勇者「彼は正しく英雄だった」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 00:41:53.41 ID:RoJmAbMAO
第一話

受付嬢「いらっしゃいませ」

魔法使い「おいっす〜。契約書が出来たって聞いたけど?」

受付嬢「ええ、出来ております。大変お待たせしました」

魔法使い「いいっていいって。って言うか珍しいこともあるもんだよね。いつもなら依頼が出た時点で出来てるのにさ」

受付嬢「依頼者様にも様々な事情があるのでしょう。依頼が依頼ですから」

魔法使い「近くの廃村に居着いた魔物を倒すだけでしょ? そんなの全然珍しくないじゃん」

受付嬢「……そうですね。では、こちらが契約書になります。確認次第、拇印をお願いします」スッ

魔法使い「はいはい。え〜っと、金額は問題ないし、依頼内容にも変更はなし……?」

受付嬢「どうしました? 何か不備が?」

魔法使い「いや、不備はないけどさ。これ、おかしくない?」

受付嬢「何がでしょう」

魔法使い「何がでしょうじゃないよ。この依頼は私個人で引き受けたはずだよ」

受付嬢「此度の依頼、貴女だけでは達成が難しいと判断しました」


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1545579713
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 00:43:55.66 ID:RoJmAbMAO

魔法使い「依頼者の判断ってわけ?」

受付嬢「いいえ、此方の判断です」

魔法使い「なっ、ふざけないでよっ!! 報酬が減るじゃない!!」

受付嬢「貴女が死亡、または依頼失敗した場合、此方に損害が出ます。これは当然の判断です」

魔法使い「そんなに危険な依頼でもないでしょ!! 私一人で出来るってば!!」

受付嬢「声を荒げても契約は変わりませんよ。これは既に決定したのですから」

魔法使い「だったら私に協力者を選ばせてくれても良かったじゃない!!」

受付嬢「仮に協力者を募ったとして、貴女と組む者がいると思いますか?」

魔法使い「それはっ……」

受付嬢「ですから、此方で決めたのです。御心配なく、彼は頼りになりますよ」
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 00:45:00.38 ID:RoJmAbMAO

魔法使い「……どんな奴なのさ」

受付嬢「彼は傭兵と呼ばれています。傭兵稼業で傭兵と言うのも可笑しな話ではありますが」

魔法使い「聞いたことないよ? そいつ、実績あるの?」

受付嬢「勿論です。経験は豊富ですよ? 今のように魔物が現れる以前から傭兵として」

魔法使い「ちょ、ちょっと待ってよ。そんなの二十年は前の話じゃない!!」

受付嬢「そうですね」

魔法使い「そうですねじゃないよ!! その頃から傭兵って、もう四十、五十のオッサンなんじゃないの!?」

受付嬢「正確な年齢は存じ上げませんが、四十代ではないと思いますよ? まあ、貴女からすれば、私もオバサンなのでしょうけれど」

魔法使い「いや、流石に受付さんをオバサンとは言わないよ。私とそんなに歳変わらないし」

受付嬢「そうですか。それはありがとうございます。それで、依頼は受けますか?」
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 00:46:44.40 ID:RoJmAbMAO

魔法使い「まあ、受けるけどさあ……」スッ

受付嬢「やけにあっさりしていますね」

魔法使い「お金がいるからね。それじゃあね、受付さん」

受付嬢「まさかとは思いますが、今から行くつもりですか? お一人で」

魔法使い「二人で行けとは書いてない。悪いけど、私一人でやる。で、報酬は全部貰う」

受付嬢「……」

魔法使い「その傭兵って奴がよっぽど厚かましい奴じゃなきゃ、金を分配しろなんて言わないでしょ?」

受付嬢「御安心を、彼はそのような人物ではありません」

魔法使い「それなら良かったよ。そいつには適当に言っておいて」
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 00:48:40.69 ID:RoJmAbMAO

受付嬢「分かりました。では、お気を付けて」

魔法使い「ありがと。受付さん、またね」スタスタ

ガチャ バタンッ

受付嬢(……こうなるとは思っていました。でもまさか、こんなにも早く単独行動を選ぶとは)

カチッ

カチッ

カチッ…

受付嬢「……」

ガチャリ…

受付嬢「お待ちしておりました。お久しぶりですね。お元気でしたか?」

受付嬢「それは何よりです。しかし、貴男がこの街に戻ってくるのは何年振りになるでしょうか」
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 00:50:50.66 ID:RoJmAbMAO

