【咲-Saki-】京太郎と咲が付き合っていたらの話

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88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/26(金) 15:49:44.87 ID:Ct3uw6Bb0
書き込み出来るっていう
まあ良いか
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/26(金) 15:52:10.08 ID:Ct3uw6Bb0

【 5 】

「おめでとう」

「ありがとう」


ジュースの缶を渡しながらの祝辞と、缶を受け取りながらの返礼。

その無駄な形式張ったやり取りと口調に、思わず笑う。

咲はと思えば、同じように、嬉しそうに笑っている。

咲の隣に腰掛ける。

90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/26(金) 15:53:46.45 ID:Ct3uw6Bb0

「でも、本当に良かったよ。全国に行けて」

「まだ、個人戦あるけどな」


プルタブを引きながら、のんびりとした会話。

今日は、麻雀インターハイ団体戦長野県予選、その結果が出る日。

我が清澄高校麻雀部は、見事その激戦を制し、全国大会への切符を手に入れた。


当然──というのはなんとなく情けないが──女子麻雀の方である。


91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/26(金) 16:20:08.34 ID:Ct3uw6Bb0


「そーだ、京ちゃんの晴れ舞台だね。 応援するからね」

「いや、俺のことはいいよ。咲は咲の事に集中しとけって」


正直な所、良い所を見せられる気がしない。

今日の激戦を見たせいか、勝てるイメージが全く無かった。

男子麻雀は女子麻雀より数段落ちるらしいけれど、それでも初心者が楽に勝てるものでもないだろう。

負けるところは無数に見られているとは言え、いつもの面子以外に負けるところを見られるのは少しだけ抵抗があった。


「うーん」


咲は、ちょっと煮え切らない様子だ。


「まあ、頑張る」


団体で全国に行けることが決まって、当初の目的を達成してしまったからだろうか。

昨日までの熱が、どこかに行ってしまっていた。



これは、言及すべきだろうか。

……いや、これは競技者としての咲の問題だろう。

少し迷うが、話題を変える。

92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/26(金) 16:23:28.53 ID:Ct3uw6Bb0


「でも、今日は凄かったな。大将戦なんて、もはやオレには何がなんだか」

「うん、本当に。衣ちゃん……はもちろんだけど敦賀の人や、風越の人も凄かった」

「そうなのか? 俺にはなんだか龍門渕が凄いイメージ強すぎてよく分かんなかったけど」

「敦賀の人は、『打ち手』が見えてた人だと思う。人の1手と自分の1手に意味を持たせるっていうのかな」

「咲も何度かやられてたしな」


槍槓、というのだったか。

咲の槓は止められるのだ、ということに、咲には悪いが少し感動してしまった。


「う……か、風越の人は、強い手の人だった。手の入り方もだけど、それ以上に、牌を持つ手が強い感じ」

「気持ちが強い、みたいな?」

「うーん、近い気もするし、全く違う気もする。なんだろ、諦めないって事がそれに近い気もするけど」

「そういえば、0点まで落ちても、その後に持ち直してたもんな」


小さな体で吠えていた姿を思い出す。

吠えたというか、鳴き声っぽかったけど。

93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/26(金) 16:24:01.41 ID:Ct3uw6Bb0


「あの0点は、そうした『牌を持つ手の強さ』がそうさせたんだと思う。あの時の衣ちゃんには、なんだか……思い通りにならない焦りの様なものを感じたから」

「えぇ……あれだけ思い通りに、好き放題してたみたいな状況で?」

「卓の上、というより卓の外への感じだったかな。衣ちゃんが意図していたか分からないけど、こうあるはずだと自分の思い描いていた景色と違う、という感覚……」


咲は、少し悩んだ顔をする。


「……卓を囲んだ相手だからなのかね。そうやって、相手のことがよく分かるのは」

「んー、たまに、かな。でも、たまに、こうした感覚があるんだよね。相手の牌を通じて、その内側を感じるというか」


俺の視線に気づき少し照れたように頬を掻く。


「まあ、私はそんな感じがするってだけだから、本当はどうなのか分からないけど」

「ふーん……でも本当に、今日は凄かったんだな。そんな人達を相手にしながらも、全国に行けるなんて」

「うん。皆、本当に」


咲は楽しそうに、今日のことを振り返りながら、麻雀部の皆のことを話す。

俺は、その横で相槌を打つ。

94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/26(金) 16:28:00.28 ID:Ct3uw6Bb0

