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ギャルゲーMasque:Rade 文香√
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63 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/06/01(金) 12:57:06.10 ID:EKZSslWzO
P「…………えっ」
ようやく姿を現してくれた自宅の前に。
文香姉さんの姿があった。
文香「…………おかえりなさい」
P「……何してんの、寝てろよ」
文香「傘も持たずに…………まったく、風邪引きますよ」
P「姉さんもだろ……いやもう風邪引いてんのか」
肩には既に雪が積もっていて。
ほんと数秒前に出て来たという様子では無さそうで。
文香「……何処に……見れば、分かりますが」
P「薬局だよ。見ろよこの大量の戦利品、向こう数年は風邪には困らないぞ」
文香「風邪を引いた時点で困ると言うのに…………バカですね、貴方は」
P「風邪引いてんのに悪化させようとしてるバカには言われたく無い」
文香「…………バカは貴方の方です……!どうして、美穂さんの方へ行ってあげなかったのですか……?!」
P「だったらなんでこんな場所で待ってんだよ!!」
文香「待ってなんていません……!誰が貴方の事なんて……!!」
あぁもう……ほら、そうやってムキになる。
文香姉さんも、俺も。
P「…………姉さん、昨日の問い掛けがナシで良いなら……代わりに俺から聞かせて欲しい。本当に、俺に行って欲しかったのか?」
文香「…………決まっています」
P「こんな場所で待ってる時点で姉さんが落ち着けてない事くらい分かってっから。勢いで良い、酷い事言ったって良い。でも……想いだけは、素直に教えてくれ」
文香「言う必要がありますか……?」
言って欲しかった。
分かっていた。
素直になれなかった時、勢いで言ってしまった時。
その後一人になって、どれ程の自己嫌悪が襲い掛かるか。
64 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/06/01(金) 12:57:35.33 ID:EKZSslWzO
だから……だけど。
素直な想いを、文香姉さんの口から言って欲しかった。
P「文香姉さんが言わないなら、俺から先に答えさせて貰うよ」
文香「……っ!結構です、と……そう伝えた筈です……!」
P「俺が文香姉さんをどう思ってるのかだろ?迷惑だよ!」
言ってやる。
全部、この数ヶ月で思ってきた事全部。
ようやく気付いた、言えるようになった事の全て。
文香「やめて下さい……!聞きたくありません!!」
P「割と今も現在進行形で迷惑だよ!寒いし!早く家入りたいし!朝食も最初は当番制だったのに気付いたらずっと俺が作ってるし!エロ本買ってきた時何買ってきたのか聞かれてちょっと気不味くなるし!!」
文香「……だったら……!」
P「それでも!それ以上に!一緒に居たいから!!」
文香「っ!それは……」
P「喜んで欲しいから食事作ったし!こんな雪の中アホらしいけど俺は本音ぶつけてるし!一緒に居たい、居てあげたいって思ったから帰って来たんだよ!だって俺は……姉さんの事大好きだから!」
文香「……え、え……っ?あ、ぅ……その……」
P「顔赤いじゃん!絶対熱まだあんじゃん!体調悪いんじゃん!部屋で寝てろよ!外で待っててくれてちょっと嬉しかったんだぞ!!」
文香「……バカですね……貴方は…………本当に、どこまで愚かになれは気が済むんですか……」
P「俺もずっと、自分のせいで誰かに迷惑掛けるのが嫌だった……責任を負うのが怖かった」
文香「だったら……何故……」
P「頑張るから。迷惑掛けても、それ以上に……側に居たいって思って貰える様に頑張るから。だからさ、文香姉さんも……俺と同じ様な事考えてた文香姉さんも……そう言ってくれたら嬉しいな、って」
文香「…………残念ながら、P君……私は貴方が思っている程、強い人間でも出来た人間でも無いんです……」
P「でも、優しい人だって事くらいは分かってる」
文香「……期待が重いです」
P「重い荷物を持つのは得意だろ?」
文香「今は……本調子じゃありませんから……」
P「……だったら、家入るぞ。これ以上文香姉さんが調子出なくなったら、俺も辛いから」
65 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/06/01(金) 12:58:03.16 ID:EKZSslWzO
そう言って、文香姉さんを連れて家に入ろうとして。
その俺の背中が、ぐっと引き留められた。
文香「…………貴方が居ない時間の方が、身体に障ります」
P「……ごめん。雪と風強くて、帰ってくるの遅くなって」
文香「……貴方なら、帰って来てくれると信じてました……」
P「だったら部屋で寝てろよ。ってか本当に美穂の方行ってたらどうしてたんだ」
文香「……待ってました」
ちょっと、重い。
文香「……きっと貴方にはバレていたでしょう……部屋に一人きりになって、私がどれ程の後悔をしたか」
P「すぐ謝りたくなる。昨日の俺がそうだった」
文香「すぐ、貴方の部屋に向かいましたが……貴方は既に、居ませんでした」
P「不安だったか?」
文香「…………はい……とても。それこそ……泣きそうになるくらい……っ」
背中を握る手から、震えが伝わって来た。
寒いから、仕方ない。
こんなに寒い雪の日に、何故俺たちは玄関前で突っ立ってるんだろう。
……なんで俺は、この場で答えを聞こうとしてるんだろう。
66 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/06/01(金) 12:58:35.98 ID:EKZSslWzO
文香「……先ほどの貴方の問いに、答えてあげます」
そう言って、文香姉さんは。
背後から、俺の身体を抱き締めてきた。
文香「……行って欲しくありませんでした……貴方に、側に居て欲しかった……!離れたくなかった……手を握って欲しかった……こうして後悔を重ねる私を、許して……抱き締めて欲しかったんです……!」
……良かった。
お互いに分かってたんだ。
そしてお互い、変われたんだ。
P「……今は?」
文香「……抱き締めて下さい」
P「……あぁ」
振り返って、文香姉さんの背に腕を回し。
震える身体を、強く抱き締めた。
文香「…………貴方は……その……私に、側に居て欲しいと……思ってくれていますか……?」
胸元に顔を埋め、上目遣いで問いかけてくる文香姉さん。
P「あぁ、もちろん。ずっと側に居たい」
……ん、なんだか俺。
今とんでもない事口走った気がする。
落ち着け、今俺なんて言った?
67 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/06/01(金) 12:59:19.31 ID:EKZSslWzO
文香「……ふふ……風邪薬、二人分はありますよね……?」
P「えっ?あ、あるけど?」
文香「でしたら…………」
脳の整理が追いつかない俺を差し置いて。
文香姉さんは、背伸びをして。
俺の唇へと、自分の唇を重ねて来た。
文香「んっ……」
そうだそうだ、ずっと側に居たいって言ったんだ。
んでもって成る程ね、俺に風邪がうつっても風邪薬余分にあるから大丈夫って事か。
……文香姉さんの唇、柔らかいな。
文香「……ふぅ…………ふふ。キス、してしまいました……」
頬を赤く染めているのは、多分風邪の熱のせいじゃない。
照れた様に目を逸らすのは、多分熱のせいで意識が朦朧としてるからじゃない。
そして、さっきまであんなに静かだったのに。
今、こんなに自分の心臓からバクバクとうるさい音が聞こえてくるのは。
雪が弱くなったせいでも、ない。
文香「……迷惑でしたか……?」
P「……い、いや……」
文香「……もっと、側に居たくなりましたか……?」
P「うぇ?う、うん……」
文香「ふふ、顔が真っ赤です……もう風邪がうつってしまいましたか?」
P「いや、こんなに早くはうつらないんじゃないかな」
文香「……さ、家に入りましょう。わざわざ雪の日に外でこの様な事をするなんて、バカとしか…………ふふっ、バカップルというのも、案外悪くは無いかもしれませんね」
めっちゃニコニコしてる。
文香姉さんめちゃくちゃニッコニコしてる。
さっきまでの悲しそうな表情は、とっくに溶けていて。
……雪の魔法ってあるんだなーと、そんな呑気に考えてしまうくらいには。
俺の脳は、雪による冷却速度を上回りオーバーヒートしていた。
68 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/06/01(金) 14:31:34.70 ID:k3LWDvrAO
こんな青春をおくりたい
69 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/06/02(土) 17:17:40.62 ID:MhFa6slW0
P「……なぁ、姉さん」
文香「……?如何致しましたか……?」
キョトンとした表情で首を傾げる文香姉さん。
あら可愛い、なんて小悪魔。
文香「……可愛いだなんて…………」
P「言ってないよ。思ったけどさ」
文香「……言って、下さらないのですか……?」
P「……可愛いよ」
文香「……ふふ……私は今、現在進行形で大変満足中です」
こてん、と。
ベッドに寝っ転がった。
なんでさ。
いや、風邪引いてるんだから正しい選択ではあるんだけど。
P「なんで俺の部屋なの?」
文香「……共有財産ではないでしょうか?」
P「そっかー……」
俺の部屋は文香姉さんにとって財産なのか。
まぁ家の一部ではあるから資産的な視点から見ればそうなのかもしれないけど。
