勇者「休暇?」女神「異世界転生しすぎです、勇者さま」

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41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/29(金) 21:56:50.20 ID:nEjYyBBl0
勇者「紙が落ちてる。ふむ……」

『眠ってたから、置いておくね。これしか用意できなくてごめん』

勇者(……なんで謝るんだ。こっちはお礼を言いたいくらいなのに)

勇者「…………」ムシャムシャ

勇者「うまい……っ!」

勇者(ただでさえ甘いのに、さらにかかっている塩がとうもろこしの甘みを絶妙に引き立てている!)

勇者(犯罪的だ……、甘すぎる……! 美味すぎる……!)

勇者「……ごちそうさま」

勇者(ついさっきまで死のうと思ってたくせに、目の前に食べるものが現れると途端に忘れるなんて)

勇者(我ながら単純というか、何と言うか……)

少女「むにゃむにゃ……、あっ、寝ちゃってた」

勇者「起こしてしまったな。すまん」

少女「ううん。ちょうどよかったし」

勇者「ちょうどいい?」

少女「外、天気いいでしょ?」

勇者「まぁ、確かにいいが……」
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/29(金) 21:57:17.09 ID:nEjYyBBl0
少女「じゃあ」

勇者「ちょっと待て。そこは窓だぞ。まさか飛び降りるつもりか?」

少女「そうだよ?」

勇者「えっ」

少女「あなたもついてきてね」ピョン

勇者「はぁ!? ……って、そこ倉庫だったか」

少女「焦った?」

勇者「……焦ってない」

少女「じゃあそういうことにしておいてあげるよ」クスクス

勇者「む……」ピョン

勇者(おいおい、相手は中学生だぞ。ムキになってどうする。落ち着け……)

勇者「で、今からどこに行くつもりなんだ?」

少女「ちょっと行ってみたい場所があってね」

勇者「こんな真夜中に?」

少女「こんな真夜中だからだよ」
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/29(金) 21:58:50.14 ID:nEjYyBBl0
――

――――

少女「ふんふんふーん♪」テクテク

勇者「……あのさ」テクテク

少女「うん?」

勇者「とうもろこし、ありがとう」

少女「えっ? あー、あれね。ううん、あれしか持ってこれなかったし」

勇者「いや、空腹だったから、本当に助かった」

少女「助かったのはこっちの方だよ」

勇者「?」

少女「だって、あなたのおかげで、今こうやって外を歩けてるんだもの」

勇者「俺は護衛代わりか」

少女「そう! いくらこの辺が田舎だからって、油断してたら、がおっ! ……ってやられちゃうかもしれないからね」

勇者「危ないって自覚はあったんだな」

少女「当然でしょ。こんな時間に中学生が一人で出歩くなんて……」

勇者「それが、俺に良くしてくれる理由か?」

少女「うーん……。まぁ、それもあるのかな」

勇者「なんだか煮え切らないな」

少女「……今日、晴れててよかった。昨日は曇ってたから……」

勇者「…………」
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/29(金) 22:00:11.11 ID:nEjYyBBl0
勇者(辺りから他の人間の気配はしない。街灯すらないから、そもそも暗闇の中を出歩こうする輩も少ないのだ)

勇者(彼女はああ言っていたけど、この世界はかなり安全な方だ。もしも魔王がいる世界だったら、とっくに魔物に襲われている)

少女「着いたよ」

勇者「着いた?」

少女「うん」

勇者「ただの道にしか見えないが」

少女「うしろ、見てみて」

勇者「うしろって……。わぁ……っ!」

勇者(思わず声が漏れた)

勇者(目の前に広がる、至る所に光が散らばる星の海)

勇者(視界の全てが、星に覆われていた)

少女「綺麗でしょ?」

勇者「ああ……」

勇者(上半分は夜空で、下半分はそれを反射する海面なのだろう。しかし不規則に並ぶ星々の群れのせいで対象性を感じず、夜空を描いた大きな一枚の絵画のように見えるのだ)

勇者(この辺りの人はもう就寝しているのか、近隣の民家の明かりもなく、その暗さがさらに空の弱い光を際立たせる)

少女「よかった、気に入ってもらえたみたいで」
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/29(金) 22:00:44.03 ID:nEjYyBBl0
少女「ここね、明るいうちも綺麗なんだ」

勇者「へぇ……」

少女「ずっと前から、暗くなって、もしも星が出てたら、すごく綺麗なんだろうなって思ってたの」

少女「でも、暗くなったら危ないからって、家から出してもらえないし。一人で歩くのも怖いし」

勇者「そうだろうな」

少女「だから、あなたがいてくれて、本当によかった」ニコッ

勇者「!」

勇者(待て待て待て待て。なぜ今ドキッとしたんだ?)

勇者(相手は中学生だ。一方の俺はもう何百歳なんだ? これじゃロリコンじゃないか)

少女「ほんと、綺麗……」
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/29(金) 22:01:44.01 ID:nEjYyBBl0
勇者(脳内の混乱は彼女の声によってすぐに解けて、頭上に広がる光景に再び心を奪われた)

勇者(ただ俺たちは星空を見つめ続ける)

勇者(二人から漏れ出す音は呼吸だけで、他にある音は夏の虫の声と、遠くから微かに潮風に乗って流れてくる波の音だけ)

勇者(この世界にはもしかして俺と彼女しかいないんじゃないだろうか)

勇者(こんなことを考えるなんて、本当に俺自身も子どもみたいだ)

勇者(……もしかしたら、俺の精神はこの身体に侵食され始めているのかもしれない。だからこんなにも心が揺らいでいるのかもしれない)

少女「ふふっ」

勇者「なんだ?」

少女「ううん、なんでもなーい」

勇者「…………」

勇者「……しだけ」

少女「えっ? 何て言ったの?」

勇者「……いや、何でもない」

少女「えー。そこで止められると気になるよ!」

勇者「さっきのお返しだ」

少女「えー。大人げないなー」

勇者(もう少しだけ)

勇者(もう少しだけなら、いてもいいかもな)

勇者(声に出してしまいそうになった言葉は、心の中だけに留めておくことにした)
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/29(金) 22:02:10.59 ID:nEjYyBBl0
少女「さっきの話だけど」

勇者「さっき?」

少女「あなたを泊める代わりに何をしてもらうかって話」

勇者「ああ、何をすれば良いんだ? 俺にできることなら何でもやるけど」

少女「……今ってさ、夏休みでしょ?」

勇者「そう、だな」

少女「きっとね、楽しいことがいっぱいあると思うの」

勇者「そうか?」

少女「そうだよ! だって中学二年生の夏だよ? 一度しかない夏だよ?」

勇者「わ、わかった、わかったから」

少女「だから……、その……っ!」

勇者「うん」

少女「……私を」

勇者「ん?」

少女「私を、楽しませてくれる……?」
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/29(金) 22:02:53.24 ID:nEjYyBBl0
勇者「君を、楽しませる?」

少女「あ……っ!」カァァッ

少女「べ、別に変な意味じゃなくてね!? そ、その……、そうだ!

