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勇者「休暇?」女神「異世界転生しすぎです、勇者さま」
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141 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/10(火) 22:22:39.37 ID:7gfVP0jr0
勇者「……い」
少女「あ、起きちゃったかな……?」
勇者「……さい」
少女「寝言?」
勇者「……んなさい」
勇者「ごめんなさい」
少女「えっ?」
勇者「……な、さい」
勇者「ごめん、なさい」
少女「また、謝ってるんだ……」
勇者「ごめんなさい、ごめんなさい……」
少女「あなたは、誰に謝っているの……?」
少女「誰から許されたくて……?」
142 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/10(火) 22:58:21.92 ID:7gfVP0jr0
コケコッコー
勇者「ほら、朝だぞ。起きろ」
少女「うーん……。あとちょっと、ちょっとだけ……」
勇者「なんでそんなに眠いんだ。同じ時間寝てるのに」
少女「きっと私はロングスリーパーなんだよ……。人よりいっぱい寝ないとダメな人なの……」
勇者「それ以上寝てるなら、君の分まで朝食を食べるぞ?」
少女「それはひどい!!」ガバッ
勇者「食い意地すごすぎないか?」
少女「だって朝逃したら、次は昼まで待たなきゃいけないじゃない! そんなの、耐えられる気がしない……っ」
勇者「……君から一食抜いたらどうなるのか、少し気になるな」
少女「きっと干からびて死んでるね」
勇者「君は吸血鬼か何かなのか?」
143 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/10(火) 22:58:55.29 ID:7gfVP0jr0
祖母「あら、おはよう。二人とも早いのねぇ」
勇者「おはようございます」
少女「おばあちゃんおはよー……」
祖母「眠そうねぇ」
少女「そりゃそうだよ……。普段より一時間は早いもん……」
勇者「遅起き過ぎるな」
少女「ま、まだそれでも午前中に起きてるもん!」
勇者「それ、ダメ人間が言うセリフだぞ」
少女「そんなにダメダメ言わないでよ! 本当にダメ人間になっちゃうよ!?」
勇者「……手遅れかもしれないな」
少女「ひどいっ!」ガーン
144 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/10(火) 22:59:32.04 ID:7gfVP0jr0
勇者「朝……ごはん……! ご飯にお味噌汁に納豆! さらに漬け物の盛り合わせと、これ以上ない朝食だ!」
少女「すごいテンションだね……」
祖母「どこぞの誰かさんが、とうもろこししか用意してなかったからかねぇ……?」
少女「うっ、やぶへび……」
勇者「いただきます……!」
祖母「はい、どうぞ」
少女「いただきまーす」
勇者「…………」パクパク
勇者「…………」モグモグ
勇者「……う」
少女「う?」
勇者「うまい!」
祖母「それならよかったわぁ」
145 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/10(火) 23:00:31.39 ID:7gfVP0jr0
勇者(そうだ、この味、シンプルさ。やはり日本人なら白飯なしに食事を語れない)
勇者(味噌汁もダシや味噌のバランスが絶妙。空っぽの胃にどんどん吸い込まれていくようだ)
勇者(……? どうして俺はこんなに詳しいんだ?)
勇者(いつかここに近い世界を訪れた時に魅了されたのだろうか?)
勇者(そうとしか考えられないが、どこか違和感がある)
勇者(この感じは、なんだ?)
勇者(この胸を締め付ける感情は、一体……)
勇者「……あれ?」ポロポロ
勇者(頬をなにか熱いものが伝う)
勇者(無意識のうちに、目から涙がこぼれていた)
146 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/10(火) 23:01:02.90 ID:7gfVP0jr0
少女「き、君! どうしたの!? そんなにおなか空いてたの!? 本当にごめん!」
勇者「い、いや、これは違くて……! な、なんでだ……!?」
祖母「…………」
少女「ごめんね、本当にごめんね!」
勇者「…………」ポロポロ
祖母「ほら、ゆっくりとお食べ。おかわりも用意してあるから」
勇者「ありがとう……ございます……」グッ
勇者「……これ食べたら、また今日もどっか行くか」
少女「えっ。大丈夫なの?」
勇者「大丈夫だって。おばあちゃんが作るごはんが美味しすぎて感動して……」
少女「へんなの……」
祖母「そう言ってもらえて嬉しいわぁ」
147 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/10(火) 23:01:33.06 ID:7gfVP0jr0
――
――――
少女「もう夜になっちゃったね」
勇者「一日があっという間に終わるな」
少女「うん。今日は農家のお手伝いなんて言って、正直、正気を疑ったけど」
勇者「おい」
少女「でも、すごく楽しかったよ! 普段私たちが食べているものがあんなふうに作ってるなんて、全然知らなかったから」
勇者(今日は例の祠のことを教えてくれた夫婦の元へ手伝いに行った。好奇心旺盛な彼女には、都会では見られないであろう光景こそ、最も興味関心が惹かれると思ったからだ)
勇者(予想は的中。最初は若干乗り気でなかったものの、作業を始めてから夢中になるまで、数分もかからなかった。果てには――)
少女「将来農家になろうかなー」
勇者(こんなことまで口にする始末である)
勇者「毎朝早起きになると思うが」
少女「うっ……。それはちょっと」
勇者「心折れるの早くないか?」
勇者(それに農家にならなくても、あまり大差なさそうだが)
148 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/10(火) 23:02:05.91 ID:7gfVP0jr0
少女「あー、疲れたー。シャワー浴びてくるー」
勇者「おう」
少女「……一緒に入る?」
勇者「バカなこと言ってないで、さっさと浴びてこい」
少女「むぅ……。動揺しないか」
勇者「じゃあ、本当に一緒に入るか?」
少女「えっ? えっ、えっ、えええええっっ!?!?」
勇者「冗談だよ」クスクス
少女「や、やり返された……っ!」
勇者「もう十年女磨いてから出直してきなさい」
少女「なんで同い年のあなたにそんなこと言われなきゃいけないの……」
勇者(精神年齢的には十人分の寿命くらい違うからだろうな)
149 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/10(火) 23:02:32.18 ID:7gfVP0jr0
勇者「ふぅ……」
勇者(働いたお礼にと、昼食までごちそうになってしまった。夏の昼にそうめんというのは、反則的だと思う)
勇者「今日の夕飯は何だろ……」
勇者「……って、作ってもらえるのを当たり前みたいに口にしてちゃダメだよな」
祖母「そんなことないよ?」
勇者「うわっ!? き、聞いてましたか……」
祖母「ええ、ええ。昨日も言ったけど、子供がそんな遠慮をするものじゃないからねぇ」
勇者「でも……」
祖母「泣くほど喜んでもらえて、作っているこっちも嬉しいくらいだから」
勇者「あ、はは……。そんなものですかね」
祖母「そんなものそんなもの」
150 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/10(火) 23:02:58.28 ID:7gfVP0jr0
祖母「あの子は?」
勇者「シャワー浴びてます」
祖母「あら、ほんとねぇ。そう言えば昨日までお風呂とかはどうしてたんだい?」
勇者「広場にある水道使って水浴びを」
祖母「それもあの子に?」
勇者「ははは、よくおわかりで……。汚い、不潔だのさんざん言われて」
