千歌「勇気は君の胸に」

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102 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/08/09(木) 00:54:04.56 ID:XZZbtofl0


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




〜同日 夜〜



曜「んん! このハンバーグ美味しいね!」

千歌「……」モグモグ

曜「本ッ当に美味しくてジューシーだよねー。値段の割にサイズも大きくてさ!」

千歌「……ん」モグモグ

曜「どこ産の鶏肉なんだろうねー? どう思う千歌ちゃん?」

千歌「……」モグモグ

曜「……」モグモグ


少ししてから小声で『ハンバーグに鶏肉は無いだろー……』っと言っているのが聞こえた。

ゴメン曜ちゃん、重い空気を和ませようとしてくれたのは分かってるけどさ

正直それどころじゃないし、そもそもボケがよく分からなかったよ。


曜「―――行くんだよね?」

千歌「えっ」
103 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/08/09(木) 00:56:48.33 ID:XZZbtofl0
曜「あれ、違うの?」

千歌「い、いや……それは…」

曜「覚悟がどうとか怖いこと言っていたけれど、千歌ちゃんからしてみれば行く以外選択肢が無いもんね」

千歌「そうかな…まだ会ってないメンバーも居るし、そのメンバーと会ってからでも遅くないんじゃないかな?」

曜「偽名を使っていた三人を除くと、あと会ってないのは『ダイヤさん』、『マリさん』、『ヨシコちゃん』だったっけ?」

千歌「うん」

曜「確かにこの三人に会うまで考えるのもありだとは思う。でも、いつ会えるの?」

千歌「いつって……そんなの分かる訳ないじゃん」

曜「だよね。千歌ちゃんはいつ会えるか分からない人をずーっと待ち続けるつもり? 間違いなく果南ちゃんはいつまでも同じ場所には居ない。数日もしたらどこかに行ってしまう」

千歌「……」

曜「行くなら出来るだけ早い方がいい。何なら明日の朝一で行く方が―――」



千歌「……何さ、曜ちゃんはそんなに早く私から別れたいんだ」
104 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/08/09(木) 00:59:02.93 ID:XZZbtofl0
曜「はい?」

千歌「まぁそりゃそうだよね。曜ちゃんは王都に行くのが目的だもん。このまま大人しく過ごしていれば普通に入れる」

曜「あ、あの……」

千歌「わざわざ“世界を敵に回すかもしれない”なんてとんでもない危険を冒す必要も無い……」

曜「ちょっとあの……」

千歌「だからさ、果南ちゃんには私一人で会いに行くよ」

曜「……!」

千歌「これ以上曜ちゃんを巻き込むわけにはいかない。私は元の世界に帰れば終わりだけれど、曜ちゃんにはその後がある。仮に果南ちゃんに会った事で曜ちゃんの立場が悪くなっちゃったら嫌だもん……だから―――」



曜「―――いやいや、私も一緒に行くけど?」



千歌「……は?」

曜「って言うか、さっきの一言は心外だなぁ。私が早く千歌ちゃんと別れたい、だなんて思う? ……って、思われたから言われたのか」ガックシ

千歌「そ、そうじゃないけど……私の話本当に聞いてた!?」

曜「私の立場が悪くなるってやつ? 大丈夫大丈夫、 千歌ちゃんが気にする事じゃないよー。王都に行くのだって今は別にって感じだしさ」ニヘラッ

千歌「……笑い事じゃないよ!!!」ガタンッ!!

曜「うぉッ!!?」ビクッ!!

千歌「何で……何でそんなに能天気なの!? もっとよく考えてよ……!!!」

曜「……考えたよ」
105 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/08/09(木) 01:00:16.21 ID:XZZbtofl0
曜「考えて考えて考えて、出した答えがこれ」

千歌「どう、して……だって…」

曜「逆に聞くけどさ、千歌ちゃんはどうして私の心配をしてくれるの?」

千歌「どういう意味?」

曜「私は千歌ちゃんの知ってる『渡辺 曜』じゃないからどうでもいいじゃん。別人なんだから帰った後の心配までする必要無いでしょ?」

千歌「違う…違うよ!! 確かに曜ちゃんは私の知ってる曜ちゃんとは違うかもしれない……でも幼馴染みじゃなくても、友達じゃなくても、私にとってはどの曜ちゃんも大切だもん!!」

曜「……」

千歌「だから、その、ええっと……ああもう上手く言えない! とにかく私はどうでもいいだなんて一ミリも思ってないんだから!!!」

千歌「…はぁ、はぁ、はぁ」

曜「……ふふ」ニコニコ

千歌「な、何さ……」

曜「いやー、千歌ちゃんは優しいなって思って」

千歌「優しいって……私は当たり前の事を言ってるだけだよ…」

曜「ううん、千歌ちゃんは優しいよ。私にはこんなに自分の事を想ってくれる友達は居ないから」

曜「……そっちの私がちょっと羨ましいな」ボソッ

千歌「曜ちゃん……」



曜「昨日も言った通り、私はどんなことがあっても元の世界に帰るまで千歌ちゃんを守るよ」

千歌「……本当にいいの?」

曜「勿論! たとえ火の中水の中、私はどこへでもついて行くであります♪」ニッ

106 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/08/09(木) 01:01:48.71 ID:XZZbtofl0
ここまで
コメントありがとうございます!
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/09(木) 14:49:26.99 ID:sRwPMWvh0
おっ、続き来てた

無理しないでまたよろしく
108 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/08/20(月) 00:40:15.46 ID:z49Th79Z0
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





〜旧虹ヶ咲領 南部〜



この島は元の世界の静岡県とほぼ同じ形をしている。

曜ちゃんの説明によれば、私が最初に目を覚ました場所の浦の星王国は元の世界で言う所の『伊豆』

音ノ木坂王国は『遠江』

そしてこれから向かう虹ヶ咲王国は『駿河』にあたる場所に領土を持っていたらしい。

ただ写真で見た限り地名や街並みまで一致している場所はほとんど無かった。

今は島全体が浦の星王国となっているから名前の最初に“旧”と付いている。


私達はバスをいくつも乗り継ぎ、半日かけてこの終点まで訪れた。

バスでの移動はここまでで後は徒歩での移動になる。



千歌「ねえ、曜ちゃん」

曜「ん?」

千歌「果南ちゃんの居場所が旧虹ヶ咲領だって知った時にさ……」




曜『旧虹ヶ咲領って……そんな危険な場所に行けっていうの!?』




千歌「―――って言っていたじゃん? だから、その、何と言いますか、風景ももっとこう…世紀末感が漂っているイメージをしていたんだよね」

曜「世紀末って……一応浦の星の管理下に置かれているわけだから整備はされているよ」

千歌「でも浦の星と比べると文化的な建物が少ない気がする」

曜「確かに昔ながらの作りの建物ばかりだね。森や畑、田んぼばっかり」

千歌「前からこんな感じの場所だったの?」

曜「小さい頃パパと一緒に来た時はもっと栄えていたよ。多分先の戦争で全部壊れちゃったんだと思うよ」

千歌「戦争……そうだったね」
109 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/08/20(月) 00:46:42.36 ID:z49Th79Z0
曜「でも危険なのは違いないと思う」

千歌「何があるのさ?」

曜「ここには浦の星に敵対する勢力が多く潜伏しているって噂があるの」

千歌「数多く? 敵対組織は一つだけじゃ無いの?」

曜「らしいよ」

千歌「本気で倒すつもりなら力を合わせた方が……」

曜「どの勢力も最終目標は女王を倒してその座を奪う事のはずだから、同盟を組むと後々面倒なんじゃない?」

千歌「そういうものなの?」

曜「さあ? 流石に私も詳しくは分からないよ」

千歌「果南ちゃんのグループには一体誰がいるんだろう……?」

曜「とにかく南に向かおう。街があったら手あたり次第探す作戦で!」

千歌「それは作戦になってるのかなぁ」ウーン



私達は取り敢えず南へ向かって歩き出した。

歩いても歩いても見渡す限り田んぼと畑しかない。


それに空気もやたら重く感じる。

畑仕事をしている人、稀にすれ違う人、家の庭で座り込んでいる人

どの人も酷く疲れ切っていて全く活気が無かった。


浦の星を少し離れただけでこれ程までに変わってしまうものなの?

扱いの差が明らかに激しい。

いくら昔争っていたとは言っても、今は同じ国民なのに……



千歌「―――女王様はどうしてこの現状を放っておいているのかな…?」

曜「……」

千歌「……ごめん、曜ちゃんに聞いても仕方ない事だよね」

曜「へ? 何か言った??」

千歌「あー…聞いてなかったのね」

曜「ごめんごめん、ちょっとあそこに居る二人が気になってさ」

千歌「あの正面の木の下に居る小さい女の子達の事?」



少女A「大丈夫!?」

少女B「……うぅ、い、いたい、痛いよぉ」ポロポロ

少女A「だから危ないって言ったじゃん!」

少女B「う、うええぇぇぇん」



千歌「―――様子を見に行った方がよさそうだね」

曜「だね。おーい、君達どうしたのー」
110 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/08/20(月) 00:56:09.25 ID:z49Th79Z0
少女B「……ひっく、ううぅぅ?」

少女A「だ、誰ですか!?」ビクビク

曜「怖がらなくていいよ、私達は怪しい者じゃ無いからさ」ニコニコ

少女A「怪しい人はみんなそう言って近づいて来ます!」

少女B「ホシゾラさんから教わったもん!」

千歌「“ホシゾラ”?」


ホシゾラって、あの星空……? まさかね。


曜「あはは……ちょっとその足見せてね」スッ

少女B「ッ!! 痛ッ!!」ズキンッ!!!

曜「うーん、この腫れ方だと折れてるかもしれない」

千歌「この木で遊んでて落っこちちゃったの?」

少女B「…うん」

曜「結構な高さから落ちたんだね。頭からじゃ無くて良かったよ」ホッ

千歌「何とか出来そう?」

曜「簡単な応急処置と痛みを和らげるくらいなら出来るかな。ねえ、近くに病院はある?」

少女A「ううん。でもホシゾラさんの所に行けばきっと治してくれます!」

曜「そっか。よーし、ちょっと我慢してね」カチッ!!



―――バシュッ!!



