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海未「『ひとりぼっち』の、君となら」
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48 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 15:33:16.49 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2198 08/25 18:24]
第四話「追想フォレスト」
END
49 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 15:38:35.50 ID:L0ciGIt40
第五話「夕景イエスタデイ」
[054170 AD 2198 09/02 08:54]
50 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 15:39:04.82 ID:L0ciGIt40
〜通学路〜
朝早い街中を歩く人影が二人。
海未「まだ少し暑いですねぇ…残暑です」
ことり「そうだね〜。その暑そうなジャージで言われてもだけど…」アハハ
海未「う…」
ことり「でもとっても似合ってるよ♪」
海未「そうですか!褒めて頂けて嬉しいです」ニコッ
海未(私はタンスに入っていた青いジャージで、ことりはいつものセーラー服とマフラーで歩いています)
海未(今日は音ノ木坂学院高校の学園祭です)
海未(他のµ‘sメンバーにも会えるかもしれませんね)
ことり「あっ!海未ちゃん着いたよ!」
海未「おお、久しぶりに来ました」
目の前には街並みと同様、スタイリッシュに変貌した学校があった。
51 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 15:39:37.18 ID:L0ciGIt40
海未(どうやら基本的な造りは一緒のようですね)
海未「では、いろんな店を回ってみましょうか!」
ことり「うん!」
52 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 15:40:10.79 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2198 09/02 15:27]
〜音ノ木坂学院:廊下〜
海未「ふぅ〜。楽しかったですね。出し物も良かったです」
ことり「そうだねぇ。出店も良かったし!」
海未「…ん?」
海未(アイ研部室があるはずの場所の前に人だかりができていますね)
海未(江戸時代のような恰好の女性でいっぱいです)
海未「見てみましょうか」
ことり「…あっ!」
海未「どうしたんですか?」
ことり「いや、この前家に来てた先輩が居たから」
ことり「ここのクラスの担任、ことりのお母さんなんだよね。だから、ことりの家に作業しに来てたんだ」
そう言うとことりは、入り口の前に立って客の整理をする金髪の女子生徒に近づき、声を掛けた。
海未(あれは…)
海未(絵里…?)
53 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 15:40:49.09 ID:L0ciGIt40
絵里「―――!」アハハ
ことり「(^8^)!」チュンチュン
何を話しているかは遠いため解らないが、見慣れたブロンドの髪と優しい笑顔は、まさしく絵里だ。
海未(とにかく一度並んでみましょうか…)
海未はコスプレの女性たちの間をすり抜け、部室の中を見た。
中は薄暗く、明かりは二台置かれたパソコンのディスプレイと、蛍光塗料のようなものの淡い光でしか照らされていない。
海未(ディスプレイの前には、コスプレの女性と、心なしか疲れているように見えるツインテールの少女がいました)
にこ「はぁあ…」カカカカカッ
海未(にこですか!一気に二人発見しましたね。あのコントローラーの連打…早すぎです)
海未(しかし何故、死んだ目をしてゲームを…)
54 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 15:41:31.32 ID:L0ciGIt40
海未(…どうやらこのゲームは、武器を選んでモンスターと戦う仕組みのようです)
海未(キャラクターは、豪華絢爛な着物や、戦国風の鎧を纏っています)
海未(和風なゲームですね…。集まっている人たちはゲームの中身に合わせて町娘のコスプレをしているのですか)
口元にホクロのある黒髪ロングの少女「流石『Love Arrow Shooter』の全国二位YAZAWA様!おほーっ!痺れますわ〜!」
海未(にこは全国二位なのですか!)
海未(武器も日本刀など…。にこは脇差の二刀流使いですかね)
海未(というかなんですかその題名!まんまラブアローシュートじゃありませんか!)
海未(しかし、あの動き…)
海未(言いたいことは山ほどありますね)
考え込んでいるうちに、ことりが絵里と話し終えて戻ってきた。
ことり「海未ちゃん、これ対戦型アクションゲームらしいんだけど、やっていかない?」
海未には、何故か闘志がみなぎっていた。
海未(にこも上手いですが、私と比べれば大したことはないです)
海未(…本物の凄さを見せてあげましょう!)
海未「…勿論参加します。終わり次第帰りましょうか。並ぶ時間も込みだとちょうどいいでしょう」
ことり「うん!応援してるよ!ん〜と、ルールは…」
55 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 15:42:16.90 ID:L0ciGIt40
絵里「次のお客さんは入ってくださ〜い!どうぞどうぞ!」
海未「失礼します」
にこ「…」ズーン
絵里「―――」ミミウチ
にこ「!」バッ
絵里がにこに耳打ちをすると、にこは急に機嫌を取り戻したようだ。
にこ「あなたが次の挑戦者ですか?よろしくお願いします!ルールの説明、しておこうか?」
にこは先程までとは打って変わって、いつもの笑顔で言う。
しかし。
海未「結構です」
海未「…そしてあなたは武器の良さを活かせていません」
海未「ゲームも現実も一緒です」
海未「本当の使い方を教えてあげますよ!」ビシツ
海未は高らかに宣言し、にこを指差す。
にこ「…ふぅ〜ん」
にこ「にこに勝てるっていうのね…」
にこ「大銀河宇宙No.2剣士≪無双の歌姫・YAZAWA≫の名に懸けて、絶対に負けられないわっ!」ドンッ!!
56 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 15:43:06.90 ID:L0ciGIt40
にこ「あんたが勝ったら何でも言うこと聞いてやるわよ!なんならあんたの下僕にでもなって『お嬢様』って呼んであげたっていいからね!!」
少女たち「キャー!!!痺れるぅ〜!!!」
海未「そうですか、では私も言うことを聞いてあげましょう。まあ、負けるということはありえませんがね」
プッツン
にこ「あんた…ボッコボコにしてやるわ」キッ
海未「…受けて立ちます」
すると、絵里がにこに再び耳打ちをした。
絵里「―――」コショコショ
にこ「…はぁ!?」
にこ「これは真剣勝負よ真剣勝負!こっちも本気で行かせてもらうわ!ほら!入口に戻ってお客さんの整理しなさい!」
絵里「はぁ…」ヤレヤレ
絵里「あ、え〜っと、君?」
海未「…はい?」
絵里「あの子、凄い強いよ?頑張ってね」
そう一言呟き、絵里は客の整理に戻っていった。
にこ「…あんた?」
海未「はい」
にこ「モードは『MASTER』でいいわね?最高難易度よ」
海未「構いません」
にこ「それじゃあ行くわよ…!」ポチッ
にこがコントローラーのボタンを押すと、決戦の火蓋が切って落とされ、画面にモンスターが溢れかえった。
57 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 15:44:03.98 ID:L0ciGIt40
――――――――――
結果、にこはその日の自己最高得点を叩き出したが、敗北。
一方海未のディスプレイには「WIN」の文字に加え、「PERFECT!!」という金色の文字が表示されていた。
絵里も口を開けて結果を眺めている。
にこ「…つ、強い…」
にこは俯いてうわ言を言っている。
海未「約束は無しで大丈夫ですよ」
海未「…煽ってしまってすいませんでした。つい頭に血が上ってしまって」
海未「武士にあるまじき事ですね」
海未「では」
海未は教室を速足で出て行った。
海未(…)スタスタ
海未「…酷いことを言ってしまいましたぁ…」ハァ…
海未「後で謝らなければいけませんね…」
海未「あ、ことりは何処に行ったんでしょうか」
海未「もう帰る予定でしたし、玄関前で待っていれば大丈夫でしょうかね」
海未は無駄に天井が高い廊下を速足で進んで行く。
「ま、まってよぉ〜…!」
58 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 15:44:55.47 ID:L0ciGIt40
すると、後ろから息が切れた声が聞こえた。
海未「?」クルッ
海未(え、絵里?)
絵里「はぁ…はぁ…うぅ…」
海未(大きいし、重たそうですね…何かの標本でしょうか…)
海未(それより、絵里は大丈夫なんですか?わざわざここまで持ってきたということですよね?)
