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【ガルパン】エリカ「私は、あなたに救われたから」
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787 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/01/19(土) 19:04:45.29 ID:mYSOjYXE0
みほ「……ごめん、私寝ぼけてたみたい」
エリカ「……その、疲れてるならちゃんと言いなさいよ?倒れられたら困るんだから」
完全に心配と気遣いに振り切った対応に私はただただ申し訳なくなってしまう。
いや、本当にどういうことなのだ。まだ中等部だというのに高等部で大会に出て、決勝の場に立っている夢だなんて。
エリカさんの言う通り気が早いにもほどがある。とりあえず、今は頭を下げるしかない。
みほ「ごめんなさい……大丈夫だよ、もう目は覚めたから」
エリカ「そ、そう。ならいいけど……気を付けなさいよね?あなたただでさえぼーっとしてることが多いんだから」
とりあえず納得してくれたようでほっとする。いくらなんでも立ったまま寝ぼけるなんて曲芸を何度もするとは思えないが、だからといって再発が無いとも言えない。
今日は早めに寝ようかな……などと思いながらももう一つ、気になることがあった。
みほ「今日のエリカさん、なんだか優しいね」
なんというか言い方はアレだがちゃんと私の心配をしてくれる。
いつものエリカさんなら、きっと心配しててもそれを表に出さずに、嫌味交じりにやっぱり心配を隠せてないみたいなすっごくエリカさんらしい心配をしてくれそうなものなのだけれど。
まぁ、それだけ私の様子がよっぽどだったと言われればそうですよね……と納得してしまうのだが。
勝手に気になっておきながら勝手に自己完結しようとしている私の内心なんて知らないであろうエリカさんは、目を見開いてキョトンとした顔をした後、ちょっと唇を尖らせて不満をあらわにする。
エリカ「あのねぇ……何が優しいよ。友達の様子が変だったら心配するのが当たり前でしょうが」
その言葉を、聞き逃すほど私の耳は節穴では無かった。
みほ「エリカさん、今、なんて」
エリカ「はぁ?何、まだ寝ぼけてるの?」
みほ「いいから、もう一回」
エリカ「……友達の様子が変だったら心配するのが友達でしょうが」
聞き間違えでも、寝ぼけた私の妄想でもない。『友達』。その言葉は確かに、私とエリカさんが友情で結ばれているという事を伝えていた。
みほ「え、え、エリカさん、私の友達なの!?」
エリカ「……」
エリカさんが、心底軽蔑したという目で私を見る。
みほ「ああああ違うっ、違うの!?エリカさんと友達なのが嫌なんじゃなくて、エリカさんが私を友達だと思ってくれているのが嬉しくて、
意外でっ!!驚いただけで決して嫌だとかじゃないの!!嬉しいの!!ホントに!!ボコが天から降ってきたみたい!!」
788 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/01/19(土) 19:06:14.69 ID:mYSOjYXE0
マズイマズイマズイ、今の言い方では散々友達になりたいと言っていたのに「あ、本気にしてたんだー?」という最悪な梯子外しをした様に聞こえてしまう。
焦りに焦る私は訳の分からないジェスチャーを交えて訳の分からない弁解をする。
エリカ「何慌ててんのよ気持ち悪い……今さらどうしたのよ。あなたが友達になってって言ってたんじゃない」
みほ「そ、そうだけど……」
散々言ってたのに全てを袖にされてきたから、いきなり受け入れられたことに驚いているんだけれど、それはエリカさんには伝わらなかったようだ。
エリカ「ならそんな動揺しないでよ。友達になっただけで別に何も変わらないわよ」
そうかもしれない。そうなのだろう。別に私たちが友達になった所でエリカさんはバンバン嫌味を言うだろうし、私が何かやらかしたら怒るのだろう。
でもでも、それでも友達だという彼女の言葉は、私にとってただの『関係性』を表す言葉なんかじゃなくて、なんていうかこう、とにかく大切な事なのだ。
エリカ「ほら、長居してると隊長に怒られるわよ。カギ閉めるの隊長なんだから。もう帰りましょ」
そう言って出口へと踵を返すも、私は感動と感激で身動きが取れない。
そんな私にエリカさんは首だけ動かして視線を向けてくる。
エリカ「……置いてかれたいの?」
みほ「う、ううん!待って!」
その言葉に金縛りは解けて慌ててエリカさんのいる日陰へと向かおうとすると、エリカさんはため息をついてこちらに振り返る。
エリカ「全く、あなたはいっつももたついてるわね。……じゃあ、行きましょうか」
そう言って、手を差し出してくる。
『ほら、いつまでもへたり込んでんじゃないわよ』
懐かしい光景。あの時と違うのは、彼女が日陰にいる事と、私がちゃんと立っている事。エリカさんが、微笑んでいる事。
その姿にたくさんの想い出を思い出す。
そうだ、私たちは友達だ。毎日一緒に帰って、休みの日は一緒に遊んで、時々お泊りして、今日もこの後新しくできたスイーツのお店に行こうって話してて、
なんてことない、でも、楽しくて仕方がない学生生活を送っているんだ。
こんな大切な事を忘れていただなんて私、本当に寝ぼけてたんだな。なんて自嘲して、それさえもきっと二人で笑い合える想い出になるんだろうなって。
そう思えて、私は笑顔で彼女に笑いかける。
みほ「――――うん!」
そう言って、日陰の中で差し出された手を取ろうとした瞬間――――――その手が消えた。
みほ「え?」
手だけじゃない、エリカさんも、床も壁も天井も空も夕日も何もかもが無くなって、真っ白になっていく。
みほ「なに、これ……?エリカさん?エリカさん!!?」
叫んでも返ってくる言葉はなく、何が起きているのかわからないまま、私の視界も意識も真っ白に染まっていって―――――
789 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/01/19(土) 19:09:32.76 ID:mYSOjYXE0
・
・
・
みほ「……ん」
最初に感じたのが、窓から入る日差しの眩しさ。次に感じたのがツンとする消毒液の匂い。
遅れて、全身にまとわりつく倦怠感。意識と共に少しずつ目覚めていく感覚が、私がベッドに寝かされている事を教えてくれた。
―――どこだろう、ここ。
自分の置かれている状況が分からず、私は困惑することしかできない。
みほ「なんで、私……」
その時、少しずつ蘇ってきた感覚が私にもう一つ新しい情報をくれた。――――私の手を握っている誰かの感触を。
もぞもぞと体を動かそうとすると全身に痛みが走り、仕方なく眼球と、わずかに動かせる首だけで握られている右手の方を見てみる。
そこには、包帯に包まれた私の手を握ったまま、こくりこくりと舟をこいでいるお姉ちゃんがいた。
みほ「お姉、ちゃん?」
声すら上手く出せない。けれども、私の掠れ切った声にお姉ちゃんはぱっと目を開く。
まほ「……みほ?――――みほっ、みほっ!目が覚めたんだなっ!?」
お姉ちゃんは縋りつくように私の肩を掴むとぽろぽろとその瞳から涙を流す。その目元には濃い隈が出来ていた。
まほ「良かった……ホントに良かった……」
みほ「お姉ちゃん、ここ、どこ……?」
お姉ちゃんが子供のように泣く姿なんて初めて見るもので、けれども自分の現状が何一つわからない事の方が不安だから、
泣きじゃくるお姉ちゃんに尋ねる。私の質問に、お姉ちゃんははっとして目元を拭い、赤くなった瞳のままゆっくりと語り掛ける。
まほ「ここは病院だよ、お前は入院してるんだ」
みほ「え……なんで……?」
入院、そう言われてようやく私のいる場所が病室なのだと気づく。個室なのか、私の以外ベッドはないようだ。とりあえずここがどこなのかは分かった。
だが、新しい疑問が出てきてしまう。――――なんで私は入院しているのか。
まほ「覚えてないのか?……無理もないな。あれだけの事があったんだから……待ってて、今お医者さんを呼んでくる。お父さんも来てるんだ」
みほ「ねぇ……何があったの……?今は、いつなの?」
そう言って席を立とうとしたお姉ちゃんを呼び止める。お姉ちゃんは一瞬ためらうような表情を見せるも、やがて胸の内を吐き出すように語り始める。
まほ「……お前は決勝の時に事故で流されたV号の乗員を助けて怪我をして、今日まで一週間も眠っていたんだ。」
曖昧だった頭の中に少しずつ記憶がよみがえってくる。ああそうだ、私は決勝に出ていたんだ。
大事な10連覇がかかった試合で、けれどもプラウダの人たちはとても強くて、追いつめられた私たちは、相手の裏を取るために動いて、
雨が、強くなって、プラウダは待ち伏せをしてて、撃たれて、崩れて、V号が、流されて、私は、それを――――
みほ「1週間……っ!?」
その瞬間、ベッドから体を跳ね起こす。
全身に痛みが走り、引きつるような声が出てしまうが、そんな事を気にしている余裕はない。
790 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/01/19(土) 19:11:11.93 ID:mYSOjYXE0
まほ「みほっ!?急に動いたら体が……」
みほ「お姉ちゃん決勝は!?試合はどうなったの!?」
まほ「えっ?」
お姉ちゃんの両肩を掴み揺さぶるように問いかける。
みほ「黒森峰は優勝できたのっ!?」
私は、自身の乗るフラッグ車を放棄した。それがどんな結果を招いたのか、私は知らなくてはいけない。
たとえ、どんな叱責を受けようとも。
まほ「黒森峰は……負けたよ」
みほ「……そっか」
お姉ちゃんの重い、絞り出すような声。わかっていた。あんな足場の悪く狭い道で車長がいなくなった戦車がどうなるかなんて。
胸の奥がじんじんと痛む。私はまた、誰かの期待を無碍にしてしまったのだ。
謝った所で許されはしないのだろう。私はお姉ちゃんの目を見ることが出来ず、そっと視線を落とす。
まほ「……悪いのは私だ。敗北も、事故も隊長である私に責任がある。みほが気にすることじゃない」
みほ「ううん……私がフラッグ車を投げ出したからなんだし。でも、そっか……負けちゃったんだね……」
まほ「……みほ、その……」
私を慰めようとしてくれているのか、その言葉が見つからないのか、お姉ちゃんは私に何か言おうとしては口を閉じるを繰り返す。
慰められる資格なんて私には無い。私は負けることが分かって助けに行ったのだから。
後悔はない。誰かの期待を裏切ったのだとしても、私は私がしなくてはいけない事をしたのだと思っているから。
そこまで割り切っているのに、それでも気持ちが落ち込んでしまうのは避けられない。その感情がため息とともに漏れ出してしまう。
みほ「エリカさんに、怒られちゃうな……」
まほ「……え?」
ああ、私はまた約束を破ってしまった。
みほ「約束したのに……一緒に優勝するって。……でも、仕方ないか。エリカさんの命には代えられないもん」
まほ「み、ほ……」
あの時濁流に飲みこまれているV号を見て、救助が間に合うだなんて到底思えなかった。
そして、動けるのは私だけだった。
だから私は動いた。その行いが軽率な、二次災害を招くものだと咎められるのならば、私は粛々と沙汰を受け入れるつもりだ。
それでも、それでもだ。私は助けたかった。赤星さんを、V号の乗員を、エリカさんを。
10連覇も名誉も誇りも、彼女たちの命より価値があるものとは思えないから。
それよりも、今の私にとって重要なのは私の今後ではない。もっと、大事な人がいる。
791 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/01/19(土) 19:13:55.71 ID:mYSOjYXE0
みほ「お姉ちゃん、エリカさんはどこにいるの?もしかして、入院してるの?そうだ、エリカさん足怪我して……だったら、お見舞にいかないとっ!!」
エリカさんはあの時怪我をしていた。足だけではなく頭や、恐らく見えない所にも。今すぐ彼女の様子を見に行かないと。
みほ「……でも、怒られるの怖いから、お姉ちゃんも一緒に来て……ね?」
まほ「……なぁ、みほ」
いくら覚悟が決まっていようともエリカさんのお小言は耳が痛くなる。
私だって怪我人なのだから勘弁してと言いたいところだが、おそらくエリカさんもそうであろう事を考えると望み薄だ。
私は一縷の望みをかけてお姉ちゃんに懇願する。
みほ「エリカさんお姉ちゃんの事大好きだから、きっとお姉ちゃんの前ならそんなにガミガミ怒ってこないと思うんだ。だから……ね?」
まほ「みほ。聞いてくれ」
正直、姉妹格差についてはいつか是正を促したいところだけれど、とりあえず目先の事をどうにかするためにその不平等を利用させてもらおう。
みほ「ああでも、それはそれで後で二人っきりの時に怒られるだけかも……」
まほ「みほ」
なんてことだ、エリカさんが目先の出来事に囚われてくれるような人ならこんな苦労しなくてすんだのに。
残念ながら私がエリカさんにお小言をくらうのは避けられない未来の様だ。仕方がない、今度ハンバーグをごちそうする事で少しでも留飲を下げてもらおう。
もっとも、そんな子供だましが通用するかははなはだ疑問だが。
みほ「あ、でも別にエリカさんが怖いとか嫌いとかじゃなくて、怒ってくるのはエリカさんが優しいからなんだよ?
