【たぬき】小早川紗枝「古都狐屋敷奇譚」

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34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 18:26:46.54 ID:nEpbBoRjo
>>33
たぬきはどうでもいいや
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 18:47:05.08 ID:Ki+twjAx0
乙乙、楽しみ
36 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/18(木) 23:59:24.09 ID:2B21n8lm0

  【 前編 : 京都まやかし迷路 】


 ◇周子◇


 京都駅はあの日発った時から変わらず、秋風が大階段を吹き抜けていた。


「……まさかホントに帰郷することになるとはねぇ」
「こ、ここが、京都……」
「この魔王の第六感(センス)にも、悠久の歴史に根差す確かな妖気が響いているわ……」

「そこで饅頭売ってたけど超うめぇわ」
「そなたっそなたっ」
「お、芳乃も食うか。はいあーん」

 何食っとんねん。
 いや、うまいけどさ。宝泉堂の賀茂黒。

「まあ今からそう気を張るなよ。ほらみんなもお食べ」
「わぁ……! ほんとにおいしいです!」
「漆黒の宝珠!」
37 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/19(金) 00:06:32.25 ID:Vl8YGF260

 さて故郷の和菓子も頂いたところで。
 せっかく帰ってきたのに悪いんだけど、あたしらが目指すのは最短距離だ。

 とにかく紗枝ちゃんを見つける。
 そんで、一緒に東京に帰る。できれば今日中に。

 それ以外に道は無い。あるもんかい。こちとら新曲控えとるんやから。

「芳乃ちゃん、どう?」

 連絡手段が皆無な以上、頼みの綱は芳乃ちゃんの「失せ物探し」の力だけだった。

 京都タワーを見上げながら、芳乃ちゃんは一歩踏み出す。
 駅前広場の雑多な空気を肺いっぱいに吸い込み、目を閉じることしばし――

「――感じまするー」
「マジ!? どこ!?」
「それはわかりませぬー」

 ズルッとなった。
 芳乃ちゃんは虚空に視線を巡らせて、たぶん彼女にしか見えない無数の「糸」を辿っているようだった。
38 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/19(金) 00:09:52.55 ID:Vl8YGF260


「やはりー……以前にも感じました通り、ここの気はたいそう複雑怪奇に絡み合っておりますー」
「そうなの、芳乃ちゃん?」
「はいー。地には人、森に狸、空は天狗……あらゆるものの気脈が混ざり合い、大きな流れとなって都と共にありー……。
 各所に構えられし神域の数々が、それらの要所となっているのでしてー」
「ふおおお……!?」

 蘭子ちゃんのテンションが上がっとる。無理もないか。
 普通に暮らす分にはなんてことのない地元だったけど、見る子が見りゃそうなんのか……。

「それじゃあ、紗枝ちゃんの……」

 言いかけて、訂正する。
 きっとあの子個人のと言うより、もっとわかりやすい指標というものがある筈だ。

「狐の気配は?」

39 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/19(金) 00:11:22.98 ID:Vl8YGF260

 芳乃ちゃんはしばらく黙っていた。
 まるで彼女自身が一つの小さな器となって、京都の風や光、匂いや気配を全身に透徹させようとしているみたいだった。

 やがて、ぱち、と目を開ける。

「まずはひとつ、やらねばならぬことがー……」
「やらなきゃいけないこと?」

 芳乃ちゃんは浮き上がるように歩を進め、あたしを振り返って微笑んだ。


「周子さん。紗枝さんと一緒に遊んだ場所などを、ご紹介していただきたくー」

40 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/19(金) 00:12:40.32 ID:Vl8YGF260

   〇


 人間ながら京のバケモノにはそこそこ事情通のつもりなあたしだけど、狐たちのことは生憎ほとんど知らない。
 どうやら彼らは自分の住処や能力、生態など全てにおいて徹底的に秘匿主義を貫いているらしい。
 仮に詳しい者がいるとすれば狸界でも相当の大物か、はたまた本物の天狗様くらいだろうけど、そっちへのパイプは持たなかった。
 知っているのはせいぜい話半分の噂くらいだ。

 曰く、陰険。
 曰く、タチが悪い。
 曰く、冗談が通じない。
 曰く、祟るし隠すし呪うし化かす。


「最悪じゃねーか」

 茶団子を食べながら、プロデューサーさんがひどくげんなりした。

41 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/19(金) 00:14:51.48 ID:Vl8YGF260

「やーまあ、実際どうかは蓋開けてみなきゃわからんことだけどね」
「私、お狐さまって紗枝ちゃんしか知らないけど、ほんとにみんな怖いのかなぁ」
「ほー。なるほど、ここにもたぬきさんが数多く行き交っておりましてー」
「我おうどん好き」

 忠僕茶屋でああでもないこうでもないと会議しながら、あたしはいつかここに紗枝ちゃんと来た時のことを思い出していた。
 道行く人々の正体当てゲームをしたんだ。
 きつねうどんをはふはふ頂く蘭子ちゃんを見ながら、ふと対面の芳乃ちゃんに身を乗り出す。

「でもさ、昔あたしらが行ったとこを辿ってどうなんの?」

 芳乃ちゃんは湯飲みを両手に持って、ずずずと啜りながら鷹揚に答える。

「辿るべきは、縁なればー。この入り乱れたる流れにて、そなたと紗枝さんの『色』を知らねばなりませぬゆえー」

42 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/19(金) 00:17:24.23 ID:Vl8YGF260


 たとえば、大黒町のダーツバー。

 たとえば、道端の献血車。

 たとえば、鴨川沿いの並木道……。


 それは、あたし自身の記憶を辿る旅のようでもあった。
 いつか来た場所を次々に巡り、そこかしこに染み付いた過去の匂いを嗅ぎ取るような。

 ぴた、と芳乃ちゃんが足を止めた。

「芳乃? どうした?」
「ふむー……なにやらかぐわしき、香の薫りがー……」
「お香? どこからするの、芳乃ちゃん?」

 ピンと来た。
 人でも狸でも天狗でもない、それはきっと何か京の「表」とは異なるものの気配のはずだ。

「芳乃ちゃん、それ辿れる?」
「おまかせあれー。わずかばかりながらー、こちらからー……」

 下駄をからころ鳴らしながら歩きだす芳乃ちゃん。
 道行を導くのはこっちからあっちに交代となった、鴨川を下る形で川沿いの道をぽてぽて南下していく。
43 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/19(金) 00:19:48.29 ID:Vl8YGF260


「これが、京都なんだね……」

 美穂ちゃんは今と古代の色が混ざった街並みを見て、感慨深げに溜め息をついた。

「いつか行きたいと思ってたけど、こんな形でなんて思わなかったなぁ」
「どーせなら凱旋といきたかったとこやけどね。ま、しゃーないしゃーない」
「我らが使命を果たせしあかつきには、いずれ必ず完全体となりてこの地を支配せん!」


 やがて五人は河合橋の中腹に差し掛かる。
 高野川と合流する鴨川デルタにはちらほらと人がいる。ほんのりと赤や黄色を纏い始めた木々が風に揺れ、秋の冷えた川面がその色を写し取っている。
 季節の変わりゆく音を聞いた気がして、あたしはいつかの春を思い出す。
 
 あれは桜の花弁が五分咲きに広がる、少し肌寒い宵だった。
 ここは紗枝ちゃんを見つけた最初の場所だ。
 あの時まだあたしの髪は黒く、あの子の髪は銀で、お互いに退屈を飼い殺す一人と一匹の阿呆だった。

 見上げる秋空に雲はなくて、夏より薄くなった青が絵の具のように広がっているのが見えた。
 寒くなるにつれて空も太陽も遠くなる。でもこのくらいの距離感が、あたしには心地がいい。

44 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/19(金) 00:21:57.56 ID:Vl8YGF260


 ふいに頬で雫が弾けた。


「つめたっ。……え、水?」
「なんだ、雨か? こんなに天気がいいのに……」

 プロデューサーさんもいぶかしげに空を見上げた。突如現れた雨滴は冷たかった。
 さあっ――と降り注ぐにわかな細雨。きらきらと青空に映える様が光のカーテンのようだ。

「雨? 雨なんて降ってます?」
「水精(ウンディーネ)の恵みはもたらされておらぬが……?」 

 美穂ちゃんと蘭子ちゃんは、雨なんて何のこっちゃという顔をしていて。

 しまった。

45 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/19(金) 00:24:04.84 ID:Vl8YGF260


「!」

 芳乃ちゃんが身を翻し、こちらに両手を伸ばす。

「そなた、周子さん、わたくしに手を――――!」


 遅かった。

 いつかと同じだ。誘い込まれたんだと咄嗟に察した。
 寸前、芳乃ちゃんが自分の髪を引きむしるようにほどいた。
 頭のリボンと、首の髪紐。しゅるりと宙を泳ぐそれらがギリギリであたしとプロデューサーさんの手に渡り。


