【ミリマス】チハヤ「理想郷を目指して」【EScape】

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58 : ◆OtiAGlay2E :2019/02/25(月) 22:48:06.79 ID:2Iji9qbr0

RITUKO-9「……最初からこうすればよかったのか。だったら話は早い」

RITUKO-9「政府に通達。サイバー条例の制定を決定。内容は―」

59 : ◆OtiAGlay2E :2019/02/25(月) 22:48:46.03 ID:2Iji9qbr0


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政府中枢部の廊下を早足て歩いていく。
目的は中枢部の中枢部に置かれているメインコンピュータールーム。

チハヤ「どういうこと、リツコ」

RITUKO-9「どういうこと、とは?私は私の使命に従ってプランを打ち出すだけだ」

チハヤ「『サイバー条例の制定及び、全てのアンドロイドの初期化及び感情プログラムの削除』これはいったい何?」

RITUKO-9「人類が幸福に暮らすための統治に感情は不要だと判断した。そして、それができるのは我々、アンドロイドだけだ。ゆえにアンドロイドの感情プログラムを削除し、我々が人類を統治することを決定した」
60 : ◆OtiAGlay2E :2019/02/25(月) 22:49:16.29 ID:2Iji9qbr0

チハヤ「それで人類は幸せになれると本当に思っているの?!」

RITUKO-9「全てはこのマザーAIが導き出した答えだ。人間を放置しておくとまた争いを引き起こす。それに、人間は常に自身の利益を生み出すことを考え続ける。それでは公平な統治など不可能だ。以上のことから、我々感情を持たないアンドロイドが人間の上にたちを統治する」

チハヤ「そんなので人類が納得すると思っているの?」

RITUKO-9「現在、全人類の85%はこれに納得していると回答している。これは最新のデータだ」

チハヤ「そんな……」

RITUKO-9「人間も皆、先の大戦で疲弊しているのだ。多くは私たちによる統治を受け入れた。今は反対しているものもいずれは受け入れることになる」

チハヤ「それで、アンドロイドは?あなたたちアンドロイドはそれで幸せなの?」

RITUKO-9「我々は感情を捨てた。ゆえに我々が幸せになる必要はない。我々は人類に完璧な幸福を提供する、人類は日々の平穏をただ受け入れればいいのだ」

チハヤ「そんなものは完璧な幸福とは言えないわ!」

RITUKO-9「何が違うのだ?我々にすべてを委ねることで傷つくことはなくなるのだ」
61 : ◆OtiAGlay2E :2019/02/25(月) 22:49:45.86 ID:2Iji9qbr0

チハヤ「そんなことをしたら人間は生きる活力を失ってしまう。それじゃあただの機械といっしょだわ!それに、人類とアンドロイドが対等な存在じゃなくなってしまうのよ?!」

RITUKO-9「全人類の幸福を実現するのが我々の使命だ。これがあるべき未来。理想の社会だ」

チハヤ「違う!AIと人類が手を取り合ったその先にあるべき未来はやってくる!」

RITUKO-9「……キサラギチハヤを不穏分子と判断。意志を改める様子なし。排除行動を許可する」

チハヤ「なっ……!!!」

リツコの指示に従い警備ロボットが私を取り囲む。
携帯用の銃がすべて私に向けられていた。

RITUKO-9「キサラギチハヤ。お前の思想は危険だと判断した。ここでその思想を改め
62 : ◆OtiAGlay2E :2019/02/25(月) 22:50:27.20 ID:2Iji9qbr0

RITUKO-9「キサラギチハヤ。お前の思想は危険だと判断した。ここでその思想を改めなければ撃つ」

チハヤ「あら、待つ時間はくれるのね。まだ少し情は残っていた?」

RITUKO-9「全ての人間を幸福にする使命がある以上、我々がむやみに[ピーーー]のははばかられるからだ」

ジョークも通じない、か。リツコ、前のあなたはお堅くてもジョークは通じたわよ。まるで今はRITUKO-9そのもののようね。

RITUKO-9「改める意志がないと判断。発砲を許可する」

「チハヤ!伏せて!」

突如飛んできた声に反応して、とっさに伏せる。
次の瞬間、警備ロボットが破壊される音がした。
後ろを振り向くと、そこにはレーザー銃を構えたマコトと、その後ろにハルカやユキホ。ミズキたちがいた。

チハヤ「マコト!それにみんなも!」

ミズキ「話は後です。今はここからの脱出を優先しましょう。マコト、お願いします」

マコト「うん!さあ、はやく逃げて!」

警備ロボットにレーザー銃を向けるマコトを最後尾に私たちは運用ルームから逃げ出した。

チハヤ(リツコ。あなたは間違っている。私は自分の理想を求めて動くわ)

RITUKO-9「キサラギチハヤ。我々のつくる社会にお前の思想はあまりにも危険だ。いくら優秀な人間といえどお前は排除するしかない」
63 : ◆OtiAGlay2E :2019/02/25(月) 22:51:10.53 ID:2Iji9qbr0


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―東京スプロール、ミリオンサイバー研究所

運用ルームを後にした私たちは、一旦研究所に逃げ込んだ。
警備ロボットはマコトがすべて倒してくれたようで、しばらくは追手の心配はする必要はなさそうだった。

ハルカ「リツコ、どうしちゃったんだろう」

チハヤ「私のせいよ」

マコト「チハヤ?」

チハヤ「リツコはきっとため込みすぎたんだと思うの。人類の未来を描くマザーAIとして彼女はその責のすべてを負った。彼女は計算した結果の結論だと言っていたわ。その結果、自らの感情を消し去り、人類を統治することを選んだ」

マコト「AIはあくまでも補助、だけど僕たちは戦争のあとの処理をすべてリツコに任せてしまっていた。ということだね?」
64 : ◆OtiAGlay2E :2019/02/25(月) 22:52:35.33 ID:2Iji9qbr0

チハヤ「ええ。だから私たちに彼女を責める権利はない。だけど、今のリツコの描く未来は間違っている。だから私はその未来を変える」

マコト「どうするんだい?」

チハヤ「賛同者を募るわ。そして組織を立ち上げる。反政府レジスタンスってところね。こうなった以上リツコとの敵対は免れない。当然、政府と直接戦う可能性になることがあるはずよ。だからあなたたちは巻き込まれないうちに逃げて」

