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【ガルパン】エリカ「私は、あなたに救われたから」

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313 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/15(日) 16:17:22.75 ID:bW+2ZzxC0
匿名希望副隊長に隊長?

いったい、どこの何住なんだ……
314 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/16(月) 22:08:03.27 ID:x2NsAoGw0
おつ!
ほんっとこのスレだけ読んでたらみほエリ&小梅の青春サクセスストーリーなのに……
転落を知った上で読む微笑ましい話のなんと残酷なことか
315 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/16(月) 22:41:03.84 ID:i4IKqN2To
お姉ちゃんはまだエリカを不良扱いしているのか……ww
316 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/18(水) 12:46:48.72 ID:SxWo//8m0

>>1のかくSSは他がわからないけどママ爆弾好き
317 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/07/21(土) 22:33:39.84 ID:TPicXKb70




中等部2年―10月―



「ねぇ、今度はあっち行ってみよう」

「えー……もうちょっと落ち着きなさいよ」

「年に一度のお祭りなんだから、もっとはしゃがないと!!」

「はぁ……はいはい。わかりましたよ」

「ヒュー!!話がわかるぅっ!!」

「……このビールノンアルよね?」







まほ「……」



318 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/07/21(土) 22:35:33.65 ID:TPicXKb70



大通りを行進しているブラスバンドのメロディに混ざり、あちこちから歓声と乾杯の声が聞こえる。

季節は秋、黒森峰の学園艦では年に一度の大祭オクトーバーフェストが催されていた。

オクトーバーフェストは黒森峰女学院の中等部、高等部の2年生が中心となって盛り上げていく。

新入生たちと共に、進学する3年生を労う。

入ったばかりの一年は勝手がわからず、それを二年生がフォローすることで次年度に向けて絆を育んでいく。

その分2年生の負担は大きいが、自分たちが受けた恩を返す。そういった風土がここには根付いているようだ。

かくいう私も、去年はくたくたになりながらも働いたのだから、こうやってのんびりノンアルコールビールをのんでも罰は当たらないだろう。

とはいえ、周りが熱狂的に騒いでいる中一人テーブルでヴルストをつまみにちまちま飲んでいるのは正直あまりにも寂しい。

いや、友達がいないわけではない。

いるから。

ただ、今は人を待っているのだ。


319 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/07/21(土) 22:39:46.56 ID:TPicXKb70



みほ「お姉ちゃん、いたいた」

まほ「みほ」

小梅「隊長、待たせてすみません」

まほ「いや、気にするな」



人ごみをかき分けてやってきたのは、ドイツの民族衣装であるディアンドルを着たみほと赤星。

私が一人寂しくテーブルについていたのは友人がいないとかではなく、二人に呼び出されたからだ。



みほ「お姉ちゃん、ビールのおかわりだよ」

まほ「ああ、ありがとう……ん?逸見は」



みほ、逸見、そこに2年生から友人になった赤星を加えた3人は今やどんな時でも一緒にいると思われているぐらい良好な関係を築いている。

もっとも、逸見はそれを認めないだろうが。

しかし私の前にいるのはみほと赤星のみ。

どうしたのだろうかと首を傾げていると、みほが赤星の後ろに視線を向けていることに気づく。



みほ「ほらエリカさん」

小梅「いつまで隠れてるんですか」

エリカ「だ、だって……」



聞き知った声。どうやら逸見は赤星の影に隠れているらしい。

よくみると、目立つ銀髪がちらちらと見えている。

しかし小柄な赤星の影に隠れているとはどれだけ縮こまっているんだ。

みほ「もう、似合ってるんだから見せようよ」

小梅「そうですよ。もったいないです」

エリカ「ちょ、わかった。わかったから押さないでってばっ!?」


320 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/07/21(土) 22:49:25.45 ID:TPicXKb70



慌てる逸見をみほと赤星が押し出す。



まほ「……」



逸見のディアンドル姿はなんというか、言葉にできない。

生来の美しい銀髪と碧眼。白い肌が緊張と恥ずかしさで少し紅潮している。

元より逸見の容姿が優れているのは知っていたが、それに合わせて普段とは違う可愛らしいディアンドルを着た姿は性別問わず行きかう人の目を惹くものとなっていた。



エリカ「……やっぱこれちょっと胸元出すぎてない?」

みほ「そんなこと無いと思うけど」

小梅「もう、普段は威勢がいいのになんでこういう時はそんなしおらしくなっちゃうんですか」

エリカ「うるさいわねっ!?」



いつもはからかう側である逸見が今日に限ってはみほと赤星にからかわれる側になっている。

それはたぶん、3人の絆があってこそのものなのだろう。



みほ「エリカさん、とってもかわいいよ。ね?お姉ちゃん」

まほ「ああ。逸見以上にディアンドルを着こなせる子は黒森峰にはいないと思う」

エリカ「っ……」



正直な感想を伝えると、逸見はますます紅潮してしまう。

いつもは気丈な逸見がそうやって恥ずかしがる姿は、彼女が私とさほど変わらない少女なのだという事を思い出させてくれる。


321 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/07/21(土) 22:52:22.71 ID:TPicXKb70



エリカ「ま、まったく。みんな浮かれすぎなのよ。こんなコスプレみたいな恰好までして」

小梅「何言ってるんですか。中高合同のオクトーバーフェスト、3年生の皆さんに思いっきり楽しんでもらうために2年生が中心となって準備をしてきたんじゃないですか」

みほ「エリカさん凄く頑張ってたでしょ」

エリカ「そうだけど……」



照れ隠しのためか話題を変える逸見。

それに対してすかさず反応したみほと赤星。

そう、戦車道チームが出している店ではノンアルコールビールと軽食を提供する店をやっている。

エリカはその企画から準備、設営、そして今やっているように給仕までこなしている。

戦車道チームの後輩だという事を差し引いても、逸見が我々先輩のために頑張ってくれているのは明白だ。



まほ「逸見、お前の頑張りはみんなが知っている。戦車道チームの隊長としてお礼を言わせてくれ」

エリカ「……私は先輩方に受けた恩を返したいだけです。後輩達にあるべき姿を見せているだけです。別に褒められたくてやってるわけじゃないですから」

小梅「はぁ……ほんと、変なところで融通が利かない人ですね」

みほ「お礼はちゃんと受け取ったほうが良いんでしょ?」



あくまで謙虚な逸見に対してみほと赤星が詰め寄る。

痛いところを突かれたのか逸見は二人に言い返せないようだ。



みほ「……赤星さん」

小梅「はいっ」



そんな逸見を見て、今度は示し合わせるかのように二人は頷き合う。



みほ「そういえばエリカさん、まだ休憩とってなかったでしょ?」

エリカ「え?でもまだ時間じゃ……」

小梅「ちょっとぐらい早めにとったって誰も怒りませんよ。ほら、座って座って」



白々しい二人の演技に戸惑う逸見。

それを無視して赤星が私の対面の席を引くと、みほがエリカをそこに座らせる。



エリカ「ちょ、あなた達?」

みほ「ほら、ノンアルビールにヴルスト。自分たちのお店の味ぐらいちゃんと知っててよ?」

小梅「それじゃあ私たちは仕事に戻りますから、エリカさんごゆっくり」


322 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/07/21(土) 22:53:23.40 ID:TPicXKb70



まるで準備していたかのようにビールと料理をテーブルに並べると、逸見の返答を待たずに二人は人ごみの中に消えていった。

エリカ「あ、あの子たちはっ……」

まほ「いいじゃないか。せっかくだ、ゆっくり話そう」

エリカ「……はい」



怒りと呆れに打ち震える逸見を宥めて、私はみほに注いでもらったグラスを掲げる。

それ見て逸見はどうしたのかと首を傾げている。

まったく、本当に変なところで真面目なんだな。



まほ「せっかくのお祭りなんだ。お前も少し位はしゃいだっていいはずだ」

エリカ「……あ」



ようやく気付いたのか逸見もグラスを掲げる。



まほ「2年生の頑張りに」

エリカ「先輩方の栄光に」



「「乾杯<プロースト>」」


323 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/07/21(土) 22:58:18.42 ID:TPicXKb70






乾杯のおかげもあってか、先ほどまでの重苦しい雰囲気はどこかへ行って、私とエリカは歓談することができていた。



エリカ「今年の優勝も隊長のお力があっての事です」

まほ「あまり持ち上げないでくれ。私はまだ中学生なんだ。こんなところで満足していられない」

エリカ「ふふっ、でも私にはあなたを称賛する言葉しか見つかりませんから」



隊長と隊員としてだけではなく、先輩と後輩としての会話。

周囲の騒がしさが気にならないくらい、私は逸見との会話を楽しんでいる。

……だからこそ、聞きたかった事を問いかける。



まほ「なぁ逸見」

エリカ「はい?」

まほ「お前がみほと赤星を友達にしたのか」

エリカ「急にどうしたんですか」

まほ「赤星に聞いたんだ。お前が二人を友達にしたと」




小梅『え?なんでみほさんとって……エリカさんのおかげですね』




みほに友達(逸見は認めていないが)ができただけでも驚きなのにそこに赤星まで加わって、

その立役者が逸見だというのだから逸見は案外人付き合いが上手い奴なのだろうかと思ってしまう。



エリカ「……赤星さんは元々みほの事を気に懸けてたみたいですから。私が何もせずとも友達になってたと思いますよ」

まほ「……そうか」

エリカ「それに、私にも思惑はありましたし」

まほ「思惑?」

エリカ「あの子がべたつく対象を変えられるかなって。いい加減暑苦しいですし。……まぁ、結局あの子は私と赤星さんの二人にべったりですけど」

まほ「……ふふっ」



その誤魔化すような態度に、赤星の言葉を思い出す。




小梅『エリカさんは誤解されやすい人です。……現に私はあの人を誤解してましたから。

   だけど、それを理解したら今度はこう思えるようになりました。―――――嘘の下手な人だなって』




相変わらず、逸見は嘘が下手なようだ


324 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/07/21(土) 22:59:54.15 ID:TPicXKb70



