勇者「彼は正しく英雄だった」

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51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 22:06:29.84 ID:hSRFEIsWO

暫く歩くと背後で響く怒号が止んだ。

おそらく、受付嬢が酒場に顔を出したのだろう。

魔法使い「ああいう奴が嫌いなんだよ……」

▼傭兵は穏やかに注意した。

魔法使い「分かってるよ。賢い人なら相手にしないんだろうけど、私にそれは無理っぽい」

魔法使い「一回は我慢しろ?」

魔法使い「分かった分かった、次は我慢する。出来るか分かんないけど努力はする」

魔法使い「真面目に聞いてるよ」

魔法使い「今は一人じゃないんだ。ああいうのは避けるべきだってことは分かってる。だけど、我慢出来なくってさ」

▼傭兵は優しく微笑んだ。

魔法使い「うるさい、子供扱いすんな」

魔法使い「って言うか、若いなあ、とか言わないでよ。それは流石にオッサンっぽいよ?」

▼傭兵は少し落ち込んでいる……

魔法使い「ご、ごめんて。そんなに落ち込まなくてもいいじゃんか……」

魔法使い「でさ、調査って何するわけ?」
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 22:08:12.90 ID:hSRFEIsWO

第六話 子知らず

終わり
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 22:11:47.11 ID:hSRFEIsWO

第七話

街の外れ。

二人は双眼鏡を手に屋根に寝そべり、幾つかの空き家が立ち並ぶ一画を監視していた。

受付嬢に会うことは出来なかったが、傭兵は既に依頼内容に目を通していたようだ。

魔法使い「戦士? 誰それ?」

魔法使い「へ〜、私と同期なんだ。いや、知らん。他の街の傭兵とか気にしたことないし」

魔法使い「で、そいつがどうしたのさ」

▼傭兵は説明した。

行方不明になったはずの傭兵、戦士が、最近この街で目撃されている。

腕は立つらしく早々に国から引き抜かれたという噂もあったが国はそれを否定している。

特に依頼を受けたりするわけでもなく、この街に潜んでいるらしく、この辺りにいる可能性が高い。

戦士に何が起きたのか、その真意を確かめるのが今回の依頼である。


魔法使い「国にも聞いたんだ。その依頼って国側から? それともこっち側、請負業界から?」
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 22:13:46.96 ID:hSRFEIsWO

▼傭兵は答えた。

魔法使い「こっち側の依頼か……」

魔法使い「そりゃそうだよね。国は傭兵がどうなったかなんて気にしないよね」

魔法使い「で、どうするの? 空き家を片っ端から調べてく?」

魔法使い「は? 夜まで!? まだ昼だよ!? 夜からで良かったじゃんか……」

魔法使い「はいはい、まずは何時何処に出入りしてるのか調べるわけね。分かりましたよ」

魔法使い「……あっ!!」

魔法使い「あそこの空き家を見て下さい!! 若い男女が入って行きました!!」

魔法使い「う〜ん、女の子は渋々って感じだねえ。男に押し切られたのかな。まったく最近の若いもんは……」

▼傭兵は双眼鏡を取り上げた!

魔法使い「なにさ、別にいいじゃんか」

魔法使い「だって見られる覚悟あってのことでしょ? だったら果てるまで見届ける責任があると思わない?」
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 22:15:40.75 ID:hSRFEIsWO

▼傭兵は魔法使いの頭をぺちんと叩いた!

魔法使い「あいたっ、冗談だってば……」

魔法使い「でもさ、欲望に忠実そうで羨ましいな。ある意味真っ直ぐじゃん」

魔法使い「ああいう熱を保つのって難しそうだけど、見てる分には楽しいしさ」

魔法使い「……あのさ」

魔法使い「あの二人、引っ付いて出て来るのかな。それとも口も利かないで出て来るのかな……」

▼傭兵は慎重に言葉を選んで答えた!

魔法使い「男の子次第か、まあそうだよね」

魔法使い「アンタはどっちだと思う? さっきの男の子は終わった後に愛を囁くと思う?」

魔法使い「……現実的だね。でも、私もそう思うよ。あの女の子には気の毒だけどね」
56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 22:17:07.78 ID:hSRFEIsWO

魔法使い「冷めてる?」

魔法使い「そうかなぁ、多分これくらいが普通だよ。恋に恋する女なんてとっくに絶滅してる」

▼傭兵は現実に絶望した。

魔法使い「いや、まだ絶滅してないか。少なくとも、あの空き家の中に一人いるわけだし」

魔法使い「出て来る頃には冷めてるかもだけど今はまだ……あ……絶滅しちゃった」

上着を手に足早に立ち去る同じ年頃の女性を、魔法使いは気の毒そうに見つめている。

魔法使い「アンタの言う通りだったね……」

魔法使い「いや、男はああいう奴ばかりじゃないとか言われても説得力ないって。あれが現実なんだからさ」

▼傭兵は何故か謝罪してしまった!

魔法使い「何でアンタが謝るのさ……」

魔法使い「あ〜、もしかしてそういう経験がおありで? 若い頃は遊んでたんだ?」
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 22:19:25.58 ID:hSRFEIsWO

▼傭兵は咄嗟に否定した!

魔法使い「ふーん。まあいいけどさ」

魔法使い「あっ、男の子が出て来たよ!?」

魔法使い「何してんのかな? 落ち込んでる暇があるなら何でさっさと追い掛ければ良いのに」

▼傭兵は答えに窮した!

魔法使い「そしたら、まだ望みはあったかも知れないじゃん。すぐ諦めるからダメなんだよ」

魔法使い「アンタだったらどうする? って言うか、今の若い子とアンタが若い頃って何が違うの?」

▼傭兵は矢継ぎ早の問いにたじろいでいる!

魔法使い「あっ、でも世代が違ってもやることは同じか。人間って進歩しないね」


▼傭兵は世代の違いに衝撃を受けた。
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 22:21:08.80 ID:hSRFEIsWO

>>>>数時間後

魔法使い「……」カクンッ

ゴチン!

魔法使い「あいたっ……あ、ごめん。うとうとしてた。覚悟はしてたけど中々現れないね」

魔法使い「あっ」

魔法使い「え? 違う違う。今度はまぐわい目的の男女じゃないってば! ほら見てよ」

魔法使い「あれが戦士? どうするの?」

魔法使い「まだ様子見? さっさと取っ捕まえた方が早くない?」

魔法使い「あ、そっか。他にも現れるかも知れないもんね。でも、こういうの苦手だなあ」

その後も監視を続けたが戦士の他には誰も現れず、その日は戦士が出て来ることもなかった。

傭兵は引き続き監視することを決め、慎重な姿勢を示した。

魔法使いは不満そうであったが逆らうことはせず、それに従ったのだった。
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 23:16:16.90 ID:hSRFEIsWO

>>>>時は過ぎ、それから七日後

魔法使い「ふあぁ、やっぱり今日も同じだよ」

魔法使い「行動するのは日没から夜明けまで、それ以外は空き家にいる」

魔法使い「外出中に空き家を調べたけど目立ったものは何もなかったしさあ」

魔法使い「それに他の奴が出入りしてる様子もないし、街から出てる様子もない」

魔法使い「かと言って何をするわけでもなく、ああやって深夜の街をぐるぐる回るだけ」

そう言って戦士の背中を指差した。

魔法使い「確かに気味は悪いけど、悪さはしてない。声掛けても大丈夫じゃない?」

魔法使い「勿論、慎重にさ」
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 23:18:57.63 ID:hSRFEIsWO

▼傭兵は思案している。

魔法使い「もう監視で得られる情報はないよ。慎重過ぎると逃げられるかもよ?」

魔法使い「それに、最近同じ姿勢ばっかで体がバキボキ言うんだよね……んっ」

ポキポキッ

魔法使い「ふ〜っ。で、どうする?」

▼傭兵は決断した。

戦士を尾行、比較的開けた場所で接触。

傭兵が話し掛け、魔法使いは念の為に離れた位置からそれを監視する。

もしもの時は、魔法使いが援護することとなる。

魔法使い「分かった。じゃあ、行こう」

尾行に問題なく、戦士にも変化は見られない。

だが、街には変化があった。

魔法使い「あ、馬車……あれって兵士だよね。あの兵士達も調査に来たのかな」
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 23:20:31.16 ID:hSRFEIsWO

▼傭兵は走り出した!