私、こんなんだからさ。エリカさんが怒ってくれると本当に助かるんだだからね、」
まほ「みほっ……!」
みほ「……お姉ちゃん?」
重く、絞り出すような声。
私を押しとどめるようなその様子にお姉ちゃんが何か重大な事を伝えようとしているのだと察する。
まほ「……エリカのことなんだが」
みほ「……もしかして、怪我がひどいの?なら、すぐ行かないと!!?」
何を、何を楽観的に考えていたんだ。あの時、私よりも重傷だったのはエリカさんなのに。
私の全身が包帯に包まれているように、いやそれ以上に、エリカさんの体は大変なことになっているかもしれないのに。
全身に走る痛みが先ほどよりも強くなって私を止めようとする。
そんな事で止まってる場合じゃない。私は無理やり立ち上がろうと手足に力を入れる。
まほ「駄目だ!!そんな体で無理をするんじゃない!!」
みほ「何言ってるの!?私なんかよりもエリカさんの様子の方が心配だよ!!ねぇ、エリカさんはどこにいるのっ!?」
まほ「違う、違うんだみほ。そうじゃないんだ。エリカは、エリカは……」
お姉ちゃんは何かを伝えようと口を開くも、何も言わずに目を伏せる。
歯切れの悪いその様子に痺れを切らした私は、お姉ちゃんの制止を振り切って立ち上がろうとする。
みほ「……もういい、教えてくれないなら自分で探す」
まほ「っ……みほっ……!エリカは……エリカはッ――――――」
792 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/01/19(土) 19:14:37.14 ID:mYSOjYXE0
793 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/01/19(土) 19:17:15.89 ID:mYSOjYXE0
みほ「………………え?」
まほ「濁流に流されて、助かったのは……お前が助けた4人と、お前、だけなんだ……」
嗚咽を噛み殺そうとしているかのようにお姉ちゃんの言葉は絶え絶えで、その瞳からとめどなく涙が流れ落ちていく。
まほ「わた、私が、悪いんだ……私が……もっと、もっとちゃんと、してれば……」
みほ「…………うそ」
呆然と呟いた言葉は無意識のものだった。
たぶん、最後の理性だったのかもしれない。
みほ「うそ、嘘っ!?そんなはず、だって、だって私はっ!エリカさんを助けに行ってっ!!」
せき止められていた感情が激流となってあふれ出す。
大きく見開いた目から涙が零れだす。
信じられないから、信じたくないから。
だって、だって私はエリカさんを助けに行って、
みほ「嘘だよ……そんな、そんなわけないっ!!私は、私はっ!!!ちゃんとエリカさんの手を掴んでっ!?」
冷え切った彼女の手を必死で握りしめて、何があっても離しはしないと。
激しい濁流の中、私はエリカさんを助けようとして、そのために死ぬ覚悟までして――――――――なら、なんで私が生きているの?
ノイズのような音が頭の中を埋め尽くしていく。
それが、あの豪雨の音だと、激流の音だと気づいた瞬間、蘇る。
頬を撫でる指先
愛おしそうに髪を梳く手つき
彼女の、エリカさんの、貴女の、
794 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/01/19(土) 19:18:10.11 ID:mYSOjYXE0
『生きて』
795 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/01/19(土) 19:18:50.80 ID:mYSOjYXE0
笑顔が
796 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/01/19(土) 19:20:44.89 ID:mYSOjYXE0
みほ「そんな、そんな……そんなのって……」
まほ「みほ……みほっ!!?」
爪が皮膚を突き破りそうなほど強く自分の頭を掴む。
どれだけ揺さぶろうとも記憶は変わらず、私は、生きている。
なら、なら、エリカさんは、エリカさんは。
みほ「私はっ!?エリカさんを助けないといけなかったのにッ!?」
呼吸すら忘れ、体の痛みも、だるさも、何一つ感じなくなって、でも、頭の中を形容の出来ない痛みが襲ってくる。
みほ「私はッ、優勝なんかよりッ、10連覇なんかよりもッ、エリカさんがッ!!エリカさんがいるからッ!!なのに、そんなのっ!?」
私の命なんかどうでもよかったのに。エリカさんが救えればそれでよかったのに。
みほ「あ、あ、あああ、い、嫌ああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!?」
まほ「みほっ!?」
限界を超えた私の精神はもう、もう、叫ぶ、ことしか、できなくて
みほ「わた、私何のためにっ!?なんで、なんでっエリカさんがっ!?」
まほ「みほっ、みほっ!?だ、誰かっ!?誰か医者を呼んでくださいっ!!お父さんっ!!みほ、ねぇ、みほっ!?しっかりしてっ!?みほっ!!?」
エリカさんエリカさんエリカさんエリカさんエリかさんエりかさんえりかサんえリかさんえりかさん
なんで、いないの?
797 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/01/19(土) 19:23:48.78 ID:mYSOjYXE0
ここまでーまた来週。
そして今更の訂正祭り。
>>68
私の視線の先には、同じようにキューボラから体を出している逸見さんがいる。
↓
私の視線の先には、同じようにキューポラから体を出している逸見さんがいる。
>>249
『人と話してる時に考え込んでほかの情報をシャットダウンするのはやめなさい。鶏の方がまだ話をきいてくれるわ』
↓
『人と話してる時に考え込んでほかの情報をシャットアウトするのはやめなさい。鶏の方がまだ話をきいてくれるわ』
上記のように訂正いたします。
798 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2019/01/19(土) 20:54:30.03 ID:MdkcRADHO
乙でした。
まほも辛いだろうにしっかりお姉ちゃんしてるのは流石。でもああなっちゃうんだよなぁ、悲しい。
799 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/01/19(土) 21:35:43.87 ID:VkdRHGjkO
四年間唯一の関係性を持ってたエリカを助けられなかった、ってそらあそこまで壊れちゃうよな
大洗への転校やまほとの衝突後がどうなってるのか楽しみ
800 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/01/19(土) 22:47:10.03 ID:trNyXa/+0
「いよいよきたな」ってあと何度自分自身言うんだw
ここからみぽりんがエリカになる過程が描かれると思うと滾るものがあるな
801 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/01/20(日) 02:11:09.33 ID:aU0Yos/y0
乙
俺はまだハッピーエンド信じてるからな!
802 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/01/20(日) 02:11:31.13 ID:7bkvMjm3O
乙
ここまでこうなったお陰で原作みぽりんにも起こった苦悩にはあまり葛藤せずにしっかりとはっきりと決めていけたんだろうね
そしてこうなったからこそ苦悩しまくって本編までにああなるしかなかったんだろうね
803 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/01/21(月) 00:03:36.68 ID:hWoag1JXO
更新乙
読んでるだけのこちら側がここまで苦しくなるのに、ここまで書き上げ続ける
>>1
に感謝と賛辞を。
そして・・・みほとまほにどうか救いを…
804 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2019/01/21(月) 23:53:19.51 ID:r0NsESxU0
早く続きが見たい
805 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/01/22(火) 15:41:53.78 ID:OUJeDcHU0
>>804
ageんなゴミクズ
806 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2019/01/23(水) 00:34:14.77 ID:xhuPaEAd0
?
