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D.CUIgnorance Fate【オリキャラ有】
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202 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 01:06:38.68 ID:Q+Bb88g90
* * *
桜の木を背もたれにし、俺たちは目を覚ました。
花穂「義之くん……」
花穂も目を覚ましたようで、俺の名前を読んでくる。
花穂「夢じゃ……なかったんだよね?」
確認するように問いかけてくる。
義之「いや……あれは夢だったよ。純粋な、一人の魔法使いが俺たちに見せた、夢」
花穂「……そっか。ねぇ、義之くん」
義之「なに?」
花穂「この桜……やっぱり、枯らさなきゃ、ダメなんだよね?」
義之「……ああ、そうだな。この桜の木が原因で、不可解な事件が起こってるんだ。それにこのまま置いておいても、いずれ音姉が決心して枯らしに来ると思う。
俺は音姉にそんな辛い思いはさせたくない。……この桜を枯らせるってことは……俺と花穂は、この世界から弾かれる事になるけど……花穂は、それでもいい?」
我ながら、最低なことを言ってる、と思う。だって、この桜を枯らせるってことは、花穂が死ぬって事と同義だ。
それに、俺だって死ぬのと同じ。
花穂「義之くんが決めたことなら……わたしは、それに従うだけだよ」
義之「……そっか」
花穂「でも、未練がましいと思われるかも知れないけど……。明日。最後に、学園生活を楽しんで、それからでも……いいかな?」
義之「……ああ、そうだな」
俺も、今すぐは決心がつきそうになかった。それに、学校の奴らに最後のお別れをしなきゃならない。
花穂「それなら、そのことを伝えなきゃね」
花穂は立ち上がり、俺の手を引っ張る。そして桜の木から数歩離れたところで、振り返る。
花穂「今日と明日を二人にとってのこの世界での最後の一日とし、明日の夕方にこの桜の木を枯らせます」
それは、誓いだった。俺と花穂を、この世界に存在させてくれていた一人の魔法使いへの。俺と花穂の、お母さんへの。
花穂「……いこ、義之くん」
義之「ああ」
そして俺は、花穂と手をつなぎ、その場から立ち去る。
203 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 01:08:04.19 ID:Q+Bb88g90
* * *
夜。今日は音姉と由夢に了承をもらって、花穂が俺の家に泊まりに来ていた。
二人は、俺と花穂のことをじっと見て、そしてゆっくりと頷き、花穂の宿泊を許してくれた。
……全部知ってるから、許してくれたんだろうな、音姉も、由夢も。
花穂「考えてみたらさ、義之くん」
義之「うん?」
俺の部屋、並んでベッドに腰掛けてお互いに無言だったが、不意に花穂が口を開いた。
花穂「わたしたち、正反対だったんだね」
義之「俺と、花穂が……ってこと?」
花穂「うん、そう。さくらさんは、わたしが副産物だって言ってた。それはつまり、義之くんが生まれるときに決められたことが、全部正反対でわたしに影響したってこと。
義之くんは男で、友達も多くて、手から和菓子が出せて。それと反対に、わたしは女で、友達はいなくて、手から洋菓子が出せる」
義之「そうか……そういう風にも考えられるか」
花穂「でも……お互いに、惹かれあった」
義之「そうだな。正反対っていうことは、お互いに足りないものを補い合う関係だったのかもしれない」
花穂「……うん」
花穂は頷くと、ゆっくりと仰向けにベッドに倒れこんだ。
花穂「なんだろうな……なんだか、妙に心が穏やかなの。なんでかな?」
義之「……今まではっきりとしなかったことが、色々とはっきりしたからだろうな。俺も、随分と穏やかな気分だ」
花穂「もう、みんなとは会えなくなるんだよね……?」
義之「そうなるだろうな」
花穂「じゃあやっぱり、最後にお別れは必要だよね」
花穂はまた、涙を流していた。
義之「……ああ、そうだな」
その花穂の涙を拭ってやりながら、静かに頷く。
明日が、俺たちの最後の日だ―――
204 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 01:09:04.95 ID:Q+Bb88g90
* * *
音姫「……ごめんなさい」
誰かの、謝る声。
音姫「ごめんなさい、おじいちゃん……。私……私、どうしても……!」
この声は……音姉、か。こんな時にこんな夢をみるなんて……。