 ぴしりと世界の層がズレる感じがして、二人だけがいなくなる。


46 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/19(金) 00:26:11.24 ID:Vl8YGF260


   ◆◆◆◆


 すーっ、ぱたん……。


 ひとりでに襖の開いていく音が、無限の座敷に延々と響いていた。

「な、なんだ? さっきまで外にいなかったか!?」
「……プロデューサーさん。あたしらどうやら、二人だけ呼ばれたっぽい」

 この場所は知ってる。一度だけ招かれたことがある。
 もっとも紗枝ちゃんがいなければ危なかった、相当ろくでもないご招待だったようだけど。


「ここ、狐の屋敷だよ」

47 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/19(金) 00:27:30.30 ID:Vl8YGF260


 プロデューサーさんがぐっと緊張する気配。
 あたしも似たようなもんだ。前回と違うのは、こっちから来る意志があったってこと。

「ここに紗枝がいるってことか?」
「……多分。でもどうだろね。あんまり穏やかなことじゃないかもしれへん」

 縦長の座敷は無限に連なってどこまでも続いている。果てがどうなっているのかは知る由もない。
 行燈の光が闇をほんのり照らして、壁にかけられた無数の狐面がじっとこちらを見ていた。

「紗枝ちゃん!! ここにいんの!?」

 ……し〜ん、ってなもんか。
 まあ簡単に返事されるなんて思っちゃいないけど。

48 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/19(金) 00:28:28.31 ID:Vl8YGF260

「先に進んでみよう」
「ちょい待ち。この先行ってもなんもないよ。ずーっと座敷が続いてるだけ」
「しかし、ここにいるだけじゃどうにもならんぞ」
「うん……一回、試してみたいことがあんのよ」

 あたしは真後ろを向いた。そこにはやっぱり襖があって、ぴっちり閉ざされている。
 あの時は前にだけ進んでドツボにはまった。きっと今回もそうだろう。なら、その逆は?
 最初から逆行してみればどうなる?

「周子……!」
「大丈夫。あたしに任せ……てっ!」


 たんっ!

49 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/19(金) 00:30:46.70 ID:Vl8YGF260

 開いた先の空間に息を呑んだ。
 当たりと言えば大当たり、けれどそれが吉と出るかはわからず、相手はきっと先刻ご承知で。

 向こうの壁も見えない大広間に、狐面を被った老若男女が何人、何十人、何百人と立ち、こっちをじいっと見つめていた。

「……!」
「周子、俺の後ろに!」

 プロデューサーさんが咄嗟にあたしを下げさせる。
 狐面は誰も何も言わず、無感情な朱塗りの顔をこくりと傾げる。水を打ったような静寂。息をしているかさえ怪しい。

「ようこそ、おいでくださいました」

 狐面が口を開いた。水瓶の中をぐわんぐわん反響するような声は、誰が喋ってるものか知れたもんじゃなかった。

50 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/19(金) 00:32:03.51 ID:Vl8YGF260

「貴方様がたのお話は、お姫(ひい)様よりようく聞き及んでおります」
「ご足労いただき、まことにご苦労様でございました」
「しかしながら、当家はただいま大事な儀式の準備中でございまして」
「満足なおもてなしも出来ぬこと、まずはお許しくださいませ」

 そんな話を聞きたかったんじゃない。
 お姫様ってのは、間違いなく紗枝ちゃんのことだ。
 プロデューサーさんは一応の礼を返し、懐の名刺入れを取り出そうとしてやっぱりやめた。

「ご丁寧にどうも。そこまでご承知でしたら、我々がお宅を訪ねた理由もおわかりでしょうが……」
「無論のこと、承知しておりますれば」
「なれど当家の問題ゆえ」

「それは、東京から一日で彼女を引き戻してまでしなきゃいけないことですか?」

 沈黙。
 人の都合など知らんと全身全霊で言われてる気がする。
 やがて、狐面はぽつりと、


「これは、お姫様ご自身のたってのご希望でもあります」
51 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/19(金) 00:33:28.18 ID:Vl8YGF260

 は?

 呆気に取られた時、狐面の集団がざざっと左右に割れた。
 続いて座敷の薄闇の奥から、見慣れた女の子がしゃなりしゃなりと歩み出てくる。


「――あら、周子はん、プロデューサーはん。こっちに来てはったん?」


 紗枝ちゃんは黒髪に大きな耳と尻尾を揺らして、当然のように指呼の間にあった。
 見れば狐面はみな彼女に頭を垂れている。まさに「お姫様」の待遇を受ける彼女は、けれど、こうして見る分にはいつも通りだった。
 狐面の一人にぽしょぽしょ耳打ちされて、紗枝ちゃんはうんうんと頷く。

「まぁ、今日すぐに東京から……。それはまぁ、遠路はるばるおくたぶれさんどしたなぁ〜」

52 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/19(金) 00:35:09.04 ID:Vl8YGF260

「紗枝」

 いかにも芝居がかった感じのする紗枝ちゃんに、プロデューサーさんが切り込む。

「俺は今、そこに並ぶお面達から嫌な話を聞いた。正直、聞き間違いか勘違いだと思ってるが、念のため確認したい。
 お前から一言違うと言ってくれればそれで済むんだ。
 ……自分で望んで京都に戻ったっていうのは、本当のことか?」

 覚悟の要る確認だった。
 けれど紗枝ちゃんはさして気負う風もなく、いともあっさりと答えた。

「せや。そろそろ帰ろ思て、迎えに来てもろたんどす」

「……何故?」
「ん〜」
「何か気に入らないことがあったのか? プロデュース方針に問題が?」
「はて、なぁ……」
「スケジュールだとか仕事の都合とかはこの際どうでもいい。単純に気持ちを伝えてくれ」

53 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/19(金) 00:37:03.38 ID:Vl8YGF260


 昨日の今日で態度が違いすぎる。一体どうしちゃったっての。
 紗枝ちゃんは気のない感じで視線を虚空に走らせ、暑くてかなわんとでも言うように手を差し出す。
 すると狐面が扇を差し出し、彼女はそれをはらりと開いて、こう答えた。


「うちなぁ。あいどる、もう飽きてもうたんよ」


 プロデューサーさんの肩が震えるのが、こっちからもはっきり見えた。

「まぁ、ええ機会やさかい。誕生日を潮目いうことにして、そろそろ小早川の狐の本分を全うせなあかんのや思います。
 お父はんから術を継いで、仙気を高めて……ああ、婿取りも真面目に考えなあきまへんなぁ」

 やるべき「狐の仕事」を指折り数える彼女の顔は、どこまでも平静。
 何も着けていないのにそれ自体が狐面のような感じがした。

54 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/19(金) 00:41:39.61 ID:Vl8YGF260


「…………なんやねんそれ」


 手足の先からすっと血の気が失せて、代わりに腹の底がふつふつ熱を持つ。

「飽きた!? はぁ!? 阿呆なこと言いなや! 冗談にしても笑えんわ!!」
「えろうすまへんなぁ。せやけどほら、いつまでも人に混ざってふらふらしてもいられへんやろ?」
「あたしを祟るってのは!? まだなんにも返してないでしょ!?」
「お父はんが特別に、一から修行をやり直せばええ言うてくれはったんよ。長い目で見ればもともと大した量やあらへん」

 ガラじゃない。
 あたしらしくもない。
 自覚しながらコントロールが利かない。
 血を吐くような思いで言った。

「あたしらがやってきたことは、そんな簡単にほっぽり出せるもんなの……!?」

「感謝はしとるんよ? ええ退屈しのぎさして貰うたなぁって」

55 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/19(金) 00:42:18.09 ID:Vl8YGF260

 …………!!

