ダンガンロンパ ホープロワイヤル

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83 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 21:34:39.35 ID:eAg+4cOD0

十神(太)「何……?」

日向「形勢は互角じゃない。俺の有利だ」

日向「簡単な話だ。おまえは超高校級の能力を見破られて無力化されている」

日向「でも、俺の超高校級の能力は見破られていない」

日向「それだけで十分なアドバンテージだろ?」



十神(太)「くっ……」

日向「まさか自分だけ武器を持っているつもりだったのか? その油断が命取りだな」



日向(そうして俺が能力を発動しようとしたそのとき)

84 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 21:35:05.93 ID:eAg+4cOD0



七海「日向君!!」



日向「七海……!?」

日向(後方からの声にふりかえると七海が駆け寄ってきていた)

日向(正面には変わらず十神がいるし……本物か)

日向(偶然俺を見つけたということだろう)



十神(太)「運良く本人が来たか……これでは騙すのも失敗していただろうな」

日向「残念だったな」

七海「えっと……どういう状況?」

日向「あとで説明する。まずは十神を倒す」

七海「……う、うん」



日向(そのまま寄ってきた七海だが、説明する前にやることがある)

日向(俺を騙そうとしたこの詐欺師は敵だ)

日向(先に倒そうとして――)
85 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 21:35:32.58 ID:eAg+4cOD0



七海(?)「別に説明しなくてもいい、状況は分かっているしな」



日向「……っ!?」 グサッ!!



日向(どういうわけか……七海が至近距離からナイフで俺を刺していた)


86 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 21:36:00.33 ID:eAg+4cOD0

日向「くっ……!!」

日向(状況は分からないが凶器を振るっておいて味方はあり得ない)

日向(俺は七海を突き飛ばす)



七海(?)「狙い通りだ」

十神(太)「上手く行ったな」

日向(七海はそのまま十神の横に並ぶ……どういうことだ?)



日向「二人とも組んでいたのか……?」

七海(?)「ああ。そういうことだ」

日向「どうして……何の希望で結託して……」

七海(?)「そうだな……もうこの姿でいる必要はないか。全く騙すためとはいえ、俺が女のフリをするとはな」



日向(七海が言うとその姿が変わって――)

87 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 21:36:37.54 ID:eAg+4cOD0



七海→十神「こういうわけだ」

十神「残念だったな」



日向「十神……っ!!」

日向(本物の十神の姿に変わる……これはどういうことだ?)



十神「端的に説明してやろう。俺の能力『超高校級の御曹司』でこいつの詐欺師の能力をコピーしておいたということだ」



『能力:超高校級の御曹司』

『触れた人間の能力をコピーすることが出来る。なお、すでに他の能力をコピーしている場合上書きする』

『現在コピー中の能力:超高校級の詐欺師』



日向「詐欺師の能力を……それで七海のフリをして……」

十神「おまえを襲ったというわけだ。偽物の後に出てきたから本物だと思って騙されたな」



日向(くっ……油断した)

日向(このタイミングで七海がこの場に姿を現すなんて偶然がそうそう起きるわけ無いのに)

日向(勝利を確信した人間ほど隙だらけ……まんま返されたな)

88 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 21:37:08.41 ID:eAg+4cOD0

腐川「びゃ、白夜様。上手く行きましたね」



日向(物陰からさらに一人生徒が出てくる)

日向(超高校級の小説家……腐川冬子。十神の熱烈的なファンだったか)

日向(そして三人が横に並ぶ)



日向「まだゲームが始まったばかりだってのに……俺を二段構えで騙す作戦といい、三人でチームを組んでいることといい、ずいぶん手際が良いな」



十神「ゲーム開始直後に電子生徒手帳から俺の言うことを聞くこいつらに連絡した」

十神「そうして集まって、俺の希望に変えさせてチームを組んだというわけだ」

腐川「ほ、本当は私が白夜様と結ばれるって希望だったけど……びゃ、白夜様の言うことには逆らえないもの」

十神(太)「俺を影武者として正式に認めてくれるとあれば希望を変えることくらい吝かではない」

十神「俺らの希望はこうだ」



『希望ヶ峰学園が十神グループの傘下に入る』



十神「とはいえこの希望もついでだ」

十神「あらゆる才能の頂点に立つこと……この戦いに勝つこと事態に意味がある」

十神「だから勝つために何でもしてやる」
89 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 21:37:43.82 ID:eAg+4cOD0

十神「というわけだ、おしゃべりはここまでにしておこうか」

十神「おまえたち、こいつの電子生徒手帳を奪え」

十神(太)「ふん、いいだろう」

腐川「わ、分かりました、白夜様」



日向「ちっ……!」

日向(電子生徒手帳を壊されても負けだ……奪われるわけには行かない)



十神「抵抗するか、無駄だな」

十神「こちらは三人、そっちは一人。その上不意打ちでおまえはナイフが刺さっている」

十神「どうあがいても絶望だ」

90 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 21:38:16.47 ID:eAg+4cOD0

日向「それは……どうかな?」

日向(挑発的な笑みで返すが……十神はそれを予想していたようだ)



十神「使うか……おまえの身にも宿っているだろう能力を」

十神「どうやらこの状況からも逆転できる能力みたいだな」



日向「……いや、そんなことないさ」

日向「予備学科の俺だぞ。才能もない俺に見合った駄目駄目な能力だ」

日向(せめてもの油断を誘うために嘘を吐くが)



腐川「……白夜様、今の言葉嘘です! あいつの能力は……!」

日向(腐川の反応は……もしかしてやつの能力によるものか?)



『能力:超高校級の文学少女』

『嘘が分かる。常時発動する』



十神「それくらいおまえに言われんでも分かっている」

十神「見せてみろ、日向。おまえの能力を」
91 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 21:38:42.65 ID:eAg+4cOD0



日向「後悔するなよ」



日向「発動――超高校級の希望!」



日向(俺は能力の発動を宣言すると、その姿が変わり――)


92 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 21:39:11.18 ID:eAg+4cOD0



カムクライズル「ツマラナイ……」



『能力:超高校級の希望』

『カムクライズルになる。その他詳細不明』





十神「っ……!」

十神(日向がカムクライズルの姿へと変わった)
93 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 21:39:42.07 ID:eAg+4cOD0

十神(どのような能力なのか見ている目の前で……)



カムクライズル「……」

十神(太)「なっ……!?」

十神(ナイフによって付いた傷を一瞬で回復させて)



カムクライズル「……」

腐川「と、飛んだ……!?」

十神(跳躍して一息で岩山を登り、俺たちの前から姿を消した)



十神(後に残されたのは俺たち三人だけだ)
94 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 21:40:15.80 ID:eAg+4cOD0

十神(太)「逃げたのか?」

腐川「み、みたいだけど……でも、あいつの能力はどういうわけ?」



十神「……上々だな」



十神(日向にはまんまと逃げられた形だが……そもそも今回の俺たちの狙いは日向を殺すことではない)

十神(ゲームが開幕したばかりの今、一人減らそうがそこまで意味はないからだ)



十神(本当の目的は……日向の能力を見極めること)

十神(襲撃はあいつをピンチに追い込むことで能力を発動させるため)

十神(そして強い能力なら俺の能力でコピーして、ゲームを有利に進めるつもりだった)



十神「………………」

十神(カムクライズルになったあいつは傷の治癒、超人的な運動能力を見せて……なのに俺たちの前から一目散に逃げた)

十神(やつの能力は……おそらく……)

95 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 21:40:44.22 ID:eAg+4cOD0

十神「なるほど」

十神(太)「どうする、追うか?」

十神「いやいい、捨て置け」



腐川「い、いいんですか。あの能力のコピーを狙わなくて」

十神「ああ、あいつの能力は欠陥がある。最強にはほど遠い」

腐川「欠陥……?」





十神「脇道にそれるのは終わりだ。計画通りプランAを実行する。行くぞ」





十神(太)「いいだろう」

腐川「わ、分かりました、白夜様!!」



そうして三人もその場から姿を消した。
96 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 21:41:12.93 ID:eAg+4cOD0

