屍男「おい、そこのロクでなし」吸血娘「なんだ髪なし」

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75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/12(土) 16:24:59.62 ID:yU+Vydclo
いいぞこれ
76 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/12(土) 19:43:03.02 ID:VR5T8c57o
吸血娘「ほら、お茶」スッ


後輩女「あ、はい、どうも……」

後輩女(い、一体何がどうなってるんだか。センパイ、一人暮らしだって言っていたのに……どうして嘘を?)

後輩女(……娘、には見えないかな。全然似てないし、年齢もちょっと合わない気がする)

後輩女(同様に妹でもないだろうし……ま、まさか彼女?い、いや!それだけはない!絶対にない!)


吸血娘「んで、あのハゲのバイトの同僚だっけ?何しに来たの?」


後輩女「これなんですけど」スッ

後輩女「どうやらセンパイが職場に携帯を忘れたみたいで、それを届けに」


吸血娘「……あいつまた携帯忘れたのか。ご丁寧に銃は毎日肌身離さず持ち歩いてるっつうのに」ボソッ


後輩女「……ん?」
77 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/12(土) 19:44:39.52 ID:VR5T8c57o
吸血娘「ところで、あのハゲはちゃんとそっちで毎日仕事出来てるの?臭いとかで苦情とか来てない?」


後輩女「あ、あぁ、仕事ですか?はい、私が知る限りではよく働いていると思いますよ」


吸血娘「へーちゃんと馴染めてるんだあいつ」


後輩女「……」

後輩女「あのーちょっと失礼かもしれないんですけど、あなたはセンパイと……どんな関係なんですか?一人暮らしをしていると聞いていたんですけど……」


吸血娘「え?私とあいつの関係?」

吸血娘「んー……一言で言うなら……」

吸血娘「相棒?」


後輩女「あ、相棒?」キョトン
78 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/12(土) 19:46:06.87 ID:VR5T8c57o
後輩女(ど、どうしよう。何か余計に分からなくなってきた。相棒って……?)

後輩女(ゲームか何かの話だったりするのかな。辺り一面にそれらしきものが散らばってるし)

後輩女(……ん?)



吸血娘「」チュー



後輩女(え、なに飲んでるんだろ。あれ。透明なパックに入ってる赤いジュース?)

後輩女(くんくん……ウッ、こ、この鉄のように生臭い香りって……まさか)


吸血娘「なに?こっちジロジロ見てるけど」


後輩女「ひゃっ!?あ、ごめんなさい、気付いてました?」

後輩女「いや、何飲んでるのかなーって思って」
79 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/12(土) 19:46:56.98 ID:VR5T8c57o
吸血娘「何って、血だけど」


後輩女「へー血ですかー」

後輩女「……」



後輩女「ウェアッ!?血ぃ!?」ビクッ



吸血娘「そう、血」



後輩女「えっ!?な、なんで血飲んでるんですか!?



吸血娘「なんでって。だって私ヴァンパイアだし」




後輩女「!?!?!!!???!!??!?」



80 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/12(土) 19:48:23.02 ID:VR5T8c57o
後輩女(ヴァ、ヴァンパイア!?それってもしかして吸血鬼ってこと!?)

後輩女(い、いやないないない!!!いくら何でもそれはない!か、からかわれてるに決まってる!絶対!)

後輩女(海外だと健康法で動物の血を飲むって話を聞いたことがあるし、そ、そんな感じだ!絶対に、うん!)



吸血娘「ところで、お前ってハゲのなんなの?恋人?彼女?」



後輩女「ブフォッ!?」ブー

後輩女「げほっ……げほっ……か、彼女って……な、なんでそうなるんですか?」


吸血娘「いや、普通携帯忘れてるからってわざわざ家に来て届けたりするか?って思って。違うの?」
81 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/12(土) 19:49:56.27 ID:VR5T8c57o
後輩女「ち……違いますよ。ただのバイトの先輩後輩です」

後輩女「――今のところは」



吸血娘「ふーん……」





ガチャ





屍男「……帰ったぞ」


屍男(……?また知らない靴がある。これは……違うな。あの女のものではない)

屍男(しかし、どこか見覚えがあるような……)
82 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/12(土) 19:51:05.07 ID:VR5T8c57o
吸血娘「うぃ、お前のバイトの後輩が来てんぞ」

後輩女「あ、お、お疲れ様です。センパイ」



屍男「……っ!?」

屍男「……なぜ、ここにいる?」


後輩女「えーっと、それはそのー」

吸血娘「お前が携帯忘れてたからご丁寧に届けに来てくれたんだぞ、ハゲ」


屍男「……」チラッ

屍男「……そうか、手間をかけたな。礼を言う」


後輩女「あ、いえ!そんな大したことでもないので!」

後輩女「じゃあ私はこれで失礼しますね」スッ
83 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/12(土) 19:52:13.94 ID:VR5T8c57o
屍男「……待て、外はもう暗い。最近は物騒な話も多いからな。家の近くまで送って行く」

後輩女「えっ……あ、ありがとうございます」カァ



吸血娘「…………ふーん」





ガチャ





屍男「……すまなかったな。わざわざ家まで足を運ばせて」

後輩女「全然大丈夫ですよ。そんな距離があるわけでもないですし」

屍男「……気になるか。あいつのことが」

後輩女「え?あぁ……あの金髪の綺麗な女の子のことですか。そうですね、まあちょっとは……驚きましたし」

後輩女「一人暮らしって聞いていたのに、突然美少女が出迎えてきたら、ねぇ……」
84 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/12(土) 19:53:37.19 ID:VR5T8c57o
屍男「……あいつは」

屍男「…………俺の姪だ」


後輩女「あ、良かった。娘とか言い出したら、ちょっとどうしようかと思ってました」


屍男「……」

屍男「……姉の子でな。日本に留学することになり、俺の家で面倒を見ていたんだが……少し前に心の病を患い、ひきこもり気味になっているんだ」

屍男「だから……本人のこともあり、あまり言いたくなくてな。つい嘘を言ってしまった」


後輩女「……」

後輩女「そう、だったんですか。大変ですね」
85 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/12(土) 19:55:09.63 ID:VR5T8c57o
屍男「あいつ、何か変なこと言ってなかったか?」

後輩女「えっ……変なことですか?どうして?」

屍男「……いや、何も言っていないなら別にいいんだが」



『だって私ヴァンパイアだし』



後輩女「……いえ、特には」

屍男「……そうか」

後輩女「あ、ここまででいいですよ。もう私のマンションすぐそこなんで」

後輩女「じゃあ、今日はこれで。送ってもらってありがとうございました。また明日……って明日はシフト入れてないんだった。明後日に!」

屍男「……あぁ、またな」クルッ






後輩女「……」

後輩女「……ヴァンパイア、か」
86 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/12(土) 19:57:51.77 ID:VR5T8c57o
ガチャ



屍男「……」

吸血娘「お、帰ってきたか」

屍男「……彼女に余計なことを言っていないだろうな」

吸血娘「あん?余計な事ってなんだよ」

屍男「……俺達の正体に関わることだ。前にも言っただろ」


吸血娘(…………あ、やべ)

吸血娘(ま、まあいざとなったら私の力で記憶消せばいっか)


吸血娘「……べ、別に。何も言ってない」プイッ

屍男「……そうか」

吸血娘「と、ところで!お前なんで今日は帰り遅かったんだよ。いつもはもっと早いだろ」

屍男「……一日前に自分が言っていたことも覚えてないのか」ガサゴソ

屍男「……これをお前が買って来いというから遅くなったんだろうが」


フライドチキン『』


吸血娘「あっ!そうだった!今日はフライドチキンの日だったな!忘れてた!」

吸血娘「ほら!早くそれ寄越せやハゲ!早く!!」ピョンピョン
87 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/12(土) 19:59:30.65 ID:VR5T8c57o
屍男「……」