絵里「…はぁあ…」
絵里が海未にやっと追いついた。
海未「なんですか、これ?」
絵里「射的の景品なんだけど…。届けに来たの」
海未「え?」
絵里「だから…景品なのよ。えぇっと、あなたのものよ」
海未「…?」
海未「…まぁ景品というなら、一応貰っておきます」
絵里「…ありがとう!お礼に飲み物奢ってあげるわ!」
絵里は人混みの向こうのドリンク売り場のノボリを指差して笑う。
海未(貰ってくれたお礼とは…何か事情があるんでしょうか…)
59 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 15:45:32.57 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2198 09/02 15:56]
〜音ノ木坂学院〜
校舎各所に設置されたフリースペース。その内、玄関から程遠い簡易ベンチに、海未と絵里は座っている。
絵里「これしか残ってなかったわね」
海未「…」ジイッ
海未は自分と絵里との間に置かれた『世界一有名な黒色の炭酸飲料』の缶をじっと見つめていた。
結露した水滴が、涼しそうに缶の上部からベンチへと垂れていく。
絵里「どうしたの?飲まないの?」
海未「…飲んだことがないんです」
絵里「何でも挑戦してみたらどう?いいことあるかもよ?」
海未「…」
海未「…はぁ」
海未「解りましたよ…」プシュッ
60 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 15:46:30.41 ID:L0ciGIt40
海未「…」ゴクッ
海未「…!」ゴクゴク
海未は一心不乱に缶に口をつけている。
海未「…ぷはぁ…」
海未「…す、凄く美味しいですね、これ…!」パアァ…
絵里「ね?挑戦したらいいことあるって言ったでしょ?」
絵里「でもこれ、そんなに珍しいものじゃないわよ?」
海未「もちろん知っています。でもこんなに美味しいとは思っていませんでしたよ」
絵里「じゃあ、食わず嫌い…いや、飲まず嫌いだったわけね」
海未「…まぁ、そういうことですかね」ニコッ
海未「あ、この標本は妹にあげることにしました」
海未「妹は『変なもの』が好きなようなので」カンッ
海未はベンチ横のごみ箱に空容器を捨てた。
絵里「それにしてもあなた、ゲーム上手いわよね。何かの大会にも出たりしてるの?」
61 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 15:47:18.03 ID:L0ciGIt40
海未「あれは日々の鍛錬の成果です」
海未「ゲームでも現実でも、間合いを計って動きを見切り、精神を統一して行う。そうすれば勝てますよ」
海未「しかし、にことの勝負の時は調子に乗ってしまいました。あとで謝らなければ…」
絵里「そう。すごいわねぇ…。積み重ねが大事ってことかしら…」
絵里は驚いたような、悔しいような顔をしていた。
海未「…?」
海未「挑戦したいのなら、すればいいのではないですか?」キョトン
絵里「…え?」
62 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 15:48:05.33 ID:L0ciGIt40
海未「いや、だから、やりたいのならあのゲームでも何でも、やりたいことをすればいいんですよ。誰かに止められてる訳では無いんですよね?」
海未(絵里は自分のやりたいことをやるべきだと思いますから)
絵里「…と、止められてる訳じゃないけど…」
海未「では何でも挑戦してみたらいいのでは?私も一緒に調べてあげます…よ?」
海未は少し驚いてしまった。
絵里が目を輝かせてこちらを見つめているからだ。
絵里「よ、よろしくお願いします!」バッ
学園祭の終了アナウンスと同時に、絵里は勢いよく頭を下げた。
63 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 15:48:37.55 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2198 09/02 16:00]
第五話「夕景イエスタデイ」
END
64 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 15:49:04.02 ID:L0ciGIt40
第六話「lost days」
[054170 AD 2198 09/08 20:51]
65 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 15:49:38.32 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2198 09/08 20:51]
〜海未の部屋〜
海未はヘッドフォンをつけてデスクトップに向かっている。
戦闘画面は大きい窓にも映し出され、大迫力だ。
海未(今は絵里とゲーム中です)ズドン!
海未(ハロウィンが題材の、お化けを退治するシューティングゲームをプレイしています)ガガガ!
海未(あのときゲームをやったことで、新たな楽しみができました)ドシュウ!
海未(あっ、『キモかわいい』と評判のゾンビが現れましたね)カチカチ
ドガガガガ!
グオォ!
クリアー!オメデトウ!
海未(よし、撃破です)
海未(…さて、プレイ実況はここまでにしておきましょう)
海未(どうやら絵里はにこに対戦をお願いしたいらしいのですが…)
66 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 15:50:08.61 ID:L0ciGIt40
海未「弱いって思われたらもう対戦してもらえなくなるとか思ってますよね?」
絵里『う…。い、いいのよ!私のタイミングでお願いするから放っといてよ!』
海未「まあ、私の知ったことではありませんがね」フフン
ガチャ
穂乃果「…お姉ちゃん、ちょっといい?」
海未「部屋に入るときはノックしてください!」
穂乃果「あ!あのゾンビのやつやってる!やっぱりゾンビくんはかわいいなぁ〜」
海未はヘッドフォンを外す。
海未「今は人とやってるんですよ?あっちに行っててください」
穂乃果「な、なにさ、そうやって他の人とばっかり…。穂乃果とは全然やってくれないくせに…」
海未「だってあなた、負けると泣いたり殴ったりしてくるでしょう」
穂乃果「んんっ…」ウルウル
海未(これはやってしまいましたかね?)
67 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 15:51:22.25 ID:L0ciGIt40
穂乃果「…実はね、今日ゲームセンターに寄ったら、そこの店長さんが『来週末のイベントに出て欲しい。かわいい声だから人気者になれる』って言われて…」
穂乃果「私、一応お姉ちゃんに相談しておこうかなって思って…」
海未「ステージに立つということですか?」
穂乃果「穂乃果、もうそれやることにしたから!お姉ちゃんが何言っても聞かないからね!」バン!
海未(部屋を出てしまいました…)
海未(しかし、穂乃果がアイドルに…。どの世界でも必然なのでしょうか?私の夢だからかもしれませんが…)
海未「あっ」
海未「えっと、すいません、通話を忘れていました」カチッ
絵里『いいわよ、大丈夫。それより、妹さんは…』
絵里『親御さんに相談してみたらどうかしら…?』
海未「いえ、穂乃果がゲームセンターに行ったことを話したら、たぶん外出禁止になってしまいます」
海未(最近、穂乃果が異常に『人の注目を集めてしまう』んです)
海未(街を歩いたらすぐ人だかりができてしまって…)
海未(お母様も心配なのでしょう)
海未(あぁそういえば。私たちのお母様は、こっちの世界では私のお母様になっている様子です)
絵里『そう…。じゃあ私たちでどうにかするしかないわね』カチャカチャ
海未「…え?」
海未(何を調べているのでしょうか…?)
程なくして、絵里の声が聞こえた。
絵里『海未!』
絵里『来週末、ゲームセンターに行くわよ!』
68 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 15:52:31.07 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2198 09/12 13:32]
〜ゲームセンター〜
海未「絵里ぃ〜!」
海未(すごい人だかりです!すぐ絵里を見失いそうになってしまいます!)。
絵里「ここよぉ〜!」
海未は人の波を掻き分けて進み、絵里の待っている少し空いたスペースに辿り着いた。
海未「はぁ…はぁ…」
海未「…こんなに人がいるなんて聞いていませんよ!」
海未(穂乃果が出演を依頼されたイベントは、ちょうど私たちがプレイしていたお化けを退治するゲームの大会だったようです)
海未(集まった人たちは皆、思い思いの仮装をしています)
海未(私は吸血鬼、絵里はフランケンシュタインの仮装をして訪れています)
海未「でも、さっき一瞬穂乃果を見かけましたよ」
絵里「すごいわね。この人ごみの中で見つけるなんて」
海未「いや、簡単ですよ。一番変な恰好してるのを探せばいいんです」
絵里「…え?じゃあ、あの人?なによあれ…。頭からアルパカの足が…」
海未「…そ、それです!行ってきます!」
69 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 15:53:04.04 ID:L0ciGIt40
海未は人ごみを掻き分けて進んでいく。
海未「穂乃果!探しましたよ!」
穂乃果「…あ、お姉ちゃん」
穂乃果が冷たい声で言うのが聞こえた。
海未は穂乃果に駆け寄ろうとする。
海未(やっと会えましたぁ…!)
…しかし。
グッ
海未「!?」
海未「痛っ!」ドサッ
バツンッ!