807 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/01/26(土) 19:59:44.31 ID:OnQF/8PI0
・
・
・
静かな病院の廊下。ある病室の外に二つの影があった。
そのうちの一つ――まほは床に膝を抱えて座り込み、もう一つの影―――しほはその隣で壁に寄りかかるように立っていた。
二人とも、目元に深い隈が出来ていて、お世辞にも健康的とは言えない見た目だった。
まほ「……私のせいだ。私が、余計なことを言ったから……」
まほが、顔を膝にうずめたまま泣きそうな声を出す。
彼女の妹みほは、受け入れがたい事実を前に錯乱し、看護師に容態を見られながら薬で眠っている。
そうなったのは自分のせいだと、まほはずっと自分を責め続けている。
しほ「あなたの責任じゃありません。私が事後処理でみほの看病をあなたたちに任せっきりだったから……あなただって、ここ数日ろくに寝てなかったのでしょう?」
まほ「だけど、だけど私は知ってたのにっ!エリカが、みほの……友達だってっ!!」
絞り出すような声。しほの胸に痛いほどの後悔が伝わってくる。娘を、選手たちを、逸見エリカを襲った悲劇は未だ終わってはいない。
事故の原因、被害者及び被害者家族への説明、今後の対策、マスコミへの対応。高校戦車道連盟の理事長であるしほはそれらの対応を必死でしている。
今、病院にいられるのも家政婦兼秘書である菊代に雑務を任せているからに過ぎない。それさえも菊代に大きな負担をかけた上での事である。
ろくに寝ていないのはしほも同じであった。無論そんな弱みを見せるような事はなく、彼女は気丈に前に立ち続けている。
しかし、それでも彼女は母なのだ。娘たちが心身共に傷ついているというのに傍にいてやれない事に、悔しさを感じてしまうのはどうしようもない。
そして、当事者であっても被害者では無い自分では、隣でうつ向いている娘にどれだけ慰めの言葉をかけようとも逆効果でしかないという事を、理解していた。
もっと娘たちと触れ合っていれば、心から話し合える環境を作っていれば、こんなことにならなかったのかもしれない。
そんな考えが頭をよぎる。しかし、しほはすぐにその思いを振り払う。
厳しく、冷たい母なのだという事はわかっている。それでも、それが西住流の次期家元である自分が出来る家族と流派の『両立』なのだと言い聞かせて。
言い訳じみた内心に自嘲しそうになるも、それを押し殺してしほはまほの肩に手を置く。
しほ「まほ……とにかく、ここは私に任せて。やっぱりあなたは家で休みなさい。常夫さんもいますから」
姉妹の父にしてしほの夫である常夫は、みほが眠っている一週間、まほと共に毎日のように見舞いに来ていた。
みほが目覚めた時も、しほに代わって今後の事を医者と話している最中であった。
今、常夫は家に戻っている。いや、しほが戻らせたのだ。常夫は仕事を休んでまほと共にみほに付きっきりだった。
そんな夫にこれ以上負担をかけるべきではないと判断したしほが家に帰して休ませているのだ。
出来る事ならまほも帰らせたかったが、「絶対に帰らない」そう言って廊下に座り込んだ彼女をこれ以上説得できるとは思えなかった。
ならばせめて貴方だけでも、と。
貴方も、いつまでも仕事を休むわけにはいかない、そうでなくともここで夫にまで倒れられたらどうすればいいのか。
そう言い含めて、ようやく常夫は頷いて、家に帰ってくれた。しほはそれに安堵した。
少なくともいざという時に夫を頼る手がまだ残ったことに。自分でさえどうなるかわからない中、後を任せられる人がいるのが心強いから。
……極限まで張り詰めた心は、これ以上夫の傍にいたら耐えきれなくなり、縋りついて、立てなくなりそうだったから。
「あ、あの……」
悲哀に満ちた会話は、突然かけられた声によって遮られる。二人が声の方に目を向けると、金髪の、随分と小さな、それこそ小学生にすら見えないほど幼い見た目の少女がいた。
けれども、彼女が纏っている服はプラウダの制服で、最低でも中学生なのだという事を示していた。
少女の目は真っ赤に充血していて、今にも泣きだしそうで、震える体を止めようと必死でスカートの裾を掴んでいた。
808 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/01/26(土) 20:01:57.02 ID:OnQF/8PI0
しほ「……あなたは」
「わ、私は……」
声を掛けてきたものの、二の句を次げないままおどおどとしている少女にしほが尋ね、少女はたどだどしく名を名乗る。
その名を聞いて、最初に反応したのはまほだった。いや、そもそもまほは彼女の顔に見覚えがあった。
決勝の前、挨拶に並んだプラウダの生徒の中で、一際目立つその容姿を、まほは覚えていた。
小学生のような容姿の彼女はつまり、高校生だった。
まほ「それで、お前は……何の用だ」
ようやく立ち上がったまほが少女に問いかける。
少女は病室の扉、おそらくその中にいるみほを震えながら一瞥すると、途切れ途切れに答える。
「わ、私……私が、あの時、V号を撃たせたんです……」
その瞬間、まほが少女に掴みかかる。少女の怯えた様子に構わず、怒りのこもった腕は小柄な少女の体を難なく吊り上げる。
まほ「お前がっ、お前がエリカをッ!?」
充血した瞳は目の前の少女への怒りで一杯で、締め上げる腕はどんどんその力を強めていく。
「ぐっ……あ……」
まほの激しい怒りへの恐怖と締め上げられる苦しさに少女は何も言えなくなる。
まほ「お前のせいでみほはッ!!」
しほ「まほッ!!」
空気を切り裂くような声。それと共にまほの手が掴まれる。
しほの制止に、まほは信じられないといった風に見つめ返す。
まほ「っ……だって、だってお母さんっ!!こいつがっ!!こいつのせいでッ!!?」
娘の叫びにしほは何も言わず、じっと見つめ返す。
その視線にまほは悔しそうに呻くと、ゆっくりと少女を締め上げる力を緩めていき、少女の足が地に戻る。
「げほっ……ごほっ……」
苦しそうに咳き込む少女に目線を合わせるようにしほはしゃがみ込む。
しほ「大丈夫ですか」
「え……?あ……」
しほ「……すみません。娘にはよく言っておきます」
そう言って頭を下げるしほの姿に、まほが納得できないように声を上げる。
まほ「お母さんそいつはッ!!」
しほ「まほ、あなたは下がってなさい」
まほ「だってッ!?」
しほ「――――下がりなさい」
809 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/01/26(土) 20:03:56.03 ID:OnQF/8PI0
冷たく、どこまでも感情の無い声。厳しく、時に非情なまでに冷静な母だという事は知っていたのに、それでも、初めて聞く声色だった。
その言葉に何も言い返せなくなったまほは、悔しそうに顔を歪めると大きく足音を立ててしほたちから離れていった。
その後ろ姿をしほが悲しそうに見つめていると、目の前の少女から泣き声が聞こえてくる。
「そ、そうです……全部、全部私のせいで……ごめ、ごめんなさい……」
頭を抱えて小さく縮こまり、がくがくと震えている。
ひたすらに、まるで呪文のように謝罪の言葉を呟き続けるその姿はあまりにも痛ましかった。
しほは、彼女の肩にそっと手を置くと、ゆっくりと語り掛ける。
しほ「……違います」
「え……?」
その言葉が信じられなかったのか、少女は大きく目を見開いてしほを見つめる。
しほ「あなたは、チームのためにできることをしただけです。事故は、あくまで事故でしかない。あなたに否はありません」
「だって……だって私のせいで……」
その言葉をしほは首を振って否定する。
しほ「違います。もしも非があるとすれば私たち運営側の人間です。あなた達選手に罪はありません。……あってはいけません」
「そんな、そんなの……」
許されたのに、非は無いと言われたのに、少女はまるで嬉しそうではなく、むしろその瞳は絶望している様に揺れていた。
無理もない。たとえ非はなくとも、知らぬ間に引いた引き金の意味を知った以上、自分に非は無いなどと言われたところでどうやって納得しろというのか。
それでも、その責を背負うべきなのは小さな少女ではなく、私たちなのだ。そう思ったしほは今一度少女に語り掛けようと口を開いて、
「あああああああああああああああっ!!?」
病室から聞こえてきた絶叫に振り返った。
まほ「みほっ!?」
離れてしほたちを見つめていたまほが、絶叫を聞いた途端病室に飛び込む。その後をしほが追う。
病室のベッドでは、先ほどまで眠っていたみほがこの世の終わりのような顔で、叫んで、暴れているのを看護師たちに押さえつけられていた。
みほ「離してっ!!離して!!?エリカさんが、エリカさんのとこにっ!!」
「西住さーん、大丈夫ですよー」
「尖っているものは隠して」
「はいっ」
看護師たちがみほを宥めようとどこか抑揚のない声を掛け続ける。
それを、まほは呆然と見つめていた。
まほ「みほ……」
その呟きはみほの耳には届かない。いや、聞こえていたとしてもきっと何も変わらないだろう。
みほはでたらめに手足を振り回し、何もない虚空に叫び続ける。
810 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/01/26(土) 20:06:15.84 ID:OnQF/8PI0
みほ「エリカさんっ嫌ッ!!私をっ、私を一人にしないでっ!!?」
まほ「あ……」
まほが膝から崩れ落ちそうになる。後から追ってきたしほがそれを支え、なんとか立たせようとするも、力なくへたり込んでしまう。
しほ「まほ、しっかりしなさい」
そう言うしほの言葉には、いつもの気迫はこもっていなかった。
みほ「なんでっ、なんでエリカさんがっ!?私は、私が助けないといけなかったのにっ!?」
「う、ぁ……」
その時、後ろからうめき声のようなものが聞こえた。
しほが振り向くと、そこにはみほの惨状を見て立ち尽くすプラウダの少女がいた。
しほは心の中で舌打ちをする。見せるつもりはなかった。見せてはいけなかった。
今回の事故が自分のせいだと責めている彼女に、再びショックを与えるような事は避けなければならなかった。
慌てていたのは、動揺していたのは、しほも同じだった。
こうなってしまった以上、彼女をここにいさせてはいけない。
しほは内心の動揺を悟られないよう、少女に話しかける。
しほ「……あなたは、もう帰りなさい。これ以上ここにいても辛いだけです」
「だ、だって……」
少女の瞳は、話しかけているしほを見ていない。
揺らぐ瞳はそれでも、みほの姿を捉え続けていた。
みほ「やだよ……嫌だ!!エリカさんっ!!私の、私の手を握ってッ!!?エリカさんっ!!」
みほが叫ぶたびに、その小さな肩がびくりと震える。
もう、見ていられなかった。
しほ「……お願い、帰って」
突き放すような言葉になったのは、少女を気遣ったからだ。
これ以上、ここにいたら取り返しのつかない傷になる。
しほはそう考えた。
「あ、あ……あ、あああああああああッ!!」
少女は泣き叫びながら走り去っていった。出来る事なら、もっと落ち着いた場所でしっかりと話してあげたかった。
あなたは悪くないと、ちゃんと理由を述べて納得させて、家に帰してあげたかった。
