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【ガルパン】エリカ「私は、あなたに救われたから」

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811 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/01/26(土) 20:07:02.31 ID:OnQF/8PI0



しほ「……ごめんなさい」


もう見えなくなった小さな背中に、しほは謝った。

突き放すような言葉になったのは、少女を気遣ったからだ。

それは、嘘ではない。

けれど……もしかしたら、自分があの子を傷つけてしまうかもしれない。そう思ってしまった。

そんな事絶対にない。そう言い切れない自分をしほは恨んだ。


みほ「エリカさんッ!!エリカさんッ!?どこなのっ!?どこにいるのっ!?ねぇ!!?エリカさんッ!?」

まほ「みほ、わた、私は……私はお前の……」


まほはぶつぶつと、言葉に出来ていない言葉を呟く。

しほは唇を噛みしめ、まほを支え、立ち上がらせようとする。その腕にどれほどの力が込められているのか、自分でもわからなかった。

病室に響く絶叫はどこまでも悲しみと絶望に満ちていて、それでもしほは、気丈に振舞った。


そうするしか、無かった。


812 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/01/26(土) 20:11:28.61 ID:OnQF/8PI0
ここまで。
残念ながら描写する余裕がなかったため説明を入れませんでしたが、今回登場したしほさんはお馴染みのジャケットに乗馬ズボンの格好ではなくて、
レディースのパンツスーツでした。
これにはきちんとした理由があって私が男女問わずスーツ姿が大好きだからです。

また来週。
813 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/01/26(土) 22:47:44.76 ID:NLSB0xQ1O
乙でした。
うあーしんどい。カチュに非はないけどつらいよなー。どうやってあそこまで立ち直ったのかプラウダ側の話も読みたいです。
814 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/27(日) 01:15:00.09 ID:MyMrtVyko
おつー
815 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/27(日) 01:16:10.02 ID:Okin4Aowo
カチューシャの心境の変化も気になる
確かにみほがやってることはアレだけどよくこっからあんな高圧的な態度になれるな
みほのことを思っての事なのかもしれないけど俺だったら一生立ち直れる気が知れん
816 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/02(土) 01:03:55.88 ID:OhkqDc4J0
>>812
五等分の花嫁作者のツイートパロで草
817 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/02(土) 11:19:58.52 ID:bLhoLzEo0

なぜか勝手にニーナ辺りで変換してたけど当時まだ中学生か。
あの態度だからか、なぜかカチューシャが思いうかべてなかったorz
名前でまほが反応できるならカチューシャしかいないのに

そしてスーツ大好きな>>812に癒されたw
818 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/02/02(土) 21:38:40.47 ID:fXHa/LYp0





夏が終わり、秋になった。なったらしい。

私が外の様子を知ることが出来るのは、カーテンの隙間から入る朝の日差しと、何日かに一回コンビニに行く夜道だけだった。

そして今も、カーテンから漏れる日差しが私に朝が来たことを伝える。

もっとも、今の私にとって朝も昼も夜も意味を持たないものなのだが。

あの日以来、私は、学園艦の自室にずっと籠っている。眠れない夜を越え、気絶するように眠りに落ちて、また目覚めて。

そんな事をずっと繰り返している。

今日もそうだ。眠れないまま日が沈み、眠れないまま夜が明けた。おそらくそのうちに私の意識は闇に沈んでいくのだろう。

それだけが、今の私にとって唯一の楽しみなのかもしれない。眠っている間だけは、何も考えずに済むのだから。

そんな事をベッドの上で考えていると、チャイムの音が部屋に届いてくる。

私はそれに小さく舌打ちをすると、気だるい気持ちを無理やり抑えて体を引きずるように玄関へと向かわせる。

なんとか玄関にたどり着くと、扉に寄りかかって三和土に座り込む。タイルと扉の冷たさに少しだけ心地よさを覚えるも、鬱々とした感情にすぐに塗りつぶされてしまう。


まほ『みほ……』


扉の外からお姉ちゃんの声が聞こえる。私は扉に後頭部を軽く打ち付けて返事をする。


まほ『みほ……その、元気か』

みほ「元気だよ」


いつだってお姉ちゃんが最初に言う事はそれだ。そんな事を聞いて何になるのか。

本当はこんなことしたくない。誰かと会話なんてしたくない。けれど、無視をすれば私が『どうにかなった』と思われて部屋に入られてしまう。

それは嫌だから、仕方なくドアを挟んだ会話だけはするようにしている。


まほ『そうか……なら、良かった』

みほ「聞きたい事はそれだけ?なら、もう学校行きなよ」


お姉ちゃんは私が籠りきりになって以来、登校前と放課後に私の部屋の前にやってくる。

そして扉を挟んでどうでもいい事を話すのが日課になっているようだ。

くだらない。私の事なんか放っておいて欲しいのに。

気だるさが心身を蝕んでもうベッドに戻ろうかと思っていた時、お姉ちゃんの気遣うような声が扉越しに伝わってくる


まほ『……みほ、やっぱり家に戻らないか?ちゃんと、病院に行こう』

みほ「嫌だ」


819 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/02/02(土) 21:39:50.12 ID:fXHa/LYp0



病院。私の心を治すために。冗談じゃない。私の居場所はもう、ここしかないのだから。

学校には行けない。あの人との思い出が多すぎるから。

学園艦を降りるつもりは無い。あの人との思い出から離れたくないから。

だから、私はこの部屋にいる。

私の心が病んでいるだなんてわかっている。こんなのが健全だなんてそんな馬鹿な事を言うつもりは無い。

それでも、私はここにいないといけない。ここでしか、生きられない。

ギリギリのバランスの中、今の私が出来る最善がこのザマなのだ。

私の強い拒絶にお姉ちゃんは諦めたようなため息を吐く。


まほ『……わかった。でも、何かあったらすぐに呼んでくれ。お母様もお前の事を心配して――――』

みほ「もういいでしょ。学校、行ってよ」

まほ『……ああ。また、夕方にくるよ』


その言葉に返事はしなかった。

820 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/02/02(土) 21:42:39.80 ID:fXHa/LYp0




あくる日、扉から聞こえる声はいつも聞いていたお姉ちゃんの声じゃなかった。


小梅『……みほさん』


弱々しく私の名前を呼んだその人は、赤星さんだった。随分と、久しぶりに聞く彼女の声は、けれども私に何の感動も与えない。


小梅『ごめんなさい、今まで来られなくて』

みほ「別にいいよ。赤星さんだって大変だったんでしょ」


だから帰って。もう来なくても良い。言外にそう言ったつもりであったが残念ながら赤星さんには伝わらなかったらしい。

赤星さんは嬉しそうに息だけで微笑むと、どこか潤んだ声を出す。


小梅『……みほさん、ありがとう』

みほ「何が」

小梅『私を、助けてくれて』

みほ「……別に」


私の言葉を謙遜とでも思ったのか、赤星さんは私を説き伏せるかのように柔らかく語り掛けてくる。


小梅『みほさん。誰もあなたを責めたりしてません。だから……また、学校に……ううん、一緒に遊んだり、なんでもいいんです。前みたいに……』

みほ「無理だよ。もう、エリカさんはいないんだから」


あの人がいない時点でもう、以前のようにだなんて無理なのだ。そんな事、赤星さんだってわかっているだろうに。


小梅『……エリカさんの事は、確かに残念です。けど、それでも、このままじゃいけないって―――――』


ドアに拳を叩きつける。その音に赤星さんが小さく悲鳴を上げる。

何を分かったような事を、何を悟ったような事を。


みほ「残念……?赤星さんにとって、エリカさんの事はそんな言葉で済むような事なの?」

小梅『ち、違っ……私は、ただみほさんが……』


叩きつけた拳を強く握る。

私が、私が何だというのか。エリカさんの事より、私の方が大事だとでも言いたいのだろうか。

……ふざけないで。


みほ「私にとってエリカさんは大事な人だったの。赤星さんは違ったの?」

小梅『わ、私にとってもエリカさんは大切な人でした。でも、でも今はみほさん、あなたの方が――――』


あなたは、あの人の友達だったのに。私が、終ぞなれなかった友達だったのに。

なんで、なんでそんな事が言えるのか。エリカさんはあなたの事を認めていたのに、褒めていたのに、友達であることを嬉しそうに語っていたのに。

あなたにとって、エリカさんの価値はその程度のものだったというのか。ならばもう、これ以上話す事なんてない。

821 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/02/02(土) 21:43:41.22 ID:fXHa/LYp0


みほ「……帰って」

小梅『違うんですみほさん私は……』

みほ「帰ってッ!!」


激昂にまかせた絶叫。喉に走る裂けるような痛みなんて気にはならなかった。

一瞬の静寂が訪れる。やがて、とん。と、扉に手を置く音がする。


小梅『……ごめんなさい。でも、あなたは私を助けてくれたから。だから、このままになんて』

みほ「赤星さん」

小梅『……なんですか?』


ああ、言ってしまう。ずっと、胸に秘めていた言葉を。

どんな理由があろうとも許されないその言葉を。

擦り切れた私にとって、もう赤星さんとの会話に安らぎなんて覚えられない。

あの人よりも私なんかを大事だという人と会話するだなんて耐えられない。

なら、終わりにすればいい。


みほ「私は―――――あなたより、エリカさんを助けたかった」


何の力もこもってない掠れ切った音が空気に、扉に、わずかに響く。

扉の向こうの赤星さんはどんな顔をしているのだろうか。

泣いているのか怒っているのか。どっちでもいい。私は立ち上がり部屋に戻ろうとする。


小梅『……私も、そうして欲しかったです』


赤星さんの声は、泣きそうなようにも、微笑んでいるようにも聞こえた。


822 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/02/02(土) 21:49:52.76 ID:fXHa/LYp0