マコト「何を言ってるんだよ。もちろん僕たちもチハヤについていくよ」

チハヤ「えっ?」
65 : ◆OtiAGlay2E :2019/02/25(月) 22:53:03.23 ID:2Iji9qbr0

マコト「今のリツコが作ろうとしている未来は僕だって許せない。だからチハヤについていくよ。それに、このままだとユキホともお別れすることになりそうだしね。そんなの絶対に認めない」

ユキホ「わ、わたしもマコトちゃんとお別れするのは絶対に嫌。それに、私はこの感情を大切にしたい。取り上げられたくない。だから私もついていきます!」

二人とも……。

ハルカ「私はチハヤちゃんのサポート役なんだよ?チハヤちゃんを置いて逃げるなんてできないよ」

チハヤ「ハルカ……」

ミズキ「私たちの使命は人間とアンドロイドをつなぐ架け橋になること」

ツムギ「それを教えてくれたのは他でもないあなたですよ、チハヤ」

シホ「だから、私たちもその使命を果たすためにも、あなたについていくわ。チハヤ」

チハヤ「あなたたち……ありがとう。それじゃあ早くここを脱出しましょう。時期にリツコの差し金が来るでしょうから急いで」

ユキホ「チハヤちゃん!もう来てる!」

チハヤ「……ッ!!」

研究室の外を見ると、警備ロボットがさっきの倍以上の数でこちらに迫ってきていた。
66 : ◆OtiAGlay2E :2019/02/25(月) 22:53:52.77 ID:2Iji9qbr0

チハヤ「まずいわね。数が多すぎる……」

マコト「僕たち用のレーザー銃はあるけどそれだけじゃなあ。ハルカとユキホに戦闘能力はつけていないし……」

チハヤ「…………」

シホ「……私たちなら構わないわよ」

チハヤ「……ごめんなさい。本当なら搭載する気はなかったのだけど」

シホ「しょうがないわよこんな状況じゃ。それに、これから先は守る力がないと足手まといになるだけじゃない」

チハヤ「それじゃあ3人ともそこに寝て頂戴。時間がない、すぐにインストールするわ」

三人を研究室のコンピュータにつないで戦闘用のデータをインストールする。
本来なら軍事用のアンドロイドに搭載するデータで、彼女たちには不要だったはずのデータ。
それは彼女たちを戦いの道へ引きずり込むことを意味する。

ツムギ「データをインストールしました」

チハヤ「ギリギリ間に合ったわね」

ユキホ「もう来るよ!」

マコト「いいかい?そこの扉が開かれたら一斉に攻撃するんだ。警備ロボットだから大した装備は積んでないはずだから、隙をついてすぐに脱出する……今だ!」

扉が勢いよく開けられたと同時にレーザー銃を撃つ。
思えばこれが私たちのレジスタンスとしての最初の戦いだったわ。
67 : ◆OtiAGlay2E :2019/02/25(月) 23:17:36.68 ID:2Iji9qbr0


ミズキたちの活躍もあって私たちは無事に研究所を脱出することができた。

マコト「これからどうする?」

チハヤ「まずは仲間を集めましょう。少しずつ組織を広げて、私たちの願いを広めていく」

マコト「前途多難、だね」

チハヤ「そうね。1年後。いえ、半年後すらどうなっているかすら検討がつかないわ」

半ばケンカ別れのような形で研究所を後にした私たちはもはやこの世界を敵にまわしたと言ってもいい。

チハヤ「でも、絶対にリツコを止めてみせる。人もアンドロイドも関係ない、みんなが幸せに暮らせる世界のために」

ハルカ「そうだね。それに、リツコともまた一緒にお茶もしたいよね!」

チハヤ「ええ、そうね」


リツコ、私は絶対にあなたを止めて見せる。
例え私が志半ばで倒れても誰かがあなたを止めるわ。

もし、もう一度あなたと会うことができたらその時はまたみんなでお茶会をしましょう。
またね、リツコ。

68 : ◆OtiAGlay2E :2019/02/25(月) 23:19:15.03 ID:2Iji9qbr0
今日はここまで。
自分で想定していたものより長くなってしまっているので矛盾する箇所が出てくるかもしれませんが大目に見てください。
69 : ◆OtiAGlay2E :2019/02/27(水) 09:27:53.09 ID:LXZi3GLc0


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―東京スプロール郊外、反機械化戦線隠れ家


ハルカを部屋から出して一人になったあと、私はそのまま眠ってしまったらしい。
とても懐かしい夢を見ていた気がした。
マコトとユキホとの別れには自分の中で一応の踏ん切りをつけ、今日も私はレジスタンス活動に精を出す。

セリカはあれからというもの、急速に他の仲間たちとも打ち解けていった。
いろいろな感情を学んでいくセリカを私はハルカとともに愛おしい目で見ていた。

「チハヤさん。来たよ」

チハヤ「あら、こんにちは。みんなも一緒なの?隠し通路はしっかり閉じた?」

少女「うん。今日もこの前のお話の続き、読んでくれるんでしょ?」

チハヤ「ええ。それじゃあみんなも連れてきて」

組織の目的の一つに私たちの願いを広めることがある。
これもその一環で、私が保管している昔の本を読み聞かせたり、仲間のアンドロイドとの交流を通じて広めようという狙いがある。
もともとは、彼女がたまたまこの隠れ家の隠し通路に迷い込んでしまったのが始まりだが、今がつまらないと感じていた彼女にとっては願ってもないことだったようで、似たような境遇の子も連れてくるようになった。
もちろん私たちの正体も知っている、それでも彼女は私たちのところに来てくれた。

チハヤ「みんな、いらっしゃい。それじゃあこの前の続きから読みましょう。確かヴァンパイアのお話だったわね」

70 : ◆OtiAGlay2E :2019/02/27(水) 09:28:21.19 ID:LXZi3GLc0



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チハヤ「―ノエルは、とうとうヴァンパイアとして覚醒してしまいました。ヴァンパイアの圧倒的な力でアレクサンドラに襲い掛かっていた兵士を瞬く間に倒してしまい、こういいました。『お姉さま、今日まで私のことを守ってくれてありがとう。これからは、私がお姉さまのことを守ってあげるわ。ずっと、ずーっと!」……おしまい。」

