屍男「おい、そこのロクでなし」吸血娘「なんだ髪なし」

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224 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/02/20(水) 01:13:33.55 ID:j2w3bDo4o
………………………………………………
………………………………



屍男「……」

屍男「……」



チュンチュン……チュンチュン……



屍男「……」チラッ

屍男「……もう朝か」


屍男「……」


屍男(あれだけ、あれだけ心に刻み込んだはずなのに。俺は……全てを忘れていた)

屍男(恐らく、記憶を失った原因は……あの時だ。あの戦いで、最後にあいつの父、噛み殺し公が放った光)

屍男(ヴァンパイアが使う記憶消去の力だ。しかし……)

屍男(俺は間違いなく、噛み殺し公には勝ったはずだ。帰路の途中までは覚えている。問題は……ここからの先の記憶が戻ってない)


屍男(……俺は、一体誰に殺されたんだ?)
225 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/02/20(水) 01:15:45.28 ID:j2w3bDo4o
…………………………………………………
………………………………



後輩女「お疲れさまでーす」


後輩女(……センパイ、今日は来なかったな。しかも、連絡も何もなかったみたいで、バイトをばっくれるなんて)

後輩女(私からメール送っても返事来ないし……しかも、姪さんの携帯にも繋がらない。これってもう……絶対に何かあったよね)

後輩女(……家、寄ってみよっかな)



スタスタ スタスタ



後輩女「……」ポチッ




ピンポーン

シーーーーン




後輩女「……」
226 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/02/20(水) 01:17:31.43 ID:j2w3bDo4o
後輩女「……いない。人の気配も感じないし、留守なのかな」

後輩女(……何があったんだろ。センパイ……)



スタスタ スタスタ



後輩女「……」


後輩女(なんだろ。何か分からないけど……胸騒ぎがする)

後輩女(もし、ここでセンパイと出会えなかったら、一生会えないような……そんな感じが)

後輩女(何か……どこか、行きそうな場所の手掛かりとかないかな。どこか……)

後輩女(……ダメだ。見当もつかないや。そういえば私って……センパイのことを何も知らないんだな。好物も趣味も、何も知らない)

後輩女(……こんなのでちょっと仲良くなった気になってたなんて、笑っちゃうよね)
227 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/02/20(水) 01:18:29.89 ID:j2w3bDo4o
スタスタ スタスタ



後輩女(そういえば、この坂を下りる道の途中に……公園があったっけ)

後輩女(……まあ、いないと思うけど。一応覗いてみよっかな)スッ






屍男「……」






後輩女「……」



後輩女(い、いたーーー!!!!)
228 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/02/20(水) 01:19:29.93 ID:j2w3bDo4o
後輩女「セ、センパイ!!!!」



屍男「……」チラッ

屍男「あぁ……お前か。どうした」



後輩女「ど、どうしたじゃないですよ!センパイの方こそどうしたんですか?バイトはバックレるわ、連絡は繋がらないわ……心配したんですから!」



屍男「……そうか。すまなかったな」



後輩女「何かあったんですか?こんな夜中の公園で佇んで……まさか、今日ずっと家に帰ってないんですか?」



屍男「……」



後輩女「マ、マジですか……姪さんと喧嘩でもしたんですか?」



屍男「……そんなところだ」
229 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/02/20(水) 01:20:56.48 ID:j2w3bDo4o
後輩女「やけに格好がボロボロですけど……それも喧嘩ですか?」



屍男「……あぁ」



後輩女「……」

後輩女「もしかして、今日は泊まるところなかったりします?」



屍男「……そうだな」



後輩女「……私の家に来ますか?」



屍男「……遠慮しておく」



後輩女「いや、さすがにこのままだと見逃せませんよ。最近冷えてきましたし、風邪ひきますよ?それに……」

後輩女「……センパイ、失礼ですけど、だいぶ臭います。お風呂入った方がいいです」



屍男「……」クンクン

屍男「……」
230 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/02/20(水) 01:21:46.20 ID:j2w3bDo4o
ガチャ


後輩女「はい。狭いですけど、どうぞ」

後輩女「シャワーはそっちの左の部屋にあるので、さっさと入っちゃってください。着替えはこっちで用意しておくんで」



屍男「……すまないな」スッ




シャワアアアアアアアアアアアアアア……




後輩女「……何があったんだろ。家にも帰れないほどの喧嘩って……しかも、その家にも姪さんはいなかったし」

後輩女「……まあいっか。あんまり人の家の事情に首を突っ込むのはよくないよね」
231 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/02/20(水) 01:22:39.26 ID:j2w3bDo4o
後輩女「センパイ。服洗濯しておくんで、着替えの服、ここに置いときますねー」

後輩女「お兄……兄が泊まりに来た時に忘れていった物なので、サイズがちょっと合わないかもしれないですけど」




『……あぁ、助かる』




後輩女(……この服、何かところどころ破れてるな)

後輩女(いや、破れてるってより……切られてる?)
232 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/02/20(水) 01:23:37.40 ID:j2w3bDo4o
シャワアアアアアアアアアアアアアア……



屍男「……」

屍男「……」スッ

屍男「……まさか、あれほど忌み嫌っていた異形に自分が成り果てるとはな。皮肉なものだ」

屍男「俺は……これからどうする?」




ガチャ

スタスタ スタスタ



屍男「……すまないな。世話になった」


後輩女「いいですよー別に。今、晩ご飯作ってるところなので、良かったら食べて行ってください」

後輩女「センパイって、どのくらい食べられますか?男の人ですし、多めに作ってるんですけど」


屍男「……まあ、結構食べる方なんじゃないか」
233 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/02/20(水) 01:25:14.70 ID:j2w3bDo4o
モグモグ モグモグ




後輩女「」ポカーン




屍男「」モグモグムシャムシャバクバク


屍男「」ゴクゴク


屍男「……何か付いているか?」



後輩女「あっ、ごめんなさい。予想の3倍くらい食べるんで、ちょっと見惚れてました……」



屍男「……すまない。少し自重する」



後輩女「い、いえ!全然大丈夫ですよ!あ、おかわり持ってきますね!」ダッ



屍男「……」グッ


屍男(……だいぶ、肉付きが戻ってきたな。あの“飢餓”の形態は消費が激しい。使った後、即座にエネルギーを摂取しなければ、また数日寝込むことになるということか)

屍男(……“一人”では足りない程のエネルギーか)
234 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/02/20(水) 01:26:06.41 ID:j2w3bDo4o
後輩女「そういえばセンパイ聞きました?この近くで、トラックの炎上事件があったらしいですよ」


屍男「……」ピクッ

屍男「……いや、知らないな」


後輩女「幸い、怪我人はいなかったみたいですけど。その周辺でも何者かが争ったみたいな形跡があったみたいで、噂になってるんですよ」

後輩女「怖いですよねぇ……ちょっと前にも通り魔とかありましたし」


屍男「……」






後輩女「じゃあ、私はこっちのソファで寝るんで、センパイは私のベッド使ってください」

屍男「……いや、それはさすがに悪い。俺がソファでいい」
235 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/02/20(水) 01:26:57.59 ID:j2w3bDo4o
後輩女「ダメですよ。お客様なんですし、センパイずっとあそこの公園にいたんでしょ?ちゃんとした場所で寝ないと」

屍男「……俺は狭いところの方が落ち着いて寝られるんだ。こっちの方が都合がいい」

後輩女「え?そうなんですか?」

屍男「あぁ、だからソファにしてくれ」

後輩女「そこまで言うなら……分かりました。じゃあおやすみなさい。ゆっくりしてくださいね」カチッ




スタスタ スタスタ




屍男「……」ゴロン






後輩女「よいしょっと」ゴロン

後輩女「……」
236 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/02/20(水) 01:27:47.10 ID:j2w3bDo4o
後輩女(な、流れではあるけど……ま、まさか……センパイを家に泊めることになるとは)


後輩女「〜〜〜〜〜!!!!!」バタバタ


後輩女(ど、どうしよう!どうしよう!な、何か……!この一晩で過ちが起きてしまったら……!迫られてしまったら……!!)



後輩女「……」



後輩女(なーんて、センパイがそんなことするわけないか。その辺の男ならともかく、絶対そんなことしないし)

後輩女(はぁ、アホな妄想してないで寝よ……おやすみなさい)



後輩女「…………Zzz」
237 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/02/20(水) 01:28:58.85 ID:j2w3bDo4o
………………………………………………………
………………………………………



屍男「……」



屍男(……やはり、眠れないな)スクッ

屍男(どうしても、思い出してしまう。今までの反動で……走馬燈のように、これまでの人生が)

屍男(……だが、違和感がある。死の瞬間の他にも、まだいくつか戻っていない記憶がある)

屍男(それも、何かに関連付けられた記憶が……これは一体なんだ?)




ピピッ




屍男「メール?一体誰から――」

屍男「……っ」
238 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/02/20(水) 01:29:47.99 ID:j2w3bDo4o






『7日後、下記の画像の場所に一人で来い。お前に一対一の決闘を申し込む。手加減なんかしやがったら死んでも許さない』






屍男「……そうか、決心したか。それでいいい」

屍男「……ならば、俺も応えてやる。全力でな」スッ



239 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/02/20(水) 01:32:06.35 ID:j2w3bDo4o
………………………………………………………………
……………………………………………


後輩女「う、うへへへ……こ、こんなところで……だめですよ……しぇんぱい……」ゴロンッ

後輩女「…………ん」パチッ


後輩女「ふわぁ……あーよく寝た」


後輩女「そうだ、今日はセンパイが泊まってるんだった。急いで朝ご飯の支度しないと」スッ




スタスタ スタスタ




後輩女「……あれ?」




シーーーーン





後輩女「センパイが……いない?」
240 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/02/20(水) 01:33:30.79 ID:j2w3bDo4o
後輩女「トイレ……ではないよね。明かり付いてなかったし」キョロキョロ

後輩女「……ん?これって、手紙?」スッ




『すまない。突然だが用事が出来た。このような形で悪いが、別れを告げさせてもらう』

『悪いが、服はそのまま貰って行く。これは少ないが、代金だと思って受け取ってくれ』

『店の方にバイトは辞めると伝えてくれ。恐らく、もう二度と戻ることはないと思う』

『最後に、色々迷惑をかけてすまなかったな。礼を言う』




後輩女「!?」
241 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/02/20(水) 01:34:33.34 ID:j2w3bDo4o
後輩女「え……バイト辞めるって、それに二度と会えない……?」

後輩女「……っ!!!!」ダッ




ガチャ

タッタッタ タッタッタ




後輩女「……!」キョロキョロ


後輩女「い、いない……そんな……」


後輩女「セ、センパイ…………」
242 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/02/20(水) 01:35:33.92 ID:j2w3bDo4o
今日はここまで
243 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/20(水) 15:20:07.98 ID:SM1Pn+Coo
244 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/20(水) 18:53:10.73 ID:lZQmWZ5TO

さてどうなる…
245 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/22(金) 21:34:16.92 ID:qduBhYgQO

面白くなってきた
246 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/02/23(土) 23:05:25.43 ID:X+BncJ+vo
………………………………………………
…………………………………



プルルルルルル……

ピッ



魔女「はいもしもし?珍しいわね。ゾンビくんがこっちに電話かけてくるなんて」

魔女「何かあったの?」



『……一から話すのも面倒だ。単刀直入に言うぞ』

『今から送るリストにある品物を揃えてほしい。お前なら簡単に入手出来るはずだ』



ピピッ



魔女「え?リストって……これかしら?」カチッ

魔女「……っ」



『察したか?』
247 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/02/23(土) 23:06:17.59 ID:X+BncJ+vo
魔女「……えぇ。そうね、まあ……何となくは状況を理解したわ」

魔女「ってことは……戻ったのね。記憶が」



『理解が早いな。お前なら……何となくは気付いていたんじゃないか』



魔女「まさか、そこまで私もエスパーじゃないわよ」

魔女「でも……可能性の一つとしては……考えていたわ。だって、まるで入れ替わるように現れたもの。あの子の父親の生まれ変わりみたいに」

魔女「まあ現実はそこまで綺麗なものではなかったみたいだけどね。その逆、血が血を呼ぶ因果の連鎖……嫌になっちゃうわ、もう」



『…………』
248 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/02/23(土) 23:07:09.01 ID:X+BncJ+vo
魔女「これ、誰が言い出したの?」



『……提案したのはあいつだ』



魔女「……そう、ドラキュラちゃんも……つらいでしょうに、強いわね。あの子は……」

魔女「ゾンビくん、一つ聞かせて?アナタは……ドラキュラちゃんを殺す気なの?」



『……それを決めるのは俺ではない。あいつ自身の力だ』

『手を抜くなと言われているからな。なら俺も……死力を尽くす。全力で戦う』



魔女「……」

魔女「分かったわ。道具は揃えてあげる。期限はいつまで?」
249 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/02/23(土) 23:09:01.11 ID:X+BncJ+vo
『あと5日だ』



魔女「5日か……いいわ。私が直接届けに行ってあげる。でもゾンビくん、一つ条件があるわ」



『……条件?』



魔女「いくら私でも無償でこれらの道具を揃えてあげるのほどお人好しじゃないわよ。これはビジネス、相応の対価を支払ってもらわないと」

魔女「そうね、金額にすると大体……」



『生憎、今は持ち合わせがない。だが、金より価値のあるものをやる』



魔女「……何かしら?それって」



『情報だ。俺がこれまで狩ってきた標的に関する情報を誰でもいい、三人までの詳細を教えてやる』

『その種族、特徴、弱点、親戚に至るまで全てを』



魔女「……!」
250 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/02/23(土) 23:10:03.87 ID:X+BncJ+vo
『お前ならこの情報がどれだけの価値があるか分かるはずだが、どうだ』



魔女「……いいわ。取引成立よ」



『では知りたいやつの名前のリストを送ってこい。届き次第こちらから送る』



魔女「いいの?商品との交換じゃなくて、私がその情報を持ち逃げするかもしれないのに」



『俺とお前の仲だ。そこは信頼している。それに』

『……俺を敵に回すほど。お前も愚かではないだろう』



魔女「……」

魔女「……さすが、伝説の狩人って言われることだけあるわね」
251 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/02/23(土) 23:11:01.18 ID:X+BncJ+vo
魔女「了解、じゃあ私は急いでかき集めてくるからこれで。詳細はまた後で連絡するわね」



『……あぁ、待っている』



プツッ

ツーツーツー



魔女「……ふう」

魔女「……はぁ、まさか……こんなことになるなんて」

魔女「運命ってほんと、痛い程残酷。まあそれは私が一番よく知ってるか……あの占いも外れてほしかったんだけど」
252 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/02/23(土) 23:12:36.58 ID:X+BncJ+vo
魔女「さて、これから忙しくなるわね。ゾンビくんから送られてきたこのリスト……」チラッ

魔女「……私でも、半分くらいしか用途が分からない。でも、これが……完全なヴァンパイア殺しの布陣、恐らく噛み殺し公を狩った時と同じ装備」

魔女「……ドラキュラちゃんが勝てる確率は相当低いわね。いえ、このままだとまず間違いなく負ける」

魔女「……それでも、復讐の道を選ぶのね。あの子は」



プルルルルルル……



魔女「あら?また電話?」

魔女「ん?この番号って……」
253 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/02/23(土) 23:14:31.27 ID:X+BncJ+vo
…………………………………………………………………..
…………………………………………..



