シャロ「もう嫌だ。働きたくない……」

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19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/10(日) 00:04:18.26 ID:sWv6sJFD0
―別の日―

シャロ(今日もまた客と店員にキレられた……)

シャロ(本当にムカつく。社畜奴隷共、さっさと死んでくれないかしら……)

シャロ(腹いせに宝くじ、いっぱい買っちゃった。そろそろ給料日だし、ちょっとぐらい無駄遣いしても大丈夫よね)

千夜「……あっ! やっと帰ってきたっ!」

シャロ「あれ、千夜? 家の前でなにして……」

千夜「シャロちゃん、なんで電話に出ないの! 大変なのよ!」

シャロ「ど、どうしたのよ。そんなに焦って」

千夜「さっき警察から連絡があって……ううっ……」

シャロ「な、なんで泣くの。ちょっと落ち着いて……」

千夜「シャロちゃんのご両親が……ストライキを起こしていた労働者さんたちの自爆テロに巻き込まれたって……」

シャロ「えっ……!? そ、それ……本当なの!?」

千夜「こんなタチの悪い嘘、吐くわけないわ!」

シャロ「そ、それで今……お母さんたちは!?」

千夜「病院で治療を受けているって……」

シャロ(そんな、そんなことって……)
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/10(日) 00:04:47.46 ID:sWv6sJFD0
―病院―

シャロ(急いでタクシーを拾って病院に来たけど、もう既に……)

シャロ「あは、あはは……」

千夜「シャロちゃん……」

シャロ「お母さん、お父さん……」

シャロ「嘘よ、こんなの……」

シャロ「嘘だ……嘘だ……嘘だぁっ!」ダッ

千夜「シャロちゃん! 待って!」
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/10(日) 00:05:24.78 ID:sWv6sJFD0
―病院の外―

シャロ「はぁ、はぁ……」

シャロ「う、うう……!」ポロポロ

シャロ「なんで、なんで死んじゃったの……お母さん……お父さん……」グスグス

シャロ「なんでこうなるのよ! なんで、嫌なことばかり続くの!? 私、なにか悪いことした!?」

シャロ「誰か、誰か答えてよ……。もうやだ……。やなの……」

シャロ「私を独りにしないでよ……」

千夜「いいえ、シャロちゃんは独りじゃないわ!」

シャロ「千夜……」

千夜「大丈夫、私が居る。それにみんなも居る。……こんなことしか言えなくて、ごめんね」ダキッ

シャロ「千夜……」

シャロ(あったかい……)
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/10(日) 00:05:50.13 ID:sWv6sJFD0
シャロ(……そうよね。起きてしまったことは覆らない。いくら願ったって、2人は絶対に生き返らないんだ……)

シャロ(いつまでも嘆いていたって、状況は一向によくならない。それは他でもない、私自身が一番よくわかっているはず)

シャロ(戦い続けなきゃ。それだけが、今の私にできる唯一のこと……)

シャロ「……ありがとう。そうよね、人はいつか死ぬもの。それがちょっと早かっただけ……」

千夜「きっと、天国で会えるわ。だって、シャロちゃんは誰よりも頑張っているもの」

シャロ「うん……。私、自信ないけど頑張ってみる……」

千夜「できる限りのことはするわ。一緒に乗り越えましょう」
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/10(日) 00:07:12.16 ID:sWv6sJFD0
シャロ(お金がなかったので、お葬式はやらなかった。できなかった)

シャロ(千夜のお婆さんがお葬式の費用を出すと言ってくれたけど、断った。他人に身内の葬式代を出してもらうわけにはいかないもの)

シャロ(遺産は今住んでいる家が遺されただけで、お金は1円もなかった。借金は10万円あったけど、家を手放すわけにもいかないので相続した。意外と額が少なかったのが救いね……)

シャロ(宝くじを返品して少しでも足しにしようと思ったけど、火葬したり色々な手続きでバタバタしてる内に、もう抽選は終わってた。全部ハズレだったから1円にもならなかった)

シャロ(あと、シフトに穴を空けたという理由で、バイトを1つクビになった。ちゃんと連絡したのに、酷くない……?)

シャロ(嫌なことがあった後はいいことがある、なんて言うけど……絶対に嘘だわ。嫌なことの後には嫌なことしか待ってないもの……)

シャロ(千夜にはああ言ったけど……。お母さん、お父さん。私、頑張れないかもしれない……)
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/10(日) 00:08:02.44 ID:sWv6sJFD0
―別の日・バイトの帰り―

シャロ「もうすっかり夜ね……。疲れた……」

シャロ(今日は客に意味不明な理由で5回も怒鳴られたし、それを見てた店員に『集中してないからだ』って怒られた……)

シャロ(私、悪くないのに。なんで私ばっかりこんな目に……もう嫌だ……許して……)

シャロ(でも、お母さんもお父さんも、もう居ないんだ。私1人で頑張らなきゃ。耐えなきゃ。乗り越えなきゃ……)

シャロ(……ん……?)

千夜「あ……」

チノ「あ、シャロさん。こんばんは」

シャロ「チノちゃん……にみんな」

シャロ(余計な気を使わせないように、千夜以外には親が死んだことは内緒にしてるのよね。気取られないようにしないと)

ココア「どうしたの? すっごく疲れてるみたいだけど」

シャロ「バイトの帰りでね……みんなは?」

リゼ「ラビットハウスに集まってゲームをしてたんだよ」

チノ「父の持ってきてくれた双六で遊んでたんです。止まったマスに書いてあることをやらなくちゃいけないって双六で」

ココア「結構盛り上がった所為で遅くなっちゃったし、リゼちゃんと千夜ちゃんを、お家まで送っていくところなんだ」

シャロ「そう……なの」
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/10(日) 00:08:37.39 ID:sWv6sJFD0
千夜「……」

シャロ(千夜がちょっと気まずそうな顔してるわね。私を置いて自分だけ楽しんだ罪悪感ってところかしら)

