勇者「休暇?」女神「異世界転生しすぎです、勇者さま」

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97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/05(木) 22:32:40.97 ID:ScR/6PTI0
勇者「だってさっきから今の間に、自然に傷が塞がるわけないだろう?」

少女「うーん……。ちょっと腕とか見せてよ」

勇者「ほら」

少女「……ないね。綺麗なままだ」

勇者「だろう?」

勇者(実際のところ、傷はあった。だいぶ傷だらけだった)

勇者(そのほとんどを回復魔法で塞いでしまったので、跡形もないが)

勇者(さっきの炎魔法の一件でわかったことがある。それは、この世界では魔法の威力が著しく下がってしまう、ということだ)

勇者(この傷口を治すくらいの魔法をかけても、一瞬痛みが和らいだような気がしたような、本当にわずかな効果しかなかった)

勇者(しかし、実験も兼ねて何千人もの瀕死の人々を完全に回復させてしまうくらいの、究極回復魔法を自分一人に集中させたら、それでようやく俺の擦り傷は回復した)

少女「でも、ちょっと顔色悪いね」

勇者(余計な心配をかけないためにとはいえ、おかげで魔力はスッカラカンだ。もう一人分、少し体力を削って魔力を使用したせいもあって、今にも倒れてしまいそうですらある)
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/05(木) 22:33:13.64 ID:ScR/6PTI0
少女「でも不思議。私の方が傷が多いくらい……あれ?」

少女「おかしいなぁ。この辺り転んで擦りむいてたような気がしてたのに」

勇者「もうボケが始まっているのか?」

少女「私まだ中学生だよ!? 変だなぁ……」

勇者「おそらく焦っていて勘違いしたのだろう。よくある話だ」

少女「うーん……」

グゥゥー

勇者「腹、減ったな……」

少女「あら、もうお昼なんだね。……うふふっ」

勇者「どうした?」

少女「ううん、なんでも!」ニコニコ

勇者(上機嫌なのを誤魔化しきれてないのだが)

少女「あっ、ちょうどいいとこ発見ー!」

勇者「? ああ、ちょうど日陰になってるな。少し休むか」

少女「そうだね!」
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/05(木) 22:33:40.91 ID:ScR/6PTI0
少女「じゃじゃーん!」

勇者「こ、これは……!」

勇者(彼女が自信たっぷりに包みを広げると、可愛らしい弁当箱が姿を見せた)

少女「うふふー。作ってきたんだよー!」

勇者「そんな時間あったか?」

少女「魔法を使ったの!」

勇者「魔法? そんな魔法があるのか! 是非教えて欲しい!」

勇者(これまでいろんな世界を旅してきたが、食糧を生み出すような魔法には、今までお目にかかったことがない)

勇者(しかし、もしも食糧を生み出すような魔法があれば、まさに夢のような魔法だ)

勇者(わざわざ持ち運ぶ労力もいらなくなるし、戦いが始まった後の兵士の士気の継続にもうってつけだ)
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/05(木) 22:35:08.61 ID:ScR/6PTI0
少女「冗談だって。なに本気にしてるのー」

勇者「あ……」

勇者(どうやらからかわれてしまったらしい。よく考えてみればこの世界には魔法がないのだった)

勇者(あまりにも革新的な魔法だっただけに、つい冷静さを欠いてしまった)

少女「魔法とか信じてるの? 子どもだねー」クスクス

少女「そう言えばさっきも何だっけ? フレイヤとか言ってなかった?」クスクス

勇者「む……」

少女「結局何も出てなかったし、一瞬びっくりしたしあきれたよ……」

勇者「よく見れば若干光ってたのだが……」ボソッ

少女「え? 何か言った?」

勇者「いや、何でも――」

グゥゥー
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/05(木) 22:36:02.67 ID:ScR/6PTI0
勇者「…………」

少女「い、今のは……!」

勇者「……何も、聞こえてないぞ」

少女「聞こえてるじゃん! バリバリ聞こえてたよね!?」

グゥゥー

勇者「ぷっ」

少女「もう〜〜!」ポコポコ

勇者「あはは! ほら、せっかく用意してくれたのだろう?」

少女「むぅ……。なんか納得いかないな」パカッ

勇者「おお……!」

少女「よかった……。そんなに崩れてない」
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/05(木) 22:36:28.66 ID:ScR/6PTI0
勇者・少女「「いただきます」」

勇者「めっちゃ美味そうだ……っ」パクッ

少女「…………」ドキドキ

勇者「…………」モグモグ

少女「…………」ドキドキ

勇者「っ!」ビクッ

少女「!」ビクッ

勇者「うまいっ!!」

少女「!」パァァッ

少女「本当!?」

勇者「ああっ!」

少女「そっか、よかったぁ……」ホッ
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/05(木) 22:37:08.15 ID:ScR/6PTI0
少女「ほら、昨日はとうもろこししか用意できなかったから……」

勇者「……もしかして、俺がちゃんとしたものを食べるためにこれを?」

少女「うん」コクン

勇者「ありがとう。本当に嬉しい」

少女「そんなに喜んでもらえたなら、私も昨日準備しておいた甲斐があるよ……あっ」

勇者「昨日?」

少女「うそ! 魔法!!」

勇者「お、おう……」

勇者(そこは知られたくないのか)
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/05(木) 22:37:36.20 ID:ScR/6PTI0
――

――――

少女「いいよ。入ってきて」ヒソヒソ

勇者「ほい」ピョンッ

少女「なんだか自分の家なのにドキドキするね、こういうの。潜入みたいで」

勇者「みたいと言うか、俺に関しては完全にそれなのだが」

少女「あははっ、そうかも」

勇者「……どうした?」

少女「うーん。なんかちょっと、眠い……」バタン

少女「…………」

少女「すぅー、すぅー」

勇者「…………」

勇者「えっ、もう寝たのか?」

少女「すぅー、すぅー」
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/05(木) 22:38:17.07 ID:ScR/6PTI0
勇者「はぁ……。とりあえず、無事に終わってよかったな……」ドサッ

勇者「…………」

勇者「あと、一ヶ月か」

勇者(一日目から、いろいろあり過ぎたな。最後まで保つのか不安だ)

勇者(……でも、何だろう。この感じは)

勇者(少しだけ、全身が軽くなったような気がする)

勇者(ずっと自分の中にのしかかっていた何かが、消えていくような感覚)

勇者「……まさか、本当にこれで休暇になってしまうのか」

勇者「女神様の狙い通りみたいで癪すぎる……」
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/05(木) 22:38:57.73 ID:ScR/6PTI0
ゾワッ

勇者「……!」

??『たす……て……、う……』

??『うっ!』

グシャッ

??『ど……して……、……んじ……たのに……』

勇者「はっ……!」

勇者「…………」

勇者「……なんだ、今の?」
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/05(木) 22:39:23.46 ID:ScR/6PTI0
今日はここまでです。
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/06(金) 10:59:58.93 ID:mt8SHglbO
いいね
期待
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/06(金) 18:52:44.15 ID:+3/+j6sW0

面白いぞ
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/06(金) 22:21:26.27 ID:n22xCJ490
ミーンミーン