吸血娘「……」

吸血娘(……時間か)




スタスタ スタスタ




屍男「……」スッ




吸血娘「来たか」スッ

吸血娘(……全身黒ずくめ、顔もガスマスクみたいなのを被って判別できないけど、間違いなくあのハゲだ)

吸血娘(それがお前の正装ってやつかよ。全く……文字通りの影みたいなインキャ野郎だ)




屍男「……」




吸血娘(本来のあいつ自身はそんなに強いってわけじゃない。再生力と怪力が厄介ってだけで、能力としては私の方が上だ)
254 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/02/23(土) 23:16:10.18 ID:X+BncJ+vo
吸血娘(でも、狩人にとっての一番の武器は知識と経験……つまり、今まであいつは牙どころか、四肢をもがれた状態と言ってもいい。最強の狩人である『Shadow』の弱点は人間だったこと)

吸血娘(人間なら……少なくとも、その首をかっ切れば死ぬんだからな。でも、今のあいつは……死すらも超越した怪物、正真正銘の不老不死の化け物だ)

吸血娘(……ふっ、あぁ、でもあいつもハゲだけは克服できなかったか。不老不死じゃなくて不毛不死だったな)


吸血娘(……私も、克服する。あいつも、父も……自分すらも乗り越えないと、絶対に勝てない)


吸血娘(大丈夫、勝機はある。針に糸を通すような僅かなものだけど、決して圧倒的に不利ってわけじゃない)

吸血娘(……あいつとこうやって対峙するのはいつ以来だったかな。確か……そうだ、あの夜、狩人を逃がした日以来か)

吸血娘(あの時は時間切れってことで、勝負はつかなかったけど……今日はそうじゃない)


吸血娘(……決着をつけてやる。この運命に)
255 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/02/23(土) 23:18:02.77 ID:X+BncJ+vo
吸血娘「……」




屍男「……」







魔女「……」ヒョコッ

魔女「あの二人を巡り合わせたのは私だもんね。盗み見するようで悪いけど、見届けなくちゃ」


魔女(この時間帯、そして町はずれにある廃墟、ここなら誰にも邪魔されることなく、思う存分にやれるわね)

魔女(本来なら、ドラキュラちゃんが圧倒的に不利。そりゃそうか。体格、筋肉、経験、知識、技術、全てにおいてドラキュラちゃんは劣っている。唯一負けてないものは……覚悟ってやつくらいか)

魔女(……この戦いで間違いなく、勝者と敗者が決定する。生き残るのはどちらなのか)

魔女(……その果てに何があるんでしょうね)
256 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/02/23(土) 23:19:05.17 ID:X+BncJ+vo
吸血娘「……」グッ




屍男「……」スッ






魔女(……始まるわね)

魔女(合図なんていらない。お互いの呼吸が重なった時が、始まりのサイン)






ヒュゥゥゥゥゥゥ……





ウゥゥゥウゥゥゥゥ……





ゥゥゥ……
257 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/02/23(土) 23:20:13.09 ID:X+BncJ+vo
吸血娘「……」






屍男「……」








吸血娘「ッッッッッ!!!!!!!!!!」ダッ








屍男「ッッッッッ!!!!!!!!!!」ダッ
258 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/02/23(土) 23:21:12.93 ID:X+BncJ+vo
今日はここまで
これが最終決戦です
259 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/24(日) 11:40:56.51 ID:Gd0ILXIwO
260 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/24(日) 11:46:16.94 ID:YKifwQusO

ハッピーエンドになるかな…
261 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/25(月) 00:34:09.71 ID:CmPdxaQcO
熱い展開過ぎて俺によし!
おつおつ
262 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/03/10(日) 04:54:21.88 ID:0Mn9300fo
更新が空いてしまってごめんなさい
現在PCの調子がおかしくなってしまって復旧中です…少し時間がかかりそうです
あともうちょっとで完結なのですが終わった後に大事なお知らせをさせてもらいます
263 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/10(日) 08:51:21.16 ID:rTVq2CYNO
待ってるぞ
264 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/10(日) 23:34:11.72 ID:wYgAXrbro
アニメ化かな?
265 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/03/22(金) 18:46:11.88 ID:YaGPf5cZo
スゥゥゥゥゥゥッ!!!!!



吸血娘「……!!!!!」スッ



吸血娘(あいつには私の弱点が既にバレている。『銀』これが私の一族の弱点、銀で攻撃された傷は治らない)

吸血娘(他の武器でのダメージは肉体を一度霧化して、再構築し直せば元に戻る。ヴァンパイアってのは生身をバラバラにしても、欠片さえ残っていれば数十秒は意識がある)

吸血娘(その間に霧化すれば、与えられたダメージは全て回復する。これが不死身と言われている所以だ)

吸血娘(でも、これはあくまで通常の攻撃での話。銀で傷付けられると、この方法でも癒えることはない。人間のように時間をかけて自然回復はするけど)

吸血娘(つまり、もし生身の状態で銀で出来た武器に致命傷を与えられたら……待ち受けるのは死だ。これがヴァンパイアを殺す唯一の方法)
266 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/03/22(金) 18:48:12.31 ID:YaGPf5cZo
吸血娘(……でも、対策は出来る。簡単な話だ。霧の姿なら物理的にダメージを与えることは出来ない)

吸血娘(だからこうやって……ギリギリ刃を通さない、固体と気体の中間になるように調整すれば、銀によって死ぬことはない)

吸血娘(まあ、こんなのは向こうもとっくにご存知のはずだ。そもそもこのスタイルはヴァンパイアの基本戦術なんだからな。現にパパはあいつに殺されている)

吸血娘(つまり、この形態でもあいつは何らかの手段を用いて、攻撃を通せるということだ)

吸血娘(……常に銃口を向けられていることを意識しろ、か。まさにその通りだな)



吸血娘「ハァッ!!!!!」ブンッ



吸血娘(あのガスマスクみたいなのは間違いなく私への対策の一つだ。あのままだと霧を体内に送り込んで、破裂させる手は使えない)

吸血娘(まずはあれをぶっ壊す……!!!!)
267 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/03/22(金) 18:49:22.93 ID:YaGPf5cZo





魔女「……いきなり近距離戦ね」

魔女「確かに、あのゾンビくんの格好はドラキュラちゃんの霧と眷属を対策したもの。まずはあれをどうにかしないと決め手に欠ける」


魔女「でも、ちょっとまずいわね」


魔女「あの距離は……ゾンビくんの最も得意とする射程だもの」




268 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/03/22(金) 18:50:24.34 ID:YaGPf5cZo
屍男「……」スッ



吸血娘(っ!!あいつの攻撃が来る!!!!)



屍男「……」チャキッ



吸血娘(……なんだ?あれは……拳銃、じゃない。玩具の……水鉄砲?)



ビシュッ



吸血娘「――!?」ゾクッ

吸血娘(あ、あれはっ……ま、まずい!!!!!!)サッ



ビシャ!!!!!
269 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/03/22(金) 18:51:46.89 ID:YaGPf5cZo
吸血娘(な、なんだあの水鉄砲……何も変哲もない、ただの水鉄砲のはずなのに……は、反射的に身体が動いた)

吸血娘(ほ、本能的に悟った。あれは……当たるとまずい。今の霧の姿でも……通用する)

吸血娘(……ッ!ならこれでどうだ!!!!)



スゥゥゥゥゥゥッ!!!!!





屍男「……」キョロキョロ





魔女「……完全に霧の姿になったわね。ここからだとゾンビくんの姿が視認できないほどの濃霧が発生してる」

魔女「……さて、ゾンビくんはどうするのかしら」
270 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/03/22(金) 18:53:44.13 ID:YaGPf5cZo
スゥゥゥゥゥゥ……





屍男「……」ピクッ




シュゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!!




屍男「……」ググッ




吸血娘(霧と一体になった私ならば、どんな攻撃も通用しない)

吸血娘(それに全ての角度、360°からの攻撃が可能、こうやって、周辺の濃度をコントロールすれば……全身を締め上げることも出来る)

吸血娘(どうだ……!!この状況をどうにかできるならやってみろ……!!!!)




屍男「……フッ」ググッ
271 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/03/22(金) 18:54:50.08 ID:YaGPf5cZo
屍男「……ずっと、待っていた。お前が完全に霧の姿になるのを」

屍男「中途半端な状態では、完全にこれを吸収出来ないだろうからな。気付かなかったのか?追い詰められているのは……お前の方だ」




パリンッ

シュゥゥゥゥゥゥゥゥ……




吸血娘(……なんだ?何かが割れた音?それに、追い詰められているのは私の方だと?)

吸血娘(一体、どういう――)





ドクン!!!!!!!!!
272 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/03/22(金) 18:56:55.98 ID:YaGPf5cZo
吸血娘(!?)ビクッ

吸血娘(なっ……な、なんだ!?これ!?)

吸血娘(く、苦しいっ……霧の姿なのに、まるで全身が縛り付けられているような感覚だッ!!)



シュゥゥゥゥゥゥゥ…………



吸血娘(っ……!?)

吸血娘(ど、どうなってる!?私の肉体が……元に戻りつつある)

吸血娘(なっ……こ、このままだと……!解除され……!!)



シュンッ



吸血娘「はぁっ……はぁっ……」スゥ

吸血娘「なっ……なんだと」キョロキョロ

吸血娘「も、戻った……?」
273 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/03/22(金) 18:57:52.99 ID:YaGPf5cZo
屍男「……」



吸血娘「お、お前……!一体何をした!?」



屍男「……簡単な話だ。お前の霧化の能力は自身を細胞レベルまで分解し、それを拡散することで起きる現象だ」

屍男「一見、無敵のように見えるがそうではない。攻撃面では優れているが、防御に至っては無防備もいいところだ。所詮は当たらないようにしているにしか過ぎない」



吸血娘「……ッ!」グッ

吸血娘「!?」ハッ


吸血娘(ど、どうなってる……霧になれない!?)
274 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/03/22(金) 19:01:13.70 ID:YaGPf5cZo
屍男「今、俺が散布したものは対ヴァンパイア用のガス兵器だ」



吸血娘「ガス……兵器だと?」



屍男「霧の姿ではこれを防ぐ術はない。同じ領域の攻撃なのだからな、回避も防御も不可能だ」

屍男「これに霧状になったヴァンパイアの細胞が接触すると、拒否反応が出る)

屍男「もっとも、このガス自体は致死性の猛毒でも、強力な神経ガスでもない。そんなもので殺せたら苦労はしないからな。起爆装置のようなものだ」



吸血娘「き、起爆装置だと……」



屍男「このガスの効果は二つある。一つはヴァンパイアの細胞に有毒と錯覚させる、ということにある」

屍男「錯覚した細胞は自己を防衛しようと毒を分解しようとする。しかし、霧のままでは不可能だ。一度元の姿に戻らなければ免疫は働かない」

屍男「これにより、霧が自動的に解除される。そしてここでもう一つの効果が発生する」
275 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/03/22(金) 19:03:18.86 ID:YaGPf5cZo
屍男「細胞の一つ一つに接触したガスは細胞内で一種の凝固剤のように固まる。再び霧に戻れないようにな」



吸血娘「……!?」



屍男「これでお前はもう霧化の能力を使えない。少なくともこの戦闘の間は」



吸血娘(クッ……な、なんてものを用意してやがったんだ。きっとパパも……このガスにやられたんだ)


吸血娘(……ッ!)スゥゥ


吸血娘(全身は霧化出来ないけど、一部なら……可能だ。ガスの効きが悪かったのかどうか知らんけど、不幸中の幸いだな)

吸血娘(でも……どうする。私の最大の武器が封じられた。まさか……こんな兵器を使ってくるなんて、思いもしなかった)ギリッ

吸血娘(腐っても、伝説の狩人の名は伊達じゃないってことか)
276 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/03/22(金) 19:07:33.55 ID:YaGPf5cZo
屍男「……貴様はまだ、自分の立場が理解出来ていないようだな」



吸血娘「……は?なんだと?」



屍男「その目はまだ勝機があると信じている目だ。自分の立場も客観的に評価出来ていない愚か者が」

屍男「同格以上の相手と戦った経験はあるか?自分を最強であると信じ込み、ピラミッドの頂点だと勘違いし続けた結果が今のお前だ。世界の真理を知らん、甘っちょろいガキだ」