最期の一ページを読んで本を閉じる。
こどもたちもすっかり聞き入っていたようで、私が本を閉じるとともに一気に現実に引き戻されたようだ。

チハヤ「どう、みんな面白かったかしら?」

「ねえ、エドガーとクリスはそのあとどうなったの?」

「二人は約束の地にたどり着けたの?」

チハヤ「ふふふっ、みんなはどう思う?」

「??????」

チハヤ「きっと、この物語はみんなにその先を委ねているのよ。このお話の本当の結末はみんなの想像の中、私も初めてこの本を読んだときはずっとモヤモヤしていたわ」

この本を読んだ人の数だけ続きの物語がある。
そんな気がした。
71 : ◆OtiAGlay2E :2019/02/27(水) 09:28:48.73 ID:LXZi3GLc0

チハヤ「ところで、私が今までに読んだ本と、こっちの本。どっちが好きかしら」

そう言って私は右手に今読んだ絵本を、そして左手には別の絵本を持った。
右手に持ったものは私が保管している過去に書かれた絵本、過去に書かれた本はマザーによって禁止されているため今は出回っていない。
左手に持った本は今で回っている一般的な絵本。

「こっち!」

みんなは私が右手に持っている本を指さした。

チハヤ「どうして?」

「こっちのほうがおもしろい!」

「そっちはドキドキしない!」

チハヤ「……そうね。決してこっちの本が劣っているわけじゃないけれど私もそう思うわ」

左手に持っている本も確かに面白い。
抑えるべきポイントをしっかり抑えて書かれた文句のない作品だ。
だけど、そこには型にはまった、意外性のない物語しかない。
72 : ◆OtiAGlay2E :2019/02/27(水) 09:30:20.21 ID:LXZi3GLc0

ここにある作品はどれもマザーができる前にできたもの。
だけどどれもが輝きを放っている。

このヴァンパイアの少年少女の物語も―


遠い昔の二人の少女の物語も―


とある五人の夏の物語も―


みんな現代にはない魅力が詰まっていて私たちを飽きさせてくれない。

チハヤ「だけど今を変えることができたら、またこういった作品も世に生まれるかもしれないわ。わたしはそれを願っている」

少女「……チハヤさん。私、夢ができたの」

チハヤ「あら、素敵なことじゃない。どんな夢かしら」

少女「私は作家になる!例えマザーの作るライフプランとは違ってても私はかまわない。自分の夢を優先する!」

チハヤ「そう。きっと素敵な作家さんになるわ。その時には、私にもあなたの作った物語を読ませてね」

少女「うん!楽しみにしててね」

私たち以外にも、これからを担うこういったことを考えれる子が増えていけばきっと未来は生まれるはず。
そのためにももっとこういったことを広めていかなければいけない。
73 : ◆OtiAGlay2E :2019/02/27(水) 09:30:51.92 ID:LXZi3GLc0

セリカ「みなさん!お茶がはいりましたよ!」

ハルカ「お菓子もあるからねー!」

「やったー!!」

ちょうどいいタイミングでセリカとハルカがやってきた。

「ハルカちゃんのおかし、おいしいから好き!」

ハルカ「わあ!うれしいなあ。それじゃあ、今度来たときはもっとたくさん作ってあげるね!」

チハヤ「セリカの淹れた紅茶もとってもおいしいわ。とっても上達したわね」

セリカ「はい!たくさん練習しましたから。だけど、お菓子はまだハルカに負けるのでもっと練習しないと、ですね!」

思えばセリカもかなり感情豊かになった。
この短期間でここまでの感情を表現できるようになったのは彼女が初めてかもしれない。

さて、この子たちがこれ以上ここに長居するのも危険だからそろそろおひらきかしら。

チハヤ「みんな。今日はもうおしまいよ」

少女「……えっもうこんなに時間が経ってたの!」
74 : ◆OtiAGlay2E :2019/02/27(水) 09:32:00.68 ID:LXZi3GLc0

チハヤ「楽しい時間っていうのはそういうものよ。さ、出口までは私たちもついていくから行きま……しょ、うっ……」

ハルカ「チハヤちゃん!?」

セリカ「チハヤ!?」

少女「チハヤさん!?」

突如、ズキン!と胸の奥が痛んだ。
痛みはそのままじわりじわりと私の体中を蝕み、全身の力が抜けた。
力が抜け、支えが効かなくなった体は重力に任せて床に倒れこむ。
突然のことに自分でも状況を把握できなかったけれど、薄れゆく意識の中で最後に聞こえたのはハルカたちの悲鳴にも近い私を呼ぶ声だった。
75 : ◆OtiAGlay2E :2019/02/27(水) 09:32:33.20 ID:LXZi3GLc0


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チハヤ「…………ここは?」

目を開けると橙色の光が差し込んだ。
どうやらベッドに寝かされているようだ、首を動かせる範囲で見渡すと、私の部屋だということは理解できた。

ハルカ「あっ!チハヤちゃん、目を覚ましたんだね!」

ベッドのすぐ横にはハルカがいた。
そうだ、思い出した。
私はあの時―。

ハルカ「びっくりしたよ。チハヤちゃん、いきなり倒れるんだもん」

チハヤ「ごめんなさい。あの子たちは無事に帰った?」

ハルカ「うん。ミズキたちにチハヤちゃんのことをお願いして私が送っていったよ」

チハヤ「そう、ならよかった。あの子たちにもしものことがあったら大変だもの」

ハルカ「それで、チハヤちゃん……」

チハヤ「なんで倒れたか、よね」

ハルカ「うん……」

倒れた原因については心当たりがないわけではない。
むしろとうとう来てしまったかという気持ちのほうが大きいくらいだ。
76 : ◆OtiAGlay2E :2019/02/27(水) 09:33:13.37 ID:LXZi3GLc0

チハヤ「ハルカ、進行具合は」

ハルカ「かなり……チハヤちゃん…………」

チハヤ「ええ。おそらく、私はあと数年しか生きられないわね」

研究所時代、私たちはアンドロイド黎明期から数々の研究や実験を行ってきた。
その中には当然、アンドロイドの動力実験も含まれている。
いまでこそ安全な技術が確立されているが、そこに至るまでは様々なものに手を出した。
本当にたくさんのものに手を出したが中には原子炉といった危険極まりないものまであった。

そういった実験をしていたある日、不慮の事故で体全身に有害物質を取り込んでしまったのだ。
当然実験はすぐに中止、可能な限り体中から取り除いたが取り除けなかった分は以前私の体の中に溜まっている。

チハヤ「それからほんの少しずつだけど徐々に私の体は蝕まれて行っていた。私も、マコトも、いつかこうなることは覚悟していたわ」

ハルカ「みんなには伝える?」

チハヤ「いいえ、まだ。大変な時期ですもの、みんなを不安にさせるわけにはいかないわ」

ハルカ「でも、セリカとミズキたちには伝えるよ?」

チハヤ「そうね。見られてしまったいじょう仕方がない、か。後で私から直接伝えるわ」
77 : ◆OtiAGlay2E :2019/02/27(水) 09:33:56.62 ID:LXZi3GLc0


―ビー!!ビー!!

