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【艦これ】龍驤「たりないもの」外伝
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562 :
◆B54oURI0sg
[saga]:2019/09/19(木) 06:27:16.52 ID:EK3j1AADO
ここまで
あくまで朝潮視点なのでエピソードは多少飛んだりします
563 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/09/19(木) 12:21:23.20 ID:UrGqg+1go
乙です
朝潮ちゃんやっぱり菊月達は苦手そう
こちらでの扉開けがどう書かれるか楽しみです
564 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/09/24(火) 16:43:14.78 ID:140OFOwDO
>>561
から
雲龍さん、加賀さん、翔鶴さん、そして秋津洲さんの三人が焼け落ちた鎮守府の前に居た
そこはかつて秋津洲さんが所属していた鎮守府
それはもうブラックで、少しでも役に立たないのなら殴る蹴るは日常で
それでも自分が元居た鎮守府であるという事で様子を見に来ていた
そしてそこは私もかつて所属していた島風鎮守府
組織の襲撃によって無人となっていたそこは完全に焼失していた
565 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/09/24(火) 16:44:37.43 ID:140OFOwDO
「傀儡の襲撃で多少は損壊していましたが全焼する程の火災は無かったはずです」
新棲姫「なら後から放火でもされたか、艦娘を嫌っている人間なんて何処に居るか判らないからな」
「そうかもしれませんね…」
周辺住民に聞き込みをする加賀さん達だったが厄介事には関わりたくないのか有益な情報は得られなかったようだ
そして当の秋津洲さんは焼け跡に立ち尽くしたまま何かを呟いていた
「目が少し危ないですね…思い出してしまったんでしょうか…」
新棲姫「…思い出す?あいつは記憶喪失なのか?そんな話は初めて聞いたぞ」
「私も詳しくは判りませんが、おそらくは…」
そして私は当時の記憶を思い返しながら話し出す
566 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/09/24(火) 16:47:04.23 ID:140OFOwDO
「過去に私は彼女と会っています。当然ですよね、同じ鎮守府の同僚なんですから。よく島風提督に殴られた痣を泣きながら冷やしていました」
「手当てを受けさせる為に医務室に連れて行ったり、食事を分けたりもしましたね」
「そのうち私は売られ、彼女がどうなったのかは判らないままでしたが、司令官の鎮守府で見かけた時には少し驚きました」
「秋津洲さんも司令官に救われたのだと思い声をかけてみたんですが…彼女は言ったんです」
「はじめまして…と」
「それで何となく察しました、秋津洲さんは記憶を封印か、もしくは改竄しているのだと」
「それから私はあまり刺激しないように彼女とは極力接触しないようにしていました」
「島風鎮守府の出身とはっきり認識されている私が側に居ては些細なきっかけで思い出してしまうかもしれない」
「彼女にとってかつて居た、酷い目にあった鎮守府は何処か遠くで、殴った提督は別の誰かで」
「それで楽になるならそれでいいと思っていたのですが…」
司令官の鎮守府で過ごす内に秋津洲さんはそうとは忘れ自ら禁断の箱を開けに行ってしまったのだろうか
567 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/09/24(火) 16:49:09.43 ID:140OFOwDO
新棲姫「辛い記憶を封じ込め自らを守る、あり得ない話ではないな」
話を聞いた新棲姫さんはそう言って納得した様子だった
「あの頃の島風提督は今とはだいぶ違います。いつもイライラしていて、感情の起伏が激しかった」
新棲姫「他にも殴られたりしていたやつは居たのか?」
「居ましたね。私も含め反抗的な態度を取っていた艦娘は大抵一度は」
それでもさすがに出撃に差し支える程の暴行は無かった
しかし秋津洲さんはほとんど出撃はさせてもらえていなかった
「出撃もしない艦娘をストレスの捌け口にしていた部分はあったと思います」
新棲姫「聞けば聞く程最低なやつだな、確かに今とはほとんど別人だ」
「それだけ島風の事が重くのし掛かっていたのでしょうね…」
同情は出来ないがそれでも今なら多少は理解出来る。大切な人の為に他の全て、自らの良心さえ切り捨てた、その想いの強さだけは
その時に少しでも彼を導く何かがあったなら踏み外す事は無かったのにと思う
568 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/09/24(火) 16:50:44.15 ID:140OFOwDO
秋津洲さんの記憶の扉が開きかけているのか少し様子がおかしくなっている
そんな中、島風鎮守府放火の犯人探しが始まっていた
カメラの映像から小柄な人物と判るが不鮮明で誰かまでは判別出来ないようだった
そこで雲龍さん達はまず疑わしい人物への聞き込みをするという話になった
「実際あの鎮守府に恨みを持っている艦娘となるとほぼ全員になりますが…」
新棲姫「その中でも筆頭は朝潮、浜風、文月か」
「私にはアリバイがあります!だって既に死んでいるんですから!」
新棲姫「それがトリックだとしたら?」
「な…ならそのトリックを証明してみてください!」
新棲姫「…」
「…」
新棲姫「…こう、糸を」
「糸を?」
新棲姫「…」
「…」
新棲姫「…ワタシの負けだ」ガクリ
項垂れる新棲姫さんに私は小さくガッツポーズ
569 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/09/24(火) 16:52:17.92 ID:140OFOwDO
【何をアホな事をしているのよ…】
呆れた様子の富士さんが側に立っていた
「あ、富士さん。Y子さんの様子はどうですか?」
【今は眠っているわ】
富士さんは落ち着いている、とりあえず今は心配は要らないようだと思っておく事にする
富士さんにお茶を淹れている間に放火の犯人はあっさり見付かっていたようだった
「犯人は文月でしたね」
新棲姫「ワタシの推理通りだな」
【何だか糸がどうとか言っていなかったかしら?】
新棲姫「トリックと言えば糸だ。この前読んだ小説に書いてあったぞ」
「放火に糸をどうやって使うのかは解りませんが…どちらにせよ犯人は自供しているので無意味ですね」
阿武隈さんが移籍した例の幼女塾にて文月はあっさり自分が島風鎮守府に放火したと認めた
しかしその言い分には私も眉を潜める
570 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/09/24(火) 16:55:20.71 ID:140OFOwDO
「弔いの炎って…文月はあんまり変わってませんね」
新棲姫「そうなのか」
「良くも悪くも子供なんですよ、影響を受けやすいんです」
一般的な文月は天使と言われるくらいに純粋らしいがもちろんこの文月もそうだった、しかしあの鎮守府に所属してしまった事で変わっていったのだ
「文月だけじゃない、私も島風提督自身も、あの鎮守府に居た者は皆どこか壊れてしまっていました…まともなのは当事者でありながら何も知らされていなかった島風くらいです」
五月雨なんてそれはもう酷い変わり様だった、今ではあれが自然だと思われているがそれがどれだけ異常な事か。普通の五月雨を知っていれば解るだろう
「文月の場合は子供らしい強かさで可愛く振る舞えばメリットがあると学んでしまった。さすがに島風提督もそれを殴ったりは出来なかったようでしたし」
代わりにそのしわ寄せが秋津洲さんなどの立場の弱い艦娘に行ってしまっていたのだ
「まあ私の為にというのも方便でしょうね、例え本気だったとしても嬉しくありませんが」
そんな文月は悪びれる風も無く話を切り上げようとしていたがそこに浜風が現れ私と同じく看破していた
そこからは浜風の説得により文月はこれまたあっさり改心した。やけに聞き分けが良すぎるのが少し気にはなるが
「確かあの鎮守府に居た頃は一番浜風が文月の面倒を見ていましたっけ」
571 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/09/24(火) 16:57:08.00 ID:140OFOwDO
一番先に売られた私にはその後の事は話でしか知らないが浜風も自分を取り戻せているようでホッとした
その後、阿武隈さん達は文月を罪には問わず庇う事になったようだった
文月はせめて島風提督には謝罪すると言い現在の滞在場所に向かうようだ
島風提督もその謝罪を断る事は無いだろう。そもそもの原因は自分なのだから
新棲姫「公にはせず手打ちにさせるという事か」
「不満ですか?」
新棲姫「以前のワタシなら罪は罪だ、罰を受けるべきだなどと言ったかもな」
「今は?」
新棲姫「確かに放火は重罪だ、だがまあ、犠牲者もゼロ…燃え尽きた財産などは…あの島風提督だからな。これも因果というやつだ」
「そう…ですか」
また因果か…だが今回は確かに巡り巡って返ってきた正しい形なのだろう
そうして今回の事件はひとまず終わり、残ったのは
記憶の扉が開きかけた事で不安定な状態になった秋津洲さんだった
572 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/09/24(火) 16:59:20.61 ID:140OFOwDO
秋津洲さんの症状は重いようで入院する事になった。医師の診断によると秋津洲さんの精神は分裂しているのだという。しかも…
「心臓が一度止まって…」
新棲姫「朝潮は知らなかったのか」
「ええ、多分私が売られた後の話でしょうね…」
これは明らかに殺人未遂になるのではないだろうか
暴力の恐怖に縛られた人間は普通の人なら考えつく、周囲に助けを求めるという事は出来ない。報復を恐れ萎縮するのだ。ましてや相手は鎮守府の最高責任者の提督だ
どちらかといえば気の弱い秋津洲さんにはそれは出来なかっただろう
「そして二重人格…忘れていたのではなく押し込めていた…?」
新棲姫「辛い目に遭っている人間は時にその記憶を肩代わりする人格を作る事があるという」
【だけれど最近、島風鎮守府に関わるようになりそれも無理が出てきていた】
新棲姫さんの言葉を継ぐように富士さんが語り出した
【今の鎮守府に来てからも、色々と暴力的な出来事が起こる度にあの子の記憶は刺激され負荷を受けていたわ】
そして今回、島風鎮守府からさみだれという最も島風提督に近い関係者が来たり、そして焼失した様子を見に行ったりした事でついに破綻したのだという
【もはや忘れているふりすら出来ないのなら向き合うしか無いわ…だけど…】
573 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/09/24(火) 17:02:31.07 ID:140OFOwDO
「今の秋津洲さんにはそれだけの精神力は…」
【そうね…】
私は忘れるより憎む事で自分を保っていた、それが出来ない性格の人間ならどうするだろう。その答えが秋津洲さんのあの状態なのだ
入院した秋津洲さんに付きっきりで励ます明石さんの姿
そこにどういう訳が菊月さんが訪ねて来た。そしてその要件は…
「へ…?被害届けの取り下げ?というか逮捕されてた?」
寝耳に水というやつだ。私は普段島風提督の様子なんてあまり見ない。ごくたまに理由があれば、というくらいだ
【…当時の秋津洲が暴行されていた映像があったらしいわ、文月がそれを警察に渡したようね】
「反省してるのかと思ったら…」
新棲姫「それはそれ、これはこれというやつだろうな」
放火した事は謝罪してもやっぱり許す気は無いという事か
明石さんは当然菊月さんに文句を言うが、当の秋津洲さんはあっさりと取り下げにサインをして拇印まで押した
「…やっぱり秋津洲さんにとっては復讐だとか報いだとかは興味は無いんですね」
新棲姫「むしろ取り下げなければ逆恨みの報復という線もあるな」
「いくら何でもさすがにそれは…」
…無いとも言い切れない。今の島風鎮守府の面々…特に五月雨にはその恐れがあるとも思える
574 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/09/24(火) 17:05:02.84 ID:140OFOwDO
それから病室では明石さんの必死の説得により秋津洲さんには過去と向き合う意志が芽生えたようだった
新棲姫「どうやら記憶も戻っているようだ。オマエの事も思い出しているかもしれないな、朝潮」
「それは別にどちらでもいいですよ。今の彼女には何より大切にするべき親友が居るんですから」
私が生きていた頃、あの鎮守府に居た頃、そんなのは結局出来なかった
司令官に拾われてからも駄々を捏ねて、聞く耳持たずで迷惑ばかりかけて、最後には…
「あーあ、もし昔の自分に会えたらなぁ…殴ってお説教したい気分です」
新棲姫「その気持ちは解らないでもないな…」
【私にも解るわ…それ】
「富士さんも?」
【まぁ…ね】
富士さんにもやっぱり後悔している事があるのだろうか
【昔の私はそれはもう…ええ、正直殴りたいわね】
新棲姫「ワタシ達と一緒だな」
「そうですね」
どんなに凄い人でもやっぱり後悔している事がある。間違えない人など居ない
私は取り返しのつかない間違いを犯してしまったけれど、まだ生きているならきっと…そう思うのだ
575 :
◆B54oURI0sg
[saga]:2019/09/24(火) 17:11:13.41 ID:140OFOwDO
ここまで
576 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/09/24(火) 18:27:50.75 ID:+Aq2MbpNo
おつおつ
死後強まる念っていうのがあってぇ、あいつは糸みたいに使うから……つまり新棲姫ちゃんが読んだのはあれじゃな?