屍男「教えてやる。今使ったこのガス兵器は俺が開発したわけではない。数世紀も前に産み出されたものだ」

屍男「俺はただ、その残された文献を探し出し、再現しただけだ。ヴァンパイアは不老不死の生物でも何でもない、対抗策は遥か昔からいくつも存在する」



吸血娘「……!?」
277 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/03/22(金) 19:10:11.60 ID:YaGPf5cZo
屍男「なぜヴァンパイアの数はこの21世紀にここまで減ったと思う?なぜ世界でこれだけの人類が繁栄していると思う?なぜお前達人為らざる者はその身を影に潜めている?」

屍男「世界の支配者はヴァンパイアでも、他の何者ない。ヒトだ、人類こそが、この星の頂点に立つ存在だ」

屍男「お前達は淘汰された存在なんだよ。ヒトに敗れ去り、歴史から葬り去られた哀れな種、それがヴァンパイアの正体だ」



吸血娘「……っ」



屍男「人外も怪物も幽霊も、全てはヒトの力に比べたら矮小なものだ。そして、その人の身すらも捨て、怪物に成り果てた俺にすらも……貴様は及ばない」

屍男「いつまで自分が上だと思い込んでいる?少しはそのくだらん自尊心を捨てろ。まともな勝負にしたいのならな」



吸血娘「……ぐっ」ギュッ
278 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/03/22(金) 19:10:48.99 ID:YaGPf5cZo
今日はここまで
やっと復帰出来ました
279 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/22(金) 21:40:20.25 ID:6QYeR/oNO

本気出させるためにわざと煽ってる?
280 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/22(金) 23:37:47.85 ID:XmkdBCEDO
おつです
関連作も読ませて頂きました
最終的にどうなるのか…
281 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/23(土) 23:06:27.31 ID:s1BgEncpO

吸血娘は死んでほしくないわ
282 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/25(月) 02:09:28.68 ID:110AKMkAo
死にたがってるのかハゲは?毛根は死んでるのに
おつ
283 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/03/25(月) 18:31:56.97 ID:iO32Lokmo
吸血娘「え、偉そうなこと言いやがって……てめえだって上から目線だろうが!!!!何様のつもりだ!!!!」



屍男「いいや、違うな。俺はお前と同じ目線で話している。その上で確信している」

屍男「お前は“下”だ。俺には勝てない。これは誰の目から見ても明らかな事実だ」



吸血娘「……っ!」



屍男「さて、次はどうする?俺はお前の出す手を全て読んでいる」

屍男「一つずつ……確実に潰し、詰みにしてやる」スッ



ポイッ

シュウウウウウウウウ……
284 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/03/25(月) 18:32:50.90 ID:iO32Lokmo
吸血娘「ッッ!!!!」バッ


吸血娘(これは……煙幕か!?)

吸血娘(視覚を封じに来たか……!不味いな、全身を霧化出来ないとなると、接近戦では圧倒的に私が不利だ。あいつの攻撃を全部躱さないと)

吸血娘(……四の五の言っていられないな。こっちも……使える手は全て使う!)




フッ




屍男「ッッッ!!!!!!」ブンッ


吸血娘「!?」サッ
285 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/03/25(月) 18:34:05.37 ID:iO32Lokmo
ギラッ



吸血娘(ぎ、銀のナイフ……!)

吸血娘(……ッ!ナイフの射程なら、私の霧化の方が速いっ……!)



スゥ



屍男「……」



吸血娘(よし……!右腹を刺しに来たが、上手くすり抜けた!)

吸血娘(このままあいつの喉笛に喰らい付くッッッ!!!!ヴァンパイアは秒速で3リットルの血を吸収することが出来る。常人なら数秒で全身から血を抜いて、干物にすることが可能ッッッ!!!!)

吸血娘(一秒でもいい……あいつから血を吸えれば、勝機が見えてくる!いくらあいつでも一気にこれだけの血を失えば弱体化するはず――)



ガシッ



吸血娘「――!?」ググッ
286 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/03/25(月) 18:35:00.57 ID:iO32Lokmo
屍男「全て読んでいると言っただろう。霧化を封じられたお前が接近戦で取る行動は一つ、俺から血を抜くことだ」

屍男「来ると分かっている攻撃なら、警戒も何も必要ない。ただこうやって待っているだけで寄ってくるのだからな」グッ


ギュウウウウウウウ……


吸血娘(や、やばっ……の、喉を、首ごと引き千切られる!!!!今すぐ霧化しないと!!!!)スゥ


屍男「そして、追い詰められたお前が取る行動は一つだ」グッ



ドゴォ!!!!!!!!



吸血娘「ガハッッッ!?」ボゴォ

吸血娘(く、首の霧化と同時に……腹を殴って……)
287 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/03/25(月) 18:35:55.20 ID:iO32Lokmo
吸血娘「ぐあっ……」ヨロッ



屍男「……終わりだ」ギラッ



シュッ



吸血娘「ッッ!?」



シュンッ

グサッ



屍男「……!」

屍男(……消えた?)
288 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/03/25(月) 18:37:02.51 ID:iO32Lokmo
クルッ



吸血娘「ガァッッッ!!!!!!!」ガブッ

屍男「ッ!?」ビクッ


ギュインッ……ギュインッ……


屍男(な……いつ背後に回られた?くっ、不味いな)

屍男「ッッッ!!!!」ブンッ



吸血娘「っ!!!!」サッ



ザッ



吸血娘「ハァッ……ハァッ……けっ、相変わらずクソまじぃ血してんなぁ!!!!ハゲェ!!!!!」ペッ
289 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/03/25(月) 18:38:34.55 ID:iO32Lokmo
屍男「……」ギュッ


シュゥゥゥ


屍男(……傷口は問題なく再生する。だが、あの一瞬でかなりの血を持っていかれたな)

屍男(確かに捉えたはずだ。だがナイフは当たらなかった)

屍男(この能力は……幻覚か。煙幕でこちらの視界も悪かったのを利用されたな)





吸血娘(くっ、完全に死角から襲ったのにコンマ数秒で反撃してきやがった……どんな反射神経してんだよこいつ……)

吸血娘(でも……やった。確実に、一矢報いてやったぞ!!!!)
290 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/03/25(月) 18:39:42.22 ID:iO32Lokmo
吸血娘(ハゲから吸った血は大体2リットル前後ってところか。あいつの体重から計算すると……三分の一に届くか届かないかってライン。並みの人間なら十分致死量に近い数値だけど)

吸血娘(……あのハゲがこんな簡単にくたばるわけないか。でも、間違いなく動きに影響は出るはずだ)

吸血娘(それに、次へ繋ぐことも出来た。あいつに噛み付いた時に与えた傷……あそこからなら眷属の攻撃も通せる!)







魔女「……見えないわね」ジー

魔女「ゾンビくんがスモークを使ったところまでは確認したけど、そこからは煙が濃くて何が起こっているのかさっぱり」

魔女「……もしかして、もう決着がついちゃったりしてないでしょうね」


魔女「……」


魔女「もうちょっと、近付いてみましょうか」ヒョコッ
291 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/03/25(月) 18:41:44.44 ID:iO32Lokmo
プーーーーーーン



吸血娘(……連れて来た眷属は50匹。これが私の操れる上限いっぱい)

吸血娘(見た目は普通の蚊と変わらないけど、薬剤耐性を持っている。生半可な蚊取り線香や虫よけスプレーなんかでは対策不可能)

吸血娘(それに、私の眷属は従来の蚊よりサイズが一回り小さい。この煙の中では視界に捉えて潰すのなんて至難の業。自分の仕掛けた罠が仇になったな)

吸血娘(勿論、モスちゃん達には私の血が入っている。ヴァンパイアの血は他の種族にとっては猛毒、これは怪物も例外じゃない……行ける)



吸血娘(よし!!一斉攻撃だ!!!!かかれ!!!!)




プーーーーーーン
292 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/03/25(月) 18:42:47.54 ID:iO32Lokmo
屍男「……」


屍男(次の手は十中八九、眷属の蚊を使った攻撃だろうな)

屍男(……仕方ない。予定にはなかったが、これを使うしかないか)

屍男(羽音が聞こえた時が合図だ)




シーーーーン




屍男「……」

屍男(そろそろか……)スッ




プーーーーーーン




屍男「ッ!!!!」カチッ


バッ
293 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/03/25(月) 18:44:22.79 ID:iO32Lokmo




ボォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!

ズドォォォォォォォン!!!!!!!!!!!




吸血娘「!?」

吸血娘「な、なんだ……今の音は……!!」キョロキョロ


吸血娘「ッ!?あつっ!?」ジュッ


吸血娘(はぁ!?これって地面が……燃えてる?いや、違う……辺り一面全部だ……ここら一帯が全部火に包まれてる!?)キョロキョロ

吸血娘(ま、まずい!!!!今すぐ離れないと!!!!!)ダッ




ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!





魔女「う、うそぉ……」

魔女「な、何これ……何が起こってるの?」

魔女「さっきまでゾンビくんとドラキュラちゃんが戦っていた場所が……山火事みたいに燃えてる……」
294 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/03/25(月) 18:45:28.75 ID:iO32Lokmo
吸血娘「はぁっ……!!」バッ

吸血娘「な、なんてことだ……こ、ここまでやるなんて……」ゲホゲホッ


吸血娘(この炎……どう見ても咄嗟に起こせるものじゃない。大掛かりな下準備でもしてないと不可能だ……!!)

吸血娘(あ、あいつ……事前にこの場所に細工してやがった!!!!地面に爆薬やら火薬やらガソリンやらを仕掛けてやがったんだ!!!!)




スタスタ スタスタ




吸血娘「……!!」クルッ




屍男「……」




吸血娘「こ、この…クソハゲ野郎……焼け野原にするのは自分の毛根だけにしとけ……!」




屍男「……」
295 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/03/25(月) 18:46:32.70 ID:iO32Lokmo
今日はここまで
次で決着がつきます
296 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/25(月) 20:12:40.40 ID:fXjoFslSO
やっぱり殺し合うほどの中っていいよなあ
おつおつ
297 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/25(月) 23:27:02.86 ID:e93HGsV5O
298 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/26(火) 21:56:57.71 ID:iJoqas8/O

緊張感あるな
299 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/03/29(金) 02:46:20.26 ID:8jr8fejjo
吸血娘「テメェ!!!!何か仕掛けてやがったな!!!!!」



屍男「……あぁ、それがどうした?」

屍男「この場所を指定したのは他でもない、お前自身だ。そんな敵地に何も準備をせず、のこのこやってくる馬鹿がどこにいる?」

屍男「あらかじめこの場所には大規模な発火装置を仕掛けておいた。眷属への対抗策としてな」

屍男「蚊遣火、というこの国で使われていた風習も使わせてもらった。この炎で焼き払えなくとも、これだけの煙だ。いくらお前の眷属でも、まともに俺を探知して襲うのは不可能だ」

屍男「……まさか、卑怯などという言葉を使うんじゃないだろうな」



吸血娘「……ッ!」
300 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/03/29(金) 02:47:57.98 ID:8jr8fejjo
屍男「これが狩人の戦い方だ。勝つために、生きるためならどんな手を使う、お前も知っているだろう」

屍男「そして、これでお前の用いる手は全て潰した。最終ラウンドだ」グッ



吸血娘「……」


吸血娘(……あれだけ用意した眷属が一瞬で灰になって消えた。こんな手を使ってくるなんて想像も出来なかった。発想のスケールで私は負けたんだ)

吸血娘(そうか、こいつの強さは……こういうところなんだ)

吸血娘(文字通りに、生き延びる為ならありとあらゆる手を使う。常識なんて言葉は存在しない。普通は考え付いても実行しないようなことを平然とやり遂げる)

吸血娘(覚悟と使命感の塊みたいなやつだ……私じゃとても敵わない)




吸血娘(……でもそれはあくまで最強の狩人『Shadow』が相手の話だ)

吸血娘(今のお前、ハゲの怪物相手なら……私も負けてないっ!!!!)
301 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/03/29(金) 02:49:38.33 ID:8jr8fejjo
魔女「すごい炎……これは事前に何か仕掛けていたわね。頼まれた大量の火薬はこれに使うためだったのか」

魔女「……ドラキュラちゃんの眷属の対抗策ね。これだけの広範囲の炎は蚊だと回避は不可能。おまけにこの臭いは松の葉なんかも一緒に燃やして燻してる」クンクン

魔女「例え炎から逃げ延びても、この煙に囲まれてアウトってことか」

魔女「……ほんと、やることがぶっ飛んでるわ。こんなの普通は思いついても実行しないわよ。環境破壊もいいところね」

魔女「これでドラキュラちゃんに残された勝機は一つ……あの手しかない」



……………………………………………………………
………………………………………
302 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/03/29(金) 02:51:24.72 ID:8jr8fejjo
プルルルルルル


魔女「……ん?この番号って――ドラキュラちゃん?」

ピッ

魔女「もしもし?どうしたの?」



『……ハゲのことは聞いてるか』


魔女「……」

魔女「えぇ、さっき本人から連絡があったわ。記憶が戻ったって」

魔女「……ドラキュラちゃんと戦うってことも」


『……そうか。なら話は早い』


魔女「ねぇ、本気?相手はあの“Shadow”よ?残酷なことを言うようだけど、ドラキュラちゃんが勝てる確率は限りなく0に近いわ」

魔女「ただでさえ手が付けられないのに、その執念で怪物として蘇り、再生能力と怪力を手に入れたのよ。この世界でアレに対抗出来る個人なんて……それこそ“Merry”くらいしかいないわ」
303 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/03/29(金) 02:52:38.83 ID:8jr8fejjo
『……そうだ、あいつは私より遥かに強い。弱点なんて存在しないと思う』

