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【艦これ】『Last one week & Epilogue』【天華百剣】
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67 :
◆L6OaR8HKlk
[sage saga]:2019/04/08(月) 23:17:11.44 ID:fOzYYWJN0
『つーちゃんの日記』
おますだや(夜)
「ご注文の品です!!」バンッ!!
(;T)「あっ……あざっす……」
「ふん!!」
蛍丸国俊「さっきの店員さん、凄い目で提督さんを見ていらっしゃったのですけど……」
(;T)「ウナギ……投げつけちゃったから……」
蛍丸国俊「蛍でも怒ります」
(;T)「ですよね……それより」
ソボロ助廣「つーちゃんほんっと可愛い……無理……しんど……」
(;T)「この親バカへべれけ限界お姉さんどうしようか……」
蛍丸国俊「話には聞いてましたが、ここまでとは蛍も思いませんでした」
(;T)「有名なんだ……」
ソボロ助廣「聞いてますかお二人とも!!」
(;T)そ「えっあっはい!!生きててすいません!!」
蛍丸国俊「はい、蛍はちゃんと聞いていますよ」
ソボロ助廣「見てください……秋雲さんに習ってこんなに上手に私の絵を……うっ……」
(;T)「この話もう五回くらい聞いたなぁ……」
蛍丸国俊「すみません、お酒のおかわりくださいませんか?」
(;T)「強いなぁ蛍ちゃん……」
68 :
◆L6OaR8HKlk
[sage saga]:2019/04/08(月) 23:21:12.48 ID:fOzYYWJN0
(;T)「しかしそろそろ夜も遅いし、帰った方がいいんじゃねぇか?眠くなってきたぜ俺」
蛍丸国俊「そうですか?蛍は日が昇るまで大丈夫ですけど」
(;T)「夜型だなぁ」
ソボロ助廣「提督様!!」
(;T)そ「アッハイ」
ソボロ助廣「提督様も艦娘さんという子供達を沢山お抱えしている身とお聞きしましたが、つーちゃんほど良い子は中々いらっしゃらないでしょう!?」
(;T)「あ、うん、二、三人……くらいかなぁ?」
ソボロ助廣「それでも!!ウチのつーちゃんが一番かわええんや!!何言うとるんやアンタ!!」ドンッ!!
(;T)「対抗してもいいけどめんどくさいなぁ」
蛍丸国俊「時雨さんだと相手にならないと思いますよ?」
(;T)「いやアレはウチでも屈指の問題児だから……いるんだぜ?まるゆっていう良い子界の帝王が」
ソボロ助廣「まるゆぅ……?」
(;T)「あ、あー!!それより、ソボロ先生の話が聞きたいなぁ!!趣味とかあるんだろ!?」
ソボロ助廣「趣味ぃ……?」ギロリ
(;T)「ヒィ……酔っ払い怖いよぉ……」
蛍丸国俊「すみません、この、びぃる?ってのをください」
(;T)「まだ飲むの?」
蛍丸国俊「提督さんも飲まれますか?」
(;T)「俺飲めないんだよ。ごめんな?」
蛍丸国俊「そうですか……残念です。酔った姿を見てみたかったのですが」
(;T)「やめといた方が賢明だぜ〜?少なくとも、目の前の先生ほど可愛げはない」
蛍丸国俊「……すっごく酒癖が悪いんですね」
(;T)「悪いで済めば可愛い方だよ」
69 :
◆L6OaR8HKlk
[sage saga]:2019/04/08(月) 23:22:27.87 ID:fOzYYWJN0
ソボロ助廣「趣味……趣味……」グルグル
(;T)「もうダメだなこりゃ……帰ろうぜもう。な?」
ソボロ助廣「あー……ありますねぇ……日記を……」
(;T)「お姉さーん!!お冷くださーい!!」
ソボロ助廣「読んでます……つーちゃんの……」
(;T)「娘のプライバシー侵害案件!?」
ソボロ助廣「こちらにお持ちしましたので、宜しければ……」ドンッ!!!!!!!
(;T)そ「うわどこから出した!?」
蛍丸国俊「拝読しますね」ペラ
(;T)「蛍ちゃん待っ……」
『●月×日 晴れ』
今日は時雨ねーちゃんが流石のかーちゃんの肩を揉んどった
ぶつくさ文句言うてたけど、いたずらせんと最後までやっとってた辺り素直や無いなぁ
こっそり見てたのがバレた時には口止めされたけど多分フリやと思うから言い触らそうと思った
( T)「……たなくていいわ。続けて」
蛍丸国俊「提督さん?声が震えてませんか?」
( T)「えっ、グスッ、そうかなぁ。そ"ん"な"こ"と"な"い"け"と"な"ぁ"」
蛍丸国俊「泣いて……いるんですか……?」
( T)「信じられるか……あの時雨だぞ……出会った頃は虐待された子犬みたいに誰彼構わず噛みついていてさぁ……」
ソボロ助廣「提督様の教育の賜物ですね……」
( T)「寝首を掻かれそうになったのも一度や二度じゃなかった……ヴッ、それが……優しい子に育って……」
蛍丸国俊「続き読みますね」
70 :
◆L6OaR8HKlk
[sage saga]:2019/04/08(月) 23:24:17.92 ID:fOzYYWJN0
『●月☆彡日 くもり』
時雨のねーちゃんが温めた泥水を流石のかーちゃんに出してた
未来だとみんな飲むって言ってたけどアレ明らかに嘘やでな。流石のかーちゃん困った顔しとったわ
ちょっと見直したんやけど、やっぱり時雨ねーちゃんは時雨ねーちゃんやった。親の顔が見たいもんや
(#T)「と思ったらあの野郎案の定ーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!」
ソボロ助廣「この時点で良い子の軍配はつーちゃんに下りましたね」ドヤソボロ
蛍丸国俊「飲まないのですか?」
(#T)「んなワケあるかーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!いつの時代でも温めようが何しようが泥水は泥水じゃーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
「お静かに!!」
(;T)「ごめんなさい!!!!!」
『●月◇日 雨』
今日から京都支部へおつかい旅や。鉄道使った旅やから楽しみや
前は大坂から東京まで東海道通らんと真っすぐガーって行ったら着くやろ思ってたら遭難して一か月くらい掛かったからなぁ
時雨ねーちゃんが餞別って言うて食べかけのあんぱんをくれたんやけど、多分証拠隠滅やと思う
小夜ねーちゃんに言うべきかどうか迷ったけど、美味しかったんでまぁええや
(;T)「つまみ食いの共犯になっちゃってんじゃん……」
蛍丸国俊「遭難?」
ソボロ助廣「あー……ウィック、家が燃えて遭難して熊に襲われて……散々だったけど、つーちゃんがいたお陰で乗り切れましたねぇ……」
(;T)「それはそれで気になるエピソードだな……所でこれ、俺らが来る前の日付だな」
蛍丸国俊「ここから先は暫く時雨さん関連の日記は見当たりません」
(;T)「そっk……いや、今更だけどつーちゃんの日記なんだしあんまり読んじゃうのも……」
蛍丸国俊「でも、蛍はとっても面白いです」
(;T)「そう言う問題じゃ……もうなんでもいいかワッショイ」
71 :
◆L6OaR8HKlk
[sage saga]:2019/04/08(月) 23:26:01.97 ID:fOzYYWJN0
『▲日∵日 晴れ』
京都から戻ったら変態のおっちゃんがおった。今まで色んな変態とおうたけどアレは屈指の変態やった
話聞いたら時雨ねーちゃんの主らしい。道理でいつもよりイキイキしとったワケや
他にも美人のねーちゃんいっぱい増えとった。それでもウチのかっこかわいいさは負けへんと思う
それにしても変態やったなぁあのおっちゃん
ソボロ助廣「確かに艦娘の方々も器量良しですが、つーちゃんの可愛さには勝りませんね」
(;T)「変態って二回も書かれてんだけど!!言っとくけど不本意だからな!?」
蛍丸国俊「えっ、本当に着てたんですか?蛍、てっきり白昼夢の類かと」
(;T)「俺だってそう思いてえよ……」
ソボロ助廣「グフッwwwwwあははははwwwwwwアンタのあの時のカッコ……ブフッwwwww」
( T)「蛍ちゃん、俺さぁ、厄払いとか行った方がいいかなぁ?」
蛍丸国俊「そうお考えなら出向くのは一手でしょうけど、神様にもどうにか出来ることと出来ないことはありますから……」
( T)「神にも無理かーーーーーーーー……」
『▲月ω日 晴れ』
今日はめいじ館に禍憑が出た。ぱんつばっか食う変態やった
でもウチのぱんつは狙われんかった。なんでやろうか?ウチのかっこかわいさに恐れをなしたんやろうか?