シャロ(前々から遊ぶ約束してたんだから、私のことなんて気にしないで遊んできなさい、とは言ったけど、余計な気を使わせちゃったかな……。気をつけないと)

千夜「そ、そういえば……『1人で漫才をする』ってマスに止まったココアちゃんの滑りっぷり……本当に面白かったわね」

ココア「ち、千夜ちゃん! ここで言わないでよ! 恥ずかしいんだからぁー!」

千夜「うふふ、ごめんなさい。でも、凄く面白かったから……。シャロちゃん、後で動画を送っておくわね」

シャロ「あ、うん……」

ココア「千夜ちゃんやめてよー!」

チノ「極限までつまらないと、逆に面白いんですね。新たな発見です」

リゼ「ああ、あれは確かに傑作だったな! 今、思い出しても笑えてくるよ」

チノ「シャロさんが一緒じゃなくて残念です。今度はシャロさんも一緒にやりたいですね」
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/10(日) 00:09:03.65 ID:sWv6sJFD0
シャロ(みんなは夜遅くまで楽しく遊んでたのに、私はバイトで怒られて……)

シャロ(本当に、私って惨めね……)

千夜「ふわぁ……。あ、あら、ごめんなさい……」

ココア「千夜ちゃん、おっきい欠伸!」

チノ「私も眠いです……」

リゼ「なんだ、みんな気合が足りないぞ?」

チノ「リゼさんが元気すぎるんです」

千夜「あ、そうだ。シャロちゃん、お風呂……」

シャロ「いいわよ、もう遅いし。眠いんでしょ? 私、お金を引き出しに銀行に行かなきゃいけないから、そのまま銭湯に行ってくるわ」

シャロ(借金返済が手渡しじゃないと駄目なんて本当に面倒。でも仕方ない……)

千夜「気にしなくていいのに……はふ」

シャロ「ほら、また欠伸。さっさと帰って寝なさいよ。先輩、千夜をよろしくお願いします」

リゼ「ああ、任せろ!」

ココア「無事に送り届けるよ!」
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/10(日) 00:09:32.02 ID:sWv6sJFD0
―銭湯―

シャロ「はぁ……」ゴシゴシ

シャロ(双六、楽しかったんだろうなぁ。私もやりたかった……)

シャロ(千夜が動画を送ってくれるって言ってたし、それで満足するしかないか)

シャロ(にしても中々、泡立たないわね。バイトでそんなに汚れてるのかしら。きっと社畜奴隷共の悪意の所為で汚れが落ちないのね)

シャロ(銭湯代、地味に痛いなぁ。借金の支払いさえなければ……。できる限りのことはすると言ってくれたとはいえ、千夜にあんまり頼りすぎるのもよくないし)

シャロ(いつまでも、あると思うな、金と千夜……なんてね。さてと、洗い終わったし出よう)

ガララ

シャロ(あっつー。牛乳でも飲めば涼しくなるかな。……もったいないからやめとこ)

シャロ(さっさと帰ろ……)
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/10(日) 00:09:59.88 ID:sWv6sJFD0
シャロ(……ん? あ、あれ?)

シャロ(私の服がない! 鞄も!)

シャロ(なんで!? もしかして、盗られた?)

シャロ(そういえば、以前ここで服を盗られた人が居たんだった。忘れてた……)

シャロ(お嬢様学校の制服だから、金持ちだと思われたのかしら)

シャロ(スマホも給料の入った財布も、なにもかも持っていかれた……)

シャロ(よりにもよって、こんな時に私を狙わなくてもいいのに……)グス

シャロ「あ……」

シャロ「どうやって帰ればいいのよ……」
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/10(日) 00:10:26.49 ID:sWv6sJFD0
―シャロの家―

シャロ(あの後、番台の人に言って警察を呼んでもらった)

シャロ(服は借りられたから帰ってはこられたけど、引き出したばっかりの15万円が入っていた財布とスマホは帰ってこない。スマホも結構な値段したのに……)

シャロ(その上、警察に『貴重品を持って銭湯に来る方が悪い。ましてや銀行帰りなんて』みたいなことを遠回しに言われた……。私が悪いの?)

シャロ(残り3万円で今月、どう乗り切ればいいのよ……。給料日、今日だったのよ……?)

シャロ(バイトさえ忙しくなければ、今まで通り千夜の家のお風呂を借りてたはずだから、こんな目に遭わなかったのに)

シャロ(バイトさえ……バイトさえ無ければ……)
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/10(日) 00:10:52.34 ID:sWv6sJFD0
シャロ(……私、こんな惨めで悲しい思いをするために今まで頑張ってきたの?)

シャロ(少しでも楽をするために頑張ってきたはずなのに、どんどん生活は苦しくなる……)

シャロ(バイト先では理不尽なことで客や店員から嫌がらせを受け)

シャロ(生活に余裕を持たせるためにバイトしてるのに、給料が下がった所為で長く働かないといけなくなって時間の余裕がなくなって)

シャロ(時間の余裕がなくなった所為であまり勉強できず、学費免除が取り消されるかもしれないくらいの成績になって。もしそうなったら生活は更に苦しくなる……)

シャロ(お母さんたちだって、出稼ぎにさえ行っていなければ、テロなんかに巻き込まれることもなかった)

シャロ(不幸の原因は全て、労働にあるんだわ)

シャロ(働くことってそんなに大事なの? 働かないことがそんなに悪いことなの? 働かなきゃ幸せになっちゃいけないの?)