海未(これは…照明のコードですか。周囲が暗くなっています)
周囲がざわざわとし始める。
70 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 15:53:39.20 ID:L0ciGIt40
係の人が駆け付けてきた。
係の人「大丈夫ですか?お怪我は」
海未「すいません、引っかかってしまいまして」
係の人「すぐに直しますので。注意してくださいね」
海未「はい…」
係の人が去ったところで、穂乃果が海未に歩み寄り、話しかける。
穂乃果「…穂乃果はステージに出るわけじゃなくて、『ちょうどいい声の人が見つからなかったから、カボくんの声だけやってくれないか』って言われただけなの!」
穂乃果「なのになんでわざわざ来て余計な事するの!?もうお姉ちゃんって呼ばないからね!」
海未「…え」
穂乃果はまた人ごみの中に紛れてしまった。
酷く哀しそうな顔をした海未を見かねたのか、絵里が人混みを掻き分けて横に駆け寄って来た。
絵里「大丈夫?海未」
71 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 15:54:43.56 ID:L0ciGIt40
海未「あぁ、絵里…。私、やらかしてしまいました…」ズ〜ン
絵里「まぁまぁ、それはしょうがないわよ。それで、穂乃果ちゃんはなんて言ってたの?」
海未「『もうお姉ちゃんって呼ばない』って…。はは、笑ってしまいますよね…」
そう言うと、海未は燃え尽きたと言わんばかりに、近くの柱に背中を付けて体育座りをした。
海未「私…もうお姉ちゃんじゃないんですよ。なんだか信じられません。あぁ…絵里。私、今どんな感じに見えてますか?」
海未(よくよく考えると、最初は穂乃果の姉になっていることに驚いたのに、今は妹になった穂乃果に嫌われて悲しんでいる…。随分この世界に馴染んでしまいましたね)
絵里「えぇと…。ちょっと気持ち悪い感じに…」アハハ…
海未「あぁ、そうですか。もうダメです。絵里もどうぞ今後は私のこと『お姉ちゃんじゃなくなった海未』って呼んでやってください。はは…」ドヨ〜ン
すると絵里は海未の隣にしゃがみ込み、笑顔を見せる。
絵里「でもほら、こんなところで座り込んでてもしょうがないでしょう?それに、穂乃果ちゃんを何とか説得しないと…」
海未「あぁ、それなんですけど、私たちは勘違いしていたようですね。ほら、あれ…」
72 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 15:55:20.92 ID:L0ciGIt40
海未がそう言いメインステージを指差すと、会場の中心にあるステージ脇からバニーガールの格好のお姉さんとカボくんが登場した。
お姉さんはステージ中央に立つと、軽快な口調でイベント参加の最終呼び込みを始める。
呼び込みが終わった後、カボくんは「パンプキーン!」と言いながらファンシーなポーズを取った。
周囲の観客からは声援が上がる。
すると絵里は、何かに気付いたような顔をした。
海未「気付きましたか?あの『パンプキーン』って声だけ録らされて、穂乃果の役目はおしまいだったらしいです。なんかちょうどいい声の人がいなかったらしくて」
絵里「とにかく、大事にならなくて良かったわ。それで、この後はどうするの?」
海未「あぁ、散々付き合わせてしまったので、もう絵里は自由にしてください」
海未「私はもうお姉ちゃんも辞めたし、柱にでもなってますよ。はは、硬いですね」ゴンゴン
ワアアア
そんなことをしていると、会場から大きな歓声が上がる。
73 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 15:56:00.56 ID:L0ciGIt40
海未(ん…?)クルッ
海未(いつの間にか、カボくんの横には例のキモいゾンビの巨大ぬいぐるみがあります)
海未(ぬいぐるみには、「優勝賞品」と書かれた襷がかけられていますね)
すると絵里が、何かを思いついたような顔をした。
絵里「…ねぇ海未!あれをプレゼントすれば、穂乃果ちゃんも喜ぶんじゃないかしら?」
海未「確かにそうですね…。穂乃果はあのキャラクターが好きですし、それにこのゲームのアーケード版はタッグ制です。二人で出れば優勝できるかもしれません!」
絵里「海未、一緒に出ましょう!このチャンスを逃す手はないわ!」
二人は急いでエントリー受付へと向かう。
途中ですれ違った「二人組の魔女の女の子」には、二人とも気づいていなかった。
74 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 15:56:45.51 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2198 09/12 15:37]
〜ゲームセンター〜
絵里「…どうしましょうか」
海未「全く不運な一日です…」
海未(先程にこから絵里に電話がかかってきました)
海未(『今日はことりの誕生日だから、海未が何処にいるか教えて欲しい』という内容です)
海未(そりゃ慌てますよ!でも穂乃果も心配です)
海未(電話は上手く誤魔化して、私たちは順調に勝ち進み、遂に決勝に進出しました!)
海未(しかし、もう一回の準決勝を見ていて、一つ大問題が発生します)
海未(ことりとにこも出場していたのです!)
海未(今は幸い貸し出されていた仮面舞踏会のようなマスクで誤魔化せていますが、いつバレるか解りません!)
海未(とにかく、バレる前に勝利して、ゾンビのぬいぐるみを勝ち取ります!)
海未(…さて、ゲーム筐体は対面式なので、私の向こうにことり、絵里の向こうににこという構図です)
75 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 15:57:39.49 ID:L0ciGIt40
絵里「海未…」
海未「なんでしょうか?」
絵里「わ、私、にこと戦うのは初めてだわ…!」
海未「大丈夫ですよ」
海未「いつもの調子でやれば絶対勝てます。頑張りましょう!」
海未「今、発作が起こるわけないですし」フフッ
海未は冗談めかして言う。
海未(私は絵里の身体が生まれつき弱く、発作が起きたりすることをつい何日か前に知りました)
海未(それからは、絵里をもう少しだけ労わって生活することにしたんです)
絵里「ふふっ…そうね」
絵里「ありがとう。頑張るわ!」
海未(少し懐かしい感じがします)
海未(あのオープンキャンパスの時も…)
76 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 15:58:32.36 ID:L0ciGIt40
――――――――――
絵里「…緊張してきたわ…」
海未「絵里先輩、どうしたのですか?」
絵里「…海未ちゃん…でしたっけ?私、μ'sとしては初めての本番だから緊張しちゃって…」
海未「大丈夫ですよ」
海未「いつもの調子でやれば絶対成功します。頑張りましょう!」
絵里「ふふっ…そうね」
絵里「ありがとう。頑張るわ!」
――――――――――
77 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 15:59:17.15 ID:L0ciGIt40
海未(…そうだ)
会場の照明が落とされる。
海未(私は今まで、ことりの事だけ考えていた)
海未(ことりが一番大切な人なのは事実です)
海未(でも、ことりのことだけ考えて、他人を顧みないことを、彼女が望むわけがない!)
海未(他にもたくさん、夢の外に大切な人がいる)
海未(絶対に帰ってみせます)
海未「…絶対にこのゲームをクリアしてみせます」
絵里「うん、そうね。絶対勝ちましょう、海未」
海未「…あっ」
海未「はい」
78 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:00:09.70 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2198 09/12 17:24]
〜矢澤邸〜
海未(私、ことり、絵里、にこ、穂乃果の五人は矢澤邸のにこの部屋にいます)
海未(何故かというと、ことりの誕生日パーティーという事で、にこが沢山ミニケーキを作ってくれたので食べているんです)
海未(ことりは家に帰ってもパーティーがあるので、食べる量を調節できるものにしました)
海未(そして、どうやらにこの弟妹の存在も消えています)
穂乃果は、『満面の笑み』とはこのことを言うのだろうというほど、嬉しそうに笑っている。
穂乃果「ね、ね、お姉ちゃん。これホントのホントに貰ってもいいの?」
海未「何度も言わせないでくださいよ」
穂乃果「本当にありがとうございますっ!絢瀬先輩!」
絵里「そんなに何回もお礼言わなくても大丈夫よ?」ニコッ
にこ「にしても絵里、事情があるんならちゃんと言いなさいよ。今回は穂乃果ちゃんのためだから許すけど」ギロリ
絵里「はい…解りました…」シュン…
79 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:01:31.38 ID:L0ciGIt40
ことり「別にいいんじゃない?こうやって穂乃果ちゃんとも仲良くなれたんだし!」
にこ「それはそうだけど…」
海未「それにしても狭いですね…九月なのに暑くなってきましたよ」
にこ「はぁ!?にこの部屋が狭いって言ってんの!?」
海未「…にこ。それより、早く食べないと穂乃果に全部食べられてしまいますよ?」
穂乃果「ホントに美味しいね〜このケーキ!矢澤先輩の料理の腕前はすごいです!」モグモグ
にこ「えぇ!?もう五分の一くらいないわよ!?食べるの早っ!」
ことり「私はチーズケーキだけで大丈夫だからね〜」
絵里「私も早くチョコケーキ食べないと!」
にこ「ぬわぁんでよ!にこの分も残しなさ〜い!」
ワイワイガヤガヤ
80 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:02:23.94 ID:L0ciGIt40
海未(さっきは早く帰らなければいけない、と思いましたが、楽しそうな皆を見ていると、そんなことも忘れてしまいますね)
海未(一刻も早く帰りたいのは事実です。しかし『終わらないセカイ』の手掛かりが見つからない以上、今は楽しんでおくべきですね!)
海未(よし!)
海未「私にも分けてくださいよ!」
にこ「んん?じゃあ勝負で決めましょう!ジャンケンするわよ皆!」
エーハヤイモノガチデモイイジャナイ
ヌワァンデヨ!
アハハハハハ!