その日の夕方、いつもの様に扉の前にやってきたお姉ちゃんの声は、何かをこらえるように重く、沈んでいた。


まほ『みほ。赤星と何かあったか?』

みほ「……別に」


ただ、思っていたことを言っただけだ。


まほ『……赤星はあの事故以来、前以上に頑張ってるよ。あいつだって辛いだろうに、苦しいだろうに。それでも、前を向いているんだ』

みほ「嫌味?」


今もこうやって扉越しじゃないと人と話せない私を笑いたいのか。別に、それでも構わないけど。

他でもない私がそんな自分を嘲笑っているのだから。


まほ『違うっ、違うんだみほ……ただ、私は……お前たちがまた以前のように戻れればと……』

みほ「赤星さんにも言ったけどね――――無理だよ。そんなの」


なんで二人とも同じことを言うのだろうか。

なんで、未だに以前のようにだなんて思えるのだろうか。

失ったものの大きさは同じじゃ無かったのか。赤星さんの悟ったような、諭すような声が蘇り、私は口の端を噛みしめる。


みほ「エリカさんがいないのに元通りなんて無理に決まってるでしょ。……赤星さんはそうじゃなかったみたいだけどね」


恨みがましくつぶやいた言葉にほんの少しだけ失望が入り交じった事に気づく。

もしかしたら私は、赤星さんに期待してたのかもしれない。彼女なら私の気持ちを理解してくれるかもと。

理解なんて求めたところで意味なんて無いのに。分かり合えたところであの人は帰ってこないのに。


まほ『赤星だってエリカの事が辛くないわけじゃないっ!そんなの、お前だってわかってるだろう!?』


お姉ちゃんの泣き叫ぶような問いかけ。それが、妙に耳に響いて思わず顔をしかめる。

ああ、お姉ちゃんも赤星さんと同じか。エリカさんのことをもう過去にしてる。

私の中のエリカさんまで過去にしようとしてる。

そんなの、嫌だ。だから、言ってしまおう。

私はごん、と。後頭部を扉に打つ。


みほ「お姉ちゃん。私ね、赤星さんにこう言ったんだ。『あなたより、エリカさんを助けたかった』って」

まほ『……なんで、そんな事を』


呆然と、震える呟きに私は淡々と返す。


みほ「別に。前々から思ってた事を伝えただけ」

まほ『お前ッ……』


拳を叩きつけたのだろう。大きな音とともに扉が揺れる。

久しぶりに感じるお姉ちゃんの怒り。

それも、私の心に何の揺らぎも起こさない。


みほ「赤星さんだけじゃない。操縦手の子も砲手の子も通信手の子も。放っておけばよかった。エリカさんだけ助ければよかった」

823 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/02/02(土) 21:53:09.17 ID:fXHa/LYp0

そうだ。そうしていればよかった。私はただ、エリカさんだけを助けていれば良かった。

私にとってエリカさんは一番大切な人だった。あの人たちより、私より。

みんなを助けようだなんて我儘で私は大切な人を失った。


まほ『……みほ、お前が助けた人はみんなお前に感謝してたよ』


お姉ちゃんはさっきまでの怒りのこもった声ではなく、泣くのをこらえているかのような声をだす。


まほ『でも……赤星以外の3人は転校したよ』

みほ「……」

まほ『最後までお前に謝ってた。合わせる顔が無いとも』

みほ「……そう」


なんで彼女たちが謝るのだろう。別に、何も悪くないのに。助けたのも、助けられなかったのも私の責任なのに。

どうでもいい人たちの事なのに、なんでかそんな疑問が頭に浮かぶ。同じように疑問に思ったのか、お姉ちゃんは自嘲するように息を吐くと、


まほ『なんでなんだろうな。あの子たちは、何も悪くないのに。お前も、赤星もだ』


お姉ちゃんは私の返事を待たずに続ける。


まほ『なぁみほ。あの事故でお前が責任を感じる事なんてないんだ。悪いのは私なんだ。恨むなら私を恨めばいい。すべての責任は隊長である私にある。だから、』

みほ「お姉ちゃん」


自分に言い聞かせるようなお姉ちゃんの『演説』を遮る。お姉ちゃんが何を言いたいのかよくわかった。

その上で、私の感想を述べる。



みほ「そんなの、どうでもいい」



扉の外から息をのむ音がする。


みほ「お姉ちゃんが悪いとかそんなのどうでもいいの。私が、私がエリカさんを助けられなかった。それが全てなんだよ」

まほ『だからッ!!だからそれは違うんだッ!!』

みほ「違うとか違わないじゃなくて、そうなんだよ。私の中でもう結論は出てるの。私が、全部悪いの」

まほ『みほッ……』


脳裏によみがえるあの日の出来事。それらを一瞬でなぞり、やっぱり私の結論は変わらない。


みほ「私の立てた作戦は読まれてて、そのせいでV号は川に流されて、私は、助けられなくて。私が、エリカさんを死なせたの」

まほ『どうして……わかってくれないんだ。なんで、何で私を……』


縋りつくようなお姉ちゃんの声はもう、泣いていることを隠せていない。それでも私は扉を開ける事は無い。


みほ「お姉ちゃん、帰って。もう、来なくていいよ」


代わりに淡々と帰宅を促すと、お姉ちゃんは必死で嗚咽を抑え込んでいるかのように所々調子の外れた声を出す。


まほ『……赤星には私から謝っておく。……また来るよ』


去って行く足音を聞き届けず、私は部屋へと戻っていった。


824 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/02/02(土) 21:57:49.61 ID:fXHa/LYp0





誰もいない部屋で私は一人ベッドにうつぶせになる。

最近はもうコンビニに行くのすら嫌になり、買い込んだカロリーメイトをたまに齧って水を飲むといった有様だ。

いっその事、それすら止めてしまえば楽なのに。空腹と渇きの苦しさなんて、生きている事の苦しさと比べたら大した事じゃ無いのに。

それでも、私は最低限生きようとしてしまう。

寝返りをうち天井を見つめる。あの日以来一度も切っていない髪が顔に張り付いてそれを煩わしそうに払いのける。


みほ「……私、どうなるのかな」


ポツリと虚空に向けて呟いた言葉。いつまでもこんな生活が続けられるだなんて思ってはいない。

学園艦は学生のための場所で、ここは学生のための寮なのだから。

でも、学校には行けない。なら、いずれはここを去らなくてはならなくなる。

家に戻るのか。いや、戻されるのだろう。

でも、今の私はきっと学園艦(ここ)以外では生きていけない。

そうなったら私はどうなるのだろうか。生きていけるのだろうか。

……多分生きるのだろう。どれだけ苦しくても、辛くても、そうしないといけないから。

生きていけないと思うのに、生きていたくないのに。それでも、生きてしまうのだろう。


『生きて』


その言葉があるから、私は今日まで生きてきた。

その言葉のせいで、私は今日まで生きるしかなかった。

あまりにも酷い、残酷な願い。

貴女のいない世界で生きるだなんて、私には耐えられないのに。

いつだって私を励ましてくれた、勇気をくれた彼女の最期の言葉は、私にとって呪いと同じだった。


みほ「エリカさん。なんで、なんでそんな酷い事を言ったの?」


問いかけたところで返事が返ってくることは無い。何度も何度もやった事なのに。

その度にエリカさんがいない事を実感してしまう。

その度に涙が溢れて止まらなくなる。


みほ「……うぐっ、ぐすっ……うぁ、うあぁぁぁ……エリカ、さん……」


あの時、エリカさんを助けに行かずに勝利を目指していればせめてもの慰めになったのに

あの時、エリカさんを助けられていたら勝利も私の命もいらなかったのに

勝利を捨て、大切なものを守ろうとした結果、私は全てを失った

……わかっている。たとえ結末を知っていたとしても、私はあの人を助けに行った。

何もかも失うとわかっていても、私は濁流に飛び込んだのだろう。

それでも、もしも、もしも勝利が残っていたのなら、もしかしたら。

何か変わっていたのかもしれない。

ありもしない仮定にあり得ない結末を重ねて、私は今に絶望する。

そしてまた、気絶するように眠りについて目覚めた時、エリカさんのいない世界に絶望するのだろう。

ならいっその事永遠に眠り続けられればいいのに。

そんな馬鹿な事を考え、せめて一秒でも早く眠りにつけることを願って瞼を閉じると――――軽快な電子音が部屋に鳴り響いた。
825 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/02/02(土) 22:03:44.49 ID:fXHa/LYp0
現実に引き戻された私は、テーブルの上で着信音をかき鳴らす携帯を忌々しく睨む。