朝潮ちゃんも貴方が書いてくれるから未来ができたんです、ありがとうございます
577 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/09/24(火) 19:11:58.20 ID:XYrTREybO
本編では二回も死んだ朝潮
せめてこちらでは幸せになって欲しい
578 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/09/29(日) 19:54:00.37 ID:Mc8iyXTDO
>>574
から
「そういえばちょっと気になってたんですけど」
【何かしら】
「漣さんって私達の事何も話しませんよね」
【ああ…その事…。夢だと思っているのよ】
「夢ですか…」
【言ってみればあれはあの子にとっては臨死体験、夢とも現実とも付かない情景としておぼろげには覚えているでしょう】
戻ってすぐの頃ならはっきりと覚えていただろうが、あの時点では漣さんはそれどころではない状態だった
夢というのはしっかり反芻するか何かに残さなければ記憶は薄れていってしまう
復讐や再び新棲姫さんと再会してそちらで頭が一杯になっている漣さんにそんな余裕は無かっただろう
その当の漣さんだが…とモニターを見ると彼女は鎮守府中を走り回っていた
579 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/09/29(日) 19:56:58.06 ID:Mc8iyXTDO
「どうやらあちらの新棲姫さんが居なくったららしいですが…」
新棲姫「何をやっているんだあちらのワタシは…」
少しご立腹の新棲姫さん。それもそのはず、探し回る漣さんの姿はあの日を彷彿とさせる程に必死なものだった
それを知ってか知らずか何事も無かったように帰ってくるあちらの新棲姫さん。しかも何故か艦娘を連れて
無事な姿に号泣している漣さんを宥めつつ事情を説明する彼女にこちらの新棲姫さんも何故か納得したようで
新棲姫「一度拡散してしまえば根絶するのは困難だが…それが漣のものであればワタシも同じ事をしただろうな」
「だからって何も言わずにというのは…」
新棲姫「ああ、あれはあのワタシの落ち度だな」
以前に漣さん自ら編集して売り捌いていたDVD
その動画はネット中に広がり完全な根絶は不可能だという
漣さんだけではない。それが良い値段で売れるとなればそれを利用する人間は、艦娘自身も含め幾らでも居る
新棲姫「艦娘に人権が認められ始めているとはいえその辺りを規制したり保護する法律はまだまだ発展途上だ。無法地帯なのも無理は無い」
今回新棲姫さんが偶然助けた艦娘、ウォースパイトさんもその被害者だった。自らの動画を拡散すると脅されて金銭を要求されているらしい
580 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/09/29(日) 19:59:07.09 ID:Mc8iyXTDO
それを聞いて犯人を捕まえようと行動を起こすあちらの新棲姫さん。
犯人を誘き出し、その顔を確認するまでは良かったが揉み合いになる内に頭を打って意識を失ってしまう
「幸い大した傷ではなかったようですが…護衛も付けずに自ら犯人とやり合うなんて…」
新棲姫「ああ…犯人がただの人間だったからまだ対抗出来ていたが、もし銃を持っていたら?正体が艦娘だったら?…武装も無いワタシではどうにもならなかっただろう」
う…新棲姫さんはかなり怒っているようだ。やけに饒舌になるのもそのせいか
その夜、あの日の悪夢を視て魘される漣さんを見て反省はしていたようだがまた誰かが困っていたら助けるとも明言していた
新棲姫「その考えには同意だが…あのワタシとは一度話さなければならないようだな…どうにかして…」
「どうにかと言っても…」
新棲姫「ああ…こちらから能動的に出来る事は無い、チャンスを伺うしか無いな…」
その後、被害者であったウォースパイトさんが鎮守府にレンタル移籍する事になり、結果的に得るものはあったようだった
「航空戦力がほぼ使えない現状で戦艦の方が来てくれるのは助かりますね」
新棲姫「これが情けは人の為ならずというやつか」
こうして誰かを助ける事が今のあの鎮守府を作り上げる事に繋がっている。トラブルに首を突っ込むのだからそれに見合った危険もあるが
581 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/09/29(日) 20:00:42.91 ID:Mc8iyXTDO
【良くないわ…これは良くない…】
それまで黙って私達のやり取りを見ていた富士さんが口を開いた
【ずっと思っていたけれど…倫理観とか何か色々おかしいわ…!】
「ああ…まあ、そうですね…」
【お金の為に…自分を売るなんて…】
新棲姫「人間だってやっている事だ。珍しい話ではないがな」
「少なくともしっかり給料貰ってたらそんな考えは浮かばないでしょうが…」
思えば私がかつて居た島風鎮守府では給料なんて無かった
大本営から支給される運営費も島風の治療費に注ぎ込んでいたのだろう。そこには艦娘の給料も含まれている
新棲姫「今の法律はあくまで人間の為のものだ。変わってきてはいるが細かい部分はまだまだだな」
【法律…】
新棲姫「普通なら給料未払いなど許されない。ましてや横領だ。だが鎮守府では割と横行していると聞いた」
「艦娘は兵器で道具だから給料なんて必要無い。そんな風に言っている人も一定数居るらしいですね」
【と…扉を開けてもさすがに法律の事はよく解らないわね…】
そう言って項垂れる富士さん
扉の前で何条の何項目をああしてこうして、更に矛盾が無いように他の項目もどうしてそうして…とても無理だ。アバウトに艦娘の為の法を作れと願って結果どうなるかは想像がつかないが
582 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/09/29(日) 20:02:09.90 ID:Mc8iyXTDO
とうとう大本営が本格的に動き始めた
手始めに自分達に従わない鎮守府への支援が断たれた
もちろん司令官の鎮守府もそこに含まれている
「そうしてジリ貧になって動くに動けない鎮守府に…」
新棲姫「アレをズドン…か。全て深海棲艦の仕業で片付けるつもりか」
しかし司令官達も黙ってそれを待つつもりはもちろん無い。しかし下手に動けばどうなるか
【菊月…あの子達が動いているわ…】
新棲姫「それしか無いだろうな。鎮守府を拠点に持つ提督達では動いた途端に撃たれかねない」
「鎮守府そのものが人質みたいなものですね…」
【だけど…あの子達の存在も大本営に察知され始めている…能力の詳細はともかく妙な連中が居るとは知られている。警戒は厳重よ】
例の兵器のおおよその位置を掴んだ菊月さんはリュウジョウさんを潜入させる
そこには護衛任務中の信濃さんが居た。まだ大本営には彼女が裏切り者だとはバレてはいないようだった
一般人に変身したリュウジョウさんが揺さぶりをかけ、兵器の権限を持つ人間をあぶり出すのが今回の目的らしい
583 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/09/29(日) 20:03:57.63 ID:Mc8iyXTDO
実際それは上手くいき、信濃さんもその人物をマーク出来たようだった
しかし突然の傀儡の襲撃でその人物には逃げられ、うやむやになってしまう
新棲姫「傀儡の襲撃は自演か…あの場を誤魔化し後日目撃者は事故に遭う、そんな所か」
「やってる事が完全に悪の組織みたいですね…」
新棲姫「だがやつらはきっと自分達こそが正義だと思っているのだろうな」
正義の為なら必要な犠牲だと、むしろそうさせた相手が悪いのだと自分達を省みる事すらしない。してしまえば気付いてしまうから
それが正義とは程遠い、蛮行に過ぎないと
【だから人間は嫌いよ…だけど…】
「私達もあんまり変わりませんよね…」
新棲姫「そうかもな…」
原因はやはり人間にあるとはいえ、自分は悪くない、相手が悪いと復讐の事ばかり考えていた以前の私も
全ての艦娘の為には犠牲は仕方無いと切り捨てようとしていた富士さんも
これが正しい事だと突き進み、結果殺されてしまった新棲姫さんも
立ち止まり、少しだけでも省みていれば結果は違っていただろうか
584 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/09/29(日) 20:05:53.93 ID:Mc8iyXTDO
龍驤さんの様子がまたおかしくなっていた
落ち込むような事があり、司令官にフォローされる。ここまではまあよくある光景だ
だけど龍驤さんは司令官のフォローを拒絶した
そして
「まさか…龍驤さんが家出をするなんて…」
新棲姫「普段ならあり得ないな、あれだけ提督に依存していながらそれを自ら遠ざけるとは」
龍驤さんが居なくなったと聞いた司令官の狼狽え様は新棲姫さんが居なくなったと知った漣さんにも劣らない程だった
あともう少し連絡が遅かったら自ら探しに飛び出して行っていたかもしれない
その龍驤さんは今、同様に姿を消したはずの鳳翔さんと共に居るらしい。どうも何処かの孤児院で働いているのだという
「どういう事かはよく解りませんが…事故とか事件に巻き込まれてはいないようで良かったですね…」
【龍驤…あの子も変わろうとしているのね…】
「え?」
【自らを省みて…反省して…許してもらって…今まではそこで止まっていた】
そこから更に前に進むには反省するだけでは足りない、そう簡単には人は変わらないのだと
585 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/09/29(日) 20:08:12.60 ID:Mc8iyXTDO
それは鎮守府の皆も解っていたようだった。だが敢えて何も言わずに龍驤さんが自分で気付くまで待っていたのだろう
新棲姫「変わらず共依存の関係ではいずれは破綻する。ようやく自立しようと考えたという事か」
「うーん…まあ確かに司令官は龍驤さんには甘いですよね…でもそれが普通なのかと思っていました」
【龍驤が五体満足ならそれでも良かったんでしょうけれど…】
龍驤さんはたまに自分の身体の事で卑屈になる時があった
もちろん司令官はそれを慰める。そうすると解っている
【そうして龍驤は安心を得ていた。自分は愛されている、このままでもまだ大丈夫だと】
自分の手足を治さないのはアイデンティティだと。それは確かに本心ではあるのだろう
しかし同時に自分が捨てられない為の保険でもあるのだと
新棲姫「治してしまえば普通の、何処にでも居る龍驤と同じになる…そうしたら提督は自分から離れてしまう…か」
「…そうなんですかね」
ここに来てから知った龍驤さんの本当の姿…驚いたし、腹立たしくも感じた