音ノ木の夜は更けていく…。
81 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:03:11.96 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2198 09/12 17:49]
第六話「lost days」
END
82 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:03:53.03 ID:L0ciGIt40
第七話「透明アンサー」
83 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:04:28.12 ID:L0ciGIt40
それからは、ただ楽しかった。
84 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:05:05.21 ID:L0ciGIt40
――――――――――
[054170 AD 2198 12/21 12:23]
〜雪合戦〜
海未「それっ!」
バッ
にこ「きゃっ!冷たっ!…やったわねぇ〜!」
絵里「いくわよぉ〜!」
ことり「えいっ!」
――――――――――
85 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:05:40.26 ID:L0ciGIt40
――――――――――
[054170 AD 2199 02/13 14:34]
〜バレンタイン〜
海未「大丈夫なのでしょうか…?」
絵里「早く食べたいわね〜」
にこ「もうちょっとでできるからあっち行ってなさい!」シッシッ
ことり「よ〜し!もう少しだよ!」
――――――――――
86 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:06:18.41 ID:L0ciGIt40
――――――――――
[054170 AD 2199 04/06 15:43]
〜入学式〜
絵里「海未、ことり、入学おめでとう!」
ことり「はぁ〜良かった!ギリギリでしたから!」
海未「私が勉強を教えましたからね!」
絵里「にこもギリギリ合格じゃなかったかしら?」
にこ「にこはぶっちぎりで合格よ?」フフン
絵里「え〜?嘘よね〜?」ニヤニヤ
にこ「ぬわぁんでよ!」
――――――――――
87 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:07:08.24 ID:L0ciGIt40
――――――――――
[054170 AD 2199 06/14 14:56]
〜音ノ木坂学院〜
海未「また100点ですか…」
海未「この答案はあげますよ」
ことり「うん。じゃあ、こうしてこうして…」
ことり「…はい完成!折り鶴!」
ことり「海未ちゃんにあげる!」
海未「…ありがとうございます」ニコッ
――――――――――
88 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:07:50.97 ID:L0ciGIt40
――――――――――
海未(でも、その日は突然訪れた)
――――――――――
[054170 AD 2199 08/15 17:27]
〜音ノ木坂学院:廊下〜
夕方前の長い廊下。
海未「いや〜今日の補修も疲れましたね。難しくはなかったですが」
ことり「…ことり、全然分かんなかったよ…。海未ちゃん、後で教えて?」
海未「いいですよ!あなたの成績が下がったら、私も困ります」
ことり「ありがと、海未ちゃん!」
海未「…さて、今は何時でしたっけ…」ガサゴソ
海未「…あれ?」
ことり「どうしたの?今は五時過ぎだけど…」
海未「スマホを教室に忘れました!」
海未「取りに行ってきます!玄関で待っててください!」
ことり「分かった!行ってるからね〜」
89 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:08:38.32 ID:L0ciGIt40
〜海未の教室〜
海未「…ん〜っと…。…ありました!」
海未「早く戻らないと。ことりが待っています!」
海未は廊下を走る速度を上げる。曲がり角に差しかかる。
すると。
ドンッ!
海未「うわっ!?」
「痛った!」
にこ「ちょっと!どこ見て走ってんのよ!」プンプン
海未「申し訳ありません。にこでしたか」
にこ「あぁ、海未じゃない。どうしたの?ことりちゃんと帰るんじゃないの?」
海未「教室にスマホを置き忘れまして。ことりは玄関で待たせてしまっています」
にこ「あぁ、そうなの。…そういえば」
海未「?」
90 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:09:40.91 ID:L0ciGIt40
にこ「絵里は大丈夫?補修にも来てないじゃない」
海未「昨日行ったときは元気でしたよ?何か伝えておきましょうか?」
にこ「あぁ、そうね。これ、渡しといてくれる?」バッ
にこは保冷バッグを取り出した。
海未「これは…?」
にこ「絵里の大好物だから」
にこ「あとで行く、って言っておいて」
海未「はい。解りました」
にこ「あとさ、」
海未「…?」
にこ「…もうちょっとことりちゃんのこと気にかけてあげて」
にこ「多分喜ぶから」
にこ「…聞いたなら早く行きなさい?待たせてるんでしょ?」
海未「…」
海未「…ありがとうございます」
ダッ
海未(あのとき、声をかけておけばよかったみたいですね…)
91 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:10:34.41 ID:L0ciGIt40
――――――――――
少し前の夕方。綺麗なマジックアワー。
海未(私は用事があり、帰りに教室前の廊下を通りかかりました)
海未『…さて、帰りましょうか。…ん?』
海未(ことりが窓際の自分の席で、外を眺めながら涙を流しているのが見えました)
海未『どうしたんでしょうか…?』
海未(でも、話しかけたくても、声が出なかった)
海未(どう話を切り出せばいいか、解らなかった)
海未(私はその場を立ち去るしかありませんでした)
――――――――――
92 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:11:28.75 ID:L0ciGIt40
海未(あの時の事を聞かなくては)
海未「ことり〜!」
ことり「あっ!来た!」
ことりは、優しい笑顔でこちらに手を振っている。
海未「すいません、遅くなりました」
ことり「大丈夫大丈夫!急いで来て海未ちゃんが怪我とかしたら大変だもん」
ことりが笑う。
海未「…ことり」
ことり「?」
海未「…ッ!」
海未(あのことを聞いたら、ことりの何かが壊れてしまうかもしれない…!)
海未「…やっぱりいいです」
ことり「…?」
ことり「…じゃあ、気を付けて帰ってね」
海未「ん?ことりは帰らないのですか?」
ことり「さっきお母さんに用事があるの思い出して」
ことり「だから先に帰ってていいよ♪」
海未「わかりました。今日は絵里の家に寄ってから帰りますね」
靴を履き替え始める海未。
その時。
ことり「…あの、」
93 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:12:58.30 ID:L0ciGIt40
海未「…?」
ことり「いつもありがとう」
ことり「ずっと、一緒だよ」
海未「…?どうしたのですか急に…。私はことりと一緒に居たいですよ?」
ことり「そうだよね…安心した」
海未「…ではまた明日、補修で会いましょうね!さようなら」
ことり「うん、分かった!じゃあね、海未ちゃん!…」
帰り際に一瞬だけ見せた、ことりの寂しそうに見える笑顔が、何故か海未の目に『焼き付いて』いた。
94 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:13:47.44 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2199 08/15 17:56]
〜絢瀬家〜
夕方近くなっても、蝉の声が五月蝿い。
海未はクーラーの効いた洋室のドアを開けた。
海未「お邪魔します。…こんな時間になってしまってすいません」
海未(絵里は最近、ずっとベッドの上にいます)
絵里「あぁ、海未。今日もありがとう。今日は暑かったでしょ?」
海未「いや、暑いなんてものではありませんでしたよ。今年の最高気温なのではないですか?」
海未はベッドの横の椅子に腰を落とし、顔を手で扇いだ。
絵里「身体壊したらダメよ?」
海未「はは。大丈夫ですよ。あ、そうだ。これ、渡してほしいと頼まれて」スッ
海未「チョコレートです。にこの手作りですから、どうぞ」
絵里「そうなの!ありがとう!早速頂くわ…」モグモグ
95 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:14:32.46 ID:L0ciGIt40
絵里「…『美味しいわね』!後でにこにお礼を言わなくちゃ!」
海未「…にこがここに来たことはあるんですか?」
絵里「…それが、無いのよねぇ」
絵里「にこ、元気そうだった?」
海未「はい、心配していましたよ。あとで行く、とも」
絵里「…そう」
絵里は窓の外を見つめている。
しかし暫くすると、目線を下に落とした。
絵里の顔が、みるみるうちに青ざめて、深刻になっていくのが解った。
海未「…え、絵里?」
96 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:15:12.05 ID:L0ciGIt40
絵里「…はっ」
絵里は我に返ったようだ。
海未「誰か呼んできます!」
部屋の外に出ようとする海未の腕を、絵里が掴んで引き留めた。
絵里「大丈夫…わ、解るの。これは大丈夫だから」
そう深刻な顔をして言う絵里に、海未は思ったことをそのまま言った。
海未「だ、だって絵里…」
海未「辛そうではないですか…」
そう言って、海未は絵里の背中をさする。
絵里「はぁ…はぁ…」
海未(絵里は何度か深呼吸をすると、徐々に調子が戻ってきたようでした)
海未「…早く、よくなるといいですね」
97 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:16:25.94 ID:L0ciGIt40
海未がそう呟くと、絵里は少し迷ってから、こう言った。
「よくなんて、ならないわよ」
海未「…え?」
絵里は海未の方を絶対に見ず、窓の外を見ていた。
海未は絵里を心配そうに見つめて言う。
海未「…な、何言ってるんですか絵里。ほら、最近暑いから、きっとそのせいで…」
絵里「違う。…違うのよ、海未」
98 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:18:06.60 ID:L0ciGIt40
絵里「私、死ぬの。もう何日も生きられないと思う。海未と仲良くなる、ずっと前から解ってたの」
絵里「海未、私ね、こんなに仲のいい『友達』ができたの、生まれて初めてだった」
絵里「だから、海未には本当に幸せになって欲しい。この先どんな辛いことがあっても、私の分まで長生きして欲しいの」
海未「…!」
夕暮れの色が濃くなり、部屋中が橙色に染め抜かれていく。
絵里は、傍らの時計を一瞥してから海未に声をかけた。」
絵里「ごめんね、海未。今日はもう帰ってもらってもいい?時間もあれだし…」
海未「私…」