最終的におっちゃんが自分のぱんつを食わせて退治した。凄いけどやっぱり変態やと思った
おっちゃんはまだまだ謎が多い。こんな方法で楽に禍憑倒す方法を見つけていってもおもろいかもしれへん
ソボロ助廣「ドゥフッwwwwwくっ……wwwwww」
(;T)「先生もうドツボにハマっちまったな……」
蛍丸国俊「蛍もその現場、見たかったです……」
(;T)「地獄絵図だぞ……?」
72 :
◆L6OaR8HKlk
[sage saga]:2019/04/08(月) 23:26:55.28 ID:fOzYYWJN0
蛍丸国俊「では次……」
<オロロロロロロ!!!!
<うわっ、このバカ厠まで耐えきれなかった!!
蛍丸国俊「!!」ガタッ!!
(;T)「蛍ちゃんどこ行くんだ?」
蛍丸国俊「お掃除してきます!!」
(;T)「え、いや、お店の人に任せとけばいいって」
蛍丸国俊「放してください!!蛍は、蛍はぁ……!!」
(;T)「あっこの子すげえ酔ってる!!顔に出ないだけで普通に酔ってた!!」
ソボロ助廣「可愛いでしょ……ウチの子……」
「は、はぁ……おっp、そうですね……」
(;T)「よその客に絡むなって!!すいませんねこの人頭がつーちゃんなんで!!」
蛍丸国俊「お姉さん、蛍に掃除させてください!!」
「いえいえ!!お客様にそのようなことさせられません!!」
(;T)「あーもー滅茶苦茶だよ……」
73 :
◆L6OaR8HKlk
[sage saga]:2019/04/08(月) 23:28:07.46 ID:fOzYYWJN0
津田越前守助廣「かーちゃん、遅いから迎えに……」
<ギャースカ!!!!!!!!
津田越前守助廣「うるさっ!?」
(;T)「つーちゃん!!助けてくれ!!後日記に変態って書きまくってた件については後で話がある!!」
津田越前守助廣「なんで知っと……ああー!!またかーちゃんウチの日記持ち出しとったんか!!」
ソボロ助廣「つ、つーty……ウッp」
津田越前守助廣「あ」
(;T)「あ」
―――――
―――
―
めいじ館
( T)「……」
津田越前守助廣「……」
小夜左文字「遅……また?」
( T)「ああ……酒癖悪い連中ばっかだな……」
津田越前守助廣「あんな豪快にぶち撒けるとは思わんかったわ……」
小夜左文字「うっ、臭い……」
( T)「追い討ちをかけるな……ハァ……」
翌朝めちゃくちゃ酒の飲み方について説教した
74 :
◆L6OaR8HKlk
[sage saga]:2019/04/08(月) 23:29:55.25 ID:fOzYYWJN0
今日はここまで
脊髄をシリアスからギャグに切り替えるのに時間が掛かった結果がこれです
75 :
◆L6OaR8HKlk
[saga]:2019/04/09(火) 13:22:28.19 ID:397CxFwZ0
『善哉』
お厨房
夕立「発酵ってこれで終わりっぽい?」
( T)「どれ……おう、オッケーだ」
菊一文字則宗「それにしても、提督さんって多芸ですよね。パンまで作れるなんて」
( T)「クッキングパパに載ってるじゃん……」
菊一文字則宗「知らないですよ……」
( T)「それでも、石窯でパンを焼くのは初めてだがな」
夕立「提督さーん、あんこってこれ?」
( T)「いや、そっちは副産物だ。これ使……」
紅葉狩兼光「……」ソローッ!!!!!!!
( T)「……」
紅葉狩兼光「あ……」
( T)「小y 紅葉狩兼光「ごめんもうこっそりつまみ食いしないから!!」 よし」
菊一文字則宗「巫剣の扱いも随分慣れましたね」
( T)「ウチと大差ねぇからな……」
夕立「一個だけ当たり入れとくっぽーい♪」
菊一文字則宗「良いですね。他にも色々仕込みません?」
( T)「食えるもんにしとけよ」
菊一文字則宗「かしゅーさん用にお薬仕込むのは」
( T)「ダメに決まってんだろ」
菊一文字則宗「ちぇっ」
76 :
◆L6OaR8HKlk
[sage saga]:2019/04/09(火) 13:27:09.28 ID:397CxFwZ0
( T)「後は焼くだけか。助かったぜ。俺一人だといつまで掛かってたかわからん」
夕立「小夜ちゃんの復讐って本当にこれだけっぽい?」
( T)「うん。まぁその代わりエラい数のあんぱん焼かされるハメになっちまったんだが」
紅葉狩兼光「小夜はおっちゃんに甘いんだよ!!僕の時とかあんぱんに毒仕込まれてたりしたんだからね!!」
( T)「そん時お前あんぱん用のアンコ全部食ったからって聞いたぞ?」
紅葉狩兼光「うっ……で、でも、味見のつもりだったもん……」
( T)「反省しようなぁ」
菊一文字則宗「ところで、この副産物とやらは?」
( T)「小豆が余ったからな。ちょっとしたオヤツだよ」
菊一文字則宗「ほんと、なんでも出来ますね……女性に気を使うこと以外は」
夕立「泣かした女は星の数っぽい」
( T)「人聞きの悪いこと言う……そういうのどこで覚えた?」
長曾祢虎徹「いーい匂いだな」
菊一文字則宗「おや、局長。見回りご苦労様です」
夕立「おかえりっぽーい」
長曾祢虎徹「おう、ただいま……紅葉殿?何しょげてんだ?」
紅葉狩兼光「聞いてよ虎徹殿!!僕の扱い酷いんだよ!!」
長曾祢虎徹「あー……旦那、こう見えても紅葉殿は巫剣の中でも多くの尊敬を集める武勇の持ち主だ。手心の一つや二つくらい……」
( T)「お前らがそうやって甘やかすから悪い手癖が直らねえんだよ」
長曾祢虎徹「悪ぃ、返す言葉ねえわ」
紅葉狩兼光「鬼ー!!女装趣味ー!!」
( T)「そんなこと言う子にはオヤツあげませんよ!!」
紅葉狩兼光「ごめんなさい!!」
長曾祢虎徹「オカンか」
77 :
◆L6OaR8HKlk
[sage saga]:2019/04/09(火) 13:28:44.24 ID:397CxFwZ0
菊一文字則宗「……あーっ!!そう言えば!!」
(;T)そ「えっ何?」
菊一文字則宗「すっかり忘れてたんですが、副長の飴を買いに行かないといけませんでした!!量が多いんで夕立さんと紅葉狩さんも着いてきてください!!」
夕立「え、そんな話……」
菊一文字則宗「夕立さん」
夕立「……あっ、あー!!そうだったぽーい!!提督さん、ごめんっぽーい!!」
(;T)「白々しっ……」
長曾祢虎徹「おいおいお前ら……」
菊一文字則宗「で、ですので、ちょっと出かけてきますね!!行きましょう紅葉さん!!」グイグイ
紅葉狩兼光「ぼ、僕もー!?やだ!!オヤツ食べ……」ズルズル
夕立「ほら行くっぽいぃぃ〜〜〜〜〜〜……!!」グイグイ
<オヤツーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!
長曾祢虎徹「あーあー……」
(;T)「の、残しておくからなー!!」
<絶対だよーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!