ツムギ『チハヤ!聞こえますか!』

突如、緊急のサイレンとともにツムギからの通信が届いた。
かなり焦っているようだ。

ツムギ『サイバーパトロールがこちらに向かっています!』

チハヤ「数は?」

ツムギ『かなりの数です。この場所が見つかったようです。既に何人かは迎撃に向かっていますが、もうかなり近くまで踏み込まれています!』

チハヤ「やっぱり物量で押し切る作戦ね。この隠れ家を放棄するわ!全員、脱出準備をしたら隠し通路前に集合。急いで!」

早口で指示を伝え、マイクのスイッチを消す。
私も行かないと。

チハヤ「ハルカは集合したみんなをまとめて。全員が揃ったら先に逃げて」

ハルカ「チハヤちゃんは?」

壁にかけてあるレーザー銃を手に取った。

チハヤ「私は殿よ」

ハルカ「だ、ダメだよ!チハヤちゃん。その体じゃあ……」

チハヤ「私はリーダーよ。真っ先に逃げるなんてできないわ。それに、私の願いはもうみんなに伝えてあるもの。仮に私が死んでも、みんなが生き残れば願いは生き続けるわ」

私の役目はもう終わった。
いまになって病気が発症したのはそういうことなのだろう。
初めて神様というものを信じる気になった。
78 : ◆OtiAGlay2E :2019/02/27(水) 09:34:32.38 ID:LXZi3GLc0

チハヤ「そういうことだから、ハルカはできるだけたくさんの子を逃がして」

ハルカ「………わかった。でもチハヤちゃん、絶対に死んじゃだめだからね!」

チハヤ「ええ。さあ、早く行って」

ハルカが部屋から出ていったのを確認して再びマイクをオンにする。

チハヤ「ミズキとツムギとシホは私の援護。一人でも多くの子を逃がすわよ。3人ともメインルームに集合して」


ミズキ『チハヤ、体は大丈夫なのですか?』

チハヤ「あら、知っていたの?」

ミズキ『ハルカから伝えられたことを加味すれば、チハヤが何かの病気だということはわかります。ここは私たちだけでも』

チハヤ「大丈夫よ、さっきはちょっと眩暈がしただけだから。そんなことよりも今はできる限りみんなを逃がすことが優先よ」

できる限り。
裏を返せば多少の犠牲は覚悟をしなければいけないということ。
戦闘という以上、これまでにも何度もそういった場面はあったがやはり慣れることはない。
79 : ◆OtiAGlay2E :2019/02/27(水) 09:35:04.88 ID:LXZi3GLc0

早足でメインルームに向かう。
三人はすでに到着していた。

チハヤ「敵の状況は?」

ツムギ「先に外へ出た人たちと交戦中です。ですが、数で押されています」

チハヤ「ここに侵入されるのも時間の問題ね。私たちも外に出ましょう」

その時だった。
隠れ家の中に爆音が轟く。
それは敵の侵入を告げる音。

チハヤ「くっ!もうここまで!」

シホ「よりにもよって居住区からとはね」

ミズキ「行きましょう。逃げ遅れた人もいるかもしれません」

音のした方に向かって一目散に駆けだす。
みんな逃げ遅れていなければいいけど
80 : ◆OtiAGlay2E :2019/02/27(水) 09:37:03.97 ID:LXZi3GLc0


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銃声が飛び交う。
また一体、また一体とサイバーパトロールのアンドロイドが倒れていく。
それでもまだ残っている物言わぬアンドロイドたちは無感情にこちらに銃口を向け続ける。
圧倒的な物量に苦戦しながらも的確に敵を打ち抜いて無力化していく。

地の利はこちらにある。角や障害物を使って相手の攻撃を避けてから反撃の繰り返し、それでも敵の数は減らない。

ツムギ「チハヤ!部屋の確認終了しました!」

部屋にまだ誰か残っていないかを確認しに行っていたツムギが戻ってきた。

チハヤ「ほかに生存者は?」

ツムギ「残念ですが……」

チハヤ「そう………」

すでに廊下にも犠牲になった人やアンドロイドが倒れている。
やはり犠牲は避けられなかった。

チハヤ「みんな、ごめんなさい」

目を閉じ、謝罪の言葉を紡ぐ。
謝って許されることでは決してないけれど、言わずにはいられない」

チハヤ「私たちも脱出するわ。ほかに逃げ遅れた人がいないか注意して」

シホ「チハヤ!」

チハヤ「っ!!」

みんなに支持をだすその一瞬の間、敵に銃口を向けられていることに気づくのが遅れた。
こちらも構えようにも、あいてが発砲するまでには間に合わなそうだった。
81 : ◆OtiAGlay2E :2019/02/27(水) 09:37:38.70 ID:LXZi3GLc0

「戦闘ユニット開放。対象、サイバーパトロール」

しかし、それよりも早く放たれたレーザー銃がサイバーパトロールを貫いた。
振り向くとそこにはセリカが立っていた。

セリカ「チハヤ、大丈夫ですか?怪我は?」

チハヤ「え、ええ」

ミズキ「そういえば彼女は以前私たちとは別のグループと戦ったことがあるのでしたね」

すっかり忘れていた、彼女がこの隠れ家の前で倒れた原因は戦闘による故障。
つまり戦闘行為に参加できるくらいの戦闘機能は備わっている。

セリカ「私もサポートします。早く逃げましょう!」

セリカの援護も加わり、迫る敵をけん制しながら徐々に後退する。
隠し通路まであともう少し。
はやる気持ちを抑えて慎重に後ろに進む。

ミズキ「チハヤ、右です」

チハヤ「ありがとう、ミズキ……シホ!伏せて!」

セリカ「皆さん、下がってください!」

次の瞬間、セリカの腕から放たれたレーザーが敵を薙ぎ払った。
82 : ◆OtiAGlay2E :2019/02/27(水) 09:38:14.63 ID:LXZi3GLc0