少女「……ねぇ」

勇者「しっ! 静かに」

少女「…………」

勇者「あと少し……」

勇者「あと三歩……、二歩……」

少女「…………」

勇者「ふんっ!」ブンッ

勇者「よし! オオクワガタだな、これは!」

少女「……ねぇ」

勇者「なんだ?」キラキラ

少女「それ、楽しいの……?」

勇者「え」
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/06(金) 22:23:11.19 ID:n22xCJ490
ミーンミーン

勇者「そうか……。女の子って昆虫採集とか、あまり好きじゃないのか……」ズーン

少女「ご、ごめん! そこまで落ち込むなんて思ってなかった……」

勇者「いや、いいんだ。君の気持ちを考えていなかった自分が悪い」

少女(すごく意気込んでいたもんね……)

勇者『今日のは期待していて欲しい!』

少女(…………)

勇者「すまない、本当に……」ズーン

少女(なんか悪いことしちゃったな……)
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/06(金) 22:23:39.18 ID:n22xCJ490
子供「ああーーっ!! それーーー!!!」

勇者「ん?」

少女「えっ?」

子供「オオクワガタじゃん!! すげーーっ!!」ピョンピョン

勇者「お、君はわかるかい?」

子供「決まってるじゃん!! しかもでけー。こんなの見たことねぇー!!」

勇者「欲しいか?」

子供「えぇっ!? いいの!?」

勇者「ああ。その代わり大事に飼うんだぞ?」

子供「マジかーー! やったぁ!! ありがとう!!!」
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/06(金) 22:24:08.48 ID:n22xCJ490
勇者「あんなに喜んでもらえるとは……」

少女「そんなに捕まらないものなの?」

勇者「この時間帯だと、あんまいないな。クワガタって基本夜行性だし」

少女「へぇ……。よく知ってるね」

勇者「たぶん前に本で読んだんだ」

勇者(あれから一週間が経った)

勇者(七日間イベント尽くし、とはもちろんならず、二、三日に一回俺が何かしら提案するという流れだった)

勇者(それ以外の日は、二人で適当に外をぶらついたり、部屋でカードゲームで遊んだりと、平凡な一日を過ごしている)

勇者「はぁ……まいった」

勇者(見事にネタ切れだ。自分の老いた発想力では、一週間女の子を楽しませることもできないのか)

少女「この後の案って何かある?」

勇者「……いや」

少女「じゃあ、今日は私の番ね」

勇者「君の番?」
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/06(金) 22:24:40.14 ID:n22xCJ490
ザザーン

勇者「海、だな」

少女「うん、海」

勇者「……それで、何をするんだ?」

少女「何もしないよ?」

勇者「はっ?」

勇者(呆気にとられる俺の先を彼女は歩いていき、堤防まで着くと地面を何回か払ってから、そこに腰掛けた)

少女「ほら、隣座ってよ」ポンポン

勇者「あ、ああ……。よっこいせっと」

少女「ふふっ」

勇者「ん?」

少女「いや、おじさん臭いなぁって」

勇者(中身、おじさんどころかおじいさんなのだが)
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/06(金) 22:25:07.14 ID:n22xCJ490
勇者「…………」

少女「…………」

勇者(そして沈黙である)

勇者(なんだ? 一体なぜ何も言わないんだ?)

勇者(俺が何か話すべきなのだろうか。こういう時に気が利くような話なんて思いつかない)

勇者(目の前にはただただ広がる海。ヒントらしきものはそれくらいしかない)

勇者(もしかしたら、やはりさっきので愛想を尽かされて、もうあの家から出て行くように言い渡されるのかもしれない)

少女「さっきは、ごめんね」

勇者「えっ?」
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/06(金) 22:25:52.03 ID:n22xCJ490
勇者「どうして君が謝るんだ?」

少女「私、わがままだったなって」

勇者「わがまま……」

少女「うん、そう」

少女「私ばっかり楽しくなるように、あなたに無理をさせちゃった」

勇者「そんなことない」

少女「そんなことあるよ。だからね、さっきも言ったけど、今度は私の番」

少女「私も、君の……休暇だっけ? それを良いものにできるように頑張るから」

少女「……頑張るって言うのもおかしいかな。あははっ!」

勇者「……別に、頑張らなくたっていい」

少女「そうだよね!」

勇者「いや、そういう意味じゃなくて」
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/06(金) 22:26:18.19 ID:n22xCJ490
勇者「今のままだって、俺は十分……」

少女「十分、なに?」

勇者(今、俺は何と言おうとしたのだろう)

勇者「十分……」

勇者(ああ、思い出した)

勇者(だが……)

勇者「十分、休暇になってる」

少女「えー?」

勇者(違う、こんなのはダメだ。俺が抱いていい感情じゃない)
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/06(金) 22:26:47.60 ID:n22xCJ490
キュー、キュー

少女「あ、カモメだ」

勇者「そうだな」

少女「空を飛んでみたいって、思ったことない?」

勇者「空なら……」

勇者(と言いかけたところで言葉を止める)

勇者「……怖いから嫌だな」

勇者(いくらだって飛んだことがあるなんて、この世界では口にできないのだ)

勇者(もしも、彼女を魔法で空へ連れて行ったら、どんな顔をするだろうか)

勇者(きっと目を丸くして、そして笑うのだろう)

勇者(この世界を明るく照らす太陽のように、煌びやかな笑顔を)

勇者(そうしてやれない現状が、少し歯がゆく感じられた)
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/06(金) 22:27:50.94 ID:n22xCJ490
少女「怖いって、それでも本当に男なの?」

勇者「怖いものは怖い。落ちたときのことを考えるとなおさら」

少女「空を飛べたらって話なのに、落ちた時のことを考えるなんて。やっぱりあなた、変わってる」

勇者「もう聞き飽きたよ」

少女「あははっ!」

勇者(それからはまた他愛もない会話に花を咲かせて、夕日が水平線に沈むのを見た)

勇者(彼女と一緒にいると、時間があっという間に過ぎる)

勇者(ただ、時間が過ぎる)

勇者(何の意味もない時間が、ただ、過ぎる)

勇者(そんな感覚が新鮮で、だから余計に感傷に浸ってしまう)
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/06(金) 22:28:17.35 ID:n22xCJ490
勇者「綺麗だな……」

少女「うん……」

少女「……夕日って綺麗だけど、少し寂しくなるよね」

勇者「寂しく、か……」

少女「なんでだろ……。何か大事な物が消えちゃうみたいな、そんな感じがするの」

勇者「考えたこともなかったな」

少女「風情がないなぁ」

勇者「否定できない」

勇者(こんな風に景色をゆっくりと眺めた記憶がない)

勇者(前にも彼女と星空を眺めた時にも思ったことだ)
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/06(金) 22:29:10.05 ID:n22xCJ490
――

――――

リーンリーン…

少女「すぅ……、すぅ……」

勇者(夜も更けて少女はぐっすりと眠っている)

勇者(眠れずにいたが、手持ち無沙汰だった)

勇者「…………」

勇者「月が、きれいだな……」

勇者「落ち着いて月を見上げることも、忘れていたのか」

勇者「……でも、当然の報いなのかもしれない」

勇者「むしろ……」

??「あの」

勇者「!?」バッ

??「あ、静かに……。あの子が起きちゃうからねぇ」

勇者「あ、あなたは……?」

??「はじめまして。その子の祖母でございます」
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/06(金) 22:30:15.68 ID:n22xCJ490
今日はここまでです。
次回の更新は月曜日になります。
それと、乙、感想など、ありがとうございますm(_ _)m
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/07(土) 08:36:11.25 ID:GttilDcJ0

ばっちゃ気がついてたのか
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/07(土) 10:00:39.76 ID:VNBb1ZF8O
乙!
そりゃバレるよねぇ
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/09(月) 20:57:18.37 ID:Xb9WhpyD0
勇者「あ……っ!」

勇者(しまった……! 彼女の祖母ということは、つまりはこの家の主……)

勇者(見つからないようにと心がけていたつもりだったが、完全に油断していた……!)

