他の閲覧方法【
専用ブラウザ
ガラケー版リーダー
スマホ版リーダー
BBS2ch
DAT
】
↓
VIP Service
SS速報VIP
更新
検索
全部
最新50
【モバマス】Scarlet Days
Check
Tweet
201 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/07/22(日) 23:01:58.47 ID:ZGZ+MBEPO
痛そうな加蓮ちゃんの声が聞こえてきました。
可哀想ですね、唯一の心の支えだったのに。
それを、自分で壊してしまったカタチになっているんですから。
行き場の無いその想いは、是非とも自分にぶつけて潰れて頂きたいです。
まゆ「……さよなら、加蓮ちゃん……今までの楽しかった思い出は……全部、ニセモノだったんですね」
ピッ
まゆは通話を切りました。
これでも明日事務所に来たら、逆に加蓮ちゃんのメンタルに敬意を評したいくらいです。
まぁ、来れないでしょうけどねぇ。
まゆ「うふふ……ごめんね、加蓮ちゃん」
あの写真が公開されてしまえば、Pさんに迷惑ですから。
そんな事態にさせない為にも。
『写真をばら撒く』という行動の意味を無くす為にも。
加蓮ちゃんには、さっさと退場してもらわないといけなかったんです。
これでおそらく、あの写真が世に出回る事は無いでしょう。
だって、それをする意味が智絵里ちゃんには無いんですから。
あとは、Pさんの方ですねぇ。
十中八九、Pさんの方には『美穂ちゃんに送る』という脅しが掛けられている筈ですから。
ふむ……そっちは……
まあ、急ぐ必要も無いでしょう。
Pさんが精神的に弱って、まゆに相談してくるまで。
また、まゆは待つ事にします。
202 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/07/22(日) 23:02:27.71 ID:ZGZ+MBEPO
加蓮ちゃんからの連絡が途絶えて。
案の定、それから数日と経たないうちにPさんは全てをまゆに打ち明けてきました。
Pさんと二人で事務所の仮眠室で寝ている間に、Pさんのスマホはチェックしました。
指紋認証って、とても危険ですよねぇ。
意識が無い時、他者に指を乗せられるだけで解除させられてしまうんですから。
Pさんが寝ているうちに、パスワード何通りか試してみましょう。
美穂ちゃんの誕生日、Pさんの誕生日……外れ。
まゆの誕生日も外れ……じーざす。
あら、あらあら……1026で解除されました。
Masque:Radeとして初めて出した曲、Love∞Destinyの発売日。
うふふ……Pさんにとって、それだけ大事な想い出という事ですねぇ。
ついでに指紋認証にまゆの指紋を追加します。
あとついでにパスワードをまゆの誕生日にしておきます。
それだけで、Pさんと結ばれた様な気持ちになって。
まゆだって恋する乙女ですから、ね?
貴方は、誰かの涙に弱くて。
きっぱりと断る事が苦手な人で。
それなのに、人のせいにする器用さは持ち合わせていなかったから。
だから、まゆは。
『貴方は悪くありません』って、そう伝えるだけで良かったんです。
貴方が本当に求めていたのは。
好意や愛や優しさ以上に。
支えてくれる人、ですよね?
何があっても受け止めて、許して、味方でい続ける人。
それは絶対に、まゆしかいませんから。
203 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/07/22(日) 23:02:53.98 ID:ZGZ+MBEPO
それに、自分の弱さを見せる事も忘れません。
一方的に支えられるだけの関係は、Pさんにとって居心地の悪いものでしょうから。
お互いに支え合っている、という状況の方がすんなりと受け入れて貰えるから。
もちろん、まゆと結ばれてからは浮気なんてさせません。
貴方が断れないのであれば、誰にも近付けさせなければ良いだけです。
貴方の弱味は、誰かからの思いや言葉だけ。
なら、そんなの伝える隙間なんて作らせません。
まゆが、全部包んで。
他の人が貴方に付け入る隙なんてなくしちゃえば良いんです。
……少し疑問を覚えたのは、『既に美穂ちゃんには件の写真が送られている』という事でした。
どうやらまゆの読みは外れて、Pさんと加蓮ちゃんに対する脅しは逆だった様です。
……何故でしょう?
智絵里ちゃんの頭がそこまで回らなかった、とは考えられませんが……
まぁその疑問が解消される前に、智絵里ちゃんは亡くなってしまいました。
なら、考える必要はありません。
まゆは、振る舞えば良いんです。
Pさんの味方を。
大切な仲間を二人も失ってしまい、それでもPさんを支えようとする。
そんな、可哀想な女の子を。
204 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/07/22(日) 23:03:25.04 ID:ZGZ+MBEPO
Pさんと二人の同棲生活は、それは幸せなものでした。
一つ屋根の下、何度も何度も愛を確かめて。
しかもそれを、Pさんの方から望んでくれたんですから。
よっぽど精神的に追い詰められていたんですねぇ。
Pさんの心をまゆで埋め尽くすまでに、さほど時間はかかりませんでした。
美穂ちゃんとは、連絡を取らせない様にしました。
と言うより、仕事関係の連絡先以外は全て着信拒否にしておきました。
まゆは気遣いの出来る良い子ですから。
まぁ元より、Pさんは美穂ちゃんと積極的に連絡を取ろうとはしなかったでしょうけど。
少しずつ、少しずつ。
美穂ちゃんの事を、Pさんの心から消して。
あ、もちろん美穂ちゃんを完全に放っておいた訳ではありません。
無いとは思いますが、ストーキングや自殺なんてされたらたまったものじゃありませんから。
そんな事をしたら、またPさんの心に美穂ちゃんが入ってきちゃいます。
ですから、美穂ちゃんの方は李衣菜ちゃんに任せました。
Pさんが失踪して美穂ちゃんが傷付いてるかもしれないから、様子を見ててあげて下さい、と。
当然、まゆとPさんが同棲している事は隠して、です。
まぁ、もしかしたらバレていたかもしれませんが。
バレていても、もう問題ありません。
少し早かったかもしれませんが、これ以上もたもたしていられません。
思い詰めた美穂ちゃんが変な方向へ暴走する前に。
まゆがアイドルを辞めて。
二人で仙台まで引っ越せば、完成です。
まゆと、Pさんだけの。
誰にも邪魔されない世界。
205 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/07/22(日) 23:03:51.63 ID:ZGZ+MBEPO
そして、七月十六日、海の日。
まゆ「…………ねぇ、Pさん」
P「…………なんだ……?」
……なんて、頭の中では全て組み上がっていましたが。
思ったより、言葉にするのは難しくて。
まゆ「……まゆ、ちょっとだけ疲れちゃいました」
P「……頑張ってくれてたよ、まゆは」
まゆ「……だから、まゆ……」
大きく、息を吸い込んで。
目に、涙を浮かべて。
……本当に、長かったです。
ずっと、ずーっと。
待って、待って、待ち続けて。
ようやく、まゆは……
まゆ「……アイドル、辞めようと思うんです」
……正直なお話。
まゆは、本当にアイドル生活を楽しんでいました。
Pさんが振り向いてくれる日が来なかったとしても。
それでもずっと、続けてゆきたいって。
そう思っちゃうくらいには、大切で、幸せな想い出だから。
そして、それを終わらせて……
P「…………あぁ。お疲れ様、まゆ」
まゆ「…………はい……っ」
Pさんは、頷いてくれて。
感極まって、泣いちゃいました。
演技じゃない涙は、久し振りな気がします。
やっと、これで。
あの日からずっと願っていた事が……
206 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/07/22(日) 23:04:19.36 ID:ZGZ+MBEPO
まゆ「……楽しみですねぇ」
P「……あぁ、楽しみだ」
本当に、幸せでした。
これから始まる生活へ、夢へ、思いを馳せて。
Pさんと二人で、並んで。
