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【ガルパン】エリカ「私は、あなたに救われたから」
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270 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/08(日) 12:53:22.79 ID:muXjVJCnO
ここの話は前スレの過去編だよ
271 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/08(日) 13:40:03.18 ID:smhdNLXqo
>>270
前スレ教えて
272 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/08(日) 14:03:10.76 ID:V75cMH0U0
さすがに書いてあるんだから自分で見ろよ
273 :
◆eltIyP8eDQ
[sage saga]:2018/07/08(日) 14:17:26.38 ID:ok28dUAr0
>>271
【ガルパン】エリカ「私は、あなたを救えなかったから」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1514554129/
↑前スレです。よければどうぞ。
274 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/08(日) 14:44:55.51 ID:Zjv5eAkzO
これから前スレを見るなら覚悟してからみーや
このスレの気分でおったら血反吐をはかされるで
275 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/08(日) 19:31:08.15 ID:o7rO+66Ho
ママ逸見のかほり……
先輩たちもいい奴多いなww
276 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sagd]:2018/07/09(月) 11:57:31.06 ID:8HCX3pj1O
E■□□□□□□F
↓
E■■■■■■■F
ミホエリウム充填完了!!!
277 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/11(水) 19:54:56.48 ID:L/u7CChQo
>>273
見てきた
引き込まれたわ
更新楽しみにしてる
278 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/14(土) 00:03:21.94 ID:O/Mf/YV80
もっと濃厚なエリみほ求ム
双頭ディルド使うくらいまで
279 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/14(土) 02:25:40.07 ID:5/YESBnwo
キモ
280 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/14(土) 20:40:36.52 ID:KUQN/MgSO
流石に278と243は同一人物やろ…
気持ち悪すぎる。
281 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/14(土) 20:41:04.29 ID:KUQN/MgSO
流石に278と243は同一人物やろ…
気持ち悪すぎる。
282 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/14(土) 22:15:49.83 ID:ZxPhTSO60
大好きな戦車道を、憧れの場所で学ぼうと思い黒森峰に入った。
ここでなら強くなれると、自分の戦車道ができると思って。
そして、身の程を教えられた。
自分より強い人なんていくらでもいて、努力で巻き返そうとしても強い人たちは私なんかよりずっと努力を重ねていた。
才能も、努力でも敵わないのなら、私は何のためにここに来たのだろうか。
自分がすべきことも、できることも、やりたかったこともわからなくなり、私はいつの間にか戦車道を楽しめなくなっていた。
そんな人間は他にもいて、私はいつの間にかその人たちと同じように日々が過ぎ去るのを祈るばかりになった。
そんな私たちを頑張っている人たちは見下す。口には出さずともその視線が、表情が、私たちはダメだと伝えてくる。
何も思わなかった。だって、何よりも自分が一番良く分かっているから。
自分が一番、自分を見下しているから。
だけど、無為な日々を過ごす中で、それでも優しくしてくれる人がいた。
『頑張ることは無駄なんかじゃない。最初から強い人なんて誰もいないんだから』
その言葉に勇気づけられ、私は再び頑張ろうって思えた。
その言葉に強い感銘を受けたとか、そんなんじゃない。
ただ、ダメな自分を見捨てていない人がいてくれるのが嬉しかったから。
たとえ今はダメでも頑張って努力して、少しで前に進もうとした。
出遅れた私に実力の差は大きくのしかかってきた。
それでも、毎日少しずつ、できる事からやっていった。もう立ち止まらないために。
あの人に少しで近づくために。
そしてある日気づいてしまった、この人は私の事を見てなんかいない。いや、自分の事すらどうでもいいと言わんばかりにその瞳に何も映してないのだと。
あんなにも強く、優しい人が何故あんな瞳をしているのか私にはわからなかった。
だとしても、あの日かけてくれた言葉に私は勇気づけられた。たとえその言葉に何の意味も込められていなくても、去って行く人たちがいる中でそれでも踏ん張ろうと思えたのはあの人の言葉があったからだ。
私は足掻き続けた。私が一歩進むごとにあの人の正しさを証明できると信じたかったから。
そうすれば、いつかあの人が困難に遭った時に手を差し伸べられると思ったから。
283 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/14(土) 22:17:58.48 ID:ZxPhTSO60
・
・
・
小梅「……その結果がこれですか」
みほ「エリカさんまたハンバーグ?」
エリカ「はぁー?あなたの目は節穴?よく見なさい」
みほ「え?……何か違うの?」
エリカ「忘れたの?学食に追加された新メニュー。美容と健康に気を使いつつも、
食べたいものはガッツリ食べたいと思う少女たちの悩みに答えた期待の一品。
―――――豆腐ハンバーグよ」
みほ「やっぱりハンバーグじゃん……」
騒がしさが最高潮な昼食時の学食。
その端にあるテーブル席に私はいた。
正確には私と、みほさんと、逸見さんが。
私の隣に座っているみほさんは、苦笑しながら向かいの逸見さんと話している。
本日のお題目は逸見さんのランチについて。
284 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/14(土) 22:21:08.87 ID:ZxPhTSO60
エリカ「何言ってるの豆腐ハンバーグよ?いわば焼き豆腐よ」
みほ「豆腐ハンバーグってひき肉使ってるんじゃ……」
エリカ「四捨五入すれば0になる割合よ」
みほ「何言ってるの……」
小梅「馬鹿ですか」
思わず罵倒してしまうも、食堂の喧騒にかき消されたのか逸見さんは気づいてないようだ。
……みほさんの話からちょくちょく聞いてはいたけど、逸見さんって本当にハンバーグが好きなんですね。
本人は好きじゃないって否定していたが、楽し気に本日のランチについて講釈を垂れている姿を見るとまさしくどの口が、と思ってしまう。
なので私は逸見さんの屁理屈がこれ以上白熱する前に「冷めないうちに食べましょう」と促す。
逸見さんは「そうね」と落ち着きを取り戻し、切り分けた豆腐ハンバーグを一口ほおばる。
エリカ「……」
しかし、先ほどまであんなにウキウキだった逸見さんは途端に無表情になる。
285 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/14(土) 22:22:23.75 ID:ZxPhTSO60
みほ「エリカさん?」
エリカ「……やっぱりハンバーグは100%肉じゃないとだめね」
お口に合わなかったようで……
みほ「さっきの演説はなんだったの……」
エリカ「そもそもハンバーグに健康面を求めるのが間違いなのよ。こんなの食べて『ヘルシーなのにしっかりお肉の味がするー!』
とか言ってる輩は一生大豆でもむさぼってればいいのよ」
みほ「今さら過ぎるし暴論すぎる……」
馬鹿ですか。
二度目の暴言はさすがに胸の内に収める。
エリカ「赤星さん、そのから揚げ二個とハンバーグ4分の一を交換しない?」
小梅「精々美しく健康になってください」
286 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/14(土) 22:24:19.57 ID:ZxPhTSO60
エリカさんの提案を固辞し、私はから揚げを食べながら黙々と考える。
みほさんたちと共に行動するようになって早一か月。
現状、私と逸見さんの関係は友達の友達といったとこか。
まぁ逸見さんはみほさんの友達じゃないとの事なので友達の知り合いかもしれない。
とにかく、私は逸見さんと友達ではない。
一緒に行動するようになったとはいえ、実のところ私はまだ逸見さんに対して一線を引いている。
今さらみほさんをいじめてるだなんて勘違いをしてるわけじゃない。
ただ、なんというか私は逸見さんと反りが合わないと思う。
悪口軽口は当たり前、みほさんがあんなにも逸見さんと友達になりたがっているのに、
知ったこっちゃないと素っ気ない態度をとる姿に良い印象を覚えろと言うほうが無理がある。
他でもないみほさん本人が特に気にしてないのだとしてもそれはそれ。
私が逸見さんに対してあまり踏み込まないのはそう言った事情があっての事だ。
……とはいえ、これ以上はお互いのためにならない。
みほさんが逸見さんを信頼している以上、後から来た私があれこれ言ったところでみほさんを惑わせるだけだし、
そのせいで私と逸見さんが険悪になってしまったらみほさんは自分を責めてしまうかもしれない。
私の取れる選択肢は2つ。このまま何食わぬ顔でみほさんたちといるか、逸見さんを置かず、あくまでみほさんとのみ友人関係を続けるか。
決めあぐねているのは私自身の意志の弱さ故だ。
それでも、このままなぁなぁにしていてはいつか禍根を産むことになってしまうかもしれない。
それならば
私は自分の選択肢を決めるため行動することにした。
エリカ「あ、赤星さん私の食器もついでに片づけてくれる?」
小梅「美容のために動きましょう」
とりあえず逸見さんへのマイナス評価が一つ。
287 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/14(土) 22:27:06.92 ID:ZxPhTSO60
―逸見さんの事をどう思いますか?
『うーん……気難しい奴?悪い奴じゃないってのはわかるし、真面目で努力しているのは伝わるけど、
反面それを人にまで求めるのは悪い癖だと思うなぁ。好き嫌いがはっきり分かれる感じ。私は好きだけど』
(3年 匿名希望)
『逸見先輩ですか?私もまだ入学したばかりだから良く分からないですけど……とりあえず綺麗な人ですよね。
美しい銀髪に碧眼、透き通るような白い肌。遠くからでも見惚れちゃいます。性格だって厳しいって言う子が多いけど、
それは先輩が何よりも戦車道に真面目だからだし、それに戦車道の授業の時の先輩ってとってもカッコいいんです。
きりっとした表情と、鋭い言葉にドキドキしちゃう時があって……ほんとに、黒森峰に来て良かったなーって
あ、先輩って確か逸見先輩と同じクラスでしたよね?その、今度写真撮ってきてもらえませんか?