<住宅地>



苗木(ルール解説も終わり、霧切さんとチームを組むことになった僕は次の行動を開始しようとしていた)



霧切「超高校級の能力なんて現実離れした能力がある以上、受け身になるのは悪手」

霧切「こちらから動いていきたいわね」

苗木「潜伏していてもバレるもんね」

苗木「少なくとも超高校級の探偵はもう一人いるわけだし」

霧切「最原君ね。全く同じ能力なのかは分からないけれど……」



苗木「でも、これからどう動くの?」

霧切「それは――」



苗木(霧切さんが口を開こうとしたそのときだった)

97 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 21:41:41.38 ID:eAg+4cOD0



モノクマ『死体が発見されました!!』



苗木「っ……!!」

苗木(モノクマによって島全域にアナウンスが流れる)



苗木「今のは……えっと、ルールだと誰かが死亡した時点で流れるんだったよね」

苗木「ゲームも始まったばかりだってのに誰が……」

霧切「しっ……まだみたいよ」

苗木「え……?」





モノクマ『死体が発見されました!!』





苗木「っ、二回目!?」

苗木(今のほとんど間隔が無かったけど……ほぼ同時に二人も殺されたの!?)



苗木「一体、何が起きているんだろう……」

霧切「…………」
98 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 21:42:14.70 ID:eAg+4cOD0



――時を少しさかのぼる。



<森林地帯>



大神「最初の相手はお主か」



辺古山「くっ……!」



ゲーム開始直後のタイミングで、77期生と78期生の武道家を極めし二人が激突しようとしていた。


99 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 21:42:52.17 ID:eAg+4cOD0

<森林地帯>



超高校級の格闘家、大神さくら。

超高校級の剣道家、辺古山ペコ。



一流の武道家である二人。

一期しか違わない点から何かと比較されがちである二人。





お互いの能力も。

『能力:超高校級の格闘家』

『格闘家としての力、技術を発揮できる』



『能力:超高校級の剣道家』

『剣道家としての力、技術を発揮できる』

武闘派の生徒にかけられた枷として、現実と特に変わらない状態だった。

100 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 21:43:18.80 ID:eAg+4cOD0



ホープロワイヤルの主旨、どの希望が一番優れているのかを体現したような戦いは。





大神「逃がしはせんぞ!」

辺古山「くっ……!」





逃げる辺古山を大神が追う展開となっていた。
101 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 21:43:48.24 ID:eAg+4cOD0

剣道三倍段という言葉がある。

剣道家相手に素手で戦う者は三倍の段位があって互角であるというものだ。

それだけにリーチの差は大きい。



つまり本来は剣道家である辺古山が有利のはず。

なのにどうして現在辺古山が逃げる状況になっているのか。



それは剣道家としての本領を発揮できていないからだった。



開始直後、この島に飛ばされたばかりで準備する時間も無かったタイミングで大神と出会ったため。

現在の辺古山は竹刀もその代わりになりそうなものも持っていないのである。

手元にあるのはプレイヤーの初期装備、電子生徒手帳だけだ。

102 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 21:44:14.24 ID:eAg+4cOD0

大神「最初からお主と会うとは……幸運であり不運だった」

大神「無手同士故こうして圧倒できる訳だが、武道家としてやはり竹刀を持った本気のお主を相手してみたい気持ちもある」

辺古山「だったら見逃せばいいではないか!」

大神「それもそれでまた違うな。……ふんっ!!」



森の中を駆けながら大神は拳を繰り出す。

辺古山は間一髪で避けると、その後ろにあった木に当たる。



ズンッ!! と。



人体と木が衝突したとは思えないほどの重低音が森に響く。

103 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 21:44:42.98 ID:eAg+4cOD0

辺古山(何て一撃だ……!)

辺古山(一発でも食らえばアウトだろう)

辺古山(反撃に出たいが……竹刀が無いのは痛い)



辺古山(無手での取り組みも少しは自信がある。全くの素人が相手であれば制圧することも可能だろう)

辺古山(しかし、相手が悪い)

辺古山(超高校級の格闘家、本職相手には通じるとは思えなかった)



辺古山(だから逃げるしかない)

辺古山(……だが、何の策もないわけではないぞ)

104 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 21:45:15.39 ID:eAg+4cOD0

大神(辺古山の狙いは分かっている)

大神(この森の中でも手に入る棒状の物)

大神(木の枝を手に入れて反撃するという魂胆であろう)

大神(逃走しながら木の根に引っかかる可能性があるというのに幾度と無く木に近付いているのがその証拠だ)



大神(竹刀に比べれば強度は落ちるが、それでも無いよりはマシ)

大神(いや、超高校級の剣道家相手にその認識では足らぬか)

大神(十分長さの木の棒を手に入れれば、おそらく我を上回るだろう)



大神(だから手に入れさせない)

大神(木に近付く度に攻撃を入れて折る時間を与えていない)

大神(その度に空振った攻撃が木を揺らし大きな音を建てているが……この程度の衝撃は意に介さぬ)

大神(都合良く大きな枝が落ちていることでもなければ……いずれ追いつめきれるだろう)

105 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 21:48:04.23 ID:eAg+4cOD0

一瞬の油断も許さない追いかけっこは唐突に終わりを告げた。



辺古山「っ……行き止まりだと!?」

大神「ここまでだ」



逃げ続けた先に追い込まれた岩で出来た袋小路。

偶然ではない。

追いかける側の余裕を使って大神が辺古山の逃げる方向を誘導していたのだ。



気づいたときにはもう遅かった。

大神は一瞬で距離を詰める。

逃げ場のない辺古山は絶体絶命で――。

106 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 21:48:32.64 ID:eAg+4cOD0



――その瞬間、奇跡が起きた。



空から十分な長さを持った木の枝が辺古山めがけて降ってきたのだ。



辺古山はそれを手に収めると一閃。



辺古山「はぁっ……!!」



大神「ぬっ……!?」



大神は手痛い反撃を食らってしまう。



107 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 21:49:00.10 ID:eAg+4cOD0

大神(何が起きた……!?)

ありえない現象の起きた辺古山を見ると。



辺古山「ありがとうございます」



礼を言っている。

それは誰を対象にしたものか。

奇跡を起こした神様? 否。

そんな都合良いものは存在しない。



大神「……そうか」

大神(辺古山が逃走しながら木に近寄ったのは……木の枝を手に入れるためだけではなかった)

大神(我が枝を折る隙を与えぬ事は承知だったのだろう)

大神(だから目的は攻撃を空振りさせて……大きな音を立てさせるため)



大神(つまり――自分はここにいると知らせるため)

108 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 21:49:31.71 ID:eAg+4cOD0



九頭竜「すまん、ペコ! 遅くなっちまった! それしか見つからなかったが大丈夫か!」



辺古山に枝を投げ渡したのは九頭竜だった。



辺古山「ええ、大丈夫です。坊ちゃま」





辺古山は開始してすぐに電子生徒手帳を使って九頭竜に連絡を取っていた。

しかし、直後大神と遭遇したため十分な話は出来なかった。

それでもポケットの中で通話状態は続いていた。



そこから聞こえる音声を頼りに九頭竜は状況を把握。

辺古山を助けるために動き出して……森から響く音を頼りにして向かい。

転送位置が近かったということも幸いして。

間一髪で間に合ったという事だった。

109 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 21:49:59.75 ID:eAg+4cOD0

辺古山「形勢逆転だ」

大神「……そのようだな」



先ほどの反撃の際に辺古山は双方の位置を入れ替えていた。

つまり現在、袋小路に追い込まれたのは大神の方だ。

逃げることも出来ずに正面からは本領を発揮した剣道家が迫る。



辺古山「行くぞ……!」



辺古山の連打が炸裂する。

その攻撃は鋭く、大神の防御や回避を許さなかった。



大神「くっ……!」



それを理解した大神は体を丸め耐えることに専念していた。

無抵抗の大神を攻撃する辺古山。

まるでリンチのような状況であったが……しかし大神は倒れない。

110 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 21:50:30.93 ID:eAg+4cOD0