シャロ「もう嫌だ。働きたくない……」
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/10(日) 00:11:22.74 ID:sWv6sJFD0
シャロ「なんでこんな思いまでして働かなきゃいけないの?」

シャロ「なんで辛い目にあってまで生きなきゃいけないの?」

シャロ「生きるためには金が要る。金を得るためには働かないといけない」

シャロ「でも働くくらいなら、死んだ方がマシ……」

シャロ「……そうよ。死ねばいいんだわ」

シャロ「どうせ、死ぬまで労働と苦痛尽くしのクソみたいな人生よ。どうせ人間はいつか死ぬんだし、いつ死んだって一緒よね」

シャロ「よし死のう! すぐ死のう! お母さんお父さん! 今すぐそっちに行くからね!」

シャロ「どうやって死のうかな。首吊り? 飛び降り? 入水? リストカット?」

シャロ「……あ、でもまだ3万円が残ってるわね。これで宝くじが当たるかもしれないし、それまで粘ろうかな」

シャロ「できることなら、死にたくないし。完全な無一文になるまで粘ろう」

シャロ「金が尽きるまでは遊んで暮らそう。学校もバイトも行く必要なんてない」

シャロ「どうせ目的のない人生だし、わざわざ辛い思いをしにいく理由はないわ」

シャロ「それに宝くじが当たったなら働く必要も勉強する必要もないし、当たらなくても自殺するんだから、どっちにしろ必要ない!」

シャロ「もし当たれば、今まで通りどころか今までよりもいい生活ができるしね」

シャロ「生きるために努力するなんて、無意味で馬鹿らしいわ」

シャロ「……なんか、今までウジウジしてたのが馬鹿みたい。決意が固まったからかしら、すっきりした気分」

シャロ「そう、バイトと勉強で疲れた陰気くさい桐間紗路は今日で死ぬの。明日からは生まれ変わった新たな桐間紗路よ!」
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/10(日) 00:11:51.67 ID:sWv6sJFD0
―次の日・朝―

チュンチュン

シャロ「……んー!」

シャロ「目覚めスッキリ! なんて清々しい朝なのかしら!」

シャロ「学校からもバイトからも解放された朝は、こんなに気持ちいいのね!」

シャロ「ニート最高! あはは!」

カンカンカンカン

千夜「シャロちゃん起きてー」

シャロ(あー、そうだった……。家の隣にはお節介な幼馴染が居るんだったわ)
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/10(日) 00:12:18.49 ID:sWv6sJFD0
シャロ「うるさいわね。起きてるわよ」

千夜「おはようシャロちゃん。早く着替えないとバイトに遅刻しちゃうわ」

シャロ「行かない」

千夜「……え?」

シャロ「だから、バイト行かない。学校も行かないから。悪いけど、しばらく1人になりたい気分なの。放っておいて」

千夜「な、なに言ってるの。ご両親が亡くなって辛いのはわかるけど……」

千夜「もしかして、バイト先でいじめに遭っているから行きたくないとか……?」

シャロ(ある意味、社会全体からいじめられてるようなもんだから、さほど間違ってはないけど……)

シャロ「違うわ」

千夜「じゃあなんで……」

シャロ「千夜には関係ないでしょ」

千夜「関係なくないわ。私はご両親にシャロちゃんのことを頼まれてたのよ」

シャロ「もう死んだわよ。だから別に、私がどうなろうと千夜は困らないでしょ。ほっといてよ」

千夜「困るわ。それに、一緒に乗り越えるって約束したじゃない」

シャロ「まあ、これから困らなくなるけどね」

千夜「え? それってどういう……」

シャロ「私、自殺するから」

千夜「自殺!? ま、待ってシャロちゃん。冗談よね?」

シャロ「冗談だと思う?」

千夜(一体、なにがあったのかしら……。コーヒーでも飲んだ?)

千夜(ううん、それにしてはおかしいわ。カフェインでハイになった時は、もっとポジティブだもの。こんな陰鬱なこと言うわけない)

千夜(とにかく、私だけじゃ処理できない!)

千夜「シャロちゃん! ココアちゃんたちを呼んでくるから、ここに居てね!?」

シャロ「え、なんで? みんなは関係ないじゃない。頼むから今は1人にして……」

千夜「絶対よ!? 絶対だからね!」

シャロ(話、聞きなさいよ……)
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/10(日) 00:12:44.68 ID:sWv6sJFD0
シャロ「……1人にしてって言ったのに……」

ココア「私、シャロちゃんに死んでほしくない!」ギュー

シャロ「……ココア、抱きつかないで。苦しい」

リゼ「聞いたぞ、シャロ。自殺するとは、どういうことなんだ」

チノ「そうです。説明してほしいです」

シャロ「リゼ先輩にチノちゃんまで連れてくるなんて……。千夜、余計なことしないでよ」

千夜「そんなことより、シャロちゃん。説明して」

シャロ「……」

ココア「話してくれなきゃわからないよ!」

シャロ「……そうね。簡単に言うと、もう働きたくないの」

リゼ「……え? そ、それだけなのか」

シャロ「ええ、それだけです。でも、それを放棄した人間に待ってるのは死だけなんですよ」

チノ「ど、どうしてですか。働くことだけが人生じゃないはずです」

シャロ「チノちゃん。生きるのにはお金が必要なのよ。知ってるでしょ」

チノ「え、は、はい……」

シャロ「そして、お金を得るためには基本的に働くしかない」

シャロ「だから、この社会では働くことを拒否した人間は死ぬしかないのよ」

シャロ「動物だって一緒。狩りをするなり餌を探すなりしなければ死んでしまう……」

シャロ「一部の恵まれた人間以外は、働かないと生きることを許されないの。働かざる者、食うべからずって言うでしょ」
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/10(日) 00:13:16.66 ID:sWv6sJFD0
リゼ「……シャロ、やっぱり無理してたんだな。でないとお前がこんなことを言うわけがない」