少女B「箱から何か出てきたよ!?」

少女A「綺麗な青い炎……!」パアァ

千歌「匣兵器を使うの?」

曜「うん。雨コテ(サルダトーレ・デル・ピオッジャ)っていう医療用の匣兵器だよ」

千歌「医療用もあるんだ」

曜「これは雨の鎮静で痛みを抑えるだけだけどね。何もしないよりはマシでしょ」



曜は先端に青い炎が灯ったコテを変色した患部へ押し当てる。

一瞬、ジュッっと肉が焼けるような音がしたが少女は熱がる素振りは見せなかった。



少女B「凄い……もう全然痛くないよ!」ブンブン!

曜「こらこら、治った訳じゃ無いんだから! しっかり固定するまで動かさないで」
111 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/08/20(月) 00:59:15.57 ID:z49Th79Z0
少女A「お姉さんはホシゾラさんと違って青い炎なんですね!」

千歌「ホシゾラさんは何色なの?」

少女A「黄色です。ホシゾラさんはどんな怪我でもすぐに治してくれるんですよ!」

曜「黄色、黄色かぁ……黄色は確か『晴』だった気がするな」

千歌「『晴』ねぇ。話を聞く限り、治療に関する特性があるみたいだね」



曜「―――これでよし! 手当は終わったよ」

少女B「ありがとう、お姉ちゃん!」ニッ!

曜「どういたしまして♪」ニコッ

千歌「ホシゾラさんの所まで私がおぶって行くね」

少女A「そんな! そこまでしてくれなくても……」

千歌「いいのいいの。もうこの子も乗ってるし」

少女B「えへへ」

少女A「いつの間に……」

曜「ホシゾラさんはどこに居るの?」

少女A「あの森を抜けた先にある町です」

千歌「ほぇ〜、結構距離ありそうだね」

曜「私達が行こうとしていた方角と同じだし丁度いいね。そのまま今夜はその町で休もう」

千歌「うん、そうしよっか」

112 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/08/20(月) 01:02:48.03 ID:z49Th79Z0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




千歌「―――なら、二人は姉妹なんだね」

姉「はい。妹がお転婆でいつも大変なんですよ……今日だって大怪我するし」ハァ

曜「言われてるぞ〜」ニヤニヤ

妹「う、うるさいなぁ」プイッ

千歌「仲良くしなよ? 姉妹なんだからさ」

姉「私達は仲良しですよ」

妹「仲良し仲良し♪」

千歌「ならよろしい」フフ


姉「そう言えば千歌ちゃんと曜ちゃんはどこから来たんですか?」

曜「そうだねぇ……空、かな?」

姉「そ、空??」

妹「ならお姉ちゃん達は天使様なの?」

曜「そうだよ〜、私達は天使なのだ!」

妹「まっさかー、流石にウソだよ〜」

曜「んん〜どうだろうねぇ」ニヤニヤ

千歌「……」

曜「ホシゾラさんはどんな人なの?」

妹「優しい人!」

曜「ざっくりだね!」

妹「でも本当の事だもん」

姉「一か月くらい前から町に住み始めた人なので私達もそこまで詳しくは知らないんです」

千歌「最初から住んでいた人じゃ無いんだ」

姉「噂によれば隣の国から来た人みたいですよ?」
113 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/08/20(月) 01:04:34.78 ID:z49Th79Z0
曜「隣の国って言うと浦の星王国?」

妹「それは無いよー」

曜「なんでさ?」

妹「もし浦の星の人だったらあの町からすぐに追い出されるもん。みーんな嫌いだからね」

千歌「ッ!」

曜「へぇ…そうなんだ」

姉「ええ。ですから噂通りならホシゾラさんは音ノ木坂王国の方だと思いますよ」



曜ちゃんが自分達の出身を誤魔化したのは正解だった。

私もうっかり口を滑らせないようにしないと……。


この姉妹の話す“ホシゾラさん”

珍しい苗字

音ノ木坂王国


もしかしたら本当に私の知ってるμ'sの星空凛さんなのかも……?



姉「―――あっ! 町が見えてきました!!」

曜「おお、あの町か!」

千歌「中々大きな町だね」

姉「ホシゾラさんのいる宿はすぐそこです」

千歌「もうちょっとだから待っててね」

妹「うん!」


114 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/08/20(月) 01:12:03.72 ID:z49Th79Z0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



私はホシゾラさんが泊っている部屋のベルを鳴らす。

「はーい」と言う声が室内から聞こえ、すぐにドアが開いた。



姉「ホシゾラさん!!」

「あれ、いつもの姉妹ちゃんだ……ちょっ、その足どうしたの!?」

妹「木から落っこちちゃったの……」

姉「そしたらこのお姉さん達が助けてくれたんです」

「ええっと……そのお姉ちゃん達はどちら様?」

千歌「ホシゾラ……星空、凛さん……?」

「にゃ!?」


星空凛という名に反応した。

でも目の前のその人は私の知る星空凛では無かった。

ぱっと見で年齢は二十代後半という感じ。

いつきちゃんやルビィちゃんも年齢は違っていたけれど

間違いなく元の世界の二人と同一人物だった。


髪形、髪色、目元などなど

若干似ている部分はあるはあるけど、年を重ねての変化では無い。

可愛い顔なのは同じだけど、明らかに骨格が違う。


「君達は一体……」

曜「私は渡辺曜です。この子は高海千歌ちゃん。この子達が困っている所を偶然通りかかって―――」

「曜……千歌…ああ、なるほどそう言う事か」フム

曜「ん?」

「そっか、思っていたより早く来たから驚いちゃった」

千歌「驚いた? 何の話ですか?」




「―――諏訪ちゃんから話は聞いてるよ」




115 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/08/20(月) 01:13:52.58 ID:z49Th79Z0
曜・千歌「「!!?」」

「取り敢えず今はこの子の治療からだね。曜ちゃんと千歌ちゃんは部屋に入って待っててよ」

千歌「……分かりました」

妹「ええー! 私も入りたーい!!」

「今日はダーメ。怪我がちゃんと治ってからね」

妹「ぶぅ…」ムスッ

姉「我がまま言わないの」

妹「分かったよぉ……」

「いい子だね♪ 今度遊びに来るまでに美味しいお菓子を用意しておくね」

妹「いやったあ!! 約束だよ?」

「うん、約束にゃ」ニコッ


姉「曜ちゃん、千歌ちゃん、妹の為にここまでありがとうございました」ペコリ

曜「ふふ、すぐに良くなるといいね」

妹「また会おうね〜」

千歌「うん、今度は一緒に遊ぼうね!」ニコッ

「じゃあ早速治療を始めるよ―――」



―――ボッ!!


116 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/08/20(月) 01:17:29.56 ID:z49Th79Z0
ここまで。
そろそろ平和な時間には飽きた頃合いですよね……
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/20(月) 18:35:11.49 ID:eC9NZ2PM0
おっつおっつ、いいゾ〜これ

ところで、形は静岡と同じだとして、面積も同程度と考えていいの?
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/21(火) 02:31:46.61 ID:2rvFMqZPO
遂に匣を交えた戦いが始まってしまうのか…滾る
乙です
119 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/08/29(水) 23:57:20.02 ID:jTdyOm030
島の面積に関しては物語の進行にそれ程影響しないので細かくは設定していませんが、脳内では約二倍のイメージで書いていました。

次回の更新は二日以内にする予定です。
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/30(木) 01:22:03.31 ID:vD7mFNlu0
戦闘楽しみにしてるよー
121 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/09/01(土) 17:27:18.53 ID:XsrhOzqf0
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「―――お待たせ。意外と時間掛かっちゃった」

千歌「あの子の足はもう大丈夫なんですか?」

「うん、晴属性の『活性』で自然治癒力を高めてある程度は治したよ」

千歌「晴の特性は『活性』なんだ」

曜「完治させなかったんですか?」

「細胞組織の強制超活性は寿命を縮めちゃうからね。若いからそれ程影響は無いとは思うけど、万が一って事もあるし」

千歌「へ、へぇ〜……それは大変ですもんね??」

曜「あの、ホシゾラさんが付けているそのリング、見覚えがあるんですがもしかして……」

「……それも踏まえて私の自己紹介をしようかな」



星空「―――私の名前は『星空 リン』。以前、音ノ木坂王国で晴の守護者として王に仕えていたよ」



曜「星空リンって……あの凛さんと同じ名前ですね」

星空「お婆ちゃんの事知ってるんだ」

千歌「お婆ちゃん?」

曜「音ノ木坂の初代女王とその守護者は有名ですから」

星空「確かに初代晴の守護者の『星空 凛』と同じ名前だよ。私はカタカナだけどね」


―――どうやら私の知っている星空凛さんはこの世界では大昔の人物らしい。

この感じだと他のμ'sのメンバーも凛さんと同じ時代に生きていたのだと思う。

元の世界で関わりが無かったものの、もしかしたら力になって貰えるかもと期待していた分

会う事すら出来ないから少しだけ残念だな。


星空「このリングはモーメントリング。君達の国のAqoursリングと同等の力を持っているリングだよ」
122 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/09/01(土) 17:31:22.59 ID:XsrhOzqf0
曜「やっぱりそれはモーメントリングだったんだ」

千歌「Aqoursリングと何か違いはあるのですか?」

星空「性能の違いは全く無いよ。差があるとしたら、モーメントリングは使える人間がかなり限られるくらいかな」

星空「初代女王、守護者だった九つの一族の血を引いていないと使えない」

千歌「九つの一族……」

曜「そんな制約があるんですね」

星空「それに比べてAqoursリングにはその縛りは無いの。ただ、全員が使えるわけじゃ無いみたいだけど」


千歌「他の守護者の方がどこに居るか知っているのですか?」

星空「……」

千歌「?」

星空「――モーメントリングを所持している守護者は私以外はもう居ないよ」

千歌「ッ!?」

曜「みんな……死んでしまったのですか?」

星空「ほとんどが殺されたり行方不明になっている。生きている守護者も居るけれど、怪我が酷くてもう戦える体じゃない」

星空「今現在、浦の星王国に抵抗している組織で最も力を持っているのは諏訪ちゃんのところくらいだと思う」

曜「人数が多いって事ですか?」

星空「人数なら私の所の方が多い。対して向こうは五人しか居ないよ」

千歌「人数が少ないのに強いんだ」

星空「そうだよ。なんてったって二種のAqoursリングと守護者専用の匣兵器を持っているから」

曜「えっ!? どうして反逆者が守護者の装備を持っているの!?」

星空「さぁ? 方法は分からないけれど奪い取ったんでしょ。持っているのは『雲』と『雷』。私と違って攻撃向きの属性で羨ましいよ」

123 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/09/01(土) 17:33:51.25 ID:XsrhOzqf0

千歌「かな……諏訪さんとはどんな関係なんですか?」

星空「うーん……一応、協力関係って事になってるけど未だに顔が分からないのがイマイチ信用に欠けるんだよねぇ」

曜「あぁ、あのペストマスクのせいですね」

星空「そうそう。いつも被っているから不気味なんだにゃ」

千歌「諏訪さんから話を聞いているって事は私達の目的も知っているのですよね? 」


千歌「――果南ちゃんは今どこにいますか?」


星空「……カナンちゃん? 君達は諏訪ちゃんに会いに来たんでしょ?」

曜「はい?」

星空「そもそもカナンちゃんって誰の事? 聞き覚えのある名前だけど、流石にこの街には……ねぇ」

千歌「あの……諏訪さんから連絡を受けたんですよね?」

星空「そうだよ。私は諏訪ちゃんから近い内に君達がこの街に訪れると思うから見かけたら声を掛けて欲しいって言われただけ」

千歌「……」


果南ちゃんを知らない?