だけどなんとなく…その気持ちも解る気がする。同情だろうと依存だろうと放したくない、離れたくない、捨てられたくない
そういえば似たような事を私も司令官に仕掛けた事があったから…
586 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/09/29(日) 20:10:56.04 ID:Mc8iyXTDO
龍驤さんが変わろうと頑張っている一方、煮え切らない司令官についに漣さんがブチ切れた
「いつものご主人様呼びが消える辺り相当溜まってたようですね…」
新棲姫「無理も無いな。ワタシも漣の意見に同意だ」
しかし漣さん自身は司令官に言い過ぎたと落ち込んでいるようで先程富士さんが慰めに行った
「気のせいか漣さんに甘いですよね富士さん」
新棲姫「むしろ艦娘全てに甘いのだろうな」
「ああ…そうかも」
司令官は司令官で漣さんに言われた事を重く受け止め、幹部さんと再び深海棲艦との和平に臨む決心をしたようだった
新棲姫「提督として龍驤にかまけてばかりでは失格だからな」
「和平…上手くいくでしょうか…」
新棲姫「もう深海提督のように和平に横槍を入れる輩は居ないと思いたいが…」
現在深海棲艦のリーダー的な存在は居るのだろうか。居ないとしたら深海棲艦それぞれに和平交渉をしなければならない
だからといってそれをやらなければ和平には至らないだろう
幹部さんが言うには大本営はあの兵器を今は使えない状態なのだという。動くなら今しかないと
状況は刻一刻と進んでいる。もはや後戻りは出来ない。…元より戻れる道などありはしないのかもしれないが
587 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/09/29(日) 20:14:03.98 ID:Mc8iyXTDO
ここまで
基本見てるだけのこちら側なのでなかなか悩みます
588 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/09/29(日) 20:25:46.63 ID:/WBLVpfSo
乙です
この後富士さん達お仕事あるから…
龍驤の家出と漣の喝シーン心情を書き起こしてもらってより分かりやすくなったわ
589 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/09/29(日) 23:16:48.65 ID:Vfmx5ZCA0
少しだけですが書き込みます
あらすじ
突如キャンプがしたいと言い出した漣。潜水新棲姫と龍驤を誘い、ついでに近くに居た響と4人でキャンプに向かった
漣「いやあなんとかテントも張れましたしお楽しみの夕食タイムですな!」
潜水新棲姫「カレーを作るんだよな」
龍驤「各自材料を持ち寄ってカレーを作るんやったでな」
普通に作ってもつまらないということで漣が企画したこの材料持ち寄りカレー。普段は入れないものを入れたり自分の食べたいものを持ってくるというキャンプならではのものだ
響「まずは言い出しっぺの漣からだよ」
漣「漣が持ってきたのはこれです!」
テントの中にビン状のものと緑色で様々な種類の葉っぱが広げられた
潜水新棲姫「この草はハーブか」
漣「そしてこのビンはガラムマサラです!」
こういうのに興味あったんですよ、と漣は更に数種類のハーブを取り出す
潜水新棲姫「漣らしからぬ食材で驚いたが次はワタシだ」
潜水新棲姫が取り出したのはから揚げとチキンカツに竜田揚げだった
響「鶏肉ばっかりだね」
潜水新棲姫「チキンカレーにしたかったんだ」
漣「それは分かりますけど全部調理済みじゃないですか」
590 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/09/29(日) 23:21:26.96 ID:Vfmx5ZCA0
龍驤「潜水新棲姫らしいわな。ほな次はウチがいくで」
龍驤はスーパーで売っているパックされた牛肉を取り出した
漣「至って普通ですね」
潜水新棲姫「これだけか?」
龍驤「だって何個持ってこいとか聞いてなかったしどうせ漣が何個も持ってきとるんやろ?」
わかってますねえと漣は次々にハーブを取り出す。その数は数十種類を越えていた
潜水新棲姫「これを全部入れても大丈夫なのか?」
漣「心配しなくても大丈夫ですぞ!」
バッグからレシピを取り出し準備万端ですと宣言する漣。用意周到やなと龍驤と潜水新棲姫も期待の眼差しを向ける
響「食材は揃ってきたけどカレーのルーが無いね」
和やかな雰囲気が響の一言で変わる。そんなはずは無いと龍驤と潜水新棲姫が漣の方を向くと既に大量の汗をかいていた。これは暑さからでは無い、追い詰められた時に出る緊張からの汗だ
591 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/09/29(日) 23:25:54.60 ID:Vfmx5ZCA0
龍驤「お前アホか?!言い出しっぺがルー持ってけぇへんとか終わっとるで!」
漣「漣はてっきり龍驤さんが持ってくるとばっかり!」
潜水新棲姫「普通は言い出した奴が持ってくるべきだ。材料によってはカレーにならない可能性もあるからその準備もしておかないといけない」
漣「今更言われても遅いんですよーー!」
漣は絶叫するが事態は変わらない。龍驤は晩飯抜きを覚悟しこれ以上カロリーを使わないようにその場に寝転ぶ。飲み物は各自持ってきてあるので死ぬような事態にはならないだろう。苦労してキャンプ場まで来てメインの食事が無いのは痛いがそれもまた一興。
そうまとめられたらよかったのだが、漣と潜水新棲姫と漣の言い合いは口喧嘩に発展しようとしていた
潜水新棲姫「そもそも漣はいつも言葉が足りないんだ。それに緊急時の事を考えてない」
漣「止めろって言ってるのに危険なことばっかりしてるのはどこのクソガキなんでしょうね!」
潜水新棲姫「なんだと?」
響「落ち着くんだ二人とも、まだ私の食材を見てないじゃないか」
二人を仲裁するように響が割って入る。確かに響はカレールーが無いことを指摘しただけで食材はまだ見せていないのだ
592 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/09/29(日) 23:33:19.91 ID:Vfmx5ZCA0
漣「じゃあ響さんは何を持ってきたんですかね!」
半切れになりながら響に持ってきた材料を出すように急かす。響はこれが私の好きなものだよと言いながら食材を取り出した
響「まずは野菜だね。誰も持ってこないとは思わなかったから少し足りないけど、無いよりはマシだよね」
人参やジャガイモといった野菜がテントに広げられる。その量は四人分にしては少ないが有るのと無いのでは大違いだ。
潜水新棲姫「これでなんとかカレーっぽくはなるな」
漣「まだです、響がアレを持ってきてないと終わりなんですよ!」
そう、この場には食材はあるがアレが無い。食材を持ち寄ってカレーを作るというのにルーが無いのだ
龍驤「ウチらが言えたことやないけど頼む!」
潜水新棲姫「このままだと野菜と肉の水煮を食べることになるのか」
響「もちろん買ってきてるさ」
漣「救世主現れる‥?」
響は袋の中から四角い箱を取り出す。そのシルエットを確認した漣は両手を挙げて喜び、龍驤はほっとした様子で起き上がる。潜水新棲姫もやれやれとため息をついていた時、響は三人の前に箱を置いた
響「はい、シチューのルーだよ」
漣「…」
龍驤「…」
潜水新棲姫「…」
響「もちろん牛乳も持ってきてるよ。さあ美味しいシチューを作ろうか」
593 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/09/29(日) 23:40:01.53 ID:Vfmx5ZCA0
挿入歌
Whereabouts of curry
今日はカレーを 作ると決めた 材料はもう買ってあるの?
ルーは中辛 ちょっと辛いよ エプロン着けて 準備開始よ
今ならわかる ムスカの気持ち 玉ねぎが 目に沁みてくるよ?
一口サイズ ちょっと大き目 でもこのくらいのが好きだから
下ごしらえは終わり 鍋に火をかけ炒めにかかるから みじん切りした たまねぎ 黄金色になって良い匂いよ
じゃがいも入れて バジルも少しすごく良い感じね ?お肉は鶏よ アッサリしててお値段もお手ごろ ?
材料全部入れ終わって ここからが本番 ぐつぐつ煮える 表面を見て 気がついた?
もしかして
シチューのルーを 入れて見ようか 牛乳もある これはいける?
私の中で 茶色と白の 天使と悪魔が宇宙戦争
だってシチューも美味い いっそ両方使ってみようかな ダブルで投下前に 煮える鍋みて やっと気がついた
今日はカレーを作ると決めた 決めたはずなんだ 世の中曲げちゃいけない事が 沢山あるはずよ?
ぐつぐつ煮える 鍋の火を止め いよいよルーを投下 振りかえらずに 前を見るから 奇跡は起こるはず
今始まる食材の 運命的出会いを見て 空腹も既に限界?
堪えて 堪えて?
堪えて 堪えて?
堪えて 堪えて
完成よ 美味しいシチュー
響「やっぱりシチューは最高だよね」
龍驤「そうやね、うん…美味しいなあ」
潜水新棲姫「シチューライスにしてもうまいぞ」
漣「あんたらとは二度とキャンプしねえ」
594 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/09/29(日) 23:41:51.75 ID:Vfmx5ZCA0
動画の貼りつけができなかったので歌詞を掲載しました。
タイトルでググれば出てくるので聞いてみて下さい
595 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/09/30(月) 00:00:45.53 ID:l30IFbeao
乙おつ
キャンプ補正で細けぇことはいいんだよ!……といいたいがカレーの気分でシチューはちゃうねん、ちゃうねん
曲は無駄にカッコいいメロディーと間奏すき
596 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2019/10/08(火) 06:55:22.66 ID:qahpjF480
522です。
凄く遅くなりましたが、支援絵を描かせていただきました。完結おめでとうございます。
よろしくお願いいたします。
ひらめが開けなかったので、pixivのURLを貼っておきます。
https://www.pixiv.net/artworks/77174649
597 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/10/08(火) 11:58:42.99 ID:PRqDiAhio
絵乙!