P「あー、えっとさ……姉さん」
大好き、とか。ずっと側に居たい、とか。
その辺の言葉の意味をさっきは勘違いされていた気がする。
いや、まぁ……それはそれで吝かでは無いというか、結果としてはオッケーと言うか……
文香「大丈夫です。それくらい分かっています」
P「……そっか」
文香「……もう一度キスがしたい、ですよね……?もう……私から言わせるなんて……」
P「…………」
頬を赤らめるな、やばいって、マジでやばいって。
めちゃくちゃ可愛いんだけど。
まだ冬なのに、部屋に花が咲いた様だ。
文香「……大人なキスは、その……私の風邪が治ってからで……」
ついでに頭はお花畑みたいだ。
70 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/06/02(土) 17:18:12.51 ID:MhFa6slW0
文香「ごほん……失礼、欲望が漏れ出てしまっていました」
P「欲望て……」
文香「分からないと思っているんですか?貴方の先程の言葉も、以前言って下さった……綺麗だ、整っている、サラサラしてるといった言葉も…………全て、私の勘違いだという事くらい」
P「…………いや、それは……」
文香「……貴方に、そんなつもりは無かった事くらい理解しています……」
P「…………ごめん」
文香「いえ、何の問題もありません…………これから、きちんと……P君に、そう思わせてみせますから」
高らかに宣言しているところ申し訳ないけど。
もう既に、それは勘違いじゃない。
P「……いや、好きだよ?」
文香「……家族として、ですよね……?」
P「異性としてだけど」
文香「…………え、ぁ……ええと、その……不意打ちは禁止です……」
P「雰囲気のせいもあったのかもしれないけどさ……姉さんに抱き締められて、キスされて…………すっごくドキドキした」
文香「……うぅ……改めて言われると……恥ずかしいですね。先程の私は、なんてはしたない事を……」
P「これが…………不整脈か、ってなった」
文香「病院に行って下さい。あ、精神科の方で」
P「冗談だって。でもなんて言うんだろ?恋?」
文香「恋の病、恋煩い、両思い熱、呼び方は様々かと思いますが…………貴方は、どれがいいですか?」
P「なんか知らないのあったけど全部。フルコースで」
文香「ふふ、幸せ太りしてしまいますよ」
P「あ、なんか欲しいものとかある?色々買ってきたけど」
文香「……そうですね、まずは…………貴方にもう一度、私の事が大好きだ、と……本当の意味で言って頂きたいです」
じっと、俺の目を見つめてくる。
恥ずかしさに耐えられず、俺はそっぽを向いた。
いや、だってさ。
さっきのは勢いでってのもあったし、改めて言うとなると……
71 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/06/02(土) 17:18:43.33 ID:MhFa6slW0
目だけ動かして文香姉さんの方を見る。
文香「…………」
めっちゃ不安そうだった。
綺麗な目がうるうるしてる。
イメージとしては捨てられた子犬だ。
P「…………好きだよ」
まるで、本当に魔法に掛かったみたいだ。
突然恋が始まるなんて。
まさにプレイボール、球場には魔物が住むというのも強ち間違いじゃないらしい。
文香「……目を見て、言って下さい」
拗ねた様に呟く。
かわいい。
P「好きだよ、姉さん」
文香「そこは文香でお願いします」
P「……好きだよ、文香」
文香「……文香姉さん、も捨て難いですね……」
P「…………好きだよ、文香姉さん」
文香「……ふみふみ、なんて如何でしょう?」
P「多くない?注文多くない?オーダーは一回で十分だよちゃんと厨房まで伝わってるから」
文香「貴方の想いが私にちゃんと伝わるまで、何度でも言って頂きます」
P「大好きだよ、文香姉さん」
文香「…………ズルイです。大好きだなんて言葉、注文していないのに……」
P「取り下げようか?」
文香「今のメニューを作ったシェフを呼んで下さい」
P「俺だけど……」
文香「……手持ちでは足りないので、一生を掛けてお支払いさせて下さい……っ!」
…………可愛い、んだけど。
なんかめっちゃ照れてるし可愛いけど。
……ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ。
重いかな?ちょっと重力仕事し過ぎかな?とは思ってしまった。
72 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/06/02(土) 17:19:45.46 ID:MhFa6slW0
P「ってかさ、文香姉さんって俺の事好きなの?」
文香「ご馳走さまでした。二度と来ません、お支払いもしません」
P「待って待って待って!まだ出て行かないでネットに評価星1とか付けないで!!」
文香「まったく…………逆に私は貴方に、逆に問いたい。逆に、私が逆に貴方に恋していなかったとお思いですか?」
めっちゃ逆過ぎて正しい方向がどっちなのか分かんなくなってきた。
P「うん」
文香「以上で面会は終わりです。残るは裁判のみとなりますがよろしいでしょうか?」
P「ちなみに判決は」
文香「終身刑です」
P「許されなかった……」
文香「一生、私の虜として生きて下さい」
さっきから思ってたけど。
ちょいちょい思ってたけど。
文香姉さん、重くない?
文香「……自分が重いのは重々承知です。だって…………貴方の事が、ずっと……」
……大好きだったんですから、と。
そう呟く文香姉さん。
文香「……約一年前。私はこの店……鷺沢古書店に、下宿先として越して来ました……貴方は、覚えていますか……?」
P「懐かしいっちゃ懐かしいなぁ」
今ではもう、家に馴染み過ぎて。
文香姉さんの居ない生活なんて想像出来ないくらいだ。
73 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/06/02(土) 17:20:30.07 ID:MhFa6slW0
文香「当時私には、友人と呼べる友人はおらず……歳の近い男性と話す機会なんて尚更無かったのです……」
文香「食事はただ栄養をとれれば良く、本を読んで新しい知識に手を伸ばし、新しい世界に赴ければ……それで、満足な生活を送っていました」
文香「……今思えば、無愛想な従姉妹だったと思います。どう接すれば良いのか分からなかったというのもありますが……自分から積極的には接しようとはしませんでしたから」
文香「けれど、困った事に貴方もまた……友達が少なく、家に居る時間も多くて……」
P「そこ言う必要あった?」
でも、なんて言うか。
思い出に浸る文香姉さんの表情は。
やっぱりどこか、幸せそうで。
文香「……ふふっ、そのおかげで……貴方と接する機会は嫌でも増え、少しずつ距離も縮まりましたから」
嫌でも、って……
文香「本について時折話し合い、会話は無くとも二人きりで本を読む……そんな空間が、堪らなく心地良かったのです」
文香「……正直、最初の数日は本当に貴方には友達がいないものだと思っていました」
文香「……そうであれば、きっと私達は二人きりで……きっと私は、この様な明るさは手に入らなかったと思います」
文香「ある日、貴方を訪ねてとある女の子が鷺沢古書店に現れたんです」
P「それは……李衣菜か?」
文香「はい……そして、李衣菜さんと話している時の貴方は……本当に、楽しそうで……私の胸に、不思議な気持ちが湧き上がりました。言葉にし辛い、形状し難い思いです」
文香「一番近い感情に当てはめるなら……きっと、嫉妬だと思います。それも……双方に対して」
文香「私と話している時とはまた違った笑顔を向けられた李衣菜さんも、とても明るく優しい友人を持った貴方も……羨ましい、と。そう、思いました」
文香「私と同じだと思っていた貴方は……私には無い、素敵なものを持っていたんです。私には、そういった存在はいなくて……それが悔しかった私は……直接尋ねてみました」
……あぁ、覚えてる。
俺からしたら、とても不思議な問い掛けをされたと思っていたが……
文香「そしたら……ふふ。貴方は……『俺にとっては李衣菜も姉さんも、どっちも大切な人だぞ?』と……『寧ろ姉さんにとっては俺ってまだ、知ってる親戚以上交友のある親戚未満だった?』なんて言って……」
文香「ワザワザ悩むのが阿呆らしくなったのを覚えています……あの時からです……私の時間が、動き始めたのは」
文香「私も、貴方にとっての李衣菜さんの様な友人を望む様になり……また、貴方にとってより近しい存在になりたいと思う様になったのです」
文香「……世界が、色付き始めました。ただ変わらず過ごしていただけの毎日が、何が起こるか分からず、求める物の為に変わろうと努力する……そんな、物語の様な日々に変わったんです」
文香「……それから……貴方の作ってくれる料理が、とても美味しく感じる様になりました。私の事を、大切な人だと言ってくれて……そんな私の為に、朝早く起きて作ってくれて……」
文香「……そんな姿を見る為に、私も早起きし始めたのを覚えています。本を読むフリをして、朝食を作る貴方に視線を向けて……きっと傍から見れば……」
恋愛小説の1ページの様だったかもしれません。
そう呟く、文香姉さんは。
とても幸せそうで、嬉しそうで、懐かしそうで。
74 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/06/02(土) 17:21:27.36 ID:MhFa6slW0
文香「……本当は、諦めるつもりだったんです。この冬で、その想いを」
P「……そうだったんだな」
文香「きっと、二人きりで過ごせる最後の聖夜。その時に私は……貴方と、私だけの思い出を作り……心の奥底に、全てを隠すつもりでした」