辺古山(まるで岩を叩いているようだ……)

大神の鍛え上げられた体は固く、堅く、硬い。

常人なら意識を手放しているだろう攻撃に耐えている。

一方的に攻撃を加える絵面を気にして容赦することなど出来るはずもなかった。

隙を見せれば最後、咎められるだろう事は分かっていた。





辺古山「私は負けられない……負けられないのだ!!」





辺古山の希望は。

『希望:九頭竜組を今以上に発展させる』

大切な存在のために定めた希望。



九頭竜「油断するなよ、ペコ!!」

そしてそれは見守っている九頭竜も同じだった。

『希望:九頭竜組を今以上に発展させる』
111 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 21:51:03.18 ID:eAg+4cOD0

示し合わせたわけじゃなかった。

そのような時間はなかった。



二人とも十神の嘘を見破ったわけではない。

今持って自分以外全てが敵だと思っている。

希望が同じであれば争う必要がないと気づいていない。



それでも希望は一緒だった。

敵であろうと助けた。



当然のことだ。

それが二人の絆なのだから。



辺古山「おおおおおおおおっ……!!」



木の棒を大上段に掲げる。

大神の防御を打ち破るため、全力の一撃を放たんがために。



九頭竜「いけええええええっ……!!」



九頭竜の声援も乗せたその一撃は――。
112 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 21:51:42.28 ID:eAg+4cOD0



大神「――その大振り、待っていたぞ」



大神待望の隙であった。

振り下ろされる木の棒に、拳を振り上げてぶつける。



辺古山「……っ!?」



インパクトの瞬間をずらされた攻撃は本来の威力を発揮できないどころか。



バキッ!!



その武器自体が折られる結果を招く。



113 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 21:52:11.97 ID:eAg+4cOD0

辺古山の手に残されたのは素手とリーチの変わらないほどの長さに折れてしまった木の棒。



大神「本来の得物、竹刀であればこうはならなかったであろう」

大神「やはり……全力の貴様と戦いたかったぞ」



形勢は再び逆転し。



大神「ふんっ……!」

辺古山「ぐっ……!」



至近距離から放たれた拳を辺古山は避けきれなかった。

意識が一瞬飛んだその隙に大神は辺古山の生徒手帳を奪い取り。

そして。

114 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 21:52:38.11 ID:eAg+4cOD0



大神「これで終わりだ」



パキッ!

空中に投げた電子生徒手帳に手刀をおろすと真っ二つとなった。




『敗北条件は殺されるか電子生徒手帳を壊されること』

ホープロワイヤルのルールにより。



モノクマ『死体が発見されました!!』



モノクマが辺古山のリタイアを告げる。

115 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 21:53:07.34 ID:eAg+4cOD0



辺古山「ぼっちゃま……すいません……」



敗北した辺古山は体にヒビが入り。

パリンッ! と。

崩壊する音と共に砕け散った粒子が天上へと昇っていく。

それがログアウトの演出なのだろうとは分かったが。



九頭竜「ペコォォォッ!!」

大事な存在を失った九頭竜の慟哭が響きわたる。

116 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 21:53:36.27 ID:eAg+4cOD0



大神「何、心配するな。貴様もすぐに同じ場所に送る」



ここはホープロワイヤル。

希望を叶えてもらうための戦場だ。

しかし、大神は希望を叶えてもらうことに興味はなかった。

希望とは己で叶えることが信条だからだ。



それを示すように設定された希望は。



『希望:無し』



と表示されている。

117 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 21:54:02.15 ID:eAg+4cOD0

ならば何故こうして戦っているのか?

大神にとって大事なことはここが戦場であるということ。

だからルール上の希望は設定されていないが、この戦いを勝ち残ったときに希望の実現にまた一歩近づくだろう。

『最強になること』という希望が。



故に、どんな相手であろうと大神は油断しない。



九頭竜「ペコォォォォッ! オレが必ず敵を取ってやるからな……っ!!」



大神「意気や良し」



118 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 21:54:31.41 ID:eAg+4cOD0



数秒後。



モノクマ『死体が発見されました!!』





大神「…………」

勝者の大神はその場を去った。

119 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 21:54:57.94 ID:eAg+4cOD0

<住宅地>

霧切「2回も鳴った死体発見アナウンス……状況は動き始めているようね」

霧切「私たちも動きましょう」



苗木「そうだね」

苗木「えっと、じゃあまずはどうするの?」

苗木「他の参加者を捜すか……それとも武装を整えるか、とか?」

苗木(霧切さんは能力で捜し当てた銃を持っているが、僕は丸腰だ)

苗木(確率を操る幸運の能力を戦闘に生かすなら、何か武器が必要だろう)



苗木(対する霧切さんの返答は――)

120 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 21:55:27.56 ID:eAg+4cOD0



霧切「……どうやら一手遅かったみたいね」



苗木「え……?」



苗木(霧切さんは緊張状態に入っている)

苗木(何を察知したのか……それはすぐに僕にも分かった)



ブルン、ブルンッ!! と。

住宅地に鳴り響くバイクの轟音。



苗木(誰かが……近づいてきている?)



121 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 21:55:53.40 ID:eAg+4cOD0

<住宅地・外>



大和田「よし、行くぜ!」



『能力:超高校級の暴走族』

『バイクを召喚することが出来る』



石丸「そうだな、兄弟よ!!」


122 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 21:56:53.83 ID:eAg+4cOD0

<住宅地>

苗木(聞こえてきたバイクの音は近い)

苗木(おそらくこの住宅地に侵入してきている)



霧切「これは誰かの能力……いえ」

霧切「バイクというと思い当たる能力主は一人しかいない。大和田君でしょうね」



苗木「え? 普通に落ちていたバイクに乗っているって可能性はないの?」

霧切「無いわ。だって私の超高校級の探偵で乗り物がどこにあるか真っ先に調べたもの」

霧切「でも該当無しで能力の残り回数は減らなかった。つまりこのサバイバルフィールドにはそういう類の物は設置されていない」

霧切「武器なんかと違って移動手段にも武器にも防御にも使えるから、拾った人が有利になり過ぎるって事で配置されてなかったのでしょうね」



苗木「なのにバイクの音が聞こえるから、誰かの能力……暴走族の大和田君って考えたわけか」

苗木「なるほど」
123 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 21:57:22.56 ID:eAg+4cOD0

苗木「じゃあどうするの」

苗木「近くまで来ている大和田君を倒すか、それともこのまま潜伏するか」



霧切「出来ることなら潜伏したいわね」

霧切「こっちにある武器は私の持ってる銃だけ」

霧切「素人が動く対象に当てるのは難しい。機動力のあるバイクとは相性最悪だわ」



苗木「そっか」

霧切「だからここはやり過ごして準備を整えたかったのだけど……」

苗木「……?」

124 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 21:57:53.02 ID:eAg+4cOD0



霧切「ねえ、さっきからバイクの音近づいてきていない?」

苗木「え?」



苗木(僕が間抜けな声で聞き返したそのとき)



ガッシャーーーーンッッッ!!!!



苗木「うわっ!?」

霧切「さて……これはどういうことかしら?」



苗木(派手な音を立てて、潜伏していた住居の窓ガラスが破られて)



大和田「ここにいたか!」

石丸「苗木君に霧切君だな!」



苗木(バイクに二人乗りした級友が現れた)



125 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 21:58:26.67 ID:eAg+4cOD0

苗木「大和田君に……石丸君!?」

苗木(能力から大和田君は予想できていたけど……石丸君も一緒?)