(;T)「食い意地よ」
78 :
◆L6OaR8HKlk
[sage saga]:2019/04/09(火) 13:33:58.44 ID:397CxFwZ0
長曾祢虎徹「……」
( T)「……下手な気の使い方されちまったな」
長曾祢虎徹「勘弁して欲しいぜ……」
( T)「座れよ、茶を淹れる」
長曾祢虎徹「ん、ありがとよ……フフッ」
( T)「何が可笑しい?」
長曾祢虎徹「『男子、厨房に入らず』って言葉を思い出しただけだ」
( T)「俺の世界じゃ飯も炊けねえ男は時代遅れでな……滑稽に見えるか?」
長曾祢虎徹「いーや、良く似合ってるぜ?そのフリルが付いたエプロン」
( T)「俺この世界に来てまともな服着た覚えの方が少ねえんだけど」
長曾祢虎徹「みんなから愛されてんな。嫉妬してしまうくれーに」
(;T)「お綺麗な言葉で誤魔化してくれてどーも……ほれ、お茶と、オヤツだ。俺も一息入れるか」
長曾祢虎徹「……善哉か?」
( T)「甘いもんダメだったか?」
長曾祢虎徹「いいや。それに、旦那が作ってくれたもんは断れねえよ」
( T)「男前だねぇ……」
長曾祢虎徹「女への褒め言葉としてどうなんだよそりゃ……」
( T)「ダメか?」
長曾祢虎徹「ちょーっとばかし複雑だな」
( T)「乙女心は複雑だな……」
長曾祢虎徹「何なら口説き方の練習でもするかい?」
( T)「遠慮しとくよ。アガっちまって化けの皮が剥がれちまう」
長曾祢虎徹「フフ、俺は構わねえぜ?旦那の可愛い所が見れるからな」
(;T)「勘弁してくれよ……」
79 :
◆L6OaR8HKlk
[sage saga]:2019/04/09(火) 13:35:37.28 ID:397CxFwZ0
長曾祢虎徹「ん……美味い。人は見かけによらねえとはよく言ったもんだな」
( T)「職場が職場だからな……母親の苦労ってのが見に染みたよ。うん、良い出来だ」アマーーーーーーーーーーーーーーーーーーーイ!!!!!!!!!!
長曾祢虎徹「もしかして、料理人とか目指してた口か?」
( T)「いや、ただ今の環境で身に付いたスキル……技術かな」
長曾祢虎徹「海軍将校の仕事じゃねえよな?」
(;T)「そもそも司令官向きじゃねえんだよ俺……前線で矛振ってる方が性に合ってる」
長曾祢虎徹「司令部に籠りっぱなしで兵に指示飛ばすだけの連中よりよっぽど好感が持てるがな……」
( T)「渋沢のとっつぁんの耳が痛いな」
長曾祢虎徹「おっと、失言だった。口止め料はこれで頼む」
( T)「いや別にいらな……」
【 (キT) 】
( T)「なんだよ……ちゃんと縫ってくれてたのか」
長曾祢虎徹「ほったらかしは、ほら、気持ちが悪いじゃねえか」
( T)「お互い、苦い思い出が蘇るな……」
長曾祢虎徹「言うなよ……今でも悶えちまうくらい恥ずいんだからな……」
( T)「これなんの詫びで縫うことになったんだっけ?」
長曾祢虎徹「意地の悪い奴だな!!」
( T)「そこで手が出ない辺りほんと優しい」
長曾祢虎徹「鉄拳がお望みならいくらでも振る舞うぜ……?」
( T)「愛嬌だけで腹いっぱいだよ」
長曾祢虎徹「……ハハ」
( T)「フフ」
80 :
◆L6OaR8HKlk
[sage saga]:2019/04/09(火) 13:39:16.86 ID:397CxFwZ0
( T)「大事にさせて貰うぜ。ありがとよ」
長曾祢虎徹「ああ、そうしてくれ……甘いな、この善哉」
( T)「ああ……舌が火傷しそうなほどな」
天龍「……うわぁ」
秋雲「何あのほろ苦空間。入れないんだけど」
天龍「いっそのことヤってくれりゃ踏み込み甲斐もあるってのにな」
秋雲「提督に限って衛生上問題のある場所でイン・アウトなんてないでしょー。それにしても、善哉ねえ……」
天龍「なんか意味あんのか?」
秋雲「故意か偶然かは知んないけど、一つあんのよ」
秋雲「大阪生まれの文豪、太宰治や坂口安吾らと同じ時代を生きた織田作之助の代表作。タイトルが」
『 善哉』
.
81 :
◆L6OaR8HKlk
[sage saga]:2019/04/09(火) 13:40:21.80 ID:397CxFwZ0
.
82 :
◆L6OaR8HKlk
[sage saga]:2019/04/09(火) 13:41:55.44 ID:397CxFwZ0
―――――
―――
―
長曾祢虎徹「よっと……」
長曾祢虎徹の自室。西洋を基調とした家具には似つかわしくない無骨な矛が飾られた
彼女と同じく主を失い、薄暗い武器庫の片隅で眠っていた頃とは違い、鋭い刃は暖かな陽射しによって鈍く光り輝いている
長曾祢虎徹「それと……これもな」
傍には木製の頭型、ハイカラな呼び方をするならば『頭のマネキン』に被せられた『丁』文字の覆面
異世界から訪れ、そして数々の想い出を残して帰っていった一度きりの主からの贈り物だった
長曾祢虎徹「ふぅー……」
菊一文字則宗「立派なものですね」
長曾祢虎徹「おわぁっ!?」
感傷は、背後からかけられた声によってすぐさま終わる
当の本人、菊一文字則宗は、虎徹のひどく情けない叫び声を聞いてクスクスと笑った
菊一文字則宗「すみません、お邪魔でしたか?」
長曾祢虎徹「い、いや、そんなことないぞ、うん」
菊一文字則宗「本当に〜?」
長曾祢虎徹「しつこいな!!」
83 :
◆L6OaR8HKlk
[sage saga]:2019/04/09(火) 13:44:55.35 ID:397CxFwZ0
菊一文字則宗「いえ、気持ちはわかりますよ。僕も、お面を見るたびに夕立さんや皆を思い出します」
長曾祢虎徹「……そっか、そうだよな」
菊一文字に対する僅かな憤りはすぐさま冷める。彼女は『向こう』で彼らと過ごした
ほんの少しだけ長い時間は、誰よりも大きな寂しさとなってのしかかっているのだろう
いつもはワイワイと騒がしいめいじ館も、なんだか少しだけ冷たく静かになったように感じていた
菊一文字則宗「誰も、『また会おう』だなんて言いませんでいたからね……彼方と此方では、住む世界が違う。今生の別れだって、わかってたのでしょう」
長曾祢虎徹「……不老の俺らが時を重ねても、あいつらがいる所には辿り着けないんだよな」
菊一文字則宗「僕なんてそもそも、向こうだと存在すらしていない刀でしたしね」
長曾祢虎徹「なんだよ、ひでぇ話だな」
菊一文字則宗「あはは。それだけ、希少価値が高いってことなんでしょう」
長曾祢虎徹「てめっ……同情して損したぜ」
菊一文字則宗「言うじゃないですか……もしも、一緒に来てくれと誘われたら、どうしてました?」
長曾祢虎徹「……」
虎徹はしばし口を閉ざし、丁字の覆面に指を添わした
人差し指が顎下から頬の曲線をなぞり、額に到達し、そして
長曾祢虎徹「行かない」
と、キッパリ口にして、トンと小突いた
84 :
◆L6OaR8HKlk
[sage saga]:2019/04/09(火) 13:48:18.10 ID:397CxFwZ0
菊一文字則宗「おや、それはどうして?」
長曾祢虎徹「良くも悪くも、旦那と稜威を繋げたのはあの一度きりだったろうぜ。『三浦を倒す』っつー目的が共通していた」
長曾祢虎徹「だけど、あいつが本来持つ気質は俺や、『人を守る』を前提とした数多くの巫剣とは相性が悪い。三浦に対しても『同じ穴の狢』と言ったよ。他者への奉仕よりも自己快楽を優先する人間だってな」
菊一文字則宗「それがあの強さの理由でもあるのでしょうが……確かに、御華見衆としては褒められたものではないですね」
長曾祢虎徹「そんな巫剣使いがいないわけじゃねぇし、従う巫剣もいないことはない。だが少なくとも俺は、何処かで我慢の限界が訪れるだろうよ」
菊一文字則宗「では、『女』としては?」
長曾祢虎徹「……うん、やっぱりねえわ」
菊一文字則宗「おや、意外な解答ですね」
長曾祢虎徹「旦那は男として致命的な欠点があるからな。それは……」
「「『でりかしー』がない」」
長曾祢虎徹「……ハハハ」
菊一文字則宗「フフ……いやはや、牛王さんの薬でも治せそうにありませんね」
長曾祢虎徹「残念ながらな……本当に、惜しい男だった」
柱時計が午後二時を鐘の音で告げると、虎徹は両の頬をパシャりと叩いた
長曾祢虎徹「さって、見回りに行くか!!あいつらだってそれなりの方法で戦ってんだ。俺らも負けちゃいられねえぜ!!」
菊一文字則宗「そうですね。僕らも僕らなりの方法で、平和を築きに行きますか」
85 :
◆L6OaR8HKlk
[sage saga]:2019/04/09(火) 13:53:56.83 ID:397CxFwZ0
二人が部屋を後にしようとしたその時
七香「はぁっ、いた!!お二人とも!!」
バタバタと慌てた足取りで、七香が転がり込んだ
菊一文字則宗「どうしたんですか?」
七香「こ、小烏丸さんから、本部への急行命令が届きました!!」
長曾祢虎徹「本部?確か、今は若と城和泉が北谷菜切の尋問へ出向いているはずだが……」
菊一文字則宗「もしや、禍憑が取り返しに……」
七香「いえ、違います!!『巫剣使い』です!!」
長曾祢虎徹「はぁ!?」
七香「御華見衆観察方が東京近辺にて名古屋駐在所長を目撃!!本部へと向かっているそうです!!」
.