つい、口が動いてしまった。
99 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:20:07.04 ID:L0ciGIt40
海未「私…え、絵里が居なくなるのは…い、嫌です…ッ!」
海未は涙を零しながら叫んだ。
絵里「私だって…」
絵里は出てくる言葉を抑えきれなくなったようだった。
絵里「わ、私だって死にたくないわよ…ッ!なんで…なんで私なの!?おかしいわよこんな…!」
絵里の涙が、布団に染みを作る。
絵里「どんどん身体もおかしくなって…ご、ご飯の味も、もう解らないの!」
絵里「さっき言った…チョコレートが美味しいって…それも嘘よ…ッ!」
絵里「こ…怖いわ…誰か!誰か助けてよ…!」
ピンポーン
一瞬の静寂。
絵里「!?」ビクッ
100 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:21:22.93 ID:L0ciGIt40
海未「…にこですかね」
絵里「…え?」
海未「邪魔してはいけないので、私はもう帰ります」
海未「にこにお礼を言ってくださいね」
絵里「…ありがとう、海未」
絵里は先程とは一転、満足げな表情を浮かべ、こう言った。
絵里「…さよなら」
海未「さよなら」ガチャ…バタン
海未はドアを開け、廊下に出た。
後ろは絶対に振り向かなかった。もっと涙が零れてきそうだったから。
海未は玄関の扉を開ける。
扉の前には、案の定にこがいた。
101 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:21:55.05 ID:L0ciGIt40
海未「…にこ」
にこ「…何よ」
海未「私に向けて」
海未「『こんなに仲のいい「友達」ができたのは、生まれて初めてだった』と、言っていましたよ」
にこ「…!」
にこ「分かった」キッ
海未「…頑張ってください」
海未は玄関を開けたまま、すぐに立ち去った。
102 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:23:03.93 ID:L0ciGIt40
(その後は、何も考えず着の身着のままベッドに寝転がり、目を瞑った)
(誰かがもうすぐいなくなってしまうと思うと、なんのやる気も起きなかった)
(聞こえてきた救急車の音は気にも留めなかった)
(そして次の日解った)
(ことりは自殺、絵里とにこは失踪)
(それを知った時は、叫ぶことさえ出来なかった)
(さらにお母様も病気で倒れた)
(唯一近くにいた穂乃果も家計を助けるために、スカウトされたアイドルになり、家に毎日は帰って来れなくなった)
(私はたった数日で、一人になった)
(学校でも、一人だった)
(毎日同じ時間に家を出て、誰とも話さず漂うように授業を受けて、家に帰って寝るだけ。その繰り返し)
(でも勉強はできた。持ち前の記憶力で)
(代わりに、最期に見た、ことりの寂しそうな笑顔と、絵里の満足そうな顔、そしてにこの真剣な表情が目に焼き付いて離れない)
(いつでも昨日のことのように思い出せて死にたくなる)
(反面、『夢』の外のことは忘れそうだった)
(今いる世界の人が死んだら元も子もないと思った)
(そんなことをしているうちに、月日が流れた)
103 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:24:24.75 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2200 07/25 06:29]
〜海未の部屋〜
海未(『夢』の中に来てからちょうど二年と一日経った)
海未はベッドから身体を起こし、机の前に座る。
海未(今日から夏休みだ)
海未(時間は過ぎるのが速い)
机には埃を被ったデスクトップと、ハサミなど文房具の入ったペン立て。
そして、去年貰った、『答案で作られた折り鶴』が見える。
海未(絵里とゲームをしたのが懐かしい)
海未(ことりに折り鶴を貰ったのが懐かしい)
海未(というか、久しぶりに自分の顔を見る)
デスクトップには、驚くほど変わっていない自分の顔が映っている。
海未(大事な人が死んでも、何も思わない)
こんなことを思うと、前までは泣いていたのに、既に涙腺は機能しなくなっていた。
104 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:25:39.38 ID:L0ciGIt40
海未「こんな馬鹿な人間…」
海未はペン立てからハサミを抜く。
そして両手で握り、切っ先を自分に向けた。
海未「必要ありません…!」グッ
海未は自分の喉元に、ハサミを突き立て
105 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:26:42.03 ID:L0ciGIt40
…ようとした。
正確には、『突き立てることが出来なかった』。
106 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:27:50.46 ID:L0ciGIt40
突然、電源が切れていたはずのデスクトップが、光り始めたのだ。
デスクトップには、『見慣れているが、何故か見慣れない』黒いツインテールが表示され、揺れている。
海未「…え?」
『死んだら二人とも悲しむわよ、「お嬢様」』
懐かしい声に、強く握っていたハサミを取り落とす海未。
デスクトップの中には、頼もしい友人の姿があった。
にこ?『「一緒に」助けるわよ。二人を』
107 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:28:32.98 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2200 07/25 06:45]
第七話「透明アンサー」
END
108 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:29:24.38 ID:L0ciGIt40
第八話「ニコの電脳紀行」
[054170 AD 2200 07/25 07:13]
109 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:30:23.79 ID:L0ciGIt40
海未「…つまり、にこの発言をまとめると…」
海未「にこの担任の南先生によって何らかの方法で身体と精神が分離させられて、精神がインターネット空間に放り込まれてしまったわけですね」
にこ?『そうよ。でもあの南先生は先生であって先生じゃなかった。南先生はもっと優しそうで、あんなに「冴えて」ない』
にこ?『あと、『覚める』だか『醒める』だか言ってたわね。よく分からないけど』
海未「それは調べる必要がありますね」
にこ?『…あぁ、それと、この状態のときの表記は「ニコ」にしといてね』
海未(…何の話でしょうか?)
海未「…まぁいいです。本題に入りましょうか」
ニコ『「なんでことりちゃんが自殺したのか」についてね』
ニコ『その為には、まず「能力」の話をしなきゃいけないわ』
ニコ『これを見て。ことりちゃんから』スッ
ニコは懐から便箋を取り出し、封を開ける。
すると、メールが画面に表示された。
110 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:31:01.24 ID:L0ciGIt40
海未「…こういうこともできるんですね」
ニコ『元大銀河宇宙No.2剣士≪無双の歌姫・YAZAWA≫を舐めるんじゃないわよ』フフン
海未「…そうですね。この状況には頼もしい限りです」
ニコ『そうでしょ?感謝しなさいよね』
111 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:31:51.12 ID:L0ciGIt40
From:south-chun-lo8ol
To:bguno2-yazawa-252521
件名:伝えておきたいこと
2199年8月14日 18:44
本文:急にごめんね。
そろそろ言っておこうと思って。
信じられないかもしれないし、ちょっと長くなるかもしれない。あと、しっかりまとまってないかもしれないけど、真面目に聴いて欲しい。
まず、『目の力』について。
私の三人の義妹…東條希・小泉花陽・星空凛は、8月15日にそれぞれ姉、兄、母と一緒に死亡し、得体の知れない世界に飲み込まれ、その後生き返って帰ってきた。
そして三人は、ひとりぼっちになってしまった。
飲み込まれた片方の人は、未だ見つかっていないの。
希は『自他の視覚情報を操る』、花陽は『他者の思考を読み取る』、凛は『強く思い浮かべた生物に見た目を変化させる』能力を持ってる。
聞いた限りだと、多分穂乃果ちゃんも、『他者の感覚を強制的に自分に惹きつける』能力がある。
112 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:33:03.80 ID:L0ciGIt40
お父さんとお母さんは、能力に関係があると思われる、多摩地域の伝承について調べてた。
だから、能力から三人を助けようとして、入っていた孤児院から引き取った。
そして、皆で暮らしてたんだけど、ある日迷子になった後帰ってきた花陽が『森の中で赤くて長い髪の女の子と会った』って言ってきたんだ。
会った場所は、その伝承が伝えられる地域と一致していた。
そして、出掛けるという名目で三人と一緒に森に行こうとしたのだけれども、私が熱を上げちゃって、妹たちは看病の為に留守番になった。それが去年の8月15日。
ここまでが、お父さんのレポートに書いてあった内容。
そしてここからが、私と凛で調べた内容。
113 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:33:33.57 ID:L0ciGIt40
お父さんとお母さんは、土砂崩れに巻き込まれて死んだ。
そして、8月15日に死ぬと飲み込まれる世界に入り、お母さんは能力を得た。
そいつは他の能力と違って、明確に人格を持ってる。しかもとんでもなく頭のいい。
だから、数か月間で東京のほとんど全体を掌握した。
その能力は、伝承の内容から予測すると「宿った人の願いを叶える」能力。
多分お母さんの願いは「もう一度お父さんに会うこと」だから、能力はどんな手を尽くしてでも願いを叶えようとするはず。
だから、明日そいつと話してみる。
もしダメだったら、海未ちゃんのこと、お願い。
絶対成功させるから。待っててね。
南 ことり
114 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:34:44.24 ID:L0ciGIt40
――――――――――
ドンッ!
海未は悔しそうに、泣きながら強く机を叩いた。
海未「…私と笑っている裏でこんなことが起こっていたなんて…」
海未「私は何も気づけなかった…!」
海未「私なんかに…ことりを好きでいる資格なんてありません!」
ニコ『…』
ニコ『後悔しても意味はないわよ?』
海未「…!」
115 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:36:26.11 ID:L0ciGIt40
ニコ『今は、どうやってことりちゃんを助けるのか考えないと』
海未「…そうですね…」
海未(ことりはまだ、『8月15日に死ぬと飲み込まれる世界』の中にいるはず)
海未(私が…『夢』の中のあなたを絶対助けます!)