魔法使い「え、えっ、ちょっと待っ……!?」

そう言い掛けて、魔法使いは傭兵の後に続いた。傭兵が走り出した理由は直ぐに分かった。

これまで目立った動きのなかった戦士が馬車の進路を塞ぎ、剣を抜いている。

魔法使い(今まであんなことしなかったのに、何でいきなり……)

傭兵は馬車と戦士の間に割って入り、馬車には迂回するように指示を出す。

訳が分からない様子ではあったが、一人の兵士が傭兵の顔を見ると何かを察し、馬車を走らせその場を去った。

戦士「騒ぎを起こすつもりはなかった。ただ、いい加減、待つのも限界だったんだ」

通常よりも刀身に厚みのある剣を構えながら、特徴的な犬歯を覗かせにやりと笑う。

野生的なその笑みは不敵で挑戦的、その様は若く精力に満ち溢れた獣のようだった。
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 23:23:06.88 ID:hSRFEIsWO

魔法使い「……」

魔法使いは手筈通り戦士の背後で杖を構える。

戦士「亡国の傭兵、慎重なのは歳だからか?」

構えを解いてだらりと腕を垂らすと、上半身をゆらゆらと揺らしながら、ゆっくりと傭兵に近付く。

やや細身で長身、すらりと伸びた手足、前傾をとる姿はしなやかだった。

戦士「確かめさせてもらうぜ。あんたより強くなったのかどうかをな」

魔法使い(悪いけど、させないよ)

拳大の火球を一瞬にして作り出し、戦士の背中に向けて躊躇いなく放つ。

魔力は抑えているものの、容易に避けられる速度ではない。

戦士「魔法使い、お前も我慢出来なかったんだろ。分かるぜ」

背後から迫っていた火球を事もなげに避けて見せると、戦士は傭兵に斬り掛かった。

火花、軋る金属音。戦士は長身を生かし傭兵に被さるようにして圧を掛ける。

競り合いは戦士が優勢、迷わず押し込み体を入れ替えると、更に続けた。

戦士「逸るのは分かるが終わるまで邪魔はするな。まあ、邪魔したくても出来ねえだろうけどな」
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 23:25:41.08 ID:hSRFEIsWO

両者の動きは明らかに違っていた。

戦士の繰り出す素早く重い攻撃に対して、傭兵は防御に徹することしか出来ていない。

初見ながらに防いでいるのは、並外れた経験あっての業だろう。

しかし押し切られるのも時間の問題。

尚も苛烈な攻撃を仕掛ける戦士は先程と変わらぬ獰猛な笑みを浮かべている。

一方、魔法使いは焦っていた。

(人間相手に何も出来ないのは初めてだ。ううん、これで二度目……)

これまで協力して戦った経験は一度もなく、無論、援護に徹したこともない。

才能はあるが経験がない。攻撃以外に魔力を生かす方法を知らない。

受付嬢が危惧した通り、経験不足。

このままでは二対一で戦うことすら出来ない。

数の優位を一切活かせないまま、実質一対一で勝敗は決する。

(密着してる。距離を取ろうとしてるけど、すぐに詰められてる。あれじゃ火球を放ってもオッサンに当たる。攻撃じゃダメなんだ)

魔法使いは考える。

自分が攻撃せずに戦士を倒す方法、傭兵に戦士を倒させる方法を。
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 23:26:27.38 ID:hSRFEIsWO

第七話 逸る若者達

終わり
65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 23:28:35.55 ID:hSRFEIsWO

第八話

戦士「亡国の傭兵、何故再び現れた」

戦士「伝説のまま消えていれば、無様な姿を晒さずに済んだはずだ」

至近距離の攻防から一転、戦士は大きく飛び退き距離を空ける。

やや前傾の半身になり、刀身を体で隠すように剣を構えた。

「実を言うとあんたに憧れてたんだぜ? いつかは俺もって、そう思ってた」

どう考えても届くはずのない距離から剣を振り抜くと再び火花が散った。

目を凝らすと暗闇に薄い銀色の糸が引いている。細く引き伸ばされたような何かだ。

魔法使い(今のは何?)

魔法使い(魔力で刀身を引き伸ばしてるの? それとも刀身自体が魔術? アイツ、見掛けに寄らず繊細な魔術を……)

相変わらず、傭兵は防戦一方。

頬や腕にうっすらと血が流れている。それだけで済んでいることが幸運と言えた。
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 23:30:47.59 ID:hSRFEIsWO

しかし、更に速度が上がる。

どうやら、傭兵が反応出来る速度を見極めていたようだった。

傭兵の胸当てに深い傷がつく。敢えてそうしたのか、戦士には明らかな落胆の色が見えた。

「憧れてたよ。今は悲しいだけだけどな」

急激に距離を詰めて一層強く振り下ろされた戦士の剣は、傭兵の剣を叩き落とした。

傭兵はただじっと戦士の瞳を見つめ、何かを察したようだった。

「覚悟は出来てんだな」

「あんたには憧れのままでいて欲しかった。安心しろ、このことは話さない。あんたは伝説のままだ」

喉元に切っ先を突き付けながら、落胆と後悔が入り混じった声で戦士は言った。

攻め続けた結果戦士は肩で息をしており、額から頬に幾筋もの汗が伝っている。
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 23:36:13.30 ID:hSRFEIsWO

「……冗談だろ」

異様だった。

傭兵の額には汗一つなく、じっと戦士を見つめている。それは観察しているようにも見えた。

幾ら防御に徹していたとしても重圧はある。当然、しくじれば死ぬ。

にも拘わらず、汗一つない。

表情にも一切変化はない。戦士にも、自分の生死にさえも関心がないように見える。

と言うことは、既に死を受け入れていたのか。或いは体質という可能性もある。

前者だとしたら疑問が残る。

何故、亡国の傭兵は攻撃を防ぎ続けたのか。

本当に防戦一方だったなら、顔に出さないとしても冷や汗の一つは流れるはずだ。

その時、戦士の脳裏に一つの仮説が浮かび上がる。

(なら、俺は最初から……)

その時視界の隅、傭兵の後方に何かが浮かび上がった。ぼんやり光る、真ん丸の何かだ。
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 23:38:01.58 ID:hSRFEIsWO

魔法使い「オッサン、ごめんっ!!」

戦士「バカかテメエは!!」

決着が付き気を抜いたのか反応は遅れ、疲労に足が縺れたのか動き出しも遅れた。

(巻き込まれるなんて冗談じゃ)

傭兵の背中目掛けて放たれた火球は寸分の狂いなく向かってくる。

だがそれは着弾目前に上昇して爆ぜた。威力はないが発する光は尋常ではない。

「何だよ、邪魔出来たのかよ、魔法使い……」

眩い光の中、戦士は視界を奪われ膝を突く。

瞼を開くと、そこには想像通りの光景があった。

見上げる自分、それを見下ろす傭兵と喉元に突き付けられた切っ先。
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 23:40:30.17 ID:hSRFEIsWO

戦士「……殺せよ。亡国の傭兵」

戦士「俺はそうするつもりだったんだ。そうされる覚悟は出来てる」

その声に偽りはなく、これから起きるであろうことに納得もしている様子だった。

だが満足はしていない。

憧れに挑み、憧れを超える。その望みは叶うことはなく心残りだけがあった。

「あんたがどれだけ強いのか、ずっと知りたかったんだ。最後に教えてくれねえか」

傭兵はやはり無言だった。

「あの野郎が言った通り、けちだな」

振り上げられた剣を眺めながら、傭兵の傍らに立つ魔法使いを見つめた。

「お前は良い先生に恵まれたなあ、魔法使い。まあ、精々大事にしろよ。年寄りなんだからな……」
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 23:44:16.90 ID:hSRFEIsWO

魔法使い「……殺すの?」

▼傭兵は答えない。

戦士「殺すさ」

魔法使い「アンタは黙ってて!! オッサン、生け捕りにしよう。何か分かるかも知れない」

▼傭兵は答えない。

戦士「亡国の傭兵に挑んで生きてる奴はいないんだ。そんなことも知らねえのかよ」

魔法使い「知るか、そんなのに興味ない」

戦士「先生のことくらい知っとけよ。亡国の傭兵は凄かったんだぜ?」

魔法使い「知らん。誰が強かったとか誰が凄かったとか、そんな『かった』に私は興味ない」

戦士「……」

▼傭兵は無言のまま剣を振り下ろした!