純一「いいんだよ音姫。なにも泣くことなんかない」
微かにすすり泣く音姉をなだめるような、穏やかな純一さんの声。
音姫「だって……だって、私のせいで……」
純一「これはひどい孫娘がおったもんだな。まだ失敗すると決まったわけじゃないだろうに」
音姫「でもっ……!」
純一「信じなさい。お前のおじいちゃんは、そこまで弱くもオッチョコチョイでもないよ。それにね……」
純一さんの手が、音姉の頭をなでる。優しく、穏やかに。
純一「親ってのは、子供より先に死ぬもんだ。ましてや、孫だしな。おじいちゃんはもう、十分に生きたさ。
たとえ失敗したところで、なにも後悔はない。それに、かわいい孫娘の頼みだしね。喜んで引き受けるよ」
純一さんは穏やかに笑ってみせる。
音姫「おじいちゃん…………!」
音姉はなにか言いたいのか、必死で声を出そうとする。しかし、嗚咽ばかりが漏れて言葉にならなかった。
純一「だけど、もしおじいちゃんが失敗した時は……わかるね?」
純一さんの声が、穏やかながらも真剣な声になる。
音姫「……はい」
純一さんの問いかけに、ゆっくりと音姉が頷く。その返事を聞き、純一さんは満足そうに目を細める。
純一「……さて、と。それじゃ、幼馴染の尻拭いに出かけるとしますかね。今度の仕事はずいぶん、かったるい仕事となりそうだけど」
茶化すように笑って、純一さんはゆっくりと歩き出す。その背中を、音姉は泣きながらずっと見送っていた。
205 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 01:10:07.63 ID:Q+Bb88g90
1月24日(月)
義之「……んん……」
腕の中に、温もりを感じる。
花穂「……すぅ……すぅ……」
俺の腕の中で、花穂が静かに寝息を立てていた。
花穂を起こさないように気をつけながら、上半身を起こしあげる。
義之「………」
今まで見ていた夢を思い出す。
義之(……あれは……、何を意味してるんだ?)
音姉と純一さんの、深刻そうな会話の内容。
純一『親ってのは、子供より先に死ぬもんだ。ましてや、孫だしな。おじいちゃんはもう、十分に生きたさ。
たとえ失敗したところで、なにも後悔はない。それに、かわいい孫娘の頼みだしね。喜んで引き受けるよ』
純一『だけど、もしおじいちゃんが失敗した時は……わかるね?』
純一『……さて、と。それじゃ、幼馴染の尻拭いに出かけるとしますかね。今度の仕事はずいぶん、かったるい仕事となりそうだけど』
義之「………」
少し考えれば、何の話なのかはわかる。
義之「ん……?」
ふと、窓の外から視線を感じた。
音姫「………」
視線の主は、音姉だった。俺の部屋を真っ直ぐに見上げている。当然、俺と視線がぶつかった。
音姫「……弟くん……」
音姉の口元が、微かに動いたのがわかった。でも、何を言ったのかはわからない。少しの間沈黙し、そして音姉は朝倉家へと姿を消した。
206 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 01:12:29.69 ID:Q+Bb88g90
花穂「……んぅ……」
音姉を見送って部屋に視線を戻すと、花穂が目を覚ましたようだった。
義之「おはよう、花穂」
花穂「あ、義之くん……。おはよう」
花穂も上半身を起こしあげる。
花穂「今日で……終わりに、するんだよね?」
確認するように、花穂がたずねる。
義之「……ああ。そのつもりだ」
嘘を言ってもどうしようもないので、正直に頷く。
花穂「……っ」
花穂が、俺の服の裾をぎゅっと握る。
義之「花穂?」
花穂「っ……ううん、なんでもない」
気丈にそういうと、いつもの調子を保つようにベッドから降りる。
花穂「さ、早くご飯食べて学校に行こ、義之くん。最後に遅刻なんかしちゃったら、締まらないでしょ?」
義之「ああ、そうだな」
花穂が気丈に振舞っているんだ。ここで俺がそんな花穂を気遣うのは失礼な気がした。
二人で、居間に降りる。当然、誰もいなかった。音姉も由夢も、気を遣ってくれているんだ。
207 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 01:13:12.92 ID:Q+Bb88g90
朝の準備を済ませ、家を出る。
義之「ごめん、花穂。ちょっと、待っててくれる?」
花穂「え、うん」
花穂を置いて、朝倉家に寄る。
ピンポーン。
少しの間を置いて、純一さんが出てくる。
純一「ん、義之くんか。どうかしたかい?」
義之「あ、いえ……」
まだ、純一さんはいた。ということは、まだ行ってはいないということか?