『でも、それはあいつが人間だった時の話だろ。今は違う、あいつは人間(ヒト)じゃない。怪物(モンスター)だ』


魔女「……!それって、まさか」




『狩人が使う、対怪物用の銃を用意してくれ。それも一番強力なやつを』

『こいつでならハゲも倒せるはずだ。今のあいつは“Shadow”じゃない。ただの怪物なんだから』




魔女「……」

魔女「……えぇ、そうね。確かに――アナタが勝つにはその手しかないわ」
304 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/03/29(金) 02:53:55.05 ID:8jr8fejjo
魔女「人間には存在しない弱点、怪物だからこそ、出来てしまった唯一の穴」

魔女「でも、実戦で通用するかどうかってなると話は別よ?」

魔女「銃の姿、構え、発砲音、撃つだけでもこんなに障害がある。これら全てをゾンビくんに認知されないってのが最低条件よ」

魔女「ゾンビくんのことだもん、絶対にその銃の存在を知られた時点で、即排除の対象になる。そうなったらもう遅いわ」



『……分かってる』

『私も、何も策を考えずにただ挑もうってわけじゃない。まだ誰にも知られてない、とっておきの作戦がある。これならお前が出した条件を全部クリアすると思う』



魔女「……その作戦って?」



『は?なんでお前に教えなきゃいけないんだよ。アホか』
305 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/03/29(金) 02:55:35.46 ID:8jr8fejjo
魔女「……フフッ、そうね。その通りだわ」

魔女「いいわ、用意してあげる。対怪物用の一番強力な銃ね、承ったわ」

魔女「他の武器はいいの?怪物相手なら聖水とか塩とかもよく効くけど」



『いやいい。どうせそんな付け焼刃で用意した道具はあいつに存在を悟られた時点で通用しないことぐらい分かってる。一発勝負なんだから』

『あ、そうだ。言い忘れてたけど、出来るだけ早く届けてほしい。二日以内がベスト』



魔女「……二日?またずいぶん急いでいるのね。時間はまだあると聞いていたけど」



『こっちも準備が色々あるんだよ。金は商品が届き次第言い値で払ってやる』

『じゃあな。頼んだぞ』プツッ
306 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/03/29(金) 02:57:33.30 ID:8jr8fejjo
……………………………………………………………
…………………………………………



魔女「……」


魔女「まだあの銃を使った形跡はない。ドラキュラちゃんはゾンビくんが知り得ているカードのみで戦っている。ジョーカーの存在は知られていない」

魔女「チャンスは一度だけ、ゾンビくんが勝利を確信した瞬間……ドラキュラちゃんの用意した作戦が通用するかどうかにかかっている」

魔女「……でも、そんなの本当にあるのかしら。不意打ちをするにしたって最低でも発砲音は聞かれる」

魔女「ゾンビくんならある程度の距離があれば銃弾を避けるのぐらいはわけないはず。回避が出来ないほどの近距離で使おうにも、そんな近くだと確実に銃を構える隙を突かれる……」


魔女「……!!!!」ハッ


魔女「……いや、あるわ。一つだけ……ヴァンパイアにしか出来ない、銃弾を当てる方法が」

魔女「で、でも……こんなの机上の空論。理論上は可能ってだけで、実際にやってみせたなんて話は見たことも聞いたこともない」

魔女「恐らくそれはゾンビくんも同じ。だから、まったくの無警戒、ノーマークのはず」


魔女「……この勝負、もしかしたら――」
307 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/03/29(金) 02:59:25.17 ID:8jr8fejjo
ドガアッッッ!!!!!!!



吸血娘「くうっ!?」サッ



屍男「……!」ブンッ



吸血娘(もう私に残された手はこの銃しかない。あいつにはまだ知られていないはず……問題はどうやって隙を作るか、だ)

吸血娘(確実に当てるにはどうしてもあいつの気を何かに引かせないといけない。そうでもしないと、どんな方法を使って抵抗してくるか見当もつかないんだから)

吸血娘(……ダメだ!今の私の頭じゃ……予測出来ない!)



屍男「……ッッ!!!!」チャキッ



吸血娘「!!!!」

吸血娘(む、向こうも拳銃!使われているのは確実に銀の弾丸!!!!)

吸血娘(マズいっ……!即死しないように頭だけは守らないと!!)スゥ
308 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/03/29(金) 03:00:26.37 ID:8jr8fejjo
バンバンッ!!!!!!!

ドンッ!!!!!!




吸血娘「ガッ……!?」グラッ

吸血娘(ね、狙われたのは脚……動きを制限してッ……)フラッ



屍男「ッッッ!!!!!!!」ダッ



吸血娘(!?に、逃げられなッ……防御しないと!!!!)グッ



シュンッ

ブシュッ!!!!!!!!

ボドッ



吸血娘「ッッ!!!!」ビクッ

吸血娘(う、腕が……!!)
309 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/03/29(金) 03:01:30.40 ID:8jr8fejjo
屍男「……」スッ



吸血娘(クッ……!今度は防御出来ない!!確実に首を狙ってくる!!!!)

吸血娘(霧化で回避しても、さっきの攻防で同時に二か所の霧化が出来ないことはバレている……!!一時しのぎにしかならない……!!)


吸血娘(何か手は……!!手……ハッ!?)



屍男「……」ブンッ



吸血娘「はあああああああああああっっっ!!!!!!!」グッ




腕『』シュウ




スゥゥゥゥゥゥッ!!!!!
310 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/03/29(金) 03:02:51.38 ID:8jr8fejjo
屍男「……!?」



吸血娘(お前がさっき切断した私の腕!!!!こいつを霧化して攻撃する!!!!)

吸血娘(噛み付いた跡の切り目から……衣類に侵入させる!!!!)





屍男「クッ……」バサッ




吸血娘(そして、この一瞬に出来た隙……)

吸血娘(これが……私の……答えだ)





吸血娘「受け取れええええええええええええ!!!!!!!!」チャキッ






バンッ!!!!!!!!!!!!
311 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/03/29(金) 03:04:37.48 ID:8jr8fejjo
屍男「……!?」


屍男(銃声、やはり対怪物用の武器か)

屍男(この距離、完全に避けるのは不可能だが、急所を逸らすこと可能――)



シュウウウウ……



屍男(なんだ?銃弾が……見えない?空砲――)

屍男(――!?いや違うッ、これは――)





シュウウウウウウウウ……!!!!!!





ズドンッッッ!!!!!!!!





屍男「ッ……!?」グラッ
312 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/03/29(金) 03:05:39.52 ID:8jr8fejjo
屍男(あぁ……そうか……それでいい……)





屍男(お前はそれで――これで俺も――死)







バタッ






屍男「」
313 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/03/29(金) 03:09:58.39 ID:8jr8fejjo
魔女「……!!」

魔女「や、やっぱり……銃弾を霧化させて、当たる直前にそれを解除した……」


魔女(……ヴァンパイアは自分の肉体の細胞を最小まで分解して、粒子化することで霧の姿に変わることが出来る)

魔女(でも、それだけじゃない。なら霧化した後は普通、衣服などは全てその場に残るはず。つまり正確に言うとヴァンパイアの霧化は……自分の肉体と同時に、その回りにある物も分解し、粒子化出来る……ということになる)

魔女(つまり、理論上は触れさえしていれば何でも霧化出来る。例えそれが他者であろうと武器であろうと)

魔女(でも、ヴァンパイアがそんな攻撃方法を使うなんて話は聞いたことがない。それは多分、その物質を理解していないと分解出来ないから……と考えられる)

魔女(普段身に纏っている衣服何かはその構造を年月を経て自然と理解しているから、霧化をすることが可能)
314 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/03/29(金) 03:12:24.06 ID:8jr8fejjo
魔女(ドラキュラちゃんは恐らくこの性質に幼い頃から気が付いていた。だからこそ、この技を編み出すことが出来た)

魔女(ドラキュラちゃんにとって銃は幼い頃から身近な存在だった。自分の敵が使う武器でもあり、時には自身も使っていた道具……その構造を知らず知らずのうちに、理解するようになっていた。だからこの短期間で銃弾を霧化をすることに成功した)

魔女(普通はヴァンパイアはその力が故に武器を使うなんてことはない。殺し屋をやっていたドラキュラちゃんだからこそ、この答えに辿り着いた――)


魔女「……決着ね。勝者は……ドラキュラちゃん」

魔女「…………」


魔女「ゾンビくん、アナタ本当は……」
315 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/03/29(金) 03:13:16.93 ID:8jr8fejjo
吸血娘「はぁっ……はぁっ……」





屍男「」





吸血娘「どうだ……これで……私の勝ちだ……」







屍男「」
316 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/03/29(金) 03:14:40.02 ID:8jr8fejjo
屍男「」





吸血娘「ハ、ハハ……アハハハハハハハ……」ポロッ

吸血娘「あ、あれ……な、なんで……涙が……お、おかしいな」グスッ





屍男「」





吸血娘「……うぅっ」ポロポロ

吸血娘「あ、ああぁぁぁぁ……うあああぁぁっ……」ポロポロ
317 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/03/29(金) 03:15:17.80 ID:8jr8fejjo
今日はここまで
318 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/29(金) 03:15:54.86 ID:ZMlHxUbjO
319 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/29(金) 04:09:14.47 ID:/kkJXTSQo
割りと戦法とか弱点がはっきりしてるヴァンパイアはわかるけど
人間の体でメリーと互角にやれるのは無理やろと思う
320 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/29(金) 08:05:36.76 ID:dwWeSzG8O
おつおつ
悲しいなあ
321 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/03/29(金) 10:15:20.59 ID:8jr8fejjo
>>319
これだけ名前を知られているメリーさんがまだ生きているのがまあ答えになっちゃいますね
322 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/29(金) 19:00:35.77 ID:8b2zYG8KO
323 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/01(月) 23:22:11.71 ID:67XCk4KCo
…………………………………………………………………
…………………………………………





屍男「……」





屍男「……」





屍男「……ここは」キョロキョロ






屍男「……あの世か?」
324 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/01(月) 23:23:40.69 ID:67XCk4KCo
屍男「まさか、本当に実在するとはな。幽霊が存在するならおかしくはないか」





屍男「殺風景な場所だ。何もない……誰かいないのか」キョロキョロ





屍男「フッ、俺らしくもないな。今更人を探すなど……今までずっと、一人でやってきたじゃないか」





屍男「…………」





屍男「一人、か」
325 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/01(月) 23:25:12.82 ID:67XCk4KCo
スッ



屍男「……っ!?」ビクッ

屍男(なんだ、今、あの物陰に人影が)

屍男(――あの姿、まさか)ダッ





屍男「……!」





■■■「」





屍男「……あり得ない。こんなことが」





■■■「」





屍男「……どうやら、ここは本当に死者の世界らしいな。まさか……お前とまた相見えるとは」

屍男「……久しぶりだな」





■■■「」
326 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/01(月) 23:26:52.52 ID:67XCk4KCo
…………………………………………………
……………………………………




■■■「」




屍男(何も喋らないな。まるで人形のようだ)

屍男「……一応、報告しておく。仇は取った」

屍男「お前を殺した“紅眼”は俺がこの手で葬った」




■■■「」




屍男「……これで少しは、無念が晴れるといいんだがな」

屍男「…………」

屍男「あれから、本当に色々なことがあったんだ。俺は数え切れないほどの罪を犯した」
327 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/01(月) 23:27:56.81 ID:67XCk4KCo
屍男「後悔はしていない。だが……望むなら、また、あの日々に戻りたい」

屍男「……都合のいい話だな。結局俺は……逃げたかったんだ。自分の罪から……最初は俺も、あいつと同じ立場だったのだから」

屍男「まあもう……関係ない話だがな。俺はやっと死ねたのだから」




■■■「」スッ




屍男「!?」ビクッ

屍男(動いた?)
328 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/01(月) 23:29:14.81 ID:67XCk4KCo
■■■「」ジー




屍男「な、なんだ?」




■■■「――――」




屍男「!!!!」




■■■「」スゥゥゥ




屍男「ま、待て!!!!それはどういうことだ!!!!」

屍男「俺はっ……もうっ……!!」




■■■「」ニコッ




スゥ
329 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/01(月) 23:30:29.83 ID:67XCk4KCo
屍男「っ!!!!」

屍男「ど、どこに消えた!!!!おいっ!!!!」




パラパラッ……パラパラッ……




屍男(な、なんだ?これは……空間が、崩壊していく)

屍男(俺は……死んだはずだ。もう……未練はないはずなのに)

屍男(なぜ、あいつはあんなことを……)





スゥ
330 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/01(月) 23:32:00.38 ID:67XCk4KCo
屍男「!!!!!」バッ

屍男「……ここは」




魔女「ようやく起きたわね、お寝坊さん。一週間ずっと寝ていたのよ?」




屍男「!?」

屍男「な、なぜ……お前がここに」



吸血娘「……」スッ




屍男「!!!!」

屍男「……あぁ、そうか。俺は……死んでいないのか」グッ

屍男「なぜ、俺を生かしているんだ。さっさと殺せ。あの言葉は嘘だったのか」
331 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/01(月) 23:33:25.70 ID:67XCk4KCo
吸血娘「……お前に一つ、聞き忘れたことがあった」



屍男「は?何のことだ?」



吸血娘「過去についてだ。お前の過去、思い出したら教えてくれる約束だろ」



屍男「……」

屍男「馬鹿か。お前は……今更何を言っているんだ。早く殺せ」



吸血娘「負けたくせにうだうだ文句言ってんじゃねえよ。早く話せ」



屍男「そんなことはもうどうでもいい話だろ。なぜ父の仇である俺をまだ生かしているんだ」

屍男「お前の父に対する気持ちは偽りだったのか、今更情を持つな。ヒトでもない化け物が」

屍男「お前が俺を殺さないなら、勝負はまだ続いていると判断する。今、ここで決着をつけてもいいんだぞ」スッ
332 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/01(月) 23:34:52.73 ID:67XCk4KCo
魔女「ちょっ!?ゾンビくん!?」



