理人「佐々木文宏さん?」

右京「えぇ…先程、話を伺いに行ったところ、既に住んでいなかったようでして……」

冠城「それで、何があったのかお聞きしたくて参りました」

アパートの管理人「あぁ…あのろくでなしなら、16年前に追い出しちゃったよ」

冠城「追い出した?」

アパートの管理人「警察なら知ってるでしょ?あの人のボウガンが盗まれて、人殺しに使われた事件」

「その事件がきっかけで、あの人がボウガン使って近所の子供脅かしてる事が親にバレちゃってね、滅茶苦茶怒られたんだよ」

冠城「怒られて、どうなったんですか?」

アパートの管理人「ボウガンは取り上げられなかったようだけど、その代わり1円もお金を出してくれなくなっちゃったようでさ」

「家賃を払ってもらえなくなったんで、そのまま追い出したわけよ」
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 15:44:47.38 ID:i/o/WJrU0
右京「なるほど…あの後、そのような事があったんですね」

アパートの管理人「正直、あの人を追い出した時は、それはもう気分が良かったね」

「あの人、口も態度も悪いし、近所の人にも偉そうだしで感じ悪くって……」

「不謹慎な事言うようで悪いけど、事件の犯人には正直感謝してるよ。アレがなかったら、今も色々言い訳つけて居座ってたろうからね」

冠城「……」


この話を聞いて、冠城は思った。

『アパートの管理人にここまで言わせてしまうなんて
佐々木という男は、一体どこまでろくでなしだったのだろうか?』と……
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 15:46:46.73 ID:i/o/WJrU0
右京「では、彼のその後は知らないんですね?」

アパートの管理人「もちろんよ。親んところにも戻ってないらしいし、多分どっかでホームレスかなんかやってんじゃないの?」

右京「そうですか。では、最後にひとつだけ……」

「アパートから出られた際、彼はボウガンを持っていっていませんでしたか?」

アパートの管理人「持っていったも何も、あたしが持っていかせましたよ」

「あんな物騒なもの、置きっぱなしにされちゃ困るし、何しろあんなもん二度と見たくなかったかったからね」

右京「なるほど…つまり、彼は今もあのボウガンを持っているかもしれないと……」

アパートの管理人「それは分かんないよ。あれから大分経ってるし、もうとっくに捨てちゃってるんじゃないかしら?」

右京「そうですか、分かりました」


納得して見せた右京に対し、アパートの管理人が「もう充分かしら?」と聞き返した。
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 15:47:42.56 ID:i/o/WJrU0
右京「えぇ…貴重な情報を、ありがとうございます」

アパートの管理人「お礼を言われるほどじゃないよ」

「そんな事より、お仕事頑張ってね」

右京「もちろんです」

冠城「お邪魔いたしました」


そうして特命係の2人は、管理人の部屋から出ていった。

だが……
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/21(日) 15:48:32.67 ID:i/o/WJrU0
伊丹「お邪魔します」


少しして、入れ替わるかのように捜査一課の伊丹と芹沢が入ってきたのだ。

そして入って早々、2人は警察手帳を見せる。


伊丹「警察の者です」

芹沢「16年前、こちらに住んでいた佐々木文宏の事で、お知らせに来たんですが……」

アパートの管理人「あら?また来たの?」


管理人の反応に、一課の2人は「「またぁ?」」と間抜けな声で言いながら、首を傾げた。
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