「この……ッ!」
「落ち着け周子!」
「くわー! ちょぉ離してやプロデューサーさん! まだ文句は山ほど……!!」

「まぁ、なんや言わはりたいことがあるんはわかりますけど――」

 相手はどこまでも柳に風で、開いた扇子でわざとらしく口元を隠した。

「ご自分の心配でもしはった方がええんとちゃいますか、『人間はん』?」


 数えきれないほどの狐の目が、みんなこっちに注がれている。
 下手に動いたらどうなるかなんて馬鹿でもわかる。檻の中のモルモットでも見るような、無感動かつ無慈悲な目だった。
56 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/19(金) 00:44:27.74 ID:Vl8YGF260

「……本当に、本気で言ってるのか?」
「……うちは狐や。仙狐と俗人、所詮は住む世界が違うたんよ」

 ぴしゃりと扇子を閉じる。
 青い簪の花が小さく揺れる。
 その時、足元の畳がぐにゃりと揺らぐのがわかった。

「紗っ……!!」

 いや畳だけじゃない。壁も天上も周りの狐も陽炎みたいに形を失い、おぼろげな色水となって遥か向こうに吸い込まれていく。
 もはや座敷ですらない空間に放り出され、あたしは彼方から響く狐の声を聞いた。


「これが今生の別れどす。日のあるうちに東京へ戻りなはれ。それがお互い、ちょうどええ分際いうもんや!」


 ぷつんと光が途絶え、あたしらは意識を失った。

57 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/19(金) 00:45:57.28 ID:Vl8YGF260

  ◆◆◆◆

 ◇紗枝◇


 済んだか、と座敷の奥から声。

「はいな。これでもう縁も切れましたやろ」

 低く唸るだけで返し、向こうの薄闇はすっかり黙り込んでまいます。

「もうあの人らとうちは何の関係もあらへん。お父はんがわざわざ隠すまでもありまへんえ」

 すたん、すたんっ、と襖が開いていく音。
 狐の屋敷が、今一度開かれてゆきます。
 内側からしか開け閉めすることのできひん、硬く秘された結界が。

「ええ、ええ。そのまま追い出してしもうたらええ。人は俗世で勝手に生きて死ぬるもんや」

 全て狐の幻。醒める時は来る。何もかも納まるべきとこに納まるよう出来てはる。
 お月はんが東から昇るのと同じ、自明のことや。


「せいぜい……よぼよぼになるまで、生きてはったらええわ……」


 かくして、狐屋敷に一人娘が戻る――


  ◆◆◆◆
58 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/19(金) 00:46:54.34 ID:Vl8YGF260


 ◇周子◇


『――――なたー』


『――そなたー…………周子さんー…………』


 聞き覚えのある声に起こされた。
 芳乃ちゃんの呼びかけは、何故か手元から聞こえていた。

「芳乃?」

 プロデューサーさんが先に起きて返事をする。
 いつの間にかあたしらは、前後に果ての見えない板張りの廊下に転がっていた。


『ようやく繋がりましてー』

 狐の手に落ちる前に握らされた、芳乃ちゃんのリボンと髪紐。
 なんと声はそこからしていた。
59 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/19(金) 00:48:21.30 ID:Vl8YGF260

「芳乃? そっちは今どこにいる? 美穂と蘭子は?」
『わたくし達は無事でしてー。変わらず京の町におりまするー』

 彼女が説明するところでは、こうだ。
 あたしらは狐が隠れ住む結界屋敷に閉じ込められた。
 芳乃ちゃんが渡したリボンは彼女がこっちを見つける為のマーカーのようなもので、こうして念話みたいなこともできるらしい。

 彼女は自分の手鏡を通して結界内のあたしらを見ているようだ。
 でもそれはようやくのことで、今の今まで姿はおろか気配さえ掴めなかったらしい。

『おそらく、お狐様が結界の秘匿を緩めたのでしょうー』
「それって……」
『敢えてのことかとー』

 つまり、出て行けと言っているのだ。
 自分達の足で。
 そしてもう二度と入るなと。

60 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/19(金) 00:51:27.06 ID:Vl8YGF260

「芳乃。…………」
『そなたー?』
「紗枝に会ったよ」

 言ったきり、プロデューサーさんはしばらく黙った。
 あたしも途切れた言葉の接ぎ穂を拾うことができない。

 しばしの沈黙の後、彼はぽつぽつと起こったことを語り出す。
 芳乃ちゃんは先を催促しようとはせず、一つ一つに「はい」「はい」と相槌を打ちながら、ただ聞いていた。
 あたしは、そんなプロデューサーさんの横顔を見ている。
 彼のこんな表情を見たのは初めてだ。

 全て聞き届け、芳乃ちゃんはすごく優しい声で言う。

『……まずはお戻りなさいませー。わたくしが導きますゆえー』

61 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/19(金) 00:52:31.38 ID:Vl8YGF260

   〇

 歩いている。
 長ーい廊下を、二人して悄然と歩いている。

『この廊下を果てまで歩けば、光が見えることでしょうー。それが外の光でしてー』

 踏み越える端から床板が外れているような感じがした。
 すぐ背後で廊下だった場所がぐるぐる変化していくのを感じる。
 生ぬるい風が追ってきて、踵から背中を這い上がってくる。

『歩みを止めねば、無事出られましょうー。ただし、決して振り返ってはなりませぬよー』
「……振り返ったら、どうなんの?」

『再び狐の結界に囚われるでしょう。そうなれば、二度とは出られる保障がありませぬゆえー……』

 見るなのタブー。よくある話だ。
 所詮は常人の二人に狐の仕掛けをどうこうできるわけがない。身の安全の為に、従うしかない。

62 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/19(金) 00:53:34.27 ID:Vl8YGF260

 やがて光が近付いてきた。
 空の色をしている。見ているだけで安心する現世の光だった。外は真昼だ。

 紗枝ちゃんのことを考える。
 姿かたちこそ見慣れた通りだったけど、こちらに向ける表情はぞっとするほど冷たかったこと。
 紗枝ちゃんのことを考える。
 人と狐の隔絶を示すように、その拒絶は徹底的だったこと。

 紗枝ちゃんのことを考える。


 なめとんのかと。
63 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/19(金) 00:54:45.86 ID:Vl8YGF260


 ――それがお互い、丁度ええ分際いうもんや!


 最後の方で声が震えていたのを聞き逃すあたしだとでも思ってんのか。
 黒髪に添えられた簪の色に気付かないと思ってんのか。

 もしかしたら勝手な妄想か、藁にも縋る願望か、それでも考える。

 本当に本心から「飽きた」って言うなら、彼女はあの青牡丹の簪を付けてなかった筈じゃないか。


 あと一歩で外に出るというところで、プロデューサーさんがいきなり言った。


「職業病ってあるよな」

64 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/19(金) 00:56:41.18 ID:Vl8YGF260

 なに急に。

「……プロデュース業の、ってこと?」
「そう。癖になってて、寝ても覚めても仕事のことを考えちゃうんだよな」
「うん」
「こうなると厄介でな。白状すれば、おまわりさんのお世話になりかけたことも一度や二度じゃない」
「うん」
「たとえば外でこう、ピンと来た子を見つけたりすると、声をかけずにはいられなくなっちゃうわけだ」
「うん、知ってるよ」
「だからまあ、何が言いたいかと言えば。こんな時にすまないんだが」
「えーよえーよ。それもサガってものやんな?」
65 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/19(金) 00:59:12.51 ID:Vl8YGF260


 二人、示し合わせたように足を止め。


「さっき名刺渡したい子みっけた」
「マジ? あたしにも紹介してよ」


 奇々怪々の狐屋敷を、同時に振り返る。

66 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/19(金) 01:01:10.66 ID:Vl8YGF260

  ◆◆◆◆

 ◇美穂◇


「……善き哉」


 芳乃ちゃんは顔を綻ばせて、手鏡をぱたりと閉じます。
 私と蘭子ちゃんはなすすべもなく見守っているだけでした。

「どう? 二人は帰って来られそう……?」
「お二人は、屋敷の中に残ってしまいましてー」
「えぇえ!? そんなっ、どどどどうしよう……!」

67 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/19(金) 01:02:05.59 ID:Vl8YGF260

 いや――と考え直します。

 芳乃ちゃんがここまで落ち着いてるということは、不測の事態じゃないってことで。
 きっと二人は自ら望んで中に残ったんだ。
 だったら、私は。


「どうすればいい?」


 周子ちゃんの落としたハンドバッグを握る手に、無意識に力がこもりました。
 芳乃ちゃんは、私と蘭子ちゃんの顔を順番に見て微笑みます。

「まずは霊脈の流れを知らねばなりませぬ。我々は今一度、京巡りと参りませー」
68 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/19(金) 01:03:33.55 ID:Vl8YGF260
 一旦切ります。
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/19(金) 06:58:29.59 ID:2MJqBj+do
はーあいかわらずおもしろい
70 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/19(金) 22:54:23.50 ID:Vl8YGF260

   〇


「結界を破ることは、まず出来ぬと見てよろしいでしょうー」


 ぽてぽて歩きながら、芳乃ちゃんは道すがら告げます。
 きっとすごく難しいとは思っていたけど、彼女の口からそう断言されるのはやっぱりショックでした。

「強大な魔力を炸裂させれば、突破口を開くことは出来ぬか!? 汝の力なれば……!」
「わたくしにもそれほどの力はありませぬー。仮に出来たとて、それではいけないのですー」