苗木(いや、そうだ。僕と霧切さんみたいに一緒の希望を掲げてチームとして動いているって事だろう)

苗木(バイクの方は大和田君の能力だろう。そして石丸君の能力は……)



石丸「苗木君の方は開始前の説明で聞いたとおり50%を100%にする能力のようだ!」

石丸「そして霧切君は指定した物の場所が分かる能力だ!」

石丸「二人とも希望『世界平和』で一致しているから組んでいるのだろう! 気をつけたまえ、兄弟!!」

大和田「おうっ!」



苗木「……っ!?」

苗木(石丸君に僕らの能力、希望を当てられる。事前に説明された僕の能力はともかく、それ以外は分かるはずがない)

苗木(つまり――)
126 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 21:58:54.92 ID:eAg+4cOD0



霧切「『見た相手の能力と希望が分かる』……それがあなたの能力なのね、石丸君」



石丸「ふむ、そういうことだ!」



『能力:超高校級の風紀委員』

『見た相手の能力と希望が分かる。常時発動』



苗木(相手の能力が分かることはこの戦いでアドバンテージだ)

苗木(初見殺しをされることが無いし、相手の狙いを察知することが出来る)

苗木(しかし、その分かることが能力であるため、戦闘に置いては実質無能力とも言える)



苗木(でも、石丸君は大和田君と組んでいる)

苗木(バイクの機動力にそのまま体当たりすれば攻撃力も十分にある)

苗木(能力を丸裸にして、バイクで優位に戦う)



苗木(これは厄介なコンビかもしれない……)
127 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 21:59:43.92 ID:eAg+4cOD0

霧切「これは厄介ね……」

苗木「うん、この二人は強敵だよ」

霧切「そうではなくて……」

苗木「……?」

霧切「…………いえ。まあ、そうでもあるわね」

苗木(霧切さんはよく分からない言葉を呟くと)



霧切「それであなたたち二人の目的は何かしら?」

霧切「私たちの希望は分かっているとおり『世界平和』よ」

霧切「仲間になりたいならそのように希望を変更しなさい」



大和田「はっ、それはこっちのセリフだ」

大和田「俺たちの希望は『暮威慈畏大亜紋土を世界で一番の族にする』だ」

大和田「この希望に変えるなら、おまえたちも仲間にしてやっていいぜ?」

128 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 22:00:12.33 ID:eAg+4cOD0

苗木(二人が互いの希望に勧誘する)

苗木(しかし、どちらも本気の言葉では無かったようだ)



霧切「交渉決裂のようね」

大和田「みたいだな」



苗木(誰も生徒手帳を取り出して希望を変更しようとしなかった)

苗木(『世界平和』何となくで決めた僕の希望だけど、霧切さんも賛同してくれた僕たちの希望だ)

苗木(他の希望のために戦うつもりは無い)

129 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 22:00:40.83 ID:eAg+4cOD0

大和田「残念だ、テメエらがここで脱落するとはな」

石丸「まあ仕方ないことだろう」



苗木「ど、どうするの、霧切さん!」

霧切「とりあえず逃げるわよ、正面からじゃ勝ち目が無いわ!」



苗木(大和田君がバイクのアクセルを踏むのと、僕らがリビングから脱出するのは同時だった)



苗木(ドガンッ!! という衝突音を背後に、僕たちは駆ける)



苗木「どうするの、二階ならバイクは上ってこれないんじゃない!?」

霧切「いえ、その場合は家に火を付けられるわ! そして出てきたところをバイクでアタックされて終わる!」

苗木「っ……!」

苗木(霧切さんの戦況の想定が早い)

130 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 22:01:08.75 ID:eAg+4cOD0

霧切「このまま森林地帯に逃げるわ! 森の中なら満足にバイクは運転できないはず!」

苗木「分かった!」

苗木(玄関から僕たちが出るのと、大和田君たちが破った窓ガラスから再びバイクが出てくるのが同時だった)



石丸「おそらく霧切君たちは森林地帯に逃げ込むだろう! 住宅地の舗装された道路では勝ち目が無いからな!」

大和田「へんっ、だったら先回りしてやるぜ!」



苗木「くっ……!」

苗木(こっちの狙いが読まれている。なのにどうしようもない)

苗木(真っ直ぐ向かえば森林地帯に行けるという道に、二人は立ちふさがった)



石丸「住宅地の中から逃がさないようにすれば僕たちの優位は変わらないだろう」

大和田「らしいぜ? 二人とも投降したらどうだ?」

131 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 22:01:35.15 ID:eAg+4cOD0

苗木「どうするの?」

霧切「強行突破するわ」

苗木(霧切さんは言いながら僕に銃を渡す)



霧切「これでバイクのタイヤを打ち抜きなさい」

霧切「当たる確率を能力で補正すればどうにかなるでしょう」



苗木「っ……でも、失敗したら」

霧切「ここで逃げてもジリ貧になるだけよ」

霧切「射撃も能力込みなら私よりあなたの方がマシだわ」



霧切「だから、頼んだわよ」

苗木「……分かった!!」
132 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 22:02:02.91 ID:eAg+4cOD0



大和田「はっ、そういうことか。だが、当たるかよ!」



苗木「……っ!」

苗木(銃を構えた僕を見て、大和田君はバイクを左右に揺らすスラローム走行をしながらこっちとの距離を詰めてくる)

苗木(照準が定まらない……外したらそのままバイクをぶつけられて、僕たちは敗北するだろう)

苗木(それでも当ててみせる……絶対に当てる……!!)



大和田「おおおおおおおっ!!」



苗木「あああああああっ!!」



苗木(二人の気勢が衝突するその中間地点で)



苗木(パリンッ!! という音と共に――光の爆発が起きた)


133 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 22:02:29.68 ID:eAg+4cOD0

大和田「くっ……何が!?」

苗木「どういうこと……っ!?」



苗木(光の爆発、それは僕と大和田君どちらの意図したものでもなかった)



石丸「一体何が……!」

霧切「これは……」



苗木(そして石丸君と霧切さんも驚いていて、二人の仕業でもない)



苗木(つまり――この場に第三者が乱入したのだ)



134 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 22:03:04.51 ID:eAg+4cOD0



不二咲「大丈夫? 苗木君、霧切さん!」



苗木「不二咲さん!」



135 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 22:03:32.39 ID:eAg+4cOD0

苗木(おそらく不二咲さんが能力を使ってどうにかしたのだろう)

苗木(光に驚いた大和田君はブレーキをかけて止まっている)



霧切「今の内に逃げましょう」

苗木「うん。不二咲さんはどうするの?」

不二咲「あ、僕も一緒に行かせてもらえると嬉しいな」

苗木「もちろんだよ!」

霧切「そうね……助けてくれたという事は敵対する意思はないと見るわ」

霧切「とりあえず大和田君たちが復活する前に森林地帯に逃げ込むわよ」



苗木(僕たちは突然現れて助けてくれた不二咲さんと共に三人で森林地帯に入っていく)

136 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 22:04:00.99 ID:eAg+4cOD0

<森林地帯>

霧切「ここまで来れば大丈夫でしょうね」

苗木「木の根が張り巡っていて、バイクが運転できるとは思えないし」

苗木(当面の安全が確保されたという事で……僕は不二咲さんの方を向く)



苗木「さっきは助かったよ、不二咲さん」

不二咲「うん……苗木君たちを助けられて良かったあ」

霧切「しかし、タイミングが良かったわね」



不二咲「あ、そのね。バイクの音が聞こえて何かあるのかな、と思って僕も住宅地にいたんだ」

不二咲「それで見てたら苗木君たちが追い回されてるから能力を発動して助けて……」

苗木「そういえば、不二咲さんの能力って何なの?」

137 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 22:04:28.28 ID:eAg+4cOD0

不二咲「あ、これだよ」

苗木(不二咲さんは電子生徒手帳を見せる)