私はてっきり『諏訪=果南』は星空さんも知っているものだと……

いや、会う時は必ずあのマスクを被っていたのなら知らなくても不思議じゃない。


それに果南ちゃんの名前を出した時、ほんの少し怖い顔になった気がする。

気のせい……かな?


星空「暫くしたら諏訪ちゃんもこの街に来ると思うから、その時にカナンちゃんの所に案内されるんじゃないかな。それまではここで過ごすといいにゃ」

千歌「そうですか……」
124 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/09/02(日) 00:04:08.06 ID:jTiiZbdq0
投稿中にパソコンの調子が悪くなってしまい、続きが消えてしまいました。
もう一度書き直しているので、続きは今日中に投稿します。
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/09/02(日) 21:30:14.38 ID:MXXEsJLco
まってる
126 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/09/03(月) 00:28:10.65 ID:bPNo+YOG0



曜「あの、これまでの話とは全然関係ないんですが……いいですか?」

星空「ん? 何?」

曜「さっきから気になっていたんですが、星空さんの『にゃ』って語尾は――」

星空「………にゃ!?///」

曜「あ、また」

星空「い、いや、その……いい大人が恥ずかしいよね/// 何と言うかこれは星空一族の特性を言いますか呪いと言いますか……気を抜くと猫語になっちゃうんだよねー///」

曜「……ふっ、の、呪いですかぁ?」プルプル

星空「わ、笑うな! 私だってちょっと気にしてるんだにゃ!! ……あっ」


我慢の限界を迎えた曜ちゃんはお腹を抱えながら笑い始めた。

顔を真っ赤にしてうつむく星空さん。
あ、ちょっと涙目だ。


いやいや、曜ちゃん流石に笑い過ぎでしょ?!

怒らせたらどうなるか分からないんだよ!!?


そんな私の杞憂はお構いなし。

そのまま気が済むまで笑い終えた曜ちゃん。

星空はご立腹だった。


曜「ごめんなさい。気を悪くしないで下さい」

星空「……」ムスッ

曜「反逆者はみんな怖いイメージがあったんです。でも、実際は星空さんみたいな可愛い人も居るんですね」

星空「可愛いなんて言葉に惑わされないんだからね!」プンプン

曜「あははは! ほっぺた膨らませて怒るなんて年上の女性には全然思えないや」

星空「……シャアァァ!!!!!」ガッ!!!

曜「うおっ!? 襲い方も猫みたいですね!?」

千歌「あ、あははは……」ハァ



127 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/09/03(月) 00:38:47.33 ID:bPNo+YOG0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


〜翌朝〜



曜「――……ふわあぁぁ、おはよう千歌ちゃん」ゴシゴシ

千歌「曜ちゃんおはよう……くんくん、この匂いはまさか……?」

曜「うん、間違いなくアレだよね」



星空「――あ、二人共おはよう。朝ご飯出来たよ〜」ゴトッ

曜「こ、これは……っ」

千歌「朝、ご飯……?」

曜「ラーメンだね。しかも豚骨」

千歌「昨日の夜は醬油ラーメンで、今日の朝は豚骨ラーメン」

星空「にゃ? もしかしてラーメン嫌いだった?」

曜「いえいえ、ラーメンは好きですよ? 昨日のラーメンも凄く美味しかったです。ただ、朝からこってり系はちょっと……」

星空「ふむ、だったら塩ラーメンにしておくべきだったかぁ」

曜「いやいや……」

千歌「曜ちゃん曜ちゃん、豚骨だけど意外といけるよ」ズルズル

曜「え゛え゛!!?」

星空「だよねだよね♪ 私は毎朝作って食べているから」

曜「これを、毎朝!?」

千歌「んん〜〜ん、美味しい♪」ウットリ

星空「ドンドン食べてね〜」
128 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/09/03(月) 00:40:38.37 ID:bPNo+YOG0



千歌「――ふ〜う、お腹いっぱいだよぉ」

曜「ご馳走様でした」

星空「いい食べっぷりだったね」ニコッ


星空「それで、今日はどうする予定なの?」

千歌「うーん……どうしよっか」

曜「諏訪さんが来るまでは何も出来ないし、取り敢えずこの町の散策でいいんじゃないかな?」

星空「それがいいと思うよ。私も一緒に案内するよ」

千歌「じゃあ、お言葉に甘えて―――」



―――ゴゴゴゴゴゴゴッ!!!



千歌「ん? 何の音だろう?」

曜「外から聞こえるね」

星空「工事でも始まったのかな?」



三人は外の様子を見る為にベランダに出た。

そこで目にしたのは、町の中心部の上空に浮遊している大きな円盤状の機械のような物体だった。
音の原因はこの飛行物体だ。



千歌「ほぇー、あんな大きな物が浮かんでいるよ。凄いなぁ」

曜「あれって乗り物なの? 見た事無いな……星空さんは知ってます?」

星空「……そ、そんな、まさか」ゾッ
129 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/09/03(月) 00:45:47.29 ID:bPNo+YOG0
曜「星空さん?」

星空「二人とも伏せ―――」



星空が言い終わるより先に飛行物体に変化があった。

カッと眩い光を放ち、真下に向けてレーザー光線を照射したのだ。

直後に発生した衝撃波で三人はベランダから屋内に吹き飛ばされた。



曜「……ぁ……か、はぁっ……っ」

千歌「う……ぁあ……ぁ」

星空「ぐっ……ふ、二人共無事!?」

千歌「な、なん、とか……」

曜「今のは一体……?」

星空「さっきのあれは『超炎リング転送システム』。リングの炎を使って大量の人や物を瞬間移動させる装置だよ!!」

曜「瞬間移動? ビーム砲に見えましたけど!?」

星空「あのビームそのものに破壊効果は全く無いよ。ただ、転送には膨大な炎圧が必要だから、その余波で私達は吹き飛ばされた!」



「――ぎゃあああああああああぁぁぁぁ!!!!!」

「やめろ!! やめてえええ!!!!!!」



千歌「今度は悲鳴!?」



急いで立ち上がり、再びベランダに出る。

外では逃げ惑う人々とそれを追う奇妙な人型の何かで溢れていた。


頭部は真っ黒なフルフェイスのヘルメットで覆われ

胸部には大きくて綺麗な石が埋め込まれている。

また、個体によっては手足が機械仕掛けになっていて

そこから出る炎や刃物で人々を無差別に攻撃していた。




曜「何!? あれは何なのさ!!?」
130 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/09/03(月) 00:48:18.82 ID:bPNo+YOG0
星空「――人形兵(マリオネット)だよ……っ!」

曜「人形兵(マリオネット)?」

星空「浦の星王国が開発したサイボーグ兵器の一種だよ。あのヘルメットから下される命令プログラムに忠実に従って行動するんだ」

千歌「ちょっと待って……じゃあ、今この町の人を襲っているのって――」

星空「浦の星王国の軍だよ……私と私の組織を殲滅しに来たんだと思う」

曜「も、もしかして……私達のせい……?」

星空「違うと思う。ただ君達がこの町に来た日、浦の星で動きがあったのは把握していたんだ。私の見立てでは準備が整うのにあと数日は掛かると予想したんだけど……まさか一晩で済ませるとはね……っ!」


星空「私は仲間と合流して町の人を助ける。君達は裏口から出て、今すぐこの町から脱出して!」ダッ!


そう言い残し星空はベランダから飛び降りた。


曜「……行こう、千歌ちゃん!」

千歌「わ、分かった!」

131 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/09/03(月) 00:51:14.13 ID:bPNo+YOG0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



裏口が建物を出て、昨日町に入ったルートから脱出を試みた。

しかし、その道は既に人形兵によって封鎖されていた。

強行突破するにも数が多すぎる。



千歌「ど、どうする……?」

曜「別の出口を探すしかない。こっち!!」



「――おや? 見覚えのある顔ですね」



逃げようとした先に、黒いスーツを着た女性が立っていた。

他の人形兵とは違って生身の人間。


千歌達もこの女性に見覚えがあった。

それは、千歌がこの世界に来た初日

あのバスで出会った人物――



千歌「――むっちゃん……だ」

曜「むつ……? どこかで……」

むつ「ああ、そうだ思い出した。あの時バスで会ったんだ」

曜「あっ」

むつ「そもそも、どうして浦の星の国民がこんな場所に居るの? 危ないからこっちに来なさいな」

曜「え、いいんですか?」

むつ「いいも何もうちの国民なんだから当然じゃない」ニコッ

千歌「……っ」ゾワッ

むつ「さあ早くおいで」

曜「……」



むつ呼びかけに対し、二人は逆にじりじりと後ろへ下がった。



むつ「……どうして離れるのかな?」
132 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/09/03(月) 00:56:28.07 ID:bPNo+YOG0
曜「いやー……だって、ねぇ」

千歌「うん、近づいたらダメな気がするんだよね……」



ニヤリと怪し気に微笑む むつ。

その邪悪な笑みに千歌と曜はたじろぐ。



むつ「――ふむ、意外と察しはいいんだね。私の嫌いなタイプだよ」

曜「私達、何かしました?」

むつ「そうだね……星空リンと接触してしまったのがダメだった。それだけで拘束するには十分なんだよ」

千歌「どうして私達が星空さんと会っていると知っているの?」

むつ「ふふふ……浦の星の監視網を甘く見ない方がいいって事」


むつ「さて、これから君達を拘束させてもらう。怪我をしたく無ければ抵抗はしないでね」

むつ「――行け!」



むつの命令で人形兵二体が襲い掛かる。

今から背を向けて走り出しても数秒で追いつかれてしまうだろう。



千歌「うわああ!!?」

曜「ッ!! 千歌ちゃん!!!」ボッ!!