エリカ「笑い事じゃないですよ。物寂しい秋の帰り道を一人で優雅に帰る楽しみを奪われたんですから」

まほ「その代わり得たものもあっただろ?」

エリカ「……さぁ?そんなものありますかね」



とぼける逸見に、私はもう一歩踏み込む。



まほ「……なぁ、お前は二人をどうしたいんだ?」

エリカ「それ、去年も聞きましたね」

まほ「今度は赤星もだ」

エリカ「……赤星さんは友達ですよ。あの子は強いですから」

まほ「……赤星もみほと同じであまり気の強いほうじゃないと思っていたんだがな」

エリカ「その通りです。あの子はきっと、今も気が弱いほうですよ」





エリカ「だから強いんです」





それまでの言葉とは真逆な赤星の評価。

逸見は疑問に思う私の内心を知ってか知らずか、話を続ける。



エリカ「気が弱くても、実力が無くても、それを分かったうえで誰かを助けるために前に出てきた。あの子は……赤星さんは強いです」

まほ「……ああ、そうだな」


325 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/07/21(土) 23:01:07.14 ID:TPicXKb70





『強い』、『弱い』




どうやら逸見は他者を評価するのにその二つを使うらしい。

そこにはたぶん戦車道の腕だけではなく、人としての強さも含まれているのだろう。

赤星とのいざこざと、その顛末については私も聞き及んでいる。

そして、私が知ることのできない何かが二人の間であったのだという事も推測できる。

そのうえで逸見が赤星を『強い』と評価したのであれば。友達になろうと思ったのであるのなら。

これ以上は聞かない。

それは私が、他人が触れていい事情ではない気がするから。

赤星と逸見の二人が結んだ友情を関係ない私が詳らかにしようなんて無粋な真似はできないから。

なので、私は話の焦点を別の人物に当てる。



まほ「それで?赤星と友達になったのはいいが、みほはどうなんだ?いい加減友達に」

エリカ「なってません。なるつもりもありません」

まほ「……はぁ」



相変わらずの一刀両断。

あれだけ慕っている人物にこうも言われてはみほの心労いかんばかりや。となってしまう。



エリカ「そう落胆されても、私あの子の事嫌いですから」

まほ「そういうのをツンデレというのだったか」

エリカ「変な言葉覚えてますね……違いますよ」



赤星が『エリカさんはツンデレの才能がありますねー』と言っていたのだが。


326 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/07/21(土) 23:02:04.35 ID:TPicXKb70



エリカ「私とみほはライバルです。友達なんて甘い関係は赤星さんとだけ結んでいればいい。―――――私は、あの子を倒したいから」

まほ「……そうか」

エリカ「赤星さんが甘い分、私が叩く必要があるんですよ。まぁ、あの子に戦車道以外で褒めるところなんかありませんけど」

まほ「ずいぶんだな」



実の姉の前でそれだけ言えるのだから逆に感心してしまう。



エリカ「前に怒らないって言ったじゃないですか。遠慮はしません。それに、」

まほ「それに?」

エリカ「それが、あの子との協定ですから。みほは『自分らしさ』を、私は『強さ』を。お互いの交流で見つけようって」

まほ「……」

エリカ「私が強さを追い求めるためにも、あの子には強くなって欲しいんです」

まほ「それならばなおさら、赤星のような甘い友人はいないほうがいいんじゃないか?」



誰かに寄りかかり、甘えることは逸見の嫌う弱さにつながってしまうのではないか。

私の問いかけに、逸見は目を伏せ、呟くように答える。



エリカ「……以前のあの子は、誰かの思惑で押しつぶされそうでした」

まほ「……」


327 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/07/21(土) 23:03:58.19 ID:TPicXKb70



その『誰か』には私も含まれていると感じた。

……いや、私自身がそう思っているのだろう。

あの子の辛さを、悲しさを知っていながら目を逸らし続けていた私の罪悪感がそう思わせるのだろう。



エリカ「期待を背負って、重圧に打ち勝てるのなら、それ以上はありません。だけど、そんなのきっと限られた人間だけなんです。

    そしてあの子はそうじゃなかった。いくら強くったって、立ち上がることさえできなかったら……何の意味もない」



意味はないと、はっきり言い切る逸見。

言い換えれば、それだけの価値をみほに見出したという事だ。



まほ「だから、赤星とみほを友達にしたのか」



私の問いかけにエリカは私の目を見つめて、真っ直ぐに答える。



エリカ「私なんかじゃなく、利害関係にない友人の存在が、きっとあの子をもっと強くしてくれる。私はそう思ってます」



甘さを生み出すかもしれない友人が、強さに繋がると。

ストイックな逸見のイメージに合わないその言葉は、だけど逸見らしいと思えてしまう。


328 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/07/21(土) 23:05:55.38 ID:TPicXKb70



まほ「それが、お前がみほ達と一緒にいる理由か」

エリカ「そういうわけです」



みほが赤星と友達になることでもっと強くなる。逸見はそのみほから強さを学び取る。

なるほど、なるほど。

…………………………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………………うん。



まほ「逸見、お前はめんどくさいな」

エリカ「……それ、赤星さんにも言われました」

まほ「回りくどいしややこしいし、お前はもっとこう、あの二人とわかりやすい関係になれないのか」



逸見が一言、みほに友達だと言えばあのややこしい関係は一本の線になるというのに、

だけど、逸見はそんな事知った事ではないという風に私の視線から顔を逸らす。



まほ「……まぁいいさ。お前たちの関係にいちいち口を出すつもりは無い」

エリカ「そうしてくれるとありがたいです」

まほ「でもな、逸見」

エリカ「はい」



意地悪で意地っ張りで、嘘の下手くそな後輩に、伝えたいことがある。




まほ「それでも、私は知っているよ。お前が、お前たち3人が楽しそうに連れ合う姿を」


329 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/07/21(土) 23:13:01.42 ID:TPicXKb70




みほは嬉しそうに、赤星は慈しむように、逸見はやれやれと言った風に。

三者三様に笑っていた。

その姿を、あの笑顔を見て、それでも逸見の言葉が全て真実だと信じられるほど私は蒙昧じゃない。

私の言葉に、逸見は最初何かを言い返そうとしていたが、やがて観念したかのようにため息をついて、



エリカ「……みほの事は嫌いです。だけど、友達と笑い合ってる時に空気を悪くするほど狭量なつもりはありませんよ」



それはたぶん、逸見が話せる精一杯の本音なのだろう。

だから、今日はこのぐらいでいい。

逸見の本音の全ては聞けなかったが、少なくとも逸見のした事はみほにとっても赤星にとっても嬉しい事だったのだから。



まほ「……逸見、お前は不良なんかじゃないのかもな」

エリカ「ようやくわかってくれましたか!そう、私は品行方正な」

まほ「義に厚い昔ながらの不良なんだな」

エリカ「違ああああああああうっ!!?」

まほ「いやーまさか子供の頃床屋に置いてあったヤンキー漫画の主人公みたいな人間が本当にいるとは思わなかった。あれか、友のために喧嘩したりするのか。『ニゴバク』がそうだったのか」

エリカ「いやだからっ!?」



からかう私に、大声で反論する逸見。

相変わらず、面白い反応を返してくれる。からかい甲斐がある奴だ。

私が飲んでいるのはノンアルコールビールのはずなのに、どういう訳か、楽しくて、笑ってしまう。

祭りの騒がしさを、私たちの声で塗り替えてしまうような、そんな気さえしてしまう。

しかし、その終わりは二人の人影と共に逸見の背後からやって来た。



みほ「エリカさーん、そろそろ休憩終わりだよー」

小梅「流石にそろそろ限界なんでヘルプお願いします」



まほ「もうそんな時間か」

エリカ「ちょっと待ってなさい!!私は今ここで、誤解を解いておかないといけないのっ!!」

小梅「そういうのは後でお願いしまーす」

みほ「ほら、早く戻ろうよ。それじゃあお姉ちゃんまたね」

まほ「……ああ、またな」

エリカ「ちょ、離しなさい!!いいですか隊長!?私は、不良なんかじゃなくて、品行方正な―――」



逸見の抗弁は私に最後まで届くことは無く、3人は再び人ごみに消えていった。

私はまた、一人残された。



まほ「……」

330 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/07/21(土) 23:33:26.05 ID:TPicXKb70