逸見先輩がクラスでどんな風なのか知りたいんですっ!!』
(1年 匿名希望)
『……嫌いよ。大嫌い。あいつ、私の事を負け犬って……違う、私は負け犬なんかじゃない。
負けたくないから、強くなりたいからここに来たの。言われっぱなしなんて我慢できない。
……もういい?練習したいんだけど』
(2年 匿名希望)
『エリカさん?エリカさんは良い人だよ!!そりゃあ厳しいし、嫌味っぽいけどその裏にはいつだってエリカさんの優しさが隠れてて、
叱ってくれるのだって私の事を思ってくれてるからなんだって。それにね、一緒に帰ろって誘うと毎回嫌だって言うんだけど、私が隣を歩いても何も言わないし、
帰るのが遅くなった日なんか月明かりに照らされておとぎ話に出てくるお姫様みたいに輝くエリカさんを見られて……もう、いっぱい話したいことがあったのに何も言えなくなっちゃって……
こないだだって――――(その後30分ほど続いたためカット)』
(2年 匿名希望副隊長)
『逸見か?悪い子ではないと思う。ちょっと直情的なところはあるが実力もあって努力も欠かしていない。学業だっておろそかにしていない。
学生の理想のような人間だ。……まぁ、それはあくまで一面であって私はまだ逸見の事をよく知ってるとは言えないが。
ただ、妹と仲良くしてくれているのは素直に嬉しい。不良とはいえ私以外にあの子の隣に立ってくれたのは逸見だけだったからな。
それにちょっと話した感じだと案外愉快な性格をしているな。からかうとなかなか面白い反応を返してくれる。
そしてそれもまた一面に過ぎないのかもな……私も、もっと逸見の事を知っておくべきか』
(3年 匿名希望隊長)
288 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/14(土) 22:33:28.11 ID:ZxPhTSO60
・
・
・
小梅「うーん……」
自室の机に広げられた様々な意見が書かれたレポート用紙。
私はそれに向かって頭を悩ませていた。
自身の意志だけで決められないのであれば他人の意見も求める。
そういったわけで私は逸見さんには内緒でその印象を聞いて回ってみた。
その結果わかったのが、逸見さんは上級生からの覚えが良く、加えて二年生以下の隊員の間ではみほさんと二分するほどの人気の持ち主だという事だ。
みほさんの人気は、高い実力とそれの驕らぬ優しさにあふれた言動、対して逸見さんはみほさんには一歩劣るも同級生、上級生を相手にしても一歩も退かない実力の持ち主。
その厳しく、時には苛烈とも言える言動に反発を覚える者も多いが、逆にその力強い姿に惹かれるものも多くいる。
特に逸見さんの容姿はまだ入学したばかりの一年の間ですでにファンクラブ(非公認)なるものができるぐらいには見惚れる者が多いという事だ。
まぁ、私も逸見さんの見た目が良い事については否定の余地はないと思う。まさしく日本人離れした姿はいやでも人の目を惹くだろう。
ちなみに関係ない事だが、逸見さんファンクラブの会員第一号に良く知ってる副隊長の名前があった気がするが気のせいとしておこう。
小梅「なんていうか思ったより好感持たれてるな」
そう、結果だけを見れば逸見さんは隊内でもかなり人気があるのだ。
もちろん全員に聞いたわけではないので多少の偏りはあるだろうが。
小梅「……やっぱり逸見さんは悪い人じゃないのかな」
わざわざ足で稼いだ逸見さんへの個々人が持つイメージ。
その中にはもちろん、逸見さんへの否定、嫌悪感を表す意見もある。
生意気
融通が利かない
副隊長に敗けたくせに偉そう
他にも色々あるが、大体一理あるとは思う。
プライドが高いのも、融通が利かないのも、みほさんに敗けたのも事実だ。
289 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/14(土) 22:34:51.89 ID:ZxPhTSO60
小梅「でも、そこが好きって人もいるんだよなぁ……」
生意気なのはやる気があるから
融通が利かないのは真面目だから
負けたのにへこたれないのは根性があるから
ものは言い様と言えばそれまでだが、誰かにとっての短所は他の誰かにとっての長所という事なのだろう。
でもそれを言い出したらますます判断材料が無くなってしまう。
小梅「ていうか私、何で逸見さんの事でこんなに頭悩ませてるんだろ……」
嫌いなら離れればいい。誰とでも仲良くだなんてのは理想としては結構だろうが、
相手が同じ人間である以上どうしても相性というものは存在してしまうのだ。
私が毎日のように逸見さんと顔を合わせているのは友達であるみほさんが逸見さんにベッタリだからだ。
だからと言ってそれに私まで付き合う必要はない。
みほさんと過ごす時間が減るのは残念だが、別に休日とかにいくらでもみほさんと友達らしい事をすることはできる。
なのに私は決断できない。優柔不断な我が身を呪うばかりだ。
結局私は散々頭を悩ませた挙句
小梅「とりあえず……今日はもう寝よう」
明日の自分に期待することにした。
290 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/14(土) 22:37:27.19 ID:ZxPhTSO60
・
・
・
翌日の放課後、私は夕日の差し込む廊下を自分の教室に向かって歩いていた。
本来ならもう帰っている頃だが、先生に今日の授業について質問していたためこんな時間になってしまった。
小梅「早く帰ろっと……」
外から聞こえる運動部の掛け声が誰もいない廊下の寂しさを余計に引き立て、私は思わず早歩きになってしまう。
ようやく教室につきその扉に手をかけようとすると中から話声が聞こえてきた。
エリカ「遅いわねぇ」
みほ「赤星さん真面目だから。きっと沢山聞きたいことがあるんだよ」
エリカ「私はちゃんと授業内で理解してるわよ。大体、何で私まで待たされるのよ。あなた達二人で帰ればいいじゃない」
声の主は最近仲良くなれた人と、現在距離感を図りかねてる人。
どうやら二人は私を待っていてくれているらしい。
みほさんには遅くなるから先に帰っててと伝えていたのに。
相変わらずみほさんは優しい人だ。
小梅「でも逸見さんまで……」
普段のみほさんへの態度を見るに、私を待つだなんてせずにさっさと帰ると思っていたのだが。
現に用事があって逸見さんを待たせた挙句さっさと帰られて半泣きになっているみほさんを何度か目撃しているし。
291 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/14(土) 22:39:38.32 ID:ZxPhTSO60
みほ「もうちょっとだけ。お願い」
エリカ「あなたねぇ、友達作れとは言ったけどだからといって必ず一緒に帰りなさいとは言ってないでしょ」
みほ「それはそうだけど……」
エリカ「……はぁ、あと5分だけよ」
さっさと入ればいいのに、私の手は扉にかからない。
二人の会話がなぜか気になってしまうのだ。
もしかしたら人目のないところではまた別の逸見さんが見られるかもしれない。
それが良い部分なのか悪い部分なのかはわからないが、停滞した現状を打破する一手になることを期待しよう。
なんだかストーカーみたいになってしまうが二人の会話に集中できるよう、私は静かに教室の前に座り込んだ。
エリカ「あなた勉強はちゃんとしてるの?」
みほ「も、もちろん」
エリカ「説得力無いわねぇ……得意科目を伸ばすのもいいけど、進学するならちゃんと苦手科目もある程度なんとかしなさい」
みほ「うぅ……エリカさんに心配されなくても自分でちゃんと何とかするよ……」
エリカ「出来てないから私にぐちぐち言われるんでしょ。言われたくないならちゃんとしなさい」
みほ「そ、それいったらエリカさんだって色々言われてるでしょ」
エリカ「え、何それ」
みほ「えっと……確か、『ガミガミうるさい』『小姑』『所詮は西住に敗けた敗北者』『ハンバーグばっか食べてるから血気盛んなのかもね』」
エリカ「そいつら全員ぶっ飛ばしに行くから名前教えなさい。ていうか最後のはあなたでしょ」
みほ「情報源の秘匿を条件に教えてもらったんで……」
エリカ「まったく……言われっぱなしは癪だから、見返してやらないと」
みほ「うん、頑張って」
エリカ「あなたもよ」
みほ「え?」
エリカ「あなた、未だに陰でコソコソ言われてるのに気づいてないわけじゃないでしょ?」
……確かに逸見さんの話を聞いて回る中で、みほさんへの陰口をちらほら聞くことがあった。
292 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/14(土) 22:40:42.90 ID:ZxPhTSO60
エリカ「家が、姉が。そんな言葉を付けないとあなたを評価できないような人達を見返してやりなさい」
みほ「……」
エリカ「私はあなたに勝ちたいの。そのあなたが馬鹿にされてるのは我慢できないわ」
みほ「……うん」
エリカ「……ならいいわ」
……今のはたぶん、逸見さんなりの励ましなのだろう。
みほさんなら、みほさんの力で他者からの評価を勝ち取れると。
逸見さんはそう伝えたかったのだろう。
そしてみほさんもそれを感じ取ったようで、先ほどよりも少し高くなった声で逸見さんの名を呼ぶ。
みほ「エリカさん」
エリカ「何よ」
みほ「ちゃんと、見ててね」
エリカ「……ええ。見ていてあげるわ。あなたが腑抜けたらまたひっぱたけるようにね」
みほ「あははっ、なら気を付けないと」
エリカ「まったく……」
293 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/14(土) 22:43:47.39 ID:ZxPhTSO60
僅かに開いた扉の隙間から教室を覗いてみる
みほさんは笑っていた。心から嬉しそうに。
エリカさんはほほ笑んでいた。あきれたように、小ばかにしたように。だけど、優しさを隠しきれない表情で。
……私は、何を見てきたのだろう。
周りの意見なんかどうでもよかった。あの二人を見ていれば、逸見さんを穿ってみていなければ。
二人の輝きにすぐに気づけたのに。
……いや、気づいてたんだ。
小梅「私、嫉妬してたんだ」
みほさんに認めてもらえるよう、力になれるよう努力し続けて、ようやくその時が来たと思ったらみほさんの隣には誰よりも心強い人がいた。
気づいてしまった。
何も見ていないような瞳だったみほさんが、前を向いている事に。
そうしたのは逸見さんだって事に。
だけど認めたくなかった。
私のやってきたことが無為になった気がして、今まで動いてこなかった私をあざ笑ってるような気がして。