やるしかないと悟った曜は千歌を自分の背後に押しのける。
リングに炎を灯し、技の準備を整えた。



―――ゴキャアアァァッ!!!!



曜・むつ「「!!?」」



空から落ちてきた人物の拳により、二体の人形兵は頭部から地面にめり込む。



星空「――……むつ!!!!」
133 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/09/03(月) 01:05:48.84 ID:bPNo+YOG0
むつ「ターゲットの方から出向いてくれるとは……手間が省けたよ」

曜「星空さん!」

星空「交戦中の仲間から連絡を受けて急いで戻ってきたんだ。間に合って良かったよ」


星空「曜、千歌、ここは私に任せて」

千歌「ひ、一人でこの数を相手するんですか!?」

曜「人形兵も合せて十は居ますよ!? 私も一緒に戦います!!」

星空「私を誰だと思っているの? 悪いけど、君達が居たらかえって足手まといだよ」

曜「ぐっ……」

星空「守護者の私が任せろって言ったんだ。黙って任せればいいんだよ」ニッ

千歌「……行こう、曜ちゃん」

曜「うん……お願いします!」




むつ「流石、音ノ木坂王国の元守護者様ですね。人形兵を一撃で潰すとは……しかも素手で」

星空「あなたに褒められても嬉しくないな。そもそも、どうしてあなたなの?」

むつ「守護者では無い私が相手じゃ不満ですか?」

星空「当たり前だよ。舐めてるの?」

むつ「とんでもない。でも、わざわざ津島さんや桜内さんが出る幕じゃないのも確かですが」

星空「……ッ」イラッ



むつは匣兵器を開口する。

緑色の炎を注入して出てきた武器は日本刀だった。


……星空はその匣兵器を知っていた。

匣兵器の固有名詞は『雷電(らいでん)』

園田家が開発した日本刀型の匣兵器の一振りである。


星空と同期の雷の守護者は園田家であり、これはその彼女が使用していた匣兵器であった。



星空「その匣兵器を持っているって事は……っ!!」ギリッ
134 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/09/03(月) 01:09:23.35 ID:bPNo+YOG0
むつ「ええ、その通りです。私が園田を倒しました。雷のAqoursリングさえあれば私も守護者になってますよ」



「まあ、仮にリングがあってもなりませんが」とぼやきながら刀身に炎を纏わせる。


雷属性の特性は『硬化』

雷に酷似したその炎は属性中最高の硬度を誇り、『雷電』はその特性を最大限に引き出せる。

よって、炎を纏わせた『雷電』の斬撃は例え鋼であっても紙と同様の強度となる。

仮に炎を纏わせたとしても並の炎圧では防御は不可である。


むつの匣を目の当たりにし、星空も対抗する為の武器を取り出す。

勿論、使うのは匣(ボックス)兵器だ。

出てきた武器は『指だしのグローブ』である。


むつ「……グローブ、ですか」

星空「何? そんなに意外でもないでしょ?」

むつ「ええ、ただ、匣兵器は持っていないと報告を受けていたので」

星空「最近手に入れたんだ。前の匣よりも性能は劣っているけど、そこは実力でカバーするさ」

むつ「……」


念のために様子を見た方がいいかな……?

もう三、四体の人形兵をぶつけてみよう。


むつ「――人形兵(マリオネット)!!!」



襲い掛かる四体の人形兵。

星空は「ふぅ……」と軽く息を吐くと、力強く拳を固める。


高純度の晴の炎を右手のグローブに纏わせ、目にも止まらぬ速さで拳を振るう。

上、正面、左右から襲い掛かってきた人形兵の頭部が同時にはじけ飛んだ。



むつ「……」ジッ
135 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/09/03(月) 01:29:08.48 ID:bPNo+YOG0
星空「――性能を観察しようとしているなら無駄だよ。このグローブは炎を灯しても消滅しない以外に何も無いから」

むつ「みたいだね。一撃必殺の拳を四方向に同時に繰り出せるのか……恐ろしい」

星空「怖気づいたかにゃ?」

むつ「……ふっ」

星空「……」



むつと星空、二人のリングの炎が更に大きくなる。

その余波で近くの壁や地面の表面が削れ、黒く焦げる。



むつ「ぜーんぜん。残念ながらあなたじゃ私に勝てないよ」ニコッ

星空「……変わった遺言だね―――!!!」
136 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/09/03(月) 01:30:15.94 ID:bPNo+YOG0
今回はここまで。
土曜前後までには更新したいです……
137 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/11/25(日) 01:27:49.17 ID:CPlG3n340

138 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/11/25(日) 01:30:56.30 ID:CPlG3n340

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「???あああああぁぁぁぁぁっ!!? があぁ…!!??」ブシュゥッ!!


「このっ!? 数が多……ぎゃぁ!!?」グシャ


「早く逃げろ!!! 長くは持たない!!」


「助けて!! お願い助け???こ゛お゛お゛ッッ!!?」



町中から聞こえる怒号や断末魔。

人形兵を撃退すべく奮闘する者も多く居るが、次々と倒される。


それを横目に、曜は千歌の手を引いて走る。

倒れている人、殺されそうになっている人

全て無視して走り続ける。



139 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/11/25(日) 01:32:18.60 ID:CPlG3n340
曜は葛藤していた。


千歌による補強があれば人形兵とも十分戦える。

今、目の前で殺されそうな人々を救う力を持っているのだ。

しかし、それは曜一人で戦う場合の話。

千歌との力のリンクを維持するには、お互いに目視可能かつ一定の範囲に居る必要がある。

故に、戦闘能力が皆無の千歌を危険な戦場に置き去りにしなければならない。

前回のいつき戦とは異なり、どこから敵が襲って来るか分からない今回の状況で
自分の実力では千歌を守りながら戦うのは困難だと自覚している。







千歌「……うちゃん」
140 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/11/25(日) 01:34:06.02 ID:CPlG3n340
曜「……はぁ、はぁ、はぁ」タッタッタッ

千歌「ねえ、曜ちゃん!!」

曜「何ッ!!?」



精神的に余裕の無かった曜は強い口調であたる。

その反応と鬼気迫る表情と声に一瞬気圧されるが
構わず言葉を続けた。



千歌「あそこ! あそこで倒れている子!!」

曜「誰が倒れているって???……ぅ!!!?」ゾワッ



千歌が指さす場所には小さな二人の少女が倒れていた。

昨日、この町に来る前に出会った姉妹だった。



千歌「しっかりして!! ねえ!!」
141 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/11/25(日) 01:35:36.20 ID:CPlG3n340
妹「ぁ……っ、ち、か……ちゃん……?」

千歌「そう、そうだよ!!」

妹「ど、こ……、真っ暗で……何も、見えない……よ?」

千歌「ッ!? ここだよ! 私はここに居るよ!!」ギュッ



少女の体は無数の鋭利な刃物で切り刻まれたかのように全身ズタズタに引き裂かれており
地面には既に大きな血の池が出来ていた。

千歌は血塗れになった少女の手を握る。



妹「……ぁ、温かい……なぁ」

千歌「どうしよう……このままじゃ死んじゃう」

妹「ね、ぇ……お姉、ちゃん……は?」

千歌「お姉ちゃんなら曜ちゃんが???」チラッ

曜「……」

千歌「……曜ちゃん?」
142 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/11/25(日) 01:37:19.05 ID:CPlG3n340


目線を下げ、曜が抱えている姉の体を見る。

姉のお腹の中心部に地面がハッキリと見えるほど大きな穴が開いていた。

微かに意識はあるものの、絶対に助からない事は素人目でも分かってしまった。



妹「いた、い……いたいよぉ……」



かすれ声で痛みを訴える。

少女にはもう泣き叫ぶ体力すら残っていのだ。


千歌はただただ泣く事しか出来なかった。



千歌「……ぅ、うぅぅ」ポロポロ

曜「千歌ちゃん……ちょっと代わって」
143 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/11/25(日) 01:38:39.82 ID:CPlG3n340
千歌「……何をするの?」


妹「…っ……はぁ……はぁっ……っ」

曜「もう少しだけ頑張ってね? 今、星空さんが治療を始めるから」

千歌「!?」

妹「……はぁ……はぁ……本、当……?」

曜「うん、本当だよ。ほら、だんだん痛く無くなってるでしょ?」



そう言いながら、曜はリングの炎を少女の全身に浴びせる。



妹「……ぁぁ、本当だぁ……もう、痛くない……や」

曜「そうでしょう?」

妹「……ん、ん……なんだか、眠く…なって……きちゃった」


曜「……」
144 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/11/25(日) 01:40:12.34 ID:CPlG3n340
妹「明日……に、なったら……治って……る……かな?」


曜「……うん」


妹「じゃあ……治ったら、一緒に……遊んで、く……る………?」


曜「勿論だよ。約束する」ニコッ



妹「……え、えへへ、楽し……み……だ……な……ぁ」


妹「……??????」

曜「……っ」
145 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/11/25(日) 01:41:34.34 ID:CPlG3n340
???『星空リンが助けに来た』

目が見えない事を利用した曜の嘘。

曜を信じ、明日が来ることを信じて眠りについた少女。

だがもう二度と目覚める事は無い。


助からないのならば、せめて痛みを取り除いて楽にしてあげよう。

雨属性の炎を持つ曜が少女にしてあげられる最善の策だと判断したのだ。

既に姉の方も同様の処置を施していた。



千歌「??……曜ちゃん」

曜「……ごめんなさい」

千歌「……」


曜「ごめんなさい……ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」ポロポロ
146 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/11/25(日) 01:42:48.34 ID:CPlG3n340
千歌「……ぁ」




……かける言葉が見つからなかった。

痛みから解放してあげた曜ちゃんの判断は間違っていないと思う。

それでも、結果的には二人の命を奪ってしまった。


私には想像も出来ない人の命の重み。


無力な私は泣き崩れる曜ちゃんを抱きしめる事しか出来なかった。




……ごめん。


曜ちゃんに十字架を背負わせてしまった??。




暫くすると曜ちゃんはグイっと私を押しのけた。

さっきまでの沈痛な表情とは一変
激昂した面持ちで辺りを見渡していた。



曜「??……囲まれている」

千歌「えっ、に、人形兵がこんなに沢山……!?」
147 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/11/25(日) 01:43:46.08 ID:CPlG3n340
目の前に現れた人形兵は五体。
全員、服やヘルメットは真っ赤な血で染まっていた。