少女「面白いこと! 何か面白いものを、ことを、たくさん見せて欲しいの!」

勇者「面白いこと……」

少女「……だってここは、つまらないから」

少女「…………」

勇者「……わかった」

勇者(ひとりでに口がそう動いた)

少女「えっ?」

勇者「君をとびきり楽しませる。死ぬほど面白い目にあわせてやる」

勇者「その見返りとして、夏休みの間は君の家に厄介になる。そういうことだな?」

少女「ほ、本当にいいの?」

勇者「ああ」

勇者「夏休みが終わるとき、最高の夏だったって、君に言わせてみせる」
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/29(金) 22:03:19.52 ID:nEjYyBBl0
少女「……ほんとに?」

勇者「ああ」

少女「じゃあ、もしも楽しくなかったら、怒るよ?」

勇者「ああ」

少女「……わかった。楽しみにしてるね」

勇者「任せとけ」

少女「…………」

勇者「…………」

少女「……じゃあ、帰ろっか?」
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/29(金) 22:05:59.79 ID:nEjYyBBl0
今日はここまで。
まだ序盤にもかかわらず感想をくださり、本当にありがとうございます。とても嬉しいです。
質問に関しては、完結した際にまとめて答えさせていただきます。
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/29(金) 23:36:59.16 ID:UBJvGMoNo
おつおつ
変なのには関わらなくていいぞ
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/29(金) 23:37:38.36 ID:UBJvGMoNo
おつおつ
変なのには関わらなくていいぞ
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/29(金) 23:38:02.65 ID:ngUqmJ0bo
おつおつ
変なのには関わらなくていいぞ
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/29(金) 23:38:29.26 ID:ngUqmJ0bo
なんか連投してたわスマン
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/06/30(土) 01:02:56.45 ID:dWZQOU2/o
大事なことだから多少はね

おつおつ
56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/30(土) 01:48:24.99 ID:ab3TV3gYO
まだ序盤だし多少突っ込まれても後付けでどうとでも出来るから答える必要ないだろ
休暇を知らないのにロリコンを知ってる勇者には驚いたけど
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/30(土) 22:03:25.85 ID:xABNzPg8o
>>51-55自演はやめとけ、ちゃんと読んでるから
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/06/30(土) 22:49:47.15 ID:dWZQOU2/o
なんで自演扱いされるんだよ
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/02(月) 21:50:48.59 ID:rm6y2SfE0
――

――――

グシャリ。

音がした。

音。

皮膚を貫かれ、中で臓器が捻れて千切れる音。

それをかき消すように笑い声が響き渡る。

雄叫びだ。

泣き叫ぶ声だ。

勝利を悦ぶ声と、痛みに叫び散らす声が混ざり合って、耳を手で塞ぎたくなる。

でも、それはできない。

だって、私は祈り続けなければならないから。

この組み合わせた二つの手のひらを、決して離してはならない。

祈る。

来るかもわからない、その日のために。

奇跡でも起こらない限り訪れない、あの日のために。

私は、祈る。

――――

――
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/02(月) 21:51:24.07 ID:rm6y2SfE0
コケコッコー

勇者「ん……。朝……」

少女「すぅー、すぅー……」

勇者「もう六時か……。おい、起きろ。朝だぞ」

少女「うーん……、んー……」

勇者「む、起きないか」

少女「むにゃむにゃ……」

勇者「どうしたものか……」

勇者「!」

勇者「おーい」

少女「うん……」

勇者「もう昼だぞ」

少女「…………」

少女「えっ、うそ! 朝ごはんは!?」ガバッ
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/02(月) 21:53:25.27 ID:rm6y2SfE0
少女「…………」

勇者「嘘だ」

少女「〜〜〜〜〜〜〜!」

勇者「まさか朝食で起きるとはな」

少女「ずるい、卑怯!」

勇者「君が勝手に自爆したんだ」

少女「鬼! 人でなし!」

勇者「まだ言うか」

少女「しかも、まだ六時じゃない。せっかく休みだからあともう少し寝ていたかったよ……」

勇者「急にダメ人間みたいなこと言い出すな。昨日言ってたのは嘘だったのか?」

少女「!」

勇者「寝てても起きてても時間は過ぎる。なら、面白いことをした方が有意義じゃないか?」

少女「忘れてなかったんだ」

勇者「忘れるものか。俺の宿がかかってるからな」

少女「でもそう言うってことは、もう何か案があるってこと?」

勇者「……大体は」

少女「ほんとに!? 昨日の今日なのに」

勇者「まぁ、まだ確定じゃないが」

少女「へぇ、そっかぁ……。楽しみ〜。じゃあ、もうご飯食べて来ちゃうね! あ、持ってくるのはまたとうもろこしだけど、大丈夫?」

勇者「恩に着る」
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/02(月) 21:53:51.85 ID:rm6y2SfE0
三十分後

少女「いざ、出発!」

勇者「テンション高いな」

少女「でも、暑い……」

勇者「落ちるまでが早すぎる……。その荷物は?」

少女「これ? えー、どうしようかなー。うーん、やっぱり内緒」

勇者「重いものだとちょっと厳しいと思うぞ」

少女「大丈夫! たぶん!」

勇者「たぶんか」

少女「それで、どこに行くの?」

勇者「とりあえず、村の方へ行こう」
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/02(月) 21:54:31.11 ID:rm6y2SfE0
農家「お、坊主!」

勇者「おはようございます」ペコリ

農家「女の子と一緒なんて今日はデートかい? いいねぇ、羨ましいねぇ」

少女「デ、デートなんて……!」

農家「はっはっはっ、楽しそうで何よりだ! 仕事は見つかったか?」

勇者「ははっ、なかなか見つかりませんね。それにちょっと今日は別の用事がありまして」

少女(あれ? なんかキャラ違くない?)

農家「まぁ、デートだもんな! 仕事なんてサボってもいいもんさ!」

農家妻「あら、聞き捨てならないわね」

農家「げっ!」

農家妻「お仕事さぼって一体何をしているのかしらねー」

農家「ち、違う! 誤解だ!」
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/02(月) 21:56:27.72 ID:rm6y2SfE0
勇者「一つ、うかがってもいいですか?」

農家妻「? いいけど?」

勇者「この村には守り神がいて、祀っている祠のようなものがあると聞きました」

農家妻「守り神?」

農家「それって、あれのことじゃねぇか?」

農家妻「あれって……あっ」

勇者「…………」

少女「?」

農家「でもどうしてあんなとこに? もう誰も近づかんし、行ったって面白いものなんてないと思うぞ?」

少女「えー……」

勇者「俺たち二人とも、一ヶ月くらいここでお世話になるので、そういうのがあるなら一度お参りした方がいいかと思いまして」

農家「へぇ。今時珍しいな」

農家妻「そうね。村の人だって行くのは、おじいちゃんやおばあちゃんばかりなのに」
65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/02(月) 21:57:06.68 ID:rm6y2SfE0
勇者「まぁ、ちょっとした旅みたいな感じですよ。冒険みたいな」

少女「ぼ、冒険……!」ワクワク

農家「ふむ……。ま、別にいいか。荒らすなんてことしないよな?」

勇者「もちろんです」

農家「ほら、あそこに山があるだろ?」

農家妻「ふもとのあの辺りに祠に繋がってる道があるわね」

農家「でも、あんまり整備されてねぇし危ないから、気をつけろよ?」

農家「あと、そんな奥の方には行かないと思うけど、入り込むと熊とかも出てくるからな。念のために祠よりも奥には行くなよ」

農家妻「そうね。それに暑いから水分補給もしっかりね」

勇者・少女「「ありがとうございます」」ペコリ

勇者・少女「「あっ……」」

農家妻「ふふっ。仲が良いのね」

農家「ああ、昔のオレたちみたいだ」

農家妻「……そんなことあったかしら?」

農家「あっただろ!?」
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/02(月) 21:57:32.72 ID:rm6y2SfE0
勇者「ついでに塩飴までもらえたな」