みほさんのためだなんて言いながら、私はみほさんから目を逸らしてた。その隣にいる逸見さんを穿った目で見る事しかしていなかった。
むしろ逸見さんが良い人だとわかっていたからこそやり場のない嫉妬が芽生えてしまったのかもしれない。
小梅「私……全然弱いままだったんだなぁ」
強くなろうと努力してきたのに私は結局弱いままだった。
いくら戦車道が上手になったって、その根っこである心が弱いままだった。
だから、自分で自分の選択肢を決められず誰かの意見を求めた。
情けなくて、恥ずかしくて、頭を抱えてしまいそうになる。
しかしこれ以上二人を待たせるわけにはいかない。
私は両足に力を込めて無理やり立ち上がり、未だ話声の途絶えない教室の扉を開ける。
教室に入った私を見て、一人は嬉しそうに私の名前を呼び、
もう一人はムッとした表情で自分を待たせた事を咎めながらも、次の瞬間にはさっさと帰ろうと出口に向かう。
私ともう一人は颯爽と去って行く背中を追いかけていく。
私はようやく、自分の選ぶ道を決める事ができた
294 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/14(土) 22:56:01.31 ID:ZxPhTSO60
・
・
・
夕暮れの校舎裏。昨日と同じように校庭から運動部の掛け声が聞こえてくる。
だけど、昨日と違って私は寂しさを感じていない。
というか、そんなものを感じる余裕なんてない。
今私は緊張と後悔で色々大変なのだ。
小梅「……なんであんな事しちゃったかな」
エリカ「何が?」
小梅「うおおおおおおおおおっ!?」
いきなり横合いからかけられた声に私は乙女をかなぐり捨てた声で叫んでしまう。
エリカ「びっくりしたわね……で?いきなり呼び出すだなんてどうしたのよ」
逸見さんは私の奇声に一瞬驚いたようだったがすぐにいつもの澄ました表情に戻り、本題に入ってくる。
心の準備ができたとは言い難いが、こういう事は勢いも大事だ。
私は胸の高鳴りを抑え込んで逸見さんに用件を伝える。
小梅「ちょっと二人だけで話したいことがあって」
エリカ「そ。手短にね」
小梅「はい。……エリカさん」
大きく息を吸う。
大事なことだから、噛まないように、上ずらないように。
真っ直ぐ目を見つめて。
小梅「私と友達になってください」
エリカ「ええ、いいわよ」
私の決意を込めた告白はあまりにも軽く、あっさりと受け入れられてしまった。
295 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/14(土) 22:57:46.08 ID:ZxPhTSO60
小梅「……え?」
エリカ「どうしたのよ。そんな意外そうな顔して」
小梅「てっきり断られるかと……」
素気無く断られるかよくて『あ、あんたと友達になんてならないんだからねっ!!』みたいなツンデレムーブが関の山かと思っていたのに……
エリカ「なんでよ」
小梅「だってみほさんがあんなに友達だって言ってるのに一向に友達じゃないって言ってますし……」
エリカ「言ったでしょ。あの子とはライバルであって友達なんかじゃないって」
にしたって一年以上付き合いのあるみほさんを差し置いて私が友達になれるだなんて……
小梅「それに……」
エリカ「それに?」
小梅「……私逸見さんを誤解で悪者扱いしましたし」
正確には誤解と嫉妬で。
逸見さんを穿った目で見て一方的に悪だと決めつけた。
責められたって仕方がない。友だちになりたいだなんて恥知らずだと言われても仕方がない事をした。
だってのに逸見さんはまるで気にした様子ではなく、
エリカ「ああ、あれ?別に気にしてなんかいないわよ?」
小梅「で、でも……」
一歩間違えていれば私は二人の関係だけじゃなく、逸見さんの立場すら悪くしていたのに。
エリカ「自分の行動ががどんな印象を与えるかぐらいわかってる。その上で、私は私のやりたいようにしてるの」
小梅「……」
エリカ「自分のやりたいことを抑え込んで周りに阿るだなんて真似冗談じゃないわ。私はやりたい事が、目指すべき目標があるから黒森峰に来たのよ」
小梅「逸見さん……」
エリカ「だからあなたも気にしないで」
……ああそうか、これが、これこそがみほさんが逸見さんを慕っている理由なんだ。
逸見さんは誰かに振り回されない。
自分の事を信じているんだ。
だから、揺らがない。
だから、誰かに手を差し伸べられる。
だからこそ、こんなにも強い人なんだ。
誤解と嫉妬の紆余曲折の末に、私はようやく逸見さんを理解することができたのかもしれない。
296 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/14(土) 23:00:41.14 ID:ZxPhTSO60
小梅「……ありがとうございます」
エリカ「それにね、私あなたの事結構好きよ?」
小梅「え?」
エリカ「あんなののために正面切って喧嘩を売ってくるだなんてなかなか根性あるじゃない」
小梅「あんなのって……」
一応私の恩人なんですけど……
エリカ「それに、あの子の優しさを装った甘えに付き合わなかったのも良いわね」
小梅「……」
エリカ「だから、友達になりましょうか。あなた意外と強いから」
そういって逸見さんは手を差し出してくる。
真っ直ぐ私を見つめて、微笑みながら。
小梅「……はいっ」
だから、私もその手をしっかりと握る。
その瞳を見つめ返す。
宝石のような碧眼に映り込む私は自分でも驚くほど穏やかに、だけど心からの笑みを浮かべていた。
エリカ「よろしくね」
小梅「はいっ、エリカさんっ!!」
297 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/14(土) 23:05:14.97 ID:ZxPhTSO60
大好きな戦車道を、憧れの場所で学ぼうと思い黒森峰に入った。
ここでなら強くなれると、自分の戦車道ができると思って。
そして、身の程を教えられた。
自分より強い人なんていくらでもいて、努力で巻き返そうとしても強い人たちは私なんかよりずっと努力を重ねていた。
そして私は自分を信じられなくなった。
前進も、後退もできずただ時が流れるのを待つばかりになった。
そんな自分を、私はますます嫌いになっていった。
だけど、無為な日々を過ごす中で、それでも優しくしてくれる人がいた。
その人の認められるよう、力になれるよう頑張って――――私は大切なものを見失ってた
自分勝手な正義感を振りかざし、力になりたかった人から大切なものを奪おうとしてしまった
なのに、
『だから、友達になりましょうか。あなた意外と強いから』
そんな私を強いと言ってくれる人がいた。
嫉妬で濁った挙句、取り返しのつかないことをしようとした私を、強いと言ってくれる人が。
気高いその姿の内側に、包み込むような優しさを持ったその人の手は冷たくて、なのに温かくて、
私の胸の内はそんな彼女と友達になれた、憧れの二人と友達になれた喜びで満たされていた
298 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/14(土) 23:09:41.95 ID:ZxPhTSO60
・
・
・
夕暮れが大分落ちてきた学校前。
校門に寄りかかりながらたたずむ人影が一つ。
みほ「遅いよ二人とも」
小梅「みほさん待たせてすみません」
エリカ「帰ってても良かったのに」
私達を待っていたみほさんにエリカさんはいつもの軽口をぶつける。
それを受けたみほさんはムッと唇を尖らせ、
みほ「だって一緒に帰りたかったんだもの」
エリカ「はいはい、ならさっさと帰りましょう」
みほ「……うんっ!」
みほさんの直球をさらりと受け止めたエリカさんは校門に寄りかかっているみほさんを素通りして颯爽と歩いていく。
慌てて追いかけようとするみほさんに、私は声をかける。
小梅「みほさん」
みほ「何?」
小梅「あなたの言う通りでした。エリカさんは素敵な人です」
みほ「……でしょー?」
渾身のドヤ顔。
みほさんこんな表情もするんだ……
エリカ「こっぱずかしい事を本人の前で言うんじゃないわよ……」
それを聞いて呆れ半分恥ずかしさ半分といった表情のエリカさんに、私は恐る恐る提案をする。
小梅「あの……エリカさん、もしよかったら今度私の自主練に付き合ってくれませんか?」
エリカ「ええ、良いわよ。あなたの努力見させてもらうわ」
またもや二つ返事。
こうもあっさり返されると遠慮する自分が馬鹿みたいに思えてしまう。
小梅「あ、エリカさんの練習もあるからあまり時間は取らせないんで……」
エリカ「あなた、急にしおらしくなったわね?……友達に遠慮することなんかないわよ」
小梅「……ありがとうございます!」
299 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/14(土) 23:15:55.07 ID:ZxPhTSO60
思わず大きくなる声。
それとは対照的に私の隣のみほさんはどういうわけか怪訝な表情をする。
みほ「……友達?そういえば『エリカさん』って……」
小梅「あ、そうだ。みほさん私エリカさんと友達になれたんですっ!」
みほ「え」
エリカ「わざわざ言いふらすような事じゃないでしょ」
小梅「だって私嬉しいですから。嬉しい事は周りにも伝えたいじゃないですか。ねぇみほさ――――」
みほ「赤星さんズルいっ!!」
突然の大声。
最初、それがみほさんから発せられたものだとは気づけなかった。
小梅「え?ズ、ズル?」
みほさんは手をブンブン振りながら訴える。
みほ「私、まだエリカさんに友達だって言ってもらってないっ!!」
エリカ「だって友達じゃないもの」
みほ「赤星さんはっ!?」
エリカ「友達よ」
みほ「なんで!?私は!?」
まぁ当然の疑問だろう。
あれだけ自分との友好を固辞している人が、つい最近出会ったばかりの人とは友好を結んでいるのだから。
エリカ「あなたはライバルだもの。友達だなんて馴れ合い御免よ」
みほ「良いよ別に!?ライバルで友達だって良いでしょっ!?」
エリカ「嫌」
みほ「っ……もおおおおおおおおおおおおおおおエリカさんの馬鹿あああああああああああっ!!」
300 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/14(土) 23:17:51.48 ID:ZxPhTSO60
バッサリと切り捨てられ許容を超えたのか、みほさんは内より湧き上がる憤りのままに走っていく。
取り残された私は同じように取り残されたエリカさんを嗜める。
小梅「あんまりいじめると可哀そうですよ」
エリカ「事実を言ってるだけよ」
小梅「なんていうか……エリカさんめんどくさいですね」
エリカ「あら?良く知ってるじゃない」