シャロ「バレちゃいましたか。でも、無理するのはやめたんです。これからは正直に生きます」

リゼ「だから死ぬのか? 極端すぎるだろう。本当になにがあったんだ」

シャロ「大したことじゃないんですよ。ただ、嫌なことが重なって」

シャロ「バイト先で社畜奴隷共から攻撃されたり、時間とお金の余裕が無かったりとか。勉強も大変だし、両親も死んだし」

ココア「シャロちゃんのご両親、亡くなってたの……?」ボソボソ

チノ「初耳です」ボソボソ

シャロ「努力してるつもりなんです、自分では。でも、どんどん状況が悪くなっていって」

シャロ「それで、頑張って頑張って頑張った先になにも無いのが、私の人生なんだって気づいたんです」

リゼ(シャロの奴、相当参ってるな……。参ってなきゃ死ぬなんて言わないか)

シャロ「ココア、あんたが羨ましいわ……」

ココア「えっ、私?」

シャロ「そうよ。誰とでもすぐ打ち解けられる才能を持ってて」

シャロ「私にもそんな才能があったら、こんなに辛い思いしなくても済んだかもしれないのに」

シャロ「プライドの高さが原因? それとも頭でっかちだから? 本当に私って馬鹿……」

ココア「シャロちゃん……」

シャロ「くそっ……お金さえあれば全て解決するのにッ!」
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/10(日) 00:13:43.32 ID:sWv6sJFD0
リゼ「人生、お金が全てじゃないだろ。人の心は金で買えないというじゃないか」

シャロ「いえ、全てです。何故なら、お金で買えないものは私にとって必要でないか、既に持っているものしかないから……」

リゼ「なら、働かずにお金を稼ぐ方法を考えればいい」

シャロ「……例えば?」

チノ「そ、そうだ……。働くのが嫌なら起業すればいいと、誰かがテレビで言っていました。人間関係の問題からも解放されるって……」

シャロ「……チノちゃん、それって雇われてないだけで働いてるわよね?」

チノ「……あっ……」

シャロ「それに、なにを仕事に起業すればいいのかなんて全く思いつかないし」

シャロ「チノちゃんに限らず『働きたくない』って言うと『起業しろ』ってよく返ってくるけど……なんなんでしょうね、あれ。答えになってないわよね」

シャロ「ごめんね、チノちゃんを責めているわけじゃないのよ。怠け者の私が悪いの」

チノ「い、いえ……」

シャロ「それに、人間関係だけが嫌なんじゃないの。労働という人生において最も無駄な時間で、人生の貴重な時間を浪費するのも嫌なの」

ココア「え、えっと……じゃあ……生活保護は?」

シャロ「駄目よ。あれは働く気のない奴にお金をあげる制度じゃないんだから」

ココア「動画サイトとかブログとかで!」

シャロ「もうスマホないし、やりようがないわ。もちろん機材を買う余裕もなければアイデアだってない」

ココア「漫画を描いて売る!」

シャロ「出来上がる前に餓死しちゃうわ。それに売れるとは限らないし」

リゼ「株やFXでも儲けることは可能なんじゃないか? それなら働かなくても」

シャロ「あれは、元手がないとほとんど儲からないんです」

シャロ「例えば10円の株を1000株買って11円の時に売っても、たった1000円しか儲からないんです」

シャロ「そして、私にはその元手が圧倒的に足りていないんです」

シャロ「見てください、預金通帳――全財産です」

リゼ「……約3万円か」

シャロ「それに、今は大きく動く株もない。あってたとしても私に買える額じゃない。貯金を全部、投資に回した所で、大して儲からないんです」

シャロ「まあ、もう生きるために努力するのが嫌なので、どっちにしろやらないと思いますけど」

シャロ「もちろん、身体を売ったりもしません」

チノ(身体を売る……? そういえば、臓器を売ってお金にすると聞いたことがあります。それは確かに嫌ですね……)

シャロ「まあ、宝くじを買うくらいの手間は甘んじて受けますけど」
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/10(日) 00:14:09.83 ID:sWv6sJFD0
ココア・チノ・リゼ・千夜「……」

シャロ(……この沈黙、気まずいわ。早く帰ってくれないかしら……)

リゼ「……くそっ……どうしてこうなったんだ……」

シャロ(先輩が気に病むことじゃないのに)

リゼ「なんで私は気づいてあげられなかったんだ。気づこうと思えば、以前に会った時に気づけたはずだ。私にも責任はある」

リゼ「だが、シャロもシャロだ。どうしてお前は自分だけで抱え込むんだ。相談してくれれば、まだなんとかできたかもしれない」

リゼ「私は、私たちは……友達じゃなかったのか!」

シャロ「ありがとうございます、リゼ先輩。こんな私でも友達なんて言ってもらえて、嬉しいです」

シャロ「でも、友達だからこそ、迷惑はかけられないんです」

千夜「迷惑だなんて……」

シャロ「先輩やココア、チノちゃん、千夜……みんなと居るのは楽しい」

シャロ「みんなのことが嫌いなわけない。信頼してるし、ずっと大好きって気持ちは変わらない」

シャロ「でも他が辛すぎて、みんなと居る時間を心の底から素直に楽しめないの」

シャロ「今がどれほど楽しくても『ああ、この後は長い地獄が待ってるんだな』と考えると、ひとときの楽しさがむなしくなってくるのよ」

シャロ「線香花火1本を明かりとして夜を過ごすようなもの……かしらね」

シャロ「線香花火の明かりが落ちてしまった後は、長い長い夜を暗いまま耐えなきゃならない」

シャロ「その一瞬のためだけに、長い苦痛には耐えられないの」

千夜「シャロちゃん……」
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/10(日) 00:14:36.31 ID:sWv6sJFD0
シャロ「もういいのよ、こんな人生。だからね、貯金が無くなったら死のうと思う」