いくら睨んだところで着信音が止む気配はなく、私は気だるい体を無理やり動かして携帯を手に取った。

画面に映った名前は、よく知っている――――赤星さんの名前だった。

終話ボタンを押そうか一瞬迷ったものの、何度か逡巡した挙句ため息とともに通話ボタンを押す。


小梅『……みほさん?』

みほ「……何」

小梅『よかった……体、大丈夫ですか?』


携帯から聞こえる赤星さんの声は以前と何も変わっていない。


みほ「なんで私に関わろうとするの。私、あなたに酷い事言ったのに」


あの言葉に、私の気持ちに、嘘はなかった。それは、今でも変わらない。それでも、私が赤星さんに言った言葉は自分勝手で許されないものだったという事は分かっている。

私のしたことは、間違いなく彼女の気持ちを踏みにじるものだった。なのに、なんで彼女は私にこうまで関わろうとするのか。


小梅『……友達なんですから当たり前ですよ。あの事だって気にしてません』


何も気にしていない。その言葉通り彼女の声色は明るい。まるで、事故が起きる前のように。

赤星さんの優しさが、気遣いが、私の胸に痛みと苛立ちを与えてくる。それを表に出さないように抑揚のない声を出す。


みほ「……何の用なの」

小梅『みほさん。戦車、乗りませんか?』

みほ「は?」


あまりにも突拍子もない言葉に間抜けな音が出てしまう。


小梅『戦車ですよ戦車』

みほ「何言ってるの……」

小梅『私が操縦しますからみほさんが車長で』


私の苦言なんて無視して赤星さんは明るく説明を続ける。それに反比例するように私の声は重く、沈みこむ。


みほ「……私はもう戦車道はしない。……できないよ」

小梅『そうじゃなくて、ただ乗るだけですよ。本当にただ戦車に乗って学校の練習場を走ってみましょうよ』

みほ「それこそ、何のために」

小梅『……私が、そうして欲しいんです。そうしたいんです』


潤んだ音とは正反対な強い決意の込められた声。真っ直ぐな思いに私は何も言えなくなってしまう。


小梅『明日の夜9時。校門前で待ってます』

みほ「私、行くなんて言ってないけど」

小梅『来てくれないのならそれでも構いません。それでも、待ってます』


私の返事を待たず電話は切れた。私は携帯を机に投げるように置くと、ベッドに座り込む。

赤星さんの誘いを受けるつもりなんて無い。あの人との思い出が多すぎて学校にすらいけない私が戦車に乗るなんてできるとは思えない。

きっと、あの人の声が、笑顔が、輝く姿が鮮明に思い出されて動けなくなってしまう。

そして、そんな彼女がもういない事を再び理解してしまう。そんな恐怖も、絶望も、もう嫌だ。

だから私はこの部屋にいる。エリカさんがいない現実から、エリカさんがいた過去から目を背け、何も考えずにまどろみの中で『生きるだけ』をするために。それが、今の私が出来る最善のはずなのに。

私の瞳は、玄関の扉へと向いていた。
826 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/02/02(土) 22:06:31.30 ID:fXHa/LYp0




星の見えぬ夜空。

校門の前にある街灯の下に赤星さんはいた。

吐き出す息は白く、それが今の季節を教えてくれる。

時間を見ているのだろう先ほどからなんども携帯を開いては閉じるを繰り返している。

その横顔は何も変わっていなくて……いや、少し痩せたのかもしれない。

寒空の下ではあまりにも頼りなく見えるその小さな姿を、私は少し離れた暗がりで見ていた。


みほ「赤星さん……」


呟いた言葉は彼女に届かせるつもりは無かった。

わざわざコートを引っ張り出してまであの部屋から出てきたのに、私は彼女に声を掛ける事をためらってしまう。

今更、彼女と会ってどうするのか。戦車に乗って何が変わるのか。

部屋を出る前から、ここに来るまでの間、何度も繰り返した問いは未だに終わらない。

分からないから、知りたいから部屋を出たはずなのに。

わかっている。彼女の誘いは私を思ってのものなのだと。どれだけ自分勝手に振舞い、彼女を傷つけたとしても、そのぐらいはわかる。

だから、ためらってしまう。彼女はもう、私を理解してくれない。ならこのまま会わない方がお互いの為じゃないのか。

今の私が彼女に会ったところでまた傷つけるだけじゃないのか。

言い訳染みた言葉ばかりが頭の中に浮かんでしまう。


それを、唇を噛みしめて抑え込む。


気づいていたんだ。わかっていたんだ。『生きているだけ』じゃ、いけないのだという事に。

エリカさんがいない世界が怖くても、それでも私は生きなくてはならないのだと。



『生きて』



呪いのように私を苛むその言葉は、それでも彼女がくれた最後の言葉で、

だから私は、それを果たさないといけない。

辛くても苦しくても、生きないといけない。

たとえ、赤星さんを、誰かを傷つける事になっても、私は――――生きないといけないのだ。

エリカさんのように美しくなくて、エリカさんのように優しくなくて、エリカさんのように強くない私だけど、

せめて、エリカさんがくれた最後の言葉だけは、守りたいんだ。

私は決意を込め、一歩踏み出す。その足音に赤星さんが振り向く。


小梅「みほさん……?」

みほ「……久しぶりだね。赤星さん」

827 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/02/02(土) 22:09:00.19 ID:fXHa/LYp0

出来るだけ柔らかく、明るい声を出そうとしたものの、残念ながら掠れ切った私の喉は低く、しゃがれた音しか出さない。

けれども赤星さんはそんな事気にしていないようで、喜び、目元に涙を浮かべる。


小梅「みほさんっ!!良かったっ……来てくれたんですねっ!?」

みほ「別に。ただ、なんとなく体を動かしたくなったから」


赤星さんのいる街灯の下に私は歩みを進める。


小梅「それで良いんですっ…良かった、本当に良かったっ……」


赤星さんはこらえ切れなくなりその場で泣き始めてしまう。


その姿に、彼女がどれだけ気を張っていたのかを理解する。

ずっと、張り詰めていたのだろう。エリカさんがいなくなった事で、私が、こんな様になった事で。

それでも、私に会いに来て、ひどい言葉を浴びせられて、それでも私を気遣ってくれた。

その優しさが、強さこそが、エリカさんが赤星さんを友達だと認めた理由なのだと、私はようやく実感した。


みほ「赤星さん、ごめんなさい。私、あなたに酷い事を言った」

小梅「謝らないでくださいっ……良いんですよ、今こうして、あなたが来てくれただけで私は嬉しいんですから」


私の謝罪に赤星さんは涙をためたまま笑顔で答える。

私はさらに歩みを進め、


小梅「だからみほさ――――」


街灯の光の下、赤星さんの目の前に立った。


小梅「みほ、さん……」


赤星さんは呆然と目を見開いている。

……ああそうか、さすがに『これ』には驚くか。


みほ「……やっぱり気になる?まるでお婆ちゃんみたいでしょ?」


私はまるで見せびらかすように髪を一束掴んで振って見せる。

そのおどけた様子に、けれども呆然としたままの赤星さん。

まぁ、仕方がないだろう。いくら何でもこればっかりは。


みほ「いつの間にかね、こんなんになっちゃったんだ」


828 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/02/02(土) 22:09:41.36 ID:fXHa/LYp0





肩まで伸びた私の髪は――――雪のように、真っ白になっていた。




829 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/02/02(土) 22:11:52.14 ID:fXHa/LYp0
ここまでー
髪生え変わるの早くね?って思う方がいるかもしれません。
私もそう思います。
たぶんこのSSにおける人類は私たちと比べて髪が伸びるスピードがめっちゃ速いのかもしれません。
そういう事でご納得お願いします。

また来週。
830 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/02/02(土) 22:38:11.78 ID:CrrNEa07O
乙でした。
やさぐれてるなぁみぽりん。小梅ちゃんの奮闘に期待。
誰かお姉ちゃんにも救いの手を…
831 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/03(日) 00:59:01.88 ID:e5ysYx7Ro
おつー
マリーアントワネットとか一晩だし平気平気ww
832 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/03(日) 01:13:05.99 ID:GQlDCzEA0
乙ですー
そういえばみほまほだけじゃなくて赤星さんも少なからず病んでるんだよな…
なんにせよ毎週楽しみに待ってます
833 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/03(日) 05:53:11.93 ID:tYHdSjdwo
>>831
まぁマジレスするとあれはあり得ないらしいけどね
逆に言えばマリー・アントワネットの投獄生活期間の2ヶ月で真っ白になる可能性はある。相当なストレスを感じれば。
834 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/03(日) 13:24:34.63 ID:HQe++GaR0
惑星ガルパンの話だからOK
835 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/03(日) 14:36:58.15 ID:ossf4eG+0
>833
一度生えたあとの髪は脱色・染色しなければ色が変わる事はないし
一ヶ月で伸びる長さは1cm前後だから2ヶ月あっても無理やで

>834
いくら軽戦車つーてもランクルより重いのに
女子高生数人でひっくり返った状態から元に戻せるとか
わしらの世界だったら超人やな
836 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/03(日) 16:28:02.40 ID:XwZRdDw20
更新乙
段々と過去編(!?)が時系列本編につながりつつある
いつもありがとう!
837 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/03(日) 17:04:11.99 ID:xPLGwZMZ0
乙ですいつも楽しみに見ています
作者様がこれをいつ目にするのかはわかりませんが、毎週の更新を楽しみに待っているというファンの一人として、この素晴らしい作品を書いてくださってありがとうという感情をお伝えしたくてコメントします
838 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/04(月) 13:38:20.31 ID:v26/Zja/O
地毛だったのか、染めていないと思い込んでるだけだと思ってた
839 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/02/06(水) 21:42:05.35 ID:FL7p9tJE0
早くして
840 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/09(土) 03:46:26.15 ID:fsX5+B8w0
やばい、みぽりんにシンクロして泣きそうになってきたわ
1番慕ってた人を助けられずに目の前で死なれたりしたらそらこうなるわな
841 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/02/09(土) 15:12:39.21 ID:xfGLSgEk0
毎週の楽しみ
842 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/09(土) 16:44:58.65 ID:V6mFoo7D0
ageカスに楽しむ権利はないぞ
身の程を知れ
843 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/02/09(土) 20:11:53.74 ID:XqJwsQoc0
844 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/09(土) 20:32:34.17 ID:pZcxkURu0
作者以外はメール欄にsage入力がマナー
845 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/02/09(土) 21:12:31.14 ID:5zdhLM0A0