逸見は言った。みほには甘えられる友人がいることで強くなると。

だけど、みほにとってのそれはきっと、赤星だけではない。

初めて叱責をしてくれて、初めて内心を吐露した相手。

そうしてくれたのは、それを受け止めてくれたのは、

押しつぶされそうなみほを救ったのは、他でもない逸見だった。



『エリカさんは、私の嫌いなところを全部嫌いって言ってくれたんだ』



自分のためを思い嫌われることも厭わず叱責してくれる人を、みほは求めていたのかもしれない。

だから、みほにとって、逸見に叱責されることは甘える事と同義なのかもしれない。

そう思える事は、そう思える相手がいる事は、とても幸運な事なのだと思う。

ならば、みほのとっての逸見のような、自分の胸の内を語れる人を持っていない私は、不運なのだろうか。



まほ「……騒がしいな」



周りの歓声が、楽器の音が、耳につく。

どうやら私は祭りというものがあまり好きではないらしい。

どうしようもなく、自分が独りだと思い知らされるから。



あの日夕暮れと共に胸に差し込んだ寂しさを、不安を、私はまだこの胸に抱え込んでいる。

それはきっと私の弱さだ。

逸見が強さを尊ぶのなら、私は逸見にとって嫌悪の対象なのかもしれない。

だから、この弱さは胸の内に抱え続ける。

強くあるために、弱さを見せないために。

私が、西住であるために。


331 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/07/21(土) 23:34:20.80 ID:TPicXKb70






それすら私の弱さだと気づいているのに





332 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/07/21(土) 23:35:55.47 ID:TPicXKb70




〜中等部二年 11月〜




とある山岳地帯。

私たち黒森峰の中等部は練習試合を行った。

結果はもちろん。などと自惚れるつもりはないが、それでも勝利は勝利。

私は隊長として、最後の試合を無事終えることができたようだ。



千代美「いやぁ、負けたよ。完敗だ」

まほ「いや、こちらも危なかった。正直機動戦術に関してはお前に分がある」

千代美「ははは、お前にそう言ってもらえるなら自信になるよ」

まほ「お世辞を言ったつもりはない」



試合後の心地よい疲労感の中、私は相手チームの隊長と和やかに会話をしていた。

年齢を考えると不釣り合いなほど大きなツインテールを揺らしている相手の隊長―――安斎千代美とは、何度か試合をした縁から、

良く練習試合を組ませてもらった仲だ。

まぁ、安斎の学校と良好な関係を築けたのは偏に安斎の人柄があってこそだと思うが。

自慢ではないが私はあまり人付き合いが得意な方ではない。

もちろん、家に恥じない礼儀は身に着けているが、それはそれとして、同年代の人たちと交流するには少々堅苦しいと思われがちだ。

しかし安斎は初対面の時分にして、『お前が西住流のかー!!強いなー!!』といった具合に肩を叩いてきたのだから面食らったものだ。

その安斎からの練習試合の申し込みをそう無碍にできるほど私は冷血ではない。

という訳で、何度かの練習試合を経て今日、私の中等部最後の試合相手となったわけだ。



千代美「そうかー。なら、励みにさせてもらうよ」

まほ「ああ。安斎、中学最後にいい試合ができた。

   来年の全国大会でお前と戦えることを楽しみにしているよ」

千代美「んー……あー……それは難しいかもな」

まほ「どういうことだ?」



いつも朗らかな安斎がどういう訳か頬をかきながら気まずい様子を見せている。


333 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/07/21(土) 23:37:36.47 ID:TPicXKb70




千代美「私は、転校するんだ」

まほ「転校って……そのまま今の学園艦で進学するんじゃないのか」



学園艦は基本的に中高一貫だ。

そして、学園艦のシステム上親元を離れて暮らす人間が多い。

なので、中等部の3年間だけでも母校に愛着を持ち、そのまま進学する人間がほとんどだ。

もちろん転校の事例がないわけではない。

しかし、私の目から見て安斎は母校に対して愛着を持っているように思えたのだが……



千代美「アンツィオ高校ってところにな、転校するんだ」

まほ「……すまない初耳だ。だが大会に出ていないだけで戦車道が盛んなところなのか?」

千代美「いや?そもそも現時点で戦車道チームすら形だけでほとんど履修者がいないそうだ」

まほ「……何故そんなところに」



思わず口が滑った私に、安斎は「こらっ!」と叱りつける。



千代美「そんなとことか言うな。戦車道チームがないだけで立派な学園艦なんだぞ」

まほ「あ……すまない」

千代美「わかればいい。……スカウトされたんだ『戦車道チームを立て直してほしい』ってな」

まほ「……」



スカウト。いわゆる野球留学のように、戦車道でもそういったものはある。

あるにはあるが、中高一貫の学園艦において、あまり聞く話ではない。



千代美「正直色々考えたよ。いくらスカウトされたとはいえ戦車道においては無名も無名な高校への転校だからな」

まほ「……」

千代美「でもな、それ以上に嬉しかったんだ、私の力を必要としてくれる人たちがいるって事が」



嬉しそうに安斎は笑う。

自分の力を評価して、求めてくれる。

その喜びが分からないだなんて言うつもりはない。

だけど、



まほ「それは、今の学校だって」

千代美「その通りだ。だからもう一つ理由がある。……私は、私の戦車道をしたい」

まほ「それだって今の学校で」

千代美「西住、お前ならわかるだろ。歴史が、伝統があるって事は強い結束と統率を生む。だけど同時にどうしようもない息苦しさを感じることも」

まほ「……」

334 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/07/21(土) 23:39:27.90 ID:TPicXKb70



わかる。だなんてものではない。現に私は、みほがその息苦しさに押しつぶされかけていたのを知っているのだから。



千代美「私はさ、1から自分のチームを作りたいんだ。志を共にできる仲間を集めて、私が隊長としてのびのびとやれるチームを」

まほ「それは……随分と自分勝手な話だな」

千代美「スカウトされた身なんだ。それぐらいのわがままは良いと思わないか?」

まほ「……そうだな」

千代美「多分一年目はチームメイトの募集と戦術の確立で終わると思う。……いや、仲間集めすらままならないかもな

    だけど私はあきらめない。新天地で、期待してくれる人たちに応えたいんだ」

まほ「……お前は他人の期待を恐れないのだな」



安斎はおもちゃの山に飛び掛かる子供の様に両手を広げる。



千代美「怖いさ!だけど、それ以上に楽しみなんだっ!!」



力強く、気高い言葉。

それが、それこそが安斎の本質なのだと感じた。



千代美「期待の重圧も、新天地での不安もある。だけど、どうせ苦労するのならせめて笑ってやりたいだろ?」

まほ「……ああ、その通りだ」

335 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/21(土) 23:51:05.61 ID:PhkCmU6Po
ん?
336 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/07/21(土) 23:58:54.62 ID:TPicXKb70



千代美「待ってろ西住。私の作るチームは強いぞ?」

まほ「なら、黒森峰は最強であろう」

千代美「……頑張れよ」

まほ「そっちこそ」



固く、握手を交わす。

彼女の強さが笑顔が、握った手を通して伝わってくる。

だけど、次第に彼女の笑顔が陰っていく。



まほ「安斎?」

千代美「……西住、結局お前は最後まで強かったな」

まほ「……?ありがとう」



諦めのような感情が込められた誉め言葉に、私は戸惑いながらお礼を返す。

それを聞いた安斎は、悲しそうな表情を振り切るように私を抱きしめる。

そして、ぎゅっと私の両肩を掴んで視線を合わせる。

いつもスキンシップの激しい奴ではあったが、今日に限ってはどうも熱が入ってるようだ。



千代美「……西住、たぶん次にお前と戦うのは随分先になると思う。だからさ、一言だけ言わせてくれ」

まほ「あ、ああ、なんだ?」

千代美「もっと、強くて、弱くなれ」



矛盾した言葉。ともすれば馬鹿にした様にも聞こえるそれに、私は聞き覚えがあった。





『あの子はきっと、今も気が弱いほうですよ――――だから強いんです』



337 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/07/22(日) 00:00:53.43 ID:A+PN/k9Q0




逸見が、赤星を評した言葉。

その言葉の真意を私は未だ図りかねている。

だってそれは、二人の間で結ばれた友情が紡ぎだしたものなのだから。

他人の私が図り知ることなんてできないのだから。

なのに、安斎が言った言葉と、逸見が言った言葉が同じ意味を示しているように私は感じた。



まほ「安斎、教えてくれ。今のは一体どういう――――」





エリカ「隊長」




私の疑問は、その張本人の一人である逸見の声によって遮られた。

言葉に詰まる私に、逸見はどうしたのかという表情をする。

私は深く息をついて、表面上、冷静さを取り戻し、安斎は何事もなかったかのように、逸見を笑顔で出迎える。



まほ「……逸見、どうした」

エリカ「え?いや、撤収完了の報告に……」

まほ「そうか。ありがとう」

千代美「おー、お前が榴弾姉妹の片割れか」

エリカ「初めまして。……って、なんでそのあだ名よそにまで広がってるんですか……」

千代美「戦車道において諜報も立派な戦術だからな」

まほ「これも戦車道だ」



(本人にとっては)不名誉なあだ名が広がっていることに肩を落とす逸見を、

今度はまるで品定めをするかのように安斎がじろじろと見つめる。



千代美「うーん……」

エリカ「な、なんですか?」

千代美「逸見って言ったっけ?お前……細すぎないか?」

エリカ「は?」

338 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/07/22(日) 00:12:38.98 ID:A+PN/k9Q0