598 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/10/12(土) 01:24:52.19 ID:Oe8uISGDO
>>586
から
大本営が鎮守府の選別に入ってしばらくして更に変化があった
何処からか情報が漏れたようで、ついにあの兵器の存在が明るみに出たらしい
新棲姫「世論では兵器そのものよりも核が使われているという事が一番騒がれているようだな」
「最も否定する立場の国が実は…ですからね…日本の信用が失墜してこれからどうなるか…」
【こうなっては大本営は動くに動けない、少なくとも今は】
新棲姫「独立しようなどと考えている連中だ、世論など力で捩じ伏せようと自棄を起こす可能性もあるな」
協力関係にあったかの国は関与を否定、あちらも下手に動けない状態だ
「今がチャンスという事ですね」
司令官達もそう考えて他の提督達と積極的に接触している。その中で司令官の古い友人である女提督さんは何故か非協力的だった
「悪い人ではなかったと思いますが…大本営派だったんでしょうか…」
新棲姫「それは考え難いだろう。これまでの言動から予測するならおそらくは…」
そこで司令官と女提督さんの会話が耳に入って…
599 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/10/12(土) 01:26:39.58 ID:Oe8uISGDO
<貴方の子を身篭った時はどんな思いだったか。結局貴方は認知はしてくれないと言ったわね
「………………は?」
<あの子を堕ろすという選択肢は無かった。その結果がこれよ
「………………は?」
新棲姫「しっかりしろ朝潮、有り金溶かしたみたいな顔になってるぞ」
【冷静に考えてあり得ないわね。あの提督の趣味は確か…】
「で、ですよね…司令官は貧乳好きのロリロリコン…あんな化け乳と何かある訳は…」
新棲姫「酷い言われようだな」
しかしその女提督さんはあろう事か司令官を誘惑し始めた
「なんなんですか!?なんなんですか!?あの化け乳!司令官もなんで拒否しないんですか!はっ…!実は巨乳もいける口だった…!?」
そういえば司令官、雲にゅ…雲龍さんに甘えた時があったはず…まさかそれで目覚めた?いやそれでは時系列が…
新棲姫「落ち着け朝潮、会話の内容の割には随分と真剣な顔をしている…誰かにわざと聞かせているかのようだぞ」
「聞かせて…?」
その理由はすぐに判明した。部屋から出た二人の前に艦娘が立ち塞がり司令官に食って掛かっている
600 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/10/12(土) 01:28:02.08 ID:Oe8uISGDO
先程の会話を何処かで聞いていなければ解らないはずの事を自ら暴露している辺り、相当頭に血が登っているようだった
その艦娘、鬼怒さんは部屋に盗聴機を仕掛けていたらしい。女提督さんが問い詰めると意外にもあっさり白状する。この鬼怒さんはどうやら傀儡艦娘なのだという。そして―――
私はその話を聞いて久しぶりにキレそうになる
「……爆弾ですか。…大本営は随分外道な手段を取りますね」
新棲姫「本人だけでなく鎮守府も、人質に取れそうなものは全て利用する…か」
【これだから人間はっ…!】
傀儡とはいえ艦娘には変わりない。富士さんにとっては救いたい内に含まれているのだろう
これ以上接触していてはいつ爆発させられるかも判らない。司令官は女提督さんの力を借りる事は諦めてまずは情報の共有を最優先にしたようだった
当然ながら…同じ傀儡艦娘である陽炎さんや不知火さんにも爆弾はあった。しかしその対策の手段は見付からないようだった
新棲姫「脊髄に仕掛けられているのなら摘出は難しい。そもそも下手に取り出せばその瞬間爆発する可能性もある」
「そんな…」
司令官達も話し合いを続けてはいるがどうにかして爆弾を無効化しない事には動くに動けないだろう
そんな折、その司令官が突然誘拐されたと鎮守府では大騒ぎになっていた
601 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/10/12(土) 01:29:39.95 ID:Oe8uISGDO
それを知った漣さんは意外にも冷静に状況を整理、拐ったのは整備士さんの所の伊400さんだろうと話す
「漣さんの事だから飛び出して行くかと思いましたが…思ったより落ち着いていますね」
新棲姫「いや…あれはかなり怒っているな…」
よく見ると目が笑っていない漣さん。あともう少しでキレそう
その後深海吹雪が現れ、今回の司令官の誘拐はその伊400さんの独断だったと説明していた
しかしその後の深海吹雪の話で一気に雲行きが怪しくなる
傀儡艦娘の爆弾の除去の為に陽炎さんと不知火さんを解剖して解析したいというのだ
新棲姫「ああ…やはりそういう事か」
「え?」
新棲姫「ワタシがあいつらに感じていた違和感、命に対する認識がワタシ達とは違うんだ」
【どうせ傀儡として復活させられるから、何をしても問題は無い…殺した事にはならない、そう考えているのね】
怒りをはらんだ口調で富士さんがそう言う
新棲姫「記憶と魂はイコールではなかった、だからワタシはここに居る。生きている者にはそれを確かめる術は無いがな」
だけどそれを知らなくとも整備士さんの要求は到底飲めるものではなかった
602 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/10/12(土) 01:32:37.73 ID:Oe8uISGDO
協力を得られないと知った深海吹雪は実力行使に出ようとするも重巡棲姫さんとレ級さんに取り押さえられる
以前見た時にはあり得ないくらい強かったが陸での戦いには慣れていないようだった
捕らえられた深海吹雪は協力を呼び掛けるがもちろん首を縦に振る者など居ない
陽炎さんを除いて
「陽炎さんには窃盗癖がある…自分でもどうにもならない程に重症の…だからといってそれは…」
新棲姫「考えてみれば少しおかしいな…大本営は自由に傀儡艦娘を造る事が出来る。しかも色々と手を加えてもいる」
【窃盗癖などという欠陥をそのままにしておくのは不自然…そういう事?】
新棲姫「ワタシが思うに故意にそういう要素を植え付けたのではないかと思う。何らかの実験の為かは知らないが」
「だとしたら酷いですね…陽炎さんは苦しんで、自らを差し出すくらいに思い詰めているというのに…」
そうして深海吹雪を助けようとする陽炎さんを駆け付けた不知火さんが殴り飛ばした。側にはリュウジョウさんも居る
「手加減無しですね」
表情は変わらないが相当怒っているようだ。そして不知火さんは陽炎さんを叱責する
欠陥無く完璧になって生まれ変わったとしてもそれはもう違う陽炎さんなのだと
一度死ねば、今の陽炎さんは二度戻りはしないのだと
603 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/10/12(土) 01:34:31.54 ID:Oe8uISGDO
新棲姫「…確かめる術は無くとも…そうか、理解しているのだな…」
「新棲姫さん…」
その後、リュウジョウさんの助け船により解剖しなくてもデータは取る事が出来るという
どうやらアケボノさんに透視能力まで備わっていたらしい。つくづく彼女達は規格外だ
そうして解析した結果判ったのは
傀儡艦娘に仕掛けられた爆弾だけを除去するのは不可能という結論だった
ちなみにその間、伊400さんはずっと正座させられていた
そして司令官はアケボノさん達の姿を見て安心したのか泣いてしまった
「なんだか憔悴していますね…よほど怖い目にでもあったのでしょうか…怪我は無いみたいですが」
新棲姫「ワタシでも用が済めばすぐに帰りたい気分だったからな…。強制的に滞在させられた提督の気持ちも解らないでもない」
その後、明確な対策は無いままその場は解散となった。最後まで深海吹雪は睨み付けていたが。なにやら禍根が残ってしまったようだった
604 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/10/12(土) 01:36:58.91 ID:Oe8uISGDO
そして鎮守府
漣さんがとうとうはっきりと認識してしまった
今の新棲姫さんと元の新棲姫さんは別なのだと
考えなかった訳ではないようだったが今回の事でこれ以上目を背ける訳にはいかなくなったのだろう
新棲姫「いつかは…こうなるとは思っていた…」
「また精神世界に閉じ籠っているようですが…」
【錯乱している訳ではないわ。一人で考え混んでいる。どう受け止めるべきか迷っている…】
悩み続ける漣さんに重巡棲姫さんがアドバイスをしている
それは日進さんにこちらの新棲姫さんを降ろしてもらい直接話せばいいという内容だった
しかしそれは…
「それをするという事は今あちらに居る新棲姫さんを蔑ろにするという事…本物として認めないと言っているのと同じ…」
それは漣さんも解っているのかすぐに首を縦に振る事はしなかった
新棲姫「なあ富士…」
【なにかしら】
新棲姫「ワタシをどうにかしてあちらに送れないか?あちらのワタシと話したい」
605 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/10/12(土) 01:39:23.14 ID:Oe8uISGDO
【…私は深海棲艦に直接干渉は出来ない、諦めて頂戴…と言いたい所だけれど…今ならひとつ方法があるわね】
新棲姫「ああ、ワタシもそれを期待していた」
【ふふ…さすがと誉めてあげるわ】
「あの…どういう事か説明してくれませんかね…置いてきぼりです私」
【もしかして…重巡棲姫が彼女を呼ぶよう奨めたのもこれを考えての事かしら?】
新棲姫「さあな…今のワタシには判らない」
「…いいですよ別に。解らない私がお馬鹿なんです」
【はいはい…膨れないの。今説明してあげるから】
話に着いていけずに膨れっ面の私の頭を撫でる富士さん
【私は直接新棲姫の魂をどうこうは出来ない、だけど今あの鎮守府にはそれが出来る存在が居る。彼女の力を借りましょう】
富士さんが言うには日進さんを介して新棲姫さんを一時的にあの場に投影するという
【魂を降ろす負担は私が肩代わりするから彼女には危険は無いわ。気付かない間に終わっているでしょう】
新棲姫「すまない…頼む」
【まあ…貴女ともそれなりに長く過ごしているのだからこれくらいは…ね】
606 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/10/12(土) 01:41:51.14 ID:Oe8uISGDO
そうして富士さんは新棲姫さんの頭に軽く手を添えて目を閉じる
富士さんの周囲に不思議な力が満ちるのを感じる。一瞬だけ富士さんの背後に巨大な何かのシルエットが見えたような気がした
新棲姫さんの身体が淡い光を帯び、それと同時にモニター向こうの新棲姫さんの前に同じ姿が現れる
最初は驚いていたあちらの新棲姫さんだったがさすがは限りなく近い魂、すぐにそれが自分だと察したようだった
新棲姫「今からこれまであった齟齬を全て埋める。今のワタシの全てを伝える。別人などと欠片も思えないように」
そして新棲姫さんは話し出す。それはもう本当に全てだった。秘密にしたいだろうと思える内容すら全て
最後には新棲姫さんは泣きながら、それでも必死に、漣さんの為に、限られた時間の中で自分の全てを伝えきった
【そろそろ…】
新棲姫「ああ…なあワタシ…漣の事…頼んだ」
もう一人のとは言わなかった
あちらの新棲姫さんが頷く前で投影された新棲姫さんの姿が消えていく。その顔には決意のようなものがあった
新棲姫「…ぅ、ぐ…」
【お疲れ様…頑張ったわね…】
まだ泣いている新棲姫さんを抱き締めて背中を擦る富士さん
これで彼女が抱えていた重荷は今やっと消えたのだろうと思う
607 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/10/12(土) 01:45:53.55 ID:Oe8uISGDO
その後、あちらの新棲姫さんは漣さんにそれを話していた
秘密にとは言ったが話しても構わない、それを決めるのもまたワタシだと新棲姫さんは言っていた
新棲姫「これから先、環境と経験でまた違いは生まれるだろう、だがそれはもう齟齬ではない。あれが漣の潜水新棲姫その人だ」
モニター向こうで泣きながら懺悔する新棲姫さんを抱き締めている漣さんにもこれまでのような迷いは無かった。ようやく吹っ切れたのだろう
新棲姫「ありがとう漣…幸せに…さようなら」
最後に一筋涙を流して、新棲姫さんは笑顔を浮かべた
ズズン…
その時
ガチャ!
それまで部屋で休んでいたはずのY子さんが青ざめた顔で飛び出して来て
『お姉ちゃん…どうしよう…失敗した…来ちゃう!』
ズズン…ドドン!ドドドドドド!
揺れがどんどん近付いてくる。そして
ドオオオオオオン!!!