受付嬢「二年? いいえ、違います。二年と三ヶ月と四日です」

受付嬢「それより、また傷痕が増えたようですね相変わらず、無茶な依頼ばかり……」ポツリ

受付嬢「いえ、何でもありません。早速ではありますが、此方に拇印をお願いします」

受付嬢「ありがとうございます。依頼内容に変更はありませんが、念の為確認しますか?」

受付嬢「必要ない?」

受付嬢「そうですか、分かりました。それから、少々問題が起きました」

受付嬢「ええ、そうです。彼女、魔法使いが想定していたより早く単独で現場に向かってしまったのです」

受付嬢「ええ、場所はそう遠くありません。事は急を要します。急ぎ、向かって下さい」

受付嬢「ご心配なく、馬は既に用意してあります。借りたものですが、とてもよい馬ですよ?」

受付嬢「いえ、料金は必要ありません。貴男の報酬から天引き致しますので」

受付嬢「……あの、今のは冗談ですよ?」

受付嬢「分かりづらい、ですか? そうですか、それは失礼致しました」ペコリ
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 00:53:19.20 ID:RoJmAbMAO

受付嬢「では、彼女を宜しくお願いします。彼女はまだ若く、才能のある貴重な存在です」

受付嬢「彼女を失うのは此方にとっても大きな損失。近頃は妙な失踪も相次いでいます」

受付嬢「……ええ、そうです」

受付嬢「失踪したのはいずれも魔力が特級の者。やはり、ご存知でしたか」

受付嬢「簡単な依頼内容で高い報酬。つまり今回のような依頼に釣られて、と言うものもあります」

受付嬢「既に調査はしています。しかし、依頼者に訊ねても名前を貸しただけだと……」

受付嬢「その影にいるのは魔術結社という話もありますが、未だ全容は見えていません」

受付嬢「だからこそ貴方に協力を仰いだのですが、何もなければそれで構いません」

受付嬢「……分かりました」

受付嬢「もし何者かが現れた場合、その際の判断は貴方に任せます」

ガチャ…

受付嬢「あの」

クルッ

受付嬢「……いえ、何でもありません。引き留めて申し訳ありませんでした。お気を付けて」

バタンッ…


受付嬢「お帰りなさい、傭兵さん……」
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 00:54:39.21 ID:RoJmAbMAO

第一話 帰還

終わり
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 00:57:04.74 ID:RoJmAbMAO

第二話 

魔法使い(この辺りでいっか。双眼鏡、双眼鏡)

ガサゴソ

魔法使い(ん〜っと? 確認出来るだけでも五匹か。なんだ、下級も下級じゃん。野犬みたいなものだけど、一応様子見とこ)

魔法使い(……変化ナシ)

魔法使い(何だかなぁ。あの数は少な過ぎる。群れからはぐれたのかな)

魔法使い(ま、そんなのどうでもいっか。さっさと終わらせよ)

ジャリッ

魔法使い「!!」バッ

魔法使い「……誰よ、アンタ」

魔法使い「傭兵? あ〜、そう、アンタがねぇ……」ジロジロ

魔法使い「ふーん。思ったより若いんだね。って言うかさ、折角追い掛けて来たのに何だけど、アンタは必要ないから」

魔法使い「それにアンタ、魔術使えないでしょ? それで良く私に協力するだなんて言えた……え?」
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 00:58:58.06 ID:RoJmAbMAO

魔法使い「何で分かるかって?」

魔法使い「だって、アンタから魔力を一切感じないし。って言うか、私くらいの子は普通に出来るよ、これくらい」

魔法使い「魔術は日々進歩してんの。魔力の探知なんて今は当たり前なの」

魔法使い「まあ、アンタみたいな旧世代のオッサンには分からないだろうけどね」

魔法使い「って言うかさ、アンタの世代だって魔法使い使えて当たり前だったでしょ?」

魔法使い「この際だから言うけど、今時魔術使えないとか有り得ないから」

魔法使い「多少は鍛えてるみたいだけど、筋肉なんて必要ないの。今は魔術主体なの、分かる?」

魔法使い「はぁ……」

魔法使い「大体さ、今の時代に魔術も使えないのに傭兵やってるのってアンタくらいじゃない?」

魔法使い「そうそう、この世界は世代交代も入れ代わりも激しいしさ」

魔法使い「それにさ、魔術使えないってだけで依頼受けられないこともあるんじゃないの? 受けたくても依頼者から弾かれたりさあ」

魔法使い「そんなことない? あっそ、まあ別にアンタのことなんてどうでも良いけどさ。んじゃね」スタスタ
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 01:00:04.46 ID:RoJmAbMAO

魔法使い「あ、そうだ」クルッ

魔法使い「受付さんには言っておいたけど、私一人でやるわけだから報酬は全部貰うよ?」

魔法使い「……しつこいな」スッ

ボゥッ!