魔法使い「!?」

戦士「じゃあな、楽しかったぜ」

▼傭兵は戦士を倒した。

戦士の望みは傭兵によって絶たれた。
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 23:45:22.63 ID:hSRFEIsWO

第八話 先生の教育方法

終わり
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 23:46:01.63 ID:hSRFEIsWO
ここまで
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/28(金) 10:29:47.56 ID:PY+CfOPCo
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/30(日) 00:43:22.61 ID:YK9aznjmO

第九話

翌日早朝

受付嬢「ですから、戦士は昨晩に死亡しました」

将校「ならば遺体を引き渡せ」

受付嬢「遺体を? 何故でしょうか?」

将校「貴様には関係ない。遺体は何処にある」

受付嬢「存じ上げません。遺体の処理は依頼を担当した傭兵に任せております」

将校「いい加減にしろよ、小娘。俺の部下が此処に戦士を担ぎ込んだ所を見ているんだよ」

受付嬢「だったら何だと言うのです。我々には貴方に協力する義務はありません」

将校「国の庇護を受けていながらその言い分は通用しない。薄汚い傭兵にも、それを斡旋する貴様等のような乞食にも、国に協力する義務がある」

受付嬢「その薄汚い傭兵と乞食があなた方に代わってこの街を守ってきたのです」

受付嬢「貴方は庇護と口にしましたが、戦時のどさくさで奪われた時から今まで庇護を受けた記憶はありません。母にも、私にも」

将校「貴様が国を恨んでいようが関係はない。こうして兵を引き連れてやって来たのが庇護でなくて何だ」
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/30(日) 00:46:57.57 ID:YK9aznjmO

受付嬢「明確な協定違反です」

将校「貴様……」

受付嬢「彼が国の命に従うのを条件として、この街に自治を認め不可侵とする。私のような小娘は知らないと思いましたか?」

将校「『一定の自治権』だ。間違えるな。このような場合は適応されない」

受付嬢「では突然現れた挙げ句に何の説明もなく受け入れろと? そもそも、このような場合とは何でしょうか? あなた方の衣食住は誰が負担するのです?」

将校「負担? 守ってやると言っているのだ。提供するのは当然の義務だ」

受付嬢「口振りは略奪者のそれですね」

将校「何とでも言え。本来なら貴様のような輩に顔を出す必要などないのだぞ。こうして話してやるだけでも有り難いと思え」

受付嬢「貴方には呆れました」

将校「此方の台詞だ。さっさと戦士を引き渡せ」

受付嬢「そうですか、仕方ありませんね。いいでしょう。その代わり、この街から兵を連れて引き上げて下さい」
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/30(日) 00:49:19.36 ID:YK9aznjmO

将校「良いだろう」

受付嬢「随分と聞き分けが良いですね。最初からそれだけが目的ですか? 兵士を多く引き連れて来たのもこの交渉の為だけに?」

将校「答える必要はない。そんなことよりさっさとしろ。こんな街、一分一秒も早く出て行きたい」

受付嬢「ではどうぞ、此方が戦士になります」

ゴトンッ

将校「何だそれは……」

受付嬢「見ての通り遺骨です。捕縛することは叶わず、交戦中に放った魔術で燃えて尽きてしまったようです」

受付嬢「我々としては戦士がそれほど重要人物だと思っていませんでした。まあ、こうなっては仕方がありません。
    兵士を先に向かせるのではく上官である貴方が先に来ていればまた違った結果になっていたかもしれませんね」

将校「ふざけるな!!」

受付嬢「喧しいですね。これはお渡ししますので、約束通り街からお引き取り下さい」
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/30(日) 00:52:44.57 ID:YK9aznjmO

将校「認められか、こんなこと」

受付嬢「此方としては最大限譲歩したつもりです。各地の請負人、各地の傭兵と敵対することなく生きて帰ることが出来る。それだけでは不満ですか?」

将校「こんな街一つを落とすのは容易いぞ」

受付嬢「そうでしょうね。そして、彼が国に従う理由も失われる。そうなれば彼は王を殺すでしょう」

受付嬢「彼は執拗に王の命のみを狙う。何年何十年経とうと必ずやり遂げる。犠牲も出るでしょう。例えば唯一の男児であり、武勇で名を馳せている王子ですとか」

将校「……」ギリッ

受付嬢「王は死ぬまで怯え続けることとなる。つまり貴方は、王の平穏を脅かすと言っているのですよ?」

将校「…………っ、いずれは例の傭兵も死ぬ。この街の平穏など長くは続かない」

受付嬢「しかし、それは今ではありません。さあ、お引き取りを」

将校「後悔することになるぞ」

受付嬢「お気を付けて。この街には多く傭兵が暮らしています。大半は気のよい良識ある方々ですが、中にはそうでない方もいますので」
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/30(日) 00:54:18.79 ID:YK9aznjmO

将校「ッ、失礼する!!!」

ガチャバタンッ!

受付嬢「……」ペラッ

受付嬢「……」カリカリ

受付嬢「……」ペラッ

受付嬢「……最近は噂や伝説ばかりが一人歩きして、約定を知らない方が増えましたね。兵士にも、傭兵にも、街の人々にも」

受付嬢「……」カリカリ

受付嬢「……」ペラッ

受付嬢「……」カリカリ

受付嬢「…………しかし、国があれ程まで躍起になっているのは少々気になりますね。何か情報は得られたでしょうか」
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/30(日) 00:55:12.00 ID:YK9aznjmO

第九話 枷

終わり
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/30(日) 00:55:59.07 ID:YK9aznjmO
短いけどここまで
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/30(日) 02:23:00.73 ID:NgD/Eq0/0
乙!
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/04(金) 00:56:07.12 ID:MmUC4cqDO

面白い
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/06(日) 14:28:49.76 ID:zW/Xmae9O

面白い最初から一気に読んだわ
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/08(火) 01:17:31.28 ID:tKLIg0wqO

第十話

酒場の地下。

この机と椅子二つだけが置かれた狭い室内で、魔法使いと戦士は机を挟んで対面していた。

傭兵は戦士の背後に立ち、二人の様子を眺めている。口を出すつもりはないようだ。

壁に掛けられた光源がどこからか吹く隙間風でかたかたと揺れている。

魔法使い「もう話せる?」

戦士「……ああ、もう何ともねえ。ただ斬られた感覚が残ってるだけだ。首が妙にむず痒い」

魔法使い「アンタはどこも斬られてないし何もされてない。ただ気を失っただけだよ」

戦士「実際はそうなんだろうが確かに斬られた感覚があった。首を剣がするって抜けてくっつーか、首の中に冷たい息を吹き掛けられたみてーな」

魔法使い「ち、ちょっとやめてよ、聞いてるとゾワゾワしてくるから言わないで。そもそも聞いてないし」
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/08(火) 01:19:13.00 ID:tKLIg0wqO

戦士「なあ、どうやったんだ?」クルッ

▼傭兵は首を振り、魔法使いを指差した。

魔法使い「アンタに何が起きたのか、それが先だよ」

戦士「……分かったよ」クルッ

魔法使い「まず、失踪したって聞いたけど」

戦士「報酬貰いに行く前に宿で夕飯食ってた。そんで急に眠くなって、起きたら妙な場所に居た」

魔法使い「妙な場所?」

戦士「真っ暗な部屋で素っ裸で台に寝かされてたんだ。声がやたら響いてたから広かったのは分かる」

魔法使い「そこで何かされたの?」

戦士「何かをされたんだろうが何をされたのか分からねえ」
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/08(火) 01:23:21.85 ID:tKLIg0wqO

魔法使い「何かされたって分かるのは何でさ」

戦士「感覚が冴えてんだ。調子が良いっつーか、絶好調の状態が続いてる。魔術も前より素早く使えるしな。大したことねえと思うかも知れねえが、これはかなり大きい変化だ」

魔法使い「……そこにいた奴は? 顔とか分かる?」

戦士「姿は見えなかったけど男の声だった。お喋りな奴だったよ。こっちは意識が朦朧としてんのにずっと喋ってた」

魔法使い「なんて?」

戦士「はっきり覚えてるのは、お前のことと亡国の傭兵のことだ。同志がお前を迎えに行ったら酷い目にあったと言ってた」

魔法使い「……(同志)そいつの名は分かる?」

戦士「いいや、名は言わなかった。分かるのはお喋りな男だったってことだけだ」

魔法使い「(呪術師の仲間か)それで、アンタはそこからどうやって逃げたの?」

戦士「逃げたんじゃない。また目が覚めたら野っ原に転がってたんだ。服と装備は戻ってた」
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/08(火) 01:24:39.52 ID:tKLIg0wqO