少女「けっこーおいしいんらねー」

勇者「もう食べてるし」

少女「でもびっくりしたよ」

勇者「なにがだ?」

少女「だってもう顔見知りみたいになってたし」

勇者「村に着いたら、とりあえず一通り回るのは基本だからな」

少女「えっ、もう村中回ったの?」

勇者「そうだが」

少女「ということは、村中の人と顔見知りになったりも?」

勇者「全員に会えたかはわからないが、大体の人は知ってると思う」
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/02(月) 21:58:07.45 ID:rm6y2SfE0
少女「すごい……、コミュ力の塊だ……」

勇者「そんな大層なものではない」

勇者(それが結局一番手っ取り早かっただけだ)

勇者(まずよそ者としての不信感をなくすために会話は有用だし、情報も手に入る。逆にここを疎かにすると近道どころか、かなり遠回りになってしまうことがほとんどだ)

少女「じゃあ、守り神さまだっけ? その話も昨日聞いたってこと?」

勇者「その通り。今日向かうのもそこだ」

少女「ふーん。それ、面白いの?」

勇者「さあてな。面白いことを神様に祈っている」

少女「その神様に会いに行くのに何言ってるの?」
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/02(月) 21:58:48.89 ID:rm6y2SfE0
森の中

ミーンミーン…

少女「はぁ……はぁ……」

勇者「大丈夫か?」

少女「こんなの、全然、平気だから」

勇者「少し休んだほうがいいんじゃないか?」

少女「平気だってば。あなたは……、ケロッとしてるね」

勇者「まぁ、俺はな……」

勇者(正直、俺はこれくらいなら何ともないが、彼女にとってはかなりの重労働だろう)

勇者「きゅうけ――」

少女「あなた、本当に東京から来たの……?」

勇者「!」ドキッ

少女「東京人にこんなに体力あるなんておかしいよ」

勇者「偏見すぎないか?」
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/02(月) 21:59:37.06 ID:rm6y2SfE0
少女「東京人っていうのはもっとひ弱で体力なくて――」

少女「というか、そんな貧弱そうな見た目でひょいひょい先に進んでくの、本当納得いかない!」

勇者「ひどい言われようだな」

少女「しかもひとり涼しい〜顔しちゃって!」

勇者「そんなこと言われても……」

??『……ま』

勇者「……えっ?」

勇者「今の声、君か?」

少女「何のこと?」

勇者「……まさか」ダッ

少女「えっ!? ど、どこに行くの!?」

勇者「そこで待ってろ!」

少女「ちょっと!? 置いてかないでよ!!」
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/02(月) 22:00:13.48 ID:rm6y2SfE0
勇者「はぁ……、はぁ……」

勇者「……申し訳ないことをしてしまったな。あとで謝らないと……」

勇者「でも、今の声は……」

勇者「…………」

??『……さま』

??『……さま? ……すね!?』

勇者「!」

勇者「まさか……、その声……!」

??『勇者さま!!』

勇者「女神様かっ!?」
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/02(月) 22:00:54.26 ID:rm6y2SfE0
今日はここまでです。
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/03(火) 19:54:07.42 ID:Ssm+TFWF0
勇者「声だけ聞こえるが、一体どこに……!」

女神『わかりません……。ここが数少ないこの世界に干渉できる場所なのですが、どうしてここがそうなのか……』

勇者「……ん? なんだこれは?」

女神『どうやらそこにある物が、この世界でただ一つ神性を帯び、そして通すことができるようなのです』

勇者「声はここから聞こえてくるが、村の人が言ってた祠ってやつか?」

女神『なるほど。村の人からの信仰を得て、それでこの場所は辛うじて神性を保てているわけですか。納得しました』

勇者「それにしちゃ、寂れているような気もするが。……というか」

女神『はい、なんでしょう?』

勇者「これは一体何なんだ? そろそろ説明してくれてもいいだろう?」

女神『……あはは〜』

勇者「笑って誤魔化そうとするな」

女神『ダメですか』

勇者「ダメだ」
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/03(火) 19:54:32.76 ID:Ssm+TFWF0
女神『えー、どこから説明しましょうか……』

勇者「とりあえず、最初の異世界転移は失敗だったってことだな?」

女神『えっ、えっとー……』

女神『……あはは〜』

勇者「図星か」

女神『いや〜どうでしょうね〜……』

勇者「じゃあ最初に言ってたバカンス計画は何だったんだ」

女神『そ、そんなものないに決まってるじゃないですかー』

勇者「俺を騙したのか?」

女神『あっ! 嘘ですよ! 本当はあります!!』

勇者「もう何が本当なのかわからなくなってきたな」
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/03(火) 19:55:04.80 ID:Ssm+TFWF0
勇者「じゃあ次の質問」

女神『あれ、失敗だったことになってませんか?』

勇者「ここはどこだ?」

女神『無視なんて……』

勇者「質問に答えろ」

女神『ひどい……勇者さま……』シクシク

勇者「ああ、失敗だったと思っている」

女神『無視しないでくれたのに悲しいのはどうしてでしょう……?』シクシク

勇者「女神様が失敗したからだ。それでここは?」

女神『ええと……、推測の範疇を出ませんが……』

勇者「それで構わない」

女神『どこかの時空に存在する世界……としか言いようがありませんね。今まで勇者さまが行った世界でも、これから行く予定だった世界でもありません』

勇者「どうしてそんなところに飛んだんだ?」

女神『……わかりません』

勇者「わかりませんってそんな……」

女神『でも、一つだけ確かなことがありますよ』

勇者「?」
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/03(火) 19:55:41.71 ID:Ssm+TFWF0
女神『幸運にも、そこには魔王はいません』

勇者「やはりそうか」

女神『だから、休暇はそこでとれますね!』

勇者「いや、その理屈はおかしい」

女神『そうでしょうか?』

勇者「そうだろう」

女神『何が不満なのですか?』

勇者「まず第一。強制的に休暇を取らされることになったわけだが、そもそも俺に休みなんて必要ない」

女神『それは却下、と何度も言ったと思いますが』

勇者「……第二。ここでは休みになんてならない。快適なバカンスどころか、衣食住にすら困るサバイバルだ」

女神『そうですか? 少なくとも後の二つについては、どうにかなっていると思いますよ』
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/03(火) 19:56:05.04 ID:Ssm+TFWF0
勇者「は?」

女神『心優しい女の子の家に泊まっているんでしょう?』

勇者「なぜそれを」

女神『ここからこの村で起こっていることのおおかたは見ることができますから』ニコリ

女神『……まぁ、見ることしかできないんですけど』

勇者「随分と都合のいい不都合だな」

女神『それはともかく、ちょうどいいことになりました』

勇者「ちょうどいい?」

女神『勇者さまをすぐにこちらに戻すことができないんですよ』

女神『こちらから魔力を送るための道とでも言いましょうか、それが極端に狭いのです』

勇者「つまり、俺を転移させるのに時間がかかると」

女神『およそ一ヶ月ほどです。だからその間、勇者さまはそちらで羽を伸ばすことができますし』

勇者「一ヶ月……」
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/03(火) 19:56:35.36 ID:Ssm+TFWF0
――

――――

少女「…………」テクテク

少女「確かこっちの方に……」

少女「……いないなぁ」

少女「どこ行っちゃったの……?」

ガサガサガサッ!