勇者(どうする……? このままじゃ不法侵入で逮捕されること間違いなし。なら、逃げるか……?)

勇者(窓は……)チラッ

祖母「あ、別に焦らなくても大丈夫よぉ。気づいてたからねぇ」

勇者「……えっ?」

勇者(気づいていた……!?)

祖母「ここで話すのも何ですし、下に降りてきなさい。お茶でも出すよ」

勇者「…………」

祖母「ふふっ」ニコッ

勇者「……いただきます」
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/09(月) 20:57:52.91 ID:Xb9WhpyD0
祖母「どうぞ」

勇者「ありがとう、ございます……」

祖母「ごめんなさいね。ろくにご飯も用意できなくて」

勇者「いえ……」

祖母「最近ね、あの子がよく笑うようになったのよぉ」

勇者「……?」

祖母「あと、ご飯を食べる時とかには、いろんな話をしてくれるようにもなってくれてねぇ」

祖母「『今日は山に冒険に行った』とか、『村の見たことのない場所へ行ってきた』とか」

勇者「へぇ……」

祖母「その時にね、いつもあんたの話をするのよ?」

勇者「俺の?」
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/09(月) 20:58:32.51 ID:Xb9WhpyD0
祖母「ええ、ええ。本当に楽しそうに」

祖母「ここにいる時のあの子は、いつも退屈そうで……。だから、あんたには一度会ってみたくてねぇ」

勇者「あれ? でも、気づいていたって……」

祖母「何か隠しているなぁ、とは思ってて。てっきり犬か猫でも部屋の中で飼ったりしているのかなぁ、なんて」

勇者「……まさか、人間がいるなんて思いもしなかったでしょうね」

祖母「ええ、ええ。その通りで。一昨日あんたを見つけた時は驚いたわぁ」クスッ

勇者(あ……)

勇者(今の笑い方、微かに彼女に似ていたような気がする。血がつながっているからだろう)

祖母「あの子は、夏休みになるとここに来るんだけども。親はずっと仕事で忙しくて、ごはんも作ってあげられなくて」

勇者「だから、祖母であるあなたに預けていると」
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/09(月) 21:00:47.68 ID:Xb9WhpyD0
祖母「本当はわたしなんかに預けないで、親子一緒の方が良いっていっつも言っているんだけどねぇ。そうもいかないようで……。向こうには向こうの事情があるんでしょうね」

祖母「それでここに来るけどここには何もないから、あの子にとってはちょっと退屈で。しかも毎年のことだから、なおさら……」

勇者「ということはここに、他の俺くらいの年齢の人は……」

祖母「ええ、いないんよ。だからせめてわたしが何かできれば良いのだけど、最近の若い子のことはよくわからんくてのぉ……」

勇者「はぁ……」

祖母「だから、お願いしてもいいかの?」

勇者「えっ?」

祖母「あんたにはあんたなりの、ここにいる事情があるんでしょ?」

勇者「え、ええ。まぁ……」

祖母「なら、あの子と一緒にいてもらえんか? この家にはいてもらって構わないから」ペコリ

勇者「そんな……! 頭を下げないでください!」

勇者「こちらこそ願ってもない話です。……よろしくお願いします」

祖母「本当かい……!」パァッ

勇者「はい」

祖母「ありがとう……。本当にありがとうねぇ……っ」

勇者「だから頭を上げてくださいって!」
129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/09(月) 21:02:05.65 ID:Xb9WhpyD0
――

――――

勇者「へぇ……。この辺りに生まれてからずっと住んでるんですか」

祖母「そうそう。それでなぁ……」

バタバタバタバタ!!

少女「ひゃっ!!!」

勇者「あ」

祖母「あら、おはよう」

少女「え、えっとね、おばあちゃん、この人は……!」アセアセ

勇者「あ、いや、それはもう……」

少女「怪しい人じゃないって言うか、いつもの人って言うか……!」

少女「私を、すごく楽しませるためにいる人なの!!」

勇者「」

祖母「…………」

勇者(その言い方は、なんか、その……、誤解を招かないか? 事実だが)
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/09(月) 21:02:37.34 ID:Xb9WhpyD0
祖母「……ふふっ」

少女「あ、あれ?」

少女「そう言えばあなた、なんでそんなお茶まで用意されてくつろいでるの?」

勇者「お茶美味しいです」

祖母「あら、ありがとねぇ」

少女「えっ? あ、あれ? あれれ? 一体どういうことなの??」

祖母「大丈夫よ、わかってるから」

勇者「と、いうことだ」

少女「えっ? え、えええっ!?」

勇者(それから事の顛末を聞いた彼女は、一気に力が抜けたようで床にへたりこんだ)

少女「な、何なの、それ……」
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/09(月) 21:03:05.28 ID:Xb9WhpyD0
祖母「ちょっと先にこの子の部屋に戻っててもらってもいいかい?」

勇者「あ、俺ですか?」

祖母「ええ」

少女「えっ」

祖母「ちょっとお話があるんで」ニッコリ

少女「ひぃっ!?」

祖母「ほら、ちゃんと座りなさいな」

少女「い、いや……っ! 助け……」

祖母「ほら、彼の方ではなくこっちを見なさい」

少女「ちょっと待って……」ウルウル

勇者「…………」

少女「うぅ〜」ウルウル

勇者「……頑張れ」

少女「裏切られたぁっ!?」

勇者「失礼します」
132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/09(月) 21:03:34.12 ID:Xb9WhpyD0
勇者「ふぅ……」スタスタ

勇者(恐らく説教を食らう羽目になるのだろう。部外者は退散するとしよう)

祖母「せっかくお客さんが来ているのに、とうもろこししか出さないのは、どうなんだい?」

少女「おばあちゃん……、目が、怖いよ……?」

勇者「頑張れよ……」

勇者(改めてエールを送って彼女の部屋に向かった)

勇者「まさかこんなことになるなんてな……」

勇者(状況は好転している。ここに公認でいられるだけじゃなく、食事まで用意してもらえるらしい)

勇者(返せるものがないと断ろうとしたが、子どもが遠慮しないで、と言ってくれた)

勇者(明日の朝からは、まともな食事ができる。そう思うと早く日が昇って欲しいくらいだ)

勇者「また明日、お礼言わないと」
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/09(月) 21:04:01.31 ID:Xb9WhpyD0
勇者(明日はどんな一日になるだろう)