 どういうことだろう。首を傾げる私達に、芳乃ちゃんは説明を続けました。
71 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/19(金) 22:57:20.15 ID:Vl8YGF260


「この都は古来より、天然自然の霊気が流るる地なのでしてー」

 途中足を止め、枝で地面になにやらかりかり書き込む芳乃ちゃん。
 京都を真上から見た簡単な絵図でした。
 ここは盆地。ざっくり三方を山に囲まれていて、だから夏は暑いし冬は寒いって周子ちゃんが愚痴っていたのを思い出しました。

「このように京を囲う霊山から気が流れ、脈々と平地に注いでいるのですー」

 加えて、遠く平安の時代から街を細かく区切る碁盤状の通り。東西南北には四神相応の思想で建てられた大きな神社があります。
 これは山から注ぐ霊気をがっちり捉え、街中に十二分に循環させる為のものだそうです。
 更には洛中洛外で暮らす人や狸、天狗や狐などあらゆる生き物の気も加わり……と。

 全て陰陽道の理にかなう、古来より完成された計画都市…………な、なんだか頭がこんがらがってきた!
72 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/10/19(金) 23:01:01.75 ID:Vl8YGF260

「ふむむ……!」
「ら、蘭子ちゃん、わかる……?」
「…………ぷしゅう」

 目がぐるぐるしてきました。
 芳乃ちゃんは土の絵図にあれこれ書き足しながら、簡単にまとめます。

「つまりー、たいへん豊富な霊気が、今も絶えず街中を潤し続けているのですー」

 集中しているのでしょう。その表情も声色も、徐々に静謐さを帯びていきます。


「仙狐の術法は、この霊脈そのものに密接に関わっておりますー。
 長い長い時をかけ、たくさんのお狐様が協力し、少しずつ少しずつ、京の霊気を吸い上げ続けー……。
 千年あまりの長きを経て形成されし、ご当地密着型のたいそう強力な結界なのでしてー」


 千年。

73 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/10/19(金) 23:04:02.07 ID:Vl8YGF260


 途方もない単語に、目の前がくらくらしました。普通に生きていてそんなスケールの時間が出てくるなんて思ってなかった。
 京の由緒正しき化け狐……きっとそれは何代にもわたり脈々と受け継がれてきた秘術なんでしょう。

「然るに、それを破るということは、京を巡る霊脈そのものを乱すということー……。
 天変地異や神威の類なれば可能やもしれませぬが、逆を申せば、表の世界にも必ずや害をもたらしましょうー」
「そ、そんな……」
「力のみでは太刀打ちできぬというのか……っ」
「結界を解くか開くか否かは、全てお狐様の裁量によるものー……。強引に入ることはできませぬー」

 でも希望が無いわけではないようです。
 芳乃ちゃんは安心させるように微笑みかけました。

「なれど、いつまでも閉じたままではありますまいー。現に、お狐様達が表の世界に出入りしておりますゆえー」
「秘密の入り口がどこかにあるってこと?」
「いかにも。わたくし達は、それを探さねばならないのですー」

74 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/10/19(金) 23:06:02.11 ID:Vl8YGF260

   〇


 プロデューサーさんや周子ちゃんを助け出すために。
 それと、紗枝ちゃんともちゃんとお話するために。

 閉ざされた結界の入り口を探すのが、外に残る私達の役目なのでした。

 あちこちの神社仏閣、人の集まる場所、河川や道路の要所……。
 芳乃ちゃんが言う「霊脈」の合流点や分岐点、いわゆるチェックポイントになるところを巡ります。

 巡る史跡はどれもがどっしりしていて、たぬきの私は気後れするようでした。


 そうして辿り着いた、中京区の紫雲山頂法寺。
 なんでもお堂が六角形だから「六角堂」のあだ名で呼ばれているそうで、場所的にはちょうど京都のど真ん中だそうです。

「ふむー…………」
「ここはどう?」

 芳乃ちゃんはふるふる首を振ります。どうもここにも入口は無さそう。
 彼女はそれよりも、ロープで囲まれたある一点を気にしているみたいでした。
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/19(金) 23:08:11.82 ID:JVvbaWb00
電気ブランを使わないと
76 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/10/19(金) 23:09:42.68 ID:Vl8YGF260

「あれはへそ石と申すものー。京の中心となるもので、時の帝がこの石を起点に都を区切ったと言われておりますー」
「千年の古都の中心……!」
「しかしながら、今はたぬきさんが化けた姿のようですー」
「へー……ええっ!?」

 石が!?
 たぬきが化けてるの!?

「ずいぶん長く化けておられるご様子ー。京のたぬきの中でも、一廉の者と言えましょうー」
「す、す、すごい……! そんなたぬき聞いたことないよ……!」
「よい巡り合わせゆえ、お祈りしておきましょうー。なむなむー……かの者らを守りたまえー……」

 三人並んで、へそ石様に手を合わせました。
 へそ石様は泰然自若。なんだか「そんなこと言われてもなぁ」と思っているような気がしなくもないです。
 一礼して背を向けたのち、芳乃ちゃんはぽつりと呟きます。

「いかなるものにも要訣はありまするー。石垣の要石、家屋の大黒柱、へそ、ツボ、経穴ー……」

 見上げる空は午後の色。
 秋の陽はつるべ落としと言い、早くも西の空が朱を帯びているのが見えました。


「お狐様が自在に出入りし、地場の霊気を吸い上げる……。そのような窓口が、必ずどこかにある筈ですがー……」

77 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/10/19(金) 23:13:49.17 ID:Vl8YGF260

   〇

 日が暮れるまで街を回っても、それらしきものは見つかりませんでした。
 足が棒みたいです。私達はベンチに腰掛け、息を切らしていました。

「……探さねばー」

 まだろくに休憩もしないまま芳乃ちゃんが立ち上がります。

 ふらり。
 
「我がとっ……よ、芳乃ちゃん!」

 蘭子ちゃんが慌てて立ち上がり、芳乃ちゃんを支えます。
 彼女の疲労は私達の比ではない筈でした。ただ歩き回るだけでなく、街中を流れる気の流れを絶えず探っていたのですから。

「……地を走る霊脈は淀みを知らず、まこと平穏を保っておりますー。隙間らしきものは、なにもー……」
「芳乃ちゃん、汗かいてる……休まないと……!」
「一朝一夕にて看破できぬことは承知の上。なればこそ、急がねばー……」

 これ以上は芳乃ちゃんも危ない。休まなければどうにもなりません。
 既に空は夜の色を濃くしていました。
 だけど、どこで? そういえばお宿をどうしよう。このままずっと外にいるわけにもいきません。
78 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/10/19(金) 23:15:39.31 ID:Vl8YGF260


「もし、そこのお嬢さんがた」


 声に振り返ると、買い物袋を提げた女の人がいました。
 年の頃は40の半ばくらいでしょうか。小ざっぱりしていて、おっとりした感じのおばさまでした。

 誰だろう……と思う前に、嗅ぎなれたほんのり甘い香りが鼻先をくすぐります。
 目元によく知る子の面影を見て、思わず「あ」と声を上げました。

「――もしかして、周子のお友達の方々ですか?」
「しゅ……周子ちゃんの、お母さん!?」

「ああ、やっぱり。テレビや雑誌で見た通りや。小日向美穂ちゃんと神崎蘭子ちゃん、依田芳乃ちゃんですやろ?」

79 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/10/19(金) 23:18:28.61 ID:Vl8YGF260

   〇


 お母さんは一も二もなく私達をお家へ通してくれました。
 周子ちゃんの実家は洛中にある老舗和菓子屋。年季を感じる日本家屋にちょっとだけ気後れしてしまいます。


「そうですか、周子が……」

 芳乃ちゃんの説明を聞いて、お母さんはしきりに頷きます。

「本当なんです。信じられないことかもしれませんが……」
「いえ、もちろん信じます。うちは代々、そうした人ならぬお客さん相手にも商売しとった店です」

 指差す先には、壁に賭けられた塩見家三訓。

 一つ、稲荷には手を出すなかれ。
 一つ、天狗だけは怒らすなかれ。
 一つ、狸はまあなんでもいいや。


「……美穂ちゃんは、たぬきさんなんやね?」
「ぽこっ!? あ、は、はい! 黙っててごめんなさいっ!」
「ええんです。それより、気を悪ぅせんとって下さいね? うちの家訓はたぬきを蔑ろにしとるようやけど、むしろ逆。
 この中では一番気安うて、一番付き合いやすいもんやさかいこう書いとるんですよ。まあひとつの照れ隠しや思てくださいな」

 気を悪くするなんてそんな。恐縮するばかりの私に、お母さんはくすくす笑います。
80 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/10/19(金) 23:21:40.47 ID:Vl8YGF260