屍男「……」ガサゴソ


吸血娘「?」


屍男「…………アー」パラパラパラ

屍男「…………」モグモグ


吸血娘「!?!?!?!?!???!??」

吸血娘「は、はああああああああッッッ!?テ、テメェおいコラハゲェ!!!!何勝手に私のフライドチキン食べてやがんだあああああああああ!!!!!」


屍男「……別に、たまには俺も食いたくなっただけだが」モグモグ

屍男「……これは俺が買ってきたんだからな。どうしようが俺の勝手だ」モグモグ



吸血娘「ざけんなあああああああああああああああああああ!!!!!!!私のチキン返せえええええええええええ!!!!!」



屍男(……ちょっとはストレス解消になったな)
88 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/12(土) 20:00:05.77 ID:VR5T8c57o
今日はここまで
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/12(土) 20:32:36.74 ID:yU+Vydclo
仕返しが可愛い
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/12(土) 23:35:53.26 ID:3MSnSoxsO
91 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/14(月) 22:14:31.89 ID:QcngyaOIo
□□□□ 翌日 □□□□



吸血娘「」パチッ

吸血娘「……またこんな陽が昇ってる時間帯に起きてしまった。昨日変な時間に起きたせいで若干時間がズレてるな。直しとかないと」


吸血娘「……」


吸血娘「あんのクソハゲめぇ!!!!!!」ブンッ

吸血娘「クソが!まだ怒りが収まらん!一晩経っても全然ムカつく!!!!」

吸血娘「私のフライドチキン食いやがってえええええええええ!!!!!あんにゃろおおおおおおおおおお!!!!!!」ブンブンッ

吸血娘「ぜぇっ……ぜぇっ……ちょ、ちょっと休憩。暴れ過ぎた」ゴロン


吸血娘「……」


吸血娘「腹減った」スクッ
92 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/14(月) 22:15:56.23 ID:QcngyaOIo
吸血娘「あぁもう仕方ない。こうなったら自分でチキン買いに行くか……本当にめんどくさいけど、この欲求には逆らえない」スクッ

吸血娘「二日連続で外出なんて初めてだな。あのクソハゲめ……帰ってきたらまた噛み付いて血吸ってやる」



バタン



吸血娘「えーっと……マップだと、店はこっちか」

吸血娘「そういえば、自分でチキンを買いに行くのはこれが初めてか。いつもはハゲに買わせてたしな……無事にたどり着けるだろうか」

吸血娘「まあ地図通りに行けばいいだけだし、よっぽどのことじゃないと迷わんだろ。へーきへーき」
93 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/14(月) 22:16:57.03 ID:QcngyaOIo
…………………………………………………………
……………………………………



吸血娘「……」キョロキョロ

吸血娘「……」ジー


吸血娘「……」

吸血娘「……迷った」


吸血娘「……なんで迷うんだ。店はこの画面上にあるはずなのに、どこにも見えない」キョロキョロ

吸血娘「そもそも、なんでこんな駅前に店がびっしり並んでるんだよ。分かりにくいわ。何がどこにあるのか」

吸血娘「チクショウ!だからこの国は嫌いなんだよファック!!!!」




「ねぇ君、可愛いね。今ひとり?」




吸血娘「あん?」クルッ
94 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/14(月) 22:18:42.84 ID:QcngyaOIo
チャラ男「うおっ外人じゃん。日本語分かる?」


吸血娘(……なんだこいつ。私をナンパしてんのか。身の程知らずが)

吸血娘(無視だ無視。こんな奴に構ってる暇はない)スタスタ


チャラ男「ちょっとぉ、無視しないでよぉ。キャンユースピークジャパニーズ?」


吸血娘「……失せろ。私は今、機嫌が悪いんだ」


チャラ男「なんだー喋れるじゃん。どう?お茶でも一緒に」


吸血娘(……チッ、久しぶりだな。この眼を見るのも)

吸血娘(こいつ、小物っぽい見た目のくせに相当悪さしてんな。あの駆除してきたゴミ共と同じ眼をしてやがる)
95 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/14(月) 22:20:15.56 ID:QcngyaOIo
吸血娘(……久しぶりに殺るか?いい街の掃除になるしな。不味そうな血だが、新鮮なうちに飲むなんてこの国に来て初めてだし)

吸血娘(あぁ……そうしよう。段々と血が飲みたくなってきた……私の腹が、喉が、本能が血を求めて鳴いてきた)

吸血娘(血を……赤く、滾る血を……)ゴクッ



「こっち!!!!」ガシッ

吸血娘「!?」グイッ



チャラ男「ちょっ!?」




ダダダダダダダダダッ

ダダダダダダダダダッ



「ふう……ここまで来ればいいかな……」

「大丈夫?変な事されなかった?」


吸血娘「お前は……」


「あ、ごめん。覚えてる?昨日お邪魔した者だけど」
96 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/14(月) 22:21:24.18 ID:QcngyaOIo
後輩女「センパイの姪さん……でいいんだよね?」


吸血娘(姪?あぁ、そういうことになってんのか。なら適当に話合わせとくか)

吸血娘「……そうだけど」


後輩女「良かった〜……いや、今日はバイトが休みだから、ショッピングしてたんだけどね、そしたらチャラい男に絡まれてる金髪の女の子がいて、もしかしたらって思ったら……まさかこんな形で再会するとは」

後輩女「ここってちょっとそういう輩が多いんだよね……あんまり一人で出歩かない方がいいよ。可愛いから、すぐ変なのが寄ってくるでしょ」


吸血娘(……つまり、私があの男相手に困ってると思って、助け舟に入ったと)

吸血娘(余計なお世話だっちゅーの。おかげでせっかくの獲物を取り逃がしちまったじゃねーか)

吸血娘(……いや、こいつでもいいか?私の勘だと、ギリギリ10代、そして恐らく……処女)

吸血娘(まさに最高の条件だ。あの男の血と比べたら、月とスッポン。高級中華料理とカップラーメンくらいの差がある)
97 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/14(月) 22:22:42.85 ID:QcngyaOIo
後輩女「ん?どうしたの?」



吸血娘「……」ゴクリ

吸血娘(……やっぱやめとこ。あのハゲの知り合いだし)



吸血娘「別に。わざわざ助けてもらわなくても、あんなの私一人でどうにかできた」

後輩女「それって……もしかして、ヴァンパイアだから?」クスッ

吸血娘「あん!?なんだその言い方!」

後輩女「ご、ごめんごめん!悪気はないから!」

後輩女「それで、今日はどうしたの?センパイから、普段はあんまり外に出ないって聞いてたけど、何か買いに来たの?」

吸血娘「ん?あぁ、お前なら分かるかも」

吸血娘「これ、ここのフライドチキンの店がどこにあるか知ってる?」


後輩女「あーこの店なら――」
98 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/14(月) 22:23:29.64 ID:QcngyaOIo
………………………………………
……………………………



吸血娘「ふふん、5000円分のチキンを買ってやった」ニヤニヤ

後輩女「す、すごいね……それ、センパイと一緒に食べるの?」

吸血娘「あ?あのハゲなんかにやんねーわ。昨日、無断で私のチキン全部食いやがったし。これは全て私の物だ」

後輩女「へ、へー」



吸血娘「……」

吸血娘「おい、お前。もうランチは食ったか?」



後輩女「え?まだだけど」
99 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/14(月) 22:25:15.56 ID:QcngyaOIo
ガチャ