祖母「まったくあの子はもう……。ごめんなさいねぇ」
勇者「あっ、いえ! そんなつもりは全然!」
151 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/10(火) 23:03:24.17 ID:7gfVP0jr0
祖母「ところで、つかぬことを聞くけどね」
勇者「はい?」
祖母「あんた、ここに来たことはないかい?」
勇者「ここ……?」
祖母「うん、この村に。お父さんとか、お爺ちゃんとかでもいいから」
勇者「……いえ、たぶんないと思います」
祖母「そうかい……」
勇者「どうして、そんなことを?」
祖母「いんや、大したことじゃないのよ」
勇者「……?」
勇者(こんな一風変わった世界に来ていたなら、俺が覚えているはずだ。今まで一度だって魔法が存在しない世界に飛ばされたことはなかった)
勇者(……いや、俺の記憶もあてにはならないか。これまで何百年という月日をかけて、何十という世界を回ってきたんだ)
勇者(もしも最初の頃に来た世界だったとしたら、可能性はゼロではないが……)
152 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/10(火) 23:03:50.05 ID:7gfVP0jr0
勇者「あの――」
ガララー
祖母「おや、もう上がったんかね。あんたもシャワー浴びてきんさいな」
勇者「あ、おばあちゃ……あなたは?」
祖母「ふふっ。おばあちゃんでええよ、ええよ。わたしは二人が帰ってくる前に、もう浴びているから」
勇者「じゃあ、浴びてきます」
祖母「出たらすぐご飯にしてあげるから、楽しみにしといてなぁ?」
勇者「ありがとうございます」ペコリ
153 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/10(火) 23:04:16.31 ID:7gfVP0jr0
今日はここまでです。
154 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/11(水) 06:47:13.87 ID:G6rEohfN0
おつおつ
155 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/11(水) 11:23:27.15 ID:pmR78uJUO
乙
続きが気になる
156 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/11(水) 21:02:05.85 ID:fXtMhTAJ0
おもろい続きが楽しみ
157 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/11(水) 22:53:50.40 ID:xaUbRJfj0
――
――――
勇者「ほら、起きろ。朝だぞ」
勇者(また、何日か過ぎていった)
勇者(劇的な出来事なんてものはもちろん起こるはずもない)
少女「うーん……。おはよー」
勇者(朝起きて、朝食を食べて、外で遊んで、昼食を食べて、また遊びに行って)
勇者(日が沈んだら帰ってきて、夕食を食べて、眠る)
勇者(言葉にしてしまえば、これだけで終わってしまう。魔王を討伐する日々と比べたら、何倍も薄い一日のはずだ)
勇者(なのに、なぜだろう)
勇者(朝が来るのが、待ちきれなくなっている自分がいる)
158 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/11(水) 22:54:18.09 ID:xaUbRJfj0
――
――――
少女「はぁ……暑い……」
勇者(畳の上に寝転がりながら彼女は愚痴をこぼす。そよ風が縁側に吊るされた風鈴をちりんと揺らした)
少女「クーラーとかないんだもん、ここ」
勇者「結構風抜けが良くて涼しいと思うけどな」
勇者(外は日差しが眩しいくらいにカンカンに照っていて、蝉の声がいくつも重なり合って壮大なオーケストラのように響き渡っている)
勇者(こんなにも、蝉の声とはうるさいものだっただろうか。以前にこの世界に来たときの自分の記憶との間に、若干齟齬があった)
勇者(あ、齟齬と言えば……)
159 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/11(水) 22:54:46.07 ID:xaUbRJfj0
勇者「なぁ」
少女「なーにー……?」グデン
勇者「君って、携帯とか持っていないのか? 中学生なら結構みんな持っていたと思うけど」
少女「ケータイ……、あ、スマホか。持ってるけどねー。あんまり使わないよ」
勇者「? へぇ、珍しいな」
少女「よく言われるけど、何かとめんどくさいし。ラインとか」
勇者「……? へ、へぇ」
少女「最近音しないし、もう電源切れてるんじゃないかな。スマホ最後に充電したのいつだっけ……」
勇者「スマホ?」
少女「えっ?」
勇者「えっ?」
160 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/11(水) 22:55:13.17 ID:xaUbRJfj0
勇者「…………」
少女「…………」
勇者「……あの」
少女「はい」
勇者「スマホって、何?」
少女「えっ?」
勇者「えっ?」
少女「それって、何かのギャグ、なのかな?」
勇者「いや、極めて真面目な質問」
少女「あなた、何十年も山に引きこもってたの……?」
勇者「そんなレベル!?」
勇者(もしかして俺が勘違いしているだけで、この世界は俺が以前救った世界とは違うのか?)
少女「ちょっと待ってて」
161 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/11(水) 22:55:42.79 ID:xaUbRJfj0
少女「ほら、これ。見たことくらいはあるでしょ?」
勇者「…………」
勇者「なんだ、この板?」
少女「あなた本気!? 見たこともないの!?」
勇者「えっ……。てか、携帯の話がどうしてそんな……」
少女「これがケータイでしょ?」
勇者「いや、それはスマホってやつなんじゃ……」
少女「だから、これがスマホでケータイなの! てか、ケータイなんて言葉、使ってる人いないよ」
勇者「ケータイって言ったら、こう、パカッと開いてボタンを押してくやつだと思ってたんだけど」
少女「それ、もうずっと前の話だよ……。ほとんど絶滅危惧種だよ……」
少女「おじさん臭いっていつも言ってるけど、もしかして本当はおじいちゃんなんじゃないの?」
勇者「な……っ」ギクリ
162 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/11(水) 22:59:38.06 ID:xaUbRJfj0
勇者「そ、それ、どう使うんだ?」
少女「えっ? こう、あ、電源ついた。こんな感じで……」
勇者「触って画面が反応するのか! てか画質がすごい綺麗!?」
少女「え、え、えええ〜?」
勇者「すごい……。携帯とあまりサイズが変わらないのに、これは……。技術の進化は恐ろしい……」
少女「反応がおじいちゃんだよ、あなた……」
少女「でもまぁ、男の子だったら、そういう流行とか興味なかったら、知らないのかな。……それでもあり得ないけど」
勇者「ふぅ……」ホッ
勇者(なるほど。時代の流れで認識に齟齬があったのか……。どうりで話がかみ合わないときがあるとは思っていたが……)
勇者(おそらく、俺の知っている世界とここは、数年ほどラグがあるのだろう)
祖母「スイカ切ったわよー」
少女「やったー! スイカだーー!!」ピョンッ
祖母「焦らなくても、スイカはなくならないからねぇ。ほら、あっちの縁側で食べようかぁ」
163 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/11(水) 23:00:18.33 ID:xaUbRJfj0
少女「ん〜〜〜! おいしい〜〜〜!!」
勇者「甘い、うまい……!」
祖母「よく冷やしといたからねぇ」
少女「暑いのも忘れちゃいそう……」
勇者「ああ、本当に」