あっけにとられた逸見に向かってまるで姉か親かの様に、安斎は語り掛ける。




千代美「ダメだぞー?そりゃあ年頃なんだし美容に気を遣うのはわかるが、だからと言って激しい運動をしてるのにそんな細いんじゃ倒れてしまうぞ」

まほ「ああ、それは私も思ってた」



正直あんな細い体でよく激しい戦車道をこなすことができるものだ。



千代美「だろ?ちゃんと食べろ!!体力をしっかりつけるんだ!!」

エリカ「だ、大丈夫ですっ!!」

千代美「もしかして食欲がないとかか?だったら、食べやすいメニューにいくつか心当たりがあるから後で教えるぞ?」

エリカ「そうじゃなくって!!私はちゃんと自分なりに健康管理はしてますからっ!!」

千代美「むー……本当か?」



案外疑り深い安斎に対して、逸見はきっぱりと言い切る。



エリカ「本当ですっ!!」

千代美「ならいいが……」



みほ「エリカさーん、お姉ちゃーん」

エリカ「みほ、どうしたのよ」

みほ「エリカさんがお姉ちゃん呼びに行ったまま戻ってこないからでしょ……」

まほ「ああ、それはすまなかった」

みほ「ほら、早く帰ろう?」

まほ「そうだな。安斎、お前の作るチームと試合ができる日を楽しみにしている……また会おう」

千代美「ああ。また会おう」


私はそのままみほたちを先導して戻っていく。




千代美「西住っ!!」



339 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/07/22(日) 00:28:24.58 ID:A+PN/k9Q0




後ろからかけられる声。

振り向くと、安斎が胸を張って私を見つめていた。

そして、もう一度大きく息を吸うと、




千代美「私の言葉の意味はお前が見つけろ!!そしたらきっと――――お前に必要なものがわかるはずだっ!!」




そう言うと、安斎は振り向くことなく帰って行った。



エリカ「隊長に必要なものって……どういう意味かしら?」

みほ「お姉ちゃん、安斎さんと何話したの?」

まほ「……」



みほたちの問いに答えず、私は無言で歩みを進める。

そんな私に、二人は疑問符を浮かべながらついてくる。




『もっと、強くて、弱くなれ』



340 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/07/22(日) 00:30:52.97 ID:A+PN/k9Q0



矛盾したその言葉の意味を理解できた時、私に必要なものがわかる。

まるで宝のありかを示したなぞなぞのような安斎の言葉を、私は何度も何度も頭の中で繰り返す。

だけど、答えは出ない。

ただのものの例えで、深い意味などないと切って捨てることもできるのに、

安斎の言葉が、諦めたような、悲しそうな表情が、頭から離れない。

だから、私は一旦考えるのをやめる。

指揮する人間は常に取捨選択を求められる。

今すべきことを、瞬時に判断する必要がある。

いくら考えてもわからないのなら、もっとやるべきことにリソースを回すのだ。

たとえ安斎の言葉に深い意味があろうとも、

たとえ安斎の悲しそうな表情が頭から離れなくても、

それがきっと、私の根幹に関わるものであったとしても、

それがわからない自分が情けなくても、それでも、




まほ「私は、強くなきゃ」




341 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/07/22(日) 00:31:27.64 ID:A+PN/k9Q0





それが、私の存在理由なのだから





342 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/07/22(日) 00:32:05.70 ID:A+PN/k9Q0
めっちゃ難産でしたがこれにて中2編終了です。

また来週。
343 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/07/22(日) 00:36:07.68 ID:A+PN/k9Q0
>>293  エリカさんはほほ笑んでいた。あきれたように、小ばかにしたように。だけど、優しさを隠しきれない表情で。                                          ↓
     逸見さんはほほ笑んでいた。あきれたように、小ばかにしたように。だけど、優しさを隠しきれない表情で。

>>294  小梅「はい。……エリカさん」
           ↓
     小梅「はい。……逸見さん」


上記のように訂正いたします。
344 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/22(日) 00:53:54.83 ID:xBo6fd+QO
お。そうかもう今日で一週間だったか、、、なんか時勢の風物詩みたいにになってきとるぜ。
明日、ゆっくり読ませてもらう。
乙だぜ
345 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/22(日) 01:24:13.05 ID:drPaRaFM0


姐さんはホントに人間ができたお方やで…
こんな子がまほのそばにもいたならなぁ
346 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/22(日) 03:06:41.28 ID:b1XwH5u00
フェイズエリカがこういう中等部生活だったらなあ…
347 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/22(日) 03:40:09.33 ID:8Yy7xgsX0
まほのこともエリカが攻略してれば悲劇は生まれなかったのかな
348 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/22(日) 08:28:52.42 ID:rujXBfQPO
慕ってくれる後輩いなくなって一人になるまほ大丈夫かな
孤立して悪化してそう
349 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/22(日) 10:26:04.50 ID:0LBjqMRZo
おつー
>私はちゃんと自分なりに健康管理はしてますから
偽エリカも言ってたねww
350 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/22(日) 11:10:09.64 ID:19z17FbFO
拡散希望
【SS掲載拒否推奨】あやめ速報、あやめ2ndは盗作をもみ消すクソサイト



SSを書かれる際は掲載を拒否することを推奨します


概略1

現トリップ◆Jzh9fG75HAは

混沌電波(ちゃおラジ)なるSSシリーズにより、長くの間多くの人々を不快にし

また、注意や助言問わず煽り返す等の荒らし行為を続けていたが

その過程でついに、ちゃおラジは盗作により作られたものと露呈した



概略2

盗作されたものであるためと、掲載されたシリーズの削除を推奨されたSSまとめサイト「あやめ2nd」はこれを拒否

独自の調査によりちゃおラジは盗作に当たらないと表明

疑問視するコメント、および盗作に当たらないとの表明すら削除し、

盗作のもみ消しを謀る


概略3

なおも続く追及に、ついにあやめ2ndは掲載されたちゃおラジシリーズをすべて削除

ただし、ちゃおラジは盗作ではないという表明は撤回しないまま

シリーズを削除した理由は「ブログ運営に支障が出ると判断したため」とのこと




SSまとめサイトは、SS作者が書いたSSを自身のサイトに掲載し、サイト内の広告により金を得ている

SSまとめサイトは、SSがあって、SS作者がいて、はじめて成り立つ


故に、SSまとめサイトによるSS作者に対する背信行為はあってはならず、

SSにとどまらず創作に携わる人全てを踏みにじる行為、盗作をもみ消し隠そうとし

ちゃおラジが盗作ではないことの証明を放棄し、

義理立てすべきSS作者より自身のサイトを優先させた

あやめ速報姉妹サイト、あやめ2ndを許してはならない



あやめ速報、あやめ2ndは盗作をもみ消すクソサイト


SSを書かれる際は掲載を拒否することを推奨します
351 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/23(月) 07:51:56.63 ID:Iw8iV191O
お姉ちゃんが順調に病んでいってらっしゃる…
352 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/07/23(月) 17:54:45.73 ID:/9rKJdLNO
ここから拗らせに拗らせた結果が今のお姉ちゃんの態度だと考えるとあまりにも切ないな
353 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/23(月) 19:03:12.63 ID:IPY7b2Lz0
うるせぇsageろks
354 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/23(月) 20:15:46.43 ID:XyWQKiKd0
うむ
355 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/07/23(月) 22:31:27.37 ID:mCDj8EYhO
356 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/24(火) 01:44:53.19 ID:LLS+7oHH0
>>1ーシャ
ハッピーエンドになるのかなぁ……
本編、ただまほちゃん倒すだけじゃどうにもならんよね
357 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/26(木) 00:06:20.89 ID:y+yM4GHN0
とりあえずエリみほ読めれば許す
358 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/27(金) 01:33:00.06 ID:gY3+eGvSO
>>357
上から目線で気持ち悪いから二度と書き込まなくていいよ
359 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/07/28(土) 18:01:06.86 ID:1x1ofSBV0



中等部三年 〜4月〜



季節は過ぎて桜の頃。

黒森峰に入って3度目の春を迎えた私は、今学期最初の戦車道の授業を前にしてロッカールームのベンチで祈るように手を組んで座り込んでいた。



みほ「……とうとう三年生」



うわごとの様な言葉。

誰に向けたわけでもないそれに対して、投げかけられる声が一つ。



エリカ「いつまでそんな浮かない顔してるのよ隊長さん」



私の正面でロッカーに寄りかかっているエリカさんは、ベンチに座る私をじっと見下ろす。



エリカ「もうみんな練習場に出てるわよ。隊長が遅刻してどうするのよ」



360 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/07/28(土) 18:02:55.93 ID:1x1ofSBV0


そう。私は今年から中等部の隊長に就任した。

副隊長からそのまま繰り上がりでの人事。

周りから見れば当たり前の事なのかもしれない。

だけど、

覚悟していたつもりだった。

決意していたはずだった。

それでも。私は今、圧し潰されそうで、

外で私を待っている人たちの期待が、視線が、それに応えられないかもしれない事が怖くて。

私の口から不安が漏れだしてしまう。



みほ「エリカさん、私、私なんかで本当に良いのかな……」

エリカ「今さら何言ってるのよ。ほら、シャキッとしなさい」



やれやれと言った風に私を促すエリカさんは相変わらずで、

だからこそ、安心感を覚えてしまう。

そして、だからこそ。私は言ってはいけない事を口にしようとしてしまう。



みほ「ねぇエリカさん、私なんかよりもあなたの方が―――――」

エリカ「それ以上言ったら怒るわよ」

みほ「っ……」

361 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/07/28(土) 18:05:30.70 ID:1x1ofSBV0