義之「音姉と由夢は、まだいるんですか?」
純一「ん、あぁ。二人はもう行っちゃったよ」
義之「そうですか。わかりました」
純一「うん、いってらっしゃい」
一礼して、朝倉家を後にする。てっきり今朝の夢は音姉のものだと思ってたんだけど……。
あの夢は多分、純一さんがさくらさんと同じことをするって話だと思ってた。でも、まだ純一さんはいたから、音姉の夢じゃないのだろうか……?
義之「おまたせ、花穂。それじゃ、行こうか」
頭の中で答えは出なかった。芳乃家の前で待っていた花穂に、声をかける。
花穂「うん」
花穂と一緒に、風見学園へ向けて歩き出す。
208 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 01:14:43.78 ID:Q+Bb88g90
* * *
学園へと向かう途中に、由夢がいた。傍から見てもわかるほどボーっとしたまま、ゆっくりと学園へ向かって歩いていた。
義之「おーい、由夢」
由夢「っ!に、兄さん!」
俺が話しかけると、由夢はびくんと体を跳ねさせた。
由夢「………」
俺と花穂を見ると、由夢はもの悲しそうな顔をする。
義之「どうかしたのか、由夢?」
由夢「ううん……なんでもない。ごめんね、わたし、急ぐからっ……!」
話を中断し、由夢は走り去ってしまった。
花穂「義之くん……?」
義之「そっとしておこう」
俺の言葉に、花穂も頷いてくれる。
209 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 01:16:01.65 ID:Q+Bb88g90
* * *
花穂「それじゃ義之くん。放課後に、また」
義之「ああ、わかった」
今日一日は、クラスで過ごすことに決めていた。俺も花穂も、最後の別れを済ませようと決めたことだった。
義之「おはよー」
がらっと教室の扉を開けて、みんなに挨拶する。
渉「おう、おはよー。てめぇ、今朝も桜木と見せつけながら登校してたな!」
早速渉が絡んでくる。
義之「あ?ああ、まぁ、俺たちラブラブだし」
最早否定することもなく、そう答える。
渉「くそぉ、妬ましい!俺も彼女欲しいぃぃ!」
いつも通りのやりとり。
小恋「おはよう、義之」
義之「おう、おはよう小恋」
杏「ふふ、来たわよ罪作りな男が」
茜「恋とは、こうも人を残酷にするんですなぁ」
続けて、雪月花が俺の席の近くまで来る。
義之「何の話だよ」
茜「いやぁ、今朝、朝倉姉妹が元気ないのを見かけたからさぁ。もしかして義之くんがなにかしたんじゃないのかってね」
杏「そしたら、今朝も桜木さんと二人でラブラブ登校してたっていうじゃないの。あんまり桜木さんとばかりいると由夢さんと音姫先輩が可哀想よ」
周りの人が見てもわかるくらい元気がないのか。これは……もう時間はなさそうだな。
茜「義之く〜ん?」
義之「ん?」
茜「どうかしたの?なんか今、妙に真剣そうな顔してたけど……」
義之「あ、悪い。なんでもないよ」
茜「そう?それならいいけど」
危ない危ない。この事は誰にも悟られないようにしないとな。
杉並「おはよう、諸君!」
チャイム寸前に、杉並が姿を現した。
義之「ずいぶん遅かったな、杉並」
杉並「おう、同士か。いやなに、俺は俺で忙しいのだよ」
ふふん、と不敵に笑う杉並。こいつの方は、なにか新しい情報を手に入れたのだろうか?
杉並「桜内よ。昼休み、屋上で待っているぞ」
他の奴らに聞こえないように、耳打ちしてくる。
義之(……やっぱりなにか掴んだんだな)
まぁ、俺のほうからも言うことはあるし、ちょうどいい。
210 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 01:16:43.81 ID:Q+Bb88g90
* * *
そして、昼休み。
渉「義之〜、飯食いに行こうぜ〜」
義之「悪い、渉。ちょっと、今日は後から行く」
渉「また桜木かぁ?」
義之「いや、今日は違う。とにかく、先に行っててくれ」
渉「え?あ、おう」
渉を置いて、屋上へと向かう。さっと教室内を見渡したが、すでに杉並の姿はなかった。先に屋上に出ているのだろうか?