吸血娘「ほら、あがれ」


後輩女「お、お邪魔します」

後輩女「……いいの?それ、一人で食べるって言ってたのに、私もご一緒しちゃって」


吸血娘「私は貸しは作らない主義なんだ。お前には店の場所を教えてもらったからな、その礼だ」

吸血娘「ほら、コーラ。チキンには一番これが合う」スッ


後輩女「あ、どうも……」


吸血娘「じゃあ食うか。あむっ……」パクッ

吸血娘「ん〜〜〜〜ッッッッ!!!!!やっぱこれだな!!!!油とチキンと胡椒が最高に合う!ちょっとサイズが小さいのが気になるが、味はいいから許してやる!」

吸血娘「ほら、お前も食え。美味いぞ」
100 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/14(月) 22:26:28.07 ID:QcngyaOIo
後輩女「い、いただきます」パクッ

後輩女「あっ……お、美味しい。フライドチキンなんてもう何年も食べてなかったけど、こんなに美味しかったんだ」


後輩女(ちょっとカロリーが気になるけど)


吸血娘「だろ?この世界で一番美味いのはハンバーガーとフライドチキンだ。ドナルドとカーネルサンダースにはノーベル賞をやってもいいと私は思う」モグモグ

吸血娘「ところでお前、歳はいくつだ?」


後輩女「え?歳?今年で19になるけど」


吸血娘「やっぱり、私の予想は当たってたな。流石だ」

吸血娘「ちなみに私は20だからな。お前さっきからタメ口だけど、敬語使えよ」


後輩女「ぶふぉっ!?」ゲホッ

後輩女「20歳って……えぇ!?ウソでしょ!?」
101 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/14(月) 22:27:28.86 ID:QcngyaOIo
吸血娘「厳密に言えば今年で21だけどな」モグモグ


後輩女(わ、私より年上だなんて……てっきり中学生くらいかと)

後輩女(い、いや……ありえるの?この見た目で20って。まさか本当にヴァンパイアってやつなんじゃ――)


後輩女「……」


吸血娘「んー♪んめんめ」モグモグ


後輩女「そ、それにしても、センパイと一緒でずいぶん日本語が上手ですね。流石留学生です」



吸血娘「……留学生?」キョトン



後輩女「えっ?」
102 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/14(月) 22:28:55.81 ID:QcngyaOIo
吸血娘「あーはいはい。まあね、うん」


後輩女(な、なんだ……今の間)


吸血娘「まあ私にかかれば人間の言語を習得するなんて、一週間もあれば楽勝だし。他にも8カ国語くらいは喋れるぞ」


後輩女「えっ!?う、嘘ですよね?」


吸血娘「マジだし。まあ滅多に使わんから持て余してるけどな。精々通販で探し物をするくらいにしか役に立たん」


後輩女「へ、へー」

後輩女(これはさすがに嘘だよね。いくら留学生で才女って言っても……20やそこらでそれだけの言葉を覚えるなんて無理だと思うし。でも日本語はものすごい流暢なのも事実)


後輩女(何者なんだろう……この人)
103 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/14(月) 22:29:58.37 ID:QcngyaOIo
吸血娘「そうだ、お前にひとつ聞きたいことがあるんだった」


後輩女「なんですか?」




吸血娘「お前、本当のところあのハゲのことどう思ってるんだ。好きなのか」




後輩女「」ギクッ

後輩女「い、いや……そんなことないですよ。昨日も言った通り、私はただの後輩で……」


吸血娘「んなわけないじゃん。普通は気にもならんやつの家にわざわざ忘れ物なんて届けないぞ。私は恋愛映画とか小説とかアニメとか漫画とかで見たから詳しいんだ」


後輩女(……全部創作じゃん)
104 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/14(月) 22:30:58.68 ID:QcngyaOIo
吸血娘「それに、お前ちょっとあのハゲと話す時に声色変わってるぞ。耳がいい私だから気付けるレベルのほんとちょっとの差だけど、明らかに声が高くなってる」



後輩女「え、うそ」サッ

後輩女(あ、しまった……)



吸血娘「その反応……図星か」



後輩女(ん、んんんん〜〜……!!ど、どうしよう。この状況)

後輩女(どうにかして言い逃れしないと……まずい)



吸血娘「あ、言っとくけど適当な嘘言っても体温の変化で分かるからな。さっさとゲロちまった方がいいぞ。それともハゲ本人に伝えてやろうか」



後輩女「……ぐっ」

後輩女「う、うぅ……わ、分かりましたよ。す、す……好きです。これでいいんですか」
105 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/14(月) 22:33:26.66 ID:QcngyaOIo
吸血娘「……」

吸血娘「……言わせといてなんだけどさ、お前男の趣味悪いな。なんであのハゲなの?」

吸血娘「あいつの会話パターン知ってるか?「……あぁ」「……そうなのか」「……そうか」が8割だぞ。まだSiriの方が多いレベルだ」


後輩女「ちょっと!普通に引くのやめてくださいよ」

後輩女「わ、私だって……ちょっと前の自分なら考えられなかったんですけど、それでも好きになっちゃったんだから、し、仕方ないじゃないですかぁ……」カァ


吸血娘「き、きっかけは?」


後輩女「……三か月前に、街で助けてもらったんです。今日と同じような状況で」

後輩女「変な人に絡まれてるところを……偶然通りかかったセンパイが。今時珍しいじゃないですか。ほとんどの人はみんな見て見ぬ振りをするのに」


吸血娘(……確かに、あいつなら目の前でそんなことがあったら、助けるだろな)
106 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/14(月) 22:35:09.89 ID:QcngyaOIo
後輩女「最初は親切な人もいるんだなって思っただけでした。でも、これまた偶然に新しくバイトに入った本屋で、センパイと再会して……」

後輩女「そこから意識しちゃって……いつの間にか好きに――好意を抱くようになっていました」カァ


吸血娘「……うわぁ」ゾッ


後輩女「だ、だから!引かないでくださいよ!こっちだって恥ずかしいんですから」


吸血娘「いやぁ……いくら何でもあのハゲはないだろ。だってハゲだぞ……頭に何も生えてないとか、もう地球の生物じゃないだろ。宇宙人にしか見えないわ」

吸血娘「お前もよく考えてみろよ。あのハゲ頭と付き合うなんて出来るのか?ずっと視界にパチンコ頭が目に入るんだぞ。叩き潰したくなるぞ」


後輩女「つ、付き合うだなんて…そんな……」モジモジ


吸血娘「……重症だな、こりゃ」

吸血娘「とにかく、あのハゲだけはやめておけよ。絶対な、てか私が許さんし」
107 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/14(月) 22:36:39.74 ID:QcngyaOIo
後輩女「……?」

後輩女「え、えぇ……許すとか、許さないとかあるんですか?」


吸血娘「当たり前だろ。だって私は――えっと、何だっけ、別れた前妻の娘だっけ?」


後輩女「……姪じゃないんですか」


吸血娘「そう、それそれ。つまり実質あいつの保護者みたいなもんだろ?だから私の許可がないとあいつに関わるのはダメ」

吸血娘(まあそもそも……例え告白されたとしても、あいつが快諾するとは思えないけど)


後輩女「……それって、逆なんじゃないですか?」

後輩女「普通はセンパイの方が保護者だと思うんですけど……」
108 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/14(月) 22:37:58.89 ID:QcngyaOIo
吸血娘「まあ普通はな。でも私達の場合は状況が違うし。だって私はあいつの命を何度も救ってるんだぞ。なら上下関係は私の方が上に決まってるじゃん。私の方があいつより強いし」


後輩女「……??」

後輩女(い、言ってる意味が全然分からない……)


後輩女「え、つまり……自分もセンパイのことが好きだから、私と一緒にいることは許さないってことなんですか?」


吸血娘「……はい?」

吸血娘「え、私の話聞いてた?んん?なんでそうなるのか全く分からないんだけど」


後輩女「いやだって、姪の許可がないとセンパイとその……付き合えないって、ちょっと変ですよ」

後輩女「それに、話を聞いてるとどこか……あなたにはセンパイを独占したいとか、そんな思想が見えるような気がして」


吸血娘「な、なわけないだろが!!!!私があのハゲのことを好きだなんて、そんなはずがない!!!!!」

吸血娘「ハゲで陰気で、作る料理は不味くて、体臭も臭いし血も不味い、おまけにハゲだし!なんでそんなやつを好きにならなくちゃいけないんだよ!!!!!」
109 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/14(月) 22:39:33.55 ID:QcngyaOIo
後輩女「……でも、そんな人と一緒に暮らしてるんですよね。本当に嫌なら、同居なんてしないと思いますよ」



吸血娘「……っっ!!」



後輩女「……私も、自分でもどうしてセンパイのことを好きになったのかよく分からないんです。初めてバイト先で声をかけた時も、私のことは覚えていませんでしたし」

後輩女「不愛想で、何考えてるかよく分からない人ですけど……不思議な魔力みたいなのがあるような気がするんですよね。ミステリックな雰囲気というか……そういうところに惹かれたのかもしれません」



吸血娘(わ、私は……あのハゲに恋愛感情?)