みほ「ごめんね、驚かせちゃって。染めようとは思ってるんだけどさ」

小梅「あ、いえ……私こそすみません。それじゃあこっちに」


これ以上私の姿について触れるのをためらったのだろう。赤星さんは話を打ち切ると私を促す。

私はその後に続き、久しぶりに、本当に久しぶりに校門をくぐった。


小梅「こっちです。昼の内に外に出して隠しておいたんですよ」


赤星さんこちらを振り向かずそのまま学校の裏にある練習場、そのさらに奥にある林の中に入っていく。

その後をついていくと、いつの間にか赤星さんの手には懐中電灯があり、街灯はもちろん、月明かりすら雲でおぼろな林の中を頼りない光で進んで行く。

そして、20メートルほど行ったあたりだろうか。赤星さんが立ち止まり、こちらを振り向く。


小梅「みほさん、これですよ」


懐中電灯の小さな光がその車体を映し出す。全体ははっきりとは見えないが、それでもその戦車が何なのか一目でわかった。


みほ「赤星さん、これ……」

小梅「……はい」



暗い林の中にたたずむそれは――――U号戦車だった。



『私は楽しかったわよ。あなたの実力の一端を垣間見れた気がするわ』



『……楽しかった。本当に、楽しかった』



あの日の夕焼けが笑った記憶が、泣いた記憶が、彼女の笑顔がよみがえる。

その奔流で心が一杯になって、私はその場にしゃがみ込んでしまう。


小梅「みほさん……やっぱり、辛いのなら……」


赤星さんの心配そうな声。私はそれにすぐには答えず、ゆっくりと立ち上がり目を閉じて深呼吸をする。

大きく吸った息を、大きく吐く……よし。


みほ「……大丈夫だよ。……うん、大丈夫」


大丈夫だ。少なくとも、今は。


小梅「……わかりました。それじゃあ私が操縦しますから指示お願いします」

みほ「うん。それで、目的地は?」


赤星さんはそれに言葉ではなく懐中電灯で答える。

その光が示す先は――――――


小梅「学校の裏山。山頂、目指しましょう」


846 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/02/09(土) 21:13:39.54 ID:5zdhLM0A0




ガタガタと揺れる戦車。

当たり前だが学校の裏山の道は舗装なんてされておらず、道も戦車が一輌通れる程度の幅しかない。


みほ「赤星さんもっとゆっくり」

小梅「ごめんなさいっ久しぶりだから……」


ただでさえ視界の狭い操縦席にこの曇った夜空が加わってしまうと戦車のライトなんて大した意味を持たない。

だから車長である私がしっかりと周囲を見て、操縦手に的確に指示を飛ばさないといけない。


みほ「落ち着いて。赤星さんの代わりに私がちゃんと見てるから」

小梅「はいっ!」


私も内心慌てたり焦ったりしている。

いくらなんでもこんな闇夜に戦車を走らせる経験なんて無いから。

けれどそれを声には出さずに指示を出す。


みほ「この坂、急だから気を付けて」

小梅「はい!」


曲がって、登って、曲がって、時たまガクンとなって。

半年以上碌に動かしていなかった体が悲鳴を上げて、それでも踏ん張って。


みほ「あと10メートル進んだらふもとまで真っ逆さまだよ」

小梅「は、早く言ってください!?」


手探りの中、少しずつ私たちは山頂を目指していく。

そして――――道の終わりが来た。

847 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/02/09(土) 21:25:04.01 ID:5zdhLM0A0





山頂よりちょっと下のあたりだろうか。依然戦車の前には道が続いているものの、それはふもとへ下りるための道、ここは折り返し地点という事か。

私の視線の先には山頂まで続いているであろう階段がある。


みほ「……ここが目的地、かな」

小梅「……はい。でも、もうちょっと」


赤星さんは戦車から降りると再び懐中電灯を手に階段を上り始める。

明りを持ってない私は慌ててその後をついていく。

そして今度こそ、私たちは山頂へとたどり着いた。


小梅「……どうですか?」

みほ「……綺麗だね」


山頂から見下ろす夜の街は点々と、明りがまるで星のように輝いている。

黒森峰の学園艦が大きいのは知っていたが、こうやって一望するとその大きさを実感できる。

私は地べたに座り込んでじっと、その景色を見つめていた。

すると、同じように隣に座っていた赤星さんが口を開く。


小梅「私、ここに結構来てたんですよ」

みほ「そうなの?」


山登りが趣味だなんて聞いたことがなかったけど。私の疑問に赤星さんは直ぐには答えずじっと街明りを見つめる。


小梅「……昔、私が不貞腐れてた頃。何もかも忘れたくてこの山を登ったんです」

みほ「ずいぶん体育会系だね」

小梅「あはは。戦車道やってるんですからその通りでしょう?」


言われてみればその通りだ。赤星さんも、私も。……あの人も。毎日のように体を動かして、冬でも汗まみれになってた。

昨日のように思い出せるその光景。その思い出に意識が遠のきそうになるのを頭を振って耐える。


小梅「……夕方から登り始めて、登り切ったころにはもう真っ暗で、代わりに街と星と月がキラキラと輝いていました」


「残念ながら今日は街明りだけですけどね」赤星さんはそう言って苦笑する。


小梅「別に、この夜景を見たから奮起したとか、そんなドラマチックな事は無いですけど。

   それでも。あなたの優しさに救われるまで私が逃げ出さなかったのは、この景色があったからかもしれません」


あなたの優しさに救われた。赤星さんはそう言うものの、私はその事をよく覚えていない。

あの頃の私は赤星さんも気づいていた通り自分の事しか見てなくて、上っ面の言葉しか人にかけていなかったから。

だから、救われた。だなんて大仰な事を言われても私はどう返せばいいのかわからない。

それは多分赤星さんも察しているのだろう。私の返事を待たずに話を続ける。


小梅「人間、もう駄目だ。なんて思ってても、なんてことない事でとりあえず明日も頑張ってみようってなるのかもしれません」


さっきより少しだけ薄くなった雲がそのベールを通してわずかに月光を降ろす。

暗闇に慣れた目で辛うじて見える赤星さんの横顔は真剣で、辛そうだった。

848 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/02/09(土) 21:33:58.70 ID:5zdhLM0A0

小梅「……みほさん」


その瞳が、私を見つめてくる。


小梅「……事故の事、エリカさんの事。忘れろなんて言いません。……忘れる事なんてできません」


潤んだ声はけれども決意を込めた力強さを伝えてくる。


小梅「だけど、黒森峰(ここ)には私たちがいます。隊長が、私が、皆が」


赤星さんは痛みをこらえるかのように胸元を掴み、涙をこらえるかのように大きく目を見開く。


小梅「だから……少しだけ、少しだけで良いんです。前を向いていきませんか?」



『ちゃんと前を向きなさい』



赤星さんの言葉に、かつて交わした約束を思い出す。

強い人だ。エリカさんも、赤星さんも。

私なんかよりもずっと。

今日も私のためにここまでしてくれたのだろう。赤星さんだって辛いだろうに、傷はまだ癒えていないだろうに。

それよりも、私をと。


小梅「みほさん……?」


私は立ち上がって街を見下ろす。星の代わりに輝く街並み。そのあちこちが、私にとって大切な場所だった。


みほ「赤星さん、あそこ。いつも一緒に帰ってた道」


私が指をさすと、隣に立つ赤星さんが懐かしむように目を細める。


小梅「……はい。エリカさんは『あなたたちが勝手についてきてるだけよ』なんて言ってましたけど」

みほ「ほら、たぶんあそこのコンビニかな?私がいつまでも居座ってるからエリカさんに怒られたのは」

小梅「さすがに、私もあれには呆れましたよ」


赤星さんが潤んだ声でクスクスと笑う。

一緒に学んだ学校が。一緒に歩いた帰り道が。一緒に食事したレストランが。一緒にはしゃいだ部屋が。

たくさんの『一緒』が、この街には溢れている。

そして、

849 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/02/09(土) 21:35:26.44 ID:5zdhLM0A0


みほ「……赤星さん」

小梅「はい」


わかっていたのにずっと拒み続けていた事実がストンと、私の中に落ちてくる。

私以外の人はとっくに理解していたのに、私だけが逃げ続けていた。

でも、もう逃げられない。


みほ「エリカさんは――――もう、いないんだね」

小梅「……はい」

みほ「……そっか」


ああ、そうか。この艦に、この街に、この世界に。エリカさんはもういない。

どれだけ私が泣いても、どれだけ悔やんでも、どれだけ認めなくても。

逸見エリカはもう、過去なんだ。それを、私は理解した。


小梅「みほさん……みほさんっ……」


赤星さんがとうとうこらえきれなくなり泣き出す。

きっと、彼女も思い出したのだろう。エリカさんがいた日々を。

そして、また理解してしまったのだろう。エリカさんがもういないという事を。


みほ「ごめんね、赤星さん。あなただって辛いはずなのに」

小梅「いいんですっ……私は、私は……あなたが、元気になってくれれば……きっとそれを、エリカさんも……」


泣きじゃくる赤星さんに私はこれ以上何も言わなかった。

代わりに、じっと見下ろす。

夜空の代わりに輝く街を。

貴女がいた、貴女といた街を。



私の、『世界』を


850 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/02/09(土) 21:38:06.22 ID:5zdhLM0A0
ここまで。