少女「きゃっ!?」

少女「な、なんだ……。虫か……。びっくりしたぁ……」

少女「あれ?」

少女「…………」キョロキョロ

少女「…………」ボー

少女「……はっ!」

少女「いけないいけない、ボーッとしてた」

少女「…………」キョロキョロ

少女「……ここ、どこ?」
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/03(火) 19:57:03.75 ID:Ssm+TFWF0
勇者「はぁ……」

勇者(本格的にここに一ヶ月いることになってしまった)

勇者(一体どうしたものか)

勇者(さすがにそんなに長い間、彼女の家に厄介になるわけにもいくまい。というか、確実に彼女の祖母に見つかることになるだろう)

勇者「……いやいや」

勇者(つい昨日、彼女に最高の夏休みにしてやると口にしたばかりではないか。そう考えればちょうどいいとも言える)

勇者「ちょうどいい……」

勇者(そういえば女神様もそんなことを言っていた。もしかして俺と彼女との約束を知った上で、あんなことを言ってきたのではないだろうか)

勇者(まぁ、今となってはもうわからないことなのだが)

勇者(あれから女神様はこの世界へ魔力を転送するのに注力するとのことで、この世界とのリンクを切ってしまった)

勇者(俺があれこれ聞き出そうとするのから逃げたといった格好だ)
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/03(火) 19:57:29.73 ID:Ssm+TFWF0
勇者「おや? ここだったよな?」

勇者「……木の配置、石の削れ具合、うん。ここ以外あり得ない」

勇者「おーい!」

勇者「…………」

勇者「はぁ……」

勇者「ここから動くなって言ったのに」

勇者「…………」

勇者(やはり魔の気の類は感じられないから、魔物はいないだろう)

勇者(しかし、野生の動物の類なら話は別だ。この山の中にはいくつもその気配を感じる)

勇者「くっ……!」

勇者(最悪の予感が脳裏をかすめた。もしも奥の方に入り込んで、狂暴な獣などに一人で出会してしまった場合、きっと無事ではすまない)

勇者「探すしか、ないな……」
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/03(火) 19:58:29.89 ID:Ssm+TFWF0
少女「どうしよう。どっちから来たかな……?」

少女「歩きづらいよ……きゃっ!!」ズルッ

少女「いたた……。ちゃんとあそこで待ってればよかった」

ガサッ

少女「えっ?」

ドスッ

少女「……っ」

ドスッ

ドスッ

少女「な、なに……?」

ドスッ

??「がうぅ……」

少女「うそ……っ。く、熊……!?」
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/03(火) 19:59:51.94 ID:Ssm+TFWF0
今日はここまでです。
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/03(火) 22:52:51.69 ID:xMw9+9Bf0
乙はよはよ
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/04(水) 22:48:52.95 ID:Idke5ybw0
熊「ぐわぉっ!」

少女「いやああああっ!? きゃああああっっ!!」

少女「なんで!? どうしてこんな……!」

熊「ぐぉっ! ぶおおっ!!」

少女「助けてぇっ!!」

ゴッ

少女「きゃあっ!?」ズワァッ

少女「いたた……。ひぃっ!?」

熊「ぐぉぉ……」

少女「いや……っ。誰か……!」

バキィッッ!!

熊「ぶぉんっ!?」

少女「!?」
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/04(水) 22:49:18.89 ID:Idke5ybw0
少女「あ……」

勇者「よかった、間に合った……」

勇者(頭に振り下ろした木の枝は真っ二つに折れているが、熊は依然として倒れる素振りを見せない)

少女「あ、あ……」

勇者「大丈夫か? 早く逃げ――」

少女「後ろっ!!」

バンッ!!

勇者「ぐふっ!?」

勇者(痛烈な衝撃。一瞬の浮遊感を味わった後、地面に叩きつけられる)

少女「大丈夫!?」

勇者「ぐぅ……。ちくしょう……」
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/04(水) 22:49:54.60 ID:Idke5ybw0
勇者「何か火でもあれば、追い返せるのに……」

勇者「……火、そうだ!」

熊「ぼぉう……」

勇者(俺には魔法が使えるのだった。最下級の炎魔法なら倒すことはできなくとも、引き下がらせることくらいならできるだろう)

勇者「炎魔法(フレイヤ)!!」

勇者(最下級の炎魔法とは言え、拳大ほどの大きさの炎は出るはずだ。それならこいつを驚かせるくらい――)

ポッ

勇者(手のひらから、米粒のような光が現れる)

シュン

勇者(そしてすぐに消えた)

少女「…………」

熊「…………」

勇者「何てことだ……。マッチよりも弱いなんて」

勇者(魔力がほとんどないことが、ここでも影響出るとは……)

熊「ぶおおおっ!!」

勇者「まずい、挑発になってしまった!!」
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/04(水) 22:50:22.49 ID:Idke5ybw0
ドスッ、ドスッ

少女「えっ?」

勇者(熊の足は彼女の方へと向いている)

勇者「くそ……!」ダッ

ドンッ

勇者(彼女を抱き抱えるようにして横っ飛びし、背中から着地する)

少女「うわっ!?」

勇者「ケガは?」

少女「私は大丈夫……、ってあなたの方こそ……っ」

勇者「別にこんなの大したことない。それより、さっさと逃げろ」

少女「えっ?」

勇者「あれは俺が引き付ける。その間に君は逃げるんだ」

熊「ごぉう……」

少女「そんなこと……!」

勇者「早く!」

少女「!」

少女「……っ」

少女「絶対、戻ってきてね……っ」ダッ

勇者「ああ」
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/04(水) 22:50:48.80 ID:Idke5ybw0
タッタッタッ

勇者「さて、と」グッグッ

勇者「この身体でも……、うむ、動けそうだな」ピョンピョン

勇者「さすがに、熊相手にボコボコに叩きのめしてる姿なんて、見せられないからな」

熊「ぐぉ?」

勇者「さっきの分、倍にして返してやる」

熊「ぶぉう!!」

――――

バキッ、ボコッ、ズバンッ、ドカーン!

ウォォーーーーン…

――――

勇者「……ふぅ」
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/04(水) 22:51:18.55 ID:Idke5ybw0
勇者「おーい」

少女「あっ!」タッタッタッ

勇者「どうにか逃げ――、うわっ!?」

勇者(彼女は駆け寄ってくると、そのままの勢いで抱きついてきた)

少女「ひどいよ……。あんなところにいきなり置いてけぼりにするなんて……」ギュッ

少女「こわかった……。誰もいなくて、ここ暗くて、本当に、こわかったのに……」

勇者「……すまない」

少女「ひどいよ……、でも」ギュッ

勇者「?」

少女「あなたが無事で、本当によかった……」

勇者(元々、彼女を楽しませるために計画したのに、こんなにも怖がらせてしまった)

勇者(これじゃ、約束を破ったのと同義だ)

勇者(もっと気をつけていれば……)

勇者「もう、こんな目になんか遭わせない」

勇者「もう二度と、こんな怖い思いをさせない。約束する」

少女「……うん。ありがと」
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/04(水) 22:51:55.50 ID:Idke5ybw0
少女「……あ」

勇者「どうした?」

少女「アレって……」

勇者「ん? ……なんだ、アレ?」

少女「これかな? あの人が言ってた、祠って」

勇者(さっき女神様と話した時のに比べて、ずっと大きく立派な祠がそこにはあった)

勇者「そう……らしいな。……あれ? じゃあアレは何だったんだ?」

少女「アレって?」

勇者「これよりも小さいのがあったんだ。さっき」
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/04(水) 22:52:40.99 ID:Idke5ybw0
少女「まぁ、結果オーライなのかな」