『怒る』だなんて可愛らしい言葉に似使わない、冷たく突き放すような声色。

あの時と同じ、私はまたエリカさんの逆鱗に手を近づけてしまったようだ。

エリカさんの気迫に何も言えずにいると、エリカさんはため息を一つついて、

そっと、膝を曲げて私の目線に合わせてくる。



エリカ「みほ、あなたは隊長に選ばれたの。贔屓じゃなく、実力で」

みほ「……」

エリカ「誰かの期待を理由に逃げるのはやめなさい。それはあまりにも自分勝手な事よ。

    嫌なら、辛いのなら、ちゃんと自分の言葉で言いなさい」



分かっていたはずだった。理解して、二度と同じ過ちを起こさないと自分を戒めたはずだった。



私はかつて目の前の人の決意を侮辱し、踏みにじった。

自分が可哀そうだと嘆くばかりで何も見ていなかった。

正直、思い返しても酷い人間だったと思う。

あんなにも嫌な事から逃げたかったのに、私の目は、耳は、頭は、その嫌な事だけを拾い続けていたのだから。

罵倒されても、軽蔑されても、見限られてもしょうがない人間だった。

だけど彼女は、エリカさんは私を叱ってくれた。

自らの決意を侮辱した、踏みにじった張本人を。

本気で叱り、本気で向き合ってくれた。

手を差し伸べてくれた。

だから私はエリカさんに認めてもらいたくて、エリカさんのようになりたくて、

強くなろうと決意した。

なのにこのザマだ。

自嘲する気力すらなく、私はポツリと謝罪を口にする。



みほ「……ごめんなさい」

エリカ「……いいわ。気持ちがわからないなんて言うつもりはないから」



エリカさんは私から視線を外すと、先ほどのようにロッカーに寄りかかる。



362 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/28(土) 18:05:33.85 ID:1ia1RY+nO









おっ、今日は早い!、








363 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/07/28(土) 18:09:46.78 ID:1x1ofSBV0


エリカ「あなたのお下がりってのが気にくわないけど、それでも私は副隊長よ。あなたを支えるのも仕事のうちなんだから」

みほ「……」



仕事。

そう、私を支えるのはエリカさんにとって仕事でしかない。

知っていた、わかっていた。エリカさんと私は友達じゃないのだから。

だから、そこにどうしようもない寂しさを感じてしまうのは、私の我儘なんだ。

重苦しい空気がロッカールームを満たしていく。



小梅「じれったいなぁもう……」

みほ「赤星さんっ!?」

エリカ「あなた、いつのまに……」



その空気を打ち破ったのはいつの間にかロッカールームの入り口に立っていた赤星小梅さん。

赤星さんはやれやれといった様子で私たちに語り掛ける。



小梅「深刻な顔して何話してるかと思えば、まったく。なんで二人は素直に話せないんですか」

みほ「素直に……って」

エリカ「別に、この子にこれ以上言う事なんてないわよ」

小梅「……はぁ。口を出すつもりはありませんでしたが、このままだと埒が明きませんね」



そう言うと赤星さんは、私とエリカさんの手を交互に取り、



小梅「みほさん、エリカさんはあんなんですから真っ直ぐに言わないとまともなボールなんて返ってきませんよ」

みほ「……」

小梅「エリカさん。あなたがめんどくさいってのはいい加減理解してますけど、もうちょっと手心を加えてください」

エリカ「……ふん」

小梅「二人ともそれなりの付き合いなんですからいい加減学習しましょうよ。回りくどい言い方に回りくどく言い返してたらいつまでたっても伝わりませんって」



「私から言えるのはこれだけです」。そう言って赤星さんは一歩離れるとじっと私たちの様子を見守る。



364 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/07/28(土) 18:11:21.52 ID:1x1ofSBV0


みほ「……」

エリカ「……」



空気が再び重さを纏う。

私は何を言えばいいのか必死で考える。

私がエリカさんに言いたい事、伝えたい事。

私は、エリカさんに隊長を変わってもらいたいのだろうか。

……違う。

私はもう、副隊長の立場を投げ出したかったかつての私とは違う。

たとえ誰かの期待が重くても、それに応えられないことが怖くても、

もう逃げない。

私は、握った手をぎゅっと胸に当てて前を、目に前にいるエリカさんを見つめる。



みほ「……エリカさん」

エリカ「……何?」

みほ「頼りない隊長だけど、それでもみんなと一緒に勝ちたいから。頑張るから―――――私を支えてください」



私の想いを、願いを込めて精一杯紡いだ言葉。

エリカさんはどう思ってくれるのだろうか。

いつもの様に素気無く返してくるのだろうか。

エリカさんはしばらく無言で私を見つめると、ため息を一つつく。

そしてそっと髪をかきあげて、先ほどの私と同じように真っ直ぐこちらを見つめて、



エリカ「……私は、副隊長よ。あなたを支えることが勝利への近道だと思ってる。だから……」



365 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/07/28(土) 18:12:03.43 ID:1x1ofSBV0





エリカ「あなたの味方でいてあげる。……失望させないでよ?」




366 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/07/28(土) 18:14:16.77 ID:1x1ofSBV0



相変わらずどこか棘のある言葉。

だけど、まっすぐな視線が、ほんの少しだけ緩んだ口元が、隠しきれてない優しさが、私の胸の中に流れ込んでくる。



小梅「かー!!エリカさんほんっと素直じゃないですね!!」

エリカ「うるっさいわね」

小梅「なんなんですかエリカさんは一日一回ツンデレないとだめな家訓でもあるんですか」

エリカ「私は、私の思ったことを言っただけよ」

小梅「はぁ……みほさん大変ですね」

みほ「……ううん。そんなことないよ」



いつのまにか私は立ち上がっていた。

足の震えはおさまり、冷えていた心に熱が戻り、

ちゃんと、前を向けていた。

その事に気づいた途端顔がにやけてどうしようもなくて、

「なにニヤニヤしてんのよ」とエリカさんにデコピンされてしまう。

その痛みに、私は真面目な顔を取り戻し、私を見つめる二人に呼びかける。



みほ「二人とも行こう。みんな待ってるよ」

小梅「……はいっ!!」

エリカ「誰のせいだと思ってるのよ」



今度は私が率先して出口に向かう。

外にはもう、沢山の仲間が私たちを待っている。



私は黒森峰学園中等部戦車道チーム隊長、西住みほ

まだまだ弱く、誰かに支えてもらわないとまともに進むことさえできないけれど、

私を支えてくれる人がいるって知ってるから。

道を外した時、ぶってでも引き戻してくれる人がいるから。

不安と恐怖を胸に抱えて歩んでいく。



367 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/07/28(土) 18:15:42.58 ID:1x1ofSBV0



みほ「赤星さん」

小梅「はい」

みほ「エリカさん」

エリカ「何よ」





みほ「今年もよろしくね」



368 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/07/28(土) 18:16:43.81 ID:1x1ofSBV0




私たちの時代が、これから始まる



369 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/07/28(土) 18:17:25.57 ID:1x1ofSBV0
短めだけどきょうはここまでで。また来週。







>>321  エリカはその企画から準備、設営、そして今やっているように給仕までこなしている。

             ↓

     逸見はその企画から準備、設営、そして今やっているように給仕までこなしている。



     それを無視して赤星が私の対面の席を引くと、みほがエリカをそこに座らせる。

              ↓

     それを無視して赤星が私の対面の席を引くと、みほが逸見をそこに座らせる。


上記のように訂正いたします。


370 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/28(土) 18:45:08.60 ID:bulVtmhEo
乙です。台風お気をつけて。。。
371 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/28(土) 21:36:55.42 ID:UkTI7ov00
乙です。
中3編も楽しみだなぁ
372 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/29(日) 21:44:42.50 ID:JAzH/y7so

まだ安心してみていられる時期だww
373 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/01(水) 08:32:36.15 ID:x4fngtM4O
いやいや安心できるか分からん
一足飛びにXデーまで飛ぶかも……

>>1
連日暑いから気を付けて
374 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/08/04(土) 18:09:17.01 ID:cEt2RuET0








『中等部での活躍は聞いている。あなたならきっと、私たちを優勝に導いてくれるわ』





『期待してるよ』






『あなたが副隊長なら私の推薦合格は決まったようなものね』





『任せるよ副隊長』




『1年生だからって気後れせずに、あなたの実力を見せてね』



375 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/08/04(土) 18:09:47.90 ID:cEt2RuET0




任せてください



精一杯頑張ります



先輩方の足を引っ張るような真似はしません



肩書に恥じぬ成果を



西住流の力を、勝利をもって証明して見せます




376 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/08/04(土) 18:10:28.88 ID:cEt2RuET0






それが、私の存在理由だから







377 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/08/04(土) 18:13:50.17 ID:cEt2RuET0






まほ「……」



6月の初旬、夕暮れの頃。

私は一人、校舎の前に佇んでいた。

すれ違う生徒達は皆、私の事など目にもくれず部活や、自宅、あるいはお気に入りの寄り道スポットへと向かっていく。

だけど私は知っている。私が、ここでは異物なのだという事を。

なぜならここは中等部の校舎なのだから。

すでに卒業し、別の場所にある高等部に通っている私は、本来ここにいる存在ではない。

制服が一緒のため、私が高等部の人間だとばれていないのは幸いか。



まほ「……」



キョロキョロと周りを見渡す。

目当ての人物はおらず、だけど呼び出すような事も出来ず。

それでも探そうと中等部の校舎に足を踏み入れようとして、私の足はぴたりと止まってしまう。



まほ「……私は、何をしているんだ」



こんなところで大会前の貴重な時間を浪費して。

練習が休みでも、副隊長である私にはやるべきことがいくらでもあるのに。

自分の愚かしさにようやく気付いた私は踵を返して校門に向かおうとする



エリカ「……隊長?」



しかし、その歩みは後ろからかけられた声によって留められる。



まほ「っ!?……逸見か」



驚いて振り向くと、視線の先には見知った顔が。



エリカ「えっと、隊長」

まほ「私はもう隊長ではない。高等部の副隊長だ」



その高等部の副隊長が中等部にいるのだから、なんとも恰好がつかないと心の中で自嘲してしまう。



378 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/08/04(土) 18:15:53.59 ID:cEt2RuET0