文香「貴方にとって、良き姉として振る舞い続ける為には…………そんな気持ちは、邪魔でしか、余計でしかありませんでしたから」
文香「ですが……どうやら、諦める必要は無くなってしまった様ですね。とても……幸せな誤算です」
文香「……恋と言うのは、本当に……計算通りには、目論見通りには行かない様です」
文香「……誰よりも近くで、貴方を見てきました。想いを募らせてきました。恋に焦がれてきました。ずっと……積み重ねてきたんです」
文香「積み重なった想いが重いのは、当然ではないでしょうか……?」
P「……ありがと、姉さん」
文香「……これを機に、呼び方を変えてみたりしませんか?」
確かに、そうだな。
これからの関係を考えると、姉さんという呼び方は些か不適切かもしれない。
P「……文香」
文香「……熱が上がりました。責任を取って下さい」
顔を真っ赤にして、布団に潜り込んでしまった。
P「ゼリー食べる?」
文香「貴方の手料理が食べたいです」
P「体調治ったらな」
文香「……作ってくれないと、治りません」
P「……治りません、って……」
文香「……今、内心めんどくさいと思っていませんか?」
P「えっ?ぜんぜん?思ってないぞよ?」
文香「……はぁ、貴方に嫌がられるのは……本当に不安なんですよ?」
P「あ……ごめん、姉さん」
75 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/06/02(土) 17:21:54.54 ID:MhFa6slW0
文香「文香、と……呼んで下さらないのですか?」
P「……文香」
文香「……愛してる、も添えて下さい」
P「…………」
文香「…………言っては、下さらないのですね……私は今、不安に震えています……」
P「……愛してる」
文香「抱き締めて下さらないと、この不安は収まりません」
P「……」
文香「……良いんですか?私の不安が収まらないと……」
P「……収まらないと?」
文香「……私が、とっても寂しくなります……」
堪らず抱き締めた。
なんだこの人、めっちゃ可愛いな。
日頃から綺麗だとは思ってたけど、今は可愛いが前面に押し出されている。
あと、うん。
重い。
文香「……ふぅ、栄養補給完了です」
P「おう、そろそろ離してくれ」
文香「……今、私はコアラですから」
だからなんなんだろう。
面白いくらいなにも説明されていない。
文香「ユーカリの栄養価はとても低く、動き過ぎると摂取した以上のエネルギーを消費して死んでしまうんです」
P「はえー、だから離してくれないんだ」
文香「それに……ご存知無いのですか……?コアラは、寂しいと不安になってしまうんですよ?」
だから……
だから、なんなんだろう……
分からない。
文香姉さんがコアラではない事しかわからない。
文香「もっと強く……ぎゅ、って……して下さい」
P「おう!」
より強く抱き締めた。
違う、ぎゅっとした。
文香「……重い、ですか……?」
P「うん」
文香「……あ……あぅ……」
P「ごめんごめんごめんごめん」
泣くな、情緒不安定か。
まぁ、そんな感じで。
昼食を作ったのは、夕方過ぎになった。
76 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/06/02(土) 17:23:02.53 ID:MhFa6slW0
P「じゃ、行ってきます」
十二月十七日、土曜日。
ようやく雪も止み、久々に空が青くなったこの日。
文香「……行ってらっしゃい、P君」
P「……なぁ、姉さん」
文香「……文香です」
P「…………」
いや、まぁ元気になってくれて本当に良かった。
一応大事をとって今日は家で休んでて貰うけど。
朝ご飯もちゃんと食べられたし、お昼ご飯も作ってある。
さーて、そろそろ美穂に会いに行かないと。
……と思って、家から出ようとしてたお昼前の事。
文香「……行かないのですか?」
P「行くよ?いこうとしてるよ?現在進行形で出掛けようとしてるなうだよ?」
文香「……早く、行ってあげて下さい。美穂さんをお待たせしてしまっては、申し訳ありませんから」
P「言ってる事とやってる事がちぐはぐだと思わない?」
文香「…………むー……」
背中にへばりついた文香姉さんが、なかなか剥がれてくれなかった。
いやまぁ分かるよ、まだ体調悪いんだよな。
そんな時に家で一人って寂しいもんな。
言ってる事とやってる事が異なっててもまぁ仕方ないよな。
……そうか?
P「そろそろ離してくれると嬉し」
文香「嫌です……」
人の話は最後まで聞きましょう。
貴女がその様な立派な人間となってくれる日が来る事を願い、俺はちょっとだけ強引に引き剥がさせて頂きます。
P「……いたたたっ姉さん力強い強い!」
文香「コアラのパワー、侮って貰っては困ります」
思ったより強い力で抱き締められた。
勝てない、強い。
困ってるのは俺の方なんだけど。
77 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/06/02(土) 17:23:49.64 ID:MhFa6slW0
文香「…………ふぅ、あと八万六千四百秒……」
P「一日経ってる!」
ブーン
美穂から連絡が届いた。
『まだですか?もう八万六千四百秒も待ってるんですけど』
さっき聞いた数字だ。
あごめん、そうだよな昨日から待ってたんだもんな。
『すまん、今向かってるとこだから』
正確には向かおうとしてるとこ、だけど。
文香「……流石に、この辺りにしておきましょう……私も聞き分けの悪い子供ではありませんから……」
P「あーうん、そっか、うん」
ほんの数秒前の自分と向き合って見て欲しい。
文香「ですが、私は家で一人となってしまい大変不安です……」
いつも一人で本を読んでた人が何を言ってるんだろう。
文香「危険ですね……もしかしたら、己を制御出来ずP君の部屋やこの世界を荒らしまわってしまうかもしれません」
危険過ぎる。
俺の部屋はまだ良い、いや良くないけど。
不安で世界を滅ぼすな。
文香「ですから……」
すっ、っと。
俺の方へ、手を伸ばされた。
……手、握って欲しいのかな。
可愛いなぁ、文香姉さん。
綺麗な声で、素敵な笑顔で。
まるで、キスをねだる様に。
78 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/06/02(土) 17:24:16.46 ID:MhFa6slW0
文香「……貴方のスマホ、私に下さい」
スマホを没収された。
気付けば俺の手からスマホが抜き取られていた。
……もしかして、俺は。
やべぇのと付き合い始めてしまったんじゃないだろうか。
P「……勝手に弄らないでくれよ」
まぁパスワード設定してあるから大丈夫だとは思うけどさ。
P「じゃ、行ってくるから」
文香「路面が凍っていますから、気を付けて下さいね?」
P「おう、もちろん」
転ぶのは慣れてるし。
文香「それと…………帰って来てくれたら……」
頬を染めて、目を逸らす文香姉さん。
P「……いや帰ってくるけど」
文香「……その……エッチなプレゼントを……差し上げますから」
P「必ず帰ってくるから!!」
元気よく家を飛び出した。
さ!帰るぞ!!
79 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/06/02(土) 17:25:20.77 ID:MhFa6slW0
寮の前まで走ると、美穂が一人で立って居た。
P「ごめん美穂、待ったか?今来たとこ」
美穂「うん、分かってます。Pくんこそ、わたしが何秒待ったか分かってるんですか?」
P「たくさん」
美穂「頭が難病ですね……」
こんな寒いのに、待たせてしまって申し訳ない。
今日も、昨日も。
P「いやー、その……ほんとにごめん。昨日は来れなくて」
美穂「あ、電話でも言ったけど……別に、そんなに気にしてませんから」
P「ありがと。で、今日はどっか行きたいとこがあるんだっけ?」
美穂「はいっ!えっと、プラネタリウムに行ってみたくて……」
P「おっけ。んじゃ向かうか……何処にあるんだ?」
美穂「隣の街なので、バスの利用を企ててます」
P「んじゃ一応時刻表だけチェック……出来ねぇんだ今」
美穂「……え……?スマホ忘れちゃったんですか?」
P「あーうん、家に置いて来ちゃってさ」
美穂「……そっか……そうですか」
ざく、ざく
積もった雪に二人分の足跡を作る。
靴が濡れるって分かってるのに、ついつい深い部分に足を突っ込みたくなるのは何故だろう。
俺がガキだからだわ。
美穂「うぅ……寒い……」
P「なんか身体があったまりそうなゲームでもするか?」
美穂「どんなゲームですか?」
P「……身体があったまりそうなゲーム?」
美穂「もうちょっと考えてから喋りませんか?」
P「……体温の上昇を図る為の遊戯?」
美穂「そうじゃなくて……」
P「あ、断熱して身体を圧縮すれば熱くなるんじゃないか?」
美穂「普通に運動する方が現実的じゃないですか?」
P「走るか!」
美穂「もう、転びますよっ!……えへへ……」
P「ん?どうした?」
美穂「Pくん、バカだなーって」
突然の暴言。
80 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/06/02(土) 17:25:53.95 ID:MhFa6slW0
美穂「難しい事考えないで、こうやってPくんと背骨で会話する時間が……わたし、とっても好きなんです」
でも、笑ってくれた。
美穂「これからも……変わらず、わたしと友達でいてくれますよね?」
P「あぁ、もちろん。こんなバカで良ければ」
そう言ってくれて、嬉しかった。
バスに乗って、隣の街まで向かう。
車中は暖かく、少し眠くなってしまった。
プラネタリウム施設に到着。
事前知識なんて一切無いけど。
P「さて、んじゃー入るか!」
美穂「はいっ!」
まぁ、楽しめるだろう。
楽しんで貰えるだろう。