86 :
◆L6OaR8HKlk
[sage saga]:2019/04/09(火) 13:58:37.03 ID:397CxFwZ0
―――――
―――
―
数多くの巫剣、そして巫剣使いを抱える御華見衆に置いて、上層部が定めた『要注意人物』が三組いる
一人目は、公には出来ない闇の仕事をこなす『零番隊』隊長『素直 空流(くうりゅう)』と、愛刀『紅雪左文字』
二人目は、決まった支部に留まらず、全国各地を転々とする流浪の一匹狼『引田 子守(こかみ)』と、愛刀『千子村正』
三人目は、名古屋に居を構える駐在所の所長―――――
(´・ω・`)「……」
『大潮 凡吉』
鬼切安綱「んー、いい香り」
そしてその愛刀、『鬼切安綱』である
丙子椒林剣「お気に召されたようで何よりです〜♪」
鬼切安綱「ドックンが淹れる紅茶も美味しいけど、流石本部って感じ〜。良い茶葉使ってるじゃーん」
(´・ω・`)「面会できないとはどういう事だ?」
出された紅茶に舌鼓を打つ鬼切とは対照的に、傍に白鞘の『菊華刀』を立て掛け、腕を組む凡吉は終始ぶっきらぼうな表情を崩さぬままだった
丙子椒林剣は穏やかな笑みを浮かべながらも、羽織に隠された左脇が不自然に膨らんでいるのを見逃さなかった
対面に座る小烏丸は優雅な仕草で紅茶を傾けるが、隣に座る阿音は緊張した面持ちを隠しきれていない
87 :
◆L6OaR8HKlk
[sage saga]:2019/04/09(火) 14:02:24.44 ID:397CxFwZ0
小烏丸「先ずは殺気を納めよ。折角の茶が不味くなろう」
∬;´_ゝ`)「……」
(´・ω・`)「『桜禍糖』が出回ってることを真っ先に知らせれば、俺だって美女を肴に茶を楽しめたさ」
ワザと仰々しく身じろぎした凡吉に、伏せられていた小烏丸の視線が鋭く突き刺さる
凡吉はそれを見て、小馬鹿にしたかのような鼻笑いを放った
(´・ω・`)「それに、『お互い様』だろう?」
小烏丸「……やれやれ、お主を見ていると『あの男』を思い出すの」
丙子椒林剣「ええ、ヤンチャな所なんてそっくりです〜」
鬼切安綱「こんなんがまだいるのー?マジ勘弁して欲しいんですけど」
小烏丸「いや、もう居らぬよ……さて、堪え性のない貴様に免じて、本題に入るかの」
(´・ω・`)「そいつはどうも」
小烏丸「ふぅ……かつて属しておった『桃太郎組』が発端の桜禍糖事件。その再来となれば真っ先に当事者たるお主らに報告するのが筋じゃろう。だが、見ての通りお主は目的の為に手段を選ばん」
(´・ω・`)「……」
小烏丸「市井の安全を考えれば、我々も過激な手段に出るワケにもいかん。口約束の一つや二つで大人しくするお主でもあるまい?」
丙子椒林剣「なので、本筋が見つかるまで秘密にしておこうというのが上層部の決定です」
(´・ω・`)「クソ喰らえだ」
高く上がった凡吉の両脚を見て、全員が咄嗟にテーブル上のカップとソーサーを持ち上げる
たたき割れそうなほど力強く置かれた脚を、行儀悪く組んだ
(´・ω・`)「俺の因縁にテメーらが口出しする気か?組が起こした不始末だ。俺が始末を着ける」
(´・ω・`)「それとも何か?カタギに戻った俺をずっと大人しくさせておくつもりだったか?」
小烏丸「小童でもあるまいしワガママを申すな。仮にも一拠点の長であろう」
(´・ω・`)「筋も通さず説教を垂れてんじゃねえ。乳臭いガキの姿だと余計に腹が立つ」
小烏丸「おや、妾も捨てた物じゃないようじゃの。年増と呼ばれるよりはマシじゃ。のう、椒林?」
丙子椒林剣「何故私に同意を求めるのかしら〜?」
88 :
◆L6OaR8HKlk
[sage saga]:2019/04/09(火) 14:06:13.23 ID:397CxFwZ0
鬼切安綱「ショボン、態度を改めなよ。ウチら、喧嘩しに来たワケじゃなくない?」
(´-ω-`)「……」
愛刀の苦言に多少頭が冷えたのか、テーブルから脚を下ろし、代わりに紙巻きタバコを取り出しマッチを擦った
天井を仰ぎ、たっぷりと肺に吸い込んだ煙を吐き出す。次に話す言葉を探すように、こめかみをトントンと指で叩いた
(´・ω・`)「『どこまで許される?』」
その問いに、小烏丸は一拍も置かずに答えた
小烏丸「今後も御華見衆の傘下で真っ当な活動をする意思があらば、本命を叩くのはお主じゃ」
(´・ω・`)「その道筋には関わらせてくれねえってか?」
丙子椒林剣「いいえ〜。後々、お力を借りる機会も数多くありますでしょう〜」
小烏丸「だが、今は堪えよ。下手に騒ぎを起こせば、大きな魚を逃す。北谷菜切の面会に関しても同じじゃ」
(´・ω・`)「……アンタらの方法で、割るのか?口を」
丙子椒林剣「優秀な尋問官がいらっしゃいますので〜♪」
(´-ω-`)「……」
小烏丸「指示を待ち、迂闊に動くな。只でさえ名古屋には脛に傷を持つ面々が集う。拭える尻にも限度があると心得よ」
鬼切安綱「あはっ、その例えちょーウケるんですけど」
溜息と共にまた多くの煙を吐き、タバコを灰皿に揉みつける。白鞘を手に取り、腰帯に差し込んだ
(´・ω・`)「あい分かった。多少不本意だが、従うとしよう」
小烏丸「すまぬな。わざわざ東京まで出向いて貰ろうたのに、満足な回答ができんで」
(´・ω・`)「仕方ないさ、仕方がない。ただ、これだけは約束しろ」
(´・ω・`)「俺の親父が起こした不始末を、一切合切抹消すると」
.