>>744であと5,6回で終わるって言いましたけどあれは嘘になりました。

多分あと3回、多くても4回で終わるのでもうちょっとだけ過去編に付き合ってください。

また来週。
851 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/09(土) 22:20:33.20 ID:ZdUVYjaa0

いっそスレ跨いで過去話を続けてもええんやで?
852 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/09(土) 23:52:02.88 ID:wdfRRyLK0
乙でした
次スレに跨いでも良いんですよー

なんか、回復しかけてるけど、なぜこれからエリカ(偽)になったんだろう?
853 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/02/10(日) 00:08:29.39 ID:eJlQXkKP0
あと数回で明らかになるんやから楽しみに待てばええ
854 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/02/10(日) 01:08:54.59 ID:mdEP/TzUO
乙でした。
ここからが本当の地獄…になるのかなぁ。戦車道やる資格がないとまで言われる何があったのか。
855 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/10(日) 11:44:36.33 ID:XEpyBOoN0
なんか立ち直ってきてない?大丈夫?エリカさん化する?
856 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/10(日) 22:36:23.00 ID:LwqYGnblO
まだまほの態度が硬化してないんだな
857 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/02/11(月) 01:11:56.41 ID:Tfo1HeEC0
乙!続きも期待して待ってる。
858 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/11(月) 01:30:32.02 ID:kyN+SCTDO
ここからまたみほを突き落とすような出来事があるんだな…
何にせよ楽しみに待ってます
859 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/12(火) 14:11:37.89 ID:F6EtRm/S0
カチューシャのことこ,ろしに行きそう
860 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/16(土) 21:54:46.08 ID:NCslEOZb0
おい!続きはまだか!
早くエリカさん化する過程を見せてくれ!!
861 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/02/16(土) 22:02:19.26 ID:S0bhx1iI0





学校裏の林に戻ってきたのは11時をいくらか過ぎた頃だった。


小梅「戦車しまってきちゃうんで先に帰っててください。風邪、ひかないように」


赤星さんの気遣いをありがたく受け、私は一人U号から降りる。

そして、ハッチから顔を出してる赤星さんに向き直る。


みほ「赤星さん、ありがとう。私、あなたのおかげで大事なことがわかった」


そう。大事なこと。きっと、赤星さんが今日私を呼んでくれなければ気づけなかった事。

部屋にこもっていたらきっと見つけられなかった事。


みほ「まだ、それを言葉には出来ないけど……ちゃんと、考えようと思う。これからの事を」


そう言って赤星さんに向けて口角を上げる。

赤星さんは感極まったように口元をおさえると、目元をそっと拭って笑いかけてくる。


小梅「っ……はい。急がなくていいですから、ゆっくりでいいですから。私も、一緒に考えますから」

みほ「赤星さん……またね」

小梅「はいっ!!またっ!!」


嬉しそうに手を振る赤星さんに背を向け、私は校門へと歩いていった。

私の顔から、表情は消え去っていた。

862 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/02/16(土) 22:10:25.94 ID:S0bhx1iI0




ここは決勝前日の夜、私とエリカさんが二人で話した広場。

赤星さんと別れた後、私は部屋に戻らずここでじっと海を見つめていた。

冷気を伴った潮風は痛いほどで、けれど、今の私にとってそんなのは大した事ではなかった。


みほ「寒いね」


そのつぶやきは誰に向けたものなのだろう。

自分でもわからないまま、私の意識は先程の山頂に戻る。


雲に覆われた夜空の下、街の明かりが星のように輝いてて。

その星空のあちこちに私達はいた。

遊んだり笑ったり怒ったり泣いたり悔やんだり。

様々な景色が、あそこにはあった。

そこに、いつだってエリカさんがいたことも。

そして、だからこそ。私はようやく理解できた。

エリカさんはもう、いないのだと。


みほ「赤星さんには迷惑かけちゃったなぁ」


わかりきったことをいつまでも引きずっていた挙げ句、迷惑をかけ続けてきたのだから。

ただ、今は謝罪の気持ちよりも感謝の気持ちのほうが強い。

赤星さんのおかげで、私はエリカさんの死をようやく理解できた。

どれだけ泣き叫ぼうとも、焦がれようとも、エリカさんはもう、帰ってこないのだと。

私が、赤星さんが、お姉ちゃんが、エリカさんが。

共にいた日々はもう、遠い過去になったのだと。


みほ「あーあ。バッカみたい」


そんな簡単なことを半年以上も引きずり続けていたのだからどうしようもないと自嘲する。


みほ「とりあえず。今後のことを考えないと」


まず学校には行かないと。

勉強はお姉ちゃんが持ってきてくれた課題である程度は進んでいるが、それでも学校の授業に追いついていけるとはとても思えない。

予習復習はちゃんとしないと。

特に理系科目。中でも物理はしっかりとやらないと。早急に。


部屋の模様替えもしないと。今の部屋は派手すぎるし可愛すぎる。もっとシンプルに。

ボコは捨てるか実家に送ろう。あ、でもエリカさんがくれたやつは残しておかないと。


料理もちゃんと出来るようにならないと。ハンバーグって結構難しそうだしね。


それと髪。長さはどうしようも無いけれどせめて毛先は整えないと。


まぁ、そこまですれば後は―――――『私』だけだ。


863 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/02/16(土) 22:13:57.58 ID:S0bhx1iI0


みほ「……くっ、ふふっ……」


閉じた口の端から笑い声が漏れてくる。

ああ、もうすぐだ。もうすぐ、もうすぐ。

早く早く。


『黒森峰(ここ)には私たちがいます。隊長が、私が、皆が』


うん。そうだったんだね。知ってたよ。忘れてたけど。

おかげで、こんなにもスッキリとできた。

皆がいるなら大丈夫だから。お姉ちゃんも赤星さんもエリカさんの事が大好きだったんだから。


『だから……少しだけ、少しだけで良いんです。前を向いていきませんか?』


うん。大丈夫だよ。もう、うつむかないよ。

そんな弱い人はいなくなるから。

そんな弱い私はいなくなるから。


みほ「っ……あはっ、わた、私はっ、くふっ」


こらえきれない。おかしくってたまらない。

赤星さんが教えてくれた、いや、理解させてくれた。

『西住みほ』の本質を。私の『中身』を。

ああ私は、私の中には――――――


みほ「何にもっ、無かったんだぁ」


乾ききった声。

それが引き金となり、はじける様に私は声を上げて笑い出す。


みほ「あはははははッ!!私、何もないっ!!私にはッ!!何もなかった!!」


そう、何もない。


あの瞬間、エリカさんが私にとって過去になった瞬間。

私の中の価値観は崩れ去った。


864 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/02/16(土) 22:17:42.77 ID:S0bhx1iI0


戦車道への情熱、辛さも楽しさも、確かにあった。

友達への友情も家族への愛情も間違いなくあった。

大切なものは、私の中にあった。

でも、今の私にとって何の価値も無かった。

まるで路傍の石ころのように。好きだったはずの戦車でさえ、ただの鉄くずのように思えた。


あの山の頂上で、私の全ては『エリカさんありき』だったのだと、ようやく気付いた。

黒森峰(ここ)に来る前に持っていたものも、黒森峰(ここ)に来てから得たものも。

全部、等しく、エリカさんがいたから大切だったんだ。


いつだって私はエリカさんと共に在ろうとした。

辛い時も、悲しい時も、楽しい時も。

黒森峰に来てからの4年間。それは、私の人生の半分にも満たない。

でもそれで、私の人生は変わった。

間違いなく、私の人生で最も幸せな日々だった。

エリカさんと出会ったあの日から私の世界は、エリカさんの優しい銀色で彩られていたんだ。

その色が輝きをくれた。その世界が私に未来をくれた。

だから、そのエリカさんがいなくなったから。私の世界にはもう、色なんて無いんだ。


乾ききった音が曇った夜空に響く。

笑い声と慟哭が入り交じり、いつのまにか涙がとめどなく流れ、

悲しみと歓喜が入り混じる。

『西住みほ』という人間が過ごしてきた今日までは何の意味も無かったとわかったから。

私にとってエリカさんがどれだけ大きな存在なのかがわかったから。


みほ「エリカさんッ!!大好きっ!!大好きだったよッ!!」


記憶に残る貴女はいつだって美しくて、それはもう、永遠に過ぎ去った姿(シルエット)で


みほ「貴女のいない世界なんて、貴女のいない私になんて、何の価値もないッ!!」


どれだけ手を伸ばそうとも届かなくなって


みほ「エリカさんっ、貴女の言う通りだったッ!!貴女は、私の友達なんかじゃなかったッ!!」 


そんなものじゃ断じてなかった。そんなちっぽけな存在では決してなかった。

そう、貴女は





みほ「貴女は私の―――――全てだったんだッ!!」




865 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/02/16(土) 22:23:38.02 ID:S0bhx1iI0