小梅「開き直るあたりさらにめんどくさい……」
エリカ「それが私よ。友達なんだから理解しなさい」
小梅「……ふふっ。はいはい」
エリカさんは直情的で、その場の考えで動いて、それでもって他者の思惑なんかさらりと無視する人だ。
こんなにめんどくさくて、一緒にいて楽しい人はそういないだろう。
きっと、こんな私の内心だってあの人は気にもせず凛々しく、逞しく、彼女らしく。これからも私の友達でいてくれるのだろう。
それが、私が友達になりたいと思った人――――逸見エリカなのだから。
エリカ「ほら、さっさとあの子追いかけるわよ。転ばれたらめんどくさ……あ」
小梅「転びましたね」
エリカ「……まったくもう」
エリカさんは転んで涙目になってるみほさんに駆け寄る。
制服についた埃をはたいて、嫌味ったらしく小言を言う。
私は、それを離れて見つめる。
私はあの二人の友達だ。
そばにいると楽しくて、嬉しくて、暖かい気持ちになれる。
だけど、たまにはあの二人を遠くから離れて見つめていたい。
噛み合ってないようで、これ以上ないくらい噛み合ってる二人を。
一方通行のようで確かに想い合ってる二人を。
私は、あの二人がいつかお互いを友達と呼び合える日を心から待ち望んでいる。
彼女たちならきっと、言葉を交わさずともお互いを理解し合えると思うから。
なので、
301 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/14(土) 23:19:55.29 ID:ZxPhTSO60
小梅「私は、ずっとあなた達のそばにいますから」
302 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/14(土) 23:20:26.95 ID:ZxPhTSO60
あなた達の輝きを特等席で見たいから
303 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/14(土) 23:21:48.22 ID:ZxPhTSO60
関係ありませんが私の書くガルパンSSにおいて、エリカは超絶美人として設定している事が多いです。
また来週。
304 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/14(土) 23:24:50.47 ID:u+teuHqxO
乙 この小梅が事件を経て何を考えるのか・・・
305 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/14(土) 23:29:02.13 ID:87Bv+Z/z0
乙
実際造形は作中1位2位を争うくらい整ってるしね
306 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/14(土) 23:39:32.85 ID:rwA5Bmc80
匿名希望しても役職でバレバレですわ
濃厚なエリみほ大好きだけど、この作品にR18要素求めるのは違うと思う
307 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/14(土) 23:40:12.31 ID:JHadUNa50
乙ー
308 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/14(土) 23:56:22.31 ID:wXyk6N03o
おつー
小梅ちゃんも鬼の副隊長になるまでキラキラしていたのね
309 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/15(日) 00:04:15.20 ID:7Fy0TgTGO
エリカママが美人なのは言及するまでもなく純然たる事実だと思いますが!
310 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/15(日) 00:58:54.69 ID:oMSk7n/c0
乙
どこより厳粛で戦車一筋だからこそ華やかさもある選手は重宝もされらぁね
311 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/15(日) 02:18:02.59 ID:+MccLgns0
乙
生徒会長に対しても「もおおおお」って怒ってたね
ちょっときたところで今につながってるの凄いわ
312 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/15(日) 08:20:20.90 ID:fgWRERwi0
落とすなら早く落としてくれませんかね(血涙
エリみほどころか小梅までこんな…こんな…
313 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/15(日) 16:17:22.75 ID:bW+2ZzxC0
匿名希望副隊長に隊長?
いったい、どこの何住なんだ……
314 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/16(月) 22:08:03.27 ID:x2NsAoGw0
おつ!
ほんっとこのスレだけ読んでたらみほエリ&小梅の青春サクセスストーリーなのに……
転落を知った上で読む微笑ましい話のなんと残酷なことか
315 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/16(月) 22:41:03.84 ID:i4IKqN2To
お姉ちゃんはまだエリカを不良扱いしているのか……ww
316 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/18(水) 12:46:48.72 ID:SxWo//8m0
乙
>>1
のかくSSは他がわからないけどママ爆弾好き
317 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/21(土) 22:33:39.84 ID:TPicXKb70
・
・
・
中等部2年―10月―
「ねぇ、今度はあっち行ってみよう」
「えー……もうちょっと落ち着きなさいよ」
「年に一度のお祭りなんだから、もっとはしゃがないと!!」
「はぁ……はいはい。わかりましたよ」
「ヒュー!!話がわかるぅっ!!」
「……このビールノンアルよね?」
まほ「……」
318 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/21(土) 22:35:33.65 ID:TPicXKb70
大通りを行進しているブラスバンドのメロディに混ざり、あちこちから歓声と乾杯の声が聞こえる。
季節は秋、黒森峰の学園艦では年に一度の大祭オクトーバーフェストが催されていた。
オクトーバーフェストは黒森峰女学院の中等部、高等部の2年生が中心となって盛り上げていく。
新入生たちと共に、進学する3年生を労う。
入ったばかりの一年は勝手がわからず、それを二年生がフォローすることで次年度に向けて絆を育んでいく。
その分2年生の負担は大きいが、自分たちが受けた恩を返す。そういった風土がここには根付いているようだ。
かくいう私も、去年はくたくたになりながらも働いたのだから、こうやってのんびりノンアルコールビールをのんでも罰は当たらないだろう。
とはいえ、周りが熱狂的に騒いでいる中一人テーブルでヴルストをつまみにちまちま飲んでいるのは正直あまりにも寂しい。
いや、友達がいないわけではない。
いるから。
ただ、今は人を待っているのだ。
319 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/21(土) 22:39:46.56 ID:TPicXKb70
みほ「お姉ちゃん、いたいた」
まほ「みほ」
小梅「隊長、待たせてすみません」
まほ「いや、気にするな」
人ごみをかき分けてやってきたのは、ドイツの民族衣装であるディアンドルを着たみほと赤星。
私が一人寂しくテーブルについていたのは友人がいないとかではなく、二人に呼び出されたからだ。
みほ「お姉ちゃん、ビールのおかわりだよ」
まほ「ああ、ありがとう……ん?逸見は」
みほ、逸見、そこに2年生から友人になった赤星を加えた3人は今やどんな時でも一緒にいると思われているぐらい良好な関係を築いている。
もっとも、逸見はそれを認めないだろうが。
しかし私の前にいるのはみほと赤星のみ。
どうしたのだろうかと首を傾げていると、みほが赤星の後ろに視線を向けていることに気づく。
みほ「ほらエリカさん」
小梅「いつまで隠れてるんですか」
エリカ「だ、だって……」
聞き知った声。どうやら逸見は赤星の影に隠れているらしい。
よくみると、目立つ銀髪がちらちらと見えている。
しかし小柄な赤星の影に隠れているとはどれだけ縮こまっているんだ。
みほ「もう、似合ってるんだから見せようよ」
小梅「そうですよ。もったいないです」
エリカ「ちょ、わかった。わかったから押さないでってばっ!?」
320 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/21(土) 22:49:25.45 ID:TPicXKb70
慌てる逸見をみほと赤星が押し出す。
まほ「……」
逸見のディアンドル姿はなんというか、言葉にできない。
生来の美しい銀髪と碧眼。白い肌が緊張と恥ずかしさで少し紅潮している。
元より逸見の容姿が優れているのは知っていたが、それに合わせて普段とは違う可愛らしいディアンドルを着た姿は性別問わず行きかう人の目を惹くものとなっていた。
エリカ「……やっぱこれちょっと胸元出すぎてない?」
みほ「そんなこと無いと思うけど」
小梅「もう、普段は威勢がいいのになんでこういう時はそんなしおらしくなっちゃうんですか」
エリカ「うるさいわねっ!?」
いつもはからかう側である逸見が今日に限ってはみほと赤星にからかわれる側になっている。
それはたぶん、3人の絆があってこそのものなのだろう。
みほ「エリカさん、とってもかわいいよ。ね?お姉ちゃん」
まほ「ああ。逸見以上にディアンドルを着こなせる子は黒森峰にはいないと思う」
エリカ「っ……」
正直な感想を伝えると、逸見はますます紅潮してしまう。
いつもは気丈な逸見がそうやって恥ずかしがる姿は、彼女が私とさほど変わらない少女なのだという事を思い出させてくれる。