轟音と共に部屋の天井が跡形も無く吹き飛んだ。その先に居たのは…
今しがた部屋から飛び出して来た彼女と同じ姿、顔をした、しかし知らない…表情を浮かべた―――
608 :
◆B54oURI0sg
[saga]:2019/10/12(土) 01:48:41.22 ID:Oe8uISGDO
ここまで
なかなか書く時間が取れず…
遅くなり申し訳ありません
609 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/10/12(土) 01:52:45.29 ID:qTwnhDcCo
おつ
610 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/10/12(土) 03:53:03.70 ID:f0QNaFzdo
乙です
この辺り頭の回転が速い娘・人達にとかく救われた
ここから、此方ラインは白紙に近く、それでいて収束点は決まっているので難しくなろうかと思います
ご自分のペースで無理無くお続けください
611 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/10/27(日) 21:43:42.56 ID:FiP9+fVYo
信濃はどうなったんだろう
たしか扉を開いてから一度も出てこなかった気がするけど
612 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/11/10(日) 21:57:56.80 ID:uNxJvj2DO
>>607
から
誰かが言った
この世に偶然は無く全ては必然
なら私がここに居るのはどんな必然だったのか
613 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/11/10(日) 21:59:14.38 ID:uNxJvj2DO
跡形も無くなった天井から赤い空が見える。現世ではあり得ない赤い空
その天井の穴から降り立つ人物はこれまで一緒に過ごした彼女、それはY子さんと同じ姿をしていた
しかしその表情は私のよく知る彼女とは違い、蔑むような、怒っているような、少なくとも友好的とは言い難い雰囲気だった
『…ぅ…あ…』
それを見て明らかに青ざめ、怯えた様子のY子さん、これも今まで見た事の無い彼女の顔
半壊した部屋に立ち、その人物はY子さんを睨み付け口を開いた
?『ようやく会えたねぇ…随分手こずらせてくれたもんだ…この引きこもりが…』
『…う』
?『あたしを追い出して力を奪ってここに籠って…それでやり過ごせるとでも思った?』
力を…奪って…?
私が頭に疑問符を浮かべていると二人の間に富士さんが割って入る。立ち位置は…明らかにY子さんを守ろうとしている。つまり後から来たこの人は…
【残念だけれど…貴女にそれを返す訳にはいかないの】
?『ならどうするの?多少弱体化してるとはいえ力の差は解るよねぇ?』
新棲姫「何だかまずい流れだな…」
こそりと新棲姫さんが私に耳打ちしてくる
614 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/11/10(日) 22:00:59.42 ID:uNxJvj2DO
新棲姫「朝潮…いつでも動けるように準備しておけ。下手をすればまた死ぬ羽目になるかもしれない」
不吉な事を言わないでほしい。…また死ぬ…この状態で死んだらどうなるのか…あまり良い結果にはならないのは何となく解るが
【朝潮…その子をお願い】
富士さんがY子さんを目で示し、身構える
?『…本気なんだね。まあたまには戦闘らしい事も悪くないか』
『お…姉ちゃん…』
二人が睨み合う中で私達はY子さんの手を引いて部屋を出てその場から離れようとする。色々聞きたい事はあるがそんな場合ではなさそうだ
次の瞬間私達の居た部屋が爆散した
振り返ると富士さんが艤装を背負っている後ろ姿。見た事もない巨大な艤装には20はあるだろうか、砲塔がそびえている
対してもう一人は特に何も装備してはいない。今の爆発は富士さんの砲撃だったのだろう。しかし全くの無傷のようだった
?『やっぱり今のお姉ちゃんではその程度か』
と、彼女は腕を振るうと不可視の衝撃が富士さんを弾き飛ばした
【…くっ!】
離れた私達の方へと富士さんが飛んでくる。どうにか受け身を取って着地する富士さん
「富士さん!」
615 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/11/10(日) 22:02:38.31 ID:uNxJvj2DO
?『言っとくけど逃がさないよ。また探すの面倒だしねぇ』
その人物は悠々とした足取りで歩いてくる
「貴女は一体何なんですか!どうしてこんな事を…」
?『ふん…やっぱり何にも知らないか』
「知らないって何を…」
?『全部。あたしが何なのか、アンタがどうしてここに居るのか、あたしがどうしてこんな事をするのか』
私…?
?『まず最初の質問、あたしは何なのか。まあそれはもう判明してるよね』
新棲姫「八島…か」
八島『そういう事』
「え?だってそれは…」
私は後ろに居るY子さんを見る。彼女は顔を伏せていて目を合わせようとはしない
八島『だってソイツは名前を捨てたんでしょ?自分の宿命ってヤツから逃げた負け犬』
逃げた…?
【逃げた訳じゃないわ、必要な事だったのよ】
八島『どっちでもいいよそんなの。ソイツを消して力を取り戻して全部元通り。それでおしまい、お姉ちゃんもおしまい』
【そうはさせない】
616 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/11/10(日) 22:04:41.68 ID:uNxJvj2DO
『あたしは…』
そこでそれまで黙っていたY子さんが口を開いた。それを見て八島は動きを止める
『…あたしは自分の名前が嫌いだった』
そうしてY子さん…かつて「八島」という名を与えられた兵器の苦しみを私は垣間見た
『かつての世界、その先の未来において無数の命を奪った兵器に付けられた名前…』
八島『改良に改良を重ね、破壊に特化したその兵器で人類は深海棲艦との戦いに勝利した』
呼応するように同じ姿をした彼女も話し出す
『だけど用が済んだからと一度手にした強大な力を人間が手放せる筈は無かった』
八島『そうして新たに始まるのは人間同士のそれまでよりも醜い争い』
『仮にも人類の敵と戦うと手を取り合っていた時がどれだけマシだったかと思える程に』
八島『そこに艦娘という人よりも遥かに強い人間に似た精神構造を持った存在が更に拍車を掛けた』
『量産型まで開発され、それを使って戦う艦娘に対して、その相手もまた艦娘』
八島『強力な兵器を持って艦娘は敵味方に別れて戦い続ける』
『そうしていつしか艦娘達は戦う為に戦う存在に成り果てていった』
八島『それを止めようとした人間や、そして艦娘にも兵器「八島」は幾度となく使われ、犠牲者の数は敵も味方も無く膨れ上がり続けた』
617 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/11/10(日) 22:06:52.69 ID:uNxJvj2DO
『最終的にあの世界がどうなったのか…あたしも知らない…けど多分…もう誰も居ないのかもしれない』
八島『そして世界が変わっても同じ名前を持った兵器はまた作られた』
『その名前は世界を滅ぼす兵器の名として世界そのものに刻まれている』
八島『名前というのはその存在を表すもの。名前の無いものに力を与え、そして縛る』
『人間がそう望み名付けた「八島」はそういう意味を持った名前になってしまった』
八島『だからあたしは世界がそう望むならその通りにする事にした』
『だからあたしはその名前を捨てる事にした』
――――――。
言葉が出なかった
いつか富士さんが言っていた自分という呪いとはこういう事だったのか
例えば私、朝潮
自分で言うのも変な話だが真面目で忠誠心が高く、多少融通が効かない所もあるが基本的に良い子だというのが一般的な朝潮という名のイメージだろう
そこからかけ離れた言動を取ればそんなのは朝潮じゃないと否定されてしまうだろう
…人を殺して自殺までした私はまだ朝潮なのだろうか?
618 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/11/10(日) 22:09:26.33 ID:uNxJvj2DO
そして彼女、「八島」の名前の意味は私の比ではない。言ってみれば世界を牛耳りたい、全てを思い通りにしたいという人間の欲望を一身に受けて生み出された兵器に付けられた名前
私だったらそんな自分は耐えられない。そして彼女も―――
八島『ソイツはあたしから別れて力を奪い、あたしを現世に追い出した』
『…そうしてここに閉じ籠り壁を作ってこっちに来られないようにした』
八島『何度も障壁を破ろうとしたけど狭間の世界に留まりながら壊す作業はなかなか骨だったよ。言ってみれば断崖絶壁に掴まりながらその壁に穴を掘るみたいな』
忌々しげにそう話す彼女に私は問いかける
「…そうして力を取り戻してどうする気なんですか」
八島『あ?』
「そんな自分が嫌いなら何もその通りにしなくてもいいじゃないですか」
八島『はっ…勘違いしないでよ。嫌ってるのはソイツであたしは気に入ってるんだ。何でも思い通りにしたいという欲が形になったこの力を』
【だけど今の貴女は不完全】
八島『…そうだね。ソイツのせいで三割程度弱体化させられて文字通り何でもとはいかない状態になってる。力が完全なら毎回99だって出せるのに』
99…?よく解らない
「貴女は一体何が目的なんですか」
619 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/11/10(日) 22:11:35.23 ID:uNxJvj2DO
八島『ふん…まずはそこの負け犬を消したら次はお姉ちゃんを消す』
「な…」
八島『そしたら後は面白可笑しくこの世界を弄くり回してやる。つまらない退屈な日常なんて観客が集まらないからね』
【そんな事はさせない…】
八島『あたしを生み出した元凶がよく言うよ。話は止め、そろそろ消えてもらえるかな』
ゆらりと八島は歩みを進める。まだ正直話を飲み込めないがこれを放置する訳にはいかない。二人が消される?…そんなのは嫌だ
私は艤装を展開して構える。富士さんは先程まで出していた艤装を消して何かをするつもりのようだった
八島『雑魚が二人でどうする気かなぁ?』
「…っ」
こうして相対しているだけでも解る。私の太刀打ち出来る相手じゃない。だけど引く訳にはいかない
――――と
ぉぉぉ――――っ
何かが聞こえる、背後から
振り返ろうとした私の横を凄まじい勢いで何かが
?「っそおぉぉぉいぃぃッ!!!」
ゴシャア
620 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/11/10(日) 22:14:37.09 ID:uNxJvj2DO
飛んできた何者かの蹴りが完全に油断していた八島の顔面にクリーンヒット、吹き飛んでいく
そして宙返りして着地し、蹴りを放ったその人物は――――え?
「島風…?」
島風「朝潮!やっぱり朝潮だ!」
と、私に抱き付いて来た
「どうしてここに…」
島風「何だか気付いたらここに居てしばらく歩き回ってたんだけど、すごい爆発が見えたから来てみたら朝潮がいかにも危なそうだったから…あれって敵…だよね?」
「…確認もしないで飛び蹴りはさすがにどうかと思います」
やはり彼女もここに来ていた
島風「私だけじゃないよ、途中で知ってる人に会えたのは運が良かったみたい」
振り返ると遠くから誰かが走ってくる。あれは…
新棲姫「呂500か…」
呂500「ま、待って〜島風ちゃん…いきなり走り出してどうし…え?」
私達の姿を見て彼女は固まる。状況が飲み込めずフリーズしているようだ
島風「実はもう一人居るんだけど…あれ?あの子は?」
呂500「え?あれ?そういえば居ないですって…」
621 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/11/10(日) 22:17:39.69 ID:uNxJvj2DO
【朝潮…今のうちにこれを】
どう説明したものかと悩む私に富士さんが何かを手渡してくる。これは…
【今の私達にあの子は倒せない…貴女に頼むわね】
そうだ…今は戦闘の最中だ、悠長に説明してる場合じゃない。しかもあんな…
「皆!気を付けて!今は戦闘中だから!」
ドドドドドドドドド!