一緒に美穂が居るんだから。
81 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/06/02(土) 17:27:05.42 ID:MhFa6slW0
「オリオン座のベテルギウス、おおいぬ座のシリウス、こいぬ座のプロキオン。この三つの星が織り成すのが『冬の大三角形』です」
暗いプラネタリウム内部の天球の各所が輝き、星が現れる。
流れる解説、心地良い座席、暖かい空気。
その全てが……
P「……ふぁ……」
物凄い眠気を誘っていた。
プラネタリウムを舐めていた。
小学生の頃に来たっきりだったが、こんなにも眠いものだとは思わなかった。
まぁここ数日は全然寝れてなかったし。
あと……
美穂「……寝てません……寝てないもん……ふぁぁ……」
隣で寝てる人がいると眠気が誘発される。
ほんの数分前までは起きてたのに。
並んで座って、照明が消えて、座席を倒して上を見て。
美穂は楽しんでんのかななんて美穂の方を見れば、寝てた。
P「美穂ー……おーい、美穂ー……」
小声で声を掛けるも、起きる様子は無い。
なんて幸せそうな寝顔なんだろう、なんだか起こすのが申し訳無くなってくる。
美穂「えへへ……Pくん……北極星は押しても動かないよぉ……」
美穂、北極星は押さなくたって動かないぞ。
「こぐま座の『ポラリス』、通称『北極星』は北の空から動かない事で有名ですが、実はおよそ二万六千年という長い周期で、コマが回転するときのように微妙にブレています」
動くらしい。俺が二万六千年も頑張ったんだろうか。
まぁ八万六千四百秒よりは短……くねぇわ何言ってんだ俺。
にしても、北極星ってこぐま座だったのか。
こういう多分日常では使わないであろう雑学を知るのも、結構好きだ。
文香姉さん程じゃ無いけど、俺だってそういう知識欲みたいなものはある。
美穂「別の女の事を考えないで下さい」
P「?!」
美穂の方を見た。
寝てた、寝言だった。
一体どんな夢を見てるんだろう。
でも……なんだろう。
こんな風に、男子の隣だってのに油断しきって眠りこけて。
信頼、されてるんだろうか。
居心地が良いと思ってくれてるんだろうか。
だとしたら、嬉しい事だ。
あぁ、ダメだ。
俺もとんでもなく眠い。
ほんの少し、美穂が起きるよりも早くに起きればバレないだろ。
目を閉じて、天球に描かれた北の空を見上げる。
それは少しずつ狭くなり、音は少しずつ小さくなり。
「シリウス、プロキオン、ポルックス、カペラ、アルデバラン、リゲル。1等星のみに限定しても、これだけ集まりーー」
いつのまにか、何も見えず、何も聞こえなくなっていた。
82 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/06/02(土) 17:27:33.18 ID:MhFa6slW0
美穂「……ふぁぁ…………あれ……?」
目を開けたら、そこは雪国……じゃないですけど、冬の空が広がっていました。
お外で寝ちゃってた?でも、なんだか寝心地が良かったけど……
美穂「……あっ」
そうでした。
わたしはPくんと、プラネタリウムに来てたんです。
寝顔、見られちゃったかな……
恥ずかしくなって視線だけ隣に移すと、寝落ちしたPくんが居ました。
美穂「……もうっ」
女の子とのデートで寝ちゃうなんて……
わたしが言えた事じゃないですよね。
Pくん、きっととっても疲れてたんだろうな。
美穂「…………」
ちょっとだけ、魔が差しちゃったと言いますか。
寝てるPくんの手が、肘掛に乗ってて。
落ちそうだから、元に戻してあげるだけだもん。
そうやって、自分に言い訳して。
美穂「……し、失礼しまーす……」
ぎゅ、って。
握っちゃいました。
指が絡まっちゃいましたけど、手が滑っちゃったから仕方ありません。
83 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/06/02(土) 17:28:33.19 ID:MhFa6slW0
……おっきくて、あったかいです。
この手を、君から伸ばしてくれたら良かったのに。
この手で、わたしを撫でてくれたら良かったのに。
この手で、わたしを抱き締めてくれたら……
ううん、言い訳ばっかりしてたから。
クリスマス、それでも二人きりでって誘えば。
昨日、ワガママでも来て欲しいって言ってたら。
チャンスだけなら、沢山あったのに。
きちんと、素直に、真っ直ぐ届ける勇気が出せなかったから。
気付いて欲しくて……でも、気付かれたくなくって。
今の関係が壊れちゃったらどうしよう、友達でいられなくなっちゃったらどうしよう、って。
不安で、言いたくて、言えなくて……そしたら、伝える機会なんてなくなっちゃいました。
Pくんが来る直前に、Pくんのスマホから送られてきた『ごめんなさい』ってライン。
ぜーんぶ、理解しちゃいました。
文香さん、ですよね。
もう、謝らなくたって良いのに……謝らないでくれたら良かったのに……
美穂「……ねえ、Pくん。起きてますか?」
プラネタリウム内ですから、わたしは小声で呼び掛けました。
……ううん、本当は起きて欲しくないから。
眠ったまま、気付かないままでいて欲しいから。
美穂「……わたしは……わたしはね?君の事が……」
今は涙で滲んで、全然なんにも見えないけど。
それでも、やっぱり。
Pくんと、横じゃなくても良いから。
これからも同じ風景を、一緒に見ていたかったから。
手をぎゅっと握って、空を見上げます。
今だって、隣に居るPくんは見てないけど。
こんなに近くに居るのに、わたしと同じ気持ちにはなってくれないけど。
美穂「……大好きでした。君の事が……大好きだったんだよ……?」
小さな声で、それでもちゃんと言葉にして。
溢れた想いは、零れた涙は。
きっと今だけは、星に届いて。
美穂「……わぁ……」
涙が零れ落ちて開けた視界に、綺麗な宝石がありました。
シリウス、プロキオン、ポルックス、カペラ、アルデバラン、リゲル。
一等星だけで描かれた六角形、通称冬のダイヤモンド。
それは、機械によって映されたものですけど。
まるで、この一瞬だけ魔法が掛かったみたいで。
……今が、まだ夏だったら。
頭上に輝くのが、ベガとアルタイルだったなら。
君の空に、まだ誰も輝いていない頃だったなら。
その時、魔法を掛けられたなら。
その魔法は、永遠だったかもしれないのに……
84 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/06/02(土) 17:29:21.91 ID:MhFa6slW0
P「……うぉー……」
起きた。
目を開けた。
明るかった。
P「……終わってんじゃん……」
どうやら、ほんの少し眠るつもりがプラネタリウムが終わる時間まで爆睡してしまってたらしい。
大きく伸びをしようとして。
P「ん……?」
美穂に、手を握られている事に気付いた。
美穂「……ふぁぁ……あ……おはようございます、Pくん……」
P「おはよう美穂」
美穂も起きた。
可愛らしい欠伸をして、涙を流しながら伸びをする。
目、真っ赤だな。
どんだけぐっすり寝てたんだ。
美穂「……あっ!」
P「どうした?」
美穂「…………あーPくん。わ、わたしが寝てる間に手を握ってたんですねー。まったくもうっ!」
もの凄い棒読みだった。
俺から握ったんだろうか。
そうかもしれない、寝てたから意識が無いけど。
P「悪い悪い、すぐ離すから」
美穂「気を付けて下さいね。今後この様なことがまた起きた場合……」
P「場合……?」
美穂「……お、怒りますっ!」
怒られたくない。
急いで手を離す。
美穂「……これで、良いんです……」
なんだか分からないが、まぁ納得してくれた様だ。
取り敢えず、さっさとプラネタリウムから出る。
時刻は十六時手前。
なんとも微妙な時間である。
P「この後はどっか行くか?」
美穂「あ、だったら……近くに自然公園があるらしいんです。一緒にお散歩してみませんか?」
P「おっけ」
85 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/06/02(土) 17:30:29.42 ID:MhFa6slW0
建物から出て少し歩くと、大きな自然公園が現れた。
入り口に設置された地図を見る。
広い。
道の両脇の木々は殆ど枯れている。
春が来れば、きっと緑豊かな場所になるんだろう。
P「にしても寒いな……」
美穂「ですね……うぅ、手袋着けてくれば良かったです」
プラネタリウム内があったかかっただけに、外の寒さが身に染みる。
もうちょっとゆっくり座ってても良かったかもしれない。
美穂「あ、Pくん。その……わたしの寝顔、見ましたか?」
P「見てないよ」
見たけど。
美穂「……本当ですか?」
P「もちろん、プラネタリウム入って直ぐ寝ちゃってたから」
美穂「それはそれで……」
P「嘘だけどさ。ごめん、見た」
美穂「わ、忘れて下さいっ!」
P「おっけー、今忘れたから安心してくれ」
美穂「なんでそんな簡単に忘れられちゃうんですかっ?!」
P「じゃあ忘れない」
美穂「……忘れてよっ!」
P「……おう」
どうすれば良いんだ……
にしても、何やら美穂は少しご機嫌ナナメみたいだ。
それからしばらく、会話は無く。
どことなく居心地の悪いまま、雪を踏む音だけが響き続けた。
P「……そろそろ帰るか」
美穂「…………はい」
公園内の時計を見れば、時刻は既に十八時。
空も道も、もう真っ暗だった。
夜風に震えながらバス停へ向かい、なかなか来ないバスに苛立ち。
寮の前に着くまで、再び会話が一切無い時間が続いた。
86 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/06/02(土) 17:31:11.71 ID:MhFa6slW0
P「……なぁ、美穂」
美穂「…………」