321 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/21(土) 22:52:22.71 ID:TPicXKb70
エリカ「ま、まったく。みんな浮かれすぎなのよ。こんなコスプレみたいな恰好までして」
小梅「何言ってるんですか。中高合同のオクトーバーフェスト、3年生の皆さんに思いっきり楽しんでもらうために2年生が中心となって準備をしてきたんじゃないですか」
みほ「エリカさん凄く頑張ってたでしょ」
エリカ「そうだけど……」
照れ隠しのためか話題を変える逸見。
それに対してすかさず反応したみほと赤星。
そう、戦車道チームが出している店ではノンアルコールビールと軽食を提供する店をやっている。
エリカはその企画から準備、設営、そして今やっているように給仕までこなしている。
戦車道チームの後輩だという事を差し引いても、逸見が我々先輩のために頑張ってくれているのは明白だ。
まほ「逸見、お前の頑張りはみんなが知っている。戦車道チームの隊長としてお礼を言わせてくれ」
エリカ「……私は先輩方に受けた恩を返したいだけです。後輩達にあるべき姿を見せているだけです。別に褒められたくてやってるわけじゃないですから」
小梅「はぁ……ほんと、変なところで融通が利かない人ですね」
みほ「お礼はちゃんと受け取ったほうが良いんでしょ?」
あくまで謙虚な逸見に対してみほと赤星が詰め寄る。
痛いところを突かれたのか逸見は二人に言い返せないようだ。
みほ「……赤星さん」
小梅「はいっ」
そんな逸見を見て、今度は示し合わせるかのように二人は頷き合う。
みほ「そういえばエリカさん、まだ休憩とってなかったでしょ?」
エリカ「え?でもまだ時間じゃ……」
小梅「ちょっとぐらい早めにとったって誰も怒りませんよ。ほら、座って座って」
白々しい二人の演技に戸惑う逸見。
それを無視して赤星が私の対面の席を引くと、みほがエリカをそこに座らせる。
エリカ「ちょ、あなた達?」
みほ「ほら、ノンアルビールにヴルスト。自分たちのお店の味ぐらいちゃんと知っててよ?」
小梅「それじゃあ私たちは仕事に戻りますから、エリカさんごゆっくり」
322 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/21(土) 22:53:23.40 ID:TPicXKb70
まるで準備していたかのようにビールと料理をテーブルに並べると、逸見の返答を待たずに二人は人ごみの中に消えていった。
エリカ「あ、あの子たちはっ……」
まほ「いいじゃないか。せっかくだ、ゆっくり話そう」
エリカ「……はい」
怒りと呆れに打ち震える逸見を宥めて、私はみほに注いでもらったグラスを掲げる。
それ見て逸見はどうしたのかと首を傾げている。
まったく、本当に変なところで真面目なんだな。
まほ「せっかくのお祭りなんだ。お前も少し位はしゃいだっていいはずだ」
エリカ「……あ」
ようやく気付いたのか逸見もグラスを掲げる。
まほ「2年生の頑張りに」
エリカ「先輩方の栄光に」
「「乾杯<プロースト>」」
323 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/21(土) 22:58:18.42 ID:TPicXKb70
・
・
・
乾杯のおかげもあってか、先ほどまでの重苦しい雰囲気はどこかへ行って、私とエリカは歓談することができていた。
エリカ「今年の優勝も隊長のお力があっての事です」
まほ「あまり持ち上げないでくれ。私はまだ中学生なんだ。こんなところで満足していられない」
エリカ「ふふっ、でも私にはあなたを称賛する言葉しか見つかりませんから」
隊長と隊員としてだけではなく、先輩と後輩としての会話。
周囲の騒がしさが気にならないくらい、私は逸見との会話を楽しんでいる。
……だからこそ、聞きたかった事を問いかける。
まほ「なぁ逸見」
エリカ「はい?」
まほ「お前がみほと赤星を友達にしたのか」
エリカ「急にどうしたんですか」
まほ「赤星に聞いたんだ。お前が二人を友達にしたと」
小梅『え?なんでみほさんとって……エリカさんのおかげですね』
みほに友達(逸見は認めていないが)ができただけでも驚きなのにそこに赤星まで加わって、
その立役者が逸見だというのだから逸見は案外人付き合いが上手い奴なのだろうかと思ってしまう。
エリカ「……赤星さんは元々みほの事を気に懸けてたみたいですから。私が何もせずとも友達になってたと思いますよ」
まほ「……そうか」
エリカ「それに、私にも思惑はありましたし」
まほ「思惑?」
エリカ「あの子がべたつく対象を変えられるかなって。いい加減暑苦しいですし。……まぁ、結局あの子は私と赤星さんの二人にべったりですけど」
まほ「……ふふっ」
その誤魔化すような態度に、赤星の言葉を思い出す。
小梅『エリカさんは誤解されやすい人です。……現に私はあの人を誤解してましたから。
だけど、それを理解したら今度はこう思えるようになりました。―――――嘘の下手な人だなって』
相変わらず、逸見は嘘が下手なようだ
324 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/21(土) 22:59:54.15 ID:TPicXKb70
エリカ「笑い事じゃないですよ。物寂しい秋の帰り道を一人で優雅に帰る楽しみを奪われたんですから」
まほ「その代わり得たものもあっただろ?」
エリカ「……さぁ?そんなものありますかね」
とぼける逸見に、私はもう一歩踏み込む。
まほ「……なぁ、お前は二人をどうしたいんだ?」
エリカ「それ、去年も聞きましたね」
まほ「今度は赤星もだ」
エリカ「……赤星さんは友達ですよ。あの子は強いですから」
まほ「……赤星もみほと同じであまり気の強いほうじゃないと思っていたんだがな」
エリカ「その通りです。あの子はきっと、今も気が弱いほうですよ」
エリカ「だから強いんです」
それまでの言葉とは真逆な赤星の評価。
逸見は疑問に思う私の内心を知ってか知らずか、話を続ける。
エリカ「気が弱くても、実力が無くても、それを分かったうえで誰かを助けるために前に出てきた。あの子は……赤星さんは強いです」
まほ「……ああ、そうだな」
325 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/21(土) 23:01:07.14 ID:TPicXKb70
『強い』、『弱い』
どうやら逸見は他者を評価するのにその二つを使うらしい。
そこにはたぶん戦車道の腕だけではなく、人としての強さも含まれているのだろう。
赤星とのいざこざと、その顛末については私も聞き及んでいる。
そして、私が知ることのできない何かが二人の間であったのだという事も推測できる。
そのうえで逸見が赤星を『強い』と評価したのであれば。友達になろうと思ったのであるのなら。
これ以上は聞かない。
それは私が、他人が触れていい事情ではない気がするから。
赤星と逸見の二人が結んだ友情を関係ない私が詳らかにしようなんて無粋な真似はできないから。
なので、私は話の焦点を別の人物に当てる。
まほ「それで?赤星と友達になったのはいいが、みほはどうなんだ?いい加減友達に」
エリカ「なってません。なるつもりもありません」
まほ「……はぁ」
相変わらずの一刀両断。
あれだけ慕っている人物にこうも言われてはみほの心労いかんばかりや。となってしまう。
エリカ「そう落胆されても、私あの子の事嫌いですから」
まほ「そういうのをツンデレというのだったか」
エリカ「変な言葉覚えてますね……違いますよ」
赤星が『エリカさんはツンデレの才能がありますねー』と言っていたのだが。
326 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/21(土) 23:02:04.35 ID:TPicXKb70
エリカ「私とみほはライバルです。友達なんて甘い関係は赤星さんとだけ結んでいればいい。―――――私は、あの子を倒したいから」
まほ「……そうか」
エリカ「赤星さんが甘い分、私が叩く必要があるんですよ。まぁ、あの子に戦車道以外で褒めるところなんかありませんけど」
まほ「ずいぶんだな」
実の姉の前でそれだけ言えるのだから逆に感心してしまう。
エリカ「前に怒らないって言ったじゃないですか。遠慮はしません。それに、」
まほ「それに?」
エリカ「それが、あの子との協定ですから。みほは『自分らしさ』を、私は『強さ』を。お互いの交流で見つけようって」
まほ「……」
エリカ「私が強さを追い求めるためにも、あの子には強くなって欲しいんです」
まほ「それならばなおさら、赤星のような甘い友人はいないほうがいいんじゃないか?」
誰かに寄りかかり、甘えることは逸見の嫌う弱さにつながってしまうのではないか。
私の問いかけに、逸見は目を伏せ、呟くように答える。
エリカ「……以前のあの子は、誰かの思惑で押しつぶされそうでした」
まほ「……」
327 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/21(土) 23:03:58.19 ID:TPicXKb70
その『誰か』には私も含まれていると感じた。
……いや、私自身がそう思っているのだろう。
あの子の辛さを、悲しさを知っていながら目を逸らし続けていた私の罪悪感がそう思わせるのだろう。
エリカ「期待を背負って、重圧に打ち勝てるのなら、それ以上はありません。だけど、そんなのきっと限られた人間だけなんです。
そしてあの子はそうじゃなかった。いくら強くったって、立ち上がることさえできなかったら……何の意味もない」
意味はないと、はっきり言い切る逸見。
言い換えれば、それだけの価値をみほに見出したという事だ。
まほ「だから、赤星とみほを友達にしたのか」
私の問いかけにエリカは私の目を見つめて、真っ直ぐに答える。
エリカ「私なんかじゃなく、利害関係にない友人の存在が、きっとあの子をもっと強くしてくれる。私はそう思ってます」
甘さを生み出すかもしれない友人が、強さに繋がると。
ストイックな逸見のイメージに合わないその言葉は、だけど逸見らしいと思えてしまう。
328 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/21(土) 23:05:55.38 ID:TPicXKb70
まほ「それが、お前がみほ達と一緒にいる理由か」
エリカ「そういうわけです」
みほが赤星と友達になることでもっと強くなる。逸見はそのみほから強さを学び取る。
なるほど、なるほど。
…………………………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………………うん。