私達の元へゆっくりと近寄って来る。



千歌「逃げなきゃ……急ごう曜ちゃ???」



???トンッ



千歌「へ?」



後ろに突き飛ばされる千歌。

同時に千歌と曜の間を遮るように水の壁が出現した。



千歌「これって……どういうつもり!?」

曜「ごめん千歌ちゃん……悪いけど、ここでお別れだよ」

千歌「はあ!!?」
148 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/11/25(日) 01:44:45.03 ID:CPlG3n340
曜「このまま真っ直ぐ走れば町を抜けられる。私がそれまでの時間を稼ぐから千歌ちゃんは先に行って」

千歌「曜ちゃんが戦うなら私だって???」

曜「黙って言う事を聞いて」

千歌「た、確かに私は曜ちゃんみたいに戦えないよ…でもあの時みたいに力になれる!!」

曜「……」

千歌「ねぇ、何か言ってよ!」

曜「……いいから行けって言ってるんだよ!!」

千歌「な、なん、でよ……」

曜「この数が相手じゃ千歌ちゃんを守りきれない。もうこれ以上目の前で誰も死なせてくないんだよ……」


??声が震えている。
水の壁で見えないけれど、曜ちゃんはきっと……


曜「それに、私はあの子達を……この町の人々を襲ったコイツらを許せない。全員倒さなきゃ気が済まないんだよ」

千歌「……"お別れ"って言った。曜ちゃんはここで死ぬ気なんでしょ!?」
149 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/11/25(日) 01:46:34.62 ID:CPlG3n340
曜「死ぬ気なんて全然ないよ。"お別れ"っていうのは"一旦"って意味。終わったらちゃんと追いかける」

千歌「ホント? 信じていいの……?」

曜「千歌ちゃんは私の事信じられないの?」

千歌「……」


千歌「??分かった。約束だよ! 絶対に追いかけて来てね!!」

曜「うん……また後でね」
150 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/11/25(日) 01:48:28.31 ID:CPlG3n340
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



曜「??”終わったらちゃんと追いかける”か」


よくもまあ平然と嘘をつけるもんだよ。
自分の実力は自分がよく分かっているじゃないか。

人形兵(マリオネット)は国が造った兵器
まだ一度も戦った事は無いけれど簡単に勝てる相手では無い。

それを一度に五体も相手にしなければならないんだ。
怪我だけじゃ済まないんだろうな……



??ギチッ、ギチギチッ!!



曜「全く動けないでしょ? 出力最大の『水の鎖(カテーナ・ディ・アクア)』は結構凄いんだ」
151 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/11/25(日) 01:49:46.10 ID:CPlG3n340
曜「そのおかげで攻撃に割く力が残ってないのが欠点だけど……こればっかりは仕方ないね」

人形兵「??ッ!!! ???ッッ!!!」ギチギチ

曜「ん? 何を言ってるか全然分からないけど、慌てなくても大丈夫だよ。もう時期この鎖は解けるからさ」


五体同時に縛る事が可能なのは千歌ちゃんとのリンクが有効な時だけ。

千歌ちゃんとのリンクを維持できる範囲から出た瞬間
鎖の拘束力は極端に下がって、一秒も封じる事は出来ない。

開戦の合図は拘束が解けた瞬間だ

……やっば、ちょっとお腹痛くなって来たかも。
152 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/11/25(日) 01:50:53.40 ID:CPlG3n340
曜「ふぅ……もう後には引けない、やるしかないんだ」


??バキンッ!!


曜「来るッ!! 覚悟を決めろ、渡辺曜!!!」ボッ!!
153 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/11/25(日) 01:53:45.12 ID:CPlG3n340
三カ月振りの投稿と遅くなりました…
本日よりまた再開しますので、どうかよろしくお願いします。
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 05:36:22.92 ID:2WsJIHo90
楽しみにしてる、
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/30(金) 07:12:39.05 ID:krubLPNd0
おー、良かった
マイペースに続けてくれ
156 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/05(水) 00:50:49.73 ID:OGx6MZSd0
鎖を引きちぎり一斉に襲いかかって来る人形兵

曜はトンファーに炎を灯し、迎撃態勢を取る。



曜「弱点とかはよく知らないけど、きっと胸元にある大きな石そうでしょ!! 如何にもって感じだし!!」


近づいて来た人形兵の胸元へカウンター気味にトンファーを叩き込む。



―――ガキンッ!!!!



金属同士がぶつかり合う甲高い音が鳴り響く。

ビリビリと反動がダイレクトに腕に響き、思わずトンファーを手放しそうになるが
何とか堪える。

しかし、石には傷一つ付かない。


曜「かっっったいな!!? これ弱点じゃ無いの!?」
157 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/05(水) 00:53:36.97 ID:OGx6MZSd0
曜の予想は間違っていない。

胸元に埋まっている石はリングと同じ素材であり、人形兵の動力源となっている。
破壊すれば当然、機能停止となるが弱点をむき出しのまま放置するほど間抜けでは無い。

石の表面は耐炎性、耐衝撃が極めて高い"ナノコンポジットアーマー"という物質で覆われている。

曜の炎圧でどうこう出来るレベルを遥かに超えているのだ。


攻撃を受けた人形兵は仰け反りながらも機械仕掛けの右手を曜の顔へ向ける。

高密度に圧縮された嵐の炎がレーザーのように照射された。



曜「熱ッッ!!!?」ジュッ!!



咄嗟に首を大きく傾ける

耳の一部を焼き切られたが紙一重で直撃は免れた。
158 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/05(水) 01:01:06.81 ID:OGx6MZSd0
曜「この威力……私の技じゃ防げ無いよねッ!」ギリッ


――私の匣や技だとあの石を破壊するのは無理かな。

五体もいるから一体くらいは一撃で倒せれば楽だったんだけど。

奥にいる人形兵は大鎌を持っていたり腕がチェーンソーになってたりしてる。

灯っている炎色を見る限り、嵐が三体、雨が一体
後は緑色が一体だ。

緑色は確か……雷属性だったけ?
炎の見た目も電気っぽいし多分そうかな。

炎の大きさも純度も私の炎とは比べ物にならないくらいに高い。

これだけの差だと"鎮静"でも相殺しきれない。

一撃でも喰らえばお終い。

だったら敵の攻撃は回避一択だね。

こっちの攻撃は比較的脆そうな部位に集中させる……



曜「――先ずは手足を潰そう。攻撃を封じられればそれでいい」
159 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/05(水) 01:03:54.27 ID:OGx6MZSd0
二体の人形兵が嵐の炎を纏わせた大鎌で斬りかかってくる。

首筋、左胸、内腿

人体の急所を目掛けての連続攻撃。

曜は冷静に軌道を見極め、全て回避する


曜「――くらえ!!!!」


大鎌を振り切り、体勢を崩した人形兵の右肩にトンファーを叩き込む。



――グシャッ!!!



曜「んな!?」ゾッ



肉と骨がひしゃげる嫌な音と感触。

想定外の手応えに一瞬怯むが、攻撃のチャンスを逃す訳にはいかない。


腰、膝、その他関節部と比較的脆そうな部位へ連続攻撃する。

可動部を破壊された二体の人形兵は地面に倒れ込み動かなくなった。
160 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/05(水) 01:16:09.07 ID:OGx6MZSd0
曜「残り三体!!!」


曜の耳を焼き切った人形兵が同様の攻撃を仕掛けようとしていた。

発射まで数秒前―――



曜「二度も当たるもんか!!!」ボッ!!



水の鎖が人形兵の右手に絡みつき、引っ張り上げる
発射口を無理矢理隣に居る人形兵に向けさせた。

発射寸前のタイミングだ
緊急停止は間に合わない。



――ゴッ!!!!!!



放たれたビームは人形兵の胸元を貫いた。

すぐさま接近し、この人形兵も無力化する。



曜「――残り一体だ!!」
161 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/05(水) 01:20:08.59 ID:OGx6MZSd0
視線を残りの人形兵の方向へ向ける。


……ここまでの流れは曜が脳内でシミュレーションした物と全く同じだった。

想定では残った人形兵との距離は数メートル。

水の鎖で足下を崩し、その隙に接近してトンファーで手足の関節を砕く算段だ。


だが、物事というのは想定通りに進む事の方が極めて少ない。
ここまで上手く進んだのは奇跡に近い。

実際は想定とは異なり人形兵は既に目の前に迫っていた

チェーンソーに改造された右腕を高々と振り上げている。



曜「やっば……これ避けられ――!?」グラッ



振り下ろされるチェーンソー。

雷の炎により切れ味が数段向上したこれは人の頭蓋骨程度なら一瞬で削り取るだろう。

一か八か、後方に倒れ込むように回避する。
162 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/05(水) 01:24:25.07 ID:OGx6MZSd0



―――ブシャッ!!!!



チェーンソーの刃は曜の右肩を少し抉った。
多少血は出たが支障は無い。

しかし、咄嗟の事とはいえ避け方が致命的だった。

仰向けに倒れ込んでしまった故、次の攻撃を避ける事が出来ない。


――トドメの一撃が曜の顔面に襲い掛かる。



曜「うぅッ!!!!?」ゾワッ



無意味なのは分かっているが両手のトンファーで防御する。

死を覚悟した曜は思わず両目をギュッと瞑った。
だが……


曜「………あ、あれ……?」


お、おかしい……攻撃が来ない…?
チェーンソーの音も止まったぞ??


恐る恐る目を見開くと……



人形兵「……ガ、オゴ……ガガ……」

曜「な、なん……攻撃を止めた……?」
163 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/05(水) 01:27:30.49 ID:OGx6MZSd0
人形兵「……ガ、オゴ……ガガ……」

曜「な、なん……攻撃を止めた……?」

人形兵「 ガ……ゴ、 ゴ……ジ………」

曜「何……何か言っているの?」

人形兵「 ォ……ド……ゥザ ……ン ………」

曜「……?」

人形兵「………………」

曜「……動かなく、なった」



曜「……はは、あははははは!!!」

曜「やった!! やった勝った! 私は勝ったんだ!!!」

曜「あはははは、ははは……は、は」

曜「そうだ……私は勝ったんだ。なのに――」


なのに何だろう……すごく嫌な感じがする。

この感覚……"何か取り返しのつかない事"をしてしまった気が……
164 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/05(水) 01:34:41.42 ID:OGx6MZSd0


――そもそもどうして私の実力で人形兵を倒せたの?