『能力:超高校級のプログラマー』

『電子機器を自由に操れる。一日五回まで使用可能』



苗木「なるほど……でもさっきのはどうやったの?」

不二咲「住宅地の夜間用の街灯を限界まで光らせて破裂させたの。ちょうど二人の中間地点にあったんだけど」

苗木「それで光の爆発って思ったのか」



霧切「電子機器を自由に操れる……あの住宅地のように電子機器があふれている場合では使いやすい能力だけれど」

霧切「この森林地帯のように自然に囲まれた場所は不利な能力ね」
138 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 22:05:00.15 ID:eAg+4cOD0

霧切「さて、ここまでなあなあで済ませてきたけど、この場は戦場よ」

霧切「不二咲さんあなたには二つの選択肢があるわ」

霧切「ここで私たちと別れるか、私たちの仲間になるかよ」



霧切「あなたにも希望があるのでしょう。自分の希望を優先して私たちと一緒に戦えない場合は、助けてくれたお礼にこの場は見逃すわ」

霧切「逆に仲間になるなら、私たちの希望『世界平和』に変更してもらうことになる」

霧切「言っておくけど私たちがあなたの希望に変えるつもりは残念ながら無いわ」



苗木(この場はホープロワイヤル。希望と希望同士の戦いだ)

苗木(霧切さんの言葉は冷たいように見えて、問答無用で排除しないあたり優しい方なのだろう)

苗木(不二咲さんはどうするつもりなのか……いや、そもそも……)



苗木「ねえ、不二咲さん。どうして僕たちを助けたの?」

139 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 22:05:28.81 ID:eAg+4cOD0

不二咲「僕は……戦いとか争いとか苦手だから」

不二咲「苗木君たちがピンチになってるのを見て思わず助けたんだけど……」

霧切「優しさは美徳だけど、この戦場では命取りだわ」

不二咲「そう……だね」

霧切「それくらいならリタイアすることを――」



苗木「そんな厳しいことばかり言わないであげてよ、霧切さん」

苗木(僕は二人の会話に割り込む)



苗木「ね、不二咲さん。僕たちの希望『世界平和』のために一緒に戦ってくれない?」

不二咲「苗木君……」



140 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 22:05:55.12 ID:eAg+4cOD0

苗木「戦いが苦手な不二咲さんに酷なことを言っているとは思う」

苗木「でも……僕の勝手な思いこみかもしれないけど、不二咲さんだって『世界平和』になったら嬉しいって思うんじゃない」

不二咲「……うん、いいと思うよ」

苗木「だったら協力してくれると助かるな。戦うのが苦手なら……さっきみたいに僕たちを守る方に能力を使ってさ」



不二咲「守る……そっか。そうだね」

不二咲「ありがとう、苗木君。……うん、僕決めたよ」

苗木(不二咲さんは電子生徒手帳を操作する)



不二咲「よろしくね」

苗木(そこに表示されたのは『希望:世界平和』の文字)



苗木「うん、こちらこそ!」

苗木(こうして僕たちの希望は、三人の希望になった)

141 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 22:06:22.89 ID:eAg+4cOD0

霧切「はぁ……あなた、本当にお人好しね」

苗木「ご、ごめん……でも霧切さんだって、不二咲さんが仲間になるのは賛成でしょ?」

霧切「…………」

苗木「あ、あれ……?」

苗木(霧切さんは黙っている)



不二咲「えっとマズかったかな……?」

霧切「まあ、いずれ……いえ、今の内に……」

苗木「どうしたの、霧切さん?」





霧切「発動、超高校級の探偵!」

霧切「現在、私に敵意を向けているものを示しなさい!」





苗木「能力を……!?」

苗木(霧切さんがいきなり能力を発動する)
142 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 22:06:49.97 ID:eAg+4cOD0



苗木「どういうこと、霧切さん!?」



霧切「さて……私の能力、結果を電子生徒手帳にも表示できるの」

霧切「二人も見てもらっていいかしら」



苗木(霧切さんは質問に答えず、僕と不二咲さんに自分の電子生徒手帳を見せる)

苗木(島の全体図には五つの光点が表示されている)



苗木「えっと、この点が今の能力で探した物がある場所ってことでいいんだよね?」

霧切「その通りよ」

不二咲「探したのは敵意を向けているもの……だったよね。だったらこの住宅地にある二つの点は大和田君と石丸君でいいのかな?」

苗木「だろうね。それでちょっと離れた森の中に二つ……これは……?」

霧切「そして最後の一つは……このちょうど私たちがいる地点ね」



不二咲「……え!?」

苗木「誰かがこの近くに……!?」



苗木(慌てて僕は周囲を見回すが……不二咲さんと霧切さん以外に人影は見当たらない)
143 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 22:07:16.83 ID:eAg+4cOD0

苗木「……? 誰もいないよ?」

不二咲「…………」



霧切「忘れたの、苗木君? 私の超高校級の探偵は探した物の場所は分かっても、高度までは分からない」

霧切「そしてこの場所は森の中」

霧切「高い位置にも木々の枝などで、足場があるでしょう?」



苗木「つまり……?」

不二咲「上?」

苗木(僕と不二咲さんが空を見上げる)



霧切「さっきから視線を感じていたのだけど……」

霧切「本当次から次へと休ませてくれないわね」

霧切「来るわ、注意しなさい」



苗木(霧切さんが警戒するように告げる)

苗木(それと同時に――)

144 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 22:07:45.13 ID:eAg+4cOD0





苗木(ハムスターが僕たちめがけて飛び降りてきた)





145 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 22:08:17.16 ID:eAg+4cOD0
苗木(住宅地で大和田君と石丸君の襲撃を受けた僕ら)

苗木(間一髪のところを不二咲さんに助けてもらい、逃げた先森林地帯で『世界平和』の希望に変えてもらって三人目の仲間となった)

苗木(しかし、行き着く暇もなく次の襲撃者が迫る)



苗木「ハムスター……っ!?」

苗木(その正体は小動物、ハムスターであった)

苗木(僕たちめがけて枝から飛び降りてきたみたいだけど……体が軽いから受ける重力も小さくて落ちてくるスピードが遅い)

苗木(ひょいと避けるとそのまま地面に衝突する)



苗木「………………」

苗木「えっと……」
146 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 22:08:43.74 ID:eAg+4cOD0

霧切「こんな場所にハムスターがいて、私たちを襲おうとしたのが偶然だとは思えない」

不二咲「たぶん誰かの……いや」

苗木「超高校級の飼育委員、田中眼蛇夢君の能力だよね?」



苗木(僕らの先輩で、いつも4匹のハムスターと行動を共にしているのは知っている)

苗木(おそらく能力として4匹のハムスターを自由に扱えるということだろう)

苗木(それで僕たちを襲って……)



苗木「っ……ということは!」

霧切「ええ。襲撃者はこれだけじゃない可能性が高いわ! 注意しなさい!」



苗木(霧切さんの再度の警告と同時に)

苗木(視界の隅、落ち葉の下に隠れていた二匹目のハムスターが飛び出してきた)
147 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 22:09:11.13 ID:eAg+4cOD0

苗木「くっ! って…………」

苗木(今度は避けきれず、僕はその体当たりを食らうことになる)

苗木(食らうことになったが……ビクともしなかった)



苗木(そうだ、ハムスターなんだ)

苗木(別に体重も軽く、殺傷能力が高いわけでもない)

苗木(すばしっこいくらいで別に攻撃を食らったところで意味は――)



霧切「何ぼーっとしているの! 狙いは電子生徒手帳よ! 死守しなさい!」



苗木「あっ……!」

148 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 22:09:37.73 ID:eAg+4cOD0

苗木(霧切さんの言葉にはっとなる)

苗木(この戦いにおける死亡は二種類あるのだ)

苗木(一つは普通に殺されること)

苗木(二つ目は電子生徒手帳を壊されることだ)

苗木(ハムスターの力では前者は不可能でも、後者の電子生徒手帳を盗むことくらいは可能だ)

苗木(そしてその想像通りに、さっき僕に体当たりをしてきたハムスターは僕の懐に入ってきている)



苗木「くっ……このっ……!」

苗木(僕は慌ててハムスターを捕まえようとするが、すばしっこくて上手く行かない)

苗木(僕の体を探るように移動するハムスター。電子生徒手帳の場所を探しているのだろう)

苗木(捕まえようとしてもすんでのところで逃げられる)

苗木(後少し運が良ければ……だったら……!!)