吸血娘(そ、それだけは絶対にない!むしろそれとは真逆の――)



吸血娘(……ッ!!そ、そうか。私は…………あのハゲを…………)
110 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/14(月) 22:40:46.30 ID:QcngyaOIo
後輩女「ど、どうしたんですか?」



吸血娘「……何でもない」

吸血娘「……私がお前に警告してやってるのは、別にそういう邪な心で言っているわけじゃない。まあちょっとはあるかもしれないけど」



吸血娘「いいか。お前にだけ教えてやる。あのハゲは……人間じゃないんだよ」



後輩女「……はい?」



吸血娘「あいつはもう死んでるんだよ。生ける屍の怪物……それがあのハゲだ」



後輩女「……えっ?」
111 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/14(月) 22:41:11.62 ID:QcngyaOIo
今日はここまで
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/15(火) 00:42:03.35 ID:+SHiaPEho
もうめちゃくちゃ
友達ができてうれしいのかな
おつおつ
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/15(火) 21:32:34.00 ID:5UVOax4CO

どうなるのか楽しみ
114 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/16(水) 23:28:18.45 ID:lSkaed7to
後輩女「ど、どういう意味ですか。それって」


吸血娘「まず私が本物のヴァンパイアって証拠を見せてやる。ほら、ちょっと腕出してみろ」

吸血娘「安心しろ。別に痛いことはしないから」


後輩女「……?こ、こうですか」


吸血娘「よし、じゃあちょっと噛むぞ」カプッ

吸血娘(なるべく吸わないように……甘噛みで)



ギュインッ……ギュインッ……
115 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/16(水) 23:30:05.99 ID:lSkaed7to
後輩女「!?」


後輩女(な、なにこれ……!?え、血を吸われてる!?)

後輩女(う、うそ……これ、献血をされてる時と全く同じ感覚。それに一瞬、口から牙のようなものを見えたし……!)



吸血娘「……ふぅ」パッ

吸血娘「ど、どうだ。これで私が本物のヴァンパイアだって分かっただろ」ドキドキ



後輩女「は、はい……」

後輩女(ほ、本物だ……本物の……吸血鬼、ヴァンパイアだ……)



吸血娘「フゥ……フゥ……」ドキドキ
116 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/16(水) 23:31:19.27 ID:lSkaed7to
吸血娘(や、やべえええええええええええ!!!!!!こいつの血超うめええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!)

吸血娘(ま、まじで一瞬我を忘れて全部飲み尽くすところだった!!!!超あぶねぇ!!!!)

吸血娘(だって美味すぎるもんこれ!これまで飲んできた血の中でもダントツでナンバーワンだわ!十代の健康的な処女の血ってこんなに美味いの!?感動したわ!)

吸血娘(こ、この味は覚えたらやべえぞ……この血の為なら殺人だって犯せる……そりゃご先祖様達も人を襲うわ……やべえな)



後輩女「あの、大丈夫ですか?様子がちょっと変ですけど」



吸血娘「な、何でもない……お、落ち着け……」フゥ

吸血娘「……よし」グッ
117 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/16(水) 23:32:06.60 ID:lSkaed7to
吸血娘「私の正体は人を血を啜る伝説の生物、ヴァンパイアだ。元々は外国に暮らしてたんだけど、ワケあってこの島国に追いやられて来た」

吸血娘「そして、あのハゲは動く死体だ。これもまた話すと長くなるけど、あいつは過去の記憶を失くしている」


後輩女「でも昔、親と一緒にこっちに引っ越してきたって言ってましたよ?」


吸血娘「んなの作り話に決まってんだろ。よくある話だ。それにあいつ、めちゃくちゃ力持ちじゃないか?」


後輩女「……え、えぇ。確かに」


吸血娘「それも怪物の特徴、あいつは並外れた怪力を持っている。人前ではなるべく抑えてるだろうがな」

吸血娘「香水使ってるのも知ってるか?あれも死臭を隠す為だ」


後輩女(……ワキガじゃなかったんだ)
118 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/16(水) 23:32:42.41 ID:lSkaed7to
吸血娘「どうだ、これが真実だ。私とハゲは人間じゃない。だからあんまり関わるべきじゃないんだ」



後輩女「……」



吸血娘「本当はあのハゲから口止めされてるんだけどな。まあお前になら誰かに言いふらしたりしないだろうし特別に教えてやったけど」



後輩女(……センパイが、人間じゃない?)

後輩女(そんな、まさか……)
119 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/16(水) 23:33:39.42 ID:lSkaed7to
〜〜〜〜 翌日 〜〜〜〜



屍男「……」セッセ

屍男(……よし、今日はこれで仕上げるか)スッ



ガチャ



屍男(……そういえば、今日はあいつから話しかけられなかったな。最近は毎日ちょっかいをかけて来たが)

屍男(バイトには来てたようだが、何かあったのか?……俺には関係のない話か)




「あの!センパイ!!」




屍男「……?」クルッ
120 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/16(水) 23:35:03.35 ID:lSkaed7to
屍男「……なんだ。まだいたのか」

屍男「……何か用か?」


後輩女「……っ」

後輩女「セ、センパイが……人間じゃないって、本当ですか……?」



屍男「……」

屍男「……誰から、それを聞いた?」



後輩女「き、昨日……姪さんから聞きました。偶然街で会って、色々あって家に招待されて……」

後輩女「そ、それで……また色々あって、姪さんが本物のヴァンパイアだってことを告白されて……センパイの正体も」

後輩女「ほ、本当なんですか?」



屍男「……」フーッ

屍男(…………まずいな。これは)
121 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/16(水) 23:36:12.55 ID:lSkaed7to
ちょっと短いですが今日はここまで
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/17(木) 00:21:02.63 ID:uUwCOMJho

楽しみにしています
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/17(木) 01:53:13.98 ID:CsPtGSpto
更新がある喜びよ
おつおつ
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/17(木) 15:08:28.98 ID:DW39r66uO
楽しみ
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/17(木) 21:44:15.53 ID:BA+msVibO
乙面白くなってきた
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/19(土) 19:05:02.72 ID:DaiUOcJV0
よく裏世界やっていけたなってぐらい口軽くて草
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/19(土) 19:36:04.35 ID:xT14Coado
最強の吸血鬼だし大切に育てられたし多少はね
128 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/20(日) 22:27:56.99 ID:hprndwOko
屍男(……あいつ、昨日そんなことがあったなんて一言も聞いてないぞ)

屍男(どうする、この状況。一番恐れていたことが現実に起きてしまった)




屍男(――殺すか)




屍男(……何を馬鹿なことを考えているんだ俺は。とにかく、どうにかして誤魔化すしかない)

屍男(あのおしゃべりがどこまで話したか、だ。それ次第でまだカバー出来る……はずだ)



屍男「……どうして、あいつがヴァンパイアだと分かった?」
129 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/20(日) 22:29:11.65 ID:hprndwOko
後輩女「え?どうしてって……実際に腕を噛まれて血を吸われました。ほら」スッ