P「昨日は、本当にごめん。改めて……誕生日、おめでとう」
美穂「……ありがとうございます」
P「プレゼント、用意してみたんだけど……受け取ってくれるか?」
美穂「……ものによります」
果たして、俺の用意したプレゼントは美穂のお眼鏡に適うのか。
不安になりながらも、鞄から袋を取り出した。
それを美穂に渡す。
……なかなか開けて貰えなかった。
P「……開けて頂けると有難いです」
美穂「…………開けるまで、待っててくれますか……?」
P「もちろん」
美穂「だったら…………開けたくないです……」
P「……えっ?」
びゅうっ、っと。
冷たい夜風が通り過ぎた。
だから、仕方がない。
こうやって、美穂が俺の方へと身体を預けてきたのは。
それはきっと、冬の風のせいだ。
美穂「…………待ってて欲しかったな……」
P「……美穂?」
一度、俺の胸元で大きく深呼吸をして。
そして、俺から離れて。
美穂「…………ごめんなさい、もう大丈夫ですっ!」
P「大丈夫か?貧血とか……」
美穂「今日は、アタリが強くてごめんなさい。色々忘れられない事があったり、忘れて欲しくない事があったりで……その、気持ちがこんがらがっちゃって……」
P「良いって。俺、昨日祝えなかったからさ……」
美穂「わたしがまだ気にしてると思ってるんですか?Pくんが思ってるより、わたしは大人なレディなんですっ!」
P「それじゃレディ。プレゼントを開けてくれるかい?」
美穂「えへへ、生半可なモノじゃわたしを喜ばせる事は出来ませんよっ?」
P「ちゃんと火を通した方が良かったかな……」
美穂「いえ、半生って訳じゃなくて……」
87 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/06/02(土) 17:32:21.03 ID:MhFa6slW0
笑いながら、美穂は俺のプレゼントを開けてくれた。
紙袋の中からは、俺が悩みに悩んだプレゼント。
美穂「……カチューシャ……」
P「……似合うかな、って思ってさ」
赤いリボンのデザインをしたカチューシャ。
多分、美穂が着けたらすっごく似合って可愛いと思ったから。
美穂「……バカだなぁPくん……うちの学校、リボンとかカチューシャ禁止なんですよ……?」
P「……げ、マジ?」
美穂「……使えないよ……」
P「すまん……まぁ、休みの日とかさ」
美穂「…………使えないじゃん……っ。わたし、どんな気持ちで……」
P「……ごめん」
そんなに、渡されて困るものだったのか。
流石に普通に凹む。
美穂「…………Pくん、着けて貰えますか?」
P「えっ自分に?」
美穂「二度目はありません」
P「うっす」
美穂からカチューシャを受け取り、美穂の髪にセットする。
あぁ、やっぱりだ。
美穂「…………どう、ですか……?」
P「うん、すっごく似合ってる」
美穂「……これからも……わたしに、着けて欲しいですか?」
P「あぁ、よければそうしてくれると嬉しいかな」
美穂「だったら…………使ってあげます」
にこっと笑って、そう言ってくれた。
そう言いながら外された……上手くセット出来て無かったんだろうか。
美穂「あ、来年はちゃんと当日に祝って下さいねっ?」
P「おう、勿論だ!」
そろそろ帰るか。
美穂とお別れして、帰路に着く。
美穂「……Pくんっ!」
P「なんだー!」
振り返ると。
カチューシャを着けた美穂が、手を振っていた。
美穂「……っ!絶対っ!絶対に……っ!君に!後悔させてみせますからっ!!」
カチューシャをプレゼントした事だろうか。
美穂「クリスマス!お幸せにーっ!!」
P「……おう!ありがとな!!」
88 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/06/02(土) 17:32:59.32 ID:MhFa6slW0
P「ただいまー姉さん……あの、はい、文香」
扉を開けたと同時、俺はユーカリになった。
胸元にへばりつくものの正体が何かは考える必要も無い。
文香「……美穂さんには、許して貰えましたか……?」
P「うん、良かったよほんと」
文香「……それでは、スマホをお返し致しますので……」
P「ので……?なんか交換条件?」
文香「貴方が、わたしのスマホになって下さい」
難しいんじゃないかな……
文香「……四六時中、私の側に居て下さい、と……そういう意味です……」
アッ、可愛い。
重いけど、実現は難しそうだけど。
文香「……ところで……寂しい写真フォルダでした……なんとまあ、女っ気の無い……」
P「待て待て待て待て」
安心した様な表情で精神を抉るな。
勝手に画像フォルダを見るな。
そして何より、なんでパスワードばれた。
普段指紋認証使ってるから、目の前で入力した事は無い筈なのに。
文香「……乙女の秘密です」
P「乙女……」
文香「訂正します……恋する乙女の秘密、です」
果たしてその訂正は必要だったのだろうか。
文香「……百万通り如きが、私に勝てると思わないで下さい」
わー素敵な笑顔、六桁全部試したんだろうか。
文香「……さて、P君」
P「ん?どうした?夕飯ならすぐ作るけど」
文香「……プレゼントを、お渡しします」
っうぉぉぉぉぉっ!
っしゃおらあぁっ!
P「ま、まぁ?期待してなかったけど?文香姉さんがくれるっていうなら?」
文香「ふふ……そんなに楽しみにして下さっていたのですね」
89 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/06/02(土) 17:33:54.01 ID:MhFa6slW0
照れながら、文香姉さんが袋を此方へ渡してきた。
これは……
文香「……貴方の、お気に入りの『本』です」
……とても……
嬉しくない……
同居人からエロ本をプレゼントされるってどんな拷問だよ。
文香「毎月十三日に発売ですが……テスト期間で、まだ購入出来ておりませんよね……?」
そうだけど。
そうなんだけど。
そこまで把握されてるって何、プライバシーって何。
俺これから毎月十三日はどんな顔して帰ってくれば良いの?
文香「……ふふ、まさか私がこういった本を購入する日が来るとは思っていませんでした……」
俺もまさか従姉妹兼恋人の文香姉さんからエロ本をプレゼントされる日が来るとは思っていなかった。
文香「……さ、御堪能下さい」
P「え、いやあの……」
今読めと?
文香「……読んで、下さらないのですか……?」
P「いや読むよ?読むけどね?それは今じゃないって言うか……」
文香「……成る程」
P「うん、まぁ……」
文香「……でしたら、私が読み聞かせて差し上げます」
P「は?」
何がどうなってでしたら、になった?
文香「……私の読み聞かせでは、満足出来ませんか?」
P「少なくとも玄関先で読み聞かせて貰う本では無いと思う」
文香「あっ……すみません……私とした事が、少し浮かれてしまって……」
P「なんか良い事でもあった?」
文香「…………貴方が、帰って来てくれましたから……」
照れてるとこ悪いけど。
帰って来るよ?普通に。
取り敢えずリビングへ向かう。
さーて、夕飯を……
90 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/06/02(土) 17:34:42.24 ID:MhFa6slW0
P「ん?このノートは……?」
文香「それは、交換日記です」
P「誰との?」
文香「貴方との、です……」
困った。
俺にそんな記憶は無い。
もしこれで既に俺と何度かやり取りした体で書かれてたんだとしたら、流石に普通に怖い。
文香「……昔から、憧れていたのです……メールやラインでは無く、手書きの文字でのやり取り……付き合って頂けますよね?」
P「おう。そう言う事なら勿論!」
なんだ、やっぱり可愛いとこあるなぁ。
俺もやった事なかったし、憧れなかったと言えば嘘になる。
文香「貴方が帰って来るまで……ずっと、一人で書き連ねておりました」
P「寝て、姉さん寝て病み上がりだから」
逆に病んでそうだ。
主に、メンタルとか心とか精神が。
果たして何が書き連ねてあるんだろう、正直読むのが怖い。
文香「……次は、貴方が書く番です」
P「……おっけー、二冊あるけどどっちのノートに書いたんだ?」
文香「…………?どちらも、ですが……?」
二冊。
文香姉さんの番一回で、ノート二冊分。
交換させる気あるんだろうか。
軽く小説を超えている。
多分文香姉さんが期待してる量は俺には書けないと思う。
P「……まぁ、読むから」
ノートを開いた。
91 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/06/02(土) 17:36:01.80 ID:MhFa6slW0
『きて……ください』
頬を赤らめ目を逸らしながらも、文香は次の行為を求めて自らの乙女を両手で差し出した。そんな羞恥に塗れた表情が、堪らなく愛おしい。俺の興奮と共に昂った男としての象徴は、今にでもはち切れんと膨張仕切っていた。
『いいんだな?』
『はい……はやく……っ!』
期待と赤恥が入り混じった文香の言葉で、俺は心を決めた。
焦りを抑えて、俺は彼女の求めたモノを求めた場所に添える。それだけで彼女の身体はビクンと跳ね、愛が奥から漏れ出す。お互いの吐息は激しく、静かな部屋にこだまする。
そして俺は、ゆっくりと文香にーー
P「姉さん」
文香「……あ、P君。そちらは二冊目の方で……」
P「違う、いや違わないけど。待ってこれ何?」
文香「最初から読んで頂ければ、きちんとストーリーが理解出来るかと……」
P「したくないなぁ!出来ればこれは理解したくないしそもそも知りたくもなかったかなぁ!!」
まぁ自作小説が書いてあるくらいは覚悟してた。
二冊だしまぁ徹夜して読むくらいも覚悟してた。
現実はハードルの遥か上空を飛行機が通過するくらいのぶっ飛びだった。