ココア・チノ・リゼ・千夜「……」

シャロ「今すぐってわけじゃないわ。もし宝くじが当たれば今まで通りに過ごせる」

シャロ「これはゲームなの。私の命を賭けた確率0.00001%のね。ま、どうせ当たらないでしょうけど」

シャロ「私だって、できることなら死にたくない。ずっとみんなと一緒に居たい。明日も明後日も、1年後も10年後も……死ぬまでみんなと楽しく過ごしたい」

シャロ「でも、そんなの現実的じゃない。みんなにはそれぞれ進むべき道がある。だからきっと、いつか別れの時がやって来る」

シャロ「それがちょっと早くなるだけ。お母さんとお父さんがそうだったように……」

ココア「……宝くじに命を賭けるなんて、駄目だよ……」

リゼ「宝くじ……私はよく知らないが、当たるものなのか」

チノ「あんなの、当たるはずありません」

シャロ「そう。なら、やっぱり死ぬしかないわね」
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/10(日) 00:15:08.15 ID:sWv6sJFD0
千夜「駄目よ、シャロちゃん! 死ぬなんて言っちゃ駄目!」

ココア「そうだよ! 人生、辛いことばっかりじゃないよ!」

チノ「私、シャロさんが居なくなったら……悲しいです……」

リゼ「考え直してくれ! シャロ!」

シャロ(なにを無責任に……)イラ

シャロ「うるさい!」

ココア・チノ・リゼ・千夜「っ!?」ビクッ

シャロ「じゃあ、誰か私のこと養ってくれる?」

千夜「え……」
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/10(日) 00:15:57.25 ID:sWv6sJFD0
シャロ「生きてほしい、だから働け? 嫌よ、そんなの」

シャロ「私はもう、辛い思いをしてまで生きたくないの」

シャロ「労働とかいう、人生において最も惨めにして無駄な時間で、1度しかない人生の貴重な時間を浪費するのはもう嫌!」

シャロ「私の人生よ。私のものを、私がどう扱ったって構わないでしょ? だって、損をするのは私だけなんだから!」

シャロ「こんなクソみたいな人生、めちゃくちゃになってしまえばいい。いや、もうめちゃくちゃなのよ!」

シャロ「それでも死んでほしくないのなら……みんなの都合を私に押しつけるのなら、相応の責任を取ってよ。……取りなさいよ!」

チノ「わ、私……」オロオロ

リゼ「そういう問題じゃないだろう! 冷静になれ、シャロ!」

ココア「シャロちゃんは……そう、つ、疲れてるんだよ。だからそんな悲観的な考えに走っちゃってるだけ……」

ココア「そ、そうだ、コーヒー飲もうよ! それできっと解決するから……ね?」

チノ「そ……そうです。世の労働者さんたちも、お酒を飲んで嫌なことを忘れます」

チノ「私たちは未成年なのでお酒は飲めませんが……。シャロさんはカフェインで同じ効果を得られるんですから、コーヒーでなんとか……」

シャロ「なんでこれ以上、耐えなきゃならないのよ! それに、社畜奴隷共と同じ方法なんて絶対に嫌ッ!」

千夜「……」
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/10(日) 00:16:48.93 ID:sWv6sJFD0
シャロ「ふん……。ほら、誰も養ってくれない。無理でしょ? 嫌でしょ? だから無責任に生きろなんて言わないで……」

千夜「わかったわ」

シャロ「え?」

ココア・チノ・リゼ「えっ」

千夜「養います。私がシャロちゃんを責任持って養います」

千夜「大丈夫よ。甘兎庵はそう簡単に潰れはしないわ。それに、甘兎庵は私がもっともーっと大きくするんだもの」

千夜「甘兎庵が大きくなったら、収入も今以上に増えるわ。だから養います。養えます」

千夜「だから、だからね……」

千夜「だから、死ぬなんて言わないで……お願い……」

シャロ(ち、千夜……)
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/10(日) 00:17:16.02 ID:sWv6sJFD0
シャロ(……私、やっぱり馬鹿だわ。感情に任せて友達にキレて、幼馴染を泣かせて……)

シャロ(でも。それでも、やっぱり……)

シャロ「ありがとう、千夜」

千夜「っ! じゃあ……!」

シャロ「……気持ちだけ受け取っておく」

千夜「え……」

シャロ「さっきも言ったけど、いつまでも千夜や、みんなに迷惑かけていられないの。でも、私が生きていると絶対に迷惑がかかってしまう。私の力だけじゃ、もう乗り切れないことばかりだから」

シャロ「さっきは感情的になって怒鳴って、ごめんなさい」

ココア「いいよ、私たち、そんなことで怒ったりしない!」

チノ「シャロさんは悪くありません!」

リゼ「そうだ。謝るくらいなら、生きてくれ……」

シャロ「ココアも、チノちゃんも、リゼ先輩も、千夜も。こんな私と今まで友達で居てくれてありがとう」

ココア「なに言ってるの……これからもずっと友達だよ……」

チノ「まるで友達じゃなくなるなんて言い方、やめてください……!」

リゼ「そうだ! 私たちの絆は、その程度のことで切れたりしない!」

シャロ「……さっきも言った通り、まだ死ぬって確定したわけじゃない。宝くじさえ当たれば、今まで通りなの」

シャロ「……しばらく1人にさせて。1か月後までに答えを出すから。3万円あれば、身に着けた節約術で、それぐらいは持つはず」

シャロ「だから、今日は帰って。お願い……」
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/10(日) 00:17:42.77 ID:sWv6sJFD0
―次の日―

シャロ「ん……んう……。朝か……」

シャロ(昨日はみんなが帰ってからすぐ寝ちゃったのよね……。こんなに寝ちゃうなんて、よっぽど疲れてたんだわ)

シャロ(学校とバイトをバックレたから、きっと電話がいっぱい、かかってきてるでしょうね)

シャロ(でも、スマホは盗られたから確認のしようがないし、家への訪問者は寝てたからわからないし)

シャロ(ま、もう2度と行かない所のことを考えても仕方ないか)

シャロ(にしても、今日は妙に暑いわね……)