89 :
◆L6OaR8HKlk
[sage saga]:2019/04/09(火) 14:07:49.83 ID:397CxFwZ0
小烏丸「……言われるまでもないわ」
(´・ω・`)「フン……行くぞ、アン」
鬼切安綱「はいよー」
丙子椒林剣「あらあら、もう少しゆっくりしていっても……」
鬼切安綱「ゴメンねー。久々の東京だしー、溜まった物欲発散しに行くんだよねー」
(´・ω・`)「邪魔したな。七星剣にもよろしく言っとけ」
鬼切安綱「そんじゃ、まったねー」
二人が部屋を出て、足音が遠くに消えた頃
∬;´_ゝ`)「っ、ふぅー……」
ようやく、阿音の緊張が解けた
∬;´_ゝ`)「……気づいてたわよね?」
小烏丸「だろうよ……小夜、ご苦労じゃったな」
小夜左文字「……」
小烏丸が飛ばした急報により、万が一に備えて隠密していた小夜左文字が音も無く現れる
その表情はいつも通り無機質な物だったが、僅かな冷や汗が頬を伝いマフラーを湿らせた
小夜左文字「あの鬼切という巫剣……私が隠れている場所に何度も視線を送っていた……」
丙子椒林剣「流石の察知能力ですね。舌を巻きます〜」
小烏丸「じゃが、あえて僅かに気配を残しておいたのは功を奏したの」
∬;´_ゝ`)「外には新選組も控えてたしね……ちゃんと警告の意は伝わってたみたい」
小夜左文字「だけど……言葉を違えれば、『やる気』だった……」
小烏丸「そうじゃな……妾も少々、肝を冷やしたわ……」
毅然とした態度を崩した小烏丸は、気だるげにソファーの背もたれに身を預ける
それを見た椒林は、新たに淹れなおした紅茶をカップへと注いだ
90 :
◆L6OaR8HKlk
[sage saga]:2019/04/09(火) 14:10:45.71 ID:397CxFwZ0
丙子椒林剣「ですが、誠意に欠ける対応だというのは否定できませんね。我々の落ち度です」
小烏丸「仕方があるまいよ……彼奴の親兄弟が引き金となった事件じゃ。上が下した『寝返る』という懸念も、妾はわからぬもない」
∬´_ゝ`)「司令はなんと?」
丙子椒林剣「『星は凶を指す』と。それが個人に留まるものなのか、それとも御華見衆全体に影響を及ぼすものかまでは……」
小烏丸「前途多難、じゃな……深海棲艦という脅威を退けたにも関わらず、一息も吐かせて貰えぬとは……」
∬´_ゝ`)「こうなってくると、あのムキムキのお兄さんと艦娘ちゃん達の力が本当に惜しくなってくるわ……」
丙子椒林剣「あら〜?お二人は御華見衆が彼らに遅れを取るとお考えですか?」
小烏丸「そうは言っとらんじゃろ!!」
∬´_ゝ`)「椒林お姉ちゃんは意地が悪いんだから」
丙子椒林剣「ウフフ、大丈夫ですよ〜。我々はいつだって、闇を切り裂く正義の味方」
丙子椒林剣「それはきっと、各々の道を極めた『参羽の鴉』だって同じでしょうから〜」
.
91 :
◆L6OaR8HKlk
[sage saga]:2019/04/09(火) 14:13:54.74 ID:397CxFwZ0
―――――
―――
―
(*゚ー゚)「……わかりました。ご苦労様です」
報告に訪れた観察方に丁寧な礼をして、椎名美琴はその背を見送った
隣の愛刀、城和泉正宗は、ほぅと大きく息を吐く。万が一があれば、彼女は同胞に刀を向けねばならなかったからだ
城和泉正宗「副司令達が上手くやってくれたみたいね……」
(*゚ー゚)「うん。でも、大潮所長だって事を荒げたくなかった筈だよ。彼は良い人だ」
城和泉正宗「そうだといいけど……」
(*゚ー゚)「きっと、まっするさん達と気が合うんじゃないかな?」
城和泉正宗「一緒に居合わせるだけで頭が悪くなりそうな組み合わせね……」
(*;゚ー゚)「ひ、酷いよ城和泉……」
「私の前であの男の話をしないでください、お兄様」
酷く薄暗い表情をした北谷菜切が、二人の会話を妨げる
拘束は無く、代わりに手足には巫魂の発動を封じる護符が貼り付けられている
力なくダラリと投げ出された四肢に抵抗の素振りは見受けられなかった
北谷菜切「忌々しいあの男の話を……」
(*゚ー゚)「そんな事、言う物じゃないよ北谷菜切。彼はキミの道を正す一助となってくれたんだ」
北谷菜切「いいえ、いいえお兄様。アレはあなた方がいなければ北谷を殺していた、悪鬼のような男です」
城和泉正宗「散々な言い草ね……」
北谷菜切「忌々しい忌々しい忌々しい……あの男も、駄犬も、内に潜む『まぜもの』も。どれか一つさえ欠けていれば、お兄様の寵愛を受けられたのに……」
呪詛を吐きながらガチガチと親指の爪を噛み始めた北谷菜切に対し
椎名は膝を着いて視線を合わせ、優しく腕を掴んで止めた
(*゚ー゚)「落ち着いて。キミには情状酌量の余地がある。捜査への協力次第では極刑も免れる」
(*゚ー゚)「僕らにキミを殺させないでくれ、北谷菜切。一緒に共存の道を模索していこう」
92 :
◆L6OaR8HKlk
[sage saga]:2019/04/09(火) 14:21:35.14 ID:397CxFwZ0
北谷菜切「嗚呼……本当に優しい、お兄様……」
涙を浮かべる北谷菜切を見て、椎名の良心がチクリと痛んだ
自らの行いや、彼女に掛ける言葉。桜禍糖の捜査の為とはいえ、乙女の恋慕を弄ぶような真似をしている事に対する呵責だった
それでも、御華見衆は世に出回る『毒』を一刻も早く取り除かねばならない。彼は誠意を押し殺し、『大人』にならねばいけないのだ
北谷菜切「貴方に免じて、また一つ教えて差し上げます」
(*;゚ー゚)「ッ!!」
椎名は咄嗟に、背後の城和泉に掌を向け制止した。蔑むのような笑みと共に零れた殺気に、彼女は柄を握ったのだ
しかし、いくら気を吐こうが北谷菜切に出来ることはない。万が一、城和泉を倒し椎名を攫って逃げ出したところで
『御華見衆本部』に属する数多くの手練れによって瞬く間もなく無力化させられるのは目に見えている
(*;゚ー゚)「何を、かな……?」
背中に冷たい汗が流れた。笑みも殺気も、この場にいる二人に向けられたものでは無いと察したからだ
彼女が陸軍へと提供した『特異型禍要柱』を発端にした一連の事件は幕を閉じ、今は幽閉されている身
それにも関わらず、今の北谷菜切は『奥の手』を披露するかの如く、ある種の卑下た快感を覚えているかのように見えたのだ
北谷菜切「あは、彼らは、あの男は、『種』を持ち帰った。ねぇお兄様?味を占めた禍魂が、凶禍が」
北谷菜切「強大な力となる『苗代』を、そのまま放っておくと思いますか?」
.