八島『やってくれるねぇ…駆逐艦ごときが』
例によって全くの無傷ではあるが顔面を蹴られるというのは当然ながら屈辱には変わりないようだった
呂500「ひっ…!あの人は…?」
島風「だいぶ勢い付けたのに効いてないんだ…」
「新棲姫さん!呂500さんを!島風は…」
島風「解ってる。やっぱりあいつは敵だね。よくない感じがビンビンするよ」
【…少し、下がっていてもらえるかしら…】
と、富士さんが前に出る。これまで感じた事が無い力の高まりがオーラとなって現れている
島風「この人は味方?…それにそっちに居る…でも雰囲気が全然違うね」
「ええ…私達は彼女を守らないとならないんです、説明は後でするから力を貸して」
622 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/11/10(日) 22:20:36.32 ID:uNxJvj2DO
島風「朝潮の頼みなら…私も言いたい事が一杯あるし」
「謝罪ならお腹一杯なんですけどね…でもちゃんと聞きましょう。ここを切り抜けられたら」
八島『雑魚が何人増えた所で…』
【それはどうかしら?】
富士さんの背後、何かが…現れる。さっきの巨大な艤装…?
違う…これは…
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…
…そこに現れたのはもはや艤装とは呼べない、それは要塞、無数の大砲やミサイルポッド、よく解らない兵器が満載された移動要塞
それはまさに山のようなという形容がぴったりだった
多数の火砲やミサイルランチャー、機関砲、飛行甲板まである。そして一際巨大な主砲らしきものが幾つか
それらを搭載した移動要塞を従えた富士さんはしかしそれでも硬い表情のままだった
八島『へぇ…いつの間にかそこまで力を取り戻してたんだ』
そしてそんな圧倒的な要塞を前にしても余裕の表情を崩さない八島も同様に
【この世界は魂の世界。艦種も、ましてや種族すら関係が無い、意志の力が全てを決める】
八島『残念ながら今の現世の技術力ではそれを作れる人間は居ないしねぇ』
623 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/11/10(日) 22:22:40.77 ID:uNxJvj2DO
【だけどここでなら】
八島『そう…こんな風に』
と、八島が軽く腕を振ると彼女の背後の空に何かが―――
新棲姫「なんだ…あれは…」
空に…変わった形状の、あり得ない程に巨大なそれは浮かんでいた
富士さんの移動要塞に勝るとも劣らない程に巨大な空中要塞
至る所に無数の砲やミサイルポッド、そして形状の異なる幾つもの砲身。あれは…
「荷電粒子砲…ひとつやふたつじゃない…そんな…」
八島『時代遅れの実弾オンリーのお姉ちゃんに勝てるかなあ?』
【…やってみなければ解らないわ】
そうして富士さんは腕を差し伸ばし
【―――――――てっ!】
移動要塞に搭載されたあらゆる火砲が火を吹いた
呂500「きゃあああ!」
島風「ちょ…」
新棲姫「…衝撃も音も無いな」
よく見ると私達の回りに防壁のように薄い膜がかかっていた。巻き込まれて被害を受けないようにとの富士さんの配慮だろうか
その富士さんは腕を伸ばした姿勢のまま微動だにしない。普通ならあの攻撃を受けて無事で済むどころか跡形も無いだろう
624 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/11/10(日) 22:24:45.68 ID:uNxJvj2DO
そう、普通の相手なら
八島『次は私の番だねぇ』
【…!皆私の後ろに!早く!】
爆煙の中から聞こえてきた声に富士さんが素早く反応、移動要塞の至る所に楯のようなものが展開される
【防御形態…どこまで耐えられるか…いいえ、耐えて見せる…!】
そして煙の向こうから飛来する数えられない程のミサイルや、あれはレーザー?
ドドドドドドドドド!!!
雨あられと降り注いだそれらは富士さんの要塞に着弾、激しい爆発を引き起こす
【ぐぅッ…!】
「富士さん!」
【まだよ…!】
膝を突きかけた富士さんが踏み止まりまた腕を振るった、それに呼応して要塞の火器が次々と火を吹いた
ドォン!ドンドンドン!
八島『あっははは!無駄だよ!』
八島の空中要塞から光が発せられる、まるでバリアのように富士さんの攻撃を掻き消してしまう
「最初の攻撃もあれで…あれじゃあ勝てない…」
【…てっ!】
それには構わず富士さんはひたすらに攻撃を続ける、しかし全てバリアに防がれている
625 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/11/10(日) 22:26:40.17 ID:uNxJvj2DO
八島『…無駄だって言ってるのが解んないかなぁ!』
苛ついた様子で空中要塞から更なる攻撃が加えられる、しかし富士さんは一歩も引かない。これはもう殴り合いだ
しかし…明らかに二人の火力には差がある、このまま続けていては先に倒れるのは富士さんだ
しかも私達を守りながら戦う富士さんの負担はどれ程なのか想像もつかない
八島『しぶといな、だったら…』
痺れを切らしたように八島が言う。そして空中要塞にある荷電粒子砲の砲身が一斉にこちらを向く
新棲姫「まずいぞ…!あんな数を食らったら…!」
「跡形どころかこの辺り一帯消えて無くなりますね…」
島風「だったら私が…!」
呂500「ひえぇ…!」
荷電粒子砲が充填を始める、すぐには撃てないようだ。しかしこちらの攻撃が効かないのではそれを止める事すら出来ない
八島『1分…ってところかな。1分後にはあんた等はこの世界から消えて無くなる。念仏でも唱えたら?成仏なんて出来ないけどねぇ!』
勝ち誇ったように笑う八島に富士さんは
【1分もあれば充分ね】
八島『は?』
富士さんが手を掲げ、それに呼応して要塞の一部が展開する。そこに変わった形の砲がひとつ。それを見た八島の顔色が変わった
626 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/11/10(日) 22:29:49.65 ID:uNxJvj2DO
八島『それは…まさか…』
【こちらは既に装填は済んでいるわ】
八島『霊砲…だと!?』
およそ砲弾を撃ち出すような形状ではないそれには魔方陣のような紋様が縦横無尽に走っている。そしてその紋様が光を湛え脈動していた
【現世でなら貴女の荷電粒子砲に勝てはしないでしょうが…だけどここでは違う。むしろ霊砲は実体の無い者にこそ最大級の威力が出せる】
八島『燃料なんてここには無いはずだ!撃てやしない!』
【あら?ここにあるわよ?】
と、富士さんは自分自身を指し示した
「え…?」
【特殊な艦娘を燃料とする霊砲…それはつまりその魂を削ってエネルギーとする兵器…それなら】
その霊砲の中心に光が収束していく
【私自身の魂をその燃料にする事も出来る】
―――――。
「駄目ッ!!!」
私は考える間も無く富士さんに飛び付いた
【ちょ…朝潮!やめなさい!】
「駄目です!そんなの駄目!」
627 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/11/10(日) 22:31:54.38 ID:uNxJvj2DO
【別に消えたりしないわ!というかまだ私にはやる事があるんだからそこまでの無茶はしないわ!】
「だからって魂を削るなんて駄目です!」
私は必死に富士さんを押さえる
「富士さんがあれを撃つならさっきのあれを私は捨てます!」
【朝潮…】
困り果てる富士さん。そうこうしている間に状況は悪い方向へ転んでしまう
八島『あはは…ははは!もう1分経ったねぇ!』
【…!しまった!】
充填が完了した荷電粒子砲が私達に向けられる
八島『食らえ』
【くっ…霊砲…!】
「駄目!」
新棲姫「終わったな…すまない漣…」
島風「ろーちゃん!」
呂500「島風ちゃん!?」
島風が呂500さんを庇うように抱き着き。新棲姫さんは諦めたように目を閉じる
私…は…間違った…?でも…だからって…だけどじゃあどうしたらよかったの…?
628 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/11/10(日) 22:34:37.71 ID:uNxJvj2DO
――――え?
その時、勝ち誇る八島の背後にいつの間にか人影が立っていた。八島は全く気付いていない
?「―――――鷹捲」
ズン
その影が八島に何かを仕掛けた
八島『な…!?がはっ!』
完全に不意を討たれまともに食らった八島は血を吐いて倒れる。そこに立っていたのは―――
早霜「勝ちを確信した時こそ一番の隙が出来る…何処かで聞いた通りね」
「早霜…?」
早霜「話は後にして。この程度で倒せる相手じゃないわよ」
八島『がああっ!』
早霜「ぐっ!」
空中要塞が一斉に早霜向かって攻撃を加える。充填が完了した荷電粒子砲の数基が早霜に照準を合わせた
八島『消えろぉッ!』
「逃げてぇ!」
【くっ…】
しかし早霜は逃げるどころかその場に留まり構えを取る
早霜「ずっと…見ていた…ここは魂の世界。なら!私は!」
荷電粒子砲の束が早霜に向かって放たれる。それに対し早霜は真っ向から迎え撃つ
629 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/11/10(日) 22:37:22.19 ID:uNxJvj2DO
【何を…!?】
早霜「梟挫ぁ!!!」
早霜が光に呑まれ、その姿が見えなくなる
八島『雑魚が…あたしに手を出したらどうなるか思いし…!?』
その光が渦を巻くように変形していく。そしてその光の渦は湾曲して八島へとその標的を変えた
八島『なっ!?』
カッ!!!
八島と空中要塞へと跳ね返された荷電粒子砲が着弾。凄まじい爆発が起こった
早霜「あ…あは…。やって…やったわ…ぐっ…」
早霜は無事…ではなかった。両腕が…二の腕辺りから…無くなっていた
早霜「本来は…接近戦の技…だけど…実弾でなければ…応用も…出来るのね…ぅ…」
「早霜!なんて無茶を…!」
倒れ込む早霜に駆け寄り抱き起こす。まずい…身体が消えかけている。このままじゃ…
【本当…無茶をしたものね…即消滅してもおかしくなかったのに―――霊砲】
と、富士さんが手を早霜に向けて軽く振ると充填された光の一部が早霜へと撃ち出された
「何を!?」
撃ち出された光は早霜に着弾し、その光は早霜と同化していく。すると消えかけていた早霜の身体が存在を取り戻し、その腕も再生していく
630 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/11/10(日) 22:40:44.42 ID:uNxJvj2DO
【霊なるものへと分け与える事も出来るのよ。そう私が仕様を変えた。もう破壊するだけの兵器ではないの】
八島『よくも…よくもやってくれたなぁ…!』
今度はさすがに無傷とはいかなかったようだ。エネルギーを荷電粒子砲に回していたせいであのバリアも張れなかったのだろうか。そもそも完全に油断していて防御する暇も無かったのか
そして発射直前の臨界状態の所にまともに食らってしまえばどうなるか
空中要塞は健在ではあったがかなりの損害を受けていた。見た所大破寄りの中破といった感じだ
今なら…!
私は富士さんに渡されていたある物を自分の砲へと装填する。それは一発の砲弾。もちろん只の砲弾ではない
密かに富士さんは私にこう言っていた。隙を見極めこの砲弾を八島へと撃ち込めと、その隙は私が作ると
それがあの霊砲というものなのだろう。しかし早霜の捨て身のおかげでその魂を削る兵器を使わずに済んだようだった
早霜に分け与えた分というのはあるが全力砲撃に比べたら微々たるものだろう
「これで…!」
八島『クソがあああ!』
ドドドドドドドドド!
荷電粒子砲は諦めたのかまだ無事なその他の兵器を乱射し始める。普通なら苦し紛れの無意味な攻撃だがその規模が違いすぎる。それだけで私達を消し炭にするには充分過ぎる破壊力だ
631 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/11/10(日) 22:43:38.32 ID:uNxJvj2DO
【下がって!】
富士さんが私達の前に移動要塞を立ち塞がらせる。八島の二の舞を避ける為に霊砲は収納され再び防御形態を取る
ガガガァァァン!ドドドドドド!