しかし、今のしほにその余裕はない。目の前で愛する娘が泣き叫んでいるのにそれを放っておくことなど出来なかった。
811 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/01/26(土) 20:07:02.31 ID:OnQF/8PI0
しほ「……ごめんなさい」
もう見えなくなった小さな背中に、しほは謝った。
突き放すような言葉になったのは、少女を気遣ったからだ。
それは、嘘ではない。
けれど……もしかしたら、自分があの子を傷つけてしまうかもしれない。そう思ってしまった。
そんな事絶対にない。そう言い切れない自分をしほは恨んだ。
みほ「エリカさんッ!!エリカさんッ!?どこなのっ!?どこにいるのっ!?ねぇ!!?エリカさんッ!?」
まほ「みほ、わた、私は……私はお前の……」
まほはぶつぶつと、言葉に出来ていない言葉を呟く。
しほは唇を噛みしめ、まほを支え、立ち上がらせようとする。その腕にどれほどの力が込められているのか、自分でもわからなかった。
病室に響く絶叫はどこまでも悲しみと絶望に満ちていて、それでもしほは、気丈に振舞った。
そうするしか、無かった。
812 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/01/26(土) 20:11:28.61 ID:OnQF/8PI0
ここまで。
残念ながら描写する余裕がなかったため説明を入れませんでしたが、今回登場したしほさんはお馴染みのジャケットに乗馬ズボンの格好ではなくて、
レディースのパンツスーツでした。
これにはきちんとした理由があって私が男女問わずスーツ姿が大好きだからです。
また来週。
813 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2019/01/26(土) 22:47:44.76 ID:NLSB0xQ1O
乙でした。
うあーしんどい。カチュに非はないけどつらいよなー。どうやってあそこまで立ち直ったのかプラウダ側の話も読みたいです。
814 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/01/27(日) 01:15:00.09 ID:MyMrtVyko
おつー
815 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/01/27(日) 01:16:10.02 ID:Okin4Aowo
カチューシャの心境の変化も気になる
確かにみほがやってることはアレだけどよくこっからあんな高圧的な態度になれるな
みほのことを思っての事なのかもしれないけど俺だったら一生立ち直れる気が知れん
816 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/02/02(土) 01:03:55.88 ID:OhkqDc4J0
>>812
五等分の花嫁作者のツイートパロで草
817 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/02/02(土) 11:19:58.52 ID:bLhoLzEo0
乙
なぜか勝手にニーナ辺りで変換してたけど当時まだ中学生か。
あの態度だからか、なぜかカチューシャが思いうかべてなかったorz
名前でまほが反応できるならカチューシャしかいないのに
そしてスーツ大好きな
>>812
に癒されたw
818 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/02/02(土) 21:38:40.47 ID:fXHa/LYp0
・
・
・
夏が終わり、秋になった。なったらしい。
私が外の様子を知ることが出来るのは、カーテンの隙間から入る朝の日差しと、何日かに一回コンビニに行く夜道だけだった。
そして今も、カーテンから漏れる日差しが私に朝が来たことを伝える。
もっとも、今の私にとって朝も昼も夜も意味を持たないものなのだが。
あの日以来、私は、学園艦の自室にずっと籠っている。眠れない夜を越え、気絶するように眠りに落ちて、また目覚めて。
そんな事をずっと繰り返している。
今日もそうだ。眠れないまま日が沈み、眠れないまま夜が明けた。おそらくそのうちに私の意識は闇に沈んでいくのだろう。
それだけが、今の私にとって唯一の楽しみなのかもしれない。眠っている間だけは、何も考えずに済むのだから。
そんな事をベッドの上で考えていると、チャイムの音が部屋に届いてくる。
私はそれに小さく舌打ちをすると、気だるい気持ちを無理やり抑えて体を引きずるように玄関へと向かわせる。
なんとか玄関にたどり着くと、扉に寄りかかって三和土に座り込む。タイルと扉の冷たさに少しだけ心地よさを覚えるも、鬱々とした感情にすぐに塗りつぶされてしまう。
まほ『みほ……』
扉の外からお姉ちゃんの声が聞こえる。私は扉に後頭部を軽く打ち付けて返事をする。
まほ『みほ……その、元気か』
みほ「元気だよ」
いつだってお姉ちゃんが最初に言う事はそれだ。そんな事を聞いて何になるのか。
本当はこんなことしたくない。誰かと会話なんてしたくない。けれど、無視をすれば私が『どうにかなった』と思われて部屋に入られてしまう。
それは嫌だから、仕方なくドアを挟んだ会話だけはするようにしている。
まほ『そうか……なら、良かった』
みほ「聞きたい事はそれだけ?なら、もう学校行きなよ」
お姉ちゃんは私が籠りきりになって以来、登校前と放課後に私の部屋の前にやってくる。
そして扉を挟んでどうでもいい事を話すのが日課になっているようだ。
くだらない。私の事なんか放っておいて欲しいのに。
気だるさが心身を蝕んでもうベッドに戻ろうかと思っていた時、お姉ちゃんの気遣うような声が扉越しに伝わってくる
まほ『……みほ、やっぱり家に戻らないか?ちゃんと、病院に行こう』
みほ「嫌だ」
819 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/02/02(土) 21:39:50.12 ID:fXHa/LYp0
病院。私の心を治すために。冗談じゃない。私の居場所はもう、ここしかないのだから。
学校には行けない。あの人との思い出が多すぎるから。
学園艦を降りるつもりは無い。あの人との思い出から離れたくないから。
だから、私はこの部屋にいる。
私の心が病んでいるだなんてわかっている。こんなのが健全だなんてそんな馬鹿な事を言うつもりは無い。
それでも、私はここにいないといけない。ここでしか、生きられない。
ギリギリのバランスの中、今の私が出来る最善がこのザマなのだ。
私の強い拒絶にお姉ちゃんは諦めたようなため息を吐く。
まほ『……わかった。でも、何かあったらすぐに呼んでくれ。お母様もお前の事を心配して――――』
みほ「もういいでしょ。学校、行ってよ」
まほ『……ああ。また、夕方にくるよ』
その言葉に返事はしなかった。
820 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/02/02(土) 21:42:39.80 ID:fXHa/LYp0
・
・
・
あくる日、扉から聞こえる声はいつも聞いていたお姉ちゃんの声じゃなかった。
小梅『……みほさん』
弱々しく私の名前を呼んだその人は、赤星さんだった。随分と、久しぶりに聞く彼女の声は、けれども私に何の感動も与えない。
小梅『ごめんなさい、今まで来られなくて』
みほ「別にいいよ。赤星さんだって大変だったんでしょ」
だから帰って。もう来なくても良い。言外にそう言ったつもりであったが残念ながら赤星さんには伝わらなかったらしい。
赤星さんは嬉しそうに息だけで微笑むと、どこか潤んだ声を出す。
小梅『……みほさん、ありがとう』
みほ「何が」
小梅『私を、助けてくれて』
みほ「……別に」
私の言葉を謙遜とでも思ったのか、赤星さんは私を説き伏せるかのように柔らかく語り掛けてくる。
小梅『みほさん。誰もあなたを責めたりしてません。だから……また、学校に……ううん、一緒に遊んだり、なんでもいいんです。前みたいに……』
みほ「無理だよ。もう、エリカさんはいないんだから」
あの人がいない時点でもう、以前のようにだなんて無理なのだ。そんな事、赤星さんだってわかっているだろうに。
小梅『……エリカさんの事は、確かに残念です。けど、それでも、このままじゃいけないって―――――』
ドアに拳を叩きつける。その音に赤星さんが小さく悲鳴を上げる。
何を分かったような事を、何を悟ったような事を。
みほ「残念……?赤星さんにとって、エリカさんの事はそんな言葉で済むような事なの?」
小梅『ち、違っ……私は、ただみほさんが……』
叩きつけた拳を強く握る。
私が、私が何だというのか。エリカさんの事より、私の方が大事だとでも言いたいのだろうか。
……ふざけないで。
みほ「私にとってエリカさんは大事な人だったの。赤星さんは違ったの?」
小梅『わ、私にとってもエリカさんは大切な人でした。でも、でも今はみほさん、あなたの方が――――』
あなたは、あの人の友達だったのに。私が、終ぞなれなかった友達だったのに。
なんで、なんでそんな事が言えるのか。エリカさんはあなたの事を認めていたのに、褒めていたのに、友達であることを嬉しそうに語っていたのに。
あなたにとって、エリカさんの価値はその程度のものだったというのか。ならばもう、これ以上話す事なんてない。
821 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/02/02(土) 21:43:41.22 ID:fXHa/LYp0
みほ「……帰って」
小梅『違うんですみほさん私は……』
みほ「帰ってッ!!」
激昂にまかせた絶叫。喉に走る裂けるような痛みなんて気にはならなかった。
一瞬の静寂が訪れる。やがて、とん。と、扉に手を置く音がする。
小梅『……ごめんなさい。でも、あなたは私を助けてくれたから。だから、このままになんて』
みほ「赤星さん」
小梅『……なんですか?』
ああ、言ってしまう。ずっと、胸に秘めていた言葉を。
どんな理由があろうとも許されないその言葉を。
擦り切れた私にとって、もう赤星さんとの会話に安らぎなんて覚えられない。
あの人よりも私なんかを大事だという人と会話するだなんて耐えられない。
なら、終わりにすればいい。
みほ「私は―――――あなたより、エリカさんを助けたかった」
何の力もこもってない掠れ切った音が空気に、扉に、わずかに響く。
扉の向こうの赤星さんはどんな顔をしているのだろうか。
泣いているのか怒っているのか。どっちでもいい。私は立ち上がり部屋に戻ろうとする。
小梅『……私も、そうして欲しかったです』
赤星さんの声は、泣きそうなようにも、微笑んでいるようにも聞こえた。
822 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/02/02(土) 21:49:52.76 ID:fXHa/LYp0
・
・
・
その日の夕方、いつもの様に扉の前にやってきたお姉ちゃんの声は、何かをこらえるように重く、沈んでいた。
まほ『みほ。赤星と何かあったか?』
みほ「……別に」
ただ、思っていたことを言っただけだ。