93 :
◆L6OaR8HKlk
[sage saga]:2019/04/09(火) 14:24:36.69 ID:397CxFwZ0
(*;゚ー゚)「ッ……!!」
背筋がゾッと凍りつき、椎名は思わず下唇を噛みしめた。北谷が言った『種』。禍魂を元にしたある物体を、確かに『異世界からの来訪者』は、自らの世界へと持ち帰った
いや、『持ち帰らざるを得なかった』。彼らの世界へと繋がる『特異型』の欠片を持たなくては、元の世界へと帰ることが出来なかったからだ
城和泉正宗「ま……また、時雨達を巻き込もうって言うの!?」
北谷菜切「やん、大きな声を出さないでくださいます?ただでさえか弱い北谷が、こんな狭苦しい場所で敵に囲まれているのですよ?」
北谷菜切「ええ、北谷は何もできませんとも。彼らをこれ以上どうこうしようという意思も、再び深海棲艦を傀儡にしようという計画もございません」
濁った翠玉の瞳が、椎名を覗き込んだ。彼の胸中を蝕んでいたちっぽけな『痛み』など、とうに無くなっていた
北谷菜切「ええ、ええ、北谷は何もしませんとも。北谷はただ『待つ』だけですよ、愛しのお兄様」
代わりに湧き上がってきたのは、友人達への莫大な不安。そして
狂喜の微笑みを浮かべながら、白々しいセリフを吐く北谷への、どす黒い怒りだった
(*; 皿 )「……クソッ!!」
砕けんばかりに歯を食いしばった椎名は、悪態を吐いて北谷から離れる
憤りを彼女の顔ではなく『壁』にぶつけたのは、どちらにせよ意味のない行為だったからだ
城和泉正宗「どうしたら止められるの!!答えて!!」
城和泉は今度こそ刀を抜き、北谷菜切へと詰め寄る
それでも尚、彼女はヘラヘラとした態度を改めなかった
北谷菜切「知りませんよ。言ったでしょう?北谷は何も出来ない、関与もしていないと」
城和泉正宗「特異型を使う手がある筈よ!!」
北谷菜切「ああー、確かにそれなら何とかなるかも知れませんね。試してみてもいいんじゃないですか?幾千幾万の世界から、的確に彼方の世界へ渡る自信があるのなら」
城和泉正宗「ふっ……ざけるなァッ!!」
(*; ー )「城和泉ッ!!!!」
振り下ろされた刃は、首筋の寸前で止まる。剣先は怒りで小刻みに震えていた
(*;゚ー゚)「……出よう」
城和泉正宗「フーッ、フーッ……」
(*;゚ー゚)「ほら……」
94 :
◆L6OaR8HKlk
[sage saga]:2019/04/09(火) 14:29:16.83 ID:397CxFwZ0
荒く鼻息を吐いていたが、椎名に腕を引かれた城和泉は深呼吸をして刀を納める
北谷菜切「ああん、もうおしまいですかお兄様ぁ?」
北谷菜切の軽口に答える事もなく、二人は尋問室から退出する
ゆっくりと動く扉が閉じる瞬間まで、隙間からは彼女の禍々しい高笑いが漏れ出した
(*;゚ー゚)「っ……ふぅー……」
椎名は壁にもたれ掛かると、両手で顔を覆いずるずると腰を下ろした
城和泉正宗「大丈夫……?」
(*;゚ー゚)「平気……とは、お世辞にも言えないかな……ごめん」
城和泉正宗「謝らなくてもいいわよ……止めてくれてありがと」
(*;゚ー゚)「お礼を言われる筋合いは無いよ。キミが居なかったら僕は北谷の首を締めていたかもしれない」
城和泉正宗「っ……そう……」
そこから二人は、暫く沈黙を保った。受け止め、飲み込むには余りにも重い事態だった
向こうへ渡る手段も無く、連絡も着かない。特異型を見つけたとしても、北谷が言った通り『彼ら』のいる世界へ辿り着く保証もない
万が一、二つの世界がもう一度繋がったとしても、またもや深海棲艦という外敵が此方側へと流れつく可能性もある
余りにも、懸念材料が多すぎる。一個人がどうこうできるものでは無く、ましてや、めいじ館が一団となった所で到底解決出来る問題でもない
(*; ー )「……クソッ、クソッ、クソッ!!」
助けに行くために、助けを求めたかった。しかし、どれだけ考えを巡らせても思い当たる宛はない
北谷菜切に何かしらの手段を吐かせたとしても、御華見衆が『別の世界』を救う為にリスクを冒すだろうか?
きっと警戒はするだろう。禍魂が絡んでいるならば、『苗代』を手土産に帰って来る筈だから
しかし、上にとっての最優先は『この世界の平和』であり、『別の世界』の人間の安否など頭の片隅にも転がっちゃいないだろう
めいじ館という枠内に限れば、全員がどんな手段を使ってでも助けに行く。それだけの恩を受けたのだから当たり前だ
だが、それを組織は良しとはしない。全員が貴重な戦力で、東京という拠点の守護者だからだ
それが丸っきり、ないしは一部分だけでも、『その他』の事態に力を割くことを許すだろうか
(*; ー )「……ッ」
城和泉正宗「美琴……」
椎名は、こんな算段を巡らせている自分に腹が立った。彼らならば、『善き人』の味方である彼らならば
良くも悪くも『友情』の為に喜んで別世界へと参上するだろう。それが出来る人達であった
自己の人情を優先し、属する組織が被る損害など知った事じゃないと吐き捨てられる『身勝手さ』
経験が浅い若き巫剣使いがそれを得るには、まだまだ途方もない時間が必要だった
95 :
◆L6OaR8HKlk
[sage saga]:2019/04/09(火) 14:32:35.60 ID:397CxFwZ0
城和泉正宗「……報告は、するわ」
(*;゚ー゚)「城和泉……?」
城和泉は、泥沼に沈んでいく主を力強い声で引っ張り上げた
少女の身体と魂を持つ彼女だが、数多くの主に従えた『刀』なのだ。人よりも、多くの『人』を見てきた
城和泉正宗「その上で、出来る限りのことはしましょう」
(*;゚ー゚)「……それだけで、いいのかな……?」
城和泉正宗「美琴、北谷に飲み込まれちゃダメ。そして思い出して。あの子たちがどれだけ『強かったのか』」
(*;゚ー゚)「ッ!!」
『軍艦』の力を宿す少女、『艦娘』。そしてそれらを率いる規格外の漢、『提督』
北谷の言う『種』は、その本拠地へと送り込まれたのだ。見方を変えれば、『飛んで火に入る夏の虫』とも言える
きっと彼らは、戦いを愉しみ、愛する彼らは、再び現れた強敵を大喜びで迎え撃つのだろう
城和泉正宗「信じましょうよ。とびきりのバカで、とびきり強く、ほんの少しだけ優しいあの子たちを」
(*;゚ー゚)「……」
蘇る思い出が、椎名の不安を和らげた。同時に、なんだか『おこがましい』という感情も湧き上がる
それが可笑しくて、彼はクスリと微笑を洩らした。笑い事ではないのに、彼らが絡めばなんでも面白くなってしまう
城和泉も同じのようで、笑顔を携えながら主へ向かって手を差し伸べた
城和泉正宗「さ、落ち込んでる場合じゃないわよ!!今度は私達が、向こうの世界を救いましょう!!」
(*゚ー゚)「……わかったよ、城和泉」
椎名はその手を掴んで立ち上がる。彼女から伝わるぼんやりとした巫魂の温かみが、勇気を与えてくれるようであった―――――
96 :
◆L6OaR8HKlk
[sage saga]:2019/04/09(火) 14:33:36.33 ID:397CxFwZ0
結果として、椎名、城和泉を始めとするめいじ館の人員は、『地獄の血みどろマッスル鎮守府』と再会することは無かった
.
97 :
◆L6OaR8HKlk
[sage saga]:2019/04/09(火) 18:10:51.89 ID:397CxFwZ0
.
98 :
◆L6OaR8HKlk
[sage saga]:2019/04/09(火) 18:16:53.71 ID:397CxFwZ0
―――――
―――
―
( T)「終わッッッッッッ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
( T)「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
( T)「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッッたぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜い!!!!!!!」
よう、アマプラで音楽も聴けることに入会して二年経ってようやく気づいた俺だ。これライフハックになりますか?なりませんか?そうですか
なんだか見覚えのある三段活用を使って何か終わったことをアピールしたが、そう、銘治時代の活動報告書が完成した所なんだ。おめでとうって言え
( T)「ハァ……」シュボッ
あれからもう一年も経っているなんてな。我ながら時間を掛け過ぎたもんだ
それでも、あの世界で得た沢山の思い出は、昨日のことのように思い出せる。案外、俺の記憶力も捨てたもんじゃねえな
( T)「フゥー……」
みんな元気にしているだろうか
99 :
◆L6OaR8HKlk
[sage saga]:2019/04/09(火) 18:19:25.46 ID:397CxFwZ0
さて、元の世界に帰った後の事を話そう。俺達は銘治から、特異型を通じて無事に鎮守府へと帰還した
俺らが向こうにいた時間は大体二週間と半分くらい。鎮守府での日数に換算すると四日程度だった。有休が消えた
菊さんを送り、時雨を確保し、全員無事に帰る。九割の問題はここで解決した。残りの一割はと言うと
v川д川v<貞子ちゃんのいるところ、恐怖と悲鳴ありよ!!
このクソ幽霊だった。フィーナちゃんに謝れ
個人的にはサッサとぶっ殺したい奴だったが、この世界の『指針』としての役割が残っていた為
あきつ丸を始めとした陰陽師系艦娘の霊力を総動員し、呪力を抑え込んでいたのだ
その役目も終わり、後は炊飯器に戻して海に沈めれば万事解決だったが
俺が居ない間になんかウチの連中に取り入りやがったらしく、『逃がせ』という声が多く上がってしまったのだ
川ー川 ドヤンサダコ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
今思い出してもあの顔クソムカつく。このあと霊体三つ折りにしたけど、もっと折りたためばよかった
とは言え、『霊場』であるこの鎮守府以外では比較的害のない悪霊である事と
偶然だし悪意もあるが、良い出会いをもたらしてくれた立役者である事も考慮した上で
一二三川*д川<おほーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!自由だーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!