手を繋いで歩く、そんな時間が。
……いつかは、きっと三人になるかもしれませんね。
なーんて……うふふ……
まゆ「でも、まずは今夜を楽しみましょう」
P「ん、なんか買って帰るか?」
まゆ「実は、冷蔵庫にケーキが入ってるんです」
P「海の日記念日?」
まゆ「Pさんなら、きっとまゆと一緒になる道を選んでくれると思っていたので……こっそり、用意していたんです。新しい、二人の門出に」
うふふ、と微笑んで。
握る手を強くします。
P「……新しい、二人……」
まゆ「はい。幸せな想い出を、これからも……」
ずっと、続けてゆきたいですから。
たくさん、増やしてゆきたいですから。
ピロンッ
まゆのスマホに、通知が入りました。
まゆ「むむむ……まゆのステキなセリフを邪魔するのは誰なんでしょうねぇ」
ぐぬぬ。
……あ、李衣菜ちゃんでした。
207 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/07/22(日) 23:04:50.42 ID:ZGZ+MBEPO
『今ちょっとお話出来る?まゆちゃんのマンションの近くに居るんだけど』
嫌な予感がします。
……Pさんには、聞かせない方が良さそうですねぇ。
P「ふう……さっさとシャワー浴びるか」
まゆ「…………すみません、Pさん。まゆ、ちょっとお夕飯の買い物に行って来ます」
P「ん?俺も付き合うぞ」
まゆ「いえ、お醤油を切らしちゃってるだけですから」
P「まぁ、まゆがそう言うなら」
まゆ「先にシャワーを浴びて待ってて下さい。うふふ、すぐに戻ります」
そう言って、まゆは一旦Pさんとお別れしました。
……さて、きっとこれが最後の山場です。
一度大きく息を吸って、李衣菜ちゃんに通話を掛けます。
まゆ「もしもし、李衣菜ちゃんですか?」
李衣菜『あ、こんばんはー。ごめんね?突然で』
まゆ「いえいえ、大丈夫です。それで、近くまで来てるんですかぁ?」
李衣菜『あーうん、話したい事があってさ。マンションの入り口からすぐの駐車場来れる?』
まゆ「そうですか……あ、ところで李衣菜ちゃん」
李衣菜『ん、何ー?』
……近くに、来ている。
そうですか、成る程。
嫌な予感というのは、それもあったんですねぇ。
まゆ「まゆの住所、いつ知りました?」
まゆの住んでいるマンションを、李衣菜ちゃんには教えていません。
だから、近くに来れる訳が無いんです。
李衣菜『……あれ?行ったこと無かったっけ?』
まゆ「ありません」
李衣菜『あ、こっち引っ越す前じゃん』
まゆ「うふふ、まゆは引っ越す前は寮暮らしです」
李衣菜『……げ……まずったなぁ』
208 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/07/22(日) 23:05:25.95 ID:ZGZ+MBEPO
……さて。
デタラメ言って、まゆとPさんの距離を離したかったんでしょうか?
でも、李衣菜ちゃんがまゆの住むマンションを知らなければその意味がありません。
……思案、頭を全力で回します。
現時点で李衣菜ちゃんは完全に信頼出来なくなりました。
いえ、元から全面的に信頼していたかと聞かれればノーですが。
それでも、まゆにかなり協力的で。
というよりは協力するよ?という姿勢で。
まぁまゆは断ってきましたが。
李衣菜『あ、でも行ったことがあるのは本当だよ?』
まゆ「嘘は結構です」
李衣菜『ほんとだってばー、駐車場行ってみれば分かるって』
たしかに、そうです。
まゆのマンションの入り口から一個先の十字路を曲がった所には、確かに駐車場があります。
けれどそれは、まゆのマンションだけには限定されません。
カマをかけるには、十分成功率は……
まゆ「……え……?」
駐車場には、人影が一つ。
暗くて良く見えませんが、確かに誰かが居ます。
まゆ「……李衣菜……ちゃん……?」
李衣菜『あ、ごめん。言い忘れてたけどさ』
少しずつ、その人影が近付いて来て……
209 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/07/22(日) 23:06:00.32 ID:ZGZ+MBEPO
李衣菜『話があるの、私じゃないんだ』
まゆ「………そんな……」
通話が、切られました。
そして、目の前に現れたのは……
加蓮「やっほ、まゆ。久し振り」
まゆ「…………お久しぶりです、加蓮ちゃん」
痩せ細った加蓮ちゃんでした。
……そう、ですね。
加蓮ちゃんは確かに、一度まゆの部屋に招いていますから。
三日月の光に照らされた加蓮ちゃんの顔は、不気味なくらい笑顔で。
とっさにまゆは身構えました。
加蓮「酷くない?久しぶりに会ったっていうのにそんな反応されると傷付くんだけど」
まゆ「……どうして、加蓮ちゃんが……?」
加蓮「……私が事務所に行かなくなってから、まゆが随分頑張ってくれたって話を聞いてさ」
まゆ「……誰に、ですか……?」
加蓮「ありがとね、まゆ」
まゆ「誰に、聞いたんですか?」
加蓮「それで、なんだけどさ」
まゆ「……李衣菜ちゃん、ですか……?」
少しずつ、加蓮ちゃんがこちらに向かって来ます。
仕方ありません。
まともに話し合う必要もありませんから、さっさと逃げて……
210 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/07/22(日) 23:06:27.95 ID:ZGZ+MBEPO
加蓮「……Pさんと一緒になれて、幸せ?」
まゆ「……ぁ……」
不味い、なんて。
そんな事を考える暇があったのなら、逃げるべきでした。
けれど、加蓮ちゃんにそう言われて。
まゆの心に、隙が生まれちゃったから。
加蓮ちゃんが飛び込んで来るのに対して、反応が遅れて……
ズブリ
鈍い感触、次いで鋭い痛み。
痛みの元であるお腹に手を伸ばすと、冷たい何かがまゆに突き刺さっていました。
まゆ「っっ!!痛っ、っうぅぅぅぅあぁぁぁぁぁっっ!!」
加蓮「ふざけないでよ!私にっ!対してっ!あんな事言っときながらっ!」
ずぶ、ずぶ、ずぶ。
何度も腹部に痛みが走ります。
まゆ「やめ……て……っ、いた……っっ!!」
加蓮「内心笑ってたのはアンタじゃん!ずっと!騙してたんでしょっ!!私から全部を奪っといて!!」
逃げ……ないと……
……痛い……お腹、痛い……
血、出てる……止めなきゃ…………
……あ……
……Pさんの子供、産めなくなっちゃう……
211 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/07/22(日) 23:07:00.68 ID:ZGZ+MBEPO
まゆ「ぅぁぁ……P、さん……ごめん…………なさ…………」
加蓮「あんたのせいで、私は全部を失ったんだから」
身から出た錆、ではありますが。
それでも、まゆは……
這い蹲りながらも、離れようとして……
加蓮「……部屋の鍵、出して」
まゆ「……ぅっ…………いや……です……」
ゴンッ!
まゆ「っぅあ゛ぁぁぁぁぁっっ!!」
加蓮「次は思いっ切り踏むよ」
っふぅー……ふー……
頭……痛い……
額からも血が流れて来ました。
視界がクラクラします。
痛みは全然減りません。
加蓮「ん、鞄の中?手離してくれる?」
まゆ「……おことわり…………します……」
加蓮「ふーん」
力の入らない手が蹴り飛ばされて、鞄の中身がばら撒かれました。
加蓮「あったあった。それじゃ、次はPさんだね」
まゆ「……まっ、って…………おねがい……だから……」
Pさんだけは……
加蓮「ダメ、まゆから全部奪うって決めたから」
……あ……まゆの、せいで……
まゆのせいで、Pさんが…………
まゆ「……ぅぁぁっ……っうぁぁぁぁぁっっ………っ」
加蓮「泣くの上手いよね、まゆは。私もすっかり騙されちゃったし」
そう言いながら、加蓮ちゃんはまゆの首に刃物を当てて……
加蓮「じゃあね、まゆ。もう二度と会いたく無いし、顔も見たくないから」
まゆの首から、沢山の血が溢れました。
212 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/07/22(日) 23:07:32.72 ID:ZGZ+MBEPO
ーーまだ、生きてる……?