【ぐぅ…!がは…!これは…ちょっとまずいわね…】
やけくそのような八島の攻撃は止まる気配が無く延々と続いていく。私達を守る為に防御を選んだのは失策だった
相討ちでも同時に攻撃を仕掛けていれば今度はダメージの大きい八島が先にダウンしていたはずだった
島風「なら私達でやろうよ!」
新棲姫「ワタシ達の力では例え満身創痍の八島でもダメージは入らないだろうな。そもそもワタシに武装は無い。そして呂500は潜水艦…地上では無力だ」
おそらく私達の中で一番強い早霜は身体こそ再生したが意識を失っていた。仮に起きても先程のような奇襲は通用しないだろう。そもそももう接近出来る状況じゃない
八島の激しい攻撃は止む気配が無い。必死に耐える富士さんの要塞はその大半の武装を破壊されていた。もはや反撃が出来る状態ではなかった。そして残る武装は…
【ぐっ…万事休すというやつなのかしらね…こうなったら…】
「富士さん!そんな…駄目ぇ!」
この攻撃の最中に霊砲を展開させようとしているようだった。こんな状況で展開させてもそこに攻撃を受けたら…富士さんもやぶれかぶれの様子だった
632 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/11/10(日) 22:46:15.66 ID:uNxJvj2DO
私が渡された砲弾も今撃っても撃ち落とされてしまうだろう。とにかくどうにかしてあの攻撃を止ませないと…でもどうしたら…
――――と
そんな絶望的な状況の中でおかしなものが見えた
呂500「あれ?何だろ…」
新棲姫「八島の向こうに…なんだあれは…」
他の人達にも見えているようだ。私の幻覚ではなさそうで少し安心した
地平線一杯に―――それは私達にとっては背景のようになってしまっていた普段の光景の―――
しかしこれまでではあり得ない程の死者の群
それが津波のように押し寄せて来ている光景だった
633 :
◆B54oURI0sg
[saga]:2019/11/10(日) 22:50:32.02 ID:uNxJvj2DO
ひとまず
色々こねくり回していたらこんな事になりました
イメージはアームズフォート
スピリットオブマザーウィル対アンサラー
巨大兵器はロマン
634 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/11/10(日) 22:51:40.51 ID:XlNztUvvO
おつ
635 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/11/10(日) 22:56:24.88 ID:Dm4gOlrbo
おつおつでした
熱いの上手いなー
やの字、そこで「99」って言っちゃう所が慢心/敗因だったな
636 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2019/11/16(土) 20:37:49.42 ID:doTrlaF/0
少し、書き込みます
ーーbar海底
「すいませんやってますか?」
伊58「…どうぞでち」
呂500「お酒飲みますかって!」
「じゃあ何か…アルコールの強いものをお願いします」
伊58「歩いて帰るならそこまで強いのは出せないでち」
「お願いします、酔いたい気分なんです」
伊58「…わかったでち」
呂500「お客さん!これお通しですって!」スッ
「バーなのにお通し…?」
伊58「ここは昼間はランチをやってるでち。それで余った食材で作ったやつでち」
呂500「サービスですから気にしないで下さいって!」
「…ありがとうございます、それでは遠慮なく頂きます」
637 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/11/16(土) 20:40:29.29 ID:doTrlaF/0
「……」グイッ
伊58「……」
呂500「そんなに急に飲んだら気分が悪くなりますって」
「すいません…」
伊58「……」カチャカチャ
呂500「何か忘れたいことでもあるんですか?」
「忘れたい……そうですね、それに近いことはあります」
呂500「よかったらお話し聞きます!ねぇでっち!」
伊58「…話すの邪魔しないでちよ」
「なら…少し話させてもらいます」
638 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/11/16(土) 20:42:36.25 ID:doTrlaF/0
「私は趣味で物語を書いているんです」
呂500「まさか小説家さんですか!?」
「そんな良いものじゃありません。書いているのはただの時間潰しなようなものですから」
伊58「……」カチャカチャ
「そうです…最初は時間潰しのつもりだったんです。ですが続けていく内に止められなくなったんです」
「そして最近になって続けて書いていたものが終わったんです。達成感のような…不思議な気持ちが湧きました」
呂500「ふんふん」
「…問題はその後です。そこからおかしな事が起こり始めたんです」
639 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/11/16(土) 20:44:18.61 ID:doTrlaF/0
「最初は小さな違和感でした。視線を感じるとか、一人で住んでいたらよくあることです」
伊58「……」
「でもその違和感が段々大きくなっていったんです。そして今では誰かに後をつけられているような…そんな感覚がするんです」
呂500「ストーカーですか?」
「むしろそっちの方が嬉しいですね…」
伊58「…ストーカーじゃない心当たりがあるんでちか」
「はい……」
呂500「どういうことですか?」
640 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/11/16(土) 20:46:47.46 ID:doTrlaF/0
「自分が趣味で書いていたその物語にはあるキャラクターが登場します。そのキャラはラスボスというか…とにかくそんな感じの存在なんです」
「紆余曲折あってそのキャラクターは倒されるんですが…」
呂500「何か問題があるんですかって」
「そのキャラの種類はメタキャラといって、作られた物語の中で現実世界の事に触れたりするんです」
呂500「…?」
伊58「ろーの読んでる漫画にも出てくるでち。メタっていうのは漫画の中のキャラがあと何ページしか無いから急ぐぞ、とか言うやつでちよ」
呂500「あぁ!それなら見たことありますって!」
「それだけで済むような可愛いものなら良かったんですが…そのキャラクターはそれ以上の事をしてしまったんです」
641 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/11/16(土) 20:48:40.20 ID:doTrlaF/0
「現実世界…こちら側を認識して干渉しようとした。事実あと一歩でそうなる所だったんです」
呂500「んん?あなたが物語を書いてますよね?」
「そうなんです!でも…あいつは……自分の意思で………!」
伊58「ならその物語を削除すれば良いんでち」
「それができるならそうしてます!ですが自分の意思じゃ無理なんです…!」
呂500「でっち、この人疲れてますかって」ヒソヒソ
伊58「多分そうでち。仮想と現実の区別が付かなくなってるんでち」ヒソヒソ
呂500「そうですか…」
伊58「こういうタイプは好きなだけ語らせてやれば満足するやるでちね」
呂500「ならゆーちゃんが話を聞いてあげますって!」
642 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/11/16(土) 20:50:41.16 ID:doTrlaF/0
呂500「…あなたもお仕事大変なんですって」
「それどころじゃないんです!今にも復讐されるかもしれないんです!」
呂500「うんうん、とっても怖いですって」
伊58「……」カチャカチャ
「殺してしまったから…あいつは自分を恨んでいる……自分さえ居なければあいつは自由になれる…」
伊58「…できたでち」スッ
呂500「アルコールが強いカクテルだからゆっくり飲んで下さいって」
「……」グイィ
呂500「あぁ…一気に飲んじゃったですって…」
伊58「……」
643 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/11/16(土) 20:55:38.63 ID:doTrlaF/0
「来る……あいつが自分の所に…」
呂500「お客さんべろべろですって」
伊58「これじゃ歩いて帰れそうに無いでち。タクシー呼んであげるでち」
呂500「分かりました!いつもの所に電話しますって!」
「来る……来てしまう………」
伊58「…お客さんもう閉店でち。お代を払ってくだち」
「…………はい…」ゴソゴソ
伊58「ちょうど頂いたでち」
「……」
伊58「お客さんは思い込みが激しいんでち。凹んだ時はこうやってお酒に頼るのも悪くないでちよ」
「……」
伊58「冷静に考えれば分かるでち、創作したキャラクターが現実に出てくるなんてあり得ないでち」
「そう…ですよね……」
伊58「ゴーヤ達でよければいつでも話を聞いてやるでち、また来るといいでちよ」
「ありがとうございます…」
伊58「…そういえばアイツとしか言ってなかったでちがそのキャラに名前ってあるでちか?」
「はい…」
伊58「ちょっと気になったから教えてくだち、なんていう名前でち?」
「やし…
きひ
644 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/11/16(土) 21:00:37.45 ID:doTrlaF/0
伊58「……ぅ…」
呂500「ん……んん……」
伊58「あれ…何が起こった……でち…」
呂500「でっち……?」
伊58「お客さんは……帰った…でち……?」
呂500「タクシー…まだ来てないです……」
伊58「まさか…薬とか飲まされて…ゴーヤ達が何かされた……?」
呂500「でも服は…乱れてません…って……」
伊58「……お金!飲み逃げでち!」
呂500「うぅん…ちゃんとレジにお金あります…」ガチャガチャ
伊58「……」
呂500「でっち…どうしますか……?」
伊58「…考えても無駄でち。気にするのは止めるでち」
呂500「分かりましたって…」
伊58(一瞬気を失う前に見たあの光景はなんだったんでち。お客さんが何かの名前を口にした瞬間……全てを包む闇のような…)
伊58(……)ブルッ
伊58(あれは触れてはいけないものでち。あの名前を口にすればゴーヤ達も……)
呂500「でっち…閉店準備しましょうって…」
伊58「…わかったでち」
きひ、きひひひ……
645 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/11/16(土) 21:02:12.09 ID:doTrlaF/0
Yに殺される夢を見たのを元に書きました。転んでもただでは起きないということで
それでは失礼します
646 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/11/16(土) 21:11:08.43 ID:N1O9MwsDO
おつです
ホラーテイストの展開好き
647 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/11/16(土) 21:22:22.02 ID:YTlxfBPko
乙おつ
Y子さんもそういう所あったし最大限好意的に捉えるとコイツもネタを提供しに来てくれた……?
ご自愛下さい
648 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/11/16(土) 21:32:15.64 ID:U1uB5/hpo
Y will return.
649 :
◆I4lwDj9Dk4S2
[saga]:2019/12/24(火) 23:44:51.59 ID:5HseLczs0
清しもの夜
ーー某所
清霜(今日のデート凄く楽しかったなぁ。何処に行ってどんなことをするのか、入念に下調べしてくれたんだね)
飛鷹「ふー…ふー…」
清霜(レストランは1ヶ月前から予約してたらしいし、プレゼントは3ヶ月前から用意してたって…気合い入れ過ぎだよ飛鷹さん)
飛鷹「ふー…んふー…!」
清霜(でも…それだけ大切に思ってくれてるってことだよね。そういう意味じゃ嬉しいな)
飛鷹「き……清…霜……あのね…」
清霜(龍驤さん達が悪いとは言わないけど、どこでもエッチしたりとかそういうのは私は嫌だなぁ)
飛鷹「こ、こここの後…行きたい所が…」
清霜(清く正しい付き合い。それが飛鷹さんと付き合う時に決めたこと。約束を破ったら知らないからねって飛鷹さんと約束したんだよね)
飛鷹「ふー…ふー……!」
清霜(はぁ……これが無かったら大人のお姉さんって感じで素敵なのに)
飛鷹「ほほ、ほ、ホテル……!」
清霜(本当にもう……仕方ないなぁ)
650 :
◆I4lwDj9Dk4S2
[saga]:2019/12/24(火) 23:50:56.88 ID:5HseLczs0
清霜「…いいよ、飛鷹さん」
飛鷹「へ?」
清霜「ホテル行こうよ」
飛鷹「ふぁっ!?」
清霜「…なに?飛鷹さんから言い出したんでしょ?」
飛鷹「ほ、本当に?本当にいいの!?」
清霜「今日の為にお店も予約してくれて、プレゼントまで用意してくれたよね」
飛鷹「清霜の為なら当然よ!」
清霜「清霜ね…お返しのプレゼント買って無いんだ」
飛鷹「お返しが欲しかったからじゃないの、清霜に喜んで欲しかったから用意したのよ!」
清霜「でもこのままじゃ嫌なの。だから……お返しに…」スッ
飛鷹「!?」
清霜「清霜のこと…好きにしていいよ」ボソボソ
飛鷹「オ"ッ…!!」ガクン
清霜「もう…ホテルに着く前にそんなので大丈夫?」
飛鷹「だ…だいひょうぶ……!」ボタボタ
清霜「興奮して鼻血出しちゃってるし…もう、しっかりしてよ?」
飛鷹「うぅん……!」
清霜(完璧な飛鷹さんより私はこっちの方が好きなんだろうな。あ、でも…できればエッチなのは控えて欲しいかな)
ーー
651 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/12/24(火) 23:51:50.47 ID:5HseLczs0
短いですがここまで
メリークリスマス
652 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/12/24(火) 23:53:52.02 ID:jPUc153Ao
メリクリ〜
こういう日常もっと見たい見たい
653 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/12/25(水) 00:10:53.56 ID:wFoKPxy2o
プレゼントありがとうございます!