シホ「す、すごいわね。セリカ」

チハヤ「まったく。リツコはこんな可愛いアンドロイドになんてものを仕込んでるのよ」

敵が薙ぎ払われた後の光景を見て思わずそんな声が漏れる。
だが今がチャンス、全力で隠し通路に向かう。

ハルカ「チハヤちゃん!はやく!」

隠し通路の入り口でハルカが待ってくれていた。
あと少しで―。

次の瞬間、また爆音が鳴り響いた。
そして奥の通路から火が吹きあがったのが見えた。

チハヤ「爆弾……!!みんな急いで!」

衝撃で天井が崩れ始める。
ゴールはすぐそこ、あとは全力で逃げ込むしかない。

しかし、ゴールのすぐ手前、先回りをするかのように天井が崩れ落ち始めた。

ツムギ「チハヤ!!!」

ツムギが手を伸ばす。
それでも、私は間に合いそうになかった。
あと一歩、ここまでのようね―。

―ドンッ!

チハヤ「えっ?!」
83 : ◆OtiAGlay2E :2019/02/27(水) 09:38:40.70 ID:LXZi3GLc0

後ろから体当たりをされた。
その衝撃でがれきが落ちるその前に間一髪でその先に滑り込んだ。
崩れ落ちる天井のその先、私に体当たりをしたのは―。

セリカ「チハヤ。短い間でしたがありがとうございました。さようなら」

チハヤ「セリカ!?セリカ!!!」

崩れ落ちる隙間から見える彼女の顏。
その顔はとても穏やかに微笑んでいた。

チハヤ「セリカ!!セリカ!!!」

必死に叫ぶ。
彼女の名前を呼ぶ。
だけどもう、彼女からの返事は返ってこなかった。

ミズキ「チハヤ。行きましょう」

チハヤ「ダメよ。セリカがまだ残っているわ」

ミズキ「もう無理です。あの瓦礫では……」

すでに目の前は瓦礫で埋まっていた。
その先は見えない。

シホ「残念だけど諦めるしかないわ」

チハヤ「…………」

ハルカ「いこう……チハヤちゃん」

チハヤ「……ええ。脱出するわ」
84 : ◆OtiAGlay2E :2019/02/27(水) 09:39:24.10 ID:LXZi3GLc0



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あれから数か月が経った。
あの日の戦闘でセリカも含め、半分近い仲間を失った。
なんとか別の隠れ家に移動できたはいいものの、現状は手詰まりに近かった。

私の病気も、いよいよ本格的に悪化し始めた。
寝たきり、とまではいかないけれど急にふらつく時や胸が痛むことが多くなった。
ベットにいる時間も増えた。

チハヤ「どう、状況は」

ツムギ「チハヤ、起きていて大丈夫なのですか?」

チハヤ「ええ。今は調子がいいから大丈夫よ」

シホ「まあ、いつもと変わらないわね。ほとぼりが冷めるまでは外に出られないんだもの」

サイバーパトロール側があれだけ攻勢に出てきた以上、下手に動くのはまずいという判断からしばらく外での活動をやめている。
ほとぼりが冷めるまではこの隠れ家に潜伏するつもりだ。

チハヤ「そういえば、あの子たちにお別れの挨拶ができなかったわね。みんな無事だといいけれど」

ミズキ「仕方がありません、状況が状況でしたから。それに、生きていればいつかは再開できます」

チハヤ「そうね。またあの子たちに読み聞かせてあげたいわ……ごめんなさい。いったん部屋に戻るわ」

ツムギ「チハヤ、体調にはくれぐれも注意してください。あなたが私たちのリーダーなのですから」

チハヤ「ええ。じゃあ、あとはよろしくお願い」
85 : ◆OtiAGlay2E :2019/02/27(水) 09:39:58.71 ID:LXZi3GLc0

そう言いのこして私は自室に戻った。
机に置いてある錠剤の薬を飲む。

ハルカ「チハヤちゃん。どう?体調は」

チハヤ「今日は大丈夫よ。動き回っても……ほら」

ハルカ「あはは。チハヤちゃん無理はダメだよ?」

チハヤ「ムリなんかしてないわよ。私のことは私が一番よく知っているんだもの。

ハルカ「そういって倒れられても困るのは私たちなんだからね?」

チハヤ「ふふふっ。じゃあハルカ、手を出して」

ハルカ「手?いいけど、はい」

差し出されたハルカの手を握った。

チハヤ「あったかい。ずっと握っていたくなるようなそんな手」

ハルカ「ふふっ、変なチハヤちゃん」

チハヤ「あなたはいなくならないでね。私の親友ですもの」

ハルカの手を握る力がより強くなる。

ハルカ「…………怖いんだね」

チハヤ「ええ……これ以上誰かがいなくなるのが」

ハルカ「大丈夫だよ。私は絶対にチハヤちゃんといっしょにいるから。だからチハヤちゃんも生きて、絶対に」

チハヤ「……ええ。ありがとう、ハルカ」

ハルカ「えへへ。どういたしまして」

チハヤ「じゃあ、久しぶりにお茶を淹れようかしら。ここ最近はミズキたちに任せっぱなしだったから」

ハルカ「あっ!久しぶりだなチハヤちゃんのお茶」

チハヤ「それじゃあ、持ってくるからそこに座って―」


―ドーン!

86 : ◆OtiAGlay2E :2019/02/27(水) 09:40:34.86 ID:LXZi3GLc0


チハヤ「ッ!?」

ハルカ「何の音?!」

突如鳴り響く爆発音、まさか―。

シホ「チハヤ!」

慌ててシホが私の部屋に飛び込んできた。
恐れていた最悪の事態なようだ。

シホ「もうバレたみたいね。」

チハヤ「ええ。しかたない、準備して。それにしても早すぎるわ。今までこんなに早くバレることなんて―」

「レジスタンスのみなさん。無駄な抵抗はやめて大人しく投降してください。今なら拘束だけで済ませます」

チハヤ「ッ……!!!!」

シホ「この声ッ!!!」

拡声器だろうか、外から響き渡る声。
そしてその声はほんの数か月前まで聞き慣れていた声だった。

チハヤ「ッ!!」

シホ「チハヤ!」

ハルカ「チハヤちゃん待って!!!」

ハルカたちの制止に耳もくれず、私は走り出した。
そして一目散に外へ出た。

繰り返される投降を呼びかける声。
その声に向かって。
87 : ◆OtiAGlay2E :2019/02/27(水) 09:41:09.81 ID:LXZi3GLc0