シャロ(……なんか焦げ臭い?)スンスン

シャロ「……!?」

シャロ「も、ももも……燃えてる! 家が! も、燃えてっ!」

シャロ「火事だわ! み、水!」

ボキッ

シャロ「……あ……」

シャロ「蛇口の栓、折れた……」

シャロ「……」

シャロ「……はっ! 呆けてる場合じゃない、通帳だけでも持って逃げなきゃ!」
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/10(日) 00:18:16.74 ID:sWv6sJFD0
シャロ「はぁ、はぁ……。あ、危なかった……」

ゴォォ……

シャロ「あはは……。燃える燃える……」

シャロ(なにもかもが炎の中に融けてゆく……)

通行人A「うわ! 火事だ!」

シャロ(集めたカップ、思い出の写真、みんなから貰ったプレゼント……)

通行人B「消防を呼んだわ!」

シャロ(まるで、世界が私の死を後押ししてるよう)

通行人C「君、危ないから離れなさい!」

シャロ「はは……」

シャロ(そんなに死んでほしいの? わかったわよ、もうちょっとだけ待ちなさい)

シャロ(結果はその内、出るから)

ガチャ

千夜「なにかしら、騒がしいわ……えっ」

シャロ「おはよう、千夜」

千夜「ちょ、シャロちゃん……! お家が……も、燃えて……」

シャロ「そうね」

千夜(な、なんでそんなに冷静なの……?)
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/10(日) 00:18:42.76 ID:sWv6sJFD0
シャロ(誰かが通報してくれたから、10分くらいで消防が来て、火を消していった)

シャロ(幸い、甘兎庵や他の建物には燃え移らなかったけど、私の家は全焼)

シャロ(原因は私が窓際に置いていたペットボトルらしいわ)

シャロ(収斂火災ってやつね。つまり、私の過失)

シャロ(失火罪で30日以内に30万円払わなきゃいけなくて、払わなかったら刑務所で労働だって。私、未成年なんですけど)

シャロ(そこまでして私を働かせたいの? 絶対にお断りだわ)

シャロ(心配して付き添ってくれた千夜が30万円を出すって言ってくれた。もちろん断った)

シャロ(私が居るとどうしても千夜に迷惑がかかってしまう)

シャロ(だから警察署を出た足で、そのまま行方をくらませることにした。だけど……)
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/10(日) 00:19:21.90 ID:sWv6sJFD0
千夜「待って!」

シャロ(運悪く千夜に見つかってしまった)

シャロ「なにしに来たのよ」

千夜「どこに行くの」

シャロ「どこって……散歩よ、散歩」

千夜「嘘」

シャロ「嘘じゃないわよ」

千夜「行かないで」

シャロ「嫌よ」

千夜「う、う……」ポロポロ

シャロ「泣いたって、無駄なんだから。もう帰る家もなくなったし」

千夜「なら、甘兎に住めばいいわ」グス

シャロ「言ったでしょ? 迷惑はかけられないって。あんこも居て怖いし。……じゃあね。もう会うこともないでしょ」スタスタ

千夜「待っ……きゃっ!」ガッ

千夜「うう……痛……」

シャロ(千夜のやつ、ふらふらだわ。きっと、私以上に私の心配をして気疲れしてるのね)

シャロ(心配してくれるのはありがたい……。でもこれなら、簡単に振り切れる!)

タッタッタ……

千夜「……い、や……」

千夜「……行か、ないで……シャロ、ちゃん……」
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/10(日) 00:19:47.55 ID:sWv6sJFD0
―ラビットハウス―

ココア(シャロちゃんが消息を絶ったと千夜ちゃんから聞いて、1週間が経った)

ココア(今日もみんな、浮かない顔してる……)

ココア(千夜ちゃんは、しばらく学校をお休みした。ずっとシャロちゃんを探してたみたい)

ココア(今は登校してきてるけど、ずっと窓の外を眺めてぼーっとしてる。きっとシャロちゃんを探してるんだ)

ココア(私たちも、なにもしなかったわけじゃない。けど、収穫はなし)

ココア(みんなシャロちゃんを探したがってる。もちろん私も)

ココア(とはいえ、ずっとラビットハウスを放ったらかしにしてはおけないし、警察に任せて今はいつも通り働いてる。でも……)

リゼ「チノ……注文はブルーマウンテンだ。キリマンジャロじゃない」

チノ「あ……すみません」

リゼ「まったく……しっかりしてくれよ……ココアシックならぬシャロシックか? はは……」

チノ「……リゼさん、ラテアートにシャロさんの顔を描くのはやめてください。上手ですけど、お客さんがびっくりします……」

リゼ「す、すまん……。人のこと、言えないな……」

ココア(みんなずっと、こんな調子。私も同じだけどね……)

チノ「ココアさん、ぼーっとしてるくらいならチラシ配りでも行ってきてください。今日はお客さん居ませんし」

ココア「あ、うん……」

ココア(日に日にお客さんが減ってる気がする。このお店、大丈夫なのかな)

ココア(チラシ配りをしながら、一応シャロちゃんを探してみよう)
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/10(日) 00:20:29.27 ID:sWv6sJFD0
―道端―

ココア「喫茶店ラビットハウスです。10%割引券付きです……」

ココア「……暑い。誰も受け取ってくれないし……」

ココア(シャロちゃんは……居ないよね)

ココア「はぁ……」

ウーウー

ココア「パトカーだ、珍しいな。なにかあったのかな?」

千夜「……ココアちゃん……」

ココア「ひっ! ち、千夜ちゃん……。急に後ろから現れないでよ」

ココア(心臓が止まるかと思った……)

千夜「ごめんなさい……」

ココア「もしかして、今日も?」

千夜「ええ……」

ココア(その様子だと、千夜ちゃんも見つけられてないんだね……)

千夜「次は向こうの方に行ってくるわ……あっ」カクン

ココア「わっ!」ガシッ

千夜「ご、ごめんなさい……ありがとう」

ココア「急に倒れるなんて……今日はどれくらい探してるの?」

千夜「8時間くらい……かしら」

ココア「8時間!? 駄目だよ、ちょっとは休まなきゃ。千夜ちゃん体力ないし、潰れちゃうよ」

千夜「シャロちゃんを行かせたのは私の責任なの。私が転びさえしなければ……。だから……」

ココア(責任、感じてるんだね……)