エリカ「そうでしたね。……それで、中等部の校舎に何か用ですか?」

まほ「いや……みほを探して」



嘘ではない。確かに私はみほを探していた。

……その理由は言えないが。



エリカ「ああ、そういう事ですか。でも、あの子もう帰っちゃったんですけど……私は日直があって残ってたんです」

まほ「……そうか。意外だな、みほの事なら待っていそうなものだが」

エリカ「実際そう言ってたんで、赤星さんに頼んで連れ帰ってもらったんですよ。……まったく、隊長なのに貴重な時間を浪費しないで欲しいものです」



たぶんそれは、逸見のいつもの軽口なのだろう。

だけど今ここでその貴重な時間を浪費している私にとって、逸見の言葉に責められているような印象を受けてしまう。

そのためか私の口は重くなり、そんな私の様子を見て逸見もまた何も言わなくなってしまう。



まほ「……」

エリカ「……」



しばし流れる無言の時。

中等部にまで来て私は何をしているんだと思い始めたころ、逸見がその沈黙を破った。



エリカ「それで……その、みほに何か」

まほ「……いや、何でもない」

エリカ「何でもないのにわざわざ中等部にまで?」



なんだか妙に食いつくな……

不思議に思うも、私は適当に考えた言い訳で答える。



まほ「……ちょっと、散歩に。近くに寄ったからついでに挨拶でも、と」

エリカ「……はぁ、お二人はやっぱり姉妹なんですね」

まほ「え?」


379 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/08/04(土) 18:18:59.23 ID:cEt2RuET0


逸見はため息とともに呆れたような顔でこちらを見てくる。

どういう意味かと考えていると、逸見はまるで子供の様にクスクスと笑い出す。



エリカ「知ってます?みほは何か不安な事があるとすぐ顔に出すんです。なのに相談するのを怖がって、結局私や赤星さんがあれこれ世話を焼く羽目になるんですよ」

まほ「……」

エリカ「そういうところ、そっくりですね。……隊ちょ、西住さんの方がわかりにくいですけど」

まほ「逸見……」

エリカ「相談に乗るだなんて偉そうな事言うつもりはありませんが、愚痴程度なら聞いてあげられますよ」



逸見は近くのベンチに腰かけて、私に対して「どうぞ」と促す。

……せっかく逸見が気を使ってくれているのに無碍にするのも悪いな。

仕方なく私は逸見の隣に腰かける。

そしてポツリと、語りだす。



まほ「……私は、高等部の副隊長に就任した」

エリカ「ええ、知ってますよ」



何を今さらといった風な逸見。



まほ「中等部の頃の実力を評価されての事だそうだ」

エリカ「当然の判断だと思います」

まほ「そうか。……そう思うか」



無意識のうちに私の声は落ちていく。

それはつまり逸見の答えが私にとって望ましいものではなかったという事で、

だとしたら私は、逸見にどう言って欲しかったのだろうか。

自分の内心すら図りかねてる私の様子を見て、逸見は心配そうに顔を覗いてくる。



エリカ「……西住さんはそう思えないのですか?」

まほ「自分の実力を見誤るほど未熟なつもりは無い。自惚れているように聞こえるかもしれないが、

   私の実力は副隊長に任命されるには十分なものだと思っている……だけど」

エリカ「だけど?」



両ひざに乗せた拳を強く握る。



まほ「私は―――――」


380 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/08/04(土) 18:21:18.72 ID:cEt2RuET0









『私は、強くなきゃ』









381 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/08/04(土) 18:21:56.33 ID:cEt2RuET0


まほ「―――いや、なんでもない」

エリカ「西住さん?」

まほ「すまない逸見。私はもう戻るよ。副隊長としてやるべきことがたくさんあるんだ」



そうだ、私は副隊長なんだ。

大勢の隊員の未来を預かっている人間なんだ。

だというのにこんなところで弱音を、それも後輩に吐いているようではいけない。

そんな弱い人間が、西住流の跡取りだなんて認められない。

私は立ち上がると、そのまま校門に向かおうと足を踏み出す。

しかし、



エリカ「まったく……そんなところまで似なくてもいいのに」



呆れたような逸見の呟きが、私を引き留めた。



エリカ「すみません、愚痴程度なら聞くって言いましたけどあれナシでお願いします。

    今のあなたをこのまま帰すのは、ちょっと寝つきが悪くなりそうなんで。……少し、お説教です」

まほ「……どういう意味だ」

エリカ「西住さん。今のあなたは出会った頃のみほにそっくりです」



逸見は遠くを見るように目を細める。



エリカ「あの頃のみほはまぁ酷い子でしたよ。いつもうつ向いて、人と話しているのに顔すらまともに見なくて、

    不満と不安をいつも抱えてるよな雰囲気で、助けを求めているのにそれを表に出さず口先で謝るばかりの子でした」



……ああ、よく知ってるよ。

生まれた時から一緒の妹の事なのだから。

明るく、元気なあの子がどんどん笑わなくなり、内に秘めた沢山のものを私にすら語らなくなっていた事を。

ベンチに座ったままの逸見は、私を見上げる。



382 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/08/04(土) 18:23:37.61 ID:cEt2RuET0


エリカ「今のあなたはそれと同じです。知って欲しいのに、察してもらいたがってる。……私が一番嫌いなタイプです」

まほ「っ……」



突然、逸見の言葉から温度が消える。

見下ろしているのは私のはずなのに、見下されているような逸見の視線に私は一瞬、たじろいでしまう。

その居心地の悪さを振り払うように、だけど努めて冷静に反論する。



まほ「……何故お前にそこまで言われないといけない。お前が、私の何を知っているというんだ」

エリカ「そこで取り乱さない辺りはさすが年長者ですね。……でも、その質問はもう答えた事があります」




エリカ「あなた、自分の事を一つでも語ったことがありますか?」




氷の様に冷え切った視線に、声色に。私は心臓を握られているような感覚に陥る。

思わず目を逸らすも、冷たい視線がまったく揺らいでいないのを肌が感じてしまう。



まほ「……私は、西住まほだ。西住流の家元の家に生まれ、将来はそれを継いで―――――」

エリカ「それのどこにあなたの話があるんですか。私は『西住流の娘』じゃなくて、『西住まほ』の話が聞きたいんですよ」



苦し紛れの反論はバッサリと切り捨てられ、私はとうとう何も言えなくなってしまう。



エリカ「……みほは、あの子は相変わらず弱くてめんどくさい子ですよ。何かあるたびにエリカさんエリカさんって。

    私が何度注意したってドジするし、この間だって自分の責任を誰かに肩代わりしてもらおうとしたり。ほんと、ダメな子ですね」



そう言いつつも、逸見の表情は柔らかく、その言葉に字面通りの意味が込められているとは到底思えない。

だけど、すぐにその表情は引き締まり、私をじっと見つめる。



エリカ「でも、今のあなたよりはよっぽどマシです」



あまりにもストレートな侮蔑の言葉。

その物言いに不快感より前に動揺を覚えたのは私が未熟な故か、

あるいは、逸見の口からそのような言葉が出たのが意外だったからか。

383 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/08/04(土) 18:25:33.68 ID:cEt2RuET0


エリカ「西住さん、あなたは強いです。……でも、ただ強いだけです」

まほ「それの、何が悪いっ」



今度こそ語気が荒くなるも、動揺で舌が上手く回らない。

そんな私とは対照的に逸見は飄々とした態度で、



エリカ「別に?というより……あなたが疑問に思っているんですよね?『強いだけ』の自分を」

まほ「っ……」



全てを見透かしているような視線。

目の前の少女との交流はそれほど多くなかったはずだ。

だというのに、なんで彼女の言葉はこんなにも私に突き刺さるのだろうか。

なんで、こんなにも―――――逸見は私を理解しているのだろうか。



逸見の言う通り、私は誰かに胸の内を明かしたことは無い。

それは弱さだからだ。

強くあるために弱さを捨てるのは当然の事だから。

だから私は、今日まで強くあったのに。

なのに、いつしか心の奥底にそれでいいのかと思う自分がいた。

そんな弱さが私の中にある事が許せないのに、触れる事すら出来ず目を逸らし続けていた。

分かっていたんだ、それが私の本音なのだと。それが、私の本質なのだと。

だから、触れないよう、気づかないよう、目を逸らし続けていたのに。



まほ「っ……あ……」



『そんな事はない。私は、自分の強さを疑問に思った事なんて無い』



そう言おうと口を開く。

だけど、何も言えず口を閉ざしてしまう。

心にもない事を言える余裕は、すでに私には無かった。


384 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/08/04(土) 18:27:45.63 ID:cEt2RuET0








―――――なんで私の隣には、


『誰も、いないの……?』






385 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/08/04(土) 18:28:28.48 ID:cEt2RuET0
あ、間違えました>>384は無しで。
386 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/08/04(土) 18:29:16.51 ID:cEt2RuET0