勇者「結果オーライ?」

少女「だって二人とも無事だし、ここにもたどり着けたし」

勇者「確かに、言われてみれば……」

少女「きっと、ここの神様が助けてくれたんだよ」

勇者「そう、かもな」

勇者(確かにこの山の中で彼女をすぐに見つけられたのは、運が良かったのが大きい。それだってギリギリだったくらいだし)

少女「ありがとうございました。私たちを助けてくれて」

勇者「……」ペコリ

少女「あなたも、ね?」

勇者「えっ……」

少女「助けてくれて、ありがとね」

勇者「……そんな礼を言われる権利は、俺にはない」

勇者(俺の不注意で彼女を危険に晒してしまったのだ。罵られることはあっても、そんな言葉を受け取っていいわけがない)
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/04(水) 22:53:14.45 ID:Idke5ybw0
少女「……さっきはああ言ったけど」

勇者「?」

少女「ちょっと、楽しかったよ」

勇者「!」

少女「こわかったし、殺されちゃうかもって思ったけど、でも、ちょっと面白かった」

少女「だって今までずっと何もなかったから」

少女「流石にもうごめんだけどね」ニコッ

勇者「…………」

少女「だから、そんなに気に病まなくていいよ。ね?」

勇者「…………」

勇者「ありがとう」

少女「じゃあ、そろそろ下りよ?」

勇者「…………」コクン
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/04(水) 22:53:46.18 ID:Idke5ybw0
今日はここまでです。
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/05(木) 00:05:10.67 ID:MCDiRX0tO
蘭子「混沌電波第161幕!(ちゃおラジ第161幕)」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1522060111/
蘭子「混沌電波第162幕!(ちゃおラジ第162回)」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1522664288/
蘭子「混沌電波第163幕!(ちゃおラジ第163回)」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1523269257/
蘭子「混沌電波第164幕!(ちゃおラジ第164回)」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1523873642/
蘭子「混沌電波第165幕!(ちゃおラジ165回)」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1524480376/
蘭子「混沌電波第166幕!(ちゃおラジ第166回)」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1525058301/
蘭子「混沌電波第167幕!(ちゃおラジ第167回)」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1525687791/
蘭子「混沌電波第168幕!(ちゃおラジ第168回)」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1526292766/
蘭子「混沌電波第169幕!(ちゃおラジ第169回)」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1526897877/
蘭子「混沌電波第170幕!(ちゃおラジ第170回)」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1527503737/
蘭子「混沌電波第171幕!(ちゃおラジ171回)」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1528107596/
蘭子「混沌電波第172幕!(ちゃおラジ第172回)」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1528712430/
蘭子「混沌電波第173幕!(ちゃおラジ第173回)」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1529353171/
蘭子「混沌電波第174幕!(ちゃおラジ第174回)」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1529922839/
蘭子「混沌電波第175幕!(ちゃおラジ第175回)」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1530530280/
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/07/05(木) 08:14:57.27 ID:iJyuii2SO
盗作者◆Jzh9fG75HA(ちゃおラジの作者)を語るスレ
245:名無しNIPPER[sage]
2018/07/05(木) 00:14:39.95 ID:3xRqK4+HO
>>240
とりあえず君が頭悪いのは理解出来た
カス(orクズ)をkasとかやってる時点で一生懸命覚えたんだなーと思えた
でもね?カスもクズもkasとは書かないんだよ可哀想だね
250:名無しNIPPER[sage]
2018/07/05(木) 00:27:36.24 ID:l9FJPpqzO
>>248
そんな人いたの?俺ここ2、3年くらいからの住民だから
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/05(木) 22:30:22.08 ID:ScR/6PTI0
――――

勇者「そう言えば、それ」

少女「それ?」

勇者「熊に襲われてるときもずっと離さなかったけど、結局何なんだ?」

少女「うふふ〜。それは下りてからのお楽しみだよ〜」

勇者「は、はぁ……」

少女「あ、でもグチャグチャになってないかな……」

勇者「…………」

勇者(改めて、祠の方を見る。いくつか解せない点があって、それが頭の中から離れない)

勇者(ここに来るとき、農家の人が言っていたこと)

農家『あと、そんな奥の方には行かないと思うけど、入り込むと熊とかも出てくるからな。念のために祠よりも奥には行くなよ』

勇者(まだこの辺りは山全体で言えば、まだ最初の方といったところだ。もしもこんなところまで熊が出て来るのなら、あの人も俺たちに行くようには言わなかっただろう)

勇者(しかし現実として、俺たちの前に姿を現した)

勇者(一体、なぜ……?)
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/05(木) 22:30:54.17 ID:ScR/6PTI0
少女「やっと家とか見えてきたね」

勇者「さすがにもうここまでは追ってこないだろう」

少女「ふふっ。……あれ? そういえば傷とかは?」

勇者「!」ギクッ

勇者「な、何の話だ?」

少女「さっき熊に襲われたとき、結構ボロボロだった気がするんだけど……」

勇者「気のせいだ。うん」

少女「そうだったかな……?」

勇者「そうだとも」

少女「怪しいな……」
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/05(木) 22:32:40.97 ID:ScR/6PTI0
勇者「だってさっきから今の間に、自然に傷が塞がるわけないだろう?」

少女「うーん……。ちょっと腕とか見せてよ」

勇者「ほら」

少女「……ないね。綺麗なままだ」

勇者「だろう?」

勇者(実際のところ、傷はあった。だいぶ傷だらけだった)

勇者(そのほとんどを回復魔法で塞いでしまったので、跡形もないが)

勇者(さっきの炎魔法の一件でわかったことがある。それは、この世界では魔法の威力が著しく下がってしまう、ということだ)

勇者(この傷口を治すくらいの魔法をかけても、一瞬痛みが和らいだような気がしたような、本当にわずかな効果しかなかった)

勇者(しかし、実験も兼ねて何千人もの瀕死の人々を完全に回復させてしまうくらいの、究極回復魔法を自分一人に集中させたら、それでようやく俺の擦り傷は回復した)

少女「でも、ちょっと顔色悪いね」

勇者(余計な心配をかけないためにとはいえ、おかげで魔力はスッカラカンだ。もう一人分、少し体力を削って魔力を使用したせいもあって、今にも倒れてしまいそうですらある)
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/05(木) 22:33:13.64 ID:ScR/6PTI0
少女「でも不思議。私の方が傷が多いくらい……あれ?」

少女「おかしいなぁ。この辺り転んで擦りむいてたような気がしてたのに」

勇者「もうボケが始まっているのか?」

少女「私まだ中学生だよ!? 変だなぁ……」

勇者「おそらく焦っていて勘違いしたのだろう。よくある話だ」

少女「うーん……」

グゥゥー

勇者「腹、減ったな……」

少女「あら、もうお昼なんだね。……うふふっ」

勇者「どうした?」

少女「ううん、なんでも!」ニコニコ

勇者(上機嫌なのを誤魔化しきれてないのだが)

少女「あっ、ちょうどいいとこ発見ー!」

勇者「? ああ、ちょうど日陰になってるな。少し休むか」

少女「そうだね!」
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/05(木) 22:33:40.91 ID:ScR/6PTI0
少女「じゃじゃーん!」

勇者「こ、これは……!」

勇者(彼女が自信たっぷりに包みを広げると、可愛らしい弁当箱が姿を見せた)

少女「うふふー。作ってきたんだよー!」

勇者「そんな時間あったか?」

少女「魔法を使ったの!」

勇者「魔法? そんな魔法があるのか! 是非教えて欲しい!」

勇者(これまでいろんな世界を旅してきたが、食糧を生み出すような魔法には、今までお目にかかったことがない)