魔法使い「この街に来た理由は?」

戦士「がらにもなく悩んだ結果、どうせ死ぬならやりたいことやって死のうと思ったんだ」

魔法使い「それ、どういう意味?」

戦士「近い内に死ぬ、そう言われた。何かされたのは事実だ。これも本当だろう」

魔法使い「何で分かるのさ。そいつの嘘かも知れないじゃん」

戦士「俺がそう感じるからだ」

おそらく本人だけが感じ取れるものなのだろう。

戦士の確信に満ちた表情を前に、魔法使いは否定することが出来なかった。

魔法使い「なら、アンタは死ぬ為にこの街に来たってわけ?」

戦士「そんな後ろ向きな理由じゃねえよ。悔いのない生き方をしようとしただけだ。本当なら素で挑みたかったけどな」
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/08(火) 01:26:39.32 ID:tKLIg0wqO

魔法使い「他にはない? その真っ暗な場所には何かなかった?」

戦士「他にも俺のような奴がいると言ってたが、この目で見た奴はいねえな」

魔法使い「子供はいなかった? 小さな子供」

戦士「子供? そいつ以外には誰もいなかったぜ? 声も聞こえなかった」

魔法使い「……」

戦士「子供がどうかしたのか?」

魔法使い「私を襲った呪術師って奴は強い魔力を持つ子供を集めてるみたいだった。そいつらは多分、子供を攫って何かしてる」

戦士「何かってのは?」

魔法使い「それは分からない。でも、私が倒した魔物の亡骸が子供の遺体に変わった。何かしてるのは間違いないよ」

戦士「……チッ、何だそりゃ。俺ぁそんな奴等に体弄られたのか、ついてねえな」
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/08(火) 01:27:47.57 ID:tKLIg0wqO

魔法使い「あのさ……」

戦士「何だ?」

魔法使い「アンタにその気があるなら、一緒にそいつらを追わない?」

戦士「急だな」

魔法使い「オッサンに頃合いを見て頼んでみろって言われたんだけど……下手くそだったかな?」

戦士「下手くそじゃねえけど唐突な感は否めねえな。つーか言っちまうんだな、そういうの」

魔法使い「こういうの慣れてないんだよね……」

戦士「下手に口が上手い奴よりはマシさ」

魔法使い「で、どうすんの? これは強制じゃない。断っても構わないよ?」

戦士「やるよ、断っても死ぬのを待つだけだしな。お前は良いのか?」

魔法使い「アンタは嫌な感じしないから構わないよ。オッサンも褒めてたし」
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/08(火) 01:28:43.76 ID:tKLIg0wqO

戦士「褒めてた? 亡国の傭兵が俺を?」

魔法使い「うん。しっかり自分を理解して長所を上手く生かしてるってさ」

戦士「そうかあ、褒められると悪い気はしねえなあ……へへっ」

魔法使い「惚れ惚れするくらい単純だね 」

戦士「うるせえ。で、何すんだ?」

魔法使い「調査っていうか、そんな感じ。情報足りないしね。今回のも調査の延長だし」

戦士「調査ね。それって俺とお前の二人でやるのか?」

魔法使い「なわけないでしょ。私とアンタとオッサンの三人だよ」
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/08(火) 01:29:41.27 ID:tKLIg0wqO

戦士「亡国の傭兵も一緒にか!?」ガタッ

魔法使い「なに興奮してんのさ……」

戦士「お前、これがどれだけ貴重な経験なのか分からねえのかよ。伝説の存在なのに……」

魔法使い「助けてもらったから感謝はしてるけど憧れとかはないし、そもそも伝説とか知らん」

戦士「この機会に教えといてやる。いいか良く聞け、亡国の傭兵は」

魔法使い「それさ、長くない?」

戦士「あん?」

魔法使い「亡国の傭兵って呼び名だよ。アンタ、これから一緒に行動するんだよ?」
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/08(火) 01:30:38.19 ID:tKLIg0wqO

戦士「そ、そうか……」

魔法使い「どしたの?」

戦士「なあ」

魔法使い「なにさ」

戦士「……なんて呼んだらいいと思う?」

魔法使い「うわ気持ちわるっ!! 憧れの年上男子と付き合いたての女子かお前は!!」

戦士「うるせえ!! これはアレだ、憧れてるからこそのアレなんだよ!!」

魔法使い「いや、アレって言われても分からんし……あ、そうだ」

戦士「先に言っとくけど、お前みたいにオッサンとか呼ばねえからな。普通に失礼だから」

魔法使い「うっさいな、それくらい私だって分かってるよ。っていうか真面目か……」

▼傭兵は二人の様子を眺めて微笑んでいる。
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/08(火) 01:31:32.12 ID:tKLIg0wqO

魔法使い「なに笑ってんのさ……」

戦士「で? 思い付いたやつは?」

魔法使い「先生だよ、先生。アンタもそう言ってたし先生でいいじゃん」

戦士「……」クルッ

戦士「先生、短い間でしょうがご指導ご鞭撻の程宜しくお願い致します」

▼傭兵は困ったように頬を掻いた。

魔法使い「堅苦しいよ。オッサンも困ってんじゃん……」

戦士「礼儀だよ礼儀。俺は先生に対して友達感覚で接するつもりはない」
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/08(火) 01:33:09.52 ID:tKLIg0wqO

魔法使い「あっそ。で、この後はどうすんの、センセ」

▼傭兵は答えた。

魔法使い「受付さんに報告ね、分かった。じゃあ一旦上に戻ろうか」

戦士「何でお前が仕切ってんだよ」

魔法使い「オッサンに任されたの。不満ならオッサンに言ってよ」

戦士「なあ先生、何でこいつに任せてんだ?」

魔法使い「先生にタメ口かよ、礼儀はどうした」

戦士「あんなのは最初が良ければいいんだよ。細けえ奴だな」

魔法使い「……」イラッ

戦士「何だよ」

魔法使い「次、私に反抗的な態度取ったら追放ね」
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/08(火) 01:38:47.26 ID:tKLIg0wqO

戦士「ガキかよ……」ボソッ

魔法使い「はい追放」

戦士「横暴過ぎんだろ!!」

魔法使い「うっさいなぁ……」

▼傭兵はにこにこ笑っている。

魔法使い「ほ、ほらっ、さっさと行くよ!」

戦士「はいはい……」

▼傭兵は嬉しそうに眺めている。

戦士(……笑うんだな、この人も。つーか、もう二度と戦えねえのか。出来ることなら)

魔法使い「何してんの、行くよ」

戦士「おう」

戦士(出来ることならもう一度……いや、生かされといてそれはダセえ)

戦士(けど、戦って死にてえなぁ)
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/08(火) 01:42:15.72 ID:tKLIg0wqO

>>>>応接室

▼傭兵は説明した。

受付嬢「話は分かりました。では、戦士も調査に加わるわけですね?」

▼傭兵はにこりと笑った!

受付嬢「そうするに至った経緯は後でしっかりと聞かせて下さい。良いですね?」

▼傭兵は真面目に頷いた。

受付嬢(この短期間に二人……きっと、何か考えがあってのことなのでしょう)

魔法使い「受付さん、そっちはどうだったの?」

受付嬢「変わったことはありません。将校は兵を引き連れて街を出ました。長居したくないというのは本当だったようです。安心しました」
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/08(火) 01:45:02.95 ID:tKLIg0wqO

魔法使い(冷たい声だ。嫌なこと言われたのかな……)

受付嬢「しかし、折角捕らえたと言うのに大した情報を得られなかったのは残念ですね」

戦士「そいつは悪かったな」

受付嬢「貴方の発言は許可していません」

戦士「え、酷くねえ?」

魔法使い「何か分かったことはある?」

戦士「無視すんな」

受付嬢「集団の仕業であるのは確実でしょう。魔術師が複数関与していると思われます」

戦士「なあ」

魔法使い「ん〜、戦士の話だと他にも何かされた傭兵がいるみたいだからね」

戦士「……」

受付嬢「ですが今のところ戦士以外にそのような存在は確認出来ていません」
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/08(火) 01:46:51.60 ID:tKLIg0wqO

魔法使い「だけど、まだいるかもしれない」

受付嬢「念の為、各地の同業者には失踪後に現れた傭兵に注意するよう呼び掛けます。しかし、肉体を強化するなど……」

魔法使い「本当に出来るのかな、そんなこと」

戦士「嘘じゃねえからな。証明しろって言われても出来ねえけどよ」

受付嬢「本人が明確な変化を感じている以上、気のせいではないのでしょう。もし可能なのだとしたら現代の技術ではないことは確かです」

魔法使い「戦士に何をしたんだろ?」

戦士「それは俺も気になるとこだな」

受付嬢「将校は遺体でも構わないと言った風でした。その道に詳しい人物に依頼して解剖すれば分かるかもしれません」

魔法使い「解剖は止めとこう……ところでさ、国もそいつらを追ってるんだよね?」

受付嬢「はい、傭兵だけならば無視するでしょうが、子供の失踪事件とも関連性がある以上無視出来ないでしょう」
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/08(火) 01:48:09.09 ID:tKLIg0wqO