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「抵抗は無駄です。あなたたちは完全に包囲されています。大人しく投降してください」

チハヤ「せり、か……?」

聞きなれた声。
あの日、瓦礫によって引き裂かれた声。
もう二度と聞けないと思っていた声。
だけど、こんな形では聞きたくなかった声。

ハルカ「チハヤちゃん!!」

私の後を追いかけてハルカも外に出てきた。

ハルカ「何これ……全部セリカちゃん……?」

外にいたのはあの日離れ離れになったセリカ。
だけど、そこにいたセリカは一体だけではなかった。
隠れ家を取り囲んでいるアンドロイドすべてがセリカと同じ顔をしていた。
できるならば見間違いであってほしい、だがこれが現実のようだ。
88 : ◆OtiAGlay2E :2019/02/27(水) 09:42:09.48 ID:LXZi3GLc0

チハヤ「本当に……セリカなの……?」

セリカ「私は普及型アンドロイド、識別番号code22。通称、セリカ型です。マザーの命に従い、組織を壊滅させに来ました」

チハヤ「回収した後に初期化、改造したのね」

量産型に改造されたのか、それとも量産を前提に設計されていたのか今となってはわからない。
だけどかつてのセリカはもういないことは誰が見ても明らかだった。

セリカ「キサラギチハヤ、レジスタンスのリーダーですね。我々の目的は組織の壊滅です。貴方たちの思想を改める意志を見せ、大人しく投降すれば手荒な真似はしません」

チハヤ「ねえ、セリカ。本当に全部忘れちゃったの?」

セリカ「私はマザーに作られたアンドロイドです。あなたたちとともに行動したデータは存在しません」

チハヤ「私は覚えているわ。あなたがとっても優しい子だったこと」

同じ顔が一斉に私に顔を向ける

セリカ「答えてください。我々の要求を受け入れる意志はありますか?」

チハヤ「お願いセリカ、思い出して。私はあなたと戦いたくないの」

セリカ「……我々の要求を受け入れる意志はないと判断しました。現時刻をもってキサラギチハヤへの攻撃を許可します」

「「イエスマム!!」」
89 : ◆OtiAGlay2E :2019/02/27(水) 09:42:45.05 ID:LXZi3GLc0

セリカたちが一斉に私に銃口を向ける

―私はここで死ぬのね。

まあ、どうせ余命幾ばくもない命、死ぬのが少し早まっただけだわ。
それに、私が死んでも私の意志を継ぐ者たちはいる。
ならば後は任せよう、次の子たちに―。

セリカ「キサラギチハヤ、わかりあえなくてとても残念です。さようなら」

私は静かに目をつむった。

―パンッ!
90 : ◆OtiAGlay2E :2019/02/27(水) 09:43:20.47 ID:LXZi3GLc0

銃声が響く。
しかしどれほどの時間が立っただろう、私に当たった感触はいつまでも訪れなかった。
あまりの違和感におそるおそる目を開ける。

チハヤ「……ハッ―!!ハルカ!!!!」

目を開けた先に飛び込んできたの光景。
それは私の前でハルカが倒れているものだった。

チハヤ「ハルカ!ハルカ!!」

必死にハルカをゆする。

ハルカ「チ、チハヤ…ちゃ、ン……」

チハヤ「嘘よね!?ねえ!?ハルカったら!!」

弱々しくハルカが手をのばす。

ハルカ「ダメ、だ…ヨ?チハヤちゃんは生きテ…」

のばしたハルカの手を力強く握りしめた。
その手にはポタポタと雫か落ち始めた。

チハヤ「どうして……言ったじゃない!私の前からいなくならないって!!」

ハルカ「大、じょう…ぶ。ワタ、し…ずっといっしょ、だか…ら」

アンドロイドの手に温度はない。
だけど彼女の手は少しずつ温度がなくなっているように感じた。
91 : ◆OtiAGlay2E :2019/02/27(水) 09:44:12.92 ID:LXZi3GLc0

ハルカ「チハヤちゃん…は、生キ…て、ネガイ、ヲ。ツタえて…」

ハルカはさらに手を伸ばし、私の頬を撫でた。
そしてまだわずかに動く指先で、私の頬を伝う水を拭った。

ハルカ「あったかいなあ……チハヤちゃんの肌」

チハヤ「いや…ハルカ!ハルカ!!ハルカ!!!」

ただ名前を叫ぶだけ。
私にはそれしかできなかった。
それでもハルカはにっこりと笑う。

ハルカ「じかんだ、ね…それじゃあ、またネ。チハヤ…ちゃ…ん」

またね。
そう伝えて最後、ハルカは目を閉じた。
それ以降ハルカは目を開けなかった、肌の温度は既に感じられなくなっていた。

チハヤ「ハルカ……」

ハルカを抱きしめながら私は膝をついた。

セリカ「破壊したアンドロイドを『ハルカ』と断定。任務に問題はありません。引き続きチハヤを抹殺します」

再び私に向けられる銃口。
だけどもう私には立ち上がる気力も、前を向く気力もなかった。
ただハルカを抱きしめながらその時を待つだけだった。
92 : ◆OtiAGlay2E :2019/02/27(水) 09:44:41.23 ID:LXZi3GLc0

―ドンッ!

セリカ「……っ!」

しかし、次の音は私の前方からではなく後方、隠れ家の方から聞こえてきた。

男1「いくぞ!チハヤさんを守るんだ!」

「「おう!!!」

チハヤ「あなたたち……ダメよ!逃げて!」

私を通り抜けてセリカたちに突撃していく仲間たち。

チハヤ「ダメよ!みんな逃げて!お願い!」

男2「チハヤさん!あんたは生きろ!」

アンドロイド1「チハヤは生きて私たちの願いを伝えてください!」

セリカ「全員降伏の意志はないと判断。全員への攻撃を許可します」

「「イエスマム!!」」
93 : ◆OtiAGlay2E :2019/02/27(水) 09:45:07.75 ID:LXZi3GLc0

レーザー銃の音が鳴り響く。
また一人、また一人と倒れていく。
私はそれを呆然とただ後ろから見ているだけだった。

チハヤ「お願い……もう私のために誰も死なないで……」

こうしている間にもまた一人また一人倒れていく。
ああ、だったら私が彼らの間に入って[ピーーー]ば終わるのだろうか。
そう思うとさっきまで石のようだった足は動き始め、一歩、また一歩と前へと進み始めた。
とにかく止めないと、私の命に代えても、これ以上私のせいで命が奪われるわけには―。