まほ『……赤星はあの事故以来、前以上に頑張ってるよ。あいつだって辛いだろうに、苦しいだろうに。それでも、前を向いているんだ』
みほ「嫌味?」
今もこうやって扉越しじゃないと人と話せない私を笑いたいのか。別に、それでも構わないけど。
他でもない私がそんな自分を嘲笑っているのだから。
まほ『違うっ、違うんだみほ……ただ、私は……お前たちがまた以前のように戻れればと……』
みほ「赤星さんにも言ったけどね――――無理だよ。そんなの」
なんで二人とも同じことを言うのだろうか。
なんで、未だに以前のようにだなんて思えるのだろうか。
失ったものの大きさは同じじゃ無かったのか。赤星さんの悟ったような、諭すような声が蘇り、私は口の端を噛みしめる。
みほ「エリカさんがいないのに元通りなんて無理に決まってるでしょ。……赤星さんはそうじゃなかったみたいだけどね」
恨みがましくつぶやいた言葉にほんの少しだけ失望が入り交じった事に気づく。
もしかしたら私は、赤星さんに期待してたのかもしれない。彼女なら私の気持ちを理解してくれるかもと。
理解なんて求めたところで意味なんて無いのに。分かり合えたところであの人は帰ってこないのに。
まほ『赤星だってエリカの事が辛くないわけじゃないっ!そんなの、お前だってわかってるだろう!?』
お姉ちゃんの泣き叫ぶような問いかけ。それが、妙に耳に響いて思わず顔をしかめる。
ああ、お姉ちゃんも赤星さんと同じか。エリカさんのことをもう過去にしてる。
私の中のエリカさんまで過去にしようとしてる。
そんなの、嫌だ。だから、言ってしまおう。
私はごん、と。後頭部を扉に打つ。
みほ「お姉ちゃん。私ね、赤星さんにこう言ったんだ。『あなたより、エリカさんを助けたかった』って」
まほ『……なんで、そんな事を』
呆然と、震える呟きに私は淡々と返す。
みほ「別に。前々から思ってた事を伝えただけ」
まほ『お前ッ……』
拳を叩きつけたのだろう。大きな音とともに扉が揺れる。
久しぶりに感じるお姉ちゃんの怒り。
それも、私の心に何の揺らぎも起こさない。
みほ「赤星さんだけじゃない。操縦手の子も砲手の子も通信手の子も。放っておけばよかった。エリカさんだけ助ければよかった」
823 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/02/02(土) 21:53:09.17 ID:fXHa/LYp0
そうだ。そうしていればよかった。私はただ、エリカさんだけを助けていれば良かった。
私にとってエリカさんは一番大切な人だった。あの人たちより、私より。
みんなを助けようだなんて我儘で私は大切な人を失った。
まほ『……みほ、お前が助けた人はみんなお前に感謝してたよ』
お姉ちゃんはさっきまでの怒りのこもった声ではなく、泣くのをこらえているかのような声をだす。
まほ『でも……赤星以外の3人は転校したよ』
みほ「……」
まほ『最後までお前に謝ってた。合わせる顔が無いとも』
みほ「……そう」
なんで彼女たちが謝るのだろう。別に、何も悪くないのに。助けたのも、助けられなかったのも私の責任なのに。
どうでもいい人たちの事なのに、なんでかそんな疑問が頭に浮かぶ。同じように疑問に思ったのか、お姉ちゃんは自嘲するように息を吐くと、
まほ『なんでなんだろうな。あの子たちは、何も悪くないのに。お前も、赤星もだ』
お姉ちゃんは私の返事を待たずに続ける。
まほ『なぁみほ。あの事故でお前が責任を感じる事なんてないんだ。悪いのは私なんだ。恨むなら私を恨めばいい。すべての責任は隊長である私にある。だから、』
みほ「お姉ちゃん」
自分に言い聞かせるようなお姉ちゃんの『演説』を遮る。お姉ちゃんが何を言いたいのかよくわかった。
その上で、私の感想を述べる。
みほ「そんなの、どうでもいい」
扉の外から息をのむ音がする。
みほ「お姉ちゃんが悪いとかそんなのどうでもいいの。私が、私がエリカさんを助けられなかった。それが全てなんだよ」
まほ『だからッ!!だからそれは違うんだッ!!』
みほ「違うとか違わないじゃなくて、そうなんだよ。私の中でもう結論は出てるの。私が、全部悪いの」
まほ『みほッ……』
脳裏によみがえるあの日の出来事。それらを一瞬でなぞり、やっぱり私の結論は変わらない。
みほ「私の立てた作戦は読まれてて、そのせいでV号は川に流されて、私は、助けられなくて。私が、エリカさんを死なせたの」
まほ『どうして……わかってくれないんだ。なんで、何で私を……』
縋りつくようなお姉ちゃんの声はもう、泣いていることを隠せていない。それでも私は扉を開ける事は無い。
みほ「お姉ちゃん、帰って。もう、来なくていいよ」
代わりに淡々と帰宅を促すと、お姉ちゃんは必死で嗚咽を抑え込んでいるかのように所々調子の外れた声を出す。
まほ『……赤星には私から謝っておく。……また来るよ』
去って行く足音を聞き届けず、私は部屋へと戻っていった。
824 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/02/02(土) 21:57:49.61 ID:fXHa/LYp0
・
・
・
誰もいない部屋で私は一人ベッドにうつぶせになる。
最近はもうコンビニに行くのすら嫌になり、買い込んだカロリーメイトをたまに齧って水を飲むといった有様だ。
いっその事、それすら止めてしまえば楽なのに。空腹と渇きの苦しさなんて、生きている事の苦しさと比べたら大した事じゃ無いのに。
それでも、私は最低限生きようとしてしまう。
寝返りをうち天井を見つめる。あの日以来一度も切っていない髪が顔に張り付いてそれを煩わしそうに払いのける。
みほ「……私、どうなるのかな」
ポツリと虚空に向けて呟いた言葉。いつまでもこんな生活が続けられるだなんて思ってはいない。
学園艦は学生のための場所で、ここは学生のための寮なのだから。
でも、学校には行けない。なら、いずれはここを去らなくてはならなくなる。
家に戻るのか。いや、戻されるのだろう。
でも、今の私はきっと学園艦(ここ)以外では生きていけない。
そうなったら私はどうなるのだろうか。生きていけるのだろうか。
……多分生きるのだろう。どれだけ苦しくても、辛くても、そうしないといけないから。
生きていけないと思うのに、生きていたくないのに。それでも、生きてしまうのだろう。
『生きて』
その言葉があるから、私は今日まで生きてきた。
その言葉のせいで、私は今日まで生きるしかなかった。
あまりにも酷い、残酷な願い。
貴女のいない世界で生きるだなんて、私には耐えられないのに。
いつだって私を励ましてくれた、勇気をくれた彼女の最期の言葉は、私にとって呪いと同じだった。
みほ「エリカさん。なんで、なんでそんな酷い事を言ったの?」
問いかけたところで返事が返ってくることは無い。何度も何度もやった事なのに。
その度にエリカさんがいない事を実感してしまう。
その度に涙が溢れて止まらなくなる。
みほ「……うぐっ、ぐすっ……うぁ、うあぁぁぁ……エリカ、さん……」
あの時、エリカさんを助けに行かずに勝利を目指していればせめてもの慰めになったのに
あの時、エリカさんを助けられていたら勝利も私の命もいらなかったのに
勝利を捨て、大切なものを守ろうとした結果、私は全てを失った
……わかっている。たとえ結末を知っていたとしても、私はあの人を助けに行った。
何もかも失うとわかっていても、私は濁流に飛び込んだのだろう。
それでも、もしも、もしも勝利が残っていたのなら、もしかしたら。
何か変わっていたのかもしれない。
ありもしない仮定にあり得ない結末を重ねて、私は今に絶望する。
そしてまた、気絶するように眠りについて目覚めた時、エリカさんのいない世界に絶望するのだろう。
ならいっその事永遠に眠り続けられればいいのに。
そんな馬鹿な事を考え、せめて一秒でも早く眠りにつけることを願って瞼を閉じると――――軽快な電子音が部屋に鳴り響いた。
825 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/02/02(土) 22:03:44.49 ID:fXHa/LYp0
現実に引き戻された私は、テーブルの上で着信音をかき鳴らす携帯を忌々しく睨む。
いくら睨んだところで着信音が止む気配はなく、私は気だるい体を無理やり動かして携帯を手に取った。
画面に映った名前は、よく知っている――――赤星さんの名前だった。
終話ボタンを押そうか一瞬迷ったものの、何度か逡巡した挙句ため息とともに通話ボタンを押す。
小梅『……みほさん?』
みほ「……何」
小梅『よかった……体、大丈夫ですか?』
携帯から聞こえる赤星さんの声は以前と何も変わっていない。
みほ「なんで私に関わろうとするの。私、あなたに酷い事言ったのに」
あの言葉に、私の気持ちに、嘘はなかった。それは、今でも変わらない。それでも、私が赤星さんに言った言葉は自分勝手で許されないものだったという事は分かっている。
私のしたことは、間違いなく彼女の気持ちを踏みにじるものだった。なのに、なんで彼女は私にこうまで関わろうとするのか。
小梅『……友達なんですから当たり前ですよ。あの事だって気にしてません』
何も気にしていない。その言葉通り彼女の声色は明るい。まるで、事故が起きる前のように。
赤星さんの優しさが、気遣いが、私の胸に痛みと苛立ちを与えてくる。それを表に出さないように抑揚のない声を出す。
みほ「……何の用なの」
小梅『みほさん。戦車、乗りませんか?』
みほ「は?」
あまりにも突拍子もない言葉に間抜けな音が出てしまう。
小梅『戦車ですよ戦車』
みほ「何言ってるの……」
小梅『私が操縦しますからみほさんが車長で』
私の苦言なんて無視して赤星さんは明るく説明を続ける。それに反比例するように私の声は重く、沈みこむ。
みほ「……私はもう戦車道はしない。……できないよ」
小梅『そうじゃなくて、ただ乗るだけですよ。本当にただ戦車に乗って学校の練習場を走ってみましょうよ』
みほ「それこそ、何のために」
小梅『……私が、そうして欲しいんです。そうしたいんです』
潤んだ音とは正反対な強い決意の込められた声。真っ直ぐな思いに私は何も言えなくなってしまう。
小梅『明日の夜9時。校門前で待ってます』
みほ「私、行くなんて言ってないけど」
小梅『来てくれないのならそれでも構いません。それでも、待ってます』
私の返事を待たず電話は切れた。私は携帯を机に投げるように置くと、ベッドに座り込む。
赤星さんの誘いを受けるつもりなんて無い。あの人との思い出が多すぎて学校にすらいけない私が戦車に乗るなんてできるとは思えない。
きっと、あの人の声が、笑顔が、輝く姿が鮮明に思い出されて動けなくなってしまう。
そして、そんな彼女がもういない事を再び理解してしまう。そんな恐怖も、絶望も、もう嫌だ。
だから私はこの部屋にいる。エリカさんがいない現実から、エリカさんがいた過去から目を背け、何も考えずにまどろみの中で『生きるだけ』をするために。それが、今の私が出来る最善のはずなのに。
私の瞳は、玄関の扉へと向いていた。
826 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/02/02(土) 22:06:31.30 ID:fXHa/LYp0
・
・
・
星の見えぬ夜空。