149 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 22:10:06.04 ID:eAg+4cOD0



苗木「発動、超高校級の幸運!!」



苗木(僕は能力を発動する)

苗木(その結果ハムスターは運良く僕の手に収まることとなり……)



苗木「離れて!!」

苗木(そのまま、ブンッ! と放り投げた)

苗木(投げられたハムスターは空中で宙返りして、すたっと着地する)

苗木(そしてそのまま逃げていった)



苗木「ふぅ……」

苗木(これでどうにか窮地を脱することは出来た)

苗木(他の二人は……)

150 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 22:10:34.92 ID:eAg+4cOD0



不二咲「ああっ、電子生徒手帳が!」



苗木(見ると不二咲さんの電子生徒手帳を持った二匹のハムスターが森の奥へと去っていくところだった)



苗木「大丈夫、不二咲さん!?」

不二咲「うん、ボク自身は何ともないけど……二匹がかりで電子生徒手帳が……」

霧切「助けには入れれば良かったのだけど、私の方にも最初落ちてきたハムスターが復活して襲ってきていてね」

霧切「私自身はどうにかしたけど」



苗木(つまり四匹のハムスターが霧切さんに一匹、僕に一匹、不二咲さんに二匹襲ってきていたということか)

苗木(霧切さんは自力で、僕は能力で対処したけど、不二咲さんは二匹相手に成す術が無かったと)

151 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 22:11:00.37 ID:eAg+4cOD0

苗木「ど、どうしよう……電子生徒手帳を盗まれたってことは絶望的だよね……」

苗木(電子生徒手帳はこの戦いにおいて命と同義だ。それを盗まれたということは……)



不二咲「ご、ごめん」

苗木「不二咲さんが謝ることじゃないよ」

苗木(せっかく仲間になったのに……不二咲さんはこのままだと……)



霧切「そうね。絶望的……だけど、まだ終わってはいないわ」



苗木「え……?」

152 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 22:11:26.25 ID:eAg+4cOD0

霧切「考えてもみなさい。どうしてハムスターたちは電子生徒手帳を盗んでいったの?」

苗木「えっと……一人でも他の参加者を落とすためじゃないの?」

苗木「サバイバルゲームなんだから、自分の希望を叶えるためにどんどん他の参加者を落としていくべきだし」

霧切「ええ、そうね。だったら盗むなんて面倒なことせずに……その場で壊せばいいじゃない」

苗木「……あ、そっか!」



苗木(そうだ、電子生徒手帳を盗まれる……そんな絶望的な状況なのに……)

苗木(まだ不二咲さんは生きている)

苗木(普通なら他人の電子生徒手帳を手に入れた瞬間壊すのがベストなはずだ)

153 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 22:11:57.17 ID:eAg+4cOD0

不二咲「じゃあどうして僕の電子生徒手帳はまだ壊されてないの?」

霧切「考えられる可能性は二つ」



霧切「一つは電子生徒手帳を手に入れることが目的だったからよ」

霧切「例えば電子生徒手帳を勝手に操作して、希望を自分のものに変更すれば、不二咲さんは田中君のために戦わざるを得なくなるでしょう?」

霧切「まあこれは不二咲さんは一回しかない希望変更権を『世界平和』に変えるために使っているから、無理だけれどね」



霧切「それでも残った私と苗木君に何らかの交渉をしたり、人質にして誘い出すためなど色々考えられる」

苗木「なるほど……ただ不二咲さんを殺す以上の結果を狙ってってことか」

154 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 22:12:24.56 ID:eAg+4cOD0

霧切「二つ目は……そもそも電子生徒手帳を壊せないから」

苗木「壊せない……って、どういうこと?」

霧切「考えてみなさい、盗んでいったのはハムスター……小動物に電子機器を破壊するだけの力があると思う?」

苗木「あ……そっか」



霧切「高いところから落として壊すとか、何らかの道具を使って壊すとすることも考えられるけど」

霧切「ハムスターの力では手間がかかる。その間に私たちに追いつかれて、盗み返されては本末転倒だわ」

苗木「だからその場で壊すことは諦めて……ハムスターは運搬することに徹する……」

不二咲「そして持って行く先は……」



霧切「どちらの可能性でも、電子生徒手帳の行方は一つ」

霧切「飼い主の田中君のところよ」

155 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 22:12:59.90 ID:eAg+4cOD0

苗木たちから少し離れた森の中。

田中「フハハッ! よくやった、破壊神暗黒四天王よ!」

そこにはハムスターを操り苗木たちを襲撃した超高校級の飼育委員、田中と。



ソニア「やりましたね、田中さん!」

超高校級の王女、ソニアがいた。



二人は希望を『ノヴォセリック王国の今以上の発展』と同じくしてチームを組んでいる。

ソニア寄りの希望であるが、これはソニアが田中を自分の希望に変更するように口説き落とした結果であった。

156 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 22:13:28.05 ID:eAg+4cOD0

田中の能力はこうだ。



『能力:超高校級の飼育委員』

『四匹のハムスターを操ることが出来る。ハムスターとは視覚を共有することが可能』



この能力により離れた場所でも状況を把握出来る。

ハムスターというのは小動物ゆえに見つかりにくい。隠密に索敵するには絶好の能力だ。

そうして苗木たち三人を発見、襲撃して電子生徒手帳を奪ったということだった。



田中「むっ、ジャンPとチャンPの疲労が溜まったか。サンDとマガGに持ち手を変更だ」

現在、盗んだ電子生徒手帳を自分のところに持ってくるように命令している。

が、ハムスターでは電子生徒手帳の重量でさえ重い。

そのため二匹がかりで持ち、疲れたら残りの二人に交代という方式で運ばせているところだった。



ソニア「安全なところから一方的に、これが王族の狩りですね!」

田中「闇に生きるものは奇襲に長ける……当然の結果だ」



こうして作戦は成功。しばらくしてハムスターたちが電子生徒手帳を持ってきて――。

157 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 22:13:55.84 ID:eAg+4cOD0



霧切「やっぱりここだったわね!」

苗木「不二咲さんの電子生徒手帳は返してもらうよ!」

不二咲「頑張って運んだみたいだけどごめんね……!」



ソニア「っ……!?」

田中「貴様ら……!」



それと同時に苗木たちも襲撃、ハムスターが運搬していた電子生徒手帳が奪われた。



158 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 22:14:25.42 ID:eAg+4cOD0

田中「何故この時空を……!」

田中「我は僕(しもべ)と同じ闇を見ている! 追跡は不可能のはずだ!」



苗木「えっと……どうしてこの場所が分かった、ハムスターと視覚をしているから尾行には気づけたはず……ってことかな?」



霧切「ハムスターと視覚共有……想定通りね」

霧切「近くに気配がないのに、ハムスターの動きの指示が完璧だと思ったもの」



霧切「そしてどうしてこの場所が分かったのかということだけど……」

霧切「簡単な話よ、それが私の能力だから」



苗木(この襲撃直前に発動した霧切さんの能力)

苗木(霧切さんに敵意を向けているものを探した際に、少し離れた森にあった二つの点)

苗木(ここがそのポイントだ。敵意を向けているという条件に、田中君とソニアさんも含まれていたということだろう)

159 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 22:14:52.38 ID:eAg+4cOD0



霧切「ハムスターを使って安全なところから一方的に……という算段だったのだろうけど」

霧切「残念だったわね」



苗木「これで形勢逆転、3対2だよ」



不二咲「電子生徒手帳も取り戻したし」



苗木(僕たち三人は二人を逃がさないように取り囲んでいる。これなら――)