屋上には、やはり杉並がすでに来ていた。
杉並「待っていたぞ、同士桜内」
義之「ああ。なんかわかったのか?」
杉並「ふむ。残念ながら、こちらの方は進展はなかった。だが、桜内よ。他の奴らの目はごまかせても、この俺の目はごまかせん」
いつになく真剣な、杉並の声。
杉並「桜内の中で、なにかひとつの決心が固まったと、俺は見るが?」
義之「……まぁ、確かに、俺の中ではもう決心はついているよ」
はっきりと、そう答えてやる。
杉並「……うむ、そうか」
真剣な表情で、それだけ答える。
義之「なぁ、杉並。ひとつ、頼みがあるんだけど」
杉並「ん?なんだ?」
義之「今回のこと……一通り終わったらさ、杉並なりの考えで構わないから記事を書いて欲しい」
杉並「……それは、本当にいいのか?」
義之「ああ。是非」
杉並「ふむ……なんとなく釈然としないが、同士の頼みだ。いいだろう」
義之「サンキュ、杉並」
杉並「なに、気にすることはない。俺自身、今回のことは記事にまとめておきたいと思っていたところだ。
桜内がいいというのなら、遠慮なく書かせてもらうことにする」
これで、俺がこの世界に生きたということを残せる。
211 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 01:17:30.52 ID:Q+Bb88g90
* * *
放課後。
義之「悪い、花穂。ちょっと、俺に付き合ってくれるか?」
花穂「うん、いいよ。これで最後、だしね」
俺の頭の中には、もう二つやることがあった。
義之「とりあえず、先に天枷だ」
二年の由夢と美夏のクラスへと向かう。
教室の近くまで行くと、由夢と鉢合わせる。
由夢「あっ……兄さん……」
義之「よ、由夢。天枷はいるか?」
由夢「え、天枷さん?ちょ、ちょっと待ってて」
由夢も俺や花穂とは極力目を合わさず、教室へと戻ってしまった。
花穂「天枷さんって人に用があるの?」
義之「ん、ちょっとな。野暮用だよ」
少し待つと、由夢が天枷を連れて出てきてくれた。
義之「悪いけど、由夢……」
由夢「あっ、ご、ごめんなさい兄さんっ!わ、わたしは用事があるので、先に帰ってますねっ!」
由夢は俺の言葉を遮って、自分の言いたいことだけ言うとそそくさと去っていった。
義之「……ま、結果オーライか」
212 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 01:18:18.35 ID:Q+Bb88g90
美夏「なんだ、桜内。……それに……」
天枷が、俺の後ろにいる花穂を見て言葉に詰まる。
義之「ああ、いや、花穂は関係ない」
美夏「ん、そうなのか?」
義之「ああ。ちょっと、お前に頼みたいことがあるんだ」
美夏「美夏に頼みごとか?なんだ?」
義之「ああ。まぁ、機会があればでいいんだけど……。由夢にさ。俺が、ありがとうって言ってたって、伝えてくれないかな?」
美夏「ん??どうしてだ。お礼を言いたいんなら自分で言えばいいだろう?」
美夏が疑問を返してくるが、予想の範囲内だ。
義之「ああ、いや、だから、機会があればでいいんだ。それに、伝えることはその一言だけでもいい」
美夏「んー……?なんかよくわからんが、桜内が由夢にありがとうと言っていたと言う事を伝えればいいのだな?」
義之「ああ、そうだ」
美夏「なんだかよくわからんが、わかったぞ」
承諾してくれる。
義之「サンキュな、天枷。ほら、お礼のバナナだ」
カバンから一本のバナナを取り出す。
美夏「貴様……美夏を馬鹿にしているのか……?」
義之「いざという時のためだよ。ほら、いいから取っておけ」
美夏「むぅ……お礼といわれると断りづらいじゃないか……。しょうがない。受け取っておくとしよう」
渋々ながらバナナを受け取る。
義之「ん、それでいい。美夏も、ありがとな」
美夏「ん?あぁ、別に気にすることはない」
義之「じゃあな」
今のお礼の意図はわからくてもいい。ただの、俺の自己満足なんだから。
213 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 01:19:10.30 ID:Q+Bb88g90
* * *
今度は、音姉のクラスに向かう。今度は、目的の人物にすぐに出会えた。
まゆき「おっ、弟くん。どうした?音姫になんか用?」
まゆき先輩だ。
義之「いや、音姉には用はないんですけど……。まゆき先輩に用があってきました」
まゆき「あたしに用事?ずいぶんと珍しいこともあったもんだね。で、何?」
義之「ええ。今度、機会があったら、音姉に伝えて欲しいことがあるんです。ただ、ひと言。ありがとう、って」
まゆき「ん〜?なんだか意味不明なお願いだなぁ。音姫となんかあったの?」