あれは、夢だったんですかねぇ。
……残念だけど、現実だったみたい。
一瞬意識が飛んでた様です。
どの道、もう長くはなさそうです。
思考も、全然まとまらなくて……
……もう少しで、Pさんと……
…………涙が、止まりません……
痛い……助けて、Pさん……
あ……加蓮ちゃんを、止めないと……
……李衣菜ちゃんは、何を考えて…………
……あ……そっか……
まゆにだけじゃ、無かったんだ……
李衣菜ちゃんは、みんなに、全員に協力して……
……今更全部分かったところで、遅すぎるんですけどね……
意識が今にも飛びそうです……
今から警察や救急車を呼んでも、Pさんを助けられない……
……いえ、それはきっと……李衣菜ちゃんがするでしょう……
……なら、せめて……
プルルルル、プルルルル
美穂『はい、もしもし?あれ、まゆちゃん?』
まゆ「ひゅー……ふゅー…………」
声を出すのも、もう辛いです。
それでも……Pさんの為に……
美穂『どうしたんですか?大丈夫?』
まゆ「……み、ほ…………ちゃん……P、さん……を……」
守って、あげて下さい……
もしかしたら、ですが……
Pさんは、死なずに済むかもしれないから……
213 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/07/22(日) 23:08:03.28 ID:ZGZ+MBEPO
美穂『え、Pさんですか?今代わりますよ?』
…………え……
美穂ちゃん……何を……
美穂『えへへ、まゆちゃんです。はい、どうぞ』
それから、スピーカーの遠くから美穂ちゃんの独り言が聴こえてきました。
……うふふ……Pさんの声なんて、聞こえません……
美穂ちゃん、誰と喋ってるのかな……
美穂『はい、美穂に代わりましたっ!じゃあね、まゆちゃん!』
つー、つー、つー
……本当に……
全部、まゆのせいだと思うと……
こんなにも、辛いんですね……
Pさんの為に、Pさんの為に、って。
そう思って、全てをこなして来たから……
今こうして、自分のせいでPさんが酷い目に遭っているかもしれないと考えると。
…………みんな、こんなに辛い思いをして来たんですね……
まゆ「……P…………さ……」
瞼が、重くて。
まゆは、目を閉じました。
……ふふ、なんだ……
目を閉じたら、貴方の姿がそこにあって。
……なら、大丈夫です。
貴方が、そばに居てくれるなら。
まゆは、怖くありません……
まゆ「……ねぇ…………また、海に……」
行きましょう?Pさん。
まゆの事、連れてってくれますよね?
214 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/07/22(日) 23:08:50.01 ID:ZGZ+MBEPO
いやー、まぁ最初はそんなつもりは無かったんですけどね?
私、なんかみんなによく相談されたんですよ。
信頼されてたんですかね。
最初は美穂ちゃんからでした。
美穂「李衣菜ちゃん……どうしよ、私……智絵里ちゃんに応援するって言っちゃって……」
美穂ちゃんもPさんの事が好きなのに、智絵里ちゃんから相談されてついそんな事を言っちゃったみたいなんです。
そんな事言われても困るんですけどね。
だって私も、美穂ちゃんや智絵里ちゃんと。
まゆちゃんと、加蓮ちゃんと。
同じ人を好きになってたんですから。
あ、でも流石にそこで私もカミングアウトはしませんでしたよ?
私は私なりに、美穂ちゃんが一番傷付かないアドバイスをしたんです。
李衣菜「んー……ならさ、知らなかったフリすれば良いんじゃない?」
美穂「え……?」
李衣菜「その会話をしたのが美穂ちゃんと智絵里ちゃんだけならさ、美穂ちゃんが言わなければ誰も知らない訳だし」
美穂「……良いのかな……そんな事して……」
李衣菜「……美穂ちゃんも、好きなんでしょ?」
美穂「……うん」
李衣菜「なら、私は美穂ちゃんを応援するから。智絵里ちゃんより先に、Pさんと結ばれちゃお?」
美穂「……うん、李衣菜ちゃんがそう言ってくれるなら……わたし、そうしてみますっ!」
きっと、本当は美穂ちゃんもそんな言葉を望んでたんじゃないですかね?
なんとなく分かるんてすよね、そういうの。
だから、私はただ背中を押しただけです。
……だって、嫌じゃないですか。
自分のせいで、仲の良い誰かが傷付くなんて。
そう、ずっと。
私は、誰かの背中を押し続けただけでした。
215 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/07/22(日) 23:09:26.15 ID:ZGZ+MBEPO
智絵里「……お久しぶりです、李衣菜ちゃん」
李衣菜「やっほー智絵里ちゃん、ロックしてた?」
智絵里「ろ、ロックはしてなかったかな……」
二十歳になる少し前の智絵里ちゃんと、二人でガールズトークした時もです。
智絵里ちゃん、すっごく元気無かったんですよね。
李衣菜「最近どう?大学で恋人とか出来たりした?」
智絵里「……いない、です……わたしは……」
李衣菜「…………ねぇ、もしかしてさ。智絵里ちゃんも、Pさんの……」
ま、見てれば分かりましたけどね。
きっと、誰かに吐き出したかったんだと思います。
そういうのも、雰囲気とかで分かりますから。
智絵里「……ほんとは、わたし……美穂ちゃんに言ったのに……応援してくれるって、言ってくれたのに……!」
李衣菜「……そうなんだ……美穂ちゃんが……」
あちゃー……智絵里ちゃん、そんなに悩んでたんだ。
美穂ちゃんに酷い事させちゃったなぁ。
……なら。
李衣菜「……私は智絵里ちゃんの事を応援するからさ。今からでも……Pさんとの関係、取り戻してみない?」
智絵里「…………え……?」
李衣菜「正直私は、智絵里ちゃんとPさんが一番お似合いだと思ってたからさ。距離も一番近かった気がするし」
智絵里「そ、そう……かな……えへへ……」
李衣菜「うん、だからさ。もうすぐ成人でしょ?Pさんと二人で飲みに連れてって貰えば?」
智絵里「…………その時に、今度こそ……そしたら、わたし……」
……諦められる、かなぁ。
なんだか、諦めるみたいな感じになってるけど。
李衣菜「その時、ついでに思い出を作ってみたら?一生の思い出になるくらいとびっきりのをさ。写真に残しても良いし」
きっと、諦められないんだろうなーなんて思ってました。
智絵里「……うん……そうしてみる。ありがとう、李衣菜ちゃん……!」
李衣菜「悩んだらすぐ相談してね?ほら、安心と信頼の多田李衣菜ですから」
まぁ、案の定でしたけどね。
その頃から、ですよ。
色々と、頭を使い始めたのは。
216 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/07/22(日) 23:09:53.63 ID:ZGZ+MBEPO
加蓮ちゃんに、期限が金曜までのクーポンをプレゼントしました。
おかげで加蓮ちゃんは、その晩ちゃんと最寄りのファーストフード店に行ってくれて。
いやまぁ、アイドルになってもそんなクーポンに固執するなんて、って思うかもしれませんけどね?