魔法使い「それなのに将校って人は何も言わなかったわけ?」

受付嬢「向こうは向こうで解決するつもりなのでしょう。私のような請負業者や傭兵の手など借りたくないのですよ」

魔法使い「だとしても、何の説明もなく戦士を引き渡せってのは無理があるよ」

受付嬢「何か言えない理由があるのでしょうね。例えば、戦士に施されたであろう何かを流用しようとしているとか」

魔法使い「うわあ、だとしたら汚いなぁ」

受付嬢「そんなものですよ。たかが傭兵一人の為に大勢でやって来るなど絶対に有り得ませんから」

魔法使い(絶対、か……)

受付嬢「魔法使い」

魔法使い「なあに?」

受付嬢「まだ朝ですが、今日のところは休んで下さい。他の街の同業者などから情報提供があれば彼を通して報せます」
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/08(火) 01:48:57.69 ID:tKLIg0wqO

魔法使い「え、でも……」

受付嬢「一週間続けての調査など初めての経験だったでしょう? この先も調査は続きます、無理は良くありません」

魔法使い「……ありがとう。あ、そうだ、戦士はどうなるの? 寝床とかさ」

受付嬢「此方で提供しますのでご安心を」

戦士「お、そりゃ助かるな」

受付嬢「監視は付けます。ご理解下さい」

戦士「構わねえよ」

受付嬢「ありがとうございます。では魔法使い、戦士を案内して頂けますか。場所はこの紙に書いていますので」
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/08(火) 01:50:14.77 ID:tKLIg0wqO

魔法使い「ん、分かった」

戦士「で? 今日はもう終わりか?」

受付嬢「ええ、二人は下がって結構です。貴男は残って下さい」

▼傭兵は頷いた。

魔法使い「……戦士、行こう。んじゃ、またね」

戦士「先生、またな」

ガチャ パタン

受付嬢「さて、魔法使いに続いて戦士ですか。依頼を受けた時からそうするつもりだったのですか?」

受付嬢「保護?」

受付嬢「確かに、将校の様子から察するに国に狙われる可能性はあります」

受付嬢「ですが、保護であれば此方でも可能です。貴男の傍に置く必要はないと思いますが」
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/08(火) 01:51:19.24 ID:tKLIg0wqO

受付嬢「魔法使いとの相性が良い、ですか?」

▼傭兵は説明した。

戦士は近接戦闘、魔術を使用すればやや遠隔での戦闘も可能である。

経験も豊富であり、魔法使いが多大な集中力を要する魔術を使用する際は援護も期待出来る。

歳が近いと言うのも理由の一つのようだった。

受付嬢「随分と高い評価ですね」

受付嬢「しかしながら当人は遠からず死亡すると言っていました。それについてはどうです?」

受付嬢「……そうですか」

受付嬢「もしも戦士がそうであるなら、貴男の傍に置いた方がよいのでしょうね。その時はお願い致します」

▼傭兵は悲しそうに頷いた……

受付嬢「落ち込まないで下さい。まだそうなると決まったわけではないでしょう?」
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/08(火) 01:53:37.07 ID:tKLIg0wqO

▼傭兵は嘆いた。

受付嬢「……お気持ちは分かります」

受付嬢「戦士が本来歩むはずだった未来は破壊されてしまった。確かに不憫だと思いますが、どうすることも出来ません」

▼傭兵は怒りに震えている……

受付嬢「その怒りは尤もです」

受付嬢「しかし、才能溢れる若者が悪意ある大人によって消費されるのも世の常です」

▼傭兵は驚愕の表情で受付嬢を見つめた!

受付嬢「二年もあれば変わります」

受付嬢「貴男がこの街を去ってからの二年間、私はそんな人々を沢山見て来ました。貴男は私以上に見てきたはずです」

▼傭兵は何も言えない……

受付嬢「消費される若者」

受付嬢「貴男も、そうだったでしょう?」
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/08(火) 01:55:39.06 ID:tKLIg0wqO

受付嬢「だった、ではないですね。今も尚、貴男は縛られている」

▼傭兵はぐっと息を呑んだ。

受付嬢「……貴男が戦士の未来を案じるように、母も貴男の未来を案じていました」

受付嬢「自由に生きて欲しい。いつまでも鎖に繋がれたままでいて欲しくない。そう言っていました」

受付嬢「私もそう思っています」

▼傭兵は俯いた……

受付嬢「もう、よいのではないですか?」

▼傭兵の肩が僅かに揺れた。

受付嬢「一度自由に生きてみては如何です? 何ものにも囚われずに、自由に」

受付嬢「貴男になら、きっと何かを変えられます。私はそう信じています」

▼傭兵は答えない。

受付嬢「私ならもう大丈夫ですよ? 今では一人で歩くことも出来ます」
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/08(火) 01:57:16.54 ID:tKLIg0wqO

▼傭兵は答えない。

受付嬢「母もこの脚も、もう過去のことです」

▼傭兵は答えない。

受付嬢「こうして会えることは素直に喜ばしく思います。ですが、私はこんな形で貴男と繋がっていたくないのです」

▼傭兵には応えられない。

受付嬢「…………っ……ごめんなさい。今のは聞かなかったことにして下さい」

▼傭兵は頷いた……

受付嬢「ありがとうございます」

受付嬢「では、依頼は一旦区切りです。新たな情報が入るまでは待機して下さい。私からは以上です。お疲れ様でした」

▼傭兵は立ち去った……

受付嬢「……」

受付嬢「……」

受付嬢「……」

受付嬢「…………縛り続けるくらいなら、私は」
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/08(火) 01:58:02.14 ID:tKLIg0wqO

第十話 束縛

終わり
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/08(火) 06:25:47.03 ID:qvoUjke8O
乙!
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/08(火) 07:26:09.86 ID:ZaCv8CPeO
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/09(水) 00:36:44.16 ID:Kl1kwKJDO
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/09(水) 00:37:15.02 ID:Kl1kwKJDO
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/09(水) 22:06:27.98 ID:tGuYwrdyO

第十一話

>>>>帰り道

戦士「来た時から思ってたけど、この街は広いな。店も人も多い、傭兵も」

魔法使い「確かに傭兵は多いかもね。それにこの街、今は綺麗だけど私が小さい頃は汚かったんだよ」

戦士「この街の生まれか?」

魔法使い「生まれたのはこの街だけど子供の頃に都に引っ越して、また戻って来た」

戦士「都はどうだった? 行ったことねえんだ」

魔法使い「ごちゃごちゃしてたかな。教育は進んでるんじゃない? 魔術に関しては特にね」
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/09(水) 22:07:28.34 ID:tGuYwrdyO

戦士「………お前、特級だよな?」

魔法使い「そうだけど?」

戦士「ってことは、それで都に引っ越したのか?」

魔法使い「まあ、そんな感じ。学費とかも出るみたいだった。私より両親の方がやる気だったよ」

戦士「なる程なあ、娘に魔術の才能があるって分かればそうなるのも仕方ねえか」

魔法使い「かもね」

戦士「でもよ、戻ってきたってことは親御さんも一緒なんだろ? よく傭兵なんて許してくれたな」

魔法使い「喧嘩別れしちゃって一緒にはいないんだ」

戦士「そうなのか、そんなに期待してんなら連れ戻しに来そうなもんだけどな」
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/09(水) 22:08:32.22 ID:tGuYwrdyO

魔法使い「……それは絶対にないよ」

視線を外して呟くように言った。

言葉通り、連れ戻しになど絶対に来られない。魔法使いの両親は既に他界している。

戦士「そんなもんかね……」

その絶対という言葉に引っ掛かったが、それ以上追及することはしなかった。

魔法使いの態度から、両親との間に何かがあったということを察したのだろう。

恵まれた才能があっても順風満帆な人生を歩めるわけではない。それは戦士もよく知っていることだった。

魔法使い「そんなもんだよ。アンタは?」

戦士「あん?」
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/09(水) 22:09:38.98 ID:tGuYwrdyO