エリカ「……あなたの胸の内を知っているのはあなただけです。知ってほしいのなら、受け入れてもらいたいのなら。
  
    ――――言ってください。伝えてください。あなたが何を思っているのか、どうして欲しいのか」



その言葉はただ淡々と、事実だけを伝えているように思えた。

そして、言外にこう伝えていた。――――――何もできないなら、ずっとそうしていろ、と。



いつのまにか、私のすぐそばに『それ』が迫っていた。

心のずっと奥に、たくさんの鍵をかけてしまいこんでいた『それ』は、全ての鍵を解かれ、扉を開けるだけになっていた。

そうしたのは逸見で、だけど逸見は扉を開けようとはしない。

邪魔なものを取り除いても、扉を開けるのは私の手で、私の意志で、と。

それは、逸見が私を尊重しているからだろう。

そして同じくらい逸見が厳しいからなのだろう。

どれだけ障害を取り除いても、一番苦しい部分は私自身の手でやらなくてはいけない。

そうでなくては、意味がないのだと。
387 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/08/04(土) 18:30:02.27 ID:cEt2RuET0








―――――なんで私の隣には、


『誰も、いないの……?』







388 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/08/04(土) 18:30:46.31 ID:cEt2RuET0


かつて、今日と同じような夕暮れの校舎で、私は一人なのだと思い知らされた。

それは当然の事だったんだ。

みほは言った。逸見は『自分の嫌いなところを全部嫌いだと言ってくれる』と。

それはつまり、自分の嫌いなところを、弱さを見せられるという事だ。

なのに私はずっと強くあった。

弱さを見せず、強さだけを求めていた。

……そんな奴の隣に立ってくれる人なんているわけないのに。

私は逃げていたんだ。

自分の弱さから、自分自身から。

目を瞑って、耳を覆って、口を閉ざして。

だけどもう、それはできない。

目の前の逸見から逃げてしまったら、私は一生独りになってしまう気がするから。



389 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/08/04(土) 18:32:03.57 ID:cEt2RuET0




まほ「……私は……私はっ……」



気が付くと私の呼吸は浅くなり、胸の高鳴りは心臓の許容を超えているかのように響いている。



私は今、自分の恥を晒そうとしている。

愚かな自分を、妹の友達に、後輩に。

もしもそれを口にして、受け止めてもらえなかったら。

私の中の何かが崩れてしまうかもしれない。

空気がまるで抵抗するかのように喉に詰まる。

声を出したいのに、体がそれを拒む。

そんな、泣き出しそうな私を逸見はじっと見つめて、





エリカ「大丈夫です。私は、あなたから逃げたりしません」




立ち上がり、目線を合わせてくれる。

夕日に照らされる銀髪が、まるで私を抱きしめるように暖かく煌めく。

その美しさが、暖かさが、こわばっていた私の体を解きほぐす。

それを逃さないよう息を吸って、肺の中を空っぽにする勢いで、


まほ「私はっ……!!」



390 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/08/04(土) 18:33:45.43 ID:cEt2RuET0







まほ「怖いんだッ!!誰かの人生を、目標を、私の失敗で閉ざしてしまうのがッ!!期待に応えられない事がッ!!」






391 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/08/04(土) 18:34:13.96 ID:cEt2RuET0





自分の弱さを吐き出した。





392 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/08/04(土) 18:35:43.64 ID:cEt2RuET0



まほ「……大学の推薦がかかった先輩や、黒森峰で優勝することを夢見ている先輩。私についてきてくれる同級生。皆、各々の夢を、目標を持ってた。
   
   そしてそれらはみんな、私のミスで簡単に崩れてしまうのだという事を、私はようやく理解したんだ」



一度声を出してしまえばもう、止まらない。

懺悔の様に己の弱さをさらけ出していく。



まほ「中学の時はまだ良かった。負けたって、私が叱責されればそれで良かったのだから。だけど、高等部ではもうその言い訳はできない」



嗚咽が声を遮り、自分でも何を言っているのかわからなくなる。

だけど、逸見は何も言わずじっと、私を見つめ続ける。



まほ「どれだけ訓練を重ねても、どれだけ実力をつけていっても、どれだけ才能があっても、

   たった一つの過ちが、たくさんの人の未来を歪めてしまうかもしれない。私は……それが怖いんだッ!!」



私に語り掛けてくる先輩たちはいつだって優しく微笑んでいた。

同級生たちは皆、私ならできると背中を叩いてくれた。

その言葉は純粋な期待と、優しさにあふれていた。

なのに、それが怖くてたまらなかった。

そんな人たちの期待を裏切る事が、期待に応えられない事が、私の心を圧し潰そうとしてきた。



まほ「なぁ逸見……なんでみほはあんなに笑っていられるんだ。あの子だって沢山の重圧に潰れかけていたのに」



みほは、私と同じだったはずなのに。

西住流の娘だから、期待されて、勝利を求められて、圧し潰されそうだったはずなのに。

いつの間にかあの子は重圧を押しのけていた。笑顔で前を向けるようになっていた。

私は、何もしてこなかったのに。

一歩も進めなかったのに。



まほ「なんで、あの子には赤星や、お前のような弱さを認めてくれる友達がいるんだ……

   なんで、私にはお前たちのような理解者がいないんだ……なんで、なんで私はっ……!!」

393 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/08/04(土) 18:36:31.78 ID:cEt2RuET0









まほ「こんなにも、弱いんだッ……」







394 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/08/04(土) 18:37:05.17 ID:cEt2RuET0


私は逸見に縋りつくように膝をつく。

今度こそ、逸見は私を見下ろす形になる。

だけど私は見上げる事すら出来ず、ただ呻いてうつ向く事しかできない。

……なんて情けない姿だ。

これが、こんなのが、黒森峰の副隊長なのか。

こんな弱い存在が西住流の娘なのか。



まほ「戦車道だけが、私の存在理由なのにッ……」



誰かの期待に耐えられない。

そんな自分の本音すら無視してきた結果、私はこんなにも無様な姿をさらしている。



395 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/08/04(土) 18:38:58.75 ID:cEt2RuET0





『……西住、結局お前は最後まで強かったな』






安斎、違うんだ。

私は、私はずっと弱かったんだ。

弱い自分を隠して逃げていただけなんだ。

いくら戦車道が強くても、黒森峰(ここ)に来てからそれが私の喜びになった事なんて無かった。

勝っても、勝っても、勝っても。

それが、誰かからの期待に、重圧になる事が怖かった。

だけど、それに気づかないふりをしていた。

それに気づいてしまったら、直視してしまったら、

『戦車道が強い自分』すら認められなくなったら、

私は、本当に空っぽになってしまう気がしたから。

396 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/08/04(土) 18:40:18.84 ID:cEt2RuET0


『私、黒森峰に来て良かったかも♪』







もしもお前ががうつ向いたままだったら、私はそんな事気にも留めなかったのに。

戦車道だけが自分の存在意義だという事を、強い事が西住流の娘の義務であることを疑う事なんてなかったのに。

なのにお前は、血を分けた妹は、自分だけの道を探そうとしている。

戦車道だけじゃない、自分自身を。

踏み出す勇気すらなかった私には、そんなお前の姿が羨ましくて、妬ましくて、

強さしかない自分が惨めに思えて仕方がなくて。


397 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/08/04(土) 18:40:52.82 ID:cEt2RuET0




エリカ「西住さん」



398 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/08/04(土) 18:41:39.35 ID:cEt2RuET0


降りかかる声に、私は怯える子供のように見上げる。

逸見は無表情でじっと、見下ろす。



エリカ「私は、弱い人が嫌いです」

まほ「……」

エリカ「自分の弱さを誰かのせいにして、誰かの弱さで自分を慰めるような人間が大嫌いです」



感情の込められていないその言葉は、だからこそ、それが逸見にとって偽りのない本心なのだと思えた。



エリカ「弱い人は自分の道すら決める事が出来ません。そんな人のせいで強い誰かの道が妨げられるのが、私は我慢できません」



そうだ。私は、私の弱さで皆の未来を阻んでしまうかもしれない。

いつか、身勝手な嫉妬でみほに取り返しのつかない傷をつけてしまうかもしれない。

それは逸見にとって絶対に許せないもののはずだ。

そんな弱さを抱えた人間が、許されていいはずがない。

こんな弱い私が、誰かを導けるはずがない。

ならばいっそ、ここで。

全部否定してもらえるのなら。

私を、要らないと言ってくれるのなら。

逸見、お前がそう言ってくれるのなら。

みほを笑顔にしたお前が、あんなにも優しいお前が、そう言ってくれるのなら。





私は、ここで終わったほうがいい。




399 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/08/04(土) 18:42:11.67 ID:cEt2RuET0




エリカ「だから、」



私を見下ろす逸見は、




400 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/08/04(土) 18:42:56.47 ID:cEt2RuET0







エリカ「私は、私が大嫌いです」






401 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/08/04(土) 18:43:31.11 ID:cEt2RuET0







今にも泣きだしそうな微笑みを浮かべた







402 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/08/04(土) 18:44:38.66 ID:cEt2RuET0



まほ「え……?」

エリカ「西住さん、あなたは大丈夫ですよ」



逸見はしゃがみ込んで、呆然としている私の手を取る。

それはまるで幼子に語り掛けるかのように。



エリカ「弱い自分を認めて、知った風な口を利いてくる生意気な後輩に胸の内を明かせる。

    情けなくても、弱くても。あなたは、こんなにも強いじゃないですか」

まほ「逸、見……」

エリカ「大丈夫です。自分の弱さを認められるあなたなら、きっと」



…私は、彼女に何を言えばいいのだろうか

そんなにも泣きそうな顔で私を慰めてくれているのに、

私は何も言うことができない。

だって私は、逸見の事を何も知らないから

逸見がどんな人間か知らないから。

私はいつのまにか、逸見の内面まで知った気になっていた。

厳しくも、その内側には優しさを持っているのだと。

友情に篤く、強く、美しく。

それが逸見エリカという人間なのだと。

だけど、今の逸見はさっきまでの私よりも弱々しく、今にも崩れそうなほどで、

それなのに私の手を取ってくれている。

それは優しさだけでなく、まるで贖罪のようにも思えた。

403 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/08/04(土) 18:45:04.71 ID:cEt2RuET0