渋々、逃がしてやることにした
今度出会ったら霊体の原型無くなるまで細かく引き千切ってから炊飯器に封印する
100 :
◆L6OaR8HKlk
[sage saga]:2019/04/09(火) 18:25:30.40 ID:397CxFwZ0
( T)「……」
とまぁ、それからは一年何事も……いや、年末に牛王の薬でエライ目に遭ったわ
ともかく、誰かがどっかに消えるなどと言った怪異も無く、刺激的な毎日を過ごせている
( T)「フゥー……」
長く続いた回顧録が終わり、改めてめいじ館での日々を振り返ると
なんだか心の隙間に、寂しさがじんわり染み込んでいくような気持になる
便りの一つでも送れたら良いのだが、貞子も特異型も無い今は
( T)「……」
【 (キT) 】
こうして、受け取った代物を眺めながら、想いに耽る以外出来ない
ある意味では、『形見』のような物だろうか。やめやめろ縁起でもない。俺のバカバカ!!ゴミ山大将敗北者!!
( T)「……」
叢雲「なーにぼんやりしているのかしら?」
(;T)そ「はわわ!!!!!!!!!!!!!!!!!」ガタッ!!
いつの間にか執務室に入って来ていた叢雲の声に、思わず電みたいに驚いてしまう。また俺の乙女な一面を披露してしまった
それほど疲れているって事なのだろうか。そういや今何時だ。うわ、外明るっ!!
(;T)「驚かすんじゃねえよ……はぁ、朝か」
叢雲「夜通し作業していたの?もう少し効率よくデスクワークが出来ないのかしら?」
(;T)「俺が机仕事に向いてるように見えんのか?」
叢雲「いいえ、ちっとも」
叢雲は冷蔵庫から缶コーヒーを二つ取り出し、一つを俺に差し入れる
プルタブを開けながら、デスクトップPCの画面を覗き込んで来た
叢雲「ようやく終わったのね。随分時間が掛かったこと」
( T)「これでも端折った方なんだぜ?」
叢雲「そうね、アンタの恥ずかしいエピソードは秋雲が真っ先に寄稿したものね」
( T)「待ってそれ初耳」
叢雲「そのマスクを大事にしてるワケもちゃーんと聞いたわよ。とっくの昔にね」
( T)「死にてーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー……」
秋雲は後できっちりしばき回すことを固く心に誓った
101 :
◆L6OaR8HKlk
[sage saga]:2019/04/09(火) 18:26:22.68 ID:397CxFwZ0
叢雲「巫剣に禍憑、御華見衆……どこの世界も美少女に戦わせるのがお好きよねぇ」
( T)「問題が国内で済んでるだけ、向こうの方が遥かにマシだろうけどな……」
叢雲「羨ましい限りだわ。ねぇ、そう言えば知ってる?」
( T)「ん?」
叢雲「ちょっと失礼っと」
インターネットブラウザを開き、『菊一文字則宗』と打ち込んで検索を掛ける
すると、トップに『沖田総司の愛刀、展示へ』と書かれたリンクが上がった
叢雲「どうやら、この世界の菊さんが京都で展示されるらしいのよ。夕立なんて飛び上がって喜んでたわ」
( T)「ほぉー、そりゃ観に行かないとな」
俺がカタカタとキーボード叩いてる間に、嬉しい情報が上がっていたらしい
そういやなんかギャーギャー言ってた気がするけど、そん時仮眠してて寝ぼけてたから何言ってたのか覚えてねえや
( T)「おっ、新選組の刀も展示されるのか。世界は違えど、もう一度会えるのは……」
( T)「は?」
.
102 :
◆L6OaR8HKlk
[sage saga]:2019/04/09(火) 18:28:42.76 ID:397CxFwZ0
叢雲「どうしたの?」
( T)「……」
何をすんなりと肯定した?『菊一文字則宗』だと?バカな、そんな筈はない
検索結果を画像へと切り替える。ズラリと刀の写真が並んだ。その内の一つを拡大する
(;T)「バカな……」
そこには、柄も、鞘も、刃文も、俺が覚えている限りでは『瓜二つ』の日本刀が
この世界には『存在しない』筈の、菊一文字則宗の姿があったのだ
(;T)「……」
叢雲「ねぇ、アンタ大丈夫?」
(;T)「叢雲、答えてくれ」
叢雲「な、何を?」
(;T)「菊一文字則宗は司馬遼太郎の『新選組血風録』内で沖田の愛刀として知られているが、実在はしない。そうだろ?」
叢雲「……疲れてるの?じゃあアンタの目の前にあるこの刀は何なのよ」
(;T)「それがわからねえから聞いてんだろうが!!」
叢雲は突然の大声にギョッとしたが、謝罪の言葉が出てこなかった。『それどころでは無いからだ』
俺はさっきすんなりと『菊一文字則宗』が展示されるという情報を信じた。今の今まで、それが『当たり前』だと認識していたからだ
菊一文字則宗は小説の中だけではなく、実際に沖田総司が使用した名刀で、この世界に存在するという事を
(;T)「記憶違いか……?いや、確かに『菊一文字則宗』は存在していなかった……」
叢雲「ちょっと……本当に大丈夫?」
彼女にしては珍しく、俺を気遣う態度を取っている。それほどまでに、今の俺は『狂っている』ように見えるのだろう
しかし俺にとっては、狂っているのは自分ではなく、俺意外の全てに思えた
大した変化ではないのだろう。かの独裁者が世界大戦に勝利し、暗黒の時代を迎えたわけでもなく
ましてや核の炎で世界が焼け野原になったわけでも、猿が人を飼いならす世界になっているわけでもない
ただ、一振りの日本刀が実在の物となっただけ
その程度の些細な改変が、俺にとっては堪らなく恐ろしかった
103 :
◆L6OaR8HKlk
[sage saga]:2019/04/09(火) 18:29:49.95 ID:397CxFwZ0
(;T)「天龍……いや、秋雲でも夕立でも時雨でもいい、呼んできてくれ」
叢雲「……わかったわ。直ぐに」
付き合いの長い副司令艦は、何も言わず指示に従ってくれた。ただ事ではないと察したのだろう。当然ながらただ事で済めば越したことは無い
しかし、同じく銘治へ出向いた奴らを招集した所で、何が出来る?菊一文字則宗が『在る』というバグを修正する?それに意味はあるのか?