「母君よ、周子は我らと魂を共鳴させし同胞! ……ぜったい、助けてみせます……!」
「蘭子ちゃんは優しいねぇ。けどええんよ、そない気負わんと」
「ひゃっ。あ、あうぅ」

 なでなでされて、蘭子ちゃんは思わず赤くなっちゃいました。

 にゃー。

 と泣くのは大福ちゃん。前に周子ちゃんが拾ったという、雪のように真っ白な猫です。
 最初こそ片手に乗るほどちっちゃかったそうだけど、今は若く精悍な成猫に育っていました。
 猫の成長って早いなぁ。

「周子は、ええお友達を持ったみたいですねぇ。三人ともとっても優しい子や」

 大福ちゃんの喉を優しく撫で上げながら、お母さんは微笑みました。

「あの子は小さい頃から無欲な子でしたさかい。誰かが捕まえてへんと、ぱっと消えてまうような気配がありました」
「周子ちゃんが……」
「ほら、あの子ったらいつも飄々としたとこがありますやろ? きっとあれは、真剣に向き合える何かがあらへんかったせいやと思うんです。
 でも今は違うようや。……ようやく見つけたんやねぇ、周子」
81 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/10/19(金) 23:26:32.73 ID:Vl8YGF260

 宿があらへんのやったら、しばらく泊まってってください。
 なんや娘が三人できたみたいで楽しいわぁ。

 お母さんはそう言って、晩ご飯まで作ってくれました。
 周子ちゃんが好きだったという、白だしの肉じゃがと秋ナスのお味噌汁。
 ほっこり湯気の立つそれらに、私達は今更のように空腹を思い出しました。

 とてもあたたかくて安心する味。お茶の間に染みついた家庭の匂いには、確かに周子ちゃんのそれも残っていて。

「……う」

 じわわ……と、安心と不甲斐なさで目頭が熱く。
 すると隣の芳乃ちゃんが手を伸ばし、小指の先で涙の雫を拭ってくれました。

「必ずや、みなで帰りましょう。必ずや……」
82 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/10/19(金) 23:28:22.57 ID:Vl8YGF260


 熊みたいに体の大きなおじさまがぬうっと入ってきた時、私は思わず悲鳴を上げるとこでした。

 だけどそれは早とちり。彼は周子ちゃんのお父さんで、すなわち塩見家のご当代なのです。

 無口な職人気質のお父さんは、敢えて何も聞こうとはしませんでした。
 全て先刻ご承知だったのかもしれません。
 ただ深々と頭を下げて、滞在中は周子ちゃんの部屋を使って欲しい、と言ってくれました。


「好きに使うてください。あれが住んどった時のままにしとりますよって」
83 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/10/19(金) 23:29:25.77 ID:Vl8YGF260

   〇

 ふかふかの来客用お布団を三組も敷くと、床がほとんど埋まってしまいます。
 けれど狭く感じないのは、もともと部屋に物が少ないからでしょう。
 周子ちゃんは昔からあまり物を持たないタイプのようで、それは女子寮の個室でも同じでした。

 まるで、いつでもどこにでも旅に出られるようにしているみたい。
 ふと思い立ったその時に、小さなキャリーケースやハンドバッグ一つで、どこへでも……。

 あまり快くない想像です。状況が状況だから、誰かがどこかへ行くなんて考えたくない。

 ……紗枝ちゃん、周子ちゃん。プロデューサーさん……。


 いつしか私達は寄り添い合うように眠っていました。
 目の前にはすうすう寝息を立てる蘭子ちゃんの顔があって、目元に光る雫を見た気がしました。

 拭おうとするけど、自然とまどろみの中に落ちて……。

84 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/10/19(金) 23:32:33.50 ID:Vl8YGF260

   〇


 どれほど経ったでしょうか。

 ふと目を覚ますと、お部屋の窓がわずかに開いています。
 街の灯がすっかり落ちた深夜、雲一つない夜空は光り輝いて見えました。

 中と外を分かつ窓枠に、真っ白いシルエットが立っています。


「……大福ちゃん?」

 にゃー。

 大福ちゃんは私を見ながら一声鳴いて、ひょいっと窓の外へ出て行ってしまいます。
 わ。
 と、びっくりして起き上がり、窓から上体を出します。
 二階にある周子ちゃんの部屋からは表の道路が見下ろせます。そこを大福ちゃんがすいすい歩いていくのが見えました。

85 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/10/19(金) 23:34:09.38 ID:Vl8YGF260

 ひょっとしたら脱走かもしれない。


 そう思った私は慌てて上着を羽織り、外に出ました。
 大福ちゃんは道の向こう、曲がり角のあたりで尻尾を立てていました。
 こちらを振り向いて、また、にゃー。

 月が輝く空の下で、その白い体毛はとてもよく映えて見えます。


 大福ちゃんは私が追ってくるのを待っているみたいでした。何度か立ち止まり、こっちがついてくるのを確かめているのです。
 ……どこかに連れて行きたいのかな。
 そう思い始めた矢先、大福ちゃんは小さな公園に走り込んで、ある一匹の猫と合流しました。
86 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/10/19(金) 23:35:05.75 ID:Vl8YGF260

 京都の美しい夜が形になったような、とても上品な雰囲気の黒猫でした。

 お互いをふんすふんす嗅ぎ合う二匹は、すっかり気心の知れたお友達みたい。
 あの子に会いに来たのかな……そう思いかけた私は、顔を上げてびっくりしました。



 いつの間にか、女の子が立っていたんです。


87 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/10/19(金) 23:37:25.96 ID:Vl8YGF260

 見た感じ小学生くらい……10歳とか、その辺りだと思います。 

 とても綺麗な、人形みたいな女の子でした。
 花紺青(はなこんじょう)色の長い髪と、夢見るような半開きの目。瞳は夜の下でもはっきりわかるほど鮮やかなルビーの色。
 白黒のゴシックな衣服を身にまとい、彼女はじっと、そこに立っていました。

「…………………………」
「あなたは……?」
「…………………………………………」
「あ、あの、えっと……」

 何も言ってくれません。
 こっちを見てるから、無視してるんじゃないと思うんだけど。

 長い沈黙に変な汗が出そうになったところ、彼女はぽつりと、


「………………あなた………………たぬき…………?」

88 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/10/19(金) 23:39:22.01 ID:Vl8YGF260

 ぽこ!?
 ま、また即バレ!?
 でも隠すわけにもいきません。一目で見抜かれたことから、彼女もきっと只者ではないことがわかりました。
 そもそもこんな時間にお外にいるなんて、一体どういう子なんだろう。

「う、うん。実はそうなの。私、小日向美穂。あなたは?」
「……………………………………そう」

 女の子はこくりと頷き、黒猫に手を差し伸べました。
 おいで、と一言声をかけるだけで、猫は当然のように彼女のもとに戻ります。

「…………わたし……雪美。佐城、雪美……。…………この子は、ペロ…………」

 なーぉ。
 雪美ちゃんの足元で、ペロちゃんが一声。
 にゃー。
 応じて大福ちゃんが鳴き返し、二匹の間でなにやら通じ合ったようでした。
89 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/10/19(金) 23:41:08.77 ID:Vl8YGF260

「大福…………お友達を、探してるんだって…………。あなたも…………そう…………?」
「!! しゅ、周子ちゃんのこと!?」

 雪美ちゃんの足元にすり寄り、大福ちゃんがにゃあにゃあ訴えかけています。
 その一つ一つが雄弁な言葉であるかのように、雪美ちゃんはうんうん頷いて聞いています。

「も、もしかして……わかるの?」
「……まだ……。でも…………手伝って、あげる…………。狐は…………いじわるだから…………」 

 彼女は何者なのでしょうか。
 ううん、何者でもいいって思いました。
 手が届かない狐の屋敷、そこにいる筈の三人と会えるなら。
90 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/10/19(金) 23:41:53.99 ID:Vl8YGF260

 雪美ちゃんは猫同士の鳴き合いを聞き届け、私をじっと見つめました。

「……………………ついてきて」

 言って、くるりと踵を返します。
 ペロちゃんと大福ちゃんが当然のように追いかけていきます。

 私も慌てて駆け出しました。
 ほとんど確信のような思いがあったからです。


 餅は餅屋、蛇の道は蛇というように――京都の抜け道近道は、猫が知ってるのだと。

91 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/10/19(金) 23:43:13.01 ID:Vl8YGF260

   〇

 どこをどう歩くかは雪美ちゃん次第でした。
 私はついていくしかありません。土地勘が全然ない上に、晴れているとはいえ真夜中なのですから。

 静まり返った大通り、石畳の小路、神社の境内、虫達のささやく森、せせらぐ川のほとり……。

 きっと幾つものショートカットを使ってるんだろうということはわかります。
 あるところから出たらまったく違う景色で、まるでワープでもしてるかのようでした。


 人の姿だと通りにくいところも幾つかあって、私はポンッとたぬきに戻って追いかけます。
 ペロちゃんと大福ちゃんの足取りは迷いなくて、先頭の雪美ちゃんはもっと軽やかでした。

 小柄とはいえ人なのに、どんなところもまるで平地のように歩いて……。
92 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/10/19(金) 23:44:36.24 ID:Vl8YGF260

(あ……!)