勇者(具体的なイメージは湧かないが、きっといい日が来ると思える)

勇者(どうしてか、この世界は輝いて見えるのだ)

勇者(ずっと昔になくしたはずの光が、ぼんやりと自分の心を照らしているような)

――――

??『……る……い……』

勇者「あ……」

勇者(脳裏に声が現れる)

勇者(まただ)

勇者(覚えている。何もかも鮮明に、覚えている)

勇者(覚えている、覚えている、覚えている、思い出す)

勇者(思い出す、思い出す、思い出したくない、思い出す、思い出す、思い出す)

ザシュッ
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/09(月) 21:04:29.72 ID:Xb9WhpyD0
――

――――

覚えている。

その光景を、覚えている。

「はぁっ……、はぁっ……」

「だ、誰か……助け……っ」

地の底から響いてくるような轟音に、背中を突き飛ばされた。

宙を舞う感覚。

そして衝撃。

「きゃっ!?」

「どうして、こんな……」

「嫌だ……っ、死にたく、死にたくないよぉ……!」

――――

――
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/09(月) 21:05:17.80 ID:Xb9WhpyD0
今日はここまでです。
乙、感想ありがとうございます。いつも励みになっていますm(_ _)m
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/10(火) 00:50:58.60 ID:HfLymtBA0
おつ
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/10(火) 22:20:54.02 ID:7gfVP0jr0
勇者「ぐ……、うぅ……」

勇者「はっ!? ……なんだ、夢か」

少女「大丈夫?」

勇者「あ、起こしてしまったか? すまない」

少女「ううん。今おばあちゃんから解放されたところ」

勇者「なるほど」

少女「どうしたの? うなされてたけど」

勇者「いや、大したことは……」

少女「怖い夢でも見た?」

勇者「!」
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/10(火) 22:21:20.09 ID:7gfVP0jr0
少女「わかりやすいよね、あなたって」

勇者「……まぁ、ただの夢だ」

少女「でも、普通じゃなかったよ。すごく苦しそうだった」

勇者「…………」

勇者(一体、自分はどうなってしまったのだろう)

勇者(俺は勇者だ。魔王から世界を救う勇者。だから、今まで幾多の命を殺めてきた)

勇者(魔物も、人間も)

勇者(罪の意識は、なかったと言えば嘘になる。だが、たくさんの世界を救う旅を続けていくうちに、それもいつしか消えていった)

勇者(命を失うことに対して、何も感じなくなった)

勇者(そのはず、なのに……)

勇者(なのに、どうして今になって……)
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/10(火) 22:21:45.79 ID:7gfVP0jr0
勇者「……大したことは、ない」

少女「あなたがそう言うなら、そうなんだとしか言えないけど」

少女「でも、もしも何か悩んでいるなら相談してね。私じゃ頼りないかもしれないけど」

勇者「そんなことはないさ」

少女「ふふっ。そう言ってくれるなら、いつか、ね?」

勇者「ああ」

勇者(説明したとして、理解を得られるとも思えないが)
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/10(火) 22:22:13.62 ID:7gfVP0jr0
――

――――

リーン、リーン

勇者「ZZZ…」

少女「ん……むにゃむにゃ」

少女「……あれ、まだ夜」

勇者「ZZZ…」

少女「眠ってる。……うふふっ、寝顔は可愛いなぁ」

少女「起きてる時はずっと難しそうな顔をしているのに」

少女「おなかの辺りつついてみよ。ツンツン」

勇者「む? うぅーん……」

少女「ツンツン、ツンツン」

勇者「ぐっ、ぬぅ……」

少女「ふふっ。面白い」
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/10(火) 22:22:39.37 ID:7gfVP0jr0
勇者「……い」

少女「あ、起きちゃったかな……?」

勇者「……さい」

少女「寝言?」

勇者「……んなさい」

勇者「ごめんなさい」

少女「えっ?」

勇者「……な、さい」

勇者「ごめん、なさい」

少女「また、謝ってるんだ……」

勇者「ごめんなさい、ごめんなさい……」

少女「あなたは、誰に謝っているの……?」

少女「誰から許されたくて……?」
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/10(火) 22:58:21.92 ID:7gfVP0jr0
コケコッコー

勇者「ほら、朝だぞ。起きろ」

少女「うーん……。あとちょっと、ちょっとだけ……」

勇者「なんでそんなに眠いんだ。同じ時間寝てるのに」

少女「きっと私はロングスリーパーなんだよ……。人よりいっぱい寝ないとダメな人なの……」

勇者「それ以上寝てるなら、君の分まで朝食を食べるぞ?」

少女「それはひどい!!」ガバッ

勇者「食い意地すごすぎないか?」

少女「だって朝逃したら、次は昼まで待たなきゃいけないじゃない! そんなの、耐えられる気がしない……っ」

勇者「……君から一食抜いたらどうなるのか、少し気になるな」

少女「きっと干からびて死んでるね」

勇者「君は吸血鬼か何かなのか?」
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/10(火) 22:58:55.29 ID:7gfVP0jr0
祖母「あら、おはよう。二人とも早いのねぇ」

勇者「おはようございます」

少女「おばあちゃんおはよー……」

祖母「眠そうねぇ」

少女「そりゃそうだよ……。普段より一時間は早いもん……」

勇者「遅起き過ぎるな」

少女「ま、まだそれでも午前中に起きてるもん!」

勇者「それ、ダメ人間が言うセリフだぞ」

少女「そんなにダメダメ言わないでよ! 本当にダメ人間になっちゃうよ!?」

勇者「……手遅れかもしれないな」

少女「ひどいっ!」ガーン
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/10(火) 22:59:32.04 ID:7gfVP0jr0
勇者「朝……ごはん……! ご飯にお味噌汁に納豆! さらに漬け物の盛り合わせと、これ以上ない朝食だ!」

少女「すごいテンションだね……」

祖母「どこぞの誰かさんが、とうもろこししか用意してなかったからかねぇ……?」

少女「うっ、やぶへび……」

勇者「いただきます……!」

祖母「はい、どうぞ」

少女「いただきまーす」

勇者「…………」パクパク

勇者「…………」モグモグ

勇者「……う」

少女「う?」

勇者「うまい!」

祖母「それならよかったわぁ」
145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/10(火) 23:00:31.39 ID:7gfVP0jr0
勇者(そうだ、この味、シンプルさ。やはり日本人なら白飯なしに食事を語れない)

勇者(味噌汁もダシや味噌のバランスが絶妙。空っぽの胃にどんどん吸い込まれていくようだ)

勇者(……? どうして俺はこんなに詳しいんだ?)

勇者(いつかここに近い世界を訪れた時に魅了されたのだろうか?)

勇者(そうとしか考えられないが、どこか違和感がある)

勇者(この感じは、なんだ?)