屍男「……それだけか?他には何もしてないんだな?」

後輩女「……?はい、そうですけど」



屍男(……霧化とあの眷属は見てないのか。腕から血を吸われただけ……)

屍男(……よし、行ける)



屍男「……すまない。あいつが迷惑をかけた」

屍男「ヴァンパイアだのなんだのは……全てホラ話だ。トワイライトという小説を知っているか?」


後輩女「トワイライト?あぁ……映画になってたあれですか?名前だけは知ってますけど」
130 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/20(日) 22:33:23.12 ID:hprndwOko
屍男「……そうだ。あいつはあの映画を観て以来、自分がヴァンパイアだと思い込んでいるんだ。トワイライトのストーリーは女子高生とヴァンパイアの恋物語でな」

屍男「向こうでは社会問題になったことがあるほど、疾患者が多い病だ」

屍男「“トワイライト・シンドローム”という病名に聞き覚えはないか?」



後輩女「な、何だか聞き覚えがあるような、ないような……」



屍男「こちらの国でも、似たような病名があったはずだ。名は確か……ちゅ、ちゅ……」



後輩女「中二病、ですかね?」



屍男「あぁ……それだ。間違いない」

屍男「要するにあいつは今、中二病で自分をヴァンパイアだと思い込んでいる精神異常者なんだ。ヴァンパイアなどこの世界にいるわけないだろう」
131 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/20(日) 22:34:47.58 ID:hprndwOko
後輩女「で、でも!私は本当に血を吸われたんですよ?それはどういう……」



屍男「……それに関しては、あいつの……性癖に関わる話になる」

屍男「血液嗜好者、ヘマトフィリアという言葉を聞いたことはあるか?」



後輩女「な、ないです……」



屍男「そうか、知らないのも無理はないな。これはパラフィリア障害という精神疾患の病名の一つだ。簡単に言うと……特殊な性癖を持つ人物に対して使われる」

屍男「有名なのはペドフィリア、ネクロフィリアと言ったものだろうな。ヘマトフィリアもその一つで、血に対して性的興奮を覚える症状を指す」

屍男「他にも、ヴァンパイアフィリアという言葉が存在する。別名、吸血病だ。これはそのままの意味で、人の血を吸う性的嗜好を持つ人物を意味する」

屍男「あいつは……この両方の病も持っているんだ。原因は分からんが、幼い頃から血に執着する性格でな……中二病にかかったのも、この体質のせいだ。」

屍男「実際に調べてみるといい。症例は少ないが、確かに存在するものだ。現代社会では中々理解されないのが問題になっている」
132 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/20(日) 22:36:22.11 ID:hprndwOko
後輩女「……!?そ、そうだったんですか……?そんな病気があったなんて」


屍男「……それに加えてあいつはレズビアンでもある」


後輩女「え、えぇっ!?レズビアンッ!?」


屍男「お前の血を飲んだ時に、様子が少しおかしくなかったか?」


後輩女「そう言われると……顔が赤かったような」

後輩女「ま、まさかそれって……」


屍男「……あぁ、あいつは女の血を飲むと、その、なんだ……欲情する」


後輩女「そ、そうだったんですか」



屍男(……よし、これでだいぶ説得力が増したはずだ)

屍男(ヘマトフィリアと吸血病だけではあまりに特異過ぎて、現実感がないだろうからな。身近にある言葉を並べることで、よりリアリティが増す)
133 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/20(日) 22:37:37.44 ID:hprndwOko
屍男「……ということで、あいつはひきこもりで、中二病で、ヘマトフィリアで、吸血病のレズなんだ。すまないな……隠す気はなかったんだが、これはあまりにも……そう簡単に話してはいい内容ではないような気がしてな」


後輩女「え、あ、はい……わ、私も何かごめんなさい。その……真に受けちゃって」

後輩女「そうですよね。よく考えたら先輩がゾンビなんて……そんなことあるはずないですもんね」


屍男「……あぁ、全くだ。分かってもらえたなら、それでいい」

屍男「では俺はそろそろ失礼する。あいつが腹を空かして待っているだろうからな」


後輩女「は、はい!すみません!呼び止めちゃって!お疲れ様でした!」ペコリ




スタスタ スタスタ




屍男(……ふう。何とかなったな。医学書を読み漁っていた成果が、こんなところで出るとは)
134 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/20(日) 22:39:21.80 ID:hprndwOko
屍男(自分で言うのも何だが、よくあそこまでの嘘を即興で考え付いたものだ。多少無理があると思ったんだがな)

屍男(だが……彼女があいつの言うことを本気で信じたのは、血を吸われただけではないはずだ。元から俺に……無意識に、疑念を抱いていた。どこかおかしいと思われていたのだろうな)

屍男(……今回は上手く行ったが、次はそうはいかない。あいつには念を押す必要があるな。もう二度とこんなことを起こすわけにはいかん)







後輩女「……」ポチポチ

後輩女「……ほ、本当にあるんだ。吸血病って……聞いたこともなかった」

後輩女「そうだったんだ。先輩はひきこもりで、中二病で、ヘマトフィリアで、吸血病でレズビアンの姪さんの面倒を見ているのか」

後輩女「…………」



後輩女「た、大変だなぁ……」
135 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/20(日) 22:40:42.03 ID:hprndwOko
ガチャ



屍男「……」



吸血娘「おうおう、チキン泥棒が帰ってきたぞ」

吸血娘「言っとくけど、私はまだ根に持ってるからな。一週間は言い続けるからな、チキン泥棒が」



屍男「……おい、俺が怪物だということを……言ったのか?あいつに」



吸血娘「あ?うん、言ったけど?」



屍男「……なぜだ。あれだけ釘を刺したはずだ。なぜ喋った」

屍男「まさか、チキンを食われたとかいうくだらない仕返しでやったわけではないだろうな」


吸血娘「いやさすがの私でも、んな理由で言わんし。もっと別な理由だし」
136 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/20(日) 22:41:43.72 ID:hprndwOko
屍男「……ではその理由とは何か言ってみろ」


吸血娘「んー……それは無理かな。一応、名誉ってもんがあるし、私の口からは言えない」



屍男「は?」



吸血娘「だから、これはあいつの個人的な事情に寄るから言えない。私もこれぐらいのデリカシーってもんはあるし」


屍男「……どういう意味だ。それは」


吸血娘「まあハゲには絶対分からんだろうな。そういうのに鈍感そうだし。おっと、危うく言いそうになった」ニヤッ


屍男「……」

屍男「どういう事情があったのかは知らんが、こちらは誤魔化すのに大変だったんだぞ。もう二度とあいつには連絡するな。接触するな。言葉を交わすな」
137 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/20(日) 22:43:23.81 ID:hprndwOko
屍男「これが守れないなら、俺はもう二度とお前の使いっぱしりはしない」

屍男「チキンも、アイスも、ハンバーガーもコンビニ弁当も一切買わん」



吸血娘「……は?」



屍男「言っておくが、俺は本気だからな」



吸血娘「いや、それだけは絶対無理なんだけど」

吸血娘「だって、私もうあいつの携帯の番号知ってるし。向こうからメッセージ来てるんだけど」スッ



『センパイから事情を聞きました。私も出来る限りのことは協力します』



吸血娘「……つーかなにこれ。事情って、お前何話したの?」



屍男「……」

屍男(こ、こいつ……いつの間に)
138 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/20(日) 22:46:56.88 ID:hprndwOko
………………………………………………
……………………………