校門の前にある街灯の下に赤星さんはいた。
吐き出す息は白く、それが今の季節を教えてくれる。
時間を見ているのだろう先ほどからなんども携帯を開いては閉じるを繰り返している。
その横顔は何も変わっていなくて……いや、少し痩せたのかもしれない。
寒空の下ではあまりにも頼りなく見えるその小さな姿を、私は少し離れた暗がりで見ていた。
みほ「赤星さん……」
呟いた言葉は彼女に届かせるつもりは無かった。
わざわざコートを引っ張り出してまであの部屋から出てきたのに、私は彼女に声を掛ける事をためらってしまう。
今更、彼女と会ってどうするのか。戦車に乗って何が変わるのか。
部屋を出る前から、ここに来るまでの間、何度も繰り返した問いは未だに終わらない。
分からないから、知りたいから部屋を出たはずなのに。
わかっている。彼女の誘いは私を思ってのものなのだと。どれだけ自分勝手に振舞い、彼女を傷つけたとしても、そのぐらいはわかる。
だから、ためらってしまう。彼女はもう、私を理解してくれない。ならこのまま会わない方がお互いの為じゃないのか。
今の私が彼女に会ったところでまた傷つけるだけじゃないのか。
言い訳染みた言葉ばかりが頭の中に浮かんでしまう。
それを、唇を噛みしめて抑え込む。
気づいていたんだ。わかっていたんだ。『生きているだけ』じゃ、いけないのだという事に。
エリカさんがいない世界が怖くても、それでも私は生きなくてはならないのだと。
『生きて』
呪いのように私を苛むその言葉は、それでも彼女がくれた最後の言葉で、
だから私は、それを果たさないといけない。
辛くても苦しくても、生きないといけない。
たとえ、赤星さんを、誰かを傷つける事になっても、私は――――生きないといけないのだ。
エリカさんのように美しくなくて、エリカさんのように優しくなくて、エリカさんのように強くない私だけど、
せめて、エリカさんがくれた最後の言葉だけは、守りたいんだ。
私は決意を込め、一歩踏み出す。その足音に赤星さんが振り向く。
小梅「みほさん……?」
みほ「……久しぶりだね。赤星さん」
827 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/02/02(土) 22:09:00.19 ID:fXHa/LYp0
出来るだけ柔らかく、明るい声を出そうとしたものの、残念ながら掠れ切った私の喉は低く、しゃがれた音しか出さない。
けれども赤星さんはそんな事気にしていないようで、喜び、目元に涙を浮かべる。
小梅「みほさんっ!!良かったっ……来てくれたんですねっ!?」
みほ「別に。ただ、なんとなく体を動かしたくなったから」
赤星さんのいる街灯の下に私は歩みを進める。
小梅「それで良いんですっ…良かった、本当に良かったっ……」
赤星さんはこらえ切れなくなりその場で泣き始めてしまう。
その姿に、彼女がどれだけ気を張っていたのかを理解する。
ずっと、張り詰めていたのだろう。エリカさんがいなくなった事で、私が、こんな様になった事で。
それでも、私に会いに来て、ひどい言葉を浴びせられて、それでも私を気遣ってくれた。
その優しさが、強さこそが、エリカさんが赤星さんを友達だと認めた理由なのだと、私はようやく実感した。
みほ「赤星さん、ごめんなさい。私、あなたに酷い事を言った」
小梅「謝らないでくださいっ……良いんですよ、今こうして、あなたが来てくれただけで私は嬉しいんですから」
私の謝罪に赤星さんは涙をためたまま笑顔で答える。
私はさらに歩みを進め、
小梅「だからみほさ――――」
街灯の光の下、赤星さんの目の前に立った。
小梅「みほ、さん……」
赤星さんは呆然と目を見開いている。
……ああそうか、さすがに『これ』には驚くか。
みほ「……やっぱり気になる?まるでお婆ちゃんみたいでしょ?」
私はまるで見せびらかすように髪を一束掴んで振って見せる。
そのおどけた様子に、けれども呆然としたままの赤星さん。
まぁ、仕方がないだろう。いくら何でもこればっかりは。
みほ「いつの間にかね、こんなんになっちゃったんだ」
828 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/02/02(土) 22:09:41.36 ID:fXHa/LYp0
肩まで伸びた私の髪は――――雪のように、真っ白になっていた。
829 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/02/02(土) 22:11:52.14 ID:fXHa/LYp0
ここまでー
髪生え変わるの早くね?って思う方がいるかもしれません。
私もそう思います。
たぶんこのSSにおける人類は私たちと比べて髪が伸びるスピードがめっちゃ速いのかもしれません。
そういう事でご納得お願いします。
また来週。
830 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2019/02/02(土) 22:38:11.78 ID:CrrNEa07O
乙でした。
やさぐれてるなぁみぽりん。小梅ちゃんの奮闘に期待。
誰かお姉ちゃんにも救いの手を…
831 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/02/03(日) 00:59:01.88 ID:e5ysYx7Ro
おつー
マリーアントワネットとか一晩だし平気平気ww
832 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/02/03(日) 01:13:05.99 ID:GQlDCzEA0
乙ですー
そういえばみほまほだけじゃなくて赤星さんも少なからず病んでるんだよな…
なんにせよ毎週楽しみに待ってます
833 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/02/03(日) 05:53:11.93 ID:tYHdSjdwo
>>831
まぁマジレスするとあれはあり得ないらしいけどね
逆に言えばマリー・アントワネットの投獄生活期間の2ヶ月で真っ白になる可能性はある。相当なストレスを感じれば。
834 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/02/03(日) 13:24:34.63 ID:HQe++GaR0
惑星ガルパンの話だからOK
835 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/02/03(日) 14:36:58.15 ID:ossf4eG+0
>833
一度生えたあとの髪は脱色・染色しなければ色が変わる事はないし
一ヶ月で伸びる長さは1cm前後だから2ヶ月あっても無理やで
>834
いくら軽戦車つーてもランクルより重いのに
女子高生数人でひっくり返った状態から元に戻せるとか
わしらの世界だったら超人やな
836 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/02/03(日) 16:28:02.40 ID:XwZRdDw20
更新乙
段々と過去編(!?)が時系列本編につながりつつある
いつもありがとう!
837 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/02/03(日) 17:04:11.99 ID:xPLGwZMZ0
乙ですいつも楽しみに見ています
作者様がこれをいつ目にするのかはわかりませんが、毎週の更新を楽しみに待っているというファンの一人として、この素晴らしい作品を書いてくださってありがとうという感情をお伝えしたくてコメントします
838 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/02/04(月) 13:38:20.31 ID:v26/Zja/O
地毛だったのか、染めていないと思い込んでるだけだと思ってた
839 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2019/02/06(水) 21:42:05.35 ID:FL7p9tJE0
早くして
840 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/02/09(土) 03:46:26.15 ID:fsX5+B8w0
やばい、みぽりんにシンクロして泣きそうになってきたわ
1番慕ってた人を助けられずに目の前で死なれたりしたらそらこうなるわな
841 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2019/02/09(土) 15:12:39.21 ID:xfGLSgEk0
毎週の楽しみ
842 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/02/09(土) 16:44:58.65 ID:V6mFoo7D0
ageカスに楽しむ権利はないぞ
身の程を知れ
843 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2019/02/09(土) 20:11:53.74 ID:XqJwsQoc0
?
844 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/02/09(土) 20:32:34.17 ID:pZcxkURu0
作者以外はメール欄にsage入力がマナー
845 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/02/09(土) 21:12:31.14 ID:5zdhLM0A0
みほ「ごめんね、驚かせちゃって。染めようとは思ってるんだけどさ」
小梅「あ、いえ……私こそすみません。それじゃあこっちに」
これ以上私の姿について触れるのをためらったのだろう。赤星さんは話を打ち切ると私を促す。
私はその後に続き、久しぶりに、本当に久しぶりに校門をくぐった。
小梅「こっちです。昼の内に外に出して隠しておいたんですよ」
赤星さんこちらを振り向かずそのまま学校の裏にある練習場、そのさらに奥にある林の中に入っていく。
その後をついていくと、いつの間にか赤星さんの手には懐中電灯があり、街灯はもちろん、月明かりすら雲でおぼろな林の中を頼りない光で進んで行く。
そして、20メートルほど行ったあたりだろうか。赤星さんが立ち止まり、こちらを振り向く。
小梅「みほさん、これですよ」
懐中電灯の小さな光がその車体を映し出す。全体ははっきりとは見えないが、それでもその戦車が何なのか一目でわかった。
みほ「赤星さん、これ……」
小梅「……はい」
暗い林の中にたたずむそれは――――U号戦車だった。
『私は楽しかったわよ。あなたの実力の一端を垣間見れた気がするわ』
『……楽しかった。本当に、楽しかった』
あの日の夕焼けが笑った記憶が、泣いた記憶が、彼女の笑顔がよみがえる。
その奔流で心が一杯になって、私はその場にしゃがみ込んでしまう。
小梅「みほさん……やっぱり、辛いのなら……」