オレは当然、出場メンバーではない。

しかし、当事者ではない、という疎外感はあまりない。

部長や染谷先輩が、オレも団体戦メンバーの一人であると扱ってくれていたから。

でもやはり、選手ではないというのは一歩引いて見てしまうのだ。

そして、気づいてしまう。

麻雀を通した、5人の絆というものに。


いや、5人だけではない。

決勝での、卓を囲んだあの面子にも、確かにそれは見てとれた。

同じ空間で、同じように牌を打ったからこそ芽生えるもの。



オレには無い、咲との絆。


95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/26(金) 16:30:41.70 ID:Ct3uw6Bb0


「染谷先輩は──」

「そうだな」

「部長は──」

「まあな」

「衣ちゃんたちも、本当に凄くて──」

「ああ」


不意に、咲の声が止む。

どうした、と咲の方を見ようとして、


「……京ちゃん、もしかして」


咲が、顔を覗き込んでくる。

その顔の近さに、ドキリとして、





「嫉妬してる?」




その言葉に、ドキリとした。


96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/26(金) 16:31:32.12 ID:Ct3uw6Bb0


「ななな、何を嫉妬って証拠だよ?」

「へぇー」


あまり見たことのない、悪戯っぽい表情。

あーくそ、可愛いな。


「京ちゃん、嫉妬したんだ?」

「してねーって」


ジュースの果実の匂いと混ざった、甘いような心地のいい咲の匂い。

それを振り払うように、ぐいっと缶を煽る。

97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/26(金) 16:32:44.87 ID:Ct3uw6Bb0


まさか、咲に見抜かれるとは。

一生の不覚だ。

幸い、今は夕方。

この顔の朱は、夕日に紛れて分からないだろう。

それにしても、なんでバレたんだ。

不覚。



恥ずかしさと悔しさで、同じ様な思考がぐるぐると回る。

どこまでバレているのだろう。

ああ、くそ。


咲の全てが、オレのものであれば良いのにだとか。

咲の得る全てが、オレからのものであれば良いのにだとか。


誰かの事を嬉しそうに喋る姿を見て。

誰かから得た感情を嬉しそうに話す声を聞いて。


そんなことを、少し。

本当に少し、思ってしまったのだ。

98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/26(金) 16:34:56.78 ID:Ct3uw6Bb0


不覚。

不覚だ。


独占欲が強いほうだとは思わないが。

でも、麻雀に咲を取られるような気分になって。


……仕方ないだろ!


ああもう、誰に言い訳しているのかも分からない。

顔の熱さももう分からない。

熱いのか?!今のオレは熱いのか!?


──それとも、冷たいのか!?



「大丈夫だよ、京ちゃん」

「あ?」


思わず、ぶっきらぼうな声が出る。

まるでヤンキーのようだ、と他人事のような感想を抱いていると、咲は言う。

99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/26(金) 16:36:27.60 ID:Ct3uw6Bb0







「京ちゃんが、私の一番だから」






そんな言葉を、真剣に、優しい表情で言う。


100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/26(金) 16:37:32.37 ID:Ct3uw6Bb0



女は怖いな。


こんな言葉を、こんな顔で言ってくるのだから。




                                                                                                   (第55局の後)

101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/26(金) 17:23:58.49 ID:3mFLe97wo
復活乙
相変わらずいい京咲
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/26(金) 18:11:32.55 ID:DbNp1Z8uO
待っとったで
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/26(金) 18:33:08.40 ID:Ct3uw6Bb0
酷すぎる誤字が……脳内補完でよろよろ……
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/26(金) 18:44:38.93 ID:Ct3uw6Bb0

【 6 】


「ふー」


倒れ込むと、ギシリとベッドが音を立てる。

少し長湯になったかもしれない。

手を伸ばしてみる。

パジャマの先に伸びる手から、湯気がまだ少し見える。気がする。

105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/26(金) 18:45:31.89 ID:Ct3uw6Bb0