海未「まず、去年の8月15日に何が起きたか調べましょう!手伝ってください!」
ニコ『ふふっ…ばっちりやる気になったわね!やるわよ!』
もう一度、園田海未の戦いが、始まる。
116 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:36:58.10 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2200 07/25 08:00]
第八話「ニコの電脳紀行」
END
117 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:37:29.44 ID:L0ciGIt40
第九話「人造エネミー」
[054170 AD 2200 08/14 16:00]
118 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:38:21.87 ID:L0ciGIt40
けたたましいアラームの音で目を覚ました。
心臓が一気に高鳴り、白い天井が目に映る。
状況を全く理解できぬまま、脇にある小さい机をなぎ倒しベッドから転げ落ちた。
小さい机の上の目覚まし時計も同時に床へと落下する。
海未「…ッ!」
右のすねを大きく打った。
焼けるような痛みが一瞬遅れて脳に伝達される。
痛みと爆音への恐怖で涙目になりながら、雪崩落ちた布団を手繰り寄せ身体に巻き付けると、アラームの音が止んだ。
ニコ『おはようゴザイマス!お嬢様』ニコッ!
海未「…あなたねぇ…」イラッ
ニコ『…まぁまぁ、昨日も徹夜だったし、いつもよりかーなーりー遅く起こしてあげたのよ?』
海未「…そこにはお礼を言いますけど、明日はもう8月15日。早く手掛かりを見つけないと、新しい犠牲者が出てしまうかもしれません…」
119 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:38:59.37 ID:L0ciGIt40
海未(私たちは七月下旬からインターネット等を使って情報を集めましたが、ことりの自殺や絵里の失踪についての情報は全くありませんでした)
海未(ニコも、身体の在処の心当たりが無い)
海未(次の方法として、ことりの妹たちと接触するため、ことりの家を調べましたが、ことりお母様以外が出入りしている様子は無かったです)
海未(そして、何の進展もないまま、8月15日は目前という状態になってしまったんです)
海未はキッチンから炭酸飲料とあんこパンを持ってきた。炭酸飲料を一口飲んでから、ニコと意見を交わす。
ニコ『やっぱりそれ食べるのね。てか合うの?それ』
海未「意外といけますよ?私が好きなだけかもしれませんけどね」
ニコ「は、はぁ…」
海未「…さて、今日はどうするんですか?」
ニコ『とりあえずまた外に出るしかないんじゃないの?』
海未はキャップを開けたままの炭酸飲料をキーボードの左に置いた。
海未「まぁそうでしょうねぇ…。インターネットに何の情報も無い以上、外出は不可欠です」
ニコ『でも今日は真夏日…昼は最高35℃だったってさ。もう夕方だけど、最近はあんたも疲れてる。ぶっ倒れちゃうかもしれないわよ?』
海未「そうですね…。流石に…」スッ
そう言いながら炭酸飲料の左にあるパンに、ノールックで手を伸ばす海未。
海未「倒れてしまうかもしれませんね…」コツン
120 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:39:59.09 ID:L0ciGIt40
すると、左手に嫌な感触がした。
ニコ『あぁ!海未!飲み物飲み物!』
海未「え?」
―――キーボードとマウスに飲みかけの炭酸飲料が注がれていた。
海未「あああああああああああ!」
海未は傍らにあったティッシュを慌ててキーボードに叩きつけた。
121 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:40:38.92 ID:L0ciGIt40
拭き取りを終え、各キーを入力するも、反映されるのは「i,m,u,n」のキーのみ。
海未「…うう…。結構長持ちしていたのに…これでは自分の名前しか打てません…」
ニコ『ちょうどいいんじゃない?』
海未「え?」
ニコ『ちょうど行くところもなかったし、デパートに行ってみたら何か変わるかもしれないわよ?』
海未「…まぁ、その可能性は限りなく低いですが…」
海未「行く価値はありますね」
海未はクローゼットを開け、青いジャージとカーゴパンツを取り出す。
着替え終わると、机に置かれていたスマホのコードをパソコンに繋いだ。
スマホにロード画面が表示され、「100%」になると、ニコが画面内に現れる。
海未「いつもみたいに、行きましょうか」ニッ
ニコ『そうね』ニッ
海未はスマホにイヤホンを挿してトランシーバーのように構え、部屋のドアを開けた。
[054170 AD 2200 08/14 16:59]
122 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:41:42.50 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2200 08/14 17:23]
海未たちは外に出て、一路デパートを目指している。
ニコ『あんた歩くのおっそいわね…』
海未「…つ、疲れました…あなたはスマホの中に入ってるだけですからいいでしょうけど…」
海未(元の世界とは身体の使い勝手が違いますからねぇ…)
ニコ『あ、もうちょっとでデパートの前に出るわ』
すると、交差点の向こうに巨大なデパートが現れた。
ニコ『あれみたいね。ちょっと前に内装工事が終わって新装開店したらしいわよ?』
屋上の少し古びたジェットコースターを見て、海未は思い出した。
海未「…あぁ」
海未(…そうだ…ここは…)
123 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:42:51.43 ID:L0ciGIt40
――――――――――
『どうやらこのデパート、明日から改装工事で休業のようです』
『店舗の全システムをコンピュータで制御できるように改装するらしいですよ』
『ことりバカだから、コンピュータとか全然分かんないや…』
『それよりそれより!あれ乗ろう!』
――――――――――
124 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:43:40.96 ID:L0ciGIt40
ニコ『…海未?どうしたの?』
海未「…はっ」
海未「…キーボードとマウスを買う前に屋上の遊園地に行きましょう」
ニコ『…?何で?』
海未「『もう一度』、行ってみたくなっただけです」
ニコ『…?…まぁいいわ。信号が変わったわよ』
海未たちは大きな交差点を渡り始めた。
ニコ『うわぁ…。凄いわね…。ここまで来るとデパートより城って感じね』
海未「そうですね。遊園地もありますし」
ニコ『まあにこはこんな状態だから、今行っても多分楽しくないけどねぇ〜』
海未(そうです…!ニコの身体も…。遊園地もありますが、手掛かりも探さないと…)
ちょうど横断歩道を渡り終えた海未は、考え事をしていたせいか人にぶつかってしまった。
海未「あ、わ、すいませ――」
顔を上げ、不意に会ったその『目』を見て…一瞬時間が凍り付いた。
海未「!」
125 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:44:46.62 ID:L0ciGIt40
真夏だというのに薄紫の長袖のパーカーを着込んでおり、深く被ったフードの下からようやく目線が覗けるという程度ではあったが、海未はすぐに誰なのか解った。
海未(の、希…!)
海未(そして何より赤い『目』…。能力者の存在は本当でしたか)
海未(下手に出るよりは謝ったようが良さそうですね)
海未は頭を下げて言う。
海未「すいませんでした。考え事をしていまして」
希「別にええよ。ほな」
海未「…!」
頭を上げた時には、もう既に希の影も形もそこには無かった。
海未(…周りには人が多いといっても一瞬で人が消えるような密度はない…。隠れ蓑になるようなものも存在しません)
海未「…『自他の視覚情報を操る』能力ですか…」
ニコ『「東條希」って子?』
海未「そうです。ここに居たという事はこの建物に用事があるという事です」
海未「ここに来て正解でしたね」ニッ
126 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:45:46.47 ID:L0ciGIt40
海未「おおお…。自販機です…!」
何故か、「ここに着くまでは…」と我慢していた飲み物を手に入れる時が来た。
財布から160円ちょうどを取り出し、自販機に吸い込ませていく。
狙うは、世界一有名な黒色の炭酸飲料。
ボタンが点灯すると同時に速攻で押す。その時間わずか0.3秒。神がかり的な速度だ。
ゴトン
取り出し口に落ちてきたボトルの音が耳を潤す。
おもむろに手を入れ掴み取ったボトルは、この世のものとは思えない程に冷え切っていた。
できるだけ中の温度が上がらないよう、ボトルの液体の入っていない部分を持ち、素早くベンチに座る。
いよいよキャップを掴み開ける。「プシュッ!」という音が再び耳を刺激し、弾ける炭酸の香りが鼻腔を撫で回す。そして、口を付け喉に流し込む…。
海未「ぷはぁ…ああぁ…」
ニコ『海未…』ヒキッ
海未「あなたも飲んだらこうなりますよ絶対!」
チーン
ぞろぞろとエレベーターから出てくる人を横目に、海未は炭酸飲料のペットボトルを飲み干し、ベンチ横のゴミ箱に空容器を捨てた。
ニコ『階段でしか行けないみたいよ?遊園地』
海未「それは知っていますよ。大丈夫です」
127 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:47:18.24 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2200 08/14 18:16]
海未「…!」
海未の前には、「工事中:着工08/16より:立入禁止」と書かれた看板が立っている。
ニコ『立入禁止みたいねぇ…』
海未「行きます」
ニコ『えぇ?いいの?』
海未「いいんですよ」
海未(こうでもしないと、『あの子』の事を忘れてしまうから)
看板の横をすり抜け、前は開けっ放しになっていた重たい鉄扉を開けると、懐かしい風景が広がっていた。
お化け屋敷や上がったり下がったりするアレなどが、所々錆びた状態で放置されている。
観覧車は流石に動いていなかった。
128 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:49:09.69 ID:L0ciGIt40
前も座ったことがある気がする日陰のベンチに腰を下ろし、空を見上げる。
綺麗なマジックアワーだった。
そのままそっと、『あの子』の名前を口にする。
海未「…ことり」
海未(『夢』の中のあの子はどうしているのでしょうか)
海未(『夢』の外のあの子はどうしているのでしょうか)
海未(そんなことが最近、頭から離れなくなった)
海未「絶対に助けます」
海未「…『夢』の中でも、『夢』の外でm『あの〜…』
海未「ッ!?」
ニコ『…なんか熱くなってるところ申し訳ないんですが…早く行きませんか…?』
海未「…」
海未「〜〜〜〜〜!」
海未「解りました!///行きましょう行きましょう!////」
海未は恥ずかしがりながら小走りになって、西日の入り込む階段を下りていった。
129 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:49:35.97 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2200 08/14 18:24]
第九話「人造エネミー」
END
130 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:50:03.73 ID:L0ciGIt40
第十話「RED(ANIME Ver.)」
[054170 AD 2200 08/14 18:29]
131 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:51:27.92 ID:L0ciGIt40
海未「おお〜!凄いですね!」
その空間は、一面ガラス張りの窓に覆われ、未来的なホログラムのオブジェが荘厳さを醸し出す、家電売り場とは到底思えないような場所だった。
窓からは、オレンジ色の夕光が入り込んでいる。
遠くを見ると、「マウス・キーボード」と書かれた吊り看板が見えた。
海未はレジのあるスペースや、「PCとスマホを繋いで高画質ビデオ通話!」と称した、やたらと大きい看板の特集コーナーを横目に、吊り看板の真下に向かう。
ニコ『あっちみたいね。さ、早く買いましょう。暗くなっちゃうわ』
海未「いや、折角希が居たんですよ!?もう少し探し回ってもいいのではありませんか!?」
ニコ『まぁそうね…早く選んで東條希を探しま…』
―――突然だった。
バンッ!