魔法使い「何で傭兵やってんのさ」

戦士「父親が傭兵だった。で、亡国の傭兵の話を聞かされて憧れた」

魔法使い「男の子って好きだよね、そういうの。英雄とか、ウソ臭い伝説とかさ」

戦士「男ってのはそういうのを聞くたびに強くなりたいって思っちまうんだ。ウソ臭くてもな」

魔法使い「信じてるの? その、オッサンの伝説ってやつ」

戦士「戦ってみて、伝説は全て本当だと思ったよ。聞いてた以上の人だった」

魔法使い「伝説の一つは確実に間違いだけどね」

戦士「は? 何がだよ?」

魔法使い「オッサンと戦った奴は死ぬって話だよ。アンタは生きてるでしょ?」

戦士「……そういや、そうだな」

魔法使い「ほらね? カビの生えた伝説なんて何の当てにもならないんだよ。オッサンは過去に生きてるわけじゃないしさ」
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/09(水) 22:10:46.13 ID:tGuYwrdyO

戦士「……」

考え無しに口にしただけの言葉なのだとしても、その言葉は妙に心地良く響いた。

眠気と疲労で気怠げな魔法使いの横顔を、戦士は珍しい物でも見るような顔で見つめている。

その表情は魔法使いという人物を図りかねているようにも見えた。

才能はあるが自信過剰、あまり素直な質ではないが顔に出やすく、外見とは異なり子供っぽい女。

それが戦士の抱いていた魔法使いの第一印象だったのだが、どうやら違うらしい。

そんな視線に気付く様子はなく、魔法使いは酷く眠たそうに大きな欠伸を重ねている。

魔法使い「あ、此処みたいだね。へ〜、割かし良いとこじゃん。良かったね」

戦士「ありがとな、魔法使い」

魔法使い「受付さんは監視付けるって言ってたし妙なことしないでよ?」
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/09(水) 22:12:04.42 ID:tGuYwrdyO

戦士「しねーよ」

魔法使い「なら良いけどさ。んじゃ、またね」

スタスタ

戦士「……」

通りの角を曲がるまで背中を見送ったが、魔法使いは一度も振り向くことはなかった。

その背中が先程語ったことを体現しているように思えて、戦士にはそれが眩しく見えた。

同世代の傭兵、しかも女性にこれほど強い衝撃を受けたのは初めてのことだった。

姿が見えなくなってからも呆けたように立ち尽くしていたが、ふっと笑った。

(先生には感謝しねえとな……)

闇の中で近々死ぬと告げられた時から、戦士は諦めと恐怖に囚われていた。

それは決して拭い去れるものではなく、心の奥底にしっかりと根付いている。

けれど今はただ、清々しさだけがあった。
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/09(水) 22:12:31.36 ID:tGuYwrdyO

十一話 初めて見る景色

終わり
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/09(水) 22:16:08.45 ID:tGuYwrdyO

第十二話

>>>>翌日昼

ガチャ パタン

魔法使い「おい〜っす」

戦士「よう、受付サン」

受付嬢「お待ちしておりました」

魔法使い(ねむ……)

戦士「呼び出すの早かったな」

受付嬢「急な呼び出しで申し訳ありません」

戦士「構わねえよ。で? 昨日の今日だけど、もう何か分かったのか?」

受付嬢「いえ、今回は調査の件で呼び出したわけではありません。調査に無関係とも言えませんが」
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/09(水) 22:17:04.32 ID:tGuYwrdyO

魔法使い「どういうこと?」

受付嬢「特訓です。今後の戦いに備え、今の内に息を合わせておいた方が良いとのことでした」

戦士「先生が言ったのか?」

受付嬢「はい、魔法使いにとって他の傭兵と組むのはこれが初めてのことですから」

戦士「は? お前一度も組んだことねえの?」

魔法使い「別にいいじゃん……」

戦士「通りでぎこちなかったわけだ」

魔法使い「そんなこと分かるの?」

戦士「目眩ましするまで随分時間掛かってた。慣れてるなら、もっと早く使ってたはずだろ?
   あの時は機を見計らってんのかと思ってたけど、単に何をしたら良いか分からなかったのか」
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/09(水) 22:18:05.36 ID:tGuYwrdyO

魔法使い「……仕方ないじゃん、ああいう戦い方したことないんだから」

戦士「何ふて腐れてんだよ、別に責めてるわけじゃねえよ」

受付嬢「魔力の高さとその面倒な性格が災いして、今まで誰とも組むことがなかったのです」

魔法使い「あいつらが好き勝手言って嫉妬して嫌がらせしてくるのが悪いんだよ……」

受付嬢「始めた頃は協力を持ち掛けられた時もあったではないですか。それを断ったのは貴方ですよ」

魔法使い「だって、一人で出来るし……」

受付嬢「すぐそれですね。本当は寂しがり屋な癖に一人になろうとする。少しは素直になったらどうですか?」

魔法使い「はあ? 寂しがり屋とか受付さんに言われたくないかも。オッサンに甘えてるクセにさ」

受付嬢「甘えてなどいません、馬鹿馬鹿しい」

魔法使い「嘘だね。オッサンがいる時、表情がちょびっとだけ優しいじゃん。声も違うしさ」
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/09(水) 22:19:10.61 ID:tGuYwrdyO

受付嬢「有り得ません」

魔法使い「そういうのは本人には分からないんだよ。って言うか昨日だって二人っきりで話してたじゃん」

受付嬢「仕事の話です。誤解を招くような言い方はしないで下さい」

魔法使い「はん、どうだか……」

受付嬢「嫉妬しているのですか?」

魔法使い「はあ?」

受付嬢「オッサンなどと言いながら彼を頼っています。父親に接する思春期の娘のようです」

魔法使い「なわけないでしょ、それこそあり得ないから」

受付嬢「そうでしょうか、私には甘えているように思えます。優しい父親を取られたのが気に障ったのではないですか?」

魔法使い「何その言い方、むかつくんだけど」

受付嬢「そうでしょうね、私も頭に来ています」
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/09(水) 22:21:41.19 ID:tGuYwrdyO

戦士「ガキかよ」ボソッ

受付嬢「ガキ? 誰がです?」

戦士「お前等二人共ガキだって言ってんだよ。もうすぐ先生が来るんだろ? 少しは良い子にしてろよガキ共」

受付嬢「……」

戦士(こ、こえぇ……)

魔法使い「あれ、受付さん何怒ってんの? あ、そっか、受付さんはオッサンに子供扱いされたら嫌だもんね〜」

戦士「煽んなバカ!」

魔法使い「ふん」

戦士「ったく。ほら、もういいだろ。先生が来るまで黙ってろよ」

魔法使い「はいはい」

受付嬢「……」

戦士(魔法使いはまだ分かるが、受付サンまでこんなんだとは思わなかった。顔も声も冷たそうに感じたんだが、意外だな)
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/09(水) 22:23:41.60 ID:tGuYwrdyO

受付嬢「……」ジー

魔法使い「な、なにさ、そんな目で見たって怖くないから」

受付嬢「張り込み二日目のことです」

魔法使い「は?」

受付嬢「彼と一緒に食事をして終始楽しそうに笑っていたのは十六才の女子。証言によれば随分とはしゃいでいたようです」

魔法使い「え、ちょっ何で」

受付嬢「しかし張り込み三日目、これ以上汗臭くなるのが嫌でお風呂に入りたいと我が儘を言って彼を困らせ」

魔法使い「おいやめろ」

受付嬢「張り込み四日目、少しでも彼を休ませようとしたのでしょうね。アンタ汗臭いからお風呂に入って来てと言って」

魔法使い「やめて下さいお願いします」

受付嬢「……」

魔法使い「……」
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/09(水) 22:27:07.77 ID:tGuYwrdyO

受付嬢「……」

魔法使い「……」

受付嬢「………三日目の時点で予め購入していた替えの衣服を彼に渡し」

魔法使い「それはマジでやめろ」

受付嬢「……」

魔法使い「……」

受付嬢「…………購入する際男性用の召し物がよく分からず」

魔法使い「ちょおいっ!! おい受付っ!!」

受付嬢「はい?」

魔法使い「受付さん、それ以上はいけないよ」

受付嬢「恥ずかしがりながら店員にどれが良いか訊ねている姿が目撃され」

魔法使い「ちょっと待って聞いて?」
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/09(水) 22:40:41.81 ID:dp1DiL4yO

受付嬢「お父様にですかと聞かれて、『あ、違います。でもその人、お父さんに似』」

魔法使い「だあああああああい!!! おいッ!! おい貴様っ!!」

受付嬢「気が触れましたか?」

魔法使い「世の中、知ってても言っちゃあならないことってのがあるよ」

受付嬢「素敵な話ではありませんか、話さずにおくのは勿体ないですよ。どうですか戦士、魔法使いはとっても優しい女の子でしょう?」

戦士「そっすね」

魔法使い「卑怯だよ、こんなの……」

受付嬢「酷いですね。私はただ、貴方が心配で監視を付けていただけです」

魔法使い「そうなんだ、それは素直にありがとう」

受付嬢「折角なので、この心温まるエピソードで貴方の評価を改めようと」

魔法使い「それが必要ないんだよ!! 得た情報を何でもかんでも話すのはやめてよ!!」
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/09(水) 22:41:55.24 ID:dp1DiL4yO

