志保「可奈の才能、私の才能」【ミリマス】

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5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/30(木) 23:17:50.56 ID:+KB1imaD0
自分に居場所のなさを感じて部屋の隅の方で小さく座っていると、私に話しかけてきた人物がいた。

話しかけるなオーラを出してるのにもかかわらず、いつも通りの笑顔で話しかけてくるような人なんて、この子ぐらいしかいない。

そう、可奈だ。

「志保ちゃんお疲れさま〜。汗をふいて〜レッスンレッスン〜♪」

彼女には悪気はない。ただ自分自身に苛立っているときに、自作の歌を能天気に聞かされてはなかなか平静が保てない。

私はわざとらしく大きくため息をついて、ふともらした。

「可奈がうらやましいわ」

私の発言が彼女にとって、珍しかったようで、一瞬目を丸くしたあと「私も志保ちゃんがうらやましいよ」なんて言って横に座ってきた。全く私のどこがうらやましいのか。
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/30(木) 23:20:04.71 ID:+KB1imaD0
「ねえ、可奈、自分自身の才能について考えたことある?」

「え、才能? うーん何で?」

「今日来る途中に可奈の同級生の子に吹奏楽部に入ってほしいと言われたからふと思って」

「あーあの子! 志保ちゃんにまで言いに来たんだ。なんだかごめんね」

「謝る必要なんかないわ。ただ……可奈は楽器の演奏の才能があるから。やってもいいんじゃないかなと思って」

「才能なんかないよー! しかももうライブも近いし私はアイドル1本でいきたいんだ」

アイドル1本。ああうらやましい。私には選択肢がない。お金の事情と自身の才能を考えたらもうアイドル以外選択肢が残ってないのだ。

もし私が部活を始めるのなら、学校推薦で学費が免除になるくらいの実力が必要になってくる。そうならないと意味がない。

まぁそんなことを始めてもあまりにも遅すぎるし、私は何かの才能もないのだけれど。
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/30(木) 23:21:57.55 ID:+KB1imaD0
可奈は続けた。

「それに毎日練習してる吹奏楽部の人たちに比べたらきっと下手っぴだよ」

そうだろうか? きっと可奈は大成する。才能ある大型新人にあっさり実力を抜かされ、枕を濡らす先輩方もいるだろう。世にあふれた話だ。

「ねえ、可奈? 自分が将来好きなことをしてお金を稼ぐには才能が必要ってのは分かってる?」

「うーん?」

あまり分かってない様子だ。

「努力や過程は評価されないわ。実力がすべて。だからこそ実力をつけなければいけない。失礼な言い方になるかもしれないけれど可奈は悩んだことがない?」

「例えば?」

「可奈で言えば歌ね。最初はどうかなと思ってけど、だんだんうまくなってきている。でも……努力して人並み程度になったことで意味はあるの? それだったら才能があることに磨きをかけていってて上を目指す方がずっと効率がいい」

しかも可奈はこう見えて楽器の演奏や絵描きなどマルチな才能があるのだから、そっちを優先していった方が彼女の将来のためになる。
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/30(木) 23:23:58.50 ID:+KB1imaD0
「意味はあるよ」

「え?」

答えがでないであろう問題に即答され、こっちが困惑してしまう。

可奈は続ける。

「だって私は歌が好きだもん」

「あのね、可奈。才能ってことは一芸に長けていることで、好きなんてことは才能でもなんでもな」

言葉を言いきらないうちに可奈に否定された。

「私は歌うことが好き。歌に乗せてこの気持ちを届けたい。それができるようになるための歌の練習だったらいくらでもやるよ、覚悟はできてる」

思わず引き込まれるような強い瞳だった。

「可奈……」

「私が才能があるとすれば歌が好きってことだよ。志保ちゃんは好き、は才能だって思わない?」

先ほどまでは違うと思ったけど、可奈の話を聞いてそれを改めた。好きなもののために努力を惜しまないのだったら、それは才能かもしれない。でも……
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/30(木) 23:25:44.73 ID:+KB1imaD0
「そこまで好きだって思って練習して、それでも自分に才能がないって分かったらどうするの?」

「私はうれしいかな。矢吹かな〜なんちゃって」

「ちょっと可奈、私は真剣に聞いてるのよ」

私は真剣に聞いているのにふざけた返答をしてきた可奈を少し睨んだ。才能がないことはすなわち絶望だろう。恨むなら両親か己の境遇か。

いや私の環境は良いものとは言い難いけど、幸い努力ができる状況ではある。なら結果がでなかったとするならば自分の責任だ。

もちろんこれ以上の努力はきっとあろうけど、できる限りのことはやってきている。これがすべて無駄と知った日は……考えたくもない。

「私が歌の才能がないって気付ける日は歌に全人生を費やしたあとだからね。そこまで思えるほど、歌と心中できるなら私は幸せだよ」

可奈のあまりにも真剣すぎる回答に驚かされて、ついいつもの調子でアラを突いてしまう

「相変わらず甘いわね。歌のお仕事が来ないのだったら、そもそも食べていけないよ」

「そのときは歌に関わる仕事でもすればいいし、歌はどこでも歌えるよ」

「将来について真剣に考えているの?」

「将来よりも〜今を生きるのさ〜」

可奈はそう歌って先に立ち上がった。時計を見ればそろそろレッスンが再開する時間だ。
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/30(木) 23:27:29.35 ID:+KB1imaD0
私は可奈の背中越しに「私に才能はあると思う?」と聞いた。が、すぐに後悔した。そんなことを聞かれても可奈も困るだろうし、慰めの答えなんて求めてないのだから。

私の質問を聞いて、可奈はくるっと振り返って言ってくれた。

「志保ちゃんはいろんなすごいところがあると思うけどな〜、でも強いていうなら努力する才能があるかな」

「努力する……才能……」

「ほらいこっ志保ちゃん!」

先に立ち上がった可奈に手を差し出されたので、それを握って立ち上がる。
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/30(木) 23:28:29.86 ID:+KB1imaD0
才能。英語で言うならギフト。

神様の贈り物が努力する才能とやらなら、私は努力し続けなければいけないのではないか。もっと分かりやすい才能をくれてもよかったのに。そう思い苦笑する。

自分自身の能力は上がっていない。でも気持ちの面では少し違う。もう少し頑張ってみてもいいんじゃないかと思った。諦めの悪い親友のおかげで。

私は可奈に連れられて再びレッスンに向かうのだった。
12 : ◆z80pHM8khRJd [saga]:2018/08/30(木) 23:34:04.82 ID:+KB1imaD0
ありがとうございました
13 : ◆NdBxVzEDf6 [sage]:2018/08/31(金) 01:37:35.66 ID:oA3tNWYt0
こういう関係好き、乙です

>>1
北沢志保(14)Vi/Fa
http://i.imgur.com/gVLQiiV.png
http://i.imgur.com/SOfcYG2.jpg

>>5
矢吹可奈(14)Vo/Pr
http://i.imgur.com/b2FNm4V.png
http://i.imgur.com/kB9imcc.png
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/31(金) 04:30:40.17 ID:ZtD286HeO
確か可奈は合唱部に入ってたよね?
志保はどっちかと言えば律子タイプ
一度失敗したりすると根詰めしすぎて失敗が多くなる
そうすると、余計に根詰めしてって負のリサイクルができる感じ
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/31(金) 06:45:49.59 ID:cEu+PlOAo
>>13
2枚目の不器用な志保すこ
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