勇者(湿度が高く蒸し暑い気候と対照的に、みずみずしいスイカは脳がしびれるほどにたまらない)
勇者(いつも自分が行ってる世界だったら、これだけのために暴動、下手したら戦争が起きそうだ)
164 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/11(水) 23:00:44.89 ID:xaUbRJfj0
〜〜〜〜
兵士「隣国の王は我らからスイカを奪った!」
兵士「許せるか、この暴虐を! 見過ごすことができるか、この理不尽を!!」
兵士「我らが目的はただ一つ! スイカの奪還だ!!」
兵士「「「ウォォオオオオーーー!!!」」」
ナレーション『後にスイカ戦争と呼ばれる戦いの始まりであった』
〜〜〜〜
165 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/11(水) 23:01:10.97 ID:xaUbRJfj0
勇者「……ぷっ」
少女「な、なに? 何か変なことあった?」
勇者「い、いや、なんでも。……ぷっ、くくっ」
少女「一人で笑ってる……。こわ」
166 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/11(水) 23:01:43.98 ID:xaUbRJfj0
勇者「ごちそうさまでした」
少女「ごちそうさまー」
祖母「お粗末さま」
ミーンミーン
少女「暑いー……」
勇者「暑いなぁ」
祖母「そうねぇ、いい天気だもんねぇ」
ミーンミーン
祖母「そうだ、二人とも海に行ってきたら?」
勇者「海?」
少女「海!」
祖母「ここの海は綺麗だし、人もほとんどいないしねぇ」
少女「そうだよ! 海に行こう! あー、なんで思いつかなかったんだろ!」
勇者「海かぁ……」
勇者(そう言えば夏に海って定番だけど、初めてだな)
167 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/11(水) 23:02:11.21 ID:xaUbRJfj0
今日はここまでです。
168 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/11(水) 23:09:45.67 ID:G6rEohfN0
乙
続き楽しみにしてる
169 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/12(木) 00:56:54.85 ID:sKsG9pz2o
乙。凄く面白い。
170 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/12(木) 20:56:07.39 ID:01f/7AXP0
――
――――
ミーンミーン
勇者「あ、暑い……」
勇者(水着に着替えるのって、こんなに時間がかかるものだろうか。海水浴なんてイベントはこれまで経験がないから、勝手がわからない)
勇者「暑い……。早く海入りたい……」
少女「この程度で音をあげるなんて、まだまだだね」
勇者「やっと来たのか――」
勇者(思わず声が詰まる)
少女「水着、ど、どう、かな……?」
勇者「え、えーと……」
勇者(上手く言葉にならない。その、何と言うか、露出が……)
171 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/12(木) 20:56:41.62 ID:01f/7AXP0
少女「やっぱり変かな……」シュン
勇者「そ、そんなことは! ただ、こう、その、だな!」
少女「ふふっ。顔、真っ赤になってるよ?」
勇者「なっ!?」
少女「ふふんー。初めてあなたに勝てた気がするね」
勇者「ぐぅ……」
勇者(な、何なんだ。ちょっと素肌が出ているだとか、その程度の露出なんて今までの冒険で見慣れていたはずだ!」
勇者(何ならこれより際どい格好しているのだって、日常茶飯事だった。なのに……)
勇者「…………」チラッ
少女「?」
勇者「!」バッ
勇者(なぜ直視できなくなっている!?)
少女「ほらほら、もっと見てもいいんだよ?」
勇者「やめなさい、はしたない!」
少女「わ、耳まで真っ赤」
勇者「やめなさい!」
172 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/12(木) 20:57:53.41 ID:01f/7AXP0
ザブーン
少女「うひゃー、冷たい! きもちいー!!」
勇者「ふぅ……。良い温度だ……」
少女「なんでそんな温泉みたいな感想なの」
勇者「暑いからなぁ……」
少女「あなたの言動のおじさん臭さはどこから来てるのかな」
勇者「じじいにこの日差しはこたえるな」
少女「うわ、すごくおじさん臭い!」
勇者「ほれ、水鉄砲」ピュッ
少女「きゃっ!? 手でそんな威力出る普通!?」
勇者「コツがあるんだ。おら、くらえ」ピュッ、ピュッ
少女「わ、わわっ!? なら……」ブクブク…
勇者「なんだ急に潜って……」
少女「どりゃあっ!!」ザバーン
勇者「うわっ!」
少女「あはははは!」
173 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/12(木) 20:58:19.44 ID:01f/7AXP0
――
――――
農家「ひぇ……あちぃ……。今年の夏は一段と暑いな……」
農家妻「毎年そんなこと言ってるわよ?」
農家「そうかぁ? ……おっ?」
農家妻「どうしたの?」
農家「あれ」
農家妻「ん? ……あら、あの子たちじゃない」
農家「海水浴かぁ。若いってのはいいよなぁ」
農家妻「そうねぇ」
農家「あ、そうだ。おーい!」
174 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/12(木) 20:58:52.15 ID:01f/7AXP0
少女「あれ? どこから呼ばれたような……」
勇者「あ。ほら、あっち見てみ」ペコリ
少女「あ! こんにちはー!!」
農家「よー! 今日も暑いねぇ」
勇者「ですねー」
少女「おかげで水が気持ちいいよー」
農家「だろうなぁ……。おじさんも一浴びしていくかな」
農家妻「こら」
農家「じょ、冗談。冗談だって」
農家妻「まったくもう……。でも汗かくし、ちゃんとお水飲むのよ?」
少女「はーい!」
農家妻「うん。よろしい♪」
175 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/12(木) 20:59:18.30 ID:01f/7AXP0
農家「ほれ。これ食えよ」
少女「すいかだ!」
勇者「いいんですか?」
農家「ああ! 前にいろいろ手伝ってもらったしな!」
農家妻「またいつでも遊びにおいで。お菓子とか用意してあげるから」
勇者・少女「「ありがとうございます!」」
勇者・少女「「あ……」」
農家「ぷっ!」
農家妻「ふふっ。相変わらず仲良いわね」
勇者「あはは……」
少女「もう……」カァァッ
176 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/12(木) 21:00:08.55 ID:01f/7AXP0
農家B「おや、坊主。こんなとこで何やってんだ?」
農家C「あら、海水浴なんていいわねぇ」
農家D「ほら、これもよかったら食べてよ!」
勇者「ありがとうございます!」
少女「あわ、あわわわわ……」
――――
ドッサリ
少女「なんかすごい量になっちゃったね……」
勇者「いろんなとこ行ってたもんな、俺たち」
少女「みんな、いい人たちだね! そろそろお昼だし、一回おばあちゃんちに帰って、これも置いてこよっか」
勇者「ああ」
177 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/12(木) 21:00:35.99 ID:01f/7AXP0
勇者(それから昼食(冷やし中華)を食べて、また午後も海で二人で遊んだ)
勇者(午後もこの村で知り合った人と時々会って、夕方にはまた両手にいっぱいのお恵みを持って帰ることになった)
少女「今日も楽しかったなー」
勇者「それならよかった」
少女「あなたは?」
勇者「もちろん、俺もだよ」