まほ「逸見、お前はめんどくさいな」
エリカ「……それ、赤星さんにも言われました」
まほ「回りくどいしややこしいし、お前はもっとこう、あの二人とわかりやすい関係になれないのか」
逸見が一言、みほに友達だと言えばあのややこしい関係は一本の線になるというのに、
だけど、逸見はそんな事知った事ではないという風に私の視線から顔を逸らす。
まほ「……まぁいいさ。お前たちの関係にいちいち口を出すつもりは無い」
エリカ「そうしてくれるとありがたいです」
まほ「でもな、逸見」
エリカ「はい」
意地悪で意地っ張りで、嘘の下手くそな後輩に、伝えたいことがある。
まほ「それでも、私は知っているよ。お前が、お前たち3人が楽しそうに連れ合う姿を」
329 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/21(土) 23:13:01.42 ID:TPicXKb70
みほは嬉しそうに、赤星は慈しむように、逸見はやれやれと言った風に。
三者三様に笑っていた。
その姿を、あの笑顔を見て、それでも逸見の言葉が全て真実だと信じられるほど私は蒙昧じゃない。
私の言葉に、逸見は最初何かを言い返そうとしていたが、やがて観念したかのようにため息をついて、
エリカ「……みほの事は嫌いです。だけど、友達と笑い合ってる時に空気を悪くするほど狭量なつもりはありませんよ」
それはたぶん、逸見が話せる精一杯の本音なのだろう。
だから、今日はこのぐらいでいい。
逸見の本音の全ては聞けなかったが、少なくとも逸見のした事はみほにとっても赤星にとっても嬉しい事だったのだから。
まほ「……逸見、お前は不良なんかじゃないのかもな」
エリカ「ようやくわかってくれましたか!そう、私は品行方正な」
まほ「義に厚い昔ながらの不良なんだな」
エリカ「違ああああああああうっ!!?」
まほ「いやーまさか子供の頃床屋に置いてあったヤンキー漫画の主人公みたいな人間が本当にいるとは思わなかった。あれか、友のために喧嘩したりするのか。『ニゴバク』がそうだったのか」
エリカ「いやだからっ!?」
からかう私に、大声で反論する逸見。
相変わらず、面白い反応を返してくれる。からかい甲斐がある奴だ。
私が飲んでいるのはノンアルコールビールのはずなのに、どういう訳か、楽しくて、笑ってしまう。
祭りの騒がしさを、私たちの声で塗り替えてしまうような、そんな気さえしてしまう。
しかし、その終わりは二人の人影と共に逸見の背後からやって来た。
みほ「エリカさーん、そろそろ休憩終わりだよー」
小梅「流石にそろそろ限界なんでヘルプお願いします」
まほ「もうそんな時間か」
エリカ「ちょっと待ってなさい!!私は今ここで、誤解を解いておかないといけないのっ!!」
小梅「そういうのは後でお願いしまーす」
みほ「ほら、早く戻ろうよ。それじゃあお姉ちゃんまたね」
まほ「……ああ、またな」
エリカ「ちょ、離しなさい!!いいですか隊長!?私は、不良なんかじゃなくて、品行方正な―――」
逸見の抗弁は私に最後まで届くことは無く、3人は再び人ごみに消えていった。
私はまた、一人残された。
まほ「……」
330 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/21(土) 23:33:26.05 ID:TPicXKb70
逸見は言った。みほには甘えられる友人がいることで強くなると。
だけど、みほにとってのそれはきっと、赤星だけではない。
初めて叱責をしてくれて、初めて内心を吐露した相手。
そうしてくれたのは、それを受け止めてくれたのは、
押しつぶされそうなみほを救ったのは、他でもない逸見だった。
『エリカさんは、私の嫌いなところを全部嫌いって言ってくれたんだ』
自分のためを思い嫌われることも厭わず叱責してくれる人を、みほは求めていたのかもしれない。
だから、みほにとって、逸見に叱責されることは甘える事と同義なのかもしれない。
そう思える事は、そう思える相手がいる事は、とても幸運な事なのだと思う。
ならば、みほのとっての逸見のような、自分の胸の内を語れる人を持っていない私は、不運なのだろうか。
まほ「……騒がしいな」
周りの歓声が、楽器の音が、耳につく。
どうやら私は祭りというものがあまり好きではないらしい。
どうしようもなく、自分が独りだと思い知らされるから。
あの日夕暮れと共に胸に差し込んだ寂しさを、不安を、私はまだこの胸に抱え込んでいる。
それはきっと私の弱さだ。
逸見が強さを尊ぶのなら、私は逸見にとって嫌悪の対象なのかもしれない。
だから、この弱さは胸の内に抱え続ける。
強くあるために、弱さを見せないために。
私が、西住であるために。
331 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/21(土) 23:34:20.80 ID:TPicXKb70
それすら私の弱さだと気づいているのに
332 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/21(土) 23:35:55.47 ID:TPicXKb70
・
・
・
〜中等部二年 11月〜
とある山岳地帯。
私たち黒森峰の中等部は練習試合を行った。
結果はもちろん。などと自惚れるつもりはないが、それでも勝利は勝利。
私は隊長として、最後の試合を無事終えることができたようだ。
千代美「いやぁ、負けたよ。完敗だ」
まほ「いや、こちらも危なかった。正直機動戦術に関してはお前に分がある」
千代美「ははは、お前にそう言ってもらえるなら自信になるよ」
まほ「お世辞を言ったつもりはない」
試合後の心地よい疲労感の中、私は相手チームの隊長と和やかに会話をしていた。
年齢を考えると不釣り合いなほど大きなツインテールを揺らしている相手の隊長―――安斎千代美とは、何度か試合をした縁から、
良く練習試合を組ませてもらった仲だ。
まぁ、安斎の学校と良好な関係を築けたのは偏に安斎の人柄があってこそだと思うが。
自慢ではないが私はあまり人付き合いが得意な方ではない。
もちろん、家に恥じない礼儀は身に着けているが、それはそれとして、同年代の人たちと交流するには少々堅苦しいと思われがちだ。
しかし安斎は初対面の時分にして、『お前が西住流のかー!!強いなー!!』といった具合に肩を叩いてきたのだから面食らったものだ。
その安斎からの練習試合の申し込みをそう無碍にできるほど私は冷血ではない。
という訳で、何度かの練習試合を経て今日、私の中等部最後の試合相手となったわけだ。
千代美「そうかー。なら、励みにさせてもらうよ」
まほ「ああ。安斎、中学最後にいい試合ができた。
来年の全国大会でお前と戦えることを楽しみにしているよ」
千代美「んー……あー……それは難しいかもな」
まほ「どういうことだ?」
いつも朗らかな安斎がどういう訳か頬をかきながら気まずい様子を見せている。
333 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/21(土) 23:37:36.47 ID:TPicXKb70
千代美「私は、転校するんだ」
まほ「転校って……そのまま今の学園艦で進学するんじゃないのか」
学園艦は基本的に中高一貫だ。
そして、学園艦のシステム上親元を離れて暮らす人間が多い。
なので、中等部の3年間だけでも母校に愛着を持ち、そのまま進学する人間がほとんどだ。
もちろん転校の事例がないわけではない。
しかし、私の目から見て安斎は母校に対して愛着を持っているように思えたのだが……
千代美「アンツィオ高校ってところにな、転校するんだ」
まほ「……すまない初耳だ。だが大会に出ていないだけで戦車道が盛んなところなのか?」
千代美「いや?そもそも現時点で戦車道チームすら形だけでほとんど履修者がいないそうだ」
まほ「……何故そんなところに」
思わず口が滑った私に、安斎は「こらっ!」と叱りつける。
千代美「そんなとことか言うな。戦車道チームがないだけで立派な学園艦なんだぞ」
まほ「あ……すまない」
千代美「わかればいい。……スカウトされたんだ『戦車道チームを立て直してほしい』ってな」
まほ「……」
スカウト。いわゆる野球留学のように、戦車道でもそういったものはある。
あるにはあるが、中高一貫の学園艦において、あまり聞く話ではない。
千代美「正直色々考えたよ。いくらスカウトされたとはいえ戦車道においては無名も無名な高校への転校だからな」
まほ「……」
千代美「でもな、それ以上に嬉しかったんだ、私の力を必要としてくれる人たちがいるって事が」
嬉しそうに安斎は笑う。
自分の力を評価して、求めてくれる。
その喜びが分からないだなんて言うつもりはない。
だけど、
まほ「それは、今の学校だって」
千代美「その通りだ。だからもう一つ理由がある。……私は、私の戦車道をしたい」
まほ「それだって今の学校で」
千代美「西住、お前ならわかるだろ。歴史が、伝統があるって事は強い結束と統率を生む。だけど同時にどうしようもない息苦しさを感じることも」
まほ「……」
334 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/21(土) 23:39:27.90 ID:TPicXKb70
わかる。だなんてものではない。現に私は、みほがその息苦しさに押しつぶされかけていたのを知っているのだから。
千代美「私はさ、1から自分のチームを作りたいんだ。志を共にできる仲間を集めて、私が隊長としてのびのびとやれるチームを」
まほ「それは……随分と自分勝手な話だな」
千代美「スカウトされた身なんだ。それぐらいのわがままは良いと思わないか?」
まほ「……そうだな」
千代美「多分一年目はチームメイトの募集と戦術の確立で終わると思う。……いや、仲間集めすらままならないかもな
だけど私はあきらめない。新天地で、期待してくれる人たちに応えたいんだ」
まほ「……お前は他人の期待を恐れないのだな」
安斎はおもちゃの山に飛び掛かる子供の様に両手を広げる。
千代美「怖いさ!だけど、それ以上に楽しみなんだっ!!」
力強く、気高い言葉。
それが、それこそが安斎の本質なのだと感じた。
千代美「期待の重圧も、新天地での不安もある。だけど、どうせ苦労するのならせめて笑ってやりたいだろ?」
まほ「……ああ、その通りだ」
335 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/21(土) 23:51:05.61 ID:PhkCmU6Po
ん?