まほ「逸見」

エリカ「はい」

まほ「なんで、お前は、私にここまでしてくれるんだ」



純粋な疑問。

逸見と私の付き合いはそれほど長く、深いものではないはずだ。

だというのに、彼女はこんなにも私を思ってくれている。

あんなにも泣きそうな顔で、微笑みかけてくれる。

だから問いかける。

私に、それだけの価値があるとは思えないから。



エリカ「……言った事無かったですっけ?私、あなたに憧れて黒森峰に来たんですよ」

まほ「私に……?」

エリカ「ええ」



逸見に手を引かれ、私は再びベンチに腰掛ける。

繋がれた手はなぜか繋いだままで、でもそれがとても暖かくて。

私の心に少し、平穏が戻ってくる。


404 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/08/04(土) 18:45:40.07 ID:cEt2RuET0



エリカ「小学生の頃地元の小学生大会に参加したとき、あなたの試合を見た事があって」



逸見は少し気恥ずかしげにしながらも、だけど嬉しそうにそっと語りだす。

確かに小学生の頃、いくつかの大会に出た事がある。地元が同じである逸見がそれを見た事があるというのはおかしい話ではない。



エリカ「残念ながらあなたと当たることはありませんでしたが。……凄かった。一つしか年が違わないのに、強くて気高くて。

    その姿に、私もああなりたいって。強い学校で学びたいって。そう思ってここに来ました」



その頃はお母様が私に経験を積ませるためにとにかく手当たり次第に戦車道の大会に出場させていた時期だ。

でも……幼い頃のたった一度。それも私の試合を見たぐらいでそんな人生を決める決断をするだなんて……



エリカ「あ、今『その程度の事で』って思いましたね?」

まほ「ち、違っ……」



私の内心を察したのか、逸見はくちびるを不満げにとがらせる。だけど、その顔はすぐに綻ぶ。



エリカ「……ふふっ、わたしもその程度の事だって思います。でも……その程度で充分だったんですよ。私がここに来る理由は」



何の後悔もないという逸見の表情。


405 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/08/04(土) 18:46:40.63 ID:cEt2RuET0



エリカ「私、昔から戦車が好きで、戦車道も戦車に乗れるから始めたんですよ。だから、正直戦車道の良さとか楽しさはよくわかりませんでした」



あんまりにもあっさりと言うものだから流しそうになってしまう。



まほ「え……?」

エリカ「バンバン撃って、ガンガン進みたいのに、作戦とか戦略とかが煩わしくて。地元のクラブもあんまり楽しくなくて」



あの逸見が、誰よりもひたむきに戦車道に取り組んでいる逸見が。

戦車道を楽しいと思えなかっただなんて。



エリカ「でもあなたの試合を見て、戦車道ってあんなに綺麗なんだって。あんなに――――楽しいんだって思えて」



あの頃の私はまだ、自分が背負うたくさんの重荷に気づいていなかった。

ただ目の前の勝負に勝ちたくて、そうするとお父様が、お母様が、みほが、嬉しそうにしてくれたから。

それが、嬉しくて。

……ああ、そうだ。あの頃の私は――――戦車に乗ることが、戦車道が楽しかったんだ。



エリカ「たぶん、あの試合を見なければ私は姉と同じ地元の公立校にでも進学していたと思います。

    戦車道だって、ただの趣味の延長ぐらいで終わっていたと思います。……いや、中学に上がったらもうしなくなってたかも」



逸見は、選ばなかった選択肢を少しだけ寂しげに語る。

その表情は何を思っての事なのか。私は推し量ることができない。

だけど次の瞬間、逸見の表情はパッと明るくなる。



エリカ「でもそうはならなかった。あなたの姿が、私の人生を変えました。

    戦車道がもっと強くなりたい。この競技で私の人生を満たしていきたい。って。

    あの程度の事で私、親に頭を下げて高い学費払ってもらって、受験勉強して、ここに来ました」



「まぁ、だからって追いつけたわけじゃないですけどね」。逸見はそう言うと夕焼け空を見上げる。



エリカ「勢いだけでここまで来ちゃいましたけど、私は後悔したことはありません。だって―――――私、今楽しいですから」


406 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/08/04(土) 18:47:22.22 ID:cEt2RuET0



そして再び私を見つめる。

その瞳は宝石のようにキラキラと輝いていて、

その輝きはきっと、逸見だけのものなのだろう。

だから、私はこんなにも魅せられて、こんなにも惹かれて、

いつのまにか、絵本の続きをせがむ子供のように私は身を乗り出していた。



エリカ「だから感謝しています。あなたに出会えた事を。

    尊敬しています。あなたを……西住まほさんを」



真っ直ぐな視線。それは西住流の娘じゃなくて、私を見つめてくれていた。

その視線に耐えられなくて、私は顔をそむけてしまう。



まほ「……私はそんな事を言われるような人間じゃないよ。今だってこんなにも情けなくて弱い姿をお前に見せているのに」

エリカ「……ええ。おかげで確信できました。強い人は、弱さも持っているんだって」

まほ「……強くて、弱い」



口に含むように呟く。



407 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/08/04(土) 18:48:00.01 ID:cEt2RuET0




『もっと、強くて、弱くなれ』


『あの子はきっと、今も気が弱いほうですよ――――だから強いんです』







……ああそうか。安斎が、逸見が言っていたのはこの事だったのか。

強いだけの心は簡単に折れてしまう。

弱いだけの心は簡単に崩れてしまう。

強さを抱きしめるための弱さと、弱さを守るための強さがあって初めて人は、『強く』なれるんだ。

安斎はそれを私に知って欲しかったんだ。

まだ向き直れない私に、逸見は語り掛ける。



エリカ「何度だって言います。どれだけ情けなくたって、どれだけ怖くたって、弱さを認められるあなたは―――――強い人です」



その言葉は、私が一番求めていたものだったのかもしれない。



408 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/08/04(土) 18:48:29.38 ID:cEt2RuET0





『私の言葉の意味はお前が見つけろ!!そしたらきっと――――お前に必要なものがわかるはずだっ!!』






……うん、見つけたよ。私に必要なものが。

ずっとずっと目を逸らし続けていたものをようやく、私は受け止められたんだ。

それを受け入れてくれる人と、私は出会えたんだ。





409 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/08/04(土) 18:49:18.55 ID:cEt2RuET0


隣に座る逸見を見つめる。

宝石のような碧眼に映り込む私は、とても穏やかな表情をしていて。逸見が握ってくれている手が暖かくて。

私は自然と逸見に感謝を伝える。



まほ「逸見……ありがとう。私の弱さを受け入れてくれて。私と、向き合ってくれて」

エリカ「……やめてください。私はただ、あなたの悩みに対してそれっぽい事を言っただけですよ」

まほ「……そうか」



やっぱりお前は、嘘が下手なんだな。



私と逸見はお互い無言で立ち上がる。

そして、向かい合う。



まほ「逸見。みほがお前と一緒にいる理由が、ようやくわかったよ」

エリカ「……早く独り立ちしてもらいたいものですけどね」

まほ「……ふふっ」



夕日が彼女の輪郭を輝きで縁取る。背中にまで伸びる銀髪がそれを受けて周囲を照らしそうなほどに煌めく。

海のように碧く澄んだ瞳が彼女の心の深さを伝えてくれる。

今日この日、私は初めて『逸見エリカ』と出会う事ができた。

誰かの言葉じゃない。私の目で、耳で、心で。

逸見のおかげで私は自分の弱さを認めることができた。

私を、取り戻せた。




まほ「……ねぇ」




410 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/08/04(土) 19:01:56.53 ID:cEt2RuET0






なら、もう取り繕う必要は無い。

私は私として。





411 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/08/04(土) 19:03:02.92 ID:cEt2RuET0


まほ「私、ずっとあなたの事誤解してたみたい」

エリカ「……西住さん?」

まほ「あなたは不良なんかじゃない。とっても頑固で、嘘が下手で、それ以上に――――優しいのね」

エリカ「……あら?私は元々優しいですよ。みほ以外には」



悪戯っぽく笑う逸見に、私も笑い返す。



まほ「ふふっ、そう。……みほは良い友達を見つけられたのね」

エリカ「だから私とあの子は友達じゃ……」

まほ「エリカ」

エリカ「え?」



そういえば、エリカって花の名前だったっけ。

見たことは無いけど、きっと……可憐な花なんだろうな。

呼びかける瞬間、そんな事を思った。




まほ「……あなた達が来るのを待っている」

エリカ「……はいっ!西住さんっ!!」

まほ「それと、」




嬉しそうに返事をするエリカ。

だけど、もう一つ言っておきたいことがある。

私だけじゃ不公平だから。

エリカにもっと私を知って欲しいから。

……みほ達にほんのちょっと対抗したいから。

412 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/08/04(土) 19:03:36.77 ID:cEt2RuET0



まほ「まほでいい。西住さんじゃどっちの事かわからないからな。……またね、エリカ」



そう言って、私はエリカの返事を待たずに去って行く。

名残惜しそうに離した手の温もりを、ぎゅっと握りしめて。




エリカ「……まほさん、頑張ってくださいっ!!」



後ろからかけられる声。

私は振り向くことなく答える。



まほ「ああ。見ていてくれ」



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