少女「それならよかった」
勇者「真似するなよ」
少女「えへへー」
勇者「まったく……」
少女「あはは……。…………」
少女「…………」
少女「……でも、それも」
勇者「ん? なんか言ったか?」
少女「え? あ、ううん! 何でもないよ!」
勇者「?」
178 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/12(木) 21:01:53.01 ID:01f/7AXP0
――
――――
「……うして」
「…………」
「どうして、勇者様……っ!?」
「…………」
やめろ……。
グサッ
「きゃあっ!?」
「…………」
「いや……っ、痛い、痛い、痛いぃっ」
やめてくれ……。
「…………」
「どうして、うっ! こんな、こ、とを……っ」
「…………」
ザシュッ
179 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/12(木) 21:02:19.05 ID:01f/7AXP0
『仕方ないことだ』
わかってる。わかっているんだ……。
『だから正しいことをしたんだ』
ああ、そうだとも……。
『なら、なぜそれを罪と感じる必要がある?』
必要なんかない。俺は正しいんだ……。
ザクッ、グシャッ
「いやぁぁぁあああああっっ!!!!」
やめろ、やめろ、やめろ……っ。
180 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/12(木) 21:02:52.23 ID:01f/7AXP0
『何一つ忘れていない。全てを覚えている』
ピチャリ…、ピチャリ…
覚えている、覚えている、覚えている。
『その手に伝う、生ぬるい血の感触』
自分を見つめる虚ろな双眸。
『喉を引き絞るように告げられた恨みの言葉』
それに対して、眉一つ動かすことなく、
『彼女の首を刈り取った』
光を失った瞳が、俺を見つめ続けている。
幾多の視線が全身を貫いてくる。
俺が絶った命の群れに、くし刺しにされる。
181 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/12(木) 21:03:38.38 ID:01f/7AXP0
勇者「う、うう……っ」
勇者「や……ろ……。そん……目で、俺を見……な……」
勇者「仕方……いだろ……。じゃないと……」
少女「……また、うなされてる」
勇者「ううっ、っ……。……はっ!?」
勇者「……ちくしょう」
少女「大丈夫……?」
勇者「ごめん。また起こしちゃったな」
少女「ううん、いいよ」
勇者「はぁ……」
少女「……ねぇ」
勇者「ん?」
少女「ちょっと、外に出ない?」
182 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/12(木) 21:05:03.25 ID:01f/7AXP0
今日はここまで。酉つけてみました。
書き溜めにどんどん追いついてきていて、焦っています。
183 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/13(金) 12:00:48.18 ID:3hmclf1yO
乙
ゆっくりでいいんだ
続けてくれれば嬉しい
184 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/13(金) 21:28:46.75 ID:diOcokKNo
乙
185 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/13(金) 22:36:53.36 ID:u6yfO1JQ0
――
――――
少女「この時間になると涼しいねー」
勇者「夜風にやられて風邪ひくなよ?」
少女「わかってるって。そこまで子供じゃないよ、私」
勇者「どうだかね」クスッ
少女「むぅー。あなたはいつもそうやって、人を子供扱いするんだから」
勇者「実際子供じゃないか」
少女「だから、なんで同い年のあなたがそれを言うの」
勇者「……さてね」
少女「何か気になる言い方だよ。そういうの良くないよ」
勇者「それは失礼」クスッ
186 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/13(金) 22:37:22.61 ID:u6yfO1JQ0
少女「……変なこと言うけどね」
勇者「どうぞ」
少女「最近、よく笑うようになったよね」
勇者「……えっ?」
少女「初めて会ったときよりも表情っていうのかな、それがやわらかくなったような気がする」
勇者「そうかな……。自分じゃ全然わかんないや。……てか、前の俺はどんなだったんだよ」
少女「うーん……。難しいな……」
少女「うーむ、うーむ……」
少女「なんて言うんだろ。いつも何か難しいこと考えてそうな感じ。あと、正直、結構無愛想だったよ?」
勇者「えー……」
勇者(抽象的からの突然の具体的な指摘という落差に、地味にダメージを受ける俺)
少女「あ! あと口調も!」
勇者「口調……?」
少女「うん。今の『えー』とか。最初の方だったら絶対言わなかったもん」
勇者「……言われてみれば、確かに」
187 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/13(金) 22:37:48.90 ID:u6yfO1JQ0
勇者(自由奔放に生きる彼女に、感化されてきているのだろうか)
勇者(それとも、魔王討伐の連続の中で失われた、人の心が戻ってきたのか)
少女「だからさ、起きてる時はいいんだ。でも……」
勇者「寝ている時、か」
少女「そう。どうして、いつもあなたはうなされているの?」
勇者「…………」
少女「一体、どんな夢を見ているの?」
勇者「…………」
少女「誰から、あなたは許されたいの?」
勇者「…………! そこまで、俺は口走ってたのか……」
少女「うん。ずっと、ごめんなさいって」
188 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/13(金) 22:38:22.69 ID:u6yfO1JQ0
勇者「そっか……」
少女「…………」
勇者(話してしまってもいい)
勇者(そんなことを思った)
勇者(彼女になら、伝えてもかまわないと)
勇者(話したくない)
勇者(そんなことも思った)
勇者(自分の手が血に塗れていることを知られたくない)
勇者(信じてもらえるわけがない)
勇者(最後にはその結論に至った)
勇者(俺が生きてきた世界は、この世界とは大きくかけ離れている)
189 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/13(金) 22:38:48.67 ID:u6yfO1JQ0
少女「もしもあなたが嫌なら、もう、聞かないから……」
勇者「…………」
勇者「お、俺は……」
勇者「…………」
少女「…………」
勇者「…………」
勇者「……すまない」
少女「そっか……」
勇者「君のことを信用してないとか、そういうのじゃないんだ……。ただ……」
少女「ううん、いいよ。気にしなくて」
勇者「でも……!」
少女「誰にだって話したくないことはあるもん。だから――」
ガサガサッ
勇者「えっ?」
190 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/13(金) 22:39:20.98 ID:u6yfO1JQ0
??「キシャー!!」バッ
勇者「危ない!!」
少女「きゃっ!?」
ドンッ!
勇者「くっ」
??「ちっ……。効いてないか……」
少女「な、何あれ……!?」
勇者「魔物か……?」
少女「マモノ……? え……!?」
勇者「君は後ろに下がってろ」
少女「えっ?」
勇者「…………」
少女「う、うん……」
191 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/13(金) 22:39:46.94 ID:u6yfO1JQ0
魔物「!!」ブンッ
バシィッ!
魔物「なっ!?」
少女「大丈夫!?」
勇者「大したことない」バキッ!