160 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 22:17:39.58 ID:eAg+4cOD0

ソニア「どうしますか、田中さん」

田中「……この場は敗北のようだな」

田中「だが、貴様らの顔しかと覚えたぞ! 必ずやこの借りを返さん!」



苗木「この場は……?」

霧切「逃げるつもりってこと?」

不二咲「でも、こうして三人で取り囲んでいるし……」



ソニア「それは早とちりちゃんですよ!!」

ソニア「まだ私の能力があります!」



苗木「っ……それは……!!」



ソニア「というわけで発動、超高校級の王女!」



苗木(ソニアさんが能力の発動を宣言すると――)

161 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 22:18:06.36 ID:eAg+4cOD0



苗木(シュン! と音がした後、二人の姿がその場から消えた)



苗木「これは……テレポート?」



『能力:超高校級の王女』

『テレポートが出来る。一日三回まで使用可能』



162 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 22:18:35.15 ID:eAg+4cOD0

苗木「王女らしくない能力だね……」

霧切「まあそもそも王女らしい能力って何なのかという話にもなるけれど」

苗木「あ、そっか」



霧切「結果的に取り逃したけれど、不二咲さんの電子生徒手帳も取り戻したから良しとしましょう」

霧切「この騒ぎを聞きつけた誰かがいないとも限らないし、移動するわよ」



苗木「うん、分かったよ」

不二咲「そうだね」

163 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 22:19:01.84 ID:eAg+4cOD0

<夜>

<廃墟地帯>

苗木(あの後、他の生徒と出会うことは無かった)

苗木(そうして時間は過ぎ、ホープロワイヤル初日の夜となる)



霧切「住宅街は人のいる気配がないだけで、住居はしっかり残っていたけれど」

不二咲「この廃墟地帯は壊れた家ばかりで、どこも吹きさらしになっているね」

苗木「でもちょうど残っていた非常食で腹ごしらえ出来たし良かったよ」



霧切「森の中で寝るより廃墟の方がまだマシだから、今日の寝床はここね」

霧切「というわけで本日最後の能力で周辺の警戒と、情勢の把握をしておこうかしら」



苗木「最後……? あ、そうか。霧切さんもう五回目だっけ?」

苗木(超高校級の探偵の枷。一日五回までしか能力を使えない)

苗木(霧切さんは既に武器の位置、僕の潜んでいた住居、逃げ出した僕が森林地帯のどこにいるのか、そして敵意を持ったものの場所で四回使用している)

164 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 22:19:28.61 ID:eAg+4cOD0



霧切「発動、超高校級の探偵」

霧切「生存している生徒全員の位置を示しなさい」



霧切「今回も生徒手帳に表示したわ。見たいなら見なさい」

苗木(霧切さんの言葉に僕と不二咲さんも覗き込む)

苗木(島全体の地図に、光点がバラバラとたくさん表示される)



苗木「とりあえず……この廃墟地帯には僕たち三人しかいないか」

不二咲「近くに生徒の姿はないね」

霧切「ええ。つまり寝込みを襲われる心配は少なさそうよ」

霧切「まあ遠隔攻撃出来る能力や瞬間移動の能力があるのを見た後だから、気休めではあるけれど」

165 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 22:20:02.69 ID:eAg+4cOD0

苗木「これが周辺の警戒で……情勢の把握ってどういうこと?」

霧切「希望を共にしてチームを組んでいれば一緒に行動していて、光点も同じ場所にある可能性が高い」

霧切「ここから他の参加者がどれだけチームを組んでいるのか分かるのよ」



苗木「なるほど……」

不二咲「言われてみると、単独の光点もあるけど、2つ3つ4つで固まっている光点がちらほら存在するね」

霧切「既に十神君の嘘、このゲームが個人戦であるということは破られたとみて良さそうね」



苗木(このサバイバルゲームでチームを組むことはメリットが多い)

苗木(単純に一人より二人の方が強いというのもあるし、能力で協力が出来る)

苗木(石丸君が能力を見抜き大和田君のバイクで攻撃、田中君のハムスターで安全圏から攻撃して危なくなったらソニアさんの能力で離脱、とその実例を目の当たりにしたばかりだ)



苗木(でも、だからといってとにかく大人数でチームを組めばいいかというとそれは難しい)

苗木(このホープロワイヤルは希望を一緒にしないとチームを組むメリットが無いからだ)

苗木(大人数が一緒の希望を持つというのは難しいようで、チームを組んでいても2〜4人というのが多い)



苗木(だからこそ――その光景は異常だった)
166 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 22:20:31.89 ID:eAg+4cOD0

苗木「ねえ、霧切さん……ここなんだけど」

霧切「ええ、分かってるわ。これはおかしいわね」

不二咲「どういうことなんだろう……?」



苗木(島の全体図のある箇所を指したところ、二人ともそれには気付いていたようだ)

苗木(その場所の異常……それは――)



苗木「光点がこの一ヶ所で……10個も集まっている」



不二咲「これって……10人のチームを組んでいるってことだよね?」

霧切「確定ではないわ。場所が分かるだけで状況は分からないから、現在この一ヶ所で10人が争っているだけって可能性もある」

苗木「なるほど」



霧切「とはいえこんな夜中にそんな大人数が争っている可能性も低いし……もしチームを組んでいるとすれば」

霧切「最初の参加者は48人で、現在死体発見アナウンスが開始後すぐに二回、そして夕方頃また二回鳴ってたわね」

苗木「あ、そういえば鳴ってたね」

霧切「だから現在の生存者が44人として……そのチームだけで約4分の1を占める戦力ね」
167 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 22:21:14.36 ID:eAg+4cOD0

苗木「10人も同じ希望の持ち主がいるのか」

不二咲「どんな希望なんだろう?」

霧切「そして誰がリーダーなのかということね」

霧切「私の能力、探したものの場所が分かっても、それぞれ何なのか詳細は分からないわ」

霧切「だからこの10人が誰なのかは不明ね」



苗木「でも例えばさらに『十神君の居場所を示せ』ってして、この10人の場所に光点が表示されれば、十神君がいるかは分かるよね?」

霧切「そうね。でも今日は能力を制限回数の五回とも使用済みだし、日付を回って制限回数がリセットされてもそれはしないわ」

霧切「あまり能力を使いすぎて、ピンチに陥ったときに使用回数が無くなっているなんてマネ困るもの」

苗木「あ、そっか」



霧切「まあ10人の方は気に留めるだけで良いでしょう。現在はそれ以上対策できないわ」

苗木「うん、分かったよ」

168 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 22:21:40.11 ID:eAg+4cOD0



霧切「じゃあもう良さそうね」

苗木「あ、うん。いいけど……」



苗木(霧切さんが電子生徒手帳をしまおうとする)

苗木(表示された地図と光点をぼんやりと眺めていた僕は……)



苗木「あれ?」

苗木(その中に何か違和感を覚えて……)



霧切「どうしたの?」

苗木「あ、いや、何もないよ」



苗木(でもそのとき電源が消されたため、その違和感の正体は分からなくなった)

169 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 22:22:09.07 ID:eAg+4cOD0

不二咲「もうそろそろ寝ようかな? 歩き詰めで疲れたし」

苗木「そうだね、僕も……」

霧切「ちょっと待って。苗木君、あなたの能力について確認したいことがあるから、もう少し付き合いなさい」

苗木「えっと……明日じゃ駄目なの?」

霧切「能力使用回数が余っている今日の内がベストなのよ」

霧切「確か私から逃げるために飛び降りたときと、ハムスターを捕獲するときの二回しかまだ使ってないでしょう?」

苗木「あ、そっか。残しても意味ないし、三回まだ使えるもんね」

霧切「そういうことよ」



不二咲「じゃあごめんだけど、僕は隣の廃墟で寝るね。おやすみー」

苗木(不二咲さんは僕を残してこの場を去る)
170 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 22:22:37.22 ID:eAg+4cOD0