屍男「……」



吸血娘「……」

吸血娘「下手な脅しはやめろよ。そんなの眼を見たら一発で分かる」

吸血娘「いいから、早く教えろ。お前の処遇はそれからだ」



屍男「……」スッ

屍男「……どこからだ。どこから話せばいい」



吸血娘「お前の人生の全てだよ。何があったのか全部だ」



屍男「……」
333 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/01(月) 23:35:44.11 ID:67XCk4KCo
今日はここまで
あと二回の更新で終わります
334 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/02(火) 01:07:42.88 ID:Yw1is7ebO
おっつー
335 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/02(火) 10:59:46.78 ID:xNnlA/kOO
物語も終盤だけどワクワクがとまらんな
336 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/02(火) 22:58:04.12 ID:qOwG7YnaO

ハゲ死んでなかったんだな
337 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/04(木) 23:47:17.21 ID:5hpwG3Cvo
毛根は死んでるけどな
338 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/06(土) 20:44:57.47 ID:v9qraTHso
屍男「……俺が生まれ育った場所は平凡な町だった。都会ではなかったが、そこまで田舎でもない。名前を出しても分からないような、そんなところだ」

屍男「家族構成は母が一人、父は俺が物心がつく頃にはもういなかった」

屍男「子供の頃に一度だけ、なぜ父がいないのか母に聞いたことがあった。母は離婚した、とだけ言い理由は話さなかった」

屍男「自然と俺も、そういうものなのだと理解し、それ以上は追及しなかった」

屍男「母は……とても立派な人だった。女手一つで俺を育てあげたのだからな」

屍男「不自由と感じたことは一度もなかった。だが、その陰では身を削るように仕事をしていたのだと思う。言葉には出さなかったが、俺はそんな母が自慢だった」

屍男「近所でもそんな母の評判は良かった。町を歩けば必ず母の知り合いに声をかけられたし、菓子を貰ったりもした。本当に……誰にでも優しく接することが出来る人だったんだと思う。俺と違ってな」
339 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/06(土) 20:47:15.62 ID:v9qraTHso
屍男「……その中でも、隣に住む家族とは特に仲が良かった」

屍男「同じ歳の子を持つ親ということで、よく互いの家で食事会をしたりした。クリスマスは毎年その家族と祝ったりしていた」

屍男「……子供の頃の俺は、あまり友と呼べる存在は少ない方だった。こればっかりは生まれながらの才能というやつだろう。母にはその才能があったが、俺にはなかった」

屍男「だが、そんな俺に唯一接してくれたのが……その隣の家族の娘だった」

屍男「幼馴染、というやつになるんだろうな。彼女は暗い俺とは違い、母のような性格で、周りには常に友が溢れていた」

屍男「それを嫌味に振りかざす様子もない、まさに優等生だ。きっと、あのまま成長していれば……何かの分野で大成していたのは間違いないだろう」



吸血娘「……」

魔女「……」
340 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/06(土) 20:48:36.69 ID:v9qraTHso
屍男「母と共に、俺は彼女を尊敬していた。何か困ったことがあれば力になりたいと思っていたし、いつか彼女の役に立ちたいと、そう思うようになっていた」

屍男「今にして思えば、俺は……彼女に恋心を持っていたのだろうな。いや……間違いないか」


屍男「俺は……好きだった。態度には出さなかったが心のどこかで、彼女を……」


屍男「だが、その想いが叶うことはなかった」


屍男「俺の16の誕生日に……彼女は殺された。その両親と、俺の母と共にな」



吸血娘「……」
341 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/06(土) 20:49:41.99 ID:v9qraTHso
屍男「その日は四人揃って、家で俺の誕生日パーティーの準備をしていたそうだ」

屍男「前の年に、いい加減こんなガキみたいに祝ってもらう必要はないと言ったにも関わらずな。本当に……お節介な人達だ」

屍男「俺は用事があり、家に帰るのは遅くなる予定だった。その隙を見て、サプライズパーティーを企画したんだと思う」


屍男「俺が家に帰るとそこには……数台のパトカーが止まっていた。家にテープが貼られ、玄関には警官が見張っていた」


屍男「一瞬、嫌な予感を感じた。何かがあったのは明白だった」

屍男「最悪の事態を想像した。だが信じたくなかった」
342 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/06(土) 20:50:37.53 ID:v9qraTHso
屍男「俺は警官に話しかけた。この家に住む者だが、何かあったのかと」

屍男「警官は神妙な顔をした後「ちょっと待っててくれ」と言い、家の中に入って行った。そして一分もしないうちに出てきた」

屍男「とりあえず、署に来てくれないか。詳しい話はそこで話そうと、そう言われた」

屍男「俺はそれに従うことにした。本当は何があったのか確認したかった。警官を押し退いてでも、家に帰りたかった」

屍男「だが……身体は動かなかった。怖かったんだ。そこに何があるのか、直接見るのが……俺はその場から逃げることにした」


屍男「そして、警察署で真実を告げられた。俺の母と、隣の一家は殺されたのだと」
343 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/06(土) 20:51:45.16 ID:v9qraTHso
屍男「最初、警察は俺を疑っていたんだと思う。だが、アリバイがすぐに証明され俺は容疑者から外れた」

屍男「……俺は絶望した。今までにあった平和が、突如崩れ去った。何が起きたのか理解出来なかった」

屍男「母とは朝に顔を会わせた。いってらっしゃいと、いつもの日常のように家を出た。それが最後になるなんて、思いもしなかった」

屍男「……母の遺体を確認するまでは、とてもじゃないが信じられなかった。しかしそこには逃れない現実があった」


屍男「この世のありとあらゆる屈辱を受け、亡骸になった“母だったモノ”がそこにはあった」


屍男「今でもあの姿は鮮明に覚えている。今忘れていた己を恥じるくらいだ」


屍男「彼女もそうだった。生前の姿からは考えられない程、遺体は損傷が激しかった」
344 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/06(土) 20:53:03.81 ID:v9qraTHso
屍男「皮は剥がれ、肉は削られ、苦痛に満ちた表情で死んでいた。実際はそんな顔ではなかったと思うが、俺にはそう見えた」

屍男「……俺は許せなかったんだ。彼女達が何をしたのか、なぜこんな理不尽な目に遭わなくてはいけなかったのか。犯人よりも、そんな不平等が許せなかった」

屍男「現場には壁に、血で描かれた巨大な眼が描かれていた。後から分かったことだが、こいつは“紅眼”と呼ばれている人為らざる者の仕業だった。無論、警察は捜査をしたが、相手は人外だ。手掛かりは何も見つからなかった」



吸血娘「“紅眼”……おい、お前は聞いたことあるか?」

魔女「……まあ、名前くらいはね」

魔女「二十年くらい前に有名だった人外よ。私も世代じゃないから詳しいことは知らないけど、その悪名が伝わっているくらいは凶暴なやつね」

吸血娘「……」
345 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/06(土) 20:54:11.89 ID:v9qraTHso
屍男「俺は復讐を決意した。必ず、母やあの一家を殺した犯人を地獄に送ってやるとな」

屍男「そこからの流れは簡単だった。裏の世界に入り、“紅眼”の情報をひたすらかき集めた。その傍らで、狩人としての経験を積み、殺しのテクニックを磨いた」

屍男「だが、そう簡単には見つからなかった。“紅眼”は当時の狩人の世界でも、相当な懸賞金が懸けられていた大物だった。奴は姿を隠すのが上手かったんだ。いくら手掛かりを探しても、尻尾一つ見せなかった」

屍男「……だが、ここで俺はある人物と出会った。これが俺の運命を決定的に変えた」


吸血娘「だ、誰だよそれ」


屍男「名は知らん。あえて、その存在を言葉で語るとすれば……“先代の影”と呼べる人物だ」
346 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/06(土) 20:55:52.90 ID:v9qraTHso
吸血娘「先代って、お前が最初じゃないのか?」

魔女「……つまりゾンビくんは二代目ってことか」



屍男「あぁ、俺は彼のやり方を模倣しているに過ぎない。それはお前も気付いていたんじゃないか?」


魔女「……」

魔女「まあ、ね。Shadowが現れ始めたのは記録上だと半世紀ほど前。ゾンビくんが初代だとしたら、よっぽどの若作りをしてないと計算が合わないってことになるもの」


吸血娘(き、気付かんかった……)
347 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/06(土) 20:57:29.73 ID:v9qraTHso
屍男「その通りだ。彼の存在は俺も耳にしていた。とてつもなく強い狩人がいるとな」

屍男「実際に会うまでは都市伝説の類いの一つだと思っていた。誰もその存在を目撃したことがないというのはあまりに不自然だ。誰かが抑止力として流した噂だとな」


屍男「……彼と出会ったのは本当に偶然だった」


屍男「奇跡的な確率だったと思う。偶然、俺が……見てしまったんだ。彼が、実際に怪物を狩る姿を」

屍男「そいつは前々から目を付けていた怪物だった。人気のいない場所に入り込んだところを狙って、見張っていた時だった。そこに……“影”が現れた」

屍男「一瞬、幻でも見ているんじゃないかと自分の目を疑った。すれ違ったその一瞬に、背後から確実に急所を突き、その死体を灰に変え、存在を抹消した。まるで最初からいなかったように」

屍男「全ての工程が数秒に収められていた。まさしくあれは神業だ。今の俺でも再現出来るかどうかのほどのな」
348 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/06(土) 20:58:39.44 ID:v9qraTHso
屍男「直感的に理解した。この男が“Shadow”なのだと。そして反射的に体が動いた。俺は……立ち去るその影を呼び止めた」

屍男「今にして思えば、愚かな行為だ。彼が目撃者を全て消すというスタイルだったなら、俺はその瞬間に死んでいただろうに」

屍男「俺は彼に、弟子にしてほしいと頭を下げ、頼み込んだ。正直、承諾するとは思っていなかった。相手にされないだろうと、ならばどうやって説得しようかと、頭の中では次の行動を考えていた」

屍男「……しかし、返ってきた答えは意外なものだった」


屍男「ただ一言「着いて来い」とその男は言った」
349 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/06(土) 20:59:46.07 ID:v9qraTHso
屍男「初めは耳を疑った。まさか、こんな簡単に上手く行くなんて、思ってもみなかったのだからな。罠かと疑いもしたが……俺に選択肢はなかった。立ち去る影の背中を追うことにした」

屍男「それからはその男と共に暮らし、狩人としての知識と技術を学んだ」

屍男「まあもっとも……教えらしい教えは一切なかったがな。俺と彼の間にまともなコミュニケーションはなかった。言葉を交わしたのもこの出来事を含め数えるほどしかない」

屍男「見て覚えろ、そう言われた。だから俺もそれに従い、観察してその技を盗むことにした」

屍男「……それから数年が経った頃だ。その生活に慣れていたある日」

屍男「彼が起床する時間になっても、姿を現さなかった。気にすることのない些細な出来事だが、今までそんな日は一度もなかった」

屍男「……嫌な予感がした。あの日を思い出すような、そんな寒気が。俺は彼の部屋に向かった」
350 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/06(土) 21:02:44.05 ID:v9qraTHso
屍男「そこにあったのは……ベッドで、眠るように死んでいる影の姿だった」

屍男「最初は何者かの攻撃を疑った。だが、それらしき形跡はなかった」

屍男「念のために、死体を検視した結果……老衰だった。彼は寿命で死んだんだ」


吸血娘「……は?」

魔女「寿命って、そんなお歳だったの?」


屍男「いや、違う。正確な情報は何も残っていないので不明だが、俺の見立てでは影は40代の後半から50代前半だ。老衰で死ぬにはあまりに早過ぎる」

屍男「……俺は疑問を抱きながら、彼の死体を火葬し、その灰を海に撒いた。直接何か指示をされたわけではないが、この埋葬の仕方を望んでいると感じてな」

屍男「そして、俺は“Shadow”の名を継ぐことにした。その頃になると“紅眼”の手掛かりも形になる程度は集まっていた。奴の正体を暴き、殺すのは時間の問題だった」
351 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/06(土) 21:04:22.59 ID:v9qraTHso
屍男「……だが“Shadow”として殺しを続けているうちに、なぜ彼があんな早死にしたのか、その真実に触れることになる」

屍男「ある日のことだ。いつもと同じ朝、目が覚め、シャワーを浴びていると……手に違和感があった」

屍男「何かと思い、見てみると……」





屍男「髪がごっそり抜けていた」





屍男「それから一週間もしないうちに、全ての髪が抜け落ちた。明らかに異常な事態だ。病院で検査をしたが、肉体には何も異常は見つからなかった」

屍男「医師からは極度のストレスが原因ではないかと言われた。そこで俺はやっと気付いたんだ。彼の死も……この精神的な疲労が溜まった結果、起きたものなのだと」
352 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/06(土) 21:09:38.74 ID:v9qraTHso
屍男「いくら感情を殺しても、狩りというものは繊細な注意がいる。一歩間違えば死は避けられないのだからな。常に命懸けの綱渡りだ」

屍男「相手のスペックは常に上だ。精神を擦り減らし、たった一つの勝利へのルートを導き出し、そして戦闘では一秒を百秒に感じるほど思考を巡らせる」

屍男「自覚はなくとも、人間という生物の領域を超えた所業なのだろう。“Shadow”の戦闘スタイルは超短期決戦だ。一瞬の刹那に勝負を決める」

屍男「その一瞬に、命の砂時計は普段とは信じられない速度で堕ちて行く。それを何回も続けていたら寿命は確実に縮む」



吸血娘(最初からハゲじゃなかったのかこいつ)

魔女(最初からハゲじゃなかったのね)
353 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/06(土) 21:10:47.78 ID:v9qraTHso
屍男「それからしばらくすると、髪は生えてこなくなった。味覚などの器官にも影響が出た」