勇者(この胸を締め付ける感情は、一体……)

勇者「……あれ?」ポロポロ

勇者(頬をなにか熱いものが伝う)

勇者(無意識のうちに、目から涙がこぼれていた)
146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/10(火) 23:01:02.90 ID:7gfVP0jr0
少女「き、君! どうしたの!? そんなにおなか空いてたの!? 本当にごめん!」

勇者「い、いや、これは違くて……! な、なんでだ……!?」

祖母「…………」

少女「ごめんね、本当にごめんね!」

勇者「…………」ポロポロ

祖母「ほら、ゆっくりとお食べ。おかわりも用意してあるから」

勇者「ありがとう……ございます……」グッ

勇者「……これ食べたら、また今日もどっか行くか」

少女「えっ。大丈夫なの?」

勇者「大丈夫だって。おばあちゃんが作るごはんが美味しすぎて感動して……」

少女「へんなの……」

祖母「そう言ってもらえて嬉しいわぁ」
147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/10(火) 23:01:33.06 ID:7gfVP0jr0
――

――――

少女「もう夜になっちゃったね」

勇者「一日があっという間に終わるな」

少女「うん。今日は農家のお手伝いなんて言って、正直、正気を疑ったけど」

勇者「おい」

少女「でも、すごく楽しかったよ! 普段私たちが食べているものがあんなふうに作ってるなんて、全然知らなかったから」

勇者(今日は例の祠のことを教えてくれた夫婦の元へ手伝いに行った。好奇心旺盛な彼女には、都会では見られないであろう光景こそ、最も興味関心が惹かれると思ったからだ)

勇者(予想は的中。最初は若干乗り気でなかったものの、作業を始めてから夢中になるまで、数分もかからなかった。果てには――)

少女「将来農家になろうかなー」

勇者(こんなことまで口にする始末である)

勇者「毎朝早起きになると思うが」

少女「うっ……。それはちょっと」

勇者「心折れるの早くないか?」

勇者(それに農家にならなくても、あまり大差なさそうだが)
148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/10(火) 23:02:05.91 ID:7gfVP0jr0
少女「あー、疲れたー。シャワー浴びてくるー」

勇者「おう」

少女「……一緒に入る?」

勇者「バカなこと言ってないで、さっさと浴びてこい」

少女「むぅ……。動揺しないか」

勇者「じゃあ、本当に一緒に入るか?」

少女「えっ? えっ、えっ、えええええっっ!?!?」

勇者「冗談だよ」クスクス

少女「や、やり返された……っ!」

勇者「もう十年女磨いてから出直してきなさい」

少女「なんで同い年のあなたにそんなこと言われなきゃいけないの……」

勇者(精神年齢的には十人分の寿命くらい違うからだろうな)
149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/10(火) 23:02:32.18 ID:7gfVP0jr0
勇者「ふぅ……」

勇者(働いたお礼にと、昼食までごちそうになってしまった。夏の昼にそうめんというのは、反則的だと思う)

勇者「今日の夕飯は何だろ……」

勇者「……って、作ってもらえるのを当たり前みたいに口にしてちゃダメだよな」

祖母「そんなことないよ?」

勇者「うわっ!? き、聞いてましたか……」

祖母「ええ、ええ。昨日も言ったけど、子供がそんな遠慮をするものじゃないからねぇ」

勇者「でも……」

祖母「泣くほど喜んでもらえて、作っているこっちも嬉しいくらいだから」

勇者「あ、はは……。そんなものですかね」

祖母「そんなものそんなもの」
150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/10(火) 23:02:58.28 ID:7gfVP0jr0
祖母「あの子は?」

勇者「シャワー浴びてます」

祖母「あら、ほんとねぇ。そう言えば昨日までお風呂とかはどうしてたんだい?」

勇者「広場にある水道使って水浴びを」

祖母「それもあの子に?」

勇者「ははは、よくおわかりで……。汚い、不潔だのさんざん言われて」

祖母「まったくあの子はもう……。ごめんなさいねぇ」

勇者「あっ、いえ! そんなつもりは全然!」
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/10(火) 23:03:24.17 ID:7gfVP0jr0
祖母「ところで、つかぬことを聞くけどね」

勇者「はい?」

祖母「あんた、ここに来たことはないかい?」

勇者「ここ……?」

祖母「うん、この村に。お父さんとか、お爺ちゃんとかでもいいから」

勇者「……いえ、たぶんないと思います」

祖母「そうかい……」

勇者「どうして、そんなことを?」

祖母「いんや、大したことじゃないのよ」

勇者「……?」

勇者(こんな一風変わった世界に来ていたなら、俺が覚えているはずだ。今まで一度だって魔法が存在しない世界に飛ばされたことはなかった)

勇者(……いや、俺の記憶もあてにはならないか。これまで何百年という月日をかけて、何十という世界を回ってきたんだ)

勇者(もしも最初の頃に来た世界だったとしたら、可能性はゼロではないが……)
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/10(火) 23:03:50.05 ID:7gfVP0jr0
勇者「あの――」

ガララー

祖母「おや、もう上がったんかね。あんたもシャワー浴びてきんさいな」

勇者「あ、おばあちゃ……あなたは?」

祖母「ふふっ。おばあちゃんでええよ、ええよ。わたしは二人が帰ってくる前に、もう浴びているから」

勇者「じゃあ、浴びてきます」

祖母「出たらすぐご飯にしてあげるから、楽しみにしといてなぁ?」

勇者「ありがとうございます」ペコリ
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/10(火) 23:04:16.31 ID:7gfVP0jr0
今日はここまでです。
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/11(水) 06:47:13.87 ID:G6rEohfN0
おつおつ
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/11(水) 11:23:27.15 ID:pmR78uJUO

続きが気になる
156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/11(水) 21:02:05.85 ID:fXtMhTAJ0
おもろい続きが楽しみ
157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/11(水) 22:53:50.40 ID:xaUbRJfj0
――

――――

勇者「ほら、起きろ。朝だぞ」

勇者(また、何日か過ぎていった)

勇者(劇的な出来事なんてものはもちろん起こるはずもない)

少女「うーん……。おはよー」

勇者(朝起きて、朝食を食べて、外で遊んで、昼食を食べて、また遊びに行って)

勇者(日が沈んだら帰ってきて、夕食を食べて、眠る)

勇者(言葉にしてしまえば、これだけで終わってしまう。魔王を討伐する日々と比べたら、何倍も薄い一日のはずだ)

勇者(なのに、なぜだろう)

勇者(朝が来るのが、待ちきれなくなっている自分がいる)
158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/11(水) 22:54:18.09 ID:xaUbRJfj0
――

――――

少女「はぁ……暑い……」

勇者(畳の上に寝転がりながら彼女は愚痴をこぼす。そよ風が縁側に吊るされた風鈴をちりんと揺らした)

少女「クーラーとかないんだもん、ここ」

勇者「結構風抜けが良くて涼しいと思うけどな」

勇者(外は日差しが眩しいくらいにカンカンに照っていて、蝉の声がいくつも重なり合って壮大なオーケストラのように響き渡っている)

勇者(こんなにも、蝉の声とはうるさいものだっただろうか。以前にこの世界に来たときの自分の記憶との間に、若干齟齬があった)

勇者(あ、齟齬と言えば……)
159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/11(水) 22:54:46.07 ID:xaUbRJfj0
勇者「なぁ」

少女「なーにー……?」グデン

勇者「君って、携帯とか持っていないのか? 中学生なら結構みんな持っていたと思うけど」

少女「ケータイ……、あ、スマホか。持ってるけどねー。あんまり使わないよ」

勇者「? へぇ、珍しいな」

少女「よく言われるけど、何かとめんどくさいし。ラインとか」

勇者「……? へ、へぇ」

少女「最近音しないし、もう電源切れてるんじゃないかな。スマホ最後に充電したのいつだっけ……」

勇者「スマホ?」

少女「えっ?」

勇者「えっ?」
160 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/11(水) 22:55:13.17 ID:xaUbRJfj0
勇者「…………」

少女「…………」

勇者「……あの」

少女「はい」

勇者「スマホって、何?」

少女「えっ?」

勇者「えっ?」

少女「それって、何かのギャグ、なのかな?」

勇者「いや、極めて真面目な質問」

少女「あなた、何十年も山に引きこもってたの……?」

勇者「そんなレベル!?」

勇者(もしかして俺が勘違いしているだけで、この世界は俺が以前救った世界とは違うのか?)