星空さんの仲間が倒せなかった敵だよ?

それを一度に五体も相手にしたにも関わらず
大きな怪我を負う事なく私は倒せてしまった。

――この人形兵がたまたま弱かった?

……そんなはずは無い。

仮にも国が作った兵器だよ。

大きな個体差があるとは考えられない。

――なら、実は私の実力は星空さんの仲間よりもあったって事?

……一番有り得ない。



曜「……考えるのは後でいいや。今は一刻も早く千歌ちゃんに追いつかなきゃだよね」





「――凄いな、この数の人形兵を倒せるとは思わなかった」





バッと声のする方向へ振り向く。

そこには日本刀を握り、白ワイシャツを返り血で真っ赤に染めた むつ の姿があった。
165 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/05(水) 01:35:28.70 ID:OGx6MZSd0
今回はここまで
166 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/05(水) 02:06:40.18 ID:OGx6MZSd0
前回の文章はダッシュ記号が文字化けしちゃって「??」になってましたね……確認不足でした
167 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/13(木) 01:25:52.19 ID:EDQYlBtw0


曜「っ!? どうしてあなたが……っ!? 星空さんと戦っているはずじゃ―――」

むつ「どうしてだって? それは愚問だよ」



そう言うと彼女は曜に切断された人間の右手を見せつけてきた。

その右手の中指には晴のモーメントリングがはめてあった。



曜「星、空……さん……ッ」

むつ「本当は人形兵にするつもりだったんだけどね……あの人、自殺しちゃったからさ」

曜「――人形兵にするつもりだった?」

むつ「はい?」

曜「ちょっと待ってよ……人形兵(マリオネット)はロボットなんじゃ無いの!?」

むつ「ロボットだって? いやいや、人形兵はサイボーグだよ」

曜「だからロボットじゃ……」



むつ「――あ、まさか君……なるほどねぇ」ニタァ



曜「な、何だよ!!」
168 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/13(木) 01:28:12.32 ID:EDQYlBtw0

むつ「そうかそうか、こいつは傑作だ! そりゃ敵の正体を知らなきゃ普通にブッ壊せるわな!! いやー無知って本当に怖いなぁ!!」ケラケラ

曜「無知って……何を言ってるのさ!?」


むつ「ふふふ、いい? サイボーグっていうのは身体器官の一部を人工物に置き換えた"改造人間"の事なんだよ。君の言っているのは完全に機械化された"人造人間"だ」

曜「だったら何だって……」

むつ「まだ分からないの? つまりお前が今壊したそれは"元"人間って事だよ! もっと言えば"元"星空リンの仲間だった人間だ」



曜「―――――………は?」ゾッ



むつ「ふふっ、その顔、星空リンも全く同じ様に青ざめていたよ」

むつ「そりゃ当然だよねぇ? 知らなかったとはいえ自分の仲間の頭をぶっ潰しちゃったんだもんなぁ」

曜「じゃ、じゃあ……星空さんの仲間が一方的にやられていたのは……」

むつ「変わり果てた姿だったとしても、仲間は殺せなかった。最も、私達もそれを見越してこの人形兵達を連れてきたんだけど」

むつ「まだ調整段階だったから十分な性能を引き出せていないけど、この町の反逆者供を抹殺するには丁度良かった」


曜「わ、私は……知らないうちに……ひ、人を……」ガタガタ

むつ「今更気にしてどうするの? そもそも"あれ"はもう人じゃ無い。壊しても人殺しにはならないよ」

曜「そ、そんなの詭弁だ!!」

むつ「何さ……気を使ったのに」
169 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/13(木) 01:29:53.42 ID:EDQYlBtw0


曜「うるさい!! そもそもなんで……なんでこの町の人を襲った!!」

むつ「国の治安を脅かす勢力を排除するのが私達の役目。敵の態勢が整う前に叩くのは当然でしょう」

曜「この町の人々が全員そうだと言うの?」

むつ「いいや、排除したのはこちらが把握していた反逆者と人形兵に抵抗した者のみだよ。無関係の人間の命は奪っていない」


曜「何を言っているの……?」


むつ「ん?」

曜「無関係の人間は殺していない? 何人も殺したじゃないか!!」

むつ「何をデタラメを……人形兵にその様な命令は出していない」

曜「実際に殺されているんだよ!! あの姉妹だってまだ子どもだったのに……っ!!」

むつ「こ、子ども……だって……?」ゾワッ

むつ「そんなバカな……調整段階とはいえ人形兵への命令プログラムは完璧だったはず……」



曜の聞いて、むつ はほんの一瞬だけ動揺した様な気がした。

しかしすぐに澄ました顔に戻り、信じられないセリフを言い放った。






むつ「……そう、ならその子達は運が無かったのね。だから死んだ」





曜「―――……は?」
170 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/13(木) 01:34:13.14 ID:EDQYlBtw0


むつ「人形兵が直接手を下さなくとも、流れ弾や二次被害で致命傷を負う可能性は十分あるもの」

曜「運が悪かった……? 本気でそう言っている、の?」

むつ「ええ。そもそも人間がいつ死ぬかなんて誰にも分からないじゃない。交通事故で死ぬかもしれないし、階段でうっかり足を滑らせて死ぬかもしれない」

むつ「この町に住んでいなければ、この町に星空リンが来なければ、このタイミングにこの町に居なければ、どれか一つでも避けられていれば死なずに済んだのにね」

むつ「――…断言出来るのは、その姉妹は今日死ぬ運命だった。ただそれだけよ」



曜「―――。」



――人間はいつ死ぬか分からない?

それは理解できる。


でも、あの子達が死んだのは運命だって?

それを あなた が言い切ってしまうの?



曜「――……ざけるな」


むつ「何だって?」



曜「ふざけるな……ふざけんな!!!!! 人の命を何だと思ってるんだよ!!!!!!」

むつ「……」


曜「私は今まで自分の国がどんな事をしてた何て知らなかったし、知ろうともして無かった……」


曜「――だけど、今ハッキリ分かった。あなたは……"あなた達"は間違っている!!!」


むつ「間違っている、か……その宣言が何を意味するか分かっていて言ってるの?」

曜「当然だよ。人形兵と戦った時から覚悟は出来ている」

むつ「そう……」



むつ「――おめでとう、たった今から君も反逆者の一員だよ」カチャッ



むつは日本刀型の匣兵器『雷電』を構える。

雷の炎によりバチバチと帯電したその刀身は鮮やかなエメラルドグリーンに変色していた。
171 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/13(木) 01:35:23.95 ID:EDQYlBtw0


曜「……ッ」


……一目見ただけで分かる
この人の強さは私とは次元が違う。

「やってみなくちゃ分からない」とか「可能性はゼロじゃ無い」とか
そんな淡い希望すら打ち砕かれた。

確信してしまった、私じゃ絶対に勝てない……。

――でも……


曜「――勝てないと分かっていても……逃げるわけにはいかないんだよ」ボウッ!!

むつ「青い炎か……それにしても随分と弱々しい炎だね」クスッ
172 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/13(木) 01:42:22.98 ID:EDQYlBtw0

曜「うん、知ってるよ――!!」ダッ!!



走り出す曜。

同時に むつ の周囲に複数の水の鎖を生成し、彼女の体を縛った。


これには むつ も驚きを隠せなかった。

炎を使った技は以前に比べて発動までのスピードは格段に向上したとはいえ
一流の使い手でも発動まで一秒は要する。

戦闘中の一秒は気の遠くなるような長さだ。

故に多くの者が匣兵器を使用する。


対する曜の発動スピードはコンマ数秒。

発動スピードの一点に限れば守護者と同等のレベルだった。



むつ「だからこそ炎の弱さが非常に惜しい」バチバチッ!!!



リングの炎で体を縛る全ての鎖を断ち切る。


ほんの一瞬しか動きを封じられなかったが接近するまでの時間が稼げればそれでよかった。


曜は右手のトンファーに炎を集中させた。

弱い炎でも一点に集中すれば鋼鉄をも溶かす一撃となる。


曜の炎圧ではそこまでの威力にはならないがダメージを与えられる可能性は高まる。



曜「おおッ!!!!」ブンッ!
173 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/13(木) 01:45:06.43 ID:EDQYlBtw0

むつ「………」ジッ



むつ はトンファーの攻撃を『雷電』の刃で受け止めた。

金属同士がぶつかり合う甲高い音は鳴らず
刃はトンファーに深々と刺さった。



曜「んな!!?」ゾッ

むつ「その程度の炎と武器で、私の『雷電』を防げると思ったか!!!!」



更に力を入れてトンファーごと曜の体を斬り落とそうとする。

曜は踵で地面を強く蹴り飛ばして距離を取った。



曜「な、何なんだよその切れ味!?」

むつ「この『雷電』は雷の特性を最大限引き出せるよう設計されているの。並大抵の武器じゃ紙の強度と大差ない」

曜「紙と同じって……滅茶苦茶だよッ!!」ギリッ

むつ「あなたの炎じゃ防ぎきれないのは今ので痛感したはずだよ。大人しくしていれば痛みを感じる事無く三枚おろしにしてあげるよ」カチャッ

曜「……それは勘弁して欲しいかな」


むつ「それはそうとさ、いいのそこで?」

曜「?」




むつ「――その距離、『雷電』の間合いだよ」




刀身に纏わせていた雷の炎が細長く伸びる。

疑似的な刀身は曜の体まで十分届く長さとなった。


それを腰の高さで真横に薙ぎ払う。



―――バチバチバチッ!!!!



曜「ウ゛ッ゛ッ゛ッ゛ッ゛!!!!!!?」ブシュゥッ!!



直撃した雷の炎が曜の全身をズタズタに引き裂く。

幸運にも致命傷は避けられたが余りの激痛に片膝をついた。




曜「ぐッ……がぁ、があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

むつ「やっぱり炎で伸ばした刀身じゃ切断は出来ないか」
174 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/13(木) 01:50:13.37 ID:EDQYlBtw0


曜「はぁ、はぁ、はぁ……」ボタッボタッ


むつ「痛い? 大丈夫、そのまま動かなければすぐに解放されるから」


曜「はぁ、はぁ ……嫌だ、ね!」ボッ!!