勇者(しかし、もしも食糧を生み出すような魔法があれば、まさに夢のような魔法だ)

勇者(わざわざ持ち運ぶ労力もいらなくなるし、戦いが始まった後の兵士の士気の継続にもうってつけだ)
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/05(木) 22:35:08.61 ID:ScR/6PTI0
少女「冗談だって。なに本気にしてるのー」

勇者「あ……」

勇者(どうやらからかわれてしまったらしい。よく考えてみればこの世界には魔法がないのだった)

勇者(あまりにも革新的な魔法だっただけに、つい冷静さを欠いてしまった)

少女「魔法とか信じてるの? 子どもだねー」クスクス

少女「そう言えばさっきも何だっけ? フレイヤとか言ってなかった?」クスクス

勇者「む……」

少女「結局何も出てなかったし、一瞬びっくりしたしあきれたよ……」

勇者「よく見れば若干光ってたのだが……」ボソッ

少女「え? 何か言った?」

勇者「いや、何でも――」

グゥゥー
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/05(木) 22:36:02.67 ID:ScR/6PTI0
勇者「…………」

少女「い、今のは……!」

勇者「……何も、聞こえてないぞ」

少女「聞こえてるじゃん! バリバリ聞こえてたよね!?」

グゥゥー

勇者「ぷっ」

少女「もう〜〜!」ポコポコ

勇者「あはは! ほら、せっかく用意してくれたのだろう?」

少女「むぅ……。なんか納得いかないな」パカッ

勇者「おお……!」

少女「よかった……。そんなに崩れてない」
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/05(木) 22:36:28.66 ID:ScR/6PTI0
勇者・少女「「いただきます」」

勇者「めっちゃ美味そうだ……っ」パクッ

少女「…………」ドキドキ

勇者「…………」モグモグ

少女「…………」ドキドキ

勇者「っ!」ビクッ

少女「!」ビクッ

勇者「うまいっ!!」

少女「!」パァァッ

少女「本当!?」

勇者「ああっ!」

少女「そっか、よかったぁ……」ホッ
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/05(木) 22:37:08.15 ID:ScR/6PTI0
少女「ほら、昨日はとうもろこししか用意できなかったから……」

勇者「……もしかして、俺がちゃんとしたものを食べるためにこれを?」

少女「うん」コクン

勇者「ありがとう。本当に嬉しい」

少女「そんなに喜んでもらえたなら、私も昨日準備しておいた甲斐があるよ……あっ」

勇者「昨日?」

少女「うそ! 魔法!!」

勇者「お、おう……」

勇者(そこは知られたくないのか)
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/05(木) 22:37:36.20 ID:ScR/6PTI0
――

――――

少女「いいよ。入ってきて」ヒソヒソ

勇者「ほい」ピョンッ

少女「なんだか自分の家なのにドキドキするね、こういうの。潜入みたいで」

勇者「みたいと言うか、俺に関しては完全にそれなのだが」

少女「あははっ、そうかも」

勇者「……どうした?」

少女「うーん。なんかちょっと、眠い……」バタン

少女「…………」

少女「すぅー、すぅー」

勇者「…………」

勇者「えっ、もう寝たのか?」

少女「すぅー、すぅー」
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/05(木) 22:38:17.07 ID:ScR/6PTI0
勇者「はぁ……。とりあえず、無事に終わってよかったな……」ドサッ

勇者「…………」

勇者「あと、一ヶ月か」

勇者(一日目から、いろいろあり過ぎたな。最後まで保つのか不安だ)

勇者(……でも、何だろう。この感じは)

勇者(少しだけ、全身が軽くなったような気がする)

勇者(ずっと自分の中にのしかかっていた何かが、消えていくような感覚)

勇者「……まさか、本当にこれで休暇になってしまうのか」

勇者「女神様の狙い通りみたいで癪すぎる……」
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/05(木) 22:38:57.73 ID:ScR/6PTI0
ゾワッ

勇者「……!」

??『たす……て……、う……』

??『うっ!』

グシャッ

??『ど……して……、……んじ……たのに……』

勇者「はっ……!」

勇者「…………」

勇者「……なんだ、今の?」
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/05(木) 22:39:23.46 ID:ScR/6PTI0
今日はここまでです。
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/06(金) 10:59:58.93 ID:mt8SHglbO
いいね
期待
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/06(金) 18:52:44.15 ID:+3/+j6sW0

面白いぞ
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/06(金) 22:21:26.27 ID:n22xCJ490
ミーンミーン

少女「……ねぇ」

勇者「しっ! 静かに」

少女「…………」

勇者「あと少し……」

勇者「あと三歩……、二歩……」

少女「…………」

勇者「ふんっ!」ブンッ

勇者「よし! オオクワガタだな、これは!」

少女「……ねぇ」

勇者「なんだ?」キラキラ

少女「それ、楽しいの……?」

勇者「え」
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/06(金) 22:23:11.19 ID:n22xCJ490
ミーンミーン

勇者「そうか……。女の子って昆虫採集とか、あまり好きじゃないのか……」ズーン

少女「ご、ごめん! そこまで落ち込むなんて思ってなかった……」

勇者「いや、いいんだ。君の気持ちを考えていなかった自分が悪い」

少女(すごく意気込んでいたもんね……)

勇者『今日のは期待していて欲しい!』

少女(…………)

勇者「すまない、本当に……」ズーン

少女(なんか悪いことしちゃったな……)
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/06(金) 22:23:39.18 ID:n22xCJ490
子供「ああーーっ!! それーーー!!!」

勇者「ん?」

少女「えっ?」

子供「オオクワガタじゃん!! すげーーっ!!」ピョンピョン

勇者「お、君はわかるかい?」

子供「決まってるじゃん!! しかもでけー。こんなの見たことねぇー!!」

勇者「欲しいか?」

子供「えぇっ!? いいの!?」

勇者「ああ。その代わり大事に飼うんだぞ?」

子供「マジかーー! やったぁ!! ありがとう!!!」
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/06(金) 22:24:08.48 ID:n22xCJ490
勇者「あんなに喜んでもらえるとは……」

少女「そんなに捕まらないものなの?」

勇者「この時間帯だと、あんまいないな。クワガタって基本夜行性だし」

少女「へぇ……。よく知ってるね」

勇者「たぶん前に本で読んだんだ」

勇者(あれから一週間が経った)

勇者(七日間イベント尽くし、とはもちろんならず、二、三日に一回俺が何かしら提案するという流れだった)

勇者(それ以外の日は、二人で適当に外をぶらついたり、部屋でカードゲームで遊んだりと、平凡な一日を過ごしている)

勇者「はぁ……まいった」

勇者(見事にネタ切れだ。自分の老いた発想力では、一週間女の子を楽しませることもできないのか)

少女「この後の案って何かある?」

勇者「……いや」

少女「じゃあ、今日は私の番ね」

勇者「君の番?」
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/06(金) 22:24:40.14 ID:n22xCJ490
ザザーン

勇者「海、だな」

少女「うん、海」

勇者「……それで、何をするんだ?」

少女「何もしないよ?」

勇者「はっ?」

勇者(呆気にとられる俺の先を彼女は歩いていき、堤防まで着くと地面を何回か払ってから、そこに腰掛けた)

少女「ほら、隣座ってよ」ポンポン

勇者「あ、ああ……。よっこいせっと」

少女「ふふっ」

勇者「ん?」

少女「いや、おじさん臭いなぁって」

勇者(中身、おじさんどころかおじいさんなのだが)
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/06(金) 22:25:07.14 ID:n22xCJ490
勇者「…………」

少女「…………」

勇者(そして沈黙である)

勇者(なんだ? 一体なぜ何も言わないんだ?)

