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照「わたしに妹はいない」久「……そう」
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1 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2018/07/27(金) 14:41:52.18 ID:YwSoJMOz0
インハイ個人戦決勝
南四局・親:辻垣内智葉
智葉:11233@@AFGGHH
ツモ:2
智葉「……」
打:F
憩:AHH南南西西白白發發中中
ツモ:發
憩「……」
憩(出和了は厳しそうですよーぅ)
打:H
照:444BCDEF南南北北北 ツモ:E
照「……」
打:F
小蒔「…zzz」
小蒔:一一二四五六七八九九九白白 ツモ:三
打:白
憩「ポン」
打:H
照「……ツモ、1300・2600」
恒子『決まったーーー!今年の個人戦優勝は……これで二連覇達成、宮永照だぁぁぁぁ!!!』
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第71回全国高等学校麻雀選手権大会、その個人戦は宮永照の優勝という形で幕を閉じた。そして個人戦が行われる前に行われたもう一つの戦い、団体戦。
団体戦二連覇中の王者白糸台。海外の有力選手を呼び寄せて結成された臨海女子。ダークホース、清澄と阿知賀女子。四校による団体戦決勝は逆転に逆転を重ねるデッドヒートの末、清澄高校の優勝という結末を迎えていた。
清澄高校麻雀部部長、竹井久。彼女にとってその結末は高校三年間における一番の願いであり、あるいは唯一の願いだったかもしれない。久を知るものの多くはそう思っているだろう。
しかし、彼女の頭の中には一つ、この大会における心残りがあった。
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1532670111
2 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2018/07/27(金) 14:46:07.01 ID:YwSoJMOz0
「今さらだけど、このタイムスケジュールおかしいわよね」
「なんの話じゃ」
会場の近くにあるコンビニで買った六人分のタコスやら飲み物やら、私とまこはそれらの入った手提げ袋を揺らしながら部員たちのいる待ち合い室へと向かい廊下を歩いていた。
「この大会よ。ほら、個人戦の5位から16位を決める試合は決勝前には終わってるじゃない?」
「じゃのう」
「だったら決勝の間にその選手の分のインタビューとかは進めておけるでしょ。なんでそうしないのかしら」
疑問というよりは文句に近い口調で言う、けれど本気で不満には思ってない。
清澄高校からは二人の選手が全国大会個人戦に出場している。
咲と和、高校一年生ながらにして全国出場の権利を得た二人は、これもまた高校一年生ながらにして準決勝、ベスト16まで勝ち上がるという快挙を成し遂げた。
後輩がマイクを向けられる側に立つんだし嬉しくないわけがない。自慢じゃないけどちょっとくらいは彼女たちを育てられたと思ってるし、ほんの軽口だ。
「記者にも都合があるじゃろ、決勝観ずにインタビューなんかしとったら決勝に出た四人への質問とか困るじゃろうし」
「決勝とそれ以外で記者を別にすればいいじゃない」
「そんなに人手割けんわ普通」
「あーあー、ちゃっちゃと荷物纏めて引き上げたかったのに」
まこが呆れ顔を浮かべる。短くはない付き合いだ。冗談半分で言っていることはわかっているんだろう。そんな都合のいいことを考える。
「さっきの和への会見、20分近くかかってたのよ、予定だと10分なのに。スケジュールの意味なくない?」
「そりゃあ……まあ和だしのう。心配せんでも咲のは時間通り終わるじゃろ」
身も蓋もない言い方だとは思うが、確かにそうだ。去年の麻雀全中覇者であの容姿では仕方ない。
基本的には今後の抱負やコクマのことなどを形式的に聞いてインタビューは終わりらしいけれど、和は例外でいろいろ訊ねられたみといだ。