加蓮ちゃん、人から貰ったものは大切にしますから。
きちんと使ってくれるだろうなーって信じてました。
無事、智絵里ちゃんとPさんの逢い引きを目撃してくれて。
加蓮『……どうすれば良いかな……これ、美穂にバレたらPさん絶対困るよね……』
李衣菜「うん、きっと『何でもするから美穂にだけは黙っててくれ』とか言うんじやない?」
加蓮『え……だ、だからってそんな事したら美穂にバレちゃうかもしれないじやん』
いや私何も言ってないけど。
……まあ、考えるよね。
Pさんの事が大好きな加蓮ちゃんなら。
李衣菜「うん、でもさ。どの道智絵里ちゃんがずっと続けたらいずれバレると思うよ」
加蓮『…………』
李衣菜「……きっとPさんなら加蓮ちゃんの事を拒まないと思うんだ。だってPさん、本当は…………あ、ごめん今のは聞かなかった事にして?」
加蓮『…………そう……なんだ…………そっか、へー……』
李衣菜「また何かあったら……あーごめん、これからしばらくテストで忙しいから連絡取れないかも」
加蓮『うん。ありがと、李衣菜』
217 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/07/22(日) 23:10:38.29 ID:ZGZ+MBEPO
それから、みんなの相談に乗り続けたんです。
なんでそんな事なんて思われるかもしれませんけど。
それはほら、私がPさんと結ばれる為ですよ。
でも、Pさんは美穂ちゃんと同棲してます。
だから、私は他のみんなの背中を押す事にしたんです。
いやいや、出来ませんって。
自分の手で誰かを苦しめる事なんて。
まぁ美穂ちゃんは最初から気付いてたみたいですけどね。
Pさんが他の子と関係を持ってる事くらい。
でも、気付かなかったフリを、知らなかったフリをする事に決めたそうです。
だって実際、以前はそれで上手くいってますから。
いつも通り、普段と同じ様に。
そうすればPさんは、いずれ必ず自分の元に戻って来てくれる、って。
今回ばかりは逆効果だったみたいですけどね。
智絵里ちゃんに、『脅しの内容は逆にした方が良いよ』って言ったのも私です。
だってPさんは、絶対逆らいません。
それは困るんです。
それだと美穂ちゃんの元に写真が送られるよりも早く、失敗った加蓮ちゃんのせいで世間に公開されちゃいますから。
私としては、あの写真がばら撒かれるのは困るんですよね。
せめてそれよりも先に、美穂ちゃんの元に送られてくれないと。
まぁ案の定加蓮ちゃんはすぐでしたね。
どうやらまゆちゃんに唆されたみたいですけど。
ましばらく事務所に顔を出さないレベルまでへし折られてるなんて、まさかでしたよ。
ほんと、嬉しい誤算でした。
厄介なまゆちゃんを後々退場させる手段が出来たんですから。
智絵里ちゃんはPさん相手に、『もうすでに美穂ちゃんに写真を送ってる』って伝えてくれました。
智絵里ちゃんからしたら、あまり隠す意味はありませんからね。
どの道Pさんは、写真が公開されたら困るから逆らえませんし。
それで動くのは美穂ちゃんです。
美穂ちゃんの望む『知らないふりを続ける』が出来なくなっちゃいましたから。
かなり怒ってましたね、あの時は。
余計な事をして関係に亀裂を入れた智絵里ちゃんを、それこそ殺しかねない勢いでした。
だから私は、智絵里ちゃん一人を呼び出すまではしてあげるって提案しました。
まあ美穂ちゃん、私が思ってた以上にエグい方法を選んできましたね。
大学の男友達と仲良しで良かったです、ってニコニコしながら言ってましたよ。
Pさんは丁度その前日まゆちゃんと事務所で過ごしてたので、Pさんのスマホを使うのは楽勝でした。
218 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/07/22(日) 23:11:04.44 ID:ZGZ+MBEPO
まゆちゃんなら絶対、パスワードを自分の誕生日にこっそり変えてくれるって信じてましたから。
あとはPさんと会ってこっそり智絵里ちゃんにラインを送って、こっちの画面だけでもそのやり取りを消去すれば終わりです。
タイミングの把握は余裕でした。
みんなと仲良しですから、どんな行動を取るかなんて手に取るように分かります。
智絵里ちゃんのリタイア後、Pさんの精神はかなり不安定でしたからね。
そんな中、美穂ちゃんがどんな事を考えて、どんな風に生きていこうと思ってるか。
それを知ったPさんが耐えられなくなって逃げ出す事も、想定通りです。
逃げ出した先でまゆちゃんに拾われるのも、もちろん。
完全に自分の独壇場だと思ってたでしょうね、まゆちゃん。
もう誰も邪魔する人がいないって思ってたんですから。
現に美穂ちゃんは完全に壊れてましたからね。
で、あとは加蓮ちゃんに連絡を取って……
いやぁ、そこが一番大変でした。
加蓮ちゃん、なかなか電話にも出ないしドアも開けてくれないしで……
早くしないとまゆちゃんが遠くへ越しちゃいますから。
割とギリギリでしたけど、間に合って良かったです。
まぁブチギレた加蓮ちゃんなら、何処に引っ越しても必ず見つけ出して殺しそうな雰囲気はありましたけど。
加蓮ちゃんに、今のまゆちゃんの事を話した時は……うへぇ。
自分が騙されてたと気付いて、すぐ飛び出して行きました。
後からすぐ電話して色々アドバイスはしましたけど。
いやー、色々頑張ったなぁ、私。
これ、誰かに褒められても良いと思うんですよ。
けっこーロックじゃないですか?
……さて、と。
それじゃ、あとは……
219 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/07/22(日) 23:11:31.97 ID:ZGZ+MBEPO
李衣菜「うっわー……サスペンスドラマで観た事あるよこれ……」
まゆちゃんのお部屋にお邪魔して、っと。
持って来た包帯とガーゼでPさんの傷口を強く塞ぎました。
救急車は既に呼んであります。
気が動転しちゃってたから、『怪我人は一人』って伝えちゃいましたけど。
まぁ大丈夫でしょ。
加蓮ちゃんはちゃんと死んでるみたいですから。
……うん、やっぱり。
裏切られたとは言え、愛しの人が確実に死ぬまで刺し続けるのは無理だったみたいです。
加蓮ちゃん、Pさんに対しては手加減してくれてました。
まぁ加蓮ちゃんは優しいですからね。
この後は警察から色々事情を聞かれるでしょうし、きちんとそれなりに筋道の立った説明をしないといけないですね。
ま、とはいえ色恋沙汰の末路でよくあるでしょうし、大丈夫なんじゃないですかね。
事務所的な事はちひろさんがやってくれるし、Pさんはまず間違いなくクビになりますから。
李衣菜「へへー……やっと二人きりですよ、Pさん」
邪魔になりそうな人はもう誰も残ってません。
Pさんには私しか残ってません。
……多分、気付かれてなかったんでしょうけど。
李衣菜「私も最初から好きだったんですよ?Pさんの事」
220 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/07/22(日) 23:12:12.67 ID:ZGZ+MBEPO
ピピピピッ、ピピピピッ
P「…………んん……」
朝、アラームの音で目を覚ます。
起き……なくていいな、今日は日曜日だし。
解除し忘れていた此方の落ち度だが、それでも安眠を妨げられた恨みをスマホに飛ばしておく。
まぁ起きてしまったのだからお手洗いにでも行こうと思ったが、冬の寒さに負け再び布団に潜り込んだ。
十二月に入って三度目の日曜日は、あいも変わらずこの冬一番の寒さを更新中で。
嫌になる程冷たい空気が、タイマーによって暖房の切れた部屋を埋め尽くしていた。
P「……ねむ……」
いや、まぁ正直そんなに眠い訳じゃないが。
それでも折角の日曜日な訳だし、もう少し惰眠を貪っていたい。
もぞもぞと布団の中で身体の向きを丁度いい感じに整えていると、隣からももぞもぞと動く音が聞こえてきた。
P「すまん、起こしちゃったか?」
李衣菜「ふぁぁー……まだ七時じゃないですか……」
P「悪いな、アラーム切り忘れててさ」
李衣菜「許しませーん……ぎゅぅーっ……」
李衣菜が寝転んだまま背後から抱き付いてきた。
まだ寝惚けてるんだろう、声がとてもふわふわしている。
P「あと三時間くらい寝るかー」
李衣菜「ですねー……」
抱き付かれているからか、さっきまでの寒さが薄れた気がする。
再び俺は目を閉じて、眠りの世界に戻ろうとした。
ーーあの日から、丁度五ヶ月。
俺はようやく、幸せな生活を送れていた。
221 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/07/22(日) 23:12:42.75 ID:ZGZ+MBEPO
P『…………俺……は……』
李衣菜『ぁ…………良か、った……Pさん……Pさん……っ!!』
意識を取り戻した時、一番最初に目に飛び込んできたのは李衣菜の涙だった。
重い瞼をなんとか開け続けて周りをぐるりと見回すと、見慣れない機器にカーテン。
ここは……天国、じゃないよな?