むつ「……この期に及んでまだ抵抗するの?」

曜「当たり前じゃん。私は千歌ちゃんを追いかけなきゃいけないんだ。だから簡単に諦めて死ぬわけにはいかない」

むつ「心配しなくともすぐに向こうで会わせてあげるよ」


曜「だったら尚更諦められない! 千歌ちゃんは―――」







曜「―――……千歌ちゃんは私が守るんだから!!!!」







―――ゴオオッ!!!!




曜「えっ?」


むつ「何ッ!? ほ、炎の量が急上した!!?」

曜「な、なんでいきなり……?」



曜「……ま、まさか」グルッ











千歌「――…はぁ、はぁ、はぁ、っはぁ」ゼェ、ゼェ







175 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/13(木) 01:51:02.43 ID:EDQYlBtw0
また後日更新します
176 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 15:57:50.05 ID:Yipmq1y50



曜「なんで……なんで戻って来たのさ!!!?」

千歌「はぁ、はぁっ……、ご、ごめん!!」

曜「謝って欲しいんじゃない!」

千歌「そうじゃないよ! いや、確かに戻って来た事も悪いと思っていけど……そうじゃないの!」

曜「だったら何さ!?」


千歌「私は曜ちゃんを信じて先に行ったんだ。曜ちゃんが約束を破る訳が無い、曜ちゃんなら大丈夫だって自分に言い聞かせながら走ってた」


千歌「それなのに私……土壇場で曜ちゃんの言葉を信じられなくなっちゃった! 幼馴染なのに……本当にごめん!!」


千歌「曜ちゃんが戦うなら私も一緒に戦う。逃げるなら一緒に逃げる。私達はどんな時だって一緒じゃなきゃダメなんだよ!!」

曜「……」

千歌「曜ちゃん一人が傷つくなんて……私には耐えられない!!」

曜「……千歌ちゃんはそれでいいの?」

177 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:02:04.29 ID:Yipmq1y50
千歌「覚悟が出来てるから戻って来た……ッ!!」ブルブル




……覚悟は出来てるだって?


……そんなに震えているのに?



今まで殴り合いのケンカだってした事無いって話してたじゃん。

こんな大量な血も、死体も、人の死に際も

見たのはきっと今回が初めてだろうな。



普通の女の子ならとっくに逃げ出している。

心に深い傷を負ってトラウマになってしまうだろう。


それなのに千歌ちゃんは戻って来た。

恐怖で震える体を必死で押し殺して。

私の為に戻って来てくれたんだ。



……ああ、なんて強い子なんだろう。

誰にだって出来る事じゃない。

この子と友達になった向こうの世界の“私”が本当に羨ましいなぁ。








曜「千歌ちゃん!!!」

千歌「!」









曜「一緒に戦おう。千歌ちゃんと二人なら私、負けないから!!!」



178 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:03:16.30 ID:Yipmq1y50




むつ「…随分と強気だね。本当に勝てると思っているの?」


曜「当たり前だ!!!」ダッ!!




むつへ向かい迫る曜。

普通なら全身をズタズタに引き裂かれた痛みで動けないのだが
雨の“鎮静”で痛みを強引に打ち消した。

『雷電』の刃にトンファーが触れる。



―――ガキンッ!!!!



むつ「何ッ!?」



今度はトンファーが斬り裂かれることは無かった。

曜の“鎮静”が むつ の“硬化”を上回ったのだ。




キーンッ―――!!



キーンッ―――!!



ガキンッ―――!!



幾度となく打ち合う両者。

むつの剣戟に怯むことなく食らいついて行く曜。


むつは焦る。

剣の名門である園田家を打倒した自身の剣戟。

誰にも負けない確固たる自信があった。

それを無名の少女に見極められているのだ。



曜「うおおおおお!!!!」


むつ「し、しまっ…」
179 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:03:58.97 ID:Yipmq1y50



この動揺の隙を突く。

左のトンファーで『雷電』の斬撃を弾き飛ばし、右のトンファーをむつの胴体に叩きこむ。


むつ の体は後方に大きく吹き飛び、建物の壁へ激突した。



曜「っ……はぁ、はぁ……はぁっ……よしッ!!」

千歌「やった!」

曜「今のは手ごたえアリだよ! このまま押し切ってやる!」



180 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:12:53.60 ID:Yipmq1y50




むつ「………」



……いったいなぁ、もう。

ギリギリで炎の防御が間に合ったけど、雨の炎が雷の炎を貫くなんて。

『雷電』の刃も防御された。

炎の強さに圧倒的な差があれば有り得る。


でも、さっきまでのあの子にそれ程の炎圧は無かった。

オレンジ髪のアホ毛の子が来てから急激に炎圧が上がったんだ。

会話から察するにかなり親密な関係なのは明らか。



……守るべき人が来た事により覚悟の質が変わった?



炎圧(炎の大きさ)や純度に変化が出るのは覚悟の差だ。

人によって覚悟に該当する感情は異なり、合致した時に最大限の力を発揮する。

戦闘中に偶然合致するのはよくある話だ。



……だとしても、この子の変化は異常すぎる。



覚悟の変化だとかそんな次元の話じゃない。

まるで外部から力を供給されているような……

供給、そうか供給か。


むつ「……可能性は無くはないね。試してみよう」ムクッ

181 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:14:46.58 ID:Yipmq1y50


千歌「お、起き上がった!?」

曜「……ッ」ギリッ



むつ はチェーンで腰にぶら下げていた匣を手にする。

雷の炎を注入すると匣からは二匹の動物が飛び出した。



千歌「あれって……狐?」

曜「あ、アニマルタイプの匣兵器か!?」



むつ「―――開口、おいで……電狐(エレットロ・ヴォールピ)」



曜「そりゃ国の兵士だもんね……その匣兵器を持っていて当然か」

むつ「使うつもりは無かったんだけどさ、こっちも本気でやらなきゃダメかなと」


千歌「よ、曜ちゃん…」

曜「大丈夫、三対二になっちゃったけど問題無い」

むつ「問題無いですか……。本当にそうかな?」



むつ「行け!! 『電狐』!!!」



むつ の命令で雷の炎を纏った二匹の狐は高速回転しながら襲い掛かる。
182 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:19:00.25 ID:Yipmq1y50


曜「撃ち落としてやる! ……えっ?」



迎撃態勢を取った曜。

だが、二匹の『電狐』は曜の左右を大きく逸れていった。



……狙いが逸れた?



曜「……ち、違う!! この軌道はッ―――!!?」




―――ブシャッアアア!!!!!




……曜は激しく後悔した。

どうして直ぐに分からなかったんだ。

容易に予想できた攻撃だったはずだ。


でも、もう遅い。


千歌の全身から血飛沫が舞い、真っ赤な花が咲いた―――。
183 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:21:40.26 ID:Yipmq1y50




千歌「あっ……?」




目の前が綺麗な緑色でいっぱいになった。

かと思えば、一変して赤一色となった。

自分の体から何か噴き出している。

生暖かいお風呂に入っているような不思議な感覚。



自分の身に何が起きたのか。

自覚するまでに時間は掛からなかった。





千歌「い゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああああああ!!」





雷の炎が私の体を斬り裂く。

顔を。腕を。腹部を。腰を。脚を。

皮膚を貫き肉を引き裂き血管を破壊する。




千歌「―――あ゛あ゛あ゛あ゛!!!! あ゛ッ、あ゛あ゛あ゛ッ!!!!」




攻撃は一旦止む。

二匹の『電狐』は千歌の体から少し離れた。

自立するのに必要な筋肉を断ち切られた千歌はその場に倒れる。

地面には千歌の体から漏れ出た鮮血で円形の池を形成され、徐々に大きくなっている。

184 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:25:18.27 ID:Yipmq1y50


千歌「あがが……あ、ああ……」




……痛い。

……痛イ。

……イタい。

痛い。痛イ。いたい。イたい。イタい。いタい。

こんなの聞いてないどうしてこんな思いをしなきゃいけないの?

たえられないたえられない。無理むりムリむリムり。こえすらでない。

これぜんぶわたしの血だ。チ。ち。血血血チチチチちちちちち。

いたいしんジャう、いたいのイヤだ。

これじょうはムリイタイのいやだ。

たすけてようちゃんおねがいタスけて。

タスけてようちゃんタスけてようちゃんタスけてようちゃんたすけてたすけてたすけてたすけて―――


185 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:26:38.72 ID:Yipmq1y50



曜「……あぁ、ああ……」

むつ「やっぱりね。目に見えて炎圧が下がった」


曜「貴様ァァァアアアア!!!!!」

むつ「怒るなよ。サポート役を先に潰すのはセオリーでしょう?」


曜「千歌ちゃん!! 今そっちに行―――」

むつ「行かせると思う?」



―――ガキンッ!!



曜「くそッ!! 邪魔するなよ!!!」ギギギッ!

むつ「まだ防げるだけの炎圧は出てるのね」

曜「この……ッ!!」

むつ「でもさ、あの子の元に行ってどうするつもり?」

曜「あ゛あ゛!?」ギロッ

186 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:28:57.44 ID:Yipmq1y50


むつ「雨の炎じゃ痛みを取り除くくらいしか出来ない」

曜「……うるさい」

むつ「傷を癒せる晴の炎が無ければあの子は助からない。行くだけ無駄だよ」

曜「うるさい!!」

むつ「君の取るべき行動はただ一つ。炎圧が下がり切る前に私を倒す事でしょ。ほら、こうしている今もみるみる弱っているよ」

曜「うるさいって言ってんだよ!!!」




……言われなくたって分かってる。

千歌ちゃんを救う為には一刻も早くこいつを倒さなきゃいけないことくらい。

でも……ああッ!!

後悔と怒りで頭がどうにかなりそうだよ!!!