少女「ちょっと待ってて」
161 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/11(水) 22:55:42.79 ID:xaUbRJfj0
少女「ほら、これ。見たことくらいはあるでしょ?」

勇者「…………」

勇者「なんだ、この板?」

少女「あなた本気!? 見たこともないの!?」

勇者「えっ……。てか、携帯の話がどうしてそんな……」

少女「これがケータイでしょ?」

勇者「いや、それはスマホってやつなんじゃ……」

少女「だから、これがスマホでケータイなの! てか、ケータイなんて言葉、使ってる人いないよ」

勇者「ケータイって言ったら、こう、パカッと開いてボタンを押してくやつだと思ってたんだけど」

少女「それ、もうずっと前の話だよ……。ほとんど絶滅危惧種だよ……」

少女「おじさん臭いっていつも言ってるけど、もしかして本当はおじいちゃんなんじゃないの?」

勇者「な……っ」ギクリ
162 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/11(水) 22:59:38.06 ID:xaUbRJfj0
勇者「そ、それ、どう使うんだ?」

少女「えっ? こう、あ、電源ついた。こんな感じで……」

勇者「触って画面が反応するのか! てか画質がすごい綺麗!?」

少女「え、え、えええ〜?」

勇者「すごい……。携帯とあまりサイズが変わらないのに、これは……。技術の進化は恐ろしい……」

少女「反応がおじいちゃんだよ、あなた……」

少女「でもまぁ、男の子だったら、そういう流行とか興味なかったら、知らないのかな。……それでもあり得ないけど」

勇者「ふぅ……」ホッ

勇者(なるほど。時代の流れで認識に齟齬があったのか……。どうりで話がかみ合わないときがあるとは思っていたが……)

勇者(おそらく、俺の知っている世界とここは、数年ほどラグがあるのだろう)

祖母「スイカ切ったわよー」

少女「やったー! スイカだーー!!」ピョンッ

祖母「焦らなくても、スイカはなくならないからねぇ。ほら、あっちの縁側で食べようかぁ」
163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/11(水) 23:00:18.33 ID:xaUbRJfj0
少女「ん〜〜〜! おいしい〜〜〜!!」

勇者「甘い、うまい……!」

祖母「よく冷やしといたからねぇ」

少女「暑いのも忘れちゃいそう……」

勇者「ああ、本当に」

勇者(湿度が高く蒸し暑い気候と対照的に、みずみずしいスイカは脳がしびれるほどにたまらない)

勇者(いつも自分が行ってる世界だったら、これだけのために暴動、下手したら戦争が起きそうだ)
164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/11(水) 23:00:44.89 ID:xaUbRJfj0
〜〜〜〜

兵士「隣国の王は我らからスイカを奪った!」

兵士「許せるか、この暴虐を! 見過ごすことができるか、この理不尽を!!」

兵士「我らが目的はただ一つ! スイカの奪還だ!!」

兵士「「「ウォォオオオオーーー!!!」」」

ナレーション『後にスイカ戦争と呼ばれる戦いの始まりであった』

〜〜〜〜
165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/11(水) 23:01:10.97 ID:xaUbRJfj0
勇者「……ぷっ」

少女「な、なに? 何か変なことあった?」

勇者「い、いや、なんでも。……ぷっ、くくっ」

少女「一人で笑ってる……。こわ」
166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/11(水) 23:01:43.98 ID:xaUbRJfj0
勇者「ごちそうさまでした」

少女「ごちそうさまー」

祖母「お粗末さま」

ミーンミーン

少女「暑いー……」

勇者「暑いなぁ」

祖母「そうねぇ、いい天気だもんねぇ」

ミーンミーン

祖母「そうだ、二人とも海に行ってきたら?」

勇者「海?」

少女「海!」

祖母「ここの海は綺麗だし、人もほとんどいないしねぇ」

少女「そうだよ! 海に行こう! あー、なんで思いつかなかったんだろ!」

勇者「海かぁ……」

勇者(そう言えば夏に海って定番だけど、初めてだな)
167 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/11(水) 23:02:11.21 ID:xaUbRJfj0
今日はここまでです。
168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/11(水) 23:09:45.67 ID:G6rEohfN0

続き楽しみにしてる
169 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/12(木) 00:56:54.85 ID:sKsG9pz2o
乙。凄く面白い。
170 : ◆Rr2eGqX0mVTq [saga]:2018/07/12(木) 20:56:07.39 ID:01f/7AXP0
――

――――

ミーンミーン

勇者「あ、暑い……」

勇者(水着に着替えるのって、こんなに時間がかかるものだろうか。海水浴なんてイベントはこれまで経験がないから、勝手がわからない)

勇者「暑い……。早く海入りたい……」

少女「この程度で音をあげるなんて、まだまだだね」

勇者「やっと来たのか――」

勇者(思わず声が詰まる)

少女「水着、ど、どう、かな……?」

勇者「え、えーと……」

勇者(上手く言葉にならない。その、何と言うか、露出が……)
171 : ◆Rr2eGqX0mVTq [saga]:2018/07/12(木) 20:56:41.62 ID:01f/7AXP0
少女「やっぱり変かな……」シュン

勇者「そ、そんなことは! ただ、こう、その、だな!」

少女「ふふっ。顔、真っ赤になってるよ?」

勇者「なっ!?」

少女「ふふんー。初めてあなたに勝てた気がするね」

勇者「ぐぅ……」

勇者(な、何なんだ。ちょっと素肌が出ているだとか、その程度の露出なんて今までの冒険で見慣れていたはずだ!」

勇者(何ならこれより際どい格好しているのだって、日常茶飯事だった。なのに……)

勇者「…………」チラッ

少女「?」

勇者「!」バッ

勇者(なぜ直視できなくなっている!?)