しょうがない、今日は色々あったのだ。

全国麻雀大会の県予選、その決勝。

なんとか、全国への切符を手に入れることが出来た。

その喜びと満足感を、じわじわと実感する。

勝った瞬間よりも、仲間たちの嬉しそうな顔を見た時に、ああ、良かったと安堵した。

今になって、それが喜びとしてようやく認識された感じ。

タオルケットを引き寄せて、抱きかかえる。

106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/26(金) 18:46:55.91 ID:Ct3uw6Bb0



──その、大きな喜びの実感と共に



タオルケットの心地よい触感に、顔を埋める。



──個人的な、小さな喜びが簡単に並んでしまうのは、何故だろうか



予選が終わって、軽く祝勝会をやった後の帰路。

帰り道のベンチで得た小さな、だけど心深くに感じた喜び。






京ちゃんの嫉妬。






身悶えするような心地に、タオルケットをぎゅうぎゅうと抱きしめる。

107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/26(金) 18:48:56.92 ID:Ct3uw6Bb0

そして、あの顔を赤くした京ちゃんといったら!

夕日に照らされていたけれど、私には分かった。

あの赤くなった京ちゃんの表情が、可愛くて、愛しくて。



あんな顔は初めて見た。



こんな感情は初めて得た。



嫉妬というものが、これほど心地良いモノだとは。

これ程、愛されていると実感できるモノだとは。




──京ちゃんに、独占したいと少しでも思われていることが、これ程嬉しいものだとは。




ああ。


──ああ。




改めて、誰の目も無い場所で思い返してしまうと、感情が溢れて止まらない。

タオルケットの上から枕を抱えて、ぎゅううと抱きしめて、それが目に入る。


目一杯手を伸ばして、それに触れ、引き寄せる。

108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/26(金) 18:50:19.78 ID:Ct3uw6Bb0


それは、中学時代、私と京ちゃんが付き合う前に、京ちゃんがくれたもの。


カピバラのぬいぐるみ。


ゲームセンターで、お小遣いをかけて取ったくせに「ウチにはカピがいるから」と、私にくれたもの。


それをぎゅううと抱きしめる。

そうすると、間接的に京ちゃんを抱きしめているようで。

ちょっと、ドキドキする。

同時に、湧き上がる思い。



「──抱きしめてみたいな」



溢れる想いを言葉にしてみると、切実な響きを持って生々しい。

予感していた様な恥ずかしさは無い。

お腹の奥でどくどくと鼓動を感じる。

ぬいぐるみに頬を押し当ててみる。

ちょっと、ホコリの匂いがする。

109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/26(金) 18:51:57.19 ID:Ct3uw6Bb0

京ちゃんを力いっぱい抱きしめたい。

もしくは、力いっぱい抱きしめられたい。


この感情がイヤラシイのか、普通なのかの判断がつかない。

でも、最近は少し、偶にだけれど、焦燥感があったりする。


恋人という関係になってから、5ヶ月くらい。

もう半年も近いというのに、恋人らしさに進展がない。


中学時代、友人の持っていた雑誌には、キスまでの平均が1ヶ月とあったのを覚えている。

あくまでも平均だし、何よりああいった雑誌が信用できる情報を載せているとも思ってはいないけれど、それでも焦りはする。

焦りはするけど──焦るだけで、終わってしまう。


きっかけがないのだ。

結構な時間を、一緒に過ごしてきただけに。

その慣れた関係のままで、二人の道を歩いてしまう。

110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/26(金) 18:55:10.43 ID:Ct3uw6Bb0


「京ちゃんはどうなんだろ」


考えてみると、あれ程えっちなDVDを隠し持っているにも関わらず、京ちゃんからのそうした動きはない。



──私に、魅力を感じないからだろうか。



胸元で抱きしめたぬいぐるみをパジャマ越しに感じる身体の稜線は、悲しいかな、豊満とは少し言い難い。

私も、少しは自信が持てるような身体だったなら、京ちゃんからのアプローチもあったのだろうか。

そうであったなら、京ちゃんからでなくとも、私から──


思わずため息が漏れる。


いくら『そうであったら』を妄想しても、そうでない現実があるばかりなのだ。

自信の持てる身体を妄想しようが、私にあるのは自信の持てない身体だけなわけで。

いや、自分の身体をそう卑下する訳ではないのだけれど。

でも、京ちゃんの好みは、明らかに和ちゃんタイプなわけで。



はあ。



ため息二度目。

111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/26(金) 18:56:15.69 ID:Ct3uw6Bb0