勇者(俺が何か話すべきなのだろうか。こういう時に気が利くような話なんて思いつかない)

勇者(目の前にはただただ広がる海。ヒントらしきものはそれくらいしかない)

勇者(もしかしたら、やはりさっきので愛想を尽かされて、もうあの家から出て行くように言い渡されるのかもしれない)

少女「さっきは、ごめんね」

勇者「えっ?」
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/06(金) 22:25:52.03 ID:n22xCJ490
勇者「どうして君が謝るんだ?」

少女「私、わがままだったなって」

勇者「わがまま……」

少女「うん、そう」

少女「私ばっかり楽しくなるように、あなたに無理をさせちゃった」

勇者「そんなことない」

少女「そんなことあるよ。だからね、さっきも言ったけど、今度は私の番」

少女「私も、君の……休暇だっけ? それを良いものにできるように頑張るから」

少女「……頑張るって言うのもおかしいかな。あははっ!」

勇者「……別に、頑張らなくたっていい」

少女「そうだよね!」

勇者「いや、そういう意味じゃなくて」
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/06(金) 22:26:18.19 ID:n22xCJ490
勇者「今のままだって、俺は十分……」

少女「十分、なに?」

勇者(今、俺は何と言おうとしたのだろう)

勇者「十分……」

勇者(ああ、思い出した)

勇者(だが……)

勇者「十分、休暇になってる」

少女「えー?」

勇者(違う、こんなのはダメだ。俺が抱いていい感情じゃない)
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/06(金) 22:26:47.60 ID:n22xCJ490
キュー、キュー

少女「あ、カモメだ」

勇者「そうだな」

少女「空を飛んでみたいって、思ったことない?」

勇者「空なら……」

勇者(と言いかけたところで言葉を止める)

勇者「……怖いから嫌だな」

勇者(いくらだって飛んだことがあるなんて、この世界では口にできないのだ)

勇者(もしも、彼女を魔法で空へ連れて行ったら、どんな顔をするだろうか)

勇者(きっと目を丸くして、そして笑うのだろう)

勇者(この世界を明るく照らす太陽のように、煌びやかな笑顔を)

勇者(そうしてやれない現状が、少し歯がゆく感じられた)
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/06(金) 22:27:50.94 ID:n22xCJ490
少女「怖いって、それでも本当に男なの?」

勇者「怖いものは怖い。落ちたときのことを考えるとなおさら」

少女「空を飛べたらって話なのに、落ちた時のことを考えるなんて。やっぱりあなた、変わってる」

勇者「もう聞き飽きたよ」

少女「あははっ!」

勇者(それからはまた他愛もない会話に花を咲かせて、夕日が水平線に沈むのを見た)

勇者(彼女と一緒にいると、時間があっという間に過ぎる)

勇者(ただ、時間が過ぎる)

勇者(何の意味もない時間が、ただ、過ぎる)

勇者(そんな感覚が新鮮で、だから余計に感傷に浸ってしまう)
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/06(金) 22:28:17.35 ID:n22xCJ490
勇者「綺麗だな……」

少女「うん……」

少女「……夕日って綺麗だけど、少し寂しくなるよね」

勇者「寂しく、か……」

少女「なんでだろ……。何か大事な物が消えちゃうみたいな、そんな感じがするの」

勇者「考えたこともなかったな」

少女「風情がないなぁ」

勇者「否定できない」

勇者(こんな風に景色をゆっくりと眺めた記憶がない)

勇者(前にも彼女と星空を眺めた時にも思ったことだ)
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/06(金) 22:29:10.05 ID:n22xCJ490
――

――――

リーンリーン…

少女「すぅ……、すぅ……」

勇者(夜も更けて少女はぐっすりと眠っている)

勇者(眠れずにいたが、手持ち無沙汰だった)

勇者「…………」

勇者「月が、きれいだな……」

勇者「落ち着いて月を見上げることも、忘れていたのか」

勇者「……でも、当然の報いなのかもしれない」

勇者「むしろ……」

??「あの」

勇者「!?」バッ

??「あ、静かに……。あの子が起きちゃうからねぇ」

勇者「あ、あなたは……?」

??「はじめまして。その子の祖母でございます」
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/06(金) 22:30:15.68 ID:n22xCJ490
今日はここまでです。
次回の更新は月曜日になります。
それと、乙、感想など、ありがとうございますm(_ _)m
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/07(土) 08:36:11.25 ID:GttilDcJ0

ばっちゃ気がついてたのか
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/07(土) 10:00:39.76 ID:VNBb1ZF8O
乙!
そりゃバレるよねぇ
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/09(月) 20:57:18.37 ID:Xb9WhpyD0
勇者「あ……っ!」

勇者(しまった……! 彼女の祖母ということは、つまりはこの家の主……)

勇者(見つからないようにと心がけていたつもりだったが、完全に油断していた……!)

勇者(どうする……? このままじゃ不法侵入で逮捕されること間違いなし。なら、逃げるか……?)

勇者(窓は……)チラッ

祖母「あ、別に焦らなくても大丈夫よぉ。気づいてたからねぇ」

勇者「……えっ?」

勇者(気づいていた……!?)

祖母「ここで話すのも何ですし、下に降りてきなさい。お茶でも出すよ」

勇者「…………」

祖母「ふふっ」ニコッ

勇者「……いただきます」
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/09(月) 20:57:52.91 ID:Xb9WhpyD0
祖母「どうぞ」

勇者「ありがとう、ございます……」

祖母「ごめんなさいね。ろくにご飯も用意できなくて」

勇者「いえ……」

祖母「最近ね、あの子がよく笑うようになったのよぉ」

勇者「……?」

祖母「あと、ご飯を食べる時とかには、いろんな話をしてくれるようにもなってくれてねぇ」

祖母「『今日は山に冒険に行った』とか、『村の見たことのない場所へ行ってきた』とか」

勇者「へぇ……」

祖母「その時にね、いつもあんたの話をするのよ?」

勇者「俺の?」
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/09(月) 20:58:32.51 ID:Xb9WhpyD0
祖母「ええ、ええ。本当に楽しそうに」

祖母「ここにいる時のあの子は、いつも退屈そうで……。だから、あんたには一度会ってみたくてねぇ」

勇者「あれ? でも、気づいていたって……」

祖母「何か隠しているなぁ、とは思ってて。てっきり犬か猫でも部屋の中で飼ったりしているのかなぁ、なんて」

勇者「……まさか、人間がいるなんて思いもしなかったでしょうね」

祖母「ええ、ええ。その通りで。一昨日あんたを見つけた時は驚いたわぁ」クスッ

勇者(あ……)

勇者(今の笑い方、微かに彼女に似ていたような気がする。血がつながっているからだろう)

祖母「あの子は、夏休みになるとここに来るんだけども。親はずっと仕事で忙しくて、ごはんも作ってあげられなくて」

勇者「だから、祖母であるあなたに預けていると」
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/09(月) 21:00:47.68 ID:Xb9WhpyD0
祖母「本当はわたしなんかに預けないで、親子一緒の方が良いっていっつも言っているんだけどねぇ。そうもいかないようで……。向こうには向こうの事情があるんでしょうね」