吸血娘「……は?」

吸血娘「え、なにそれ。つまり私はひきこもりで、血に欲情する性癖で、おまけにレズってことになってるの?え?」



屍男「……そういうことになるな」



吸血娘「……」



吸血娘「とんだド変態じゃねえか!!!!!!!!なに人のことをボロクソに設定してやがんだ!!!!!!」

吸血娘「つーかこんなめちゃくちゃな話を信じる方も信じる方だわ!!!!あいつ馬鹿じゃねえの!?」



屍男「仕方ないだろ。話の流れでそうなった。元はと言えばお前が悪い」

屍男「俺が死者という話より、お前が変態ということの方が信憑性があったということだろう」



吸血娘「吸血病までは理解できる!でもレズってなんだよ!?これ明らかにいらないだろ!!!!!」



屍男「……話の流れだ」
139 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/20(日) 22:48:30.31 ID:hprndwOko
吸血娘「私は絶対に嫌だからな!!!!こうなったら直接呼び出して霧化するところを見せてやる!!!!これなら絶対本物のヴァンパイアだって信じるだろ……!」ピッ


屍男「……なら、さっきも言った通り俺はもう二度とお前の好物は買わないぞ」

屍男「自分で足を運ぶがいい。もっとも、そんな体力がお前にあればの話だが」


吸血娘「なっ……!?それは反則だろ!!ズルいぞ!!!!」


屍男「反則でもズルでもない。どうする?選ぶのはお前だ。勝手にすればいい」

屍男「おっと、そういえば今日はこれを買ってきたんだった」ガサゴソ



ハンバーガー『』



吸血娘「!?」

吸血娘「こ、このハゲ野郎……!それを人質に取ろうってのか……!」
140 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/20(日) 22:53:50.57 ID:hprndwOko
屍男「別に、ただお前が自分の正体を隠そうとしないと言うなら、このハンバーガーとポテトは俺の胃に放り込まれるだろうな」スッ

屍男「選べ、毎日外へ出て、何百メートルも歩いてまでジャンクフードを買いに行くか。それとも恥を我慢するか」

屍男「無論今後一切ハンバーガーやフライドチキンを食べない、という選択肢もあるがな」



吸血娘「……!」ギリッ



屍男「……」ガサゴソ

屍男「……アー」スッ



吸血娘「!!!!!!」

吸血娘「……チッ、ったよ。隠せばいいんだろ、隠せば」



屍男「それでいい。ほら、受け取れ」ポイッ

屍男「いいか、これは取引だからな。破るなよ」
141 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/20(日) 22:55:37.35 ID:hprndwOko
吸血娘「うっせ。わざわざ約束事を破るほど、こっちも世間に染まってないっての」モグモグ

吸血娘(……我ながら、食い物に釣られて変態の汚名を被るというのは何だかとてもマヌケな気がする)

吸血娘(でも、仕方ないじゃん。わざわざ買いに行くなんてめんどいし、背に腹は代えられん。クソッ)



屍男(……相変わらず、こいつの扱いは単純で楽だな)



吸血娘「でもさ、お前これからもずっと、あいつに正体を隠すつもりなの?」モグモグ

吸血娘「私の見立てだと、絶対に他人に喋ったりしないタイプだと思うぞ、アレ。向こうは多少なりとも、お前を慕って――尊敬しているわけだし、そんなやつをずっと騙して罪悪感とかないの?」モグモグ



屍男「…………」

屍男「……これはお互いの為だ。表の人間が、そんな情報なぞ知らない方がいいに決まっている」

屍男「もし話す時が来るとしたら……それは、俺があいつの前から姿を消す日だろうな」



吸血娘「……あっそ」モグモグ
142 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/20(日) 22:57:04.00 ID:hprndwOko
今日はここまで
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/21(月) 05:07:37.74 ID:VG884zSbO
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/21(月) 12:56:45.38 ID:foYhOjKuo
ひきこもり中二ヘマトフィリア吸血病レズ娘に改名しようぜ!
145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/21(月) 13:10:13.17 ID:BfyHZW9yo
略して吸血娘
146 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/22(火) 23:21:53.83 ID:5BE/ETfGo
▢▢▢▢ 数日後 ▢▢▢▢



屍男(あれから、数日が過ぎたが、特に俺達の正体については言及されなくなった)

屍男(あいつも上手く演じているのだろう。まあ元はと言えば勝手にペラペラ話す方が悪い、同情の余地は全くないな)

屍男(……しかし少し気になることがある。あいつの“好物”の話だ。やつの好みの血は10代の女の血……長いこと輸血パックの血しか飲んでいない上に、今まで飲んできた大半は不健康な犯罪者の血)

屍男(禁酒中の中年に、キンキンに冷えたビールを差し出すようなものだ。僅かしか飲んでいないそうだが、中毒に近い症状が起こらないといいが……)



「ねぇ、おにーさん。探してる本があるんだけど」

「歴史系の本って、どこにあるか分かるかなァ?」



屍男「……あぁ、それなら――」クルッ
147 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/22(火) 23:23:16.54 ID:5BE/ETfGo
屍男「……」ピクッ



「ん?どうしたのかな?」



屍男「……いや、何でもない。歴史と地理はそこを左に曲がったコーナーだ」



「……おにーさん、不思議な“眼”をしているねェ」

「虚ろな色、中身が何にもない。でも意思は感じられる。本当に面白い……今すぐ食べちゃいたいくらい」



屍男「……どういう意味だ」



「フフッ、何だか、おにーさんとはまたどこかで会えそうだねェ。じゃあまた、教えてくれてありがと」フッ
148 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/22(火) 23:24:09.10 ID:5BE/ETfGo
スタスタ スタスタ



屍男「…………」

屍男(なんだ、あの少女は……姿を見た一瞬、嫌な気配を感じた。狩人に対面した時と似ていたが、それとはまた違う)

屍男(何か……もっと、こう、本能的に訴えかけてくるような)


ズキッ


屍男(……ッ。気になるな。少し追ってみるか)スッ





シーーーーン





屍男「…………」キョロキョロ

屍男「……いない?」
149 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/22(火) 23:24:59.33 ID:5BE/ETfGo
屍男(どういうことだ。確かに、ここの角を曲がったところまでは見た。だが……姿が見えない)



屍男(もう店を出たのか?いや、あり得ない。出入り口は一つだ。位置的に、店から出たのなら俺の視界に入るはずだ。それなのに……)



屍男「…………」



屍男(――――何者だ。あの少女は)
150 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/22(火) 23:26:01.68 ID:5BE/ETfGo
………………………………………………………
…………………………………………



屍男「……」スタスタ

後輩女「あ、センパイ。お疲れ様です」

屍男「……あぁ、お疲れ」

後輩女「……?どうかしました?何か変な顔してますけど」


屍男「……そんな顔してるか?」


後輩女「何だか、いつもより顔の影が濃いっていうか、考え事してますみたいな顔してましたよ。私じゃないと気付かないと思いますけど」

屍男「……今日、店で外国人の少女を見なかったか?白いワンピースのような服を着ていて、金髪の髪をしている」

後輩女「外国人の……女の子ですか?いえ、見てないですね。私今日ずっとレジやってましたし、何か買ったのならすぐ気づくと思いますけど」


屍男「……」


後輩女「その女の子がどうかしたんですか?」

屍男「……いや、見ていないのならいい。気にしないでくれ」
151 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/22(火) 23:26:51.99 ID:5BE/ETfGo
後輩女「?」

後輩女「あ、そうだ。こちらもちょっと先輩に相談があるんですけど……姪さんのことで」


屍男「……」ピクッ

屍男「……帰りながら、話を聞こう」





スタスタ スタスタ 





後輩女「実は今日……姪さんからメールが届きまして」

後輩女「何だか、私の血が気に入ったみたいで、また飲ませてほしいって言ってるんですけど……どうすればいいんですかね?」



屍男(……はぁ、やはりな)
152 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/22(火) 23:27:38.49 ID:5BE/ETfGo
後輩女「いや私個人としては、全然かまわないんですけど、一応センパイに話は通した方がいいのかなとか思って」