132 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:52:03.88 ID:L0ciGIt40
本当に突然、イヤホン越しでも十分すぎるほどの爆音がフロアに鳴り響き、同時に叫び声が方々から聞こえてきた。
海未「!?」ビクッ
ニコ『な、なに!?え、ちょ、待って、イヤホン外さn―――
海未は咄嗟に両耳のイヤホンを外す。
海未「いったいなんで―――!?」
狭い通路を警戒しながらエレベーターホール方面に逃げようとすると、鉄製の何かが崩れ落ちるような音がした。
音の出所であるエレベーターホールの方に目をやると、先程自分が通ってきた通路をシャッターが塞いでいる。
シャッターの手前、少し広くなっているレジの周辺を見ると、爆音の正体が完璧なまでに理解できた。
レジ側では拳銃を持った、黒服でサングラスの少女たちが、フロアにいた人々を着々と一箇所に集めており、人々は後ろ手に縛られていく。
黒服のリーダー「これで全員ですか?」
黒服の下っ端4「リーダー!あと一人居ルビィ!」ギロリ
黒服の下っ端4「捕まえルビィ!」
海未「…!」
133 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:53:38.87 ID:L0ciGIt40
海未は人々と同じように後ろ手に縛られてしまった。
海未(捕まってしまいましたね…流石に銃を持つ相手は…)
海未(しかし、勝機はあります)
凛「もうちょっとで隙ができるにゃ。安心して」
海未の隣で、何故か凛も捕まっていた。
海未「…凛!どうしてここに!」
海未(しかし、何分か隣にいたはずなのに、気付かなかったのは何故でしょうか…?)
凛「…?何で凛の名前を知ってるの?」
海未「…それは…その…とにかく!手伝ってくれませんか?」
凛「え?何か作戦でもあるのかにゃ?」
海未「はい、あります。絶対に成功する、とっておきが」
凛「…」ウーン
凛「まぁいいにゃ。さっきも言ったけど、もうすぐ明らかに奴らに隙ができる瞬間が来る。そこを狙って君の作戦を成功させるにゃ」
海未「…本当に信じていいんですか?」
凛「うん、保証する」
海未「しかし…!」
134 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:55:08.83 ID:L0ciGIt40
黒服のリーダー「さっきからごちゃごちゃうるさいですわ!」
黒服のリーダー「あなたには一足先に死んでもらいます!」カチッ
黒服のリーダーは拳銃の銃口を海未に突きつける。
海未「くっ…」
海未の身体は未だかつて感じたことのない恐怖心で、ガタガタと震えていた。
周囲の人質たちもざわざわとし出す。
しかし、退いてはいられない。
戦うんだ。
黒服のリーダー「見た感じ外にも出てないんじゃないの?」
黒服のリーダー「あなたのような引きこもりであれば、死んでも誰も悲しみませんわ!」
海未「…いてください…」
黒服のリーダー「はい?何を言っているんですか?よく聞こえませんわ!」
海未はサングラス越しのリーダーの目を見て、確かに言った。
海未「あなたみたいな人こそ…一生牢屋に引きこもっていてください!」
黒服のリーダー「は?」ポカーン
135 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:56:14.97 ID:L0ciGIt40
凛「みんな!」
そう凛の声が聞こえた瞬間、黒服たちのすぐ斜め上の壁にかかっていた大型テレビが、ものすごい音と共に床に叩きつけられた。
あまりにいきなりの事態に、その場にいた全員がそちらに注意を向ける。
続けてその下に並んだ大型スピーカーが「何もされていないにもかかわらず」次々に倒れだした。
黒服のリーダー「えぇ!?何が起こりまして!?」バッ
海未「ぐっ!」ドサッ
リーダーは海未を叩きつけるように放すと、拳銃を手に駆け寄る。
黒服のリーダー「そこに誰か―――!?」
そう言い終わりもしない瞬間、今度はリーダーの近くの商品陳列棚が、中身を撒き散らしながら倒れてきた。
黒服のリーダー「ですわぁぁぁぁぁ!?」
他の黒服たちも倒れた棚などに巻き込まれていく。
海未(姿が見えないという事は…希の能力でしょうね)
そして、倒れた棚の奥に、「PCとスマホを繋いで高画質ビデオ通話!」と書かれたやたらと大きい看板が見えた。
136 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:56:52.50 ID:L0ciGIt40
その瞬間、ふっと手の緊張が解ける。
凛「それじゃあよろしくお願いするにゃ〜」
後ろを見ると、凛は縛られていたはずの手を振りながら、ニコニコと笑っていた。
心臓が今日一番に高鳴る。今朝のアラームの時よりも、力強い高鳴り。
床に手をついて立ち上がり、散乱した商品や棚を飛び越え、全力で先程の特集コーナーのパソコンの前に走り込む。
元々店のスマホに繋がれていたパソコンのケーブルを抜き取り、自分のスマホに挿した。
カチッ
海未「頼みましたよ…ニコ!」
『ふふん!』
ニコ『や〜っと私の番ね!』
パソコンのスピーカーから、いつも通り元気な友人の声が聞こえた。
その姿が、一瞬で周囲全てのディスプレイを駆け抜けていく。
137 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:57:59.28 ID:L0ciGIt40
すると突然、少し見覚えのある薄紫のパーカーが目の前に現れた。
「君のおかげや」
海未「…!?」
続いて虚空から、『見慣れたサイドテール』と『赤くて長い髪の女の子』が現れる。
希「『メカクシ…完了』!」
赤い目の希は、海未の方に振り返って笑った。
閉まっていたシャッターが開き、フロア中に夕焼けが充満する。
疲れ果てたのか、だんだん目が回って、白い床に仰向けに倒れた。
一面ガラス張りの窓からは、燦々と空に散っていく夕映えが見え、意識が朦朧としていく海未の目に滲んでいったのだった。
138 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:58:52.32 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2200 08/14 18:51]
第十話「RED(ANIME Ver.)」
END
139 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:59:27.78 ID:L0ciGIt40
第十一話「失想ワアド」
[054170 AD 2200 08/14 20:56]
140 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 16:59:57.59 ID:L0ciGIt40
カチカチと室内に時計の音が響く。
時刻は、もう午後九時になろうとしているところだった。
打ちっぱなしで配管が露出した天井には所々裸電球がぶら下がり、明るすぎることのない絶妙な生活空間を演出している。
海未(私はあの後気を失いましたが、希たちに助けられ、デパートを脱出。そして、『メカクシ団』と名乗る、能力者たちの団体のアジトに来ています)
海未(私を助けてくれたし、なにより全員μ'sメンバーです。悪い方々ではないでしょう)
海未(結局ニコはNo.6、私はNo.7という形でメカクシ団に加入しました)
海未は心地良い疲れを感じながらソファーに腰掛けている。
が。
海未(…ちょっと待って下さい)
海未(いつの間にやら完全に友達の家にお泊りに来た感覚になっています!!)