魔法使い「あのさ、私の邪魔しないでくれる? それ以上付いてきたら、次は当てるから」

魔法使い「はあ? 終わるまで此処で待ってる? 何それ、保護者気取り?」

魔法使い「……約束?」

魔法使い「あぁ、そう言うことね……受付さんから頼まれたんだ。だったら好きにすれば?」

魔法使い「言っとくけど、一緒に戦っただなんて嘘は吐かないでよ?」

魔法使い「そんな嘘は吐かない? ま、アンタが何を言おうが金は私が貰うから別に良いけどさ。んじゃね」
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 01:01:02.27 ID:RoJmAbMAO

第二話 時代遅れ

終わり
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 01:03:21.31 ID:RoJmAbMAO

第三話

魔法使い「五匹目っと」スッ

ボゥッ!メラメラ…

魔法使い(まだいるみたいだけど、こいつら相手なら余裕でしょ。なんか大人しいし)

魔法使い(でもまあ、こんなのが相手でも報酬が高いんだから魔物討伐はやめられないんだよね)スッ

ボゥッ!メラメラ…

魔法使い(八匹、九匹、今ので終わりかな? 固まってるから焼きやすくていいや)

魔法使い「……あ、そうだ、アイツは」チラッ

魔法使い「……………いないし。何が約束だよ。ま、そんなもんだろうと思ったけどさ」


「いやいや、遅れて申し訳ない申し訳ない」
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 01:05:11.35 ID:RoJmAbMAO

魔法使い「!?」クルッ

「ああ、驚かせて申し訳ありません。私は呪術師と申します」

魔法使い(コイツ、どこから……)

呪術師「いやいや、お手並み拝見しましたよ。貴方には才能があるようですね。どうです? 私と共に来ませんか?」

魔法使い「あのさ、いきなり現れた奴に付いていく奴がいると思う? 馬鹿言わないでくれない?」

呪術師「まあまあまあ、聞いて下さいよ。近頃の魔術の進歩は凄まじいですが、魔術師の社会的地位はまだまだ低い」

魔法使い(同業者っぽいなあ。魔力は私の方が上だ。どうする、一発かますか)

呪術師「古い価値観に囚われ、魔術師を差別する老人達は大勢いる。まあ、その老人達が国を動かしているのだから当然ですがね」

魔法使い「……だから?」

呪術師「貴方の世代は特に魔術に優れている。世代を重ねるごとに体内魔力も上がっているという統計も出ています」

魔法使い「話が見えないんだけど」

呪術師「私はね、近々優れた魔術師が世界を動かすと思うのですよ」
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 01:07:23.43 ID:RoJmAbMAO

魔法使い「何それ、国盗りでもする気?」

呪術師「乱暴な言い方をすれば、そうなりますかね。だからこそ、貴方のような優れた魔術師が必要なのです」

魔法使い「アホらし、付き合ってらんない。悪いけど他を当たってくれる?」ザッ

呪術師「貴方、魔力判定は特級でしょう?」

魔法使い「……だったらなにさ?」

呪術師「なのに何故、傭兵紛いのことをしているのです? もっと違った道があったのでは?」

魔法使い「そんなの私の勝手でしょ?」

呪術師「確かにそうですね。あぁ、そう言えば魔法使いさん。貴方、両親を火事でなくしていらっしゃる。そう、火事で」

魔法使い「……」

呪術師「貴方のような境遇にある者は此方に沢山います。居場所の失った、才能溢れる子供達……」

魔法使い「そうやって口説いて、体良く使い捨てられる奴を集めてるわけ?」

呪術師「使い捨てだなんてそんな。同志ですよ、同志。私達は魔術師への正当な評価が欲しいだけです」
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 01:08:22.15 ID:RoJmAbMAO

魔法使い「悪いけど興味ない。もう行くから」

呪術師「もう戻ることは出来ませんよ? 貴方は罪人なのですから」

魔法使い「………はぁ。あのさ、アンタって頭おかしいんじゃないの?」

呪術師「頭がおかしいのは、罪のない子供達を殺した貴方の方ですよ」

魔法使い「何言って……!!」

魔物の死体が転がる場所を指差してそう言った。

しかし、そこにあるはずの魔物の死体はなく、そこには幼い子供の遺体があった。

炭化したそれは抱き合うようにして身を寄せ合っている。

その有様を見て、魔法使いの意識は子供の遺体に大きく傾いた。
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 01:11:50.23 ID:RoJmAbMAO