文香「……ご安心下さい。一冊目までは、全年齢対応ですから」
P「暗に二冊目は自作官能小説ですって言ってる様なもんじゃん……」
文香「それもご安心下さい……いずれ、ノンフィクションになりますから」
P「……………………」
文香姉さん、すっごく照れてるけど。
困った事に、俺は脳の処理が追いついて無い。
92 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/06/02(土) 17:36:28.23 ID:MhFa6slW0
文香「……続き、書いて頂けますよね……?」
P「さ、夕飯作るか」
文香「……あ、あの……」
P「なんかリクエストはある?」
文香「…………うぅ……寂しいです……」
P「はっはっは、離してくれないと夕飯作れないってほらほら俺の背骨折れちゃう痛い痛い」
文香「……貴方が居ない時間が寂し過ぎて、ついつい書き過ぎてしまった事は反省しますから……」
そっちじゃないんだよなー……
文字数くらい別に全然問題じゃ……問題だけど、明らかに交換させる気の無いのは問題だけど。
R18指定入っててしかも明らかに登場人物が俺と文香姉さんってのが問題なんだよなぁ。
文香「……純愛物は、お好みではありませんでしたか……?」
P「なんか、こう……姉さんってもっと純情な感じだと思ってた」
文香「ふふ……文学少女は、純情だと思っていましたか……?」
P「勝手なイメージだけどね。まぁ今全部崩壊したけど」
文香「ちなみにですが……今のセリフは、先程お渡しした『本』の煽り文となっております」
P「そうでござったですか……」
文香「……今は、私の体調が良くありませんから……その間は、そちらを私の代わりとして使用して頂けると助かります」
俺は……今の言葉を聞いて、どんな気持ちでページを捲れば良いんだろう。
文香「……ところで、その……P君……」
P「なんですか?文香姉さん」
文香「……一日、きちんと留守番していた私に……ええと、ご褒美を頂けると…………嬉しい…………です……」
P「何をすれば良いですか?文香姉さん」
どーせ爆弾発言が飛び出るんだろ知ってる。
顔赤らめても今更感。
文香「……貴方の手で……」
何処を弄らせる気だ。
文香「……頭を、撫でて下さい…………ダメでしょうか……?」
P「任せろ!!」
抱き寄せて、頭を撫でた。
サラサラとした髪が心地良い。
突然の純情な感じで上目遣いはズルいと思うんだ。
文香「ふふ……ふぅ…………とても、幸せです……」
P「そっか、なら良かった」
文香「……交換日記の続き……せめて感想だけでも、お願いしますね?」
P「良くなかった」
93 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/06/02(土) 17:37:21.98 ID:MhFa6slW0
文香「そう言えばP君……貴方宛に、郵便物が届いていましたよ?」
P「ん?なんだろ……」
俺に何か送ってくれるような知り合いいたっけ?
机に乗せられた郵便物を見れば、送り主は学校だった。
P「あ、期末の結果か」
封を切って点数を確認。
うん、まぁ悪くは無いんじゃないかな。
大体平均点プラス10〜15点は取れている。
P「……しっ、んじゃミスってたとこ解き直すか」
文香「ふふ。お付き合いしますよ?」
P「まじで?すっげー助かる……ところでさ」
文香「……如何しましたか?」
P「なんでナチュラルに俺の部屋に居たの?」
帰ってきて自分の部屋の扉開けて最初に言うべきだったと思うけどさ。
文香「…………?」
可愛く首を傾げる文香姉さん。
……俺が間違った事を聞いちゃったんじゃないかと不安になる。
P「……ごめん、聞いた俺が馬鹿だったかもしれない」
最近の文香姉さん、なんか俺の背後霊と化してるし。
料理中も背後から抱き着いてくるし。
夜部屋の電気点けたら文香姉さんが俺のベッドで寝っ転がってた時は本気で幽霊かと思ったし。
……まぁ、良いか。
94 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/06/02(土) 17:38:08.69 ID:MhFa6slW0
折り畳みの机を出して、筆記用具等々を広げる。
返却されたテストのまずは数学A、点数は84。
平均点よりは高いが、点数上位者一覧の俺の名前の上には多田李衣菜の文字。
……くそっ、李衣菜に勝てなかった。
ん、美穂も84点で俺と同率なのか。
頑張ったな、美穂。
文香「ふふ……私のサイズですよ、P君」
にっこにこで撫でてくれた。
84点で良かったと思った。
これから全てのテストで84点を取っていきたい所存。
にしても……へー……84なんだ……
……嘘だろ絶対。
その胸で84は嘘つきの胸でしょ。
多分計ったのだいぶ前だろ。
違うそうじゃ無い集中しろ、次こそ李衣菜に勝つ為に。
凡ミス自体は少ないが、それはイコールで単純に解けなかった問題があるって事で。
理解出来て無かった部分はきちっと復習しないと。
P「なぁ姉さん、ここってさ」
文香「……文香、です」
P「……文香、この問題の解き方って」
文香「ふみふみ、です」
P「……なぁふみふみ」
文香「……ふふ……では、一つずつ手解きしてゆきましょう」
95 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/06/02(土) 17:38:38.18 ID:MhFa6slW0
そう言って文香姉さんが俺の膝の上に乗ってきた。
少なくとも勉強を教えようとする体勢では無いと思う。
文香「……何か問題でもありましたか?」
P「問題が見えない」
文香「私だけを見ていて下さい……?」
……可愛いし、いいや。
文香「ええと、そこは……そのままでは解く事が難しいので、部分分数分解をする為に……」
P「どうすればいいんだ?」
文香「……私の背に、腕を回して下さい」
言われた通り文香姉さんの腰に腕を回した。
へー、この手順必要なんだ。
俺は全然数学Aを理解出来て無かったみたいだ。
P「ほい、次は?」
文香「分解した式を括弧で括り、その前に1/2をかけ……」
P「かけて?」
文香「私を、強く引き寄せて下さい」
P「ほいさ、次は?」
文香「最後に、答えを導く為に……
P「ために?」
文香「……私の唇に、P君の唇を重ねて下さい」
P「おっけー」
文香「……んっ……んむっ、ちゅ……んぅ……っちゅぅ……っ」
舌を絡ませ、口内を貪る。
俺は何をしてたんだっけ。
文香「……ぷぁ……さ、P君。如何ですか?」
P「柔らかかった!」
文香「ふふっ……それは何よりです」
でも問題は全く解けてない。
P「にしても姉さ……文香って数学出来たんだな」
文香「数U、Bまででしたら問題なく解説出来るかと。ですが……そうですね、私の得意科目だと有難いです」
P「古典とか?」
文香「保健体育です」
P「……へー!文香って体育得意なんだ!!」
文香「……実技の知識でしたら……」
実技の知識。
ちょっと言葉がスクランブルしてる。
96 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/06/02(土) 17:39:04.19 ID:MhFa6slW0
P「とは言え保健体育は漢字のミスくらいしか無いんだよな」
文香「……予習はバッチリですね」
P「なんか言い方」
文香「……こちらの参考書はお使いになられたのですか?」
取り出されたのは『本』。
ははっ、文香姉さん、俺それ引き出しにしまっといたんだけどなー。
文香「……まだ、未読なのですね……私からのプレゼントなんて……貴方にとっては……」
P「読みました、はい」
文香「如何でしたか?」
P「とても良かったです」
文香「……実践してみたくなりましたか……?」
P「…………体育の時とかの二人一組って悪魔の言葉だと思うんだよ」
文香「ふむ……一人プレイはした、と……」
P「それ以上はやめて頂けると助かります」
文香「……大丈夫ですよ。貴方には、私というペアがいますから」
P「……まぁ、うん」
文香「……あ、失礼しました…………伴侶、ですね……ふふ」
P「…………まぁ、うん……」
可愛いんだけどなぁ。
ステキな笑顔ではあるんだけどなぁ。
言葉がなぁ、重いんだよなぁ。
97 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/06/02(土) 17:39:32.24 ID:MhFa6slW0
文香「さ、P君。お勉強に集中して下さい」
P「うぃっす」
文香「『私が愛しているのは世界で鷺沢文香ただ一人です』を英訳して下さい」
P「……アイドントスピークイングリッシュ」
文香「和訳でも結構です」
果たしてそれは英語の勉強なのだろうか。
文香「……貴方の口から……貴方の言葉で、聞きたいです……」
P「…………」
文香「…………」
P「…………いや、あの……」
文香「……うぅぅ……」
P「……俺が愛しているのは世界で鷺沢文香ただ一人です」
文香「はい、良く出来ました……!さ、貴方の唇に直接採点して差し上げます」
まぁ、こんな感じで。
テスト直しは、明日補習から帰ってから一人でする事にした。
98 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/06/02(土) 17:40:03.28 ID:MhFa6slW0
ピピピピッ、ピピピピッ
目覚ましのアラームに、俺は目を覚ました。
今日は楽しいクリスマスイブ。
けれども俺は学校の補習。
名前欄に『課題』って書いちゃっただけだから、まぁ多分そんなに時間はかからないと思うけど。
P「……ん?」
温もりとのお別れを決意して、起き上がろうとすべく布団を捲ろうとした時だった。
もぞもぞと、布団が動いた。
あと何かにしがみつかれて動けない。
果たして俺は犬か猫を飼っていただろうか?