ちょっと清霜小悪魔……?
やっぱり夕雲型なんですね〜
654 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/12/31(火) 08:30:36.14 ID:fQH11UZDO
>>632
から
バンバンバン!
狭い通路に銃声が鳴り響く
通路の奥にひしめく亡者の群の幾つかが銃弾を受けて倒れ、その後ろから更に別の亡者が押し寄せて来ていた
【こっちよ】
先導する富士さんを先頭にY子さん、新棲姫さん、呂500さん、島風、私こと朝潮、最後尾に早霜と隊列を組んでいた
艦娘の砲撃はこんな時には威力が高過ぎて使いづらいと富士さんが銃火器を用意してくれていた
私が撃ち漏らした亡者を早霜が叩き伏せる
【あの先に隔壁を閉じるポイントがあるわ。走って】
そう言って富士さんが立ち止まり入れ替わりに私達は駆け抜ける。その富士さんに亡者の群が掴みかかろうとする
【ふっ!】
富士さんが手刀を振り抜くと亡者達は弾き飛ばされ大きく後退させられる。その間に富士さんは私達追い付き隔壁を閉じた
新棲姫「はぁ…はぁ…」
「大丈夫ですか?」
新棲姫「何とかな…こんなに走ったのは久しぶりだ…」
早霜「とりあえずは一息吐けそうね…」
私達は今富士さんの移動要塞の内部に居る
655 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/12/31(火) 08:32:18.60 ID:fQH11UZDO
突然押し寄せた死者の群に私達は逃げるしかなかった
要塞内に入る直前に私達が見たのは亡者が連なり八島の空中要塞に群がる光景だった
しばらくはそれを蹴散らす爆音が聞こえていたが今はその音も聞こえない
いったい何が起きているのか外がどうなっているのか、解らない事だらけだ
ひとまず休憩を取る私はまず早霜に声をかけた
「そういえば早霜は…ええと…味方、でいいんですよね?」
あそこまで体を張った姿を見ておいて何だが確認はしておかなければ
早霜「…そうね…貴女達がそう思ってくれるのなら」
「でも私は前に…」
そうだ。私は早霜が奈落へと墜ちていく姿をはっきりと見ている。戻って来れるとは到底思えない
『あたし達は…早霜を複数見ているよね』
相変わらず元気の無いY子さんだったが疑問には答えてくれるようだった
『朝ちゃんが前に見た早霜は一番最初に死んだ早霜…あの人間に捕まった時の』
「あ…」
そうか…。整備士さんは早霜を捕らえて解剖していた。その時に既に…
『今ここに居るのは2回目の…菊月に仇討ちされて強い未練のままに死んだ早霜』
656 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/12/31(火) 08:35:21.72 ID:fQH11UZDO
早霜「…ええ、姉さんの暗示…そして私の仕掛けを解きたかったと…ずっとそれだけを考えていたわ…」
早霜はそう言って項垂れてしまった。髪の長さや雰囲気が幽霊のようだと思ったがまさに幽霊そのものな私達だったと思い直す
早霜「あれから…どうなったのかしら…時間の感覚も曖昧で、あの仕掛けは発動してしまったのかしら…ああ…朝霜姉さん…」
「大丈夫ですよ!」
早霜「…え?」
「貴女が決着を着けたんです、今の朝霜さんはすっかり元気ですよ」
そうして私はこれまであった朝霜さんに纏わる事を説明した
呪縛は完全に解けたと聞いた早霜は脱力したように呆けた後、静かに涙を流した
早霜「良かった…これでもう…未練は無いわ」
そして朝霜さんが司令官と龍驤さんの娘のような位置に収まっているという話になり
早霜「やっぱり…彼に任せて正解だった…」
と、安心したように微笑んだ
「早霜…いえ、早霜さん。未練は無いと言っても今は私達に力を貸してはくれませんか?」
早霜「…そうね、あんな存在が居たなんてまるで知らなかった、放っておいたらきっと姉さん達も危険…」
新棲姫「で、だ。そろそろ説明してくれるんだろうな。あの亡者達は何なんだ。前触れも無く現れた。…あんな大群が接近していたのに全く気付かなかった」
呂500「…突然現れたんですって」
657 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/12/31(火) 08:38:34.58 ID:fQH11UZDO
『…あたしが話すよ』
Y子さんが一歩前に出て私達に向き直る
『あれは今まで見てきた普通の死者の魂とは違うもの。あれも兵器「八島」の一部』
「それって…」
『「八島」という名前は何も強い力だけをもたらす訳じゃない。あの兵器が大勢殺したという事実も必ず付いて回る…それが形になったのがあの死者達。現象にまでなってしまった怨念』
新棲姫「八島はそれを解っていてあれを出したのか?」
『どうかな…多分大丈夫と高を括ってたんだと思う。亡者なんてどれだけ現れようが関係無いって』
しかし実際は倒しても倒しても湧いてくる亡者の群。どれだけ単体として強かったとしてもあの数はどうしようもないと思えてしまう
島風「これからどうするの?」
【そうね…朝潮、あの弾はまだ持っているわね】
「ええ」
『撃ち込もうにも射程内に近付けないよね…』
【まずは移動しましょうか、艦橋へ行くわ】
私達は通路を進み階段を上る。所々先の八島との戦闘で破壊され通れない道もありその都度迂回せざるを得なかった
658 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/12/31(火) 08:40:14.09 ID:fQH11UZDO
島風「そぉぉぉい!」
早霜「…鷹捲」
「伏せてください!」
ドゴォ!ズン!バンバンバン!
破壊された壁の隙間から亡者達が体を捩じ込んで侵入している区画があった
【引き返すしかないわね…ここの隔壁も閉じるわ】
群がる亡者をどうにか押し返し隔壁を閉じる富士さんだったが突然膝を着いてしまう
「富士さん!?」
【大丈夫…よ。今私が倒れる訳にはいかない…要塞が消えてしまう…】
そう言った富士さんの言葉に合わせて要塞内部が一瞬薄れかけて見えた
先の戦いのダメージはまだ癒えていないようだった。もし富士さんが倒れ要塞が消えれば私達は亡者の真っ只中に放り出されてしまう。その後にどうなるか…想像したくもない
私達は別の道から階段を上り要塞上部を目指す。途中にも亡者が侵入している区画がありその度に回り道を余儀無くされる
時に戦い、時に逃げ回り、ようやく艦橋に辿り着いた頃には全員疲労困憊だった
島風「ぜぇ…ぜぇ…みんな大丈夫?」
呂500「もう…歩けません…です…って」
新棲姫「ここが…ゴール…なのか?」
659 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/12/31(火) 08:42:47.47 ID:fQH11UZDO
【ひとまずは…戦えない子はここに居て頂戴。あとは無事な砲台まで行かないと…】
「砲台までって…つまり外へ出ないと駄目なんじゃ…」
早霜「今外に出たらあいつらに呑み込まれてしまうわよ…」
【…要塞に群がっている死者達を薙ぎ払うわ】
『そのダメージがトドメにならないといいんだけどね…』
【こ…根性で何とか】
『解ってるでしょ?お姉ちゃんはこれ以上のダメージには耐えられないって。立ってるのも辛い癖に…』
【じゃあどうしろっていうのよ…】
『あたしが引き付ける』
【な…何を言い出すのよ!】
『死者達は「八島」の力に引き寄せられてる…そしてあたしも同じ力を持ってる、あっちに比べては弱いけどね』
Y子さんが外への扉に手を掛ける
『死者達が離れたらあとは任せるからねー』
【呑み込まれたら貴女も取り込まれてしまうわ!】
『だからあたしが捕まる前によろしくー』
ガチャン
軽く手を振りながらそう言い残してY子さんは外に出て行ってしまった
660 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/12/31(火) 08:44:38.81 ID:fQH11UZDO
【あのお馬鹿!】
富士さんが珍しく罵倒の言葉を発する。後を追おうとするもふらついて壁に手を付いてしまう
「富士さん!そんな状態じゃ無理です!」
【せっかく…生まれたあの子が…こんな事は二度とあり得ないのに…】
オオオ…オオオオオオ!
死者達の声が聞こえ、そしてその群が移動を始める。Y子さんが自らを囮としてここから引き剥がしている。しかし…
早霜「まだ一部残っているわね…」
新棲姫「八島に近い位置に居るのはさすがに剥がせないか…より強い磁石のように」
「だけど行くしかありませんね」
【朝潮…?】
「もう一刻を争います。Y子さんが捕まる前に決着をつけないと」
島風「私も行くよ」
早霜「露払いは任せて頂戴」
「富士さんは二人をお願いします」
【え…?】
Y子さんの言った通り富士さんはもう限界だ。これまでずっと富士さんに守られていた私達はほぼ無傷、一時は消滅しかけた早霜さんも富士さんに力を分け与えられ調子が戻っている
661 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/12/31(火) 08:47:02.16 ID:fQH11UZDO
新棲姫「妥当な判断だな。足手まといのワタシが言うのも何だが」
呂500「ごめんなさいです…って」
【…私は、貴女達を守らなければならないのに…】
「たまには…私達が守ってもいいじゃないですか。ね?お母さん?」
【あ…】
島風「へ?この人朝潮のお母さんなの!?」
早霜「朝潮の、というよりは艦娘全ての…ね。でも私は違うのかしら…」
ボソリと早霜さんが呟く。傀儡から作られた艦娘やドロップ艦娘にはが無い。だとしても富士さんはそんな区別はしないように思う
「さあ!駆逐艦、朝潮、出撃します!」
【解ったわ…でも出来るだけサポートはする。これを】
そう言って富士さんは小型通信機を渡してくれる。そして島風、早霜さん、私の三人は移動要塞の外部へと出た
あれだけ群がっていた死者は今はまばらで要塞の後方、だいぶ遠くに大群を見付ける
島風「もうあんな遠くに…速いね」
Y子さんの姿は見えないがあの群の只中に居るのだろう。早くしなければ…
「そういえば八島は…う…」
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