魔法使い(そんな、何で……)

呪術師「子供は容易いな」

魔法使い「しまっ」

ガツン! ドサッ…

呪術師「戦いってのは魔力の大きさじゃあないんだよ。しかしまあ、子供ってのは楽でいい……」

魔法使い「」

呪術師「全く全く可愛げのないガキだ。大人しく口車に乗れよ。運ぶ身にもな」

ドンッ…

呪術師「……?」

突如、右肩に殴られたような衝撃。

その衝撃に肩を持って行かれ倒れ込み、続いて焼けるような熱、肩から突き出た矢尻が目に入る。

そこでようやく、矢で射られたのだと理解する。
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 01:18:28.73 ID:RoJmAbMAO

呪術師「ッ!!」

すぐさま体を起こして振り返ると、朽ちかけた民家の影から男が現れた。

剣と弩、肩当て胸当て、これといって特徴のない装備、魔力を一切感じさせない、ただの男。

呪術師「……あぁ、そうですかそうですか、なるほど、貴方でしたか。状況は把握しました」

呪術師「魔力を欠片ほども持たないと言うのは話に聞いていた以上に厄介ですね……」

男は無言のまま剣を抜き、呪術師に詰め寄る。

奇襲には慣れているようで、汗一つない。

呪術師(やれやれ、これだから傭兵って生き物は……躊躇いなく背後を刺しやがる)

呪術師に動く様子はない。

それどころか頭を垂れるように膝を突き、再び倒れ込んだ。

多量の発汗、体は忙しなく震え、涎を垂らしている。矢尻には毒が塗り込まれていたのだろう。

男は、既に眼前に迫っていた。

呪術師「亡国の傭兵、魔術師を愛する赤い羊よ、お目にかかれて光栄です」
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 01:20:28.19 ID:RoJmAbMAO

その声は明らかに震えている。

痙攣が引き起こした不規則な笑み、居心地悪そうに動き回る眼球。

その様を見ても、亡霊の傭兵と呼ばれた男は呪術師に一切の関心を払うことはなかった。

傭兵はやはり無言のまま呪術師を見下ろして、肩の矢をゆっくりと引き抜く。

呪術師「ぐっ、うぅっ…」

呪術師(……矢の一本でさえも私にくれてやるつもりはないと言うことか。けちな奴だ)

矢尻が引っ掛かったが無理矢理に引き抜かれ、更に大量の汗が流れる。

呪術師「……一つ、お訊ねしたいのですが」

今まさに剣が振り下ろされようとしているのだが、呪術師には見えていなかった。
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 01:21:25.53 ID:RoJmAbMAO

視界は毒によって既に奪われていた。

この様子では、首など刎ねなくとも数分の内に死亡するだろう。

呪術師「貴方は私を追っていたのですか? それとも偶然に?」

答えはない。

呪術師「もし偶然なのだとしたら、私も運が悪」

全てを言い終える前に首が舞った。

呪術師「る ぃ」

亡国の傭兵。

そう呼ばれた男は、やはり無言のままだった。
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 01:22:19.85 ID:RoJmAbMAO

第三話 亡霊

終わり
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 01:33:56.34 ID:RoJmAbMAO

第四話

あれから数日後

受付嬢「……」カリカリ

受付嬢「……」ペラッ

受付嬢「……」カリカリ

受付嬢「……」ペラッ

ガチャバタン!

魔法使い「受付さん!! アイツは!?」

受付嬢「……静かに入って来て下さい。この部屋には私しかいませんが、待合室とは名ばかりの酒場に入り浸るお客様もいらっしゃいますので」

魔法使い「いるのはお客様なんかじゃなく、どいつもこいつも私と同じ、傭兵兼賞金稼ぎだよ」

受付嬢「一応、お金を払ってお酒を飲んでいますからお客様です」

魔法使い「そんなことはいいの、アイツは何処にいるのか教えてよ」
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 01:35:33.40 ID:RoJmAbMAO