ココア「もう歩けないでしょ。甘兎庵まで送っていってあげるから」

千夜「……ごめんなさい……」
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/10(日) 00:20:56.19 ID:sWv6sJFD0
ココア(送ってあげるなんて言っておきながら、私だけだと千夜ちゃんを運べなかった……。だからリゼちゃんを呼んで手伝ってもらったよ。私って非力だね……)

ココア(リゼちゃんはお店に戻っちゃったし、チラシ配りを再開しよっと)

ココア「喫茶店ラビットハウスです。コーヒーが自慢のお店です。よろしくお願いします……」

ウーウー

ココア(パトカー……今日は妙にうるさいね)

青山「あら、ココアさん。チラシ配りですか?」

ココア「青山さん。そうですよ、1枚どうぞ」

青山「クーポン付きなんですね。頂いておきます」

ココア「青山さんは今日もネタ探しですか?」

青山「ええ。でも悲しい話が聞けただけで、特にネタになりそうなものは」

ココア「悲しい話?」

青山「はい。なにやら自宅が火事になったのに罰金刑を科された人が逃げ回っているとか」

青山「火事で全てを失ったのに罰金だなんて……。かわいそうだとは思いませんか?」

ココア「そうですね。でも一体、誰だろう?」

青山「さあ……。そういえば、シャロさんを最近お見かけしないんです。どこに行っても会えなくて。知りませんか?」

ココア「いえ……。私も探してるんですけど」

ココア(……まさか、逃げてる人ってシャロちゃん?)

ココア(でも、家が燃えて罰金だなんて酷すぎるよ。法律のことはよくわかんないけど、シャロちゃん相手に警察の人もそこまでしないよね)
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/10(日) 00:21:37.10 ID:sWv6sJFD0
―1週間後―

シャロ「さて、今日は最後の宝くじ抽選日ね。すっかり野宿にも慣れちゃったわ」

シャロ「3万円、溶けるの早かったなぁ。今まで1円も当たってないから余計に早かったわね」

シャロ「できるだけ食費にお金をかけないために食べてた雑草とも今日でお別れ。さすがにこれには未練ないけど」

シャロ「もう結果が出てる頃だわ。確認しに宝くじ売り場まで行こうっと」

シャロ「今日に抽選される宝くじを買ってちょうど、私の所持金は0になった」

シャロ「つまり、これが外れたら私の人生は終了ってこと」

シャロ「逆に、当たっていれば人生の勝利者。輝かしい未来が待ってるわ」
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/10(日) 00:22:04.23 ID:sWv6sJFD0
―宝くじ売り場―

シャロ「か、確認するわよ……」

シャロ「はぁー……」

シャロ「……」

シャロ「当たれっ……!」
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/10(日) 00:22:34.03 ID:sWv6sJFD0
シャロ「……」

シャロ「……」

シャロ「……ふ、ふふ」

シャロ「あはは」

シャロ「あははははは!」

シャロ「アハハハハハハハハハハ!」
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/10(日) 00:23:01.27 ID:sWv6sJFD0
シャロ「1円も当たってない」

シャロ「そうよね。当たるわけないわよね」

シャロ「そんな都合よくいかないわよね」

シャロ「これで完全に退路は断たれたってことか。悲しいわね」

シャロ「はぁ……」

シャロ「……さてと、死ににいくとしますか。崖から飛び降りが一番、楽で確実に死ねそうね。準備も要らないし。山まで行きましょう」
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/10(日) 00:23:27.68 ID:sWv6sJFD0
―山―

シャロ「はぁ、はぁ……」

シャロ「やっと手頃な崖に着いたわ。なかなか見つからなかったわね……下調べくらいしておくべきだったかしら」

シャロ「ふぅ……夜の風は気持ちいいわね。今日は7月14日、もう充分に夏なのに」

シャロ「……そういえば、明日は私の誕生日だわ。ここに来るまでかなりかかったし、もう15日になってるかもしれないわね。時計がないからわからないけど」

シャロ「誕生日が命日になるのね」

シャロ「本当、惨めな人生だったわ。産まれてきてよかったなんて、嘘でも言えない」

シャロ「……少しくらい、自由に生きてみたかったなぁ」

シャロ「お金、時間、人間関係……」

シャロ「その全てから解き放たれて、生きてみたかった」

シャロ「結局、人生という名の冷たい檻に閉じ込められたまま、出られなかったわね」

シャロ「お母さん、お父さん。今から私もそっちに行くけど、怒らないでね」

シャロ「って、都合よく天国に行けるわけないか。じゃあ、天国も地獄もありませんように」

シャロ「あと、なにかの間違いで生まれ変わっちゃったとしても、兎にだけはなりませんように」

シャロ「きっと、もう15日になってる頃よね」

シャロ「誕生日おめでとう、私」

シャロ「それじゃあ、さよなら。……はは、誰に言ってるのかしら。誰も聞いてないのにね。最期まで私は馬鹿だったわ」

ザッ

――

――

――グシャ
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/10(日) 00:23:53.53 ID:sWv6sJFD0
・木組みの街で高2女子が自殺 過労原因か

木組みの家と石畳の街教育委員会は本日、
街内の高校2年の女子生徒である桐間紗路(きりま・しゃろ)さんが
付近の山で投身自殺したことを明らかにし、記者会見を開く、と発表した。

女子生徒は多くのアルバイトを掛け持ちしていたことが明らかになっており、
過労が原因となった可能性も含め、自殺に至った経緯や原因を調べるという。

街教委によると、女子生徒は7月14日に自殺を図り、15日未明に死亡した。

通っていた高校では、校長が学年集会などで生徒に説明。
生徒らからの聞き取りも始めたという。
街教委は心のケアのため、同校に臨床心理士を派遣した。
56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/10(日) 00:24:19.64 ID:sWv6sJFD0
千夜(シャロちゃんのニュースは一部の新聞やニュースで小さく報道されたくらいで、あまり話題にならなかった)