海未(まぁ、前に合宿はしましたけどねぇ…)
穂乃果「んにゃ…もう食べられません…あ、やっぱ食べましゅ…」
海未の左では、涎を垂らした無惨な穂乃果が、幸せそうな表情で眠りに落ちている。
141 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:00:32.90 ID:L0ciGIt40
海未(穂乃果は学校に行く途中で能力が暴発して逃げていたら希と出会ったようです)
海未(その後、お茶をこぼされてしまってスマホが壊れ、デパートに買いに行ったら私と立てこもり犯たちに遭遇した。簡単に言えば、そういうことらしいです)
海未(今は皆さん自分の部屋で寝ていますが、私たち二人は寝場所が無いのでとりあえずソファーに座っているわけです)
希は六人分の食器を洗い終え、エプロンを外しながら穂乃果に歩み寄る。
希「ふぅ。流石に六人分は堪えるね〜。それより…」
希「穂乃果ちゃ〜ん?部屋で寝た方がええんやないの〜?」ペチペチ
そう言いながら希が穂乃果の頬を優しく叩くも、本人は「えあ〜、意外と食べれますね…」と、夢の中で食事を敢行しているようだ。
海未「穂乃果は一回寝たら朝まで起きません。放っといてもいいですよ?」
希「そういう訳にもいかないやん。しょうがないから運んで…ッ!?」ズシッ…
希「穂乃果ちゃん…ッ!意外と…ッ!」ノシノシ
希は穂乃果の予想以上の何かに顔を歪めたまま、自分の部屋へと穂乃果を運んで行った。
142 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:01:16.07 ID:L0ciGIt40
部屋に一人だけになった海未はスマホを取り出す。
海未「…ニコ?起きてますか?」
スマホ『』シーン
海未「…まぁ、もうじき帰って来るでしょうね」
バタン
海未がそう言ってスマホの電源を落とすと、ドアが閉まる音と共に、希が肩を回しながら戻って来た。
希「穂乃果ちゃんはご飯の量を減らした方がええかもしれんね…花陽もやけど…」ハァ…
海未「お邪魔してしまって悪いです」
希「ええんよ。ウチらもちょっと寂しかったし。久しぶりに賑やかになって嬉しかったで」
海未「…そうなんですか」
海未「あの…あなたたちって…」
希「ん?なに?」
海未は聞いていいものなのか言葉に詰まるが、疲れと眠気も手伝って口を開いてしまう。
海未「あなたたちのその『目』、やっぱり普通じゃないですよね。だいだいのことは知っていますが、もっと詳しいことを知りたいんです」
希はキョトンとした顔で海未の話を聞いていたが、話し終わった途端、温和な笑みを浮かべる。
希「そういえば、詳しく話しておくべきやったなぁ」ニコッ
143 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:02:14.34 ID:L0ciGIt40
海未「え、いや、別にいいんですが、やっぱり詳しいことが聞きたくて…」
希「いや、話すべきことなんやけど…この能力のおかげでウチらは虐げられもしたんや。だから、すぐに話すことはできなかった」
希「まず、ウチがこの能力を手に入れたときの話からや」
希は、瞬きをして自分の目を赤く染めてみせた。
希「ウチの能力は、自分や周りの物体への認識を薄くする能力」
そう言うと、希はテーブルに置いてあった雑誌を手に取った。雑誌にはでかでかと穂乃果のグラビアが載っている。
穂乃果の目は、フラッシュが眩しくて目を瞑ってしまったのか半開きになっていた。
希がそれをテーブルの下に隠して数秒すると、テーブルから出した手には何も無くなっていた。
希「発動の瞬間を見られてると効果が無いんや。だから隠したんよ」
希「『これ』を手に入れる前、ウチにも親が居た。と言っても母親は血が繋がってなかったけどね。酷い父親だったんよ。毎日遊んで回った挙句に会社は倒産。それでもって最期は家に火をつけた」
海未「ぇえ…そんなことが…」
希はその壮絶な過去を落ち着いた口調で語った。
希「はは、酷い話やろ?でも、本題はここからや」
海未「は、はい…」
希「父親が火をつけたとき、ウチとウチの家族は全員家の中に居たんや。ウチは姉と二人で逃げられなくなっちゃってね」
海未「し、死んでしまうではありませんか…」
希は海未が怯えているのに気づき、意地悪な笑みを浮かべて話を続ける。
希「そう、死んだんや。いよいよ息も出来なくなって、身体も燃えた」
海未「ひいぃ…」
希「そして、その時見たんや」
希「家の壁がぐにゃりと裂けて、大きい牙の付いた口みたいなものが拡がったのを!」
海未「うわぁあ!」
希はノリノリでそう話したが、一向にその先を話さず、腕を組んで得意げな表情をしていた。
海未「………それで?」
希「ん?終わりやよ?」
144 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:02:55.08 ID:L0ciGIt40
海未「え?」ポカーン
肩透かしを食らったような感覚に、開いた口が塞がらなくなる。
海未「じゃ、じゃああなたはその口みたいなものに食べられているはずでしょう!?それに能力が何なのかも解らないし…」
希「能力は家の焼け跡で目が覚めたら使えるようになってたんよ。負ったはずの火傷もある程度消えてるし、不思議な話やね」
海未「そ、そのぱっくり開いた口ってものは何だったんですか?」
希「それも姿を見ただけで、その後の記憶が何にも無いんや。恐らく飲み込まれたんやけど、助かったのはウチだけやし、一体何がどうなってこうなったのかは、よう分からんよ」
海未「なるほど…ってことはあなた達も案外よく分かっていないということですか」
希「うん。もちろん、お姉ちゃんの持ってた情報も含めて、調べられる限りのことは調べているつもりや」
海未(しかし、私がこちらの世界に来たときも、何か口のようなものに飲み込まれています。では、『夢』の外にも『夢』の中にも同じものが存在しているという事ですかね?)
海未「他の二人はどうなんですか?凛や花陽もその『大きな口』に飲み込まれたって言っているんですか?」
希「凛はまったく同じものを見たって言ってたけど、同じように記憶がないみたいや。花陽は川で溺れて以来らしくて、見たかどうかも曖昧みたいやね」
海未(それでは、穂乃果が能力者ならば、三人と同じことが穂乃果にも起きていたと考えられますね)
海未「今までの話をまとめると、あなたたちの言う目の能力は、死ぬ直前に見た『大きな口』が原因だと私には思えます」
希「ん〜…。あとなぁ…」
海未「?」
145 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:03:34.12 ID:L0ciGIt40
希「いや、ウチらは三人とも『誰かと一緒に』死にかけているんや」
希「でも、助かっているのはウチらだけ。しかも一緒に居た人間は『消失』してる」
海未「…!」
海未「あの、希の家が火事になったとき、一緒に居た家族はどうなったんですか?」
希「父と母だけ見つかった。ただ、姉は見つかってない。焼け跡から生きて発見されたのはウチだけや」
海未「ってことは…」
海未「あなたたちは、誰かと一緒に『大きな口』に飲み込まれて、その後それぞれ一人だけ能力を得て帰ってきた…?」
希「そして、一緒に飲み込まれた人間は誰一人発見されてない…。とすると、『大きな口』の中に飲み込まれたままになってるって考えるのが妥当やね」
海未(ん…?)
海未「…じゃあ、真姫は?真姫には能力があるんですか?先程の様子を見るに、何か人間をフリーズさせる能力を持っているんじゃ…」
海未「あの後すぐに倒れたので、一瞬しか見ることができていませんけどね」
海未(そういえば…何故か真姫が小さくなっていました…何時ぞや『夢』の外でも見ましたね。まぁ、何の影響も無いとは思いますが)
希「…!確かに…。真姫が能力を手に入れた経緯は分からんね…」
希「花陽が真姫を連れてきてから、能力に関してのことは聞いたこと無いよ」
海未「じゃあ、花陽から何か聞いていないんですか?」
希「いや、聞こうとすると、途端に悲しい顔をするから聞くのをやめといてるんや。多分、真姫の辛い記憶かなにかを能力で読み取ってしまったんやろね」
海未「…じゃあ、真姫の家に行ってみるのはどうでしょうか」
希はハッとした顔をする。
希「それや」
希「ウチらも後々行こうと思ってたんよ。でもなぁ…」
海未「でもなぁ…とは?」
146 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:05:02.46 ID:L0ciGIt40
希「明日はお姉ちゃんの命日やから、お墓参りにも行きたいし…」
希「それに穂乃果ちゃんの携帯の事もあるし、申し訳ないけどウチらはノータッチになってしまうかもしれへんなぁ…」
海未(やはりそうですよね…でも)
海未「…場所さえ教えてくれれば、私だけでも行きます」
海未(私は二人のことりを救わなければいけない。少しでも手掛かりがありそうなら…)
希「真姫は家の主やから絶対行くと思うし、花陽もついていくと思うよ」
希「さ、そうと決まれば明日は早起きや!早く寝た方がええで。それじゃあお休み〜」
希は、さっさと部屋から出て行ってしまった。
海未はソファーに力を抜いて座ったまま、薄暗い部屋に一人残される。
海未「今日は色々なことがありましたねぇ」
アジトには壁掛けの鳩時計やらデジタル時計やらが至る所に置かれている。棚の上に置かれた、よく解らない液体のようなものが垂れている機械も、時計なのかもしれない。
時計たちは、各々の方法で午後十時を示していた。
そんなことを考えていると、どっと眠気が襲ってくる。
海未「今日はここで寝てしまいましょうか…」
海未は、家のベッド以外で寝るのは合宿の時以来だなと思いながら、目を瞑った。
147 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:05:53.84 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2200 08/14 22:01]
第十一話「失想ワアド」
END
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