どうやらまだ死んではいないみたいだし、天国にしてはなんだか無機質過ぎる。
李衣菜『良かった……やっと目を覚ましてくれてっ……ほんとに良かった!!』
なる程、どうやらここは病院みたいだ。
なんで……李衣菜が……
待て……なんで俺は病院なんかに……
P『…………ぁ……』
そう、だ……
俺は確か、まゆの部屋に居て、まゆを待っていて。
その時、加蓮に……
P『っぁあぁぁっ、っつーっ!!』
李衣菜『ちょっ、無理しないで下さい!まだ塞がりきってないんですから!!』
全部思い出した。
俺は、加蓮に首を切られて。
そうだ、加蓮はどうなった?
また俺を殺しに来るんじゃ……
まゆは?まゆは無事なのか?!
李衣菜『……もう少し、休んでて下さい。次起きた時、全部説明しますから……っ!』
……そう、だな……
今はまだ、どうにも頭が回らない。
もう少し落ち着いてから、きちんと話を聞こう。
222 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/07/22(日) 23:13:12.85 ID:ZGZ+MBEPO
P『そう……か…………』
胸に、ぽっかりと穴が空いた様な気分だった。
全てを聞いた俺は、後から李衣菜が言うには今にも自殺しそうな表情をしていたらしい。
智絵里と違って、俺に自殺する勇気なんてないが。
P『二人とも……もう……』
李衣菜『……私が、もう少し早くに駆け付けてあげられてれば……っ!』
P『いい……李衣菜は悪くないよ……』
李衣菜『ごめんなさい……Pさん……』
P『いいって……助けてくれてありがとな、李衣菜』
李衣菜はあの時、まゆに呼ばれてマンションを訪ねたらしい。
何か相談がある、みたいな感じだったとか。
そして到着した李衣菜が部屋に入ると、俺と加蓮が倒れていて。
急いで救急車を呼んだが、俺しか助からなかった……
まゆは、近くの駐車場で……
発見された時点で、既に……っ!
P『っうゔっ!っふぅーっ、っゔぅっ!』
李衣菜『落ち着いて下さい……Pさん……辛いですよね……この話はこれくらいにしておきませんか?』
P『……すまん……そうしてくれると助かる』
223 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/07/22(日) 23:13:44.28 ID:ZGZ+MBEPO
もう、俺は全てを失ったんだ。
当然事務所はクビになった。
共に暮らしていたまゆはもういない。
美穂のところに戻れる訳もない。
李衣菜は毎日お見舞いに来てくれているが、それだって俺が入院している間だけだ。
李衣菜の生活だってあるだろうし、俺は邪魔にしかなっていない。
P『……もう、いいよ。ありがとな、毎日来てくれて』
でも……もう全部を失ったんだ……
もう、ほっといてくれ……
病院のベッドで、適当に生き延びて。
そこから先は、もう、どうでも良い。
李衣菜『……Pさん……』
P『……どうした……?』
李衣菜『……歯……食いしばって下さい……』
P『え……』
俺が聞き返すよりも早く。
ぱんっ
病室に、弱々しく渇いた音が響いた。
痛みは全然なかったが。
それが李衣菜に叩かれた音だと気付いた時には。
李衣菜の目からは、涙が溢れていて……
P『李衣菜……』
李衣菜『そんな……そんな事言わないで下さいっ!私がただ惰性で通ってると思ってるんですか?面倒だと思いながら通ってるって思われてるんですか?!』
李衣菜『私は……Pさんの事が大好きなんですよ!大切なんですよ?!これからも生きて欲しくて……なのに…………そんな事……』
李衣菜『全部失った?ふざけないで下さい!まだ私がいるじゃないですか!それともPさんにとって、私なんてこれからを生きる理由にはならないんですか?!』
李衣菜『まだ私がいますから!これからも、ずっと私がいますから!だから……そんな事……言わないで下さいよ……』
P『…………すまん……今のは……俺が、悪かった』
李衣菜『は゛い……Pざんが悪いでず……っ!』
そう、だったんだな。
俺の事を、そんな風に想ってくれてたんだな……
そんなに涙を流す程に、俺の事を……
なのに、俺は……
李衣菜『叩いてごめんなさい……返事はすぐじゃ無くても結構です。でも……退院した後の居場所はきちんとあるって事だけは、忘れないで下さい』
……なら、そうだな。
まずは、きちんと傷を治さないとな。
P『……ありがとう、李衣菜。少し元気が出たよ』
李衣菜『……っ、へへっ……少しでもPさんの支えになれてたら嬉しいですっ!』
そう言って、無邪気に笑ってくれて。
これから先の事にも。
少しだけ、光が射した気がした。
224 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/07/22(日) 23:14:23.32 ID:ZGZ+MBEPO
P「……ふぁぁぁ……」
再び目を覚ますと、スマホの画面は11:30
どうやら結構な時間の二度寝に成功していたらしい。
……あれから、色々あったな。
退院後に李衣菜の部屋にお世話になって。
最初は見てられないくらい暗かったらしいが、いつも李衣菜が話を聞いてくれて。
何度も線路に飛び込みそうになっては、結局踏み出せず心だけすり減り部屋に帰って。
また、李衣菜が俺を励ましてくれて。
俺は李衣菜に支えられて、なんとか人並みの生活を取り戻した。
ありがたい事に、再就職先はすぐ見つかって。
その晩、俺から李衣菜に告白した。
今までの感謝の気持ちと、これからも李衣菜と共に過ごしたいという願い。
李衣菜は、泣きながら笑って頷いてくれた。
それから、もうずーっとこうして。
幸せな日々を送っている。
以前と変わった事と言えば、共に暮らしているのが李衣菜になった事。
李衣菜「タバコはベランダで吸って下さいねー」
P「分かってるって」
ベランダに出て、タバコに火を点ける。
P「……ふぅー」
こうして、タバコを常用する様になった事。
李衣菜「お昼ご飯食べますかー?」
P「ん、少し待っててくれたら俺が作るぞ」
李衣菜「それじゃ待ってますから、一緒に作りましょうっ!」
そして。
以前以上に、平和で幸せな生活になった事だ。
もちろん喧嘩をしない訳じゃないし、怒られる事が無い訳でもない。
それでも、きちんと真正面から向き合って。
嫌われるかもしれないのにぶつかってくれて。
その上で、最終的には許して、仲直りしてくれる。
そんな生活が、此処にはあって。
俺が望んでいた幸せって、きっとこんな生活だったんだろうな、なんて。
そんな柄にもない事を考えてしまうくらいには、幸せボケしていた。
P「寒っ!外めちゃくちゃ寒いわ」
李衣菜「早く閉めて下さいって!暖房付けたんですから!」
がらがら
タバコを吸い終え、さっさと部屋に戻る。
この後はデートの予定だが、この寒さの中に外出となると若干気が滅入る。
李衣菜「はいはい、早く手伝って下さいって」
P「分かってるって。何作るんだ?」
李衣菜「そーですね……せっかく二人で作るんですから、今日はーー」
225 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/07/22(日) 23:14:56.49 ID:ZGZ+MBEPO
李衣菜「うっひょぉぉっ!ケバブ!肉!そしてお肉!」
P「そんなはしゃぐなよ……目立つぞー」
電車に乗って三十分、俺たちは人混みに溢れたデパートで買い物を終え駅前をぶらぶらしていた。
寒さは案外なんとかなるもので、歩きながら喋っているうちに気にならなくなっていた。
にしても流石日曜日、人が多くてはぐれそうだな。
手を繋いでいるから、そんな事は無いと思うが。
あっ痛い痛い引っ張らないで。
李衣菜「Pさんも食べます?」
P「俺はべつに」
李衣菜「すいませーん、ケバブ二つで!」
P「おい」
李衣菜「せっかく二種類ソースがあるみたいなんで、食べ比べしませんか?」
P「……せめて注文する前に聞いて欲しかったかな」
まぁ、構わないが。
断る理由なんて特に無いし。
李衣菜との思い出を増やせるのなら、むしろ。
P「けどまぁ、夕飯は入るようにしとけよー」
李衣菜「分かってますって。八分目までにしときますよー」
いやこの時間に八分目まで食べたら夕飯入らなくてないか?