魔物「ブシャアッ!?」
勇者「おい」ガッ
魔物「ギャンッ!?」
勇者「お前はなんだ? どうしてここにいる?」
魔物「くっ、貴様こそ……、あ!」
勇者「?」
魔物「その目……! まさか、貴様は……っ」
魔物「魔王……っ!」
192 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/13(金) 22:40:15.21 ID:u6yfO1JQ0
勇者「……なぜ、そう呼ぶ」
魔物「忘れられるわけが……。その冷酷な目、血も涙もない貴様のその目を、たとえ肉体が変われど、どうして忘れられよう……!」
魔物「オレの仲間を貴様は、魔王は……」
勇者「……魔王か。なら、なぜお前は生きている? 俺を魔王と呼ぶ魔物がなぜ」
魔物「貴様が、オレをここに飛ばしたんじゃないか……。なのにその直後にまた出会すなんて……」
魔物「ついて、ない……。ぐぅ……っ!」シュウゥン
勇者「ちょっと待て! まだ……!」
少女「き、消えた……?」
勇者(恐ろしく弱い魔物だった。俺たちに襲いかかったのが不思議なくらい)
勇者(魔の気は未だに感じられない。ついさっきまで目の前にいたのに、死んだ瞬間嘘のように消え去ってしまった)
勇者(何なんだ、これは……?)
193 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/13(金) 22:40:48.32 ID:u6yfO1JQ0
少女「ね、ねぇ……。今の、見たことないような、か、形? だったよね……」
勇者「あ、ああ……。そうだな」
勇者(見覚えはない。魔王の姿だって覚えているかどうか、危ういところがあるくらいなのだから、遭遇したことのある可能性は否定できないが)
勇者(しかし、あれほどまでに弱いのは、理解できない)
勇者(もし俺たちが転移魔法を使った結果、この世界へ転移してきたのなら、それなりに強い魔物のはずだ)
勇者(女神様でもなければ、転移魔法はそれなりに手間のかかる代物。あの程度の有象無象なら、剣を振るえばそれで済む)
勇者(いくらでも現状を招いた可能性は挙げられるが、それでもあの魔物は俺を『魔王』と呼んだ)
勇者(一体、なぜ……?)
少女「あなたは、あれを知ってるの……?」
勇者「…………」
少女「……そう、なんだ」
勇者「…………」
194 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/13(金) 22:41:15.80 ID:u6yfO1JQ0
少女「ねぇ、もう一つ聞いてもいい?」
勇者「なんだ?」
少女「…………」
少女「……あなたは」
少女「あなたは、何者なの?」
勇者「…………」
少女「さっきのマモノ? も、あなたのことを知ってるみたいだったし……」
勇者「俺は、知らなかった」
少女「でも、知ってる風だったよね」
勇者「……はぁ。タイミングがいいんだか、悪いんだか……」
勇者(あんなところまで見られてしまったんだ。もう、話すしかない)
勇者「…………」
勇者「……俺は、勇者なんだ」
195 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/13(金) 22:42:39.86 ID:u6yfO1JQ0
今日はここまで。
次の更新は月曜か火曜にします。
みなさん、一週間お疲れ様でした。
196 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/14(土) 02:18:08.74 ID:ul/9vYXlO
乙でした
…土日返上して続きはよ!!俺が変わりに休んでおくからさ!
197 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/14(土) 02:28:37.74 ID:KpYCnK6ro
敵が弱いって言ってたけど魔翌力依存の存在なら
魔翌力のない地で弱体化するのはおかしくないと思うのだが
198 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/14(土) 06:44:53.25 ID:AeGrXPgx0
乙
199 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/16(月) 19:17:18.43 ID:bruJe3aq0
Melody Of Memories
https://youtu.be/l2D4axUKURE
BGMによかったら流してください。
200 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/16(月) 19:18:00.59 ID:bruJe3aq0
少女「……ゆう、しゃ?」
勇者「ああ」
少女「勇者って、あの、ゲームとかでよく出てくるような?」
勇者「まぁ、そんなところだ」
少女「へぇ……。そうだったんだ」
勇者「あまり驚かないんだな。ここじゃ御伽噺みたいなものなのに」
勇者(もしかしたら、信じられてないのかもしれない。むしろ、そう考えるのが自然だ)
少女「さっきの見たし」
勇者「あー……そうか」
少女「うん、それにね」
少女「ちょっとそうなんじゃないかなって、思ってたし」
少女「あなたが別の世界から来たんじゃないかって」
勇者「…………」
勇者「…………」
勇者「…………えっ?」
201 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/16(月) 19:18:36.32 ID:bruJe3aq0
勇者「ど、どうして……? 君からしたら、とんだ空想話のはずだ……」
勇者「なのに、どうしてそんな……」
勇者(どうして、そんな簡単に信じられるんだ?)
少女「今にして思えば、だけどね。いっぱいあったよ」
勇者「何が」
少女「ヒントというか、ボロというか」
少女「あなたの言動、最初からどこかおかしかったもん」
少女「まずお金もないのに一人旅なんて、怪しすぎるし」
勇者「む……」
少女「今のご時世にスマホ知らないのもあり得ないし」
勇者「ぐ……」
少女「それにあの時あなた、魔法、使ったんでしょ?」
勇者「……気づいていたのか」
202 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/16(月) 19:19:04.90 ID:bruJe3aq0
少女「わかるよ、流石に。山の中で熊に襲われた時、あなた血だらけになってたのに、その傷もなくなってて」
少女「私の傷もなくなってて」
少女「あ、そう言えば魔法って単語に、すごく反応してたよね」クスッ
勇者「…………」
勇者(彼女の言葉は最初から最後まで、予測の範疇を超えていて、意味を理解するのにひどく時間がかかった)
勇者「そ、そうだとしても、そんなの決定的な理由にはならないじゃないか。ただ単に痛い妄想をしている人間だって考えるのが――」
少女「そうだね。確かにそれだけだったら、私だってそんなこと思いつきもしないよ」
勇者「なら――」
少女「私ね、見てたの」
203 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/16(月) 19:19:39.72 ID:bruJe3aq0
勇者「見てたって……?」
少女「あなたが現れる瞬間を」
勇者「俺が、現れる?」
少女「自分ではわからないのかな」
少女「あなたはあの時、海で初めて会った時、何もないところから突然現れたの」
勇者「は?」
少女「すごくキラキラと光って、気づいたらあなたはそこに倒れてて」
少女「だからね、もしかしたらあなたは、そういう人なんじゃないかって、最初からそう思ってたの」
勇者「…………」
204 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/16(月) 19:20:13.62 ID:bruJe3aq0
勇者「つまり、君は、そんな得体も知れない人間に、話しかけてきたのか?」
少女「そうだよ?」
勇者「どうして……」
少女「前にも言わなかったかな?」
勇者「?」
少女「単純に、つまらなかったからだよ」
少女「ここは何もなくて、つまらなくて、退屈してて」
少女「そんな時にあなたが現れたの」
勇者(彼女はそうつぶやくように口にしながら、空を見上げる。瞳に星の瞬きが反射して、キラキラと輝く)
少女「予感がしたの。何か面白いことが起こるんだって」
少女「そんな気がして、だから、あなたに話しかけたの」