少女「ほらほら、もっと見てもいいんだよ?」

勇者「やめなさい、はしたない!」

少女「わ、耳まで真っ赤」

勇者「やめなさい!」
172 : ◆Rr2eGqX0mVTq [saga]:2018/07/12(木) 20:57:53.41 ID:01f/7AXP0
ザブーン

少女「うひゃー、冷たい! きもちいー!!」

勇者「ふぅ……。良い温度だ……」

少女「なんでそんな温泉みたいな感想なの」

勇者「暑いからなぁ……」

少女「あなたの言動のおじさん臭さはどこから来てるのかな」

勇者「じじいにこの日差しはこたえるな」

少女「うわ、すごくおじさん臭い!」

勇者「ほれ、水鉄砲」ピュッ

少女「きゃっ!? 手でそんな威力出る普通!?」

勇者「コツがあるんだ。おら、くらえ」ピュッ、ピュッ

少女「わ、わわっ!? なら……」ブクブク…

勇者「なんだ急に潜って……」

少女「どりゃあっ!!」ザバーン

勇者「うわっ!」

少女「あはははは!」
173 : ◆Rr2eGqX0mVTq [saga]:2018/07/12(木) 20:58:19.44 ID:01f/7AXP0
――

――――

農家「ひぇ……あちぃ……。今年の夏は一段と暑いな……」

農家妻「毎年そんなこと言ってるわよ?」

農家「そうかぁ? ……おっ?」

農家妻「どうしたの?」

農家「あれ」

農家妻「ん? ……あら、あの子たちじゃない」

農家「海水浴かぁ。若いってのはいいよなぁ」

農家妻「そうねぇ」

農家「あ、そうだ。おーい!」
174 : ◆Rr2eGqX0mVTq [saga]:2018/07/12(木) 20:58:52.15 ID:01f/7AXP0
少女「あれ? どこから呼ばれたような……」

勇者「あ。ほら、あっち見てみ」ペコリ

少女「あ! こんにちはー!!」

農家「よー! 今日も暑いねぇ」

勇者「ですねー」

少女「おかげで水が気持ちいいよー」

農家「だろうなぁ……。おじさんも一浴びしていくかな」

農家妻「こら」

農家「じょ、冗談。冗談だって」

農家妻「まったくもう……。でも汗かくし、ちゃんとお水飲むのよ?」

少女「はーい!」

農家妻「うん。よろしい♪」
175 : ◆Rr2eGqX0mVTq [saga]:2018/07/12(木) 20:59:18.30 ID:01f/7AXP0
農家「ほれ。これ食えよ」

少女「すいかだ!」

勇者「いいんですか?」

農家「ああ! 前にいろいろ手伝ってもらったしな!」

農家妻「またいつでも遊びにおいで。お菓子とか用意してあげるから」

勇者・少女「「ありがとうございます!」」

勇者・少女「「あ……」」

農家「ぷっ!」

農家妻「ふふっ。相変わらず仲良いわね」

勇者「あはは……」

少女「もう……」カァァッ
176 : ◆Rr2eGqX0mVTq [saga]:2018/07/12(木) 21:00:08.55 ID:01f/7AXP0
農家B「おや、坊主。こんなとこで何やってんだ?」

農家C「あら、海水浴なんていいわねぇ」

農家D「ほら、これもよかったら食べてよ!」

勇者「ありがとうございます!」

少女「あわ、あわわわわ……」

――――

ドッサリ

少女「なんかすごい量になっちゃったね……」

勇者「いろんなとこ行ってたもんな、俺たち」

少女「みんな、いい人たちだね! そろそろお昼だし、一回おばあちゃんちに帰って、これも置いてこよっか」

勇者「ああ」
177 : ◆Rr2eGqX0mVTq [saga]:2018/07/12(木) 21:00:35.99 ID:01f/7AXP0
勇者(それから昼食(冷やし中華)を食べて、また午後も海で二人で遊んだ)

勇者(午後もこの村で知り合った人と時々会って、夕方にはまた両手にいっぱいのお恵みを持って帰ることになった)

少女「今日も楽しかったなー」

勇者「それならよかった」

少女「あなたは?」

勇者「もちろん、俺もだよ」

少女「それならよかった」

勇者「真似するなよ」

少女「えへへー」

勇者「まったく……」

少女「あはは……。…………」

少女「…………」

少女「……でも、それも」

勇者「ん? なんか言ったか?」

少女「え? あ、ううん! 何でもないよ!」

勇者「?」
178 : ◆Rr2eGqX0mVTq [saga]:2018/07/12(木) 21:01:53.01 ID:01f/7AXP0
――

――――

「……うして」

「…………」

「どうして、勇者様……っ!?」

「…………」

やめろ……。

グサッ

「きゃあっ!?」

「…………」

「いや……っ、痛い、痛い、痛いぃっ」

やめてくれ……。

「…………」

「どうして、うっ! こんな、こ、とを……っ」

「…………」

ザシュッ
179 : ◆Rr2eGqX0mVTq [saga]:2018/07/12(木) 21:02:19.05 ID:01f/7AXP0
『仕方ないことだ』

わかってる。わかっているんだ……。

『だから正しいことをしたんだ』

ああ、そうだとも……。

『なら、なぜそれを罪と感じる必要がある?』

必要なんかない。俺は正しいんだ……。

ザクッ、グシャッ

「いやぁぁぁあああああっっ!!!!」

やめろ、やめろ、やめろ……っ。
180 : ◆Rr2eGqX0mVTq [saga]:2018/07/12(木) 21:02:52.23 ID:01f/7AXP0
『何一つ忘れていない。全てを覚えている』

ピチャリ…、ピチャリ…

覚えている、覚えている、覚えている。

『その手に伝う、生ぬるい血の感触』

自分を見つめる虚ろな双眸。

『喉を引き絞るように告げられた恨みの言葉』

それに対して、眉一つ動かすことなく、

『彼女の首を刈り取った』

光を失った瞳が、俺を見つめ続けている。

幾多の視線が全身を貫いてくる。

俺が絶った命の群れに、くし刺しにされる。
181 : ◆Rr2eGqX0mVTq [saga]:2018/07/12(木) 21:03:38.38 ID:01f/7AXP0
勇者「う、うう……っ」

勇者「や……ろ……。そん……目で、俺を見……な……」

勇者「仕方……いだろ……。じゃないと……」

少女「……また、うなされてる」

勇者「ううっ、っ……。……はっ!?」

勇者「……ちくしょう」

少女「大丈夫……?」

勇者「ごめん。また起こしちゃったな」

少女「ううん、いいよ」

勇者「はぁ……」

少女「……ねぇ」

勇者「ん?」

少女「ちょっと、外に出ない?」
182 : ◆Rr2eGqX0mVTq [saga]:2018/07/12(木) 21:05:03.25 ID:01f/7AXP0
今日はここまで。酉つけてみました。
書き溜めにどんどん追いついてきていて、焦っています。
183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/13(金) 12:00:48.18 ID:3hmclf1yO

ゆっくりでいいんだ
続けてくれれば嬉しい
184 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/13(金) 21:28:46.75 ID:diOcokKNo
185 : ◆Rr2eGqX0mVTq [saga]:2018/07/13(金) 22:36:53.36 ID:u6yfO1JQ0
――

――――

少女「この時間になると涼しいねー」

勇者「夜風にやられて風邪ひくなよ?」

少女「わかってるって。そこまで子供じゃないよ、私」

勇者「どうだかね」クスッ

少女「むぅー。あなたはいつもそうやって、人を子供扱いするんだから」

勇者「実際子供じゃないか」

少女「だから、なんで同い年のあなたがそれを言うの」

勇者「……さてね」

少女「何か気になる言い方だよ。そういうの良くないよ」

勇者「それは失礼」クスッ
186 : ◆Rr2eGqX0mVTq [saga]:2018/07/13(金) 22:37:22.61 ID:u6yfO1JQ0
少女「……変なこと言うけどね」