屋台のおじさんから、それぞれ異なる種類のソースがかかったケバブを受け取る。
李衣菜「はい、あーん」
P「はやいはやい、せめてまずは自分のやつを一口食べようよ」
李衣菜「……いやでしたか?」
P「……いやじゃないけどさ」
李衣菜「はい、あーんっ!がぶっ!」
P「差し出しといてお前が俺のやつ食べるのかよ」
李衣菜「っあっつあっつ!!」
P「アホだろお前」
目の前で口元を押さえフォーっと呻いているアホが、この上なく愛おしい。
ちゃんと冷ましてから食べような。
226 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/07/22(日) 23:15:36.43 ID:ZGZ+MBEPO
そんな事を考えながら俺はケバブをかじった。
P「あっっつっ!!」
李衣菜「やーいバーカバーカ!」
P「くない。熱くない。微塵も熱くないけどそれはそれとして冷たいお茶が飲みたい」
李衣菜「熱いんじゃないですかー」
P「ぜんぜんあふくない」
李衣菜「舌まわってませんよ」
一息。
今度こそ軽く息を吹きかけ冷ましてからかじる。
……うん、美味しい。
李衣菜「あ、私の方も食べます?」
P「んじゃ、貰おっかな」
受け取ろうとする。
受け取らせてくれなかった。
P「……なんで?」
李衣菜「はい、あーん!」
P「……周りに人が」
李衣菜「どーせカップルしかいませんって」
P「いや普通にいるが」
李衣菜「はいっ!あーんっ!!」
これは断れそうにないなぁ。
観念して、俺は李衣菜が此方へ向けるケバブにかじりついた。
P「んぐっ……あっっつっ!!」
李衣菜「へへっ、ひっかかったー!」
P「くそ……」
一番肉が集まってて熱いとこ向けてきやがって……
李衣菜「美味しかったですか?」
P「あつくて分かんなかった」
李衣菜「へー、恋人に食べさせて貰ったのにそんな事言っちゃうんですねー」
P「恋人に罠に嵌められたからこんな事言ってるんだよ」
李衣菜「げ、Pさんお肉食べ過ぎですよ!」
P「お前がそこを向けてきたんだろ」
李衣菜「そっちの分貰いまーすあっっつ!!」
あぁ、バカだ。
でも、悪くない。
こんなやり取りを気軽に出来る関係になれて、心から幸せだった。
227 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/07/22(日) 23:16:49.42 ID:ZGZ+MBEPO
李衣菜「ふー……疲れたぁ……」
夜、重い荷物をお互い片手にようやく家までたどり着いた。
日は既に沈んでいて、夜風が非常に身に染みる。
P「結構歩いたな。夕飯どうする?」
李衣菜「せっかくですしピザでも取りません?」
P「ん、良いな」
チラシを眺めながら、二人で注文するピザを選ぶ。
滅多に頼まないから、こういう時結構悩むんだよな……
李衣菜「決まりました?」
P「……ハーフハーフにするか」
李衣菜「Mサイズ二枚にします?」
P「それなら四種類いけるな」
ピザ屋に注文の電話を入れ、それから今日買って来た荷物をばらす。
といっても、大体李衣菜の服だけど。
李衣菜「へへっ、楽しみにしてて下さいねっ?」
P「おう、楽しみにしてるよ」
それがお披露目されるのは、来週の月曜日。
十二月の二十四日、クリスマスイヴ。
その日のデートに着ていく服を購入するのが、今日の目的で。
P「振替休日で良かったな、ほんと」
李衣菜「ですねー。一日中一緒に居られますよ!」
P「あぁ、そうだな」
李衣菜と、ずっと一緒にいる事。
それは俺にとって、何にも代え難い一番の幸せだから。
228 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/07/22(日) 23:17:19.62 ID:ZGZ+MBEPO
P「ピザ来るまでまだ時間あるよな」
李衣菜「……えっ、今……ですか……?」
顔を赤らめるな、そういうつもりじゃない。
途中でピザ屋さん来た時どうすんだよ。
……まぁ、食後は、うん。
P「一服して待ってるかって意味だよ」
李衣菜「ベランダだと狭いと思うんでエベレストとかおススメですよ」
この季節にエベレスト。
死ねと?
いやエベレストならこの季節でなくても死ぬが。
一服にそこまで命をかけるつもりはない。
P「ごめんって、いや誤解させる要素全然無かった気もするけど」
李衣菜「あ、タバコ吸う前に……」
李衣菜が顔を近付けて来て。
ちゅっ、っと。
軽くキスをしてきた。
李衣菜「お帰りなさいのキスです、忘れてましたからね」
P「……李衣菜もお帰りなさいだから、俺からもしないとな」
李衣菜「あ、その分は食後に予約しておきますっ!」
予約とか出来るんだな。
そんな風に茶化して照れ隠しをしつつ、俺はベランダへ出た。
オイルが切れかけたライターを何度も回し、ようやく着火して。
タバコの先端に火を点け、ゆっくりと吸い込む。
229 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/07/22(日) 23:17:55.37 ID:ZGZ+MBEPO
ピンポーン
李衣菜「あ、もう来たみたいです。はーい、今出まーす!」
こんな風に、普通に幸せな生活を手に入れて。
あれからはもう、苦しい思いをせずに済んで。
そばに、李衣菜が居てくれて。
P「……幸せだなぁ」
クリスマスイヴ、楽しみだな。
信じている訳じゃないが、サンタからのプレゼントを一足先に貰ってしまって。
だからその分、その日は李衣菜に幸せをあげたくて。
そんな風に考えられる日々を、手に入れて。
P「……本当に、幸せだ」
もう一度、タバコを大きく吸い込む。
ライターのオイルは、完全に切れていた。
230 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/22(日) 23:18:31.13 ID:Tk7IDoTk0
あっ(察し)
231 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/07/22(日) 23:19:53.69 ID:ZGZ+MBEPO
とんとんとん
野菜を切って、お鍋に入れて。
朝はやっぱりお味噌汁ですよね。
朝ご飯は一日のパワーの源。
貴方にはいつでも元気でいて欲しいですからっ!
ぐらぐらぐら
湯だったお鍋を軽く掻き混ぜて、野菜を茹でて。
お味噌を入れるまでもう少し。
その間に、洗濯物を取り込んでおこうかな。
やるべき事は先に終わらせて、一日を満喫したいですからっ!
今日は日曜日、せっかくのデートですもんね。
帰って来てから取り込んで畳むなんて、したくないもん。
あ、それに……
今日は、ただの日曜日じゃないんです。
なんとなんと〜っ?
十二月のっ!十六日っ!
そうです、わたしの誕生日なんですっ!
……もう二十一歳かぁ……早いなぁ、歳をとるのって。
貴方には『まだまだ子供っぽいなぁ』なんて笑われる事もありますけど。
わたしだって、もう立派なレディーなんですからね?
洗濯物を畳み終えて、朝ご飯も作り終えました。
お味噌汁もご飯も、もうテーブルに並べ終わってます。
後は、愛しの貴方が起きてくるのを待つだけですっ!