残念ながらそんな記憶は無いんだけどな。
文香「……あ……おはようございます、P君」
P「……おはよう、姉さん」
うん、まぁ文香姉さんだとは思ってたけど。
文香「ふぅぅ…………文香、です……」
P「うん文香、腕を離してくれるととても嬉しいんだけど」
文香「……いやです」
P「俺学校あるから……」
文香「クリスマスイブなのに……貴方と離れるなんて……」
P「ってかいつのまにか入って来たんだ……」
文香「昨夜、寒くてなかなか寝付けなかったので……」
P「まぁいいや、離」
文香「しません」
そっかー。
99 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/06/02(土) 17:40:45.24 ID:MhFa6slW0
ぎゅーっと抱き締めてくる文香姉さん。
色々と豊満なあれこれがどれそれして朝から大変よろしく無い。
これが……84。
…………あれ?
P「……姉さん、あのさ……」
文香「………………」
P「……文香」
文香「ふふ、なんでしょう?」
にっこにこな笑顔なとこ悪いけど。
P「……なんていうかさ、こう……当たってる感触が柔らかすぎるというか……」
文香「……着けていませんから」
P「…………」
……マジか。
P「……なんで?」
文香「P君のベッドに潜り込む時、きちんと外しました」
P「いやだからなんで?」
理由を聞いてるのに。
文香「……ところで、P君も……こちらが、その……当たっているのですが」
P「朝だから、寝起きだから」
あと今身体に密着している文香姉さんが、着けていないって意識しちゃったから……
文香「……ぎゅー……っ」
P「待って待って姉さん!多分この一線は超えるにしても登校前の朝じゃないと思う!!」
文香「うぅ……文香です、と……何度言えば……」
P「……文香」
文香「はい、おはようのキスですよね?」
名前呼んだだけなのに。
文香「んっ……ちゅっ……ちゅぅ、んむっ……っんぅ……」
のしかかって来た文香姉さんにキスをされた。
唇の柔らかさと、押し潰される様に密着している胸の柔らかさとが相まって色々とヤバい。
文香「んっ、ちゅ……っちゅぅ……ぷぁ……」
P「……朝からお盛んだぁ……」
文香「……不安にもなります…………私の風邪が治ったというのに、P君はなかなか……その、手を出してくれませんでしたから……」
P「文香……」
……でも……だからって……
なんだってドンピシャで学校ある日に……
俺この悶々とした気持ちで補習受けるの……?
そろそろ準備しないと本格的に不味いんだけど。
100 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/06/02(土) 17:41:49.16 ID:MhFa6slW0
文香「……P君が風邪をひいてしまった、と私から学校に伝えておきましょうか……?」
P「千川先生絶対ブチギレるから……」
文香「……もう……私と二人きりの時に、他の女性の名前を言うなんて……」
P「……ごめん」
文香「誘っているんですか……?」
P「えなんで?」
なんでそうなったの?分からない、文香姉さんの思考が分からない。
文香「……さて、そろそろ行かないと遅刻してしまいますよ?」
その原因が何をおっしゃられいるんだろう。
P「……じゃあ離そ?」
文香「……やぁ……です……離したくないです……」
より強く抱き締められた。
P「……どうしたら離してくれる?」
文香「私の腕を切り落とせば良いと思います」
もうちょっと平和的な解決策が欲しいかな。
文香「それか、P君が二人に分身すれば……」
P「難しそうだな……」
文香「ですね……どのみち私が二人とも抱き締めるだけだと思います」
そっちなのか。
文香「…………どうしても、離して欲しいですか?」
P「うん」
文香「うぅぅぅぅ……うぁぁぁぁ……」
P「ごめんごめんごめんごめん!でもほら!流石に補習で遅れるのはマジで不味いから!!」
文香「でしたら……貴方の方から、私を抱き締めて下さい」
P「……おう」
文香姉さんの背に腕を回し、俺の方からも抱き寄せる。
文香「……ふぅぅぅ……幸せです……」
すりすりと俺の胸元に頭を擦り付けてくる。
吐息がくすぐったい。煩悩は今だけは消した。
あっ柔らかい。
そして離して貰えない。
P「……離してくれるんじゃないの?」
文香「ふふ……引っかかりましたね、P君。ご存知ですか?古代より伝わるこんな言葉を……」
P「……なに?」
文香「騙される方が悪いのです」
P「……行ってくる」
文香「うぅぅ……ごめんなさい……私を離さないで下さい……っ」
P「あっはっは姉さん見て見て俺の腕青くなってきてる!」
ちひろ「おはようございます鷺沢君。正直サボると思ってました…………あら、随分腕が腫れてますね」
P「あー……なんか変な体勢で寝ちゃったみたいで」
101 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/06/02(土) 17:42:36.94 ID:MhFa6slW0
十二月二十五日。
ただ、日付を述べただけ。
それだけの事でこんなにも特別感が出る一日は、一年のうちでも片手で数えられる程しか無いだろう。
きっとそれは、ただ単に大きなイベントがあるからというだけではなく。
P「……はぁ……」
大きな息を吐く。
口から漏れたその暖かい空気は、周囲を白くし宙を舞い。
風に流されて霧散し消える。
空を覆う雲の色は怪しく、少なくとも良い天気とは言い辛い。
P「遅いな……」
女性の準備が遅いのは知っていた。
けれどもまさか、ここまで掛かるとは思っていなかった。
些か以上に俺が早く外に出てしまっていたというのもあるとは思うけど。
文香姉さんの事だから、どうせ大して時間は掛からないだろうとタカをくくっていた。
P「……寒っ」
びゅぅっと風が道を抜ける音もまた、この寒さに一役買っていて。
それは師走に入りたてのあの日よりもより一層冷たいものになっていた。
わざわざ玄関前で待つ必要は無いのだが、ここまで我慢したのだからと意味の無い意地を張り現状を維持。
全く、俺は本当に過去から学んだり成長出来ていないな。
P「…………あっ」
はらり、と。
黒と白の中間くらいに見える空のあちこちから、冬の欠片が舞い降りて来た。
コンクリートの地面へ落ちたそれは、小さな跡を残し消えてゆく。
大雪の中、空にあれだけ恨みを飛ばした甲斐があったのか、どうやら今日の天気は世界中のカップルを祝福してくれるらしい。
102 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/06/02(土) 17:43:10.87 ID:MhFa6slW0
P「……遅いなぁ」
少し呆れる様に笑って、手に息を吹きかけた。
まぁ、多分そろそろ来るだろう。
今か今かと、恋人が現れるのを心待ちにする。
ガチャ
玄関が開いて。
文香「お待たせしました、P君」
P「……待ってないよ、今来たとこ」
文香「……ふふ。照れ隠し、下手ですね」
待ち望んだ恋人の姿は見慣れていた筈なのに、見違える程綺麗だった。
文香「化粧、お洒落……そう言ったものを、フレデリカさんから教えて頂きました」
P「……あの人に知られてんのか……」
文香「……柄にも無いと思われてしまうかもしれませんが……貴方の前では、精一杯……出来る限り相応しい私でありたいですから」
P「相応しいって……」
むしろ不相応なのは俺の方だ。
こんなに綺麗な女性と並んで歩いていたら、周りの男性から妬み恨みを連ねられてしまいそうで。
文香「……貴方から見て……今日の私は、如何ですか?」
P「……隣に立つに相応しい男になりたいなって思った」
文香「……照れ隠し、では無いのでしょう……けれどそれなら、貴方は些か以上に自己評価が低過ぎる」
P「何言ってんだよ。姉さんこそそんな綺麗な容姿なのに、俺みたいな奴とクリスマスを過ごしてたら宝の持ち腐れ過ぎてバチが当たるかもしれないぞ」
文香「でしたら……そんな宝も、財も必要ありません……私は既に、貴方という宝物に出逢えていますから」
……よくもまぁ、そこまで喜んで頂けるものだ。
嬉しい反面、こそばゆくて妙に居心地が悪くなってくる。
文香「……もし貴方が、本気でそう思っているのでしたら……この寒さで、貴方の自分に対する意識が凍ってしまっているのでしたら。私が、貴方の心を暖めて溶かしてあげます」
P「……いや、その……十分だから」
恥ずかしさで、心以上に顔が熱くなる。
103 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/06/02(土) 17:43:42.92 ID:MhFa6slW0
文香「……ふふ。やはり貴方は、照れを隠すのが下手な様ですね」
P「良いんだよ別に、嘘吐きになるよりは馬鹿でも正直な方が」
文香「そうですか…………そうですね。貴方が愚直なまでに愚かで、真っ直ぐで、馬鹿で……正直だったから。私はこうして、この冬から先の季節を……諦めずに済みましたから」
すっ、っと。
文香姉さんが此方へと手を伸ばした。
それを俺は、殆どノータイムで握る。
文香「あら……普段の貴方なら、もう少し照れたり渋るものだと思っていましたが……」
P「今日くらいはご要望に応えてもっと素直になってみようかなって」
文香「……そうですか」
P「言い損ねたけど……すっごく綺麗だぞ、今の文香」
文香「……まったく……やはり、恋愛において予想予測はなんの役にも立ちませんね」
P「……照れてる?」
文香「……はい。貴方の素直な気持ちは、私が思っていた以上に温か過ぎて……私の気持ちは、私が思っていた以上に舞い上がり易いものでした」
頬を赤く染めて微笑む文香姉さん。
そんな表情が愛おし過ぎて、俺は握る手を強くした。