受付嬢「アイツ、とは?」

魔法使い「傭兵だよ、傭兵、オッサン」

受付嬢「傭兵もオッサンも酒場に腐るほどいますよ」

魔法使い「いやいやいや、そうじゃなくってさ。って言うか分かってるでしょ?」

受付嬢「……はぁ、会ってどうするつもりですか? 金を渡せとでも?」

魔法使い「違うよ。助けてもらっといてそんなこと言わない。寧ろ逆だよ、逆」

受付嬢「逆? それはどういうことでしょうか」

魔法使い「このお金、私の分の報酬を渡す」

受付嬢「はい?」
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 01:36:39.92 ID:RoJmAbMAO

魔法使い「あの、さ……」モジモジ

受付嬢「何でしょう」

魔法使い「なんか、さ……」モジモジ

受付嬢「はぁ」

魔法使い「あんな醜態を晒しといて金を受け取るのってさ」

受付嬢「ええ」

魔法使い「めちゃくちゃダサくない?」

受付嬢「それが我慢ならないわけですか」

魔法使い「そうなの……だからさ、これを渡したら少しは楽になるかなって思ってさ」

受付嬢「そういうことでしたら良いでしょう。彼はこの街に暫く滞在します。立ち寄る場所はある程度決まっているので、お教えします」

魔法使い「ホントに!? いや、って言うか何で……」
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 01:38:05.53 ID:RoJmAbMAO

受付嬢「何でしょう?」

魔法使い(受付さん、何でそんなことまで知ってるんだろ? 仲介業だし色々詳しいのは分かるけど、そんなことまで知ってるってちょっと変じゃない?)

受付嬢「何か」

魔法使い「ううん、なんでもない(ま、別にどうでもいっか)」

受付嬢「では、此方が彼の立ち寄る場所の一覧になります」

魔法使い「うわ、こんなにあるの?」

受付嬢「上から順に、居る確率が高い場所になります」

魔法使い「はぇ〜、凄いね」

受付嬢「それから、貴方は休日を過ごす傭兵の後を付けるわけですから、注意して下さい」

魔法使い「はいはい、分かってます。これ、ありがとね。それじゃ、ささっと渡してくるよ」
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 01:38:55.03 ID:RoJmAbMAO

受付嬢「お待ち下さい」

魔法使い「な〜に?」

受付嬢「聞くのが遅れましたが、もう大丈夫なのですか? 杖か何かで殴られたと聞きましたが」

魔法使い「……うん、もう大丈夫。あのさ」

受付嬢「はい」

魔法使い「私を襲った呪術師って奴は?」

受付嬢「貴方が生きて帰って来たと言うことは、そういうことです」

魔法使い「……だよね。ごめん、変なこと聞いた」

受付嬢「……」

魔法使い「んじゃね」

コツコツ ピタッ

魔法使い「……」クルリ

受付嬢「まだ何か?」
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 01:40:08.78 ID:RoJmAbMAO

魔法使い「ありがとう……」

受付嬢「お礼は私にではなく彼に言って下さい」

魔法使い「アイツに頼んだのは受付さんなんでしょ?」

受付嬢「違います」

魔法使い「何で嘘吐くのさ」

受付嬢「嘘ではありません」

魔法使い「別にそれでもいいよ。ありがとうって言いたいの、気持ちくらい受け取ってよ」

受付嬢「受け取れません」

魔法使い「あっそ! ならいいよ!」ガチャ
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 01:47:33.69 ID:RoJmAbMAO

受付嬢「魔法使い」

魔法使い「なにさ!」

受付嬢「お帰りなさい」

魔法使い「ぁ………………っ、ただいま!!!」

バタン!

受付嬢「……」

シーン

受付嬢「……」

受付嬢「……」カリカリ

受付嬢「……」ペラッ

受付嬢「……」カリカリ

受付嬢「……」ペラッ

受付嬢「……」カリカリ

受付嬢「………………魔法使いがいないと静かですね」
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/24(月) 01:50:32.93 ID:RoJmAbMAO

第四話 嵐の後に

終わり
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/24(月) 01:51:52.32 ID:RoJmAbMAO
ここまで
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/24(月) 02:48:21.38 ID:/jQ/X7bVo
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/24(月) 19:07:03.12 ID:ZEG6M4HT0
乙期待
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/24(月) 19:27:54.29 ID:iH5wbd9A0

傭兵の見た目をゲラルドさんにして読んでる
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 21:33:02.99 ID:hSRFEIsWO

第五話

魔法使い「此処も外れか……」

傭兵を捜し歩き、此処で三ヶ所目。

見慣れた街並み、数多く立ち並ぶ店、普段は便利で何の不足もないが、今はその街並みが意地悪く思えた。

魔法使い「この街、こんなに広かったっけ……えっと、次は」カサッ

魔法使い(教会か。ああいう静かな場所って苦手だ……って言うかお腹空いてきた)チラッ

魔法使い(……まだお昼になってないし、教会行ってからにしよ)