苗木「それで能力の確認って言ったけど……」

苗木(僕は電子生徒手帳から改めて能力の詳細を見せる)



『能力:超高校級の幸運』

『50%以上の確率を100%に出来る。ただし自分の行動のみ。一日五回まで使用可能』



苗木「霧切さんもルール確認で見たとおり、僕の能力はこうだよ」



霧切「そうね。でも厳密にどうなってるか確認することは悪いことじゃないでしょう」

霧切「ということでさっき見つけた廃墟に落ちてたこれを使って実験するわよ」



苗木(霧切さんが投げ渡したものをキャッチする)

苗木(見てみると片面に○、もう片面に×が書かれたコインだった)
171 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 22:23:02.81 ID:eAg+4cOD0

霧切「最初に初歩の確認からよ」

霧切「どちらか指定した面を出したい、と能力を発動してコイントスして頂戴」

苗木「えっと……じゃあ○の面が出ますように。超高校級の幸運、発動」



苗木(能力を発動してから僕は親指でコインを弾く)

苗木(空中で何回転もして落ちてきたコインを受け止めると、表側になっていたのは……)



苗木「○だね。能力も発動したはずだよ、何か不思議な感覚があったし」

霧切「○か×が出るのはそれぞれ50%ずつ。ならば能力で100%に出来るということね」

172 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 22:23:28.81 ID:eAg+4cOD0

霧切「次はこれよ」

苗木(霧切さんは僕にサイコロを渡す。この廃墟の住人って、テーブルゲーム好きだったのかな?)



霧切「今度は指定の目を出すように能力を発動してから振って頂戴」

苗木「えっと……じゃあ6が出ますように。超高校級の幸運、発動」



苗木(能力を発動してから僕はサイコロを振る)

苗木(何回が転がった後止まったサイコロの上面にある目は……3だった)



苗木「まあこれは失敗するよね。能力の感覚も無かったし」

霧切「ええ。出る目の種類は1〜6で、6が出るのは約17%」

霧切「50%無い確率は100%に出来ないということね」
173 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 22:24:06.30 ID:eAg+4cOD0

霧切「だから『1、2、3のどれかが出ますように』なら発動できるだろうし」

霧切「逆に『絶対に6が出ませんように』っていう風に能力を発動することも出来るわね」

苗木「なるほど……」



苗木「そういえばサイコロで6が出る確率は『6が出るか出ないか』の二択だから100%に出来ないかなー……ってちょっとだけ思ってたんだけど」

霧切「屁理屈な考え方ね。分からないことはないけど」

霧切「でもそれが可能ならこのゲームは破綻しているでしょう?」

苗木「え?」



霧切「だって苗木君はこの戦い『優勝するかしないか』の二択じゃない」

霧切「それを能力で100%に出来れば優勝してしまって終わるでしょ?」

苗木「あ、そっか……」

174 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 22:24:32.40 ID:eAg+4cOD0

霧切「じゃあ次は……そうね」

霧切「そのコインを使おうかしら」

苗木(霧切さんは僕の手からコインを取る)

苗木(そのままコイントスして手の甲に落とし、もう一方の手で隠す)



霧切「さあ、今私が投げたコインがどちらの面が出たのか……能力を使って当てて頂戴」

苗木「……? 超高校級の幸運、発動。コインは……×の方だよ」

苗木(僕は能力の不思議な感覚に従って宣言)



霧切「ええ、その通りみたいね」

苗木(隠していた手をどけると、そこにあったのは×の面を上にしたコイン)



苗木「そりゃそうだよ。だって○と×で50%ずつでしょ?」

苗木「さっき僕が投げたときと同じだもん」

苗木「何を確かめたかったの、霧切さん?」



霧切「これは次の実験を分かりやすくする為よ」

175 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 22:25:00.40 ID:eAg+4cOD0

霧切「ということで次は私が今からコイントスするから、どちらの面を出させたいのか先に宣言して頂戴」

苗木「……? よく分からないけど……超高校級の幸運、発動」

苗木「霧切さんは○を出すよ」



苗木(今までと順番が違うけど、結局は50%の確率だ。結果は同じだろう)

苗木(霧切さんはコイントスしてキャッチする。出た面は――)



苗木「え、なんで×なの!?」



霧切「……やっぱりね」

176 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 22:25:42.30 ID:eAg+4cOD0

苗木「どういうこと? 霧切さんが何かしたの?」

霧切「何もしてないわ。というより不思議なことは全くないもの」

霧切「あなたの能力の詳細をもう一回見てみなさい」

苗木「詳細を……?」

苗木(僕は霧切さんに言われるまま電子生徒手帳を開く)



『能力:超高校級の幸運』

『50%以上の確率を100%に出来る。ただし自分の行動のみ。一日五回まで使用可能』



苗木「特に不思議なことは……あ、『ただし自分の行動のみ』って」

霧切「そういうことよ」

177 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 22:26:14.48 ID:eAg+4cOD0

霧切「私のコイントス一回目で能力を使ってやったことは『私がしたコイントスの面を、苗木君が当てる確率』の操作」

霧切「でも二回目は『苗木君が言ったとおりの面を、私が出す確率』の操作だった」

霧切「コイントスで○を出すのは苗木君じゃなくて私の行動」

霧切「だから幸運の条件『自分の行動』に当てはまらなかった。だから能力が失敗したのよ」



苗木「そういえば能力を使ったときの不思議な感覚が無かったかも」

霧切「つまり相手の行動の確率を操ることは出来ない」

霧切「これは覚えておいた方が良いわね」



苗木「うん、分かったよ」

178 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 22:26:42.71 ID:eAg+4cOD0

苗木「ってことで……結局最後幸運の能力発動してないから、あと一回分発動できるけど」

苗木「何か試したいことあるかな、霧切さん?」

霧切「そうね、能力の仕様は大体分かったから実験はいいけれど」



霧切「……ああ、ちょうどいいわ。確認したいことがあるの」

霧切「コイントスしてくれるかしら?」

苗木(霧切さんがもう一度コインを僕に渡す)



苗木「コイントス? もちろんいいけど……どういう風に能力使えばいいかな?」

霧切「今から私の言う条件でお願い出来るかしら」

179 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 22:27:13.12 ID:eAg+4cOD0





霧切「不二咲さんが私たちの仲間なら○、敵なら×」

霧切「事実に基づく面を苗木君が出す確率を100%にしなさい」





苗木「分かった、超高校級の幸運、発動………………」

苗木「って、え?」



苗木(予想外の条件に驚いたのは、能力発動もコイントスも終わった後だった)

苗木(空中を回転するコインを僕はキャッチして…………)



180 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 22:27:40.16 ID:eAg+4cOD0

苗木「霧切さん、どういうこと?」

苗木(僕はコインの面を手で隠したまま、霧切さんに聞く)



苗木「不二咲さんが敵か仲間かって……」

苗木「だって不二咲さんは希望『世界平和』を一緒に持つ仲間なんだよ?」

苗木「なのに……」



霧切「本当に仲間なら○が出ている。それで済む話でしょう?」

霧切「いいからコインを見せなさい」



苗木「そ、その通りだけど……」

苗木(能力が発動した不思議な感覚はあった)

苗木(複雑な条件だったけど、結局は敵か仲間の二択で50%以上と判断されたのだろう)

苗木(つまりこのコイントスの結果は事実を示しているはず)



苗木(僕はおそるおそる手をどける)
181 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 22:28:07.56 ID:eAg+4cOD0



苗木「そ、そんな……」



霧切「やっぱりね」



苗木(そこには×の面が――不二咲さんが敵であると示していた)



182 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/02/02(土) 22:29:38.17 ID:eAg+4cOD0
今日はここまで。
これで最新話まで追いつきました。

次の話については2〜3日以内に投下すると思います。
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