……どうする。

……どうする。

……どうする。

187 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:35:31.84 ID:Yipmq1y50


千歌「……よ゛、う゛……ちゃん」

曜「ッ!!?」

むつ「へぇ……まだ意識あるんだ」



残された僅かな力を振り絞り体勢を上げる。

大量出血により体温は著しく低下し唇は真っ青となっていた。



千歌「はぁ……はぁ、はぁ……ッ」

曜「千歌ちゃん! ゴメン! わ、私……ッ!!」



……ソウダヨ。ヨウチャンノセイダ。



千歌「大、丈夫……だから」



……全然大丈夫ジャナイ。



千歌「私なら……大丈夫、だから……ッ」



……コノママジャ死ンジャウヨ。



千歌「だ……から……か、って………」



―――ベチャッ



千歌「……」


曜「……ッ、ぁ……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」


曜「殺す! お前は絶対に殺す!!」

むつ「……言うだけなら簡単だよ。直ぐ行動に移さなきゃ」
188 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:37:22.37 ID:Yipmq1y50


千歌「………」



指一本動かせない。

痛みは感じなくなっていた。

心臓の鼓動も徐々に弱まってる。




……全部ヨウチャンノセイダ。

……違う。

……ヨウチャンガ守ッテクレナカッタセイダ。

……違う。


曜ちゃんは悪くない。

攻撃を躱せなかった私が悪いんだ。

そもそも、こうなる事も覚悟の上で戻って来たじゃないか。


……でも、このまま死んじゃうの?

私が死んだら元の世界はどうなっちゃうんだろう。


曜ちゃん。梨子ちゃん。花丸ちゃん。ルビィちゃん。善子ちゃん。果南ちゃん。ダイヤちゃん。鞠莉ちゃん。


もう二度とみんなと会えない。

廃校の阻止も出来てない。

ラブライブ本戦にだって出場出来てない。

まだまだまだまだ、やり残した事が沢山ある。


まだ……死にたくないよぉ……。




―――グチャッ




千歌「………ぁ」
189 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:38:17.89 ID:Yipmq1y50


曜「……」



千歌のすぐ隣に曜が仰向けに倒れ込んできた。

既に意識は無い。

手に持っているトンファーは短く切断され

右肩から左腰にかけて大きな切創が出来ていた。

傷の深さは不明だが、出血量から見て致命傷に近い。


曜は敗北したのだ。




千歌「………よ………ぅ………ち、ゃ………」



最後の力を振り絞り、曜の右手を掴む。

刹那、千歌の意識は暗い暗い闇の中に落ちて行った―――。


190 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:42:22.15 ID:Yipmq1y50

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




むつ「……終わったね」



ふぅ、と一息つく。

『電狐』を匣に戻した。



むつ「他者の炎を増幅させる技か。初めて遭遇したけれど中々興味深いね」

むつ「まだ死んでないし、連れて帰って人形兵にするのも……」

むつ「……いや、この傷じゃ城に戻るまで持たないか」



むつ は『雷電』に炎を纏わせる。



むつ「ただの小娘が私に一撃を入れたご褒美だよ。『雷電』渾身の一撃で葬ってあげるよ」バチバチッ!!!









???「―――……うーん、それはちょっと困るかな」









むつ「……今度は誰?」



声のする方向を向く。

そこには黒いローブにペストマスクを被った小柄な人間が立っていた。

声を聞く限り少女であるのは間違いない。
191 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:45:19.47 ID:Yipmq1y50


???「ここで彼女達に死なれたら困る。まだやって貰わなきゃいけない事があるからね」

むつ「私が知った事じゃないね」

???「君の任務はもう終わったでしょう? ならここで今すぐ撤退してくれると助かるんだけど」

むつ「……いいや、たった今新たに追加されたよ。お前を排除するって任務がね」

???「止めて置いた方がいい。まだ死にたくないでしょ?」

むつ「言ってくれるじゃない。……このクソガキがッ!!」



―――バチバチバチッ!!!



リングから凄まじい炎が放出される。

曜との戦闘時以上の出力だ。



???「はぁ……仕方ないなぁ。まだ本調子じゃないけど、戦うしかないね」

192 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:47:55.78 ID:Yipmq1y50


???「……後悔するなよ?」




―――ゴオオオッ!!!!




むつ「……ッ!!? な、なんだ……何なんだその炎はッ!!?」



“黒い炎”だと!?

大空の七属性のどの色でも無い。

そもそもこの炎圧は何だ。

さっきの子と同等かそれ以上だ。

人間一人が生み出せる炎圧を遥かに超えている。

それに右肩から生えている黒い翼は一体……。



むつ「お前は一体……何者な―――」




―――グチャ……




むつ「………は?」

???「はい、お終い」

むつ「何を……され、た………」ドサッ








???「―――おやすみなさん♪」






193 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:50:01.62 ID:Yipmq1y50


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





千歌「…………っぅ」




……痛い。

また痛み始めた。

痛みを感じるって事は私はまだ死んでない?

でもこの傷じゃもう助からないよね。

血もこんなに沢山出ちゃったし。

どうせ死ぬのにどうして意識が戻っちゃったんだろう。

痛みが無いまま逝きたかったのにさ。

神様も残酷な事するよね……。





「―――……んちゃん!」





……何だろう。

声が聞こえる。

誰か近くに居るのかな。





「―――……果南ちゃん、みんなも早く! ここに居たよ!!」
194 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:52:21.49 ID:Yipmq1y50

「こ、これは……酷い」

「これ……もう死んじゃってるんじゃ……」

「大丈夫。二人共微かだけど脈はまだあったずら」

「よしみ、どう?」

「そうですね……二人共酷い傷ですが今ならまだ間に合います」

「ほう」

「本当!? なら早く―――」



「―――ただ、確実に救えるのは片方だけです」



「え……ひ、一人だけ……?」

「出血量が余りにも多すぎる……残された体力を考慮すると二人同時に救える可能性はかなり低いかと」

「……なるほどね」
195 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:54:22.52 ID:Yipmq1y50


「どうするずら?」

「か、果南ちゃん……」

「選んで下さい。どちらの子を助けますか?」

「全く、嫌な選択を押し付けるね……」



千歌「……ぁ、……ぅぉ」



「っ! ね、ねえ、千歌ちゃんが!」

「このタイミングで意識を取り戻したずら!?」

「しっ! 何か言ってます」



千歌「……ぅを、……すけて」



「……えっ」



千歌「―――よう、ちゃん……を、助けて……くだ…さい」



「う、嘘……」

「どうして……果南ちゃんとよしみちゃんの会話は聞こえていたはずなのに」


千歌「お願い……します……曜ちゃんをたす、けて……」


「驚いた……この状況で自分じゃなくて他人の命を優先するなんて」

「自分を助けてって言っても誰も批判しないのに……凄い」


「……よしみ、私の指示はもう分かっているよね?」

「ええ、勿論分かってます」







「―――絶対に“二人共”救ってみせますよ!!」ボッ!!




196 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:55:52.13 ID:Yipmq1y50
今回はここまで。今回更新で物語の三分の一くらいです。
197 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/09(水) 23:13:32.71 ID:3Lp6gUoI0
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〜浦の星王国 城内 病室〜



善子「よいしょっと」ギシッ

むつ「……ぁ、津島……さ、ん?」

善子「あ、起こしちゃった?」

むつ「いえ……目を閉じていただけですから」

善子「……」

むつ「……」

善子「…何無様にやられてるの?」

むつ「はは……返す言葉もないです」アハハ…

善子「ヘラヘラしてるんじゃないわよ」

むつ「す、すみません」
198 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/09(水) 23:20:32.45 ID:3Lp6gUoI0


善子「……随分とコンパクトな体になったじゃない」

むつ「ええ、腰から下と内臓の六割を失いましたから……」

むつ「今は三人の術師が交代で施してくれる幻術で内臓の機能をなんとか補って辛うじて生きています」

善子「知ってる。皮肉で言ったの。真面目に返答しないで」

むつ「で、ですよね……」


善子「……なんでよ」

むつ「え?」

善子「なんで私の幻術は拒絶したの?」

むつ「……」

善子「私の力なら人間の内臓機能くらい私一人でカバー出来る! 何なら無くなった足だってね!! 以前と変わらない体に戻してみせるわ!!」

むつ「……そうですか」

善子「もしかして私の負担になると思っているの? だとしたら見くびらないで。こんなの私にとってペン回しと同じくらい簡単な事よ」

むつ「え、津島さんペン回し出来なかったはずじゃ……」

善子「あ、揚げ足とるな! ブッ飛ばすわよ!?」

むつ「そ、それは勘弁して欲しいです…」
199 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/09(水) 23:23:40.75 ID:3Lp6gUoI0


むつ「確かに、あの音ノ木の初代霧の守護者『東條希』と同じ『魔術師(マーゴ)』の異名を持つ津島さんならきっと出来るでしょうね」

善子「なら―――」


むつ「でもいいんです」

善子「ッ!? だから何でよ! 分かっているの!? このままじゃあなた、人形兵(マリオネット)にされるのよ!?」

むつ「ええ、分かってます」

善子「ならどうして!?」

むつ「……これは“罰”なんですよ」

善子「罰?」

むつ「私は奪ってはいけない命を奪ってしまった……その罰なんですよ」

善子「何よ……それ……」

むつ「だからいいんです。私はこのまま―――」


善子「いい訳無いでしょ!!!」


むつ「つ、津島……さん?」
200 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/09(水) 23:27:55.57 ID:3Lp6gUoI0

善子「どうしてそんなにあっさり受け入れるの!? このままじゃ死ぬのよ!?」

善子「私なら何とか出来るって言ってるじゃん! だから頼れよ!!」

善子「私は……! 私は…むっちゃんに生きて欲しいんだよ!!」ポロポロ

むつ「……っ」ギリッ

善子「生きたいって言えよぉ……ねぇ、お願いだから…」

むつ「津島さ……善子ちゃん、泣かないで?」

善子「……泣いてないし」グシグシ


むつ「……少し、昔の話をするね」

善子「何よ、いきなり」

むつ「善子ちゃんが私の上司に就任した時の話だよ」
201 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/09(水) 23:30:50.88 ID:3Lp6gUoI0


むつ「あの時は年下の子どもが自分の上司に就くって聞かされてホント気に入らなかったね」

善子「や、やっぱり…?」オロオロ

むつ「当時のメンバー全員が納得して無かったよ。『守護者は中学生のガキに務まる役目』じゃないってね」

むつ「どんな生意気なクソガキが来るのか全員で色々と予想していたんだよ?」


むつ「……でも全員の予想は大外れ。超が付くくらい謙虚で逆に引いたよね」

善子「だ、だって一番年下だったし……。それで引くのはおかしくない?」

むつ「それくらい衝撃だったんだよ。子どもで天才ってのは生意気と相場が決まってるから」

むつ「それと同じくらい善子ちゃんの才能には衝撃を受けた。この人には一生敵わないって」
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