205 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/16(月) 19:20:41.08 ID:bruJe3aq0
少女「……変かな?」
勇者「…………」
勇者「……ああ、変だ。奇怪だ。理解できない」
勇者「もしも俺が、魔王みたいな悪人だったら、君はどうするつもりだったんだ?」
少女「それは、結果的にあなただったんだから、よかったじゃない」
勇者「…………」
少女「話が少し脱線しちゃったけど、そういうこと。だから、私はあなたの言っていることを信じるよ」
勇者「……そう、か」
少女「だから、聞かせて」
少女「あなたのことを」
勇者「…………そうか」
206 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/16(月) 19:21:13.72 ID:bruJe3aq0
勇者「話す気なんてさらさらなかったから、上手く言葉にできる自信がない」
少女「それでもいいよ。ゆっくり、話してくれれば」
勇者「…………」
勇者「どこから話したものか……」
勇者「俺は、魔王という化け物と戦った」
勇者「一度だけじゃない。何度も、何度も」
勇者「戦いの中で俺はたくさんの命を奪ってきた」
勇者「魔物も、そして、人も」
少女「……えっ? 人……?」
勇者「そう。罪もない人間も、殺した」
少女「さっき、魔王って呼ばれてたの、聞き間違いじゃなかったってこと……?」
勇者「…………」
勇者「……ああ、そうだ」
207 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/16(月) 19:21:42.93 ID:bruJe3aq0
少女「そんなの、信じられないよ……!」
勇者「事実だ」
少女「ねぇ、それじゃわからないよ。最初から話してよ……」
勇者「なら、もう少し前から話そうか。……そうだな」
少女「…………」
勇者「俺は、いろんな世界を飛び回って、いろんな世界の魔王と戦った」
少女「いろんな世界……?」
勇者「君の言う異世界はいくつもあって、そこではどこも魔王と人間の戦争があったんだ」
少女「……まるで、マンガの中のお話だね」
勇者「ここでは空想だとしか思えないだろうけど、本当の話だ」
208 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/16(月) 19:22:13.06 ID:bruJe3aq0
勇者「証拠を見せた方が早いかな」
ポッ
少女「わ、火の玉が!」
シュン
少女「消えちゃった……」
勇者「こんな感じで魔法も使える。この世界だとかなり弱くなってしまうが」
勇者「本当は今の魔法は最高級の炎魔法で、巨大な炎の玉が出てくるはずなのだが、ここでは今のが精一杯だ」
少女「…………」ポカーン
勇者「いくつも、いくつもの世界へ転移して、何回も魔王と戦って、その度に世界を救ってきた」
少女「いくつもって、どれくらい?」
勇者「九十……何回だったっけ?」
少女「九十!?」
209 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/16(月) 19:23:07.36 ID:bruJe3aq0
勇者「そんな驚くか?」
少女「驚くよ! 普通!」
少女「じゃ、じゃあ……九十何回も、魔王と戦ったってこと……?」
勇者「そういうことになるな」
少女「…………」ポカーン
勇者「いろんなところに行ったよ。魔王が龍だったこともあったし、偉大な魔導師だったこともあった」
少女「…………」
勇者「いろんな戦いがあったし、いろんな出会いも、別れもあった」
勇者「ただ、なんだろうな。ずっと同じことを繰り返すうちに、何にも思わなくなったんだ」
少女「どういうこと?」
210 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/16(月) 19:24:53.42 ID:bruJe3aq0
勇者「人との出会いにも、偶然の巡り合わせにも、何をしても、見ても、感じても、少しずつ心が動かされなくなっていった」
勇者「魔王を倒しても『ああ、じゃあ次』みたいに、冒険することは俺にとってただの『作業』になっていた」
少女「作業……」
勇者「果てには、仲間が死んでも、味方が壊滅しても、一つの村が魔物に滅ぼされたのを目にしても、何も感じなくなった」
少女「そんな……!」
勇者「どんなに胸を痛めるような出来事も、何千回、何万回も繰り返すと、無感動になるんだよ」
勇者「人は幸福にも、そして不幸にも鈍感になるんだ」
勇者「きっと、想像できないと思うけどね」
少女「…………」
勇者「そんな中、俺はある世界を訪れた。そこにも魔王がいて、それと戦うことになるわけだが……」
勇者「ただそこは、絶望としか言いようのない、状況だった」
211 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/16(月) 19:25:36.96 ID:bruJe3aq0
少女「何があったの……?」
勇者「その世界にはもうほとんど人間は残っていなかった」
少女「えっ……」
勇者「世界のほとんどは魔物によって牛耳られ、さほど大きくもない国が端っこに残っているだけ」
勇者「滅びるのを待っているだけ、みたいな感じだったよ」
少女「……あなたは、他にもいろんな世界に行ってたって、言ってたよね?」
勇者「ああ」
少女「その中でもそこは酷かったってこと?」
勇者「ああ。状況は過去最悪だったと言ってもいい」
勇者「世界中合わせても、人間が千人もいないんだ。想像できるか?」
少女「……正直、できないよ」
勇者「だろうな」
勇者「それまでの俺の使命は、魔王を倒すことだけだった。そうすれば全て解決した」
勇者「けど、そこではただ魔王を倒しても、また新たな魔王が生まれるだけで、人間が滅びる未来は変わらない」
少女「じゃあ、どうすれば……?」
勇者「世界中の魔物を、根絶やしにするしかなかったんだ」
212 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/16(月) 19:26:13.26 ID:bruJe3aq0
少女「根絶やしって……っ」
勇者「文字通りの意味だよ。魔物を一匹残らず滅ぼすって」
勇者「世界中に魔物は何千万といて、いや、億までいってたかもしれない。一方人間は千にも足りないくらい」
勇者「その状況下で人間という種が生き残るためには、それしか方法がなかった」
少女「で、でも、何千万もいるのに、どうやって?」
勇者「人間がまともに戦ってなんて、とても不可能だ」
勇者「だから、同士討ちをさせた」
少女「同士、討ち……?」
勇者「魔物達が自滅していくように、そんな状況に陥るように」
勇者「さっき、魔王って呼ばれてたろ?」
勇者「俺は、魔物達がそうなるように仕向けるために、」
勇者「俺自身が魔王になった」
213 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/16(月) 19:26:53.85 ID:bruJe3aq0
少女「あなたが、魔王……?」
勇者「そう。その立ち位置になれば、魔物達をコントロールできる」
勇者「そのためには、まず魔王に近づかなければならない。何か魔物達にとっての勲章ともなるようなものが必要だった」
勇者「だから、俺はある成果をあげて、魔王の側近になった」
少女「ある成果……?」
勇者「後は簡単だったよ。魔物達の信頼を勝ち得て、逆に魔王の権威を失墜させた」
少女「ちょっと……っ」
勇者「俺が魔王を殺した時は、他の魔物達は拍手喝采だったな」
少女「ちょ、ちょっと待ってよ! 話が急展開過ぎるよ! 魔王になるためにあなたがあげた成果って何なの!?」
勇者「もっと単純明快さ」
勇者「俺はその最後の国の王と、姫を殺した」
勇者「その首を、魔王に差し出したんだ」
214 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/16(月) 19:27:36.95 ID:bruJe3aq0
――
――――
勇者「…………」スッ
王様「……そうか。ついにこの時が」
勇者「ええ。最初に話した通り」
王様「後のことは、この国のことは頼んだ」
勇者「それは、民次第です。王」
勇者「あなたという精神的支柱を失ったこの国が、希望を見失わずにいられるか」
王様「ああ、わかっている」
勇者「……何か最期に言い残すことは?」
