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志保「可奈の才能、私の才能」【ミリマス】
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1 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/08/30(木) 23:05:02.00 ID:+KB1imaD0
私には才能がないのだろうか。
最近、私の技術が伸びてないように感じる。
アイドルには歌、ダンス、あとビジュアルの要素が必要なのだけど、どれも得意なものではない。
それだけにレッスンが必要になるのだけど、何かを得たとするならば、何かが抜けていってる気がするのだ。
何かを1つだけを極めていくのだったら、自分の性分に合ってるし、時間さえ貰えれば成し遂げられる気がする。いや成し遂げられる。
ただアイドルとしてやっていくためには、様々なことをやれなければならない。
事務所の同僚たちを比べると、自分の実力不足を痛感させられることが多い。
練習時間では確実に負けていない。もちろん闇雲に時間さえとればいいとも思っていない。体調管理をしながら効率を考えレッスンに取り組んでいる。
それなのに、いつのまにか同僚たちにはどんどん抜かされていく。だがそのことに失望し、その足を止めるわけにはいかない。足を止めたが最後、同僚たちにはさらに距離を開けられ、取り残されるだけだから。
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1535637901
2 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/08/30(木) 23:07:11.61 ID:+KB1imaD0
逃れられない呪いを抱えたまま、重い足取りで事務所に向かっていると、不意に後ろから声を掛けられた。
振り返れば、知らない女性、というよりかは同い年ぐらいの女の子。
「なにかしら? あなたには見覚えがないのだけど」
私の返答に声かけてきた女の子は「ひっ」と声をもらし身をすくめた。
最近思い詰めていたこともあって、どうしてもトゲがある言い方になってしまった。よく考えてみたら、自分はアイドルなのだ、万が一にもファンという可能性もある。
「ごめんなさい、少し考え事をしてて。キツイ言い方になってしまったようね」
気持ち、笑顔をみせると女の子はそれに安心したようで、少し緊張感を解いて「いえ、私も急に話しかけましたからっ」と返事をしてくれた。
「それで……あの……北沢さんですよね?」
「ええ」
そう返事をすると女の子は続けた。
「私、矢吹可奈さんと同じ中学校の者で、矢吹さんに伝えてほしいことがあるんです」
ああ、可奈への用事か。心のどこかで私のファンかと思ってしまった自分が恥ずかしい。
3 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/08/30(木) 23:13:22.90 ID:+KB1imaD0
同じ中学校なら話すチャンスもあるでしょう。用事があるなら直接言ったらどうかしら?」
「いえ、矢吹さんには断られてしまって……それで矢吹さんと仲がいい北沢さんから伝えて欲しいんです」
なぜ、他校の生徒にも可奈と私の仲が伝わっているのだろうか。多分、あの子がよく私の名前を出してるのだろう。
たしかに可奈とは仲が悪くはない。ただ、可奈からの情報源のみしか耳に入っていない彼女の「仲がいい」と実際の関係には齟齬があるかもしれない。
あの子は愛情表現が過剰すぎる、それだけに大親友とまで見なされている可能性もある。
いちいち否定していたら面倒だから、そこには言及しなかった。
「……で、可奈には何を伝えればいいのかしら? 場合によっては私がそれを伝え忘れてしまう可能性もあるのだけど」
伝えることに責任をとらないことはアピールしておく、そもそもこの子の素性も知らないわけではあるし、面倒事には巻き込まれたくない。これ以上悩みは増やしたくないのだ。
「あの……矢吹さんには吹奏楽部に入ってほしいんです!」
女の子はそう切り出した。
4 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/08/30(木) 23:15:56.49 ID:+KB1imaD0
◆
頭を抱えながら事務所につく、すでに彼女との会話は終わり、別れたけどどっと疲れた。
最初はどこか話すことに慣れてないオドオドとした印象を持ったけど、それは違った。
事務所の誰かさんみたいにスイッチが入ると延々と話出すタイプみたいで、思わず気落とされた。
彼女は唾を飛ばす勢いで熱弁していたが要約すると「矢吹可奈はクラリネットがうまいのでぜひ吹奏楽部に入ってほしい」とのことだ。
伝えようか、伝えまいか、悩んでいた間にレッスンの時間になってしまったので、そちらに向かった。
レッスンの内容はダッスンレッスン。まだまだ先だと思ってたライブも日も今月に迫っていた。
ああ、自分の実力とは裏腹に時間だけは過ぎてゆく。才能は不公平なのに時間は誰にもしも公平である、という当たり前の事実が私にとってあまりにも残酷だった。
このステップはなんとかできたと気が緩むと次の今までできていたなんともないステップをミスしてしまう。
意識しないようにと考えてみるも、意識しないように考えている時点ですでに意識してしまっているようなものだ。
どうにも体が思うように動いてくれない。自分がドツボにハマッているのが、トレーナーにも伝わったみたいで一旦休憩を入れてくれた。
ただ、そのこと自体も自分に気を遣われていることが感じられて不本意だった。
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