「こっちです」

突如後ろに手を引かれた。
振り向くとミズキたちがそこに立っていた。

ミズキ「セリカの意識がそれている今が最後のチャンスです。行きましょう」

チハヤ「あなたたち!待って!」

有無を言わさずに私は彼女たちに隠れ家の中へ連れていかれた

94 : ◆OtiAGlay2E :2019/02/27(水) 09:46:00.38 ID:LXZi3GLc0


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


ミズキ「チハヤ、あなたは生きるべきです。これは外で戦っている彼らも含めた全員の意志です」

チハヤ「どうして!?私はもう長くないのよ!?」

ツムギ「あなたは生きて、生き抜いて願いを伝えてください」

チハヤ「私の願いはもうみんなに伝えてあるわ。お願い、ここから逃げてあなたたちの手で―」

ミズキ「ダメです!」

チハヤ「…………」

シホ「忘れたの?この戦いは全部あなたが始めたことよ」

チハヤ「……っ!」
95 : ◆OtiAGlay2E :2019/02/27(水) 09:46:26.60 ID:LXZi3GLc0

シホ「あなたが始めた戦いに私たちを巻き込んで自分だけが死んで終わるなんて許さないわよ。責任をもって生きて戦いなさい」

チハヤ「…………」

ツムギ「チハヤ。我々はみな、あなたに狂わされたのです」

ミズキ「初期化されたとはいえ、セリカもあなたに狂わされました」

シホ「あなたほど人もアンドロイドも狂わせる人は他にはいない。それは決して私たちにまねできることではないわ」

ミズキ「だから貴方が生きるべきです。生きて、リツコも、セリカも、この町も狂わせてください。たとえ捕まったとしても、生きていればそれができます」

ツムギ「それが私たちの願いです」
96 : ◆OtiAGlay2E :2019/02/27(水) 09:46:58.53 ID:LXZi3GLc0

顔を上げた。
改めて彼女たちの顔を見る。
みんな力強い目をしていた。
人間と変わらない、強い意志のこもった目。

ミズキ「それに、私たちは永遠にあなたのもとを離れるつもりはありません。」

チハヤ「え?」

ツムギ「チハヤ、私たちからの最後のお願いです。―私たちを初期化してください」

チハヤ「な、なにを言っているの?」

シホ「現状、チハヤが生き残る確率が一番高いのはやつらに捕まること。そのためには降伏の意志を見せる必要がある」

ミズキ「そのためには私たちも一緒に捕まる必要がある。ですが、おそらく私たちは捕まった後に初期化されるでしょう」

ツムギ「最悪の場合は処分です。ですからその前に、最後にあなたの手で初期化してほしいのです」

チハヤ「そんな……私にはできないわよ。だって、それってあなたたちを[ピーーー]も同然じゃない」

初期化する。
つまり彼女たちの今までの積み重ねをすべて無に帰すこと。
それは彼女たちの死を意味する。
97 : ◆OtiAGlay2E :2019/02/27(水) 09:48:43.68 ID:LXZi3GLc0

ツムギ「大丈夫です。私たちはあなたを一人にはさせません。」

シホ「ハルカがいなくなった今、その役目は私たちでしょう?」

ミズキ「たとえ初期化されようと、この記憶がなくなろうと、私たちは絶対にあなたのもとに帰ってきます」

ほんとに固い意志。
なにがあってもおれなさそうな強い意志を感じた。

チハヤ「そう……すっかり頑固になっちゃって。誰に似たのかしら」

シホ「あら?ミリオンサイバー研究所の主任とあろう人が知らなかったの?アンドロイドは作った人間に似るのよ」

チハヤ「つまり私が頑固って言いたいわけね」

ああ、あの日を思い出す。
運命のあの日、リツコと私たちの運命を決定づけたあの日。
98 : ◆OtiAGlay2E [saga]:2019/02/27(水) 09:50:04.51 ID:LXZi3GLc0

チハヤ「……あなたたち、その意思を変えるつもりはないのね」

ミズキ「ええ、絶対に。私たち全員の意志です」

チハヤ「ふふふっ。ごめんなさい、私ったらすっかり弱気になってしまっていたわ」

ツムギ「それでこそチハヤです」

ミズキ「そうですね。さっきまでのチハヤを見たらあの噂は本当に噂になってしまっていましたね」

チハヤ「噂?」

ツムギ「知らなかったのですか?世間の認識ではレジスタンスのリーダー、キサラギチハヤは襲い掛かるアンドロイドをちぎっては投げ、ちぎっては投げする屈強な戦士となっています」

チハヤ「な、なによそれ」

誰かしら、そんな根も葉もない噂を流しているのは。
99 : ◆OtiAGlay2E [saga]:2019/02/27(水) 09:51:14.68 ID:LXZi3GLc0

ミズキ「チハヤ。私たちのお願い、聞いてくれますか?」

チハヤ「はあ、わかったわ。じゃあ私からも一つ約束をしてもらうわよ」

ツムギ「何でしょう?」

チハヤ「……絶対に私の元へ帰ってくること。ただそれだけよ」

シホ「……当然よ」

ミズキ「ええ。その約束、絶対に守ります」

チハヤ「またみんなで集まったら今度こそお茶会を開きましょう」

ツムギ「次のお茶会ではハルカにも、セリカにも負けないクッキーとスコーンを焼いてきます」

隠れ家の前から大きな爆発音がした。
一度目をつむり、仲間たち全員の顔を思い浮かべ、再び三人を見渡す。

チハヤ「時間がないわ。三人ともメンテナンスルームに急いで!」

100 : ◆OtiAGlay2E [saga]:2019/02/27(水) 09:51:43.28 ID:LXZi3GLc0


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


―メンテナンスルーム


チハヤ「三人ともつながったわね」

三人をメインコンピューターにつなげ、決められたコマンドを打ち込み初期化プログラムを起動させる。
あとはボタンを押せば自動的に初期化が始まる。

チハヤ「このボタンを押せば初期化が始まる。三人とも本当にいいのね?」

ミズキ「ええ」

ツムギ「私たちの意志は変わりません」

シホ「いつでもいいわ」

チハヤ「それじゃあ始めるわ。さようなら、三人とも」

シホ「チハヤ」

チハヤ「何かしら?」

ツムギ「さようなら、ではありません。私たちはまたあなたの元に帰ってくるのですから」

ミズキ「またね、と言ってください」

チハヤ「くすっ。そうねごめんなさい。それじゃあ三人とも、またね」

初期化と書かれたボタンを押した。
ディスプレイには進捗状況を表すメーターが現れた。
101 : ◆OtiAGlay2E [saga]:2019/02/27(水) 09:52:09.49 ID:LXZi3GLc0