屍男「自分の肉体が崩れて行くのを感じたが、今更そんなことは止まる理由にはならなかった。もはや自分の命など……どうでもいい段階まで来ていた」

屍男「……そして、その時はやってきた。俺は……“紅眼”を殺すことに成功した」


屍男「……それだけだった」



吸血娘「おい、何だよ。どういう意味だそれ」
354 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/06(土) 21:14:54.48 ID:v9qraTHso
屍男「……俺にとってはもはや“紅眼”は他の標的と変わらなかった」

屍男「その頃にはもう相手の目を見るだけで、どのぐらいの秒数で仕留められるかが分かるようになっていた」

屍男「何年もかけて情報を集め、奴の潜伏先を暴いた時は興奮した。これでやっと復讐を果たせるのだと

屍男「そして、初めて“紅眼”を視界に捉えた時に視えた所要時間は八秒、高くも低くもない。平均的なものだった」

屍男「……俺は、もっと苦しめたかった。無残に殺された母や彼女達の無念を晴らすように、出来るだけ長く、あいつに死の恐怖を味合わせたかった」

屍男「……しかし、反射的に身体が動いていた。一秒でも、この世に存在することが許せなかったんだ」

屍男「こうして俺の復讐は八秒で終わった。他の狩りと何ら変わりのない、日常のような復讐だった」
355 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/06(土) 21:16:10.36 ID:v9qraTHso
屍男「待っていたのは達成感と……虚無感だった」

屍男「今までの俺は復讐の為に生きていた。それがゴールであると信じていたし、その先には何もないと思っていた」

屍男「これから何をすればいいのか、分からなかった。だが、今更表の世界に引き返すことは出来ないというのは理解していた」

屍男「そして、俺が導き出した答えは……“Shadow”を続けることだった」

屍男「自分の復讐が終わった後は他者の復讐を代行をするしかない。それしか道は残されていなかった。理不尽な死を一つでも防ぎたかった」

屍男「……恐らく、先代の影も同じ考えに至ったんだろうな。俺を弟子にしたのは何かの気まぐれか、自分と似たような意志を感じたのか、そんなところだと思う」

屍男「それから先は語る価値もない、ただの殺しの繰り返しだ。お前の父も、そのうちの一人だ」
356 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/06(土) 21:20:38.83 ID:v9qraTHso
吸血娘「……」


屍男「……もういいだろう。話すことは全て話した。これで終わりだ」


魔女「ちょっと待って、それから先の話はどうなったの?」

魔女「ゾンビくん、アナタは一体に誰に殺されたの?」


屍男「……さあな。それは覚えていない」

屍男「俺が覚えている最後の記憶はこいつの父を殺し、帰路の途中までだ」

屍男「そこから先の記憶はないのは恐らく……ヴァンパイアの記憶操作の術の影響だろうな。反撃を許してしまい、一瞬だけだが食らってしまった。死後もその術だけが残り、記憶を失っていたのだろう」

屍男「これは想像だが、誰かに襲われ殺されたという線は考えにくい。まだ交通事故に遭う確率の方が高い」

屍男「……まあ、もうどうでもいいことだ。この件については直接関係ないのだからな」
357 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/06(土) 21:23:22.69 ID:v9qraTHso
魔女「そう…...」


屍男「どうだ?これで満足したか?これがお前の知りたかった男の過去だ」

屍男「どこにでもあるような話だ。復讐に駆られた男が、その正義を暴走させ、自滅しただけの話」

屍男「……分かってはいたんだがな。例え悪人でも、そいつには親しい友や家族がいてもおかしくない」

屍男「その者から見れば、俺は悪だ。かつて自分が見た感情を、その者達もまた持つのだろうと」

屍男「……結局、この世界に正義も悪もない。ただ、そこにあるのは純粋な感情だけだ。血の因果は終わらない。永遠に、同じところを廻っている。それが世界の理だ」

屍男「さあ、殺せ。もう俺も疲れた。いつまでも死に損なうのは……これで終わりだ」



吸血娘「……」

吸血娘「……私は」
358 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/06(土) 21:23:55.32 ID:v9qraTHso
今日はここまで
次でラストです
359 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/06(土) 21:44:42.77 ID:+YezvIECO

さて最後はどうなるか
360 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/06(土) 22:21:57.23 ID:VHrQhoKx0
ただ意味もなくハゲ散らかしてたワケではなかったのか…
361 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/07(日) 04:55:48.29 ID:JVGzpsyPO
362 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/14(日) 04:45:05.39 ID:PylgOG9Ko






吸血娘「お前を殺さない。これが、私の答えだ」






屍男「…………」

屍男「……は?」





363 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/14(日) 04:46:05.88 ID:PylgOG9Ko
屍男「どういうことだ。今更、何を世迷言を……頭がおかしくなったのか?」

屍男「俺はお前の父を殺したんだぞ。父に対するお前の想いはその程度のものだったのか」


吸血娘「……」


吸血娘「正直なところ、私はパパとはあまり仲が良くなかった。でも、悪いことばっかじゃなかった。いい思い出もあるっちゃあるし、今思い返してみると、それは愛情の裏返しだったんじゃないかなって思う」

吸血娘「あの人も自分の感情はあまり言葉に出さない方だったし、多分、自分の子供との関係性ってのが分からなかったんじゃないかなって……そう感じるようになったんだ」

吸血娘「現に私も、自分の子供とどう触れ合えばいいのか、想像しても分からないし……不器用な人だったんだ。私と一緒で」

吸血娘「だから、そんなパパを殺したお前は許せないし、私の仇だ」



屍男「……ならば、なぜ」



吸血娘「お前、私との勝負で手加減してただろ。あんだけ言ったのに」
364 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/14(日) 04:47:01.00 ID:PylgOG9Ko
屍男「……」



吸血娘「こっちはとっくに気付いてんだよ。戦ってる最中は必死で分からなかったけど、明らかに不自然な点があった」

吸血娘「まず、私の霧化を封じたあのガス兵器。お前が言ってたことを真に受けると、あれを食らったのにまだ一部でも霧化が出来たのは明らかにおかしい」

吸血娘「調整しただろ。全身の霧化は出来なくても、戦闘が可能なレベルで霧化が可能なように」

吸血娘「腹パンされた時もそうだ。本気を出せば、風穴を開けるくらいは簡単に出来たはず」

吸血娘「こうやって、自分がまるで全力を出しているように演出していた」



屍男「……」
365 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/14(日) 04:48:48.35 ID:PylgOG9Ko
吸血娘「次に、戦闘中に無駄に私を煽るような言動をしていたこと」

吸血娘「おかしいだろ。なんで殺し合いの最中に語りかけてきたんだ?口を動かす前に手を動かせよ」

吸血娘「私を怒らせて、冷静な判断力を奪うって戦術も考えられるけど、それにしては丁寧過ぎる。自分の手をペラペラと喋って、まるで思考する猶予を与えているような……そんな印象だった」



屍男「…...」



吸血娘「そして、決定的なのが……時間だ」

吸血娘「お前がさっき言っていた通り、Shadowのやり方は超短期決戦型だ。普通は戦いが始まって数秒でもう決着がついてもおかしくない。私はその覚悟をしていた」

吸血娘「なのに……お前はそうしてこなかった。必ず、私の攻撃の後にその対抗策を出してきた。これじゃまるでターン制バトルだ」

吸血娘「私が、狩人の武器を使ってくるってことも読めていたんじゃないか」



屍男「……」
366 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/14(日) 04:50:16.72 ID:PylgOG9Ko
吸血娘「最強の狩人のShadowの強さは肉体的なものじゃない。その判断力、精神力から来るものだ」

吸血娘「経験から、まずは自分の弱点を補うことを考えてもおかしくない。いや、それが普通だ。だって、今まで幾百、幾千と殺してきた怪物になったんだからな」

吸血娘「その特性を知り尽くしているはずだ。ならまずはその長所を生かし、短所を消滅させる戦いをするはず」

吸血娘「なのにお前は……その弱点に気付かないフリをしていたんじゃないか。怪物の力である怪力も使ってこなかった」

吸血娘「これが手加減じゃなくてなんだって言うんだよ。舐めてんのかお前」



屍男「……」



吸血娘「なんでこんなことをしたのか、当ててやろうか」

吸血娘「お前は……私に殺されたがっていた。死にたかったんだよ、お前は……自分の自殺に、私を利用しようとしたんだ」

吸血娘「一週間ずっと意識を失っていたのがその証拠だ。お前の魂が死を望んでたんだよ」
367 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/14(日) 04:51:29.98 ID:PylgOG9Ko
屍男「……」



魔女(……やっぱりね)



吸血娘「何とか言えよ。図星で声も出ないのか」


屍男「……」

屍男「……それが、何だと言うんだ」

屍男「……何も問題はないだろう。俺が死ねば……全て……」


ガシッ


吸血娘「ふざけんよテメェ!!死にたがってるやつを殺して復讐になると思ってんのか!!!!」ググッ

屍男「……あぁ、なるさ」グッ



ギュッ
368 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/14(日) 04:52:55.76 ID:PylgOG9Ko
魔女「ゾンビくん!!」



吸血娘「っ……!!」ズキッ

屍男「確かに、俺はお前に殺されるように仕向けた。だが、それでお前が復讐を止める道理はない」ググッ

吸血娘「こ、このっ……!はなっ……!!」グッ

屍男「俺も、当ててやろうか。お前の本心を」

屍男「お前は臆しているんだ、俺を殺すことに。情でも移ったか?」


吸血娘「……!!」


屍男「自分にも言い訳をしている。どうにかして、俺を殺さない理由を探しているんだよ。結局お前には俺を殺す覚悟など、最初からなかった」

屍男「たかが一年の付き合いで、俺の全てを理解しようとするな。お前も逃げようとしていたんだよ。自分の運命にな」パッ


吸血娘「……っ」


屍男「どうした。さっきまでの威勢はどうした。何か言ったらどうだ」
369 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/14(日) 04:53:51.78 ID:PylgOG9Ko
吸血娘「……」

吸血娘「……もういい。こうなったら私も自分の本心を全て話す」



屍男「本心だと?」



吸血娘「確かに、お前の言う通りだ。私はお前に情を抱いている」

吸血娘「死んだパパに、お前を重ねているんだよ。いつの間にか……お前のことを、親みたいに思っていた。もし、パパと仲良くなっていたら、こんな関係だったのかなって」

吸血娘「友達なんて一人もいなかった。初めてパーティーをしたり、映画を他人と観たり、ゲームをしたり……そんな関係も、お前が初めてだったんだよ」



屍男「……」
370 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/14(日) 04:55:04.58 ID:PylgOG9Ko
吸血娘「でも、私はお前を許さない。パパを殺したことには変わらない、お前は私の仇だ。絶対に復讐はする。そう思っていた」

吸血娘「……お前は死を望んでいる。そして私の目標は殺すこと」

吸血娘「相手が望んでいることを実行するのは、本当に復讐なのか?それは違うだろ……これが私の出した結論だ。お前を殺すことは復讐になりはしない」



屍男「……では、どうするつもりだ。俺を一生拷問にでもかけて生き地獄を味合わせて苦しめるか?」



吸血娘「……」

吸血娘「……そうだな。それもいいかもしれない」
371 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/14(日) 04:56:15.67 ID:PylgOG9Ko
吸血娘「ハゲ、お前はずっと……私の側にいろ。そして、私を一人にするな。これがお前に出来る唯一の贖罪だ」



屍男「……!」

屍男「それが、俺に対する復讐だと?」



吸血娘「そうだ」

吸血娘「……多分、私とお前は似てるんだ。運命に従った結果が今のお前だ」

吸血娘「もし、このまま私も同じようにお前を殺せば……同じ道を辿るような気がする。お前を殺すことで、私は父と友を両方なくすことになるんだ。お前が母と幼馴染をなくしたように」

吸血娘「お前みたいに一生孤独のまま生きるなんてまっぴら御免だ……ハゲたくもねえし」

吸血娘「なら私は運命に逆らう。一人より、二人の方がいいだろ。少しでも申し訳ないと思うなら、私と一緒にいて罪を償え」
372 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/14(日) 04:57:22.36 ID:PylgOG9Ko
屍男「……」

屍男「……理解出来ない。今までの生活を続けることが復讐だとでも言うのか」

屍男「そんなこと……俺は認めん……」



吸血娘「認める認めないの問題じゃねえだろ。本質的に、お前は誰かに裁いてもらいたかったんだよ」

吸血娘「だから、私がお前を裁いてやるって言ってんだ。これが私の……復讐だ」



屍男「…………」

屍男「…………」


屍男(……あの時、あいつが最後に言った言葉)
373 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/14(日) 04:58:34.31 ID:PylgOG9Ko






『――生きて』





374 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/14(日) 05:00:07.05 ID:PylgOG9Ko
屍男(……俺が死ねば、全てが許されると思っていた)

屍男(だが、そうではない。生きることが、俺が犯した罪を清算することだと言うなら……俺は……)



屍男「…………」



屍男(やはり、お前には敵わないな。もう少しだけ待ってくれ)

屍男(あと少し……俺は生きることにする。“Shadow”としての罪を裁かれる為にこの命が蘇ったというのなら、お前が生きろと言うのにも理由はあるのだろう)

屍男(そして、全てが終わった時に、また会おう)
375 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/14(日) 05:01:20.99 ID:PylgOG9Ko
屍男「……一つだけ、訂正しておきたいところがある」

屍男「お前は俺が手加減したと言っていたが、そうというわけではない」

屍男「俺はあくまでお前の父を殺した当時の、人間としての能力で戦ったつもりだ。だから、物質を霧化することで放った最後の銃弾……あれは間違いなく、俺の想定を超えたものだった」

屍男「あの一瞬、お前は確かに父を超えた。誇りに思え。ヴァンパイアという種の中での最強は間違いなくお前だ」



吸血娘「……!」ドキッ

吸血娘「う、うるせぇ!!全力でやってなかったことは事実だろうが!!ぶっ飛ばすぞ!!!!」



屍男「……いいんだな。これで」



吸血娘「あ?何がだよ」
376 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/14(日) 05:02:34.99 ID:PylgOG9Ko
屍男「いつか、自分の決断を後悔するかもしれないぞ」