自信、自信かぁ。

京ちゃんに愛されている実感は、今日ちょうどこれ以上無く得られたのだけど。

私からアプローチするには、ちょっときっかけがなぁ……






と、逃げ道を探して今日のことをまた思い返したところで。

ふと気づく。

112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/26(金) 18:59:13.21 ID:Ct3uw6Bb0


今日、京ちゃんが真っ赤になって、そんな京ちゃんが可愛くて、私の率直な気持ちを伝えた後。

京ちゃんは立ち上がって、私の前に立って、無言で手を差し出してきた。

私は、照れ隠しかなと思って、


『もう行く?』


と、その手を取って立ち上がったけど。

あの時は、完全にこうした考えは無くて、京ちゃん可愛いなあとか考えてたから、その可能性すら思い至らなかったけど。




あの、私に差し出すには少し角度がおかしかったのは。


妙に顔の近くに、もっと言えば左頬の近くに手が近づいてきたのは。


私のためと言うには少し低く屈んでいたのは。




あれは、もしかして。



私に。



そういえば、私が立ち上がった後、しばらく京ちゃんは固まったように動かなかった。

その後も、なんだか元気がなかったようで──





──あれ、私





──やっちゃいました?


113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/26(金) 19:00:49.31 ID:Ct3uw6Bb0




「──ぁぁぁぁ……!!」




後悔と羞恥心と──少しの安堵に、カピバラを抱きしめたまま、ベッドの上をごろごろと転がる。

京ちゃんに謝りたい、謝りたい事象だけれど……謝るには、少しばかり重すぎる案件で。



でも、そう、それは、今の私には覚悟の足りないハードルなのです。

今の覚悟では、足りないくらいの高いハードルなのです。



だから、私にもっと自信が持てたなら。




──そう、私が自信を持てたら。




目標を、一つ定める。

114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/26(金) 19:02:01.13 ID:Ct3uw6Bb0


うん。

インターハイで良い成績を残せたら。




残せたなら、京ちゃんにねだらせて下さい。








いわゆる、キスと言うやつを。



                                                                                                   (第55局の夜)

115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/26(金) 23:46:27.32 ID:hM2qbrXG0
ヘタレ咲めっ
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/27(土) 18:00:03.03 ID:TYyHHSupO
え、なにこの京咲最高なんですけど
お互いに距離感をうまく詰めきれてない感じがい
あと、軽い独占欲とかが織り混ぜっててとてもいい
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/28(日) 00:41:30.50 ID:apLEiHaF0
何も思いつかぬぇ
つか原作読み返してても春から夏の話なおかげで全然ネタがねぇ
というわけで明日仕事から帰ったら締め投稿しまする

帰宅が今くらいになるんで、下手したら寝落ちってるかもしれぬ
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/28(日) 01:08:14.39 ID:lf8MHAQDo
かわいすぎかよ
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/29(月) 01:25:51.03 ID:acYBmtFW0

【 7 】



「なあ、咲」


「うん?」


「愛してる」


「知ってる」





                                                                                                   (物語の先より)
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/29(月) 01:26:53.66 ID:acYBmtFW0

【 0 】



少年と少女が、穏やかな春日向の中をゆったりと歩く。

特に会話をするでもなく、少年と少女はただ歩く。

そのゆったりとした歩みは、恐らく少女の歩みに合わせられていた。

少年の背は高く、少女の背は低い。



121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/29(月) 01:28:05.86 ID:acYBmtFW0




「どうしたの?」


後通うのも数える程となった、中学校からの帰り道。

突然立ち止まった京ちゃんを振り返る。

京ちゃんは真剣な顔をして、足元を見ていた。

何かあるのだろうか、と思って私も足元を見るけど、そこには小石と僅かな道草があるばかり。


「?」


本当にどうしたのだろう。

そう思いつつも京ちゃんが動き出すのを待っていると、京ちゃんが顔を上げる。

その表情は、普段どおりの穏やかなものだ。

私は安堵して、京ちゃんの言葉を待つ。

122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/29(月) 01:29:15.73 ID:acYBmtFW0