赤星さんの心配そうな声。私はそれにすぐには答えず、ゆっくりと立ち上がり目を閉じて深呼吸をする。
大きく吸った息を、大きく吐く……よし。
みほ「……大丈夫だよ。……うん、大丈夫」
大丈夫だ。少なくとも、今は。
小梅「……わかりました。それじゃあ私が操縦しますから指示お願いします」
みほ「うん。それで、目的地は?」
赤星さんはそれに言葉ではなく懐中電灯で答える。
その光が示す先は――――――
小梅「学校の裏山。山頂、目指しましょう」
846 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/02/09(土) 21:13:39.54 ID:5zdhLM0A0
・
・
・
ガタガタと揺れる戦車。
当たり前だが学校の裏山の道は舗装なんてされておらず、道も戦車が一輌通れる程度の幅しかない。
みほ「赤星さんもっとゆっくり」
小梅「ごめんなさいっ久しぶりだから……」
ただでさえ視界の狭い操縦席にこの曇った夜空が加わってしまうと戦車のライトなんて大した意味を持たない。
だから車長である私がしっかりと周囲を見て、操縦手に的確に指示を飛ばさないといけない。
みほ「落ち着いて。赤星さんの代わりに私がちゃんと見てるから」
小梅「はいっ!」
私も内心慌てたり焦ったりしている。
いくらなんでもこんな闇夜に戦車を走らせる経験なんて無いから。
けれどそれを声には出さずに指示を出す。
みほ「この坂、急だから気を付けて」
小梅「はい!」
曲がって、登って、曲がって、時たまガクンとなって。
半年以上碌に動かしていなかった体が悲鳴を上げて、それでも踏ん張って。
みほ「あと10メートル進んだらふもとまで真っ逆さまだよ」
小梅「は、早く言ってください!?」
手探りの中、少しずつ私たちは山頂を目指していく。
そして――――道の終わりが来た。
847 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/02/09(土) 21:25:04.01 ID:5zdhLM0A0
・
・
・
山頂よりちょっと下のあたりだろうか。依然戦車の前には道が続いているものの、それはふもとへ下りるための道、ここは折り返し地点という事か。
私の視線の先には山頂まで続いているであろう階段がある。
みほ「……ここが目的地、かな」
小梅「……はい。でも、もうちょっと」
赤星さんは戦車から降りると再び懐中電灯を手に階段を上り始める。
明りを持ってない私は慌ててその後をついていく。
そして今度こそ、私たちは山頂へとたどり着いた。
小梅「……どうですか?」
みほ「……綺麗だね」
山頂から見下ろす夜の街は点々と、明りがまるで星のように輝いている。
黒森峰の学園艦が大きいのは知っていたが、こうやって一望するとその大きさを実感できる。
私は地べたに座り込んでじっと、その景色を見つめていた。
すると、同じように隣に座っていた赤星さんが口を開く。
小梅「私、ここに結構来てたんですよ」
みほ「そうなの?」
山登りが趣味だなんて聞いたことがなかったけど。私の疑問に赤星さんは直ぐには答えずじっと街明りを見つめる。
小梅「……昔、私が不貞腐れてた頃。何もかも忘れたくてこの山を登ったんです」
みほ「ずいぶん体育会系だね」
小梅「あはは。戦車道やってるんですからその通りでしょう?」
言われてみればその通りだ。赤星さんも、私も。……あの人も。毎日のように体を動かして、冬でも汗まみれになってた。
昨日のように思い出せるその光景。その思い出に意識が遠のきそうになるのを頭を振って耐える。
小梅「……夕方から登り始めて、登り切ったころにはもう真っ暗で、代わりに街と星と月がキラキラと輝いていました」
「残念ながら今日は街明りだけですけどね」赤星さんはそう言って苦笑する。
小梅「別に、この夜景を見たから奮起したとか、そんなドラマチックな事は無いですけど。
それでも。あなたの優しさに救われるまで私が逃げ出さなかったのは、この景色があったからかもしれません」
あなたの優しさに救われた。赤星さんはそう言うものの、私はその事をよく覚えていない。
あの頃の私は赤星さんも気づいていた通り自分の事しか見てなくて、上っ面の言葉しか人にかけていなかったから。
だから、救われた。だなんて大仰な事を言われても私はどう返せばいいのかわからない。
それは多分赤星さんも察しているのだろう。私の返事を待たずに話を続ける。
小梅「人間、もう駄目だ。なんて思ってても、なんてことない事でとりあえず明日も頑張ってみようってなるのかもしれません」
さっきより少しだけ薄くなった雲がそのベールを通してわずかに月光を降ろす。
暗闇に慣れた目で辛うじて見える赤星さんの横顔は真剣で、辛そうだった。
848 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/02/09(土) 21:33:58.70 ID:5zdhLM0A0
小梅「……みほさん」
その瞳が、私を見つめてくる。
小梅「……事故の事、エリカさんの事。忘れろなんて言いません。……忘れる事なんてできません」
潤んだ声はけれども決意を込めた力強さを伝えてくる。
小梅「だけど、黒森峰(ここ)には私たちがいます。隊長が、私が、皆が」
赤星さんは痛みをこらえるかのように胸元を掴み、涙をこらえるかのように大きく目を見開く。
小梅「だから……少しだけ、少しだけで良いんです。前を向いていきませんか?」
『ちゃんと前を向きなさい』
赤星さんの言葉に、かつて交わした約束を思い出す。
強い人だ。エリカさんも、赤星さんも。
私なんかよりもずっと。
今日も私のためにここまでしてくれたのだろう。赤星さんだって辛いだろうに、傷はまだ癒えていないだろうに。
それよりも、私をと。
小梅「みほさん……?」
私は立ち上がって街を見下ろす。星の代わりに輝く街並み。そのあちこちが、私にとって大切な場所だった。
みほ「赤星さん、あそこ。いつも一緒に帰ってた道」
私が指をさすと、隣に立つ赤星さんが懐かしむように目を細める。
小梅「……はい。エリカさんは『あなたたちが勝手についてきてるだけよ』なんて言ってましたけど」
みほ「ほら、たぶんあそこのコンビニかな?私がいつまでも居座ってるからエリカさんに怒られたのは」
小梅「さすがに、私もあれには呆れましたよ」
赤星さんが潤んだ声でクスクスと笑う。
一緒に学んだ学校が。一緒に歩いた帰り道が。一緒に食事したレストランが。一緒にはしゃいだ部屋が。
たくさんの『一緒』が、この街には溢れている。
そして、
849 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/02/09(土) 21:35:26.44 ID:5zdhLM0A0
みほ「……赤星さん」
小梅「はい」
わかっていたのにずっと拒み続けていた事実がストンと、私の中に落ちてくる。
私以外の人はとっくに理解していたのに、私だけが逃げ続けていた。
でも、もう逃げられない。
みほ「エリカさんは――――もう、いないんだね」
小梅「……はい」
みほ「……そっか」
ああ、そうか。この艦に、この街に、この世界に。エリカさんはもういない。
どれだけ私が泣いても、どれだけ悔やんでも、どれだけ認めなくても。
逸見エリカはもう、過去なんだ。それを、私は理解した。
小梅「みほさん……みほさんっ……」
赤星さんがとうとうこらえきれなくなり泣き出す。
きっと、彼女も思い出したのだろう。エリカさんがいた日々を。
そして、また理解してしまったのだろう。エリカさんがもういないという事を。
みほ「ごめんね、赤星さん。あなただって辛いはずなのに」
小梅「いいんですっ……私は、私は……あなたが、元気になってくれれば……きっとそれを、エリカさんも……」
泣きじゃくる赤星さんに私はこれ以上何も言わなかった。
代わりに、じっと見下ろす。
夜空の代わりに輝く街を。
貴女がいた、貴女といた街を。
私の、『世界』を
850 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/02/09(土) 21:38:06.22 ID:5zdhLM0A0
ここまで。
>>744
であと5,6回で終わるって言いましたけどあれは嘘になりました。
多分あと3回、多くても4回で終わるのでもうちょっとだけ過去編に付き合ってください。
また来週。
851 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/02/09(土) 22:20:33.20 ID:ZdUVYjaa0
乙
いっそスレ跨いで過去話を続けてもええんやで?
852 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/02/09(土) 23:52:02.88 ID:wdfRRyLK0
乙でした
次スレに跨いでも良いんですよー
なんか、回復しかけてるけど、なぜこれからエリカ(偽)になったんだろう?
853 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2019/02/10(日) 00:08:29.39 ID:eJlQXkKP0
あと数回で明らかになるんやから楽しみに待てばええ
854 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2019/02/10(日) 01:08:54.59 ID:mdEP/TzUO
乙でした。
ここからが本当の地獄…になるのかなぁ。戦車道やる資格がないとまで言われる何があったのか。
855 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/02/10(日) 11:44:36.33 ID:XEpyBOoN0
なんか立ち直ってきてない?大丈夫?エリカさん化する?
856 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/02/10(日) 22:36:23.00 ID:LwqYGnblO
まだまほの態度が硬化してないんだな
857 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2019/02/11(月) 01:11:56.41 ID:Tfo1HeEC0
乙!続きも期待して待ってる。
858 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/02/11(月) 01:30:32.02 ID:kyN+SCTDO
ここからまたみほを突き落とすような出来事があるんだな…
何にせよ楽しみに待ってます
859 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/02/12(火) 14:11:37.89 ID:F6EtRm/S0
カチューシャのことこ,ろしに行きそう
860 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/02/16(土) 21:54:46.08 ID:NCslEOZb0
おい!続きはまだか!
早くエリカさん化する過程を見せてくれ!!