『エリカさんありがとう。私はあなたのおかげで戦車道に、自分に誇りを持てるようになりました』



ごめんなさいエリカさん。そんなもの、私は持てていなかった。

私の誇りは、貴女と共に在ることだったから。

貴女がいたから、私は『私』でいられたから。


みほ「貴女がいたから、私の世界は輝いていた」


何もない虚空に向けて、愛おしさと感謝を込めて伝える。


エリカさんがいないなら私が生きている理由なんて無い。ううん、私は生きていちゃダメだったんだ。

エリカさんが私の全てで、エリカさんがいたから私が生きている意味になってたんだから。

でも、私は、生きないといけない。

貴女の最期の言葉を守らないといけない。

生きていちゃいけないのに、生きないといけない。


相反する命題は、けれどもあまりにも単純で、簡単な解決策で成立する。


私に生きる意味が無くて、私が生きていたくなくて、

エリカさんに生きていて欲しいのなら。


その時、視界がふっと明るくなる。

見上げると先ほどまで曇り切った夜空が僅かにひらけ、連なった月明かりが私を照らしていた。

偶然というにはあまりにも出来すぎている。

その月明かりに運命を見出すのはあまりにもロマンチックなのかもしれない。

神様なんていないのだから。誰も私を祝福するわけがないのだから。

それでも、この気持だけは嘘でも空っぽでもないから。


みほ「エリカさん。私は、西住みほは、貴女のことが大好きでした」


降り注ぐ月光に向かって両手を広げる


みほ「だから、私の全部を貴女にあげます」


全てを失い、生きているだけの私であっても、貴女の器くらいにはなるかもしれない

私なんかよりも、貴女が生きていたほうがきっと、未来は輝いていて、私はそれを誰よりも望んでいるから。


雲が晴れていく。揺らめく月光がゆっくりと広がっていく。

その輝きが私の『世界を』照らしていく。

そこに、もういなくなった貴女を見た。

だからこれは、『私』の最期の言葉。

『私』が貴女に贈る祝福の言葉。



「おかえりなさい」



866 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/02/16(土) 22:24:16.82 ID:S0bhx1iI0




ごめんなさい




867 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/02/16(土) 22:28:14.36 ID:S0bhx1iI0
ここまでー

あー!!あー!!あー!!なっがいなっがい!!めっちゃ長くなりました!!
このSSは私が今回投稿分を書きたくなったがために無理やり延命してきましたが、ようやく目的が果たせました。

これなければ>>95あたりで過去編さっさと終わらせて本編に入る予定だったのに思いついたからには書かないと…となった結果ここまで来てしまいました。

もうちょっと、もうちょっとで終わるんでもうちょっとだけお付き合いください。

また来週
868 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/16(土) 22:42:22.24 ID:eF0YnkzS0
あんたスゲーよ、おつ
869 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/16(土) 22:44:02.38 ID:mbYgIXHqo
乙!
870 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/16(土) 22:44:29.79 ID:xaAo1yvm0
乙でした!
871 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/16(土) 22:48:18.70 ID:k+KMJ6Leo
毎週待ってるからゆっくりやってくれ
872 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/16(土) 23:21:31.05 ID:iW6rIEWkO

漸くここまで来た、待った甲斐があったよ
とはいえそうなるのもおかしくないよなぁ、エリカいないと本当に何も変わらず変えずに過ごしてただろうし
873 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/17(日) 00:44:54.03 ID:LOzK0lxH0
お疲れ様です、毎週楽しみにしてます!

あぁ、みぽりんが壊れていくぅ…
874 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/17(日) 00:50:38.53 ID:s9sP+7QT0

来週も楽しみです
875 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/17(日) 01:09:13.06 ID:SexHg4oX0

最初立ち直ったように見えてあれっ?って思ったら開き直って狂っただけだった
876 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/02/17(日) 01:12:46.86 ID:Mc4mC+UFO
乙でした。人が壊れる場面をこれほど美しく感じたのは初めてだ、素晴らしすぎる。
877 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/17(日) 01:21:42.67 ID:K9OYxJLZ0
乙!
依存と言うのすら生温いレベルの……まぁ、文字通りみほの全てだったもんなぁエリカ
そしてこれ、最後の一押しをしてしまった小梅の胸中を思うと……
こんなとこで見捨てられるか、もちろん完結まで付き合うぜ
878 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/17(日) 13:43:49.03 ID:E7+5hcfQ0
話の展開がうますぎる
こんなに面白いss久しぶりだ
エタらないようにだけ祈ってます
879 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/02/17(日) 13:46:11.24 ID:SlXIVAQe0
乙でしたー
880 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/02/17(日) 15:13:24.05 ID:c+NvnzQqO
前回吹っ切れて、まだこれから堕ちるのか…って思ってたらもう手遅れだった…
881 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/17(日) 23:16:03.65 ID:tzDl0Z480
開き直ったって言うか、余計自覚しちゃった訳よな
小梅は前向いてほしかったのに悲しいわ
882 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/02/18(月) 19:33:03.16 ID:HaAXRT2x0
もうそろそろスレの書き込み上限に達しそうなんだから、
毒にも薬にもならないくだらない感想書いてレス数を消費するな。
作者に気遣いもできないカス共が。
883 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/18(月) 19:37:34.96 ID:lcpBHtQe0
句読点ageカスに比べたら幾分かマシだろうよ
884 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/02/18(月) 23:59:12.42 ID:SFMjy95v0
( ´ー`)y━・~~~
885 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/19(火) 04:51:10.54 ID:BHjp/1MGO
>>882
良識ある人ほど、こーいうバカなレスに反応してしまうので、合えてつっこんどくが、
ほとんどの書き手側からすれば「雑談」ですら嬉しいんだからな。
「自分の作品のスレにそれだけ人がいるんだ」、「読んでくれる人がいるんだ」って感じられるんだから。
んでこの作者さんはそのほとんどに入らないんとは思えない程度に社交的な人だからな。
886 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/19(火) 07:48:50.48 ID:/4wsix1U0
>>883-884
ageカス云々の指摘とその直後のage煽りって他のスレでもよく見るけど全部同一人物?
887 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/19(火) 22:08:09.60 ID:1CEh+uxe0
>>886
同じようなレスが何個かあるし、このスレにおいては同一人物なんじゃねーの
888 :888 [888]:2019/02/20(水) 00:35:26.78 ID:XThcE0nR0
888
889 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/20(水) 14:37:17.32 ID:dCgwhtP2O
むしろ雑談してくれるなら喜んで迎え入れるわ。
自分の作品投稿以外なんのレスもないスレッドの寂しさと言ったらもうね
人がいつくくらい面白いSSかけよっちゅー話なんだけどさ
誰しもがこんな面白いSSかけるわけじゃねーっちゅーの。
このSSの終わりが近いと思うとつらたん
890 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/20(水) 16:07:56.73 ID:D5Fze8PS0
>>1が言うならまだしもお前は誰なんだよwwwwww
891 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/21(木) 08:08:13.89 ID:IjFPypirO
誰ってそりゃ読者でしょ

ここまで書き続けて来てくれてありがとう
二年前からずっとおっかけてるぜ
892 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sagesage]:2019/02/23(土) 13:22:57.06 ID:u/zuRrm7O
何なんだよこの勝手な解釈w
893 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/23(土) 18:01:40.69 ID:OC5mAu7o0
え、二次ってそういうもんだろ?
894 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/23(土) 19:06:21.56 ID:Ym2xybmOO
...まあ、そうかもな。悪かったよ。
更新を待とう。そのために集ったんだ。
それは間違いない(キリッ
895 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/02/23(土) 22:00:31.94 ID:mQ6adVH+0





朝の冬空は彩りが薄く、どこか寂しそうに見える。

道を歩く人はそのほとんどが黒森峰へと向かう生徒たちで、私もまたその一人だった。

いつもなら纏ったコートでも防ぎきれない寒さに身を震わせながら歩いているが今日は違った。

寒さなんて気にならないぐらい心が温かく、歩みは淀みない。

けれども、私はどんどんと道を行く生徒たちに抜かされていく。

それは私の歩幅がいつもより狭くなっているから。

そして、そうしている理由はただ一つ。みほを待っているから。


妹は、みほはあの事故以来一度も学校には来ていない。

学生寮の部屋に閉じこもり、誰とも会おうとはしなかった。

無理やり会おうとしたところであの子を傷つけるだけだから、ただ待つ事しか出来ず、そんな状況に歯がゆい思いを感じていた。

そうして何も進まないまま日々が過ぎ、年が明け、もうすぐ黒森峰ではもうすぐ3学期が始まると言った時、突然みほから電話が来た。


『お姉ちゃん、私ね。学校、また行くよ』


その言葉を一瞬理解できず、私は言葉を失ってしまった。

そしてそれが幻聴や聞き間違いでないと理解した途端、私の両目から涙がこぼれだした。


まほ「……そうか、そうか」


声に喜びと泣き声が同居する。

あの事故以来ずっと塞ぎ込んでいたみほがようやく立ち直ってくれたのだと。


『だから、もう部屋に来なくて大丈夫。ちゃんとご飯も食べてるから』


言いたい事はたくさんあったけど言葉に出来ず、私は嗚咽交じりの吐息で返事をした。



そして待ちわびていた新学期の日が来た。

出来る事なら迎えに行ってあげたかったが、みほには断られたし何より自分一人で部屋を出る決意があの子には必要なのかもしれない。

そう思い私はみほの言葉に従って先に通学路を歩いている。


まほ「まだ、か」


先ほどから何度も後ろを振り返っては小さくため息を吐く。

みほの姿はいまだ見えず、その度に胸の中に小さな疑念が生まれてしまう。


みほは、こないんじゃないかと


そう思うたびに頭を振って疑念を散らす。

私があの子を信じないでどうするのだ。

あの子は、自分で決意したんだ。だから、私はあの子を信じる。

そう思いなおしてまた小さな歩幅で歩み始めると、ふと周囲の様子がおかしい事に気づく。


さっきまで通学路に満ちていた生徒たちの和やかなざわめきが小さくなり、代わりに動揺や驚きの混じった囁きが通学路を満たしていく。

先ほどまで前を向いていた生徒たちの視線が後ろを向いていく。
896 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/02/23(土) 22:03:10.49 ID:mQ6adVH+0