義之「いえ、まぁ……色々と」
まゆき「色々と、ねぇ……。音姫の様子も最近はずっとおかしいし、プライベートなことならあたしも聞かないけどさぁ。
でもそういうことは、本人が直接伝えた方がいいと思うけどな、あたしは」
まゆき先輩が、真顔でそう言ってくれる。
義之「ありがとうございます。もちろん、俺もそのつもりですけどね。でも、まゆき先輩からも伝えて欲しいです」
まゆき「ん〜……なんかすっきりしない言い方だねぇ……。ま、わかったよ。その代わり、あたしからも一つ。音姫を泣かすような事だけはするなよ!」
笑顔で、まゆき先輩も承諾してくれる。
義之「なんだかまゆき先輩、音姉の彼氏みたいですね」
俺もつい苦笑する。
まゆき「おいおい、あたしも音姫も正常だっつの」
義之「ありがとうございます、まゆき先輩」
まゆき「おう」
手を振って、まゆき先輩と別れる。
214 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 01:19:36.12 ID:Q+Bb88g90
* * *
義之「ありがと、花穂」
花穂「うん。……義之くんは、いいね。友達がたくさんいて」
義之「花穂はそんな俺の友達なんだからさ、俺の友達は、花穂の友達でもあるだろ?」
花穂「そう……なのかな?」
義之「そうだよ」
歩きながら、最後の他愛ない話をする。もう、やるべきことは全部やった。
これで……未練がないといったら嘘になるけど、安心だ。
215 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 01:20:06.31 ID:Q+Bb88g90
* * *
桜の木の元に行く前に、花穂と二人で初音島を歩き回る。花穂との思い出をひとつひとつ、大切に思い出しながら。
芳乃家の手前、朝倉家近くまで来ると、話し声が聞こえてきた。
音姫「……ごめんなさい」
今朝の夢の、再現だった。
音姫「ごめんなさい、おじいちゃん……。私……私、どうしても……!」
音姉の、泣きながら謝る声だった。だとしたら、もう、時間がない。
義之「………。花穂」
花穂「……うん」
俺のその呼び声だけで、花穂は俺の意図を読み取ってくれたようだった。
そうして二人、音姉と純一さんを置いて桜の木の元へと足を運んだ。
216 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 01:21:08.96 ID:Q+Bb88g90
* * *
夕陽が、桜の木を照らしていた。ひらひらと舞い落ちる桜の花びら。その木のすぐ側に、花穂と二人で立つ。
花穂「……義之くん。これ、持ってきてるよね?」
おもむろに、花穂が手の中にあるものを俺に見せてくる。それは、いつかどこかで買った白い花びらのアクセサリーだった。
義之「ああ、持ってきてるよ」
腕輪のようにつけていたピンクの花びらのアクセサリーを取り出す。
花穂「これをさ、この木に……ほら、こうやってつけておこうよ」
花穂は、それを桜の幹に引っ掛けていた。
花穂「この桜の木を枯らせても、木そのものが無くなるわけじゃないよね?だから、この木にわたしたちがこの世界に確かに存在したっていう証を、残そうよ」
義之「そうだな、いいアイデアだ」
花穂に習い、俺も桜の幹に引っ掛ける。
義之「………」
さて……。やらなきゃ、な。
桜の木に、そっと手のひらを当てる。ざわ、と木全体が揺らめいたように感じた。
目を閉じて、桜の木が枯れるイメージを頭の中に浮かべる。
桜の木に当てた手の甲に、そっと、暖かいものが触れた。目を開けると、そこには花穂の手が添えられていた。
花穂「義之くんひとりに、やらせない……」
穏やかに、花穂がそういった。その瞬間。風がないのに桜の木はざわめき。その花弁を、急速に散らせていく。
義之「……っ」
花弁が散っていくのに比例して、体が重くなっていくような感覚を覚える。
そして―――桜の木は、最後の一枚まで、その花弁を散らせた。
217 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 01:22:14.00 ID:Q+Bb88g90
木から手を離し、その場に崩れるように座り込む。
義之「……大丈夫か、花穂?」
花穂「なんだろう……体が、重たいよ……義之くん」
花穂も、やはり一緒だった。
義之「……やったんだな。俺と花穂が、終わらせたんだ。これで、この島に取り巻いている、不可解な事件も終わる」
花穂「……そうだね」
義之「怖く、ないか?」
花穂「………」
俺のその問いに、花穂は押し黙る。
花穂「怖くないわけ……ないよ」