テクテク
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 21:34:00.34 ID:hSRFEIsWO

>>>>教会

魔法使い(やっぱり、この雰囲気って苦手だ)

魔法使い(結構人もいるし、ぐるっと回って顔見よう)

コツコツ

魔法使い(足音響くなぁ……)

コツコツ

魔法使い(ふむ、誰も彼も神妙な顔をしてますな。くすぐってやりたくなるぜ)

コツコツ

魔法使い(………不思議なものだ)

コツコツ

魔法使い(こうして静かな場所に来ると、何故だか無性に大声を出したくなる)
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 21:35:28.65 ID:hSRFEIsWO

魔法使い(やらないけどさ……ん?)

周囲とは様子の違う男がいた。

その男は椅子の背もたれにだらしなく体を預け、足を投げ出し、明らかに眠っている。

魔法使いはその男を見付けると笑みを浮かべ、教会内を颯爽と駆けた。

そして人違いを避ける為にしっかりと男の顔を確認すると、言った。

魔法使い「起きろ!!!」

それによってその男、傭兵は目を覚まし、魔法使いはそれに満足したようだった。

傭兵は訳が分からないと言った様子、間の抜けた顔で魔法使いを見ている。

魔法使いはその様を見て、けらけらと笑った。


二人は教会から追い出された。
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 21:37:16.16 ID:hSRFEIsWO

>>>>お食事処

魔法使い「いや、だから悪かったってば」

魔法使い「私だって、教会の中で大声出すなんて思わなかったんだよ」

魔法使い「だ、だって三ヶ所も回ったんだよ? あっち行ったり、こっち行ったりさ」

魔法使い「うん? 結局何の用かって?」

魔法使い「それは、え〜っと……そ、その前に食べてよ。お代は私が払うからさ」

モグモグ

魔法使い「どう? 美味しいでしょ?」

▼傭兵は満足そうだ!

魔法使い「でしょ? 初めて来た? ってことは、前にもこの街に来たことあるの?」

魔法使い「ふーん、何度か来てるんだ」

魔法使い「私? 私はこの街出身だよ。歳? 十六だけど? アンタは?」
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 21:38:35.56 ID:hSRFEIsWO

▼傭兵は正直に答えた!

魔法使い「……ふーん」

魔法使い「見た目よりも歳行ってるね。受付さんに聞いた時は、もっとオッサンだと思ってたけどさ」

魔法使い「え? いや、まあ、オッサンと言うほどオッサンではないけどさあ」

魔法使い「もしかしてオッサンって言われたの気にしてた? 傭兵って呼ぼうか?」

魔法使い「でもそれだと分かりにくいか。二つ名とかないの? アンタって有名なんでしょ?」

魔法使い「ないの? でも、そういうのって誰が付けるのかな。やっぱり自分で付けたり……ん?」

魔法使い「ああ、ごめん」

魔法使い「えっと、その、この前はありがとう。助けてくれたって聞いた」

魔法使い「なんていうか、お礼がしたくてさ。それと、これを受け取ってよ。私の分の報酬」スッ
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 21:39:42.54 ID:hSRFEIsWO

魔法使い「え? それは確かに魔物を倒したのは私だけどさ」

▼傭兵は遠慮している……

魔法使い「い、いいから受け取ってよ。そうしないと私の気が済まないの」

魔法使い「ん、これで良し……え?」

魔法使い「そんなの気にしなくても大丈夫だよ。お金はまた稼げばいいしさ」

魔法使い「後、アンタに頼みがあるんだ」

魔法使い「え〜っと、何て言うか、その……」

魔法使い「ち、違う違う! お金のことじゃないよ」

魔法使い「頼みって言うのは、アンタがこの街にいる間、依頼を手伝わせて欲しいんだ」
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 21:41:09.73 ID:hSRFEIsWO