 月明かりが逆光となった彼女の後ろ姿は、歩く過程で確かに変化していました。
 大きな耳と長い尻尾があったんです。
 しかも尻尾は根元で二つに分かれ、それぞれ別の生き物みたいにふりふり動いていました。


 虚空に染みわたる声で、雪美ちゃんは「にゃあ」と鳴き。


 唱和する声は、古都の闇の中に幾つも幾つもありました。
 数えきれないほどの光る眼が、あちこちの物陰から私達を見ています。ある子は珍しげに、ある子は恐る恐る、ある子はついていきたそうに。

93 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/10/19(金) 23:46:01.84 ID:Vl8YGF260


 そして……どれくらい経ったのかな。

 時が止まったような夜の中、私達はいつの間にか小高い山の上に立っていました。
 展望台のようです。雪美ちゃんは街を見下ろす場所に立ち、すっと前を指差しました。


「………………見て」

 ポンッ! と人に戻って雪美ちゃんの隣に立ちます。
 眼下に広がる京の街。
 あちこちに灯はあるけれど、ほとんどの人々が眠った街はとても静かでした。

 大部分を闇に塗りつぶされた街並みは、だけど、見ているうちに……。

94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/19(金) 23:52:11.27 ID:tM0IBjk5O
そういえば事務所にいなかったな雪美
95 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/10/19(金) 23:52:15.58 ID:Vl8YGF260

「わぁ……!?」

 ぼうっ……と。
 蒼い光が、碁盤の目を浮き上がらせるように輝きだすのが見えたんです。

 ピンときました。これは芳乃ちゃんの言ってた「霊脈」の光なんだ。
 深夜だからか、それとも雪美ちゃんが導いてくれたからか、今の私の目にはそれがはっきり見えました。

「綺麗……」

 こうして俯瞰すると確かに、一つの隙もない完成された循環のように思えました。
 生き物の体内を流れる、血管のように。

「あのどこかに隙間があるの? 雪美ちゃん、わかる……?」
96 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/10/19(金) 23:59:34.79 ID:Vl8YGF260

 雪美ちゃんは綺麗な目で、じっと京都を見下ろしています。
 やがてその指が動き、新たな一点を指差しました。

 あそこは……確か、そう。伏見稲荷大社。

 千本鳥居が有名な、お稲荷様の総本社。お狐様の聖地です。
 当然そこは真っ先に訪れました。芳乃ちゃんの感覚を頼りに隅から隅まで確かめ、だけどあえなく外れに終わった場所。
 とても強い力が集合しているけど、どこを探しても綻びとなる場所なんて無くて。

「………………違う」

 呟いて、雪美ちゃんは意外な行動を取りました。


 指を、上に向けたのです。

97 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/10/20(土) 00:01:10.17 ID:IE+E6z8H0

 気付かない筈です。
 私達は大社の構造とか建物とか、地形的なものばかりを気にしていましたから。
 だって、「そこ」に至る発想自体がまず無かったんだから。

 雪美ちゃんの指が辿る先。星々を曝け出す夜の、静謐な空の只中。

 霊脈は大社を起点として地上を離れ、今にも消えてしまいそうな細い一本の線となって「上」へと流れていたのです。


 指で線を辿り終え……小さなおとがいを真上に向けて、雪美ちゃんは一言、ぽつりと。


「………………どうしよう」


98 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/10/20(土) 00:03:27.04 ID:IE+E6z8H0



 蒼い光は蜘蛛の糸のように伸びて、夜空のある一点へ脈々と注がれていました。


 遥か彼方で煌々と光る、大きな大きな月に。



  【 前編 ― 終 】

99 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2018/10/20(土) 00:05:50.74 ID:IE+E6z8H0
 一旦切ります。
 書き溜め終わったので以降の更新は少しスピードダウンすると思います。すみません。

 実は初作で一瞬だけペロの名前が出ていましたが、最初の作品ゆえ設定が固まっていなかったせいとお許しくださいなんでもしまむら。
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/20(土) 00:06:54.41 ID:mT8y01P10
おつ
ん?京都編の後北海道編かくって
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/20(土) 10:16:11.84 ID:1OXrwGPko
ペロはどこにでもいてどこにもいないからな
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/20(土) 11:38:10.37 ID:FPoW9f6+o
ん?北海道編終わったら関西編書くって?

おっつつ
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/20(土) 12:17:00.04 ID:4sFwtFuXO
雪美の登場シーンが強キャラ感漂ってる
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/21(日) 02:26:41.26 ID:TLjJpDODO
乙乙

雪美はF-14トムキャットだったのか
105 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/22(月) 01:29:47.50 ID:mB3PYBgS0

  【 中編 : 千年仙狐の偽月 】


  ◆◆◆◆


  ――翌日早朝 塩見家


芳乃「……よもや、月、とはー……」

  ピロロロロ ピロロロロ

芳乃「むむー? すまひょ」

らくらくホン『電話ドスエ』

芳乃「よっ、ほっ、ほー」ペペペペ

  ピッ

芳乃「できまして……申す申すー」

楓『そちらはどうですか、芳乃ちゃん?』

芳乃「美穂さんから聞きましたところー、いささか難しきことになっておりますー」


 カクカク シカジカ

106 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/22(月) 01:36:21.70 ID:mB3PYBgS0

楓『なるほど……それは確かに、簡単に手出しできませんね。むーん(月だけに)』

芳乃「茄子さんは、まだ出雲におられるのでしてー?」

楓『ええ。残念だけど、彼女は動けそうにありません』

芳乃「いえ……よいのですー。いずれあの方に頼るわけには参りませぬゆえー」

芳乃「此は全て現世の営み。京には京の、守るべき理がありまするー」

楓『天狗様のもとへは私が向かいます。そちらは心配いりませんよ』

楓『だけど芳乃ちゃん、本当に大丈夫ですか? 今のあなたは本来の力の半分も――』

芳乃「わたくし一人の力が及ばぬとて、何ほどのことがありましょう」

芳乃「みな、頑張ってくれております。一つ一つが協力し合えば、きっと道は拓けましてー」

楓『……そうですね。では、私は私のやることを済ませましょうか。くれぐれも気を付けてくださいね、芳乃ちゃん』

芳乃「はいなー。感謝致しまするー」

  ピッ


芳乃「ふむ。さりとて、いかにしたものかー……」
107 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/22(月) 01:44:00.68 ID:mB3PYBgS0

  ◆◆◆◆

  ―― 京都・烏丸通上空

  フヨフヨ

楓「さて、岩屋山と愛宕山は済みましたね。次は……」

楓「……そういえば、如意ヶ岳の薬師坊様は今どちらにお住まいだったかしら?」ハテ

??「あら、誰かと思えば!」

楓「?」


  フヨ〜

??「久しぶりじゃない楓ちゃん。私よほら、相馬の」

楓「まあ……夏美さん? 帰洛してらしたんですか?」

夏美「まあね。たまには実家に顔出しとかなきゃって思って。それよりどうしたの? 旅行?」

楓「実は、狐の屋敷に用がありまして……」
108 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/22(月) 01:46:05.28 ID:mB3PYBgS0

夏美「狐って……あのヒキコモリ達がなんかやらかしたの?」

楓「身内が『お呼ばれ』されてしまったんです」

夏美「あちゃー……妙なことになっちゃってるみたいねぇ」

夏美「だけど、ちょっと面倒かもよ? こっちで騒ぎが起こると天狗が黙ってないじゃない」

夏美「なにしろあいつら、京都の天下はみんな自分のものだって本気で思ってるもの」

楓「ええ。ですので今、お土産を持ってご挨拶回りをしているんですよ」

楓「そうだ、夏美さんもご一緒にどうですか? みなさん喜ぶかも」

夏美「どうかしらねぇ。嫌味か説教でも言われるのが関の山じゃない? 天狗のくせに走るのが好きとか、京を出て飛行機なんか乗ってとか」

楓「いいと思うんですけどねぇ。飛行はしてても、非行に走ったわけでもないんですから……ふふっ」

夏美「連中にはそれが気に入らないのよ。鞍馬の下っ端なんて群れてばっかりでプライドだけ高いんだから」

楓「それでは、ここでお別れですか?」

夏美「うーん……いや、せっかくだからご一緒しようかしら。楓ちゃんが困ってるのに無視するのもなんだし」
109 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/22(月) 01:47:24.59 ID:mB3PYBgS0