861 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/02/16(土) 22:02:19.26 ID:S0bhx1iI0
・
・
・
学校裏の林に戻ってきたのは11時をいくらか過ぎた頃だった。
小梅「戦車しまってきちゃうんで先に帰っててください。風邪、ひかないように」
赤星さんの気遣いをありがたく受け、私は一人U号から降りる。
そして、ハッチから顔を出してる赤星さんに向き直る。
みほ「赤星さん、ありがとう。私、あなたのおかげで大事なことがわかった」
そう。大事なこと。きっと、赤星さんが今日私を呼んでくれなければ気づけなかった事。
部屋にこもっていたらきっと見つけられなかった事。
みほ「まだ、それを言葉には出来ないけど……ちゃんと、考えようと思う。これからの事を」
そう言って赤星さんに向けて口角を上げる。
赤星さんは感極まったように口元をおさえると、目元をそっと拭って笑いかけてくる。
小梅「っ……はい。急がなくていいですから、ゆっくりでいいですから。私も、一緒に考えますから」
みほ「赤星さん……またね」
小梅「はいっ!!またっ!!」
嬉しそうに手を振る赤星さんに背を向け、私は校門へと歩いていった。
私の顔から、表情は消え去っていた。
862 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/02/16(土) 22:10:25.94 ID:S0bhx1iI0
・
・
・
ここは決勝前日の夜、私とエリカさんが二人で話した広場。
赤星さんと別れた後、私は部屋に戻らずここでじっと海を見つめていた。
冷気を伴った潮風は痛いほどで、けれど、今の私にとってそんなのは大した事ではなかった。
みほ「寒いね」
そのつぶやきは誰に向けたものなのだろう。
自分でもわからないまま、私の意識は先程の山頂に戻る。
雲に覆われた夜空の下、街の明かりが星のように輝いてて。
その星空のあちこちに私達はいた。
遊んだり笑ったり怒ったり泣いたり悔やんだり。
様々な景色が、あそこにはあった。
そこに、いつだってエリカさんがいたことも。
そして、だからこそ。私はようやく理解できた。
エリカさんはもう、いないのだと。
みほ「赤星さんには迷惑かけちゃったなぁ」
わかりきったことをいつまでも引きずっていた挙げ句、迷惑をかけ続けてきたのだから。
ただ、今は謝罪の気持ちよりも感謝の気持ちのほうが強い。
赤星さんのおかげで、私はエリカさんの死をようやく理解できた。
どれだけ泣き叫ぼうとも、焦がれようとも、エリカさんはもう、帰ってこないのだと。
私が、赤星さんが、お姉ちゃんが、エリカさんが。
共にいた日々はもう、遠い過去になったのだと。
みほ「あーあ。バッカみたい」
そんな簡単なことを半年以上も引きずり続けていたのだからどうしようもないと自嘲する。
みほ「とりあえず。今後のことを考えないと」
まず学校には行かないと。
勉強はお姉ちゃんが持ってきてくれた課題である程度は進んでいるが、それでも学校の授業に追いついていけるとはとても思えない。
予習復習はちゃんとしないと。
特に理系科目。中でも物理はしっかりとやらないと。早急に。
部屋の模様替えもしないと。今の部屋は派手すぎるし可愛すぎる。もっとシンプルに。
ボコは捨てるか実家に送ろう。あ、でもエリカさんがくれたやつは残しておかないと。
料理もちゃんと出来るようにならないと。ハンバーグって結構難しそうだしね。
それと髪。長さはどうしようも無いけれどせめて毛先は整えないと。
まぁ、そこまですれば後は―――――『私』だけだ。
863 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/02/16(土) 22:13:57.58 ID:S0bhx1iI0
みほ「……くっ、ふふっ……」
閉じた口の端から笑い声が漏れてくる。
ああ、もうすぐだ。もうすぐ、もうすぐ。
早く早く。
『黒森峰(ここ)には私たちがいます。隊長が、私が、皆が』
うん。そうだったんだね。知ってたよ。忘れてたけど。
おかげで、こんなにもスッキリとできた。
皆がいるなら大丈夫だから。お姉ちゃんも赤星さんもエリカさんの事が大好きだったんだから。
『だから……少しだけ、少しだけで良いんです。前を向いていきませんか?』
うん。大丈夫だよ。もう、うつむかないよ。
そんな弱い人はいなくなるから。
そんな弱い私はいなくなるから。
みほ「っ……あはっ、わた、私はっ、くふっ」
こらえきれない。おかしくってたまらない。
赤星さんが教えてくれた、いや、理解させてくれた。
『西住みほ』の本質を。私の『中身』を。
ああ私は、私の中には――――――
みほ「何にもっ、無かったんだぁ」
乾ききった声。
それが引き金となり、はじける様に私は声を上げて笑い出す。
みほ「あはははははッ!!私、何もないっ!!私にはッ!!何もなかった!!」
そう、何もない。
あの瞬間、エリカさんが私にとって過去になった瞬間。
私の中の価値観は崩れ去った。
864 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/02/16(土) 22:17:42.77 ID:S0bhx1iI0
戦車道への情熱、辛さも楽しさも、確かにあった。
友達への友情も家族への愛情も間違いなくあった。
大切なものは、私の中にあった。
でも、今の私にとって何の価値も無かった。
まるで路傍の石ころのように。好きだったはずの戦車でさえ、ただの鉄くずのように思えた。
あの山の頂上で、私の全ては『エリカさんありき』だったのだと、ようやく気付いた。
黒森峰(ここ)に来る前に持っていたものも、黒森峰(ここ)に来てから得たものも。
全部、等しく、エリカさんがいたから大切だったんだ。
いつだって私はエリカさんと共に在ろうとした。
辛い時も、悲しい時も、楽しい時も。
黒森峰に来てからの4年間。それは、私の人生の半分にも満たない。
でもそれで、私の人生は変わった。
間違いなく、私の人生で最も幸せな日々だった。
エリカさんと出会ったあの日から私の世界は、エリカさんの優しい銀色で彩られていたんだ。
その色が輝きをくれた。その世界が私に未来をくれた。
だから、そのエリカさんがいなくなったから。私の世界にはもう、色なんて無いんだ。
乾ききった音が曇った夜空に響く。
笑い声と慟哭が入り交じり、いつのまにか涙がとめどなく流れ、
悲しみと歓喜が入り混じる。
『西住みほ』という人間が過ごしてきた今日までは何の意味も無かったとわかったから。
私にとってエリカさんがどれだけ大きな存在なのかがわかったから。
みほ「エリカさんッ!!大好きっ!!大好きだったよッ!!」
記憶に残る貴女はいつだって美しくて、それはもう、永遠に過ぎ去った姿(シルエット)で
みほ「貴女のいない世界なんて、貴女のいない私になんて、何の価値もないッ!!」
どれだけ手を伸ばそうとも届かなくなって
みほ「エリカさんっ、貴女の言う通りだったッ!!貴女は、私の友達なんかじゃなかったッ!!」
そんなものじゃ断じてなかった。そんなちっぽけな存在では決してなかった。
そう、貴女は
みほ「貴女は私の―――――全てだったんだッ!!」
865 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/02/16(土) 22:23:38.02 ID:S0bhx1iI0
『エリカさんありがとう。私はあなたのおかげで戦車道に、自分に誇りを持てるようになりました』
ごめんなさいエリカさん。そんなもの、私は持てていなかった。
私の誇りは、貴女と共に在ることだったから。
貴女がいたから、私は『私』でいられたから。
みほ「貴女がいたから、私の世界は輝いていた」
何もない虚空に向けて、愛おしさと感謝を込めて伝える。
エリカさんがいないなら私が生きている理由なんて無い。ううん、私は生きていちゃダメだったんだ。
エリカさんが私の全てで、エリカさんがいたから私が生きている意味になってたんだから。
でも、私は、生きないといけない。
貴女の最期の言葉を守らないといけない。
生きていちゃいけないのに、生きないといけない。
相反する命題は、けれどもあまりにも単純で、簡単な解決策で成立する。
私に生きる意味が無くて、私が生きていたくなくて、
エリカさんに生きていて欲しいのなら。
その時、視界がふっと明るくなる。
見上げると先ほどまで曇り切った夜空が僅かにひらけ、連なった月明かりが私を照らしていた。
偶然というにはあまりにも出来すぎている。
その月明かりに運命を見出すのはあまりにもロマンチックなのかもしれない。
神様なんていないのだから。誰も私を祝福するわけがないのだから。
それでも、この気持だけは嘘でも空っぽでもないから。
みほ「エリカさん。私は、西住みほは、貴女のことが大好きでした」
降り注ぐ月光に向かって両手を広げる
みほ「だから、私の全部を貴女にあげます」
全てを失い、生きているだけの私であっても、貴女の器くらいにはなるかもしれない
私なんかよりも、貴女が生きていたほうがきっと、未来は輝いていて、私はそれを誰よりも望んでいるから。
雲が晴れていく。揺らめく月光がゆっくりと広がっていく。
その輝きが私の『世界を』照らしていく。
そこに、もういなくなった貴女を見た。
だからこれは、『私』の最期の言葉。
『私』が貴女に贈る祝福の言葉。
「おかえりなさい」
866 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/02/16(土) 22:24:16.82 ID:S0bhx1iI0
ごめんなさい
867 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/02/16(土) 22:28:14.36 ID:S0bhx1iI0
ここまでー
あー!!あー!!あー!!なっがいなっがい!!めっちゃ長くなりました!!
このSSは私が今回投稿分を書きたくなったがために無理やり延命してきましたが、ようやく目的が果たせました。
これなければ
>>95
あたりで過去編さっさと終わらせて本編に入る予定だったのに思いついたからには書かないと…となった結果ここまで来てしまいました。
もうちょっと、もうちょっとで終わるんでもうちょっとだけお付き合いください。
また来週
868 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/02/16(土) 22:42:22.24 ID:eF0YnkzS0
あんたスゲーよ、おつ
869 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/02/16(土) 22:44:02.38 ID:mbYgIXHqo
乙!
870 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/02/16(土) 22:44:29.79 ID:xaAo1yvm0
乙でした!
871 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/02/16(土) 22:48:18.70 ID:k+KMJ6Leo
毎週待ってるからゆっくりやってくれ
872 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/02/16(土) 23:21:31.05 ID:iW6rIEWkO
乙
漸くここまで来た、待った甲斐があったよ
とはいえそうなるのもおかしくないよなぁ、エリカいないと本当に何も変わらず変えずに過ごしてただろうし
873 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/02/17(日) 00:44:54.03 ID:LOzK0lxH0
お疲れ様です、毎週楽しみにしてます!
あぁ、みぽりんが壊れていくぅ…
874 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/02/17(日) 00:50:38.53 ID:s9sP+7QT0
乙
来週も楽しみです
875 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/02/17(日) 01:09:13.06 ID:SexHg4oX0
乙
最初立ち直ったように見えてあれっ?って思ったら開き直って狂っただけだった
876 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2019/02/17(日) 01:12:46.86 ID:Mc4mC+UFO
乙でした。人が壊れる場面をこれほど美しく感じたのは初めてだ、素晴らしすぎる。
877 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/02/17(日) 01:21:42.67 ID:K9OYxJLZ0
乙!
依存と言うのすら生温いレベルの……まぁ、文字通りみほの全てだったもんなぁエリカ
そしてこれ、最後の一押しをしてしまった小梅の胸中を思うと……
こんなとこで見捨てられるか、もちろん完結まで付き合うぜ
878 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/02/17(日) 13:43:49.03 ID:E7+5hcfQ0
話の展開がうますぎる
こんなに面白いss久しぶりだ
エタらないようにだけ祈ってます
879 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2019/02/17(日) 13:46:11.24 ID:SlXIVAQe0
乙でしたー
880 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2019/02/17(日) 15:13:24.05 ID:c+NvnzQqO
前回吹っ切れて、まだこれから堕ちるのか…って思ってたらもう手遅れだった…
881 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/02/17(日) 23:16:03.65 ID:tzDl0Z480
開き直ったって言うか、余計自覚しちゃった訳よな
小梅は前向いてほしかったのに悲しいわ
882 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2019/02/18(月) 19:33:03.16 ID:HaAXRT2x0
もうそろそろスレの書き込み上限に達しそうなんだから、
毒にも薬にもならないくだらない感想書いてレス数を消費するな。
作者に気遣いもできないカス共が。
883 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/02/18(月) 19:37:34.96 ID:lcpBHtQe0
句読点ageカスに比べたら幾分かマシだろうよ
884 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2019/02/18(月) 23:59:12.42 ID:SFMjy95v0
( ´ー`)y━・~~~
885 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/02/19(火) 04:51:10.54 ID:BHjp/1MGO
>>882
良識ある人ほど、こーいうバカなレスに反応してしまうので、合えてつっこんどくが、
ほとんどの書き手側からすれば「雑談」ですら嬉しいんだからな。
「自分の作品のスレにそれだけ人がいるんだ」、「読んでくれる人がいるんだ」って感じられるんだから。
んでこの作者さんはそのほとんどに入らないんとは思えない程度に社交的な人だからな。
886 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/02/19(火) 07:48:50.48 ID:/4wsix1U0
>>883-884
ageカス云々の指摘とその直後のage煽りって他のスレでもよく見るけど全部同一人物?
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