それなりの付き合いで、なんとなく何かを話そうとしている雰囲気が分かるのだ。

案の定、京ちゃんは口を開いて、





「なあ、オレたち、付き合ってみるか?」





私は、突然の言葉に驚いて、思考が停止した。

思考が停止して、時間も止まった。

空間が切り取られて、そこだけ置いていかれるような。

刹那とも長久とも思える空白。

そんな中、口を突いて出た言葉は。

123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/29(月) 01:30:11.54 ID:acYBmtFW0





「イヤ」




124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/29(月) 01:30:48.73 ID:acYBmtFW0


だった。

自分でも混乱する。

聞いた言葉を処理する前に、言葉が口をついて出た。


「っ……そうか……」


彼の一瞬痛みが走った顔に、胸の奥がいたくなる。

しかしそんな私を差し置いて、私の言葉は止まらない。

125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/29(月) 01:33:05.91 ID:acYBmtFW0



「──告白って」



「……?」

「告白って、女の子にとってすっごく大事なものなんだよ」


その言葉を言った瞬間。

気がついた。


「……」







私がどれ程、彼のことが好きなのか。


126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/29(月) 01:33:47.26 ID:acYBmtFW0



「とっても、とっても大事なの」




なあなあではない。


はっきりとした、真摯な。


疑い様の無い、言葉が欲しい。


127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/29(月) 01:35:02.15 ID:acYBmtFW0



「──咲」


「……」



「好きだ。オレの、……恋人になってくれないか」


「うん」


128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/29(月) 01:37:14.58 ID:acYBmtFW0




少女は、ぺこりと頭を下げる。


「よろしく、お願いします」


そして、顔を上げ、

少女の名前に相応しい美しさで






ふわりと、笑った






                                                                                                   (物語が始まる前より)


129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/29(月) 01:44:51.67 ID:acYBmtFW0
終わり。
少時間のご視聴ありがとうございました。

速報落ちてる間にハーメルン垢取ったけど、こっちクローズしたら向こうに置くとかしても良いんかね
せっかく取ったし使用目的が星井
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/29(月) 02:01:58.74 ID:R9TQUzWDO
【決講】留美「発売日?…どの道動けなかったわね」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1540596928/
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/29(月) 06:36:23.74 ID:XXNshgV/o
乙乙
132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/30(火) 01:18:17.21 ID:6635WOL5o
>>129
どうせ取ったのなら良いんじゃないかな
ただしハーメルンではマルチ投稿する場合にはハーメルンにもこっちにもわかりやすい所にその旨を書かないと規約違反で削除される可能性がある
欲を言えばこっちからはURLも載せといた方が万全だけど、まあ元はSSでハーメルンに載せてあるのもいくつか知ってるし大丈夫だと思う
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/30(火) 03:47:05.12 ID:Yho9PVFh0
>>132
おお、ありがとう
前例あるなら大丈夫かな……これ落ちたら木金あたりにでも過去作含めあっち貼り付けます

HTML依頼出してくる
落ちるまでに覗いた人いたらだけど、感想ついでにシチュ提示してくれりゃ拾う可能性もあったりなかったり
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/30(火) 03:49:46.25 ID:Yho9PVFh0
次は恐らくエタ扱いされているだろう話の続きか、京ちゃんと呼ぶまで話か、ハギヨシと衣の話になるんで
見かけたらまた覗いてみてくだされ
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/30(火) 10:02:18.03 ID:xsfA9XGi0
今ハーメルンでの咲作品で一番更新頻度高い奴がそもそも京太郎総合の作品の設定をハーメルンに持ってった奴だからなぁ。
普通に過去作サルベージ品も知ってるし。
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/30(火) 10:33:10.06 ID:0LIA7BVEO
ハーメルンの利用規約の文面そのまま持ってくると
『(本人確認ができない状態での)他サイトとのマルチ投稿』が禁止されてる
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/05/15(水) 15:55:13.33 ID:AaV2QJad0
 
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