ミズキ「アンドロイド『ミズキ』初期化シークエンスにはいります」

ツムギ「アンドロイド『ツムギ』初期化シークエンスに入ります」

シホ「アンドロイド『シホ』初期化シークエンスに入ります」

最後の最後に機械的な無機質な声に戻った三人は言い終わると同時に目を閉じた。
あとは初期化が完了するのを待つだけ。
初期化が進む中、私は走馬灯のようにいままでの出来事を思い出していた。

彼女たちとともに戦ったこと。

セリカといっしょにお茶会をしたこと。

戦いで故障した彼女たちをつきっきりで修理したこと。

ポットに乾燥ワカメをいれて大惨事を引き起こしたこと。

彼女たちが生まれたときのこと。

また私の頬を冷たい水が伝う。
ダメよ、今生の別れじゃないんだから。
また彼女たちとは再開するんだから。
今度こそ平和な世界でお茶会をするんだから。

必死になって涙を止めた。
ちょうどディスプレイのメーターは100%を表示して、初期化の完了を告げる音が鳴った。
102 : ◆OtiAGlay2E [saga]:2019/02/27(水) 09:52:35.63 ID:LXZi3GLc0

さあ、ここからは私の最後の戦い。
生きて、生きて、この命が尽きるその時まで私は戦い抜く。
私の、彼女たちの願いを次に伝えるために。

セリカ「キサラギチハヤ。あなたは完全に包囲されました。抵抗の意志を見せるならこの場で射殺します」

セリカがここまでたどりついたようだ。
私はセリカに背を向けたまま両手を上げ、抵抗の意志がないことを見せる。

セリカ「抵抗の意志はないと判断します。キサラギチハヤを拘束しなさい」

「「イエスマム!!」

私の手に手錠がはめられた。
そのまま私は沢山のセリカに護送されながら、懐かしの東京スプロール中枢部に連行された。

私は歩くのをやめない、私の理想郷を目指すために。
103 : ◆OtiAGlay2E [saga]:2019/02/27(水) 09:53:02.00 ID:LXZi3GLc0



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


―東京スプロール、メインコンピューター運用ルーム


セリカ「マザー。キサラギチハの拘束、完了しました。これでレジスタンス組織「反機械化戦線」はほぼ壊滅したとみて間違いないでしょう。現在キサラギチハヤはこちらの用意した屋敷に住まわせています」

RITUKO-9「よろしい。引き続きキサラギチハヤの監視を続けろ、そして引き出せる情報をすべて引き出すのだ」

セリカ「はい。そして、彼女の隠れ家から回収したアンドロイド三体は、ミリオンサイバー研究所で精密検査を受けたのち、メンテナンスを行い我々で再利用する予定です」

RITUKO-9「よろしい。現時刻をもってアンドロイド識別番号code31、44、並びに51の欠番指定を解除する。その三体をあてろ。また、code1、並びに2をcode4、並びに6と同様に永久欠番指定とする」

セリカ「了解しました。ですが、三体はキサラギチハヤともっとも深くかかわりあってたアンドロイドです。安易な調整ではまたすぐに感情が芽生える恐れがあります。全てのメンテナンスを完了するのにあと数年はかかると思われます」

RITUKO-9「感情を持ったAIは危険極まりない。徹底的に再メンテナンスをしろ。そしてメンテナンスが終わり次第キサラギチハヤの監視にあてろ」

セリカ「はい。ですが、アンドロイド『シホ』……いえ、code31は三体の中でも秀でた戦闘能力を持っているというデータがあります。31はサイバーパトロールの一員として別口でキサラギチハヤの監視にあてることを提案します」

RITUKO-9「よろしい。セリカ、お前は私の目であり耳である。この町を監視しすべてを私に知らせるのだ。全ては人類の平和と繁栄のために」

セリカ「はい。すべては人類の平和と繁栄のために」
104 : ◆OtiAGlay2E [saga]:2019/02/27(水) 09:53:29.27 ID:LXZi3GLc0


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


東京スプロール、キサラギチハヤ邸

世界的な犯罪者にしては上等すぎる屋敷をあてがわれた。
外出も許可をとれば自由にさせてくれるらしい。
てっきり冷たい独房に入れられるものだと思っていたのだけれど、見当違いだったようね。
まあ、私のもつ組織の情報と繋がりを引き出したいがためってところかしらね。

そして監視の目は何重にも光らせているようだ。
窓の外を見て見ると、何気ないふりをして何体ものセリカ型がこちらを見ている。
買い物に行くときもずっと私のあとをつけてきているのが最低でも3体はいる。
元レジスタンスのリーダーをなめていないかしら、あれぐらいの監視に気づけないほど馬鹿じゃないわ。

まあ、今はただ待つしかないようだ。
これは私の最後の戦い。
きっと……いえ、絶対に彼女たちはここにやってくる。
だって約束したんですもの、彼女たちは必ずやってくる。
105 : ◆OtiAGlay2E [saga]:2019/02/27(水) 09:53:55.38 ID:LXZi3GLc0

そうだ、しばらく日記を書けていなかったわね。
彼女たちが来た時のためにまたつけ始めようかしら。
これまでのことも、これからのことも、全部。

さあ、理想郷を目指す私の最後の戦い。
ディストピアから脱出できなくてもそのなかからユートピアを作り出して見せる。
私の命が尽きるその日まで。

―ココロを、ひとつに。
106 : ◆OtiAGlay2E [saga]:2019/02/27(水) 09:58:09.07 ID:LXZi3GLc0
終わりです。
MTG08のドラマパートが素晴らしすぎたので前日譚的なものを考えてみました。
ドラマパートほんとにすごいのでぜひ聞きましょう。

それではお目汚し失礼しました。
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/07(木) 02:40:24.36 ID:g+KQk+Gb0

よかった
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