王様「姫を、娘のことを頼んだ。私の宝だからな」
勇者「わかりました」
ザシュッ
215 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/16(月) 19:28:08.78 ID:bruJe3aq0
――
――――
姫「どうして!? どうして、勇者様……っ!?」
姫「お父様も、他のみんなも、あなたを信じてたのに……!」
魔物「うるさいぞ、女。魔王様の前だ」
姫「きゃっ!!」バシンッ
魔王「……ふん」
勇者「…………」
魔王「おい、貴様」
勇者「私のことでしょうか」
魔王「そうだ。国王の首を持ってきたことは褒めてやる」
魔王「もしも貴様が本当に我らの側につくと言うのなら、この場でこの女を殺してみよ」
姫「ひっ……!?」
勇者「……!」
216 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/16(月) 19:29:07.51 ID:bruJe3aq0
魔物「お言葉ですが、魔王様。この者は私の隷属魔法で操り人形のようなものです」
魔王「わかっておる。だから、やれ」ニヤリ
勇者「…………」
勇者「魔王様の仰せの通りに」スッ
姫「う、嘘だよね……? 勇者様……」
勇者「魔王様の命令だ」
姫「いや、やめて……っ! 目を覚まして!」
勇者「…………」
姫「いや、いやぁ……! ま、まだ、死にたく……っ」
勇者「私をつけ回すようなことをするからです」
勇者「……本当なら、こんなことには」ボソッ
217 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/16(月) 19:29:34.65 ID:bruJe3aq0
姫「裏切り者っ、あなたは……っ、っ!」
グサッ
姫「きゃあっ!?」
勇者「…………」
姫「いや……っ、痛い、痛い、痛いぃっ」
勇者「…………」
姫「どうして、うっ! こんな、こ、とを……っ」
ザシュッ
ゴロン
勇者「終わりました、魔王様」
218 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/16(月) 19:31:02.44 ID:bruJe3aq0
――
――――
少女「そんな……」
勇者「俺は奴らの罠にかかったフリをして、魔王に近づいた」
勇者「いつでも寝首をかける状況だったが、さっきも言った通り、それじゃ意味がない」
勇者「だから魔王側についたように見せかけて、その裏で魔物達を少しずつ殺し合わせて減らしていった」
勇者「あたかも、それを引き起こしているのが魔王であるかのように」
少女「…………」
勇者「他の魔物からの信頼を失った魔王を殺し、俺が新たな魔王になった」
勇者「魔王になった後も、また裏から対立を煽って同族殺しをさせて、魔物は最早ほとんど世界から姿を消して」
勇者「最後に魔王である俺が、人間の手で討たれることによって、人々は魔物という脅威から救われた」
勇者「そうやって、その世界の人間を救ったんだ」
219 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/16(月) 19:32:19.44 ID:bruJe3aq0
勇者「俺は、正しいことをしたんだ」
勇者「たくさん殺して、でも、それで人間を救ったんだ」
勇者「魔王として、何人も人間も殺した……。それでも、最後には……っ」
勇者「救った、はず、なんだ」
勇者「俺は、俺は……。っ!?」
ギュッ
勇者(突然、彼女は俺を抱きしめた。その手は、微かに震えている)
少女「…………」
勇者「な、何を……っ。離れろよ……」
少女「ううん、離れない……」
少女「だって、あなた泣いてるから」
勇者「えっ?」
勇者(気がつかなかった)
勇者(いくつもの涙が、頬を伝っていた)
220 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/16(月) 19:32:45.44 ID:bruJe3aq0
少女「ごめんね……。こういう時、どうすればいいのか、わからなくて」
勇者「……俺は、たくさんの人間を救ったんだ」
勇者(自然と言葉が口から漏れた)
勇者(何かが決壊しそうなくらいに、感情が次から次へと)
少女「うん」
勇者「でも、そのためにたくさんの人を殺した……」
勇者「人だけじゃない。魔物もだ……」
勇者「なぁ、知ってるか? あいつら、無意味に人間を襲う輩もいたけど、中には人間みたいに普通に、平和に生活してる奴もいたんだ」
勇者「その世界だけじゃない。俺が戦ってきた世界には、そんな魔物だっていっぱいいたのに……」
勇者「それも全部殺してきた……」
少女「うん……」
221 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/16(月) 19:33:11.47 ID:bruJe3aq0
勇者「俺はそれを何も思わなかった」
勇者「ただ、それが自分のすべきことだったから」
少女「うん」
勇者「そう思って生きてきたから」
少女「うん」
勇者(彼女はただ俺の声に頷くばかり)
勇者(けれど、それがありがたくて、不思議と自分の声が震え始めた)
勇者「それ以外の生き方を、知らなかったんだ」
勇者「なのに……、最近になって、よく夢を見るようになった」
少女「うん」
勇者「今まで俺が命を奪ってきた人たちが、魔物が、ずっと俺に言うんだ」
勇者「許さないって」
222 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/16(月) 19:33:47.64 ID:bruJe3aq0
勇者「いくら謝ってもその声は消えなくて、むしろどんどん大きくなって」
勇者「いくつもの殺す瞬間が、何度も何度も目の前に現れる」
少女「うん……っ」
勇者「もう、わからないんだ」
勇者「自分が何のために戦っていたのか。これから、何のために戦えばいいのか」
勇者「そもそも、自分の行為は正しかったのかも」
勇者「わからなくて、わからなくて」
勇者(足に力が入らなくなってきて、今にも膝から崩れ落ちてしまいそうだった)
少女「大丈夫だよ」
勇者「は……?」
少女「だってあなたは、正しいと信じて、戦ってきたんでしょ?」
223 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/16(月) 19:34:44.94 ID:bruJe3aq0
勇者「そう盲信してただけかもしれない」
少女「それでいっぱいの人を助けたんでしょ?」
勇者「でも、そのために――」
少女「でも」
少女「あなたがいなかったら、もっとたくさんの人が死んじゃったり、苦しんだりしてたんじゃないのかな」
勇者「……!」
少女「あなたが守ったものだって、いっぱいあると思うんだけど」
少女「……違ったらごめんね」
勇者「…………」
勇者「なんで君まで泣いてるんだよ……」
少女「あはは……。なんでだろ……」
少女「なんでなのかな。あなたの話を聞いてたら、胸がギュッて締め付けられるみたいで……」
少女「おかしいよね。あなたの苦しみを、私なんかがわかるわけないのに……」
224 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/16(月) 19:35:11.83 ID:bruJe3aq0
少女「うん……」
少女「……前に、似たようなお話を聞いたことがあって」
勇者「お話?」
少女「うん。絵本……だったのかな。よく覚えてないんだけど」
少女「まさにあなたみたいな話で、主人公はみんなを守るために戦って、それで勝って平和が訪れるみたいな話なんだけど」
少女「その後、仲間とか友達とか、自分の味方だった人からこう言われるの」
少女「『悪魔』だって」
少女「主人公が誰よりも強くなっちゃって、それで怖がられて」
少女「それで最後には主人公は殺されちゃうの。それで、おしまい」
勇者「…………」
勇者(エスパーめいた偶然に、驚きで言葉にならなかった。全く同じことを俺は経験したことがある)
勇者(まるで俺の過去が見透かされているような……)
225 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/16(月) 19:36:15.11 ID:bruJe3aq0
少女「すごく自分勝手だって思った。だってその人は、それまで世界を救うために、何もかも犠牲にしてきたのに、最期まで報われなくて」
勇者「……でも、そんなことだってある。苦しみに優劣なんてつけようがない」