夏美「それで、渦中はどんな御大尽なわけ? 大物陰陽師? それともまたどこぞの二代目?」

楓「いえ、人間です」

夏美「人間……人間って、ただの人間?」


楓「ええ。何の変哲もない、人間が二人――」

110 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/22(月) 01:51:27.67 ID:mB3PYBgS0

  ◆◆◆◆

 ◇周子◇


 ずぼっ、とよくわからんとこから顔を出した。

「どこここ」
「暗くてよく見えん」
「なんか黴臭いなぁ。さっきまで廊下歩いてなかった?」
「それよりどうも頭が痛……ん? あれ? 俺逆さまになってね?」
「うひゃあ!? どこ触ってんの!」
「周子? 近くにいるのか? あ、ふとももかこれ」
「あっ、んひ♡ ちょ、ちょっと、蹴るよ!?」

 蹴った。

 プロデューサーさんはハナヂを拭き拭き暗所から脱する。
 二人してどこぞの物置の大甕に入り込んでいたのだった。

「膝は酷いと思うんだよな」
「うっさい。乙女のふとももすべすべしといて安く済んだと思いや」

 どつき漫才はともかくとしても、変なところに出たもんだ。
 狐屋敷に建築的整合性なんて求めるもんじゃないだろうけど、それにしても頭がこんがらがりそうな地理だった。
111 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/22(月) 02:00:03.31 ID:mB3PYBgS0

「紗枝ちゃんを見つけないと」

 物置の軋む木戸を開くと、またどこへ繋がってるかわからない廊下。
 恐る恐る踏み出して、抜き足差し足歩いていく。

「あたしらが残ったこと、知られてんのかな」
「どうだろうな。知られてたらとっくに何か仕掛けられてる気もするが……あ、窓だ」
「窓? 外見える?」

 竹格子が嵌まった窓の外は、暗い。
 どうも夜らしい。いや本当に夜なんだろうか? 時間がわかんない。

 暗い空の彼方にはぽっかりと月が出ていて、あたしらの顔をほんのり照らした。

 先に進みながらも廊下のあちこちに窓があって、その全てから月明かりが差し込んでいる。

 おかしなことに位置や角度に関わらず、どこから見ても「夜空に月」という光景が偏在しているようだ。
112 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/22(月) 02:03:54.11 ID:mB3PYBgS0

「……幻の屋敷に常識なんか通用しないってわけだ」


 プロデューサーさんが呟き、足を止める。
 幾つか廊下を曲がって行き着いたその果てだった。

 どうしたんやろと背中をつついてみると、彼は前方を指差す。

 肩越しに向こうを見て、「げ」と思わず声が出た。


 廊下がそこで途切れ、滝のように真下に流れている。
 目の前には屋根瓦。廊下の行く末を目で追えば、遥か眼下に障子の森があってぱたんぱたんと開閉を繰り返している。
 ならば上はどうかと見てみると、一面に枯山水が広がってワビサビを表現しているのだった。


 縦と横、上と下、前後左右の区別なく「お屋敷」という空間が広がっているんだ。

 しかも、こっとん、こっとん――と柱時計にも似た音がして、秒刻みで屋敷の構成が変わっていく。
 振り向けば歩いてきた廊下は消えていて、どこに繋がっているかわからない階段が伸びるばかり。
 目の前にはスカスカの足場ができていた。梯子か何かかと思ったけど、横倒しになった縁側の手すりらしい。
113 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/22(月) 02:06:04.60 ID:mB3PYBgS0

「念のため起動してみたんだが、さっぱり役に立たないな。見てみろ」

 プロデューサーさんはスマホに方位磁石のアプリを入れていた。
 ところが持ち主に方角を伝える筈のそれは、さっきから狂ったようにぐるぐる回転しているのだ。

 更には、時間。こっちもおかしい。
 二人が突入したと思われるお昼頃から、進まないと思えば戻ったり、そうかと思えば何時間も進んだり。
 数字がヤケクソみたいに推移して、結局は元の時間に戻るのだった。


「ちょっと信じがたいが、時空間がおかしなことになってるらしい。精神と時の部屋みたいな感じかもしれん」
「精神と……? 何それ」
「え? 精神と時の部屋知らない!? ドラゴンボールだぞ!?」
「あー、タイトル知ってるけどあたし読んだことないんよね。だからほとんど知らんの」
「マジかよ……ジェネレーションギャップだ……」

 なんか本気でショック受けとる。
114 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/22(月) 02:10:07.40 ID:mB3PYBgS0

 こっとん、と音がして目の前に襖ができた。
 開くとほかほかの湯が張られたお風呂場だった。一瞬入りたいなぁと思ったけど、そうも言ってらんない。
 誘惑を振り切って突っ切り、反対側の扉から土間に出る。

「芳乃のリボンは持ってるか?」
「持ってる。そっちこそ髪紐は?」
「ポケットの中だ。でも芳乃の声は聞こえそうにないな」

 外はどうなってるだろう。
 芳乃ちゃん達を信じたいところだけど、連絡がつかないんじゃどうにもこうにもだ。


 道中は過酷だったけど、意外なことに邪魔は入らなかった。
 破れそうな障子の床を這って進み、床の丸窓を潜り抜ければ下は海原のように広い屋根瓦。
 薄暗い竹林を通り抜け、卒塔婆の梯子を上って、十重二十重に枝分かれする大黒柱の巣を渡っていく。

 道中のあちこちに赤い前掛けの稲荷像が鎮座していて、いつ動き出すか気が気じゃなかったけど。
115 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/22(月) 02:18:20.35 ID:mB3PYBgS0

 やがて足が石畳を踏んで、それの前に立つ。

 回廊のように果てなく続く、真っ赤な千本鳥居に。


「……どう思う?」
「辿り着いたと見るか、誘い込まれたと見るか……」

 鳥居の先は果たして、罠かゴールか?
 虎穴に入らずんば虎子を得ずとは言うけど、底意地が悪い狐の穴には何があるか知れたもんじゃない。

 その時だった。
116 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/22(月) 02:27:14.94 ID:mB3PYBgS0


 ――どうぞ、こちらへ。


「……聞こえた?」
「聞こえた。……この奥からだな」


 ――わたくしが呼びました。

 ――他の狐は気付きません。どうぞお早く。

 先の予想は半分当たりで、半分ハズレと言えるかもしれない。
 つまり……誘い込まれたのは間違いないが、悪意ある罠というわけでもなさそうってこと。

 呼びかける声は、紗枝ちゃんに少し似ている気がした。
117 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/22(月) 02:28:53.52 ID:mB3PYBgS0

 目が回りそうなほど長い鳥居を抜けると、果てには年季の入ったお堂がある。
 仏堂と言うよりは寝所、いわば離れと言うべき建物のようだ。

 木戸の隙間から、透き通った風が流れ出ているのがわかる。

 この中だ。

「プロデューサーさん……」
「わかってる。大丈夫だ」

 プロデューサーさんはぐっと肩をいからせ、ずんずん進んで扉に手をかけ。
 すたんっ、と一息に開け放つ。

「……!」
118 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/22(月) 02:29:41.09 ID:mB3PYBgS0


 その女性は、お堂の中心に静かに座していた。
 色鮮やかな十二単。畳にまで伸びて広がる長い長い銀髪。頭の頂点でぴんと立つ同色の耳。
 それとやっぱり、狐面。


「あのまま出てしまいましたら、ご苦労をすることもございませんでしたのに」

 言って、女性は面を外した。
 背筋が寒くなるほどの美貌には、やはりよく知る面影があって。


「お初にお目にかかります。紗枝の母です。どうぞよろしゅうに」
 
119 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/22(月) 02:32:19.88 ID:mB3PYBgS0
 一旦切ります。
 京都出身アイドルは全員登場します。
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/22(月) 05:33:05.41 ID:BCuaCU04O
おつ
そういえば今月は神在月か
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/22(月) 05:45:27.81 ID:O8Mq1YODO
夏ねーさんもそっちの筋か


……埼玉組ってみんな悪魔なのかなぁ(三重組がみんな兎ならオレ得だけど)
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/22(月) 16:32:51.67 ID:X70+BCj/O
あやめは伊勢エビだな
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/10/22(月) 17:15:37.58 ID:a7zwh02hO
京都コワイ
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/23(火) 00:40:33.43 ID:K8xuemtzo
伊勢エビw
125 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/24(水) 00:18:00.92 ID:Mk89pIaF0