P「んじゃ、行こっか」
文香「はい……ふふ、とても……楽しみです」
一度手を離して腕を組み。
傘を開き、文香姉さんを招き入れて。
俺はまぁ濡れても良いし、多少文香姉さん寄りでさす。
P「にしても、結構降って来てるな」
文香「せめて、今はあまり積もらないでくれると助かるのですが……ですが今は……この寒さが、心地良いです」
本屋へと向かって歩き出す。
十二月二十五日。
恋人という関係になって初めて、文香姉さんと二人きりで出掛けたこの日。
文香「……ふふ。素敵な冬になりましたね」
これから始まる幸せな時間に想いを馳せて、楽しそうに微笑む文香姉さんと共に。
そんな笑顔と一つ傘の下、二つ並んだ足跡を残した。
104 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/06/02(土) 17:44:18.25 ID:MhFa6slW0
街は既にクリスマス一色だ。
クリスマスのイメージカラーは三色だけど。
赤と緑と白に彩られ、舞い降りる雪がより一層その色を鮮やかにしていた。
つい先日までハロウィン仕様だった街並みが、ほんの数日で全く違う世界に変わっている。
クリスマスが終われば、またすぐ正月仕様に早着替えするんだろう。
周りを見回せば二人一組の多さに驚く。
それもそうか、クリスマスなんだから。
P「そう言えば、何か本買うって言ってなかったっけ?クリスマスのフェアだったか」
文香「……あ……そうでしたね……確か私は以前、その様な事を言っていた様な気がします」
P「えっ?」
文香「……ええと、その……その時の言い訳で……其の場凌ぎの嘘だったので……」
P「まじかー……ん、あれ?いややってるやってる!本屋に垂れ幕掛かってるぞ!」
文香「というのは全て冗談です。さ、P君。早く入りますよ」
なんとも都合の良い事で。
とはいえ楽しそうだし、まぁ良いか。
文香姉さんに腕を引かれて本屋に入る。
……ここもカップルばっかりだ。
神聖なる書店で腕組んでイチャイチャしてんじゃねぇよ。
文香「……目移りしてしまいましたか?」
P「……本にだよね?他の女性見てるんじゃねぇよ的な意味じゃ無いよね?」
文香「……勿論です。私は、貴方を信頼していますから」
そう言いながらも、腕を強く引き寄せられて。
さっき投げた言葉は、どうやらくの字型をしていたらしい。
思いの外勢い良く自分に返って来た。
文香「……成人向け雑誌コーナーが気になりますか?」
P「いや別に……」
文香「クリスマス特集、開催中らしいですよ……?」
それはちょっと気になる。
サンタコス系が多いんだろうか。
文香「……サンタコス、ですか……」
P「しなくて良い、まじで」
いつの間にやらお会計を済ませていた様で、既に手に袋をぶら下げていた。
どうせなら今日くらいは俺が支払い持ちたかったんだけどな。
過ぎた事は仕方ないので、代わりに袋を受け取って持つ。
あっ結構重いこれ何冊買ったんだ。
105 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/06/02(土) 17:44:47.03 ID:MhFa6slW0
P「……ふぅ」
文香「……ふぅ」
二人同時に溜息をついた。
少々はしゃぎ過ぎた様だ。
本屋を梯子したり屋台でスイーツを食べているうちに結構時間は過ぎていて。
思いの外消費してしまった体力の回復を図るべく、現在俺たちは喫茶店でコーヒーを傾けていた。
特に会話は無いけれど。
ゆっくりと温かく過ぎてゆく時間が、とても心地良くて。
P「……ふぁぁぁ……」
つい、欠伸が漏れてしまった。
外が寒過ぎた分、暖房の効いた店内は少し居心地が良過ぎる。
それに昨晩も、結構遅くまで起きてたし。
文香「……良い眺めですね」
P「だなー。クリスマスって感じだ」
窓の外はひたすらに平穏で、行き交う人々も幸せそうで。
降り積もる雪が足跡を消しそこへまた新たな足跡が作られ。
静かに移り変わる光景が、時間の経過を忘れさせる。
ふと視線を戻せば、幸せそうな文香姉さんが目の前にいて。
あまりにも窓の外を眺めるその姿が綺麗過ぎて、俺は焦ってまた窓へと視線を移す。
けれどその窓に映って見えた文香姉さんの頬は、ほんのりと紅く染まっていた。
文香「……さて、P君」
P「っし、そろそろ出るか」
既に時刻は十六を回っていた。
このままのんびりしていたい気持ちもあるが、遅くなると帰るのが大変そうだ。
P「じゃ、最後に駅前行っても良い?」
文香「……構いませんが……何か買い損ねた物でも……?」
P「ちょっと見せたいものがあってさ」
文香「……ふふ。でしたら……エスコート、お願いします」
106 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/06/02(土) 17:45:14.68 ID:MhFa6slW0
駅前へと到着するも、どうやら少し早かった様で。
思い浮かべていた光景は、まだ広がっていなかった。
文香「……ここで、何か催されるのですか?」
P「まぁまぁ、多分もうすぐだから」
文香姉さんは越して来て初めての冬だから、見た事無いんだよな。
だったら、良かった。
俺が知ってる中で一番綺麗な光景は、この日のこの場所だから。
ひゅぅっ
強い風が通り抜けた。
文香「あっ……」
一瞬よろめいた文香姉さんが倒れない様に抱き寄せる。
なんともまぁ、恋愛小説の1ページみたいな出来事だこと。
文香「すみません……ありがとうございます」
P「いいっていいって」
文香「……離さないのですね」
P「離して欲しい?」
文香「まさか……普段の貴方なら、という話です」
P「さっきも言ったけど、今日はちょっと特別性なんだよ」
文香「……ふふ……なんて、優しく甘い恋物語なんでしょう」
P「渋さや苦さは如何なさいますか?」
文香「結構です……先程、珈琲を頂いたばかりですから」
傘の下で、甘いだけの空間を作る。
さて、そろそろ最後の一手間が加わる筈だ。
107 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/06/02(土) 17:45:42.33 ID:MhFa6slW0
文香「…………あ……」
パッ、と。
駅前が、一瞬にしてイルミネーションに彩られた。
大きなモミの木に飾られた装飾品が、ただのロータリーを聖夜へと塗り替える
煌々と光るその輝きは、雲に覆われたこの夜を、傘に覆われたこの場所を。
今日この日を祝福するかの様に、優しく照らした。
P「ここのイルミネーション、すっごく綺麗でさ。文香に見せてあげたかったんだ」
半分本当、半分は嘘。
吐かないと言っていたけれど、どうやら冬の魔法に心が揺られてしまった様だ。
残りの本音は、文香と並んでこの光景を見たかったから。
俺が、見たかったから。
喜ぶ文香が、見たかったから。
文香「……本当、柄にも無い事を……」
P「失礼な。時にはロマンチストになる時だってあるんだよ」
文香「……ええ、本当に…………私は柄にも無く……綺麗だ、嬉しいといった程度の感想しか言えそうにありません」
P「それ自分で言っちゃうんだな。でも良いんじゃないか、それで……」
多分逆の立場だったら、俺は恍惚として何も言えなくなってたと思うから。
文香「……ありがとうございます、P君。今私は……とても…………幸せです」
それ程に、文香から語彙力を奪うくらいには、その光景は綺麗で。
そして、俺から言葉を奪うくらいには、照らされた文香は綺麗だった。
108 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/06/02(土) 17:46:45.61 ID:MhFa6slW0
文香「……ですが……この光は、私には眩し過ぎます」
P「どのくらい?」
文香「貴方くらい……という表現は、月並みでしょうか?」
P「……慣れるしかないな」
このこそばゆい感覚にも。
いや、果たして慣れる日はくるんだろうか。
文香「……ですから……眩しい光は、一つで十分です」
P「えっ……」
気が付けば、眼に映るのはイルミネーションではなく文香になっていて。
唇に、柔らかいものが触れた。
文香「……では、もう一度柄にもなく……直接的な言葉で、伝えようと思います」
そう言って、微笑んで。
文香「……貴方と、二人きりになりたいです」
P「……あぁ」
組んだ腕を少し強く引いて、今度は俺から唇を重ねた。
触れた場所から伝わる温もりが、冬の寒さを忘れさせて。
特別な夜の中、この傘の下はより特別で。
既に消え掛けた足跡と別れ。
俺たちは雪に、この夜に。
二人並んで、足跡を重ねた。
文香√ 〜Fin〜
109 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/06/02(土) 17:47:58.47 ID:MhFa6slW0
以上です
これで一応全√完結となります
長い間、お付き合い本当にありがとうございました
110 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/06/02(土) 20:55:33.38 ID:1ohkTFYd0
乙
アフターとR-18も期待してるぞ
111 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/06/02(土) 22:27:46.44 ID:6gqslSidO
乙でした
112 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/06/04(月) 12:12:42.16 ID:lbTj9rlG0
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