少女「それでも……!」ギュッ
勇者(俺を包む力が強くなり、さらに彼女の温度を感じた)
勇者(身体の中を脈打つ鼓動の音まで、聞こえてくる)
少女「その人は、あなたは、普通の人の何倍も苦しんで、何倍も辛い目にあって……!」
勇者(彼女の声はひどく沈痛で、何も知らない人間の言葉だとは思えないほどだった)
勇者(……いや、違うか)
勇者(理解されたいと願うが故の幻想なのかもしれない)
勇者(……けれど、そうだとしても)
226 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/16(月) 19:36:42.87 ID:bruJe3aq0
少女「他の誰にも代わりはいなくて、だから自分がやるしかなくて……」
勇者「…………」
少女「それで死に物狂いで戦ってきたのに、それを批判できる人なんて、この世のどこにもいないよ……」
少女「あなたは、間違ってないよ。間違ってなんか……」
勇者「…………」
○者「……ああ」
少女「?」
○○「星が、綺麗だ……」
少女「えっ? う、うん……」
○○「星空がこんなに美しいことすら、俺は忘れてたんだ」
少女「うん」
○○「ここに来て、いろんなものを見た。いろんなことに心を動かされた。だからなのかな……」
○○(どうして、こんな感情に襲われているのだろう)
○○(彼女の言葉が全てなわけではない。本質的な問題は、何一つ解決してはいない)
○○(なのに、なぜこんなにも、俺は――)
227 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/16(月) 19:37:09.69 ID:bruJe3aq0
○○「なぁ……。どうしよう……」
少女「なに?」
○○「……泣きそうだ」
少女「いいんじゃないかな、別に。今ならあなたの顔見えないし」
○○「そうか」
少女「そうだよ」
『少年』「……ありがとう」
少女「……うん」
少年(もう、我慢の限界だった)
少年「ひっく……うっ、あぁ……っ」
少年(俺は、泣いた)
少年(まるで子供のように、ただ泣き叫んでいた)
少年(彼女は何も言わずに、ただ俺の身体を強く抱きしめてくれて、あたたかくて安心すると同時に、また涙があふれた)
少年(ただ、泣いていた)
228 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/16(月) 19:38:56.52 ID:bruJe3aq0
今日はここまで。
少しハイペースだったので、明日以降はペースを落とそうと思います。
229 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/16(月) 20:10:59.68 ID:mbQG5FbJ0
乙
230 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/16(月) 21:35:21.38 ID:Xi90Dd3do
乙
231 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/17(火) 12:39:31.76 ID:J9X4MPuX0
作者には逆らえないから
無闇に酷い目に遭わせたがる作者に作られたキャラクターは大変だし気の毒だなって
232 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/17(火) 13:19:14.18 ID:/dmGioNVo
存在はしているのになんの役にも立たず一人の人間に全部押し付ける女神ェ…
233 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2018/07/17(火) 14:46:09.59 ID:ztKn2MmG0
なんだこいつ
234 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/17(火) 22:40:31.62 ID:yWPLIEVP0
――
――――
少女「…………」テクテク
少年「…………」トボトボ
少女「…………」テクテク
少年「あの……」
少女「ん?」
少年「いつまで手を繋いでるんでしょう?」
少女「んー、とりあえず家に着くまで?」
少年「完全に俺が子供みたいだからやめて」
少女「目をそんな真っ赤にして、何言ってるの?」
少年「そ、それを言うな……!」
235 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/17(火) 22:41:09.10 ID:yWPLIEVP0
少年(完全にやらかした。なんでこんな十年ちょっとしか生きてない女の子に……!)
少年「〜〜〜〜〜〜!!」
少年(今になって思い出すと恥ずかしすぎる……! 恥ずかしくて死にたい)
少女「ふふっ。やっぱり変わったよ、あなた」
少年「ああ……、もうなんか自覚症状ある……」
少年「年相応の反応になってしまってる……」
少女「別に悪いことじゃないと思うけどな」
少年「体はこうでも、中身はもう何百歳のじじいだぞ。俺は」
少女「ああ! だからいちいち言動がおっさん臭いんだ!」
少年「今更かよ」
236 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/17(火) 22:41:44.01 ID:yWPLIEVP0
少女「でも、あんまり私とかと変わらないように見えるよ」
少年「そりゃ見た目子供だからな」
少女「いや、そうじゃなくて……。まぁ、いいや」
少女「あっ、そうだ」
少年「?」
少女「さっきの話でもう一つ、気になったことがあったんだった」
少年「気になったこと?」
少女「あなたは、何か大切なことを忘れてる」
少年「えっ?」
237 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/17(火) 22:42:10.10 ID:yWPLIEVP0
少女「……ような気がする」
少年「なんだよ、それ……」
少女「ごめんね。私にはあなたのこと、たぶんまだ全然わかってない」
少女「けどね、あなたが……えっと、何百歳? になるまで頑張ることができたのは、何か理由があるからだと思うの」
少年「それは、俺には魔王を倒すという使命が――」
少女「ううん、そうじゃなくて」
238 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/17(火) 22:42:35.80 ID:yWPLIEVP0
少女「そうじゃなくて、あなたがそうしたいと思うようになった理由だよ」
少年「そうしたい、理由……?」
少女「うん」
少女「だって、普通だったらそんなの耐えられなくて、途中で投げ出しちゃうよ」
少女「でも、あなたはそうしなかった」
少女「それには、何か理由があったんじゃないかな」
少女「逃げ出したくない理由が。そう思うようになったきっかけが」
少年「きっかけ……」
少年「…………」
少年(自分が魔王と戦おうと思った理由……)
少年(そんなものが自分にあっただろうか)
239 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/17(火) 22:43:03.11 ID:yWPLIEVP0
少女「あなたは、勇者になる前は、何だったの?」
少年「勇者になる前?」
少女「うん。だって生まれた瞬間から、世界を救おうなんて考えてたわけじゃないでしょ?」
少年「……考えたこともなかったな」
少女「その時のことを思い出したら、何かまた違うと思うんだけど」
少年「…………」
少年(思い出そうとしてみる。が……)
少年「覚えてないな」
少女「そっか……」
240 :
◆Rr2eGqX0mVTq
[saga]:2018/07/17(火) 22:43:29.08 ID:yWPLIEVP0
――
――――
どうして、あんな嘘をついたのだろう。
本当のことを言ったって、少しも問題なんてなかったはずなのに。
どうして、あの瞬間、彼があの人の面影と重なったのだろう。
もうどんな顔だったのかさえも、よく覚えていないのに。
どうして、絵本だなんて言ったのだろう。
夢だって言ったとしても、よかったのに。
それを口にしてはいけないような気がした。
私は、その光景を知っている。
どうして?
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