吸血娘「アホか。私はんなことで後悔なんて絶対しねえよ」

吸血娘「お前もそうだろ?それが正しいと信じて、その行いを悔いたことなんてあったか?」


屍男「……」

屍男「……そう、だな。間違いない」



吸血娘「んじゃ、はい」スッ


屍男「……なんだ。この拳は」


吸血娘「何って、何回もやっただろ。拳を合わせるやつだよ」


屍男「……」

屍男「……これでいいか」スッ



コンッ
377 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/14(日) 05:04:02.01 ID:PylgOG9Ko
吸血娘「約束は守れよ。また死ぬまで私の側から離れるな。勝手に死んだら地獄の果てまで追い回してやる」

屍男「……あぁ、分かっている」






魔女「はい!これで二人とも仲直りね!いやぁ〜感動したわぁ〜」シクシク






吸血娘「」ビクッ

吸血娘「な……お、お前まだいたのかよ。すっかり忘れてたわ」


魔女「だって仕方ないじゃない。あんなシリアスな雰囲気で部外者の私が口出しなんてしたら空気読めてないし、存在感を消すくらいしか出来なかったわ」

魔女「何はともあれ、最悪の結果にならなくて良かったわ。二人は私の大切な友人だし」




吸血娘「友……?」

屍男「……人?」
378 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/14(日) 05:05:40.12 ID:PylgOG9Ko
魔女「あ、そうだ。ゾンビくん」ゴソゴソ

魔女「これ、ゾンビくんが気を失ってた時に、家まで運ぶのを手伝ったんだけど、その時にかかった料金の請求書ね♪」スッ



屍男「……なんだ、この法外な額は」

吸血娘「え、いくら?……ハァッ!?」



魔女「仕方ないじゃない。あんなところまで車を用意して運んでくるのに手間と時間がかかったんだし、それにゾンビくんが廃墟周辺を火の海にしちゃったからその分の値段もね。自然は大切にしないと」



屍男「……知っているだろ。今の俺に持ち合わせはないぞ」


魔女「えぇ、だから前回と同じ“アレ”でいいわ。今回は二人分にまけてあげる」


屍男「……狡い女だ。最初からそれが目当てだったな」

屍男「いいだろう。借りは借りだ。従ってやる」
379 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/14(日) 05:06:52.15 ID:PylgOG9Ko
吸血娘「???」

吸血娘「なぁ、何の話だ?」



魔女「ドラキュラちゃんはまだ知らなくていい話よ。大人同士の関係ってやつなんだから……」フフッ



吸血娘「ハァッ!?」

吸血娘「おいハゲェ!!!!どういうことだそれ!!!!やっぱお前こいつとデキてんのか!!!!!」



屍男「……勘弁してくれ。話をややこしくするな」

魔女「フフッ、私だって、ゾンビくんには思うところは色々あったのよ?ちょっとはその仕返しをしないと」



吸血娘「おいコラハゲエエエエエエエ!!!!!!」
380 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/14(日) 05:08:42.34 ID:PylgOG9Ko
………………………………………………………
……………………………………



チュンチュン……チュンチュン……



屍男「」パチッ

屍男「……朝か」スッ




スタスタ スタスタ




屍男「……」




吸血娘「よっしゃ!これで3キル!!」ピコピコ




屍男「……」

屍男「おい、そこのロクでなし。今何時だと思っているんだ」



吸血娘「なんだ髪なし。今いいところなんだから黙ってろ」
381 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/14(日) 05:09:44.62 ID:PylgOG9Ko
屍男「……はぁ。朝食の準備をするが、お前も食うか」


吸血娘「いらない。さっきカップ麺食ったし」ピコピコ

吸血娘「おっ!!あいつあんなところに伏せてやがるな!!よっしゃここはグレネードじゃ!!!!」


屍男「そうか」スタスタ



屍男(あれから……少しは大人になったと思ったが、そう簡単に行けば苦労はしないか)

屍男(……いや、それより以前に比べて更にワガママな性格になった気がする。昨日も就寝前に注意したら「パパを殺したくせに」と言われた)


屍男(……それを言われては本当に何も反論できない。はぁ……これからどうすればいいんんだ)


屍男(……これも、俺に対する罰だと受け入れるしかないか)
382 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/14(日) 05:10:58.74 ID:PylgOG9Ko
屍男「バイトに行ってくるぞ」


吸血娘「んー」ピコピコ




バタン




吸血娘「……」ピコピコ



吸血娘「……」ピコピコ



吸血娘「パパに、謝っとかないとなぁ……」
383 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/14(日) 05:12:02.85 ID:PylgOG9Ko
…………………………………………………………
………………………………………



後輩女「センパイ!お疲れ様です!」

屍男「……あぁ、お疲れ」

後輩女「いやーセンパイが帰ってきてよかったですよほんと!あのまま行方不明で消えちゃうかと思ってましたもん!!」

屍男「……その節は心配をかけたな」


後輩女「それにしても、まさか姪さんが両親に呼ばれて強制帰国させられかけたなんて……すごいことになってたんですね」

後輩女「センパイも、それを止めるために外国に行ってたんでしょ?大変でしたねぇ」


屍男「……そうだな」


屍男(我ながら無理がある言い訳だと思ったが、そうでもなかったな)

屍男(まあ今でもあいつのことをひきこもりで、血に欲情する性癖で、おまけにレズと信じているなら、そこまで気にすることでもなかったが……こちらが色々心配になるな)



屍男(――こいつには、いつか本当の話を打ち明けるか)
384 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/14(日) 05:13:12.53 ID:PylgOG9Ko
後輩女「でも、良かったですね!またこうやって会うことができて!!」


屍男「……あぁ」

屍男「世話をかけたな。辞めると伝えたのに、店の方には黙っていたんだろ」


後輩女「別に大丈夫ですよ。休んでいる期間はインフルエンザってことにしておきましたから」

後輩女「変な話ですけど心のどこかで、また戻ってくるような予感がしてたんですよねぇ」


屍男「……」ジー


後輩女「どうしたんですか?」


屍男(……そうか。こいつと会話していると、どこか懐かしい気分になると思っていたが……似ているのか、あいつに)


屍男「いや、何でもない」
385 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/14(日) 05:14:23.82 ID:PylgOG9Ko
後輩女「そうだ、センパイ。実はちょっと前にこんなの貰ったんですよね」ガサゴソ

後輩女「これ、映画のチケットなんですけど。キャンペーンに応募したら三枚組のやつが当たっちゃって」

後輩女「今度、姪さんも連れて一緒に見に行きませんか?」


屍男「……」


後輩女(し、しまった。いきなり映画は攻め過ぎたか……もうちょっと段階を踏むべきだったかな)


屍男「……そうだな。たまにはいいか」


後輩女「えっ!?いいんですか!?」

屍男「あぁ、あいつには俺から伝えておく。日程はどうする?」

後輩女「じゃ、じゃあ……!」



後輩女(よし!脈ありだ!私はまだまだ諦めないぞー!)
386 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/14(日) 05:16:00.31 ID:PylgOG9Ko
………………………………………………
………………………………



ガチャ



屍男「帰ったぞ」



吸血娘「んー」



屍男「起きているのか、飯はどうする、今日は何も買って来てないぞ」



吸血娘「じゃあ何か作って。今は動く気しない」ゴロゴロ



屍男「……分かった」



モグモグ モグモグ



吸血娘「……この味付けが変なのも、生前の味覚がおかしかったせいか」

吸血娘「お前はこれ美味しいと思ってんの?」


屍男「……あぁ、そのつもりで作っているが」
387 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/14(日) 05:17:32.83 ID:PylgOG9Ko
吸血娘「死んでも直ってないのか……まあ頭もハゲたまんまだしそこら辺は変わってないのな」モグモグ


屍男「……」

屍男「最後に、もう一度だけ確認させてくれ。いいんだな、お前はこれで」


吸血娘「あ?今更なんだよ」


屍男「……気が付いたんだ。俺の時間はあの日以来、止まったままだった」

屍男「だが、命を落とし、怪物になることで、ようやくその時間がまた進み始めたと感じる」

屍男「お前には……この針を、止める権利がある。気が変わったらいつでも言え」


吸血娘「はぁ……私、お前のそういうところ大っ嫌い。空気も心も読めてないのが」

吸血娘「いいよ、いつかお前は私が殺してやる。でもそれはお前が寿命で死ぬ時だ。怪物にも寿命があるのかは知らんけど」


屍男「……そうか」
388 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/14(日) 05:19:12.10 ID:PylgOG9Ko
吸血娘「納得出来ないのは分かるよ。私も、この決断が正しいとは思えないし、間違ってるとも思う」

吸血娘「でも、何が正しいかなんて、誰にも分からないんだよ。この世界ってのはそういうもんって、お前も言ってたじゃん」

吸血娘「じゃあ……自分を信じるしかないでしょ。間違っていようとも、自分の心に従って生きる。それしかないんだから」



屍男「……」


吸血娘「はい、じゃあこれ」スッ


屍男「ちょっと待って。またやるのか?昨日やったばかりだぞ」


吸血娘「話を戻したのはお前だろ。これは決意の表明でもあるんだからな。さっさとしろ」


屍男「……はぁ」
389 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/14(日) 05:20:22.84 ID:PylgOG9Ko
屍男(何が正しいのか、それは誰にも分からない、か)

屍男(その通りだ。だから今は生きるしかない。このかりそめの平和を、俺は……)

屍男(また血で染まる、その時まで)




コンッ




吸血娘「これからも、よろしくな!ハゲ!」

屍男「……あぁ、こちらこそな。相棒」







END
390 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/14(日) 05:21:16.11 ID:PylgOG9Ko








……………………………………………………
……………………………………







391 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/14(日) 05:22:34.81 ID:PylgOG9Ko
プルルルルル……プルルルルル……

ガチャ


屍男「珍しいな。お前から電話をかけてくるなんて。何かあったか」


『……ゾンビくん。あの約束は覚えている?』


屍男「約束?」


『ほら、あの時、空港でしたじゃない。手が借りたくなったらいつでも呼んでくれって』


屍男「……何かあったのか」


『えぇ、実はちょっと色々あってね。困ったことになっているのよ』


屍男「……分かった。場所を言え。すぐに向かってやる」







END……?
392 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/14(日) 05:24:31.42 ID:PylgOG9Ko
霊能少女「本当の戦いはこれからってやつかな」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1520603965/

幼女幽霊「バケモンにはバケモンをぶつけんだよ!」DQN幽霊「!?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1466012540/

幼女幽霊「ちょっと昔話でもしようか」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1525550862/

幼女幽霊「呪いが勝つのか、幽霊が勝つのか実験だよ実験!!」DQN幽霊「!?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1530550185/
393 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/14(日) 05:26:30.53 ID:PylgOG9Ko
ってことで終わりです
綺麗に終わったように見えるんですがまーまだ謎が色々残ってるんですよね…予定だと残りは屍男と霊能少女の完結編で2スレほどある感じです
屍男の方はこれまで2つの物語と絡まなかったこともあって番外編みたいになっているんですが、実は本筋は霊能少女と同じで次でその意味が分かると思います
色々主人公の三人は共通点があるんですが最後には同じ結果に辿り着きます。それがどんな結末なのか予想しながら見てもらえるといいかなと思います
394 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/04/14(日) 05:27:21.39 ID:PylgOG9Ko
そして途中で言った重大なお知らせってなんなのかって話なんですけど…ごめんなさい、悪いニュースです
実は自分今年で受験生でSSが書けない状況に陥りました…
このスレも完結に三ヶ月近くかかってることもあり、間が開いてしまうのは完全に自分の落ち度です。ごめんなさい
ただここまで来てエタるということは絶対にないので、来年には必ず完結します
忘れた頃にやってくると思うので…待ってもらえると嬉しいです
もし作品に関する質問とか疑問とかあったら出来るだけ答えます
395 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/14(日) 07:17:28.25 ID:Y2+sIGsP0
書籍化じゃなかったかー

悪い結果になって意気消沈でエタる、ってのがおそらく俺らにとって最悪のパターンだから、絶対に良い結果出して帰ってきてくれよな!
あとアホの俺にもすぐこのシリーズだってわかるスレタイでたのんます
396 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/14(日) 07:51:08.71 ID:xNoCMkfFo
おつおつ、忙しい中お疲れ
面白かったし吸血鬼かわいかった
待ってるから安心して励んでくれ
397 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/14(日) 13:38:11.19 ID:ZObL5qOBO
乙面白かった
398 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/14(日) 13:42:20.31 ID:HpN6msZIo
完結してくれるだけでありがたいぞ
サイトとかで纏めてたらみたいし
拳合わせるの凄く好き
受験頑張って
おつおつ
399 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/14(日) 14:47:18.68 ID:w7glR902O

面白かった
次も期待してるムリしない程度で書いてくれ
400 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/15(月) 15:03:03.14 ID:611UgkHHo
おお若いな 適度に息抜きつつ適度に頑張ってくれ
401 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2019/12/04(水) 04:16:52.16 ID:hgv7Elsgo
生存報告的な何か
色々待たせてしまってごめんなさい…一応まだ生きてます
受験の方ですが一段落付いたので、もしかしたら来月には続きを書けるかもしれないです
まだ確定していないので断言は出来ないんですけど…また近いうちに短編と一緒にこのスレで報告させてもらいます
402 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2020/02/05(水) 10:06:56.94 ID:2FhL85uyo
吸血娘「オラァ!ハゲ!心霊スポットに行くぞ!!!!」