まだかなぁ……前はわたしの方が朝遅かったのに、いつのまにかわたしの方が早起きさんになっちゃいました。
バタンッ
ドアの開く音が聞こえた様な気がします。
美穂「おはようございますっ、Pさんっ!」
Pさんが起きて来ました!
美穂「さ、もう準備は出来てますからっ!」
Pさんの席の反対側に座って、わたしもお箸を手に取ります。
美穂「それでは……いただきますっ!」
Pさんとの、幸せな一日の始まりです。
誕生日おめでとう、って。
Pさんは笑顔で祝ってくれました。
……ふふっ、良かった。
また、取り戻す事が出来て。
232 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/07/22(日) 23:21:07.70 ID:ZGZ+MBEPO
P『……もしもし、美穂』
美穂『あ、お疲れ様ですPさんっ!今夜は帰って来れそうですか?それともお仕事で帰って来れな』
ぴっ、つー、つー、つー
Pさんが家を飛び出して、何処かへ行っちゃった日。
それが、Pさんと交わした最後の電話になっちゃうんじゃないか、っね。
あの時、本当に不安だったんです。
言わなきゃ良かったのに、って何度も後悔して。
知らないフリをして、何も分からない様に振る舞えば良かったのに。
なのに、わたしは……
ーー何も知らないフリして、いつも通り幸せに暮らした方が良いと思いませんか?
そんな事、言った時点で全部が終わるって事くらい。
美穂『そのくらい、分かってたのに……』
……でも、まだ遅くありません。
今からでも、無かった事に出来ますから。
……だよね?李衣菜ちゃん。
わたしが全部無かった事にしちゃえば、またきっとPさんは戻って来てくれますよね?
李衣菜ちゃんが、何度もそう教えてくれたんだもん。
それでわたしは、Pさんと結ばれる事が出来たんだもん。
いつも通り、いつも通りです。
大丈夫、わたしなら。
誰よりも一番そばでPさんと過ごして来たわたしなら、きっと。
誰よりも一番、Pさんにとってのいつも通りを作れますから。
233 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/07/22(日) 23:21:45.58 ID:ZGZ+MBEPO
翌朝、いつも通りに朝ご飯を作りました。
Pさんは帰って来ませんでした。
その分はわたしが食べました。
『今夜はお夕飯一緒に食べられそうですか?遅くなりそうなら連絡貰えると嬉しいですっ!』とラインを送りました。
返信はありませんでした。
大学から帰って、期待を胸に部屋の扉を開けました。
Pさんは居ませんでした。
Pさんの分の朝ご飯はわたしが食べました。
誰も慰めてくれませんでした。
お夕飯を作って待ち続けます。
Pさんは帰って来ませんでした。
翌朝、わたしは早起きして朝ご飯を作りました。
Pさんは帰って来ていませんでした。
『今夜は帰って来れそうですか?』とラインを送りました。
既読が付きませんでした。
大学から帰って、今日こそはと部屋の扉を開けました。
Pさんは居ませんでした。
Pさんの分の朝ご飯はわたしが食べました。
野菜が少し傷んじゃってました。
お夕飯を作って待ち続けます。
Pさんは帰って来ませんでした。
『お夕飯、冷蔵庫に入ってます』とラインを送りました。
既読が付きませんでした。
翌朝も、わたしは早起きして朝ご飯を作りました。
Pさんは帰って来ていませんでした。
『今夜は帰って来れそうですか?』とラインを送りました。
既読が付きませんでした。
大学から帰って、きっと大丈夫って自分を慰めながら部屋の扉を開けました。
今日もPさんは居ませんでした。
Pさんの分の朝ご飯はわたしが食べました。
もう美味しくありませんでした。
お夕飯を作って待ち続けます。
Pさんは帰って来ませんでした。
『お夕飯、冷蔵庫に入ってます』とラインを送りました。
既読が付きませんでした。
234 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/07/22(日) 23:22:41.47 ID:ZGZ+MBEPO
それを毎日毎日、何日も繰り返しました。
日に日にPさんの私物が誰かに持ってかれちゃったので、直ぐに買い足しました。
泥棒だとしても、そんなのいつも通りじゃありませんから。
そんなの、認めません。
いつか、必ず。
Pさんは帰って来てくれる、って。
毎日ちゃんと早起きして、二人分の朝食を作って。
ねぇ、Pさん。
わたし、貴方より早起き出来る様になったんですよ?
夜も、Pさんが帰ってくるまで起きてまってて。
夜更かしの連続で、ちょっぴり肌が荒れちゃったかもしれません。
お料理、どんどん上手くなってるんですよ?
多分ですけど……もう、味が全然分かりませんから。
……正直、ちょっぴり疲れちゃってました。
それでも……Pさんが帰って来れる場所を用意しておかないと、って。
いつでも、いつも通りの生活に戻れる様に、って。
きっとお仕事が忙しいんです。
連絡する暇がないくらい、頑張ってるんです。
だったら、わたしも頑張らなきゃ。
寂しくて涙が出ちゃいそうな日もあったけど、そんな時にPさんが帰って来たら大変ですから。
なんとか抑えて、笑顔で過ごし続けたんです。
235 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/07/22(日) 23:23:07.86 ID:ZGZ+MBEPO
美穂『……Pさん……早く帰って来ないかな……』
夜、寝る前。
ぽつりと、呟きました。
……わたし……いつも通りの生活を送ってますよ……?
だから、Pさんも……
美穂『…………ぁ……』
涙で滲んだその先に。
Pさんの姿が、見えたんです。
ずっと待ち望んで、夢にまで見て。
そんな、愛しのPさんが……
声は聞こえませんでしたけど、『ただいま』って言ってるみたいで。
……泣いちゃいけません、驚いてもいけません。
普段通り帰って来た時と同じ様に、わたしは……
美穂『……っ、おがえり……なざい……っ!お夕飯、できてまずから……っ!!』
そこまで言って。
よっぽど、疲れてたのかな。
わたしの意識は、夢の世界へと吸い込まれていきました。
236 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/07/22(日) 23:23:49.17 ID:ZGZ+MBEPO
翌朝起きると、Pさんの姿はありませんでした。
でも、もう大丈夫です。
Pさんは、帰って来てくれたんですから。
きっともう、早起きしてお仕事に行っちゃったんです。
昨夜用意した夕ご飯は、少し減っている様な気がしました。
だから、大丈夫です。
朝ご飯も、用意してくれていったみたいです。
Pさん、忙しいのにありがとうございます。
でも、ふふっ。
昨晩の夕ご飯とメニューが一緒ですよ?
李衣菜ちゃんからの連絡にも、明るく返せました。
だって、大丈夫なんです。
Pさんは本当に、帰って来てくれたんですから。
Pさんは、帰って来てくれた。
だから、きっと。
今夜も、昨夜も。
わたしと一緒に、居るんです。
きっと今も、居るんです。
ーーーーーーーー
今一緒に居る様に振る舞えば、そう思い込めば。
未来のわたしは、勘違いして。
一緒に居たんだって、思ってくれるから。
ーーーーーーーー
……今、一瞬変な事を考えちゃった気がしましたけど、きっと気のせいですよねっ!
それから、わたしの生活はまた幸せなものに戻りました。
時折電話で変な事を言われたけど、多分それも気のせいです。
病院?大怪我?そんなの、わたしもPさんもしてませんから。
昨晩だって、その前の日だって。
わたしは、Pさんと一緒に過ごしたんです。
だから今も、一緒に過ごしてるんです。
美穂『ですよね?Pさん』
あぁ、そうだな。って。
そんな声が、聞こえた気がしました。
そうして、ついに。
二人で同棲生活を始めて、初めての。
わたしの誕生日が訪れました。
237 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/07/22(日) 23:25:11.23 ID:ZGZ+MBEPO
美穂「ふふっ、何処に連れてってくれるんですか?」
あ、忙しくて全然考えてなかったって顔してますよ?
もう、仕方ありませんね。
わたしがエスコートしてあげますからっ!