どうしたのだろう。

つられて私も振り返る。

先ほどまで通学路いっぱいに広がっていた人波の真ん中が、まるで道のように開けて、その最奥に一つの影があった。


まるで今にも消え去ってしまいそうな真っ白な輪郭。

それが誰なのか気づけなかった。

間近まで来てようやく、その影が私の欲しっている、待ち望んでいた人なのだと気づくことができた。


まほ「みほ……」

「……久しぶりですね」


赤星から聞いてはいたが、実際に見るとみほの変貌ぶりにどうしても言葉を失ってしまう。

あの鈴の音のような可愛らしい声は、掠れ切って低くなり、

あの穏やかで、見ていると和んでしまう栗毛はまるで雪のように、燃え尽きた灰のように真っ白になっていた。


私の動揺を見て取れたのか、みほは真っ白な前髪を少し不思議そうにいじる。


「赤星さんもですけど、流石にこれには驚きますか」

まほ「その、すまない。聞いてはいたんだが実際に見るとな……」

「別に謝らなくてもいいですよ」

まほ「あ、ああ」


ぎこちない私を置いてみほは颯爽と学校へと向かい歩き出す。

私も慌てて追いかけてその隣を並んで歩く。

やはり今のみほの姿は目立つのだろう。周囲の視線がチクチクと刺さるが、そんな事よりも妹との久しぶりの会話の方が大事だ。


まほ「それにしても……本当に良かったよ。赤星も喜ぶ」


あの事故が残した傷は未だ癒えてはいないのだろう。

それはみほだけではなく私も、赤星も、エリカの家族も。事故の関係者の心には未だに傷が残っているのだろう。


「あの子には迷惑かけてばっかでしたから。ちゃんとそのあたりお礼言っておかないと」

まほ「別に赤星はそんなの求めたりしないさ。友達なんだから」


あの子も事故の当事者なのに、心に負った傷はみほと変わりないはずなのに、誰よりもみほの事を心配していた。

乗員が学校を去っても、一人残って戦車道を続ける決心をするのは決して並大抵のことではない。

その姿は、その精神は、かつてエリカが評した『強い人』という言葉を証明していた。

そんな友達が、みほを想ってくれていることに心から安心する。


「そうだ。隊長、今日は練習あるんですか?」

まほ「……一応、始業式の後に練習はあるが。別に、今日は休んでも良いんだぞ」

897 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/02/23(土) 22:04:54.69 ID:mQ6adVH+0


正直、今のみほにはまだ戦車道をさせたくない。

あれだけの事故があって、大切な人を失って、それでもまた立ち直った強さは本物だと思う。

けれど、まだ自分では気づいていない『傷』があるのかもしれない。

見えない傷は、だからこそ厄介だ。

私はもう二度とみほが悲しむ姿を見たくない。あんな、泣き叫ぶ姿を。

それが心配だから、今はまだゆっくりと普通に学生生活を送って欲しい。

しかしみほは何の憂いも心配も無いといった様子で、


「いえ、参加します。ブランクを早く取り戻さないと」


躊躇いなく言い切ったその声に戦車道への忌避感は感じない。

心配も憂いも私の中にあるが、それでもみほが望むのであれば、本人の意思を尊重してあげようと思う。

戦車道をまた始めてくれる事自体はとても嬉しいのだから。


まほ「そうか。でも無理はしないでくれ」

「はい。お気遣いありがとうございます隊長」


その礼儀正しい返事に私は押し黙ってしまう。

声の事も、髪の事ももう気にしてはいないが、みほと会ってからもう一つ気になっていることがあった。


まほ「なぁ、そんなかしこまらなくてくれ。別に今は試合中でも練習中でもないのだから」

「そうはいかないですよ。体面ってものがあるんですから」


確かに以前私の事は隊長と呼ぶように言った事がある。

でもそれは妹だからといって贔屓はしないという事を周りに知らしめるためと、みほ自身にその事を理解してもらうためのやったことだ。

通学路での何気ない家族の会話にまで持ち込んで欲しいとは思わない。

みほもプライベートでは普通にしていたというのにどうしたのだろうか。


まほ「体面……いや、私たちは姉妹なんだからそんなの気にする奴はいないさ。なぁみほ――――」

「隊長」


みほがその歩みを止める。私が振り返ると、みほはまっすぐこちらを見据え、






「私は、逸見エリカです」






898 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/02/23(土) 22:09:01.38 ID:mQ6adVH+0


まほ「……は、ははっ。何を言ってるんだ」

「私は、あなたの妹の西住みほではありません」


冗談というにはあまりにも唐突すぎるその言葉に、私は乾いた笑いしか返せない。

そんな私を、みほは心底心配したような目で見てくる。


「隊長こそどうしたんですか。私をみほなんかと間違えるだなんて」

まほ「冗談にしては、ちょっと悪ふざけがすぎないか?」

「冗談……いえ、私は冗談なんか言ってませんよ」


どうやらみほの冗談はまだ続いているようだ。いくら事故をひきずらないで欲しいと言っても流石にこれはいけない。

私は咳払いをして、少し声のトーンを落とす。あまり責めすぎないように。説教臭くならないようにしないと……


まほ「……みほ、前向きになるのは良い事だ。必要な事だ。だが……エリカを馬鹿にするような真似はやめるんだ」


いくら事故の当事者であろうとも、いくらみほと親しかったとしても、死者を冒涜するような事を許すわけにはいかない。


まほ「お前がエリカの事で辛い思いをしたのは良く知っている。だけど、だからといって冗談でも言っていい事と悪い事があるだろう?」

「私が逸見エリカであることは嘘でもなければ冗談でもないですよ」


まるで悪気のない、後ろめたさを感じないみほの声に少し、本当に少しだけ苛立ちを覚える。

言葉に、棘が生えていくのを実感してしまう。


まほ「……なぁ頼む。はっきりいって不愉快だ」

「そんな……どうしたんですか隊長」


まるで反省する素振りの見えないみほに私はため息をつく。


まほ「どうかしてるのは、お前だろ……みほ、いい加減にしてくれ。辛い事があるならちゃんと話してくれ」

「ですから私はみほじゃなくて」


まだ言うのか。いくらなんでもこれ以上は私も怒ってしまうかもしれない。

ああでもしかし、みほにも何か事情があって……いや、けれどこんな事許されるわけがない。

でもここでみほを叱責したらまたみほが……落ち着いて、冷静になるんだ。


まほ「みほ……やめてくれ」

「隊長こそいい加減にしてください。私は、逸見エリ―――――」

まほ「やめろッ!!!」


突然、弾けるような声が通学路に響き渡る。

先ほどまでのざわめきは吹き飛んで、沈黙が広がっていく。

怒声の張本人である私もまた、自分が突然放った声に驚き、言葉を失っていた。


周囲の視線が私たちを突き刺してくる。


「隊長……?」

まほ「っ……こっちにこいッ」


それに耐えられなくなった私は無理やりみほの手を引き、逃げるように校門をくぐっていった。

899 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/02/23(土) 22:14:37.67 ID:mQ6adVH+0




みほの手を無理やり引き、私は人気の無い体育館裏にやってきた。

いきなり怒鳴られた挙句こんなところに連れてこられたのを不満に思っているのか、みほは怪訝な様子でこちらを見つめている。


「隊長、急にどうしたんですか。始業式始まっちゃいますよ」

まほ「そんなのより、今はお前の事だ」


始業式なんてどうでもいい。

とにかく、今は目の前のエリカを名乗るみほと話さなければならない。

どうして自分がエリカだなんて言いだしたのか。

それをちゃんと聞きだしてやめるよう諭さなければならない。

隊長だとか姉だとかの前に、人として、私はみほと話さなければならない。


私の様子に逃げられないと悟ったのかみほはふっと、息で笑う。


「……やっぱり、いきなりは難しいか」


みほの声が、いや、話し方が、以前のような柔らかく可愛らしい調子になる。

少なくとも、先ほどまでやっていたエリカの真似はやめてくれたようだ。


まほ「いったい、何のつもりなんだ」

「お姉ちゃん、私はね、西住みほはもういないんだよ」


みほの声は嬉しそうで、楽しそうで、それでも私の混乱を取り去ってはくれない。


まほ「……わからない。何を言っているのか全然わからないぞ」

「だからね、あの事故で死んだのはみほなの。で、エリカさんは生きているの」

まほ「頼む……わかる言葉で言ってくれ」


私の懇願にみほは困ったように笑うと、まるで聞き分けのない子供に話すかのように淡々と語り掛けてくる。


「西住みほなんかよりも、逸見エリカの方が価値があるんだよ。だから、西住みほじゃなくてエリカさんに生きてもらう事にしたの」

まほ「みほ……そんなの、出来るわけないだろ」


何を、何を馬鹿な事を言っているんだ。

子供だって騙せない理屈をまるで世界の真理かのように語ってくる。

その瞳には何の後ろめたさもなく、かつての、エリカがいた時のみほのままで、

ずっとその瞳が戻ることを願っていたのに、今は恐怖すら感じてしまう。


「大丈夫。何も心配することなんてないよ。これからはエリカさんがいるから―――――大丈夫ですよ隊長。これからは私がいますから」


みほの声が再び低く落ちる。

姿勢を正し、先ほどまでの柔らかな雰囲気が消え去って、凛と、張り詰めたような表情になる。

それがみほの言う『エリカさん』なのか。そうだと言うのなら、


まほ「違う……お前は、エリカじゃない」


900 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/02/23(土) 22:24:40.77 ID:mQ6adVH+0