(;T)「っ……」
嫌な予感が吐き気と共にやってきた。震える指先で、缶コーヒーのプルタブを開けようとしたその時――――
天龍「オイ提督!!」
天龍が、扉を蹴破らんばかりの勢いで現れた
叢雲「て、天龍?ちょうど今呼びに行こうと……」
天龍「『禍要柱』だ!!!!!!!」
缶コーヒーは口を開けることなく掌から滑り落ち、床を転がった
(;T)「……クソッタレが」
どうやら、あのクソ忌々しい禍魂という存在は
世界間を越えて尚、俺らの事を見逃す気は毛頭ないらしい
104 :
◆L6OaR8HKlk
[sage saga]:2019/04/09(火) 18:31:26.69 ID:397CxFwZ0
叢雲「まがつかなめの……って、向こうの世界で『神隠し』の原因になった柱の事よね!?」
天龍「そうだよッ!!それが湾港にぶっ刺さってんだ!!あり得るかよ畜生が!!」
天龍は苛立ちと怒りを机にぶつけようとしたが、振り上げた拳は彼女の正気を保つために額を打った
天龍「更に悪い知らせがある……青葉が、消えた」
喉の奥から絞り出すような報告に、叢雲は唖然と口を開けた
俺の思考も止まりそうになるが、先に確認せねばならない事があった
たった一つだけ。俺達は『禍魂由来』の物をこの世界へと持ち帰っているのだ
(;T)「……」
引き出しの中にしまい込んだ小さな巾着袋。特異型からこの世界へ戻る為の片道切符のような物
『禍要柱』の欠片。今やちっぽけなゴミにしか過ぎないとタカを括っていたそれが―――
(;T)「『やられた』」
袋の中から、綺麗さっぱり消えていた
天龍「そいつが原因かよ……クソッ!!予兆は無かったのか!!」
(;T)「気づかねえと思うか!?それに、こんな事態予想も出来ねえ!!柱は今、どうなってる!?」
天龍「時雨ら叩き起こして他の連中に触れさせないように封鎖してる!!禍憑は今の所湧いちゃいねえ!!向こうから入れ替わったような奴も見かけてねぇ!!」
(;T)「出現からどれくらい経った!?」
天龍「俺だって夜間哨戒から帰って来て見つけたばっかだよ!!夜中とかそんなとこじゃねえのか!!」
(;T)「っ……」
俺らが湾港から目を放した隙に、禍要柱は出現。そして偶然、夜中に出歩いていた青葉が接触したのだろう
考察はともかく、すぐさま体制を整えねばならない。今度の神隠しは一年前とは話が違う。『向こうから顕れた』のだ
105 :
◆L6OaR8HKlk
[sage saga]:2019/04/09(火) 18:36:11.89 ID:397CxFwZ0
(;T)「叢雲、万一に備え鎮守府全域に臨戦態勢を……ッ!?」
天龍「っ、叢雲!?」
前触れもなく崩れ落ちた叢雲の身体を、咄嗟に天龍が支えた
病気の気は無かった。疲れている様子も無かった。二つの足でしっかりと立ち、緊急に備える心構えもしていた筈だ
叢雲「ハァッ、ハァッ……!!」
そんな彼女が、何かに苛まれているかのように息を荒げている
(;T)「意識は!?」
天龍「ねぇ!!脈は正常だし、熱もねぇ!!ただ、触ってると『気味が悪ぃ』!!」
(;T)「気味……まさか!!」
応接用のソファーへと運ばれた叢雲の手を取ると、身体に『ゾク』と悪寒が奔る
覚えがあった。何度も体内に侵入され、俺を狂わせ苦しめたあの感覚と似ていたのだ
(;T)「『禍魂』だ……!!」
天龍「は……嘘だろ、オイ……」
(;T)「冗談でこんなこと抜かす……」
天龍の視線は俺でも叢雲でもなく、『窓の外』へと向けられていた
彼女の驚愕は『禍魂』によるものに間違いはない。ただしその規模は、叢雲が気を失った事すら一瞬忘れさせる大きさだった
(;T)「あ……?」
晴天だった筈の空が、急速にぶ厚い黒雲に覆われていく
日の光は遮断され、薄暗闇が辺りを包み込んだ。窓から見える水平線の先は、深い霧によって見えなくなっていた
それはまるで俺らを外界へと逃がさない為に形作られた『ドーム』のようであった
106 :
◆L6OaR8HKlk
[sage saga]:2019/04/09(火) 18:39:32.19 ID:397CxFwZ0
(;T)「……」
天龍「……」
世界の終わりでも見ている気分だ。それは天龍も同じらしい。俺達に影響がないのは、銘治へ出向いて耐性が付いたからだろうか
だとして、無事に動けるのは俺を含めたったの『五人』。たった五人で、巫剣や巫剣使いがいないこの状況で
『禍魂』によるこの災いを、解決せねばならない
天龍「やる気か?」
( T)「当り前だ」
天龍「そうこなくちゃな……」
全く、禍憑も深海棲艦も、とことん似ている。どれだけ痛い目に遭っても、あいつらは学ぶお脳が足りていない
( T)「誰に喧嘩を売ったのか、わかっちゃいねえようだからよ……」
だったら何度だって刻み付けてやる。連中に『俺ら』という恐怖を
人々の絶望を餌に強大化する存在を、『絶望』へと蹴落とす悦びを存分に味わいながら
( T)「凄惨で素敵な『パーティー』で、盛大なお出迎えといこうじゃねえか」
壊れるまで、遊びつくしてやる―――――
107 :
◆L6OaR8HKlk
[sage saga]:2019/04/09(火) 18:40:48.92 ID:397CxFwZ0
.
108 :
◆L6OaR8HKlk
[sage saga]:2019/04/09(火) 18:44:23.39 ID:397CxFwZ0
―――――
―――
―
名古屋、某所
彼とその『愛刀』が、禍要柱を殴り割って現れた『水兵の服を着た少女』に得物を振り下ろさなかったのにはワケがあった
数か月前、東京を訪れた際に立ち寄った『上野支部』にて、今し方起こった出来事と類似した事件を耳にしたからだ
異世界より現れた戦士達が、同じく異世界より現れた外敵を、御華見衆と共闘して倒したという
当然ながら、構えは解かなかった。まだどこか幼さの残る謎の少女も同じく、此方を見た瞬間には『武道の構え』を取っていた
言葉を交わすより先に『警戒』を示したのだ。それも、一瞬の躊躇いも見せずに。ただの『少女』では片づけられない妙な迫力があった
顔立ちは端正で、活発そうな雰囲気を感じ取れる。茶屋で働けば一躍看板娘として名を馳せる事だろう
『愛刀』はチラリと主を伺った。それは、催促の意味も込められていた
確認はたった一言で済む。剣先と同じく鋭い視線を向けながら、彼は意を決してその言葉を投げかけた
(´・ω・`)「『艦娘』か?」
御華見衆名古屋駐在所長『大潮 凡吉』の問いかけに対して、彼女はこう返した
「『巫剣』ですか?」
お互いに、似たような疑問を抱いていたらしい
ただの禍憑なら、会話も交わさず襲い掛かる。その上位種なら人を欺く事もあるが―――
鬼切安綱「臭いなし。とりあえず、ウチらの敵じゃないっぽい」
禍憑の『臭い』に敏感な愛刀が下した判断は『否』に下った
(´・ω・`)「……ああ、俺は御華見衆名古屋駐在所の大潮だ」
鬼切安綱「ウチはアン。巫剣だよ」
油断はしないが、探りを入れるために一先ず自己紹介をする
少女は『御華見衆』の名を聞いた瞬間、険しい表情を僅かに和らげた
「名古屋ですか……あの、菊さ……菊一文字則宗さんと、連絡出来ませんでしょうか?」
(´・ω・`)「……それはお前さんの出方次第だぜ嬢ちゃん。先ずは名乗ったらどうだ?」
「おっと、これは失礼を。では、いつもの口上で……コホン」
構えを解いてわざとらしい咳ばらいをし、踵を揃え海軍式の敬礼をして、眩しい笑顔と朗らかな声で名乗りを上げた
109 :
◆L6OaR8HKlk
[sage saga]:2019/04/09(火) 18:45:01.20 ID:397CxFwZ0
青葉「ども!!恐縮です青葉ですぅ!!一言お願いします!!」
.
110 :
◆L6OaR8HKlk
[sage saga]:2019/04/09(火) 18:45:54.53 ID:397CxFwZ0
『Last one week & Epilogue』 END
111 :
◆L6OaR8HKlk
[sage saga]:2019/04/09(火) 18:46:33.88 ID:397CxFwZ0
『Last one week &繧ィ繝斐Ο繝シ繧ー繧ィ繝ウ繝
112 :
◆L6OaR8HKlk
[sage saga]:2019/04/09(火) 18:47:14.88 ID:397CxFwZ0
『Last one week & Prologue』 Restart
113 :
◆L6OaR8HKlk
[sage saga]:2019/04/09(火) 18:59:50.22 ID:397CxFwZ0
艦これ×天華百剣編第一部はこれにて完結となります
二部なんですが『参羽鴉』のストーリー進行に目途が付いてからの執筆になるので恐らくはだいぶ先の話になると思います
肝心のマッスル鎮守府本編ですが、エンドオブオオアライが見ての通り更新頻度よわよわなので暫くはクソギャグで繋いでいきます
お疲れさまでした
114 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/04/10(水) 00:19:40.35 ID:NQ8wiP4Eo
おつおつ
115 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/04/13(土) 21:01:27.84 ID:UGeycEEco
おつ
116 :
以下、名無しに代わりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/05/02(木) 14:09:03.10 ID:YmJHgWuWO
デュフフ、続きが気になっちゃうねぇ
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