後輩女「100㎖10万円で買い取るって向こうは言ってるんですけど……どうすればいいんですかね、これ?」


屍男(……馬鹿が、そんな成金みたいな金の使い方をするな。どう見ても不自然だろうが)

屍男「……分かった。俺から話をしておく」


後輩女「……そうだ、私って姪さんとは携帯の番号交換しましたけど、センパイとはしてませんよね」

後輩女「はい、今交換しましょうか。これなら家にいても、すぐに連絡出来ますし」スッ


屍男「……」

屍男「……そうだな。そちらの方が効率はいいか」スッ
153 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/22(火) 23:28:28.02 ID:5BE/ETfGo
スタスタ スタスタ スタスタ



後輩女「……はいっ。これでOKですね!」


屍男「……」


後輩女「……?どうかしたんですか?センパイ、後ろに何かあります?」クルッ


屍男「……いや、何でもない」

屍男「すまないが、今日はここで別れる。これから少し用事があってな」


後輩女「あ、そうなんですか。じゃあまた明日!」ペコリ

後輩女「お疲れ様でしたー」フリフリ



屍男「……」
154 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/22(火) 23:29:14.67 ID:5BE/ETfGo
スタスタ スタスタ





後輩女「……」ギュッ





後輩女「……つ、ついに……センパイの番号をゲットしてしまった。自分でもびっくり、するくらい簡単に手に入ったな。姪さんには感謝しないと」


後輩女「これは……一歩前進ってことでいいんだよね?うん……よし!」ニヘヘ
155 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/22(火) 23:30:12.78 ID:5BE/ETfGo
スタスタ スタスタ スタスタ





屍男「……」





屍男「……」




屍男「……ここら辺でいいか」

屍男「おい、いい加減に姿を現せ。さっきから尾行しているのは気付いているぞ」





屍男「何者だ?お前は」
156 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/22(火) 23:31:15.59 ID:5BE/ETfGo
シーーーーン





屍男(……気配が消えた?どこに――)





フッ




屍男「!!!!!!!!!」サッ




ザシュッ!!!!!!!!!




屍男(刀ッ!?グッ、ギリギリ避けるのが間に合ったが、いつの間に背後にっ)
157 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/22(火) 23:33:19.21 ID:5BE/ETfGo
「あらん?中々やるじゃない。アタシの一太刀を避けるなんて」

「これまでで、アナタが初めてよ。大抵は反応出来ずに死んで行ったわ」




屍男「その刀……そうか。お前が……ここ最近、辻斬りをやっているとかいう頭のおかしい犯罪者か」

屍男(……あぁ、またこのパターンか。確かに、あの女の言う通り……俺は悪運が強いようだ)グッ




「ご名答、アナタ中々勘がいいのね。いいわ、ゾクゾクしちゃう」

「よく見たら、ハゲだけど顔も中々イケメンじゃない。決めたわ」



フッ……



怪物男「今日のオカズはアナタにしましょうかッ!」ニヤッ





屍男「……ッ!」
158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/22(火) 23:34:24.23 ID:BdFZK4pzo
男なのか…
159 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/01/22(火) 23:35:44.18 ID:5BE/ETfGo
今日はここまで
ってことでこれにて前半は終了です
後半から一気に話が進んで急展開になると思います
でもごめんなさい…これからちょっと一週間ぐらい更新出来なくなるので、それまで待ってもらえると嬉しいです
160 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/23(水) 05:54:22.46 ID:ZxUeyWbnO

待ってるぞ
161 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/02/15(金) 10:26:00.02 ID:I2eeJv+no
ダンッ!!!!!!




怪物男「ハァッッッ!!!!!!」ブンッ




屍男「っ……!」サッ

屍男(クッ……厄介だな、この刀は。リーチに差があり過ぎる。それに……嫌な気配を感じる。こいつ本体よりも、刀の方が危険かもしれん。そもそも、どこであんな代物を手に入れた)

屍男(……だが、こちらも手がないわけではない。あの女の懸念通りだったな。銃を持ち歩いて正解だった)チャキッ

屍男(弾数は6発、どれだけの効果があるのかは未知数だが、全弾を頭にぶち込めば致命傷は避けられないはずだ)

屍男(確実に当てるには……かなりの至近距離まで近付く必要があるな。防御も回避も不可能な状態に持ち込まなくては)


屍男(……それに、いざとなれば逃走という手段もある。前回の対狩人戦と比べれば勝機はある)
162 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/02/15(金) 10:27:09.40 ID:I2eeJv+no
怪物男「あら?この攻撃も避けちゃうわけ?」

怪物男「おかしいわね……人間の反応速度は優に超えているはずなんだけど。もしかして、アナタも剣道とかやってた?」



屍男(……こいつ、俺が同じ怪物だと気付いていないのか?これは好都合だな)

屍男(ただの人間と思われているならば……不意を突くチャンスがある)グッ



怪物男「まあいいわ。面白いじゃない。アタシも久しぶりに滾ってきちゃったわ」

怪物男「じゃあ……これならどうかしら?躱せる?」スッ



屍男(構えが変わった?一体、何を――)





シュンッ!!!!!!!!!!!
163 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/02/15(金) 10:28:41.66 ID:I2eeJv+no
屍男「!?」

屍男(なっ……速いっ!?これは間に合わな――)




ザンッ!!!!!!!!!




怪物男「……あらら、ごめんなさいね。ちょっと本気になり過ぎたわ」




ピシャッ




屍男「グゥッ……」ガクッ

屍男(な、何とか……身体を逸らし、致命傷は避けたが……肩をやられたか)

屍男(この傷、痛み、やはり……ただの刀ではない。通常の刃物と比べて再生のスピードが遅い)

屍男(もっとも、今急速な再生をするとこちらの正体に気付かれてしまう。これは逆に都合がいいと考えるべきか)
164 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/02/15(金) 10:30:20.14 ID:I2eeJv+no
屍男「……その刀、どこで手に入れた?」

屍男「この国で帯刀が許されていたのは、大昔の話だと聞いていたんだがな……」



怪物男「ん?コレ?あぁ……そうね。確かに、外人さんには珍しいわよね」

怪物男「これが話すと長くなるのよねェ……妖刀って言葉はご存知かしら?」




屍男「……」




怪物男「この刀は“曰く憑き”ってやつで、何でも戦国時代に1000人斬りを達成した武将が持っていたそうなのよ」

怪物男「その武将に斬り殺された侍の怨念ってやつがこの刀に宿っているらしいわ。まあこの話はある寺の住職に聞いた話だから、真相は分かんないだけどね」

怪物男「で、なんでこの刀をアタシが持っているのかっていうと……アタシ、その住職と付き合ってたのよ」

怪物男「いい男だったわァ……でも、突然その彼が別れ話を振ってきてね」

怪物男「妻にアタシ達の関係がバレそうになったから、今すぐ別れてって……勝手な人よね。自分からアタシに声をかけてきておいて」



屍男「……」
165 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/02/15(金) 10:32:17.46 ID:I2eeJv+no
怪物男「ここから先はまあよくある話よ。痴話喧嘩がこじれて、その住職をアタシが殺しちゃったの」

怪物男「今でも後悔してるわ……咄嗟に頭に血が昇っちゃって、包丁でめった刺し」

怪物男「さすがのアタシもヤバいと思ったわ。今更隠すなんてことは出来なかったし、刑務所に送られるのは確実……そんなの耐えられないわ」

怪物男「だってそうでしょ?アソコって化粧もオシャレも許されないのよ?正に生き地獄……だから、死ぬことにしたの。だって醜く老いるよりも綺麗なうちに死にたいでしょ?」