魔法使い「理由?」

魔法使い「魔物が子供に変わったのは見たでしょ。あれは幻なんかじゃなかった……」

魔法使い「何をしたのか分からないけど、絶対に許されないことだってのは分かる」

魔法使い「何とかしたいって、そう思うんだ。きっと、呪術師みたいな奴は一人じゃない」

魔法使い「アンタ、あいつらを調べてるんでしょ? 私を助ける為だけにこの街に来たわけじゃない。そうでしょ?」

▼傭兵は迷ったが頷いた。

魔法使い「お願い、私にも手伝わせて」

魔法使い「危険なのは分かってる。助けられたクセに厚かましいって分かってる。迷惑なのも分かってる」

魔法使い「だけど、何かしたいんだ。あれを忘れられる程器用じゃないし、あんなのを受け入れられる程腐ってない」

魔法使い「だから……え、いいの?」

魔法使い「本当に? 後からやっぱり無理とか言ってもついて行くからね?」

魔法使い「……明日の昼に酒場ね、分かった。あ、うん、もっと食べても大丈夫だよ」
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 21:43:03.42 ID:hSRFEIsWO

▼傭兵は料理に夢中だ!

魔法使い「あのさ、今更だけど、ごめんなさい」

魔法使い「だってあんなに馬鹿したのに、手伝わせてとか頼んでさ。嫌だよね、普通に……」

魔法使い「うん、今まで一人でやって来たのもあったし、意地になってたのもあったんだ」

魔法使い「そう。今まで組んだことない……仕方ないよ。私、こんなんだしさ」

魔法使い「そ。魔力評価は特級だけど、だから嫌われてるってのもある」

魔法使い「それにほら、魔術師って昔から嫌われてるでしょ?」

魔法使い「昔よりは理解されてるっぽいけど、やっぱり消えないよ。そういうのは……」

▼傭兵は心配そうな顔をしている……

魔法使い「いや、別にそこまで悩んでるわけじゃないよ。慣れてるし」
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 21:46:02.76 ID:hSRFEIsWO

▼傭兵は再び料理に夢中になった。

魔法使い「アンタって変わってるね」

魔法使い「きっと強いんだろうけど、無害そうって言うか、傭兵っぽくないって言うかさ」

魔法使い「分かってる」

魔法使い「傭兵は汚い真似だってする。勝手に期待して、勝手に幻滅したりしない」

魔法使い「でも、やっぱり傭兵っぽくないよ。その辺歩いてても気付かないと思う」

魔法使い「子供と歩いてても不思議じゃないって言うか、そんな感じがする」

魔法使い「そうかな? 案外、親子に見られてるかも知れないよ? そこら辺にいる普通のお父さん……」

魔法使い「……」

魔法使い「あ〜、ごめん。私、そろそろ行かないと、お金は払っておくから食べてて大丈夫だから。明日の昼に酒場ね? それじゃっ!」


▼傭兵はぼーっとしている。何かを考えているようだ。
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 21:49:16.79 ID:hSRFEIsWO

>>>>応接室

受付嬢「……」ペラッ

コンコンッ

受付嬢「はい、どうぞ」

▼傭兵が現れた。

受付嬢「あっ……」

受付嬢「いえ、まさか貴方が来るとは思っていませんでした。それより、魔法使いが貴方にお金を渡すと言って捜しに行きましたが」

受付嬢「そうですか、無事に会えたようで何よりです。はい、何でしょう?」

受付嬢「魔法使いが?」

受付嬢「……へえ。協力、ですか。魔法使いも強引ですね。勿論、断ったのでしょう?」

▼傭兵は首を横に振った。

受付嬢「……………はい?」

受付嬢「つまり貴方は、娘と言われても不思議ではない年頃の子供に押し切られたわけですね?」

▼傭兵は否定した!

受付嬢「言い訳は結構です」

受付嬢「貴方も随分と変わったのですね。まだ傭兵として経験が少ない者と組むだなんて」
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 21:50:54.95 ID:hSRFEIsWO

▼傭兵は優しく指摘した!

受付嬢「はい? 私はもう大人ですが?」

受付嬢「……別にいいです。貴方からすれば、私など子供でしょうから」

受付嬢「なんでもありません」

受付嬢「それで、彼女を頼みを受け入れたのは何故ですか? まさか若い子に迫られて気を良くしたわけではないでしょう」

▼傭兵は事情を説明した。

受付嬢「……確かに。彼女の場合、断っても素直に聞き入れるとは思えません」

受付嬢「しかし危険ではありませんか?」

受付嬢「魔法使いには才能があるとは言え、経験が足りません。はい? 後進の育成ですか? 貴方が?」

受付嬢「いえ、駄目というわけでは……貴方が決めたのなら文句はありません」

受付嬢「魔法使いは、私にとってただの傭兵ではないのです。騒がしい方ですが、嫌いではありません」

▼傭兵は約束した。

受付嬢「……そうして下さると助かります。彼女を守って下さい。再び狙われる可能性もあります」

受付嬢「申し訳ありません。こんな体でなければ、お手伝い出来たのですが……」
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 21:53:42.45 ID:hSRFEIsWO