「マスコミも現金ねぇ」
わかりきっていたことを、何の気なしにごちる。
3 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2018/07/27(金) 14:47:04.07 ID:YwSoJMOz0
会話の一区切りとみたからなのか否か、まこの視線が前方に向きを変える。その先にある丸の下に三角というシンプルな絵を見て、まこが言う。
「……すまん、ちょっと寄ってええか」
「あら、トイレ?いいわよ、前で待ってるわ」
「ほい」
まこが荷物一式を手前に差し出す。はて、これはいったい。
「ええわ、先行っとれ」
えーっと、まこが持っているのはタコス4個と弁当二つ、それに緑茶一本。手持ちの鞄は持ってこなかったみたいだから、全部で3kgってところかしら。
私のも同じくらいだから倍で……。
「遠慮しなくても、待ってるわよ」
「遠慮なんかせんわ、冷えたもんとか炭酸もあるから先行け言うとるんじゃ。優希が腹空かして待っとるしのう」
「えー」
そう言われては弱い。去年までの可愛いげがあった後輩という像はどうやら鬼の被っていた皮だったみたいだ。一応抵抗してみよう。
「流石に一人で六人分は重いわよ」
「あんたぁいつもは京太郎にもっと重いもん任せとったじゃろ、もう試合にも出んのじゃからそのくらい働きんさい」
一蹴された。鬼というのは取り下げとこう、まこが鬼なら自分も鬼ということになってしまう。
「はぁ……わかった。先に待ち合い室戻るわね」
「わかればいいんじゃ」
渋々という顔を全面に出してアピールしてみるも特に気に止める様子もなく、まこは赤いほうのピクトグラムがぶら下がる部屋へと入っていった。
4 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2018/07/27(金) 14:49:29.31 ID:YwSoJMOz0
まこと別れてから一分ほど歩いたあたりだろうか。廊下を曲がったところ二台の自販機と人ひとりが立っていた。足が思わず止まる。
自販機は、飲料水を扱っているものとアイスを扱っているものが一台ずつ。
なんだ、ここに自販機があったならコンビニで買うこともなかったわね。自販機を目にした瞬間に思ったのはこんなところだが、固まった原因はそっちじゃない、立っていた人のほうにある。
「宮永、照」
……おっと、一応初対面だった。つい先ほどまでテレビに映っていた有名人がいきなり目の前にいたのだ、驚いても無理はないと思う。思うのだけれどまぁ言い直そう。
「えっと、宮永さん?」
「ん?」
咲のお姉さん、そして高校生麻雀チャンプ、宮永照。二言目で彼女がこちらを向く。
よかった、さっきの呟きは聞こえていなかったみたいだ。
「ああ、清澄高校の……部長さん」
「なんでこんなところに?記憶違いじゃなければもうすぐ会見だったと思うけど」
「今日は、インタビューまで少し時間があったから……」
「から?」
「その、トイレに行こうと……」
うーむ、どうにも歯切れが悪い。
テレビで見る宮永照はもっと溌剌としてるか、あるいは試合中の淡々と和了り続ける機械のようなイメージなんだけど。体調が悪いんだろうか。
いや、ああこの感じは覚えがある。
「もしかして道に迷った?」
「ウッ」
「ふふっ、や」
やっぱり姉妹なのね、と言いそうになるが、寸でのところで止める。危ない危ない、咲曰く『まだ姉とは話していない』らしいし下手なことはしないほうがいい。
5 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2018/07/27(金) 14:50:54.44 ID:YwSoJMOz0
「やっぱり、ホントに迷子なのね。よかったら案内しましょうか?」
返答を考えているのか二秒ほどの間を空けて返事がくる。
「オネガイシマス」
「ん、トイレでいい?」
「いや……出来れば会見のところのほうで、あと五分くらいしかないから」
「りょーかい、じゃあ行きましょうか」
そう言っていま来た方向に向きを変えると、宮永さんが二歩三歩後ろをついてくる。