その口調も、立ち姿も、雰囲気も、きっとみほが間近で見たエリカを模倣したものなのだろう。

でもそれは所詮真似でしかなく、私から見たそれはひどく歪で、気持ちの悪いものだ。

どれだけ真似をしようとも、その真似が真に迫れば迫るほど、違和感が、いや、嫌悪感が増していく。


「私はエリカです。エリカになってみせます」

まほ「なあみほ。ちゃんと話そう。今日はもう学校は休んで、私も休むから。一緒にちゃんと話そう」

「大丈夫です。私が、逸見エリカがみほの分も頑張りますから」


みほは、私と会話をしようとはしていない。ただ、自分の言い分を伝えているだけなのだ。

納得してもらおうだなんて思っていない。だってみほは事実を言っているつもりなのだから。


まほ「お前の辛さがわかるだなんて言うつもりは無い。だから、相談してくれ。

   辛い事、悲しい事、ちゃんと話してくれ。誰かを責めたいのなら私を責めるんだ。

   そんな、そんなやり方で自分を責めてはいけない」


みほがエリカを侮辱しようと思ってるわけがない。

だってみほは誰よりもエリカの事を大事に思っていたのだから。


「別に私は自分を責めてなんかいませんよ。悪いのは全部みほなんですから」


なのに、なのになんでそんな事を言うんだ。

エリカはそんな事を言わないなんてこと、分からないわけが無いのに。

みほは、私よりも長くエリカといたのだから。


まほ「……やめろ。エリカだって、そんな事望んでない」

「……望んでますよ」


その言葉には確信めいたものがあった。

みほはそっと微笑む。


「元々あの子に副隊長は荷が重かったんです」

まほ「やめてくれ……」


お前はみほなんだ。エリカはもう、いないんだ。

そんな事をしたって何にもならないんだ。


「というより、あの子に戦車道なんて無理だったんですよ」

まほ「お願いだ……みほ……」


お前はエリカの事を誰よりも知っていたのに。なんで、なんでそんな事を。

エリカはお前の事を大切に思っていたのに。


「だってそうでしょう?あの子は、みほには何も無いんですから。」


その表情が微笑みから、嘲るようなものに変わる。


「何もない癖に人一倍傲慢で、何でもできるって思ってた。あの事故だってみほがいなければ起きませんでした」
901 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/02/23(土) 22:25:32.13 ID:mQ6adVH+0


お前とエリカは友達で、そこに赤星もいて、怒ったり、泣いたり、笑ったりして、

毎日のように、一緒にいて。

エリカは、口ではお前を嫌いだなんて言ってたけど、そんなの嘘だって、わかってるのに。

だってエリカは、私よりもお前と一緒にいる事を選んで、

お前は、エリカのおかげて前を向けるようになったって、

戦車道が、楽しいって、

お前は、お前は、お前は、




「だから……あの子が死んで良かったんですよ」



『だから、今はもう少し、あの子の隣にいようかなって思います』






私が、一番欲しかったものを持っていたのに





902 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/02/23(土) 22:27:37.60 ID:mQ6adVH+0


気が付くと、みほが呆然と頬を押さえてこちらを見つめていた。

私の息は荒くなっていて、いつの間にか握りしめた拳がじんじんと痛んでいて、

自分が何をしたのか分からなくて、

だけど、


「……隊長?」


みほが口を開いた瞬間、私は再び殴りつけていた。


「ど、どうしたんですか西住隊長っ!?」

まほ「やめろッ!!」


みほは何が起きたのかわからないといった目で私を見つめる。

構わず胸倉を掴み上げ頬を殴りつける。

誰かを殴るなんて初めてで、殴り方なんてわからなくて、それでも、胸の奥底から這い出てくるどす黒い感情のまま、私は拳を打ち下ろす。


「まほ、さん……」

まほ「エリカをッ侮辱するなッ!!お前が、エリカなわけあるかッ!!」


そうだ。お前がエリカなわけない。

そんな無様なやつが、エリカなわけがない。

何もかも投げ出して、あまつさえ死者の名を騙るようなやつがエリカなわけが無い。


だから、何度も、何度も殴りつける。

歯にでもあたったのか、拳が裂け、血が出る。

どうでもいい。今はただ、こいつを。


まほ「お前はッ!!エリカじゃないッ!!」

「わ、私は……エリカです」

まほ「っ……だったらっ!!」


だったらどうしようとしたのだろうか。

その終点を理解しないまま、私は再び拳を振り上げて、


小梅「やめてくださいっ!!」


何度目かの殴打は、みほに届くことは無かった。

表での騒ぎを聞きつけたのか、いつのまにかやってきた赤星が私にしがみつき、必死でみほから引き離そうとしていた。


まほ「離せっ!!こいつはッ!!こいつだけはッ!!?」

小梅「お願いです落ち着いてくださいっ!!?みほさんっ、なんで、何があったんですかっ!?」


小柄な赤星のどこにそんな力があったのか、胸倉を掴んだ手はみほから引きはがされ、

その場でへたり込んだみほは、呆然と私をみつめていた。

その様子に構わず私は拳の代わりに怒声を叩きつける。


まほ「ふざけるなッ!!ふざけるなッ!!なんで、なんでッ!?お前は、エリカの友達だったのにッ!!」

小梅「隊長ッ、隊長ッ!!っ……まほさんッ!!」


903 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/02/23(土) 22:30:12.49 ID:mQ6adVH+0


赤星の必死の制止は私の怒りを抑える事は出来ない。

私はただ、目の前のあいつに痛みを与えないといけない。

義憤なんて綺麗なものではなく、憎悪なんて生易しいものではない。

タールのように真っ黒でドロドロとした感情が、私の中から溢れだしてくる。


小梅「まほさんッ!!みほさんもッ!なんで、何があったんですか!?なんでこんなことにっ!?」


赤星が何かを言っている。

でも、私の耳はそれを認識する余裕はない。

許さない。絶対に、許さない。


まほ「エリカは、お前の事をッ、大切に思ってたのに!!


私の絶叫を聞いたみほは、口の端から零れる血をそっと拭うと、また先ほどのように姿勢正しく立ち上がる。

そして先ほどのようにエリカのつもりで、どこまでも歪で、気持ちの悪い模倣で、


「私は、そんな事思ってませんよ。私は――――みほが大嫌いでしたから」


その瞬間、私は赤星を突き飛ばし、みほの胸倉を掴みあげる。

私の怒りを前にみほは無表情なままで、その姿が余計に私の怒りを燃え上がらせる。

だから、


まほ「お前はッ!!なんで、なんでッ!!」


私は『言いたくなかった』事を言ってしまう。




まほ「なんでお前が生きているんだッ!?」




小梅「まほさんッ!!」


突き飛ばされ、倒れこんだままの赤星が悲痛な叫びをあげる。

その声に私はハッとして、自分が言った言葉の意味を理解して、

後悔が津波のように押し寄せようとした時、

みほが、まるで救いを得たかのように微笑んだ。


「……私も、そう思ってるよ」


たぶん、その瞬間、私の妹は死んだのだと思う。


まほ「ッ……ああああああああああああああああああッ!!!!」


赤星の縋りつくような制止でももう止められず、騒ぎを聞きつけた先生たちに止められるまで、

私は怒り狂いながら、泣き叫びながら、ひたすらその『偽物』を殴り続けていた。

904 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/02/23(土) 22:31:48.62 ID:mQ6adVH+0
ここまでー

たぶん来週で終わりになると思います。

もしかしたらもう一回追加されるかもしれません。

まぁどちらにしろもうすぐ終わるのでお付き合いください。

また来週。
905 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/23(土) 23:01:28.83 ID:8+p1pmV9O
お姉ちゃん激おこの理由がついにきたか
確かにまほさんがみほを嫌悪するに十分な理由だと思う
まるで四苦八苦じゃないか
個人的にはもっと拗れろ思う いいぞコレ
906 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/23(土) 23:07:00.93 ID:2cZt5Ju3O
乙でした!
907 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/23(土) 23:30:03.79 ID:QUA+zzPmO

お姉ちゃん・・・
みほに対して"嫉妬"しちゃったんだろうなぁ
とはいえみほにとっても好きな人にストレートな好意を持たれててそれに相応しい振る舞いが出来るまほの存在は羨ましかっただろうに・・・
908 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/02/23(土) 23:48:01.46 ID:HvM7hthR0
乙でした
来週も楽しみにまってます。
909 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/23(土) 23:50:14.30 ID:EFaH6+yM0
乙!
こりゃまほもキレるわ……でもみほも心底からの行為だろうからなぁ
……って、来週かその次で終わり?こっから一体どうまとめるんだ……楽しみだ
910 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/24(日) 00:06:40.60 ID:2tM9wONs0
いつも楽しく見てます。
過去編が終わったら、その先もあると嬉しいです!
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