336 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/21(土) 23:58:54.62 ID:TPicXKb70
千代美「待ってろ西住。私の作るチームは強いぞ?」
まほ「なら、黒森峰は最強であろう」
千代美「……頑張れよ」
まほ「そっちこそ」
固く、握手を交わす。
彼女の強さが笑顔が、握った手を通して伝わってくる。
だけど、次第に彼女の笑顔が陰っていく。
まほ「安斎?」
千代美「……西住、結局お前は最後まで強かったな」
まほ「……?ありがとう」
諦めのような感情が込められた誉め言葉に、私は戸惑いながらお礼を返す。
それを聞いた安斎は、悲しそうな表情を振り切るように私を抱きしめる。
そして、ぎゅっと私の両肩を掴んで視線を合わせる。
いつもスキンシップの激しい奴ではあったが、今日に限ってはどうも熱が入ってるようだ。
千代美「……西住、たぶん次にお前と戦うのは随分先になると思う。だからさ、一言だけ言わせてくれ」
まほ「あ、ああ、なんだ?」
千代美「もっと、強くて、弱くなれ」
矛盾した言葉。ともすれば馬鹿にした様にも聞こえるそれに、私は聞き覚えがあった。
『あの子はきっと、今も気が弱いほうですよ――――だから強いんです』
337 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/22(日) 00:00:53.43 ID:A+PN/k9Q0
逸見が、赤星を評した言葉。
その言葉の真意を私は未だ図りかねている。
だってそれは、二人の間で結ばれた友情が紡ぎだしたものなのだから。
他人の私が図り知ることなんてできないのだから。
なのに、安斎が言った言葉と、逸見が言った言葉が同じ意味を示しているように私は感じた。
まほ「安斎、教えてくれ。今のは一体どういう――――」
エリカ「隊長」
私の疑問は、その張本人の一人である逸見の声によって遮られた。
言葉に詰まる私に、逸見はどうしたのかという表情をする。
私は深く息をついて、表面上、冷静さを取り戻し、安斎は何事もなかったかのように、逸見を笑顔で出迎える。
まほ「……逸見、どうした」
エリカ「え?いや、撤収完了の報告に……」
まほ「そうか。ありがとう」
千代美「おー、お前が榴弾姉妹の片割れか」
エリカ「初めまして。……って、なんでそのあだ名よそにまで広がってるんですか……」
千代美「戦車道において諜報も立派な戦術だからな」
まほ「これも戦車道だ」
(本人にとっては)不名誉なあだ名が広がっていることに肩を落とす逸見を、
今度はまるで品定めをするかのように安斎がじろじろと見つめる。
千代美「うーん……」
エリカ「な、なんですか?」
千代美「逸見って言ったっけ?お前……細すぎないか?」
エリカ「は?」
338 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/22(日) 00:12:38.98 ID:A+PN/k9Q0
あっけにとられた逸見に向かってまるで姉か親かの様に、安斎は語り掛ける。
千代美「ダメだぞー?そりゃあ年頃なんだし美容に気を遣うのはわかるが、だからと言って激しい運動をしてるのにそんな細いんじゃ倒れてしまうぞ」
まほ「ああ、それは私も思ってた」
正直あんな細い体でよく激しい戦車道をこなすことができるものだ。
千代美「だろ?ちゃんと食べろ!!体力をしっかりつけるんだ!!」
エリカ「だ、大丈夫ですっ!!」
千代美「もしかして食欲がないとかか?だったら、食べやすいメニューにいくつか心当たりがあるから後で教えるぞ?」
エリカ「そうじゃなくって!!私はちゃんと自分なりに健康管理はしてますからっ!!」
千代美「むー……本当か?」
案外疑り深い安斎に対して、逸見はきっぱりと言い切る。
エリカ「本当ですっ!!」
千代美「ならいいが……」
みほ「エリカさーん、お姉ちゃーん」
エリカ「みほ、どうしたのよ」
みほ「エリカさんがお姉ちゃん呼びに行ったまま戻ってこないからでしょ……」
まほ「ああ、それはすまなかった」
みほ「ほら、早く帰ろう?」
まほ「そうだな。安斎、お前の作るチームと試合ができる日を楽しみにしている……また会おう」
千代美「ああ。また会おう」
私はそのままみほたちを先導して戻っていく。
千代美「西住っ!!」
339 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/22(日) 00:28:24.58 ID:A+PN/k9Q0
後ろからかけられる声。
振り向くと、安斎が胸を張って私を見つめていた。
そして、もう一度大きく息を吸うと、
千代美「私の言葉の意味はお前が見つけろ!!そしたらきっと――――お前に必要なものがわかるはずだっ!!」
そう言うと、安斎は振り向くことなく帰って行った。
エリカ「隊長に必要なものって……どういう意味かしら?」
みほ「お姉ちゃん、安斎さんと何話したの?」
まほ「……」
みほたちの問いに答えず、私は無言で歩みを進める。
そんな私に、二人は疑問符を浮かべながらついてくる。
『もっと、強くて、弱くなれ』
340 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/22(日) 00:30:52.97 ID:A+PN/k9Q0
矛盾したその言葉の意味を理解できた時、私に必要なものがわかる。
まるで宝のありかを示したなぞなぞのような安斎の言葉を、私は何度も何度も頭の中で繰り返す。
だけど、答えは出ない。
ただのものの例えで、深い意味などないと切って捨てることもできるのに、
安斎の言葉が、諦めたような、悲しそうな表情が、頭から離れない。
だから、私は一旦考えるのをやめる。
指揮する人間は常に取捨選択を求められる。
今すべきことを、瞬時に判断する必要がある。
いくら考えてもわからないのなら、もっとやるべきことにリソースを回すのだ。
たとえ安斎の言葉に深い意味があろうとも、
たとえ安斎の悲しそうな表情が頭から離れなくても、
それがきっと、私の根幹に関わるものであったとしても、
それがわからない自分が情けなくても、それでも、
まほ「私は、強くなきゃ」
341 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/22(日) 00:31:27.64 ID:A+PN/k9Q0
それが、私の存在理由なのだから
342 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/22(日) 00:32:05.70 ID:A+PN/k9Q0
めっちゃ難産でしたがこれにて中2編終了です。
また来週。
343 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/22(日) 00:36:07.68 ID:A+PN/k9Q0
>>293
エリカさんはほほ笑んでいた。あきれたように、小ばかにしたように。だけど、優しさを隠しきれない表情で。 ↓
逸見さんはほほ笑んでいた。あきれたように、小ばかにしたように。だけど、優しさを隠しきれない表情で。
>>294
小梅「はい。……エリカさん」
↓
小梅「はい。……逸見さん」
上記のように訂正いたします。
344 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/22(日) 00:53:54.83 ID:xBo6fd+QO
お。そうかもう今日で一週間だったか、、、なんか時勢の風物詩みたいにになってきとるぜ。
明日、ゆっくり読ませてもらう。
乙だぜ
345 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/22(日) 01:24:13.05 ID:drPaRaFM0
乙
姐さんはホントに人間ができたお方やで…
こんな子がまほのそばにもいたならなぁ
346 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/22(日) 03:06:41.28 ID:b1XwH5u00
フェイズエリカがこういう中等部生活だったらなあ…
347 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/22(日) 03:40:09.33 ID:8Yy7xgsX0
まほのこともエリカが攻略してれば悲劇は生まれなかったのかな
348 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/22(日) 08:28:52.42 ID:rujXBfQPO
慕ってくれる後輩いなくなって一人になるまほ大丈夫かな
孤立して悪化してそう
349 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/22(日) 10:26:04.50 ID:0LBjqMRZo
おつー
>私はちゃんと自分なりに健康管理はしてますから
偽エリカも言ってたねww
350 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/22(日) 11:10:09.64 ID:19z17FbFO
拡散希望
【SS掲載拒否推奨】あやめ速報、あやめ2ndは盗作をもみ消すクソサイト
SSを書かれる際は掲載を拒否することを推奨します
概略1
現トリップ◆Jzh9fG75HAは
混沌電波(ちゃおラジ)なるSSシリーズにより、長くの間多くの人々を不快にし
また、注意や助言問わず煽り返す等の荒らし行為を続けていたが
その過程でついに、ちゃおラジは盗作により作られたものと露呈した
概略2
盗作されたものであるためと、掲載されたシリーズの削除を推奨されたSSまとめサイト「あやめ2nd」はこれを拒否
独自の調査によりちゃおラジは盗作に当たらないと表明
疑問視するコメント、および盗作に当たらないとの表明すら削除し、
盗作のもみ消しを謀る
概略3
なおも続く追及に、ついにあやめ2ndは掲載されたちゃおラジシリーズをすべて削除
ただし、ちゃおラジは盗作ではないという表明は撤回しないまま
シリーズを削除した理由は「ブログ運営に支障が出ると判断したため」とのこと
SSまとめサイトは、SS作者が書いたSSを自身のサイトに掲載し、サイト内の広告により金を得ている
SSまとめサイトは、SSがあって、SS作者がいて、はじめて成り立つ
故に、SSまとめサイトによるSS作者に対する背信行為はあってはならず、
SSにとどまらず創作に携わる人全てを踏みにじる行為、盗作をもみ消し隠そうとし
ちゃおラジが盗作ではないことの証明を放棄し、
義理立てすべきSS作者より自身のサイトを優先させた
あやめ速報姉妹サイト、あやめ2ndを許してはならない
あやめ速報、あやめ2ndは盗作をもみ消すクソサイト
SSを書かれる際は掲載を拒否することを推奨します
351 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/23(月) 07:51:56.63 ID:Iw8iV191O
お姉ちゃんが順調に病んでいってらっしゃる…
352 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2018/07/23(月) 17:54:45.73 ID:/9rKJdLNO
ここから拗らせに拗らせた結果が今のお姉ちゃんの態度だと考えるとあまりにも切ないな
353 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/23(月) 19:03:12.63 ID:IPY7b2Lz0