ちょっと寄り道することになったけど一応人助けだし、皆も許してくれるはず。幸い、アイスの類いは買ってない。
「宮永さんって方向音痴なの?」
「む、心外。そんなことはない」
「あっちの方角わかる?」
前後の位置では話しづらい、軽くステップを踏んで後ろ歩きに切り替える。
「…東」
「……」
「じゃない、西」
「……」
「やっぱり東」
「どっち?」
「ひ、東」
「ファイナルアンサー?」
「ファイナルアンサー」
「……うん、オッケー」
ふぅ、と宮永さんが息を漏らす。ひょっとして、オッケーと言われて安堵したとかだろうか。
「麻雀やってるとたまにこんがらがるよね、東と西」
「ん? ええ、そうね」
答えが交互した弁明のつもりなのか、自分の発言にウンウンと頷いている。
ちなみに答えは北だ。
「えっと、地図とかは?さっきのとこにもあったと思うけど」
「さっきのとこ? ……ああ、あったね。チーズケーキ味、美味しそうだった」
アイスの話はしていないはずだけど、もしやジョークなんだろうか。彼女が真顔で言うので判断かね、スルーを決め込む。
「よくチームの人達とはぐれてたりとかない?」
「あるね。気付いたらいなくなってるとかたまに、いや結構あるかも。うちの部長にはもっとしっかりしてもらいたい」
やれやれ、とでも言いたげに宮永さんが目を細める。なるほど非常に共感できる。心労お察しします弘世さん。
「この前も虎姫で縁日に行ったとき、私がわたがし買ってる少しの間ではぐれるし世話が焼ける」
「へぇ、それは大変ねー」
「……冗談デス」
ありゃ、認めた。さすがに相槌が雑だったんだろうか、目線が右往左往と泳がせている。
ところでどこから冗談なんだろうか、出来れば出会い頭からであってほしい。
6 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2018/07/27(金) 14:53:38.35 ID:YwSoJMOz0
インハイチャンプでマスコミ対応も容姿も良い。世間では理想像のような扱いだけれど、いざ話してみると意外と隙があるように感じて少しホッとする。
「そうだ。前々から気になってたんだけど、宮永さんって読書家よね?」
「読書家……なのかな。好きっていうならそうかもしれない。どうして?」
後ろ歩きが危なっかしく映っただろうか。少し早足になり、宮永さんが横に来る。
「あ、やっぱり。試合前とかよく読んでるの見るから、機会があったら話してみたいなって思ってたのよ」
清澄麻雀部の部室には大量の本がある。特にやることがなかった二年間に、部費も使わなきゃいけないしと麻雀関係の買ってみたのが始まりだ。
おかげさまで今では咲と小説の話が出来るくらいにはいろいろと読むようになっている。
「普段はどんなの読むの?」
「何でも読む……けど、偏りってことならミステリが多いと思う。比較的古めの」
「ミステリーかぁ、ちょっと読むの疲れるイメージあったんだけど面白いわよね。古めって言うと、江戸川乱歩とか松本清張とか?」
「それも読んだことはあるけど、どっちかというと海外作家の作品かな。クリスティとかドロシーあたり」
クリスティは、そして誰もいなくなったとかポアロとかだっけか。ドロシーは……ドロシー・セイヤーズだったかな、作品はちょっと思い出せない。
「クリスティ! この前薦められてね、あれ読んだわよ。スタイルズ荘の怪事件」
「『エルキュール・ポアロ』シリーズの一作目ね、あれで処女作なんだからやっぱり凄いと思う。ポアロは他にも?」
「んー。読もうと思って手を付けたんだけど、なんかあれ30作品くらいあるでしょ? 少し滅入っちゃって、なにから手を付けたものか……」
「順番通りなら『ゴルフ場殺人事件』だけど、多いってことなら……『アクロイド殺し』がオススメ。シリーズ序盤だし、ポアロを知らなくても読める、あとミステリそんなに読まない人も楽しみやすい内容だと思う」
「お、そうなんだ。じゃあ今読んでるやつ読み終えたらそれ読もうかしら」
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