千夜(芸能人や政治家、スポーツ関係者の不祥事の方が大事みたい)

千夜(シャロちゃんがどれだけ私たちにとって大切な人でも……)

千夜(その他の大勢の人たちにとっては、顔も知らない他人が死んだだけ、ということなのね)
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/10(日) 00:24:45.88 ID:sWv6sJFD0
千夜(きっと世界中に、シャロちゃんのような労働に苦しめられている人がいっぱい居て、今も苦しんでいるんだと思う)

千夜(でも、それも当然のことなのかもしれない)

千夜(種の進化を目的として遺伝子に刻み込まれた争いの本能は、生物である以上、人間であっても完全に抑え込むことはできないのだから)

千夜(獣は、餌を確保するためだったり、縄張りを守るために、たとえ同族同士であっても争う)

千夜(その過程で弱者は淘汰されてゆき、種としての力を、より高めてゆく……)

千夜(労働はきっと、自殺や過労死による自滅を促すことで弱者を淘汰するために生まれた、人間独自の同族殺しの争いの形なの)

千夜(でも、私はシャロちゃんが、ただの弱者だったとは思えない)

千夜(たぶん……シャロちゃんは進化の先に居たの)

千夜(けれど、その進化は力を伴うものではなかった)

千夜(人間は獣から進化する際に、生身で獲物を狩る力の多くを失ったけど――)

千夜(代わりに、道具を使うことによって他の生物よりも多くの獲物を狩る力を手に入れた)

千夜(それと一緒で、シャロちゃんも『なにか』を得た代わりに、戦う力を失ってしまったのね)

千夜(だから、負けてしまった……)

千夜(悲しいものね。強さを得るために進化しているはずなのに、その果てに手に入るのは弱さだったなんて)
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/10(日) 00:25:12.06 ID:sWv6sJFD0
千夜(これからもシャロちゃんのように『なにか』に辿りつく人は現れることでしょう)

千夜(でも、進化前の人間が世界を支配している以上、弱き者は淘汰される運命にある)

千夜(そして、多くの人間は進化できず、本能に突き動かされていることを気づけないまま生涯を終える)

千夜(労働によって人間同士が憎みあう社会は、これからもずっと続くのでしょうね)

千夜(私だって偉そうに語ってるけど、その支配から逃れられてはいないわ)

千夜(だって、甘兎を大きくする夢は、まだ捨てられていないから)

千夜(シャロちゃんの死によって得たこの考えは、私を進化には至らしめないでしょう)

千夜(進化は自分で気づいて初めてできるものであって、他人にさせてもらうものではないものね)

千夜(……なーんて、こじらせすぎかしら。こんなこと言ってたら、またココアちゃんに変な目で見られちゃうわ)

千夜(今度のメニュー名のネタにでもしよっと)
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/10(日) 00:25:39.65 ID:sWv6sJFD0
―崖―

千夜(私はシャロちゃんが命を絶った崖に、お花と新作の和菓子をお供えした)

千夜(それと……)

千夜「遅くなってごめんなさい、誕生日おめでとう、シャロちゃん」

千夜「これ、前に欲しがってたティーセットよ。みんなでお金を出しあって買ったの。喜んでくれたら嬉しいわ」

千夜「この世に産み落とされ、自分が生き地獄に突き落とされる原因になった日は、シャロちゃんにとっては嬉しくない日かもしれないけど」

千夜「私たちにとっては、シャロちゃんという、かけがえのない友達と出会うきっかけを作ってくれた素晴らしい日なの」

千夜「だから勝手で悪いけど、祝わせて?」

千夜「友達の誕生日を祝うのは当然のことなのだから」

千夜「あとね、嫌がるかもしれないけど、あんこやワイルドギースも寂しがってるのよ」

千夜「もちろん、兎の言葉はわからないわ。でも、私がこんなに寂しいんだもの。シャロちゃんに懐いてた子たちが寂しくないわけないわ」

千夜「それとね……」

千夜「……」グス

千夜「……あら、やだ……。ごめんなさい、シャロちゃんの前くらいでは泣かずにいようと思ってたんだけど……」

千夜「やっぱり、まだ駄目みたい……」ポロポロ

千夜「泣いちゃってごめんなさい。……また、来るわね。今日はゆっくりお話しがしたかったから私1人だけど、次はみんなと一緒に、ね」

千夜「……おやすみなさい、シャロちゃん」

(終)
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/10(日) 02:30:05.35 ID:DUJ4qVqeO
ラビットハウスで働くとかリゼの屋敷に雇ってもらえばよかったのに(内容読んでないから適当)
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/10(日) 10:25:06.96 ID:RoXjBEm6o
なんだ結局死ぬのか
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/18(月) 23:02:48.90 ID:TaUGVZ9J0
あんこ「ぼくのメス奴隷になればよかったのにおバカなメスだねwwwwww」
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/06(月) 16:13:45.32 ID:q7kyMorm0
シャロ...
貴方が死んでしまうのならしかたがない
自分も死にます... (寿命になったら
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/08/06(月) 16:14:36.27 ID:q7kyMorm0
シャロ...
貴方が死んでしまうのならしかたがない
自分も死にます... (寿命になったら
65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/06(月) 16:15:40.83 ID:q7kyMorm0
\(^o^)/
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/07(火) 00:50:32.34 ID:c3FyfIeBo
凄い面白かったおつおつ
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/08/07(火) 13:25:45.42 ID:XqRsndXr0
こんなことなったら絶対千夜病むよな
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/07(火) 13:52:51.98 ID:MZKy2cyLO
シャロを尊敬してるチノ病むだろうな
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