祖母「それでここに来るけどここには何もないから、あの子にとってはちょっと退屈で。しかも毎年のことだから、なおさら……」

勇者「ということはここに、他の俺くらいの年齢の人は……」

祖母「ええ、いないんよ。だからせめてわたしが何かできれば良いのだけど、最近の若い子のことはよくわからんくてのぉ……」

勇者「はぁ……」

祖母「だから、お願いしてもいいかの?」

勇者「えっ?」

祖母「あんたにはあんたなりの、ここにいる事情があるんでしょ?」

勇者「え、ええ。まぁ……」

祖母「なら、あの子と一緒にいてもらえんか? この家にはいてもらって構わないから」ペコリ

勇者「そんな……! 頭を下げないでください!」

勇者「こちらこそ願ってもない話です。……よろしくお願いします」

祖母「本当かい……!」パァッ

勇者「はい」

祖母「ありがとう……。本当にありがとうねぇ……っ」

勇者「だから頭を上げてくださいって!」
129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/09(月) 21:02:05.65 ID:Xb9WhpyD0
――

――――

勇者「へぇ……。この辺りに生まれてからずっと住んでるんですか」

祖母「そうそう。それでなぁ……」

バタバタバタバタ!!

少女「ひゃっ!!!」

勇者「あ」

祖母「あら、おはよう」

少女「え、えっとね、おばあちゃん、この人は……!」アセアセ

勇者「あ、いや、それはもう……」

少女「怪しい人じゃないって言うか、いつもの人って言うか……!」

少女「私を、すごく楽しませるためにいる人なの!!」

勇者「」

祖母「…………」

勇者(その言い方は、なんか、その……、誤解を招かないか? 事実だが)
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/09(月) 21:02:37.34 ID:Xb9WhpyD0
祖母「……ふふっ」

少女「あ、あれ?」

少女「そう言えばあなた、なんでそんなお茶まで用意されてくつろいでるの?」

勇者「お茶美味しいです」

祖母「あら、ありがとねぇ」

少女「えっ? あ、あれ? あれれ? 一体どういうことなの??」

祖母「大丈夫よ、わかってるから」

勇者「と、いうことだ」

少女「えっ? え、えええっ!?」

勇者(それから事の顛末を聞いた彼女は、一気に力が抜けたようで床にへたりこんだ)

少女「な、何なの、それ……」
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/09(月) 21:03:05.28 ID:Xb9WhpyD0
祖母「ちょっと先にこの子の部屋に戻っててもらってもいいかい?」

勇者「あ、俺ですか?」

祖母「ええ」

少女「えっ」

祖母「ちょっとお話があるんで」ニッコリ

少女「ひぃっ!?」

祖母「ほら、ちゃんと座りなさいな」

少女「い、いや……っ! 助け……」

祖母「ほら、彼の方ではなくこっちを見なさい」

少女「ちょっと待って……」ウルウル

勇者「…………」

少女「うぅ〜」ウルウル

勇者「……頑張れ」

少女「裏切られたぁっ!?」

勇者「失礼します」
132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/09(月) 21:03:34.12 ID:Xb9WhpyD0
勇者「ふぅ……」スタスタ

勇者(恐らく説教を食らう羽目になるのだろう。部外者は退散するとしよう)

祖母「せっかくお客さんが来ているのに、とうもろこししか出さないのは、どうなんだい?」

少女「おばあちゃん……、目が、怖いよ……?」

勇者「頑張れよ……」

勇者(改めてエールを送って彼女の部屋に向かった)

勇者「まさかこんなことになるなんてな……」

勇者(状況は好転している。ここに公認でいられるだけじゃなく、食事まで用意してもらえるらしい)

勇者(返せるものがないと断ろうとしたが、子どもが遠慮しないで、と言ってくれた)

勇者(明日の朝からは、まともな食事ができる。そう思うと早く日が昇って欲しいくらいだ)

勇者「また明日、お礼言わないと」
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/09(月) 21:04:01.31 ID:Xb9WhpyD0
勇者(明日はどんな一日になるだろう)

勇者(具体的なイメージは湧かないが、きっといい日が来ると思える)

勇者(どうしてか、この世界は輝いて見えるのだ)

勇者(ずっと昔になくしたはずの光が、ぼんやりと自分の心を照らしているような)

――――

??『……る……い……』

勇者「あ……」

勇者(脳裏に声が現れる)

勇者(まただ)

勇者(覚えている。何もかも鮮明に、覚えている)

勇者(覚えている、覚えている、覚えている、思い出す)

勇者(思い出す、思い出す、思い出したくない、思い出す、思い出す、思い出す)

ザシュッ
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/09(月) 21:04:29.72 ID:Xb9WhpyD0
――

――――

覚えている。

その光景を、覚えている。

「はぁっ……、はぁっ……」

「だ、誰か……助け……っ」

地の底から響いてくるような轟音に、背中を突き飛ばされた。

宙を舞う感覚。

そして衝撃。

「きゃっ!?」

「どうして、こんな……」

「嫌だ……っ、死にたく、死にたくないよぉ……!」

――――

――
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/09(月) 21:05:17.80 ID:Xb9WhpyD0
今日はここまでです。
乙、感想ありがとうございます。いつも励みになっていますm(_ _)m
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/10(火) 00:50:58.60 ID:HfLymtBA0
おつ
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/10(火) 22:20:54.02 ID:7gfVP0jr0
勇者「ぐ……、うぅ……」

勇者「はっ!? ……なんだ、夢か」

少女「大丈夫?」

勇者「あ、起こしてしまったか? すまない」

少女「ううん。今おばあちゃんから解放されたところ」

勇者「なるほど」

少女「どうしたの? うなされてたけど」

勇者「いや、大したことは……」

少女「怖い夢でも見た?」

勇者「!」
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/10(火) 22:21:20.09 ID:7gfVP0jr0
少女「わかりやすいよね、あなたって」

勇者「……まぁ、ただの夢だ」

少女「でも、普通じゃなかったよ。すごく苦しそうだった」

勇者「…………」

勇者(一体、自分はどうなってしまったのだろう)

勇者(俺は勇者だ。魔王から世界を救う勇者。だから、今まで幾多の命を殺めてきた)

勇者(魔物も、人間も)

勇者(罪の意識は、なかったと言えば嘘になる。だが、たくさんの世界を救う旅を続けていくうちに、それもいつしか消えていった)

勇者(命を失うことに対して、何も感じなくなった)

勇者(そのはず、なのに……)

勇者(なのに、どうして今になって……)
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/10(火) 22:21:45.79 ID:7gfVP0jr0
勇者「……大したことは、ない」

少女「あなたがそう言うなら、そうなんだとしか言えないけど」

少女「でも、もしも何か悩んでいるなら相談してね。私じゃ頼りないかもしれないけど」

勇者「そんなことはないさ」

少女「ふふっ。そう言ってくれるなら、いつか、ね?」

勇者「ああ」

勇者(説明したとして、理解を得られるとも思えないが)
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/10(火) 22:22:13.62 ID:7gfVP0jr0
――

――――

リーン、リーン

勇者「ZZZ…」

少女「ん……むにゃむにゃ」

少女「……あれ、まだ夜」

勇者「ZZZ…」

少女「眠ってる。……うふふっ、寝顔は可愛いなぁ」

少女「起きてる時はずっと難しそうな顔をしているのに」

少女「おなかの辺りつついてみよ。ツンツン」

勇者「む? うぅーん……」

少女「ツンツン、ツンツン」

勇者「ぐっ、ぬぅ……」

少女「ふふっ。面白い」
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