受付嬢「何でもかんでもは話していません」

魔法使い「そういうのやめて? 腹立つから」

受付嬢「………………あっ」

魔法使い「えっ、なに、どしたの?」

受付嬢「五日目と六日目の話をしていません」

魔法使い「しなくていいんだよ!!」

受付嬢「そうですか、それは残念ですね。とても良い話なのですが……」

魔法使い「私は知ってるからいいよ……」

受付嬢「分かりました。二人だけの思い出にしておきたいのですね?」

魔法使い「言い方!! 言い方が悪意に満ちてる!!」
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/09(水) 22:43:36.68 ID:dp1DiL4yO

受付嬢「それにしても遅いですね」

魔法使い「くっそ、覗き趣味の眼鏡女が、くっそ……」

受付嬢「口が悪いですね。お嫁に行けませんよ?」

魔法使い「性格が醜く歪んでる女よりはマシだよ」

受付嬢「五日目」

魔法使い「オッサン遅いね〜!」

受付嬢「ええ、そうですね」

戦士(先生、早く来ねえかな。つーか仲良いんだな、こいつら)
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/09(水) 22:45:09.30 ID:dp1DiL4yO

>>>>それから数分後

▼傭兵が現れた!

戦士「先生、遅かったな。待ってたぜ」

受付嬢「……」

魔法使い「……」

戦士「いや、別になんもねーよ。で、特訓って何すんだ?」

▼傭兵は依頼書を差し出した!

戦士「この依頼を俺と魔法使いで?」

戦士「なる程な、こういうのから馴らしていくわけか。でもよ、もう少し上位の魔物でも良いんじゃねーか?」

戦士「……いや、理屈は分かるけど優し過ぎねえかな? 幾ら魔法使いに組んだ経験がないからって、こんな下位の魔物じゃ相手にならねえよ」
129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/09(水) 22:46:00.48 ID:dp1DiL4yO

▼傭兵は思案している。

戦士「単体で中位の魔物とかはいないのか? 先生が指示を出せば良い訓練になるぜ?」

▼傭兵は数枚の依頼書を取り出した!

戦士「何でそんなに持ってんだよ……」

戦士「つーか、連携より先に懐に潜り込まれた時の対処法から教えた方が良いんじゃねーか? 俺が相手になるからよ」

▼傭兵は戦士の提案に感心している!

戦士「へへっ、じゃあ、そうしようぜ」

▼傭兵は頷いた。

戦士「魔法使い、行こうぜ。まずは入り込まれた時の距離の取り方からだ」

魔法使い「そんくらい出来るってば」
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/09(水) 22:47:24.37 ID:dp1DiL4yO

戦士「俺が相手でもか?」

魔法使い「……だったら見せてあげるよ。怪我しても知らないからね」

戦士「決まりだな、行こうぜ」

受付嬢「依頼は受けないのですか?」

▼傭兵は説明した。

受付嬢「近距離でどこまで出来るか確かめてから、ですか。分かりました」

受付嬢「街からは出ないのですね?」

受付嬢「では傭兵訓練場に行ってみては如何ですか? 現在利用している傭兵は極僅かですから多少のことなら問題はないかと思います」

▼傭兵は頷いた。

受付嬢「では、お気を付けて。魔法使い、頑張って下さいね」

魔法使い「うん、任してよ。んじゃ、またね」

戦士(さっきのやり取りが嘘みてえだ、さっぱりしてんなあ)
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/09(水) 22:48:27.00 ID:dp1DiL4yO

魔法使い「ほら、さっさと行くよ」

戦士「はいはい。んじゃな、受付さん」

受付嬢「はい、戦士もお気を付けて。あまり無茶はしないで下さい」

戦士「了解」

▼三人は応接室を後にした。

受付嬢「戦士、まるで以前から居たかのように馴染んでいますね。あれも才能なのかも知れませんね……」

受付嬢「……」カリカリ

受付嬢「……」ペラッ

受付嬢「……」カリカリ

受付嬢「……」ペラッ

受付嬢(戦士が羨ましい)

受付嬢「……」

受付嬢(あの輪の中に入れたなら、笑い合えたなら、どんなに幸せでしょう……?)カサッ

受付嬢(これは手紙ですね。依頼書に紛れ込んだのでしょうか? 差出人は……!?)

受付嬢(この印は、まさか……)

受付嬢(…………………………間違いない。これは、勇者の)
132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/09(水) 22:49:24.74 ID:dp1DiL4yO

>>>訓練場

戦士「塀に囲まれた刑務所みたいだな」

魔法使い「へ〜、中はこんな感じなんだね。人いないなら子供達に使わせたら良いのに」

▼傭兵は手を叩いて合図した。

戦士「うっし! じゃあ始めるか!」

魔法使い「え、もうちょっと下がってよ」

戦士「何だよ、仕方ねえな……」

魔法使い「今だ、えいっ」ボッ

戦士「あぶねっ!? バカじゃねえの!?」
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/09(水) 22:50:20.61 ID:dp1DiL4yO

魔法使い「でも避けたじゃん」

戦士「こ、この野郎、やってやるよ……」スチャッ

▼戦士は半身を取って剣を構えた!

魔法使い「え、それ使うの狡くない?」

戦士「峰打ちだし手加減するから安心しろ」

魔法使い「ちょっ」

▼戦士は横一線に振り抜いた!

魔法使い「あぶなっ!?」

▼魔法使いは咄嗟に杖を構えて防いだ!

魔法使い(重っ!? これでも手加減してんの!?)

戦士「チッ、眼も良いのかよ。それともただの勘か? どっちにしろ才能ある奴は違うなあ!!」
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/09(水) 22:55:44.15 ID:dp1DiL4yO

戦士「何だ!! 動かねえのか!?」

魔法使い(笑ってる、痩せた狼みたい。あ、これは褒めてないか……でも、間違いなく強い)

▼戦士は剣で杖を押し込んだまま距離を詰める!

魔法使い「……」

戦士(あれは何かあるな。でもまあ、突っ込まねえと特訓にならねえからな!!)

魔法使い(……今!!)

▼魔法使いは戦士との間に幾つもの火球を作り出した!

戦士(凄えな、飛ばさずに設置出来んのかよ。それにこの数、流石は特級……)

魔法使い「どうだ!! 避けらんないでしょ!!」

戦士「嘗めんな」

▼戦士は火球の隙間を縫うように向かって来る!

魔法使い(嘘でしょ、速度も落とさずに……っ、ダメだ、下がらな……きゃ!?)

▼戦士は剣をぐっと押し込んだ! 魔法使いは態勢を崩して倒れてしまった!
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/09(水) 22:58:03.71 ID:dp1DiL4yO

戦士「終いだ、魔法使い」

魔法使い「ズルい、今のナシ」

戦士「魔物相手にそれは通じねえぞ」

魔法使い「……」

戦士「素早い相手に火球を当てんのは難しい。だから止めてんだろ? それは分かる。あれは確かに有効だ」

戦士「でも抜けられたら意味がねえ。抜けられると思ったら、あれ全部を俺に集めて爆発させるくらいやれよ。油断すんな、本気出せ」

魔法使い「分かったよ。見せるよ、私の本気……」スッ

▼魔法使いは倒れたままで軽く杖を振った。

戦士「寝転がって何やって……オイ!!」

▼空中で制止していた全ての火球が、戦士に向かって放たれた!