来年の誕生日……ううん、今年のクリスマスはPさんがエスコートして下さいね?
家を出て、行ってきますのキスをして。
二人並んで手を繋いで、駅まで向かいます。
手、寒いなぁ……
でも、手袋なんてしちゃうとPさんの手の温もりが伝わってきませんから。
こうして手を繋いだ方が、きっと温かいに決まってますよねっ!
心があったくなったからかな?
なんだか手も温かくなった気がします。
目的の駅に着いて、二人でデパートを巡ります。
美穂「どれが似合うと思いますか?Pさん」
……迷わないでビシッと決めてくれたら嬉しいのに。
あ、でもこっちも似合う……いやいやこっちの方が、って悩んでるみたいです。
そういうのって、嬉しいですよね。
大好きな人が、わたしの事を考えながら選んでくれるって。
Pさんに選んでもらった服を持って、お支払いを済ませました。
美穂「えへへ、プレゼントしてくれてありがとうございますっ!」
クリスマスもとっても楽しみですっ!
大切にしないといけませんね。
恋人になったPさんからの、初めての誕生日プレゼントですから。
美穂「さてと……そろそろ帰りますか?陽が暮れると寒いですから」
もう十二月ですから、夜になれば今よりもっと寒くなっちゃいます。
今日は帰って、おうちで二人っきりでのんびりしたいな。
Pさんもそれが良いって言ってくれたので、デパートから出て駅に向かいました。
駅前のロータリーは、もう既にクリスマスカラーに染まっていました。
来週だもんね。
来年もまた、連れて来てくれますよね?
信号待ちしてる間、ずっともみの木を見つめていました。
夕方になれば、イルミネーションが光るのかな。
それを見てから帰ろっかな、なんて。
そんな事を考えながら。
青になった横断歩道を渡っている。
そんな時でした。
238 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/07/22(日) 23:25:53.59 ID:ZGZ+MBEPO
「うっひょぉぉっ!ケバブ!肉!そしてお肉!」
「そんなはしゃぐなよ……目立つぞー」
バクンッ!
心臓が跳ね上がりました。
今の……声……
気のせい……かな……
真横で、ありふれたカップルの会話が聞こえてきて。
見なければいいのに、振り返らなければ良かったのに。
やめといた方が良いんじゃないか?って。
隣にいるPさんが言ってくれたのに。
わたしは、振り返っちゃいました。
そして、すれ違ったカップルの姿が目に入って……
美穂「っっ!っぅうぅぁっ!!」
グラグラと、足場が揺れた気がしました。
心臓がバクバクして、なにも考えられません。
なんだか耳鳴りまでしてきました。
今、の……
あの二人は……
女の子の方は……李衣菜ちゃん、だよね……?
……じゃあ、あの男の人の方は……
考えない方が良い。
そうPさんは言ってくれたけど。
でも、あれは。
ほんわりと、一瞬だけど。
何処かで嗅いだ事のあるタバコの匂いがした、あの男の人は……
美穂「……P…………さん……?」
そんな事……ありません……
……ダメ……考えちゃダメ……!
あれは違う!見間違いに決まってます!
美穂「……ですよね、Pさん……?」
……隣に立つ貴方は、何も言ってくれませんでした。
どうして……?
ダメ、忘れて。
なんで……?
ダメ、見なかった事にして!
Pさん……?
ダメ、気付かなかった事にして!!
239 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/07/22(日) 23:26:27.80 ID:ZGZ+MBEPO
美穂「……あれは……違う……違います……似てるだけ、だから……」
考えちゃいけない事を考えそうになって。
思い出しちゃいけない事を思い出しそうになって。
これを思い出したら、自覚したら。
全部が終わっちゃう、って。
そう、確信したから。
ーーーーーーーー
だったら。
偽物(ホンモノ)がいなくなれば。
もう、考える必要も無いよね?
今後不安になる事も、思い出しそうになる事も無いよね?
ーーーーーーーー
美穂「…………あっ」
……ふふっ。
何を考えてたのかは分かりませんけど。
妙案を思い付きました。
なんでそんな風に決めたのかは分かりませんけど。
きっと、これなら。
わたしは、これからも……
美穂「ごめんなさい、Pさん。わたし、ちょっと用事が出来ちゃいましたっ!」
Pさんと一旦別れて、わたしは先に家に戻りました。
良かったです、ちゃんとお手入れしてて。
普段からお料理で使ってますから、切れ味はわたしの折り紙つきですっ!
これなら、きっと。
すぐに、なかった事に出来ますよねっ!
240 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/07/22(日) 23:27:54.21 ID:ZGZ+MBEPO
冬の夜道を、わたしは一人で歩きました。
寒いなぁ……早く、Pさんの隣に戻りたいなぁ……
全部済ませて、お家に帰って。
あったかい部屋で、Pさんと二人っきりになって、一つになって。
……震える手で、わたしは鞄の中に手を入れました。
美穂「……あれっ?」
気付けば、Pさんがわたしの手を握ってくれていました。
なんで居るのか分かりませんけど、別に考えなくても良いんじゃないかなって思うんです。
そんな事よりも。
Pさんが隣に居てくれてる事が、嬉しくって。
美穂「ふふっ、Pさん……っ」
勇気が湧いてきました。
不安なんて、もうありません。
気付けばPさんの姿は無くて。
さっきまで繋いでいた手は、柄を握ってたけど。
……きっとPさんが、背中を押してくれたんですよね。
だったら……わたし、強くならなきゃ。
美穂「えへへ。わたし、とっても幸せです……っ!」
241 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/07/22(日) 23:28:50.78 ID:ZGZ+MBEPO
目的地に到着です。
そして、インターフォンのボタンを押しました。
「はーい、今出まーす!」
部屋の中から声が聞こえました。
そして、鍵の外れる音。
それと同時に、わたしは腕を振り上げました。
美穂「……ふふっ、Pさん。見てて下さいね、ずーっと!」
Scarlet Days 〜Fin〜
242 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/07/22(日) 23:29:16.10 ID:ZGZ+MBEPO
以上です
お付き合い、ありがとうございました
243 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/22(日) 23:36:36.54 ID:d3Kmeu36o
面白かった乙
Pa担当ならこんな事には…
244 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/23(月) 00:42:04.89 ID:geGG6QQZo
りーなは癒やし…
そんなふうに考えていた時期が俺にもありました
245 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/23(月) 00:55:21.74 ID:1mmKf0SA0
最後に何が残るのか気になって読んできたが
案の定何も残らなくて残念
Pが空虚すぎて争奪対象として腑に落ちない感が次第に強まった
246 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/23(月) 01:01:02.66 ID:pdlou/pko
お疲れ様でした
みんな仲良く全滅ENDですね(白目)
247 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/23(月) 01:01:37.36 ID:pdlou/pko
お疲れ様でした
みんな仲良く全滅ENDですね(白目)
248 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/23(月) 01:02:23.32 ID:pdlou/pko
連投申し訳ありません
249 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/23(月) 07:56:58.83 ID:ShCiOANDO
あっちの世界では皆で仲良く出来そうですね
250 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/26(木) 04:29:43.99 ID:zWbOFAQ5o
ギャルゲーマスカレが好きなだけにこれはつらい
357.94 KB
Speed:0.1
[ Aramaki★
クオリティの高いサービスを貴方に
VIPService!]
↑
VIP Service
SS速報VIP
更新
専用ブラウザ
検索
全部
前100
次100
最新50
新着レスを表示
名前:
E-mail
(省略可)
:
書き込み後にスレをトップに移動しません
特殊変換を無効
本文を赤くします
本文を蒼くします
本文をピンクにします
本文を緑にします
本文を紫にします
256ビットSSL暗号化送信っぽいです
最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!
(http://fsmから始まる
ひらめアップローダ
からの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)
スポンサードリンク
Check
Tweet
荒巻@中の人 ★
VIP(Powered By VIP Service)
read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By
http://www.toshinari.net/
@Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)