うるせぇsageろks
354 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/23(月) 20:15:46.43 ID:XyWQKiKd0
うむ
355 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2018/07/23(月) 22:31:27.37 ID:mCDj8EYhO
あ
356 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/24(火) 01:44:53.19 ID:LLS+7oHH0
乙
>>1
ーシャ
ハッピーエンドになるのかなぁ……
本編、ただまほちゃん倒すだけじゃどうにもならんよね
357 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/26(木) 00:06:20.89 ID:y+yM4GHN0
とりあえずエリみほ読めれば許す
358 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/27(金) 01:33:00.06 ID:gY3+eGvSO
>>357
上から目線で気持ち悪いから二度と書き込まなくていいよ
359 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/28(土) 18:01:06.86 ID:1x1ofSBV0
・
・
・
中等部三年 〜4月〜
季節は過ぎて桜の頃。
黒森峰に入って3度目の春を迎えた私は、今学期最初の戦車道の授業を前にしてロッカールームのベンチで祈るように手を組んで座り込んでいた。
みほ「……とうとう三年生」
うわごとの様な言葉。
誰に向けたわけでもないそれに対して、投げかけられる声が一つ。
エリカ「いつまでそんな浮かない顔してるのよ隊長さん」
私の正面でロッカーに寄りかかっているエリカさんは、ベンチに座る私をじっと見下ろす。
エリカ「もうみんな練習場に出てるわよ。隊長が遅刻してどうするのよ」
360 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/28(土) 18:02:55.93 ID:1x1ofSBV0
そう。私は今年から中等部の隊長に就任した。
副隊長からそのまま繰り上がりでの人事。
周りから見れば当たり前の事なのかもしれない。
だけど、
覚悟していたつもりだった。
決意していたはずだった。
それでも。私は今、圧し潰されそうで、
外で私を待っている人たちの期待が、視線が、それに応えられないかもしれない事が怖くて。
私の口から不安が漏れだしてしまう。
みほ「エリカさん、私、私なんかで本当に良いのかな……」
エリカ「今さら何言ってるのよ。ほら、シャキッとしなさい」
やれやれと言った風に私を促すエリカさんは相変わらずで、
だからこそ、安心感を覚えてしまう。
そして、だからこそ。私は言ってはいけない事を口にしようとしてしまう。
みほ「ねぇエリカさん、私なんかよりもあなたの方が―――――」
エリカ「それ以上言ったら怒るわよ」
みほ「っ……」
361 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/28(土) 18:05:30.70 ID:1x1ofSBV0
『怒る』だなんて可愛らしい言葉に似使わない、冷たく突き放すような声色。
あの時と同じ、私はまたエリカさんの逆鱗に手を近づけてしまったようだ。
エリカさんの気迫に何も言えずにいると、エリカさんはため息を一つついて、
そっと、膝を曲げて私の目線に合わせてくる。
エリカ「みほ、あなたは隊長に選ばれたの。贔屓じゃなく、実力で」
みほ「……」
エリカ「誰かの期待を理由に逃げるのはやめなさい。それはあまりにも自分勝手な事よ。
嫌なら、辛いのなら、ちゃんと自分の言葉で言いなさい」
分かっていたはずだった。理解して、二度と同じ過ちを起こさないと自分を戒めたはずだった。
私はかつて目の前の人の決意を侮辱し、踏みにじった。
自分が可哀そうだと嘆くばかりで何も見ていなかった。
正直、思い返しても酷い人間だったと思う。
あんなにも嫌な事から逃げたかったのに、私の目は、耳は、頭は、その嫌な事だけを拾い続けていたのだから。
罵倒されても、軽蔑されても、見限られてもしょうがない人間だった。
だけど彼女は、エリカさんは私を叱ってくれた。
自らの決意を侮辱した、踏みにじった張本人を。
本気で叱り、本気で向き合ってくれた。
手を差し伸べてくれた。
だから私はエリカさんに認めてもらいたくて、エリカさんのようになりたくて、
強くなろうと決意した。
なのにこのザマだ。
自嘲する気力すらなく、私はポツリと謝罪を口にする。
みほ「……ごめんなさい」
エリカ「……いいわ。気持ちがわからないなんて言うつもりはないから」
エリカさんは私から視線を外すと、先ほどのようにロッカーに寄りかかる。
362 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/28(土) 18:05:33.85 ID:1ia1RY+nO
おっ、今日は早い!、
363 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/28(土) 18:09:46.78 ID:1x1ofSBV0
エリカ「あなたのお下がりってのが気にくわないけど、それでも私は副隊長よ。あなたを支えるのも仕事のうちなんだから」
みほ「……」
仕事。
そう、私を支えるのはエリカさんにとって仕事でしかない。
知っていた、わかっていた。エリカさんと私は友達じゃないのだから。
だから、そこにどうしようもない寂しさを感じてしまうのは、私の我儘なんだ。
重苦しい空気がロッカールームを満たしていく。
小梅「じれったいなぁもう……」
みほ「赤星さんっ!?」
エリカ「あなた、いつのまに……」
その空気を打ち破ったのはいつの間にかロッカールームの入り口に立っていた赤星小梅さん。
赤星さんはやれやれといった様子で私たちに語り掛ける。
小梅「深刻な顔して何話してるかと思えば、まったく。なんで二人は素直に話せないんですか」
みほ「素直に……って」
エリカ「別に、この子にこれ以上言う事なんてないわよ」
小梅「……はぁ。口を出すつもりはありませんでしたが、このままだと埒が明きませんね」
そう言うと赤星さんは、私とエリカさんの手を交互に取り、
小梅「みほさん、エリカさんはあんなんですから真っ直ぐに言わないとまともなボールなんて返ってきませんよ」
みほ「……」
小梅「エリカさん。あなたがめんどくさいってのはいい加減理解してますけど、もうちょっと手心を加えてください」
エリカ「……ふん」
小梅「二人ともそれなりの付き合いなんですからいい加減学習しましょうよ。回りくどい言い方に回りくどく言い返してたらいつまでたっても伝わりませんって」
「私から言えるのはこれだけです」。そう言って赤星さんは一歩離れるとじっと私たちの様子を見守る。
364 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/28(土) 18:11:21.52 ID:1x1ofSBV0
みほ「……」
エリカ「……」
空気が再び重さを纏う。
私は何を言えばいいのか必死で考える。
私がエリカさんに言いたい事、伝えたい事。
私は、エリカさんに隊長を変わってもらいたいのだろうか。
……違う。
私はもう、副隊長の立場を投げ出したかったかつての私とは違う。
たとえ誰かの期待が重くても、それに応えられないことが怖くても、
もう逃げない。
私は、握った手をぎゅっと胸に当てて前を、目に前にいるエリカさんを見つめる。
みほ「……エリカさん」
エリカ「……何?」
みほ「頼りない隊長だけど、それでもみんなと一緒に勝ちたいから。頑張るから―――――私を支えてください」
私の想いを、願いを込めて精一杯紡いだ言葉。
エリカさんはどう思ってくれるのだろうか。
いつもの様に素気無く返してくるのだろうか。
エリカさんはしばらく無言で私を見つめると、ため息を一つつく。
そしてそっと髪をかきあげて、先ほどの私と同じように真っ直ぐこちらを見つめて、
エリカ「……私は、副隊長よ。あなたを支えることが勝利への近道だと思ってる。だから……」
365 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/28(土) 18:12:03.43 ID:1x1ofSBV0
エリカ「あなたの味方でいてあげる。……失望させないでよ?」
366 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/28(土) 18:14:16.77 ID:1x1ofSBV0
相変わらずどこか棘のある言葉。
だけど、まっすぐな視線が、ほんの少しだけ緩んだ口元が、隠しきれてない優しさが、私の胸の中に流れ込んでくる。
小梅「かー!!エリカさんほんっと素直じゃないですね!!」
エリカ「うるっさいわね」
小梅「なんなんですかエリカさんは一日一回ツンデレないとだめな家訓でもあるんですか」
エリカ「私は、私の思ったことを言っただけよ」
小梅「はぁ……みほさん大変ですね」
みほ「……ううん。そんなことないよ」
いつのまにか私は立ち上がっていた。
足の震えはおさまり、冷えていた心に熱が戻り、
ちゃんと、前を向けていた。
その事に気づいた途端顔がにやけてどうしようもなくて、
「なにニヤニヤしてんのよ」とエリカさんにデコピンされてしまう。
その痛みに、私は真面目な顔を取り戻し、私を見つめる二人に呼びかける。
みほ「二人とも行こう。みんな待ってるよ」
小梅「……はいっ!!」
エリカ「誰のせいだと思ってるのよ」
今度は私が率先して出口に向かう。
外にはもう、沢山の仲間が私たちを待っている。
私は黒森峰学園中等部戦車道チーム隊長、西住みほ
まだまだ弱く、誰かに支えてもらわないとまともに進むことさえできないけれど、
私を支えてくれる人がいるって知ってるから。
道を外した時、ぶってでも引き戻してくれる人がいるから。
不安と恐怖を胸に抱えて歩んでいく。
367 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/28(土) 18:15:42.58 ID:1x1ofSBV0
みほ「赤星さん」
小梅「はい」
みほ「エリカさん」
エリカ「何よ」
みほ「今年もよろしくね」
368 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/28(土) 18:16:43.81 ID:1x1ofSBV0
私たちの時代が、これから始まる
369 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2018/07/28(土) 18:17:25.57 ID:1x1ofSBV0
短めだけどきょうはここまでで。また来週。
>>321
エリカはその企画から準備、設営、そして今やっているように給仕までこなしている。
↓
逸見はその企画から準備、設営、そして今やっているように給仕までこなしている。
それを無視して赤星が私の対面の席を引くと、みほがエリカをそこに座らせる。
↓
それを無視して赤星が私の対面の席を引くと、みほが逸見をそこに座らせる。
上記のように訂正いたします。
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