怪物男「どうせ死ぬなら男らしく、切腹でもしてやろうかと思ったわけ。この刀はその住職の寺に奉納されてたモノで、話は聞いていたし」ギラッ

怪物男「そしたらビックリ、目が覚めたら切腹したお腹の傷が治ってるわ、刀の声が聞こえるわ……あ、アタシが死人だってこと、言ってなかったっけ?」

怪物男「世の中には不思議なことがあるものね。日頃の行いが良かったせいかしら?」クスッ



屍男「……」

屍男(……聞いてもいないことをベラベラと、誰に向かって喋っているんだこいつは)
166 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/02/15(金) 10:33:33.75 ID:I2eeJv+no
屍男(だが、おかげで時間は稼げた。肩の傷は……問題ないな。動ける)グッ

屍男(……今がチャンスだ。やつの気がおしゃべりに夢中になっている隙に、仕留める)



怪物男「一番ビックリしたのが、何と言ってもこの肉体よね。一応、前も運動神経には自信はあったけど、それとは比べ物にならないほど上がっているのよ。石なんて発砲スチロールみたいに砕けるし、跳躍力も屋根を飛び越えるほどあるわ」

怪物男「それに……“ソッチ”のスタミナも驚くほど上がっているのよ。フフッ……五回も出しても全然萎えないのよぉ」テレッ

怪物男「まるで中学生に若返ったみたい……アナタ相手に何発出来るか、楽しみだわ……ん?」チラッ

怪物男「……あら?いない?」キョロキョロ




フッ……




屍男「ッッッッ!!!!!!」シュンッ



怪物男「!?」クルッ
167 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/02/15(金) 10:35:43.45 ID:I2eeJv+no
屍男(刀は鞘に収めている。どれだけ斬撃が速くとも、手に取るには0.5秒はかかる)

屍男(その間は無防備だ。武器さえなければ、身体能力は俺の方が上だと、先程の攻防で見抜いたぞ)チャキッ

屍男(弾丸の速度から計算して……この距離なら、やつが手を伸ばす前に着弾する)カチッ


屍男(……終わりだ)




バンバンバンバンバンバンッッッッ!!!!!!!!!!!!

シュンシュンシュンシュンシュン!!!!!!!!!!




屍男「……ッ!?」




怪物男「……ちょっとぉ、ビックリするじゃない。そんな急に来られたら」チャキッ

怪物男「その動き、それにもう動かせないはずの肩の傷が治っている……そういうことね。アタシと同じで……アナタも死者なの?」
168 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/02/15(金) 10:37:21.59 ID:I2eeJv+no
屍男(ど、どういうことだ……弾丸が……全て斬られた、だと?)

屍男(……不可能なはずだ。あの一瞬に刀を抜くなど……怪物の反射神経でもあり得ない)



怪物男「その銃も……今のはちょっと危なかったわ。もし、この“刀”がなかったら……また、死んでいたわね。ただの銃じゃないでしょ?それ」




屍男「……ッ」




怪物男「どうして防御が間に合ったのか、そんな顔をしているわね」

怪物男「さっき言ったでしょ?この刀はただの刀じゃない、妖刀だって」

怪物男「この子には意思があるのよ。今、動いたのはこの子の方……アタシは何もしてないわ。自動防御ってやつよ。アタシが何もしなくても、勝手に動いて防御してくれる」

怪物男「つまり、二対一の勝負ってことになるわね。ちょっと卑怯かもしれないけど、文句は言わないでよ?“男の子”なんだから」ニヤァ





屍男(……自我を持つ刀、か。あぁ……これは……)

屍男(……想像よりも、厄介だな)
169 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/02/15(金) 10:39:42.67 ID:I2eeJv+no
屍男(……どうする。奥の手である銃は全ての弾を使ってしまった)

屍男(こうなると、この肉体であいつに対抗するしかない。しかし……問題はあの刀だ)

屍男(下手に近付くと、細切れにされるのは確実。四肢を切断されるのもマズい。接合するだけでも完全に再生するには恐らく数分近くかかる)

屍男(しかし、こちらの攻撃手段は近接格闘しかない。あいつを葬るには俺と同じく、再生出来ないほど粉々にするか、脳髄を潰す以外に手段はない)

屍男(……これらの状況から考え得る、生き延びる手段は……)




怪物男「あら?もう撃ってこないの?」

怪物男「それとも、弾切れなのかしら?」




屍男(……戦略的撤退、か)ジリッ
170 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/02/15(金) 10:41:13.03 ID:I2eeJv+no
怪物男「あ、もしかして逃げようとか考えたりするの?」

怪物男「そんなのさせるわけないじゃない。アナタみたいな極上の獲物を逃がすなんて、そんなのアタシも、この子も絶対にないわよ」

怪物男「まあ万が一、逃がしちゃったりしたら……アナタを見つけ出して殺す前に、あの一緒にいたメスを殺すわ」

怪物男「アタシ、鼻がいいのよね。匂いを追跡して殺すのくらいわけないのよ?」フフン




屍男「……」

屍男(逃走も許されないか。仕方ない)



屍男「……」グッ



屍男(やるだけのことはやってやる)
171 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/02/15(金) 10:43:45.81 ID:I2eeJv+no
怪物男「あら!やる気になったのね!いいわぁ!面白くなってきたじゃない!」スッ

怪物男「さぁ……化け物同士、愛し合って……殺し合いマショウッッッ!!!!!!!」ダッ




ザンッ!!!!!!!!!




怪物男「アハハハハハハァ!!!!!ソレッ!!!!!ソレッ!!!!!!」シュンシュン



屍男「クッ……」バッ

屍男(攻撃する隙が無い……!細かい斬撃の嵐、避けるのが精一杯だ。いや、それでも完全に避けきれているわけではない。僅かにだが、着実に小さい傷は増えている。このままではっ……)

屍男(立て直さなくては……!)




ガッッッッ!!!!!!!!!

パララララララッ!!!!!!!!!




怪物男「っ!?」
172 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/02/15(金) 10:45:49.12 ID:I2eeJv+no
屍男(地面を蹴り、コンクリートの破片をぶつける。これで視界は遮られた。この隙に――)



ザシュザシュザシュ!!!!!!!!!



怪物男「アッハァ!!!!!!!」ブンッ



屍男(っ……!?破片を全て斬り伏せただとっ!?)



怪物男「お返しぃッッッ!!!!!!」ブンッ



ダダダダダダダダダッ!!!!!!



屍男「グッ……!!」バッ

屍男(俺と同じように、コンクリートを斬撃でっ……あいつのように、全て防ぐのは不可能だ。前が見え――)



ビシュッッッ!!!!!!



屍男「ッッッ!!!!」ズキッ



ダラッ
173 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/02/15(金) 10:46:46.90 ID:I2eeJv+no
怪物男「フフフ……どう?器用でしょ?」ギラッ

怪物男「“皮一枚”……ってやつよ」クスッ




屍男「……」ダラッ


屍男(……右腕を切断されたか。あいつの言う通り、皮一枚繋がっているが……使い物にならないな)グチャッ

屍男(……よし、接合は問題ない。切断面が綺麗で逆に助かった。感覚が戻るまでは多少時間が掛かるが……)


屍男(戦闘続行可能だ)グッ




怪物男「あら、凄いわねぇ……もうくっ付くの?その腕」

怪物男「どうやら、再生能力はかなりのモノを持ってるようね。いいわ、面白いじゃない」

怪物男「どこまで斬り刻んだら再生しなくなるのか……試してみましょうか」ニマァ




屍男(来るッ!)
174 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/02/15(金) 10:49:11.41 ID:I2eeJv+no
チャキッ

シュンッ



怪物男「ハァッ!!!!!!」



ビシュッ



屍男(くっ……!こいつ、わざと……!)


怪物男「これならどうッ!?」シュンシュン


屍男(急所をわざと外しているッ……まるでその気になれば、腕、脚をいつでも落とせると挑発しているかのように……!)

屍男(……ッ!今だ!)



ガシッ



怪物男「……っ」グッ



屍男(刃を掴んだッ!よし、これならやつに蹴りを――)


クルンッ

ザシュッ


屍男「ッ!?」バッ
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