勇者「どうぞ」

少女「最近、よく笑うようになったよね」

勇者「……えっ?」

少女「初めて会ったときよりも表情っていうのかな、それがやわらかくなったような気がする」

勇者「そうかな……。自分じゃ全然わかんないや。……てか、前の俺はどんなだったんだよ」

少女「うーん……。難しいな……」

少女「うーむ、うーむ……」

少女「なんて言うんだろ。いつも何か難しいこと考えてそうな感じ。あと、正直、結構無愛想だったよ?」

勇者「えー……」

勇者(抽象的からの突然の具体的な指摘という落差に、地味にダメージを受ける俺)

少女「あ! あと口調も!」

勇者「口調……?」

少女「うん。今の『えー』とか。最初の方だったら絶対言わなかったもん」

勇者「……言われてみれば、確かに」
187 : ◆Rr2eGqX0mVTq [saga]:2018/07/13(金) 22:37:48.90 ID:u6yfO1JQ0
勇者(自由奔放に生きる彼女に、感化されてきているのだろうか)

勇者(それとも、魔王討伐の連続の中で失われた、人の心が戻ってきたのか)

少女「だからさ、起きてる時はいいんだ。でも……」

勇者「寝ている時、か」

少女「そう。どうして、いつもあなたはうなされているの?」

勇者「…………」

少女「一体、どんな夢を見ているの?」

勇者「…………」

少女「誰から、あなたは許されたいの?」

勇者「…………! そこまで、俺は口走ってたのか……」

少女「うん。ずっと、ごめんなさいって」
188 : ◆Rr2eGqX0mVTq [saga]:2018/07/13(金) 22:38:22.69 ID:u6yfO1JQ0
勇者「そっか……」

少女「…………」

勇者(話してしまってもいい)

勇者(そんなことを思った)

勇者(彼女になら、伝えてもかまわないと)

勇者(話したくない)

勇者(そんなことも思った)

勇者(自分の手が血に塗れていることを知られたくない)

勇者(信じてもらえるわけがない)

勇者(最後にはその結論に至った)

勇者(俺が生きてきた世界は、この世界とは大きくかけ離れている)
189 : ◆Rr2eGqX0mVTq [saga]:2018/07/13(金) 22:38:48.67 ID:u6yfO1JQ0
少女「もしもあなたが嫌なら、もう、聞かないから……」

勇者「…………」

勇者「お、俺は……」

勇者「…………」

少女「…………」

勇者「…………」

勇者「……すまない」

少女「そっか……」

勇者「君のことを信用してないとか、そういうのじゃないんだ……。ただ……」

少女「ううん、いいよ。気にしなくて」

勇者「でも……!」

少女「誰にだって話したくないことはあるもん。だから――」

ガサガサッ

勇者「えっ?」
190 : ◆Rr2eGqX0mVTq [saga]:2018/07/13(金) 22:39:20.98 ID:u6yfO1JQ0
??「キシャー!!」バッ

勇者「危ない!!」

少女「きゃっ!?」

ドンッ!

勇者「くっ」

??「ちっ……。効いてないか……」

少女「な、何あれ……!?」

勇者「魔物か……?」

少女「マモノ……? え……!?」

勇者「君は後ろに下がってろ」

少女「えっ?」

勇者「…………」

少女「う、うん……」
191 : ◆Rr2eGqX0mVTq [saga]:2018/07/13(金) 22:39:46.94 ID:u6yfO1JQ0
魔物「!!」ブンッ

バシィッ!

魔物「なっ!?」

少女「大丈夫!?」

勇者「大したことない」バキッ!

魔物「ブシャアッ!?」

勇者「おい」ガッ

魔物「ギャンッ!?」

勇者「お前はなんだ? どうしてここにいる?」

魔物「くっ、貴様こそ……、あ!」

勇者「?」

魔物「その目……! まさか、貴様は……っ」

魔物「魔王……っ!」
192 : ◆Rr2eGqX0mVTq [saga]:2018/07/13(金) 22:40:15.21 ID:u6yfO1JQ0
勇者「……なぜ、そう呼ぶ」

魔物「忘れられるわけが……。その冷酷な目、血も涙もない貴様のその目を、たとえ肉体が変われど、どうして忘れられよう……!」

魔物「オレの仲間を貴様は、魔王は……」

勇者「……魔王か。なら、なぜお前は生きている? 俺を魔王と呼ぶ魔物がなぜ」

魔物「貴様が、オレをここに飛ばしたんじゃないか……。なのにその直後にまた出会すなんて……」

魔物「ついて、ない……。ぐぅ……っ!」シュウゥン

勇者「ちょっと待て! まだ……!」

少女「き、消えた……?」

勇者(恐ろしく弱い魔物だった。俺たちに襲いかかったのが不思議なくらい)

勇者(魔の気は未だに感じられない。ついさっきまで目の前にいたのに、死んだ瞬間嘘のように消え去ってしまった)

勇者(何なんだ、これは……?)
193 : ◆Rr2eGqX0mVTq [saga]:2018/07/13(金) 22:40:48.32 ID:u6yfO1JQ0
少女「ね、ねぇ……。今の、見たことないような、か、形? だったよね……」

勇者「あ、ああ……。そうだな」

勇者(見覚えはない。魔王の姿だって覚えているかどうか、危ういところがあるくらいなのだから、遭遇したことのある可能性は否定できないが)

勇者(しかし、あれほどまでに弱いのは、理解できない)

勇者(もし俺たちが転移魔法を使った結果、この世界へ転移してきたのなら、それなりに強い魔物のはずだ)

勇者(女神様でもなければ、転移魔法はそれなりに手間のかかる代物。あの程度の有象無象なら、剣を振るえばそれで済む)

勇者(いくらでも現状を招いた可能性は挙げられるが、それでもあの魔物は俺を『魔王』と呼んだ)

勇者(一体、なぜ……?)

少女「あなたは、あれを知ってるの……?」

勇者「…………」

少女「……そう、なんだ」

勇者「…………」
194 : ◆Rr2eGqX0mVTq [saga]:2018/07/13(金) 22:41:15.80 ID:u6yfO1JQ0
少女「ねぇ、もう一つ聞いてもいい?」

勇者「なんだ?」

少女「…………」

少女「……あなたは」

少女「あなたは、何者なの?」

勇者「…………」

少女「さっきのマモノ? も、あなたのことを知ってるみたいだったし……」

勇者「俺は、知らなかった」

少女「でも、知ってる風だったよね」

勇者「……はぁ。タイミングがいいんだか、悪いんだか……」

勇者(あんなところまで見られてしまったんだ。もう、話すしかない)

勇者「…………」

勇者「……俺は、勇者なんだ」
195 : ◆Rr2eGqX0mVTq [saga]:2018/07/13(金) 22:42:39.86 ID:u6yfO1JQ0
今日はここまで。
次の更新は月曜か火曜にします。
みなさん、一週間お疲れ様でした。
196 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/14(土) 02:18:08.74 ID:ul/9vYXlO
乙でした
…土日返上して続きはよ!!俺が変わりに休んでおくからさ!
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