▼傭兵は深く謝罪した……

受付嬢「貴方は謝らないで下さい」

受付嬢「これは貴方の責任ではありません。貴方には感謝しているのです」

▼傭兵は悲しそうだ。

受付嬢「……相変わらず、おかしな人です、貴方は。私のことなど、忘れてくれても良いのに」

受付嬢「だってもう、母はいないのですよ?」

受付嬢「……」

受付嬢「貴方は変わりませんね……」

受付嬢「時代はこんなにも動いているのに、貴方だけが変わらない。それがよいことなのか悪いことなのか、私には分かりません」

受付嬢「いつか貴方が傭兵ではなくなったら、その時は、会いに来てくれますか?」

受付嬢「……ごめんなさい。忘れて構わないなんて言いながら、こんな事」

受付嬢「っ、はい、分かりました。では、明日の昼に。お待ちしております」

▼傭兵は立ち去った。

受付嬢「……」

受付嬢「……分かっています。貴方が傭兵ではなくなる時、それはきっと……」
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 21:54:56.48 ID:hSRFEIsWO

第五話 彼女達の依頼

終わり

47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 21:56:43.68 ID:hSRFEIsWO

第六話

>>>>翌日

魔法使い(暇だな。お酒飲めないし……)

一応早めには来たものの酒場に彼の姿はなく、隅っこの席で待つことにした。

出来ることなら受付嬢の所で時間を潰したかったのだが、応対に追われているようだった。

予想していた通り、先日のことを聞きつけた同業者に笑われたりもした。

彼女を妬む者にとって、若く才能ある者が躓いた姿はさぞ愉快だったのだろう。

(ま、別にいいけどさ……)

彼等が向ける好奇の眼差しも、先のような嘲笑も、彼女にとっては特別なものではない。

風景の一部、同じ顔をしたその他大勢、誰かを見下すことでしか安心を得られない大人達。

嫌なら酒場を出れば良いのは分かっている。だが、逃げたと思われるのは我慢ならなかった。
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 21:58:01.94 ID:hSRFEIsWO

魔法使い(あんなの、退屈なだけだ……あっ)

その時、酒場の扉が開いた。

喧騒は止み、誰もが息を呑んだ。

その傭兵はこれといって大した特徴のない男だが、それ故に特徴的と言えた。

若くはないが、それほど老けてもいない。

気の抜けたような、隙なく構えているような、強いような、弱いような、温和そうであり、冷酷そうでもある。

よく分からない男だが、その矛盾した印象が与えるのは恐怖によく似たものだった。

彼に関する尾ひれのついた噂や伝説。

それが尊敬や畏怖、疑念を煽り立て、場の空気は更に凍り付く。

今やたった一人の男に、酒場にいる屈強な傭兵達は呑まれていた。
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 21:59:26.55 ID:hSRFEIsWO

「あ、来た来た。遅かったね」

唯一、魔法使いを除いては。

「いいよ、別に遅れたわけじゃないしさ。それより早く行かない? 此処、煙たくてちょっと苦手なんだ……」

そう言って連れ立って出て行こうとする二人を見て、一人の傭兵が声を上げた。

「亡国の傭兵、あんたもまだまだ若いんだな」

それが嫌味、或いは挑発だと分かるのに、それほど時間は掛からなかった。

「……最っ低」

「最低? 事実だろう? 役に立たない若い傭兵、女を連れて行く理由が他にあるのか?」

手を引いて店を後にしようしたが、魔法使いはその場を動こうとはしない。

「依頼を遂げる。それ以外に理由なんてない」
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 22:01:46.78 ID:hSRFEIsWO

魔法使いの答えに、大きな笑いが起こった。

「お前が相棒に選ばれたってのか? 笑わせるなよ、小娘」

「……あ〜、そっか、そういうことか、なる程ね。アンタ、私に嫉妬してるんだ」

笑い声がピタリと止んだ。

その場の誰もが息を吸い込む。次の瞬間には罵詈雑言として吐き出されるだろう。

それを察した傭兵は素早く魔法使いの手を引いて今度こそ酒場を後にした。

扉を閉じたと同時に、爆発したかのような怒号が響く。

傭兵はそのまま手を引いてその場を後にしたが、魔法使いは酒場の扉の先にいるであろう輩を睨み続けていた。
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