屍男「……」

屍男「……いきなりなんだ。今、何時だと思っている。夜中の二時だぞ」


吸血娘「アホか!真昼間から肝試しに行く馬鹿がどこにいるんだよ!」


屍男「……明日もバイトがあるんだ。俺は寝るぞ」ゴロン


吸血娘「ふーん、あっそ。私の人生をめちゃくちゃにしておいて、自分はゆっくりおねんねですか」


屍男「…………」


吸血娘「じゃあいいですよ。私は一人で行きますから。あーあ……パパが生きてたら一緒に連れて行ってくれたのになぁ……」

吸血娘「うぅっ……パパ……」ウルウル


屍男(……こ、こいつというやつは……)
403 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2020/02/05(水) 10:07:56.26 ID:2FhL85uyo
……………………………………………
……………………………


屍男「……」

吸血娘「ふむふむ、地図だとこの山道をずっと登ったところにあるのか」

屍男「おい、いきなりなぜ心霊スポットなんだ。理由くらい聞かせろ」

吸血娘「え?別に?理由なんてないけど?」

吸血娘「ただ単にホラー映画見てたら、そういや私って幽霊見たことなかったなって思って、見たくなっただけ」

吸血娘「で、ネットで調べてみたらこの近くに心霊スポットがあるって見つけて、こりゃ行くしかないっしょってことになったわけよ」

屍男「……そんな下らん理由で俺を連れ回すのか」

吸血娘「お前が私のパパを殺した理由に比べたら可愛いもんだろ」

屍男「…………」


吸血娘「突っ立ってないでさっさと行くぞハゲ。頭の表面だけじゃなくて、中身までスカスカになったのか」


屍男(……あぁ、クソ)
404 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2020/02/05(水) 10:09:18.33 ID:2FhL85uyo
吸血娘「で、ハゲ。幽霊と怪物って何が違うの?」


屍男「……なんだ。そんなことも知らないのか」


吸血娘「そりゃね、職業柄的に怪物とは何回か会ったことがあるけど、幽霊はないからな。だってあいつら金稼ぐ必要ないし」

吸血娘「幽霊と怪物って具体的に何が違うの?」


屍男「……一番の大きな違いは、肉体を持たない霊体ということにあるだろうな」

屍男「その特性故に、感じ取れる素質がないと探知することが出来ない。俗にいう霊感というやつだ」

屍男「他にも、基本的には物理攻撃が通じないために対策は必須だ。サシでやり合う相手ではないな」


吸血娘「ふーん……怪物と比べたら強いの?」
405 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2020/02/05(水) 10:11:35.02 ID:2FhL85uyo
屍男「個体にもよる。が、攻撃を通す手段さえあればそこまでの相手ではない。肉体を持ってない分、防御は脆いからな」

屍男「だがこれはあくまで通常の霊の話だ。”足付き”相手になると話は変わる」


吸血娘「足付き……?」


屍男「あぁ、普通霊の下半身には脚が付いていないんだが、極稀にそれが付いている個体が存在する」

屍男「こいつらは手強い。その力は通常の霊とは大きく異なる。次元を歪める力や、人を発狂させる精神汚染、強力な念力など、その力は多岐にわたる」

屍男「真っ向から挑めば、まず返り討ちだ。狩人でも相当の手練ではないと勝負にならない」


吸血娘「……ふーん、中々強そうじゃん。そいつとならいい勝負になるかも」
406 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2020/02/05(水) 10:12:40.38 ID:2FhL85uyo
屍男「……狩人の世界で幽霊とは主にこの二つを指す。だが、正確にはもう一つの分類が存在する」


吸血娘「え?まだあんの?」


屍男「あぁ、それが”突然変異”だ」

屍男「はっきり言って霊の中ではこいつらが一番警戒すべき相手だ。”足付き”より更に数が少ないが、その分タチが悪い」

屍男「”突然変異”が誕生する経路はその個体によって違うが、共通しているのは霊体が肉体の代わりの媒体を得て、その姿を変化させるということにある」


吸血娘「……ん?つまりどういうこと?幽霊なのに霊体じゃないの?」


屍男「あぁ、分かりやすい例を挙げるなら……以前、俺が遭遇した”突然変異”はカメラの姿をしていた」


吸血娘「カメラァ????」
407 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2020/02/05(水) 10:14:17.49 ID:2FhL85uyo
屍男「そいつの特性は単純なものだ。そのカメラで撮影した人物を呪い殺す。恐らく、持ち主の霊がカメラと融合したものなのだろうな。俺が確認した限りではこれまで犠牲者が三桁近くにまで上っていた」


吸血娘「でもそんなカメラただぶっ壊せばいいだけじゃないの?」


屍男「そこが”突然変異”の厄介なところだ。奴らの共通点として何らかの不死性を得ている」

屍男「物理的な破壊手段は考えうる限りの全てを試した。しかし破壊には至らなかった」

屍男「ならば祓いの力ではどうだと、これも全ての方法を試した。”足付き”の霊でも一発で消滅するような道具をいくつも使ってな」

屍男「だが、これも無駄だった。そいつを壊すことは如何なる手段を用いても出来なかったんだ」


吸血娘「……で、どうしたんだそのカメラ。封印でもしたの?」


屍男「いや、それも考えたが……このカメラはもう一つの特性を持っていた。一定期間撮影が行われないと、瞬間移動をする性質があったんだ。持ち主の元を離れ、人通りの多いところに突然現れる」

屍男「これはどのような封印刻式を施しても、通用しなかった。自分から手を汚すことはないが、俺達以上の不死身の存在と言ってもいいだろうな」


吸血娘「……や、やばくね?それ……」

吸血娘「そ、そのカメラって今どこにあるの?まさか、今でも放置したままなんじゃ……」
408 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2020/02/05(水) 10:16:20.96 ID:2FhL85uyo
屍男「安心しろ。結果的には破壊に成功した」


吸血娘「え?マジで?どうやったの?」


屍男「そのカメラは人間を撮影するとその人間を呪い殺す。では人間以外を写すとどうなるか……という話になる」

屍男「試しに、俺が標的にしていた怪物をそのカメラで撮影してみた。生者ではない存在を写せばどうなるか……とな」


吸血娘「どうなったんだ?」


屍男「写した怪物は数秒後に、カメラの呪いで死んだ。これでカメラの能力が人間以外にも通用することが証明された」

屍男「そこからしばらくはそのカメラを狩りの道具として使っていたんだが、ある日突然シャッターが切れなくなった」

屍男「カメラはなぜか分らんが故障していた。その日以来、そいつはただのガラクタになってしまった」


吸血娘「……どゆこと?」
409 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2020/02/05(水) 10:18:32.17 ID:2FhL85uyo
屍男「考えられる可能性は一つあった。これが”突然変異”の弱点なのかもしれない」

屍男「奴らは生きている対象、生者相手には無敵に近い存在だが、同族の死者、霊や怪物には弱い……と推測出来る」

屍男「同じ波をぶつければ、その波の勢いは落ち、両者は打ち消される……」


吸血娘「……つまり”突然変異”の弱点は同じ死者なのか」


屍男「あぁ、さっきも説明したが、突然変異は他の媒体を肉体の代用として、その身を融合させることで産まれる」

屍男「つまり、霊体に不純物が混じってしまう。これが霊の弱点を消している」

屍男「だが、その代償としてとても不安定な存在になってしまっているのだろう。僅かにでもそのバランスを崩せば……消滅させることが出来るのかもしれない」
410 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2020/02/05(水) 10:19:57.99 ID:2FhL85uyo
吸血娘「ふーん、なるほどねぇ。自分の弱点を消すことは出来たけど、完璧な存在にはなれないってことか」

吸血娘「他は?他の”突然変異”の例とかないの?」


屍男「……俺の経験でも、完全に消滅させることが出来たのはこの件だけだ」

屍男「”突然変異”へと辿り着く個体はかなり少ない。それに加えて、大抵は物理的な物に宿るのではなく、”現象”としてその姿を変化させる」


吸血娘「現象?」


屍男「分かりやすく言うなら天変地異の災害だ。ハリケーン、地震、火山の噴火など…人の手ではどうにもならない存在だ。これらは地縛霊のようにその土地に住み着いていて、俺でも手を出せない」

屍男「他にも、歴史を辿ればかつて中世で流行した黒死病、これはただのウイルスではなく、霊がウイルスに”突然変異”した、という説もある」


吸血娘「え?マジで!?」
411 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2020/02/05(水) 10:20:30.06 ID:2FhL85uyo
屍男「あくまで一説だがな。だが、可能性としては充分にあり得る」


吸血娘「マジかぁ……そいつはヘビーな話だな……」

吸血娘「しかし最強の狩人の”Shadow”でも勝てない相手がいるんだな。この世界も広いってことか」


屍男「……そうだな。俺もまだ……狩り残したやつらが何人かいる」


吸血娘「どうするよ、その心霊スポットに突然変異の幽霊がいたら!」


屍男「あり得ない話をするな。例えいたとしても足がない下級霊だろう。そんな偶然があってたまるか」
412 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2020/02/05(水) 10:21:38.60 ID:2FhL85uyo
…………………………………………
……………………………




幼女幽霊「ぶえっくしょい!!!!!!ちくしょうえい!!!!!」クシュン

幼女幽霊「な、なんだ……急にくしゃみが……誰か私の噂してんのかな」ズズー




DQN幽霊「いや先輩、なんで幽霊なのにくしゃみしてんスか。おかしいっスよ」


幼女幽霊「足付きはくしゃみもするんだよ。下級霊のお前には分かんないだろうけど」


DQN幽霊「まーたそうやってマウント取るんだから……ガキっスね」



ボコッ!!!!!!!!



DQN幽霊「」



幼女幽霊「次舐めたら殺す」
413 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2020/02/05(水) 10:22:29.97 ID:2FhL85uyo
幼女幽霊「しかし、今週は一人も客来ねえなぁ……退屈だわ」


DQN幽霊「い、いてて……そりゃそうっスよ。もう肝試しシーズンなんてとっくに過ぎてるんだから」


幼女幽霊「はぁ……誰か来ねえかなぁ……何か来る予感すんだけどなぁ……」



ピーーー



幼女幽霊「来たあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!すげぇ!!!!!私の勘やっぱ当たるじゃん!!!!!」



DQN幽霊(な、なんて都合がいいんだ……)


幼女幽霊「どれどれ……どんな面をしてやがる……」

幼女幽霊「ん?こいつは……」
414 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2020/02/05(水) 10:24:11.95 ID:2FhL85uyo






屍男『……』






DQN幽霊「ハゲのおっさん一人だけっスね」

幼女幽霊「…………」ピクッ

DQN幽霊「ん?どうしたんスか先輩」

幼女幽霊「……何でもない」



幼女幽霊(な、なにこれ……今、変な感じがした)

幼女幽霊(あのハゲ……何者だ)
415 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2020/02/05(水) 10:24:59.08 ID:2FhL85uyo
DQN幽霊「で、今日はどうするんスか?」

幼女幽霊「……いや、今日はいいわ。気分じゃない」

DQN幽霊「えっ!?」

幼女幽霊「私の勘がしない方がいいって言ってるし、今日はそのまま放置で」

DQN幽霊(め、珍しいな……先輩が客を放置するなんて)








屍男「…………」ジー


吸血娘「どしたハゲ。じっと入り口付近でも見つめて」

屍男「……お前は確か、カメラなどの被写体にならないにならないんだったな」

吸血娘「は?急に何?」

屍男「……何でもない。行くぞ」
416 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2020/02/05(水) 10:25:57.05 ID:2FhL85uyo
屍男(確認出来るだけで15台、死角がないように上手く隠して配置されている)

屍男(だが、プロの仕業ではないな。よく出来ているが、まだアマチュアの域だ)

屍男(大方、こちらの様子を地下のモニターで監視していると言ったところか、この廃墟の空気から察するに、霊がいるのは本当らしいな)

屍男(……悪趣味な奴だ)


吸血娘「出てこねえなぁ……幽霊……」


屍男「……あぁ、そうだな」


吸血娘「寒いし帰るか。つまんね、もう飽きた」


屍男「……相変わらず飽きっぽいやつだ」
417 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2020/02/05(水) 10:26:39.32 ID:2FhL85uyo
スタスタ スタスタ


吸血娘「あーあ、結局幽霊が出るって噂は嘘だったみたいだな。無駄足だったわ」

吸血娘「結構ネットだと報告多かったんだけどなぁ。やっぱネットの情報は信用ならないな」


屍男「……その噂、あそこで行方不明者でもいるのか?」


吸血娘「ん?あぁ、そういうのじゃなくて、ただ幽霊を見たって書き込みが多かっただけ」


屍男「……そうか」






屍男(……大人しくしているなら、こちらから手は出さない)


屍男(精々、慎ましく生きることだな。お互いに)
418 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2020/02/05(水) 10:28:22.94 ID:2FhL85uyo
幼女幽霊(な、なんだったんだろあいつ。あいつと同じ霊能力者……ってことはないな。こっちには二度と干渉しないって言ってたし、約束を破るやつとも思えない)




幼女幽霊(……いや、どちらかと言うと……あの感覚は人間じゃなくて、私達と同じ……)




幼女幽霊(あーもう!!!!!!!胃が痛くなってきたわ!!!!!!なんなんだよあのハゲはあああああああああああ!!!!!!!!!!)








おわり
419 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2020/02/05(水) 10:31:19.27 ID:2FhL85uyo
はい
ということで色々遅れちゃったんですけど無事終わりました
今月中には新しいスレを立てられると思うのでよろしくお願いします
420 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/05(水) 18:21:03.27 ID:Tc7O+l/e0
おつ
新スレ楽しみにしてる
421 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/10(月) 08:53:35.69 ID:QlxNae7KO
おぉ あの作者だっったのか
次スレも楽しみにしてるよ
422 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/04/14(火) 13:19:42.30 ID:wUHjVAZc0
これもしかして新スレもうできてる?見つけれないんだが
423 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/04/14(火) 16:46:28.34 ID:bW4OvB4K0
ageんなks
424 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/04/14(火) 20:41:43.81 ID:6Biw7bxIO
>>422
ほれ
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