戦士「このバカ!! 今じゃねえよアホかくたばれボケ!!」
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/09(水) 22:59:25.59 ID:dp1DiL4yO

魔法使い「冗談だって今止め」

▼戦士は一瞬にして前方の火球を剣で打ち払い、爆発範囲から逃れた。

魔法使い「るから……」

戦士「っぶねえ」

魔法使い「……すご」

戦士「この野郎……」

魔法使い「え、ちょっと待ってよ、ちゃんと爆発する前に消したよ!?」

戦士「才能と魔力を無駄遣いした本気の悪戯はやめろ。タチ悪りぃから」
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/09(水) 23:02:15.57 ID:dp1DiL4yO

魔法使い「でも、本気でやれって……」

戦士「本気で不意を突けとは言ってねえよ!! お前はあれか、脳味噌腐ってんのか!?」

魔法使い「もうやらないから許してよ!!」

戦士「何で態度がデケえんだよ……」

魔法使い「まあまあ、お互いの実力分かったし良かったじゃん」

戦士「……はぁ。お前、見えてたのか」

魔法使い「剣?」

戦士「ああ」

魔法使い「反応出来ただけで見切ったわけじゃない。さっきのは偶々だよ。あの距離から何度も打ち込まれてたら負けてた」

戦士「偶々ってことはねえだろ」

魔法使い「一度見たからタネは分かってるし、反応するだけなら出来た。どっちから来るか分かれば、後は杖を縦にして構えればどこかに当たる。でしょ?」
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/09(水) 23:02:55.83 ID:dp1DiL4yO

戦士「勘かよ。博打じゃねえんだぞ」

魔法使い「戦うってそういうもんじゃない? アンタ、火球避けた時のこと説明出来る? 一度目なら兎も角、二度目なんて口では説明出来ないでしょ?」

戦士「まあ、確かに」

魔法使い「でしょ? そんなもんだよ」

戦士(天才ってやつか? こいつに剣を持たせたら良い線行くんじゃねえか?)

魔法使い「どしたの?」

戦士「これ、ちょっと振ってみろよ」

魔法使い「え、何でさ」

戦士「いいから」

魔法使い「……分かったよ。うわ重っ」ヨタッ
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/09(水) 23:04:15.57 ID:dp1DiL4yO

戦士「振ってみろ」

魔法使い「………下手でも笑わないでよ」

戦士「おう」

魔法使い「よっし……うりゃっ!!」

▼剣は魔法使いの膝下で空を切った! まるで持ち上がっていない!

戦士「……」

魔法使い「はぁ〜、もう無理疲れた。はい、返す。これ以上は筋肉痛になりそうな気がする」スッ

戦士「お、おう……」

魔法使い「何? 言いたいことあるなら言ってよ。振らせたのアンタでしょ?」

戦士「なんつーか、お前に不得手なものがあって安心した……」
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/09(水) 23:05:56.59 ID:dp1DiL4yO

魔法使い「は? 何それ?」

戦士「いや、もしかしたら何でも出来るんじゃねーかと思ってな」

魔法使い「はあ? なわけないじゃん。こんな腕でどうやって振るのさ」

戦士「それでも振れちまうのかなと思ったんだよ。変なこと言って悪かったな」

魔法使い「別に良いけどさ……」

戦士(魔術特化型の天才、だから先生は俺を引き取ったのか。愛されてんなあ、こいつ)

魔法使い「……あ、お腹空いた」

戦士(本人が気付いてねえってのがな……でもまあ、こういう奴は分かりやすくて好感持てる)

魔法使い「センセー、お腹空いた〜。何か食べよ〜」

戦士(いや、感覚的に分かってんのか? だから懐いてるのかも知れねーな。明らかに態度が違う)

魔法使い「何してんのさ、ご飯食べに行くよ。あ、戦士は何か食べたい物ある?」
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/09(水) 23:07:19.81 ID:dp1DiL4yO

戦士「食べたい物? ん〜、肉」

魔法使い「いいね!! よしっ、お肉食べよう。センセ、戦士、早く行こ!!」

戦士(はしゃいじまって、これが素ってわけか。親とも何かあったみてーだし、受付サンの言う通り甘えてんのかもな)

▼傭兵も穏やかな表情で微笑んでいる……

戦士(……これがアンタの救いなのか?)

▼傭兵は魔法使いと共に歩き出した。

魔法使い「明日から依頼受けるよ。え? 大丈夫だよ、戦士だっているし一人じゃない」

魔法使い「戦士とならやってけるよ。さっきの見たでしょ? アイツ、私の火球避けたんだから」

▼傭兵は黙って話を聞いている。

戦士(いや、あれは違うな)

戦士(あれは救いを求めてるっつーより単なる親の顔だ。年も年だし、そうとしか見えねえ)

▼傭兵は振り向き、戦士に手招きした!

戦士(俺のこともガキ扱いかよ、嬉しそうな顔しやがって……まあ、付き合うさ)
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/09(水) 23:08:33.32 ID:dp1DiL4yO

十二話 戯れの期限

終わり
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/09(水) 23:30:33.21 ID:TmLG9tlSO
今日はここまでです。
これで半分くらい終わったのでそんなに長くならないと思います。
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/10(木) 00:00:00.15 ID:gtJCi53DO

無理に早く終わらせようとしなくても良いんだぜ?
145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/10(木) 06:16:55.45 ID:7ztgfcCbO
乙!
146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/11(金) 23:38:35.51 ID:h08jzXpsO

第十三話

訓練場での手合わせから十日、新たな情報が入ることはなく調査は停滞していた。

この間、魔法使いと戦士の二人は傭兵による特訓を受けていた。

特訓内容は、傭兵が選んだ依頼を二人で達成するというものだ。

依頼は全て魔物討伐。傭兵も同行したが馬車の運転が主で、依頼は二人に任せている。

日に複数の依頼をこなし、馬車での移動範囲は街周辺の農村から都近辺までと広範囲に及んだ。

このような過密日程のため、傭兵は二人から不平不満が出ることを覚悟していたのだが、意外なことに魔法使いですら不満を漏らすことはなかった。

魔法使いにとって各地を巡る旅は非常に新鮮で、あまり苦にはならなかったのだ。

野宿することになった際は憤慨したものの、傭兵と戦士の二人が作った手料理には大層満足したらしく、すぐに笑顔を見せた。

傭兵と戦士はその笑顔にほっと胸を撫で下ろしたが、笑顔を見せた理由は手料理以外にあった。

それはとても単純なもの。

魔法使いは、三人での旅が楽しかった。
147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/11(金) 23:40:28.55 ID:h08jzXpsO

こうして瞬く間に十日が経った。

この特訓での魔法使いの成長は目覚ましく、魔術の幅も広がりを見せ始めた。

危険な場面は幾度もあったものの、それら全ては戦士の援護によって事なきを得ている。

その献身的とも言える戦いぶりによって、戦士は早期から魔法使いの信頼を得るに至った。

近距離、遠距離共に優れた力を発揮する戦士の存在は非常に頼もしく、魔法使いは安心して戦うという感覚を初めて体験する。

信頼出来る存在を得たことにより攻撃一辺倒だった魔法使いの思考も変化し始め、徐々に献身的な行動を取るようになった。

傭兵はこの変化に確かな手応えを感じ、以前より危険度の高い依頼に切り替える決断を下す。

それによって魔法使いに更なる変化を促すと同時に、広い視野を身に付けさせる狙いもあった。

その後も精力的に依頼を受け続けて更に数日が経った頃、二人は前衛後衛に囚われない柔軟な戦法を見せ始めた。

それこそが傭兵の二人に求めた理想であり、その形は出来上がりつつある。

この先も特訓は続き、先生と生徒二人の関係は長らく続くものと思われた矢先、傭兵は忽然と姿を消した。
148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/11(金) 23:42:09.17 ID:h08jzXpsO

>>>>

魔法使い「センセはどこ」

受付嬢「お答えすることは出来ません」

魔法使い「何で」

受付嬢「お答えすることは出来ません」

魔法使い「ふっざけんなっ!!」

戦士「落ち着け、話にならねえぞ」

魔法使い「だって!!」

戦士「怒鳴ったところで何も変わらねえんだ」

魔法使い「……っ……分かってるよ、うるさいな」
149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/11(金) 23:45:01.57 ID:h08jzXpsO

受付嬢「魔法使い」

魔法使い「なにさ」

受付嬢「この街にいる間、私にも調査を手伝わせて欲しい。貴方はそう言ったはずです」

魔法使い「それは……」

受付嬢「彼が街を離れた以上、その約束は適応されません。違いますか」

魔法使い「聞きたいのはそういうことじゃない!!」

受付嬢「何も言わずに行ったのは、何も言えないということ。分からないはずはないでしょう」

魔法使い「知らないよっ!! 分かんないよそんなのっ!!」

受付嬢「……」

魔法使い「…………っ……ごめん、ちょっと出て来る」

ガチャ パタン

受付嬢(魔法使い……)
150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/11(金) 23:47:39.01 ID:h08jzXpsO

受付嬢「……」

戦士「急にいなくなっちまったのが寂しいんだ、分かってやってくれ」

受付嬢「分かっています」

戦士「あんたはどうなんだ。どんな関係か知らねえが先生とは長いんだろ? 寂しくねえのか?」

受付嬢「慣れていますから……」

戦士「……そうか」

受付嬢「戦士」

戦士「あん?」

受付嬢「これを受け取って下さい」

戦士「手紙?」

受付嬢「彼からです。貴方になら、ここに書かれている意味が分かるはずです」
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