  ◆◆◆◆

  ◇美穂◇


「イヴさんとブリッツェンちゃんにお願いするとかっ」
「大気圏突破は不可能でしょうー」
「桃園の姫君と誓約を交わし、天翔ける火箭を召喚せん!(訳:桃華ちゃん達に頼んでロケット!)」
「時間がかかりすぎるかとー」

 う〜〜〜〜ん…………。

 塩見さんちで作戦会議をすることしばし、一向に打開策が出てきません。
 結界の入り口が月だなんて、一体どうすればいいんだろう……。

「うう……月旅行なんて無理だよう」
「……それは……狐も、同じ…………」

 ぽそりと告げるのは佐城雪美ちゃん。ペロちゃんと大福ちゃんを小さなお膝に乗せています。
 彼女は嵐山にある洋風お屋敷の一人娘だそうで、付近の猫とは一匹残らず顔見知りだといいます。

 芳乃ちゃんは一目見るなり「猫様とはー……」と感嘆し、蘭子ちゃんは雪美ちゃんの耳と尻尾に興味津々です。

 というのはともかく。
126 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/24(水) 00:19:48.48 ID:Mk89pIaF0

 雪美ちゃんの言う通りではあるんですよね。
 それは確かに、狐が人間より数段上の技術レベルを持っていて、一足先に月面基地を建設させたなんて可能性もゼロの中のゼロじゃありません。
 だけどまあ無いとは思います。それじゃ帰る度に宇宙飛行することになっちゃうし。

 とはいえ、じゃあどうすれば入れるのかって話になると、やっぱり振り出しに戻っちゃうわけで……。

「おそらく……あれを、まことの月と思わぬがよいかもしれませぬー」
「まことの……? 幻とか、狐の術のひとつってこと?」

「はいー。夜にのみ立ち現れ、まことの月と重なって天蓋にある、仙狐の偽月……。されど秘術に触れるには、まだ何か……」

 議論が袋小路に迷い込み、また沈黙。
 
 芳乃ちゃんは黙考して、ぽくぽくぽくぽくぽく……。

「!」

 ちーん!
127 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/24(水) 00:20:36.91 ID:Mk89pIaF0

 どうしたんだろうと見守る三人の前で、芳乃ちゃんは懐から手鏡を取り出して、

「そなたー。わたくしの声が聞こえましてー?」

 えっ!

「つつつ繋がったの!? 二人と話ができるのっ!?」
「今しがた、ふっと気配が掴めましてー。周子さんもお傍におりますー」

 どたばたしながら芳乃ちゃんの後ろに回り、手鏡を覗き込みます。
 するとそこには、見知った二人の顔が……!
128 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/24(水) 00:23:02.21 ID:Mk89pIaF0

  ◆◆◆◆

  ◇周子◇


『プロデューサーさんっ! 周子ちゃぁん!!』
『そちらは今、どのような状況にありましてー?』
『魂の火を絶やすことなかれーっ!!』
『……………………………………』
 にゃー。

「いやいやいや、いっぺんに言われてもわからんって。つか、今の大福? そこってあたしんち?」

 芳乃ちゃんと大福(と、あと誰?)はともかく、美穂ちゃんと蘭子ちゃんはべしゃべしゃの半べそ声だった。
 飛び跳ねる勢いで喚き立てるリボンに受け答えして、とにかく二人を落ち着かせる。

「こっちはまだ屋敷の中だ。屋敷のどこかはわからんが、ひとまず安全地帯だ……」

 言葉を切り、プロデューサーさんは目線を上げた。

「……と、思ってもいいんですよね?」

 目の前に座っている絶世の美女は、紗枝ちゃんの実の母君。
 彼女があたしらを匿ってくれたのだと思う。多分きっと。
129 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/24(水) 00:26:04.40 ID:Mk89pIaF0

 母狐は狐屋敷の結界をほんのわずかに緩めてくれた。
 といっても、電話みたいに声を届けるだけで精一杯。
 それさえも芳乃ちゃんの力があってのことらしく、母狐はリボンをしげしげ見下ろしてこう言ったものだ。

 ――……恐ろしく高度な術法で編まれています。現代の人がこのようなものを持つとは。


『仙狐様の奥方とお見受けいたしまするー。わたくし依田は芳乃と申しますー』
「ええ、お二人からお話は伺いました。難儀なことになってしまったものですね」
『まこと仰る通りー』
「お客人には無礼を働いてしまい、まったく申し訳なきことです」

 味方……と思っていいのかもしれない。
 少なくとも敵意は感じないし、他の狐からあたしらを隠してくれているのも彼女だ。


「それにしてもなんつう美人だ」
「出すな出すな名刺を」

 相手間違っとるやろがい。
130 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/24(水) 00:30:25.96 ID:Mk89pIaF0

 とにもかくにも、確認しなくちゃならない。
 プロデューサーさんは改めて母君に向き直り、はっきりと質問した。

「我々は娘さんを連れ戻そうとしています。ご協力頂けると考えてよろしいのですか?」
「協力――と言いましても、元より出来ることは限られております」

 母狐は小首をかしげ、たおやかに微笑んだ。

「この屋敷はわたくしのみならず、ここにいる全ての狐によって維持されております。
 わたくしひとりが結界を弄ろうとて、所詮は大河の流れに指を差し入れる程度のもの。
 ほんのわずかに他の狐の眼を欺き、依田様のお力を借りて声だけ繋げるのが精一杯」

 ちゃちゃっと紗枝ちゃんの元まで連れて行って貰う、というわけにはいかなそうだった。

「……よほど大規模な場所なんですね」
「ええ。合わせ鏡の如くに互いを照らし合わせ、無限に重なり広がりゆく不可思議の屋敷です」

 合わせ鏡。言い得て妙かもしれない。
 ただし角度も数もべらぼうで、まるで狂った万華鏡みたいな有様だけど。
131 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/24(水) 00:32:24.91 ID:Mk89pIaF0

「しかしながら、紗枝の望みはわかります。娘は昔から芸事をとてもよく好みましたから」

 思い出した。
 紗枝ちゃんは、街に出てこっそり舞やお花やお茶を教えて貰っていたとか。
 それを知っているのはお母はんだけ――と彼女自身が言ったものだ。

「無論のこと、あの子の望むとおりにしてやりたいと思っておりますよ。腹を痛めて産んだ我が子ですもの」
「なら……!」
「化かす隠すは狐の常とは申せ、旦那様のやり口はいささか乱暴ですし。――と、それが半分でしょうか」

 半分?

 意味を訪ねる前に、母狐が先を促す。

「ご相談をなさるなら、お早く。あまり長くお声を繋げるわけにも参りません」
132 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/24(水) 00:35:34.66 ID:Mk89pIaF0

 リボンと手鏡を介して、あたし達は情報交換を始めた。
 流石に月なんて言われた日には二人とも仰天したものだけど、母狐は落ち着き払った様子。

「……よもや、外にいながらそこまで到達していようとは」
『…………にゃあ』
「なるほど……佐城の娘御が猫の手を貸しましたか」


 夜空に浮かぶ月について、母狐は更に詳しく補足した。

「いかにも。この屋敷も偽月も、狐の法に則りしもの。種があれば仕掛けもあります。
 月は夜ごと細々と霊気を吸い上げておりますが、最も大きく流れるのは月が満ちし時です」
「満月……」


「その夜……満月が中天高くに座す、子の正刻に限り。屋敷の空と京の空は、繋がります」

133 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2018/10/24(水) 00:37:26.81 ID:Mk89pIaF0

「繋がる、ですか?」
「ええ。月に一度、人と狐は見上げる空を同じとします。そして屋敷全ての狐が大座敷に集まり、大開きの満月から注ぐ霊力を受け取るのです。
 屋敷の為、決して欠かすことの出来ぬ大切な儀式です。ついでに酒盛りも行います」

 飲み会すんのかい。

 思いつつ、あたしはここに来るまでに見た月を思い出していた。
 どの窓からも覗き見える夜空と月は、どこか非現実的な雰囲気のものだった。

 けれど満月の午前零時にこそ、窓の外は本物の「京都の空」となるのだろう。

『じゃ、じゃあ、そこから飛び込むこともできちゃったりしますかっ!?』
「残念ながら不可能でしょう。通れるのはあくまで形なき物のみ。でなければ、酔った天狗が迷い込まないとも限りませんから」
『そんなぁ……』

 しょんぼりする美穂ちゃん。
 確かに空が飛べりゃ或いはとも思ったけど、そこは京都の狐。天狗礫や迷い天狗の対策もばっちりなんだろう。

「とはいえ……その瞬間が、結界の最も大きな隙であることは間違いないでしょう」
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