しかし、すぐに口を開いた。
花穂「でも……最後に、義之くんが側にいてくれるなら、怖いけど、なんだか安心感もある」
義之「……そっか」
次第に、視界も薄れていく。ああ、俺はこの世界から消えるんだな……。でも、これでよかったんだ。
花穂「最後に、これだけは言わせてね、義之くん。……ありがとう。わたしは、義之くんのことが、大好きだったよ―――
目尻に涙を溜めながら、精一杯に笑顔を浮かべて、花穂はこの世界から、その姿を消した。
義之「……ありがとう、花穂」
俺も最後に……これだけは願っておこうかな。桜の木はもう枯れてしまったけど、もしこの世界に本当の奇跡というものがあるのなら。
どうか、花穂だけでもこの世界に残してください……。
義之「俺はもう消えちまうけど、花穂だけは無事でいて欲しい―――
その言葉を最後に、俺の存在も消えていくのがわかった。
―――さようなら―――
218 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 01:23:02.65 ID:Q+Bb88g90
Epirogue
………。
音姫「由夢ちゃん。一体こんなところに何の用?」
由夢「うーん……別に用事があるってわけじゃないんだけどね。夢で見ちゃったから、なんとなく気になっちゃって……」
音姫「え?」
由夢「ううん、なんでもない。ちょっと、この桜の木を見ておきたいなって思っただけ」
音姫「そうなの?」
由夢「うん。ちょっと前までは一年中咲いてたけど、いざ枯れちゃったとなったらなんだか物足りなくてさ。今日は卒業式だし、見ておくのも悪くないかなと思って」
音姫「卒業式?って、誰の?」
由夢「えっ?いや、だから……ほ、ほら、板橋さんとか、杉並さんとか、先輩の卒業式じゃない」
音姫「まぁ、一応そうだけど……。あれ?由夢ちゃん、これこれ」
由夢「どうかしたの、お姉ちゃん?」
音姫「ほら、これ。こんなところに、二つ、アクセサリーが掛けられてるよ」
由夢「あ、本当だ。誰かが、いたずらで掛けたのかな?」
音姫「うーん、どうだろうね。でも、二つが寄り添いあうようになってて、なんだか微笑ましいね」
由夢「あはは、そうだね。……あれ?なんかこのアクセサリー光ってない?」
音姫「えっ?」
由夢「ほら、こうやって手で影を作ったら……」
音姫「あ、本当だ」
由夢「なんだか面白いね。なにか、特別な仕掛けでもあるのかな?」
音姫「うーん……どうだろうね。そろそろ時間だし、いこ、由夢ちゃん」
由夢「え、もう?」
音姫「そろそろいかなきゃ遅刻になっちゃうよ?ほら、急ぐ急ぐ!」
由夢「んー……気になるんだけどな……まぁいっか」
219 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 01:23:48.45 ID:Q+Bb88g90
………。
気がつくと、俺は桜の木に寄りかかって座っていた。俺の手には、暖かい温もりがあった。
花穂「義之くん……?」
義之「……花穂?」
二人、顔を見合わせる。
花穂「ど、どうして……?」
ふと、傍らに落ちていたアクセサリーが視界に入った。
義之「花穂。これ……」
花穂「え?……あ……」
花穂も、俺と同じ場所を見る。二つのアクセサリーは、粉々に砕け散っていた。
花穂「このアクセサリーが、わたしたちを助けてくれたのかな……?」
義之「……そうかもな」
花穂の問いに曖昧に答えながら、立ち上がる。ついさっきまで、この場所にいた姉妹の会話を思い出す。
義之「今日は、卒業式みたいだな。風見学園の」
花穂「うん、そうだね」
義之「……もちろん、行くよな?」
花穂「当たり前だよ、義之くん」
花穂は笑いながら、俺の手を取った。
俺と花穂の服装は、風見学園の制服だった。しかも都合のいいことに、カバンもすぐ側に置かれていた。そのカバンを持って、歩き出す。
今日は卒業式。俺と花穂は、それに出席するために、少し昔の風景を思い出しながら、風見学園へ向けて歩き出すのだった。
終わり
220 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 01:25:48.12 ID:Q+Bb88g90
以上で、投下終了となります。ここまでお付き合いしてくれた方いましたら、ありがとうございます
最後の投下は大量かつ駆け足になってしまった
三日後には桜エディションが発売ですね
D.Cシリーズをプレイしながら、こんなSSがあったなーと思い出してくれたらうれしいです
では、またどこかのSSスレで会いましょう
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